電子機器における配線層や電極などの形成には、樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペーストのような銀ペーストが多用されている。即ち、これらの銀ペーストを各種基材上に塗布又は印刷した後、加熱硬化あるいは加熱焼成することによって、配線層や電極などとなる導電膜を形成することができる。
例えば、樹脂型銀ペーストは、銀粉、樹脂、硬化剤、溶剤などからなり、導電体回路パターン又は端子の上に印刷し、100℃〜200℃で加熱硬化させて導電膜とし、配線や電極を形成する。また、焼成型銀ペーストは、銀粉、ガラス、溶剤などからなり、導電体回路パターン又は端子の上に印刷し、600℃〜800℃に加熱焼成して導電膜とし、配線や電極を形成する。これらの銀ペーストで形成された配線や電極では、銀粉が連なることで電気的に接続した電流パスが形成されている。
これらの銀ペーストに使用される銀粉は、粒径が0.1μmから数μmであり、形成する配線の太さや電極の厚さ等によって使用される銀粉の粒径が異なる。また、ペースト中に均一に銀粉を分散させることにより、均一な太さの配線あるいは均一な厚さの電極を形成することができる。
一方、銀ペースト用の銀粉に求められる特性は、用途及び使用条件により様々であるが、一般的で且つ重要なことは、粒径が均一で凝集が少なく、ペースト中への分散性が高いことである。粒径が均一で且つペースト中への分散性が高いと硬化あるいは焼成が均一に進み、低抵抗で強度の大きい導電膜を形成できるからである。逆に粒径が不均一で分散性が悪いと、印刷膜中に銀粒子が均一に存在しなくなるため、配線や電極の太さや厚さが不均一となるばかりか、硬化あるいは焼成が不均一となることで導電膜の抵抗が大きくなったり、導電膜が脆く弱いものになったりしやすい。
銀粉がこのような特性を有するには、銀粒子に対する分散機能を持たせるために添加する分散剤の吸着性について考慮する必要がある。即ち、銀粉は表面処理剤である分散剤の吸着が弱いと、銀粒子に吸着した表面処理剤が有機溶剤中で容易に溶解する。その結果、有機溶剤を用いた銀ペーストにすると、表面処理剤が有機溶剤に溶解してしまい、銀粒子に吸着している表面処理剤の量が不足する結果となるため、銀粒子と有機溶剤の親和性が低下して分散状態が悪化し、ペースト特性が低下するという問題につながる。したがって、分散剤の吸着力を評価することにより、ペースト用に最適な銀粉を見出すことができる。
銀ペーストに使用される銀粉の製造は、硝酸銀などの銀塩のアンミン錯体を含む溶液が入った槽内に還元剤溶液を投入して還元するバッチ式、あるいは、アンミン錯体を含む溶液と還元剤溶液を連続的に混合して還元する連続式で行われていることが多い。
バッチ式の還元による銀粉の製造方法では、例えば、特許文献1には、硝酸銀などの銀塩のアンミン錯体及び還元反応の際に媒晶剤として機能する重金属のアンミン錯体を含むスラリーと、還元剤である亜硫酸カリ及び保護コロイドとしてのアラビアゴムを含有する溶液とを混合して、銀塩のアンミン錯体を還元する方法が記載されている。この方法によれば、1次粒子の平均粒径が0.1〜1μmであり、低凝集で且つ粒度分布の狭い粒状銀粉が得られる。しかし、この方法では重金属のアンミン錯体の存在下で銀塩を還元するため、重金属が不純物として混入しやすく、得られる銀粉の純度が低下する可能性がある。
また、連続式による銀粉の製造方法としては、銀塩のアンミン錯体を含む溶液と還元剤溶液を連続的に混合する還元方法も提案されている。例えば、特許文献2には、銀アンミン錯体溶液が流れる流路に還元剤溶液を合流することによって、銀アンミン錯体を還元する銀粉の製造方法が開示されている。しかしながら、この方法は平均粒径が0.6μmまでの小さい銀粒子の製造方法であるため、その用途も限られてしまうという欠点がある。
上述した製造方法を含めて、銀源として用いる原料は硝酸銀が一般的である。しかし、硝酸銀はアンモニア水等への溶解過程で有毒な亜硝酸ガスを発生するため、これを回収する装置が必要となる。また、廃水中に硝酸系窒素やアンモニア系窒素が多量に含まれるので、その処理のための装置も必要となる。更に、硝酸銀は危険物であり劇物でもあるため、取り扱いに注意を要する。このように、硝酸銀を銀粉製造の原料として用いる場合は、環境に及ぼす影響やリスクが他の銀化合物に比べて大きいという問題点を抱えている。
そこで、硝酸銀を原料とせずに、塩化銀を還元して銀粉を製造する方法も提案されている。塩化銀は、危険物にも劇物にも該当せず、遮光の必要はあるものの、比較的取り扱いが容易な銀化合物であるという利点を有している。また、塩化銀は、銀の精製プロセスの中間品としても存在し、電子工業用として十分な純度を有するものが提供されている。
例えば、特許文献3には、塩化銀をアンモニア水に銀濃度で1〜100g/lとなるように溶解した後、この溶液に保護コロイドの存在下で還元剤を加えて撹拌し、溶液中の銀アンミン錯体を液相還元して銀超微粒子を得る方法が開示されている。しかしながら、この方法で得られる銀粉の粒径は0.1μm以下と微細であるため、電子工業用としては用途が限られるものであった。
上述した銀粉の製造方法は、いずれも湿式であるため銀粉を乾燥する工程が必要であり、その乾燥時に銀粉が凝集するという問題がある。また、通常は銀ペーストには有機溶剤が用いられるが、銀粒子と有機溶剤の親和性が十分でない場合には、ペースト中で銀粒子が凝集してしまうため、配線や電極の不均一化及び電気抵抗の増大という問題が生じる。このため、銀粉あるいはペースト製造時の凝集抑制を目的として、銀粉に対する種々の表面処理が提案されている。
例えば、特許文献4には、疎水性反応槽内でカチオン系界面活性剤を添加し、且つ還元剤を用いてアンモニア性硝酸銀水溶液を還元することにより、銀微粒子を製造する方法が提案されている。この方法によれば水溶液中での還元時の凝集が抑制されて粒度分布の狭い銀粒子が得られるものの、乾燥時の銀粒子間の凝集抑制や、更にはペースト中での銀粒子の凝集抑制については全く言及されていない。
また、特許文献5には、銀塩と酸化銀の少なくとも一方を含有する水性反応系に還元剤含有水溶液を添加して銀粒子を還元析出させ、銀粒子の還元析出後に、分散剤として脂肪酸、脂肪酸塩、界面活性剤、有機金属、及び保護コロイドのいずれか1種以上を添加する銀粉の製造方法が提案されている。この方法によれば、還元前に分散剤を添加しなくても分散性の優れた銀粉が得られ、分散剤の添加量を任意に制御できるため、銀粉をペースト化して電極や回路導体パターンの形成に好適な塗膜または焼成膜とすることができるとしている。
しかしながら、分散剤の添加量についての検討はなされているものの、銀粒子に対する分散剤の吸着性については考慮されていない。即ち、銀粉は表面処理剤である分散剤の吸着が弱いため、銀粒子に吸着した表面処理剤が有機溶剤中で容易に溶解する。その結果、有機溶剤を用いた銀ペーストにすると、表面処理剤が有機溶剤に溶解してしまい、銀粒子に吸着している表面処理剤の量が不足する結果となるため、銀粒子と有機溶剤の親和性が低下して分散状態が悪化し、ペースト特性が低下するという問題がある。
そこで、ペースト用銀粉の製造に有用な評価方法について検討してみると、例えばペースト特性と銀粉表面から散乱される特定波長のラマン線に因果関係があれば、銀粉の製造に有用な評価方法と考えられる。現状では、特許文献6のように貴金属粒子(金ナノ粒子や銀ナノ粒子)を被検物質に吸着させ、被検物質を高感度に検出するような取り組みは行われている。しかしながら、貴金属粒子の表面に吸着されている表面処理剤を表面増強ラマン分光法で解析し、貴金属粒子表面から散乱されるラマン線とペースト特性の因果関係を評価しているような例はほとんどないのが現状である。
以下に、本発明を適用した銀粉について詳細に説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。
銀粉は、塩化銀から得た銀錯体を還元して得た銀粒子表面に、界面活性剤、例えば電離状態で少なくとも正イオンとなり得る界面活性剤が強固に吸着しており、その界面活性剤を介して分散剤が強固に吸着したものである。これにより、この銀粉は、界面活性剤及び分散剤の効果により凝集が抑制され、有機溶媒を用いたペースト中でも界面活性剤及び分散剤が剥離しにくく、そのため凝集が抑制されて良好な分散性が得られる。なお、有機溶媒を用いたペースト中での界面活性剤及び分散剤の剥離については、メタノールによる洗浄前後における銀粉の炭素含有量の減少率によって評価することが可能であり、得られた銀粉では炭素含有量の減少量を30%以下とすることができる。
銀粉は、銀粒子の表面に界面活性剤が強固に吸着していること、及びその界面活性剤を介して分散剤が強固に吸着していることにより界面活性剤及び分散剤の結合状態が変化し、その変化は新たなラマン線として観測することができる。
本発明の銀粉において観測されるラマン線は、表面増強ラマン分光法において1000±50cm−1に出現し、シグナルノイズ比が2以上であり、3以上であることが好ましい。これは、アルカン、アルケン、エーテル、エステル、酸無水物、アルコール、アミン、チオカルボニル化合物、チオニル化合物、ペルオキシド、アミンオキシド、第2級アミド、3員環化合物、ニトリル化合物、アゾ化合物、アジド化合物、アジ化物、ニトロ化合物、窒化物、硫酸塩のうちいずれか又はそれらの混合物が与えるラマン線である。
上記銀粉を評価するためには、銀粉表面皮膜の官能基情報を得る必要があるが、本実施の形態における銀粉は、JISK0137に定義されたラマン分光分析通則に準じた方法で評価する。更に、具体的な測定条件は、例えばThermo製レーザーラマン分光分析装置(機種:Almega)を用い、対物レンズ倍率:100倍、レーザー出力:0.1%、露光時間:1秒、アパーチャー径:100μmで実施する。この方法で銀粉を測定した場合には、銀粉自体が非常に小さい金属微粒子であるため、銀粉表面にレーザーを照射すると表面プラズモンの影響を受けるため、通常のラマン線よりラマン線強度が増強されたラマン線を散乱する。このため、銀粒子の官能基情報を高感度で観測することが可能になる。
ここで、ラマン線のシグナルノイズ比は、ラマン分光法により得られたスペクトルから得られるシグナル強度値をノイズ強度値で除すことにより求めることができる。また、シグナル値とは、銀粉表面官能基が与える1000±50cm−1に出現するラマン線について、ラマンスペクトルのベースラインからピークトップまでのシグナル強度値を算出した値であり、ノイズ値とは、ラマン線が出現しない範囲(例えば、ラマン線が観測されていない3800〜3900cm−1)に観測されるベースラインノイズのうち最大強度を示すシグナル強度値を算出した値である。
上述のラマン線を有する銀粉は、銀粒子表面に、界面活性剤、例えば電離状態で少なくとも正イオンとなり得る界面活性剤が強固に吸着しており、その界面活性剤を介して分散剤が強固に吸着したものである。これにより、ペーストにしたときに粘度を適度に有し、界面活性剤及び分散剤の効果により凝集が抑制され、有機溶媒を用いたペースト中でも界面活性剤及び分散剤が剥離しにくく、そのため凝集が抑制されて銀粉の分散性が良く、ペースト特性が良好であり、印刷性を良好にすることができる。したがって、このような銀粉を用いて作製したペーストは、配線層や電極を均一に形成でき、導電性に優れたものとすることができることから、電子機器の配線層や電極などの形成に用いる銀ペースト用として工業的価値が極めて大きいものである。
なお、この銀粉は、有機溶媒を用いたペースト中での界面活性剤及び分散剤の剥離については、メタノールによる洗浄前後における銀粉の炭素含有量の減少率によって評価することが可能であり、得られた銀粉では炭素含有量の減少量を30%以下とすることができる。
銀粉の平均粒径は0.3〜1.5μmの範囲が好ましく、タップ密度は2.5g/ml以上であることが好ましい。なお、平均粒径については、走査型電子顕微鏡による13000倍の観察において400個の粒子を測定して、個数平均することにより求めることができる。また、タップ密度については、JIS Z 2512に準拠した方法により求めることができる。
銀粉の平均粒径が0.3μm未満では、ペーストの粘度が高くなり過ぎて配線の形成が困難となり、また平均粒径が1.5μmを超えると微細な配線の形成が困難になる。一方、タップ密度が2.5g/ml未満では、必要な量の銀粉を配合した場合、ペーストの粘度が高くなり過ぎて配線の形成が困難になる。なお、タップ密度は高いほどよいが、本実施の形態にかかる銀粉の場合、その上限は7.0g/ml程度となる。
以上のような銀粉は、ペースト中での分散性に優れるため、ペーストとしたとき適度な粘度を有する。ペーストの粘度は、高すぎても低すぎてもペーストの印刷性が好ましくなく、適度な粘度に調整可能な銀粉とすることで、優れた印刷性を有するペーストとすることができる。分散性が十分でない銀粉では、有機溶媒と銀粉が分離しやすく、ペーストの粘度調整が困難となる。
例えば、エチルセルロース含有量が3.8質量%であるエチルセルロースとターピネオールの混合溶液であるビヒクル及び銀粉を、ペーストに対してビヒクル87.4質量%及び銀粉12.6質量%となるよう混練して得た一般的なペーストの場合、コーンプレート型粘度計で測定したせん断速度が0.4(1/sec)におけるペースト粘度は220〜350Pa・sが好ましく、220〜300Pa・sが更に好ましい。また、2.0(1/sec)における粘度は70〜140Pa・sが好ましく、70〜90Pa・sが更に好ましい。更に、せん断速度0.4(1/sec)における粘度を、せん断速度2.0(1/sec)における粘度で割った粘度比は、3以下であることが好ましい。
上述の好ましい粘度に比べて粘度が低い銀粉では、ペーストの印刷により形成された配線等に滲みや垂れなどが生じ、その形状を維持できなくなる場合がある。逆に粘度が高い銀粉の場合は、ペーストの印刷が困難となることがある。
なお、銀粉のペースト化については、公知の方法を用いることができる。使用するビヒクルとしては、アルコール系、エーテル系、エステル系などの溶剤に、各種セルロース、フェノール樹脂、アクリル樹脂などを溶解したものを用いることができる。
次に、上述した銀粉の製造方法を説明する。銀粉の製造方法は、塩化銀を出発原料に用い、基本的には、塩化銀を錯化剤により溶解して得た銀錯体を含む溶液と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して銀粒子を析出させることにより銀粒子スラリーを得る。従って、硝酸銀を出発原料とする方法で必要とされた亜硝酸ガスの回収装置や廃水中の硝酸系窒素の処理装置を設置する必要がなく、環境への影響も少ないプロセスであることから、工業的規模でも容易に製造することが可能であり、かつ製造コストの低減を図ることができる。
この銀粉の製造方法では、還元析出した銀粒子への表面処理剤の吸着性を改善して凝集を抑制するため、表面処理剤として電離状態で少なくとも正イオンとなり得る界面活性剤を用い、この界面活性剤を乾燥前の銀粒子に吸着させることが重要である。
塩化銀を原料として還元析出した銀粒子は、表面に微量ではあるが塩素イオンが残留している。この塩素イオンは陰イオンであるため、銀粒子の表面は負の電荷を帯びることになる。一方、界面活性剤は電離するものと電離しないものがあるが、帯電している物質に対しては、物質と逆の電荷を有するイオンに電離する界面活性剤を用いることで、電荷により強く吸着させることができる。従って、銀粒子には、電離状態で少なくとも正イオンとなり得る界面活性剤を吸着させることにより、銀粒子への界面活性剤の吸着性を大幅に高めることができる。
この銀粉の製造方法においては、さらに乾燥時やペースト状態での凝集を抑制してペースト中での良好な分散性を得るために、界面活性剤の銀粒子への吸着時若しくは吸着後に分散剤を添加することによって、銀粒子に吸着した界面活性剤の疎水基に分散剤を吸着させることが特に好ましい。その場合の分散剤としては、脂肪酸又はその塩が好ましい。
即ち、電離状態で少なくとも正イオンとなり得る界面活性剤を銀粒子に吸着させることで凝集を抑制することが可能であるが、界面活性剤のみで凝集を抑制するためには添加量が多くなり過ぎる。そのため、ペースト中で良好な分散状態が得られても配線層や電極の導電性が十分でないことがある。そこで、銀粉の凝集を抑制し且つ配線層や電極の導電性を十分なものとするために、界面活性剤と分散剤を併用することが有効である。
界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤と両性界面活性剤があるが、カチオン系界面活性剤を用いることが好ましい。カチオン系界面活性剤は、pHの影響を受けることなく正イオンに電離するため、銀粒子に対する吸着性の改善効果が得られる。一方、両性界面活性剤は、酸性領域で正イオンに電離しアルカリ性領域で負イオンに電離するため、表面処理液のpHを制御する必要がある。また、表面処理液が酸性領域であっても、両性界面活性剤は銀粒子の負の表面電荷により表面近傍で正イオンに電離して吸着するが、この場合には十分な吸着性が得られない場合がある。
カチオン系界面活性剤は、特に限定されるものではないが、モノアルキルアミン塩に代表されるアルキルモノアミン塩型、N−アルキル(C14〜C18)プロピレンジアミンジオレイン酸塩に代表されるアルキルジアミン塩型、アルキルトリメチルアンモニウムクロライドに代表されるアルキルトリメチルアンモニウム塩型、ヤシアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドに代表されるアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩型、アルキルジポリオキシエチレンメチルアンモニウムクロライドに代表される4級アンモニウム塩型、アルキルピリジニウム塩型、ジメチルステアリルアミンに代表される3級アミン型、ポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレンアルキルアミンに代表されるポリオキシエチレンアルキルアミン型、N、N’、N’−トリス(2−ヒドロキシエチル)−N−アルキル(C14〜18)1,3−ジアミノプロパンに代表されるジアミンのオキシエチレン付加型から選択される少なくとも1種が好ましく、第4級アンモニウム塩型、第3級アミン塩型のいずれか又はその混合物がより好ましい。
両性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタインに代表されるアルキルアミノ酢酸ベタイン型、高級脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタインに代表されるアルキルアミドプロピルベタイン型、アルキルヒドロキシスルホベタインに代表されるスルホベタイン型、アルキルアミノモノプロピオン酸Na塩に代表されるアミノ酸型、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインに代表されるイミダゾリン型ベタイン、ジメチルアルキルアミンサイドに代表されるアミンオキサイド型から選択される少なくとも1種が好ましい。
更に、界面活性剤は、メチル基、ブチル基、セチル基、ステアリル基、牛脂、硬化牛脂、植物系ステアリルに代表されるC4〜C36の炭素数を持つアルキル基を少なくとも1個有することが好ましい。また、アルキル基としては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン、ポリアクリル酸、ポリカルボン酸から選択される少なくとも1種を付加されたものであることが好ましい。これらのアルキル基は、分散剤として用いる脂肪酸との吸着が強いため、界面活性剤を介して銀粒子に分散剤を吸着させる場合に脂肪酸又はその塩を強く吸着させることができる。
界面活性剤は、特に限定されるものではないが、フッ化物、臭化物、ヨウ化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらは一般的に界面活性剤の主成分として含まれ、入手が容易であることから好ましい。
また、界面活性剤は、その繰り返し単位内の酸素含有量が10質量%以上であることが好ましい。界面活性剤の繰り返し単位内の酸素含有量が10質量%以上であることにより、銀粒子に吸着した界面活性剤に更に分散剤を吸着させる場合に、分散剤の脂肪酸又はその塩を強く吸着させることができる。
分散剤としては、例えば、脂肪酸、有機金属、ゼラチン等の保護コロイドを用いることができるが、不純物混入のおそれがなく且つ疎水基との吸着性を考慮すると、脂肪酸若しくはその塩を用いることが好ましい。尚、脂肪酸若しくはその塩は、エマルジョンとして添加してもよい。
分散剤として用いる脂肪酸としては、特に限定されるものではないが、ステアリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、リノレン酸から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの脂肪酸は、沸点が比較的低いため、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極への悪影響が少ないからである。これらの分散剤は上述の界面活性剤の存在により、より強固に銀粉表面に吸着することができ、ペースト中での優れた分散性に優れた銀粉を得ることができる。
界面活性剤の添加量は、銀粒子に対して0.002〜1.0質量%の範囲が好ましい。界面活性剤はほぼ全量が銀粒子に吸着されるため、界面活性剤の添加量と吸着量はほぼ等しいものとなる。界面活性剤の添加量が0.002質量%未満になると、銀粒子の凝集抑制あるいは分散剤の吸着性改善の効果が得られないことがある。一方、添加量が1.0質量%を超えると、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極の導電性が低下するため好ましくない。
分散剤の添加量は、銀粒子に対して0.01〜1.00質量%の範囲が好ましい。分散剤の種類により銀粒子への吸着量は異なるが、添加量が0.01質量%未満になると、銀粒子の凝集抑制あるいは分散剤の吸着性改善の効果が十分に得られる量の分散剤が銀粉に吸着されないことがある。一方、分散剤の添加量が1.00質量%を超えると、銀粒子に吸着される分散剤が多くなり、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極の導電性が十分に得られないことがある。
銀粉の製造方法では、塩素イオンにより銀粒子の表面が負の電荷を帯びているので、電離状態で少なくとも正イオンとなり得る界面活性剤を用いることで、銀粒子に対する界面活性剤の吸着性が大幅に改善され、界面活性剤を銀粉に強固に吸着させることができる。銀粉の製造方法において、更に好ましくは、銀粒子に吸着する界面活性剤を介して分散剤を安定的に吸着させることによって、より一層凝集が抑制され且つペースト中での分散性に優れた銀粉を得ることができる。
銀粉の製造法について、工程毎に更に具体的に説明する。銀粉の製造方法は、銀錯体を還元した銀粒子スラリーを得る還元工程を行う。まず、還元工程においては、錯化剤を用いて塩化銀を溶解し、銀錯体を含む溶液を調製する。錯化剤としては、特に限定されるものではないが、塩化銀と錯体を形成しやすく且つ不純物として残留する成分が含まれないアンモニア水を用いることが好ましい。また、塩化銀は高純度のものを用いることが好ましい。このような塩化銀として、純度99.9999質量%の高純度塩化銀が工業用に安定的に製造されている。
塩化銀の溶解方法としては、例えば錯化剤としてアンモニア水を用いる場合、塩化銀のスラリーを作製してアンモニア水を添加してもよいが、錯体濃度を高めて生産性を上げるためにはアンモニア水中に塩化銀を添加して溶解することが好ましい。塩化銀を溶解するアンモニア水は、工業的に用いられる通常のものでよいが、不純物混入を防止するため可能な限り高純度のものが好ましい。
次に、銀錯体溶液と混合する還元剤溶液を調製する。還元剤としては、一般的なヒドラジンやホルマリンなどを用いることもできるが、アスコルビン酸は還元作用が緩やかであるため、銀粒子中の結晶粒が成長しやすく特に好ましい。ヒドラジンあるいはホルマリンは還元力が強いため、銀粒子中の結晶が小さくなりやすい。また、反応の均一性あるいは反応速度を制御するために、還元剤を純水等で溶解又は希釈して濃度調整した水溶液として用いることもできる。
還元剤溶液には、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンの少なくとも1種を含む水溶性高分子を添加する。水溶性高分子を添加しない場合、還元により発生した核や核が成長した銀粒子が凝集を起こし、分散性が悪いものとなってしまう。水溶性高分子の添加量は、水溶性高分子の種類及び得ようとする銀粉子の粒径により適宜決めればよいが、銀錯体溶液中に含有される銀に対して3〜10質量%の範囲とすることが好ましい。
水溶性高分子は、銀錯体溶液に混合しておくことも可能であるが、還元剤溶液に混合しておく方が分散性の良い銀粉が得られる。このことは実験的に確認された結果であるが、還元剤溶液と水溶性高分子を混合しておくことで核発生あるいは核成長の場に水溶性高分子が存在し、生成した核あるいは銀粒子の表面に迅速に水溶性高分子が吸着するためと考えられる。
水溶性高分子を添加した場合、還元反応時に発泡することがあるため、銀錯体溶液又は還元剤混合液に消泡剤を添加することが好ましい。消泡剤は、特に限定されるものではなく、通常還元時に用いられているものでよい。ただし、還元反応を阻害させないため、消泡剤の添加量は消泡効果が得られる最小限程度にしておくことが好ましい。
なお、銀錯体溶液及び還元剤溶液を調製する際に用いる水については、不純物の混入を防止するため、不純物が除去された水を用いることが好ましく、純水を用いることが特に好ましい。
上述したように調製した銀錯体溶液と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して銀粒子を析出させる。この還元反応は、バッチ法でもよく、チューブリアクター法やオーバーフロー法のような連続還元法を用いて行ってもよい。均一な粒径を有する銀粒子を得るためには、粒成長時間の制御が容易なチューブリアクター法を用いることが好ましい。また、銀粒子の粒径は、銀錯体溶液と還元剤溶液の混合速度や銀錯体の還元速度で制御することが可能であり、目的とする粒径に容易に制御することができる。
還元工程で得られた銀粒子は、表面に多量の塩素及び水溶性高分子が吸着しているため洗浄を行う。この洗浄工程では、過剰な塩素や水溶性高分子を除去し、表面処理の界面活性剤が銀粒子の表面に強固に吸着するように微量の塩素を残存させ、また銀粒子の凝集を抑えることができる程度に水溶性高分子が残存するように洗浄を行う。銀粒子の表面に微量の塩素を残存させることで、銀粒子の表面は塩素イオンにより負の電荷を帯びる。これにより、後述する表面処理工程において、界面活性剤を銀粒子の表面に強固に吸着させることができる。また、水溶性高分子を残存させることで、銀粒子の凝集を抑えることができる。
洗浄方法としては、特に限定されるものではないが、スラリーから固液分離した銀粒子を洗浄液に投入し、撹拌機又は超音波洗浄器を使用して撹拌した後、再び固液分離して銀粒子を回収する方法が一般的に用いられる。また、過剰な塩素及び水溶性高分子を十分に除去するためには、洗浄液への投入、撹拌洗浄、及び固液分離からなる操作を、数回繰り返して行うことが好ましい。
洗浄液は、水を用いてもよいが、過剰な塩素を効率よく除去するためにアルカリ水溶液を用いてもよい。アルカリ溶液としては、特に限定されるものではないが、残留する不純物が少なく且つ安価な水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。洗浄液として水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合、水酸化ナトリウム水溶液での洗浄後、ナトリウムを除去するために銀粒子又はそのスラリーを更に水で洗浄することが望ましい。
また、水酸化ナトリウム水溶液の濃度は0.01〜0.30mol/lが好ましい。0.01mol/l未満では洗浄効果が不十分であり、0.30mol/lを超えると、銀粒子にナトリウムが許容以上に残留することがある。尚、洗浄液に用いる水は、銀粒子に対して有害な不純物元素を含有していない水が好ましく、特に純水が好ましい。
なお、洗浄工程では、過剰な塩素や水溶性高分子を除去することができるため、この銀粉の製造方法により得られた銀粉を用いた銀ペーストで配線層や電極を形成した場合、十分な導電性を有するものにできる。
表面処理工程では、銀粒子を界面活性剤と分散剤で処理する。表面処理は、銀粒子を乾燥する前であればいずれの段階で行ってもよいが、銀粒子の表面に微量の塩素が存在し、界面活性剤を強固に吸着させ、また銀粒子の凝集を抑えるために水溶性高分子が存在した状態で表面処理を行うことが好ましい。また、表面処理は、銀粒子に吸着されている塩素及び水溶性高分子が表面処理に影響を及ぼさない程度に除去された状態で行うことが好ましい。したがって、表面処理は、洗浄前よりも洗浄工程と同時、又は洗浄後に行うことが好ましい。洗浄を複数回繰り返して行う場合には、いずれの洗浄時に表面処理を行ってもよいが、銀粒子に残存している塩素及び水溶性高分子が表面処理に影響を及ぼさない程度に除去してから、例えば洗浄を1回又は数回行った後に表面処理することが好ましい。
界面活性剤と分散剤を用いる好ましい表面処理の具体的方法としては、洗浄液に界面活性剤及び分散剤を同時に添加するか、若しくは界面活性剤の添加後に分散剤を添加することで、洗浄と表面処理を同時に行うことが好ましい。または、洗浄後に固液分離された銀粒子を、界面活性剤及び分散剤を添加した水中に投入して撹拌するか、界面活性剤を添加した水中に投入して撹拌した後、分散剤を添加して撹拌すればよい。また、銀粒子への界面活性剤及び分散剤の吸着性を改善するためには、界面活性剤を添加した水又は洗浄液に銀粒子を投入して撹拌した後、分散剤を更に添加し撹拌することも好ましく、このような製造方法で製造した銀粉は、銀粒子の表面に界面活性剤及び分散剤が強固に吸着される。
洗浄及び表面処理を行った後、固液分離して銀粒子を回収する。なお、洗浄及び表面処理に用いられる装置は、通常用いられるものでよく、例えば撹拌機付の反応槽等を用いることができる。また、固液分離に用いられる装置も、通常用いられるものでよく、例えば遠心機、吸引濾過機、フィルタープレス等を用いることができる。
洗浄及び表面処理が終了した銀粒子は、乾燥工程において水分を蒸発させて乾燥させる。これにより、銀粉を得ることができる。乾燥方法としては、例えば、洗浄及び表面処理の終了後に回収した銀粉をステンレスパッド上に置き、大気オーブン又は真空乾燥機などの市販の乾燥装置を用いて、40〜80℃の温度で加熱すればよい。
以上のような銀粉の製造方法により、銀粒子の表面に界面活性剤及び分散剤が強固に吸着され、表面増強ラマン測定において1000±50cm−1にラマン線が出現し、このラマン線のシグナルノイズ比が2以上である銀粉を得ることができる。
以下に、本発明の具体的な実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
実施例1では、38℃の温浴中で液温36℃に保持した25%アンモニア水1045mlに、塩化銀146g(住友金属鉱山(株)製 純度99%以上)を撹拌しながら投入して、銀錯体溶液を作製した。消泡剤((株)アデカ製、アデカノールLG−126)を体積比で100倍に希釈し、この消泡剤希釈液1.4mlを作製した銀錯体溶液に添加し、得られた銀錯体溶液を温浴中で36℃に保持した。
一方、還元剤のアスコルビン酸47.1g(関東化学(株)製、試薬)を、36℃の純水190mlに溶解して還元剤溶液とした。次に、水溶性高分子のポリビニルアルコール5.3g((株)クラレ製、PVA205)を分取し、36℃の純水96mlに溶解した溶液を作製した還元剤溶液に混合した。
次に、銀錯体溶液と還元剤溶液を、モノポンプ(兵神装備(株)製)を使用し、それぞれ2.12l/min及び0.70l/minで樋内に送液して、銀錯体を還元した。この時の還元速度は銀量で200g/minである。また、銀の供給速度に対する還元剤の供給速度の比は1.2とした。なお、樋には内径25mm及び長さ725mmの塩ビ製パイプを使用した。銀錯体の還元により得られた銀粒子を含むスラリーは撹拌しながら受槽に受け入れ、受け入れ終了後も受槽内での撹拌を30分継続した。
次に、撹拌終了後の銀粒子スラリーを、開口径0.3μmのメンブランフィルターを使用して濾過し、銀粒子を固液分離した。引き続き、回収した銀粒子が乾燥する前に、銀粒子を0.05mol/lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液1540ml中に投入し、15分間撹拌して洗浄した後、開口径0.3μmのメンブランフィルターで濾過して回収する操作を3回繰り返した。
次に、回収した乾燥前の銀粒子と、表面処理剤として市販のカチオン系界面活性剤であるポリオキシエチレン付加4級アンモニウム塩0.01g(クローダジャパン(株)製、商品名 シラソル、銀粒子に対して0.009質量%)及び分散剤であるステアリン酸エマルジョン0.83g(中京油脂(株)製、セロゾール920、銀粒子に対して0.76質量%)とを、0.05mol/lのNaOH水溶液に投入し、撹拌して表面処理した後、濾過により固液分離した。
そして、固液分離した銀粒子を、1540mlの純水中に投入し、撹拌及び濾過した後、銀粒子をステンレスパッドに移し、真空乾燥機にて60℃で10時間乾燥して銀粉を得た。SEM(Scanning Electron Microscope)観察により測定した銀粉の平均粒径は0.77μmであった。また、イソプロピルアルコール中に銀粉を分散させレーザー回折散乱法を用いて測定した体積積算の平均粒径は12.2μm、及びタップ密度は4.9g/cm3であった。
銀に対する表面処理剤の吸着性(安定性)は、銀粉を40℃のメタノール中にて30分撹拌保持するメタノール洗浄の実施前後における銀粉の炭素含有量の減少率(質量%)で求めた。尚、炭素含有量は高周波燃焼赤外吸収法で測定した。下記表1に、メタノール洗浄前後の表面処理剤を含む銀粉の炭素含有量と、炭素含有量の減少率を示す。表面処理剤が銀表面に安定に吸着しているため、炭素含有量の減少率が僅かであることが確認された。
次に、得られた銀粉を用いてペーストを作製し、その粘度を測定することによってペースト特性を評価した。まず、エチルセルロースをターピネオールに溶解して、エチルセルロース含有量が3.8質量%のビヒクルを調製した。このビヒクルと銀粉とを、両者の合計量に対してビヒクル87.4質量%及び銀粉12.6質量%となるように秤量し、自転・公転方式混練機((株)シンキ製、あわとり錬太郎 ARE−250)を用いて2000rpmで5分間の混練して、ペーストを作製した。
得られたペーストについて、コーンプレート型粘度計(BROOKFIELD社、DV−II+Pro)を用いて、せん断速度が0.4(1/sec)、2.0(1/sec)における各粘度で求めた結果、226Pa、77Paとなった。各せん断速度における粘度は、好ましい範囲内となった。せん断速度0.4(1/sec)における粘度をせん断速度2.0(1/sec)における粘度で割った粘度比が低く、ペースト特性が良好であることが確認された。粘度および粘度比を下記表1に示す。
さらに、ペースト特性が良好であったものに配合した銀粉を顕微レーザーラマン分光分析装置(サーモインスツルメンツ社 Almega)で、レーザー強度(0.25mW)、露光時間(1.0sec)、アパーチャー(1.0μmピンホール)におけるラマンスペクトルを測定した。得られたラマンスペクトルから図1の(1)に示すように1003cm−1にラマン線が出現することが確認された。このラマン線は、アルキル基に対応するものであり、シグナルノイズ比は、128となった。これにより、銀粒子の表面に界面活性剤及び分散剤が強固に結合していることがわかる。
[比較例1]
比較例1では、表面処理剤として、界面活性剤を使用せず、分散剤のステアリン酸エマルジョン0.66g(中京油脂(株)製、セロゾール920、銀粒子に対して0.60質量%)のみを使用したこと以外は、実施例1と同様にして銀粉を製造した。
得られた銀粉を実施例1と同様に評価した結果、SEM観察により測定した平均粒径は0.77μm、レーザー回折散乱法を用いた平均粒径は38.69μm、タップ密度は5.6g/cm3であった。また、メタノール洗浄前後の炭素量含有量及びその減少率、粘度比を下記表1に示す。
表1に示す結果から、比較例1では、メタノール洗浄前後の炭素減少率が非常に大きく、表面処理剤の安定性が低いことが分かる。また、比較例1に示すでは、せん断速度が0.4(1/sec)、2.0(1/sec)における各粘度で求めた結果、216Pa、65Paとなった。これらの粘度は、全てのせん断速度で好ましい範囲より低くなった。表1に示す結果から比較例1では、粘度比が高いことから、ペースト特性が十分でないことが分かる。更に、表面処理後において既に銀粒子の凝集が確認されたことから、凝集抑制効果が不十分であることが分かる。
また、比較例1の銀粉についても、銀粉を実施例1と同様の条件でラマンスペクトルを測定した。得られたラマンスペクトルから図1の(2)に示すように1000±50cm−1にラマン線が出現しないことを確認した。
以上の実施例1及び比較例1から、1000±50cm−1に特異的なラマン線のピークを検出できる実施例1は、銀粉表面に存在する界面活性剤及び分散剤の吸着の安定性が高く、またペースト特性がよく、凝集も抑制された銀粉が得られたことがわかる。したがって、実施例1の銀粉では、均一で優れた導電性を有する配線層や電極を形成できる。一方、特異的なラマン線のピークが検出されない比較例1では、分散剤の吸着の安定性が低く、ペースト特性が悪く、印刷適性が優れず、均一で優れた導電性を有する配線層や電極を形成することは困難であることがわかる。