車両のエンジン始動時には、例えば、動力伝達系が変速機内部で固定される、所謂パーキングロック状態でのエンジンの始動と、非パーキングロック状態でのエンジン始動との場合が考えられる。
パーキングロック状態でのエンジン始動時には、モータの回転軸の受け止め反力トルク及びパワートレインのプロペラシャフト上のパーキングロック部分に作用するエンジンからの直達トルク等の揺動トルクにより、パワートレインの振動が生じる場合がある。
上述した特許文献1に開示される技術では、クランクシャフトのトルク変動を抑制可能であるものの、モータの回転軸の受け止め反力トルクの抑制について考慮されておらず、パワートレイン全体の振動を抑制するという点では充分でない。
また、非パーキングロック状態でのエンジン始動時には、クランクシャフトのトルク変動がパワートレインに伝達される。このとき、特許文献2に開示される技術によれば、第2のモータの動作により、パワートレインの捩り振動を抑制可能な一方で、クランキング用のモータ及び第2のモータの夫々の回転軸の受け止め反力トルクの抑制については考慮されていない。
このように、上述した先行技術文献に説明される技術では、エンジン始動時のクランキング動作で発生するパワートレイン全体の振動を必ずしも好適に抑制出来ない場合がある。従って、クランキング時のモータの駆動の態様を制御することで、パワートレインの振動を低減可能な余地があったとしても、実現出来ないという技術的な問題があった。
本発明は、上述した問題点に鑑みて為されたものであり、ハイブリッド車両のエンジン始動時において、パワートレイン全体の振動を好適に抑制可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを課題とする。
上記問題を解決するために、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと、前記エンジンをクランキング可能な第1のモータと、前記エンジン、前記第1のモータ及び駆動輪の間で動力の伝達を行う動力伝達機構と、前記動力伝達機構を及び前記第1のモータ収納するトランスアクスルケースと、前記第1のモータに対して電力を供給可能なバッテリとを備える車両に搭載されるハイブリッド車両の制御装置であって、前記エンジンをクランキングするためのクランキングベーストルクに基づいて、前記エンジンをクランキングする際に前記第1のモータが出力すべき第1の目標トルクを設定する目標トルク設定手段と、前記第1の目標トルクが出力されるように前記第1のモータを制御するモータ制御手段とを備え、前記目標トルク設定手段は、前記動力伝達機構による前記駆動輪への動力の伝達がロックされている間、前記クランキングベーストルクに対して、前記トランスアクスルケースに作用する反力トルクに応じた前記第1のモータのイナーシャトルクに基づく調整トルクを加算することで、前記第1の目標トルクを設定する。
本発明に係るハイブリッド車両は、駆動軸に対し動力供給可能な動力要素として、少なくともエンジンと、モータジェネレータ等の電動発電機を一例とする第1のモータとを備える。エンジンは、燃料種別、燃料の供給態様、燃料の燃焼態様、吸排気系の構成及び気筒配列等、その物理的、機械的又は電気的構成を問わず、各種態様を採り得る、燃料の燃焼により動力を生成可能な機関としての内燃機関を示す趣旨である。第1のモータは、バッテリからの電力供給により動作し、動力を生成すると共に、外部からの動力の供給により発電して上述のバッテリを充電することが可能な構成である。
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、このようなハイブリッド車両を制御する制御装置であって、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ、或いは更にROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等を適宜に含み得る、単体の或いは複数のECU(Electronic Controlled Unit)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る。
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置における目標トルク設定手段及びモータ制御手段は、例えば、ハイブリッド車両の制御装置が有するハードウェア又はハードウェアにより実行される各種プログラムにより実現される機能部である。
本発明に係るハイブリッド車両は、動力伝達機構を備える。動力伝達機構は、その一例として、第1のモータの回転軸に直接的又は間接的に連結される第1回転要素、駆動軸に連結される第2回転要素及びエンジンに連結される第3回転要素を含む、相互に差動作用をなし得る複数の回転要素を備える遊星ギア機構を含む。該遊星ギア機構は、各回転要素における、例えば、何らかの固定要素と連結された状態により回転可能であるか否か等の状態に応じて、エンジン及び第1のモータの動力要素と駆動軸との間の動力、言い換えればトルクの伝達を行う。
該遊星ギア機構は、第1、第2及び第3回転要素のうちいずれか2つの回転速度が定まれば自ずと残余の一回転要素の回転速度が定まる、所謂回転二自由度の差動機構である。尚、この差動機構に含まれる回転要素は必ずしもこれら三要素に限定されない。
該遊星ギア機構においては、第1のモータは、エンジンのトルクに対応する反力トルクを負担する反力要素として機能し得ると共に、エンジンの回転速度制御機構としても機能し得る。また、第1のモータは、エンジン始動時に、動力伝達機構を介して所定のトルクをエンジンの回転軸に作用させることによってクランクシャフトを回転させる、所謂クランキングを実施し得る。
本発明のハイブリッド車両の制御装置において、動力伝達機構による前記駆動輪への動力の伝達がロックされているとは、動力伝達機構内のいずれかの回転要素が、例えば物理的、機械的、電気的又は磁気的な各種係合力により所定の固定要素に回転不能に固定されることで、エンジン及び第1のモータの動力が駆動輪に伝達されない状態を示す趣旨である。具体的には、ドライバによるハイブリッド車両のシフトレバーの操作により、ハイブリッド車両がパーキングロック状態にある場合を示す。
ハイブリッド車両がパーキングロック状態にある場合において、エンジンを始動する際、モータ制御手段は、第1のモータに対して所定の第1の目標トルクを出力するよう、動作の制御や電力の供給の制御を行う。このときの第1の目標トルクは、目標トルク設定手段によって設定される。
目標トルク設定手段は、クランキングベーストルクに対して、第1のモータのイナーシャトルクに応じた調整トルクを加算した和を第1の目標トルクとして設定する。クランキングベーストルクは、エンジンをクランキングするために、言い換えれば、エンジンのエンジン回転数を増大させるためにモータが出力すべきトルクである。
本発明に係る「クランキングベーストルク」は、エンジン回転数等に応じて予め設定されるものであり、例えば公知のクランキングベーストルクのモデルが用いられてよい。尚、クランキングベーストルクのトルク変動は、後述するように、パワートレインの振動の一要因となり得るため、クランキングベーストルクのトルク変動は比較的小さいものが好ましい。
本発明に係る「エンジン回転数」は、エンジンのクランクシャフトの単位時間当たりの回転数を意味し、エンジンのクランクシャフトの回転速度あるいはエンジンのピストンの移動速度に相当する。
本発明に係る「第1のモータのイナーシャトルク」は、該第1のモータの回転軸の回転に伴い作用するトルクである。本発明に係るハイブリッド車両の制御装置では、パーキングロック状態にある場合に、目標トルク設定手段は、クランキングベーストルクに対して、第1のモータのイナーシャトルクに基づく調整トルクを加算することで、第1の目標トルクを設定する。動力伝達機構による前記駆動輪への動力の伝達がロックされている間、つまり、車両がパーキングロック状態にある場合、エンジン及び第1のモータの回転は、動力伝達機構のロック部分により阻害される。このため、エンジン及び第1のモータの回転に伴うトルク及びそのトルク変動は、該ロック部分を介して、例えば、ギアボックスやトランスアクスルケースを介して車体に伝達される。このときの第1のモータのトルク変動が車体の振動の一要因となり得る。
そこで、目標トルク設定手段は、該トルク変動を抑制する調整トルクをクランキングベーストルクに加算して第1のモータが出力すべき第1の目標トルクを設定する。調整トルクは、第1のモータの回転軸の回転イナーシャトルクに応じて、例えば比例関係にあるトルク値として設定される。第1の目標トルクでは、このように設定される調整トルクにより、車体の振動に繋がる第1のモータのトルク変動の影響が抑制される。
以上説明したように、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、パーキングロック状態でのエンジン始動時において、第1のモータのトルク変動がロック部分及びギアボックス等を介して車体に伝達し、振動の要因となることを抑制することが出来る。また、この振動抑制効果により、モータの消費電力をも抑制することが出来る。
尚、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置では、前記調整トルクは、前記第1のモータのイナーシャトルクに対して、前記動力伝達機構におけるギア比に応じた比例関係にあってもよい。
このように調整トルクを設定することで、第1のモータの回転軸に生じたトルク変動に起因して、動力伝達機構における固定要素との連結部分を介して車体に作用する反力トルクの影響を好適に抑制可能なトルクを出力可能となる。
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の一態様では、前記トランスアクスルケースに収納されており、前記動力伝達機構に対して動力を伝達可能な第2のモータを更に備え、前記目標トルク設定手段は、前記動力伝達機構による前記駆動輪への動力の伝達がロックされていない間、前記第1のモータのイナーシャトルクに基づく第2の目標トルクを設定し、前記モータ制御手段は、前記第2の目標トルクが出力されるように前記第2のモータを制御する。
この態様のハイブリッド車両の制御装置は、第1のモータに加え、更に第2のモータを動力要素として備えるハイブリッド車両に適用可能となる。第2のモータは、第1のモータと同様に、バッテリからの電力供給により動作し、動力を生成すると共に、外部からの動力の供給により発電して上述のバッテリを充電することが可能な構成である。第2のモータは、動力伝達機構に含まれる上述した第1のモータに係るものとは異なる遊星ギア機構等を介して駆動輪に動力、つまりトルクを伝達可能な構成である。この態様における動力伝達機構は、一例として、第2のモータの回転軸に直接的又は間接的に連結される第1回転要素、駆動軸に連結される第2回転要素及びハイブリッド車両内の固定要素に連結される第3回転要素を含む遊星ギア機構を含む。
このような構成において第2モータが駆動する場合、第2モータの動力、つまりトルクは、上述の遊星ギア機構の第1回転要素から第2及び第3回転要素に伝達され、駆動輪に作用する。このような構成により、第2のモータは駆動輪に対して、その回転に寄与するトルクの伝達が可能となる。
この態様において、動力伝達機構による前記駆動輪への動力の伝達がロックされていない状態とは、ハイブリッド車両が上述したパーキングロック状態でないことを示す趣旨であり、具体的には、動力伝達機構における第1のモータとエンジン及び駆動輪とを接続する遊星ギア機構における回転要素が、固定要素に連結されていない状態である。
このような非パーキングロック状態では、上述した第1のモータに係る遊星ギア機構において、いずれの回転要素も固定要素に連結されていないため、エンジン又は第1のモータにおいて発生したトルク及びその変動は動力伝達機構を介して駆動輪にまで伝達される。他方で、動力伝達機構の位置構成部材である、第2のモータに係る遊星ギア機構に対してもトルク変動が作用し、固定要素に連結される第2回転要素を介して固定要素、ひいては車体に伝達される。このため、第1のモータが出力するクランキング時のトルク変動が車体の振動の一要因となり得る。
そこで、この態様の目標トルク設定手段は、第1のモータに対する第1の目標トルクを設定すると共に、第2のモータに対して、出力すべき第2の目標トルクを第1のモータのイナーシャトルクに基づいて設定する。
目標トルク設定手段は、トルク変動を抑制する調整トルクをクランキングベーストルクに加算して第1のモータが出力すべき第1の目標トルクを設定する。調整トルクは、第1のモータの回転軸の回転イナーシャトルクに応じて設定される。このように設定される第2の目標トルクは、第2のモータの回転軸が連結される遊星ギア機構等を介してハイブリッド車両内の固定要素に伝達されるトルク変動を好適に抑制可能となる。
以上説明したように、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の一の態様によれば、非パーキングロック状態でのエンジン始動時において、第1のモータのトルク変動がロック部分及びギアボックス等を介して車体に伝達し、振動の要因となることを抑制することが出来る。また、この振動抑制効果により、モータの消費電力をも抑制することが出来る。
尚、この態様では、前記第2の目標トルクは、前記第1のモータのイナーシャトルクに対して、前記動力伝達機構におけるギア比に応じた比例関係にあってもよい。
このように調整トルクを設定することで、第2のモータの回転軸に生じたトルク変動に起因して、動力伝達機構における固定要素との連結部分を介して車体に作用する反力トルクの影響を好適に抑制可能なトルクを出力可能となる。
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の一態様では、 前記動力伝達機構は、ダンパを含み、前記目標トルク設定手段は、前記クランキングベーストルクに対して、前記ダンパの共振による前記動力伝達機構の振動を抑制するための制振トルクを加算することを設定する。
この態様では、第1のモータは、動力伝達機構内部のダンパを介してエンジンのクランクシャフトに接続される。該ダンパは、第1のモータとエンジンとの間のトルク変動を減衰する、例えばトーショナルダンパ等である。
動力伝達機構にダンパが含まれる場合、エンジンの始動時のトルク変動によってダンパの共振が発生し、動力伝達機構の振動が悪化する虞がある。そこで、目標トルク設定手段は、ダンパの共振を抑制するための制振トルクをクランキングベーストルクに加えて設定する。
制振トルクは、ダンパの共振による動力伝達系の振動を抑制するためにモータが出力すべきトルクであり、典型的には、エンジンのピストンの位置に応じて変動するように制御される。
制御されるトルクは、エンジンのピストンが圧縮行程に位置する場合(言い換えれば、ピストンが下死点から上死点へ移動する期間)と、エンジンのピストンが膨張行程に位置する場合(言い換えれば、ピストンが上死点から下死点へ移動する期間)とで、互いにトルクの方向が異なるように制御される。より具体的には、制御されるトルクは、ピストンが圧縮行程に位置する場合には、モータが出力するトルクを減少させるように制御され、ピストンが膨張行程に位置する場合には、モータが出力するトルクを増大させるように制御される。このような制振トルクをエンジンに付与することにより、ダンパの共振による動力伝達系の振動を抑制できる。
以上、説明したように、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の一態様によれば、エンジン始動時において、ダンパにより、エンジン及び第1のモータのトルク変動を低減しつつ、更にダンパの共振による動力伝達系の振動を抑制することが出来る。このため、更なる振動の抑制を期待出来、また、モータの消費電力の更なる抑制にも繋がる。
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照して説明する。
(1)ハイブリッド車両の基本構成
始めに、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置が適用されたハイブリッド車両の基本的な構成について、図1を参照して説明する。図1は、ハイブリッド車両10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
図1において、ハイブリッド車両10は、ECU100、エンジン200、モータジェネレータMG1、モータジェネレータMG2、動力分配機構300、PCU(Power Control Unit)400、バッテリ500、伝達機構600、ケーシング800及び駆動輪FL、FRを備える。
ECU100は、ハイブリッド車両10の動作全体を制御することが可能であるように構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「目標トルク設定手段」の一具体例である。本実施形態においては、ECU100は、ハイブリッド車両10の運転状態に基づき、エンジン200及びモータジェネレータMG1、MG2の要求トルク出力を算出して、エンジン200及びモータジェネレータMG1、MG2の駆動を制御する。また、ECU100は、ハイブリッド車両10が備える各部に対しセンサ類を介して接続されており、例えば、エンジン200の回転数や、バッテリ500の蓄電状況などの諸情報を検出可能に構成されている。
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一具体例であり、典型的にはガソリンなどを燃料として駆動する原動機であって、ハイブリッド車両10の主たる動力源として機能する。
エンジン200は、夫々不図示のシリンダブロックに複数の気筒が配置された構成を有している。そして、各気筒内における圧縮工程において、当該圧縮工程または吸気工程に気筒内に直接噴射される燃料と吸入空気との混合気が圧縮され、自発的に又はスパークプラグ等の点火動作によって着火した際に生じる力が、夫々不図示のピストン及びコネクティングロッドを介してクランクシャフト210の回転運動に変換される構成となっている。このクランクシャフト210の回転は、動力分配機構300及び伝達機構600を介して駆動輪FL、FRに伝達され、ハイブリッド車両10の走行が可能となる。
また、エンジン200において、吸入空気が通過する吸気管には、吸入空気の流量を調節するためのスロットルバルブが設けられ、また、気筒には、燃料の噴射を行うインジェクタが設けられる。このようなスロットルバルブの開閉状態に応じて気筒内に供給される吸入空気量、または該インジェクタを介して気筒内の燃焼室に噴射される燃料量によって、エンジン200における出力トルクが一義的に決定される。該スロットルバルブは、併設されるモータなどによって駆動されることでその開閉状態を調節可能であってよい。該モータは、電気的に接続されるECU100によって、駆動状態を制御可能であってよい。同じく、該インジェクタによる燃料噴射の態様も、電気的に接続されるECU100によって、その駆動状態を制御可能であるように構成されている。従って、エンジン200の始動、停止及び駆動の態様は、ECU100によって制御され得る構成である。
また、エンジン200において、シリンダブロックに設置されたウォータージャケットには、エンジン200を冷却するための冷却水の温度を検出するための不図示の温度センサが配設され、ECU100と電気的に接続されており、検出された冷却水温は、常にECU100に送信され、ECU100によって把握される構成となっている。また、エンジン200においては、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ、または空燃比を検出する空燃比センサなどの各種センサが、夫々併設され、且つ夫々がECU100と電気的に接続され、該検出データを常にECU100に送信する構成であってもよい。尚、エンジン200の構成は、本実施形態において特に記述する部分以外は、他の公知の形式のエンジンであっても良い。
モータジェネレータMG1は、本発明に係る「第1のモータジェネレータ」の一例であり、主としてバッテリ500及びモータジェネレータMG2に対して電力を供給するための発電機として機能する。また、モータジェネレータMG1は、PCU400を介してバッテリ500から供給される電力によって動作し、エンジン200の駆動力をアシストするためのアシストトルクを供給する電動機としての機能を有していてもよい。このため、モータジェネレータMG1は、エンジン200の始動時に、クランクシャフト210を回転させる所謂クランキング動作を実現可能である。
モータジェネレータMG2は、本発明に係る「第2のモータジェネレータ」の一例であり、主として、PCU400を介してバッテリ500から供給される電力によって動作し、エンジン200の駆動力をアシストするためのアシストトルクを供給する電動機として機能する。また、モータジェネレータMG2は、エンジン200又はモータジェネレータMG1から供給される動力によって動作し、バッテリ500を充電するための発電機としての機能も有していてよい。
尚、これらモータジェネレータMG1、MG2は、外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える、同期電動発電機である。但し、他の形式のモータジェネレータであってもよい。モータジェネレータMG1、MG2のステータは、ケーシング800に固定される。
動力分配機構300は、キャリア310、遊星ギア機構(MG1)320、リングギア330、パーキングギア331、パーキングポール332、プロペラシャフト340、リングギア350、遊星ギア機構(MG2)360、及びダンパ700等が、ケーシング800の内部に格納される構成となる。
遊星ギア機構(MG1)320は、モータジェネレータMG1の回転軸に共回り可能に連結されるサンギア321と、キャリア310に連結されるプラネタリギア322を有する。エンジン200のクランクシャフト210は、ダンパ700を介してキャリア310に接続され、更に、遊星ギア機構(MG1)320のプラネタリギア322に連結されている。プラネタリギア322は、遊星ギア機構(MG1)320の外周にあるリングギア330に連結される。また、遊星ギア機構(MG1)320のサンギアは、モータジェネレータMG1の回転軸に連結される。
遊星ギア機構(MG1)320の動作を分かり易くするため、リングギア330の歯数に対するサンギア321の歯数としてのギア比ρを定義する。ギア比ρを用いれば、エンジン200からキャリア310に対しエンジントルクTを作用させた場合に、サンギア321に現れるトルクT’は、T’=−ρ/(1+ρ)*Tにより表される。また、エンジン200からキャリア310に対しエンジントルクTを作用させた場合に、リングギア330(つまり、プロペラシャフト340)に現れるトルクT’’は、T’’=1/(1+ρ)*Tにより表される。
ダンパ700は、例えばトーショナルダンパであり、クランクシャフト210と動力分配機構300との間に設けられ、これらの間のトルク振動を減衰する機能を有する。
このような構成により、エンジン200の回転は、キャリア310及びプラネタリキャリア322を介して、サンギア321及びリングギア330に伝達され、エンジン200の出力トルクが2系統に分割される。
リングギア330は、回転軸であるプロペラシャフト340と係合する環状部材の内周側に形成される歯車であり、該歯車でプラネタリギア322と係合している。リングギア330が形成される環状部材の外周には、パーキングギア331が形成されている。ケーシング800内部には、更に、パーキングギア331と係合可能且つ離脱可能なパーキングポール332が設けられている。パーキングギア331とパーキングポール332との間の係合状態及び離脱状態は、ハイブリッド車両10のシフトレバー(不図示)の操作により切替可能となっている。シフトレバーがオートマティックトランスミッションにおけるパーキングレンジにある場合、パーキングギア331とパーキングポール332とが係合する、所謂パーキングロック状態となる。このとき、リングギア330は、パーキングギア331及びパーキングポール332を介してケーシング800に固定された状態となる。このようにパーキングロック状態ではリングギア330の回転が阻害されるため、エンジン200又はモータジェネレータMG1の回転は、プロペラシャフト340には伝達されない。
他方で、シフトレバーがドライブレンジにある場合、パーキングギア331とパーキングポール332とが離脱し、パーキングロックが解除される。この場合、リングギア330は、ケーシング800に固定されることがないため、エンジン200又はモータジェネレータMG1の回転は、プロペラシャフト340に伝達される。
プロペラシャフト340は、伝達機構600に連結されており、この伝達機構600を介して駆動輪FL、FRにエンジン200からの出力トルクが伝達される。
プロペラシャフト340のリングギア330に連結される端部とは反対の端部は、遊星ギア機構(MG2)360のプラネタリギア362に連結されるリングギア350に連結される。遊星ギア機構(MG2)360のサンギア361は、モータジェネレータMG2の回転軸に連結され、モータジェネレータMG2の回転をプロペラシャフト340へ伝達する。尚、プラネタリギア362の各回転軸は、ケーシング800に固定される。尚、便宜上、プラネタリギア362を保持し、ケーシング800に固定される部位をリアキャリアと呼称することがある。
このように、図1に示すハイブリッド車両1は、エンジン2及びモータジェネレータMG2、または少なくとも一方を駆動力源として用い、出力されたトルクを、プロペラシャフト340、動力分配機構300、遊星ギア機構(MG2)360、伝達機構600、ディファレンシャルギア610を介して、駆動輪FL、FRに伝達可能である。これらの動力伝達機構であるプロペラシャフト340、動力分配機構300及び遊星ギア機構(MG2)360は、同一のケーシング800に格納されることで、所謂トランスアクスルを構成する。
PCU400は、バッテリ500から供給される直流電力を交流電力に変換してモータジェネレータMG1、MG2に駆動電力として供給する電力変換器を含む。また、PCU400は、モータジェネレータMG1及びMG2によって発電された電力を直流電力に変換してバッテリ500に供給する電力変換器を含む。
バッテリ500は、モータジェネレータMG1、MG2を力行するための電力に係る電力供給源として機能することが可能に構成された充電可能な蓄電池である。
伝達機構600は、動力分配機構300と連結され、エンジン200及びモータジェネレータMG2から出力されたトルクをディファレンシャルギア610及び伝達軸620を介して駆動輪FL、FRに伝達するための機構である。
駆動輪FL、FRは、伝達機構600を介して伝達されるトルクを路面に伝達する手段であり、図1においては左右一輪ずつが図示されている。しかしながら、図示される態様に限定されることなく、ハイブリッド車両10は、車体前後の左右に一輪ずつ計4個の車輪を備える等、より多数の車輪を備えていてよい。
ハイブリッド車両10の制御系について更に説明する。ECU100は、具体的には、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro-Processing Unit)等の演算処理装置、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read only Memory)等の記憶装置、並びに入出力インターフェイスを主体とするコンピュータ等を含む構成である。
ECU100は、モータジェネレータMG1及びMG2の夫々に配置される、モータ回転角を逐次検出する不図示の角度センサの出力信号、エンジン200に配置されるエンジン回転速度センサの出力信号、外気温センサの出力信号、バッテリ500の充電量センサの出力信号等の信号の入力を受ける。
他方でECU100は、エンジン200を制御する信号、モータジェネレータMG1及びMG2を制御する信号等を出力する。ECU100が出力する信号の一つに、モータジェネレータMG1及びMG2に対する指令トルクがある。指令トルクは、モータジェネレータMG1及びMG2に対して駆動する際の出力トルクの目標値を指示するものである。ECU100は、具体的には、PCU400に対してモータジェネレータMG1及びMG2に対して指令トルクを実現するための交流電流の供給を行うよう指示する。モータジェネレータMG1は、該指示に応じてPCU400から供給される交流電流により駆動することで、ECU100による指令トルクを実現するよう動作する。
(2)第1動作例
ECU100が実施する目標トルクτg設定動作の第1動作例について、図2から図5を参照して説明する。
はじめに、図2を参照して、第1動作例における目標トルクτg設定動作の流れについて説明する。図2は、第1動作例におけるECU100の目標トルクτg設定動作の流れを示すフローチャートである。第1動作例における目標トルクτg設定動作では、ハイブリッド車両10のシフトレバーがPレンジにある状態、つまりパーキングロック状態でエンジン200を始動する際のモータジェネレータMG1が出力すべき目標トルクτgの算出を行う。
図2を参照して、第1動作例における目標トルクτg設定動作の流れについて説明する。
ECU100は、エンジン200の始動時に、ハイブリッド車両10がパーキングロック状態であるか否かを判定する(ステップS101)。続いて、ECU100は、モータジェネレータMG1がエンジン200のクランクシャフト210に対してクランキングを実施中であるか否かを判定する(ステップS102)。パーキングロック中ではない場合(ステップS101:No)、又はクランキングの実施中ではない場合(ステップS102:No)、ECU100は、以降の動作を実施しない。
ハイブリッド車両10がパーキングロック状態であり(ステップS101:Yes)、且つモータジェネレータMG1がクランキングを実施中である場合(ステップS102:Yes)、ECU100は、モータジェネレータMG1に配置されるの回転角センサの値を逐次取得する(ステップS103)。ECU100は、取得した時系列的なモータジェネレータMG1の回転角センサ値から、モータジェネレータMG1の回転角加速度を算出する(ステップS104)。更に、ECU100は、モータジェネレータMG1の回転イナーシャトルクを算出する(ステップS105)。
次に、ECU100は、算出したモータジェネレータMG1の回転イナーシャトルクに基づいて、モータジェネレータMG1のクランキングベーストルクτg_baseに付加する調整トルクτg_cmpを算出する(ステップS106)。ECU100は、算出した調整トルクτg_cmpをクランキングベーストルクτg_baseに加算したものを、モータジェネレータMG1に対する目標トルクτgとして設定する(ステップS107)。
図3を参照して、調整トルクτg_cmpの算出と、目標トルクτgの設定に係る処理についてより具体的に説明する。図3は、ECU100における目標トルクτgの算出の態様について示す図である。
ECU100は、モータジェネレータMG1に配置される回転角センサの時系列的なセンサ値から取得したモータジェネレータMG1の回転軸の回転角加速度と、該回転軸のイナーシャとから、モータジェネレータMG1の回転軸の回転イナーシャトルクを適宜算出する。該回転イナーシャトルクが、遊星ギア機構320並びに、パーキングギア331及びパーキングポール332を介してケーシング800に作用する場合のトルクを調整トルクτg_cmpとして算出する。ECU100は、クランキングベーストルクτg_baseに、調整トルクτg_cmpを加算したものを、モータジェネレータMG1が出力すべき目標トルクτgとして設定する。
この調整トルクτg_cmpは、モータジェネレータMG1のクランキングによってケーシング800に作用する反力トルクを抑制するものである。従って、調整トルクτg_cmpの大きさは、ケーシング800に作用する反力トルクの大きさに応じて適宜設定されることが好ましい。以下、図4及び数式を参照して、調整トルクτg_cmpの算出手順について説明する。
図4は、上述したトルクを各部に適用した際の各部の回転の態様を示す共線図である。図4において、縦軸は回転速度を表している。横軸には、左から順にモータジェネレータMG1(つまり、遊星ギア機構(MG1)320のサンギア321の回転軸)、エンジン200(つまり、クランクシャフト210及びキャリア310)、プロペラシャフト340(つまり、遊星ギア機構(MG1)320のリングギア330の回転軸又は遊星ギア機構(MG2)のリングギア350の回転軸)、遊星ギア機構(MG2)360のプラネタリギア362が設けられるリアキャリア(言い換えれば、ケーシング800との接続部分)、及びモータジェネレータMG2(つまり、遊星ギア機構(MG2)360のサンギア321)が示される。また、図4では、各部に作用するトルクについて図示している。
遊星ギア機構(MG1)320は、所謂回転二自由度の遊星歯車機構であり、サンギア321、キャリア310及びリングギア330のうち二要素の回転速度が定まった場合に、残余の一回転要素の回転速度が一義的に決定される。即ち、動作共線図上において、各回転要素の動作状態は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態と一対一に対応する一の動作共線によって表すことができる。
パーキングロック状態においては、リングギア230が固定要素たるケーシング800に連結される。このため、リングギア230に連結するプロペラシャフト340の回転角加速度は0となる。従って、図4に示されるように、モータジェネレータMG1の回転軸、クランクシャフト210の夫々の回転速度が決定される。
このときモータジェネレータMG1の回転軸に作用するトルクについての運動方程式は、数式1により表される。
ただし、Igは、モータジェネレータMG1の回転軸のイナーシャを示し、θgは、モータジェネレータMG1の回転軸の角度を示す。τgは、モータジェネレータMG1の回転軸に接続されるサンギア321に作用するトルクであって、言い換えれば、モータジェネレータMG1が出力する目標トルクτgである。
また、モータジェネレータMG1が出力するトルクであって、エンジン200のクランクシャフトに作用するトルク成分をτxとして表している。クランクシャフト210に対して、トルクτxを作用させる場合、このトルク成分τxは、遊星ギア機構320におけるプラネタリギア比ρを用いることで、τx*ρ/(1+ρ)として表される。
同様に、エンジン200の回転軸たるクランクシャフト210に作用するトルクについての運動方程式は、数式2に表される。
ただし、Ieは、エンジン200の回転軸のイナーシャを示し、θeは、エンジン200の回転軸の角度を示す。また、τeは、エンジン200の回転軸に作用するトルクを示す。τxは、エンジン200の回転軸に作用するクランキングに要するトルクを示す。
また、プロペラシャフト340に作用するトルクについての運動方程式は、数式3に表される。
ただし、τpは、プロペラシャフト340に作用するトルクを示す。τx*1/(1+ρ)は、ケーシング800からパーキングギア331及びパーキングポール332並びにリングギア330を介してプロペラシャフト340に作用する反力トルクを示す。
上述のように第1動作例においては、ハイブリッド車両10がパーキングロック状態であることから、リングギア330がパーキングギア331、パーキングポール332を介してケーシング800に固定される。このため、プロペラシャフト340の回転速度は、0に固定される。このため、リアキャリア及びモータジェネレータMG2の回転軸に対してトルクが作用せず、これらの部位についても回転速度は0に固定される。
以上の数式1乃至3を用いることで、ケーシング800に作用するトルクについての運動方程式は、以下の数式4に表される。
目標トルクτgは、上述のように、クランキングベーストルクτg_baseと調整トルクτg_cmdとを加算したものになる。従って、ケーシング800に作用するトルクは、数式4に表されるものとなる。ここで、ケーシング800に作用するトルクτTAのうち、モータジェネレータMG1の回転軸の回転イナーシャトルクに基づく成分を調整トルクτg_cmdにより相殺することで、クランキングベーストルクτg_baseに基づく成分以外のトルクがケーシング800に作用することを抑制することが出来る。このため、調整トルクτg_cmdについて、数式5に示されるよう設定することで、ケーシング800に作用するトルクτTAからモータジェネレータMG1の回転軸の回転イナーシャトルクに基づく成分、言い換えれば、ケーシング800の回転軸の反力トルクを取り除くことが出来る。
このため、ケーシング800に作用するトルクτTAの変動をより効果的に低減可能となり、ケーシング800、ひいてはハイブリッド車両10の車体の振動を好適に抑制可能となる。
図5は、調整トルク加算前のモータジェネレータMG1におけるクランキングベーストルクτg_baseの一例について示すグラフである。
クランキングベーストルクτg_baseは、エンジン200をクランキングするために、言い換えれば、エンジン200のエンジン回転数を増大させるためにモータジェネレータMG1が出力すべきトルクである。クランキングベーストルクτg_baseは、例えば、図5に示されるように、クランキングの初期においては相対的に高い第1トルク値τg_base1に設定される。その後、クランキングベーストルクτg_baseは、クランキングによりエンジン回転数が大きくなった後に相対的に低い第2トルク値τg_base2になるように制御される。尚、第1動作例において用いられるクランキングベーストルクτg_baseは、図5に示されるように、トルク変動が比較的少ないよう制御されることが好ましい。このようにトルク変動が少ないクランキングベーストルクτg_baseを用いる場合、ケーシング800に作用する反力トルクτTAのトルク変動も小さくなり、ケーシング800、ひいてはハイブリッド車両10の車体の振動が低減される。
第1動作例におけるECU100の目標トルクτg設定動作によれば、ハイブリッド車両10がパーキングロック状態である場合のエンジン200のクランキングのためにモータジェネレータMG1が出力すべき目標トルクτgとして、比較的トルク変動の少ないクランキングベーストルクτg_baseと、モータジェネレータMG1の回転軸の回転イナーシャトルクと比例関係にある調整トルクτg_cmpとを加算したものが設定される。
ハイブリッド車両10がパーキングロック状態である場合、モータジェネレータMG1の回転軸の反力トルクがケーシング800に作用し、振動の要因となる。しかしながら、上述のように設定された目標トルクτgによれば、ケ−シング800に作用するトルクの過渡的な変動を調整トルクτg_cmpにより抑制することが出来る。
その結果、エンジン200の始動時に、エンジン200並びに、ケーシング800及びケーシング800内部のトランスアクスル等により構成されるハイブリッド車両10のパワートレインに生じる振動を低減可能となる。結果、ハイブリッド車両10の車体の振動の低減にも繋がり、乗員の快適性を向上することが出来る。また、ハイブリッド車両10の車体の振動低減効果の向上が望めるため、エンジン200の始動時にモータジェネレータMG1を駆動させるために要求される電力を低減可能となり、バッテリ500の出力低減にも繋がる。
(2)第2動作例
続いて、ECU100の第2動作例について、図6から図8を参照して説明する。第2動作例では、ECU100は、ハイブリッド車両10のシフトレバーがDレンジにある状態、つまり非パーキングロック状態でエンジン200を始動する際のクランキング時に、モータジェネレータMG1が出力すべき目標トルクτgを設定すると共に、モータジェネレータMG2が出力すべき目標トルクτmを設定する。
はじめに、図6を参照して、第2動作例における目標トルクτg及びτm設定動作の流れについて説明する。図6は、第2動作例におけるECU100の目標トルクτg及びτm設定動作の流れを示すフローチャートである。
ECU100は、エンジン200の始動時に、ハイブリッド車両10が非パーキングロック状態であるか否かを判定する(ステップS201)。続いて、ECU100は、モータジェネレータMG1がエンジン200のクランクシャフト210に対してクランキングを実施中であるか否かを判定する(ステップS202)。パーキングロック状態である場合(ステップS201:No)、又はクランキングの実施中ではない場合(ステップS202:No)、ECU100は、以降の動作を実施しない。
ハイブリッド車両10が非パーキングロック状態であり(ステップS201:Yes)、且つモータジェネレータMG1がクランキングを実施中である場合(ステップS202:Yes)、ECU100は、モータジェネレータMG1に配置される回転角センサの値を逐次取得する(ステップS203)。ECU100は、取得した時系列的なモータジェネレータMG1の回転角センサ値から、モータジェネレータMG1の回転角加速度を算出する(ステップS204)。更に、ECU100は、モータジェネレータMG1の回転イナーシャトルクを算出する(ステップS205)。
次に、ECU100は、算出したモータジェネレータMG1の回転イナーシャトルクに基づいて、モータジェネレータMG1のクランキングベーストルクτg_baseに付加する調整トルクτg_cmpを算出する(ステップS206)。ECU100は、算出した調整トルクτg_cmpをクランキングベーストルクτg_baseに加算したものを、モータジェネレータMG1に対する目標トルクτgとして設定する(ステップS207)。
また、ECU100は、算出した調整トルクτg_cmpをクランキングベーストルクτg_baseから減算したものを、モータジェネレータMG2に対する目標トルクτmとして設定する(ステップS208)。
図7を参照して、調整トルクτg_cmpの算出と、目標トルクτg及びτmの設定に係る処理についてより具体的に説明する。図7は、ECU100における目標トルクτg及びτmの算出の態様について示す図である。
ECU100は、モータジェネレータMG1に配置されるの回転角センサの時系列的なセンサ値から取得したモータジェネレータMG1の回転軸の回転角加速度と、該回転軸のイナーシャとから、モータジェネレータMG1の回転軸の回転イナーシャトルクを適宜算出する。該回転イナーシャトルクが、遊星ギア機構320並びに、パーキングギア331及びパーキングポール332を介してケーシング800に作用する場合のトルクを調整トルクτg_cmpとして算出する。ECU100は、クランキングベーストルクτg_baseに、調整トルクτg_cmpを加算したものを、モータジェネレータMG1が出力すべき目標トルクτgとして設定する。
また、モータジェネレータMG1の回転軸の回転イナーシャトルクを、モータジェネレータMG1のクランキングベーストルクτg_baseから減算したトルクに、遊星ギア機構(MG1)320におけるギア比ρ及び遊星ギア機構(MG2)360におけるギア比Grmを適用した値を、モータジェネレータMG2が出力すべき目標トルクτmとして設定する。
以下、目標トルクτg及びτmの詳細な算出手順について、図8及び数式を用いて説明する。
図8は、上述したトルクを各部に適用した際の各部の回転の態様を示す共線図である。図8において、縦軸及び横軸は図4と同様であり、上述の数式6、数式7、数式10及び数式11に示される各部に作用するトルクについて図示している。
非パーキングロック状態においてエンジン200を始動する際の、エンジン200、モータジェネレータMG1及びMG2の回転軸、並びにプロペラシャフト340についての運動方程式は以下の数式に示される。モータジェネレータMG1の回転軸の運動方程式は、上述の数式1と同様の数式6により表される。尚、以下の数式において、既に説明済みの要素については、同様の記号を用いて説明を省略している。
エンジン200内部の回転軸の運動方程式は、上述の数式2と同様の数式7により表される。
プロペラシャフト340の運動方程式は、数式8により表される。
ただし、Grmは、遊星ギア機構(MG2)360におけるリングギア350の歯数に対するサンギア361の歯数とのギア比をGrmである。
モータジェネレータMG2の回転軸の運動方程式は、数式9により表される。
ただし、Imは、モータジェネレータMG2の回転軸のイナーシャを示し、θmは、モータジェネレータMG2の回転軸の角度を示す。τmは、モータジェネレータMG2の回転軸に接続されるサンギア361に作用するトルクであって、言い換えれば、モータジェネレータMG2が出力する目標トルクτmである。
尚、上述した数式8に示されるプロペラシャフト340の回転角加速度(つまり、プロペラシャフト340の回転角θpの2階時間微分)、及び数式9に示されるモータジェネレータMG2の回転軸の回転角加速度(つまり、モータジェネレータMG2の回転軸の回転角θmの2階時間微分)は、他の要素と比較して非常に小さな数値である。このため、数式8は数式10に、数式9は数式11に夫々近似出来る。
数式6、数式7、数式10及び数式11に基づくことで、ケーシング800に作用するトルクτTAは以下の数式12により表される。
モータジェネレータMG1出力すべき目標トルクτgは、上述のように、クランキングベーストルクτg_baseと調整トルクτg_cmdとを加算したものになる。従って、ケーシング800に作用するトルクは、数式4に表されるものとなる。ここで、ケーシング800に作用するトルクτTAのうち、モータジェネレータMG1の回転軸の回転イナーシャトルクに基づく成分を調整トルクτg_cmdにより相殺することで、クランキングベーストルクτg_baseに基づく成分以外のトルクがケーシング800に作用することを抑制することが出来る。このため、調整トルクτg_cmdについて、数式13に示されるよう設定することで、ケーシング800に作用するトルクτTAからモータジェネレータMG1の回転軸の回転イナーシャトルクに基づく成分、言い換えれば、ケーシング800の回転軸の反力トルクを取り除くことが出来る。
また、このときのモータジェネレータMG2が出力すべき目標トルクτmは、以下の数式14により表される。
ハイブリッド車両10において、非パーキングロック状態でモータジェネレータMG1を動作させてエンジン200のクランキングを行う場合、パーキングロック状態とは異なる機構により、ケーシング800にトルクが作用する。具体的には、プロペラシャフト340がパーキングギア331によりケーシング800に固定されていない状態であるため、モータジェネレータMG1のトルク変動を遊星ギア機構(MG2)360方向に伝達する。該トルク変動は、ケーシング800に固定されている遊星ギア機構(MG2)360のプラネタリギア362が設けられるリアキャリアを介して、ケーシング800に伝達される。
そこで、第2動作例において説明したように、モータジェネレータMG1に対して、上述のように設定される目標トルクτgを出力させると共に、モータジェネレータMG2に対して、上述のように設定される目標トルクτmを出力させることで、かかるトルク変動を抑制することが出来る。具体的には、このようにモータジェネレータMG1及びMG2を動作させることで、ケーシング800に作用するトルクは、クランキングベーストルクτg_baseに対して、遊星ギア機構(MG1)320におけるギア比ρに応じた比例関係となる。上述のようにクランキングベーストルクτg_baseは、トルク変動が比較的少ないものであるため、ケーシング800におけるトルク変動が低減されることとなる。
これにより、エンジン200の始動時にケーシング800に作用する過渡的なトルク変動を低減させることが出来、ケーシング800ひいてはハイブリッド車両10の車体の振動の低減に繋がる。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うハイブリッド車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。