以下、本発明に係る銀粉及びその製造方法の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない限りにおいて適宜変更することができる。
先ず、説明に当たって、銀粒子形態に対する呼称を図1のように定義する。すなわち、図1(A)に示すように、銀粒子を、外見上の幾何学的形態から判断して、単位粒子と考えられるものを一次粒子と呼ぶ。また、図1(B)に示すように、一次粒子がネッキングにより2乃至3以上連結した粒子を二次粒子と呼ぶ。さらに、図1(C)に示すように、一次粒子及び二次粒子の集合体を凝集体と呼ぶ。なお、一次粒子、二次粒子、及び凝集体をまとめて銀粒子と呼ぶことがある。
本実施の形態に係る銀粉は、粒子表面に2種以上の表面処理剤を含む被覆層を有し、レーザー回折散乱法を用いて測定した各集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子径D50が0.5μm〜2.0μmであり、下記式(1)で示される体積基準の粒度分布の標準偏差SDが0.3μm〜1.0μmである。
SD=(D84−D16)/2 (1)
なお、上記式(1)中、D84は体積累積カーブが84%となる点の粒子径を表し、D16は体積累積カーブが16%となる点の粒子径を表す。
すなわち、本実施の形態に係る銀粉は、個々の一次粒子ができるだけ分散し、上述した粒度分布を有する一次粒子が分散した微細な銀粒子となっている。
銀粒子が疎に凝集した凝集体を有する粒度分布を持つ銀粉の場合、凝集体の質量が重くペースト中で容易に銀粉が沈降するため、ペースト中における銀粉の分散状態が安定せず、得られる導電膜は導電性が劣ったものとなる。これに対し、本実施の形態に係る銀粉では、上述した粒度分布を有する一次粒子が分散した微細な銀粒子からなることにより、ペースト中で沈降し難く、優れた分散性、導電性を有する。また、このような銀粒子は、他の粒子との接点が多くなり空隙が少なくなるため、例えば、この銀粒子を焼成ペーストに用いた場合には、銀粒子同士が焼結し易く、均一性と導電性に優れた導電膜ペーストを得ることができる。
銀粉の粒度分布において、体積基準の粒子径D50が0.5μm未満の領域まで存在する場合は、銀粉中に非常に細かな微粒が存在することになり、それら微粒はペースト中で凝集し易く、銀粒子の分散性が低下して不均一なペーストとなる。一方で、粒子径D50が2.0μmを超える場合は、粗大な粒子あるいは凝集体が存在することになり、ペースト中において銀粉が沈降し分散性が低下してペーストが不均一となる。ペースト中における分散性をより良好にするためには、粒子径D50を1.0μm以上とすることが好ましく、また1.9μm以下とすることがより好ましい。
また、体積基準の粒度分布の標準偏差SDが0.3μm未満となると、銀粉の充填率が低くなるため、他の粒子との接点が少なくなり、この銀粒子を焼成ペーストに用いた場合には、銀粒子同士が焼結し難くなり、均一性と導電性が低下する。一方で、標準偏差SDが1.0μmを超えると、粗大な凝集体が相対的に多くなり、ペースト中で沈降する銀粉が多くなるため、ペースト中での銀粉の分散性が低下する。ペースト中における分散性をより良好にするためには、標準偏差SDを0.95μm未満とすることが好ましい。
また、本実施の形態に係る銀粉は、銀粒子表面に2種以上の表面処理剤を含む被覆層を有しており、これにより、製造後の経時変化による凝集が抑制され、ペースト中での分散性がさらに良好なものとなり、ペースト中での沈降もさらに抑制することを可能にしている。
表面が1種の表面処理剤のみからなる被覆層で被覆されている銀粉の場合では、ペースト中での分散性と導電膜の導電性を両立させることが困難となる。このような銀粉では、ペースト中での分散性を充分なものとしようとした場合、使用する表面処理剤の量を多くする必要があり、また導電膜を形成したときに良好な導電性が得られない。これに対し、本実施の形態に係る銀粉のように、2種以上の表面処理剤を含む被覆層を有していることで、ペースト中での分散性と導電膜の導電性を両立させることができる。
特に、2種以上の表面処理剤を含む被覆層は、銀粒子及び他の表面処理剤との吸着が強い表面処理剤と、ペースト中の溶媒との親和性が高い表面処理剤とを含むものであることが好ましい。このように、銀粒子及び他の表面処理剤との吸着が強い表面処理剤と、ペースト中の溶媒との親和性が高い表面処理剤とを含む被覆層を形成させることで、銀粒子表面に吸着させる表面処理剤の量を低減させることが可能となる。また、ペースト中での分散性を低下させることなく導電膜の導電性を向上させることができる。なお、被覆層は、必ずしも銀粒子の表面全体を被覆する必要はなく、製造工程中の解砕処理等により一部が剥離した状態であっても、2種以上の表面処理剤を用いる上述した効果により、銀粉において良好な特性を得ることができる。
より具体的に、銀粒子及び他の表面処理剤との吸着が強い表面処理剤としては、界面活性剤を用いることが好ましく、またペースト中の溶媒との親和性が高い表面処理剤としては、溶媒に対する分散剤を用いることが好ましく、特にその分散剤としては脂肪酸又はその塩を用いることが好ましい。さらに、その分散剤として、脂肪酸又はその塩を界面活性剤でエマルション化したものを用いることがより好ましく、これにより、この分散剤による表面処理によって、銀粒子の表面に脂肪酸と界面活性剤とを含む被覆層を形成することができ、より一層に分散性を向上させることができる。
ここで、本実施の形態に係る銀粉においては、少なくとも製造後1ヶ月経過した状態でも、上述した粒度分布を有すること、すなわち、各集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子径D50が0.5μm〜2.0μmであり、体積基準の粒度分布の標準偏差SDが0.3μm〜1.0μmである粒度分布を有することが好ましい。少なくとも製造後1ヶ月経過した銀粉においても、このような粒度分布を有することで、銀粉製造からペースト製造までの期間が長い場合でも、再分散化処理等を施す必要がなく、良好な特性を有するペーストを得ることができる。なお、上述した期間中の銀粉の保管は、一般的な保管状態でよく、真空状態等の特殊な保管は要しないが、結露が発生するような高温多湿状態は除外される。
一方、製造後1ヶ月未満で上述した粒度分布の範囲外となるような銀粉では、銀粉製造からペースト製造までの期間が長い場合に良好な特性のペーストが得られなくなるとともに、ペースト中での銀粒子の凝集が進行し易くなる。そのため、良好な導電膜を得るために、ペーストを再分散化することが必要となり、スクリーン印刷等の生産性が著しく低下する。
さらに、本実施の形態に係る銀粉においては、体積基準の粒度分布の2.0μm〜6.0μmの粒径範囲に含有する粒子が60%未満であることが好ましく、56%以下であることがより好ましい。粒度分布の2.0μm〜6.0μmの粒径範囲に含有する粒子が60%以上になると、粗大な粒子あるいは凝集体が相対的に多くなり、ペースト中での銀粉の分散性が低下することがある。
また、本実施の形態に係る銀粉においては、走査型電子顕微鏡の観察画像から求められた平均粒子径DSEMと、レーザー回折散乱法を用いて測定した体積基準の粒子径D50の比D50/DSEMが2.0以下であることが好ましく、1.8未満であることがより好ましい。D50/DSEMが2.0より大きい場合には、銀粉中の粗大な凝集体が相対的に多くなり、ペースト中での銀粉の分散性が低下することがある。なお、D50/DSEMが1の場合、銀粒子が凝集体を全く形成しない状態を意味するものであり、理論的は1を下回ることはないが、測定誤差等を考慮するとD50/DSEMの下限は0.9程度である。
ここで、本実施の形態に係る銀粉では、この銀粉を用いた銀ペーストをアルミナ基板上に印刷し、大気中で200℃、60分間の焼成を行ったとき、その体積抵抗率を10μΩ・cm以下とすることができ、より好ましく9μΩ・cm以下とすることができる。体積抵抗率は、電気エネルギーの損出に影響し、体積抵抗率が10μΩ・cmより大きい場合には、銀ペーストを用いて形成される配線層や電極の電気エネルギーの損失が大きくなり導電性が低下することを意味する。本実施の形態に係る銀粉は、上述した粒度分布を有する一次粒子が分散した微細な銀粒子からなっていることにより、ペースト中で沈降し難く、優れた分散性を有し、ペースト中で偏在することがないため、体積抵抗率を10μΩ・cm以下とすることができ、優れた導電性を発揮することができる。
なお、上述した銀ペースト中の銀粉の粒度分布並びに銀ペーストを印刷し焼成したときの体積抵抗率の評価に際して用いられる銀ペーストは、特に限定されるものではなく、例えば、エポキシ樹脂(粘度2〜6Pa・s、例えば、三菱化学(株)製JER819)とターピネオールの質量比が1:7のビヒクル及び銀粉を、ペースト全量に対してビヒクル8.0質量%及び銀粉92.0質量%とし、自公転型混練機を用いて420Gで5分間混練して得られるものを用いることができる。
また、本実施の形態に係る銀粉は、上述した銀ペーストの適用に限定されるものではなく、一般的に用いられる銀ペースト全てに適用することができることは勿論である。
また、上述した特徴を有する銀粉を用いて銀ペーストを作製するにあたってのペースト化方法についても特に限定されず、公知の方法を用いることができる。また、使用するビヒクルについても、特に限定されず、例えば、アルコール系、エーテル系、エステル系等の溶剤に、各種セルロース、フェノール樹脂、アクリル樹脂等を溶解したものを用いることができる。
以上のように、本実施の形態に係る銀粉は、粒子表面に2種以上の表面処理剤を含む被覆層を有し、各集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子径D50が0.5μm〜2.0μmであり、上記式(1)で示される体積基準の粒度分布の標準偏差SDが0.3μm〜1.0μmである。このような粒度分布を有する銀粉によれば、ペースト中での分散性が向上し、また導電性に優れた銀ペーストを製造することができる。また、この銀粉によれば、銀粉製造後も長期に亘って粒度分布が良好な状態が維持されるため、銀粉製造からペースト製造までの期間が長い場合でも良好な特性を有するペーストを得ることができる。
また、本実施の形態に係る銀粉によれば、ペースト中での分散性に優れているだけでなく、ペースト中における銀粉の分散状態も安定しているため、ペースト中で沈降し難くい。そのため、使用にあたって銀粉の再分散化処理が不要となり、効率的に生産性良くスクリーン印刷等を行うことができる。そしてまた、この銀粉を用いた樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペーストによって形成された配線層や電極は、導電性に優れたものとなることから、電子機器の配線層や電極等の形成に用いる銀ペースト用として好適に用いることができる。
次に、上述した特徴を有する銀粉の製造方法について詳細に説明する。
本実施の形態に係る銀粉の製造方法は、例えば塩化銀や硝酸銀等の銀化合物を出発原料とするものであって、基本的には、銀化合物を錯化剤により溶解して得た銀錯体溶液と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して銀粒子を析出させることにより銀粒子スラリーを得て、洗浄、乾燥、解砕の各工程を経ることによって銀粉を得る。
そして、本実施の形態に係る銀粉の製造方法においては、銀錯体を還元する還元剤溶液に銀量に対して15質量%を超える水溶性高分子を添加して還元し、さらに還元して得られた銀粒子表面に2種以上の表面処理剤を吸着させることを特徴とする。
そしてまた、本実施の形態に係る銀粉の製造方法においては、乾燥後の銀粒子に対して、転動撹拌機を用いて周速35m/秒を超える解砕処理を施すことを特徴とする。
このように、銀量に対して15質量%を超える水溶性高分子を還元剤溶液に添加して銀錯体を還元するとともに、2種以上の表面処理剤を銀粒子表面に吸着させ、周速35m/秒を超える強い解砕処理を施すことにより、粒子表面に2種以上の表面処理剤を含む被覆層を有し、各集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子径D50が0.5μm〜2.0μmであり、上記式(1)で示される体積基準の粒度分布の標準偏差SDが0.3μm〜1.0μmである粒度分布を有する銀粉を得ることができる。
以下、この銀粉の製造方法について、工程毎にさらに具体的に説明する。なお、銀錯体を含む溶液は、銀化合物を錯化剤により錯体化することで得られるが、出発原料である銀化合物として塩化銀を用いると、硝酸銀を出発原料とした場合に必要とされた亜硝酸ガスの回収装置や廃水中の硝酸系窒素の処理装置を設置する必要がなく、環境への影響も少ないプロセスとなり、製造コストの低減を図ることができる。したがって、以下では、塩化銀を出発原料として用いた場合を例に挙げて具体的に説明する。
まず、還元工程においては、錯化剤を用いて出発原料である塩化銀を溶解し、銀錯体を含む銀錯体溶液を調製する。錯化剤としては、特に限定されるものではないが、塩化銀と錯体を形成し易く且つ不純物として残留する成分が含まれないアンモニア水を用いることが好ましい。また、塩化銀は高純度のものを用いることが好ましい。このような塩化銀として、純度99.9999質量%の高純度塩化銀が工業用に安定的に製造されている。
塩化銀の溶解方法としては、例えば錯化剤としてアンモニア水を用いる場合、塩化銀のスラリーを作製してアンモニア水を添加してもよいが、錯体濃度を高めて生産性を上げるためにはアンモニア水中に塩化銀を添加して溶解することが好ましい。塩化銀を溶解するアンモニア水は、工業的に用いられる通常のものでよいが、不純物混入を防止するため可能な限り高純度のものが好ましい。
次に、銀錯体溶液と混合する還元剤溶液を調製する。還元剤としては、一般的なヒドラジンやホルマリンなどを用いることもできるが、アスコルビン酸は還元作用が緩やかであるため、銀粒子中の結晶粒が成長し易く特に好ましい。ヒドラジンあるいはホルマリンは、アスコルビン酸より還元力が強いため、銀粒子中の結晶が小さくなりやすい。また、反応の均一性あるいは反応速度を制御するために、還元剤を純水等で溶解又は希釈して濃度調整した水溶液として用いることもできる。
そして、本実施の形態に係る銀粉の製造方法においては、上述したように、還元剤溶液に、銀量に対して15質量%を超える水溶性高分子を添加する。
このように、還元剤溶液に、銀量に対して15質量%を超える水溶性高分子を添加することにより、銀粒子の分散性を高めることができ、製造する銀粉の粒度分布を制御することができる。水溶性高分子の添加量が15質量%以下の場合には、還元により発生した核や核が成長した銀粒子が凝集を起こしてしまい、分散性が悪いものとなってしまう。なお、水溶性高分子の添加量を20質量%を超えて多くした場合には、製造時に銀粒子の凝集を抑制する効果がそれ以上に向上せず、排水コストが増加するとともに水溶性高分子が残留してペーストとして導電性を悪化させる要因につながる可能性がある。そのため、水溶性高分子の添加量は、銀量に対して20質量%以下とすることが好ましい。
添加する水溶性高分子としては、特に限定されないが、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン等の少なくとも1種であることが好ましく、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンの少なくとも1種であることがより好ましい。これらの水溶性高分子によれば、特に効果的に凝集を防止して分散性を高めることができ、微細な一次粒子からなり、上記式(1)に示す粒度分布を有する銀粉を効果的に形成することができる。
なお、水溶性高分子は、銀錯体溶液及び還元剤溶液の両方、又は銀錯体溶液に対して還元処理に先立ち予め添加することもでき、還元処理のための銀錯体含有溶液及び還元剤溶液の混合時に添加するようにしてもよいが、この場合、核発生あるいは核成長の場に水溶性高分子が供給され難く、銀粒子の表面に水溶性高分子を吸着させることができないおそれがある。そのため、上述のように、還元剤溶液に予め添加しておくことが好ましい。これにより、核発生あるいは核成長の場に水溶性高分子が存在するようになり、生成した核あるいは銀粒子の表面に迅速に水溶性高分子を吸着させ、凝集体の生成を効率良く制御し、分散性のよい銀粉を製造することができる。
また、水溶性高分子を添加すると、還元反応時に発泡することがあるため、銀錯体溶液又は還元剤混合液に消泡剤を添加することもできる。消泡剤は、特に限定されるものではなく、通常還元時に用いられているものでよい。ただし、還元反応を阻害させないため、消泡剤の添加量は消泡効果が得られる最小限程度にしておくことが好ましい。
なお、銀錯体溶液及び還元剤溶液を調製する際に用いる水については、不純物の混入を防止するため、不純物が除去された水を用いることが好ましく、純水を用いることが特に好ましい。
次に、上述のようにして調製した銀錯体溶液と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して銀粒子を析出させる。この還元反応は、バッチ法でもよく、チューブリアクター法やオーバーフロー法のような連続還元法を用いて行ってもよい。微細な一次粒子が分散した均一な粒径を有する銀粒子を得るためには、粒成長時間の制御が容易なチューブリアクター法を用いることが特に好ましい。また、銀粒子の粒径は、銀錯体溶液と還元剤溶液の混合速度や銀錯体の還元速度で制御することが可能であり、目的とする粒径に容易に制御することができる。
還元工程で得られた銀粒子は、表面に多量の塩素イオン及び水溶性高分子が吸着している。したがって、銀ペーストを用いて形成される配線層や電極の導電性を十分なものとするためには、得られた銀粒子のスラリーを次の洗浄工程において洗浄し、表面吸着物を洗浄により除去することが好ましい。なお、後述するが、銀粒子表面に吸着した水溶性高分子が除去されることで凝集が生じることを抑制するために、洗浄工程は、銀粒子への表面処理工程後等に行うことが好ましい。
洗浄工程における洗浄方法としては、特に限定されるものではないが、スラリーからフィルタープレス等で固液分離した銀粒子を洗浄液に投入し、撹拌機又は超音波洗浄器を使用して撹拌した後、再び固液分離して銀粒子を回収する方法が一般的に用いられる。また、表面吸着物を十分に除去するためには、洗浄液への投入、撹拌洗浄、及び固液分離からなる操作を、数回繰り返して行うことが好ましい。
洗浄液は、水を用いてもよいが、塩素を効率よく除去するためにアルカリ水溶液を用いてもよい。アルカリ溶液としては、特に限定されるものではないが、残留する不純物が少なく且つ安価な水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。洗浄液として水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合、水酸化ナトリウム水溶液での洗浄後、ナトリウムを除去するために銀粒子又はそのスラリーをさらに水で洗浄することが望ましい。
また、水酸化ナトリウム水溶液の濃度は0.01〜0.30mol/Lとすることが好ましい。濃度が0.01mol/L未満では洗浄効果が不十分であり、一方で濃度が0.30mol/Lを超えると、銀粒子にナトリウムが許容以上に残留することがある。なお、洗浄液に用いる水は、銀粒子に対して有害な不純物元素を含有していない水が好ましく、特に純水が好ましい。
本実施の形態に係る銀粉の製造においては、銀錯体溶液中で還元され形成された銀粒子が凝集して二次粒子や粗大な凝集塊を形成する前に、その形成された銀粒子の表面に2種以上の表面処理剤を吸着させる。すなわち、還元により銀粒子が形成された後、過剰な凝集が進行する前に、銀粒子表面に2種以上の表面処理剤を吸着させる、より好ましくは界面活性剤と分散剤とを含む2種以上の表面処理剤を銀粒子表面に吸着させる表面処理工程を行う。これにより、形成された銀粒子の凝集を防止して、上述した所望の粒度分布を有し、ペースト中で均一に分散する銀粉を形成することができる。
過剰な凝集は、乾燥によって特に進行することから、この表面処理工程は、銀粒子が乾燥する前であればいずれの段階で行っても効果が得られる。例えば、上述した還元工程後であり洗浄工程前、洗浄工程と同時、あるいは洗浄工程後等に行うことができる。また、上述した還元工程中において、例えば1種の表面処理剤を還元剤溶液に添加して還元処理を行い、その後還元形成した銀粒子に対して、乾燥前に、1種類以上の表面処理剤を吸着させる表面処理を行ってもよい。
その中でも、特に、還元工程後であり洗浄工程前、または1回の洗浄工程後に行うことが好ましい。これにより、還元処理を経て形成された単分散に近い銀粒子の状態を維持した状態において、その銀粒子に表面処理を施すことができるため、より分散性の高い銀粉を製造することができる。
より具体的に説明すると、本実施の形態においては、還元剤溶液に銀に対して所定の割合で水溶性高分子を添加して還元するようにし、銀粒子表面に充分な水溶性高分子を吸着させて銀粒子が連結した凝集体の形成を防止している。しかしながら、銀粒子表面に吸着させた水溶性高分子は、比較的容易に洗浄処理によって洗浄されてしまうため、表面処理工程に先立って洗浄工程を行った場合には、銀粒子表面の水溶性高分子が洗浄除去され、銀粒子同士が互いに過度な凝集をはじめるおそれがある。また、このように銀粒子同士が凝集し凝集体が形成されると、銀粒子表面への一様な表面処理が困難となる。
したがって、このことから、還元工程中あるいは還元工程後であり洗浄工程前、または1回の洗浄工程後に表面処理を行うことにより、水溶性高分子が除去されることによる銀粒子の凝集を抑制するとともに、形成された銀粒子に対して効率的に表面処理を施すことができ、粗大な凝集体がなく、個々の一次粒子ができるだけ分散した微細な銀粒子からなる銀粉を製造することができる。なお、還元処理後であり洗浄工程前の表面処理は、還元工程終了後に銀粒子を含有するスラリーをフィルタープレス等で固液分離した後に行うことが好ましい。このように固液分離後に表面処理を行うことで、生成された銀粒子に対して直接表面処理剤である界面活性剤や分散剤を作用させることができ、形成された凝集体に的確に表面処理剤が吸着し、凝集体が形成されることをより効果的に抑制できる。
この表面処理工程では、2種以上の表面処理剤として、界面活性剤と分散剤の両方で表面処理することがより好ましい。このように界面活性剤と分散剤の両方で表面処理すると、その相互作用により銀粒子表面に強固な表面処理層(被覆層)を形成することができるため、銀粒子同士の凝集の防止効果が高く、上述した所望とする粒度分布を維持することに有効となる。また、界面活性剤と分散剤の両方で表面処理することにより、ペースト中の溶媒との親和性が高くなり、ペースト中での分散性の良い銀粉を製造することができる。
界面活性剤と分散剤を用いる好ましい表面処理の具体的方法としては、銀粒子を界面活性剤及び分散剤を添加した水中に投入して撹拌するか、界面活性剤を添加した水中に投入して撹拌した後、さらに分散剤を添加して撹拌すればよい。また、洗浄工程と同時に表面処理を行う場合には、洗浄液に界面活性剤及び分散剤を同時に添加するか、又は界面活性剤の添加後に分散剤を添加すればよい。銀粒子への界面活性剤及び分散剤の吸着性をより良好なものにするためには、界面活性剤を添加した水又は洗浄液に銀粒子を投入して撹拌した後、分散剤をさらに添加し撹拌することが好ましい。
また、別の態様として、界面活性剤を還元剤溶液に投入して銀錯体溶液と還元剤溶液とを混合して還元処理し、得られた銀粒子のスラリーに分散剤を投入して撹拌し表面処理してもよい。これにより、核発生あるいは核成長の場に界面活性剤が存在するようになり、生成した核あるいは銀粒子の表面に迅速に界面活性剤を吸着させ、その後還元形成した銀粒子にさらに分散剤を吸着させることで、安定で均一な表面処理を施すことができる。
ここで、界面活性剤としては、特に限定されないが、カチオン系界面活性剤を用いることが好ましい。カチオン系界面活性剤は、pHの影響を受けることなく正イオンに電離するため、特に塩化銀を出発原料とした銀粉への吸着性の改善効果が得られる。
カチオン系界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、モノアルキルアミン塩に代表されるアルキルモノアミン塩型、N−アルキル(C14〜C18)プロピレンジアミンジオレイン酸塩に代表されるアルキルジアミン塩型、アルキルトリメチルアンモニウムクロライドに代表されるアルキルトリメチルアンモニウム塩型、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドに代表されるアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩型、アルキルジポリオキシエチレンメチルアンモニウムクロライドに代表される4級アンモニウム塩型、アルキルピリジニウム塩型、ジメチルステアリルアミンに代表される3級アミン型、ポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレンアルキルアミンに代表されるポリオキシエチレンアルキルアミン型、N、N’、N’−トリス(2−ヒドロキシエチル)−N−アルキル(C14〜18)1,3−ジアミノプロパンに代表されるジアミンのオキシエチレン付加型から選択される少なくとも1種が好ましく、4級アンモニウム塩型、3級アミン塩型のいずれか又はその混合物がより好ましい。
また、界面活性剤は、メチル基、ブチル基、セチル基、ステアリル基、牛脂、硬化牛脂、植物系ステアリルに代表されるC4〜C36の炭素数を持つアルキル基を少なくとも1個有することが好ましい。アルキル基としては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン、ポリアクリル酸、ポリカルボン酸から選択される少なくとも1種を付加されたものであることが好ましい。これらのアルキル基は、後述する分散剤として用いる脂肪酸との吸着が強いため、界面活性剤を介して銀粒子に分散剤を吸着させる場合に脂肪酸を強く吸着させることができる。
また、界面活性剤の添加量は、銀粒子に対して0.002〜1.000質量%の範囲が好ましい。表面処理時において、界面活性剤は、その種類によって銀粒子への吸着量は異なるが、添加量の50%以上が銀粒子に吸着されるため、上記範囲の添加量とすることにより銀粒子表面に十分な量の界面活性剤を吸着させることができる。界面活性剤の添加量が0.002質量%未満になると、銀粒子の凝集抑制あるいは分散剤の吸着性改善の効果が得られないことがある。一方で、添加量が1.000質量%を超えると、吸着量が多くなり過ぎ、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極の導電性が低下する可能性があるため好ましくない。
分散剤としては、例えば脂肪酸、有機金属、ゼラチン等の保護コロイドを用いることができるが、不純物混入のおそれや界面活性剤との吸着性を考慮すると、脂肪酸又はその塩を用いることが好ましい。また、その分散剤としては、脂肪酸又はその塩を界面活性剤でエマルション化したものを用いることが好ましく、これにより、分散剤による表面処理よって銀粒子の表面に脂肪酸と界面活性剤とを含む被覆層を効率的に形成することができ、より一層に分散性を向上させることができる。
分散剤として用いる脂肪酸としては、特に限定されるものではないが、ステアリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、リノレン酸から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの脂肪酸は、沸点が比較的低いため、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極への悪影響が少ないからである。
また、分散剤の添加量は、銀粒子に対して0.01〜1.00質量%の範囲が好ましい。分散剤も界面活性剤と同様に、その種類により銀粒子への吸着量は異なるが、添加量が0.01質量%未満になると、銀粒子の凝集抑制あるいは分散剤の吸着性改善の効果が十分に得られる量が銀粉に吸着されないことがある。一方、分散剤の添加量が1.00質量%を超えると、銀粒子に吸着される量が多くなり過ぎ、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極の導電性が十分に得られないことがある。
次に、洗浄及び表面処理を行った後、固液分離して銀粒子を回収する。なお、洗浄及び表面処理に用いられる装置は、通常用いられるものでよく、例えば、撹拌機付の反応槽等を用いることができる。また、固液分離に用いられる装置も、通常用いられるものでよく、例えば、遠心機、吸引濾過機、フィルタープレス等を用いることができる。
洗浄及び表面処理が終了した銀粒子は、乾燥工程において水分を蒸発させて乾燥させる。乾燥方法としては、例えば、洗浄及び表面処理の終了後に回収した銀粉をステンレスパッド上に置き、大気オーブン又は真空乾燥機等の市販の乾燥装置を用いて、40〜80℃の温度で加熱すればよい。
そして次に、乾燥工程により乾燥させた銀粉を解砕する。本実施の形態に係る銀粉の製造方法においては、高速撹拌機等の転動撹拌機を用いて、撹拌羽根の周速が35m/s以上、より好ましくは周速40m/s以上の強い解砕処理を施す。このように、乾燥後の銀粉を強解砕することによって、銀粒子が連結して形成された凝集体を効果的に解砕し、一次粒子が分散した微細な銀粒子を形成することができ、上述した所望とする粒度分布を有する分散性の良い銀粉を製造することができる。周速が35m/s未満の場合、解砕エネルギーが弱いため凝集体が多く残り、上述した粒度分布が得られずペースト中での分散性が低下するとともにペースト化後に銀粉が沈降してしまう。
上述した解砕処理後、分級処理を行うことによって所望とする粒度分布を有する銀粉を得ることができる。分級処理に際して使用する分級装置としては、特に限定されるものではなく、気流式分級機、篩い等を用いることができる。
以下に、本発明の具体的な実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
38℃の温浴中で液温36℃に保持した25%アンモニア水36L、塩化銀2492g(住友金属鉱山(株)製、純度99.9999%、塩化銀中の銀1877g)を撹拌しながら投入して、銀錯体溶液を作製した。消泡剤((株)アデカ製、アデカノールLG−126)を体積比で100倍に希釈し、この消泡剤希釈液24.4mlを銀錯体溶液に添加し、得られた銀錯体溶液を温浴中で36℃に保持した。
一方、還元剤のアスコルビン酸1318g(関東化学(株)製、試薬)を、36℃の純水13.56Lに溶解して還元剤溶液とした。次に、水溶性高分子のポリビニルアルコール324g((株)クラレ製、PVA205、銀錯体溶液中の銀量に対して17.3質量%)を分取し、36℃の純水1Lに溶解した溶液を還元剤溶液に混合した。
作製した銀錯体溶液と還元剤溶液とを、モーノポンプ(兵神装備(株)製)を使用し、銀錯体溶液2.7L/min、還元剤溶液0.9L/minで樋内にそれぞれ送液して、銀錯体を還元した。このときの還元速度は銀量で127g/minとした。また、銀の供給速度に対する還元剤の供給速度の比は1.4とした。なお、樋には内径25mm及び長さ725mmの塩ビ製パイプを使用した。銀錯体の還元により得られた銀粒子を含むスラリーは撹拌しながら受槽に受け入れた。
その後、還元により得られた銀粒子スラリーを固液分離して、回収した乾燥前の銀粒子と、表面処理剤として市販のカチオン系界面活性剤であるポリオキシエチレン付加4級アンモニウム塩0.75g(クローダジャパン(株)製、シラソル、銀粒子に対して0.04質量%)、及び、分散剤として脂肪酸のステアリン酸と界面活性剤からなるステアリン酸エマルジョン14.08g(中京油脂(株)製、セロゾール920、銀粒子に対して0.76質量%)を純水15.4Lに投入し、60分間撹拌して表面処理を行った。表面処理後、銀粒子スラリーをフィルタープレスを使用して濾過し、銀粒子を固液分離した。
引き続き、回収した銀粒子が乾燥する前に、銀粒子を0.05mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液15.4L中に投入し、15分間撹拌して洗浄した後、フィルタープレスで濾過し、銀粒子を回収した。
次に、固液分離した銀粒子を、23Lの純水中に投入し、撹拌及び濾過した後、銀粒子をステンレスパッドに移し、真空乾燥機にて60℃で10時間乾燥した。その後、銀粉を1.75kgとり、5Lの高速撹拌機(転動撹拌機)(日本コークス工業(株)製、FM5C)に投入し、30分間、周速40m/sで撹拌しながら、真空ポンプにて減圧させて解砕を行うことによって、銀粉を得た。
得られた銀粉の粒度分布を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装(株)製、MICROTRAC HRA 9320X−100)を用いて測定した。なお、分散媒は、イソプロピルアルコールを用い、機器内を循環させた状態で銀粉を投入して測定した。図2に、体積積算の粒度分布を示し、下記表1に、得られた値を示す。
図2、表1に示されるように、レーザー回折錯乱法で得られる体積基準の粒度分布の粒子径(D50)が1.3μmであり、体積基準の粒度分布の標準偏差(SD)が0.40μmであり、体積基準の粒度分布の2.0μm〜6.0μmの粒径範囲の粒子の割合が14.8%であった。なお、SD=(D84−D16)/2であり、以下も同様である。
また、得られた銀粉を全炭素分析測定として高周波燃焼−赤外吸収法により炭素分析した結果、表面処理で用いたカチオン系界面活性剤とステアリン酸エマルジョンの90質量%程度が銀粉に吸着していることが確認され、銀粉は2種以上の表面処理剤を含む被覆層を有していることが分かった。
また、得られた銀粉について、走査型電子顕微鏡で観察して得られた画像を解析して得られた平均粒子径DSEMと、レーザー回折散乱法を用いて測定した体積基準の粒子径D50との比D50/DSEMを算出した。なお、画像解析においては、銀粒子を300点以上測長して得られた値の平均を平均粒子径DSEMとした。
表1に示されるように、走査型電子顕微鏡で銀粉を観察して得られた画像を解析して得られた平均粒子径DSEMが0.9μmとなり、D50/DSEMは1.4であった。
また、得られた銀粉をビニール袋に入れて通常の室内で1ヶ月保管した後、粒度分布を測定した。図3に、得られた体積積算の粒度分布を示し、下記表2に、得られた測定値を示す。
図3、表2に示されるように、室温で1ヶ月保管した銀粉は、レーザー回折錯乱法で得られる体積基準の粒度分布の粒子径(D50)が1.3μmであり、体積基準の粒度分布の標準偏差(SD)が0.40μmであり、体積基準の粒度分布の2.0μm〜6.0μmの粒径範囲の粒子の割合が14.9%であった。また、走査型電子顕微鏡で観察して得られた画像を解析して得られた平均粒子径DSEMは0.9であり、D50/DSEMは1.4であった。
また、ステンレス製の小皿に得られた銀粉9.2gと、エポキシ樹脂(三菱化学(株)製JER819)とターピネオールとの重量比が1:7のビヒクル0.8gを秤量し、金属性のヘラを用いて混合した後に、自公転型混練機((株)シンキー製ARE−250型)を用いて2000rpm(遠心力として420G)で5分間混練し、均一なペーストを作製した。得られた銀ペーストを通常の室内で1ヶ月保管したが、銀粉の沈降は発生せず、初期状態が維持されていることが確認された。
さらに、アルミナ基盤上にスクリーン印刷機(ミナミ(株)製MODEL−2300)を用いて上述のようにして得られたペーストで配線を印刷し、配線が印刷されたアルミナ基盤を大気中200℃で60分間の熱処理を施した。
熱処理を施したペーストで印刷された配線の体積抵抗率を抵抗率計(三菱化学アリナテック製ロレスタGP)を用いて測定した。その結果、表1に示されるように、ペーストの体積抵抗率は6.4μΩ・cmであり、そのペーストは優れた導電性を有することが分かった。
[実施例2]
還元剤溶液に混合する水溶性高分子であるポリビニルアルコールの量を283g((株)クラレ製、PVA205、銀錯体溶液中の銀量に対して16.0質量%)とし、解砕条件を、5Lの高速撹拌機(転動撹拌機)(日本コークス工業(株)製、FM5C)で撹拌羽根の周速を37m/sとしたこと以外は、実施例1と同様にして銀粉を製造した。
得られた銀粉を実施例1と同様に評価した。図4に、得られた銀粉の体積積算の粒度分布を示し、下記表1にそれぞれの測定値を示す。
図4、表1に示されるように、レーザー回折錯乱法で得られる体積基準の粒度分布の粒子径(D50)が1.9μmであり、標準偏差(SD)が0.82μmであり、体積基準の粒度分布の2.0μm〜6.0μmの粒径範囲の粒子の割合が53.1%であった。また、走査型電子顕微鏡で観察して得られた画像を解析して得られた平均粒子径DSEMが1.1μmとなり、D50/DSEMが1.7であった。
また、得られた銀粉を全炭素分析測定として高周波燃焼−赤外吸収法により炭素分析した結果、表面処理で用いたカチオン系界面活性剤とステアリン酸エマルジョンの90質量%程度が銀粉に吸着していることが確認され、銀粉は2種以上の表面処理剤を含む被覆層を有していることが分かった。
さらに、得られた銀粉をビニール袋に入れて室温にて1ヶ月保管後、粒度分布を測定した。図5に、得られた体積積算の粒度分布を示し、下記表2に、得られた測定値を示す。
図5、表2に示されるように、室温で1ヶ月保管した銀粉は、レーザー回折錯乱法で得られる体積基準の粒度分布の粒子径(D50)が1.9μmであり、標準偏差(SD)が0.91であり、体積基準の粒度分布の2.0μm〜6.0μmの粒径範囲の粒子の割合が53.4%であった。また、走査型電子顕微鏡で観察して得られた画像を解析して得られた平均粒子径DSEMは1.1であり、D50/DSEMは1.7であった。
また、実施例1と同様にして、得られた銀粉とターピオネールと樹脂とを自公転型混練機を用いて2000rpm(遠心力として420G)で混練して得られた銀ペーストをアルミナ基板上に印刷し、大気中200℃で60分間の熱処理を施して得られた配線の体積抵抗率は8.4Ω・cmであり、そのペーストは優れた導電性を有することが分かった。また、その銀ペーストを1ヶ月保管したところ、銀粉の沈降は発生せず、初期状態が維持されていることが確認された。
[実施例3]
表面処理剤として市販のカチオン系界面活性剤であるポリオキシエチレン付加4級アンモニウム塩を用いず、脂肪酸のステアリン酸と界面活性剤からなるステアリン酸エマルジョン(分散剤)14.08g(中京油脂(株)製、セロゾール920、銀粒子量に対して0.76質量%)のみにより表面処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして銀粉を製造した。
得られた銀粉を実施例1と同様に評価した。図6に、得られた銀粉の体積積算の粒度分布を示し、下記表1にそれぞれの測定値を示す。
図6、表1に示されるように、レーザー回折錯乱法で得られる体積基準の粒度分布の粒子径(D50)が2.0μmであり、標準偏差(SD)が0.95μmであり、体積基準の粒度分布の2.0μm〜6.0μmの粒径範囲の粒子の割合が57.0%であった。また、走査型電子顕微鏡で観察して得られた画像を解析して得られた平均粒子径DSEMが1.1μmとなり、D50/DSEMが1.8であった。
また、得られた銀粉を全炭素分析測定として高周波燃焼−赤外吸収法により炭素分析した結果、表面処理で用いたステアリン酸エマルジョンの60質量%程度が銀粉に吸着していることが確認され、銀粉は界面活性剤と脂肪酸(ステアリン酸)の2種の表面処理剤を含む被覆層を有していることが分かった。
さらに、得られた銀粉をビニール袋に入れて室温にて1ヶ月保管後、粒度分布を測定した。図7に、得られた体積積算の粒度分布を示し、下記表2に得られた測定値を示す。
図7、表2に示されるように、室温で1ヶ月保管した銀粉は、レーザー回折錯乱法で得られる体積基準の粒度分布の粒子径(D50)が2.0μmであり、標準偏差(SD)が0.96であり、体積基準の粒度分布の2.0μm〜6.0μmの粒径範囲の粒子の割合が56.9%であった。また、走査型電子顕微鏡で観察して得られた画像を解析して得られた平均粒子径DSEMは1.1であり、D50/DSEMは1.8であった。
また、実施例1と同様にして、得られた銀粉とターピオネールと樹脂とを自公転型混練機を用いて2000rpm(遠心力として420G)で混練して得られた銀ペーストをアルミナ基板上に印刷し、大気中200℃で60分間の熱処理を施して得られた配線の体積抵抗率は9.1Ω・cmであり、そのペーストは優れた導電性を有することが分かった。また、その銀ペーストを1ヶ月保管したところ、細かな銀粉の分離が見られたものの明確な銀粉の沈降は発生せず、使用可能な状態が維持されていることが確認された。
[比較例1]
還元剤溶液に混合する水溶性高分子であるポリビニルアルコールの量を154g((株)クラレ製、PVA205、銀粒子に対して8.2質量%)とし、解砕条件を、5Lの高速撹拌機(転動撹拌機)(日本コークス工業(株)製、FM5C)で撹拌羽根の周速を18.2m/sとしたこと以外は、実施例1と同様にして銀粉を製造した。
得られた銀粉を実施例1と同様に評価した。図8、得られた銀粉の体積積算の粒度分布を示し、下記表1にそれぞれの測定値を示す。また、得られた銀粉を高周波燃焼−赤外吸収法により全炭素分析し、銀粉表面の吸着した表面処理剤の吸着量を調べた。
得られた銀粉には、上記全炭素分析により表面処理で用いたカチオン系界面活性剤とステアリン酸エマルジョンの90%程度が吸着していたものの、図8、表1に示されるように、レーザー回折錯乱法で得られる体積基準の粒度分布の粒子径(D50)が2.3μmであり、標準偏差(SD)が1.15μmであり、粗大な粒子あるいは凝集した銀粉が含まれていることが分かった。また、体積基準の粒度分布の2.0μm〜6.0μmの粒径範囲の粒子の割合が65.0%であり、さらに、走査型電子顕微鏡で観察して得られた画像を解析して得られた平均粒子径DSEMが1.1μmであり、D50/DSEMが2.1となり、これらの結果からも粗大な粒子あるいは凝集体が相対的に多く形成されたことが分かった。
また、得られた銀粉をビニール袋に入れて室温にて1ヶ月保管後、粒度分布を測定した。図9に、得られた体積積算の粒度分布を示し、下記表2に、得られた測定値を示す。
図9、表2に示されるように、室温で1ヶ月保管した銀粉は、レーザー回折錯乱法で得られる体積基準の粒度分布の粒子径(D50)が2.6μmであり、標準偏差(SD)が1.37μmであり、体積基準の粒度分布の2.0μm〜6.0μmの粒径範囲の粒子の割合が68.6%であった。また、走査型電子顕微鏡で観察して得られた画像を解析して得られた平均粒子径DSEMは1.1であり、D50/DSEMは2.4であった。このように、1ヶ月保管した銀粉では、さらに凝集が進行し、凝集体が相対的にさらに多くなったことが分かる。
また、実施例1と同様にして、得られた銀粉とターピオネールと樹脂とを自公転型混練機を用いて2000rpm(遠心力として420G)で混練して得られた銀ペーストをアルミナ基板上に印刷し、大気中200℃で60分間の熱処理を施して得られた配線の体積抵抗率は20.2μΩ・cmであり、導電性が低下することが予測され、またその銀ペーストを1ヶ月保管したところ、銀粉の沈降が確認され、そのままの状態での使用は困難な状態であった。
[比較例2]
表面処理剤として市販のカチオン系界面活性剤であるポリオキシエチレン付加4級アンモニウム塩(クローダジャパン(株)製、シラソル)を用いず、分散剤として市販のステアリン2.82g(銀粒子に対して0.15質量%)を市販のエタノール20gで溶解したものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして銀粉を製造した。
得られた銀粉を実施例1と同様に評価した。図10に、得られた銀粉の体積積算の粒度分布を示し、下記表1に、それぞれの測定値を示す。また、得られた銀粉を高周波燃焼−赤外吸収法により全炭素分析し、銀粉表面に吸着した表面処理剤の吸着量を調べた。
得られた銀粉には、上記全炭素分析により表面処理で用いた分散剤であるステアリン酸の50%程度が吸着していたものの、ステアリン酸のみからなる1層の被覆層が吸着しているだけであった。また、図10、表1に示されるように、レーザー回折錯乱法で得られる体積基準の粒度分布の粒子径(D50)は2.0μmであったものの、標準偏差(SD)が1.12μmであり、粗大な粒子あるいは凝集した銀粉が含まれていることが分かった。なお、体積基準の粒度分布の2.0μm〜6.0μmの粒径範囲の粒子の割合は52.0%であり、また、走査型電子顕微鏡で観察して得られた画像を解析して得られた平均粒子径DSEMが1.1μmであり、D50/DSEMは1.8であった。
また、得られた銀粉をビニール袋に入れて室温にて1ヶ月保管後、粒度分布を測定した。図11に、得られた体積積算の粒度分布を示し、下記表2に、得られた測定値を示す。
図11、表2に示されるように、室温で1ヶ月保管した銀粉は、レーザー回折錯乱法で得られる体積基準の粒度分布の粒子径(D50)が8.3μmであり、標準偏差(SD)が5.76であり、体積基準の粒度分布の2.0μm〜6.0μmの粒径範囲の粒子の割合が27.9%であった。また、走査型電子顕微鏡で観察して得られた画像を解析して得られた平均粒子径DSEMは1.1であり、D50/DSEMは7.5であった。このように、1ヶ月保管した銀粉では、凝集が急速に進行し、凝集体が相対的に多くなったことが分かる。
また、実施例1と同様にして、得られた銀粉とターピオネールと樹脂とを自公転型混練機を用いて2000rpm(遠心力として420G)で混練して得られた銀ペーストをアルミナ基板上に印刷し、大気中200℃で60分間の熱処理を施して得られた配線の体積抵抗率は19.7Ω・cmであり、導電性が低下することが予測され、またその銀ペーストを1ヶ月保管したところ、銀粉の沈降が確認され、そのままの状態での使用は困難な状態であった。