JP5954473B2 - 銀粉の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、銀粉の製造方法に関するものであり、更に詳しくは、電子機器の配線層や電極などの形成に利用される銀ペーストの主たる成分となる銀粉の製造方法に関する。
電子機器における配線層や電極などの形成には、樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペーストのような銀ペーストが多用されている。即ち、これらの銀ペーストを各種基材上に塗布又は印刷した後、加熱硬化あるいは加熱焼成することによって、配線層や電極などとなる導電膜を形成することができる。
例えば、樹脂型銀ペーストは、銀粉、樹脂、硬化剤、溶剤などからなり、導電体回路パターン又は端子の上に印刷し、100℃〜200℃で加熱硬化させて導電膜とし、配線や電極を形成する。また、焼成型銀ペーストは、銀粉、ガラス、溶剤などからなり、導電体回路パターン又は端子の上に印刷し、600℃〜800℃に加熱焼成して導電膜とし、配線や電極を形成する。これらの銀ペーストで形成された配線や電極では、銀粉が連なることで電気的に接続した電流パスが形成される。
銀ペーストに使用される銀粉は、粒径が0.1μmから数μmであり、形成する配線の太さや電極の厚さ等によって使用される銀粉の粒径が異なる。また、銀ペースト中に均一に銀粉を分散させることにより、均一な太さの配線あるいは均一な厚さの電極を形成することができる。
銀ペースト用の銀粉に求められる特性は、用途及び使用条件により様々であるが、一般的で且つ重要なことは、粒径が均一で凝集が少なく、ペースト中への分散性が高いことである。粒径が均一で且つペースト中への分散性が高いと硬化あるいは焼成が均一に進み、低抵抗で強度の大きい導電膜を形成できるからである。逆に、粒径が不均一で分散性が悪いと、印刷膜中に銀粒子が均一に存在しなくなるため、配線や電極の太さや厚さが不均一となるばかりか、硬化あるいは焼成が不均一となることで導電膜の抵抗が大きくなったり、導電膜が脆く弱いものになったりしやすい。
また、銀粉は、製造してから使用されるまでにある程度の保管期間があるため、使用されるまでの期間に凝集すると再解砕が必要となるばかりか、製造時の良好な粒度分布が損なわれ、銀ペーストとされて用いられても本来の性能を十分に発揮できないおそれがある。したがって、上記保管期間中に凝集などにより粗大粒子が生成されないことも重要な特性である。
更に、銀ペースト用の銀粉に求められる事項として、製造コストが低いことも重要である。銀粉は、銀ペーストの主成分であるため、ペースト価格に占める割合が大きいからである。製造コストの低減のためには、生産性が高いことや、使用する原料や材料の単価が低いことだけでなく、廃液や排気の処理コストが低いことなども重要である。
上記銀ペーストに使用される銀粉の製造としては、例えば特許文献1のように、安価な塩化銀を原料に用いた製造が行われている。この方法によれば、粒径0.3〜2μmの銀粒子が得られるが、電子顕微鏡像からの粒径で、実際の粒度分布についての記載はされておらず、乾燥工程で凝集体が形成する可能性がある。
また、特許文献2では、硝酸銀などの銀塩のアンミン錯体及び還元反応の際に媒晶剤として機能する重金属のアンミン錯体を含むスラリーと、還元剤である亜硫酸カリ及び保護コロイドとしてのアラビアゴムを含有する溶液とを混合して、銀塩のアンミン錯体を還元する方法が記載されている。この方法によれば、1次粒子の平均粒径0.1〜1μmの、低凝集で且つ粒度分布の狭い粒状銀粉が得られる。しかしながら、この方法でも、乾燥工程について詳しく言及されておらず、また、凝集性については電子顕微鏡像からの推定で、実際の粒度分布測定の結果は記載されていない。
還元工程後の再凝集を懸念して、後処理工程を導入した特許文献3では、還元剤含有水溶液の添加速度を1当量/分以上とし、得られた銀粉含有スラリーを濾過、水洗して含水率20〜80%のウエットケーキとし、これを混合機中で混合解砕するか、混合機中で分散剤とともに混合解砕しているので、分散性の優れた銀粉を得ることができるとされている。しかしながら、混合解砕した後、濾過、水洗し、乾燥しているため、銀粉自体は再凝集の可能性については否定できず、最大粒径の記載もない。また、焼成後の塗膜の表面粗さについて記載されているが、850℃という高温で焼成しているためにレベリングが起こり、実際の最大粒径から反映された数値とはいえない。
また、特許文献4では、湿式還元法により製造した銀粉に、粒子同士を機械的に衝突させる表面平滑処理を施した後、分級により銀の凝集体を除去している。表面平滑化処理は、乾燥した銀粉を、粒子を機械的に流動化させることができる装置に投入して、銀粉同士を機械的に衝突させることで行っている。この方法によると分級に頼るしかなく、実際の分級効率なども記載されておらず、コスト高になる。また、強解砕することで表面の平滑化を行っていため、表面のダメージが大きいものと推察できる。
特許文献5では、銀イオンを含有する水性反応系に還元剤を加えることにより、銀粉を還元析出させ、その後、反応スラリーを濾過して得たケーキを気流式乾燥機にて乾燥することによって平均粒径0.1〜5μmの銀粉を得ている。最大粒径も実施例によると10μm以下が示されているが、測定前に超音波洗浄機で相当分散処理を施していることから、実際の乾燥状態での粒度分布とは言えない。
特許文献6では、銀イオン含有溶液と還元剤含有溶液とを接触混合させる湿式還元法を用い、銀イオン含有溶液は硝酸銀水溶液と亜硝酸イオンを含み、還元剤含有液はアスコルビン酸、アスコルビン酸の異性体の群から選ばれたいずれか1種以上を水に溶解させたものを含む銀粉の製造方法である。レーザー回折法平均粒径は4〜6μmで、結晶子サイズは540〜600Åとしているが、最大粒径に関しては15μm以上が記載されている。
特許文献7では、銀アンミン錯体水溶液と還元剤水溶液とを異なる流路より流し、接触混合して還元析出させるとともに、この銀粒子の還元析出前の反応系に種となる粒子及びイミン化合物を混合して銀粉を作製している。レーザー回折法D50は0.1μm以上、1μm未満で、最大粒径に関しての記載はない。結晶子サイズは15〜40nm(150〜400Å)としている。
上記のごとく、銀粉の製造方法については多くの提案がなされているが、分級処理を施さず、分散性が良く、再凝集も起こりにくく、且つ、低コストでできる銀粉の製造方法については、現状ほとんど報告がなされていない。
特開2010−043337号公報 特開平11−189812号公報 特許第4012960号公報 特開2007−186798号公報 特開2008−1974号公報 特開2008−179851号公報 特開2010−70793号公報
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、粗大粒子の発生及び粒子の凝集が抑制された銀ペースト用の銀粉、及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者は、銀ペースト用の銀粉の凝集について鋭意、検討を進めた結果、特定条件で乾燥と解砕を同時に行うことにより、銀粒子表面へのダメージを低減できるとの知見を得た。また、本発明者は、最終的な粒度分布を調整するための解砕による銀粒子表面へのダメージが保管中の凝集に大きな影響を及ぼすとの知見を得て、本発明に至った。
即ち、本発明に係る銀粉の製造方法は、銀錯体を含む銀溶液と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して得た銀粒子スラリーを洗浄、濾過した後、乾燥することによって得られる銀粉の製造方法であって、乾燥は、真空減圧雰囲気の転動攪拌機内で50℃〜80℃まで加熱するとともに攪拌することにより、乾燥と解砕を同時に行うことを特徴とする。
本発明によれば、粗大粒子の発生及び粒子の凝集を抑制でき、更には保管時の凝集も抑制することができる。また、本発明によれば、ペースト原料として使用されるまで銀粉が凝集することなく、ペーストとして用いたときに銀粉本来の性能を発揮でき、銀ペースト用として好適である。
実施例1の銀粉の粒度分布を示す図である。 実施例2及び3の銀粉の粒度分布を示す図である。 比較例1の銀粉の粒度分布を示す図である。
以下に、本発明を適用した銀粉及び銀粉の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。
銀粉は、硬化剤、樹脂、溶剤等から構成される樹脂型銀ペーストやガラス、溶剤等から構成される焼成型銀ペーストに含有される。銀粉が含有された樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペーストは、配線層や電極の形成に用いられる。銀粉を銀ペーストに含有させる場合には、銀ペーストの硬化や焼成、形成される配線や電極の太さが均一となるように、凝集が少ない銀粉であることが求められる。本実施の形態の銀粉の製造方法では、湿式還元法により銀粒子を作製し、得られた銀粒子の凝集を抑制し、最大粒径が小さく、粗大粒子の発生及び粒子の凝集が抑制され、更には保管時における凝集も抑制された銀粉を得ることができる。
銀粉の製造方法は、硝酸銀や塩化銀等を錯化剤により溶解して得た銀錯体を含む溶液と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して銀粒子を得る湿式法を用い、この湿式法により銀粒子を作製し、表面処理後に洗浄した銀粒子スラリーを真空減圧雰囲気の転動攪拌機内で加熱するとともに攪拌することにより、乾燥と解砕を同時に行う。ここで、加熱状態で乾燥と解砕を同時に行うことに重要な意義がある。
従来の湿式法による銀粉の製造方法では、銀粒子の乾燥後に所望の粒度分布となるように解砕するが、乾燥後に解砕を個別に行うと、解砕により銀粒子の表面にダメージ、即ち歪が発生する。銀粉は、元来凝集しやすいという特性を持っているが、この歪により凝集が促進され、製造後からペースト原料として用いられるまでの間に凝集を起こしてしまう。
本実施の形態の銀粉の製造方法は、加熱状態で乾燥と解砕を同時に行うことにより、従来の製造方法で生じていた歪の生成を大幅に低減することができる。これにより、この銀粉の製造方法により得られた銀粉は、ペースト原料として用いられるまでの間の凝集を抑制することができる。
また、湿式法で得られた銀粒子は、洗浄後のスラリー中において凝集が生じ、乾燥によりさらに凝集が進行する。本実施の形態の銀粉の製造方法では、加熱状態で乾燥と解砕を同時に行うことにより、スラリー中の凝集を解砕するとともに、乾燥時の凝集を抑制することができるため、所望の粒度分布を有する銀粉が得られる。
この銀粉の製造方法では、転動攪拌機内で攪拌することにより銀粒子表面に歪が発生するが、銀は容易に回復するため、加熱状態で撹拌することにより歪が発生してもその都度歪みが除去され、大幅に歪が蓄積されることなく所望の粒度分布に調整することができる。
具体的に本発明の銀粉の製造方法を工程毎に詳細に説明する。
銀粉の製造方法は、先ず、銀塩を錯化剤により溶解して得た銀錯体を含む銀錯体溶液と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して銀粒子を析出させることにより銀粒子スラリーを得る。
この銀粒子スラリーを生成する工程では、錯化剤を用いて硝酸銀や塩化銀等を溶解し、銀錯体を含む銀錯体溶液を調製する。錯化剤としては、特に限定されるものではないが、硝酸銀や塩化銀等と錯体を形成しやすく且つ不純物として残留する成分が含まれないアンモニア水を用いることが好ましい。また、硝酸銀や塩化銀等は、高純度のものを用いることが好ましく、取り扱いが容易でNO等の排出による環境負荷が小さい塩化銀を用いることが好ましい。
硝酸銀や塩化銀等の溶解方法としては、例えば錯化剤としてアンモニア水を用いる場合、硝酸銀や塩化銀等のスラリーを作製してアンモニア水を添加してもよいが、錯体濃度を高めて生産性を上げるためにはアンモニア水中に硝酸銀や塩化銀等を添加して溶解することが好ましい。硝酸銀や塩化銀等を溶解するアンモニア水は、工業的に用いられる通常のものでよいが、不純物混入を防止するため可能な限り高純度のものが好ましい。
次に、銀錯体溶液と混合する還元剤溶液を調製する。還元剤としては、一般的なヒドラジンやホルマリン、アスコルビン酸などを用いることができる。アスコルビン酸は、還元作用が緩やかであるため、銀粒子中の結晶粒が成長しやすく特に好ましい。ヒドラジンやホルマリンは、還元力が強いため、銀粒子中の結晶が小さくなりやすい。また、反応の均一性や反応速度を制御するためには、還元剤を純水等で溶解又は希釈して濃度調整した水溶液として用いてもよい。
還元剤溶液には、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンの少なくとも1種を含む水溶性高分子を添加することが好ましい。水溶性高分子を添加しない場合には、還元により発生した核や核が成長した銀粒子が凝集を起こし、分散性が悪いものとなってしまう。水溶性高分子の添加量は、水溶性高分子の種類及び得ようとする銀粉の粒径により適宜決めればよいが、銀溶液中に含有される銀に対して0.1〜20質量%の範囲とすることが好ましい。
水溶性高分子は、銀錯体溶液に混合しておくことも可能であるが、還元剤溶液に水溶性高分子を混合しておく方が分散性の良い銀粉が得られるため好ましい。このことは、実験的に確認された結果であるが、還元剤溶液と水溶性高分子を混合しておくことで核発生又は核成長の場に水溶性高分子が存在し、生成した核又は銀粒子の表面に迅速に水溶性高分子が吸着するためと考えられる。
水溶性高分子を添加した場合には、還元反応時に発泡することがあるため、銀錯体溶液又は還元剤混合液に消泡剤を添加してもよい。消泡剤は、特に限定されるものではなく、通常還元時に用いられているものでよい。ただし、還元反応を阻害させないため、消泡剤の添加量は消泡効果が得られる最小限程度にしておくことが好ましい。
銀錯体溶液及び還元剤溶液を調製する際に用いる水については、不純物の混入を防止するため、不純物が除去された水を用いることが好ましく、純水を用いることが特に好ましい。
次に、上記のごとく調製した銀溶液と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して銀粒子を析出させる還元工程を行う。この還元反応は、バッチ法でもよく、チューブリアクター法やオーバーフロー法のような連続還元法を用いて行ってもよい。均一な粒径を有する銀粒子を得るためには、粒成長時間の制御が容易なチューブリアクター法を用いることが好ましい。また、銀粒子の粒径は、銀溶液と還元剤溶液の混合速度や銀錯体の還元速度で制御することが可能であり、目的とする粒径に容易に制御することができる。銀錯体を還元して得られた銀粒子スラリーを濾過し、固液分離して銀粒子を得た。この銀粒子の走査電子顕微鏡観察による平均粒径は、0.3μm〜2.0μm、好ましくは0.5μm〜1.5μmである。銀粒子の平均粒径は、形成する配線の太さや電極の厚さによって適宜調整する。
次に、得られた銀粒子を洗浄する洗浄工程を行う。銀粒子には、表面に不純物、原料の塩化物等に含有されていた塩素等の多量の陰イオン及び水溶性高分子が吸着している。従って、銀ペーストを用いて形成される配線層や電極の導電性を十分なものとするためには、得られた銀粒子スラリーを洗浄し、銀粒子の表面に吸着されている陰イオン及び過剰に付着した水溶性高分子を除去する必要がある。なお、これらを除去しても、後述する表面処理により適正量の界面活性剤や分散剤が銀粒子の表面に吸着されているため、銀粒子の凝集抑制と配線層や電極の高導電性を両立させることができる。
洗浄方法としては、スラリーから固液分離した銀粒子を洗浄液に投入し、撹拌機又は超音波洗浄器を使用して撹拌した後、再び固液分離して銀粒子を回収する方法が一般的に用いられる。また、銀粒子表面の吸着物を十分に除去するためには、洗浄液に銀粒子を投入して撹拌洗浄し、固液分離を行う操作を少なくとも2回繰り返して行うことが好ましくい。
洗浄液は、銀粒子の表面に吸着されている陰イオン及び水溶性高分子を効率よく除去するために、アルカリ性溶液又は水を用いる。アルカリ性溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、アンモニア水のいずれか1つ、または混合して用いることが好ましい。その他に、無機化合物又は有機化合物からなるアルカリ性溶液を用いても問題はない。洗浄液に用いる水は、銀粒子に対して有害な不純物元素を含有していない水が好ましく、特に純水が好ましい。
アルカリ性溶液の濃度は、0.01〜20質量%が好ましい。0.01質量%未満では、洗浄効果が不十分であり、20質量%を超える場合では、銀粒子にアルカリ金属塩が許容以上に残留することがある。従って、高濃度のアルカリ性溶液を用いた場合は、洗浄後に十分な純水洗浄を行い、アルカリ金属塩の残留を抑制する必要がある。
次に、銀粒子の表面に被覆層を形成する表面処理を行う。アルカリ性溶液や水で洗浄すると、銀粒子の表面に吸着した水溶性高分子が容易に除去されてしまうため、水溶性高分子が除去された部分で銀粒子の凝集が起こりやすくなる。このため、洗浄した後に表面処理を行うと、凝集した銀粒子の表面に表面処理を行うことになり、乾燥後の解砕により表面処理ができていない面が現われて、表面処理が不均一になることがある。しかしながら、後述するように、加熱状態で乾燥と解砕を同時に行うことによって、銀粒子表面の歪の生成が抑制されているため、洗浄後の表面処理により部分的に表面処理されていない面が現れても、保管中の凝集が起こりにくい。凝集をより抑制するために洗浄前、あるいは洗浄工程中に表面処理を行ってもよい。
表面処理は、銀粒子に界面活性剤で表面処理を行うか、より好ましくは界面活性剤と分散剤で表面処理を行う。表面処理は、カチオン系界面活性剤を用いることが好ましい。カチオン系界面活性剤は、pHの影響を受けることなく正イオンに電離するため、銀粉への吸着性の改善効果が得られる。銀粒子に対して表面処理を行った場合には、硝酸銀や塩化銀等から得た銀錯体を還元して得た銀粒子の表面に、例えば電離状態で少なくとも正イオンとなり得るカチオン系界面活性剤が吸着しているか、又は銀粒子表面に吸着している界面活性剤に更に分散剤が吸着している。
銀粒子の洗浄及び表面処理に用いられる装置は、通常用いられるものでよく、例えば撹拌機付の反応槽等を用いることができる。
界面活性剤と分散剤とによって表面処理を行った場合には、銀粒子の表面に界面活性剤を強固に吸着させることができ、その界面活性剤を介して分散剤を強固に吸着させることができる。表面処理が施された銀粉は、界面活性剤と分散剤の効果により銀粉の凝集が抑制され、有機溶媒を用いた銀ペースト中でも界面活性剤及び分散剤が剥離しにくく凝集が抑制されて、銀ペースト中において良好な分散性が得られる。
表面処理後は、固液分離して銀粒子を回収する。固液分離に用いられる装置は、通常用いられるものでよく、例えば遠心機、吸引濾過機、フィルタープレス等を用いることができる。
次に、固液分離後に、真空減圧雰囲気において転動攪拌機内で加熱するとともに攪拌することにより乾燥と解砕を同時に行う。乾燥と解砕を同時に行うことによって、乾燥による強固な凝集が生じる前に解砕するため、解砕により大きな歪が生成されることを防止でき、また銀粒子表面に形成した被覆層が破壊されることを防止できる。この乾燥と解砕では、銀粒子の歪の生成を大幅に低減することができるため、銀粒子の凝集を抑制することができる。この乾燥と解砕を真空雰囲気で行うことによって、乾燥を短時間で行うことができ、酸化による銀粉の劣化も防止することができる。
乾燥及び解砕を同時行う際の加熱温度としては、50℃以上の温度とすることが好ましく、60℃〜80℃であることが好ましい。また、銀粉中の水分量が多い乾燥及び解砕の初期の段階では、50℃を越える温度とならずともよい。乾燥及び解砕の初期では、設定した加熱温度以上、好ましくはこの設定した加熱温度との差が高温側に10℃以下の雰囲気の温度で加熱すればよい。そして、乾燥と解砕が完了するまでに50℃〜80℃の温度範囲まで昇温すればよい。これは、水分量の多い状態では、銀粒子の凝集力が弱く、また、再凝集も少ないため、解砕による歪発生も少ないが、水分量が減少すると凝集力も大きくなるとともに再凝集しやすくなるため、解砕による歪発生が多くなるからである。すなわち、銀の回復により歪を消滅させるために必要な温度も高くなるため、水分量が少なくなる乾燥の完了期に、銀粉の温度を上記温度範囲の50〜80℃にすることが必要となる。乾燥と解砕を行う雰囲気の温度を50〜80℃の条件とすることで、銀粉の水分量の減少とともに銀粉の温度も上昇して乾燥と解砕を同時に行うことができる。
なお、歪を解消するための目的であれば、乾燥後に解砕して加熱する方法や、乾燥後に加熱状態で解砕する方法も考えられるが、乾燥により強固な凝集を解砕すると、銀粒子に対する表面処理より銀粒子の表面に形成され、凝集を抑制し、分散性を良くする被服層が破壊され、保管時の凝集抑制の効果が十分に得られない。
また、転動攪拌機の攪拌羽根の周速は、40m/秒以下とすることが好ましく、7m/秒〜20m/秒とすることがより好ましい。周速が40m/秒を越えると、銀粒子表面の歪が大きくなり過ぎることがある。この銀粉の製造方法では、乾燥による強固な凝集が起きる前の銀スラリーを乾燥と同時に解砕するため、撹拌羽根の周速が40m/秒以下の条件の解砕でも十分である。
乾燥と解砕を同時に実施する時間は、特に限定されるものではなく、処理する銀粉の量、水分により異なるが、銀粉が十分に乾燥される時間とすればよい。一方で、長時間の実施では、銀粒子の被覆層が剥離することがあるため、60分間以内とすることが好ましい。
また、この銀粉の製造方法において、銀粒子の粒度分布をさらに制御するためには、乾燥と解砕を同時に実施した後、更に50〜80℃の温度範囲に加熱保持して解砕を行う。乾燥と解砕を同時に行う際にも水分の影響で僅かに銀粒子は凝集するが、加熱状態でさらに解砕することにより、凝集粒子を十分に解砕することができる。加熱状態で同時実施した乾燥と解砕よる凝集力が弱いため凝集量が少なく、更なる解砕では、歪はほとんど発生しない。このため、更なる解砕によって、銀粒子の粒度分布を制御することができる。なお、乾燥と解砕を同時に実施した後に冷却してしまうと、凝集力及び凝集量がともに増大するため、更なる解砕は、乾燥と解砕を同時に実施した後に連続して行うことが好ましい。また、この更なる解砕の際の攪拌羽根の周速及び処理時間は、乾燥と解砕を同時に実施する場合の条件と同様に、攪拌羽根の周速は40m/秒以下が好ましく、処理時間は特に限定されるものではなく、凝集量等によって適宜決定される。
銀粉の製造方法は、上述したように銀粒子スラリーから得られた銀粒子の乾燥と解砕を加熱状態で真空減圧雰囲気の転動攪拌機で同時に行うことによって、乾燥による凝集を解砕によって抑制し、銀粒子表面に歪が発生しても加熱状態であるため銀が回復し、大幅に歪が蓄積されることを抑制でき、所望の粒度分布に調整することができる。また、この銀粉の製造方法では、銀粒子の凝集を抑制でき、また銀粒子表面の被覆層の破壊が抑制されるため、分散性が良く、保管時の凝集も抑制された銀粉を製造することができる。これにより、この銀粉の製造方法では、粗大粒子の発生を防止することができ、最大粒径が小さく、所望の粒度分布を有する銀粉を得ることができる。また、この銀粉の製造方法は、工業的規模でも容易に実施可能な方法であり、乾燥と解砕を同時に行うことで、コストを低減することができる。
上述した銀粉の製造方法によって得られる銀粉は、具体的に、走査電子顕微鏡観察による平均粒径が0.3μm〜2.0μm、レーザー回折法で得られる体積基準の粒度分布の平均粒径D50が0.5μm〜4.0μm、最大粒径D100が15μm以下であり、X線回折(XRD)による回折ピークから算出される結晶子径の解砕前に対する解砕後の変化率が25%以下である。
走査電子顕微鏡観察による平均粒径は、例えば、10000倍で走査電子顕微鏡観察を行って、画像処理ソフト等により任意の粒子の粒径を300個以上測定して個数平均することにより得られる。銀粉の走査電子顕微鏡観察による平均粒径が0.3μm未満では、銀ペーストの粘度が高くなり過ぎて配線層及び電極の形成が困難となる。一方、平均粒径が2.0μmを超える場合では、微細な配線層の形成が困難になる。したがって、銀粉の平均粒径が0.3μm〜2.0μmとすることによって、銀ペーストの粘度が高くなり過ぎず、微細な配線層や電極の形成を行うことができる。
また、レーザー回折法で得られる体積基準の粒度分布の平均粒径D50が0.5μm未満では、銀ペーストの粘度が高くなり過ぎ、4.0μmを超えると微細な配線層の形成が困難になる。したがって、平均粒径D50が0.5μm〜4.0μmの範囲であることによって、銀ペーストの粘度が高くなり過ぎず、微細な配線層を形成することができる。更に、最大粒径D100が15μmを超えると、粗大粒子が多く含まれ、ペースト作製時にフレークが発生する虞があるばかりか微細な配線層の形成が困難になる。最大粒径D100が15μm以下であることによって、粗大粒子が少なく、微細な配線層を形成することができる。
また、得られた銀粉は、X線回折(XRD)による回折ピークから算出される結晶子径の解砕前に対する解砕後の変化率が25%以下である。結晶子径の解砕前後の変化率は、銀粒子表面の歪、即ち銀粒子表面に対するダメージを示す指標であり、変化率が25%を超えるような歪を受けた銀粒子は、保管中に強固な凝集を起こし、ペースト作製時に再解砕が必要となるばかりか、凝集が進むと再解砕しても凝集粉が多く使用に適さない状態となることがある。銀粉の製造方法では、加熱状態で解砕するため、銀の回復等により結晶子径が解砕前より大きくなることがある。したがって、解砕後の結晶子径が解砕前の結晶子径に対して75%〜125%であることが好ましい。
更に、銀粉の粒子表面の歪が少ないことは、銀粉を加熱して結晶子径を測定することで評価できる。すなわち、80℃で20分間保持した後のXRD測定による回折ピークから算出される結晶子径が、保持前の結晶子径に対して90%〜125%となることが好ましい。結晶子径は、XRD測定による(111)面の回折ピークからシェラーの式を用いて算出することができる。
XRD測定による回折ピークから算出される結晶子径は、50nm〜80nmであることが好ましい。結晶子径が50nm未満では、ペースト化されて形成された配線が半田付けされた場合に、銀が半田中に拡散して配線が維持できないことがある。また、結晶子径が80nmを超えると、焼結温度が上昇して低温での配線形成が困難となることがある。
このように粒子表面の歪が少ない銀粉は、最終的に銀粉を得るために行われた解砕後、室温で半年以上保管したとき、粒度分布を示すD50及びD100が、保管前に対して2倍以下であり、保管中の凝集が極めて少ない。ここで、室温とは冷却あるいは加熱しない温度であり、通常は0℃〜40℃程度である。
以上のように、本発明を適用した銀粉は、平均粒径が0.3μm〜2.0μmであり、体積基準の粒度分布の平均粒径D50が0.5μm〜4.0μmであり、最大粒径D100が15μm以下であり、結晶子径の解砕前に対する解砕後の変化率が25%未満であることによって、銀粒子の粗粒や凝集体がなく、分散性がよく、銀粒子の表面のダメージもないことから、ペーストとして使用するまでの凝集が抑制され、ペーストとして用いたときに銀粉本来の性能を発揮でき、更に微細な配線形成が可能でファインライン化に伴う配線にも適応できる樹脂型銀ペースト用及び焼成型銀ペースト用として好適である。
また、この銀粉は、ペースト中での分散性に優れているだけでなく、これを用いた樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペーストによって形成された配線層や電極は均一性と導電性に優れたものとなるため、今後期待される電子機器のファインライン用配線層や電極等の形成に用いる銀ペースト用として工業的価値が極めて大きいものである。
以下、本発明を適用した具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
実施例1では、38℃の温浴中で液温36℃に保持した25%アンモニア水36Lに、塩化銀2786g(住友金属鉱山株式会社製、純度99.9999%)を撹拌しながら投入して、銀錯体溶液を作製した。消泡剤(株式会社アデカ製、アデカノールLG−126)を体積比で100倍に希釈し、この消泡剤希釈液24.4mLを上記銀錯体溶液に添加し、得られた銀錯体溶液を温浴中で36℃に保持した。
一方、還元剤のアスコルビン酸1317g(関東化学株式会社製、試薬)を、36℃の純水10.56Lに溶解して還元剤溶液とした。次に、水溶性高分子のポリビニルアルコール398g(株式会社クラレ製、PVA205)を分取し、36℃の純水4Lに溶解した溶液を上記還元剤溶液に混合した。
上記銀錯体溶液と還元剤溶液を、ポンプを使用し、それぞれ2.7L/分及び0.90L/分で内径10mmφのY字型チューブ内に送液して、銀錯体を還元した。この時の還元速度は銀量で126.5g/分である。また、銀の供給速度に対する還元剤の供給速度の比は3:1とした。銀錯体の還元により得られた銀粒子を含むスラリーは撹拌しながら受槽に受け入れ、受け入れ終了後も受槽内での撹拌を60分継続した。撹拌終了後の上記銀粒子スラリーを、フィルタープレスを使用して濾過し、銀粒子を固液分離した。
引き続き、回収した銀粒子が乾燥する前に、銀粒子を0.2質量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液23L中に投入し、15分間撹拌して洗浄を3回繰り返して行った。
その後、回収した銀スラリーと、表面処理剤として市販のカチオン系界面活性剤であるポリオキシエチレン付加4級アンモニウム塩0.75g(クローダジャパン株式会社製、商品名 シラソル、銀粒子に対して0.04質量%)及び分散剤であるステアリン酸エマルジョン14.08g(中京油脂株式会社製、セロゾール920、銀粒子に対して0.75質量%)を、0.2質量%/LのNaOH水溶液に投入し、撹拌して表面処理した後、フィルタープレスにより、再度、固液分離した。
固液分離した銀粒子を、23Lの純水中に投入し、撹拌及びフィルタープレスを行った後、表面処理銀スラリーを得た。その表面処理銀スラリーを以下の条件で真空減圧雰囲気の転動攪拌機内で加熱し、攪拌しながら解砕することで乾燥した銀粉を得た。ここではヘンシェルミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いているが、同様の転動攪拌機であれば使用できる。
乾燥及び解砕は、先ず、表面処理銀スラリー(含水率15.8質量%)を1.75kgとり、5Lのヘンシェルミキサーに投入した。乾燥時は、機内ジャケット部を75℃に加熱し、15分間、毎分1000回転(攪拌羽根の周速は9.1m/秒)で攪拌しながら、真空ポンプにて減圧(軸シールガスを流し、圧力は10kPaで保持)させて乾燥した。機内の温度は40℃から最終的には70℃まで上昇した。その後、同温度での加熱を保持して、20分間毎分1500回転(攪拌羽根の周速は13.7m/秒)、さらに10分間2000回転(攪拌羽根の周速は18.2m/秒)で攪拌しながら、真空ポンプにて減圧させて解砕を行った。銀粉の含水率は0.5質量%以下となっており、乾燥完了とした。
銀粉の粒度分布は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装製、MICROTRAC HRA 9320X−100)を用いて測定した。分散媒は、イソプロピルアルコールを用い、機器内を循環させた状態で、銀粉を投入して測定した。通常は超音波などで分散させた銀スラリーを投入することが多いが、実施例1では銀粉自体の分散性を評価することを目的としているため、銀粉を約0.1g直接投入した。
表面処理銀スラリーから最終的に得られた銀粉の粒度分布を図1に示し、平均粒径等を表1に示す。乾燥、解砕前の銀スラリーの走査電子顕微鏡観察による平均粒径(以下、SEM粒径)は0.84μm、レーザー回折散乱法による体積積算の平均粒径D50は14μm、最大粒径D100は105μmであった。最終の解砕後に得られた銀粉のSEM粒径は0.84μm、D50は1.9μm、最大粒径D100は11μmで分散性の良いものであった。結晶子径はX線回折装置(PANalytical製、X’PertPRO)を用いて測定した(111)面の回折ピークからシェラーの式により算出した。表1の結果から、表面処理銀スラリーが63.6nmであるのに対し、得られた銀粉は71.4nmであり、解砕後の結晶子径が解砕前に対して112.3%である。
さらに、80℃で20分間保持した後の銀粉について同様に結晶子径を測定したところ、保持前に対して103.5%であった。
解砕後に得られた銀粉を室温(5〜35℃)で半年保管した後、D50及びD100を同様に測定したところ、D50が1.9μm、D100が13μmであり、2倍以下であった。
<実施例2>
実施例2では、洗浄時の水酸化ナトリウム濃度を10質量%、洗浄回数を2回とした以外は実施例1と同様にして表面処理銀スラリーを得た。
乾燥と解砕は、先ず、表面処理銀スラリー(含水率14.8質量%)を1.75kgとり、5Lのヘンシェルミキサーに投入した。乾燥時は、機内ジャケット部に75℃に加熱し、15分間、毎分1000回転(攪拌羽根の周速は9.1m/秒)で攪拌しながら、真空ポンプにて減圧(軸シールガスを流し、圧力は10kPaで保持)させて乾燥及び解砕した。機内の温度は40℃から最終的には70℃まで上昇した。銀粉の含水率は0.5質量%以下となっており、乾燥完了とした。
表面処理銀スラリー及び銀粉を実施例1と同様に評価した。表面処理銀スラリーから最終的に得られた銀粉の粒度分布を図2に示し、平均粒径等を表1に示す。乾燥、解砕前のSEM粒径0.85μm、平均粒径D50は3.2μm、最大粒径D100は37μmであった。解砕後に得られた銀粉のSEM粒径0.85μm、D50は2.1μm、最大粒径D100は11μmで分散性の良いものであった。結晶子径は、表1の結果から、表面処理銀スラリーが59.4nmであるのに対し、得られた銀粉は64.9nmであり、解砕後の結晶子径が解砕前に対して109.3%であった。
さらに、80℃で20分間保持した後の銀粉について同様に結晶子径を測定したところ、保持前に対して110.3%であった。
解砕後に得られた銀粉を室温(5〜35℃)で8ヶ月保管した後、D50及びD100を同様に測定したところ、D50が2.1μm、D100が13μmであり、2倍以下であった。
<実施例3>
実施例3では、実施例2の銀粉を同温度での加熱を保持して、さらに5分間毎分2000回転(攪拌羽根の周速は18.2m/秒)で攪拌しながら、真空ポンプにて減圧(軸シールガスを流し、圧力は10kPaで保持)させて再解砕を行った。
得られた銀粉を実施例1と同様に評価した。表面処理銀スラリーから最終的に得られた銀粉の粒度分布を図2に示し、平均粒径等を表1に示す。再解砕後に得られた銀粉のSEM粒径0.85μm、D50は2.0μm、最大粒径D100は11μmで分散性の良いものであった。結晶子径は、表1の結果から、表面処理銀スラリーが59.4nmであるのに対し、得られた銀粉は69.0nmであり、解砕後の結晶子径が解砕前に対して116.2%であった。
さらに、80℃で20分間保持した後の銀粉について同様に結晶子径を測定したところ、保持前に対して113.9%であった。
解砕後に得られた銀粉を室温(5〜35℃)で8ヶ月保管した後、D50及びD100を同様に測定したところ、D50が2.0μm、D100が13μmであり、2倍以下であった。
<実施例4>
実施例4では、実施例2の銀粉を同温度での加熱を保持して、さらに各5分間、毎分2500回転(攪拌羽根の周速は22.8m/秒)、3000回転(攪拌羽根の周速は27.3m/秒)、3500回転(攪拌羽根の周速は31.9m/秒)、4000回転(攪拌羽根の周速は36.4m/秒)、4400回転(攪拌羽根の周速は40.0m/秒)で攪拌しながら、真空ポンプにて減圧(軸シールガスを流し、圧力は10kPaで保持)させて再解砕を行った。
得られた銀粉を実施例1と同様に評価した。表面処理銀スラリーから最終的に得られた銀粉の粒度分布を表1に示す。再解砕後に得られた銀粉のSEM粒径0.85μm、D50は1.4μm、最大粒径D100は6.4μmで分散性の良いものであった。結晶子径は、表1の結果から、表面処理銀スラリーが59.4nmであるのに対し、得られた銀粉は58.1nmであり、解砕後の結晶子径が解砕前に対して97.8%であった。
さらに、80℃で20分間保持した後の銀粉について同様に結晶子径を測定したところ、保持前に対して119.8%であった。
解砕後に得られた銀粉を室温(5〜35℃)で8ヶ月保管した後、D50及びD100を同様に測定したところ、D50が1.5μm、D100が6.5μmであり、2倍以下であった。
<比較例1>
比較例1では、実施例1と同様にして作製した表面処理銀スラリーをステンレスパッドに移し、真空乾燥機にて60℃で15時間乾燥して乾燥銀スラリーを得た。その平均粒径D50は20μm、最大粒径D100は209μmであった。
乾燥銀スラリー1.1kgとり、5Lのヘンシェルミキサーに投入した。機内ジャケット部に加熱なしで、30分間、毎分2200回転(攪拌羽根の周速は20.0m/秒)で攪拌しながら解砕を行った。機内の温度は20°から最終的には50℃まで上昇した。
乾燥銀スラリー及び銀粉を実施例1と同様に評価した。乾燥銀スラリーから最終的に得られた銀粉の粒度分布を図3に示し、平均粒径等を表1に示す。解砕後に得られた銀粉のD50は2.1μm、最大粒径D100は37μmであったため、凝集粉がかなり混入していた。結晶子径は、乾燥銀スラリーが64.7nmであるのに対し、得られた銀粉は72.8nmであり、解砕後の結晶子径が解砕前に対して112.5%であったが、解砕が不十分であり、粗粒が混入していることがわかる。
比較例1では、粗粒子が多く混入しており、銀粉として使用することができないため、80℃で20分間保持した後の銀粉の結晶子径、及び銀粉を室温(5〜35℃)で半年保管した後のD50及びD100については測定を行わなかった。
<比較例2>
比較例2では、実施例1と同様にして作製した表面処理銀スラリーをステンレスパッドに移し、真空乾燥機にて60℃で10時間乾燥して乾燥銀スラリーを得た。その平均粒径D50は11μm、最大粒径D100は105μmであった。
乾燥銀スラリーを50gとり、サンプルミル(協立理工(株)製、SK―M2型)に投入した。3分間、毎分18000回転(攪拌羽根の周速は70.7m/秒)で攪拌しながら解砕を行った。
乾燥銀スラリー及び銀粉を実施例1と同様に評価した。乾燥銀スラリーから最終的に得られた銀粉の平均粒径等を表1に示す。解砕後に得られた銀粉のD50は1.2μm、最大粒径D100は3.9μmで分散性の良いものであった。しかしながら、結晶子径、乾燥銀スラリーが63.3nmであるのに対し、得られた銀粉は45.3nmであり、解砕後の結晶子径が解砕前に対して71.6%、変化率は28.4%であり、銀粒子表面に大きな歪が発生していることが確認された。同様の結果はヘンシェルミルを用いても起こることが確認されている。
さらに、80℃で20分間保持した後の銀粉について同様に結晶子径を測定したところ、保持前に対して130.3%であった。
解砕後に得られた銀粉を室温(5〜35℃)で半年保管したところ、凝集が激しく、粒度分布の測定は困難であった。
<比較例3>
比較例3では、実施例1と同様にして作製した表面処理銀スラリーをステンレスパッドに移し、真空乾燥機にて60℃で10時間乾燥して乾燥銀スラリーを得た。その平均粒径D50は11μm、最大粒径D100は105μmであった。
乾燥銀スラリーを200gとり、スーパージェットミル(日清エンジニアリング(株)製、SJ―500CB型)に投入した。供給速度2kg/時、圧力0.3MPaで処理を行った。
乾燥銀スラリー及び銀粉を実施例1と同様に評価した。乾燥銀スラリーから最終的に得られた銀粉の平均粒径等を表1に示す。解砕後に得られた銀粉のD50は1.3μm、最大粒径D100は4.6μmで分散性の良いものであった。しかしながら、結晶子粒径、乾燥銀スラリーが61.3nmであるのに対し、得られた銀粉は37.1nmであり、解砕後の結晶子径が解砕前に対して60.5%、変化率は39.5%であり、銀粒子表面に大きな歪が発生していることが確認された。
さらに、80℃で20分間保持した後の銀粉について同様に結晶子径を測定したところ、保持前に対して143.1%であった。
解砕後に得られた銀粉を室温(5〜35℃)で半年保管したところ、凝集が激しく、粒度分布の測定は困難であった。
Figure 0005954473
以上のように、表面処理銀スラリーを50℃以上の加熱状態で乾燥しながら撹拌した実施例1〜4では、平均粒径が0.3〜2.0μm、平均粒径D50が0.5μm〜4.0μm、最大粒径D100が15μm以下であり、結晶子径の解砕前に対する解砕後の変化率が25%未満であって、凝集が抑えられ、粗大粒子が発生せず、分散性に優れた銀粉を得ることができた。実施例1〜4に示すように本発明を適用した銀粉は、分散性が良く粗粒・凝集体もなく、表面のダメージもないことから、微細な配線形成が可能でファインライン化に伴う配線にも適応できる樹脂型銀ペースト用及び焼成型銀ペースト用として用いることができる。
一方、表面処理銀スラリーを加熱状態で乾燥と撹拌を同時に行っていない比較例1では、凝集が抑えられず、粗大粒子が発生した。比較例2、3では、解砕後に得られた銀粉は分散性の良いものであったが、80℃で20分間保持した後の銀粉の結晶子径が大きくなり、表面の歪みが大きく、半年間保存すると凝集が激しくなった。

Claims (3)

  1. 銀錯体を含む銀溶液と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して得た銀粒子スラリーを洗浄、濾過した後、乾燥することによって得られる銀粉の製造方法であって、
    上記乾燥は、真空減圧雰囲気の転動攪拌機内で50℃〜80℃まで加熱するとともに攪拌することにより、乾燥と解砕を同時に行うことを特徴とする銀粉の製造方法。
  2. 上記乾燥と上記解砕を同時に行った後、更に50℃〜80℃を保持しながら解砕することを特徴とする請求項1記載の銀粉の製造方法。
  3. 上記転動攪拌機による解砕を攪拌羽根の周速を40m/秒以下にして行うことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の銀粉の製造方法。
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