JP5949654B2 - 銀粉およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、銀粉およびその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、電子機器の配線層や電極等の形成に利用される銀ペーストの主成分である銀粉と、その製造方法に関する。
電子機器における配線層や電極などの形成には、銀樹脂ペーストや銀焼成ペーストのような銀ペーストが多用されている。これらの銀ペーストを基板上に塗布または印刷した後、加熱硬化あるいは加熱焼成させることによって、配線層や電極などとなる導電膜を形成することができる。
例えば、銀樹脂ペーストは、銀粉、樹脂、硬化剤、溶剤などからなり、これを導電体回路パターンまたは端子状に印刷した後、100〜200℃で加熱硬化させて配線層や電極を形成することができる。銀ペーストは銀粉が主成分であるため、これを用いて形成した配線層や電極では、銀粉が焼結により連なることで電気的に接続されて電流パスが形成される。
銀ペーストは、その用途や使用条件により様々な特性が求められるが、一般的でかつ重要な特性として、硬化により形成された配線や電極(硬化膜)の抵抗が低いこと、および硬化膜の強度および基板との接着強度が大きいことが求められている。そのため、銀粉はペースト中への良好な分散性と優れた焼結性を有していることが望まれる。ペースト中への分散性が良好で且つ焼結性が良好であると焼結が均一に進み、低抵抗で且つ膜の強度が高い硬化膜が形成されるからである。
これに対して、ペースト中への分散性が悪いと印刷膜中に銀粒子が均一に存在しなくなるため、焼結が不均一になって、形成した配線や電極の抵抗が大きくなったり、硬化膜が脆く弱いものになったりする。また、銀粉の焼結性が悪いと、硬化膜中での銀粉の連結が不十分となり、十分な電流パスが形成されずに高抵抗になると共に、膜自体の強度が弱くなってしまう。
銀ペースト用においては、さらに銀粉の製造コストが低いことが重要である。銀粉はペーストの主成分であるため、ペースト価格に占める割合が大きいからである。一般に、製造コストを低減するためには、生産性を高くすることや、使用する原料や材料の単価を低く抑えることが行われるが、銀ペーストの場合はそれらだけでなく、廃液や排出ガスの処理コストを低く抑えることも重要となる。
これまで上記銀ペーストに使用される銀粉の製造方法として、湿式法によるものが多く提案されてきた。例えば、特許文献1には、硝酸銀などの銀塩のアンミン錯体および還元反応の際に媒晶剤として機能する重金属のアンミン錯体を含むスラリーと、還元剤である亜硫酸カリおよび保護コロイドとしてのアラビアゴムを含有する溶液とを混合して、銀塩のアンミン錯体を還元する銀粉の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、銀錯体を含有する溶液にHLB値が6〜17の非イオン性界面活性剤を加えておき、これに還元剤を加えることによって、還元された銀粒子の凝集を防ぐ銀粉の製造方法が開示されている。
一方、低温での焼結性の改善を目的として、特許文献3には、銀または銀合金のいずれかを主成分とし、延性向上成分としてハロゲン元素またはハロゲン化物の少なくとも一方を含み、金属粉末におけるハロゲン元素含有率が5〜2000ppmの範囲であり、50%径が0.5〜20μmである銀粉が提案されている。この提案では、ハロゲン元素を介した気相反応を含めた表面輸送現象を主として焼結が進行するため、低温での焼結性に優れたものになると記載されている。
特開平11−189812号公報 特開2000−129318号公報 特開2009−167491号公報
しかしながら、これら特許文献1および特許文献2の製造方法は、凝集性を改善して分散性のよい銀粉を得ることを目的としたものであり、硬化膜の抵抗値や基板との接着強度については不明である。また、硝酸銀を用いる湿式法は、その溶解過程で亜硝酸ガスが発生する上、廃水中に硝酸系窒素やアンモニア系窒素が多量に含まれるので、それら排気ガスや廃水の処理や回収のために装置が必要となる。さらに、硝酸銀は危険物であり劇物でもあるため、取り扱いに注意を要する。このように、硝酸銀を銀粉の原料として用いる場合は、環境への影響や取り扱い時のリスクが他の銀化合物に比べて大きいという問題点を抱えている。
また、特許文献3の銀粉は、焼結部品の製造原料を対象としており、焼結温度が600℃前後とペースト用の銀粉と比べて高温である。さらに、特許文献3の銀粉は電子部品用途を対象としていないため、抵抗値や基板との接着強度については何ら評価されていない。
このように、ペースト中への分散性が高く、ペーストの硬化により形成される配線や電極の抵抗値が低く且つ高い強度を有する銀粉が求められている。また、かかる優れた特性を有する銀粉を、高い生産性で低コストに製造できる方法も求められている。しかしながら、未だこれらを満たす銀粉およびその製造方法は得られていないのが現状である。
本発明は上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、高純度であってペースト中への分散性が高く、且つ焼結性が良好であり、これにより形成される硬化膜の抵抗値が低く、且つ高い接着強度を有する銀粉を提供することを目的としている。さらに、本発明はこのような銀粉を高い生産性で低コストに製造する方法を提供することを目的としている。
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、銀粉のタップ密度を高くするとペースト中への分散性が良くなること、および塩素が焼結性に影響を与えることを見出した。さらに塩素は銀粒子の表面部に偏在しており、比表面積当たりの塩素量を抑制することで良好な焼結性を有する銀粉が得られることを見出した。また、還元剤としてアスコルビン酸を使用し、分散剤を還元剤と同時に添加することがタップ密度向上に有効であること、さらに還元後に生成した銀粒子に脂肪酸を添加することが塩素濃度を下げ且つタップ密度を向上させることに有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の銀粉は、平均一次粒子径が0.3〜1.5μmであり、比表面積が0.3〜1.3m /gである銀粉であって、比表面積を基準とした単位面積当たりの塩素含有量が30μg/m 以上150μg/m以下、ナトリウム含有量が20質量ppm以下であり、かつタップ密度が4g/cm以上であることを特徴とするものである
上記銀粉の製造方法は、アンモニア水に塩化銀を溶解した銀溶液に、アスコルビン酸と水溶性分散剤との混合水溶液を添加し、銀溶液を還元して銀粒子を生成することで銀粒子スラリーを得る工程Aと、銀粒子の生成が完了した後、得られた銀粒子スラリーに脂肪酸を添加して脂肪酸が表面に付着した銀粒子を得る工程Bと、脂肪酸が付着した銀粒子を水洗浄する工程Cとを含むことを特徴とする。
前記脂肪酸の添加量を銀に対して1〜20質量%とすることが好ましい。また、前記水洗浄は、0.008〜0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて洗浄を行った後、水洗を行うことが好ましい。さらに、前記水溶性分散剤としてポリビニルアルコールまたはこれにシリコーン系界面活性剤を添加したものを用いることが好ましい。
本発明によれば、塩素やナトリウムの含有量が少なく高純度であり、ペースト中での分散性が高く、低温での焼結性が良好な銀粉が得られる。本発明の銀粉を用いたペーストの硬化処理により形成される配線や電極は、抵抗率が10μΩ・cm以下、基板との接着強度が10N以上という優れた特性を有するものとなる。また、本発明によれば、銀粉の製造に際して生産性を高くできると共に、塩化銀を原料として用いるため低コストであり、工業的価値が極めて大きい。
以下、本発明の銀粉とその製造方法を詳細に説明する。本発明の銀粉は、比表面積を基準とした単位面積当たりの塩素含有量(以下、単に単位表面積当たりの塩素含有量と称することがある)が150μg/m以下であり、ナトリウム含有量が20質量ppm以下であり、かつタップ密度が4g/cm以上であることを特徴としている。
塩素は焼結性を悪化させるが、銀粒子の表面部に偏在するため、その単位表面積当たりの塩素含有量を抑制することが良好な焼結性を得るために重要である。すなわち、銀ペーストに適用されるような低温における焼結では、高温での焼結に比べて焼結性に対する銀粒子表面の影響が大きいため、銀粒子の表面積を考慮して銀含有量を制御することが効果的であり、これにより焼結性の改善が可能となる。これは、単に銀粉の塩素含有量を制御するのみでは十分な焼結性が得られないことを意味する。
塩素は焼結性を悪化させるが、銀粒子の表面部に偏在するため、その単位表面積当たりの塩素含有量を抑制することが良好な焼結性を得るために重要である。すなわち、銀ペーストに適用されるような低温における焼結では、高温での焼結に比べて焼結性に対する銀粒子表面の影響が大きいため、銀粒子の表面積を考慮して塩素含有量を制御することが効果的であり、これにより焼結性の改善が可能となる。これは、単に銀粉の塩素含有量を制御するのみでは十分な焼結性が得られないことを意味する。
上述したように、銀粉の単位表面積当たりの塩素含有量を抑制することにより焼結性の改善が可能になるが、銀粉の塩素含有量としては70質量ppm以下とすることが好ましい。銀粉の塩素含有量が70質量ppmを超えると、特に低温での焼結など焼結条件が厳しい場合に、抵抗率や基板との接着強度の改善が十分に得られない場合がある。
本発明の銀粉は、さらにナトリウム含有量が20質量ppm以下である。ナトリウム含有量が20質量ppmを超えると、焼結性が悪化するばかりか電子部品等に使用された際に信頼性が低下する。なお、銀粒子は、銀粉を構成する個々の粒子であり、これには走査型電子顕微鏡観察によって外観的に1個の粒子と判断される粒子である一次粒子を含むほか、一次粒子によって凝集粒子や二次粒子がそれぞれを構成されている場合はこれらを含むものである。
本発明の銀粉は、さらにタップ密度が4g/cm以上である。タップ密度を4g/cm以上とすることで、ペースト中への分散性が改善され、焼結を均一に進行させる効果が得られる。一方、タップ密度が4g/cm未満では、ペースト中への分散性が悪化して、均一に焼結が進まなくなる。その結果、形成された配線や電極の抵抗率が高くなったり、硬化膜の強度が弱くなって基板との接着強度が低下したりなど、基本的な特性が悪くなる。なお、本発明の銀粉においては、タップ密度の上限は8g/cm程度である。
本発明の銀粉は、さらに走査電子顕微鏡観察による平均一次粒子径が0.3〜1.5μmであるのが好ましく、比表面積が0.3〜1.3m/gであるのが好ましい。この平均一次粒子径が0.3μm未満では、タップ密度が低下してペースト中の分散性が低下することがある。一方、平均一次粒子径が1.5μmを超えると、粒径効果により焼結温度が上昇して、焼結性が低下することがある。
また、比表面積が0.3m/g未満では、銀粒子間の接触性が低下して焼結が抑制され、焼結性が低下することがある。一方、比表面積が1.3m/gを超えると、ペースト中で凝集しやすくなり分散性が低下することがある。ここで、比表面積には、窒素吸着によるBET法による測定値が用いられる。
本発明の銀粉は、後述するように好適には銀溶液の還元によって得られるものである。したがって、上記銀粉は、銀溶液の還元によって得られた多結晶構造を持つ一次粒子から構成されたものであることが好ましい。これにより、溶融状態から凝固させることによって得られるほぼ単結晶粒子から構成される銀粉に比べて、結晶粒界の移動による焼結促進効果が得られ、焼結性が向上する。
次に、上記した本発明の銀粉の製造方法について説明する。この製造方法は、アンモニア水に塩化銀を溶解した銀溶液に、アスコルビン酸と水溶性分散剤との混合水溶液を添加し、銀溶液を還元して銀粒子スラリーを得る工程Aと、得られた銀粒子スラリーに脂肪酸を添加して脂肪酸が表面に付着した銀粒子を得る工程Bと、この脂肪酸が付着した銀粒子を水洗浄する工程Cとを含むことを特徴とする。
以下、本発明に係る銀粉の製造方法を工程毎に詳細に説明する。まず、工程Aでは、アンモニア水に塩化銀を溶解した銀溶液を作製し、この銀溶液にアスコルビン酸と水溶性分散剤との混合水溶液を添加することによって銀溶液を還元して銀粒子スラリーを得る。銀溶液を調製する具体的な方法としては、反応槽にアンモニア水を投入した後、アンモニア水を30〜40℃の温度に保持して撹拌しながら塩化銀を投入して十分に溶解すればよい。得られた銀溶液についても、30〜40℃の温度に保持することが好ましい。
アンモニア水の温度が30℃未満では、塩化銀の溶解度が下がり生産性が悪くなる。一方、アンモニア水の温度が40℃を超えると、アンモニアの揮発が激しくなり、一旦溶解した塩化銀がアンモニアの揮発に伴って析出するため、安定した銀溶液が得られなくなることがある。なお、得られた銀溶液の保持温度については、30〜40℃の範囲に調節することが更に好ましい。
塩化銀の投入量は、銀濃度が50〜100g/Lとなるように調製することが好ましい。銀濃度が50g/L未満であっても、得られる銀粉に問題はないが、単位液量当たりに得られる銀粉の量が少なくなるため生産性が低下する。一方、銀濃度が100g/Lを超えることは、塩化銀のアンモニアへの溶解度から困難である。
上記銀粉の製造方法においては、原料として塩化銀を用いる。従来から通常行なわれている銀粉の製造プロセスでは、硝酸銀を用い、これをアンモニア水に溶解することが多いが、硝酸銀は溶解過程で亜硝酸ガスを発生するため、これを回収する装置が必要となる。また、還元後の廃液もアンモニア系窒素と硝酸系窒素の混合液となるため、廃液処理コストが大きくなるという問題がある。
これに対して、本発明で原料として使用する塩化銀は、危険物や劇物に該当せず、銀の精製プロセスの中間品としても回収され、電子工業用として十分な純度を有するものが得られやすい。また、硝酸銀の使用に比べて、亜硝酸ガスの回収や硝酸系窒素廃液の処理などが不要であるため、設備面の投資や経費が少なくて済み、製造コストを低く抑えることができる。さらに、塩化銀はアンモニア水などへの溶解過程で有毒な亜硝酸ガスなどを発生しないうえ、塩化銀には窒素が含まれていないので、廃水に及ぼす影響も小さい。
得られる銀粉への不純物の混入を防止するため、原料の塩化銀は工業用に安定的に製造されている高純度塩化銀を用いることが好ましい。塩化銀を溶解するアンモニア水は、工業的に用いられる通常のものでよいが、不純物混入を防止するため、可能な限り高純度のものが好ましい。また、アンモニア水の濃度は、通常用いられる25質量%程度のものでよく、必要に応じて純水で希釈してもよい。
次に、水溶性分散剤を還元剤であるアスコルビン酸と混合して混合水溶液(以下、還元剤混合液と称することがある)を得る。銀粒子の場合、還元剤の添加後短時間で核生成が起こるため、微細な一次粒子が生成しやすい。このため、予め分散剤をアスコルビン酸水溶液と混合しておき、これらを同時に銀溶液に添加することで、核生成時から溶液中に分散剤を存在させ、核成長と凝集を制御して微細な一次粒子の凝集による粗大な粒子が生成されるのを抑制し、得られる銀粉のタップ密度を大きくすることができる。すなわち、還元剤と分散剤を混合して添加することにより、少ない分散剤でも核の表面に効率よく分散剤を吸着させ、銀粒子の分散性を向上させることができ、微細な一次粒子が凝集した粗大粒子の生成を抑制することができる。
水溶性分散剤としては、ポリビニルアルコールを用いることが好ましく、これにシリコーン系界面活性剤を添加したものを用いることがより好ましい。還元剤混合液への分散剤の添加量は、分散剤の種類および得ようとする銀粉の粒径により適宜決めればよいが、例えば、ポリビニルアルコールを用いた場合、銀溶液中に含有される銀に対して3〜10質量%とすることが好ましい。
さらに、変性シリコンオイル系界面活性剤を添加することで、微細な一次粒子の凝集による粗大な粒子が生成されるのを抑制してタップ密度と分散性がより向上する。変性シリコンオイル系界面活性剤は、特に限定されるものではなく、例えば、日本エマルジョン(株)の界面活性剤SS−5602(商品名)などが挙げられる。変性シリコンオイル系界面活性剤の添加量は、得られる銀粉の分散性により調整すればよく、特に限定されるものではないが、銀溶液中に含有される銀に対して0.3〜1質量%の範囲とすることが好ましい。
また、ポリビニルアルコールやシリコーン系界面活性剤は、還元反応時に発泡する場合があるため、銀溶液または還元剤混合液に消泡剤を添加してもよい。上記還元剤としては、アスコルビン酸を用いる。アスコルビン酸は還元作用が緩やかであるため、一次粒子の成長を制御しやすく、適度な粒径を有する銀粉が得られる。さらに、反応の均一性あるいは反応速度を制御するため、アスコルビン酸を純水等で溶解して水溶液とする。
上記の還元剤混合液を銀溶液に添加することにより、銀粒子が生成して銀粒子スラリーが得られる。還元剤混合液の温度は、銀溶液の保持温度と同程度またはそれより少し高い温度、具体的には30〜40℃の範囲内の保持温度に調整することが好ましい。還元剤混合液の温度が30℃未満であると、還元剤混合液の添加時に銀溶液の温度が下がって塩化銀が析出し易い状態となり、塩化銀が完全に還元されないことがある。また、還元剤混合液の温度が40℃を超えると、添加後に銀溶液の温度が50℃を超え、生成する銀粒子の凝集が進みやすくなる。
還元剤混合液の添加量は、還元剤混合液中のアスコルビン酸量が銀溶液中の銀を全て還元できればよく、そのために必要な最少量とすることがコスト面でも好ましい。アスコルビン酸では、銀溶液中の銀1モル当たり0.25モルが必要最少量であり、したがって、その添加量は銀1モル当たり0.25〜1モルとすることが好ましく、0.25〜0.35モルとすることが更に好ましい。
工程Aにおいて用いられる装置は、特に限定されるものではなく、銀溶液を撹拌しながら還元剤混合液を添加できるものであればよい。例えば、銀溶液を調製した後、そのまま銀溶液を撹拌し続けながら、還元剤混合液を直接添加できるものが好ましく、添加量が多量の場合は各種ポンプなどの注入装置を用いてもよい。また、チューブリアクターなどを用いて連続的に添加することもできる。
工程Bでは、得られた銀粒子スラリーに脂肪酸を添加して脂肪酸が表面に付着した銀粒子を得る。ここでは、銀粒子の生成が完了した後に脂肪酸を添加する。生成が完了した銀粒子に脂肪酸を添加して銀粒子表面に付着させることは、得られる銀粉のタップ密度を大きくするだけでなく、塩素含有量を減少させる効果がある。
還元により生成した銀粒子は、原料由来の塩素が大量に含まれるスラリー中に存在しており、銀粒子の表面に塩素が付着しやすい状況にある。しかしながら、脂肪酸が銀粒子表面に付着して覆うことで、銀粒子表面から塩素が離れ、残留塩素含有量を低減しやすくする。還元による銀粒子の生成が終了する前に脂肪酸を添加すると、添加後に銀粒子表面で還元される銀の影響により脂肪酸による塩素の遊離作用が妨げられ、残留塩素除去が十分に行われない。
脂肪酸の添加は、銀粒子の生成終了後であればよいが、銀溶液からの銀粒子の生成は還元剤混合液の添加後短時間で終了するため、還元剤混合液の添加から数分後であればよい。具体的には、還元剤混合液の添加から3分間以上の間隔をおいて脂肪酸を添加するのが好ましく、5分間以上の間隔をおいて脂肪酸を添加するのがより好ましい。
また、脂肪酸の添加による銀粒子表面への付着は、後工程の水洗浄前に行う。還元剤混合液に添加され、銀粒子の凝集を抑制している水溶性分散剤、特にポリビニルアルコールは、水による洗浄により銀粒子表面から除去されやすく、その結果、洗浄による除去が進むと銀粒子の凝集が起こり、分散性の悪化とタップ密度の低下を招く。したがって、水洗浄前に銀粒子表面に脂肪酸を付着させて塩素やナトリウムの遊離を促すとともに、水溶性分散剤の除去時の銀粒子の凝集を抑制することで、塩素やナトリウムの含有量が低く、かつ、タップ密度が高い銀粉を得ることが可能となる。
脂肪酸は脂肪酸塩の形態であってもよく、具体的には、オレイン酸やオレイン酸塩、またはステアリン酸やステアリン酸塩、およびこれらをエマルジョン化したものから選択することができる。
添加した脂肪酸は、その全てが銀粒子表面に付着しないため、銀粒子の凝集を十分に抑制できる量を添加することが好ましい。したがって、脂肪酸の添加量としては、銀溶液中に含有される銀に対して1〜20質量%とすることが好ましく、1〜15質量%とすることがより好ましい。脂肪酸の添加量が1質量%未満であると、残留塩素含有量の低減効果や銀粒子の凝集抑制効果が十分に得られないことがある。一方、添加量が20質量%を超えると、得られた銀粒子表面への脂肪酸付着量が多すぎて、焼結性が低下することがある。
工程Cは、脂肪酸が付着した銀粒子を水洗浄する工程である。これにより、残留塩素を除去して、単位表面積当たりの塩素含有量が150μg/m以下、ナトリウム含有量が20質量ppm以下の銀粉が得られる。洗浄に用いる水は、銀粉に対して有害な不純物元素を含有していない水、特に純水などを用いることが好ましい。さらに、残留塩素をより低減させるためには、水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。水酸化ナトリウム水溶液を用いることで、水酸基と塩素がイオン交換されて効率よく残留塩素を低減することができる。また、洗浄により余剰に付着した脂肪酸が塩素やナトリウムとともに除去され、焼結性がさらに向上する。
水酸化ナトリウムの濃度は、0.008〜0.1mol/Lとすることが好ましい。0.008mol/L未満では、洗浄効果が十分に得られない場合があり、0.1mol/Lを超えると、銀粒子にナトリウムが許容以上に残留することがある。したがって、高濃度の水酸化ナトリウムを用いた場合は、水酸化ナトリウム水溶液による洗浄後に水を用いて十分にリンス洗浄を行い、ナトリウムの残留を抑制することが好ましい。このように水酸化ナトリウム水溶液による洗浄後、水により洗浄することで、さらに残留する塩素とナトリウムを低減できる。
洗浄方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、まず、銀粒子スラリーを固液分離して得た銀粒子を水酸化ナトリウム水溶液もしくは水に投入し、攪拌機または超音波洗浄器を使用して攪拌し、その後、濾過して銀粒子を回収する方法が用いられる。洗浄効果をより高くするためには、上記操作を繰り返すことが好ましい。
水洗浄後の銀粒子は湿潤状態にあるため、水分を蒸発させる。これにより乾燥した銀粉が得られる。乾燥方法としては、例えば、湿潤状態の銀粒子をステンレスパッド上に置き、大気オーブンまたは真空乾燥機などの市販の乾燥装置を用いて40〜80℃の温度に設定して加熱乾燥するのが好ましい。乾燥後はジェットミル等の解砕機を用いて乾燥時に凝集した凝集体を解砕するのが好ましい。
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によってなんら限定されるものではない。本実施例によって得られた銀粉は、下記の方法により評価した。
(1) 平均一次粒子径(平均粒径)
15000倍で撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真上で200〜300個の一次粒子の粒径を測定し、個数平均することにより求めた。
(2)比表面積
窒素ガス吸着によるBET1点法により求めた。
(3)タップ密度
銀粉15gを秤量して20mLメスシリンダー内に入れ、タップ速度を120回/分とし、タップ高さ20mmで500回のタップを行った。その後、銀粉の容積をメスシリンダーの目盛りから読み取り、この読み取った容積で銀粉の質量15gを除して算出した。
(4)塩素含有量
銀粉を塩素の揮発を抑制できる密閉容器内にてマイクロ波照射下で硝酸に溶解し、塩化銀を残渣として沈殿させ、沈殿物中の塩素を蛍光X線定量分析装置(PANalytical社製 Magix)を用いて検量線法で評価することによって求めた。そして、このようにして得た単位質量当たりの塩素含有量を上記(2)で求めた銀粉の比表面積で除して銀粉の単位表面積当たりの塩素含有量とした。
(5)ナトリウム含有量
銀粉を硝酸に溶解した後、原子吸光光度計(日立ハイテク社製 Z−2300)を用いて求めた。
(6)抵抗率
銀粉90.2質量%に対して、エポキシ樹脂としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂を0.45質量%、硬化剤としてのフェノールホルムアルデヒド型ノボラック樹脂を0.27質量%、溶剤としてのジプロピレングリコールを9.0質量%、硬化促進剤としての2−フェニル4−メチルイミダゾ−ルを0.09質量%を混練してペーストとし、硬化後の厚さが30μmになるようにアルミナ基板上に印刷した後、200℃で60分間硬化させた。その硬化膜の抵抗率をアドバンテスト(株)製のデジタルマルチメータR6871Eにより測定した。
(7)接着強度
上記(6)の抵抗率測定用と同様にして調製したペーストをアルミナ基板上に印刷した後、シリコンチップを載せて上記(6)の測定時と同様に硬化させた。このようにして作製した試料に対し、シリコンチップの剥離強度を今田製作所(株)製のプッシュプルスケールPSMにより測定して銀ペースト硬化膜とアルミナ基板との接着強度とした。
(試料1)
液温を36℃に保持した25質量%アンモニア水110mLに塩化銀(住友金属鉱山(株)製)15.2g(銀量10g)を投入し、攪拌しながら溶解して銀溶液を作製した。この銀溶液に消泡剤((株)アデカ製、アデカノールLG−126)を100倍希釈した水溶液0.15mLを添加した。
次に還元剤であるアスコルビン酸(関東化学製試薬)4.68gを36℃の純水20mLに溶解し還元剤水溶液とした。また、ポリビニルアルコール((株)クラレ製、PVA205)0.55g(銀溶液中の銀量に対して5.5質量%)と界面活性剤(日本エマルジョン(製)、SS−5602)0.07g(銀溶液中の銀量に対して0.7質量%)を分取し、36℃の純水10mLに溶解し分散剤水溶液とした。この還元剤水溶液と分散剤水溶液を混合して還元剤混合液とした。
上記銀溶液を攪拌しながら、還元剤混合液を投入し、銀溶液を還元して銀粒子スラリーを得た。還元剤混合液の添加終了から10分後にステアリン酸エマルジョン(中京油脂(株)製、セロゾール920)0.58g(銀粒子に対してステアリン酸が1.2質量%)を添加し、さらに攪拌を20分間継続した。この後、銀粒子スラリーを開口径0.1μmのメンブランフィルターを使用して濾過し、銀粒子を固液分離した。
次いで、得られた銀粒子を0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液300mL中に投入して15分間攪拌した後、開口径0.1μmのメンブランフィルターで濾過して回収した。これら水酸化ナトリウム水溶液への投入、撹拌、および濾過からなる洗浄操作をさらに2回繰り返した。こうして得られた銀粒子を純水300mL中に投入して15分間撹拌した。その後、開口径0.1μmのメンブランフィルターで濾過し、回収した湿潤状態の銀粒子をステンレスパッドに移して真空乾燥機にて60℃で10時間乾燥した。乾燥後の銀粒子をジェットミルに導入し、乾燥凝集を解砕して試料1の銀粉を得た。
(試料2)
水酸化ナトリウム水溶液による洗浄を1回としたこと以外は、試料1の場合と同様にして試料2の銀粉を作製した。
(試料3)
ステアリン酸エマルジョンの添加量を1.16g(銀粒子に対してステアリン酸が2.3質量%)としたこと、水酸化ナトリウム水溶液による洗浄を1回としたこと以外は、試料1の場合と同様にして試料3の銀粉を作製した。
(試料4)
ステアリン酸エマルジョンの添加量を2.3g(銀粒子に対してステアリン酸が4.6質量%)としたこと、水酸化ナトリウム水溶液による洗浄を行わず、純水による洗浄を4回としたこと以外は、試料1の場合と同様にして試料4の銀粉を作製した。
(試料5)
ステアリン酸エマルジョンに替えてオレイン酸1.2g(銀粒子に対して12質量%)を添加したこと、水酸化ナトリウム水溶液による洗浄を行わず、純水による洗浄を4回としたこと以外は、試料1の場合と同様にして試料5の銀粉を作製した。
(試料6)
水溶性分散剤としてポリビニルアルコールのみを添加したこと、水酸化ナトリウム水溶液による洗浄を行わず、純水による洗浄を4回としたこと以外は、試料1の場合と同様にして試料6の銀粉を作製した。
(試料7)
水溶性分散剤としてポリビニルアルコールのみを添加したこと、洗浄に用いた水酸化ナトリウム水溶液の濃度を0.005mol/Lとしたこと以外は、試料1の場合と同様にして試料7の銀粉を作製した。
(試料8)
水酸化ナトリウム水溶液による洗浄を行わず、純水による洗浄を5回とし、ステアリン酸エマルジョン0.5g(銀粒子に対してステアリン酸が1.0質量%)を最終の水洗時に添加したこと以外は、試料1の場合と同様にして試料8の銀粉を作製した。
上記の方法で作製した試料1〜8の銀粉に対して、各々前述した評価方法で評価を行った。その結果を下記表1に示す。
Figure 0005949654
上記表1の結果から分るように、試料1〜7の銀粉は、いずれも単位表面積当たりの塩素含有量が120μg/m以下、ナトリウム含有量が20質量ppm以下、およびタップ密度が4.0g/cm以上であった。また、これらを用いて形成した硬化膜は、抵抗率が10μΩ・cm以下、基板との接着強度が10N以上という優れた特性を有していた。一方、試料8の銀粉は、本発明の要件を満たしておらず、これを用いて形成した硬化膜は、抵抗率が15.9μΩ・cm、基板との接着強度が8Nと好ましい結果が得られなかった。

Claims (6)

  1. 平均一次粒子径が0.3〜1.5μmであり、比表面積が0.3〜1.3m /gである銀粉であって、比表面積を基準とした単位面積当たりの塩素含有量が30μg/m 以上150μg/m以下、ナトリウム含有量が20質量ppm以下であり、かつタップ密度が4g/cm以上であることを特徴とする銀粉。
  2. 前記銀粉は多結晶構造を有する一次粒子から構成されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の銀粉。
  3. アンモニア水に塩化銀を溶解した銀溶液に、アスコルビン酸と水溶性分散剤との混合水溶液を添加し、銀溶液を還元して銀粒子を生成することで銀粒子スラリーを得る工程Aと、銀粒子の生成が完了した後、得られた銀粒子スラリーに脂肪酸を添加して脂肪酸が表面に付着した銀粒子を得る工程Bと、脂肪酸が付着した銀粒子を水洗浄する工程Cとを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の銀粉の製造方法。
  4. 前記脂肪酸の添加量を銀に対して1〜20質量%とすることを特徴とする、請求項3に記載の銀粉の製造方法。
  5. 前記水洗浄は、0.008〜0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて洗浄を行った後、水洗を行うことを特徴とする、請求項3または4に記載の銀粉の製造方法。
  6. 前記分散剤としてポリビニルアルコールまたはこれにシリコーン系界面活性剤を添加したものを用いることを特徴とする、請求項3〜5のいずれかに記載の銀粉の製造方法。
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