以下添付図面に従って本発明に係るプレス機械の横方向高剛性化装置の好ましい実施形態について詳説する。
[プレス機械]
図1は本発明に係る横方向高剛性化装置を含むプレス機械の第1の実施形態を示す概要図である。
図1に示すプレス機械100は、クラウン51と、ベッド52と、クラウン51とベッド52との間に配設された複数のコラム55とによりフレームが構成され、スライド53は、コラム55に取り付けられたガイド部としてのギブ56により昇降方向(鉛直方向)に移動自在に案内されている。スライド53は、サーボモータ(図示せず)の回転駆動力が伝達されるクランク軸57を含むクランク機構(スライド駆動機構)によって図1上で上下方向に移動させられる。
クランク軸57には、クランク軸57の角度を検出するエンコーダ71が設けられている。尚、エンコーダ71の代わりに、又はエンコータ71とともにスライド53のストローク位置を検出するスライド位置検出器を設けるようにしてもよい。
スライド53には上金型81が装着され、ベッド52のボルスタ54上には下金型82が装着されている。
[第1の実施形態の横方向高剛性化装置]
第1の実施形態の横方向高剛性化装置200は、主として引張力発生機構として機能する液圧シリンダ(油圧シリンダ)1と、油圧シリンダ1が発生する引張力を制御する引張力制御部として機能する油圧回路210及び横方向剛性制御部(制御部)220とから構成されている。
油圧シリンダ1は、プレス機械100の複数のコラム55のうちの互いに対向するコラム55間を連結するように配設されている。即ち、対向するコラム55間の一方に油圧シリンダ1のシリンダ1aの後端部が回動自在に配設され、他方にピストンロッド1bの先端が回動自在に配設されている。また、油圧シリンダ1は、クラウン51とベッド52との中間の位置に配設され、油圧シリンダ1の取り付け高さ位置は、コラム55の(上下)長さ寸法の中央より下方で、(金型の脱着を妨げないように)最少ダイハイト時の下死点におけるスライド下面より上側の位置が望ましい。油圧シリンダ1の取り付け高さ位置を調整可能に構成するとなお良い。
油圧回路210は、油圧シリンダ1のピストンロッド側の油圧室(液圧室)1cに圧油(圧液)を供給し、油圧シリンダ1からコラム55間に引張力を発生させるもので、主として油圧ポンプ/モータ(液圧ポンプ/モータ)2、油圧ポンプ/モータ2の回転軸に駆動軸が接続された電動サーボモータ3、電動サーボモータ3の駆動軸の角度を検出するエンコーダ(角度検出器)4、アキュムレータ5、リリーフ弁6及び圧力検出器9、10から構成されている。
油圧ポンプ/モータ2の一方のポート(吐出口)は、配管7を介して油圧シリンダ1のピストンロッド側の油圧室(液圧室)1cに接続され、他方のポートはアキュムレータ5に接続されている。
アキュムレータ5は、低圧のガス圧がセットされ、0.1MPa程度の略一定圧の作動油を蓄積し、タンクの役割を果たす。
リリーフ弁6は、油圧室1cに意図的に制御する圧力とは別に、予期せぬ異常圧力が作用した場合に、圧油を略一定低圧(アキュムレータ5)側に逃がす役割を果たす。
油圧ポンプ/モータ2の油圧シリンダ1の油圧室1c側のポートに作用する圧力、及び油圧ポンプ/モータ2のアキュムレータ5側のポートに作用する圧力は、それぞれ圧力検出器9及び10により検出され、また、電動サーボモータ3の駆動軸の角度はエンコーダ4により検出される。
圧力検出器9は、油圧シリンダ1から発生させるコラム55間の引張力を計測するために、油圧シリンダ1のピストンロッド側の油圧室1cに通じる配管7に配設され、配管7内の圧力(即ち、油圧室1c内の圧力)を検出する。圧力検出器10は、アキュムレータに蓄積する油量を検出したり、油圧回路210からの油漏れを検出したりするために設けられている。
横方向剛性制御部220は、電動サーボモータ3のトルクを制御することで、油圧シリンダ1のピストンロッド側の油圧室1cの圧力(ひいては、油圧シリンダ1が発生する引張力)を制御する部分である。
スライド53からコラム55に作用する横方向荷重FRは、プレス荷重FPの2〜4%程度であり、プレス荷重FP及びクランク軸57のクランク角度(スライド53のストローク位置)により変化する。そこで、プレス荷重FP、クランク角度等により能動的に油圧シリンダ1が発生する引張力を制御することが好ましい。
油圧シリンダ1が発生する引張力をFとすると、引張力Fが横方向荷重FR以上(F≧FR)になるように制御することにより、プレス成形中のコラム55の横方向の変形を防止し、ギブ隙間の変化及びコラムの振動等を抑制することができる。尚、横方向剛性制御部220の詳細な構成については後述する。
図2及び図3は、それぞれ第1の実施形態の横方向高剛性化装置を含むプレス機械の基本構成を示す平面図及び正面図である。尚、図2及び図3において、図1と共通する部分には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図2及び図3に示すように、クラウン51とベッド52との間には左前、右前、左後及び右後の4本のコラム55(55LF,55RF,55LB,及び55RB)が配設され、左右方向のコラム55LF,55RF間、コラム55LB,55RB間、及び前後方向のコラム55LF,55LB間、コラム55RF,55RB間には、それぞれ油圧シリンダ1PF,1PB,1VL,及び1VRが配設されている。
また、コラム55LF,55RF,55LB,及び55RBには、それぞれプレス荷重を計測するプレス荷重検出器72(72LF,72RF,72LB,及び72RB)が装着されている。プレス荷重が作用した時に、プレス荷重の分力(引張力)が4本のコラム55に分散して作用する。各コラム55に装着されたプレス荷重検出器72は、上記引張力により各コラム55に生じる歪を検出して荷重に変換する方式の検出器である。
また、各油圧シリンダ1PF,1PB,1VL及び1VRには、それぞれシリンダに対するピストンロッドの位置(シリンダ位置)を検出するシリンダ位置検出器11PF,11PB,11VL及び11VRが配設されている。
そして、左右方向のコラム55LF,55RF間、及びコラム55LB,55RB間にそれぞれ配設された油圧シリンダ1PF,1PBのピストンロッド側の油圧室には、油圧回路210Pから圧油が供給され、前後方向のコラム55LF,55LB間、及びコラム55RF,55RB間にそれぞれ配設された油圧シリンダ1VL,1VRのピストンロッド側の油圧室には、それぞれ油圧回路210Vから圧油が供給されるようになっている。
図4は、図2に示した油圧回路210P,210V及び駆動回路の構成を示す図である。
図4に示すように油圧回路210Pは、油圧ポンプ/モータ2Pa,2Pb、電動サーボモータ3Pa,3Pb、エンコーダ4Pa,4Pb、アキュムレータ5P、リリーフ弁6P、及び圧力検出器9P、10Pから構成され、また、油圧回路210Vは、油圧ポンプ/モータ2Va,2Vb、電動サーボモータ3Va,3Vb、エンコーダ4Va,4Vb、アキュムレータ5V、リリーフ弁6V、及び圧力検出器9V、10Vから構成されている。
これらの油圧回路210P及び210Vは、それぞれ図1に示した油圧回路210と同様の構成を有しているが、油圧ポンプ/モータ、電動サーボモータ及びエンコーダが、それぞれ複数(2つ)設けられている点で相違する。
また、電動サーボモータ3Pa,3Pbには、それぞれ交流電源17、回生器付の直流電源16Pa,16Pb、及びサーボアンプ15Pa,15Pbからなる駆動回路が接続され、同様に電動サーボモータ3Va,3Vbには、それぞれ交流電源17、回生器付の直流電源16Va,16Vb、及びサーボアンプ15Va,15Vbからなる駆動回路が接続されている。
サーボアンプ15Pa,15Pb及びサーボアンプ15Va,15Vbには、それぞれ横方向剛性制御部220から出力されるトルク指令信号TorR−Pa、TorR−Pb及びトルク指令信号TorR−Va、TorR−Vbが加えられており、トルク指令信号TorR−Pa、TorR−Pb及びトルク指令信号TorR−Va、TorR−Vbは、それぞれサーボアンプ15Pa,15Pb及びサーボアンプ15Va,15Vbにより増幅され、電動サーボモータ3Pa,3Pb及び電動サーボモータ3Va,3Vbに出力される。
[横方向剛性制御部]
図5は、横方向剛性制御部220の実施形態を示すブロック図である。
横方向剛性制御部220は、図4に示した電動サーボモータ3Pa、3Pb,3Va,及び3Vbのトルクを制御することで、油圧シリンダ1PF,1PB,1VL,及び1VRのピストンロッド側の油圧室の圧力(即ち、油圧シリンダが発生する引張力)を制御するもので、主として目標力演算器(指令器)21、速度変換器22PF,22PB,22VL,22VR、角速度変換器23Pa、23Pb,23Va,23Vb、左右荷重制御補償器25P、前後荷重制御補償器25V、トルク指令演算器26P,26V、左右荷重演算器27P、及び前後荷重演算器27Vから構成されている。
目標力演算器21は、目標引張力又は目標圧力を示す目標値を演算して指令するもので、プレス横荷重演算器21a、プレス偏心荷重演算器21b、左右方向目標力演算器21P、及び前後方向目標力演算器21Vから構成されている。
プレス横荷重演算器21aには、それぞれプレス荷重検出器72LF,72RF,72LB,及び72RBから各コラムに加わるコラム荷重信号(プレス荷重分力信号)と、エンコーダ71からクランク軸57の角度を示すクランク角度信号とが加えられる。
図6は、プレス荷重作用時に各コラムに作用するコラム荷重(プレス荷重の分力)、クランク機構によるプレス横荷重、左右・前後の偏心位置、及び偏心荷重による左右、前後方向荷重を示すイメージ図である。
また、図7から図13は、スライドのストローク1100mm、加圧能力20000kN、クランク軸をサーボモータで駆動するタイプの一般的なサーボプレスを用いて、ハイテン材(引張強さが通常の鉄材(約400MPa)より大きい、本例では約800MPaの材料)を使用して絞り成形を行いながら、プレス機械の各部に生じる物理量の1サイクルにおける時間応答波形を示す波形図であり、それぞれ1サイクルにおけるクランク角度θ、スライド位置、プレス荷重(各コラム分力)、プレス総荷重、クランク機構によるプレス横荷重、偏心荷重による左右及び前後方向荷重、クランク機構及び偏心荷重による左右及び前後方向総荷重を示している。
図7は1サイクル期間におけるクランク軸のクランク角度を示す波形図である。図8はそれに応答する(一意的に決まる)スライド位置を示す波形図である。絞り成形はスライド位置が約100mmから開始する。成形が開始されると共に、左前、右前、左後及び右後のコラム55LF,55RF,55LB,55RBには、図9に示すようにそれぞれプレス荷重(各コラム分力)(F−LF,F−RF,F−LB,及びF−RB)が作用する。それらの分力同士は一致しておらず、差異を生じており、それらの合計であるプレス総荷重(F−total)が作用する位置は、図6に示すようにプレス中心に対して偏心する。
図5に示すプレス横荷重演算器21aは、プレス荷重検出器72LF,72RF,72LB,72RBにより検出される、左前、右前、左後及び右後のコラム55LF,55RF,55LB,及び55RBに作用するプレス荷重(F−LF,F−RF,F−LB,及びF−RB)と、エンコーダ71により検出されるクランク軸57のクランク角度θとに基づいてプレス横荷重F−sideを算出する。
図14は、第1実施形態のプレス横荷重演算器21aによる演算処理を示す図である。同図に示すようにプレス横荷重演算器21aは、まずプレス荷重(コラム分力)(F−LF,F−RF,F−LB,及びF−RB)を合計する演算を行い、プレス総荷重F−totalを算出する。続いて、プレス総荷重F−totalと、クランク角度θ及び固定値(クランク半径R−crank、コンロッド長さL−crank(図6参照)とから、クランク駆動式プレスに特有のプレス横荷重(本例では、図2、図6に示すようにクランク回転方向がプレス機械100の前後方向で有る為、前後方向荷重)を演算する。このプレス横荷重は、スライド位置(ストローク位置)が下死点の位置に比べて比較的高い位置で絞り荷重に応じて大きくなるが、プレス(総)荷重に対してはおよそ10%以下と小さい。
図15は、第2実施形態のプレス横荷重演算器による演算処理を示す図である。同図に示すプレス横荷重演算器21a’は、プレス荷重(総荷重)Fを直接検出し、検出したプレス荷重Fと、クランク角度θ及び固定値とからプレス横荷重を演算する。ここで、プレス荷重Fの検出は、コンロッドとスライド53との間に設けられた油圧室内の圧力を検出し、検出した圧力と油圧室の断面積とにより算出することができる。
図16は、第3実施形態のプレス横荷重演算器による演算処理を示す図である。同図に示すプレス横荷重演算器21a”は、予めスライド位置毎にプレス横荷重データが格納されたメモリMを有し、スライド位置を示すスライド位置信号Sxを入力すると、入力したスライド位置信号Sxに対応して記憶されたプレス横荷重データをメモリMから読み出す。尚、スライド位置信号Sxに代えて、スライド位置が一意的に決まるクランク軸のクランク角度θを入力するようにしてもよい。
図17は、第4実施形態のプレス横荷重演算器による演算処理を示す図である。同図に示すプレス横荷重演算器21a'''は、予めプレス荷重毎にプレス横荷重データが格納されたメモリM’を有し、プレス荷重(総荷重)Fを入力すると、入力したプレス荷重Fに対応して記憶されたプレス横荷重データをメモリM’から読み出す。尚、プレス荷重(総荷重)Fは、コンロッドとスライド53との間に設けられた油圧室内の圧力を検出して算出してもよいし、コラム分力を合計して算出するようにしてもよい。
図5に戻って、プレス偏心荷重演算器21bは、プレス荷重検出器72LF,72RF,72LB,及び72RBにより検出される、左前、右前、左後及び右後のコラム55LF,55RF,55LB,及び55RBに作用するプレス荷重(コラム分力)に基づいて、偏心荷重による左右及び前後方向荷重Fe−LR,Fe−FBを算出する。
図18は、プレス偏心荷重演算器21bによる演算処理を示す図である。同図に示すようにプレス偏心荷重演算器21bは、まずプレス荷重(コラム分力)(F−LF,F−RF,F−LB,及びF−RB)と、コラム分力が作用する前後左右のコラム間隔寸法L1,L2(図6に示すL1,L2)とにより、プレス総荷重(F−total)とプレス総荷重が作用する(偏心)位置(プレス機械の中心から左右方向にex、前後方向にey)とを算出する。続いて、プレス総荷重F−total、偏心位置(ex,ey)、及びスライド高さ寸法(図6に示すS1)から、スライドの左右方向荷重(図6に示すFe−LR)及び前後方向荷重(図6に示すFe−FB)を演算する(図12参照)。
プレス横荷重演算器21aで演算されたプレス横荷重F−side(本例では前後方向に作用する荷重)と、プレス偏心荷重演算器21bで演算された偏心荷重による前後方向荷重Fe−FBとが前後方向目標力演算器21Vに入力され、ここで前後方向総荷重として加算される(図13に示すFy)。この前後方向総荷重Fyに対してさらに演算が施され、前後方向目標力(図13に示すFyR)が演算される。
また、プレス偏心荷重演算器21bで演算された偏心荷重による左右方向荷重Fe−LRは、左右方向目標力演算器21Pに入力され、ここで左右方向総荷重に変換される(図13に示すFx)。この左右方向総荷重Fxに対してさらに演算が施され、左右方向目標力(図13に示すFxR)が演算される。
尚、本例では、前後方向目標力演算器21Vにより演算される前後方向目標力FyRは、前後方向総荷重Fyに対して、左右方向目標力FxRは左右方向総荷重Fxに対して、それぞれ若干(10%程度)大きくし、かつ高周波成分を角周波数100rad/sのローパスフィルタにより除去している。
左右荷重制御補償器25Pは、左右方向目標力演算器21Pから左右方向目標力FxRを入力し、左右荷重演算器27Pから左右荷重信号Fx-Cylを入力する。尚、左右荷重演算器27Pには、圧力検出器9P(図4)から圧力信号Pが入力され、左右荷重演算器27Pは、油圧シリンダ1PF,1PBの数(2機)、断面積等を考慮して左右荷重信号Fx-Cylを演算する。
左右荷重制御補償器25Pは、入力した左右方向目標力FxRに左右荷重信号Fx−Cylを追従させる為の演算を行い、その為に必要な電動サーボモータ3Pa,3Pbの基本トルク指令信号TorR−Ppreを出力する。即ち、左右荷重制御補償器25Pは、目標力演算器21から入力する左右方向目標力FxR(目標値)と、検出値として入力する左右荷重信号Fx-Cyl(検出値)との差分をゼロにするための操作量である基本トルク指令信号TorR−Ppreを生成する。
トルク指令演算器26Pa,26Pbには、基本トルク指令信号TorR−Ppreと、角速度変換器23Pa,23Pbにより変換された電動サーボモータ3Pa,3Pbの角速度信号ω−Paとω−Pbと、速度変換器22PF,22PBにより変換された油圧シリンダ1PF,1PBのシリンダ速度信号V−PF,V−PBとが入力され、トルク指令演算器26Pa,26Pbは、これらの入力信号に基づいて自動制御上の安定性と荷重追従精度とを確保する為の演算を行い、それぞれ電動サーボモータ3Pa,3Pbを駆動する為のそれぞれのサーボアンプ15Pa,15Pb(図4)に対してそれぞれのトルク指令信号TorR−Pa,TorR−Pbを出力する。
同様に、前後荷重制御補償器25Vは、前後方向目標力演算器21Vから前後方向目標力FyRを入力し、前後荷重演算器27Vから前後荷重信号Fy-Cylを入力する。尚、前後荷重演算器27Vには、圧力検出器9V(図4)から圧力信号Vが入力され、前後荷重演算器27Vは、油圧シリンダ1VL,1VRの数(2機)、断面積等を考慮して前後荷重信号Fy-Cylを演算する。
前後荷重制御補償器25Vは、入力した前後方向目標力FyRに前後荷重信号Fy−Cylを追従させる為の演算を行い、その為に必要な電動サーボモータ3Va,3Vbの基本トルク指令信号TorR−Vpreを出力する。
トルク指令演算器26Va,26Vbには、基本トルク指令信号TorR−Vpreと、角速度変換器23Va,23Vbにより変換された電動サーボモータ3Va,3Vbの角速度信号ω−Vaとω−Vbと、速度変換器22VL,22VRにより変換された油圧シリンダ1VL,1VRが進退する移動速度を示すシリンダ速度信号V−VL,V−VRとが入力され、トルク指令演算器26Va,26Vbは、これらの入力信号に基づいて自動制御上の安定性と荷重追従精度とを確保する為の演算を行い、それぞれ電動サーボモータ3Va,3Vbを駆動する為のそれぞれのサーボアンプ15Va,15Vb(図4)に対してそれぞれのトルク指令信号TorR−Va,TorR−Vbを出力する。
ここで、速度変換器22PF,22PB,22VL及び22VRは、それぞれシリンダ位置検出器11PF,11PB,11VL及び11VR(図2)により検出されるシリンダ位置信号を時間で微分することによりシリンダ速度信号に変換し、角速度変換器23Pa,23Pb,23Va及び23Vbは、それぞれエンコーダ4Pa,4Pb,4Va及び4Vb(図4)により検出されるモータ角度信号を時間で微分することにより角速度信号に変換している。即ち、シリンダ位置検出器11PF,11PB,11VL及び11VRと速度変換器22PF,22PB,22VL及び22VRとによりシリンダ速度検出器が構成されている。尚、各油圧シリンダ1PF,1PB,1VL及び1VRにそれぞれシリンダ速度検出器を設けるようにしてもよい。
同様に本例では、エンコーダ4Pa,4Pb,4Va及び4Vbと角速度変換器23Pa,23Pb,23Va及び23Vbとにより角速度検出器が構成されているが、各電動サーボモータ3Pa,3Pb,3Va及び3Vbの回転軸にそれぞれ角速度検出器を設けるようにしてもよい。
上記のように横方向剛性制御部220により生成したトルク指令信号TorR−Pa,TorR−Pb,TorR−Va及びTorR−Vbを、サーボアンプ15Pa,15Pb,15Va及び15Vbを介して電動サーボモータ3Pa,3Pb,3Va及び3Vbに出力し、電動サーボモータ3のトルクを制御することにより、プレス機械によるハイテン材のプレス成形中に、プレス機械のコラムの左右方向及び前後方向に作用する左右方向総荷重Fx及び前後方向総荷重Fyよりも若干大きい引張力を、それぞれ油圧シリンダ1PF,1PB及び油圧シリンダ1VL,1VRから発生させることができる。
これにより、コラムの横方向(左右方向及び前後方向)の剛性を能動的に高めることができ、ハイテン材を使用した成形時等、急激に大きなプレス荷重が作用し、横方向に発生するギブ隙間の変化と相俟って生じるスライド横方向の振動によって、プレス成形品に“ダレ”が生じたり、“振動痕”が生じたりして“うまくいかなかった”成形が、“スムーズに”実現可能になる。
また、図13に示すように前後方向目標力FyR及び左右方向目標力FxRは、プレスの1サイクル期間内で変化しており、1サイクル期間内で変化する前後方向目標力FyR及び左右方向目標力FxRに応じて、油圧シリンダ1PF,1PB及び油圧シリンダ1VL,1VRが発生する引張力が追従するように、電動サーボモータ3Pa,3Pb及び電動サーボモータ3Va,3Vbのトルクが制御される。従って、引張力を減少させる場合は、図5に示す横方向剛性制御部220による自動制御の結果、油圧ポンプ/モータ2Pa,2Pb及び2Va,2Vbは油圧モータ作用を、電動サーボモータ3Pa,3Pb及び3Va,3Vbは発電機作用を担い、回生作用させながら、前後方向荷重Fy−Cyl、左右方向荷重Fx−Cylを、それぞれ前後方向目標力FyR、及び左右方向目標力FxRに追従させる。
即ち、1サイクルを通して油圧ポンプ/モータ2Pa,2Pb及び2Va,2Vbが油圧モータとして作用する期間は、従動する電動サーボモータ3Pa,3Pb及び3Va,3Vbが発電機として機能し、電動サーボモータ3Pa,3Pb及び3Va,3Vbにより発電された電力は、サーボアンプ15Pa,15Pb及び15Va,15Vb及び回生器付の直流電源16Pa,16Pb及び16Va,16Vbを介して交流電源17に回生される。
[第2の実施形態の横方向高剛性化装置]
図19及び図20は、それぞれ第2の実施形態の横方向高剛性化装置を含むプレス機械の基本構成を示す平面図及び正面図である。尚、図19及び図20において、図2及び図3と共通する部分には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図19及び図20に示すプレス機械は、クランク駆動式プレスであり、そのクランク軸57の回転方向が前後方向の場合に関して示している。また、第2の実施形態の横方向高剛性化装置200’は、クランク機構によるプレス横(前後)荷重に対してのみ高剛性化を行うもので、高剛性化を行う引張力発生機構としてスクリュー・ナット機構20VL、20VRを使用している。
図19及び図20に示すように、左前、右前、左後及び右後の4本のコラム55(55LF,55RF,55LB,及び55RB)のうちの前後方向のコラム55LF,55LB間、及びコラム55RF,55RB間には、それぞれスクリュー18VL及びナット19VLとからなるスクリュー・ナット機構20VLと、スクリュー18VR及びナット19VRとからなるスクリュー・ナット機構20VRとが配設されている。
図19上で左側のスクリュー・ナット機構20VLのスクリュー18VLは、左前のコラム55LFに回転自在に固定され、スクリュー18VLと螺合するナット19VLは、左後のコラム55LBに固定されている。同様に図19上で右側のスクリュー・ナット機構20VRのスクリュー18VRは、右前のコラム55RFに回転自在に固定され、スクリュー18VRと螺合するナット19VRは右後のコラム55RBに固定されている。
電動サーボモータ3VL,3VRは、それぞれスクリュー・ナット機構20VL,20VRのスクリュー18VL,18VRに駆動軸が接続されており、スクリュー18VL,18VRに駆動トルクを伝達することにより、スクリュー・ナット機構20VL,20VR(即ち、前後方向のコラム55LF,55LB間、及びコラム55RF,55RB間)に締結力(引張力)を発生させる。
また、電動サーボモータ3VL,3VRには、それぞれ交流電源17、回生器付の直流電源16VL,16VRを介してサーボアンプ15VL,15VRが接続されている。
サーボアンプ15VL,15VRには、後述する横方向剛性制御部320から出力されるトルク指令信号TorR−VL、TorR−VRが加えられており、トルク指令信号TorR−VL,TorR−VRは、それぞれサーボアンプ15VL,15VRにより増幅され、電動サーボモータ3VL,3VRに出力される。
また、電動サーボモータ3VL,3VRには、駆動軸の角度を検出するエンコーダ(角度検出器)4VL,4VRが設けられている。
スクリュー・ナット機構20VL,20VR(ナット19VL,19VR)には、スクリュー・ナット機構20VL,20VRが発生する引張力を検出する荷重検出器12VL,12VRが設けられ、また、スクリュー・ナット機構20VL,20VRのスクリュー位置を検出するスクリュー位置検出器13VL,13VRが設けられている。
図20に示すようにプレス荷重は、スライド53に内蔵されたプレス(総)荷重を検出するプレス荷重検出器72(油圧室に作用する圧力を検出する方式のもの)により検出され、また、実施例にバリエーションを加える為にクランク角度を検出するエンコーダ71の代わりに、スライド位置を検出するスライド位置検出器73が、スライド53とボルスタ54と間に設けられている。
[横方向剛性制御部]
図21は、図19及び図20に示した第2の実施形態の横方向高剛性化装置に適用される横方向剛性制御部320の実施形態を示すブロック図である。
図21に示す横方向剛性制御部320は、電動サーボモータ3VL,3VRのトルクを制御することで、スクリュー・ナット機構20VL,20VRが発生する引張力を制御するもので、主として目標力演算器(指令器)321、速度変換器322VL,322VR、角速度変換器323VL,323VR、左荷重制御補償器325L、右荷重制御補償器325R、及びトルク指令演算器326VL,326VRから構成されている。
目標力演算器321は、目標引張力を示す目標値を演算して指令するもので、プレス横荷重演算器321a、及び前後方向目標力演算器321Vから構成されている。
プレス横荷重演算器321aには、プレス荷重検出器72からスライド53に加わるプレス(総)荷重を示すプレス荷重信号が加えられるとともに、スライド位置検出器73からスライド位置を示すスライド位置信号が加えられており、プレス横荷重演算器321aは、これらの入力信号に基づいてプレス横荷重を演算する。
即ち、プレス横荷重演算器321aは、スライド位置信号に基づいてスライド位置に応じて変化する、クランク駆動式プレスに特有のスライドに加わるプレス荷重とプレス横荷重との比を求める。プレス荷重とプレス横荷重との比は、スライド位置により一意的に決まるクランク軸のクランク角度と、固定値であるクランク半径R−crank、及びコンロッド長さL−crank(図6参照)とから算出するようにしてもよいし、予めスライド位置毎に求めたプレス荷重とプレス横荷重との比をメモリに格納しておき、スライド位置に応じてメモリから対応するプレス荷重とプレス横荷重との比を読み出すようにしてもよい。プレス横荷重演算器321aは、上記のように求めたプレス荷重とプレス横荷重との比と、プレス荷重信号が示すプレス荷重とを乗算することによりプレス横荷重を演算する。
前後方向目標力演算器321Vは、プレス横荷重演算器321aにより演算されたプレス横荷重を示すプレス横荷重信号を入力し、入力したプレス横荷重信号を若干(10%程度)大きくし、かつ高周波成分を角周波数100rad/sのローパスフィルタにより除去したプレス横荷重信号を、更に2分の1の大きさにすることにより前後方向目標力を算出し、算出した前後方向目標力を示す指令値を、それぞれ左荷重制御補償器325L及び右荷重制御補償器325Rに出力する。
左荷重制御補償器325Lの他の入力には、荷重検出器12VLからスクリュー・ナット機構20VLが発生する引張力(荷重)を示す左荷重信号が加えられており、左荷重制御補償器325Lは、前後方向目標力を示す指令値に左荷重信号を追従させる為の演算を行い、その為に必要な電動サーボモータ3VLの基本トルク指令信号TorR−VLpreを出力する。
トルク指令演算器326VLには、基本トルク指令信号TorR−VLpreと、角速度変換器323VLにより変換された電動サーボモータ3VLの角速度信号と、速度変換器322VLにより変換されたスクリュー・ナット機構20VLのスクリュー18VLが進退する移動速度を示すスクリュー速度信号とが入力され、トルク指令演算器326VLは、これらの入力信号に基づいて自動制御上の安定性と荷重追従精度とを確保する為の演算を行い、電動サーボモータ3VLを駆動する為のサーボアンプ15VL(図19)に対してトルク指令信号TorR−VLを出力する。
同様に右荷重制御補償器325Rの他の入力には、荷重検出器12VRからスクリュー・ナット機構20VRが発生する引張力(荷重)を示す右荷重信号が加えられており、右荷重制御補償器325Rは、前後方向目標力を示す指令値に右荷重信号を追従させる為の演算を行い、その為に必要な電動サーボモータ3VRの基本トルク指令信号TorR−VRpreを出力する。
トルク指令演算器326VRには、基本トルク指令信号TorR−VRpreと、角速度変換器323VRにより変換された電動サーボモータ3VRの角速度信号と、速度変換器322VRにより変換されたスクリュー・ナット機構20VRのスクリュー18VRが進退する移動速度を示すスクリュー速度信号とが入力され、トルク指令演算器326VRは、これらの入力信号に基づいて自動制御上の安定性と荷重追従精度とを確保する為の演算を行い、電動サーボモータ3VRを駆動する為のサーボアンプ15VR(図19)に対してトルク指令信号TorR−VRを出力する。
尚、速度変換器322VL,322VRは、それぞれスクリュー位置検出器13VL,13VR(図19)により検出されるスクリュー位置信号を時間で微分することによりスクリュー速度信号V−VL,V−VRに変換し、角速度変換器323VL,323VRは、それぞれエンコーダ4VL,4VR(図19)により検出されるモータ角度信号を時間で微分することにより角速度信号に変換する。
上記のように横方向剛性制御部320により生成したトルク指令信号TorR−VL,TorR−VRを、サーボアンプ15VL,15VRを介して電動サーボモータ3VL,3VRに出力し、電動サーボモータ3VL,3VRのトルクを制御することにより、プレス機械によるハイテン材のプレス成形中に、プレス機械のコラムの横方向(前後方向)に作用する横荷重よりも若干大きい引張力を、左右一対のスクリュー・ナット機構20VL,20VRから発生させる。
これにより、コラムの横方向(前後方向)の剛性を能動的に高めることができ、ハイテン材を使用した成形時等、急激に大きなプレス荷重が作用し、横方向に発生するギブ隙間の変化と相俟って生じるスライド横方向の振動によって、プレス成形品に“ダレ”が生じたり、“振動痕”が生じたりして“うまくいかなかった”成形が、“スムーズに”実現可能になる。
尚、目標力演算器321のプレス横荷重演算器321aに代えて、図16に示したプレス横荷重演算器21a”、又は図17に示したプレス横荷重演算器21a'''を使用してもよい。
[比較例]
図22(A)及び(B)は、それぞれ従来のプレス機械に、従来技術のギブの隙間を0に調整するギブ隙間0化調整装置(の1例)と、本発明に係る横方向高剛性化装置とを装着し、無負荷状態(プレス荷重が作用しない状態)で、それぞれ油圧シリンダに(ギブ隙間を0に調整する、横方向を高剛性化する)荷重を作用させた場合を模式的に示した図である。
図22(C)及び(D)は、それぞれ従来のプレス機械に、従来技術のギブの隙間を0に調整するギブ隙間0化調整装置(の1例)と、本発明に係る横方向高剛性化装置とを装着し、プレス荷重作用状態で、それぞれ油圧シリンダに(ギブ隙間を0に調整する、横方向を高剛性化する)荷重を作用させた場合を模式的に示した図である。
図22(A)に示すプレス機械は、スライド53にギブ隙間ゼロ化調整装置(油圧シリンダ)53L,53Rを設け、油圧シリンダ53L,53Rのヘッド側に油圧を作用させてスライドからコラムに対して荷重を作用させて、ギブ隙間をほぼゼロに調整できるようにしている。
図22(B)に示すプレス機械は、コラム55Lと55R間に横方向高剛性化装置(油圧シリンダ1)を設け、スライド53を挟んだ状態で油圧シリンダ1のロッド側に油圧を作用させることにより、油圧シリンダ1には引張荷重を、スライド53には圧縮荷重を作用させ、両コラム55L,55Rとスライド53とを一体化させることで、プレス機械の横方向が高剛性化できるようにしている。
図22(A)に示すようにギブ隙間ゼロ化調整装置で、無負荷時にギブ隙間をほぼゼロに調整すべく油圧シリンダ53L,53Rで各コラム55L,55Rに荷重を作用させても、各コラム55L,55Rの剛性は変化せず、コラム55L,55Rはその剛性に応じて変形する。さらに図22(C)に示すプレス荷重作用時には、クランク駆動式プレスでは、プレス荷重作用が下死点近傍になる為、プレス荷重Fの2〜4%程度が横方向荷重f1としてスライド53に加わり、この横方向荷重f1によりコラム55L、55Lが非対称に変形させられ、またコラム55L,55Rが横方向に振動する。これらの挙動はギブ隙間0化調整装置の機能では変化(低減)させることができなない。
図22(B)に示すプレス機械の横方向高剛性化装置で、無負荷時にコラム55L,55R間を連結する油圧シリンダ1で、コラム55L,55R間に引張荷重を作用させても、コラム55L,55R間に介在するスライド53に圧縮荷重を作用させることで、引張荷重と圧縮荷重とは相殺し合う為、両コラム55L,55Rは変形せずスライド53を介して一体化(高剛性化)する。さらに図22(D)に示すプレス荷重作用時には、クランク駆動式プレスでは、プレス荷重作用が下死点近傍になる為、プレス荷重Fの2〜4%程度が横方向荷重f1としてスライド53に加わり、この横方向荷重f1によりコラム55L、55Lが非対称に変形させられようとするが、スライド53から加わる横方向荷重f1に対して引張力f2を、横方向荷重f1以上になるように制御する為、引張力f2によって両コラム55L,55Rはスライド53を介して一体化する。
これにより、プレス機械(コラム)の横方向の剛性を能動的に高くすることができ、図22(D)に示すようにプレス荷重Fに伴う横方向荷重f1が加わってもコラム55L,55Rの変形及び振動を抑制することができる。
[その他]
本実施形態ではクランク駆動式プレスを例に説明したが、これに限らず、本発明はリンク駆動式プレス等の他の機械式プレスを筆頭に、あらゆる種類のプレス機械に適用することができる。
また、引張力発生機構として油圧シリンダを適用し、油圧シリンダが発生する引張力を制御する場合、油圧シリンダが発生する引張力と、油圧シリンダのピストンロッド側の油圧室の圧力(物理量)とは一対一に対応するため、油圧シリンダが発生する引張力を制御するための目標値及び検出値は、引張力(力)の目標値及び検出値に限らず、圧力の(物理量の)目標値及び検出値を使用してもよい。
更に、本実施形態では互いに対向するコラム間(前後のコラム間、左右のコラム間)に、1つの引張力発生機構(油圧シリンダ、スクリュー・ナット機構)を配設するようにしたが、一対のコラムに対してコラムへの取付位置を変えて複数の引張力発生機構を配設するようにしてもよい。
本実施の形態では、液圧シリンダの作動液として油を使用した場合について説明したが、これに限らず、水やその他の液体を使用してもよい。即ち、本願実施例においては、油圧シリンダ、油圧回路を使用した形態で説明したが、これらに限定されるものではなく、水やその他の液体を使用した液圧シリンダ、液圧回路を本発明において使用できることは言うまでもない。
また、油圧シリンダ、スクリュー・ナット機構等の引張力発生機構が発生する引張力を制御する際に、目標力と検出値とに基づいて電動サーボモータを制御するための基本トルク指令信号を生成し、更に電動サーボモータの角速度及び引張力発生機構の移動速度に基づいて自動制御上の安定性と荷重追従精度を確保するめのトルク指令信号を生成するようにしているが、これに限らず、基本トルク指令信号により電動サーボモータを制御してもよいし、電動サーボモータの角速度及び引張力発生機構の移動速度のうちの一方を使用してトルク指令信号を生成するようにしてもよい。
本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいことは言うまでもない。