JP4266345B2 - 有機材料の微細領域分析方法 - Google Patents

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Description

本発明は、有機材料(有機材料を用いたデバイスを含む)の新しい分析方法に関し、さらに詳細には有機材料をナノメートル(10-9m)オーダーの微細領域単位で分析する局所分析方法に関する。
本発明は、有機材料、例えば有機EL材料の遷移エネルギー評価、荷電状態評価、異種材料との界面評価など、有機材料についての新しい分析方法を確立し、有機材料の新しい応用開発に利用できるものである。
従来、有機材料の持つ光学的な遷移エネルギーなど分子軌道に関わる特性の評価は、紫外−可視分光光度計(UV−Vis)やエックス線光電子分光装置(XPS)、紫外光電子分光装置(UPS)等を用いて評価されている。これらの分析方法は、分析領域がミクロン〜サブミクロン領域あるいはそれ以上の面積領域であり、しかも表面状態の分析に特化した分析法である。
一方、半導体分析の分野では半導体内部の微小領域内の不純物濃度分布や電位分布を局所的に測定したりする必要がある。そのため、電子顕微鏡に電子エネルギー分光装置を備えた半導体分析装置で微小領域の分析を行うことがなされている(たとえば特許文献1参照)。
特開平10-241619号公報
上述したように、従来からなされている有機材料の分子軌道に関わる特性の分析では、分析領域は小さくてもせいぜいミクロン〜サブミクロン領域であり、しかも表面状態に特化した分析であったため、得られる情報量が少なく分析結果の応用分野が限られていた。
電子顕微鏡に電子エネルギー分光装置を備えた半導体分析装置では、電子線ビーム径をナノメートルオーダーまで絞ることにより、分析装置としてはナノオーダーの微細領域ごとの分析が可能であるが、有機材料についてミクロンオーダー以下で測定しても信号が小さくなるだけで有用なデータが得られないと考えられていたため、ナノオーダー領域での測定は行われなかった。また、有機材料をナノオーダーで測定できるようにするためのサンプリング技術が確立されていなかったこともあり、半導体分析装置を有機材料の分析に適用することはなかった。
特に、有機材料を含む複数の材料を積層した有機デバイスが作成されているが、その断面方向に沿ってのナノオーダーの微細領域をサンプリングすることが困難なため、上述したような電子顕微鏡を用いたエネルギー分析方法が確立できていなかった。
本発明は、有機材料に対して従来考えつかなかった分析方法によるナノオーダーでの分析を行うことを特徴とする。
また本発明は、サンプリング方法を工夫することで、有機材料のナノオーダーでの価電子遷移、荷電状態、ポテンシャル等に関する情報を、表面方向若しくは断面方向から得ることができる分析方法を提供することを目的とする。
特に、10nm以下、特に数nm程度あるいはそれ以下の領域での分析を可能にし、有機材料を含む異種物質を接合したときの界面状態の評価などができる分析方法を提供することを目的とする。より具体的には、たとえば半導体有機材料や有機発光デバイスにおける電極と有機層の界面におけるポテンシャルの勾配を評価できる分析方法を提供し、バンドダイヤグラムを作成するなど、素子の高度な機能発現を実現することを目的とする。
本発明の有機材料の微細領域分析方法は、分析対象の単分子サイズと同程度であるか、若しくはそれより小さい分析領域で、または外接円の直径が0.01nm〜10nmの分析領域で、有機材料のポテンシャルおよび荷電状態の少なくとも一方の評価を行うことを特徴とする。「外接円の直径が0.01nm〜10nmの分析領域」とは、分析領域を取り囲む外接円の直径が概ね0.01nm〜10nm程度であることを意味する。分析領域自体の形状は、円形、楕円形、多角形などの何れの形状であってもよい。また、「単分子サイズ」とは、単一の分子を取り囲む外接円の直径をいう。
本発明の有機材料の微細領域分析方法は、例えば、ビーム径が測定対象分子の単分子サイズと同程度であるか、若しくはそれより小さなサイズであるか、または0.01nm〜10nmである電子線を入射し、電子線が試料を透過したときの電子エネルギー損失データに基づいて有機材料の微細領域の分析を行う方法によって、実施することができる。電子線の形状は、円形、楕円形、多角形などの何れの形状であってもよく、また、「ビーム径」とは、電子線を取り囲む外接円の直径をいう。
また、これ以外にも、本発明の有機材料の微細領域分析方法は、電子線を用いた方法では、入射電子を単色化するためのモノクロメータを備えた電子顕微鏡エネルギーフィルター電子顕微鏡という方法によっても、実施することができる。また、電子線用いた方法以外にも、本発明の分析方法は、走査プローブ型顕微鏡、例えば走査トンネル顕微鏡、導電性原子間力顕微鏡、走査型ポテンシャル顕微鏡、走査型広がり抵抗顕微鏡など基本形にした顕微鏡類、XPEEM(X線光電子顕微鏡)等を用いて実施することができる。
また、FIBまたは/およびクライオミクロトームにより禁水条件下で有機材料を含む試料を薄片形状に切り出し、切り出した薄片試料に対して、ビーム径が測定対象分子の単分子サイズと同程度であるか、若しくはそれより小さなサイズであるか、または0.01nm〜10nmである電子線を入射し、電子線が薄片試料を透過したときの電子エネルギー損失に関するデータに基づいて有機材料の微細領域の分析を行う。
これによれば禁水条件下で、有機材料を薄片に切り出すことにより、有機材料と水分が反応すること無く、有機材料そのものが元来持っていた電子構造等の化学状態を変化無く分析することが可能となる。
FIBで有機材料を含む試料を薄片形状に切り出した後、切出面に生じた損傷部分をクライオミクロトームによりさらに切り出すようにしてもよい。
試料を薄片形状に切り出す際の薄片の厚さが1nm〜300nmであればよい。本発明によると、数nmの厚さの試料のみならず、10000nm以上の厚さの試料をも測定することができる。
試料は有機材料を含む2以上の異種材料が積層された構造であり、試料の積層断面が現れる方向に切り出すようにしてもよい。
試料が有機ELデバイスであってもよい。
試料が有機半導体デバイスであってもよい。
電子エネルギー損失に関するデータはエネルギーフィルター型電子顕微鏡装置により取得するようにしてもよい。
有機材料の分子軌道に関わる、π-π*電子エネルギー準位間遷移過程、乃至イオン化遷移過程等に伴って生じる電子エネルギー損失を分析するようにしてもよい。
電子エネルギー損失に関するデータは、有機材料の分子軌道に関わる、π-π*電子エネルギー準位間遷移過程、乃至イオン化遷移過程に伴って生じる電子エネルギー損失データであってもよい。
電子エネルギー損失に関するデータに基づいて行われる分析が、局所的な荷電状態または荷電分布状態の分析であってもよい。
電子エネルギー損失に関するデータに基づいて行われる分析が、有機材料の局所的なポテンシャルまたはポテンシャル分布の分析であってもよい。
電子エネルギー損失に関するデータに基づいて行われる分析が、有機材料およびこれに隣接する他の材料との間の界面及びその界面近傍における特性分布の分析であってもよい。
電子エネルギー損失に関するデータに基づいて行われる分析が、有機材料を含む、異なる材料間の接合領域における電子あるいは正孔の輸送に関与するエネルギー準位の差異の分析であってもよい。
また、本発明の有機材料微細領域分析装置は、有機材料を含む試料を載置するための試料載置部と、ビーム径が0.01nm〜10nmの電子線を前記試料に入射するための電子線照射機構と、前記電子線が試料を透過したときの電子エネルギー損失データを取得する電子エネルギー損失検出部とを備えるようにしている。
分析装置は、電子線の加速エネルギーを5〜1000keVの範囲で調整することにより、電子線が試料を透過することにより生じるエネルギー損失ピークの半値幅を0.02eV〜3.0eVの範囲となるように制御して、試料に応じた遷移エネルギー値を求めるようにしてもよい。
試料加熱冷却機構をさらに備えるようにしてもよい。
分子軌道法計算機能を更に備えるようにしてもよい。
本発明によれば、分析対象の単分子サイズと同程度であるか、若しくはそれより小さい分析領域で、または外接円の直径が0.01nm〜10nmの分析領域で、有機材料のポテンシャルおよび荷電状態の少なくとも一方の評価を行うことができ、有機材料の開発に役立つ情報を得ることができる。
また、電子線を用いる場合には、ビーム径が単分子の分子サイズ、若しくはより小さなサイズで、具体的には0.01nm〜10nmである電子線を有機材料に入射し、電子線が試料を透過したときの電子エネルギー損失データに基づいて有機材料の微細領域の分析を行うことにより、有機材料について従来はナノオーダーで得られなかった新しいデータを得ることができる。
また、有機材料における電子準位間での遷移過程のエネルギーに関する情報を、表面方向若しくは断面方向から1nm以下の空間分解能で得ることができる。特に異種物質を接合したときの界面状態の評価にも応用できる。
半導体有機材料や有機発光デバイスにおける電極と有機層の界面におけるポテンシャルの勾配を評価し、バンドダイヤグラムを作成し、素子の高度に高い機能発現を実現することが可能となる。
以下、電子線を用いた本発明の実施例について図面を用いて説明する。
まず、電子エネルギー損失を測定する装置として、入射電子線から特定のエネルギーを選択して分析することができるエネルギーフィルター型電子顕微鏡(EF−TEM)を説明する。
エネルギーフィルター型電子顕微鏡
図1は、エネルギーフィルター型電子顕微鏡による電子エネルギー損失の測定方法を説明する図である。図において、1は加速された入射電子であり、分析対象により電子線の加速エネルギーを変化させることが可能にしてある(加速エネルギーの影響については図10にて説明を行う)。加速エネルギーの調整は、電磁レンズなど電子顕微鏡に標準装備された調整機構により5〜1000keVの範囲で行われる。2は有機材料からなる測定(観察)試料である。測定試料は単一の有機材料でも複数の有機材料が含まれているものでもよく、あるいは有機材料を含むデバイスなどの構造体として構成されるものでもよい。3は分析中の試料に対して加熱冷却を行うための温度調節機構であり、さまざまな温度条件下での測定ができるようにしてある(加熱冷却の影響については図11の例で説明する)。
4は測定試料における分析領域(電子線が照射される領域)であり、直径が0.01nm〜10nm、好ましくは0.1nm〜5nm(概ね、分析対象の単分子サイズと同程度であるか、若しくはそれより小さい領域である。)の大きさにしてある。この分析領域は、電子顕微鏡のコンデンサレンズや対物レンズ等の静電レンズの励磁を調節することにより集束した電子線プローブ(プローブ径は概ね0.1〜5nmに集束可能である)を作製し、試料に照射することで得られる。通常、エネルギーを持った電子線が試料に照射されると、試料構成元素の種類、プローブの集束角、試料厚み等に応じて入射電子の試料内での拡散領域が広がる。
特に、試料厚みについて着目すると、モンテカルロシミュレーションによる理論計算上では、炭素100%からなる薄膜に対して、入射時のビーム径0nm、加速電圧100keVの電子線プローブを照射した場合、50nmの膜厚では1.9nm、10nmの膜厚では0.2nmに広がる。電子線エネルギー損失(EELS)分析では試料を透過してきた弾性、非弾性散乱電子のみを信号として利用する。電子の拡散した領域全てからの信号を得るわけではなく、数ナノメートル以下の空間分解能を達成するためには、分析時のビーム径をできる限り小さくするとともに、試料をできる限り薄くする等の条件を満たす必要がある。
具体的にはビーム径は、概ね、測定対象分子の単分子サイズと同程度であるか、若しくはそれより小さなサイズであることが望ましく、具体的には0.01nm以上〜10nm以下であることが望ましく、試料厚みは300nm以下、より好ましくは50nm以下であることが望ましい。
5は電子線をエネルギー毎に分離する磁気プリズム等の分光器、6は試料との各種相互作用により特定のエネルギーを失い(非弾性散乱現象)、そのエネルギー毎に分光器5により振り分けられた透過電子の進行方向、7はエネルギー毎に分離した透過電子についてそれぞれの損失エネルギーを検知するCCD素子等の検出器、8は検出器で取得した電子線エネルギー損失(EELS)スペクトルを示している。
この電子線エネルギー損失スペクトル8は、別途に公知の手法で算出される分子軌道法計算結果9と対比することが可能となっている(図9で説明を行う)。
電子エネルギー損失スペクトル
次に、エネルギーフィルター型電子顕微鏡(EF−TEM)による電子エネルギー損失(EELS)スペクトルの取得について説明する。
入射電子線1が試料2にエネルギーを与え、試料構成原子の1s軌道(K殻)の電子を励起する場合を例に説明する。基底状態にある原子においては、フェルミレベル以下の電子準位は、(試料の温度にもよるが)常温付近ではほぼ全て電子により占有されており、1s軌道(K殻)等の内殻電子が励起されるエネルギー準位はフェルミレベル以上の非占有状態の準位となる。したがって、入射電子1が、1s準位とフェルミレベルとのエネルギー差ΔE以上のエネルギーを失った場合に、1s電子が励起される確率が急激に増大し
、これに伴いEELSスペクトルにおいてΔEのエネルギー位置に鋭いピークが現れるこ
とになる。この内殻電子の励起に伴ってEELSスペクトルに現れるピークは、その急峻な立ち上がりの形から特にエッジと呼んでいる。
一方、有機材料においては構成原子の内殻準位からの遷移に加え、分子軌道に関わる電子エネルギー準位間の遷移過程が生じる。有機材料を数nm以下の空間分解能で測定することにより、この分子軌道に関わる遷移過程をも明らかにできることが判明した。
すなわち、分析領域4を10nm以下、より好ましくは5nm以下に制限することで、分析領域4が個々の分子と大きさがほぼ等しくなり、従来のXPS、UPS、UV−Vis等で求めていたマクロな領域からの分子集合体全体からの情報とは異なり、分子固有の情報を正確に得ることができることがわかった。
エネルギーフィルター型電子顕微鏡(EF−TEM)を用いた有機材料の解析事例としては、これまでにポリアミド中に分散したポリフェニレンエーテル粒子について報告したものがある。その事例では、ポリフェニレンエーテル粒子系は1〜5μmφであり、分子軌道に関わるエネルギー遷移スペクトルはポリアミドでは見られず、ポリフェニレンエーテルでは6〜8eVの範囲に観察されることが定性的に報告されているのみである。
すなわち、これまでは、エネルギー損失スペクトルの分析のためには、分析領域をミクロンオーダーからナノオーダーに小さくすると信号が小さくなり、分析が困難あるいは不利と考えられていた。本発明では分析領域をナノオーダーにした場合であっても試料の作製方法を工夫することにより、空間分解能をナノオーダーにすることができるだけでなく、電子準位間の遷移過程、遷移過程に関する情報から導出される荷電状態、局所的なポテンシャルを測定できることがわかった。
また、各エネルギー損失スペクトルと分子軌道計算結果とを比較することにより、それぞれのスペクトルについて定量的な意味付けができることも判明した。
さらに、有機材料が薄膜である場合、有機材料層の堆積面に対し平行な方向(断面方向)に評価することにより、準位間の遷移過程や遷移過程に関する情報から導出される荷電状態、局所的なポテンシャルについての深さ方向分布の評価ができることがわかった。
測定試料の作製方法
本発明に用いる試料作製法としては、クライオミクロトームに代表される切削法、集束イオンビーム(FIB)装置に代表されるイオンビームを用いた手法でしかも禁水条件下で作製するものがよい。禁水条件下で作成するのがよいのは、機能性有機材料には水分と容易に反応するものも多く、水分と反応することで電子材料としての特性を失活する場合があるからである。
なお、有機材料以外の部分は、研磨とイオンミリング法を併用した研磨法、化学物質を利用して電界研磨法等に代表される電気化学的反応を利用し試料を薄片化する手法、(例えばフッ酸)を利用して、特定の層をエッチングして(例えばSiO2)残った物質を解析するリフトオフと呼ばれる手法等、何れを用いても構わないが、特にそれらを組み合わせて利用する手法等であってもよい。
いずれにせよ、試料にできるだけ損傷を与えず試料本来のEELSスペクトルを数nm以下の空間分解能で測定できる薄片化法が望ましい。
特に、断面方向からの分子軌道に関わる遷移過程などを10nm以下の空間分解能で分析できるようにするときのサンプリング技術については、後述する図4で説明する。
試料厚みについては測定可能な厚み(1nm以上)であって有効な信号が得られる厚みで限りなく薄いことが望ましく、その厚さは300nm以下であり、好ましくは50nm以下である。
その他のEELSスペクトルの取得における照射電子ビーム条件としては、電子線が試料を通過する際の電子線照射損傷の影響を抑えることも必要である。例えば室温において電子線損傷が起こる電子線量(ドーズ量)は、ポリエチレンでは加速電圧100keVで、3.1electrons/Å2であり、テトラセンでは加速電圧100keVで、100electrons/Å2である。電子線量は加速電圧の他、試料温度、測定時間、観察倍率にも依存する。
試料温度を下げる効果としては、グルコース置換したtRNAの電子線損傷量は、室温から-265.1℃にすることで20.5倍改善されている。観察試料を冷却する効果により、EELSスペクトルを精度良く解析できる効果も生まれる(図11で詳しく説明する)。試料に与える電子線量は好ましくは室温において0.1electrons/Å2を超えないようにし、−196℃では10electrons/Å2を超えないようにし、−250℃においては50electrons/Å2を超えないように調節する。
次に、本発明の実施例について、有機材料の試料状態や分析目的ごとに説明する。
(有機材料が粉末試料である場合の評価方法)
まず、有機材料が粉末試料である場合の評価方法について説明する。
具体的な試料として、有機EL材料の発光層として有名な
「Alq3」・・・(化1)
の結晶性粉末試料を用いた。
Figure 0004266345
この粉末試料を薬さじを用いて直接電子顕微鏡観察用グリッドにふるい落とし、観察用試料とした。この試料は結晶粒の大きさに依存したランダムな膜厚分布を持っている。試料の中で、膜厚が10nm程度になっている箇所(この箇所は電子顕微鏡観察により決定する)に、加速電圧80keV、ビーム径0.7nmに集束された電子ビームを照射し、電子準位間の遷移情報を得た。この際の測定条件として、エネルギー損失がない、いわゆる「ゼロロスピーク」の半値幅が0.5eVのエネルギー分解能を常時達成できるよう調整を行った。
このようにして得られたEELSスペクトルを、別途測定を行う紫外−可視分光光度計(UV−Vis)による分析結果10と比較した。UV−Vis分析に用いた試料は、Alq3粉末試料を蒸着源として、石英基板上へ膜厚モニターで正確に監視しながら、真空度2×10-4Pa、蒸着温度160℃、蒸着速度0.05nm/秒の条件で蒸着し、80nmの厚さだけ堆積したものを用いた。
図2は、10nm以下の分析領域で観測される粉末状態の有機材料試料の電子分光学的な特性評価であって、分子軌道に関わる、π-π*電子エネルギー準位間遷移過程、乃至イオン化遷移過程等に伴って生じる電子エネルギー損失分析の結果を示す図である。図において、8は実際にAlq3粉末試料から得られたEELSスペクトル、10は比較対象となるAlq3蒸着膜試料から得られた紫外−可視分光光度計(UV−Vis)分析結果である。
EELSスペクトル8とUV−Visスペクトル10において、相互によく対応した3.3、4.7、6.4eVに極大を持つスペクトルが得られた。
これらのピークは何れも、π→π*遷移ピークであり、それぞれ順にHOMO−LUMOバンド間遷移に対応したピーク、HOMO−LUMOバンド間遷移より高いバンド間エネルギー(例えばHOMO→LUMO+1など)、イオン化エネルギーに対応する(詳しくは図9で説明する)。
Alq3のような機能性有機材料は、π結合と呼ばれる、二重結合や環状構造に特有の分子軌道を持っている。図2の例では電子によって占有されている結合性分子軌道であるπ軌道から、よりエネルギーの高い非占有の反結合性分子軌道であるπ*軌道への複数の電子準位間遷移によって生じるEELSスペクトルの様子が確認される。
この領域は、図1で示したEELSスペクトル8のうちの0〜30eVロスエネルギー領域(Low−loss領域)の一部である。
一方、これらπ、π*に代表される分子軌道は、有機材料の電子的振る舞いを議論する時に用いられる、価電子帯の最上部に相当するHOMO準位(最高被占有分子軌道)、及び伝導体の最下部に対応するLUMO準位(最低未占有分子軌道)と対応関係を持っており、例えば、図2に示された最も低エネルギー側のピークがHOMO−LUMO遷移に対応している。
これはナノオーダーの分析領域で測定したことにより観測が可能となったものである。
HOMOは電子で占められている占有軌道の中で最も反応性に富んでおり、一方、LUMOは空軌道の中で最も反応性の高い軌道である。有機材料を含む構造体の一例として、有機エレクトロルミネセンス(有機EL)に代表される有機デバイス構築の際には、電極から有機層への電子や正孔の注入効率が高いことが要求される。電子注入に対しては、有機分子は低いLUMO値を持つことが要求される。一方、正孔注入効率はHOMO値との相関が非常に高い。
このように、有機材料の電気的な振る舞いを支配する分子軌道に関わる情報が、しかも10nm以下の位置分解能で得られるため、有機デバイスを評価する上で、非常に有効な手段となる。
また、XPS法など他の方法と比較して、π軌道からπ*軌道への遷移ピークが感度良く観察されやすい。これはエネルギーフィルター型透過電子顕微鏡(EF−TEM)の利点の一つである。
(有機材料を含む簡易素子である場合の評価方法)
機能性有機材料の評価の一例として以下の手順で作製した簡易素子を評価に用いた。
まず、アクリル製のプラスチック基板上にAu電極を50nmの厚さで積層した。その上に有機EL材料の発光層としてAlq3分子13を50nm、さらに、引き続いて有機ELデバイスにおいて、陰極バッファ層として有名なLiF12を温度570℃、真空度2×10-4Pa、蒸着速度0.1nm/秒の条件で蒸着し、膜厚1nmの陰極バッファ層を得た。
さらにAlq3とLiFを交互に、それぞれ10nm、5nmと0.9nm、0.7nmと蒸着し、最後に50nmの厚さでAl14を蒸着した。この素子をクライオミクロトームで30nmの厚さに切削し試料として用いた。この試料をEF−TEM装置内に配置し、加速電圧80keVで、ビーム径が0.2nmになるように集束した電子ビームを、固定位置若しくは0.4nm間隔で分析位置を連続的に移動しながらEELSスペクトルを得た。
特にこの簡易素子において、Alq3分子1350nmのうち、Au電極側の30nmの領域にて解析を行ったところ、電子準位間の遷移過程を示すπ軌道から、よりエネルギーの高いπ*軌道へ遷移(π→π*遷移)が、3.3、4.7、6.4eVに極大を持つスペクトルとして得られた。この値は別途行ったUV−Visスペクトルと完全に一致した値を示した。
(有機材料の局所荷電状態、荷電分布状態の評価)
次に、有機材料の局所的な荷電状態の測定・評価について説明する。本来中性分子である機能性有機分子に、例えば電子や正孔が電荷注入された場合、その分子構造の荷電状態に応じた電子構造スペクトルが観察できれば、有益な情報となる。そして各種有機材料がどのような荷電状態を示すのかを正確に把握することは、新規材料設計の指針となるのに加え、デバイス作製においても、特性や材料劣化等の予測が容易に行えるようになるなど非常に有益な情報を与える。
図3は、有機材料について、局所的な荷電状態或いは荷電分布状態を測定するために試料に電荷を与える方法を示す模式図である。この方法は、有機ELなど電荷が注入されるデバイスを実際に作製して荷電状態の評価をする代わりに、擬似的に電荷注入を引き起こして簡易的に評価を行うことができるものである。
図において、11はPtプローブ、12はフッ化リチウム(LiF)、13は測定対象の有機材料であるAlq3分子を示す。このフッ化リチウム12はPtプローブ11とAlq3分子13との間で、電子のPtプローブ11からAlq3分子13への注入障壁を下げる作用の媒体物質として機能するものである。
先端径が10nmφ程度の走査型トンネル顕微鏡用Ptプローブ11上に、有機ELデバイスの陰極バッファ層などに使用されるフッ化リチウム(LiF)12を真空蒸着法にて、蒸発温度570℃、真空度2×10-4Pa、蒸着速度0.1nm/秒の条件で膜厚約1nmを積層した。
次に、Alq3分子13を、膜厚モニターで正確に監視しながら、基板温度を−100℃とし、真空度2×10-4Pa、蒸着温度160℃、蒸着速度0.05nm/秒の条件で蒸着し、10nmの厚さだけ堆積した。その後、基板温度を150度に保ち30分間熱処理した。
更に、その上から再びLiF12を真空蒸着法にて、蒸発温度570℃、真空度2×10-4Pa、蒸着速度0.1nm/秒の条件で膜厚約1nmを積層した。この処理により、極細いPtプローブ11先端付近には、数分子からなるAlq3分子集合体であって極薄いLiF層で囲まれた微細構造体が形成された。LiF12に挟まれたAlq3分子13の付いたPtプローブ11を、電子顕微鏡用観察グリッドに対して水平な位置で固定するようにして、EF−TEM装置内に導入した。
続いてPtプローブ11先端を、加速電圧80keVで、ビーム径が0.2nmになるように集束した電子ビームを、Ptプローブ11/LiF12界面から0.4nm間隔で分析位置を連続的に移動しながら照射した。このとき、Alq3分子13中からの分析であることを確認しつつ図2の場合と同様にEELSスペクトルを測定した。
その結果、Alq3分子13からは3〜4eV及び5eV付近に極大をもつEELSスペクトルが得られた。3〜4eVのピークはHOMO−LUMOバンド間遷移より高いバンド間エネルギー(例えばHOMO→LUMO+1など)、5eVのピークはイオン化エネルギーに対応し、これらのピーク位置は、図2に示したAlq3粉末試料のものとは明らかに異なっていた。これは、図3の方法ではAlq3の少数分子集合体をLiFで覆ったために、電子を付与された荷電状態のAlq3分子に対応するEELSスペクトルが得られたものだからである。
例えばイオン化エネルギーについて、図2で確認されたAlq3分子13の中性状態と、荷電状態を比較すると、LiF12からの電子の注入によりAlq3分子13内に生じた荷電状態のEELSスペクトルと、図2に示した中性状態の分子のEELSスペクトルを比較することで、素子構造、信頼性等の視点からの有機分子デバイス設計に役立つ情報が得られる。例えば、Alq3分子を発光層とする有機EL素子の劣化について、電荷注入に伴う荷電状態の関与が指摘されている。これら有機素子の劣化に関わる荷電状態の評価を上記と同様な方法で行うことにより、劣化機構を解明することができる。
(有機材料の局所ポテンシャル、局所ポテンシャル分布状態の評価)
HOMO、LUMO等の電子軌道に注目し、数nm以下の位置分解能で遷移エネルギーを評価することにより、局所的なポテンシャル或いはポテンシャル分布を知ることができる。
例えば、電極界面における有機材料の電子遷移(例えばHOMO-LUMO遷移等)のエネルギーを知ることで電極材料と有機材料との組合せに応じたポテンシャル分布の違いを知ることができる。このような情報は、材料間の界面における電子や正孔の注入効率を制御するための知見を与えるため、これまでになかったデバイス構造の構築に利用することができる。
図4は、単一あるいは複数の有機材料、あるいはこれら有機材料を含む構造体についてEELSスペクトルから導かれる局所的なポテンシャル、あるいはポテンシャル分布を示す模式図である。
図において、14はAl電極、15はLiF12/Alq313界面から離れたところの充満準位(HOMO)、16はLiF12/Alq313界面から離れたところの空準位(LUMO)、17はLiF12/Alq313界面から離れたところの空準位、15´はLiF12/Alq313界面付近の充満準位、16´はLiF12/Alq313界面付近の充満準位、17´はLiF12/Alq313界面付近の空準位、18はAl電極側の真空準位、18´は異種材料が接することで界面を作り、その結果新たに生じた真空準位、19はAlの仕事関数、20はAlq3のイオン化ポテンシャル、21はLiF/Alq3界面から20nm以上離れた箇所で優先的に観察される遷移ピーク(6.0eV)、22はLiF/Alq3界面ごく近傍で観察される遷移ピーク(5.0eV)である。
具体的に図4に基づいて説明する。300nmのSiO2熱酸化膜の付いたSi(111)基板上に、Al電極14を電子ビーム蒸着法にて、100μm幅のラインアンドスペースで作られたマスクを利用して150nmの厚さになるよう積層した。この基板上にAlq3分子13を、膜厚モニターで正確に監視しながら、真空度2×10-4Pa、蒸着温度160℃、蒸着速度0.05nm/秒の条件で蒸着し、50nmの厚さだけ堆積し、さらに引き続いて、LiF12を蒸発温度570℃、真空度2×10-4Pa、蒸着速度0.1nm/秒の条件で膜厚1nmまで積層した。
この上に陰極として、マスクを再度利用して幅100μmのストライプ状のAl電極14を、膜厚150nmになるように作製した。このように作製された試料を、FIB装置を用いて幅10μm、高さ5μm、厚さ0.5μmの大きさに切り出した。
FIBの加工条件としては、禁水条件下でGaイオンを30keVで加速し試料表面からスパッタリングを行った。加工時の電流量は、絞り径の大きさで制御され、加工当初は20nAであったものを、薄片化を進めると同時に1000pA、500pA、100pA、50pA、30pA、10pAと段階的に落としていった。更に最終的には試料を±1度ずつ傾けて、加速電圧を5keVに落とし、5pAで表面クリーニング処理を施した。
この薄片化試料をエポキシ樹脂内に包埋後、禁水条件下で更なる薄片化処理を行うために、クライオミクロトームを用いて試料厚さが30nmになるように調整を行い、分析用試料とした。
この試料に加速電圧80keVで、ビーム径が0.2nmになるように集束した電子ビームを、Al電極14から0.4nm間隔で分析位置を連続的に移動しながら、図2、図3と同様にEELSスペクトルを測定した。図4は、その結果をもとにして作成した電極界面でのポテンシャルプロファイルである。
図中、15、16、17はLiF12/Alq313界面から離れたところ、15’、16’、17’はLiF12/Alq313界面に近いところにおける、相互に対応関係にある分子軌道のエネルギーを模式的に示したものである。これら相互に対応するエネルギー準位の間の対応関係はお互いを結ぶ曲線で示されており、この曲線は、ポテンシャルプロファイルがLiF12/Alq313界面にかけて湾曲していく様子を示している。
また、15、16、17、15´、16´、17´のうち、白い四角は空準位、灰色の四角は充満準位を示している。18はAl電極14側、あるいは界面から十分遠い位置にあるAlq313側から見た真空準位であり、18´はAlq313側の界面近傍における真空準位(Al電極14とLiF12とが接触することで新たに生じたAl電極14側とAlq313側では約1.8eVのポテンシャルの勾配を持つことが知られている)を示す。
19は仕事関数の値で、Al電極14の仕事関数はおよそ4.3eVを示す。図4で、まず、界面から十分離れた位置でのAlq313のエネルギー準位について説明する。
20はAlq313のイオン化ポテンシャルの値であり、5.7〜6.6eVの値が報告されている。15はAlq313のもつHOMOのエネルギー準位となり、16は同じくAlq313分子のもつLUMOのエネルギー準位となる。15´はLiF12とAlq313が接することで新たに生じた界面ごく近傍におけるHOMOエネルギー準位である。
21はLiF12/Alq313界面から20nm以上離れた箇所で優先的に観察される遷移ピークであり、その値は概ね6.0eV程度の値を示した。図2で説明した通り、この値は中性状態におけるAlq313分子のイオン化エネルギーに対応する。
これに対して、22はLiF12/Alq313界面ごく近傍で優先的に観察される遷移ピークを示し、その値は5.0eV程度を示した。この値もまた図2で説明した通り、荷電状態におけるAlq313分子のイオン化エネルギーに対応する。LiF12/Alq13側界面ごく近傍では、真空準位が1.8eV程度下がっており、HOMOも0.5eV程下がっているため、HOMOから真空準位までのエネルギー差であるイオン化エネルギーとして、5.0eV程度の値が観測されたものと考えられる。
二つの領域で見られるピーク位置の違いは、LiF12とAlq313など異種材料が近接して組み合わされた構造で見られる現象であり、界面付近におけるポテンシャルプロフィルの曲がりによって生じたものである。
界面から離れたところでは、LiF12層の電気的な影響は受けず、孤立したAlq313のエネルギー損失ピークが遷移21に対応して最も優先的に観測される。これに対して、LiF12層近傍ではLiF12層からの電子供給によりポテンシャル分布を生じ、もともとLUMO準位にあった準位16に対応する新しい充満準位16´が生じる。この準位は電子の部分的な占有によって生じる1価に満たない電荷が原因で、中性状態のLUMO準位に僅かに電化が溜まった結果、新たに生じた準位であり、例えば中性状態のAlq13分子で見られた、相反するスピンを持つ2個の電子が充満してできたHOMO準位とは区別する。また同様にもともとHOMO準位にあった準位15に対しても、新しい充満準位15‘が生じる。
この結果、電子線を透過させた場合、遷移過程22による、遷移21とは異なるエネルギー損失を生じ、その観測を通じて界面付近における局所的なポテンシャル、あるいはポテンシャル分布を数ナノメートル以下の空間分解能で検出することができる。
(検証用試料によるナノオーダー測定の確認)
次に、有機材料での実際の測定分解能を確認するため、ナノオーダー測定を確認する標準試料を作成して検証した例について説明する。
図5は、有機材料表面に対して垂直、または、有限の角度で電子線を照射し、数nm以下の空間分解能で、有機材料における電子準位間の遷移過程、有機材料の局所的な荷電状態、有機材料の局所的なポテンシャル分布の評価を行った例を示す図である。
1は加速された入射電子ビーム、23は銅フタロシアニン、24はポリビニルアルコール(PVA)を示す。
分散する分子として銅フタロシアニン23(化2)0.01gを濃硫酸溶液500ml中で溶解する。
Figure 0004266345
一方、ポリビニルアルコール(PVA)24(化3)を、水溶液中1000ml中を入れたフラスコを、氷水で冷却しておいた。
Figure 0004266345
そこへ、先ほどの銅フタロシアニン23混合濃硫酸溶液を1ml混合した。この処理により、PVA24中に銅フタロシアニンの1〜10分子よりなる微結晶粒子が生成され、この試料を用いて機能性分子の分散系モデル試料(測定分解能評価用標準試料)とした。
この試料をクライオミクロトームにより、厚さ30nmに薄片化し、電子顕微鏡用観察グリッドに乗せ、加速電圧120keVでビーム径が0.2nmになるように集束した電子ビームを用いて観察を行い、EELSスペクトルを取得した。
銅フタロシアニン23の存在している領域からのみ5.8eV付近にπ→π*遷移スペクトルが得られた。この5.8eVの損失エネルギーのみを分光して像を結像すると銅フタロシアニン23の存在する微結晶がコントラストとして明るく、PVAの存在するところだけがコントラストの暗いイメージを得ることができた。
銅フタロシアニン23の存在している領域は、1.5〜15nmの分散を持っており、PVA24中にほぼ均一に分散していた。この結果より、有機材料の特性評価を2nm以下の空間分解能で観測することが可能であると証明された。
なお、上述した分散系モデル試料のようなナノレベルで分散された材料の各状態を評価することで、材料同士の親和性等を評価することができる。
プラスチックフィルムの導電性を、少なくとも2種類以上の材料を分散することで改善しようとした場合、導電性に効果のある機能性有機分子の分散状態を可視化することは有益な情報である。
(有機材料多層膜構造体の断面評価)
次に、有機材料を含む多層膜からなる構造体の断面方向から電子線を照射し評価を行う例について説明する。
図6は、有機材料を含む構造体の表面に対して垂直な方向(断面方向)から電子線を照射し、電子準位間の遷移過程、有機材料の局所的な荷電状態、有機材料の局所的なポテンシャル分布などの特性評価を数nm以下の空間分解能で行った例を示す模式図である。
図において、1は加速された入射電子ビーム、12はLiF分子、13はAlq3分子、14はAl電極、25は300nmのSiO2熱酸化膜、26はSi(111)基板である。
図4で紹介した例を更に発展すると次のようなことが分かる。図4と同様に、300nmのSiO2熱酸化膜25の付いたSi(111)基板26上に、Al電極14を電子ビーム蒸着法にて作製した。このAl電極14は、100μm幅のラインアンドスペースで作られたマスクを利用して150nmの厚さになるよう積層した。
この基板上にAlq313を、膜厚モニターで正確に監視しながら、真空度2×10-4Pa、蒸着温度160℃、蒸着速度0.05nm/秒の条件で蒸着し、50nmの厚さだけ堆積し、さらに引き続いて、LiF12を蒸発温度570℃、真空度2×10-4Pa、蒸着速度0.1nm/秒の条件で膜厚1nmまで積層した。
再度Alq313を、膜厚モニターで正確に監視しながら、真空度2×10-4Pa、蒸着温度160℃、蒸着速度0.05nm/秒の条件で蒸着し、50nmの厚さだけ堆積し、引き続いて、LiF12を蒸発温度570℃、真空度2×10-4Pa、蒸着速度0.1nm/秒の条件で膜厚3nmまで積層した。
この上に陰極として、マスクを再度利用して幅100μmのストライプ状のAl電極14を、膜厚150nmになるように作製した。このように作製された試料を、FIB装置を用いて禁水条件下で、幅10μm、高さ5μm、厚さ0.5μmの大きさに切り出した。
FIBの加工条件としては、Gaイオンを30keVで加速し試料表面から順次スパッタリングを行った。加工時の電流量は、絞り径の大きさで制御され、加工当初は20nAであったものを、薄片化を進めると同時に1000pA、500pA、100pA、50pA、30pA、10pAと段階的に落としていった。
更に最終的には試料を±1度ずつ傾けて、加速電圧を5keVに落とし、5pAで表面クリーニング処理を施した。そして、この薄片化試料をエポキシ樹脂内に包埋後、更なる薄片化処理を行うために、クライオミクロトームを用いて、試料厚30nmで断面観察が行えるよう切削を行い分析用試料とした。
この試料に加速電圧80keVで、ビーム径が0.2nmになるように集束した電子ビームを、上部側のAl電極14から0.4nm間隔で分析位置を連続的に移動しながら、Alq313でのポテンシャルプロファイルを観察した。すると、主に6.0eV付近に再現性良く遷移ピークが観察された。これら特性を評価した時の空間分解能は1.5nm以下であった。
(有機材料多層膜構造体の界面評価)
図7は有機材料を含む構造体において、異なる材料間の界面及びその近傍における特性分布評価を数nm以下の空間分解能で行った例である。本例は、図6の試料構成において加速された入射電子を界面領域に入射させたものである。
すなわち、FIB装置を用いて幅10μm、高さ5μm、厚さ0.5μmの大きさに切り出した薄片化試料をエポキシ樹脂内に包埋後、更なる薄片化処理を行うために、クライオミクロトームを用いて試料厚さ30nmで断面観察が行えるよう切削を行い分析用試料とした。
この試料に加速電圧80keVで、ビーム径が0.2nmになるように集束した電子ビームを、上部Al電極14から0.4nm間隔で分析位置を連続的に移動しながら、LiF12/Alq313界面近傍でのポテンシャルプロファイルを観察した。
すると、膜厚1nmのLiF、3nmのLiFどちらからも、それぞれのAlq313界面近傍においてのみ、ポテンシャルが湾曲している様子が観察された。この時の特性評価の空間分解能は1.5nm以下であった。
なお、有機材料を含む構造体としては、必ずしも積層膜ではなく、2種以上の材料を分散させた系であってもよい。いずれの場合であっても、界面及びその近傍においては、その電子構造に基づいた特性が、孤立した状態での特性と異なることが判明した。
例えば、有機ELデバイスを構築する有機材料/無機材料界面、有機材料/有機材料界面での電子準位間の遷移過程等の特性を解析することで、材料設計、デバイス設計の指針が得られた。
(接合領域における電子あるいは正孔の輸送に関与するエネルギー準位の差異)
図8は、複数の有機材料を含む構造体において、異なる材料間の接合領域における電子あるいは正孔の輸送に関与するエネルギー準位の差異を、数ナノメートル以下の空間分解能で評価し、この値を元にデバイス作製を実施した場合の例である。23は銅フタロシアニン、27はカーボンナノチューブ含有ポリビニルカルバゾールを示す。
例えば異なる有機材料を接合し、そのHOMOエネルギー位置のシフト量が、0.5〜3.0eV以内である界面を作製するようにする。これによりスムーズな正孔の移動を実現でき、かつ、余剰正孔の陰極側へ拡散を防ぎ、投入電力に対して高効率でエキシトンの生成を行うための高効率な接合界面を有する有機デバイスが作製できる。
なお、これら電子デバイスにおいて、異種材料間の界面における電子あるいは正孔の輸送に関与する電子準位に関する比較評価は、有機材料ではイオン化ポテンシャル、HOMO−LUMOバンド間遷移より高いバンド間エネルギー(例えばHOMO→LUMO+1など)、及びHOMO-LUMO遷移エネルギー、金属材料ではイオン化ポテンシャルあるいは既知の仕事関数等を用いて行うことが可能である。
以下、具体例で説明する。高分子有機EL発光材料としてポリビニルカルバゾール(PVK)(化4)、
Figure 0004266345
Alq313、キナクリドン誘導体(化5)
Figure 0004266345
混入Alq3膜、銅フタロシアニン23、4,4’−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(化6)、
Figure 0004266345
ポリデオキシチオフェン(PEDOT、化7)、
Figure 0004266345
ポリチオフェン(化8)
Figure 0004266345
等を各種接合して、電子デバイスとしての可能性を評価した。
その結果、イオン化エネルギーから導かれるHOMOエネルギー位置を近接する有機材料間で比較することにより、特に有機/有機接合界面での遷移エネルギーの差異は、0.5〜3.0eVの範囲に収まることが好ましいことが明らかとなった。
また、Al電極14以外の電極材料として、Au、Ag等の貴金属、ITOなどの酸化物、LiF等のハロゲン材料、Fe等の磁性材料、Si等の半導体材料に高濃度の不純物を注入したもの、炭素系材料、Na等アルカリ系材料を含むものなど、何れも、有機材料/無機材料界面での遷移エネルギーの差異は、0.5〜3.0eVの範囲に収まることが好ましいことが明らかとなった。
例えば、図8に示すカーボンナノチューブ含有PVK27と銅フタロシアニン23を接合したものでは、PVKをトルエン溶液中に5w%の濃度で展開した後、カーボンナノチューブ0.3gを加えて、超音波洗浄器を用いて分散させた。
この試料をスピンコート装置にて、10000rpmの回転条件にて70nmの薄膜27を形成した。この薄膜上に銅フタロシアニン23を膜厚モニターで正確に監視しながら、真空度2×10-4Pa、蒸着速度0.2nm/秒の条件で蒸着し、70nmの層を得た。
その後、PVK側にCa/Ag電極を作製し、銅フタロシアニン23側にITO電極を用意し、5Vの電界をかけると100cd/m2の輝度で発光した。
一方カーボンナノチューブを加えないPVK膜と銅フタロシアニン23膜を接合してPVK側にCa/Ag電極を作製し、銅フタロシアニン23側にITO電極を用意し、10Vまで連続して電界をかけたが発光しなかった。
この2種類の試料を、図6と同様に、FIB装置を用いて幅10μm、高さ5μm、厚さ0.5μmの大きさに切り出した。FIBの加工条件としては、Gaイオンを30keVで加速し試料表面からスパッタリングを行った。加工時の電流量は、絞り径の大きさで制御され、加工当初は20nAであったものを、薄片化を進めると同時に1000pA、500pA、100pA、50pA、30pA、10pAと段階的に落としていった。
最終的には試料を±1度ずつ傾けて、加速電圧を5keVに落とし、5pAで表面クリーニング処理を施した。この薄片化試料をエポキシ樹脂内に包埋後、更なる薄片化処理を行う為に、クライオミクロトームを用いて、試料厚さ30nmで断面観察が行えるよう切削を行い分析用試料とした。この試料に加速電圧80keVで、ビーム径が0.2nmになるように集束した電子ビームを、上部Al電極14から0.4nm間隔で分析位置を連続的に移動しながら、EELSスペクトルを取得したところ、この界面でのπ→π*遷移エネルギーの差異は0.7eVであった。
一方、同様に非発光素子における界面でのπ→π*遷移エネルギーの差異を評価したところ、0.1eVであった。
各測定において確認されたピークをそれぞれの材料におけるイオン化エネルギーと考えると、界面におけるエネルギーギャップが小さすぎると、キャリアが対極(正孔なら陰極)へ流れこんでしまい、発光デバイスとして機能しなかったものと思われる。
このように有機材料を含む構造体の特性評価を2nm以下の空間分解能で観測することができた。
(電子エネルギー損失データと分子軌道法計算結果の比較)
図9は、有機材料に電子線を照射し透過した電子のエネルギー(エネルギー損失)を測定・分析し、さらに分子軌道法による計算を実行し、材料の特性について測定値と計算値を対比することができる有機材料微細領域分析装置によるデータを示す。
8は図2で用いたEELSスペクトル、9は分子軌道法計算結果、15はHOMO準位、16はLUMO準位である。
試料を構成する各有機材料における電子準位間の遷移過程のエネルギー値を、有機材料の分子軌道に関する量子力学的な計算値と対応させる一方、試料構造に伴い発生する荷電状態、ポテンシャル分布等を考慮することにより、材料あるいは構造体の電子構造に関する総合的な評価を可能とするものである。
分子軌道計算は密度汎関数法等を用いて行うことができ、その計算機能はEF−TEM制御装置内の計算機に組み込まれても、別途計算機システムにより算出されても構わない。
この計算で得られるエネルギー値を元に、荷電状態、ポテンシャルなどを試料の構造等に応じて評価することにより、各材料を用いたときのデバイス構造におけるエネルギーダイヤグラムが無矛盾的に示され、デバイス開発における今までにない高効率な材料、デバイス設計ができるようになった。
図2に示したAlq3分子13の中性状態(粉末状態の)試料におけるEELSスペクトルと対応させるために、密度汎関数法分子軌道計算プログラムにてAlq3分子13の最小エネルギーに対応する分子構造を求めた。
次に、このようにして分子構造を最適化したAlq3分子13について、光学吸収スペクトル計算を行った。この際、各遷移前後の分子軌道も同時に計算し、それぞれを可視化できるように予め設定しておいた。また密度汎関数計算ではHOMO−LUMOバンドギャップエネルギーが過小評価される癖があるため、予め補正係数を含めておいた。
計算終了後、得られたスペクトルとそれぞれの分子軌道が示す電子雲の3次元的なかたちを詳細に検討し、その遷移がπ→π*電子エネルギー準位間遷移であるかどうかを判定した。
このようにして求められた各種分子軌道間の遷移エネルギーを横軸、遷移振動子強度を縦軸にプロットすることでグラフ化9を行い、EELSスペクトル8、若しくはUV−Visスペクトル10との比較を行った。
図2で得られた3種の遷移ピークと計算結果を対比すると、3.3、4.7、6.4eVにて計算上もピークの極大を持ち、実測データと非常に良い一致が確認された。
さらに図3に示す荷電状態については、マイナスに帯電したAlq3分子について同様の計算を行い、その対応関係を確認した。
一方、図4のポテンシャル分布をもつ試料については、LiF12/Alq313界面から離れたところでのEELSスペクトルは、ほぼ中性分子について計算した遷移エネルギーに近い値を示したのに対し、界面近傍ではより低エネルギー側へのシフトを示した。これは、ポテンシャルの曲がりの影響で、もともと空準位(LUMO)であったものが一部満たされて新しい充満された準位(HOMO)となったためであり、図3、図4との整合性が取れた。このように、観測データと分子軌道計算の対比により、効果的に、有機材料や有機材料を含む構造体が形成する電子構造を決定することができる。
(EELSスペクトルへの電子線加速エネルギーの影響)
図10(a)は、分析に用いる電子線の加速エネルギーをコントロールすることにより、材料の組成、構造等に応じて、電子エネルギー準位間の遷移エネルギーを正確に求めることを示す模式図である。
1は加速された入射電子ビーム、2は観察試料でこの場合10nm程度の同じ厚さのAlq3分子13の結晶性粉末試料、8は実際に得られたEELSスペクトルを示す。
加速エネルギーは5〜1000keVの範囲で設定し、それに応じて、ゼロロスピークあるいは各種材料固有の内殻励起に伴うロスピーク、例えば炭素の1Sピークの半値幅が0.02〜3.0eVの範囲で予め設定された半値幅を達成するように、電子光学系の自動調整を行う。これにより、測定対象の信号ピークの検出が、例えばゼロロスピークの裾拡がり等で阻害されるのを防ぎ、かつ電子線による試料損傷を低減するなど、数ナノメートル以下の空間分解能で材料あるいは構造体における電子準位間の遷移エネルギーを評価することができる。
図10(b)(c)は、左から入射電子の加速電圧を80keV若しくは200keVとした場合の、10nm程度の同じ厚さのAlq3分子13の結晶性粉末試料を通して得られたEELSスペクトルを示す。
ゼロロスピークの半値幅はそれぞれ0.5eV、0.7eVの値を達成するように分光器の調整を行った。ゼロロスピークの半値幅で表現されるエネルギー分解能は加速電圧を下げることで向上していた。一方、ゼロロスピークの最大強度をI0とし、その強度の1/100の強度の位置におけるピークの裾野でのエネルギーの広がりを計測したところ、2.7、4.8eVというように、こちらも加速電圧に大きく依存することが明らかとなった。
それぞれの加速電圧にて得られたEELSスペクトルを比較する。既に図2で説明した通り、加速電圧80keV、ビーム径0.7nmに集束された電子ビームを照射し、EELSスペクトルを得た場合、3.3、4.7、6.4eVに極大を持つ明瞭な3つのスペクトルが得られた。
一方、加速電圧200keV、ビーム径0.7nmに集束された電子ビームを照射し、EELSスペクトルを得た場合、ゼロロスピークに近い3.3eVのピークは観察されず、4.7、6.4eVに極大を持つ2つのピークしか観察されなかった。
遷移スペクトルの解析は、ゼロロスピーク近傍の数eV付近の議論を行うため、ゼロロスピークの裾野のエネルギー幅は抑える方が遷移スペクトル解析の精度は高いが、加速電圧の高さは電子顕微鏡の像分解能向上に繋がるため、金属電極との界面、有機材料が電子線に強く、原子番号の重い元素を多く含んでいる場合など、それぞれの状況に合わせた加速電圧の選択が必要となる。
(熱の影響)
図11は、遷移エネルギーの分析時に、試料温度調節するための加熱冷却機構を説明する図である。
図において、28は上述のAlq3分子13からなる単結晶薄膜、29はグラファイトからなる格子状シート、30は冷却用の液体ヘリウムを通すことができ、かつ、それ自体加熱することのできるタングステン製のパイプである。
格子状シート29は、加熱冷却パイプからの熱を効率良く試料に伝えるために利用しており、分析は試料を通過後、格子の間から透過してきた電子線を利用して行う。パイプの間隔も透過電子線を用いた分析に影響の無い間隔で空いている。このような方法で、試料の加熱冷却を調整しながら、EELSスペクトルを行うことができる。
有機材料は、その加熱冷却プロセスにより数多くの形態を取ることが知られている。有機材料を用いるデバイスによっては、高温環境下での安定した特性を要求されることもあり、常温とは異なる温度での評価の必要性がある。
また、試料を冷却することによる付属的効果として、有機材料への電子線ダメージを回避できる効果も期待できる。
なお、この方法は有機材料以外の材料にも適用でき、例えば炭素系材料ならば−270℃〜600℃の範囲で、それ以外の材料に関しては−270℃〜1500℃範囲で温度調節することにより、それぞれの材料の熱的な物性を反映した遷移エネルギー等の特性を連続かつ正確に求めることができる。
熱の影響について、Alq3分子13を用いて具体的に説明する。Alq3分子13は412℃の融点と、175℃のガラス転位温度、328℃、200℃の結晶化温度を持っている。
試料は、電子顕微鏡試料観察用グリッド上にAlq3分子13からなる蒸着膜を、真空装置内に設置した膜厚モニターで正確に監視しながら、真空度2×10-4Pa、蒸着温度160℃、蒸着速度0.05nm/秒の条件で50nmの厚さだけ堆積したものを用いた。
この試料に室温から熱処理を加えていくと、175℃付近では非晶質膜中に結晶化を起した領域が観察されてくる。この試料に加速電圧80keVで、ビーム径が0.2nmになるように集束した電子ビームを、1nm間隔で分析位置を連続的に移動しながらEELS分析による遷移スペクトルを観察すると、メインピークである6.0eV以外にも、4.7eV、3.3eVのエネルギー位置にも強いスペクトルが観察されるようになった。そこで4.7eVのロスエネルギーだけを選択し、結像を行ったところ、結晶化領域だけが明るいコントラストで観察され、結晶粒の成長点、つまり核発生点を見つけることができた。
これらの観測をもとに核発生点を制御性よく作成することにより、有機単結晶薄膜の生成が可能となる。そしてこの技術をAlq3の有機ELデバイス作製への適用することが考えられる。例えば従来は、信頼性の確保に主眼をおいて非晶質状態の薄膜が用いられており、電気特性は犠牲となっていたが、単結晶薄膜の利用により特性向上が可能となる。
以上、本発明について説明したが、本発明はその要旨を越えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
本発明の一実施例であるエネルギーフィルター型電子顕微鏡による電子エネルギー損失の分析方法を説明する図。 粉末状態の有機材料試料の分子軌道に関わる、π-π*電子エネルギー準位間遷移過程、乃至イオン化遷移過程等に伴って生じる電子エネルギー損失分析の結果を示す図。 局所的な荷電状態を測定するために試料に電荷を与える方法を示す模式図。 有機材料を含む構造体についてEELSスペクトルから導かれる局所的なポテンシャル分布を示す模式図。 有機材料表面に対して垂直角度で電子線を照射して局所的な荷電状態、ポテンシャル分布の評価を行う例を説明する図。 有機材料を含む構造体の表面に対して垂直な方向(断面方向)から電子線を照射して特性を評価する例を説明する図。 界面特性を評価する例を説明する図。 異なる材料間の接合領域における電子あるいは正孔の輸送に関与するエネルギー準位の差異を、数ナノメートル以下の空間分解能で評価する例を説明する図。 透過電子のエネルギー(エネルギー損失)測定結果と分子軌道法による計算結果とを対比する図。 電子線加速エネルギーの影響を説明する図。 試料温度調節するための加熱冷却機構を説明する図。
符号の説明
1:入射電子ビーム
2:試料
3:加熱冷却システム
4:分析領域
5:磁気プリズム
6:電子線
7:検出器
8:電子線エネルギー損失(EELS)スペクトル
9:分子軌道法計算結果

Claims (6)

  1. 有機材料を含む試料に対して、ビーム径が測定対象分子の単分子サイズと同程度であるか、若しくはそれより小さなサイズであるか、または0.01nm〜10nmである電子線を入射し、電子線が試料を透過したときの電子エネルギー損失データに基づいて有機材料の微細領域の分析を行い、前記試料は、FIBまたは/およびクライオミクロトームにより禁水条件下で切り出される薄片形状であり、
    前記試料は、有機材料を含む2以上の異種材料が積層された構造であり且つ試料の積層断面が現れる方向に切り出され、
    前記エネルギー損失に関するデータは、有機材料の分子軌道に関わる電子遷移過程に伴って生じる電子エネルギー損失データであり、
    前記電子エネルギー損失に関するデータに基づいて行われる分析が、有機材料およびこれに隣接する他の材料との間の界面及びその界面近傍における局所的なポテンシャル分布の分析であり且つ有機材料を含む異なる材料間の接合領域における電子あるいは正孔の輸送に関与するエネルギー準位の差異の分析である有機材料の微細領域分析方法。
  2. 試料が、FIBで切り出し、切り出し面に生じた損傷部分をさらにクライオミクロトーム切り出された薄片形状であることを特徴とする請求項1に記載の有機材料の微細領域分析方法。
  3. 薄片形状の厚さが1nm〜300nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の有機材料の微細領域分析方法。
  4. 試料が有機ELデバイス、有機半導体デバイスである請求項1〜の何れか1つに記載の有機材料の微細領域分析方法。
  5. 電子エネルギー損失に関するデータはエネルギーフィルター型電子顕微鏡装置により取得することを特徴とする請求項1〜の何れか1つに記載の有機材料の微細領域分析方法。
  6. 電子エネルギー損失に関するデータは、有機材料の分子軌道に関わる、π-π*電子エネルギー準位間遷移過程、乃至イオン化遷移過程に伴って生じる電子エネルギー損失データである請求項1〜の何れか1つに記載の有機材料の微細領域分析方法。
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