以下、本発明に係る銀粉及びその製造方法の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない限りにおいて適宜変更することができる。
<銀粉>
(一次粒子、二次粒子、凝集体)
銀粉とは、一次粒子の銀粒子の他に、二次粒子及び凝集体も含むものである。以下の説明において、一次粒子とは、図1(A)に示すように、銀粒子を、外見上の幾何学的形態から判断して、単位粒子と考えられるものをいい、図1(B)に示すように、一次粒子がネッキングにより2乃至3以上連結した粒子を二次粒子という。図1(C)に示すように、これらの一次粒子及び二次粒子の集合体を凝集体という。なお、以下の説明において、一次粒子、二次粒子、及び凝集体をまとめて銀粒子という場合がある。
本発明者は、銀粉ペーストが適度な粘性を持ち、良好な混練性を有するためには、銀粉が一定の凝集強度を有する凝集体であることが重要であるとの知見を得た。すなわち、ペースト中における銀粉の存在状態として、一次粒子とその一次粒子が複数連結した二次粒子、及びそれらが凝集した適度な強度を有する集合体(以下、凝集体という)とから構成された銀粉は、銀粉とペースト中の有機溶媒とが分離し難い状態となり、ペースト中で過剰に凝集した粗大な凝集塊の生成が抑制され、ペーストの粘度調整が容易となるとともに混練性が向上する。
従来では、銀ペーストの製造において、個々の一次粒子ができるだけ分散し、かつ平均粒径が0.1〜1.5μmである銀粉が用いられていた。しかしながら、このような一次粒子が分散した微細な銀粒子の場合には、ペースト製造時に凝集して粗大な塊を形成しやすい。このような凝集塊では、一次粒子は他の粒子との接点が多くなり空隙が減少するため、一次粒子間にペーストの溶媒成分が侵入し難く、ペースト中を自由に流動する見掛けの溶媒量が多くなる。このためペーストの粘度が低くなり、例えばペーストの製造で一般的に用いられる3本ロールミルによって混練を行った場合、剪断力が小さく混練が不十分となる。その結果、凝集した塊は壊れることなくロールにそのまま入り込み、その結果、フレーク等のmmオーダーの粗大粒が形成されてしまうことが分かった。
一方、一次粒子又は二次粒子が弱い凝集強度で凝集した凝集体(アグロメレートのような凝集体)で大部分が構成される銀粉の場合には、ペースト製造時に凝集体が破壊され、上述のような一次粒子が分散した状態になり、フレーク等のmmオーダーの粗大粒が形成されてしまうことも分かった。
これらに対して、上述した凝集体と一次粒子及び二次粒子が混在する銀粉の場合には、ペースト製造時において、ペースト中を自由に流動する溶媒成分が適量となり、適切な粘度範囲を有するようになる。また、ペースト製造後にも凝集体が残留し、銀粉と溶媒等の他の構成成分との混練や、3本ロールミルによる混練が容易となり、また粗大なフレークが発生しない。
凝集体は、例えばぶどうの房状の形状をしており、およそ2〜10μm程度の大きさになっている。このような凝集体を含む粒子が混在する銀粉は、ペースト製造初期、すなわち、銀粉と溶媒成分を馴染ませる段階、例えば撹拌式混練機等による予備混練と3本ロールミル等による本混練を行う一般的なペースト製造方法における予備混練の段階において、微細な一次粒子が凝集することなく、また銀粉を構成する各粒子間に溶媒成分が回りこみ適度な粘度を有するペースト(以下では、最終的に得られるペーストと区別するため混練物という)となる。このような混練物を本混練により混練すると、銀粒子間に十分な剪断力を掛けることができ、銀粒子を凝集させることなくペースト中に分散させることが可能となる。また、十分に分散した銀粒子は再凝集することがほとんどないため、粗大な凝集塊を起因とするフレークの発生を抑制することが可能となる。
従来の一次粒子が分散した銀粉、あるいは大部分が凝集体からなる銀粉においても、混練物を適度な粘度に調整して最終的にペーストとするための混練を行うことは可能であるが、その混練物で粘度を調整するとその後の粘度変化が大きいため、最終的なペーストでの粘度を適正値に調整することが困難となる。
最終的な銀ペーストの粘度は、高すぎても低すぎても良好なペーストの印刷性が得られないが、ペースト製造後にも凝集体と一次粒子及び二次粒子が混在する銀粉、すなわち、上述したような凝集度を有する銀粉であることによって、適度な粘度に調整することができる。そして、このような銀粉を用いることによって、優れた印刷性を有するペーストを得ることができる。
さらに、ペースト混練時においては、銀粉の吸油量とその吸油プロファイルを制御することにより、ペースト混練時の粘度変化を抑制することができ、粗大粒子であるフレークの発生を抑制するとともに粘度範囲を適切に維持できる。
(JIS−K6217−4法による測定)
ここで、凝集体の大きさ及び量を測定する手法としては、オイル吸収量という指標がある。具体的には、日本工業規格JIS K6217−4(2008)に準じて行う。
JIS K6217−4では、フタル酸ジブチルエステルを滴下し、最大トルクの70%のトルク値を示した滴下量をオイル吸収量としている。オイル吸収量は、凝集体の大きさ及び量に比例することが確認された。
ここでのトルクは、銀粉を攪拌する冶具にかかるトルクを指す。フタル酸ジブチルエステルを滴下し始めると凝集体内部に取り込まれていき、次第に内部に詰まって取り込まれなくなると、凝集体表面に膜となっていく。凝集体のない粒子では取り込みがなく表面に膜を形成する。粒子間の接触はこの液膜を通じて行われ、そこにはラプラス圧力が発生し、粒子間の吸着作用を生じさせ、冶具のトルクとなって現れる。粒子表面が液膜で覆われ、さらに過剰のフタル酸ジブチルエステルが供給されると膜の間に液体が入り込み、ラプラス圧力の急激な低下が起こり、冶具にかかるトルクが減少する。つまり、フタル酸ジブチルエステルを滴下していくと最大トルクを示す滴下量が存在する。この最大トルクは、凝集体及び分散粒子の間の相互作用の総和を示し、このトルク値が大きいほど粒子間の相互作用が高い銀粉と言える。この相互作用が、せん断力がかからない時のペーストの高い粘度の原因であり、印刷時のようにこのトルクを超えたせん断応力がかかると、相互作用によって形成していた粒子構造が崩れ、低粘度の流体に変化する。
実際には粒子径が小さく、比表面積が大きいほど、粒子と溶媒との親和性が高いほど見かけのトルクが高くなる。このことから粉体表面の特性に注目した場合には、単位比表面積当りの最大トルク値が粉体表面の特徴をより反映することができる。つまり、最大トルク値を比表面積値で除すると、その値を使って様々な粒子径の粉体の特性を把握することができる。
本発明の実施に係る銀粉は、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量が7.0〜9.5ml/100gである。吸収量は、7.5〜8.5mLであることが好ましい。このような銀粉は、混練性を改善することができる。
吸収量が7.0ml/100g未満では、3本ロールミル等でペースト化した際に、ペーストの粘性が保てず、フレークが発生してしまう。一方、吸収量が9.5ml/100gを超えると、予備混錬時の粘度が高く作業性が悪く、ペースト化後の粘度も高すぎるものとなる。3本ロールミルによるペースト化では、本ロールミルによる本混練を行う前に、ニーダー等による予備混練を行うため、予備混練における作業性が重要となる。
また、銀粉は、吸収量測定時の吸油プロファイルに2個のピーク、又は半値幅(半値全幅)が1.5ml/100g以下の1個のピークを有する。吸油プロファイルは、凝集度、粒径分布、比表面積等の粒子表面性状によって支配されるもので、吸油プロファイルの形状を制御することによって、ペースト作成時の粘度変化の抑制が可能となる。例えば、凝集度が低く銀粒子が分散した銀粉や比表面積の大きい銀粉では、吸油プロファイルのピークが低吸収量側にシフトしたり、ブロードなピークになる。すなわち、適度な大きさの凝集体を有する銀粉では、半値幅が狭い急峻な1個のピークを有する。一方、凝集体が小さい銀粉は、半値幅が広い緩やかな1個のピークを有し、凝集度が増すにしたがって2個のピークを有する。さらに、凝集度が増すと吸収量も増加する。
吸油プロファイルにおけるピークの半値幅が1.5ml/100gを超えると、低吸収量からピークが徐々に立ち上がる形状となり、トルク値が立ち上がるところが早く、吸収量が少ない状態でトルクが急激に低下する。すなわち、低吸収量でもペースト粘度が低下するため、ペースト化したとき、粘度が保てず、フレークが発生する。
一方、半値幅が1.5ml/100g以下の1個のピークを有する本実施の形態に係る銀粉では、トルクが低下する吸収量が多くなる。したがって、ペースト混練中にも粘度が低下することなく、適切な範囲に維持されるため、フレークの発生が抑制され良好な混練性となる。混練性を改善するためには、トルクが下がる吸収量は多い方が好ましいことから、半値幅が1.5ml/100g以下の1個のピークを有する吸油プロファイルを有するものとする。
吸油プロファイルにおいてトルク値は、通常、吸収量の増加とともに細かく変動する。したがって、ピークは、吸収量を0.5ml/100gの幅においてトルクが上昇し下降することで判断される。0.5ml/100g幅内での細かいトルクの変動は、ピークとは判断されない。このため、前記半値幅は、通常、0.5ml/100g未満となることはない。
また、吸油プロファイルに2個のピークを有する場合には、最高トルクとなるピークをP1、次に高トルクであるピークをP2としたとき、ピークのトルク値がP2≦0.75P1であり、ピーク時の吸収量がP2<P1となることが好ましい。これにより、トルクが低下する吸収量を多くすることができる。ピークのトルク値がP2>0.75P1となるか、及び/又はP2≧P1となる場合、吸収量が少ない状態でトルクが急激に低下することがあり、このような銀粉では、ペースト化時にフレークが発生する虞がある。
(BET比表面積)
本実施の形態に係る銀粉は、BET法により測定した比表面積が0.3〜1.5m2/gである。凝集体の強度は、各銀粒子間の連結の強さに関係する。BET法による測定において、粒子間の連結が弱い場合、例えば球状の一次粒子が接点でのみ連結しているような場合には、表面積は粒子が連結している接点部のみが減少するため、その結果測定される比表面積の減少は、完全に一次粒子が分散している状態の比表面積より僅かなものとなる。これに対して、粒子間の連結が強い場合、一次粒子の太い連結部の比表面積が減少するため、BET法により測定される比表面積は一次粒子が分散している状態の比表面積より大きく減少する。したがって、比表面積を指標とすることにより、凝集状態も含めて銀粉の一次粒子の状態を評価することが可能である。比表面積が0.3m2/g未満になると、吸収量が低下して混練性が低下する。一方、比表面積径が1.5m2/gを超えると、ペースト化後の粘度が高くなりすぎるため、ペースト粘度を調整するために溶媒を多く添加する必要があり、形成された導電膜が不均一となる。
(面積比・SABET/SASEM)
また、BET法により測定した比表面積SABETを走査式電子顕微鏡で計測した一次粒子径DSEMから算出した比表面積SASEMで除した面積比(SABET/SASEM)が0.6〜0.8であることが好ましく、0.65〜0.75であることがより好ましい。
すなわち、前記面積比は、粒子の連結状態を加味した比表面積(SABET)と完全に一次粒子が分散している状態の比表面積(SASEM)であり、凝集状態を示す指標となる。面積比が0.6未満の場合、予備混錬時に作業性が悪く、ペースト化後の粘度も高すぎるものとなり、0.8を超えると、3本ロールミル等でペースト化したとき、粘性が保てず、フレークが発生する。
(凝集度・D50/DSEM)
さらに、銀粉においては、混練性をより改善するため、走査式電子顕微鏡で計測した前記一次粒子の平均粒径DSEMが0.3〜1.5μmであることが好ましく、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定される体積積算50%径D50を前記一次粒子の平均粒径DSEMで除することにより求められる凝集度(D50/DSEM)が1.5〜4.0であることが好ましく、2.5〜3.5であることがより好ましい。前記一次粒子の平均粒径DSEMが0.3μmになると、ペースト化後の粘度が高くなりすぎることがあり、1.5μmを超えると、十分な吸収量が得られないことがある。一方、凝集度が1.5より小さい場合には、3本ロールミル等でペースト化したとき、粘性が保てず、フレークが発生し、4.0を超える場合は、予備混錬時に作業性が悪く、ペースト化後の粘度も高すぎるものとなることがある。また、吸収量は銀粒子の表面状態にも影響されるが、凝集度の影響も受け、凝集度が小さいと吸収量が少なく、凝集度が大きいと吸収量が多くなる傾向がある。したがって、フタル酸ジブチルの吸収量を上述した範囲とするために、凝集度を上記範囲とすることが好ましい。
銀粉の凝集度を求めるためには、走査式電子顕微鏡で計測した前記一次粒子の平均粒径DSEMおよび体積基準の粒度分布から求めたD50が必要となる。ここで、前記一次粒子の平均粒径DSEMは、走査電子顕微鏡を用いて銀粒子の外観を観察し、粒子全体の確認が可能な任意の100個以上の一次粒子の粒径を測長し、個数平均することにより求めることができる。また、体積基準の粒度分布は、例えばレーザー回折散乱法を用いて測定することにより得ることができる。レーザー回折散乱法を用いて測定した各集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子径がD50である。
(粘度)
本実施の形態に係る銀粉は、特定の銀ペーストに限定されるものではなく、一般的に用いられる銀ペーストに全て適用されるものである。具体的に、本実施の形態に係る銀粉を用いて導電性銀ペーストを製造した場合、例えばコーンプレート型粘度計等で測定した、せん断速度が4.0(1/sec)におけるペーストの粘度を50〜150Pa・sとすることができる。また、せん断速度が20.0(1/sec)における粘度では20〜50Pa・sとすることができる。
銀ペーストの粘度がそれぞれ上述した50〜150Pa・s、20〜50Pa・sの範囲より低くなる銀粉では、銀ペーストの印刷により形成された配線等に滲みや垂れなどが生じ、その形状を維持できなくなる場合がある。一方で、銀ペーストの粘度がそれぞれ上述した50〜150Pa・s、20〜50Pa・sの範囲より高くなる銀粉では、銀ペーストの印刷が困難となることがある。
また、上述のように優れたペースト特性を有する本実施の形態に係る銀粉では、一般的に用いられる銀ペースト中においても過度な凝集による粗大な凝集塊の形成を効果的に抑制することができる。
すなわち、銀ペースト中において過度な凝集が生じ粗大な凝集塊を形成する銀粉では、凝集塊が押し潰されたフレークを生成してしまう。また、凝集体が過剰な銀粉では、ペースト製造時の粘度が大きくなり過ぎて混練等が困難になり、ペースト製造に不具合を生じる。また、その製造された銀ペーストは、印刷性等のペースト特性も不良となる。一方、本実施の形態に係る銀粉は、上述した適度な粘度を有するペーストを製造することができることから、過度な凝集が発生することを抑制して粗大な凝集塊が形成されることによる不具合の発生を効果的に抑制できる。
なお、上述した特徴を有する本実施の形態に係る銀粉を用いて銀ペーストを作製するにあたっては、ペースト化方法については特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、使用するビヒクルとしては、アルコール系、エーテル系、エステル系等の溶剤に、各種セルロース、フェノール樹脂、アクリル樹脂等を溶解したものを用いることができる。
<銀粉の製造方法>
次に、上述した特徴を有する銀粉の製造方法について説明する。
銀粉の製造方法は、例えば、基本的に塩化銀等の出発原料を錯化剤により溶解して得た銀錯体を含む溶液と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して銀粒子を析出させることにより銀粒子スラリーを得て、洗浄、乾燥、解砕の各工程を経ることによって銀粉を得る。
そして、銀粉の製造方法においては、前記銀錯体を含む溶液及び前記還元剤溶液の両方、又はいずれか一方に、銀に対して0.1〜10質量%、好ましくは還元剤溶液に、銀に対して1.0〜3.8質量%、より好ましくは還元剤溶液に、1.0〜3.5質量%の水溶性高分子を添加する。
さらに、銀粉の製造方法においては、還元剤溶液にて銀錯体を還元して銀粒子スラリーを得た後、洗浄、乾燥、解砕の各工程を行うに際して、乾燥後に真空減圧雰囲気転動撹拌機等を用いて、弱い撹拌をしながら解砕した後、混合によりフタル酸ジブチルの吸収量を調整する。
このように、銀粉の製造方法では、銀に対して好ましくは1.0〜3.8質量%、より好ましくは1.0〜3.5質量%の水溶性高分子を還元剤溶液に添加して銀錯体を還元するとともに、得られた銀粒子スラリーの乾燥後、弱い撹拌をしながら解砕し、混合して調整することによって、銀粒子の凝集状態および比表面積を制御することができ、上述したようにフタル酸ジブチルの吸収量を7.0〜9.5ml/100gにでき、吸収量測定時の吸油プロファイルに2個のピーク、又は半値幅(半値全幅)が1.5ml/100g以下の1個のピークを有する銀粉を得ることができる。
以下に、この銀粉の製造方法について、好ましい態様として塩化銀を出発原料とした場合を例に挙げて、工程毎にさらに具体的に説明する。なお、塩化銀以外を出発原料とした場合も同様の方法で銀粉を得ることができるが、硝酸銀を用いた場合には、上記亜硝酸ガスの回収装置や廃水中の硝酸系窒素の処理装置が必要となる。
(還元工程)
銀粉の製造方法は、先ず、塩化銀を錯化剤により溶解して得た銀錯体を含む銀錯体溶液と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して銀粒子を析出させる湿式還元法により銀粒子スラリーを生成する還元工程を行う。
還元工程では、先ず錯化剤を用いて塩化銀の出発原料を溶解し、銀錯体を含む溶液を調製する。錯化剤としては、特に限定されるものではないが、塩化銀と錯体を形成しやすくかつ不純物として残留する成分が含まれないアンモニア水を用いることが好ましい。また、塩化銀は、高純度のものを用いることが好ましい。
塩化銀の溶解方法としては、例えば錯化剤としてアンモニア水を用いる場合、塩化銀等のスラリーを作製してアンモニア水を添加してもよいが、錯体濃度を高めて生産性を上げるためにはアンモニア水中に塩化銀を添加して溶解することが好ましい。溶解に用いるアンモニア水は、工業的に用いられる通常のものでよいが、不純物混入を防止するため可能な限り高純度のものが好ましい。
次に、銀錯体溶液と混合する還元剤溶液を調製する。還元剤としては、アスコルビン酸を用いることが好ましい。アスコルビン酸を用いることで銀粒子中の結晶粒が成長し銀粉の比表面積を適度な範囲に制御することができる。ヒドラジンあるいはホルマリンも用いることができるが、アスコルビン酸より還元力が強いため、銀粒子中の結晶が小さくなってしまう。また、反応の均一性あるいは反応速度を制御するために、還元剤を純水等で溶解又は希釈して濃度調整した水溶液を用いることもできる。また、この還元剤中に数〜100nm程度の銀ナノ粒子を分散させ、このナノ粒子を種材として、還元工程で種成長法を用いても良い。
本実施の形態に係る銀粉の製造方法においては、還元剤溶液に、銀に対して好ましくは1.0〜3.8質量%、より好ましくは1.0〜3.5質量%の水溶性高分子を添加する。
このように、本実施の形態に係る銀粉の製造においては、凝集防止剤として水溶性高分子を選択することとその添加量を調整することが好ましい。
還元剤溶液により還元され生成した銀粒子(一次粒子)は表面が活性であり、容易に他の銀粒子と連結して二次粒子を形成する。さらに二次粒子は凝集して凝集体を形成する。このとき、凝集防止効果が高い凝集防止剤、例えば界面活性剤や脂肪酸を用いると、二次粒子や凝集体の形成が十分に行われず、一次粒子が多くなり、適度な凝集体が形成されなくなってしまう。一方、凝集防止効果が低い凝集防止剤を用いた場合には、二次粒子や凝集体の形成が過剰になるため、過剰に凝集した粗大な凝集塊を含んだ銀粉となってしまう。これらの凝集剤に対して水溶性高分子は、適度な凝集防止効果を有するため、添加量を調整することで、二次粒子や凝集体の形成を容易に制御することが可能となり、還元剤溶液添加後の銀錯体を含有する溶液中に適度な大きさの凝集体を形成させることができる。
添加する水溶性高分子としては、特に限定されないが、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン等の少なくとも1種であることが好ましく、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンの少なくとも1種であることがより好ましい。これらの水溶性高分子によれば、特に過剰な凝集を防止するとともに、成長した核の凝集が不十分で銀粒子(一次粒子)が微細になることを防止して、所定の大きさの凝集体を有する銀粉を容易に形成することができる。
ここで、水溶性高分子を添加することにより所定の大きさに銀粒子が連結して凝集体が形成されるメカニズムは以下のように考えられる。すなわち、水溶性高分子を添加することにより、その水溶性高分子が銀粒子表面に吸着する。このとき、銀粒子表面のほぼ全てが水溶性高分子で覆われると銀粒子がそれぞれ単体で存在するようになるが、銀に対して所定の割合で水溶性高分子を添加することで、一部水溶性高分子が存在しない表面が残るようになり、その表面を介して銀粒子同士が連結し、凝集体を形成するものと考えられる。
このことから、水溶性高分子の添加量は、銀に対して1.0〜3.8質量%の割合とすることが好ましい。水溶性高分子の添加量が銀に対して1.0質量%未満の場合には、銀粒子スラリー中での分散性が悪くなり、銀粉が過度に凝集してしまい、多くの粗大な凝集体を発生させてしまうことがあり、後工程の混合によっても吸収量を調整できないことがある。一方で、銀に対する添加量が3.8質量%より多い場合には、ほぼ全ての銀粒子表面が水溶性高分子で覆われてしまい、銀粒子同士が連結することができず、凝集体を形成させることができないことがある。その結果、一次粒子からなる銀粉となり、この場合においてもペースト製造時にフレークを発生させてしまうことがある。
したがって、このように銀に対して好ましくは1.0〜3.8質量%の水溶性高分子を添加することによって、水溶性高分子が存在しない表面を介して銀粒子同士が適度に連結し、構造的に安定した凝集体を形成することができ、ペースト製造時での分散性を良好にさせるとともに、フレークの発生を効果的に抑制することができる。そしてまた、銀に対して1.0〜3.5質量%の割合で水溶性高分子を添加することがより好ましい。添加量を1.0〜3.5質量%以下とすることにより、より適度に銀粒子表面に水溶性高分子を吸着させることができ、銀粒子を所定の大きさまで連結させて安定性の高い凝集体を形成させることができ、より効果的にフレークの形成を抑制できる。
さらに、この水溶性高分子は還元剤溶液に添加することが好ましい。水溶性高分子を還元剤溶液に添加しておくことによって、核発生あるいは核成長の場に水溶性高分子が存在し、生成した核あるいは銀粒子の表面に迅速に水溶性高分子を吸着させて、銀粒子の凝集を効率よく制御できる。したがって、上述した水溶性高分子の濃度の調整と併せて、その水溶性高分子を還元剤溶液に予め添加しておくことによって、銀粒子の過剰な凝集による粗大な凝集体の形成を抑制し、より適度に銀粒子同士を所定の大きさまで連結させて安定性の高い凝集体を形成させることができる。
なお、水溶性高分子は、銀錯体を含有する溶液に添加量の一部もしくは全量を添加しておくこともできる。この場合、核発生あるいは核成長の場に水溶性高分子が供給され難く、銀粒子の表面に適度に水溶性高分子を吸着させることができないおそれがある。そのため、予め銀錯体を含む溶液に添加する場合には、水溶性高分子の添加量を銀に対して3.0質量%を超える量とすることが好ましい。したがって、水溶性高分子を銀錯体を含有する溶液に添加する場合は、銀に対して3.0質量%を超え、10.0質量%以下の量とすることが好ましい。
また、水溶性高分子を添加すると、還元反応時に発泡することがあるため、銀錯体を含有する溶液又は還元剤混合液に消泡剤を添加することが好ましい。消泡剤は、特に限定されるものではなく、通常還元時に用いられているものでよい。ただし、還元反応を阻害させないために、消泡剤の添加量は消泡効果が得られる最小限程度にしておくことが好ましい。
なお、銀錯体を含有する溶液及び還元剤溶液を調製する際に用いる水については、不純物の混入を防止するため、不純物が除去された水を用いることが好ましく、純水を用いることが特に好ましい。
次に、上述のようにして調製した銀錯体を含有する溶液と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して銀粒子を析出させる。この還元反応は、バッチ法でもよく、チューブリアクター法やオーバーフロー法のような連続還元法を用いて行ってもよい。均一な粒径を有する一次粒子を得るためには、粒成長時間の制御が容易なチューブリアクター法を用いることが好ましい。また、銀粒子の粒径は、銀錯体を含有する溶液と還元剤溶液の混合速度や銀錯体の還元速度で制御することが可能であり、目的とする粒径に容易に制御することができる。
(表面処理)
本実施の形態に係る銀粉の製造においては、銀錯体を含有する溶液中で還元され形成された凝集体がさらに凝集して粗大な凝集塊を形成する前に、その形成された凝集体の表面を凝集防止効果が高い処理剤で表面処理して過剰な凝集を防止することがより好ましい。すなわち、表面処理は、銀錯体還元時から銀粒子を乾燥するまでの間に銀粒子を界面活性剤で処理する。または、界面活性剤のみだけではなく、界面活性剤と同時、若しくはその後に分散剤で処理する。好ましくは、銀錯体還元時に界面活性剤を添加して生成した銀粒子を処理し、還元後、乾燥前に分散剤で処理する。また、還元後に界面活性剤と分散剤で銀粒子を処理してもよい。これにより、過剰な凝集が生じることを防止でき、所望とする凝集体の構造的な安定性を維持させ、粗大な凝集塊が形成されることを効果的に抑制できる。還元時に表面処理する場合には、水溶性高分子の添加と同様に還元剤溶液に添加することが好ましい。
過剰な凝集は、乾燥によって特に進行することから、表面処理は、銀粒子が乾燥する前であればいずれの段階で行っても効果が得られる。例えば、還元工程後であり上述した洗浄工程前、洗浄工程と同時、あるいは洗浄工程後等に行うことができる。
その中でも、特に、表面処理は、還元工程後であり洗浄工程前、または1回の洗浄工程後に行うことが好ましい。これにより、還元処理を経て形成された、所定の大きさに凝集した凝集体を維持することができる。また、凝集体を含めた銀粒子に表面処理が施されているため、分散性のよい銀粉を製造することができる。
より具体的に説明すると、本実施の形態においては、還元剤溶液に銀に対して所定の割合で水溶性高分子を添加して還元するようにし、銀粒子表面に適度に水溶性高分子を吸着させて所定の大きさに銀粒子が連結した凝集体を形成させている。しかしながら、銀粒子表面に吸着させた水溶性高分子は、比較的容易に洗浄処理によって洗浄されてしまうため、表面処理に先立って洗浄工程を行った場合には、銀粒子表面の水溶性高分子が洗浄除去され、銀粒子同士が互いに過度な凝集をはじめ、形成された凝集体よりも粗大な凝集塊が形成されるおそれがある。また、このように粗大な凝集塊が形成されると、銀粒子表面への一様な表面処理が困難となることがある。
したがって、このことから、還元工程後に表面処理する場合は、洗浄工程前、または1回の洗浄工程後に行うことにより、少なくとも銀粒子の凝集を抑制できる量の水溶性高分子が銀粒子表面に残存した状態で、水溶性高分子が除去されることによる銀粒子の過度な凝集を抑制するとともに、形成された所望の凝集体を含めた銀粒子に対して効率的に表面処理を施すことができ、粗大な凝集体がなく、さらに分散性のよい銀粉を製造することができる。
なお、還元処理後であり洗浄工程前の表面処理は、還元工程終了後に銀粒子を含有するスラリーをフィルタープレス等で固液分離した後に行うことが好ましい。このように固液分離後に表面処理を行うことで、生成された所定の大きさの凝集体を含めた銀粒子に対して直接表面処理剤である界面活性剤や分散剤を作用させることができ、形成された凝集体に的確に表面処理剤が吸着し、過剰に凝集した凝集塊が形成されることをより効果的に抑制できる。
この表面処理工程では、界面活性剤と分散剤の両方で表面処理することがより好ましい。このように界面活性剤と分散剤の両方で表面処理すると、その相互作用により銀粒子表面に強固な表面処理層を形成することができるため、過剰な凝集の防止効果が高く、所望とする凝集体を維持することに有効である。
界面活性剤と分散剤を用いる好ましい表面処理の具体的方法としては、銀粒子を界面活性剤及び分散剤を添加した水中に投入して撹拌するか、界面活性剤を添加した水中に投入して撹拌した後、さらに分散剤を添加して撹拌すればよい。
また、洗浄工程と同時に表面処理を行う場合には、洗浄液に界面活性剤及び分散剤を同時に添加するか、又は界面活性剤の添加後に分散剤を添加すればよい。銀粒子への界面活性剤及び分散剤の吸着性をより良好にするためには、界面活性剤を添加した水又は洗浄液に銀粒子を投入して撹拌した後、分散剤をさらに添加し撹拌することが好ましい。
また、他の方法としては、界面活性剤を還元剤溶液に投入し、銀錯体を含有する溶液と還元剤溶液とを混合して得られた銀粒子のスラリーに分散剤を投入して撹拌してもよい。核発生あるいは核成長の場に界面活性剤が存在し、生成した核あるいは銀粒子の表面に迅速に界面活性剤を吸着させ、さらに分散剤を吸着させることで、より安定で均一な表面処理を施すことができる。
ここで、界面活性剤としては、特に限定されないが、カチオン系界面活性剤を用いることが好ましい。カチオン系界面活性剤は、pHの影響を受けることなく正イオンに電離するため、例えば塩化銀を出発原料とした銀粉への吸着性の改善効果が得られる。
カチオン系界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、モノアルキルアミン塩に代表されるアルキルモノアミン塩型、N−アルキル(C14〜C18)プロピレンジアミンジオレイン酸塩に代表されるアルキルジアミン塩型、アルキルトリメチルアンモニウムクロライドに代表されるアルキルトリメチルアンモニウム塩型、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドに代表されるアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩型、アルキルジポリオキシエチレンメチルアンモニウムクロライドに代表される4級アンモニウム塩型、アルキルピリジニウム塩型、ジメチルステアリルアミンに代表される3級アミン型、ポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレンアルキルアミンに代表されるポリオキシエチレンアルキルアミン型、N、N’、N’−トリス(2−ヒドロキシエチル)−N−アルキル(C14〜18)1,3−ジアミノプロパンに代表されるジアミンのオキシエチレン付加型から選択される少なくとも1種が好ましく、4級アンモニウム塩型、3級アミン塩型のいずれか又はその混合物がより好ましい。
また、界面活性剤は、メチル基、ブチル基、セチル基、ステアリル基、牛脂、硬化牛脂、植物系ステアリルに代表されるC4〜C36の炭素数を持つアルキル基を少なくとも1個有することが好ましい。アルキル基としては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン、ポリアクリル酸、ポリカルボン酸から選択される少なくとも1種を付加されたものであることが好ましい。これらのアルキル基は、後述する分散剤として用いる脂肪酸との吸着が強いため、界面活性剤を介して銀粒子に分散剤を吸着させる場合に脂肪酸を強く吸着させることができる。
また、界面活性剤の添加量は、銀粒子に対して0.05〜1.000質量%の範囲が好ましい。界面活性剤はほぼ全量が銀粒子に吸着されるため、界面活性剤の添加量と吸着量はほぼ等しいものとなる。界面活性剤の添加量が0.05質量%未満になると、銀粒子の凝集抑制あるいは分散剤の吸着性改善の効果が得られないことがある。一方、添加量が1.000質量%を超えると、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極の導電性が低下することがあるため好ましくない。
分散剤としては、例えば脂肪酸、有機金属、ゼラチン等の保護コロイドを用いることができるが、不純物混入のおそれがなくかつ界面活性剤との吸着性を考慮すると、脂肪酸又はその塩を用いることが好ましい。なお、脂肪酸又はその塩は、エマルジョンとして添加してもよい。
分散剤として用いる脂肪酸としては、特に限定されるものではないが、ステアリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、リノレン酸から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの脂肪酸は、沸点が比較的低いため、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極への悪影響が少ないからである。
分散剤の添加量は、銀粒子に対して1.00〜2.00質量%の範囲が好ましい。分散剤の種類により銀粒子への吸着量は異なるが、添加量が1.00質量%未満になると、銀粒子の凝集抑制あるいは分散剤の吸着性改善の効果が十分に得られる量の分散剤が銀粉に吸着されないことがある。一方、分散剤の添加量が2.00質量%を超えると、銀粒子に吸着される分散剤が多くなり、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極の導電性が十分に得られないことがある。
(洗浄)
次に、銀粒子を洗浄する。銀粒子の表面には、多量の塩素イオンや水溶性高分子が吸着している。したがって、銀ペーストを用いて形成される配線層や電極の導電性を十分なものとするために、得られた銀粒子のスラリーを洗浄し、銀粒子の表面に吸着した過剰な塩素イオン及び水溶性高分子を洗浄により除去することが好ましい。なお、銀粒子表面に吸着した水溶性高分子を除去することにより過剰な凝集が生じることを抑制するために、上述したように洗浄工程は銀粒子への表面処理工程後等に行うことが好ましい。
洗浄方法としては、特に限定されるものではないが、スラリーからフィルタープレス等で固液分離した銀粒子を洗浄液に投入し、撹拌機又は超音波洗浄器を使用して撹拌した後、再び固液分離して銀粒子を回収する方法が一般的に用いられる。また、表面吸着物を十分に除去するためには、洗浄液への投入、撹拌洗浄、及び固液分離からなる操作を、数回繰り返して行うことが好ましい。
洗浄液は、水を用いてもよいが、塩素を効率よく除去するためにアルカリ水溶液を用いてもよい。アルカリ溶液としては、特に限定されるものではないが、残留する不純物が少なくかつ安価な水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。洗浄液として水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合、水酸化ナトリウム水溶液での洗浄後、ナトリウムを除去するために銀粒子又はそのスラリーをさらに水で洗浄することが望ましい。
また、水酸化ナトリウム水溶液の濃度は0.01〜0.30mol/lとすることが好ましい。濃度が0.01mol/l未満では洗浄効果が不十分であり、一方で濃度が0.30mol/lを超えると、銀粒子にナトリウムが許容以上に残留することがある。なお、洗浄液に用いる水は、銀粒子に対して有害な不純物元素を含有していない水が好ましく、特に純水が好ましい。
(銀粒子の回収)
洗浄及び表面処理を行った後、固液分離して銀粒子を回収する。なお、洗浄及び表面処理に用いられる装置は、通常用いられるものでよく、例えば撹拌機付の反応槽等を用いることができる。また、固液分離に用いられる装置も、通常用いられるものでよく、例えば遠心機、吸引濾過機、フィルタープレス等を用いることができる。
(銀粒子の乾燥)
回収した銀粒子は、乾燥工程において水分を蒸発させて乾燥させる。乾燥方法としては、例えば、洗浄及び表面処理の終了後に回収した銀粉をステンレスパッド上に置き、大気オーブン又は真空乾燥機等の市販の乾燥装置を用いて、40〜80℃の温度で加熱すればよい。
(解砕処理)
そして、還元工程により銀粒子の凝集を制御し、好ましくは表面処理により凝集の度合いを安定化させた乾燥後の銀粉に対して、弱い解砕条件に制御して解砕処理を行うことが好ましい。上述した表面処理後の銀粉は、その後の乾燥等により凝集体間でさらに凝集していても、その結合力は弱いため、ペースト作製時に所定の大きさの凝集体まで容易に分離する。しかしながら、ペーストを安定化させるためには、解砕し分級処理することが好ましい。
解砕方法は、具体的にその解砕条件として、乾燥後の銀粒子を、真空減圧雰囲気転動撹拌機等の解砕力の弱い装置を用いて、例えば撹拌羽根の周速5〜40m/sで撹拌しながら解砕することが好ましい。このように、乾燥後の銀粉を弱解砕することによって、銀粒子が連結して形成された所定の大きさの凝集体が解砕されてしまうことを防止することができる。周速が5m/s未満の場合では、解砕エネルギーが弱いため凝集体が多く残ることがあり、一方で周速が40m/sより大きい場合では、解砕エネルギーが強くなり凝集体が少なくなりすぎることがある。いずれの場合であっても、解砕後における粒度分布が上述した粒度分布と大きく解離するため、解砕後の調整が容易ではなくなるため、好ましくない。
解砕時間は、固液分離の程度や乾燥条件によって変動するが、解砕後の凝集状態を確認しながら適宜決定すればよい。
乾燥と解砕を同時に行ってもよい。例えば、銀粒子の湿潤ケーキを真空減圧雰囲気下のヘンシェルミキサー内で加熱し、撹拌しながら乾燥し、解砕することもできる。
上述した解砕処理後、分級処理を行うことによって解砕後の調整をさらに容易なものとすることができる。分級処理に際して使用する分級装置としては、特に限定されるものではなく、気流式分級機、篩い等を用いることができる。
(銀粒子の混合)
本実施の形態に係る銀粉の製造方法は、解砕後に、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量もしくは吸収量測定時の吸油プロファイルが異なる複数の銀粉を混合して、BET法により測定した比表面積が0.3〜1.5m2であり、フタル酸ジブチルの吸収量が7.5〜9.5ml/100gであり、かつ吸収量測定時の吸油プロファイルに2個のピーク又は半値幅が1.5ml/100g以下の1個のピークを有する銀粉となるように調整する。
解砕により、凝集体を好ましい範囲に制御することができるが、吸収量や吸油プロファイルは、銀粒子の表面状態や一次粒子径に影響され、変動する。したがって、解砕後の銀粉を混合することによって、比表面積および吸収量と吸油プロファイルを上記範囲に制御することができる。銀粉の混練性をより高いものとするためには、フタル酸ジブチルの吸収量が7.5〜8.5ml/100gとなるように調整することが好ましい。
上記混合は、混合前の比表面積および吸収量と吸油プロファイルを予め測定しておき、それらの数値を参照して予備試験によって混合割合を検定することで容易に行うことができる。すなわち、吸収量の少ない銀粉に、吸収量の多い銀粉を混合すれば吸収量を上げることが可能である。また、吸油プロファイルにおいて半値幅が広い緩やかな1個のピークを有する銀粉には、半値幅が狭い急峻な1個のピークや2個のピークを有する銀粉を混合すればよい。また、比表面積の低い銀粉に、比表面積の高い銀粉を混合することで、比表面積を高くすることができる。
本発明に係る製造方法にあっては、比表面積および吸収量と吸油プロファイルをより好ましい態様に制御することが可能であるため、混合する銀粉の少なくとも一つが、フタル酸ジブチルの吸収量が7.0ml/100g未満、もしくは9.5ml/100gを超えるものであっても、混合することにより比表面積および吸収量と吸油プロファイルを上記範囲に制御することができる。また、吸油プロファイルに関しても同様であり、混合する銀粉の少なくとも一つが、前記吸収量測定時の吸油プロファイルに半値幅が1.5ml/100gを越える1個のピークを有するものであっても、混合することにより比表面積および吸収量と吸油プロファイルを上記範囲に制御することができる。即ち、得られた銀粒子、混練の条件等に応じて、比表面積および吸収量と吸油プロファイルが上記範囲となるように混合割合を定める。また、混合する銀粉の種類についても2種に限定されず、3種以上であってもよい。
したがって、解砕後の銀粉を混合することにより、工業的規模の大量生産においても、解砕時の変動を抑制し、上記範囲の比表面積および吸収量と吸油プロファイルを有する銀粉を安定して製造することが可能である。
混合方法は、均一に混合されれば特に限定されるものではなく、通常の粉末の混合に用いられる装置を用いることができる。
以上のような銀粉の製造方法により得られた銀粉は、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量が7.0〜9.5ml/100gであり、及び吸収量測定時の吸油プロファイルに2個のピーク又は半値幅が1.5ml/100g以下の1個のピークを有するものであり、適度な大きさの凝集体が混在するものである。このため、この銀粉を用いることで適度な粘度を有するペーストとなり、適切な混練を容易に行うことができる。ペースト中における銀粒子の分散が良好となり、粗大な凝集塊を起因とする粗大フレークの発生を抑制することができる。これにより、この銀粉を用いたペーストの印刷性に優れ、導電性に優れた導電膜を形成することができる。
以下に、本発明の具体的な実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1では、38℃の温浴中で液温36℃に保持した25%アンモニア水36L、塩化銀2130g(住友金属鉱山(株)製、塩化銀中の銀1440g)を撹拌しながら投入して、銀錯体溶液を作製した。消泡剤((株)アデカ製、アデカノールLG−126)を体積比で100倍に希釈し、この消泡剤希釈液18.7mLを銀錯体溶液に添加し、得られた銀錯体溶液を温浴中で36℃に保持した。
一方、還元剤のアスコルビン酸921g(関東化学(株)製、試薬、銀粒子に対して56.9質量%)を、36℃の純水14.61Lに溶解して還元剤溶液とした。次に、水溶性高分子のポリビニルアルコール40.0g((株)クラレ製、PVA205、銀に対して2.5質量%)を分取し、36℃の純水1Lに溶解した溶液と表面処理剤として市販のカチオン系界面活性剤であるポリオキシエチレン付加4級アンモニウム塩1.15g(クローダジャパン(株)製、シラソル、銀粒子に対して0.072質量%)を還元剤溶液に混合した。
次に、作製した銀錯体溶液と還元剤溶液とを、定量供給できるポンプを使用し、銀錯体溶液2.7L/分、還元剤溶液0.9L/分で反応チューブ内に送液して、銀錯体を還元した。このときの還元速度は銀量で97.2g/分である。また、銀の供給速度に対する還元剤の供給速度の比は1.4とした。なお、反応チューブには内径10mmφのY字型チューブを用いた。銀錯体の還元により得られた銀粒子を含むスラリーは撹拌しながら受槽に受け入れた。
その後、還元により得られた銀粒子スラリーを固液分離して、回収した乾燥前の銀粒子と、分散剤であるステアリン酸エマルジョン24.5g(中京油脂(株)製、セロゾール920、銀粒子に対してステアリン酸として1.7%/Ag)とを純水15.4Lに投入し、60分間撹拌して表面処理を行った。表面処理後、銀粒子スラリーを、フィルタープレスを使用して濾過し、銀粒子を固液分離した。
引き続き、回収した銀粒子が乾燥する前に、銀粒子を0.05mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液15.4L中に投入し、15分間撹拌して洗浄した後、フィルタープレスで濾過し、銀粒子を回収した。
次に、回収した銀粒子を、40℃に保持した23Lの純水中に投入し、撹拌及び濾過した後、銀粒子ケーキをステンレスパッドに移し、真空乾燥機にて60℃で10時間乾燥した。乾燥させた銀粉1〜1.5kgをとり、3Lのヘンシェルミキサー(日本コークス工業(株)製、FM3C)に投入した。ヘンシェルミキサー内では、30分間、毎分2300回転(撹拌羽根の周速は18.2m/s)で予備解砕、2880回転(撹拌羽根の周速は22.8m/s)で下記D50が1.0〜2.0μmの範囲となるように時間を調整して本解砕を行うことによって、銀粉AおよびBを得た。
得られた銀粉の粒度分布をレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装製、MICROTRAC HRA 9320X−100)を用いて測定した。分散媒は、イソプロピルアルコールを用い、機器内を循環させた状態で、銀粉を投入して測定した。通常は超音波などで分散させた銀スラリーを投入することが多いが、実施例1においては銀粉自体の分散性を評価することを目的としているため、銀粉を約0.1g直接投入して測定した。そして、レーザー回折錯乱法で得られる体積基準の粒度分布の粒子径(D50)を求めた。
また、解砕後の銀粒子(一次粒子)は走査電子顕微鏡(日本電子製、JSM−6360L)を用いて観察し、約500個測長し、平均粒径(以下、DSEMと記載する。)を求めた。
比表面積(以下、BET径と記載する。)は、多検体BET比表面積測定装置(ユアサアイオニクス製、Multisorb―16)を用いて比表面積を測定した。
吸収量は、吸収量測定器(あさひ総研製、S−500)を用いて測定した。測定方法はJIS K6217−4(2008)に準じて行った。
上述の工程を経てられた銀粉AおよびBの吸収量、D50、DSEM、比表面積(BET値)は表1のとおりであり、銀粉AとBをA:B=34:66の混合比で混合した。混合後の銀粉の吸収量、D50、DSEM、BET値を表1に示す。また、吸収量を測定する際に得られた各銀粉及び混合後の銀粉の吸油プロファイルを図2に示す。混合後の銀粉の吸油プロファイルは、吸収量が7.0〜9.5ml/100gであり、2個のピークを有するものとなった。
(実施例2)
実施例2では、前記D50が1.0〜5.0μmの範囲となるように時間を調整して本解砕をおこなった以外は、実施例1と同様にして銀粉CおよびDを得て、銀粉CとDをC:D=50:50の混合比で混合した。
銀粉CおよびDの吸収量、D50、DSEM、比表面積(BET値)は表1のとおりであり、混合後の銀粉の吸収量、D50、DSEM、BET値を表1に示す。また、吸収量を測定する際に得られた各銀粉及び混合後の銀粉の吸油プロファイルを図3に示す。吸収量が7.0〜9.5ml/100gであり、2個のピークを有するものとなった。
実施例1および2で得られた混合後の銀粉について3本ロールでの混練によるペースト評価を行った結果、フレークの発生は認められず良好な混練性を有し、問題がないことが確認された。本発明を適用した銀粉は、ペースト化処理時においてフレークの形成もないことから、ファインライン化に伴う配線にも適応できる樹脂型銀ペースト用及び焼成型銀ペースト用として好適であることがわかる。