以下、本発明の四節リンク機構型無段変速機の制御装置の実施形態を説明する。本実施形態の四節リンク機構型無段変速機は、変速比i(i=入力軸の回転速度/出力軸の回転速度)を無限大(∞)にして出力軸の回転速度を「0」にできる変速機、所謂IVT(Infinity Variable Transmission)の一種である。
図1及び図2を参照して、本実施形態の四節リンク機構型無段変速機1は、内燃機関であるエンジンや電動機等の走行用駆動源50(図7参照)からの回転駆動力を受けることで入力中心軸線P1を中心に回転する中空の入力軸2(本発明の「入力部」に相当する)と、入力軸2に平行に配置され、図外のデファレンシャルギアやプロペラシャフト等を介して車両の駆動輪60(図7参照)に回転動力を伝達させる出力軸3(本発明の「出力部」及び「第2要素」に相当する)と、入力軸2に設けられた6つの回転半径調節機構4とを備える。
各回転半径調節機構4は、カムディスク5と、回転ディスク6とを備える。カムディスク5は、円盤状であり、入力中心軸線P1から偏心して入力軸2と一体的に回転するように入力軸2に2個1組で夫々設けられている。各1組のカムディスク5は、夫々位相を60度異ならせて、6組のカムディスク5で入力軸2の周方向を一回りするように配置されている。また、各1組のカムディスク5には、カムディスク5を受け入れる受入孔6aを備える円盤状の回転ディスク6が偏心した状態で回転自在に外嵌されている。
回転ディスク6は、カムディスク5の中心点をP2、回転ディスク6の中心点をP3として、入力中心軸線P1と中心点P2の距離Raと、中心点P2と中心点P3の距離Rbとが同一となるように、カムディスク5に対して偏心している。
回転ディスク6の受入孔6aには、1組のカムディスク5の間に位置させて内歯6bが設けられている。入力軸2には、1組のカムディスク5の間に位置させて、カムディスク5の偏心方向に対向する個所に内周面と外周面とを連通させる切欠孔2aが形成されている。
中空の入力軸2内には、入力軸2と同心に配置され、回転ディスク6と対応する個所に外歯7aを備えるピニオンシャフト7が入力軸2と相対回転自在となるように配置されている。ピニオンシャフト7の外歯7aは、入力軸2の切欠孔2aを介して、回転ディスク6の内歯6bと噛合する。
ピニオンシャフト7には、差動機構8が接続されている。差動機構8は、遊星歯車機構で構成されており、サンギア9と、入力軸2に連結された第1リングギア10と、ピニオンシャフト7に連結された第2リングギア11と、サンギア9及び第1リングギア10と噛合する大径部12aと、第2リングギア11と噛合する小径部12bとから成る段付きピニオン12を自転及び公転自在に軸支するキャリア13とを備える。
サンギア9には、ピニオンシャフト7用の電動機から成る調節用駆動源14の回転軸14aが連結されている。調節用駆動源14の回転速度を入力軸2の回転速度と同一にすると、サンギア9と第1リングギア10とが同一速度で回転することとなり、サンギア9、第1リングギア10、第2リングギア11及びキャリア13の4つの要素が相対回転不能なロック状態となって、第2リングギア11と連結するピニオンシャフト7が入力軸2と同一速度で回転する。
調節用駆動源14の回転速度を入力軸2の回転速度よりも遅くすると、サンギア9の回転数をNs、第1リングギア10の回転数をNR1、サンギア9と第1リングギア10のギア比(第1リングギア10の歯数/サンギア9の歯数)をjとして、キャリア13の回転数が(j・NR1+Ns)/(j+1)となる。そして、サンギア9と第2リングギア11のギア比((第2リングギア11の歯数/サンギア9の歯数)×(段付きピニオン12の大径部12aの歯数/小径部12bの歯数))をkとすると、第2リングギア11の回転数が{j(k+1)NR1+(k−j)Ns}/{k(j+1)}となる。
カムディスク5が固定された入力軸2の回転速度とピニオンシャフト7の回転速度とが同一である場合には、回転ディスク6はカムディスク5と共に一体に回転する。入力軸2の回転速度とピニオンシャフト7の回転速度とに差がある場合には、回転ディスク6はカムディスク5の中心点P2を中心にカムディスク5の周縁を回転する。
図2に示すように、回転ディスク6は、カムディスク5に対して距離Raと距離Rbとが同一となるように偏心されている。このため、回転ディスク6の中心点P3を入力中心軸線P1と同一軸線上に位置するようにして、入力中心軸線P1と中心点P3との距離、即ち偏心量R1を「0」とすることもできる。
回転ディスク6の周縁には、一方の端部に大径の大径環状部15aを備え、他方の端部に大径環状部15aの径よりも小径の小径環状部15bを備えるコネクティングロッド15の大径環状部15aが、ボールベアリングからなるコンロッド軸受16を介して回転自在に外嵌されている。出力軸3には、一方向回転阻止機構としての一方向クラッチ17を介して、揺動リンク18(本発明の「第1要素」に相当する)がコネクティングロッド15に対応させて6個設けられている。
一方向回転阻止機構としての一方向クラッチ17は、揺動リンク18と出力軸3との間に設けられ、出力軸3に対して一方側に相対回転しようとするときに出力軸3に揺動リンク18を固定し、他方側に相対回転しようとするときに出力軸3に対して揺動リンク18を空転させる。揺動リンク18は、一方向クラッチ17によって出力軸3に対して空転する状態のときに、出力軸3に対して揺動自在となる。
揺動リンク18は、環状に形成されており、その上方には、コネクティングロッド15の小径環状部15bに連結される揺動端部18aが設けられている。揺動端部18aには、小径環状部15bを軸方向で挟み込むように突出した一対の突片18bが設けられている。一対の突片18bには、小径環状部15bの内径に対応する貫通孔18cが穿設されている。貫通孔18c及び小径環状部15bには、連結ピン19が挿入されている。これにより、コネクティングロッド15と揺動リンク18とが連結される。
図3は、回転半径調節機構4の偏心量R1を変化させた状態のピニオンシャフト7と回転ディスク6との位置関係を示す。図3(a)は偏心量R1を「最大」とした状態を示しており、入力中心軸線P1と、カムディスク5の中心点P2と、回転ディスク6の中心点P3とが一直線に並ぶように、ピニオンシャフト7と回転ディスク6とが位置する。このときの変速比iは最小となる。
図3(b)は偏心量R1を図3(a)よりも小さい「中」とした状態を示しており、図3(c)は偏心量R1を図3(b)よりも更に小さい「小」とした状態を示している。変速比iは、図3(b)では図3(a)の変速比iよりも大きい「中」となり、図3(c)では図3(b)の変速比iよりも大きい「大」となる。図3(d)は偏心量R1を「0」とした状態を示しており、入力中心軸線P1と、回転ディスク6の中心点P3とが同心に位置する。このときの変速比iは無限大(∞)となる。本実施形態の無段変速機1は、回転半径調節機構4で偏心量R1を変えることにより、入力軸2側の回転運動の半径を調節自在としている。
図2に示すように、本実施形態の回転半径調節機構4、コネクティングロッド15、揺動リンク18はてこクランク機構20(四節リンク機構。本発明の「伝達部」に相当する)を構成する。そして、てこクランク機構20によって、入力軸2の回転運動が揺動リンク18の揺動運動に変換される。本実施形態の無段変速機1は合計6個のてこクランク機構20を備えている。偏心量R1が「0」でないときに、入力軸2を回転させると共に、ピニオンシャフト7を入力軸2と同一速度で回転させると、各コネクティングロッド15が60度ずつ位相を変えながら、偏心量R1に基づき入力軸2と出力軸3との間で出力軸3側に押したり、入力軸2側に引いたりを交互に繰り返して揺動する。
コネクティングロッド15の小径環状部15bは、出力軸3に一方向クラッチ17を介して設けられた揺動リンク18に連結されているため、揺動リンク18がコネクティングロッド15によって押し引きされて揺動すると、揺動リンク18が押し方向側又は引張り方向側の何れか一方に揺動リンク18が回転するときだけ、出力軸3が回転し、揺動リンク18が他方に回転するときには、出力軸3に揺動リンク18の揺動運動の力が伝達されず、揺動リンク18が空回りする。各回転半径調節機構4は、60度毎に位相を変えて配置されているため、出力軸3は各回転半径調節機構4で順に回転させられる。
図4(a)は偏心量R1が図3(a)の「最大」である場合(変速比iが最小である場合)、図4(b)は偏心量R1が図3(b)の「中」である場合(変速比iが中である場合)、図4(c)は偏心量R1が図3(c)の「小」である場合(変速比iが大である場合)の、回転半径調節機構4の回転運動に対する揺動リンク18の揺動範囲θ2を示している。図4から明らかなように、偏心量R1が小さくなるにつれ、揺動リンク18の揺動範囲θ2が狭くなる。尚、偏心量R1が「0」であるときは、揺動リンク18は揺動しなくなる。また、本実施形態では、揺動リンク18の揺動端部18aの揺動範囲θ2のうち、入力軸2に最も近い位置を内死点、入力軸2から最も離れる位置を外死点とする。
図5は、無段変速機1の回転半径調節機構4の回転角度θを横軸、揺動リンク18の角速度ωを縦軸として、回転半径調節機構4の偏心量R1の変化に伴う角速度ωの変化の関係を示す。ここで、揺動リンク18の角速度ω(より詳細には、揺動リンク18の揺動端部18aの角速度ω)が、本発明における「第1要素の回転速度」に相当する。図5から明らかなように、偏心量R1が大きい(変速比iが小さい)ほど揺動リンク18の角速度ωが大きくなることが分かる。
図6は、60度ずつ位相を異ならせた6つの回転半径調節機構4を回転させたとき(入力軸2とピニオンシャフト7とを同一速度で回転させたとき)の回転半径調節機構4の回転角度θ1に対する、各揺動リンク18の角速度ωを示している。図6から、6つのてこクランク機構20により出力軸3がスムーズに回転されることが分かる。
また、無段変速機1は、制御装置40(本発明の制御部に相当する)を備える(図7を参照)。制御装置40は、CPU及びメモリ等により構成された電子ユニットであり、メモリに保持された走行用駆動源50及び無段変速機1の制御用プログラムをCPUで実行することによって、走行用駆動源50及び調節用駆動源14の作動を制御する。また、制御装置40は、調節用駆動源14の作動を制御することで、回転半径調節機構4の偏心量を制御する機能を実現している。
図7に本実施形態の無段変速機1を制御する制御装置40及び無段変速機の機能ブロック図を示す。
制御装置40には、入力側の回転速度を検知する入力側回転速度検知部41(例えば、回転速度センサ)、出力側の回転速度を検知する出力側回転速度検知部42(例えば、回転速度センサ)、及びアクセルペダル(図示省略)の操作量に応じたスロットル弁の開度を検知するアクセル開度検知部43の各出力信号が入力される。
制御装置40は、入力側回転速度検知部41の出力信号から入力側の回転速度を検知する。なお、本実施形態においては、入力側の回転速度とは、走行用駆動源50の出力回転速度Neであるが、例えば、入力軸2又は揺動リンク18の回転速度であってもよい。また、制御装置40は、現在の偏心量R1から無段変速機1の変速比iを算出し、上記検知した走行用駆動源50の出力回転速度Ne(単位は、例えば[rpm])に「2π/i」を乗じて揺動リンク18(より詳細には、揺動端部18a)の角速度(単位は、例えば[rad/s])を検知する。
制御装置40は、出力側回転速度検知部42の出力信号から出力側の回転速度を検知する。なお、本実施形態においては、出力側の回転速度とは、出力軸3の回転速度であるが、例えば、駆動輪60の回転速度であってもよい。制御装置40は、検知した出力軸3の回転速度(単位は、例えば[rpm])に2πを乗じて出力側の角速度(単位は、例えば[rad/s])を検知する。また、制御装置40は、「出力軸3の回転速度」及び「出力軸3と駆動輪60との間の変速比i_fg」に基づいて、車両の走行速度(以下、「車速」という)V(単位は、例えば[km/h])を検知する。
また、制御装置40は、アクセル開度検知部43の出力信号から車両への要求駆動力を検知する。制御装置40は、スロットル弁の開度が0の場合には(誤差を考慮して、0と実質的に同等な値は0として扱っている)、車両への要求駆動力が0(アクセルペダルオフ、換言すると、所謂コースティング走行時)であると検知し、スロットル弁の開度が0よりも大きな値である場合には、該値に応じた車両への要求駆動力を検知する。
図8は、横軸を時間、縦軸を角速度として、1つの揺動リンク18(揺動端部18a)の角速度ωと、出力軸3の角速度との関係を示している。図8(a)にハッチングで示すように、揺動リンク18の角速度ωが出力軸3の角速度を上回る領域、及び揺動リンク18の角速度ωが出力軸3の角速度を下回った後の一方向クラッチ17の捩れ(数度の捩れ)が開放されるまでの領域で、てこクランク機構20を介して入力軸2から出力軸3に駆動力が伝達される。
以下、このように入力軸2から出力軸3に駆動力が伝達されている無段変速機1の状態を「第2状態」という(第2状態は、所謂「エンゲージ状態」である)。また、入力軸2から出力軸3に駆動力が伝達されていない無段変速機1の状態を「第1状態」という(第1状態は、所謂「ディスエンゲージ状態」である)。
また、無段変速機1においては、無段変速機1の状態が第1状態から第2状態に移行するときの、走行用駆動源50の出力回転速度Neの目標となる第1目標回転速度Ne1が規定されている。
そして、制御装置40は、車両への要求駆動力が0のときに、走行用駆動源50の出力回転速度Neが第1目標回転速度Ne1よりも低い第2目標回転速度Ne2となるように走行用駆動源50を制御する。
無段変速機1は、入力軸2と出力軸3との間の動力伝達経路上において、入力軸2の回転駆動力を出力軸3に伝達可能にし、且つ出力軸3の回転駆動力を入力軸2へ伝達することを阻止する一方向クラッチ17を備えている。従って、車両への要求駆動力が0のとき(車両が慣性走行しているとき、すなわち、慣性で駆動輪60が回転しているとき)に、駆動輪60から出力軸3に伝達される回転駆動力が入力軸2に伝達されることがない。
このため、要求駆動力が0のときには、燃料を消費して走行用駆動源50の作動を維持する必要がある。そこで、制御装置40は、要求駆動力が0のときに、走行用駆動源50の出力回転速度が、当該走行用駆動源50が作動を維持できる回転速度のうち低い回転速度(第2目標回転速度Ne2)となるように、走行用駆動源50を制御している。これにより、燃料消費量を低減させている。
また、制御装置40は、車両への要求駆動力が0のときに、上記制御(NeをNe2とする制御)と共に、無段変速機1の変速比iを、非駆動時変速比I0となるように制御する。ここで、非駆動時変速比I0とは、「走行用駆動源50の出力回転速度Neが、仮に第1目標回転速度Ne1(上述したように「Ne1>Ne2」)であった場合の無段変速機1の状態」が第1状態から第2状態に移行する境界となる変速比である。また、非駆動時変速比I0に対応する偏心量R1を「非駆動時偏心量R0」という。なお、非駆動時変速比I0は、「Ne1/(V・i_fg)」で表される。
すなわち、無段変速機1の変速比iが非駆動時変速比I0で、走行用駆動源50の出力回転速度Neが第1目標回転速度Ne1の場合では、無段変速機1の状態が第1状態から第2状態に移行する境界にいる状態となる。また、走行用駆動源50の出力回転速度Neが第1目標回転速度Ne1よりも低い回転速度が維持されている場合には、無段変速機1の状態として第1状態に維持される。
車両への要求駆動力が0のときに、走行用駆動源50の出力回転速度Neが、第1目標回転速度Ne1よりも低い第2目標回転速度Ne2となっているので、無段変速機1の状態が第1状態となる。これにより、要求駆動力が0のときに、運転者の意図に反して入力軸2の回転駆動力が出力軸3に伝達されることが阻止される(すなわち、走行用駆動源50の回転駆動力が駆動輪60に伝達されることが阻止される)。
また、第1目標回転速度Ne1と第2目標回転速度Ne2との差は、所定値以下に設定されている。ここで、この所定値は、予め行われた実験によって、要求駆動力が0から0よりも大きな値になったときに(アクセルペダルがオフからオンになったときに)、走行用駆動源50の出力回転速度を速やかに増加できる程度の値に設定される。
これにより、車両への要求駆動力が0のため車両が慣性走行しているときに、運転者が車両を加速させるためにアクセルペダルを操作したときに、制御装置40は、該操作に応じて走行用駆動源50の出力回転速度NeをNe2からNe1に速やかに増加させる。
このように走行用駆動源50の出力回転速度NeをNe1に増加させるだけで、制御装置40は、変速比iが非駆動時変速比I0となっている無段変速機1の状態を、第1状態から第2状態に速やかに移行させることができる。
ここで、図9を参照して、車速V、無段変速機1の変速比i、及び走行用駆動源50の出力回転速度Neと、第1状態及び第2状態との関係について説明する。図9において、横軸は車速V(右に行くほど速い)であり、縦軸は偏心量R1(上に行くほど大きい、すなわち、変速比iが小さくなる)である。
図9の実線は走行用駆動源50の出力回転速度Neが第1目標回転速度Ne1のときの境界線を示す。図9の一点鎖線は走行用駆動源50の出力回転速度Neが第2目標回転速度Ne2のときの境界線を示す。ここで、境界線とは、車速V及び偏心量R1の各々に応じて第1状態から第2状態へ状態が切り替わる境界点を結んだ線である。
図9において、車速V及び偏心量R1によって決定される無段変速機1の状態を表す点(以下、「状態点」という)が、Ps1〜Ps3のように、現時点の走行用駆動源50の出力回転速度Neの値に応じて決定される境界線(例えば、NeがNe1のときの実線、NeがNe2のときの一点鎖線)上にあるとき、又は該境界線よりも右下側の領域にあるときは、無段変速機1の状態が第1状態のときである。一方、状態点が、該境界線よりも図9の左上側の領域にあるときは、無段変速機1の状態が第2状態のときである。
また、図9に示されるように、走行用駆動源50の出力回転速度Neが一定の場合において、車速Vが増加するほど大きな偏心量R1のときに境界点が存在する。また、車速Vが一定の場合においては、走行用駆動源50の出力回転速度Neが低下するほど大きな偏心量R1のときに境界点が存在する。また、車速Vが低下するほど走行用駆動源50の出力回転速度Neが、第1目標回転速度Ne1のときの境界点と、第2目標回転速度Ne2のときの境界点との距離が近くなる。
以下、図9を参照しながら、要求駆動力が0のときにおいて、車速VがV1で慣性走行しているときに減速された場合を例に説明する。ここで、走行用駆動源50の出力回転速度Neが第1目標回転速度Ne1で、車速Vが「XX(但し、「XX」は、車速を表す記号)」のときの、非駆動時変速比I0をI0_XX、非駆動時偏心量R0をR0_XXと定義する。例えば、走行用駆動源50の出力回転速度Neが第1目標回転速度Ne1で、車速VがV1のとき、非駆動時変速比I0はI0_V1、非駆動時偏心量R0はR0_V1と表される。
前述したように、制御装置40は、要求駆動力が0のときにおいて、走行用駆動源50の出力回転速度Neが第2目標回転速度Ne2となるように走行用駆動源50を制御し、無段変速機1の変速比iが非駆動時変速比I0_V1となるように(すなわち、偏心量R1が非駆動時偏心量R0_V1となるように)、調節用駆動源14を制御している。これにより、状態点が図9の実線上に位置したままとなり(すなわち、現時点における境界線である一点鎖線よりも右下に位置したままとなり)、無段変速機1の状態は第1状態に維持される。
この状態において、例えば制動装置(図示省略)の作動により車両がV1からV2に減速した場合には、制御装置40は、状態点がPs1からPs2に移動するように偏心量R1をR0_V2まで減少させる。しかしながら、制御の遅れ等の要因で、車両の減速に偏心量R1の減少が追い付かない場合もある。
このような場合であっても、現時点の走行用駆動源50の出力回転速度Neが第2目標回転速度Ne2であるので、車速Vが少なくともV3以上であれば無段変速機1の状態を第1状態に維持できる(Ps3)。
しかしながら、車速Vが低くなる程、走行用駆動源50の出力回転速度Neが、第1目標回転速度Ne1のときの境界点と第2目標回転速度Ne2のときの境界点とが近くなる。
これは、すなわち、無段変速機1の変速比iが非駆動時変速比I0で、走行用駆動源50の出力回転速度Neが第2目標回転速度Ne2に維持されるときに、無段変速機1の状態が第1状態から第2状態に移行するまでの車両の減速量は、車速Vが低下するほど小さくなる。従って、車両への要求駆動力が0のときに車両が減速すると、車速Vが低い程、無段変速機の状態が第1状態から第2状態に移行しやすくなる。
このため、車速Vが低いときには、車両の減速に対する偏心量R1の制御遅れ等によって、無段変速機1の状態が第1状態から第2状態への移行(図9の一点鎖線の境界線よりも左上に状態点が位置すること)が生じやすくなる。
このため、制御装置40は、車速Vが所定の境界速度Vgn(本発明の「所定の速度」に相当する)未満のときには、車両が減速された場合であっても第1状態を維持可能な状態維持変速比ign(本発明の「所定の変速比」に相当する)となるように、無段変速機1の変速比iを制御する。
さらに、制御装置40は、駆動輪60が制動されているときの状態維持変速比ignを第1変速比ign1と設定し、駆動輪60が制動されていないときの状態維持変速比ignを第1変速比ign1よりも小さい第2変速比ign2と設定する。この第2変速比ign2は、無段変速機1の状態が第1状態から第2状態に移行する境界となる変速比i(非駆動時変速比I0)よりも大きい。
本実施形態では、第1変速比ign1は、無限大に規定されている。なお、第1変速比ign1は、無段変速機が、その変速比を無限大に設定可能に構成されているか否かに拘らず、第1状態を維持可能な変速比であれば無限大以外の変速比(例えば、ロー側の大きな値の変速比)も取り得る。
また、本実施形態では、第2変速比ign2は、車両が停止状態であるときの出力軸3の許容捩れトルク(以下、「出力軸許容捩れトルクTt」という)と、車両が停止状態から走行状態に移行する境界となる出力軸3の駆動トルク(以下、「出力軸駆動トルクTd」という)とのうち、小さい方の出力軸トルクTに基づいて決定される。
ここで、図10を参照して、偏心量R1と出力軸トルクTとの関係について説明する。図10において、横軸は偏心量R1(右に行くほど大きい)であり、縦軸は出力軸トルクT(上に行くほど大きい)である。
図10に示すように、出力軸トルクTは、偏心量R1と線形関係となる(すなわち、偏心量R1が大きいほど、出力軸トルクTが大きい)。本実施形態では、出力軸許容捩れトルクTtは、出力軸駆動トルクTdよりも小さいから、出力軸許容捩れトルクTtに対応する偏心量R1を、第2状態維持偏心量Rgn2として定義することができる。これにより出力軸トルクTは、出力軸許容捩れトルクTt及び出力軸駆動トルクTdを超えていない。
なお、出力軸駆動トルクTdは、出力軸許容捩れトルクTtよりも大きいとき、出力軸駆動トルクTdに対応する偏心量R1を、第2状態維持偏心量Rgn2として定義することができる。
また、出力軸許容捩れトルクTtは、車両によって定められているのに対し、出力軸駆動トルクTdは、路面状況、車両積載荷重及びタイヤ摩擦力等により変化し続けるものである。従って、本実施形態では、予め通常よりも高いタイヤ摩擦力、高いグリップ路面及び車両積載荷重のない状態を想定して出力軸駆動トルクTdを決定する。なお、出力軸駆動トルクTdは、常にタイヤ摩擦力、路面状況及び車両積載荷重等により算出して決定されてもよい。
ここで、図11を参照して、車速Vが一定であるときの偏心量R1と、走行用駆動源50の出力回転速度Neとの関係について説明する。図11において、横軸は偏心量R1(右に行くほど大きい、すなわち、変速比iが小さくなる)であり、縦軸は走行用駆動源50の出力回転速度Ne(上に行くほど大きい)である。
図11の曲線は、無段変速機1の状態が第1状態から第2状態に移行するときの境界線を示す(すなわち、走行用駆動源50の出力回転速度Neは偏心量R1と逆相関関係となる)。ここで、曲線の境界線とは、偏心量R1及び走行用駆動源50の出力回転速度Neの各々に応じて第1状態から第2状態へ状態が切り替わる境界点を結んだ線である。
図11において、偏心量R1及び走行用駆動源50の出力回転速度Neによって決定される無段変速機1の状態を表す点(以下、「状態点」という)が、Ps4〜Ps6のように、曲線の境界線上にあるとき、又は曲線の境界線よりも左下側の領域にあるときは、無段変速機1の状態が第1状態のときである。一方、偏心量R1及び走行用駆動源50の出力回転速度Neによって決定される無段変速機1の状態を表す点が、曲線の境界線よりも右上側の領域にあるときは、無段変速機1の状態が第2状態のときである。
図11に示すように、状態点Ps4は、走行用駆動源50の出力回転速度Neが第1目標回転速度Ne1であるとき、偏心量R1が非駆動時偏心量R0である。状態点Ps5は、駆動輪60が制動されている状態で走行用駆動源50の出力回転速度Neが第2目標回転速度Ne2であるとき、偏心量R1が第1状態維持偏心量Rgn1である。状態点Ps6は、駆動輪60が制動されていない状態で走行用駆動源50の出力回転速度Neが第2目標回転速度Ne2であるとき、偏心量R1が第2状態維持偏心量Rgn2である。ここで、第2状態維持偏心量Rgn2とは、無段変速機1の変速比iが第2変速比ign2となる偏心量R1を表す。
ここで、状態点がPs6からPs4に移動するときに第2状態維持偏心量Rgn2から非駆動時偏心量R0までに増加させる偏心量R1の変化量は、状態点がPs5からPs4に移動するときに第1状態維持偏心量Rgn1から非駆動時偏心量R0までに増加させる偏心量R1の変化量よりも小さいから、駆動輪60が制動されているときに比べて駆動輪60が制動されていないときの無段変速機1の状態が第1状態から第2状態に移行しやすくなる(図11参照)。
また、本実施形態では、制御装置40は、車両の減速度が大きい程、境界速度Vgnを大きな速度に決定している。これにより、状態点(例えば、Ps1)と、走行用駆動源50の出力回転速度Ne(Ne2)のときの境界点(図9の一点鎖線)との間の距離が長い段階で、無段変速機1の変速比iを状態維持変速比ignに変更できる。従って、車両を減速しようとしている運転者の意図に反して、走行用駆動源50の回転駆動力が駆動輪60に伝達されることをより効果的に防止できる。
なお、車両の減速度と境界速度Vgnとの関係は、予め実験等によって減速により無段変速機1の状態が第1状態から第2状態に移行することを防止できるように、決定されている。
次に、制御装置40による偏心量R1の制御について、図12のフローチャートを参照して説明する。
制御装置40は、最初のステップST1で、アクセルペダルオフか否かを判定する。そして、アクセルペダルオンと判定された場合には、ステップST2に進み、アクセルペダルの操作量(すなわち要求駆動力)に応じた通常の駆動制御を行う。
制御装置40は、ステップST1でアクセルペダルオフと判定された場合には、ステップST3に進み、車速Vを検知する。続いて、ステップST4に進み、車両の減速度に基づいて境界速度Vgnを決定する。より詳細には、上述したように車両の減速度が大きい程、境界速度Vgnを大きな速度に決定する。続いて、制御装置40は、ステップST5に進み、ステップST3で検知した車速Vが、ステップST4で決定された境界速度Vgn未満か否かを判定する。
制御装置40は、ステップST5で“No”(V≧Vgn)と判定された場合には、ステップST6に進み、目標偏心量R1_cmd(偏心量R1の目標値)を、非駆動時偏心量R0_V(車速Vに応じた非駆動時偏心量R0)に設定する。
制御装置40は、ステップST5で“Yes”(V<Vgn)と判定された場合には、ステップST7に進み、駆動輪60が制動されているか否かを判定する。
制御装置40は、ステップST7で“Yes”(駆動輪60が制動されている)と判定された場合には、ステップST8に進み、目標偏心量R1_cmdを第1状態維持偏心量Rgn1に設定する。ここで、第1状態維持偏心量Rgn1とは、無段変速機1の変速比iが第1変速比ign1となる偏心量R1を表す。本実施形態では、第1変速比ign1は無限大であるので、第1状態維持偏心量Rgn1は0である。ステップST7で“No”(駆動輪60が制動されていない)と判定された場合には、ステップST9に進み、目標偏心量R1_cmdを第2状態維持偏心量Rgn2に設定する。本実施形態では、第2状態維持偏心量Rgn2は、出力軸許容捩れトルクTtと、出力軸駆動トルクTdとのうち、小さい方の出力軸トルクTに基づいて決定される。
制御装置40は、ステップST6〜ST9の処理が終了すると、ステップST10に進み、実際の偏心量(実偏心量)R1_actが目標偏心量R1_cmdとなるように、調節用駆動源14を制御する。そして、制御装置40は、ステップST11に進み、実偏心量R1_actが目標偏心量R1_cmd以下か否かを判定し、“No”(「R1_act > R1_cmd)と判定された場合には、ステップST1に戻る。また、制御装置40は、ステップST2の処理が終了するか、又はステップST11で“Yes”(R1_act ≦ R1_cmd)と判定された場合に、本フローチャートの処理を終了する。
なお、本実施形態では、無段変速機1が、その変速比を無限大に設定可能に構成されているが、本発明の無段変速機の態様としては、無限大には設定できない無段変速機も取り得る。
また、本実施形態では、制御装置40は、車両の減速度が大きい程、境界速度Vgnを大きな速度に決定している。しかしながら、これに限らず、可変ではなく一定の速度が車両の境界速度Vgnとして常に用いられる態様も取り得る。この場合には、図12においてステップST4が不要となる。なお、この場合の境界速度Vgnは、予め実験等によって、減速により無段変速機1の状態が第1状態から第2状態に移行することを防止できるように決定されている。
また、本実施形態では、車両の走行速度Vが境界速度Vgn未満か否かで、無段変速機1の変速比iを状態維持変速比ignにするか否かを決定している。しかしながら、本発明における「車両の走行速度」とは、車両の走行速度を実質的に表すことができる値は、全て「車両の走行速度」に含まれる。例えば、出力側回転速度検知部42が検知する出力側の回転速度(すなわち、出力軸3の回転速度(又は角速度))は、出力軸3と駆動輪60との間の変速比i_fgによって車両の走行速度を表すことができるので、「車両の走行速度」に含まれる。
また、本実施形態では、出力軸3が、本発明における出力部及び第2要素として構成されているが、出力部と第2要素とは各々別の部材によって構成されていてもよい。
また、本実施形態においては、一方向回転阻止機構として、一方向クラッチ17を用いているが、本発明の一方向回転阻止機構は、これに限らず、揺動リンク18から出力軸3にトルクを伝達可能な揺動リンク18の出力軸3に対する回転方向を切換自在に構成される二方向クラッチ(ツーウェイクラッチ)で構成してもよい。
また、本実施形態においては、回転半径調節機構4として、入力軸2と一体に回転するカムディスク5と、回転ディスク6とを備えるものを説明したが、回転半径調節機構4は、これに限らない。例えば、回転半径調節機構を、中心から偏心して穿設された貫通孔を有する円盤状の回転ディスクと、貫通孔の内周面に設けられたリングギアと、入力軸に固定されリングギアに噛合する第1ピニオンと、調節用駆動源からの駆動力が伝達されるキャリアと、キャリアで自転及び公転自在に夫々軸支されると共にリングギアに夫々噛合する2つの第2ピニオンとで構成してもよい。