以下に、本発明を適用した銀粉及び銀粉の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。
銀粉は、硬化剤、樹脂、溶剤等から構成される樹脂型銀ペーストやガラス、溶剤等から構成される焼成型銀ペーストに含有される。銀粉が含有された樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペーストは、配線層や電極の形成に用いられる。このため、銀粉は、電気的接続が図られるように、銀ペーストの溶剤や樹脂等との相溶性が良く、銀ペースト中に偏りなく分散することが必要である。また、分散性に優れた銀粉を用いた銀ペーストは、チクソトロピー性が低くなり、印刷性に優れたものとなる。
銀粉は、図1に示すような一次粒子の他に、二次粒子及び凝集体も含むものである。ここで、一次粒子とは図1に示すように球状の銀粒子1のことをいい、融着、固着などによって一次粒子が複数連結したものを二次粒子という。これらの一次粒子や二次粒子の銀粒子1が凝集したものを凝集体という。
一次粒子は、平均粒径0.1μm〜1.5μmの範囲であることが好ましい。一次粒子の平均粒径が0.1μm以上であることにより、銀ペーストにした場合に抵抗を生じさせず導電性を良好なものとすることができる。また、一次粒子の平均粒径を1.5μm以下とすることにより、分散性を悪化させることなく、混練の際に銀フレークが発生せず、印刷性も良好となる。一次粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により測定することができる。また、銀粉の粒度は、レーザー回折散乱法を用いて測定したD50(体積積算50%径)で、0.5μm〜5.0μmであることが好ましく、1.0μm〜4.0μmであることがより好ましい。
銀粒子1は、表面に有機被膜2が形成されている。この有機被膜2は、厚さが1nm〜5nmであり、構成成分の少なくとも一つがカチオン系界面活性剤である。更に、有機被膜2は、銀粒子1の表面に分散剤が表面処理されることによって、分散剤を含むものであってもよい。また、有機被膜2は全表面を被覆していることが好ましいが、必ずしも銀粒子1の全表面を被覆している必要はなく、銀粒子1の表面の一部が露出していてもよく、上記二次粒子や凝集体を形成している場合には、一次粒子間の連結部もしくは接触部に有機被膜2が形成されていなくてもよい。銀粉は、銀粒子1の表面に有機被膜2が形成されていることによって、凝集性が低くなり、ほぐれやすい粉となり、ペーストの溶剤や樹脂等の相溶性が良く、ペースト中での分散性も良いものとなる。
銀粉では、電離状態で界面活性剤を銀粒子1に吸着させることで凝集を抑制することが可能であるが、界面活性剤のみで凝集を抑制するためには添加量が多くなり過ぎてしまう。そのため、銀ペースト中で良好な分散状態が得られても配線層や電極の導電性が十分でないことがある。そこで、上述したように、銀粉の凝集を抑制し、分散性を良好にし且つ配線層や電極の導電性を十分なものとするためには、界面活性剤と分散剤を併用することが有効である。
カチオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレン基を有するものが好ましい。ポリオキシエチレン基は、ペースト作製時に使用される溶剤や樹脂との相溶性との関係で重要である。銀粉は、有機被膜2中にカチオン系界面活性剤、特にポリオキシエチレン基を含むカチオン系界面活性剤が含まれていることで、銀ペーストとの相溶性が良くなり、銀ペースト中の分散性が安定し、これによって良好な印刷性を有する銀ペーストを得ることができる。ポリオキシエチレン基を有するカチオン系界面活性剤は、特に限定するものではないが、オキシエチレンの繰り返し単位が5以上であることが好ましい。オキシエチレン基の繰り返し数が5より小さい場合、銀ペーストの溶剤や樹脂への相溶性に対する効果が十分ではなくなってしまう。
分散剤としては、例えば、脂肪酸、有機金属、ゼラチン等の保護コロイドを用いることができるが、不純物混入のおそれがなく且つ界面活性剤との吸着性を考慮すると、脂肪酸若しくはその塩を用いることが好ましい。なお、脂肪酸若しくはその塩は、界面活性剤を含むエマルジョンとして添加してもよい。
また、有機被膜2は、厚さが1nm〜5nmである。有機被膜2の厚さが1nm未満の場合では、銀粒子1同士が凝集しやすくなり、ペースト混練時に粒子をうまく分散させることができない。一方、厚さが5nmより厚い場合には、銀ペーストのチクソトロピー性が高くなり、印刷性が劣ってしまう。この原因は明確ではないが、過剰に付着した有機被膜2の構成成分がペースト混練時に銀粒子1の表面から脱落し、溶剤中に溶解することで銀ペーストの特性を変化させるものと考えられる。
更に、銀粉は、有機被膜2の最外層における電子エネルギー損失分光スペクトル(EELS:Electron Energy-Loss Spectroscopy)において、0.52keVから0.56keVのエネルギー領域にピークを有する。有機被膜2の最外層とは、有機被膜2において銀粒子1とは反対側の表面に位置する層である。銀粉の電子エネルギー損失分光スペクトルにおいて、この位置にピークを有するということは、印刷性に優れた銀ペーストを作製することができることを示している。
ここで、電子エネルギー損失分光スペクトル(EELS)について説明する。EELSは、透過型電子顕微鏡(TEM)に付属の検出器を用いた評価法であり、ナノスケールの組織観察を行いながら好みの箇所でスペクトルを得ることができ、電子状態や局所構造を解析することが可能となる。
0.52keVから0.56keVのエネルギー領域のピークは、酸素原子に起因するものである。つまり、有機被膜2の最外層には、酸素原子を有する化合物が存在することを示している。酸素原子は、銀粒子1の表面に吸着させたカチオン系界面活性剤やエマルジョンに含有されている界面活性剤に由来するものと考えられる。この酸素原子の存在によって、銀ペースト中での樹脂、例えばエポキシ樹脂等との相溶性及び溶剤との相溶性が良好となる。これにより、銀粉は、銀ペースト中での分散性が良くなり、チクソトロピー性が低くなり、良好な印刷性を得ることができる。
また、銀粉は、有機被膜2の最内層におけるEELSにおいて、0.52keVから0.56keVのエネルギー領域にピークを有することが好ましい。有機被膜2の最内層とは、銀粒子1と有機被膜2の界面側における有機被膜2の表面の層である。0.52keVから0.56keVのエネルギー範囲にピークを有することで、有機被膜2の最内層には、酸素原子が存在することがわかる。酸素原子は、銀粒子1の表面に吸着させたカチオン系界面活性剤に由来するものと考えられる。有機被膜2は、銀粒子1との界面に酸素が存在することで銀粒子1に対して密接で均一に結合し、これによって混練時に銀粒子1の表面から脱落しにくくなる。これにより、銀ペースト中では、銀粒子1の表面に均一に有機被膜2が形成された状態であり、分散を安定に維持することができると考えられ、銀ペーストのチクソトロピー性が低くなり、良好な印刷性が得られる。
更に、銀粉は、有機被膜2のEELSにおいて、0.28keVから0.32keVのエネルギー領域のピークにおいて、最外層と最内層でその強度に差があることが好ましい。このようなピークの強度差は、特に、有機被膜2を界面活性剤と分散剤とによって形成した場合に強く生じやすい。0.28keVから0.32keVのエネルギー領域のピークは、炭素原子に起因するものである。有機被膜2の最外層と最内層で、このエネルギー範囲におけるピークに強度差が生じることで、銀ペーストのチクソトロピー性が低くなり、良好な印刷性が得られる。有機被膜2の最外層と最内層でピークに強度差が生じる、即ち、ピーク形状が異なるということは、有機被膜2を構成する分子がある配向性を持っていることを意味していると考えられる。例えば、有機被膜2を界面活性剤と分散剤とによって形成した場合には、銀粒子1の表面に配向性をもって吸着した界面活性剤に分散剤がさらに配向性をもって吸着することにより、有機被膜2の最外層と最内層で有機被膜2中に存在する炭素による0.28keVから0.32keVのエネルギー領域のピークに差が生じる。この配向が銀ペースト中での銀粒子1の安定性に有利に作用しているものと考えられる。
以上のように、銀粉では、銀粒子1の表面に厚さが1nm〜5nmであり、構成成分の少なくとも一つがカチオン系界面活性剤である有機被膜2が形成され、この有機被膜2の最外層における電子エネルギー損失分光スペクトルにおいて、0.52keVから0.56keVのエネルギー領域にピークを有することによって、銀ペーストの樹脂や溶媒との相溶性が良くなり、銀ペースト中の分散性が良好となることによって、チクソトロピー性を低くすることができ、印刷性に優れた銀ペーストを作製することができる。
更に、銀粉は、有機被膜2の最内層におけるEELSにおいて、0.52keVから0.56keVのエネルギー領域にピークを有することによって、有機被膜2の最内層に酸素が存在するため、銀粒子1との結合が強く、有機被膜2が銀粒子1から剥離しにくくなる。これにより、銀粉は、混練時に有機被膜2が銀粒子1から剥離しないため、混練後であっても分散性を維持することができる。
更にまた、銀粉は、有機被膜2のEELSにおいて、0.28keVから0.32keVのエネルギー領域のピークにおいて、最外層と最内層でその強度に差があり、有機被膜2において構成する分子に配向性があることによって、銀ペーストのチクソトロピー性がより低くなり、印刷性により優れた銀ペーストを作製することができる。
次に、以上のような銀粉の製造方法について、工程毎に説明する。
銀粉の製造方法は、例えば塩化銀を出発原料とする。先ず、塩化銀を錯化剤により溶解して得た銀錯体を含む銀錯体溶液と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して銀粒子を析出させる湿式還元法により銀粒子スラリーを生成する工程を行う。この銀粒子スラリーを生成する工程では、硝酸銀を出発原料とする従来の方法で必要とされた亜硝酸ガスの回収装置や廃水中の硝酸系窒素の処理装置を設置する必要がなく、環境への影響も少ないプロセスであることから、製造コストの低減を図ることができる。また、硝酸銀を出発原料とした場合には、銀粉に硝酸イオンが含まれるため、硝酸イオンにより銀粉の焼結性が悪くなる等の影響が生じるが、塩化銀を用いることによって、硝酸イオンが含有されないため、このような影響がない。なお、亜硝酸ガスの回収装置や廃水中の硝酸系窒素の処理装置等を設けることで出発原料に硝酸銀を用いてもよい。
具体的に、銀粒子スラリーを生成する工程では、先ず、錯化剤を用いて塩化銀を溶解し、銀錯体を含む銀錯体溶液を調製する。錯化剤としては、特に限定されるものではないが、塩化銀と錯体を形成しやすく且つ不純物として残留する成分が含まれないアンモニア水を用いることが好ましい。また、塩化銀は高純度のものを用いることが好ましい。このような塩化銀として、純度99.9999質量%の高純度塩化銀が工業用に安定的に製造されている。
塩化銀の溶解方法としては、例えば錯化剤としてアンモニア水を用いる場合、塩化銀のスラリーを作製してアンモニア水を添加してもよいが、錯体濃度を高めて生産性を上げるためにはアンモニア水中に塩化銀を添加して溶解することが好ましい。塩化銀を溶解するアンモニア水は、工業的に用いられる通常のものでよいが、不純物混入を防止するため可能な限り高純度のものが好ましい。
次に、銀錯体溶液と混合する還元剤溶液を調製する。還元剤としては、一般的なヒドラジンやホルマリン等を用いることができる。アスコルビン酸は、還元作用が緩やかであるため、銀粒子1中の結晶粒が成長しやすく特に好ましい。ヒドラジンやホルマリンは、還元力が強いため、銀粒子1中の結晶が小さくなりやすい。また、反応の均一性又は反応速度を制御するために、還元剤を純水等で溶解又は希釈して濃度調整した水溶液として用いてもよい。
本実施の形態に係る銀粉の製造方法は、カチオン系界面活性剤を表面に吸着させた銀粒子1を得て、その後、得られた銀粒子1に対して分散剤による表面処理を行うものである。例えば、銀錯体を含む溶液及び還元剤溶液の両方、又は、銀錯体を含む溶液又は還元剤溶液のいずれか一方、特に好ましくは還元剤溶液に、有機被膜2を形成するカチオン系界面活性剤を添加することで、後に行う分散剤による表面処理よりも前に表面にカチオン系界面活性剤が吸着された銀粒子1を得ることができる。このカチオン系界面活性剤は、水中における電離状態で正イオンとなる親水基を有するため、還元剤溶液に水中における電離状態でカチオン系界面活性剤を添加すると、銀粒子1の表面にカチオン系界面活性剤が吸着される。銀粒子1の表面にカチオン系界面活性剤が結合することによって、後に添加した分散剤がカチオン系界面活性剤とともに銀粒子1に均一に強く結合するようになる。
カチオン系界面活性剤は、特に限定されるものではないが、モノアルキルアミン塩に代表されるアルキルモノアミン塩型、N−アルキル(C14〜C18)プロピレンジアミンジオレイン酸塩に代表されるアルキルジアミン塩型、アルキルトリメチルアンモニウムクロライドに代表されるアルキルトリメチルアンモニウム塩型、ヤシアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドに代表されるアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩型、アルキルジポリオキシエチレンメチルアンモニウムクロライドに代表される4級アンモニウム塩型、アルキルピリジニウム塩型、ジメチルステアリルアミンに代表される3級アミン型、ポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレンアルキルアミンに代表されるポリオキシエチレンアルキルアミン型、N、N’、N’−トリス(2−ヒドロキシエチル)−N−アルキル(C14〜18)1,3−ジアミノプロパンに代表されるジアミンのオキシエチレン付加型から選択される少なくとも1種が好ましく、4級アンモニウム塩型、3級アミン塩型のいずれか又はその混合物がより好ましい。
カチオン系界面活性剤は、メチル基、ブチル基、セチル基、ステアリル基、牛脂、硬化牛脂、植物系ステアリルに代表されるC4〜C36の炭素数を持つアルキル基を少なくとも1個有することが好ましい。また、アルキル基としては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン、ポリアクリル酸、ポリカルボン酸から選択される少なくとも1種が付加されたものであることが好ましい。これらのアルキル基は、分散剤として脂肪酸を用いた場合、脂肪酸との吸着が強いため、界面活性剤を介して銀粒子1に分散剤の脂肪酸を強く吸着させることができる。これらの中でも、ポリオキシエチレン基は、上述したようにペースト作製時に使用される溶剤や樹脂との相溶性との関係で重要であり、有機被膜2中にポリオキシエチレン基を含む界面活性剤が含まれることで、銀ペースト中の銀粉の分散性が安定し、これによって良好な印刷性を得ることができる。
また、カチオン系界面活性剤は、特に限定されるものではないが、フッ化物、臭化物、ヨウ化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらは一般的に界面活性剤の主成分として含まれ、入手が容易であることから好ましい。
カチオン系界面活性剤の添加量は、銀粒子1に対して0.002質量%〜1.000質量%の範囲が好ましい。界面活性剤の含有量が0.002質量%未満の場合には、銀ペーストの溶剤や樹脂等への相溶性に対する効果が十分に得られない。一方、界面活性剤の含有量が1.000質量%を超える場合には、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極の導電性が低下するため好ましくない。カチオン系界面活性剤は、添加量の80%以上が銀粒子1に吸着することが確認されており、上記添加量によって有機被膜2に十分な量のカチオン系界面活性剤が含まれる。
このカチオン系界面活性剤は、還元時に添加されていればよいため、還元剤溶液に予め添加することに限らず、銀錯体溶液及び還元剤溶液の両方、又は、銀錯体溶液に予め添加することもでき、銀錯体溶液と還元剤溶液との混合時に添加するようにしてもよいが、核発生あるいは核成長の場にカチオン系界面活性剤が供給され難く、銀粒子1の表面にカチオン系界面活性剤を吸着させにくくなるおそれがある。そのため、上述のように、還元剤溶液に予め添加しておくことが好ましい。これにより、核発生あるいは核成長の場にカチオン系界面活性剤が存在するようになり、生成した核あるいは銀粒子1の表面に迅速にカチオン系界面活性剤を吸着させることができる。
また、還元剤溶液には、銀粒子1の凝集を抑えるために水溶性高分子を添加することができる。添加する水溶性高分子としては、特に限定はされないが、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンの少なくとも1種であることが好ましい。水溶性高分子は、銀錯体を還元して銀粒子1を析出させる際に、銀の一次粒子又は二次粒子が過度に凝集しないように、銀粒子1の表面に吸着し、銀粒子1を分散させる分散剤のような役割をする。水溶性高分子を添加しない場合には、銀錯体の還元により発生した核や核が成長した銀粒子1が過度に凝集を起こし、分散性が悪いものとなってしまうことがある。水溶性高分子を添加しない場合であっても、還元条件によって銀ペースト用として好ましい程度に銀粉の粒度調整が可能であるが、水溶性高分子の添加によって、銀ペースト用としてより好ましい粒度に調整することが可能となる。
水溶性高分子の添加量は、水溶性高分子の種類及び得ようとする銀粉の粒径により適宜決定すればよいが、銀錯体溶液中に含有される銀に対して1質量%〜20質量%の範囲とすることが好ましく、3質量%〜10質量%の範囲とすることがより好ましい。水溶性高分子の含有量を1質量%〜20質量%とすることによって、銀の一次粒子又は二次粒子の過度の凝集が生じず、銀粉の粒度調整とともに後の工程において銀粒子1の表面に有機被膜2を適切に形成することができる。
水溶性高分子についても、銀錯体溶液及び還元剤溶液の両方、又はいずれか一方に添加することが可能である。銀錯体溶液及び還元剤溶液の両方、又はいずれか一方への水溶性高分子の添加については、還元処理に先立ち予め添加対象の溶液に添加してもよく、還元処理のための銀錯体含有溶液及び還元剤溶液の混合時に添加するようにしてもよい。より好ましくは予め還元剤溶液に水溶性高分子を混合しておく方がよい。このことは実験的に確認された結果であるが、還元剤溶液と水溶性高分子を混合しておくことで核発生又は核成長の場に水溶性高分子が存在し、生成した核又は銀粒子1の表面に迅速に水溶性高分子が吸着するため過度の凝集が抑えられると考えられる。水溶性高分子を、予め銀錯体含有溶液に添加した場合には、核発生あるいは各成長の場に水溶性高分子が供給されにくく、銀粒子の表面に適度に水溶性高分子を吸着させることができないおそれがあるため、3質量%よりも多く添加することが好ましい。
水溶性高分子を添加した場合には、還元反応時に発泡することがあるため、銀錯体溶液又は還元剤混合液に消泡剤を添加するようにしてもよい。消泡剤は、特に限定されるものではなく、通常還元時に用いられるものでよい。ただし、還元反応を阻害させないため、消泡剤の添加量は、消泡効果が得られる最小限程度にしておくことが好ましい。
なお、銀錯体溶液及び還元剤溶液を調製する際に用いる水については、不純物の混入を防止するため、不純物が除去された水を用いることが好ましく、純水を用いることが特に好ましい。
次に、上記のごとく調製した銀錯体溶液と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して銀粒子1を湿式還元法により析出させる還元工程を行う。この還元反応は、バッチ法でもよく、チューブリアクター法やオーバーフロー法のような連続還元法を用いて行ってもよい。均一な粒径を有する銀粒子1を得るためには、粒成長時間の制御が容易なチューブリアクター法を用いることが好ましい。また、銀粒子1の粒径は、銀錯体溶液と還元剤溶液の混合速度や銀錯体の還元速度で制御することが可能であり、目的とする粒径に容易に制御することができる。銀粒子の平均粒子径は、0.1μm〜1.5μm程度であり、形成する配線の太さや電極の厚さによって適宜調整する。そして、得られた銀粒子スラリーをフィルター棟で濾過し、銀粒子1を固液分離する。
次に、固液分離した銀粒子1に対して分散剤で表面処理を行う。表面処理は、例えば分散剤を添加した水中に固液分離して得られた銀粒子1を投入し撹拌して行う。分散剤で表面処理を行うことによって、カチオン系界面活性剤が吸着された銀粒子1に分散剤が吸着して、カチオン系界面活性剤と分散剤とからなる有機被膜2を形成する。表面処理は、洗浄工程前、即ち、還元同時若しくは還元直後に表面処理、銀粒子スラリーから銀粒子1を固液分離した後であって洗浄工程前又は洗浄と同時に表面処理を行うことが好ましい。洗浄により水溶性高分子を完全に除去してしまうと銀粒子1が凝集し、除去後では銀粒子1の表面へ一様に有機被膜2を形成することが困難となることがあるためである。
仮に、表面処理を行う前に洗浄を複数回繰り返して行った場合には、銀粒子1の表面から不純物や水溶性高分子が取り除かれるにつれて、銀粒子1の凝集が進行してしまう。このような状態では、この後に表面処理を行ったとしても、形成された凝集体を解きほぐすために、高いエネルギーでの解砕処理が必要となる。このような解砕は、表面処理した銀粒子の表面に損傷を与え、銀ペーストの特性に影響を与えてしまう。したがって、複数回洗浄を行って完全に水溶性高分子を除去する前に、銀粒子1の表面に表面処理を行うことが好ましい。
分散剤としては、例えば、脂肪酸、有機金属、ゼラチン等の保護コロイドを用いることができるが、不純物混入のおそれがなく且つ界面活性剤との吸着性を考慮すると、脂肪酸若しくはその塩を用いることが好ましい。
分散剤として用いる脂肪酸としては、特に限定されるものではないが、ステアリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、リノレン酸から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの脂肪酸は、沸点が比較的低いため、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極への悪影響が少ないからである。
分散剤の添加量は、銀粒子1に対して0.01質量%〜1.00質量%の範囲が好ましい。分散剤の種類により銀粒子1への吸着量は異なるが、添加量の50%以上が銀粒子1に吸着することが確認されており、添加量が0.01質量%未満の場合には、銀粒子1の凝集抑制の効果が十分に得られる量の分散剤が銀粒子1に吸着されないことがある。一方、分散剤の添加量が1.00質量%を超える場合には、銀粒子1に吸着される分散剤が多くなり、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極の導電性が十分に得られないことがある。
添加された分散剤は、銀粒子1の表面にカチオン系界面活性剤が吸着していることによって、銀粒子1の表面に均一で強く吸着される。これにより、分散剤は、カチオン系界面活性剤から剥離しにくくなる。したがって、このように銀粒子1に表面処理を行うことによって、銀粒子1とカチオン系界面活性剤との間、及びカチオン系界面活性剤と分散剤との間の吸着が強いため、有機被膜2が剥離しにくく、洗浄や解砕を行っても有機被膜2の剥離を防止することができる。
また、分散剤は、エマルジョンとして添加してもよい。例えば、脂肪酸若しくはその塩と界面活性剤を含むエマルジョンを用いることができる。エマルジョンを用いた場合には、エマルジョンに含まれている界面活性剤も有機被膜2を形成する成分となる。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等を用いることができる。
更に、表面処理は、分散剤と界面活性剤とによって行ってもよく、界面活性剤はポリオキシエチレン基を有する界面活性剤が好ましい。この場合、分散剤と界面活性剤とが有機被膜2を形成する成分となる。分散剤と界面活性剤とによって表面処理を行う場合、銀粒子スラリーから固液分離して得られた銀粒子1を、界面活性剤及び分散剤を添加した水中に投入して撹拌するか、界面活性剤を添加した水中に投入して撹拌した後、更に分散剤を添加して撹拌する。また、洗浄液に界面活性剤及び分散剤を同時に添加するか、又は界面活性剤の添加後に分散剤を添加することで、洗浄と表面処理を同時に行ってもよい。銀粒子1への界面活性剤及び分散剤の吸着性を改善するためには、界面活性剤を添加した水又は洗浄液に銀粒子を投入して撹拌した後、分散剤を更に添加し撹拌することが好ましい。
なお、表面処理及び後述する洗浄に用いられる装置は、通常、表面処理や洗浄に用いられる装置でよく、例えば撹拌機付の反応槽等を用いることができる。
次に、表面処理をした銀粒子1を洗浄する。銀粒子1は、表面に不純物、過剰の水溶性高分子が吸着している。従って、銀ペーストを用いて形成される配線層や電極等の導電性を十分なものとするためには、得られた銀粒子スラリーを洗浄し、銀粒子1に付着した不純物や過剰に付着した水溶性高分子を除去する必要がある。不純物や水溶性高分子を除去しても有機被膜2が残るため、銀粒子1の凝集抑制と、配線層や電極等の導電性とを両立させることができる。
洗浄方法としては、特に限定されるものではないが、スラリーから固液分離した銀粒子1を洗浄液に投入し、撹拌機又は超音波洗浄器を使用して撹拌した後、再び固液分離して銀粒子1を回収する方法が一般的に用いられる。また、不純物や過剰な水溶性高分子を十分に除去するためには、洗浄液への投入、撹拌洗浄、及び固液分離からなる操作を、適宜数回繰り返して行うことが好ましい。
洗浄液は、銀粒子1の表面に吸着されている水溶性高分子や不純物、特に塩化銀を原料とした場合には塩素を効率よく除去するために、アルカリ性溶液又は水を用いる。アルカリ性溶液としては、残留する不純物が少なく且つ安価な水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合には、水酸化ナトリウム水溶液での洗浄後、ナトリウムを除去するために銀粒子又はそのスラリーを更に水で洗浄することが望ましい。その他のアルカリ性溶液としては、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、アンモニア水のいずれか1つ、または混合して用いることが好ましい。その他に、無機化合物又は有機化合物からなるアルカリ性溶液を用いても問題はない。洗浄液に用いる水は、銀粒子1に対して有害な不純物元素を含有していない水が好ましく、特に純水が好ましい。
洗浄に用いる水酸化ナトリウム水溶液の濃度は、0.01mol/L〜0.30mol/Lが好ましい。0.01mol/L未満では、洗浄効果が不十分であり、0.30mol/Lを超えると、銀粒子1にナトリウムが許容以上に残留することがある。なお、洗浄液に用いる水は、銀粒子1に対して有害な不純物元素を含有していない水が好ましく、特に純水が好ましい。
次に、表面に有機被膜2を形成した銀粒子1を回収する回収工程を行う。この回収工程は、表面処理及び洗浄を行った後、固液分離して有機被膜2が形成された銀粒子1を回収する。固液分離に用いられる装置は、通常用いられるものでよく、例えば遠心機、吸引濾過機、フィルタープレス等を用いることができる。
次に、固液分離して得られた銀粒子1の水分を蒸発させて乾燥させる乾燥工程を行う。乾燥方法としては、例えば、洗浄及び表面処理の終了後に回収した銀粒子1をステンレスパッド上に置き、大気オーブン又は真空乾燥機等の市販の乾燥装置を用いて、40℃〜80℃の温度で加熱すればよい。
次に、乾燥後の銀粒子1に対して、弱い解砕を行い、乾燥時に生じた凝集体をほぐす。なお、解砕は、乾燥後の銀粒子1において、凝集体をほぐす必要があれば行うようにしてもよい。解砕を行う際には、弱い力で解砕することができる。これは、有機被膜2により銀粒子1の凝集が抑えられているからである。解砕の手段としては、ボールミルや衝突式気流型粉砕器、衝撃式粉砕器、筒型高速攪拌機等、種々のものを用いることが可能であるが、有機被膜2に損傷を与えない程度に解砕可能なものであれば、特に限定されるものではない。解砕する際の力は、小さい振動、例えば銀粒子をジャイロシフターにて篩いにかけた際の振動程度でもよい。
したがって、解砕条件を初めて決定する際には、有機被膜2の状態を確認しながら解砕条件を調整し、銀粉の表面の有機被膜2に損傷を与えない程度に解砕処理を加える必要がある。解砕条件は、解砕する装置の大きさや作製した銀粉の状態等によって、適宜、解砕装置の回転数、解砕時間、温度等を決めるようになる。
上述した解砕処理後、分級処理を行うことによって所望とする粒度分布を有する銀粉を得ることができる。分級処理に際して使用する分級装置としては、特に限定されるものではなく、気流式分級機、篩い等を用いることができる。
上述した銀粉の製造方法では、銀錯体を含む溶液及び/又は還元剤溶液にカチオン系界面活性剤を添加し、即ち還元時にカチオン系界面活性剤を添加し、その後、分散剤で表面処理を行ったが、このことに限定されない。銀粒子1を分散剤で表面処理する前に銀粒子1の表面にカチオン系界面活性剤が吸着されていればよいため、例えば還元時にカチオン系界面活性剤は添加せず、表面処理の際にカチオン系界面活性剤を銀粒子1の表面に吸着させた後、分散剤で表面処理するようにしてもよい。この場合においても、銀粒子1の表面にカチオン系界面活性剤が吸着されているため、分散剤がカチオン系界面活性剤とともに銀粒子1に均一に強く結合し、分散剤が剥離しにくくなり、有機被膜2の剥離を防止することができる。
上述した銀粉の製造方法では、銀粒子1の表面に少なくともカチオン系界面活性剤を含む有機被膜2を形成した後、表面の有機被膜2に損傷を与えないように解砕し、厚さが1nm〜5nmの有機被膜2が銀粒子1に形成された銀粉を製造することができる。得られた銀粉は、有機被膜2の最外層における電子エネルギー損失分光スペクトル(EELS)において0.52keVから0.56keVのエネルギー領域にピークを有する。この銀粉は、0.52keVから0.56keVのエネルギー領域にピークを有することから、有機被膜2の最外層に酸素が存在し、銀ペースト中のエポキシ樹脂等の樹脂や溶剤との相溶性が良好である。これにより、この銀粉を用いた銀ペーストは、チクソトロピー性が低くなり、良好な印刷性を得ることができる。
また、この銀粉の製造方法により得られた銀粉は、有機被膜2の最内層における電子エネルギー損失分光スペクトル(EELS)において、0.52keVから0.56keVのエネルギー領域にピークを有する。得られた銀粉は、0.52keVから0.56keVのエネルギー領域にピークを有することから、銀粒子1と有機被膜2との密着性が高く、有機被膜2が銀粒子1から剥離しにくくなっている。このため、この銀粉の製造方法では、有機被膜2の形成後に洗浄や解砕を行っても、有機被膜2が形成された状態を維持できる。これにより、得られた銀粉は、分散性を安定に維持できる。この銀粉を用いた銀ペーストは、よりチクソトロピー性が低くなり、より良好な印刷性を得ることができる。
更にまた、上述した銀粉の製造方法により得られた銀粉は、0.28keVから0.32keVのエネルギー領域のピーク形状が最外層と最内層で異なる。この銀粉は、0.28keVから0.32keVのエネルギー領域のピーク形状が最外層と最内層でピーク強度に差を有することから、有機被膜2を構成する界面活性剤及び分散剤の分子がある配向性をもち、銀ペーストの溶剤や樹脂に対する相溶性が更に良好となる。これにより、この銀粉を用いた銀ペーストは、更にチクソトロピー性が低くなり、良好な印刷性が得られる。
以下、本発明を適用した具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
実施例1では、先ず、38℃の温浴中で液温36℃に保持した25質量%アンモニア水36Lに、塩化銀2490g(住友金属鉱山(株)製、純度99.9999%)を撹拌しながら投入して銀錯体溶液を作製し、温浴中で36℃に保持した。
一方、還元剤のアスコルビン酸1318g(関東化学(株)製、試薬)を、36℃の純水10Lに溶解して還元剤溶液を作製した。
次に、水溶性高分子のポリビニルアルコール93.8g((株)クラレ製、PVA205、銀粒子に対して10.0質量%)を分取し、36℃の純水4.6Lに溶解した溶液を上記還元剤溶液に混合した。
さらに、ポリオキシエチレン基を含む界面活性剤として市販のカチオン系界面活性剤であるポリオキシエチレン付加4級アンモニウムを0.90g(クローダジャパン(株)製、商品名 シラソル、銀錯体溶液中の銀量に対して0.048質量%)を純水0.1Lに溶解したものを上記の還元剤溶液に混合した。
次に、上記銀錯体溶液と還元剤溶液を、モーノポンプ(兵神装備(株)製)を使用し、それぞれ2.44L/min及び0.90L/minで樋内に送液して、銀錯体を還元した。この時の還元速度は、銀量で127g/minである。なお、上記樋には、内径25mm及び長さ725mmの塩ビ製パイプを使用した。銀錯体の還元により得られた銀粒子を含むスラリーは、撹拌しながら受槽に受け入れた。受け入れ終了後、受槽内での撹拌を60分継続した。撹拌終了後の上記銀粒子スラリーをフィルタープレスで濾過し、銀粒子を固液分離した。
次に、固液分離した銀粒子に対して分散剤による表面処理を行った。分散剤であるステアリン酸エマルジョン16.87g(中京油脂(株)製、セロゾール920、銀粒子に対して0.90質量%、ポリオキシエチレンアルキルエーテル含有)を20Lの純水に投入し、攪拌して銀粒子の表面に表面処理した。この後、0.05mol/Lの濃度になるように水酸化ナトリウムを加え、15分間攪拌して洗浄した後、フィルタープレスで濾過して銀粒子を回収した。
引き続き、表面処理した銀粒子を乾燥する前に、銀粒子を0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に投入し、15分間撹拌して洗浄した後、フィルタープレスで濾過して回収した。その後、この洗浄操作と濾過による固液分離操作を3回繰り返した。
固液分離した銀粒子を、20Lの純水中に投入し、撹拌及び濾過した後、銀粒子をステンレスパッドに移し、真空乾燥機にて60℃で10時間乾燥した。
乾燥後、解砕及び分級を行った。解砕は、乾燥後の銀粒子を1.5kg取り、5Lの高速攪拌機(日本コークス(株)製FM5C/I)に投入し、回転羽根を15m/秒の周速で30分間回転させて解砕処理を行った。更に、解砕後の銀粒子を、気流式分級機(日本鉱業(株)EJ−3型)を用いて、分級点7μmで分級処理して銀粉を得た。得られた銀粉のSEM観察による一次粒子の平均粒径は、0.98μmであり、レーザー回折散乱法を用いて測定した粒度(D50)は2.35μmであった。
以上のようにして、実施例1の銀粉を得た。得られた銀粉について、日立ハイテクノロジーズ社製HF−2200電界放出型透過電子顕微鏡を用いて、表面被膜の観察及びEELSの測定を行った。任意の5カ所について観察を行ったところ、厚さ約2nmの有機被膜が形成されていた。
次に、この有機被膜の最外層及び最内層について、0.52keV〜0.57keV及び0.27keV〜0.32keVのEELSの測定を行ったところ、図2及び図3に示すようなスペクトルが得られた。まず、有機被膜の最外層及び最内層のいずれにおいても、図2に示すように0.52keV〜0.56keVのエネルギー領域にピークが検出された。また、0.28keV〜0.32keVのエネルギー領域では、図3に示すように最外層と最内層で異なる形状のピークが確認された。
次に得られた銀粉のペースト特性の評価を行った。ステンレス製の小皿に得られた銀粉10.2gと、エポキシ樹脂(三菱化学(株)製JER819)とターピネオールとの重量比が1:7のビヒクル0.8gを秤量し、金属性のヘラを用いて混合した。その後、自公転型混練機((株)シンキー製ARE−250型)を用いて2000rpm(遠心力として420G)で5分間混練し、評価用ペーストを得た。得られたペーストについて、粘弾性測定装置(Anton Paar社、MCR−301)を用いて、せん断速度が4(1/sec)、20(1/sec)における粘度と、せん断速度が4(1/sec)における粘度をせん断速度2.0(1/sec)における粘度で割った粘度比を測定した。粘度比は2.80であり、チクソトロピー性の低い分散性の良好なペーストが得られた。このペーストをスクリーン印刷機(ミナミ(株)製MODEL−2300)を用いてアルミナ基盤上に配線を印刷した。スクリーンへの付着残りもほとんど見られず、良好な印刷性が得られた。
<比較例1>
比較例1では、還元剤溶液にはオキシエチレン基を含む界面活性剤を添加せずに還元し、分散剤としてステアリン酸エマルジョンではなくステアリン酸を3.75g(和光純薬(株)製、銀粒子に対して0.20質量%)用いて銀粒子に対して表面処理を行った以外は、実施例1と同様の方法で銀粉を得るとともに評価を行った。得られた銀粉の一次粒子の平均粒径は、0.99μmであり、粒度(D50)は2.22μmであった。任意の5カ所について表面被膜の観察を行ったところ、実施例1と同様に、全ての箇所において2nmの有機被膜が観察された。
しかしながら、この有機被膜の最外層及び最内層について、0.52keV〜0.57keV及び0.27keV〜0.32keVのEELSの測定を行ったところ、図4及び図5に示すようなスペクトルが得られた。まず、図4に示すように有機被膜の最外層及び最内層のいずれにおいても、0.52keV〜0.56keVのエネルギー領域にピークは検出されなかった。次に、0.28keV〜0.32keVのエネルギー領域では、図5に示すように最外層と最内層で同じ形状のピークが確認された。
次に、得られた銀粉を用いて実施例1と同様のペーストの評価を行った。粘度比は3.65で、チクソトロピー性が高いペーストであった。また、スクリーン印刷を行ったところ、版抜け性が悪く、スクリーンへの付着量が多く、印刷性は悪かった。
<比較例2>
比較例2では、還元剤溶液にオキシエチレン基を含む界面活性剤を添加せずに還元し、また洗浄前に表面処理を行わず、ポリオキシエチレン付加4級アンモニウム(クローダジャパン株製、商品名 シラソル)及びステアリン酸エマルジョンを同時に4回目の水酸化ナトリウム水溶液の洗浄工程で添加し表面処理を実施したこと、及び、高速攪拌機の回転羽根を40m/秒の周速で回転させたこと以外は、実施例1と同様の方法で銀粉を得るとともに評価した。得られた銀粉の一次粒子の平均粒径は、1.00μmであり、粒度(D50)は1.52μmであった。任意の5カ所について表面被膜の観察を行ったところ、ほとんど有機被膜の存在しない箇所が2カ所において観察された。また、残りの3カ所については、約2nmの有機被膜が観察された。
次に、この有機被膜が観察された部分について、有機被膜の最外層及び最内層について、0.52keV〜0.57keV及び0.27keV〜0.32keVのEELSの測定を行ったところ、図6及び図7に示すようなスペクトルが得られた。まず、有機被膜の最外層及び最内層のいずれにおいても、図6に示すように0.52keV〜0.56keVのエネルギー領域にピークは検出されなかった。次に、0.28keV〜0.32keVのエネルギー領域では、図7に示すように最外層と最内層で同じ形状のピークが確認された。
次に、得られた銀粉を用いて実施例1と同様のペーストの評価を行った。粘度比は3.42で、チクソトロピック性が高いペーストであった。また、スクリーン印刷を行ったところ、版抜け性が悪く、スクリーンへの付着量が多く、印刷性は悪かった。
以上のように、実施例1と比較例1とを比較してみると、外観は同じような有機被膜を有する銀粉であっても、構成されている成分によって、ペーストの特性が異なることがわかる。実施例1では、ポリオキシエチレン基を含有するカチオン系界面活性剤が有機被膜の構成成分の一つとして含まれ、有機被膜の最外層及び最内層において0.52keVから0.56keVのエネルギー領域にピークが検出され、更に、0.28keVから0.32keVのエネルギー領域のピークにおいて最外層と最内層でその強度に差が生じたことから、有機被膜の最外層及び最内層に酸素が存在し、有機被膜を構成する分子に配向性があることがわかる。これにより、実施例1では、分散が安定化し、印刷性に優れた銀ペーストが得られることが明らかとなった。
一方、比較例1は、有機被膜の最外層及び最内層において0.52keV〜0.57keVのエネルギー領域にピークが検出されず、最外層及び最内層に酸素が存在していないことがわかる。比較例1では、チクソトロピー性が高くなり、印刷性が悪くなった。
また、実施例1と比較例2とを比較してみると、同じ界面活性剤及び分散剤を使用した場合であっても、界面活性剤及び分散剤の添加のタイミング及び解砕条件によっては、比較例2のように銀粉の表面に形成した有機被膜が損傷してしまい、表面被膜が残っている部分であってもEELSでピークが検出されないことがわかる。このような比較例2の銀粉では、銀ペースト中での分散安定性が悪く印刷性が悪いペーストとなることが明かとなった。