以下、本発明に係る銀粉及びその製造方法、並びに感光性銀ペーストの具体的な実施形態について以下の順序に沿って詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて適宜変更することができる。
1.銀粉
2.銀粉の製造方法
2−1.銀核溶液調製工程
2−2.核含有還元剤溶液調製工程
2−3.粒子成長工程
2−4.表面処理工程
2−5.解砕工程
3.感光性銀ペースト
<1.銀粉>
本実施の形態に係る銀粉は、走査型電子顕微鏡観察による平均粒径が1.0μm以下であり、銀粉の炭素含有量を0.15質量%以上とし、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量が6.5〜8.8mL/100gである。
銀粉は、走査型電子顕微鏡観察による一次粒子の平均粒径が1.0μmであることが好ましい。また、銀粉は、粒径の相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)が0.3以下であることが好ましく、0.25以下であることがより好ましい。ここで、一次粒子とは、外見上から判断して、単位粒子と考えられるものを意味する。
このような粒径が小さく、粒度分布が狭い銀粉によれば、ペースト中での銀粒子の分散が均一となり、形成される導電膜も均一なものとすることができ、電子機器の精細な配線層や電極等の形成に利用される樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペースト用銀粉として好適に用いることができる。
銀粉の炭素含有量は、有機表面処理剤の吸着量を示すものであり、0.15質量%以上であることが好ましい。これにより、銀粒子の凝集を十分に抑制するとともにペースト中での銀粒子の分散を高めることができる。0.15質量%未満では銀粒子の凝集を十分に抑制できず、ペースト中での銀粒子の分散が不均一になる。
銀粉は、銀粒子表面に有機表面処理剤が吸着されたものであるが、有機表面処理剤は、カルボン酸、アミン、ベンゾトリアゾール、界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの有機表面処理剤は、銀粒子表面に均一に吸着させることが可能であり、銀粒子の凝集を抑制してペースト中での銀粒子の分散を高め、均一な導電膜を形成することができる。
具体的なカルボン酸としては、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、へプタン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミスチリン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等の飽和・不飽和脂肪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のジカルボン酸、高分子系のポリカルボン酸から選ばれた少なくとも1種を好適に使用することができる。これらのカルボン酸は、沸点が比較的低く、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極への悪影響が少ないため特に好ましい。なお、カルボン酸はカルボン酸塩の形態であってもよく、具体的には、オレイン酸やオレイン酸塩、又はステアリン酸やステアリン酸塩及びこれらをエマルジョン化したものから選択することができる。また、これらのカルボン酸を2種類以上組み合わせて使用しても良い。
具体的なアミンとしては、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ノナデシルアミン、エイコシルアミン等の第1級アミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン等の第2級アミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、トリノニルアミン、トリデシルアミン等の第3級アミン、脂肪族や高分子系のポリアミンから選ばれた少なくとも1種を好適に使用することができる。また、これらのアミンを2種類以上組み合わせて使用しても良い。
具体的なベンゾトリアゾール類としては、1H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールから選ばれた少なくとも1種を好適に使用することができる。また、これらのベンゾトリアゾール類を2種類以上組み合わせて使用しても良い。
具体的な界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、窒素型界面活性剤、シリコン型界面活性剤、フッ素型界面活性剤から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、これらの界面活性剤を2種類以上組み合わせて使用しても良い。
また、銀粉は、凝集体の大きさ及び量を測定する手法として、オイル吸収量という指標がある。具体的に、吸収量の測定は、日本工業規格JIS K6217−4(2008)に準じて行う。
JIS K6217−4では、フタル酸ジブチルエステルを滴下し、最大トルクの70%のトルク値を示した滴下量をオイル吸収量(以下、単に吸収量ともいう。)としている。オイル吸収量は、凝集体の大きさ及び量に比例することが確認されている。
ここでのトルクは、銀粉を撹拌する冶具にかかるトルクを指す。銀粉は、フタル酸ジブチルエステルを滴下し始めると凝集体内部に取り込まれていき(吸油)、次第に内部に詰まって取り込まれなくなると、凝集体表面に膜となっていく。凝集体のない粒子では、取り込みがなく表面に膜を形成する。粒子間の接触はこの液膜を通じて行われ、そこにはラプラス圧力が発生し、粒子間の吸着作用を生じさせ、冶具のトルクとなって現れ、オイル滴下量に伴うトルク変動が吸油プロファイルとなって測定される。粒子表面が液膜で覆われるとトルクは増加し、さらに過剰のフタル酸ジブチルエステルが供給されると膜の間に液体が入り込み、ラプラス圧力の急激な低下が起こり、冶具にかかるトルクが減少する。つまり、フタル酸ジブチルエステルを滴下していくと最大トルクを示す滴下量が存在する。この最大トルクは、凝集体及び分散粒子の間の相互作用の総和を示し、このトルク値が大きいほど粒子間の相互作用が高い銀粉と言える。この相互作用が、せん断力がかからない時のペーストの高い粘度の原因であり、印刷時のようにこのトルクを超えたせん断応力がかかると、相互作用によって形成していた粒子構造が崩れ、低粘度の流体に変化する。
実際には粒子径が小さく、比表面積が大きいほど、また、粒子と溶媒との親和性が高いほど見かけのトルクが高くなる。このことから粉体表面の特性に注目した場合には、単位比表面積当りの最大トルク値が粉体表面の特徴をより反映することができる。つまり、最大トルク値を比表面積値で除すると、その値を使って様々な粒子径の粉体の特性を把握することができる。
本発明の実施に係る銀粉は、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量が6.5〜8.8mL/100gである。このような銀粉は、混練性を改善することができ、紫外線露光に対する感度が良く、導電膜の体積抵抗率が低くなるペーストを作製できる。
吸収量が6.5mL/100g未満の場合は、銀粉同士の凝集や連結が少なくなり、乾燥膜中の粒子同士の間隔が広くなることにより、紫外線が乾燥膜の内部まで届くようになるので、紫外線露光に対する感度は向上する。しかしながら、導電膜を作製したときに、銀粉同士の接点が少なくなり、体積抵抗率が高くなるので、好ましくない。
吸収量が8.8mL/100gを超える場合、銀粉同士の凝集や連結が多くなり、導電膜を作製したときの体積抵抗率は低くなる。しかしながら、乾燥膜中の粒子同士の間隔が狭くなることにより紫外線が乾燥膜の内部まで届かなくなるため、紫外線露光に対する感度は悪化するので、好ましくない。
<2.銀粉の製造方法>
本実施の形態に係る銀粉の製造方法は、図1の工程図に示すように、銀核溶液を得る銀核溶液調製工程S1と、銀核溶液調製工程S1により得られた銀核溶液と還元剤を混合して核含有還元剤溶液を得る核含有還元剤溶液調製工程S2と、核含有還元剤溶液調製工程S2により得られた核含有還元剤溶液と銀錯体を含む粒子成長用銀溶液とを混合して、その銀錯体を還元して銀粒子を成長させる粒子成長工程S3と、粒子成長工程S3で得られた銀粒子スラリーを固液分離後、銀粒子を洗浄する際に洗浄液に有機表面処理剤を添加して銀粒子表面に有機表面処理剤を吸着させる表面処理工程S4と、表面処理剤を吸着させた乾燥後の銀粒子を解砕する解砕工程S5とを有する。
この銀粉の製造方法においては、強還元剤による銀核の生成と弱還元剤による粒子成長を行うこと、またその銀核生成と粒子成長とを分離することが重要である。そして、銀核生成と粒子成長とで、標準電極電位が異なる還元剤を用いることが重要となる。強還元剤と弱還元剤を同時期に銀溶液に添加すると、核生成と粒子成長を十分に分離できないため、銀核からの粒子成長中に新たな核生成が起こり、微粒子が含まれる結果となって、粒径の均一性が十分な銀粒子が得られない。それに対して、強還元剤による均一な粒径を有する核を生成させた後、弱還元剤を添加して還元剤溶液とし、その還元剤溶液と銀溶液とを混合して粒子成長を行わせることで、均一な粒径の銀粒子を得ることができる。
さらに、本実施の形態に係る銀粉の製造方法は、核を生成させる銀溶液に含まれる固形粒子の含有量を低減することで粒径が小さく、核数の多い銀核溶液を作製でき、その結果、多数の銀核から均一に銀粒子を成長させることができ、特に小粒径の銀粉を得る際に有効である。
また、強還元剤を含む溶液と銀錯体を含む核生成用銀溶液と分散剤とを混合して得た銀核溶液と、その強還元剤よりも標準電極電位が高い弱還元剤を混合して核含有還元剤溶液とする。そして、この核含有還元剤溶液と銀錯体を含む粒子成長用銀溶液とを混合して還元する。これにより、均一な粒径を有する銀粉を得ることができる。
ここで、強還元剤とは、還元力の強い還元剤であることを意味し、弱還元剤とは、その強還元剤より標準電極電位が高い、すなわち還元力の弱い還元剤であることを意味する。
また、本実施の形態に係る銀粉の製造方法は、銀核を含む銀核溶液と還元剤を混合して得られた核含有還元剤溶液と、銀錯体を含む粒子成長用銀溶液とを、定量的かつ連続的に一定の空間に供給し、これらを混合することで還元反応を生じせしめ、還元反応が終了した還元後液、すなわち銀粒子スラリーを定量的かつ連続的に排出する。このように、定量的かつ連続的に各溶液を供給して還元させることで、還元反応場の銀錯体の濃度と還元剤の濃度が一定に保たれ、一定の粒子成長を図ることができる。そして、これによって、得られる銀粒子の大きさが揃い、粒度分布がシャープな銀粉を得ることができる。さらに、銀溶液と還元剤溶液の供給と銀粒子スラリーの排出を連続的に行うことで、連続的に銀粉を得ることができ、高い生産性でもって銀粉を製造することができる。
さらに、本実施の形態に係る銀粉の製造方法は、表面処理工程において、銀粉の炭素含有量が0.15質量%以上となるように有機表面処理剤を添加して銀粒子表面に吸着させ、得られる銀粉のJIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量が6.5〜8.8mL/100gとなるようにする。このようにして製造された銀粉は、混練性を改善することができ、紫外線露光に対する感度が良く、導電膜の体積抵抗率が低くなるペーストを作製できる。銀粉のフタル酸ジブチルの吸収量は、銀粉の平均粒径や凝集度、及び表面状態の影響を受けるが、製造条件を本発明における好ましい範囲内で調整することにより、上記範囲内に容易に制御することができる。
また、この銀粉の製造方法では、特に、出発原料である銀化合物として塩化銀を用い、例えば塩化銀をアンモニア水等に溶解して得られた銀アンミン錯体を用いることが好ましい。銀ペースト用の銀粉に求められる事項として、製造コストが低いことも重要である。銀粉はペーストの主成分であることから、ペースト価格に占める割合が大きいためである。製造コストの低減のためには、使用する原料や材料の単価が低いだけでなく、廃液や排気の処理コストが低いことも重要となる。
銀ペーストに使用される銀粉の製造において、銀源となる原料として硝酸銀を用いると、アンモニア水等への溶解過程で有毒な亜硝酸ガスを発生し、これを回収する装置が必要となる。また、廃水中に硝酸系窒素やアンモニア系窒素が多量に含まれるので、その処理のための装置も必要となる。さらに、硝酸銀は危険物であり劇物でもあるため、取り扱いに注意を要する。このように、硝酸銀を銀粉の原料として用いる場合は、環境に及ぼす影響やリスクが他の銀化合物に比べて大きいという問題点を抱えている。
塩化銀を出発原料とすることにより、硝酸銀を出発原料としたときに必要となる亜硝酸ガスの回収装置を必要とせず、環境への影響も少ないプロセスとなり、製造コストを低くすることができる。なお、上述した観点から、核生成用銀溶液と粒子成長用銀溶液のいずれにおいても塩化銀を用いることが好ましい。
以下、本実施の形態に係る銀粉の製造方法について、より詳細に工程毎に説明する。
[2−1.銀核溶液調製工程]
銀核溶液調製工程S1では、粒子成長の核となる銀核の溶液を生成させる。具体的には、この銀核溶液調製工程S1では、分散剤と強還元剤を含む溶液とを混合して得た溶液に、銀錯体を含む核生成用銀溶液を添加して還元させることにより銀核溶液を得る。または、予め、銀錯体を含む核生成用銀溶液と分散剤を混合した後、強還元剤を含む溶液を添加して還元させてもよい。分散剤は、銀核生成時に溶液中に存在していればよく、核生成用銀溶液もしくは強還元剤を含む溶液の少なくとも一方と混合されていればよく、核生成用銀溶液と強還元剤を含む溶液の混合時に分散剤を混合してもよい。
強還元剤としては、上述のように還元力の強い還元剤であり、標準電極電位が0.056V以下の還元剤であることが好ましく、具体的には、ヒドラジン(−1.15V)やホルマリン(0.056V)等を好ましく用いることができる。その中でも、特に還元力が強いヒドラジン及びその水和物を用いることが好ましく、ヒドラジン一水和物を用いることがより好ましい。このように、銀核溶液調製工程S1では、標準電極電位が0.056V以下の還元力が強い還元剤を用いることで、核として好適な微細で均一な銀微粒子を得ることができる。標準電極電位が0.056Vを越える還元力が弱い還元剤を用いると、還元速度が遅くなるため、核生成とともに粒子成長も同時に進行してしまうことがあり、均一な粒径の核が得られないとともに粒径が大きくなり、核として好ましい銀微粒子が得られない。
また、強還元剤の混合量は、核生成用銀溶液中の銀量に対して1.0当量以上、4.0当量未満とすることが好ましく、2.0当量以上、4.0当量未満とすることがより好ましい。強還元剤の混合量をこのような範囲とすることで、銀核溶液中に均一で沈殿しない銀核を形成することができる。そして、後述するように、銀粉の製造方法では、その銀核溶液に弱還元剤を混合して得られた還元剤溶液と、ろ過した粒子成長用銀溶液とを混合することで、均一な粒径を有する銀粉を得ることができる。また、銀粉の製造方法では、より好ましくは強還元剤を核生成用銀溶液中の銀量に対して2.0当量以上、4.0当量未満の範囲で混合することによって、微細で、より粒径の均一性が高い銀核を得ることができる。
強還元剤の混合量を核生成用銀溶液中の銀量に対して1.0当量未満とした場合、銀核粒子が連結して沈殿し易くなるため、粒子成長時の核数が一定にならず、粒径制御が十分に行えないことがある。また、粒径が不均一な銀核となることにより粒子成長時の成長が不均一となり、均一な粒径を有する銀粉が得られないことがある。一方、強還元剤の混合量を4.0当量以上とした場合、銀核溶液中に粗大粒子が生成することがあるため好ましくない。
分散剤としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、変性シリコンオイル系界面活性剤、ポリエーテル系界面活性剤から選択される少なくとも1種であることが好ましい。分散剤を使用しないと、還元反応により発生した銀核や核が成長した銀粒子が凝集を起こし、分散性が悪いものとなってしまう。
また、分散剤の混合量としては、後述する核含有還元剤溶液と粒子成長用銀溶液の混合後における粒子成長用銀溶液中の銀量、すなわち、反応液中の銀量から核含有還元剤溶液中の銀量を差し引いた粒子成長に用いられる銀量に対して1質量%〜30質量%とすることが好ましく、1.5質量%〜20質量%とすることがより好ましい。混合量が1質量%未満であると、凝集抑制効果が十分に得られず、一方で、混合量が30質量%を超えても、それ以上の凝集抑制効果の向上がなく、排水処理等の負荷が増加するのみとなる。なお、核生成用銀溶液中の銀量は、粒子成長用銀溶液中の銀量と比べて少量であるため、上述した添加量の分散剤を予め核生成用銀溶液中に添加することにより、核生成時にも十分な凝集防止効果を得ることができる。
また、分散剤としてポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンを用いた場合、還元反応時に発泡する場合があるため、例えば後述する銀溶液に消泡剤を添加してもよい。
核生成用銀溶液は、銀化合物を錯化剤により溶解して得られた銀錯体を含む溶液であり、上述した強還元剤と分散剤を混合して還元させることによって銀核を生成させるための溶液である。
ここで、固形粒子の含有量が銀核溶液中の銀量に対して20質量ppm以下である核生成用銀溶液を用いることが好ましい。核生成用銀溶液中の固形粒子の含有量を抑制することで、核生成が強還元剤による自発核発生により行われるため、生成される銀核の数を制御することが可能となり、得られる銀粒子を所望の粒径に容易に制御することが可能となる。固形粒子の含有量が銀核溶液中の銀量に対して20質量ppmを超えると、銀核溶液調製工程S1において、固形粒子が核として作用するため、核数を制御することが容易でなく、核の粒径を容易に制御することができない。このため、核添加により銀粉の粒径均一性は向上するものの、銀粉の粒径を制御することが容易ではないという問題が生じる。
さらに、固形粒子の含有量が銀核溶液中の銀量に対して20質量ppmを超えると、自発核の発生が抑制され、微細で多数の核を生成させることができないため、核数が少ない状態となり、特に、小粒径の銀粉、具体的には走査型電子顕微鏡観察により測定される一次粒子の平均粒径が0.5μm以下の銀粉を容易に作製することが困難となる。
したがって、核生成用銀溶液に含まれる固形粒子の含有量を銀量に対して20質量ppm以下とすることによって、銀核溶液調整工程S1で発生する核の数と粒径を制御することが可能となり、得られる銀粉の粒径の制御が容易となる。
さらに、銀核溶液調製工程S1では、核生成用銀溶液に含まれる固形粒子の含有量を銀量に対して20質量ppm以下とすることによって、微細で多数の核を生成させることができ、小粒径の銀粉においても容易に粒径を制御することが可能となる。固形粒子の含有量は、粒子成長用銀溶液を分画分子量が10,000以下の限外ろ過器でろ過した後、限外ろ過で捕集された固形粒子を硝酸によって溶解し、分析することによって求めることができる。
核生成用銀溶液は、固形粒子の含有量が銀溶液中の銀量に対して20質量ppm以下であればよいが、分散剤と強還元剤を含む溶液との混合前に、核生成用銀溶液を限外ろ過することが好ましい。これによって、核生成用銀溶液に含有される固形粒子を低減することができる。
限外ろ過は、銀溶液に含まれる不純物の粒径によって、ろ過精度を変える必要があるが、例えば分画分子量が150,000の限外ろ過を行った場合、10nm以上の不純物粒子を除去することができる。通常、10nm未満の固形粒子は含有量が少ないため、10nm以上の固形粒子を除去することによって、その含有量を銀溶液中の銀量に対して20質量ppm以下とすることができる。固形粒子の除去が不十分である場合には、さらに分画分子量の限外ろ過を行えばよいが、分画分子量が10,000以下のものを使用した場合、ろ過面積が狭くなり、ろ過速度の低下が顕著になるため、好ましくない。
なお、ここでいう固形粒子には、銀溶液中に含まれる不純物粒子以外に、銀溶液中に固形で残存する粒子、特に粒径10nm以上の粒子の全てが該当する。
銀化合物としては、上述のように塩化銀を用いることが好ましい。塩化銀を用いることにより、硝酸銀を出発原料としたときのようなガス回収や環境影響の問題も少ない。このような塩化銀としては、高純度塩化銀が工業用に安定的に製造されている。この塩化銀を、例えばアンモニア水に溶解することによって銀溶液を得ることができる。塩化銀を溶解するアンモニア水は、工業的に用いられる通常のものでよいが、不純物混入を防止するため可能な限り高純度のものが好ましい。
核生成用銀溶液中の銀量に対するアンモニア量は、銀とアンモニアのモル比で20〜100とすることが好ましい。銀量に対するアンモニア量がモル比で20未満の場合、塩化銀を用いた場合には塩化銀がアンモニア水に溶解しにくいため、塩化銀の溶解残渣が発生して不均一な核として作用し、得られる銀粒子の粒径が不均一になることがある。一方、銀量に対するアンモニア量がモル比で100を越える場合、核生成反応速度が遅くなり、還元終了までに長時間を要するため、好ましくない。
核生成用銀溶液中の銀濃度としては、0.1g/L〜6.0g/Lとすることが好ましい。銀濃度が0.1g/L未満では、後述する粒子成長用銀溶液中の銀量に対して十分な核が生成しないため、銀粉の粒径が大きくなり過ぎることがある。一方で、銀濃度が6.0g/Lを越えると、核生成とともに粒子が成長して均一な粒径の銀核が得られない。核の成長を抑制してより微細で均一な粒径の銀核が分散した銀核溶液を得たい場合、銀濃度を1.0g/L以下とすることがより好ましい。これらのことから、核生成用銀溶液中の銀濃度を好ましくは0.1g/L〜6.0g/L、より好ましくは0.1g/L〜1.0g/Lの範囲とすることによって、その銀量あたりに生成される核を微細で均一な粒径とするとともにその数をほぼ一定とすることができる。そして、これにより、銀粉の製造方法では、核生成用銀溶液中の銀量と後述する粒子成長用銀溶液中の銀量との比により、生成する銀粒子の粒径を制御することができる。詳細は後述する。
このように、銀核溶液調製工程S1においては、上述した強還元剤を含む溶液と分散剤と核生成用銀溶液とを混合することにより、強還元剤によって銀溶液中の銀錯体を還元し、後述する粒子成長工程S3における銀粒子の成長の核となる銀粒子を生成させる。
なお、還元反応においては、反応の均一性あるいは反応速度を制御するために、上述した強還元剤を純水等で希釈して水溶液として用いることができる。
[2−2.核含有還元剤溶液調製工程]
核含有還元剤溶液調製工程S2では、銀核溶液調製工程S1にて調製した銀核溶液と還元剤とを混合して、核を含有した核含有還元剤溶液を得る。この核を含有した還元剤溶液が、後述する粒子成長工程S3において還元反応における還元剤として作用する。
核含有還元剤溶液調製工程S2において銀核溶液と混合する還元剤は、上述した銀核溶液調製工程S1にて添加した強還元剤よりも標準電極電位が高く、還元力の弱い弱還元剤である。具体的に、添加する弱還元剤としては、0.056Vを越える還元剤であることが好ましく、特にアスコルビン酸(0.058V)を用いることが好ましい。このアスコルビン酸は、還元作用が緩やかであり、核からの粒子成長が均一に進行するため特に好ましい。
また、強還元剤と弱還元剤の標準電極電位の差は、1.0V以上であることがより好ましい。標準電極電位の差が小さいと、後述する粒子成長用銀溶液との混合時に、新たな核が生成して微粒子の混在や粒径の不均一性が生じることがある。これに対し、銀粉の製造方法では、標準電極電位の差が1.0V以上である強還元剤と弱還元剤とを組合せることで、粒子成長期における核生成を抑制することができ、均一な粒径の銀粒子を得ることができる。
また、弱還元剤の添加量としては、後述する粒子成長工程S3において粒子成長に用いられる粒子成長用銀溶液中の銀量に対して1当量〜3当量とすることが好ましく、1当量〜1.5当量とすることがより好ましい。添加量が粒子成長用銀溶液中の銀量に対して1当量未満の場合、未還元の銀が残留するため好ましくない。一方、添加量が3当量より多い場合には、コストが高くなるため好ましくない。
なお、後述する粒子成長工程S3での還元反応において、反応を均一にし、あるいは反応速度を制御するために、上述した還元剤溶液を純水等で希釈することができる。
[2−3.粒子成長工程]
粒子成長工程S3では、核含有還元剤溶液調製工程S2にて得られた核含有還元剤溶液と固形粒子の含有量が銀量に対して20質量ppm以下であり、銀錯体を含む粒子成長用銀溶液とを混合してその銀錯体を還元することによって、銀粒子を成長させて銀粒子を含む銀粒子スラリーを得る。
粒子成長用銀溶液は、上述した核生成用銀溶液と同様に銀化合物を錯化剤により溶解して得られた銀錯体を含む溶液をろ過した溶液である。この粒子成長用銀溶液は、調製した核含有還元剤溶液と混合させることによって銀溶液中の銀錯体を還元させ、還元剤溶液中の核に基づいて粒子を成長させて銀粒子スラリーを生成させるための溶液である。
ここで、粒子成長工程S3では、固形粒子の含有量が銀溶液中の銀量に対して20質量ppm以下である粒子成長用銀溶液を用いることが重要である。粒子成長用銀溶液に固形粒子が含まれると、粒子成長工程S3において、固形粒子が核として作用するため、見かけ上、核が増えた状態となるため、所望の値に粒径を制御することが困難となる。したがって、粒子成長工程S3では、粒子成長用銀溶液に含まれる固形粒子の含有量を銀量に対して20質量ppm以下とすることによって、粒子成長工程S3で成長する核数を制御することができ、得られる銀粉の粒径を所望の値に安定して制御することができる。固形粒子の含有量は、粒子成長用銀溶液を粒径10nm以上の粒子が捕集可能な分画分子量を有する限外ろ過器、例えば分画分子量が150,000以下、好ましくは100,000以下、より好ましくは10,000以下の限外ろ過器でろ過した後、限外ろ過で捕集された固形粒子を硝酸によって溶解し、分析することによって求めることができる。
粒子成長用銀溶液は、固形粒子の含有量が銀溶液中の銀量に対して20質量ppm以下であればよいが、核含有還元剤溶液との混合前に、粒子成長用銀溶液を限外ろ過することが好ましい。これによって、粒子成長用銀溶液に含有される固形粒子を低減することができる。限外ろ過は、銀溶液に含まれる不純物の粒径によって、ろ過精度を変える必要があるが、例えば分画分子量が150,000の限外ろ過を行った場合、粒径10nm以上の不純物粒子を除去することができる。通常、粒径10nm未満の固形粒子は含有量が微量であり、粒径制御に対する影響が少ないため、10nm以上の固形粒子を除去することによって、その含有量を銀溶液中の銀量に対して20質量ppm以下とすることができる。固形粒子の除去が不十分である場合には、さらに小さい分画分子量の限外ろ過を行えばよいが、分画分子量が10,000以下のものを使用した場合、ろ過面積が狭くなってろ過速度が低下しやすく、分析のような少量の処理とは異なり、工業的規模での生産では生産性が低下するため、好ましくない。
なお、固形粒子には、粒子成長用銀溶液中に含まれる不純物粒子以外に、未溶解の硫化銀等も含まれる。すなわち、ここでいう固形粒子には、粒子成長用銀溶液中に固形で残存する粒子、特に粒径10nm以上の粒子の全てが該当する。
粒子成長用銀溶液中の銀化合物としては、上述のように、硝酸銀を用いたときのようなガス回収や環境影響の問題が少ないという観点から塩化銀を用いることが好ましい。また、詳細な理由は不明であるが、塩化銀を用いることによって、核を用いた製造方法との組合せにより、高い生産性と粒径均一性の両立が可能となる。この塩化銀を、例えばアンモニア水に溶解することによって銀溶液を得ることができる。塩化銀を溶解するアンモニア水は、工業的に用いられる通常のものでよいが、不純物混入を防止するため可能な限り高純度のものが好ましい。
粒子成長用銀溶液中の銀濃度としては、20g/L〜90g/Lとすることが好ましい。銀濃度が低濃度であっても粒子の成長が生じて銀粒子を得ることはできるが、20g/L未満では、排水量が増大して高コストになるとともに、高い生産性でもって銀粉を製造することができない。一方で、銀濃度が90g/Lを越えると、アンモニア水に対する塩化銀の溶解度に近くなり、塩化銀が再析出する可能性があるため、好ましくない。銀粉の製造方法においては、上記銀濃度の範囲での核による粒子成長の制御が可能であり、小粒径の銀粉を作製することが可能である。粒子成長の速度を均一化してより均一な粒径の銀粒子を得るためには、銀濃度を50g/L以下とすることがより好ましい。
銀粉の製造方法においては、混合される核含有還元剤溶液中の銀量、すなわち、核生成用銀溶液中の銀量と粒子成長用銀溶液中の銀量との比により、得られる銀粉の粒径を制御することが可能であり、容易に所望とする粒径を有する銀粉を得ることができる。すなわち、銀粉の製造方法では、核生成用銀溶液中の銀濃度を上述した範囲とすることにより、その銀量あたりに生成される核の数をほぼ一定とすることができるため、核含有還元剤溶液中の銀量、すなわち、銀核数と粒子成長用銀溶液中の銀量との比によって、銀粉の粒径を制御することが可能となる。また、この銀粉の製造方法においては、核の生成と粒子の成長とが分離されているため、反応液中の核の数を制御できる範囲が広くなり、容易に広範囲の粒径制御が可能となり、高い銀濃度で高い生産性でもって銀粉を得ることができる。具体的に、走査型電子顕微鏡観察による平均粒径が1.0μm以下、好ましくは0.3μm〜1.0μmの銀粉を得るためには、粒子成長用銀溶液中の銀量は、核生成用銀溶液中の銀量に対して50〜1500倍とすることが好ましく、50〜1000倍とすることがより好ましい。核生成用銀溶液中の銀量と銀核の粒径から銀核数を算出し、得ようとする粒液まで成長させるために必要な銀量を求めることにより、粒子成長用銀溶液中の銀量を算出することがより好ましい。
ここで、粒子成長工程S3においては、上述のように核含有還元剤溶液とろ過した銀錯体を含む粒子成長用銀溶液とを定量的かつ連続的に供給して混合することによって反応液とし、その反応液中で銀錯体を還元して銀粒子を成長させるようにする。このように、銀粉の製造方法では、各溶液を定量的かつ連続的に供給して混合させることで、還元反応場の銀錯体の濃度と還元剤の濃度が一定に保たれ、一定の粒子成長を図ることができ、また高い生産性でもって銀粉を製造することができる。なお、以下の説明では、粒子成長用銀溶液を単に銀溶液といい、核含有還元剤溶液を単に還元剤溶液という場合がある。
核含有還元剤溶液と粒子成長用銀溶液とを連続的に供給して混合し銀錯体を還元するための反応管としては、粒子成長用銀溶液を供給する第1の供給管(銀溶液供給管)と、核含有還元剤溶液を供給する第2の供給管(還元剤溶液供給管)と、銀溶液と還元剤溶液とを混合する混合管とからなるものを用いることができる。このように、核含有還元剤溶液と粒子成長用銀溶液の各溶液を個別に反応管に供給し、混合管内で混合させて還元反応を生じさせる。具体的には、例えばY字管がその代表例として挙げられる。また、反応管においては、混合管内部であって各供給管から供給された溶液が合流した直後の位置からスタティックミキサーを配置させることができる。
各供給管や混合管の形状やサイズは、特に限定するものではないが、円柱状のものであることが、それぞれの配管同士を接続し易いという点で好ましい。また、特に混合管については、内部にスタティックミキサーを配置する必要があることから、円柱状のものであることが好ましい。
銀溶液供給管と還元剤溶液供給管の材質としては、それぞれ銀溶液や還元剤溶液と反応しない材質を選択すればよく、塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン等から選択することができる。また、混合管の材質としては、銀溶液や還元剤溶液と反応しないことと、還元反応後の銀が付着しないことが選択上重要であり、ガラスであることが好ましい。
スタティックミキサーの材質としては、混合管と同様にガラスであることが好ましい。また、スタティックミキサーのエレメントの数は、特に限定されないが、少な過ぎると還元反応が均一に進まず微粒ができることになり好ましくなく、一方で、多過ぎても無用に混合管を長くする必要が生じるため好ましくない。したがって、各溶液の流量と流速によって適宜決めることが好ましい。
反応管においては、銀溶液と還元剤溶液との反応液が、上述したスタティックミキサーにより十分に撹拌混合されることによってその反応液中における還元反応が100%終了するまで、混合管内を流れることが望ましい。また、例えば、スタティックミキサーの下流側に、蛇管等を接続させて反応場を十分な長さとして、還元反応が100%終了するようにしてもよい。これにより、未還元の銀錯体が残留して粗大な銀粒子が生成されることを防止できる。
粒子成長用銀溶液と核含有還元剤溶液をそれぞれ反応管に供給する手段としては、一般的な定量ポンプを用いることができるが、脈動の小さいものが好ましい。また、粒子成長用銀溶液と核含有還元剤溶液の流量は、一方が他方の10倍以下であることが好ましい。各溶液の流量に10倍を超える差があると、均一に混合されにくいという問題がある。また、各溶液の流量は、0.1L/分以上、10L/分以下とすることが好ましい。流量が0.1L/分未満の場合では、生産性が悪化するため好ましくない。一方で、流量が10L/分より多い場合では、均一に混合され難くなるため好ましくない。
反応管内で銀溶液と還元剤溶液とが混合されて還元反応が終了した反応液は、一旦、所定の槽に受けるようにすることが好ましい(以下、この槽を受槽という)。受槽内では、還元により生成した銀粒子が沈降しないように撹拌することが必要になる。銀粒子が沈降すると、銀粒子同士が凝集体を形成し分散性が悪くなってしまい好ましくない。受槽内での撹拌は、銀粒子が沈降しない程度の能力で撹拌すればよく、一般的な撹拌機を用いて撹拌すればよい。受槽に入った反応液は、ポンプによりフィルタープレス等のろ過機に送液され、連続的に次の工程へと流すことができる。
[2−4.表面処理工程]
表面処理工程S4では、粒子成長工程S3において生成した銀粒子スラリーを固液分離した後、洗浄する際に有機表面処理剤を添加して銀粒子表面に吸着させ、乾燥させる。銀粒子スラリーを固液分離する方法は特に限定されることはなく、公知の方法が用いられる。例えば、吸引ろ過やフィルタープレス等を用いることができる。
洗浄方法としては、特に限定されるものではないが、例えば銀粒子を洗浄液と混合させ、撹拌機又は超音波洗浄器を使用して撹拌した後、吸引ろ過やフィルタープレス等でろ過して回収する方法が用いられる。表面処理工程S4では、この洗浄方法において、銀粒子と洗浄液の混合、撹拌洗浄及びろ過からなる操作を、数回繰り返して行うことが好ましい。また、洗浄には、銀粉に対して有害な不純物元素を含有していない水を使用するのが好ましく、特に純水を使用することが好ましい。洗浄液としては、水の他に、水酸化ナトリウム等の無機アルカリ物質水溶液、アルコール等の親水性溶剤を添加した水、及びそれらの溶液の組合せも用いることができる。
ここで、表面処理工程S4では、洗浄液に有機表面処理剤を添加して銀粒子表面に吸着させ、銀粉の炭素含有量が0.15質量%以上となるように調整する。添加する有機表面処理剤としては、上述したカルボン酸、アミン、ベンゾトリアゾール、界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。炭素含有量は、有機表面処理剤の種類に応じて洗浄液中の濃度を調整する。有機表面処理剤の洗浄液中での好ましい濃度は、有機表面処理剤中の親水基、疎水基の比率等により異なる。したがって、予備試験等で有機表面処理剤の洗浄液中での濃度を調整しながら炭素含有量を確認し、表面処理条件を決めればよい。
次に、表面処理工程S4では、有機表面処理剤を吸着させた洗浄後の銀粉を乾燥させて、水分を蒸発させる。乾燥方法としては、特に限定されるものではないが、例えば洗浄後の銀粒子をステンレスバット上に置き、大気オーブン又は真空乾燥機等の市販の乾燥装置を用いて、40℃〜80℃程度の温度で加熱することにより行うことができる。
[2−5.解砕工程]
次に、解砕工程S5では、乾燥後の銀粒子を銀ペースト用として好ましい粒度まで十分に解砕する。解砕工程S5では、解砕後に微粒子や粗大粒子を除去するために分級処理してもよい。銀粉の製造方法においては、銀核から粒子成長させるため、銀粒子の粒度分布は狭いものとなっているが、分級処理することで、さらに粒度分布を狭いものとすることができ、銀ペースト用としてより好ましいものとなる。
ここで、解砕とは、乾燥後の銀粉を、表面処理前の一次粒子もしくは二次粒子の状態に解きほぐす操作であり、表面に吸着させた有機表面処理剤が剥離し、金属銀の新生面が生じない程度の十分弱いエネルギーで解砕することである。一次粒子とは球状の銀粒子の個々のことをいい、融着、固着等によって一次粒子が複数連結した銀粒子を二次粒子という。また、これらの一次粒子や二次粒子の銀粒子が凝集したものを凝集体という。
解砕方法は、有機表面処理剤を剥離させない程度であれば、特に限定されるものではなく、ジェットミル、高速撹拌機等の解砕力が弱い装置を用いることが好ましい。解砕力が強い装置では、有機表面処理剤を剥離させるばかりでなく、銀粒子が変形することがあり好ましくない。分級装置は、特に限定されるものではなく、気流式分級機、篩い等を用いることができる。解砕のエネルギーを過度に強くしすぎた場合には、銀粒子表面に吸着させた有機表面処理剤が剥離するとともに、二次粒子における一次粒子同士の結合部が破壊されることにより、銀粒子の表面に新たに露出した金属銀の新生面が活性点となり、保管中に再凝集し、ペースト中での分散性が低下する場合がある。
したがって、解砕する際には、吸着量を確認しながら解砕条件を調整し、有機表面処理剤が剥がれて銀粒子が露出しないような解砕処理を加える必要がある。解砕条件は、解砕する装置の大きさや作製した銀粉の状態等によって、適宜、解砕装置の回転数、解砕時間、温度等を決めればよく、予備試験により容易に条件を決めることができる。
例えば、高速撹拌機を用いる場合には、撹拌機の容量により条件は異なるが、銀粉の投入量に応じて、有機表面処理剤が剥離しないように撹拌機の周速と撹拌時間等を調整する。高速撹拌機を用いた場合の解砕条件としては、例えば、周速を10〜40m/秒にし、解砕時間を10〜60分程度にすることが好ましい。
以上詳細に説明したが、本実施の形態に係る銀粉の製造方法は、粒子成長用銀溶液と核含有還元剤溶液とを定量的かつ連続的に供給して混合することによって還元反応を生じさせているので、反応液中の銀濃度が一定に保たれ、一定の粒子成長を図ることができ、より一層に均一な粒径を有する銀粉を高い生産性でもって製造することができる。このように、本実施の形態に係る銀粉の製造方法は、銀粉の粒径制御が容易で量産性に優れており、その工業的価値は極めて大きい。
<3.感光性銀ペースト>
さらに、本実施の形態に係る感光性銀ペーストは、本実施の形態に係る銀粉と樹脂成分を有する。本実施の形態に係る感光性銀ペーストは、銀粉の分散性が高く、導電膜を均一に形成することが可能であり、紫外線露光に対する感度が良好で、体積抵抗率が低い導電膜を作製することが可能である。
感光性銀ペーストの樹脂成分としては、感光性樹脂、重合開始剤、溶剤等を含む。
感光性樹脂としては、感光性ポリマー、感光性モノマー類から選ばれるのがよく、アクリレート類やビニル系化合物類等が挙げられる。
重合開始剤としては、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。
溶剤としては、ターピネオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
(実施例1)
塩化銀43.8g(住友金属鉱山(株)製)を36℃の25質量%アンモニア水1130mLへ撹拌しながら投入して溶解した。この溶液を限外ろ過(分画分子量150,000)した後、純水91.5Lへ投入し、混合した。そこへ、50℃の純水50Lに溶解させた分散剤のポリビニルアルコール1760g((株)クラレ製、PVA205)を投入して得られた核生成用銀溶液(溶液中の銀濃度は0.23g/L、銀量に対するアンモニア量のモル比で50)を、36℃に保持した。
次に、強還元剤であるヒドラジン一水和物11.36mL(核生成用銀溶液中の銀量に対して3.0当量)を純水24.5Lへ添加して得られた還元剤溶液を、36℃に保持した。そして、核生成用銀溶液中に、408mL/分の流量で還元剤溶液を添加して銀核を生成させて銀核溶液とした。銀錯体を含む銀溶液の一部を採取して、分画分子量10,000の限外ろ過を行って固形粒子の含有量を求めたところ、溶液中の銀量に対して20質量ppm以下であることが確認された。
次に、得られた銀核溶液に、弱還元剤であるアスコルビン酸20.1kg(下記の粒子成長用銀溶液中の銀量に対して1.4当量)と純水40.9Lを添加して核含有還元剤溶液とした。
一方、液温32℃に保持した25質量%アンモニア水540Lに、塩化銀38.2kg(住友金属鉱山(株)製)を撹拌しながら投入し溶解して銀錯体溶液を得た。この溶液を限外ろ過(分画分子量150,000)した。さらに、消泡剤((株)アデカ製、アデカノールLG−126)を体積比で100倍に希釈し、この消泡剤希釈液374mLを銀錯体溶液に添加して得られた粒子成長用銀溶液(溶液中の銀濃度は53g/L)を、温浴中において32℃に保持した。粒子成長用銀溶液の一部を採取して、分画分子量10,000の限外ろ過を行って固形粒子の含有量を求めたところ、溶液中の銀量に対して20質量ppm以下であることが確認された。なお、核含有還元剤溶液に添加したポリビニルアルコールの添加量は、粒子成長用銀溶液中の銀量に対して5.0質量%となる。
チューブポンプ(MASTERFLEX製)を使用し、粒子成長用銀溶液と核含有還元剤溶液とを、それぞれ2.7L/分、0.90L/分で送液し混合して反応液とした。反応液中で銀錯体を還元して銀粒子スラリーを得て、受槽内に貯留した。2液の送液が終了した後、受槽内での撹拌を30分継続した。
撹拌終了後の反応液を、フィルタープレスを使用してろ過し、銀粒子を固液分離した。続いて、回収した銀粒子を0.05mol/LのNaOH水溶液343L中に投入し、そこへステアリン酸エマルジョン(中京油脂(株)製、セロゾール920)490gを添加し、15分間撹拌した後、フィルタープレスでろ過して回収した。回収した銀粒子を純水343L中に投入し、15分間の撹拌による洗浄と、フィルタープレスによるろ過からなる操作を行った。その後、得られた銀粒子ケーキ1〜1.5kgを、3Lのヘンシェルミキサー(日本コークス工業(株)製、FM3C)に投入した。ヘンシェルミキサー内では、真空中30分間毎分500回転(撹拌羽根の周速は4.0m/s)で乾燥、大気中30分間毎分2300回転(撹拌羽根の周速は18.2m/s)で予備解砕、大気中30分間毎分2880回転(撹拌羽根の周速は22.8m/s)で本解砕を行うことによって、銀粉を得た。
図2に得られた銀核の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示し、図3に銀粉のSEM像を示す。これらのSEM像から明らかなように、得られた銀核と銀粉の双方ともに、均一な粒子からなるものであった。また、SEM像より300個以上の一次粒子の粒径を測長して粒子数で平均することで求めた銀核と銀粉の平均粒径は、それぞれ0.050μmと0.53μmであり、測定結果より得られた銀粉の粒径の相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)は0.23であり、均一で微粒がないことが確認された。また、添加した核数から計算される粒径は0.50μmであり、狙いとした粒径の銀粉が得られていることが確認された。
また、得られた銀粉の炭素含有量は、0.22質量%であった。吸収量は、吸収量測定器(あさひ総研製、S−500)を用いて測定した。測定方法はJIS K6217−4(2008)に準じて行った。吸収量は8.5mL/100gであった。
次に、この銀粉を用いて、感光性銀ペーストを作製し、評価を行った。得られた銀粉70.0質量%、感光性ポリマー(側鎖にアクリル基とカルボキシル基を有するアクリル共重合樹脂)18.0質量%、感光性モノマー(エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート)4.5質量%、重合開始剤(2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド)3.6質量%、溶剤(ブチルカルビトールアセテート)3.9質量%となるように秤量し、3本ロールミル((株)小平製作所製、卓上型3本ロールミル RIII−1CR−2型)を用いて混練した。得られた銀ペーストをPET膜上にベタ塗印刷し、大気乾燥機(ADVANTEC製、FS−620)を用いて、80℃で30分間乾燥させた。
感度の評価は、乾燥した塗膜に、マスクを載せて露光し、液温30℃の0.5重量%の炭酸ナトリウム水溶液で現像したサンプルについて行った。その結果、高解像性の配線となっており、感度が良好であることが確認できた。
また、抵抗の評価は、80℃30分間乾燥後の乾燥膜を、120℃30分間熱処理したサンプルについて行った。体積抵抗率は、抵抗率計(三菱化学アリナテック製ロレスタGP)を用いて測定した。その結果、体積抵抗率は、8.5×10−5Ω・cmであり、このペーストは優れた導電性を有することが分かった。
(実施例2)
塩化銀2.18g(住友金属鉱山(株)製)を36℃の25質量%アンモニア水102mLと純水0.5Lとの混合液へ撹拌しながら投入して溶解した。そして、この溶液を限外ろ過(分画分子量150,000)した。そこへ、50℃の純水6.8Lに溶解させた分散剤のポリビニルアルコール87.2g((株)クラレ製、PVA205)を投入して得られた核生成用銀溶液(溶液中の銀濃度は0.23g/L、銀量に対するアンモニア量のモル比で90)を、36℃に保持した。
次に、強還元剤であるヒドラジン一水和物0.57mL(核生成用銀溶液中の銀量に対して3.0当量)を純水1.22Lへ添加して得られた還元剤溶液を、36℃に保持した。そして、核生成用銀溶液中に、61mL/分の流量で還元剤溶液を添加して銀核を生成させて銀核溶液とした。
次に、得られた銀核溶液に、弱還元剤であるアスコルビン酸1006g(下記の粒子成長用銀溶液中の銀量に対して1.4当量)を添加して核含有還元剤溶液とした。
一方、33℃の温浴中において液温32℃に保持した25質量%アンモニア水18Lに、塩化銀1270g(住友金属鉱山(株)製)を撹拌しながら投入し、溶解して塩錯体溶液を得た。そして、この溶液を限外ろ過(分画分子量150,000)した。さらに、消泡剤((株)アデカ製、アデカノールLG−126)を体積比で100倍に希釈し、この消泡剤希釈液12.5mLを塩錯体溶液に添加して得られた粒子成長用銀溶液(溶液中の銀濃度は53g/L)を、温浴中において32℃に保持した。
粒子成長用銀溶液の一部を採取して、分画分子量10,000の限外ろ過を行って固形粒子の含有量を求めたところ、溶液中の銀量に対して20質量ppm以下であることが確認された。なお、核含有還元剤溶液に添加したポリビニルアルコールの添加量は、粒子成長用銀溶液中の銀量に対して5.0質量%となる。
チューブポンプ(MASTERFLEX製)を使用し、粒子成長用銀溶液と核含有還元剤溶液とを、それぞれ2.7L/分、0.90L/分で送液し混合して反応液とした。反応液中で銀錯体を還元して銀粒子スラリーを得て、受槽内に貯留した。2液の送液が終了した後、受槽内での撹拌を30分継続した。
撹拌終了後の反応液を、フィルタープレスを使用してろ過し、銀粒子を固液分離した。続いて、回収した銀粒子を0.05mol/LのNaOH水溶液13L中に投入し、そこへ、オレイン酸(和光純薬工業(株)製)3.26gを添加し、15分間撹拌した後、フィルタープレスでろ過して回収した。回収した銀粒子を純水13L中に投入し、15分間の撹拌による洗浄と、フィルタープレスによるろ過からなる操作を行った。その後、得られた銀粒子ケーキを、3Lのヘンシェルミキサー(日本コークス工業(株)製、FM3C)に投入した。ヘンシェルミキサー内では、真空中30分間毎分500回転(撹拌羽根の周速は4.0m/s)で乾燥、大気中30分間毎分2300回転(撹拌羽根の周速は18.2m/s)で予備解砕、大気中30分間毎分2880回転(撹拌羽根の周速は22.8m/s)で本解砕を行うことによって、銀粉を得た。
図4に得られた銀核の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示し、図5に銀粉のSEM像を示す。これらのSEM像から明らかなように、得られた銀核と銀粉の双方ともに、均一な粒子からなるものであった。また、SEM像より300個以上の一次粒子の粒径を測長して粒子数で平均することで求めた銀核と銀粉の平均粒径は、それぞれ0.047μmと0.48μmであり、測定結果より得られた銀粉の粒径の相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)は0.26であり、均一で微粒がないことが確認された。また、添加した核数から計算される粒径は0.47μmであり、狙いとした粒径の銀粉が得られていることが確認された。
また、得られた銀粉の炭素含有量は、0.17質量%であった。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は8.6mL/100gであった。
また、実施例1と同様の方法で、感光性銀ペーストを作製し、感度と体積抵抗率の評価を行った。その結果、高解像性の配線となっており、感度が良好であることが確認できた。体積抵抗率は、8.7×10−5Ω・cmであり、そのペーストは優れた導電性を有することが分かった。
(実施例3)
塩化銀29.2g(住友金属鉱山(株)製)を36℃の25質量%アンモニア水1235mLへ撹拌しながら投入して溶解した。そこへ、50℃の純水50Lに溶解させた分散剤のポリビニルアルコール1760g((株)クラレ製、PVA205)を投入して得られた核生成用銀溶液(溶液中の銀濃度は0.15g/L、銀量に対するアンモニア量のモル比で80)を使用する以外は、実施例1と同様にして銀粉を作製した。
図6に得られた銀核の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示し、図7に銀粉のSEM像を示す。これらのSEM像から明らかなように、得られた銀核と銀粉の双方ともに、均一な粒子からなるものであった。また、SEM像より300個以上の一次粒子の粒径を測長して粒子数で平均することで求めた銀核と銀粉の平均粒径は、それぞれ0.073μmと0.83μmであり、測定結果より得られた銀粉の粒径の相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)は0.21であり、均一で微粒がないことが確認された。また、添加した核数から計算される粒径は0.85μmであり、狙いとした粒径の銀粉が得られていることが確認された。
得られた銀粉の炭素含有量は、0.21質量%であった。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は7.5mL/100gであった。
また、実施例1と同様の方法で、感光性銀ペーストを作製し、感度と体積抵抗率の評価を行った。その結果、高解像性の配線となっており、感度が良好であることが確認できた。体積抵抗率は、9.8×10−5Ω・cmであり、そのペーストは優れた導電性を有することが分かった。
(実施例4)
表面処理剤としてステアリン酸エマルジョンを346g添加する以外は、実施例1と同様にして銀粉を作製した。
図8に得られた銀核の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示し、図9に銀粉のSEM像を示す。これらのSEM像から明らかなように、得られた銀核と銀粉の双方ともに、均一な粒子からなるものであった。また、SEM像より300個以上の一次粒子の粒径を測長して粒子数で平均することで求めた銀核と銀粉の平均粒径は、それぞれ0.040μmと0.47μmであり、測定結果より得られた銀粉の粒径の相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)は0.21であり、均一で微粒がないことが確認された。また、添加した核数から計算される粒径は0.42μmであり、狙いとした粒径の銀粉が得られていることが確認された。
得られた銀粉の炭素含有量は、0.18質量%であった。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は8.5mL/100gであった。
また、実施例1と同様の方法で、感光性銀ペーストを作製し、感度と体積抵抗率の評価を行った。その結果、高解像性の配線となっており、感度が良好であることが確認できた。体積抵抗率は、9.0×10−5Ω・cmであり、そのペーストは優れた導電性を有することが分かった。
(比較例1)
塩化銀1.46g(住友金属鉱山(株)製)を36℃の25質量%アンモニア水69mLと純水0.5Lとの混合液へ撹拌しながら投入して溶解した。そこへ、50℃の純水6.8Lに溶解させた分散剤のポリビニルアルコール87.2g((株)クラレ製、PVA205)を投入して得られた核生成用銀溶液(溶液中の銀濃度は0.15g/L、銀量に対するアンモニア量のモル比で90)を、36℃に保持した。
次に、強還元剤であるヒドラジン一水和物0.38mL(核生成用銀溶液中の銀量に対して3.0当量)を純水1.22Lへ添加して得られた還元剤溶液を、36℃に保持した。そして、核生成用銀溶液中に、61mL/分の流量で還元剤溶液を添加して銀核を生成させた。この溶液を2.40L分取し、純水8.4Lに溶解させた分散剤のポリビニルアルコール63.8gと混合し、銀核溶液とした。
次に、得られた銀核溶液に、弱還元剤であるアスコルビン酸1221g(下記の粒子成長用銀溶液中の銀量に対して1.7当量)を添加して核含有還元剤溶液とした。
一方、33℃の温浴中において液温32℃に保持した25質量%アンモニア水18Lに、塩化銀1270g(住友金属鉱山(株)製)を撹拌しながら投入し、溶解して塩錯体溶液を得た。そして、この溶液を限外ろ過(分画分子量150,000)した。さらに、消泡剤((株)アデカ製、アデカノールLG−126)を体積比で100倍に希釈し、この消泡剤希釈液12.5mLを塩錯体溶液に添加して得られた粒子成長用銀溶液(溶液中の銀濃度は53g/L)を、温浴中において32℃に保持した。
粒子成長用銀溶液の一部を採取して、分画分子量10,000の限外ろ過を行って固形粒子の含有量を求めたところ、溶液中の銀量に対して20質量ppm以下であることが確認された。なお、核含有還元剤溶液に添加したポリビニルアルコールの添加量は、粒子成長用銀溶液中の銀量に対して5.0質量%となる。
チューブポンプ(MASTERFLEX製)を使用し、粒子成長用銀溶液と核含有還元剤溶液とを、それぞれ2.7L/分、0.90L/分で送液し混合して反応液とした。反応液中で銀錯体を還元して銀粒子スラリーを得て、受槽内に貯留した。2液の送液が終了した後、受槽内での撹拌を30分継続した。
撹拌終了後の反応液を、フィルタープレスを使用してろ過し、銀粒子を固液分離した。続いて、回収した銀粒子を0.05mol/LのNaOH水溶液13L中に投入し、そこへ、ステアリン酸エマルジョン(中京油脂(株)製、セロゾール920)16.3gを添加し、15分間撹拌した後、フィルタープレスでろ過して回収した。回収した銀粒子を純水13L中に投入し、15分間の撹拌による洗浄と、フィルタープレスによるろ過からなる操作を行った。その後、得られた銀粒子ケーキを、3Lのヘンシェルミキサー(日本コークス工業(株)製、FM3C)に投入した。ヘンシェルミキサー内では、真空中30分間毎分500回転(撹拌羽根の周速は4.0m/s)で乾燥、大気中30分間毎分2300回転(撹拌羽根の周速は18.2m/s)で予備解砕、大気中30分間毎分2880回転(撹拌羽根の周速は22.8m/s)で本解砕を行うことによって、銀粉を得た。
図10に得られた銀核の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示し、図11に銀粉のSEM像を示す。これらのSEM像から明らかなように、得られた銀核と銀粉の双方ともに、均一な粒子からなるものであった。また、SEM像より300個以上の一次粒子の粒径を測長して粒子数で平均することで求めた銀核と銀粉の平均粒径は、それぞれ0.074μmと1.43μmであり、測定結果より得られた銀粉の粒径の相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)は0.19であり、均一で微粒がないことが確認された。また、添加した核数から計算される粒径は1.35μmであり、狙いとした粒径の銀粉が得られていることが確認された。
得られた銀粉の炭素含有量は、0.17質量%であった。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は5.2mL/100gであった。
また、実施例1と同様の方法で、感光性銀ペーストを作製し、感度と体積抵抗率の評価を行った。その結果、高解像性の配線となっており、感度が良好であることが確認できた。しかしながら、体積抵抗率は、3.2×10−4Ω・cmであり、そのペーストの導電性は劣ることが分かった。
(比較例2)
核生成用銀溶液で25質量%アンモニア水68mLを添加し(銀量に対するアンモニア量のモル比で60)、表面処理剤としてステアリン酸エマルジョンを7.7g添加する以外は、実施例2と同様にして銀粉を作製した。
図12に得られた銀核の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示し、図13に銀粉のSEM像を示す。これらのSEM像から明らかなように、得られた銀核と銀粉の双方ともに、均一な粒子からなるものであった。また、SEM像より300個以上の一次粒子の粒径を測長して粒子数で平均することで求めた銀核と銀粉の平均粒径は、それぞれ0.042μmと0.42μmであり、測定結果より得られた銀粉の粒径の相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)は0.23であり、均一で微粒がないことが確認された。また、添加した核数から計算される粒径は0.42μmであり、狙いとした粒径の銀粉が得られていることが確認された。
得られた銀粉の炭素含有量は、0.13質量%であった。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は9.5mLであった。
また、実施例1と同様の方法で、感光性銀ペーストを作製し、感度の評価を行った。その結果、乾燥膜は一部に硬化していない部分がみられたため、感度が劣ることがわかった。
(比較例3)
核生成用銀溶液で25質量%アンモニア水927mLを添加し(銀量に対するアンモニア量のモル比で40)、核含有還元剤溶液でアスコルビン酸を22.3kgを添加し(粒子成長用銀溶液中の銀量に対して1.55当量)、表面処理剤としてラウリン酸(和光純薬工業(株)製)を97.9g添加する以外は、実施例1と同様にして銀粉を作製した。
図14に得られた銀核の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示し、図15に銀粉のSEM像を示す。これらのSEM像から明らかなように、得られた銀核と銀粉の双方ともに、均一な粒子からなるものであった。また、SEM像より300個以上の一次粒子の粒径を測長して粒子数で平均することで求めた銀核と銀粉の平均粒径は、それぞれ0.042μmと0.47μmであり、測定結果より得られた銀粉の粒径の相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)は0.21であり、均一で微粒がないことが確認された。また、添加した核数から計算される粒径は0.42μmであり、狙いとした粒径の銀粉が得られていることが確認された。
得られた銀粉の炭素含有量は、0.10質量%であった。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は8.4mL/100gであった。
また、実施例1と同様の方法で、感光性銀ペーストを作製し、感度と体積抵抗率の評価を行った。その結果、高解像性の配線となっており、感度が良好であることが確認できた。しかしながら、体積抵抗率は、6.2×10−4Ω・cmであり、そのペーストの導電性は劣ることが分かった。
(比較例4)
核含有還元剤溶液でアスコルビン酸を23.0kgを添加する(粒子成長用銀溶液中の銀量に対して1.6当量)以外は、実施例1と同様にして銀粉を作製した。
図16に得られた銀核の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示し、図17に銀粉のSEM像を示す。これらのSEM像から明らかなように、得られた銀核と銀粉の双方ともに、均一な粒子からなるものであった。また、SEM像より300個以上の一次粒子の粒径を測長して粒子数で平均することで求めた銀核と銀粉の平均粒径は、それぞれ0.040μmと0.45μmであり、測定結果より得られた銀粉の粒径の相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)は0.20であり、均一で微粒がないことが確認された。また、添加した核数から計算される粒径は0.40μmであり、狙いとした粒径の銀粉が得られていることが確認された。
得られた銀粉の炭素含有量は、0.23質量%であった。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は6.2mL/100gであった。
また、実施例1と同様の方法で、感光性銀ペーストを作製し、感度と体積抵抗率の評価を行った。その結果、高解像性の配線となっており、感度が良好であることが確認できた。しかしながら、体積抵抗率は、2.3×10−3Ω・cmであり、そのペーストの導電性は劣ることが分かった。