JP6008471B2 - 食品間の水分移行抑制剤並びに水分移行の抑制方法 - Google Patents

食品間の水分移行抑制剤並びに水分移行の抑制方法 Download PDF

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Description

本発明は、製菓・製パンと製菓・製パン用フィリング、揚げ物と揚げ物用調味料、組み合わせ冷菓、米飯と米飯用具材・調味料のような水分含量の異なる食品間での水分移行を抑制する方法に関する。具体的には、水分含量が異なる複数の食品、特には水分含量が高い食品と、吸水性が高い食品を接触した状態で長期保存した場合や、冷凍解凍、加熱調理などを行った場合であっても、食品間の水分移行を抑制する方法に関する。
食品調理の利便化や食嗜好の多様性に伴い、今日では様々な加工食品が流通しているが、これら加工食品の中には流通時や保存中に水分移行や味移りの問題を抱えている食品も多い。例えばサンドイッチや中華まん等の製パン・製菓用フィリングは、保存時や流通時、加熱調理時にフィリング中の水分が製菓・製パンの生地に移行し、生地が水っぽい食感となり、製菓・製パン本来の食感を保持することができないといった課題を抱えていた。
同様にして、具材や調味料と米飯を組み合わせた食品(丼物、おにぎり)や、調味料と揚げ物を組み合わせた食品においても、具材や調味料から移行した水分が米飯や揚げ物に染み込むことによる食感の低下が問題視されていた。
食品間の水分移行を抑制する技術としては、粉末状、ゾル状又は水溶液化したコンニャクイモ又はグルコマンナン若しくはペースト化されたグルコマンナンからなる基材に凝固剤を添加してなる食品の水分移行防止剤(特許文献1)が挙げられる。また、ラムダカラギーナンを含むことを特徴とする、食品用しみ込み抑制剤(特許文献2)などが知られているが、いずれの技術もその水分移行抑制効果は不十分であり、未だ改良の余地があった。更に、グルコマンナンを用いた技術は、グルコマンナンの増粘作用によって食品のフレーバーリリースが低下する、グルコマンナン特有の臭気が食品の風味に影響を与えるといった問題を抱えていた。ラムダカラーギナンを用いた技術も、増粘剤特有のねばりが食感に影響を及ぼす、原料となる海草由来の香りが風味に影響を与える、酸性でタンパクを使用した系では凝集するなど、汎用性が低いものであった。
特開2004−222562号公報 特開2008−99640号公報
本発明は、製菓・製パンと製菓・製パン用フィリング、揚げ物と揚げ物用調味料、組み合わせ冷菓、米飯と米飯用具材・調味料のような、水分含量の異なる複数の食品が接触した際に生じる、食品間の水分移行を抑制することを目的とする。中でも本発明は、長期保存時や、冷凍解凍、加熱調理等を行った場合に、更に顕著に発生する、食品間の水分移行を抑制することを目的とする。
本発明者は、上記のごとき課題を解決すべく鋭意研究した結果、発酵セルロースを含む水分移行抑制剤を用いることにより、食品間の水分移行を抑制できることを見出して本発明に至った。
本発明は、以下の態様を有する水分移行抑制剤および食品間の水分移行を抑制する方法に関する;
項1.発酵セルロースを含有することを特徴とする、水分含量の異なる食品間の水分移行抑制剤。
項2.発酵セルロースが高分子物質と複合化された発酵セルロース複合体である、項1に記載の水分移行抑制剤。
項3.発酵セルロース複合体が、カルボキシメチルセルロース又はその塩、キサンタンガム及びグァーガムから選ばれる1種又は2種以上の高分子物質と複合化された発酵セルロース複合体である項2に記載の水分移行抑制剤。
項4.項1〜3のいずれかに記載の水分移行抑制剤を含有する、製菓・製パン用フィリング、揚げ物用調味料、組み合わせ冷菓用の冷菓、米飯用具材・調味料、又はピザ用調味料。
項5.発酵セルロースを添加することを特徴とする、水分含量の異なる食品間の水分移行抑制方法。
本発明によれば、製菓・製パンと製菓・製パン用フィリング、揚げ物と揚げ物用調味料、組み合わせ冷菓、米飯と米飯用具材・調味料のような、水分含量の異なる複数の食品が接触した際に生じる、食品間の水分移行を顕著に抑制することができ、製菓・製パンや揚げ物本来の食感が保持された食品を提供することができる。特に、本発明により、長期保存時や、冷凍解凍、加熱調理等を行った場合に、更に顕著に発生する、食品間の水分移行を抑制することができる。
実験例1における実施例1の水分移行抑制効果(20分経過後のろ紙の様子 )を示す。 実験例1における比較例1の水分移行抑制効果(20分経過後のろ紙の様子 )を示す。 実験例2において、実施例2のフィリング材を使用した際の食パンの断面図(16時間経過後)を示す。 実験例2において、比較例7のフィリング材を使用した際の食パンの断面図(16時間経過後)を示す。 実施例6の明太子ソースを使用した際のおにぎりの断面図(1日経過後)を示す。 比較例11の明太子ソースを使用した際のおにぎりの断面図(1日経過後)を示す。
本発明で用いる発酵セルロースは、セルロース生産菌が生産するセルロースであればよく、特に限定されない。通常、発酵セルロースは、セルロース生産菌を既知の方法、例えば特開昭61−212295号公報、特開平3−157402号公報、特開平9−121787号公報に記載される方法に従って培養し、得られた培養物からセルロース生産菌を単離するか、または所望に応じて適宜精製することによって製造することができる。
セルロース生産菌としては、アセトバクター属、シュードモナス属、アグロバクテリウム属等に属する細菌が挙げられるが、好適にはアセトバクター属である。発酵セルロースを生産するアセトバクター属の細菌として、より具体的には、アセトバクター・パスツリアヌス株(例えば、ATCC10245等)、アセトバクター・エスピーDA株(例えば、FERMP−12924等)、アセトバクター・キシリナム株(例えば、ATCC23768、ATCC23769、ATCC10821、ATCC1306−21等)を挙げることができる。好ましくは、アセトバクター・キシリナム株である。
セルロース生産菌を培養する培地及び条件としては、特に限定されず、常法に従うことができる。例えば、培地は、基本的に窒素源、炭素源、水、酸素及びその他の必要な栄養素を含有しており、上記微生物が増殖して目的の発酵セルロースを産生することができるものであればよく、例えばHestrin−Schramm培地を挙げることができる。なお、セルロスの生産性を向上させるために、培地中にセルロースの部分分解物、イノシトール、フィチン酸等を添加することもできる(特開昭56−46759号公報、特開平5−1718号公報)。培養条件としては、例えばpH5〜9、培養温度20〜40℃の範囲が採用され、発酵セルロースが十分産生されるまで培養が続けられる。培養方法は、静置培養、攪拌培養、通気培養のいずれでもよいが、好適には通気攪拌培養である。
発酵セルロースを大量生産するためには、多段階接種法が好ましい。この場合、通常、2段階の予備接種プロセス、一次接種発酵プロセス、二次接種発酵プロセス及び最終発酵プロセスからなる5段階の発酵プロセスが採用され、各プロセスで増殖された細菌について細胞の形態およびグラム陰性であることを確認しながら、次プロセスの発酵器に継代される。
発酵後、産生された発酵セルロースは培地から分離処理され、洗浄されて、適宜精製される。精製方法は特に限定されないが、通常、培地から回収した発酵セルロースを洗浄後、脱水し、再度水でスラリー化した後に、アルカリ処理によって微生物を除去し、次いで該アルカリ処理によって生じた溶解物を除去する方法が用いられる。具体的には、次の方法が例示される。
まず、微生物の培養によって得られる培養物を脱水し、固形分約20%のケーキとした後、このケーキを水で再スラリー化して固形分を1〜3%にする。これに水酸化ナトリウムを加えて、pH13程度にして攪拌しながら数時間、系を65℃に加熱して、微生物を溶解する。次いで、硫酸でpHを6〜8に調整し、該スラリーを脱水して再度水でスラリー化し、かかる脱水・スラリー化を数回繰り返す。精製された発酵セルロースは、必要に応じて乾燥処理を施すことができる。乾燥処理としては特に制限されることなく、自然乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥、スプレードライ、ドラムドライ等の公知の方法を用いることができる。好ましくはスプレードライ法、ドラムドライ法である。
かくして得られる発酵セルロースは、白色から黄褐色の物質であり、水に急速に分散できる非常に繊細な繊維性粒子からなる。なお、本発明で用いられる発酵セルロースは、上記方法で調製される発酵セルロースと同一若しくは類似の性質を有し、本発明の目的を達成しえるものであれば、その調製方法によって限定されるものではない。
本発明では好ましくは、当該発酵セルロースが高分子物質と複合化された、発酵セルロース複合化物を使用できる。発酵セルロースとの複合化に使用される高分子物質としては、具体的には、キサンタンガム、カラギーナン、ガラクトマンナン(グァーガム、ローカストビーンガム、タラガム等)、カシアガム、グルコマンナン、ネイティブ型ジェランガム、脱アシル型ジェランガム、タマリンドシードガム、ペクチン、サイリウムシードガム、ゼラチン、トラガントガム、カラヤガム、アラビアガム、ガティガム、マクロホモプシスガム、寒天、アルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩)、カードラン、プルラン、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)またはその塩、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等のセルロース誘導体、微結晶セルロース、水溶性ヘミセルロース、大豆多糖類、加工・化工でん粉、未加工でん粉(生でん粉)といった各種高分子物質を挙げることができる。
高分子物質として、好ましくはキサンタンガム、ガラクトマンナン、カルボキシメチルセルロース(CMC)またはその塩を挙げることができる。ガラクトマンナンとして好ましくはグァーガムを、CMCの塩として好ましくはCMCのナトリウム塩を挙げることができる。高分子物質として、より好ましくはキサンタンガム若しくはグァーガムと、CMCまたはその塩を組み合わせて使用する態様である。
本発明において、発酵セルロースは、より好ましくは、前述するキサンタンガム、グァーガム、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその塩からなる群から選択される少なくとも1種以上を、複合化させた状態で用いられる。特に好ましくは、発酵セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、並びにキサンタンガムを複合化させた発酵セルロース複合化物、若しくは発酵セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、並びにグァーガムを複合化された発酵セルロース複合化物を用いることが望ましい。発酵セルロース複合化物を用いることにより、対象食品間の水分移行をより顕著に抑制することが可能となる。
発酵セルロースを高分子物質と複合化させる方法としては、特開平9−121787号公報に記載される2種類の方法を挙げることができる。第一の方法は、微生物を培養して発酵セルロースを産生させるにあたり、培地中に高分子物質を添加して培養を行い、発酵セルロースと高分子物質とが複合化した発酵セルロース複合化物として得る方法である。
第二の方法は、微生物の培養によって生産された発酵セルロースのゲルを高分子物質の溶液に浸漬して、高分子物質を発酵セルロースのゲルに含浸させて複合化する方法である。発酵セルロースのゲルは、そのままか、あるいは常法により均一化処理を行ったのちに高分子物質の溶液に浸漬する。均一化処理は、公知の方法で行えばよく、例えばブレンダー処理や500kg/cm2で40回程度の高圧ホモジナイザー処理、1000kg/cm2で3回程度のナノマイザー処理などを用いた機械的解離処理が有効である。浸漬時間は、制限されないが、30分以上24時間程度、好ましくは1晩を挙げることができる。また、浸漬終了後は遠心分離や濾過などの方法で浸漬液を除去することが望ましい。さらに、水洗いなどの処理を行って過剰の高分子物質を除去すると、高分子物質と複合化された状態の発酵セルロースを取得することができ、複合化に利用されないで残存する高分子物質の影響を抑えることができる。
高分子物質と複合化された発酵セルロースは商業上入手可能であり、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のサンアーティスト[登録商標]PX(キサンタンガムおよびCMCのナトリウム塩と発酵セルロースとの複合体の製剤)、サンアーティスト[登録商標]PG(グァーガムおよびCMCのナトリウム塩と発酵セルロースとの複合体の製剤)などを挙げることができる。
本発明では、当該発酵セルロースを水分移行抑制剤として用いることを特徴とする。本発明の水分移行抑制剤は、例えば製菓・製パンに使用されるフィリング材、天ぷら、エビフライやコロッケ等の揚げ物に使用される調味料;モナカ、クレープ生地、クッキー等と組み合わされる冷菓;米飯用具材・調味料;ピザに使用される調味料等の、水分含量が高い食品であって、吸水性の高い他の食品と接触して調製される食品に使用される。
そして、発酵セルロースを水分移行抑制剤として用いることにより、当該食品間で生じる水分移行を顕著に抑制することができ、水っぽさが抑制されソフトな食感、サクっとした軽い食感が保持された製菓・製パンや、サクサク、パリパリとした食感が保持された揚げ物、本来の食感が保持された米飯等を提供することができる。特に、フィリング材と製菓・製パン;調味料と揚げ物;アイスクリーム等の冷菓と組み合わされる生地(モナカ、クレープ生地、クッキー等);具材・調味料と米飯;調味料とピザといった食品を接触した状態で長期保存した場合であっても、本発明により顕著に食品間に生じる水分移行を抑制することが可能となった。
本発明の水分抑制剤は、更に、対象食品が冷凍解凍された場合や加熱調理された場合であっても、顕著に水分移行を抑制できるという利点を有する。例えば、調味料と揚げ物を具体例に挙げる。従来、水分移行の抑制を目的として使用されてきた素材は、揚げ物に調味料を塗布した状態で冷凍すると、冷凍により水分が凍結するため揚げ物と調味料の両食品間での水分移行は比較的抑制されるが、冷凍時に水分抑制剤自体の効果が劣化し、当該食品を解凍した際に、溶解した水分が直接揚げ物に吸収され、揚げ物本来の食感を再現することは到底できなかった。製菓・製パンにおいても、例えば、フィリング材を包含した状態でオーブン等の加熱調理を経ると、加熱により水の分子運動が活発化されるため、結果として食品間の水分移行が促進され、当該水分移行を抑制することが大変困難とされていた。かかる中、本発明の水分移行抑制剤は、対象食品が冷凍解凍された場合や加熱調理された場合であっても、顕著に水分移行を抑制することができるという顕著な効果を奏する。かかる点において、本発明の水分移行抑制剤は、冷凍解凍時に生じる水分移行の抑制剤、加熱調理時に生じる水分移行の抑制剤として有用性が高い。更に、本発明の水分抑制剤は、対象食品の色調に影響を及ぼさないという利点や、調味料に使用した場合、冷凍解凍や加熱調理された場合であっても、調味料が対象食品からずれ落ちにくいといった利点も有する。
本発明における水分抑制剤の添加量は、本発明の効果が得られる範囲であればよく、各種食品の種類に応じて適宜調整することができる。通常、フィリング材、調味料、具材、冷菓等の各種食品に対して、発酵セルロースの添加量が0.002〜5質量%、好ましくは0.004〜1質量%、更に好ましくは0.01〜0.5質量%である。
本発明において、高分子物質と複合化された発酵セルロース複合体を用いる場合、発酵セルロースに対する高分子物質の添加量は10〜200質量%、好ましくは15〜100質量%であることが望ましい。
本発明は、水分移行抑制剤として発酵セルロースを、製菓・製パン用フィリング、揚げ物用調味料、組み合わせ冷菓用の冷菓、米飯用具材・調味料、又はピザ用調味料等の対象食品に添加することを特徴とするが、これら各種食品には、他の増粘多糖類を使用することも可能である。増粘多糖類としては、例えばキサンタンガム、グァーガム、タラガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、カラギナン、プルラン、ネイティブ型ジェランガム、ペクチン、アラビアガム、カラヤガム、ガティガム、寒天、アルギン酸、カードラン、及び大豆多糖類から選ばれる1種以上を例示できる。
上記多糖類は食品への粘度付与や、保型性付与等を目的として使用されるが、各食品間の水分移行を抑制することができず、製菓・製パンや揚げ物等の食感が低下してしまうことが課題とされていた。しかし、本発明では上記多糖類を用いた場合であっても、水分移行抑制剤として発酵セルロースを併用することで、各食品間の水分移行を抑制することができ、例えば製菓・製パンのふっくらとした食感や、揚げ物特有のサクサク感、米飯本来の弾力ある食感など、本来の食感が保持された食品を提供することが可能となった。
本発明はまた、発酵セルロースを添加することを特徴とする、食品間で生じる水分移行の抑制方法に関する。当該方法は、上述のとおり、製菓・製パン用フィリング材や揚げ物用調味料、冷菓用生地と組み合わされる冷菓、米飯用具材・調味料、ピザ用調味料等の水分含量が高い食品に発酵セルロースを添加することによっても達成することができる。
以下に、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、それぞれ「質量部」「質量%」、文中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」印は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを意味する。
実験例1 水分移行抑制試験
各種多糖類の水分移行抑制効果を試験するため、以下の比較実験を行った。具体的には、水分移行抑制剤として、表1に示す多糖類を水に添加後、80℃で10分間撹拌した。
なお、多糖類は各々の水溶液の粘度が同等となるように添加した。多糖類含有溶液の液温を20℃に調整後、常温で1日保存した。保存後、各溶液の粘度測定及び水分移行抑制効果の試験を行った。粘度測定は各溶液を20℃に調整後、B型回転粘度計で60rpm、1分間の条件で測定した。水分移行抑制効果の試験は、各溶液を直径6.5cmのゼリーカップに満了充填後、ろ紙をカップ上面に載せ、20分経過後のろ紙への水分移行量(ろ紙に染み込んだ水分量)を測定した。なお、本試験では、ろ紙への水分移行量をろ紙に染み込んだ水分の直径として示す。本直径が大きい程、ろ紙への水分移行量は多く、直径が小さい程、ろ紙への水分移行量が少ないことを示す。
Figure 0006008471
注1)発酵セルロース製剤として、発酵セルロース20%、キサンタンガム10%及びCMC−Na3.3%含有製剤「サンアーティスト※PX*」を使用した。
表1より、水分移行抑制剤として、発酵セルロース製剤を用いた実施例1の水溶液は、水分移行量が6.9cmと最小限に抑制されており、水分移行の抑制効果が極めて高いことが分かる(実施例1)。参照のため、実施例1の結果を図1に、比較例1の結果を図2に示した。一方、水分移行抑制剤として、澱粉、グァーガム、タマリンドシードガム、λカラギナン、サイリウムシードガム、グルコマンナンを用いた場合(比較例1〜6)は、十分に水分の移行を抑制することはできなかった。また、比較例1〜6で用いた多糖類は、添加量や対象食品の種類によっては、特有のぬめりが最終食品の食感に影響を及ぼす点が課題とされていたが、本発明の水分移行抑制剤は最終食品に添加した場合であってもすっきりとした食感を呈するため、最終食品の食感に及ぼす影響を最小限に抑制することができるという利点も有する。
なお、特許文献1の比較試験として、グルコマンナン及び水酸化カルシウムを水分移行抑制剤として実施例1と同様に水溶液を調製したが、水溶液がゲル化してしまった(測定不可)。
実験例2 製パン用フィリング及び製パン(サンドイッチ)
表2の処方に従ってフィリングを調製し、当該フィリングを用いて製パン(サンドイッチ)を調製した。具体的には、水に発酵セルロース製剤、キサンタンガムを加えて、10分間撹拌後、他の素材を加えて、さらに5分間撹拌することにより、フィリングを調製した。調製した実施例2及び比較例7のフィリング75gを直径6.5cmのゼリーカップに満了充填し、その上に食パンを載せ16時間放置した。16時間後のフィリング材の染みこみ具合を観察した。
Figure 0006008471
図3及び図4に16時間経過後の食パンの様子(断面図)を示す。図3(実施例2)及び図4(比較例7)からも、発酵セルロースを水分移行抑制剤として用いることにより、フィリング材からの水分移行が顕著に抑制されていることが分かる。
実験例3 揚げ物用調味料及び揚げ物
水分移行抑制剤の効果を確かめるために、以下の実験を行った。具体的には、表3に示す処方に従って揚げ物用調味料(タレ)を調製し、タレに対する添加量が表4に示す添加量となるように、各種水分移行抑制剤をタレに添加した揚げ物用調味料(実施例3〜4、比較例8〜10)を調製した。予め調製した天ぷら30gに、実施例3〜4、比較例8〜10のタレ4gを各々添加し、タレ付き天ぷらを調製した。次いで、当該天ぷらを−40℃で急速冷凍し、1日後、600wの電子レンジで1分間加熱することにより解凍し、冷凍後並びに解凍後の天ぷらへのタレのしみ込みを確認した。結果を表5に示す。また、天ぷらへのタレの付着性(天ぷらからのずれ落ちにくさ)を評価するため、実施例3〜4、比較例8〜10で調製した揚げ物用調味料(タレ)を、角度5℃に傾けたステンレストレーに20gのせ、180秒後の移動距離を調べた。結果を表5に示す。
Figure 0006008471
Figure 0006008471
Figure 0006008471
水分移行抑制効果の評価基準は、天ぷらへの水分移行に対する抑制効果が高く、天ぷらの食感に影響を与えないものを+++++として、効果が高い順に+++++>++++>+++>++>+の5段階で評価した。
表5より、発酵セルロースを用いることにより、冷凍前及び冷凍解凍後もタレから天ぷらの衣への水分移行が顕著に抑制され、天ぷら本来の食感が保持された調理済み食品を提供することができた(実施例3及び4)。一方、ラムダカラギナン(比較例9)、グルコマンナン(比較例10)を水分移行抑制剤として用いた場合は、天ぷらを冷凍する以前にタレが染み込み、天ぷらの衣がふやけてしまい、天ぷら本来のサクサクとした食感を保持することはできなかった(比較例9、10)。
付着性試験においても、実施例3及び4の天ぷら用タレは、天ぷらに対する付着性が8.2cm(実施例3)、9.5cm(実施例4)と良好であり、実際に実施例3及び4の天ぷら用タレは、冷凍・解凍後も天ぷらからずり落ちにくいタレであった。
更に、実施例3〜4及び比較例8〜10の天ぷら用タレについて、常温時及び高温時の粘度変化を測定した。具体的には、実施例3〜4及び比較例8〜10で調製した各々のタレを20℃及び60℃に調整した際の粘度を測定した。粘度はB型粘度計で60rpm、1分間後の測定値である。常温時及び高温時の粘度変化として、60℃及び20℃での粘度比を求めた。結果を表6に示す。
Figure 0006008471
実施例3〜4のタレは60℃に加温した場合であっても粘度変化が少なく、タレを塗布した天ぷらを電子レンジ等で加熱調理した場合であっても、天ぷらからずり落ちにくいタレであることが判明した。一方、比較例9〜10の天ぷら用タレは、常温時及び高温時の粘度変化が大きく、電子レンジ等で温めることにより、タレがだれやすいことが分かる。
また、発酵セルロースの代わりに微結晶セルロース製剤(旭化成ケミカルズ(株)製「セオラスDX−2」)を、微結晶セルロースの添加量が2.5%となるように添加する以外は実施例3と同様にして揚げ物用タレを調製したが、タレ自体の色調が白色化し、商品価値を下げるものであった。
かかる中、本願発明の水分移行抑制剤を用いた揚げ物用タレ(実施例3及び4)は、タレ自体の色調が白色化することもなく、また、電子レンジで加熱することにより解凍した場合であっても、タレ本来の粘性を保持できる上、天ぷらへのタレのしみ込みも顕著に抑制された有用性の高い揚げ物用タレであった。
実施例5 フルーツソース(製菓、製パン用フィリング材)
水49質量部に砂糖30質量部、クエン酸三ナトリウム0.1質量部、発酵セルロース製剤「サンアーティスト※PG*」(発酵セルロース20%、CMC−Na6.7%、グァーガム6.7%含有製剤)0.6質量部、キサンタンガム0.3質量部を加えて、80℃10分間加熱撹拌溶解後、ホモジナイザーで均質化(圧力150kgf/cm2)した。さらに、リンゴプレザーブ20質量部を加えた後、クエン酸でpH3.7に調整して、フルーツソースを調製した。
スポンジケーキに調製したフルーツソース(実施例5)をかけて、10時間放置したが、フルースソースはスポンジに染み込まず、スポンジ上に残っていた。
実施例6 明太子おにぎり(米飯用具材・調味料及び米飯)
表7の処方に従って明太子おにぎりを調製し、水分移行抑制効果を試験した。具体的には、水に表7に示す原材料を添加後、常温で10分間撹拌した。次いで容器に充填後、60℃で30分間撹拌することで明太子ソース(米飯用具材)を調製した。
明太子ソースを、米:明太子ソースが7:3となるように、おにぎりの中心部に充填し、常温で1日間保存した。1日経過後のおにぎりを縦半分に切断し、明太子ソースが米に移行した水分の様子を観察した。
Figure 0006008471
実施例6の明太子ソースを具材・調味料として調製したおにぎりは、粘度が178mPa・sと低粘度であるにも関わらず、1日後も調製直後と同等の状態が保持されており、明太子ソースから米飯への水分移行が顕著に抑制されていた。また、図5からも明らかなように、米飯と明太子ソースの境界も明確であった。
本実施例で調製したおにぎりは、おにぎりの外側に近いところまで具材を注入しているため、一口目から具材を食することが可能であり、かつ顕著に水分移行が抑制されているため、米飯がべちゃついたり、ふやけて保型性が低下することもなく、おにぎりとして商品価値が高かった。
一方、比較例11の明太子ソースは、実施例6のソースよりも粘度が高いにも関わらず、比較例11のソースを具材・調味料として調製したおにぎりは、明太子ソースから米飯への水分移行を抑制することができず、明太子ソースが浸み込んだ米飯はふやけており、べちゃついた食感となってしまった。また、実施例6と比べて明太子ソースと米飯の境界面も不明確であった。比較例11のおにぎりは、実施例6と同様、一口目から具材を食することが可能であるものの、おにぎりの外側まで水分移行しているため、ごはんつぶ同士の保型性が弱く、食した側からボロボロとおにぎりが崩れ落ち、商品価値が著しく低いものであった。
本発明によれば、製菓・製パンと製菓・製パン用フィリング、揚げ物と揚げ物用調味料、組み合わせ冷菓、米飯と米飯用具材・調味料、ピザ生地とピザ用調味料のような、水分含量の異なる複数の食品が接触した際に生じる、食品間の水分移行を顕著に抑制することができ、製菓・製パンや揚げ物、組み合わせ冷菓用生地、米飯、ピザ本来の食感が保持された調理済み食品を提供することができる。特に、本発明により、長期保存時や、冷凍解凍、加熱調理等を行った場合に、更に顕著に発生する、食品間の水分移行を抑制することができる。

Claims (1)

  1. 水分含量が高い食品Aと、食品Aに対して水分含量が低い他の食品Bが接触して調製される複合食品を冷凍解凍した際に生じる、食品Aから食品Bへの食品間の水分移行を抑制する方法であって、
    前記食品A及び食品Bが下記に示すものであり、
    <食品A/食品B>
    製菓・製パン用フィリング/製菓・製パン、揚げ物用調味料/揚げ物、米飯用具材・調味料/米飯、又はピザ用調味料/ピザ、
    下記(1)〜(3)の工程を有する食品間の水分移行を抑制する方法;
    (1)食品Aに発酵セルロース複合化物及びキサンタンガムを添加し、
    (2)食品Aと食品Bを接触させ、複合食品を調製し、
    (3)複合食品を冷凍解凍する。
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