以下、本発明に係る銀粉及びその製造方法の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて適宜変更することができる。
先ず、説明に当たって、銀粒子形態に対する呼称を図1のように定義する。すなわち、図1(A)に示すように、銀粒子を、外見上の幾何学的形態から判断して、単位粒子と考えられるものを一次粒子と呼ぶ。また、図1(B)に示すように、一次粒子がネッキングにより2乃至3以上連結した粒子を二次粒子と呼ぶ。さらに、図1(C)に示すように、一次粒子又は二次粒子が凝集力により集合したものを凝集体と呼び、その構造を凝集構造と呼ぶ。なお、一次粒子、二次粒子、及び凝集体をまとめて銀粒子と呼ぶことがある。
本実施の形態に係る銀粉は、評価試験として、当該銀粉とエポキシ樹脂とを420Gの遠心力で混練し、さらに3本ロールミルを用いて混練して得られたペーストを粘弾性測定装置により測定したせん断速度1250sec−1での法線応力が1〜10Nであり、より好ましくはその法線応力が1〜5Nである。
ここで、ペースト作製時の混練のように、ペースト状の物質にせん断応力を印加したとき、そのせん断方向と垂直な方向に法線応力(ノーマルフォース)が発生することが知られている。しかしながら、法線応力は、多くの場合、加工を阻害するものとして扱われて工業的に利用されることは少なく、製品の特性を測る上での指標として利用されていた程度である。すなわち、ペースト作製におけるロールでの混練時に銀粉に加わる圧縮力に対する反発力となる法線応力の影響について検討されたことはなかった。
法線応力は、法線応力差とも言われ、せん断により成分中の鎖構造を持つ有機物同士が伸張され、それが収縮しようとする際に発生する応力であり、せん断方向と垂直な方向に膨張しようとする力として測定される。したがって、せん断速度が小さい場合には法線応力は発現せず、ペーストでは、応力に合わせて容易に変形する状態においては、粘弾性測定装置による測定値はマイナスの法線応力となる。一般的な導電性銀ペーストでは、せん断速度を増加させると500〜7000(/s)の範囲で法線応力が増加する。ロールにより混練を行う場合、銀粉への圧縮力を相殺させるため、反発力となるペーストの法線応力が最低ある一定以上の正の値であることが必要となる。しかしながら、実際のペーストでは、法線応力が0N程度又はそれ以下であり、正の値となるものは少ない。
法線応力は、ペーストの粘度、溶媒量、銀粉の粒径等、多くの因子の影響を受ける。例えば、従来、銀ペーストの製造においては、一次粒子についてはできるだけ分散し、かつ平均粒径が0.1〜1.5μmである銀粉が求められてきたが、このように微細な一次粒子が凝集構造を持たず分散した場合、他の一次粒子との接点が増加し空隙が少なくなり、粒子間にペーストの溶媒が侵入し難くなる。すると、その結果として、見かけ上の粒子間の溶媒量が増加することになりペースト粘度が低下して、法線応力は低下する。このような銀粒子を用いたペーストでは、ペースト溶媒が浸透していない銀粒子の集合体同士がペースト中で集まるようになり、さらに大きな塊を形成し易くなる。このような状態のペーストを、例えばペースト作製で一般的に用いられる3本ロールミルによって混練した場合には、銀粒子に加わる圧縮力に対する法線法力による反発力が低いため、その凝集した塊がロールによって圧延され、フレーク等の数mmオーダーの粗大な粉体が生じる。
また一方で、強固な凝集体が多い銀粉では、凝集体に直接的に応力が加わることになるが、凝集体が強固であるために応力により分散することがない。このような銀粉では、粗大な凝集体がそのままロールに入り込んで圧延されることになり、やはり同様にしてフレーク等が発生する。
これらに対して、本実施の形態に係る銀粉は、上述のように、当該銀粉とエポキシ樹脂とを420Gの遠心力で混練し、さらに3本ロールミルを用いて混練して得られたペーストを粘弾性測定装置により測定したせん断速度1250sec−1での法線応力が1〜10Nであり、より好ましくはその法線応力が1〜5Nであるという特性を有する。このように、適度な法線応力を発生する銀粉を用いることで、混練時に銀粉に加わる圧縮力を低減するとともに、粗大な銀粉の凝集体がロール等でそのまま圧縮されてしまうことを防止することができる。そして、その結果として、凝集体がペースト中で効率的に分散することができるようになるため、フレーク等の粗大な粉体の発生を抑制することができる。
ここで、本実施の形態に係る銀粉について、評価試験用として作製するペーストは、例えば、エポキシ樹脂(粘度2〜6Pa・s、例えば三菱化学(株)製JER819)及び銀粉を、ペーストに対してエポキシ樹脂12.3質量%及び銀粉87.7質量%とし、420Gの遠心力で混練し、さらに3本ロールミルを用いて混練することによって作製することができる。なお、銀粉とエポキシ樹脂とを420Gの遠心力で混練(予備混練)を行う装置としては、その420Gの遠心力で混練できるものであれば特に限定されず、例えば自公転ミキサー等を用いることができる。また、3本ロールミルによる混練(本混練)は、例えば、ロール径150mm、ロール圧10barの条件で行う。
また、上述したように、本実施の形態に係る銀粉は、評価試験用として作製したペーストを粘弾性測定装置により測定したせん断速度1250sec−1での法線応力が1〜10Nである。法線応力が1N未満では、銀粉に加わる圧縮力を十分に低減することができないため、ペースト中で発生した凝集体が圧延されフレーク等が発生する。一方、法線応力が10Nを越える場合には、銀粉に加わる圧縮力は低減されるものの、粗大であり強固な凝集体が多くなっており、ロール等で圧延されて発生するフレークが増加する。
法線応力の測定は、ペーストの十分量を秤量して粘弾性測定装置にしかけた後、40sec−1のせん断速度で1分間以上保持し馴染ませ、その際に測定部よりはみ出た余分なペーストを除去してから行う。なお、これによって、このせん断速度での粘度が安定しない場合や、法線応力がマイナスとならない場合には、さらに上述の作業を繰り返す。法線応力の測定は、そのせん断速度にて一定に保持し、1秒刻みで測定値を出力(出力値は各1秒間の平均値である)した場合の保持開始から20秒間の最大値とする。
上述した所定の法線応力を発生させるためには、銀粒子に所定の凝集力を持たせ、凝集体を形成させることが好ましい。適度な凝集体が形成されると、その一次粒子間に十分な空隙が存在するようなるため、ペースト中の溶媒の浸透が進み易くなり、見かけの溶媒量が安定することで十分な法線応力が得られる。さらに、ペースト中においても粗大な凝集体が生じ難くなり、結果としてフレーク等の粗大な粉体が発生しない。この凝集構造は、銀粒子が所定の大きさに連結し、例えば葡萄の房状の凝集体を形成しており、好ましくは5〜10μm程度の大きさを持つものであり、詳細には数個の比較的強固に結合した銀粒子と、その連結粒子に比較的弱く結合した銀粒子からなっているものと推測される。
すなわち、本実施の形態に係る銀粉は、凝集力が−0.5N以上0.7N以下であり、粉体層せん断力測定における圧縮率が20〜50%であり、かつJIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量が3.0〜9.0ml/100gであることが好ましい。このような特性を有する銀粉は、所定の大きさに銀粒子が連結した凝集体を形成しており、ペースト作製時に溶媒中での分散性がよく、混練に際して適度な法線応力を発生するため、フレーク等の粗大な粉体の発生を効果的に抑制することができる。
本実施の形態において用いられる銀粒子は、一次粒子の平均粒径が0.1〜1.5μmの範囲であることが好ましい。一次粒子の平均粒径が0.1μm以上であることにより、導電性ペーストにした場合に大きな抵抗を生じさせず良好な導電性が得られる。また、一次粒子の平均粒径を1.5μm以下とすることにより、後述するように一次粒子が所定の大きさに連結して凝集体を形成した場合でも、分散性を悪化させることなく、適度な法線応力を発生させて、ロール性が改善されるとともにペーストの印刷性も良好なものとなる。
凝集力は、銀粉そのものの凝集のし易さを表すものであり、ペースト中での銀粒子の凝集度合いの指標となる。この凝集力は、銀粉に対して垂直加重をかけない状態でのせん断応力と定義することができる。したがって、例えば粉体層せん断力測定装置を用いて、せん断応力と垂直荷重から求めることができる。具体的には、グラフを用意し、せん断応力をY軸にとり垂直荷重をX軸にとったとき、垂直荷重を変更し、それに対するせん断応力値をプロットしていった場合には、そのプロット点は直線上に並び、その直線のY切片のせん断応力値が凝集力となる。つまり、そのY切片の値が大きいほど凝集力が強いことを意味する。なお、せん断応力と垂直荷重とのグラフの傾きは、銀粉の内部摩擦力となり、粉体の滑りやすさの指標となる。
本実施の形態に係る銀粉は、その凝集力が好ましくは−0.5N以上0.7N以下であり、より好ましくは−0.2N以上0.7N以下である。凝集力が0.7以下であることにより、ペースト中において過剰に銀粒子が凝集されることなく、粗大なフレークが発生することが抑制される。
フタル酸ジブチルの吸収量は、JIS−K6217−4法に基づいて測定することができる。本実施の形態に係る銀粉は、そのフタル酸ジブチルの吸収量が3.0〜9.0ml/100gであることが好ましい。フタル酸ジブチルの吸収量が3.0〜9.0ml/100gである銀粉は、所定の凝集力で銀粒子が連結して例えば葡萄の房状の凝集体を適度に形成していることを表すものであり、十分な法線応力が得られる。
すなわち、所定の大きさに銀粒子が連結して形成された凝集構造を有する銀粉においては空隙を多く持ち、フタル酸ジブチルを滴下していくと、その凝集構造を形成する銀粒子間にフタル酸ジブチルが吸収(吸油)されるようになる。したがって、このフタル酸ジブチルの吸収量を測定することにより、その凝集構造がどの程度形成されているかを判断することができる。凝集構造の形成が少ない銀粉では粒子間の空隙が少ないため、吸油量が減少する。また、所定の吸収量を有する銀粉は、ペースト中の溶媒等の成分と銀粒子とがなじみ易くなり、見かけの溶媒量が安定することで法線応力が得られ、フレーク等の発生を抑制して、良好に混練できることの一つの指標となる。
このように銀粒子が連結した空隙の多い凝集構造を有する銀粉では、混練時にロール間で発生するせん断力が銀粉の表面同士を擦り合わせる力ともなり、晶析中に粒子表面に吸着した水溶性高分子間に相互作用を生じさせる。そして、その相互作用が連結粒子間の比較的弱いものであった結合力を強めるものとなる。ロールのせん断応力によって生じた結合力は、その凝集構造に柔軟性を持たせながらも、ペースト自体にロールに対する法線応力を発現させ、それが結果としてペースト作製の混練時においてフレーク等の粗大な粉体の発生を効果的に抑制する。ロール圧が一時的に上昇した場合も、構造中にペースト溶剤を多く含んでいるため、フレーク等の粗大な粉体の発生を効果的に抑制できる。
また、このフタル酸ジブチルの吸収量に基づいて、その銀粉を用いて作製したペーストの粘性を判断することもできる。上述のように、銀粒子が連結した空隙の多い凝集構造を有する銀粉は、その構造を構成する粒子間にペーストの溶媒成分を取り込むようになるため、凝集体外のペースト中の溶媒成分量が相対的に減少し、ペーストの粘度が上昇する。
なお、フタル酸ジブチルの吸収量が3.0ml/100gより少ない場合には、形成されている上述した凝集体の数が少ないことを示し、結果として混練時にロール間で発生するせん断力が、銀粉の表面同士の擦り合わせ力とはなり難く、ペースト製造時にフレークを発生させてしまうことがある。一方、吸収量が9.0ml/100gより多い場合には、銀粒子の強固な連結が多過ぎていることを示し、凝集構造に柔軟性が乏しい部分が多く、繰り返しのロール圧に対し不可逆な変形を繰り返すこととなり、結果として凝集体がフレーク化するおそれがある。
圧縮率は、荷重を付加しない状態から設定荷重を負荷した状態までの銀粉体積の減少率であり、銀粒子間の空隙量と銀粉の強固な凝集構造の強度を表す指標となる。この圧縮率は、粉体層せん断力測定装置を用いて所定量の銀粉をセルに充填し無荷重で測定した体積(静嵩高さ)と、設定荷重(60N)を負荷した際の体積(嵩高さ)から測定することができる。粉体層せん断力測定装置により銀粉に対して荷重をかけるにつれて粉体層の圧縮が進む。このとき、銀粒子が凝集構造を持たず一次粒子同士が分離している場合は、圧縮後の粒子間の空隙量が少なく圧縮率が大きい。一方、銀粒子が強固な凝集構造を形成している場合は、構造内部の空隙が荷重によらず変化しないため、圧縮後の空隙量は相対的に多くなり、圧縮率は小さい。しかしながら、凝集構造を形成している銀粉であったとしても、設定荷重を付加した状態において、凝集構造が荷重によって破壊され、圧縮率からは構造を持たないものと推定される場合がある。このような銀粉では混練時に容易に構造が解砕され、一次粒子同士に分離してしまうため、十分な法線応力が得られないことがある。
例えば、銀粉中に含有される凝集体は、ペースト作製時に作業者の手によって容易に壊れてしまうものでは好ましくない。また、銀粉を用いてペーストを作製するに際しては、一般的には自公転ミキサー等による予備混練と3本ロールミル等による本混練が行われる。このとき、凝集構造の強度が弱い凝集体しか有しない銀粉を用いた場合には、混練中にその凝集構造が壊れ、一次粒子又は二次粒子となり易い。それにより凝集体に取り込まれたペーストの溶媒成分が放出され、ペースト中の見かけの溶媒量が相対的に増加し、急激な粘度の低下を生じる。また、上述した銀粉表面同士の相互作用も生じ難くなくなるため、ペースト全体の法線応力も減少し、混練時の圧力によってフレークを発生させてしまう。それにより、ロール性が著しく損なわれる。
上述したように、本実施の形態に係る銀粉は、ペースト中で所定の大きさに銀粒子が連結して形成された凝集体を含有していることが好ましい。この凝集体は、構造的に十分な強度を有しているだけではなく、せん断応力によって結合力を生じさせ、さらには結合力によって十分な柔軟性を持つとともに、内部にペースト溶媒を保持し、混練時のせん断速度に対して十分な法線応力を発現することが重要である。これにより、フレークの発生を効果的に抑制することができる。
本実施の形態に係る銀粉は、その圧縮率が20〜50%であることが好ましい。圧縮率が20%より小さい場合には、上述した凝集体の機械的強度が強過ぎるものが多く、その凝集構造の柔軟性が乏しいことを示し、十分な法線応力が発現されないことがある。一方で、圧縮率が50%より大きい場合には、凝集体の機械的強度が弱くその凝集構造が壊れることを示し、ペースト製造時に急激な粘度低下が起こるとともに法線応力の低下が起こり混練圧力のコントロールが困難となるため、フレーク等の粗大な粉体を生じさせてしまう可能性がある。
以上のような銀粉に含まれる凝集体の存在は、具体的には、レーザー回折散乱法を用いて測定した体積積算の平均粒径D50と、走査型電子顕微鏡(SEM)の画像解析により得られた平均粒径DSとを比較することによって判断することができる。
レーザー回折錯乱法による粒径測定は、凝集した粒子が含まれる場合には、その凝集体及び二次粒子も含んだ粒度分布を示している。その平均粒径D50と、SEM画像を用いた解析により得られた一次粒子のみの平均粒径をDSとした場合に、D50/DSで求められる比が1より大きくなるほど、一次粒子同士が所定の割合で連結した二次粒子や凝集体が形成されていると判断できる。
本実施の形態に係る銀粉は、レーザー回折散乱法を用いて測定した体積積算の平均粒径をD50とし、SEMの画像解析により得られた平均粒径をDSとしたとき、その比であるD50/DSが1.5〜5.0となることが好ましい。
なお、D50/DSが1.5よりも小さい場合には、上述した凝集体が少なく、ペースト作製時においてフレークを生じさせてしまう可能性がある。一方で、D50/DSが5.0より大きい場合には、所定の大きさに銀粒子が連結した凝集体の機械的強度が強過ぎ、また大きな凝集体も多量に形成されていることから、ペーストの溶媒中における分散安定性が悪化するとともにフレークの原因となる可能性がある。
また、凝集体の強度については、以下のように比表面積を比較することによって判断することもできる。具体的には、BET法により求められた比表面積とSEMの画像解析により得られた平均粒径から求めた比表面積とを比較することによって判断することができる。
ここで、BET法とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法であり、吸着等温線から1gの試料の持つ総表面積、すなわち比表面積を求める方法である。吸着気体としては、窒素ガスが多く用いられ、吸着量を被吸着気体の圧力、又は容積の変化から測定する方法が多用される。BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積を掛けることによって比表面積を求めることができる。
凝集体の強度は、各銀粒子間の連結の強さに関係する。BET法による測定において、銀粒子間の連結が弱い場合、例えば球状の一次粒子が接点でのみ連結しているような場合には、表面積は粒子が連結している接点部のみで減少するため、その結果測定される比表面積は、完全に粒子が分散している状態の比表面積の合計、すなわち、一次粒子の真の比表面積より僅かにしか減少しない。これに対して、粒子間の連結が強い場合、喩えれば二次粒子がひょうたん状や雪だるま状となるように一次粒子が強く連結している場合には、太い連結部や、完全に空間的に閉じた状態となった凝集体内部の面積は測定されないため、BET法により測定される比表面積は、一次粒子の真の比表面積より大きく減少する。一方、上述したようにSEMの画像解析により得られる平均粒径は一次粒子の粒径の平均値であり、この平均粒径から求められる比表面積は個々の粒子を真球とした場合の表面積の総計となる。実際には電子の透過により粒子が小さく写るため、一次粒子の真の比表面積よりやや大きくなるものの、ほぼ近似した値となる。
したがって、BET法により求められた比表面積SSA1と、SEMの画像解析により得られた平均粒径から求めた比表面積SSA2との比(SSA1/SSA2)は、銀粉の凝集状態や球形度合の指標となり、これにより、上述の連結粒子がどの程度強固に凝集しているかを判断することができ、凝集体の強度を判断することができる。
本発明の実施の形態に係る銀粉は、BET法により求められた比表面積をSSA1とし、SEMの画像解析により得られた平均粒径から求めた比表面積をSSA2としたとき、SSA1/SSA2で求められる比が1.0未満となることが好ましい。このように、SSA1/SSA2で求められる比が1.0未満である銀粉は、形成された凝集体が所定の強度を有することを意味し、例えば混練によってもその凝集構造が維持され、ペースト作製時におけるフレークの発生をより効果的に抑制することができる。一方で、SSA1/SSA2で求められる比は0.7以上であることが好ましい。0.7未満の場合、凝集が進み、粗大で強度が強過ぎ、機械的な柔軟性に乏しい凝集体が銀粉に含まれることを示している。このような凝集体が銀粉に含まれると、スクリーン印刷をする際の目詰まりや、銀ペーストで形成された配線層や電極の均一性を損なうおそれがある。
なお、SSA1/SSA2で求められる比が1.0以上の場合には、凝集体が形成されていないか、連結粒子の連結が弱い場合であり、例えば所定以上の圧力で混練処理した場合に容易にその凝集構造が壊れ、フレーク等の粗大な粉体を発生させてしまう可能性がある。
ところで、一般に、銀粉を用いて焼成型ペースト等を作製する際には、各構成要素を計量して所定の容器に入れ、自公転ミキサー等を用いて予備混練した後、3本ロールで本混練することによって作製する。上述のように、所定の大きさに銀粒子が連結して形成された凝集体は、その構造を維持することで効果的に法線応力が発現されることから、ペースト製造時において予備混練及び本混練の混練処理を行っても高い水準でその凝集構造が維持されることが望ましい。つまり、その凝集構造が適度な安定性を有することが望ましい。
凝集構造の安定性は、例えば、上述と同様に評価試験用として、当該銀粉とエポキシ樹脂とを420Gの遠心力で混練してペーストを作製し、そのペースト中の銀粉をレーザー回折散乱法を用いて測定した体積積算の平均粒径D1と、その後さらに3本ロールミルにより混練して得られたペースト中の銀粉をレーザー回折散乱法を用いて測定した体積積算の平均粒径D2とを比較することによって、凝集構造の安定性を判断することができる。すなわち、一般には混練に伴い凝集体の凝集構造は崩れ、銀粉の平均粒径は小さくなるため、予備混練後の平均粒径D1と本混練後の平均粒径D2とを比較することによって、凝集体の持つ凝集構造の安定性を判断することができる。
本実施の形態に係る銀粉は、当該銀粉とエポキシ樹脂とを420Gの遠心力で混練して得られたペースト中の銀粉をレーザー回折散乱法を用いて測定した体積積算の平均粒径をD1とし、その後さらに3本ロールミルにより混練して得られたペースト中の銀粉をレーザー回折散乱法を用いて測定した体積積算の平均粒径をD2としたとき、D2/D1で求められる比が0.5〜1.5であることが好ましい。
D2/D1で求められる比が0.5〜1.5であることにより、予備混練及び本混練によっても凝集体の凝集構造が安定していると判断できる。なお、D2/D1で求められる比が0.5より小さい場合には、その凝集構造の安定性がなく、混練によってその凝集構造が壊れ、急激な粘度の低下を生じさせるとともにフレークを発生させる可能性がある。一方、D2/D1が1.5より大きい場合は、銀粉がペースト混練中に凝集し易く、またその凝集体が粒度分布測定中にも見られることから、凝集構造が強固なものであるため好ましくない。
なお、上述した平均粒径D1及び平均粒径D2を求める場合における評価試験用ペーストは、法線応力を求める場合と同様にして作製することができる。
また、凝集体の構造の安定性については、上述のように混練後の平均粒径を比較することのほかに、混練後のペーストの粘度を測定することによって評価することもできる。
すなわち、上述しているように本実施の形態に係る銀粉は、法線応力を効果的に発現させるために、所定の大きさに銀粒子が連結した空隙の多い凝集構造を有していることが好ましい。そのため、ペースト作製の初期には、その粘度が上昇するが、凝集体の強度が弱い場合には、混練に伴って次第に粘度が小さくなるようにシフトする。そして、それに従って、凝集体中に保持していたペーストの溶剤が放出され銀粒子同士の間隔が相対的に広がっていくことになり、結果として、銀粒子表面同士の相互作用も低減し、ロール圧に対する反発力である法線応力も得られ難くなる。このことから、試験的に銀粉とエポキシ樹脂とによりペーストを作製し、予備混練後のペーストの粘度η1と本混練後のペーストの粘度η2とを比較することによって、その凝集体の凝集構造の安定性を判断することができる。
本実施の形態に係る銀粉は、当該銀粉とエポキシ樹脂とを420Gの遠心力で混練して得られたペーストを粘弾性測定装置により測定したせん断速度4sec−1における粘度をη1とし、その後さらに3本ロールミルにより混練して得られたペーストを粘弾性測定装置により測定したせん断速度4sec−1における粘度をη2としたとき、η2/η1で求められる比が0.5〜1.5であることが好ましい。
η2/η1で求められる比が0.5〜1.5であることにより、予備混練及び本混練によっても上述した凝集体の構造が安定していると判断できる。なお、η2/η1で求められる比が0.5より小さい場合には、凝集体の構造の安定性がなく、混練によってその構造が壊れ、急激な粘度の低下を生じさせるとともにフレーク等の粗大な粉体を発生させる可能性がある。
なお、銀粉とエポキシ樹脂とを420Gの遠心力で混練(予備混練)を行う装置としては、例えば自公転ミキサー等を用いることができる。また、3本ロールミルによる混練(本混練)は、例えば、ロール径150mm、ロール圧10barの条件で行う。また、粘弾性測定装置についても、所定のせん断速度における粘度測定が可能なものであれば特に限定されず、上述の法線応力測定で用いた粘弾性測定装置を用い、ペーストを同様にして準備した後、所定のせん断速度において測定することができる。
以上のように、本実施の形態に係る銀粉は、当該銀粉とエポキシ樹脂とを420Gの遠心力で混練し、さらに3本ロールミルを用いて混練して得られたペーストを粘弾性測定装置により測定したせん断速度1250sec−1での法線応力が1〜10Nであるという特性を有する。このような所定の法線応力を発生する銀粉によれば、ペースト混練時に銀粉に加わる圧縮力を低減させることができ、フレーク等の粗大な粉体が生じることを効果的に抑制できる。
そしてさらに、この銀粉は、凝集力が−0.5N以上0.7N以下であり、粉体層せん断力測定における圧縮率が20〜50%であり、かつJIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量が3.0〜9.0ml/100gであることが好ましい。すなわち、この銀粉は、所定の大きさに銀粒子が連結した空隙の多い構造を有しており、かつ、その凝集体は所定の強度を有することが好ましい。このような銀粉によれば、ペースト作製時において、形成された凝集体内にペースト溶媒が浸透して見かけの溶媒量が安定し、ペースト溶媒中での分散性が良好となり、より効果的に所望とする法線応力が発現する。これにより、銀粉同士がペースト中で凝集して大きな塊になることを抑制し、フレーク等の粗大な粉体が発生することを抑制することができる。
このようなフレーク等の発生を抑制できる銀粉によれば、ペースト作製の混練時において、ロール性が損なわれることなく、またスクリーン印刷をする際にも目詰まりを防止することができ、優れた印刷性を実現することができる。特に、微細な配線を形成するファインピッチ用銀粉として好適である。
なお、本実施の形態に係る銀粉は、上述した評価試験用の銀ペーストに限定してその作用効果を奏するものではないことは言うまでもなく、一般的に用いられる銀ペーストの全てに適用されるものである。
具体的に、上述した特徴を有する銀粉を用いて一般的な銀ペーストを製造するにあたって、その溶剤の組成を含むペースト化方法としては特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、使用するビヒクルとしては、アルコール系、エーテル系、エステル系等の溶剤に、各種セルロース、フェノール樹脂、アクリル樹脂等を溶解したものを用いることができる。
このようにして製造された銀ペーストは、その製造時において、混練に際して銀粉に加わる圧縮力が低減され、フレーク等の粗大な粉体の発生を効果的に抑制することができるので、優れた印刷性を実現して、特に微細な配線を形成するファインピッチ用銀ペーストとして好適に用いることができる。
次に、上述した特徴を有する銀粉の製造方法について詳細に説明する。
本実施の形態に係る銀粉の製造方法は、塩化銀を出発原料とするものであって、基本的には、塩化銀を錯化剤により溶解して得た銀錯体を含む溶液(銀錯体溶液)と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して銀粒子を析出させることにより銀粒子スラリーを得て、洗浄、乾燥、解砕の各工程を経ることによって銀粉を得る。このように、塩化銀を出発原料とするものであるため、硝酸銀を出発原料とする方法で必要とされた亜硝酸ガスの回収装置や廃水中の硝酸系窒素の処理装置を設置する必要がなく、環境への影響も少ないプロセスであることから、製造コストの低減を図ることができる。
そして、本実施の形態に係る銀粉の製造方法においては、還元剤溶液に還元剤としてアスコルビン酸を含有させるとともに、銀錯体溶液及び還元剤溶液の両方、又はいずれか一方に、銀に対して0.1〜15質量%の水溶性高分子を添加して還元し、得られた銀粒子に対して、乾燥前に界面活性剤、又は、界面活性剤及び分散剤により表面処理を施す。
このように、還元剤としてアスコルビン酸を用いるとともに、銀に対して0.1〜15質量%の水溶性高分子を銀錯体溶液及び還元剤溶液の両方、又はいずれか一方に添加して還元することによって、このようにして得られた銀粉とエポキシ樹脂とを420Gの遠心力で混練し、さらに3本ロールミルを用いて混練して得られたペーストを粘弾性測定装置により測定したせん断速度1250sec−1での法線応力が1〜10Nである銀粉を製造することができる。
以下、この銀粉の製造方法について、工程毎にさらに具体的に説明する。
還元工程においては、出発原料である塩化銀を錯化剤を用いて溶解し、銀錯体溶液を調製する。錯化剤としては、特に限定されるものではないが、塩化銀と錯体を形成し易くかつ不純物としての残留成分が含まれないアンモニア水を用いることが好ましい。また、塩化銀は高純度のものが好ましく、例えば純度99.9999質量%の高純度塩化銀を用いることが好ましい。
塩化銀の溶解方法としては、例えば錯化剤としてアンモニア水を用いる場合、塩化銀のスラリーを作製した後にアンモニア水を添加してもよいが、錯体濃度を高めて生産性を上げるためにはアンモニア水中に塩化銀を添加して溶解することが好ましい。塩化銀を溶解するアンモニア水は、工業的に用いられる通常のものでよいが、不純物混入を防止するため可能な限り高純度のものが好ましい。
次に、銀錯体溶液と混合し反応させるための還元剤溶液を調製する。本実施の形態に係る銀粉の製造方法においては、還元作用が緩やかであり銀粒子中の結晶粒が成長し易いという観点から、還元剤としてアスコルビン酸を用いる。このように、還元剤としてアスコルビン酸を用いることにより、所定の大きさに銀粒子が連結した凝集体を効果的に形成することができ、所定の法線応力を発生する銀粉を製造することができる。一方、還元剤として、例えばヒドラジン又はホルマリン等を用いることもできるが、銀粒子中の結晶が小さくなる。また、その場合には反応の均一性及び反応速度を制御するために、還元剤を純水等で溶解又は希釈して濃度を調整した水溶液を用いることが必要となる。
還元剤として用いるアスコルビン酸の添加量は、銀錯体溶液中の銀に対してモル比で0.28〜1とすることが好ましい。
また、上述したように、本実施の形態に係る銀粉の製造方法においては、銀錯体溶液及び還元剤溶液の両方、又はいずれか一方に、銀に対して0.1〜15質量%の水溶性高分子を添加する。
添加する水溶性高分子としては、特に限定されないが、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン等の少なくとも1種であることが好ましい。これらの水溶性高分子によれば、過剰な凝集を防止するとともに、成長した核の凝集が不十分で銀粒子(一次粒子)が微細になることを防止し、所定の大きさの凝集構造を有する銀粉を形成できる。
水溶性高分子の添加量については、銀に対して0.1〜15質量%を添加する。ここで、水溶性高分子を添加することにより、上述した所定の法線応力を発現させるメカニズムとしては以下のように考えられる。すなわち、水溶性高分子を添加することにより、その水溶性高分子の一部が銀粒子表面に吸着する。このとき、銀粒子表面のほぼ全てが水溶性高分子で覆われた場合には、水溶性高分子の物理的な障害により銀粒子の凝集が抑制され、粒子はそれぞれ単体で存在するようになるが、銀に対して0.1〜15質量%の水溶性高分子を添加することで、一部水溶性高分子に被覆されていない表面が残り、その表面を介して銀粒子同士が連結して凝集体を形成するようになる。このように銀粒子が連結した凝集体が形成されると、連結した一次粒子間に空隙が存在するようになるため、ペースト中の溶媒が銀粒子に浸透し易くなり、これにより、見かけの溶媒量も安定するため、銀粉への圧縮力に対する反発力である法線応力が適度な大きさで発現すると考えられる。
水溶性高分子の添加量が銀に対して0.1質量%未満の場合には、銀粒子の水溶性高分子に被覆されていない表面積が広くなり過ぎ、銀粉が過度に凝集して多くの粗大凝集体を発生させ、過度な大きさの法線応力を発現させてしまう。一方で、銀に対する添加量が15質量%より多い場合には、ほぼ全ての銀粒子表面が水溶性高分子で覆われてしまい、銀粒子同士が連結することができず、凝集体を形成させることができない。その結果、ほとんどが一次粒子からなる銀粉となるため、ペースト中の溶媒が効果的に銀粒子に浸透せず給油量が足らなくなり、法線応力を発現させることができない。その結果、ペースト作製時にフレークを発生させてしまう。これらのことから、銀に対して0.1〜15質量%の水溶性高分子を添加することによって、適度な凝集力で銀粒子を連結させ、構造的にも安定した凝集体を形成させることができ、法線応力を適度な大きさで発現させることができる。そしてこれにより、ペースト作製時において、ペースト中での分散性が良好になるとともに、フレーク等の粗大な粉体の発生を効果的に抑制することができる。
また、より好ましくは、水溶性高分子を、銀に対して2.5〜10質量%の割合で添加する。このように、銀に対して2.5〜10質量%の割合で水溶性高分子を添加することにより、より適度に銀粒子を所定の大きさまで連結させて安定性の高い凝集体を形成させ、所望とする法線応力を効果的に発現させることができ、フレーク等の発生をより効果的に抑制できる。
水溶性高分子は、上述のように、銀錯体溶液及び還元剤溶液の両方、又はいずれか一方に添加する。その中でも、特に、水溶性高分子を、予め還元剤溶液に添加しておくことが好ましい。このように、予め還元剤溶液に水溶性高分子を添加しておくことによって、核発生あるいは核成長の場に水溶性高分子が存在するようになり、生成した核あるいは銀粒子の表面に迅速に水溶性高分子を吸着させ、銀粒子の凝集を効率よく制御できる。また、水溶性高分子を、銀錯体溶液及び還元剤溶液の両方に添加した場合には、混合反応中の液中水溶性高分子濃度にムラが無くなり、より均一性の高い銀粉を作成することができる。
一方、水溶性高分子を銀錯体溶液のみに添加する場合は、核発生あるいは核成長の場に水溶性高分子が供給され難く、銀粒子の表面に水溶性高分子を吸着させることができないおそれがある。したがって、その場合には望ましくは銀に対して3.0質量%を超える量の水溶性高分子を添加する。
銀錯体溶液及び還元剤溶液の両方、又はいずれか一方への水溶性高分子の添加については、還元処理に先立ち予め添加対象の溶液に添加してもよく、還元処理のための銀錯体溶液及び還元剤溶液の混合時に添加するようにしてもよい。
なお、水溶性高分子の添加により還元反応時に発泡することがあるため、銀錯体溶液又は還元剤混合液に消泡剤を添加することもできる。消泡剤としては、特に限定されず、通常の還元反応に際して使用されているものでよい。ただし、還元反応を阻害させないため、消泡剤の添加量は消泡効果が得られる最小限程度にしておくことが好ましい。
また、銀錯体溶液及び還元剤溶液を調製する際に用いる水については、不純物の混入を防止するため、不純物を除去した水を用いることが好ましく、純水を用いることが特に好ましい。
そして、上述のように調製した銀錯体溶液と還元剤溶液とを混合し、還元反応により銀粒子を析出させる。この還元反応は、バッチ法でもよく、チューブリアクター法やオーバーフロー法のような連続還元法を用いてもよい。また、銀粒子の粒径は、銀錯体溶液と還元剤溶液の混合速度や銀錯体の還元速度で制御することが可能であり、目的とする粒径に容易に制御することができる。
還元工程で得られた銀粒子表面には、多量の塩素イオン及び水溶性高分子が吸着している。したがって、銀ペーストを用いて形成される配線層や電極の導電性を損なわないために、得られた銀粒子のスラリーを洗浄し除去する洗浄工程を行うことが好ましい。なお、後述するが、銀粒子表面に吸着した水溶性高分子が除去されることで凝集が生じることを抑制するために、洗浄工程は、銀粒子への表面処理工程後等に行うことが好ましい。
洗浄方法としては、特に限定されるものではないが、スラリーからフィルタープレス等で固液分離した銀粒子を洗浄液に投入し、撹拌機又は超音波洗浄器を使用して分散、洗浄させた後、再び固液分離して銀粒子を回収する操作からなる方法が一般的に用いられる。また、表面吸着物を十分に除去するためには、洗浄液への投入、撹拌洗浄、及び固液分離からなる操作を、数回繰り返して行うことが好ましい。
洗浄液は、水を用いてもよいが、塩素を効率よく除去するためにアルカリ水溶液を用いてもよい。アルカリとしては、特に限定されるものではないが、残留する不純物が少なくかつ安価な水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。洗浄液として水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合には、洗浄後に残留するナトリウムを除去するために銀粒子又はそのスラリーをさらに水で洗浄することが望ましい。
また、水酸化ナトリウム水溶液の濃度は0.01〜0.30mol/lとすることが好ましい。濃度が0.01mol/l未満では塩素等の洗浄効果が不十分であり、一方で濃度が0.30mol/lを超えると、銀粒子にナトリウムが許容量以上に残留することがある。なお、洗浄液に用いる水は、銀粒子に対して有害な不純物元素を含有していない水が好ましく、特に純水を用いることが好ましい。
次に、本実施の形態に係る銀粉の製造方法においては、還元形成された銀粒子に対して表面処理を施す表面処理工程を行う。銀粒子に対する表面処理は、界面活性剤、又は、界面活性剤及び分散剤により行う。この表面処理によって、以降の工程において過剰な凝集が生じることを防止することができる。また、得られた銀粉を用いたペースト作製時においてペースト溶媒中での分散性を向上させることができる。そして、結果として、所望の凝集構造を安定に維持させ、フレーク等の粗大な粉体の発生をより効果的に抑制できる。
過剰な凝集は、銀粒子を乾燥することによって特に進行することから、この表面処理は、銀粒子を乾燥させる前であればいずれの段階で行っても効果が得られる。例えば上述した還元工程後であり洗浄工程前、洗浄工程と同時、あるいは洗浄工程後に行うことができる。
その中でも、特に、還元工程後でありかつ洗浄工程の前、あるいは洗浄を1回行った直後であることが好ましい。この段階であれば、還元処理を経て形成された、所定の凝集力で連結した凝集体を維持したまま処理することができるため、分散性を良好にしかつ所定の凝集構造を有した銀粉を製造することができる。
より具体的には、本実施の形態に係る銀粉の製造方法においては、上述したように、銀に対して0.1〜15質量%の水溶性高分子を添加し、銀粒子表面に適度に水溶性高分子を吸着させることで、銀粒子が所定の大きさに連結した構造を分散性良く形成している。しかしながら、銀粒子表面に吸着させた水溶性高分子は、比較的容易に洗浄除去されてしまうため、表面処理前に洗浄工程を行った場合には、銀粒子表面が洗浄され、銀粒子同士が直に接触してしまい、互いに過度な吸着凝集をはじめ、形成された凝集体よりも大きく多量の凝集塊が形成されるおそれがある。そして、これもフレーク等の粗大な粉体の発生原因となりうる。
したがって、表面処理は、洗浄工程における洗浄前、もしくは洗浄を1回行った直後に行うことが好ましい。その場合は、還元後かつ洗浄前であれば、還元終了後に銀粒子を含有するスラリーをフィルタープレス等で固液分離した後でもよい。このような固液分離後に表面処理を行うことによって、生成された銀粒子に対して反応液の影響なく直接に、表面処理剤である界面活性剤や分散剤を作用させることができるため、形成された凝集体に効率よく表面処理剤が吸着し、過剰な凝集により凝集構造が粗大化してフレーク等が発生することを効果的に抑制できる。
界面活性剤と分散剤を用いた表面処理の具体的方法としては、界面活性剤及び分散剤を添加した水中に銀粒子を投入し撹拌するか、界面活性剤を添加した水中に銀粒子を投入して撹拌した後、さらに分散剤を添加して撹拌する、どちらの方法でもよい。また、洗浄と同時に表面処理を行う場合には、洗浄液に界面活性剤及び分散剤を添加するか、又は界面活性剤を添加後に分散剤を添加すればよい。銀粒子への界面活性剤及び分散剤の吸着をより良好にするためには、界面活性剤を添加した水又は洗浄液に銀粒子を投入し撹拌した後、分散剤をさらに添加して撹拌することが好ましい。
ここで、界面活性剤としては、特に限定されないが、カチオン系界面活性剤を用いることが好ましい。カチオン系界面活性剤は、pHの影響を受けることなく正イオンに電離するため、銀粒子の表面がアルカリ性環境下において負の状態となる塩化銀を出発原料とした銀粉への吸着性が高い。
カチオン系界面活性剤は、特に限定されるものではないが、モノアルキルアミン塩に代表されるアルキルモノアミン塩型、N−アルキル(C14〜C18)プロピレンジアミンジオレイン酸塩に代表されるアルキルジアミン塩型、アルキルトリメチルアンモニウムクロライドに代表されるアルキルトリメチルアンモニウム塩型、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドに代表されるアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩型、アルキルジポリオキシエチレンメチルアンモニウムクロライドに代表される4級アンモニウム塩型、アルキルピリジニウム塩型、ジメチルステアリルアミンに代表される3級アミン型、ポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレンアルキルアミンに代表されるポリオキシエチレンアルキルアミン型、N、N’、N’−トリス(2−ヒドロキシエチル)−N−アルキル(C14〜18)1,3−ジアミノプロパンに代表されるジアミンのオキシエチレン付加型から選択される少なくとも1種が好ましく、4級アンモニウム塩型、3級アミン塩型のいずれか又はその混合物がより好ましい。
また、界面活性剤は、メチル基、ブチル基、セチル基、ステアリル基、牛脂、硬化牛脂、植物系ステアリルに代表されるC4〜C36の炭素数を持つアルキル基を少なくとも1個有することが好ましい。アルキル基としては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン、ポリアクリル酸、ポリカルボン酸から選択される少なくとも1種を付加されたものであることが好ましい。これらのアルキル基は、後述する分散剤として用いる脂肪酸との吸着が強いため、界面活性剤を介して銀粒子に分散剤を吸着させる場合に脂肪酸を強く吸着させることができる。
また、界面活性剤の添加量は、銀粒子に対して0.002〜1.000質量%の範囲が好ましい。界面活性剤は、ほぼ全量が銀粒子に吸着されるため、界面活性剤の添加量と吸着量はほぼ等しいものとなる。界面活性剤の添加量が0.002質量%未満では、銀粒子の凝集抑制あるいは分散剤の吸着性改善の効果が得られないことがある。一方、添加量が1.000質量%を超えると、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極の焼結性や導電性が低下するため好ましくない。
分散剤としては、例えば脂肪酸、有機金属、ゼラチン等の保護コロイドを用いることができるが、不純物混入のおそれや疎水基との吸着性の向上を考慮すると、脂肪酸又はその塩であることが好ましい。また、その分散剤としては、脂肪酸又はその塩を界面活性剤でエマルション化したものを用いてもよい。
分散剤として用いる脂肪酸としては、特に限定されるものではないが、ステアリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、リノレン酸から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの脂肪酸は、沸点が比較的低いため、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極への悪影響が少ないからである。
また、分散剤の添加量は、銀粒子に対して0.01〜1.00質量%の範囲が好ましい。分散剤の種類により銀粒子への吸着量は異なるが、添加量が0.01質量%未満では、銀粒子の凝集抑制あるいは分散剤の吸着による効果が十分に得られる量の吸着が起こらない場合がある。一方、分散剤の添加量が1.00質量%を超えると、銀粒子に吸着する分散剤が多くなり、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極の導電性が十分に得られないことがある。
次に、洗浄及び表面処理を行った後、固液分離して銀粒子を回収する。なお、洗浄及び表面処理に用いる装置は、通常使用されるものでよく、例えば撹拌機付きの反応槽等を用いることができる。また、固液分離に用いられる装置も、通常使用されるものでよく、例えば遠心機、吸引濾過機、フィルタープレス等を用いることができる。
洗浄及び表面処理を終えた銀粒子は、水分を蒸発させることで乾燥させる。乾燥方法としては、例えば、洗浄及び表面処理後に回収した銀粉をステンレスパッド上に置き、大気オーブン又は真空乾燥機等の市販の乾燥装置を用いて、40〜80℃の温度で加熱すればよい。
そして次に、乾燥後の銀粉を解砕し、分級処理する。解砕方法は、特に限定されるものではなく、ジェットミル、高速撹拌機等の解砕力が弱い装置を用いることが好ましい。解砕力が強い装置では、上述した凝集体まで解砕してしまうおそれがある上、銀粉が変形し固着することがあり好ましくない。解砕条件は、凝集構造が維持される程度に調整すればよい。分級装置は、特に限定されるものではなく、気流式分級機、篩い等を用いることができる。
以下に、本発明の具体的な実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
38℃の温浴中で液温36℃に保持した25%アンモニア水40Lに、塩化銀2368g(住友金属鉱山(株)製、純度99.9999%)を撹拌しながら投入溶解し、得られた銀錯体溶液を温浴中で36℃に保持した。
一方、還元剤であるアスコルビン酸993g(関東化学(株)製、試薬)を、36℃の純水14Lに溶解して還元剤溶液とした。次に、水溶性高分子であるポリビニルアルコール86.9g((株)クラレ製、PVA205、銀に対し5.0質量%)を36℃の純水550mlに溶解した後、還元剤溶液に投入し混合した。
作製した銀錯体溶液と還元剤溶液とを、モーノポンプ(兵神装備(株)製)を使用し、それぞれ銀錯体溶液を2.7L/min、還元剤溶液を0.9L/minで混合管内に送液することにより、銀錯体を還元した。このときの還元速度(送液速度)は銀量で95.6g/minである。また、この送液速度では銀の供給速度に対する還元剤の供給速度の比は1.4である。なお、混合管には内径25mm、長さ725mmの塩ビ製パイプを使用した。
混合管中で銀錯体を還元して得られた銀粒子を含むスラリーを攪拌機付きのポリタンクで受けた。撹拌は送液開始から送液終了後60分間継続した。撹拌終了後、銀粒子スラリーをフィルタープレスで濾過し、銀粒子を液相より分離回収した。
引き続き、回収した銀粒子が乾燥する前に、銀粒子を40℃に保持した0.2質量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液23L中に投入し、15分間撹拌洗浄した後、フィルタープレスで濾過し、銀粒子を回収した。
その洗浄直後、回収した乾燥前の銀粒子と、表面処理剤として市販のカチオン系界面活性剤であるポリオキシエチレン付加4級アンモニウム塩0.63g(クローダジャパン(株)製、商品名 シラソルG−265、銀粒子に対して0.04質量%)及び分散剤であるステアリン酸エマルジョン11.80g(中京油脂(株)製、セロゾール920、銀粒子に対して0.75質量%)とを、40℃に保持した0.2質量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液23L中に投入し、撹拌して表面処理した。表面処理後、フィルタープレスでろ過し、銀粒子を回収した。
次に、回収した銀粒子を、40℃に保持した23Lの純水中に投入して撹拌洗浄後、濾過し回収した銀粒子をステンレスパッドに移し、真空乾燥機中に入れ60℃で10時間真空乾燥した。続いて、乾燥した銀粒子を、5Lの高速攪拌機(日本コークス工業(株)製、FM5C)を用いて解砕処理を行った。解砕後、銀粒子を気流式分級機(日本鉱業(株)、EJ−3)を用いて、分級点を7μmとして粗大粒子を除去し、銀粉を得た。
得られた銀粉について、粉体層せん断力測定装置((株)ナノシーズ製、NS−S300)を用いて凝集力を測定した。測定には銀粉18gを使用し、内径15mmの測定容器に入れ、印加荷重の設定値を20N、40N、60Nとして測定した。このとき、荷重を印加してから測定を開始するまでの保持時間は100秒とした。その結果、凝集力は0.37Nであった。また、印加荷重を60Nとしたときの圧縮率は30.1%であった。さらに、吸収量測定装置((株)あさひ総研製)を用いてJIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は6.9ml/100gであった。
また、得られた銀粉についてSEM観察結果をもとに測定した平均粒径DSは1.12μmであった。また、銀粉をイソプロピルアルコール中に分散させ、レーザー回折散乱法を用いて測定した体積積算の平均粒径D50は2.37μmであった。これら平均粒径から得られる比D50/DSは2.12であった。また、BET法により測定した比表面積SSA1は0.42m2/gであり、SEM観察により得られた平均粒径DSから計算される比表面積SSA2は0.51m2/gであり、ここから求められる比SSA1/SSA2は0.82であった。
次に、得られた銀粉を87.7質量%、エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、819)を12.3質量%となるように秤量し、自公転ミキサー((株)シンキー製、ARE−250)を用いて、420Gの遠心力で混練してペースト化した後、さらに3本ロールミル((株)小平製作所製、卓上型3本ロールミル RIII−1CR−2型)を用いて混練した。3本ロールミルによる混練中、目視によるフレークの発生は認められず、ロール性は良好であった。
得られたペーストについて、粘弾性測定装置(Anton Paar社、MCR−301)を用いてせん断速度4sec−1における粘度及びせん断速度1250sec−1における法線応力を求めた。自公転ミキサーによる混練後の粘度η1は68.7(Pa・s)であり、3本ロールミルによる混練後の粘度η2は60.3(Pa・s)であり、比η2/η1は0.88であった。また、せん断速度1250sec−1における法線応力は2.5Nであった。
また、3本ロールミルによる混練を行ったペースト2gをイソプロピルアルコール40ml中に投入して超音波で分散した後、開口20μmの篩を用いて吸引濾過を行い、篩上の粒子を採取し、倍率500のSEM像より測定した結果、20μm以上の粒子は2個であった。また、イソプロピルアルコール中にペーストを分散させ、レーザー回折散乱法を用いて体積積算の平均粒径を測定したところ、自公転ミキサーによる混練後のペーストの平均粒径D1が2.35μmであり、3本ロールミル後の平均粒径D2が2.10μmであり、比D2/D1は0.89であった。
以上のように、実施例1では、所定の大きさに銀粒子が連結した凝集体が形成され、ペースト中にフレークがほとんど発生しなかったことが確認された。また、自公転ミキサーによる420Gの遠心力での混練後と3本ロールミルによる混練後で粘度と平均粒径の変化が少なく、その凝集体の凝集構造は維持されていたことが分かった。この結果から、実施例1では、所定の大きさの凝集体が形成され、そしてその凝集構造が維持されたことにより、せん断速度1250sec−1において2.5Nの法線応力が発現され、これにより、混錬時のロールによる圧縮力を低減させることができ、凝集体をペースト中で効果的に分散させることができたと考えられる。
[実施例2]
実施例2では、水溶性高分子であるポリビニルアルコールの量を173.8g(銀に対して10質量%)としたこと以外は、実施例1と同条件で銀粉を製造した。
得られた銀粉について、実施例1と同様に評価した結果、凝集力は0.14Nであり、圧縮率は35.0%であった。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ブチルの吸収量は7.0ml/100gであった。
また、SEM観察により測定した銀粉の平均粒径DSは1.05μmであった。また、イソプロピルアルコール中に銀粉を分散させレーザー回折散乱法を用いて測定した体積積算の平均粒径D50は2.16μmであった。これら平均粒径から得られる比D50/DSは2.06であった。また、BET法により測定した比表面積SSA1は0.46m2/gであり、SEM観察により得られた平均粒径DSから求められた比表面積SSA2は0.55m2/gであった。したがって、比SSA1/SSA2は0.84であった。
次に、実施例1と同様に、得られた銀粉を用いてペーストを作製した。実施例2においても、3本ロールミルを用いてペースト化した際に目視によるフレーク発生は認められず、ロール性は良好であった。
得られたペーストについて、粘弾性測定装置を用いてせん断速度4sec−1における粘度及び1250sec−1における法線応力を求めた。その結果、自公転ミキサーによる混練後の粘度η1は58.6(Pa・s)であり、3本ロールミルによる混練後の粘度η2は51.4(Pa・s)であり、比η2/η1は0.88であった。また、1250sec−1での法線応力は2.1Nであった。
また、3本ロールミルによる混練を行ったペースト2gをイソプロピルアルコール40ml中に投入して超音波分散を行った後、開口20μmの篩を用いて吸引濾過を行い、篩上の粒子を採取し、倍率500のSEM像より測定した結果、20μm以上の粒子は6個であった。また、イソプロピルアルコール中にペーストを分散させレーザー回折散乱法を用いて粒径を測定したところ、自公転ミキサーによる混練後のペーストの体積換算での平均粒径D1は2.14μmであり、3本ロールミル後の平均粒径D2は2.13μmであり、比D2/D1は0.99であった。
以上のように、実施例2においても、実施例1と同様に、所定の大きさに銀粒子が連結した凝集体が形成され、ペースト中にフレークがほとんど発生しなかったことが確認された。また、自公転ミキサーによる420Gの遠心力での混練後と3本ロールミルによる混練後で、粘度と平均粒径の変化が少なく、その凝集体の凝集構造は維持されていたことが分かった。この結果から、実施例2においても、所定の大きさの凝集体が形成され、そしてその凝集構造が維持されたことにより、せん断速度1250sec−1において2.1Nの法線応力が発現され。これにより、混錬時のロールによる圧縮力を低減させることができ、凝集体をペースト中で効果的に分散させることができたと考えられる。
[実施例3]
実施例3では、水溶性高分子であるポリビニルアルコールの量を43.5g(銀に対して2.5質量%)としたこと以外は、実施例1と同条件で銀粉を製造した。
得られた銀粉について、実施例1と同様に評価した結果、凝集力は−0.46Nであり、圧縮率は25.0%であった。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ブチルの吸収量は8.9ml/100gであった。
また、SEM観察により測定した銀粉の平均粒径DSは1.13μmであった。また、イソプロピルアルコール中に銀粉を分散させレーザー回折散乱法を用いて測定した体積積算の平均粒径D50は2.58μmであった。これら平均粒径から得られる比D50/DSは2.28であった。また、BET法により測定した比表面積SSA1は0.40m2/gであり、SEM観察により得られた平均粒径DSから求められた比表面積SSA2は0.51m2/gであった。したがって、比SSA1/SSA2は0.78であった。
次に、実施例1と同様に、得られた銀粉を用いてペーストを作製した。実施例3においても、3本ロールミルを用いてペースト化した際に目視によるフレーク発生は認められず、ロール性は良好であった。
得られたペーストについて、粘弾性測定装置を用いてせん断速度4sec−1における粘度及び1250sec−1における法線応力を求めた。その結果、自公転ミキサーによる混練後の粘度η1は94.6(Pa・s)であり、3本ロールミルによる混練後の粘度
η2は87.4(Pa・s)であり、比η2/η1は0.92であった。また、1250sec−1での法線応力は8.6Nであった。
また、3本ロールミルによる混練を行ったペースト2gをイソプロピルアルコール40ml中に投入して超音波分散を行った後、開口20μmの篩を用いて吸引濾過を行い、篩上の粒子を採取し、倍率500のSEM像より測定した結果、20μm以上の粒子は6個であった。また、イソプロピルアルコール中にペーストを分散させレーザー回折散乱法を用いて粒径を測定したところ、自公転ミキサーによる混練後のペーストの体積換算での平均粒径D1は2.64μmであり、3本ロールミル後の平均粒径D2は2.53μmであり、比D2/D1は0.96であった。
以上のように、実施例3においても、実施例1と同様に、所定の大きさに銀粒子が連結した凝集体が形成され、ペースト中にフレークがほとんど発生しなかったことが確認された。また、自公転ミキサーによる420Gの遠心力での混練後と3本ロールミルによる混練後で、粘度と平均粒径の変化が少なく、その凝集体の凝集構造は維持されていたことが分かった。この結果から、実施例3においても、所定の大きさの凝集体が形成され、そしてその凝集構造が維持されたことにより、せん断速度1250sec−1において8.6Nの法線応力が発現され、これにより、混錬時のロールによる圧縮力を低減させることができ、凝集体をペースト中で効果的に分散させることができたと考えられる。
[比較例1]
比較例1では、水溶性高分子であるポリビニルアルコールの量を399g(銀に対して18質量%)としたこと以外は、実施例1と同様にして銀粉を製造した。
得られた銀粉について、実施例1〜3と同様に評価した結果、凝集力は0.80Nであり、圧縮率は38.1%であった。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ブチルの吸収量は2.5ml/100gであった。
また、SEM観察により測定した銀粉の平均粒径DSは1.04μmであった。また、イソプロピルアルコール中に銀粉を分散させレーザー回折散乱法を用いて測定した体積積算の平均粒径D50は1.51μmであった。これら平均粒径から得られる比D50/DSは1.45であった。また、BET法により測定した比表面積SSA1は0.62m2/gであり、SEM観察から得られた平均粒径DSから求められる比表面積SSA2は0.55m2/gであった。したがって、比SSA1/SSA2は1.13であった。
次に、実施例1〜3と同様に、得られた銀粉を用いてペーストを作製した。すると、3本ロールミルを用いてペースト化したところ、混練初期に急激な粘度低下が見られ、さらに目視によっても多くのフレーク発生が認められた。
得られたペーストについて、粘弾性測定装置を用いてせん断速度4sec−1における粘度及び1250sec−1における法線応力を求めた。その結果、自公転ミキサーによる混練後の粘度η1は42.8(Pa・s)であり、3本ロールミルによる混練後の粘度η2は38.1(Pa・s)であり、比η2/η1は0.89であった。また、1250sec−1での法線応力は−0.1Nであり、法線応力は発現しなかった。
また、3本ロールミルによる混練を行ったペースト2gをイソプロピルアルコール40ml中に投入して超音波分散を行った後、開口20μmの篩を用いて吸引濾過を行い、篩上の粒子を採取し、倍率500のSEM像より測定した結果、20μm以上の粒子は36個であり、多数のフレークが発生したことが確認された。また、イソプロピルアルコール中にペーストを分散させレーザー回折散乱法を用いて平均粒径を測定したところ、自公転ミキサー後の体積換算での平均粒径D1は1.62μmであり、3本ロールミル後の平均粒径D2は1.56μmであり、比D2/D1は0.96であった。
以上のように、比較例1では、所定の大きさに銀粒子が連結した凝集体が十分に形成されず、また形成された凝集体もその機械的強度が弱く3本ロールミルでの混練中に凝集構造が壊れ、凝集構造が維持されなかったことが分かった。これにより、ロールに対する法線応力を十分に発現させることができず、その結果としてフレークや凝集が発生して、ロール性の低下を招いたと推定される。
[比較例2]
比較例2では、水溶性高分子であるポリビニルアルコールの量を0.87g(銀に対して0.05質量%)としたこと以外は、実施例1と同様にして銀粉を製造した。
得られた銀粉について、実施例1〜3と同様に評価した結果、凝集力は−0.82Nであり、圧縮率は18.4%であった。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ブチルの吸収量は14.8ml/100gであった。
また、SEM観察により測定した銀粉の平均粒径DSは1.02μmであった。また、イソプロピルアルコール中に銀粉を分散させレーザー回折散乱法を用いて測定した体積積算での平均粒径D50は5.92μmであった。これら平均粒径から得られる比D50/DSは5.80であった。また、BET法により測定した比表面積SSA1は0.12m2/gであり、SEM観察から得られた平均粒径DSから求めた比表面積SSA2は0.56m2/gであった。したがって、比SSA1/SSA2は0.21であった。
次に、実施例1〜3と同様に、得られた銀粉を用いてペーストを作製した。すると、自公転ミキサーによる混練では、非常に硬いペーストとなった。さらに、3本ロールミルを用いて混練したところ、混練中には目視でもフレークの発生が確認された。
得られたペーストについて、粘弾性測定装置を用いてせん断速度4sec−1における粘度及び1250sec−1における法線応力を求めた。その結果、自公転ミキサーによる混練後の粘度η1は211.3(Pa・s)であり、3本ロールミルによる混練後の粘度η2は95.1(Pa・s)であり、比η2/η1は0.45であった。また、1250sec−1での法線応力は36Nであり、非常に大きな法線応力が発現した。
また、3本ロールミルによる混練を行ったペースト2gをイソプロピルアルコール40ml中に投入して超音波分散を行った後、開口20μmの篩を用いて吸引濾過を行い、篩上の粒子を採取し、倍率500のSEM像より測定した結果、フレーク個数は134個であり、特に50μmを超える大きなフレークが発生したことが確認された。また、イソプロピルアルコール中にペーストを分散させレーザー回折散乱法を用いて粒径を測定したところ、自公転ミキサー後の体積換算での平均粒径D1は5.94μmであり、3本ロールミル後の平均粒径D2は2.49μmであり、比D2/D1は0.42であった。
以上のように、比較例2では、極めて大きく、しかも銀粒子同士が強固に連結した凝集体が形成され解れにくい銀粉となってしまったことが分かった。これにより、法線応力が過度に大きくなり、その粗大な凝集体が圧延されてフレークを生じさせたとともに、急激な粘度低下も生じ、ペースト化が著しく困難となった。
下記の表1に各実施例及び比較例における評価結果の一覧を示す。
上述した結果から分かるように、銀粉とエポキシ樹脂とを420Gの遠心力で混練して得られたペーストを粘弾性測定装置により測定したせん断速度1250sec−1での法線応力が1〜10Nである銀粉であることにより、ペースト作製の混練時において銀粉に加わる圧縮力を低減させて、フレーク等の粗大な粉体の発生を効果的に抑制することができ、良好なロール性を発揮できることが分かった。また、適度な粘度を維持でき、優れた印刷性を実現できることも分かった。