電子機器における配線層や電極などの形成には、樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペーストのような銀ペーストが多用されている。これらの銀ペーストは、塗布又は印刷した後、加熱硬化あるいは加熱焼成されることによって、配線層や電極などとなる導電膜を形成する。
例えば、樹脂型銀ペーストは、銀粉、樹脂、硬化剤、溶剤などからなり、導電体回路パターン又は端子の上に印刷し、100℃〜200℃で加熱硬化させて導電膜とし、配線や電極を形成する。また、焼成型銀ペーストは、銀粉、ガラス、溶剤などからなり、導電体回路パターン又は端子の上に印刷し、600℃〜800℃に加熱焼成して導電膜とし、配線や電極を形成する。これらの銀ペーストで形成された配線や電極では、銀粉が連なることで電気的に接続した電流パスが形成されている。
銀ペーストに使用される銀粉は、粒径が0.3μmから2.0μmであり、形成する配線の太さや電極の厚さによって使用される銀粉の粒径が異なる。また、銀ペースト中に均一に銀粉を分散させることにより、均一な太さの配線、均一な厚さの電極を形成することができる。
銀ペースト用の銀粉に求められる特性としては、用途及び使用条件により様々であるが、一般的で且つ重要なことは、一次粒子の粒径が均一で、適度な二次凝集を形成して溶媒や樹脂との馴染みが良くペースト中での分散性が高いことである。粒径が均一で、且つペースト中での分散性が高いと、硬化あるいは焼成が均一に進み、低抵抗で強度の大きい導電膜を形成できる。粒径が不均一で、二次凝集が不適当なために溶媒や樹脂との馴染みが悪いと、銀ペースト中での分散性も悪くなる。このため、印刷膜中に銀粒子が均一に存在しない状態となり、配線や電極の太さや厚さが不均一となるばかりか、硬化あるいは焼成が不均一となるため、導電膜の抵抗が大きくなったり、導電膜が脆く弱いものになったりしやすい。
更に、銀ペースト用の銀粉に求められる事項としては、製造コストが低いことも重要である。銀粉は、銀ペーストの主成分であるため、ペースト価格に占める割合が大きいためである。製造コストの低減のためには、生産性が高いことや、使用する原料や材料の単価が低いだけでなく、廃液や排気の処理コストが低いことも重要となる。
上述した銀ペーストに使用される銀粉の製造は、硝酸銀などの銀塩のアンミン錯体を含む溶液が入った槽内に還元剤溶液を投入して還元するバッチ式で行なわれることが多かった。しかしながら、バッチ式では、還元剤が投入された位置で還元反応が始まり、還元剤の投入開始から終了までの間で銀粒子の核が随時発生していくため、均一な粒径の銀粉を得ることは難しい。
このようなバッチ式の還元で得られる銀粉の粒度分布をシャープにする提案もなされている。例えば、特許文献1には、硝酸銀などの銀塩のアンミン錯体及び還元反応の際に媒晶剤として機能する重金属のアンミン錯体を含むスラリーと、還元剤である亜硫酸カリ及び保護コロイドとしてのアラビアゴムを含有する溶液とを混合して、銀塩のアンミン錯体を還元する銀粉の製造方法が開示されている。
この銀粉の製造方法によれば、一次粒子の平均粒径が0.1〜1μmであり、低凝集で且つ粒度分布が狭い粒状銀粉が得られるとされている。しかしながら、この銀粉の製造方法では、重金属のアンミン錯体の存在下で銀塩を還元するため、重金属が不純物として混入しやすく、得られる銀粉の純度が低下する可能性がある。また、具体的な粒度分布は開示されておらず、溶媒や樹脂中での分散性も不明である。
一方、銀塩のアンミン錯体を含む溶液と還元剤溶液を連続的に混合して還元する連続方式により得られる銀粉の粒度分布を改善する試みも提案されている。例えば、特許文献2は、銀アンミン錯体水溶液S1が一定の第一流路aを流れ、その第一流路aの途中に合流する第二流路bを設け、この第二流路bを通じて有機還元剤及び必要に応じた添加剤S2を流し、第一流路aと第二流路bとの合流点mで接触混合して還元析出させる銀粉の製造方法が開示されている。
しかしながら、この銀粉の製造方法で得られる銀粉は、走査型電子顕微鏡像の画像解析により得られる一次粒子の平均粒径DIAが0.6μm以下で、結晶子径が10nm以下であり、微細粒子であるため、一般的な銀ペーストの用途には不向きであり、用途が限られたものとなってしまう。また、反応溶液中の銀濃度が低く、生産性に優れた製造方法とは言い難い。
ところで、上述した従来の銀粉の製造方法を含めて、銀源として用いる原料は硝酸銀が一般的である。しかしながら、硝酸銀は、アンモニア水等への溶解過程で有毒な亜硝酸ガスを発生し、これを回収する装置が必要となる。また、廃水中に硝酸系窒素やアンモニア系窒素が多量に含まれるので、その処理のための装置も必要となる。さらに、硝酸銀は、危険物であり劇物でもあるため、取り扱いに注意を要する。このように、硝酸銀を銀粉の原料として用いる場合は、環境に及ぼす影響やリスクが他の銀化合物に比べて大きいという問題点を抱えている。
そこで、硝酸銀を原料とせずに、塩化銀を還元して銀粉を製造する方法も提案されている。塩化銀は、危険物にも劇物にも該当せず、遮光の必要はあるものの比較的取り扱いが容易な銀化合物であるという利点を有している。また、塩化銀は、銀の精製プロセスの中間品としても存在し、電子工業用として十分な純度を有するものが提供されている。
例えば、特許文献3には、塩化銀をアンモニア水に銀濃度で1〜100g/lとなるように溶解した後、この溶液に保護コロイドの存在下で還元剤を加えて撹拌し、溶液中の銀アンミン錯体を液相還元して銀超微粒子を得る方法が開示されている。しかしながら、この銀粉の製造方法で得られる銀粉の粒径は0.1μm以下と微細であるため、電子工業用としては用途が限られるものであった。
以上のように、銀粉の製造方法についてはこれまで多くの提案がなされているが、一次粒子の平均粒径が0.3μmから2.0μmで均一な粒径を有し、樹脂との馴染みが良い銀粉、すなわち粒度分布が狭くペースト中での分散性が高い銀粉を得ることと、優れた生産性を有し低コストで銀粉を得ることが両立できていなかった。また、このような銀粉を生産性が高く且つ低コストで製造することが求められている。
以下、本発明に係る銀粉の製造方法及びその製造方法により製造される銀粉の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて適宜変更することができる。
本発明を適用した銀粉は、銀粒子からなる。ここで、銀粒子形態を以下のように定義する。すなわち、銀粒子を、外見上の幾何学的形態から判断して、単位粒子と考えられるものを一次粒子と呼ぶ。また、一次粒子がネッキングにより2乃至3以上連結した粒子を二次粒子と呼ぶ。さらに、一次粒子及び二次粒子の集合体を凝集体と呼ぶ。したがって、銀粒子は、一次粒子及び二次粒子と、凝集体からなるものである。
<1.銀粉の製造方法>
本発明を適用した銀粉の製造方法は、銀錯体を含む銀溶液と還元剤溶液とをそれぞれ定量的かつ連続的に流路内に供給し、銀溶液と還元剤溶液とを流路内で混合させた反応液中で銀錯体を定量的かつ連続的に還元する銀粉の製造方法において、銀溶液または還元剤溶液の一方もしくは両方の供給量を調整することにより、反応液での酸化還元電位を制御して、得られる銀粉の凝集度を制御するものである。
この銀粉の製造方法においては、銀溶液と還元剤溶液を定量的かつ連続的に一定の空間に供給し、これらを混合することで還元反応を生じせしめ、銀粒子が生成した還元後の反応液すなわち銀粒子スラリーを定量的かつ連続的に排出することで、還元反応場の銀錯体の濃度と還元剤の濃度が一定に保たれ、核発生の速度とその濃度が一定になり、さらに一定の粒成長を図るものである。これによって、得られる銀粉の一次粒子の大きさが揃い、その粒度分布が狭い銀粉を得ることができる。さらに銀溶液と還元剤溶液の供給と銀粒子スラリーの排出が連続的に行われることで、連続的に銀粉を得ることができ、高い生産性を有するものである。
この銀粉の製造方法においては、銀粒子スラリーの酸化還元電位を制御することが重要となる。銀粒子スラリーの酸化還元電位を制御することにより、核発生とその粒成長が一定に制御され一次粒子の大きさを揃えることができる。また、粒成長が安定することにより、一次粒子の凝集も制御され、適度な凝集度を有する二次粒子が得られる。
酸化還元電位の測定は、その具体的な態様として、銀溶液と還元剤溶液を混合する流路の末端の出口で測定することができる。また、後述するように、流路の出口に受槽を設置した場合には、別の態様として、受槽内で測定してもよい。酸化還元電位は、流路の形状(長さ、太さ)、測定位置、銀溶液の銀濃度、還元剤溶液の還元剤濃度、分散剤濃度、さらには各液の温度などによって変化する。また、得ようとする銀粉の粒径によっても変化する。したがって、酸化還元電位は、一概に特定できるものではない。しかしながら、これらの条件を一定として銀粉を製造する場合には、酸化還元電位と凝集度は一定の関係にあり、条件を一定にして銀溶液と還元剤溶液の供給割合の比により酸化還元電位を制御することで、銀粒子の凝集状態を制御することが可能となる。
ここで、酸化還元電位を低くすると、粒成長速度が大きくなり過ぎ、適度な凝集が得られず凝集度が低下する傾向になる。銀ペースト中での銀粒子の分散性が悪化する傾向になる。さらに、原料に塩素を含む場合には、塩素が粒成長時に一次粒子の内部に取り込まれ、洗浄しても残留する塩素濃度が高くなる傾向にある。焼結性が悪化する傾向にある。したがって、酸化還元電位を制御することにより、原料中に塩素を含む場合であっても銀粉の塩素含有量を大幅に低減させることができ、取扱い性や排水処理が容易な塩化銀を原料としながら、適度な凝集度を有するとともに塩素含有量が低い銀粉を得ることができる。
一方、酸化還元電位を高くすると、粒成長速度が小さくなり、平均粒径が小さくなって凝集が過度に形成される傾向になる。また、核発生が少なくなって一部粒子が粗大粒子まで成長する問題が生じることがある。
酸化還元電位は、銀溶液または還元剤溶液の一方もしくは両方の供給量を調整することにより制御される。これらの各供給量を調整することにより酸化還元電位を容易に制御できる。すなわち、銀溶液と還元剤溶液を混合する際の還元剤溶液の混合比を大きくすると、酸化還元電位が低下する。一方、還元剤溶液の混合比を小さくすると、酸化還元電位が上昇する。
酸化還元電位は、上述のように銀溶液と還元剤溶液の供給割合の比により制御されるが、供給割合の比を化学量論的に還元剤が銀イオン1モルを還元することができるモル数を1還元当量としたとき、上記混合する際の還元剤の混合比を1.0〜2.0還元当量とすることが好ましく、1.2〜2.0還元当量とすることがより好ましい。この範囲で酸化還元電位を制御することにより、銀ペースト中での分散性に優れた凝集状態を有する銀粉を得ることができる。還元剤の混合比が1.0還元当量未満になると、廃液に未還元の銀錯体が残留し、銀粉の収率が低下することがある。一方、還元剤の混合比が2.0還元当量を超えると、還元に利用されない還元剤が銀粒子スラリー中に多く残留することになり、コスト的に不利である。
なお、酸化還元電位は、銀粒子の粒径や凝集度を安定させるため、所定の値から上下に10mV、より好ましくは5mVの変動幅内で一定となるように制御することが好ましい。変動幅が大きくなると、一次粒子の平均粒径が上記範囲内であっても粒度分布が広くなり、ペースト中での分散性が悪化することがある。
酸化還元電位の測定方法や銀溶液または還元剤溶液の供給量の調整方法は、特に限定されないが、例えば、上記流路末端の出口で測定する場合、流路末端の出口に、酸化還元電位の測定が可能な容量を貯留できる程度の小さなオーバーフロー槽を設置し、銀粒子スラリーをオーバーフローさせながら酸化還元電位を連続的に測定する。測定された酸化還元電位を銀溶液および還元剤溶液の供給装置にフィードバックして銀溶液または還元剤溶液の一方もしくは両方の供給量を調整すればよい。一方、受槽内で測定する場合、流路末端から流入した銀粒子スラリーの酸化還元電位が安定した位置で測定すればよく、流入位置から可能な限り離れた位置で測定すればよい。例えば、受槽がオーバーフロー口を備えたものでは排出口付近、受槽からの排出用ポンプを備えたものでは、ポンプへの吸入口付近でそれぞれ測定することが好ましい。
さらに、この銀粉の製造方法においては、反応液中の銀濃度を好ましくは5〜75g/Lの範囲、より好ましくは20〜60g/Lの範囲で調整する。ここで、銀濃度が低い場合には、十分な生産性が得られない。一方、銀濃度が高い場合には、液中の粒子密度が大き過ぎるため、粒子の凝集が発生して粗大粒子が生成されることがある。したがって、銀溶液と還元剤溶液の混合後の反応液中の銀濃度を5〜75g/Lの範囲で調整することにより、一次粒子の平均粒径が0.3〜2.0μmで粒度分布が狭い銀粉をより高い生産性で得ることができる。
この銀粉の製造方法において用いる還元剤としては、一般的なヒドラジンやホルマリン等を用いることもできるが、アスコルビン酸を用いることが特に好ましい。アスコルビン酸は、その還元作用が緩やかであるため、銀粒子中の結晶粒が成長しやすく、また銀濃度が高濃度の反応液中でも粒径制御が容易であることも好ましい理由となっている。また、反応の均一性あるいは反応速度を制御するために、還元剤を純水等で溶解又は希釈して濃度調整した水溶液として用いることもできる。
銀溶液は、還元されて銀となる銀錯体を含む溶液であり、各種銀塩を銀の原料として用いることができるが、塩化銀をアンモニア水に溶解することにより得たものであることが好ましい。このように、塩化銀を原料とすることにより、硝酸銀を出発原料とする方法で必要とされた亜硝酸ガスの回収装置や廃水中の硝酸系窒素の処理装置を設置する必要がなく、環境への影響も少ないプロセスとなり、製造コストの低減を図ることができる。また、粒径制御と反応液中の銀の高濃度化を両立することにおいて、塩化銀を用いることで他の銀塩より容易に行えることが実験的に確認された。
塩化銀は、高純度のものを用いることが好ましく、このような塩化銀としては、高純度塩化銀が工業用に安定的に製造されている。塩化銀を溶解するアンモニア水は、工業的に用いられる通常のものでよいが、不純物混入を防止するため可能な限り高純度のものが好ましい。
以下では、塩化銀を用いた場合を具体例として、本実施の形態に係る銀粉の製造方法について、より詳細に説明する。
銀溶液と還元剤溶液とをそれぞれ定量的かつ連続的に流路内に供給して銀錯体を還元させるに際して、銀溶液及び還元剤溶液のそれぞれの供給速度は、銀溶液と還元剤溶液の混合溶液である銀粒子スラリーの酸化還元電位の測定値に基づいて適宜調整すればよい。供給速度が過度に低い場合には、流速が低下して流路内における銀の堆積や生産性が低下する問題が生じることがある。また、供給速度が高過ぎる場合には、流路出口までの還元反応の進行が不十分となり、流路出口以降で凝集体を形成することになる。これらは流路の大きさにも影響されるため、流路の大きさを考慮しながら適正な供給速度を決めればよい。
また、銀の還元反応時の反応液の温度は、25〜40℃とすることが好ましい。25℃未満では、塩化銀のアンモニア水に対する溶解度が小さくなり、反応液中の銀濃度を高められないことにより所望の生産性が得られない。一方、40℃を超えると、アンモニアの揮発が激しくなり、溶解度が低下して塩化銀の析出が起きることがある。
銀粉の製造方法においては、流路内で銀の還元反応を完了に近づけることが好ましい。このため、流路内で銀溶液と還元剤溶液とが混合されてからその流路内を流下して出口に出るまでの時間(流下時間)が15秒以上60秒以下となるような流路長に流路を構成することが好ましい。その流下時間が15秒以下では、還元反応が終了せず、未還元の銀錯体が反応液中に残留し、粒子が連結して粗大粒となることや、凝集して分散性が悪くなることがある。一方、60秒以上では、装置を無用に大きくするだけである。また、流路の長さは、銀溶液と還元剤溶液とを混合させる混合管に軟質チューブを接続し、そのチューブを螺旋状に巻くようにして調整してもよい。これにより、スペースを要せずに流路の長さを調整することができる。
また、還元反応が終了しても余剰の還元剤の活性により、銀粒子の連結や凝集を起こすことがある。そのため、流路末端の反応液、すなわち銀粒子スラリーの出口に受槽を配置するようにし、流路内で混合し還元反応させて得た銀粒子スラリーを、その受槽に保持して攪拌することが好ましい。
ここで、受槽内では、還元により生成した銀粒子が沈降しないように十分に攪拌することが必要になる。銀粒子が沈降すると、銀粒子が凝集体を形成して分散性が悪くなってしまうため好ましくない。攪拌は、銀粒子が沈降しない程度の力で行えばよく、一般的な攪拌機を用いることができる。受槽に入って余剰の還元剤が失活した反応液は、ポンプでフィルタープレス等の濾過機に送液することで、連続的に次の工程へと移送することができる。
銀溶液と還元剤溶液との混合においては、流路が銀溶液を供給する銀溶液供給管と、還元剤溶液を供給する還元剤溶液供給管と、銀溶液と還元剤とを混合させる2液混合管とからなり、銀溶液と還元剤溶液とを混合管内で混合する構造を有する反応管が用いられる。なお、後でも述べるが、ここで言う「反応管」、「混合管」との用語は、筒状やパイプ状等の外周囲が閉塞され空洞を形成するものに限定解釈されるものではなく、例えば樋のような、その外周囲の一部が開口した形状のものも含む意味であり、形状は何れであっても連続的に供給される銀溶液と還元剤溶液とが混合して反応する場となるものを意味する。
反応管としては、例えば、銀溶液を供給する配管内に還元剤溶液を供給する配管を同軸上に設け、反応管内で銀溶液と還元剤溶液を同方向に供給する同芯管や、それぞれの配管をY字状に接続したY字管が挙げられる。
反応管における各管の径は、銀溶液と還元剤溶液の供給に対する抵抗が過度にならず、かつ十分な攪拌が得られるように各溶液の供給量に基づいて決めることができる。
また、反応管における各管は、パイプ状となっており、またその形状は、特に限定されるものではないが、円柱状であることが銀溶液と還元剤溶液を供給する配管と接続しやすいという点で好ましい。また、反応管の材質としては、銀溶液や還元剤溶液と反応しないことと、還元反応後の銀が付着しないことが選択上重要であり、これらの条件を満たす材質であればよい。例えば、ガラス、塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、テトラフルオロエチレン等から選択することができ、その中でもガラスを用いることが特に好ましい。
さらに、銀溶液と還元剤溶液を、それぞれ銀溶液供給管と還元剤溶液供給管を介して供給するに際しては、一般的な定量ポンプを用いることができる。このとき、定量ポンプとしては、脈動の小さいものを用いることが好ましい。また、例えば、還元剤溶液の供給量が銀溶液の供給量より少ない場合には、その合流点でこれら2液が十分に混合されるように還元剤溶液の流速を大きくするように供給することが好ましい。
この銀粉の製造方法においては、銀溶液と還元剤溶液とを混合させた反応液に、分散剤を含有させることが重要である。分散剤が含有されていないと、還元により発生した銀粒子が凝集を起こし、粗大粒子が発生したり、分散性が悪いものとなってしまう。分散剤としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、変性シリコンオイル系界面活性剤、ポリエーテル系界面活性剤から選択される少なくとも1種であることが好ましく、又はこれらの2種以上を組合せて用いることがより好ましい。
分散剤は、予め還元剤溶液に添加しておくことにより、反応液に含有させることが好ましい。分散剤を銀溶液に混合しておくことも選択肢としてはあり得るが、還元剤溶液に混合しておく方が分散性の良い銀粉が得られることが実験的に確認された。これは、還元剤溶液に分散剤を添加しておくことで、銀粒子の生成場に分散剤が存在し、効率よく銀粒子の凝集を抑制できるためと考えられる。なお、分散剤として用いるポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンは、還元反応時に発泡する場合があるため、還元剤溶液や銀溶液に消泡剤を添加してもよい。
分散剤の含有量としては、分散剤の種類及び得ようとする銀粉粒径により適宜決めればよいが、銀溶液中に含有される銀に対して0.3〜20質量%とすることが好ましく、0.3〜10質量%とすることがより好ましい。分散剤の含有量が0.3質量%未満であると、銀粒子の凝集抑制効果が十分に得られない可能性があり、一方で含有量が20質量%を超えても、それ以上に凝集抑制効果の向上はなく、排水処理等の負荷が増加するのみである。
得られた銀粒子スラリーは、濾過した後、洗浄し、乾燥する。洗浄方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、銀粒子を水に投入し、撹拌機又は超音波洗浄器を使用して撹拌した後、濾過して銀粉を回収する方法が用いられる。この方法において、銀粒子の水への投入、撹拌洗浄及び濾過からなる操作を、数回繰返して行うことが好ましい。また、洗浄に用いる水は、銀粉に対して有害な不純物元素を含有していない水を使用し、特に純水を使用することが好ましい。
そして、水による洗浄を行った後、銀粒子の水分を蒸発させて乾燥させる。乾燥の方法としては、例えば、水洗浄後の銀粒子をステンレスパッド上に置き、大気オーブン又は真空乾燥機等の一般的な乾燥装置を用いて、40〜80℃程度の温度で加熱することにより行うことができる。
<2.銀粉>
本発明の銀粉は、上述した銀粉の製造方法により得られる。銀粉は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって測定される一次粒子の平均粒径が0.3〜2.0μmであり、電子機器の配線層や電極等の形成に利用される樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペースト等のペースト用銀粉として好適に用いられる。平均粒径が0.3μm未満になると、一次粒子の凝集が激しくなり、銀ペースト中に分散させることが困難となる。一方、平均粒径が2.0μmを超えると、銀ペースト中での銀粒子の分散安定性の低下や微細な配線層や電極等の形成が困難になるなどの問題が生じる。
また、銀粉は、一次粒子の粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.25以下である。標準偏差を平均粒径で除した値が0.25を超えると、均一な太さの配線や均一な厚さの電極を形成することが困難になるとともに、銀ペースト中での分散性が低下してペーストとしての特性が悪化する。ここで、平均粒径は、個数平均の粒径であり、SEM観察により300個以上の一次粒子の粒径測長結果より平均粒径と標準偏差が求められる。
さらに、銀粉は、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量が4〜10mL/100gである。このような吸収量を有する銀粉は、所定の大きさの一次粒子が連結して凝集体を適度に形成していることを示す。
すなわち、このような銀粉においては、空隙が多くなり、フタル酸ジブチルを滴下していくと、その凝集体を形成する銀粒子間にフタル酸ジブチルが吸収(吸油)されるようになる。凝集体の形成が少ない銀粉では、銀粒子間の空隙が少ないため、吸収量も減少する。一方、吸収量は、一次粒子の粒径によっても影響される。すなわち、同じ凝集度を有する銀粉でも、一次粒子の粒径が大きくなると吸収量が増加し、一次粒子の粒径が小さくなると吸収量が減少する。したがって、このフタル酸ジブチルの吸収量を測定することにより、その凝集体がどの程度形成されているかを判断することができ、一次粒子の平均粒径がほぼ同じ銀粉間においては、凝集度を示す指標として用いることができる。さらに、吸収量が4〜10mL/100gであることにより、ペーストの溶媒等の成分と銀粒子とがなじみ易くなり良好に混練することができる。
また、このフタル酸ジブチルの吸収量に基づいて、その銀粉を用いて作製した銀ペーストの粘性を判断することもできる。上述のように、一次粒子が連結した凝集体を有する銀粉は、その凝集体を構成する粒子間にペーストの溶媒成分を取り込むようになる。このため、凝集体外の銀ペースト中の溶媒成分の量が相対的に減少し、銀ペーストの粘度が上がる。高粘度の銀ペーストは、混練時にロール間で発生するせん断力が、銀粒子を分散させる分散力として効率よくペーストに伝播し、銀粒子同士が凝集せず分散しやすくなる。
フタル酸ジブチルの吸収量が4mL/100gより少ない場合には、形成されている銀粒子の凝集体の数が少ないことを示し、銀ペースト作製時にフレークを発生させてしまう。一方、吸収量が10mL/100gより多い場合には、銀粒子が凝集し過ぎた凝集体からなることを示し、分散性が悪化し、フレークを発生させてしまう。
さらに、銀粉は、その塩素含有量が40質量ppm未満であることが好ましく、30質量ppm未満であることがより好ましい。塩素含有量が40質量ppm以上の場合には、形成された配線層や電極の電気抵抗を増大させるばかりか、配線間のマイグレーションを起こす要因となる。したがって、これらの観点からも、塩素含有量を低減した銀粉は、電子機器に用いられるペースト用銀粉として好適なものである。
上述のように銀粉の製造では、銀溶液と還元剤溶液を定量的かつ連続的に一定の空間に供給し、これらを混合して得られる銀粒子スラリーの酸化還元電位を制御することにより、核発生とその粒成長が一定に制御され一次粒子の大きさを揃えることができる。また、粒成長が安定することにより、一次粒子の凝集も制御され、適度な凝集度を有する二次粒子を得ることができる。
また、上述の銀粉の製造方法では、銀溶液と還元剤溶液の供給と銀粒子スラリーの排出を連続的に行うことで、連続的に銀粉を得ることができるため、生産性が高く、しかも安価な塩化銀を出発原料として用いることが可能で、排気及び排水用の硝酸系処理装置を必要としないため、低コストで実施することができ、工業的価値が極めて大きいものである。
上述した銀粉の製造方法により得られる銀粉は、走査型電子顕微鏡観察によって測定される一次粒子の平均粒径が0.3〜2.0μmであり、粒径の標準偏差をその平均値で除した値が0.25以下であり、粒度分布が狭く均一で、樹脂中での分散性に優れている。したがって、得られた銀粉は、電子機器の配線層や電極等の形成に利用される樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペースト等のペースト用銀粉として好適である。
以下に、本発明の具体的な実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
実施例1〜4では、一次粒子の平均粒径の目標を0.75μmとして受槽内の酸化還元電位(ORP)を制御して銀粉を得た。
(実施例1)
実施例1では、38℃の温水ジャケットで加熱した槽中において液温32℃に保持した25質量%アンモニア水540Lに、塩化銀45.00kg(住友金属鉱山株式会社製、水分率15.01%)を撹拌しながら投入して銀溶液を作製した。消泡剤(株式会社アデカ製、アデカノールLG−126)を体積比で100倍に希釈し、この消泡剤希釈液374mLを作製した銀溶液に添加して、得られた銀溶液を温浴中において32℃に保持した。
次に、分散剤のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA205)1.76kgを36℃の純水147Lに溶解し、塩化銀53.4g(住友金属鉱山株式会社製、水分率12.41%)をアンモニア水2.18Lに溶解した銀溶液を加え、さらに純水24.5Lにヒドラジン10.1mlを加えた核用銀液を添加して粒径80nmの銀核溶液を作製した。この溶液に還元剤のアスコルビン酸20.10kg(関東化学株式会社製、試薬)を添加し、純水を加えて液量を220Lとして還元剤溶液とし、温度を36℃に調整した。
次に、銀溶液と還元剤溶液を、スムーズフローポンプ(株式会社タクミナ製APL−5、BPL−2)を使用して、銀溶液2.7L/分、還元剤溶液を0.9L/分で反応管に供給を開始した。反応管としては、銀溶液の供給方向に対する還元剤溶液の供給方向を同一としたガラス製の同芯管(銀溶液供給管:内径10.0mm、還元剤溶液供給管:内径3.6mm、混合管長:100mm)を用いて、両液を混合撹拌した。この反応管には、内径12mm長さ10mの軟質塩化ビニル樹脂製チューブを反応管出口側に接続した。チューブの出口、即ち流路の出口には、受槽を設けた。
そして、チューブ(流路)出口と受槽内でORPを測定しながら受槽内のORPが−555mVになるように銀溶液ポンプと還元剤溶液ポンプの流量を調整し、チューブから排出された反応液(銀粒子スラリー)を撹拌しながら受槽で保持した。このときの還元速度は、銀量で144.0g/分であり、反応液中の銀濃度は40.0g/Lとなる。また、分散剤のポリビニルアルコールの量は、混合時の反応液中の銀量に対して5.0質量%となる。還元中のチューブ(流路)出口のORPは、−73〜−78mVであり、受槽内ORPは−558〜−553mVであった。また、還元終了後、用意した液量から残液量を差し引いて求めた送液量から計算される還元当量は、1.54であった。銀溶液と還元剤溶液の供給が終了した後受槽内での攪拌を60分継続した。
撹拌終了後の銀粒子スラリーを、フィルタープレス機を使用して全量濾過し、銀粒子を固液分離した。
続いて、回収した銀粒子を0.2%の水酸化ナトリウム水溶液343L中に投入し、15分間撹拌した後、フィルタープレス機で濾過して回収した。水酸化ナトリウム水溶液への投入、撹拌、及び濾過からなる操作を更に2回繰返した後、回収した銀粒子を純水343L中に投入し、撹拌及び濾過からなる操作を行った。濾過後、銀粒子をステンレスパッドに移し、真空乾燥機にて60℃で15時間乾燥し、解砕して銀粉を得た。
得られた銀粉を走査電子顕微鏡(SEM)のより観察したところ、SEM観察による平均粒径は0.74μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値(表1中の分散度)は0.20であり、ペースト用銀粉として良好な粒度分布を有していることが確認された。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は7.6mL/100gであった。
さらに、銀粉の塩素含有量について測定した。塩素含有量の測定は、得られた銀粉を硝酸で分解し、塩化銀をろ過分離した後に還元して遊離した塩化物イオンをイオンクロマトグラフ装置(日本ダイオネクス株式会社製、ICS−1000)を用いて分析したところ、塩素含有量は26質量ppmであった。
銀粉のレーザー回折錯乱法で得られる体積基準の平均粒径D50は、1.7μmであり、タップ密度(T.D)は、5.4g/mlであった。
得られた銀粉を80質量%、エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製、819)を20質量%となるように秤量し、自公転ミキサー(株式会社シンキー製、ARE−250)を用いて、420Gの遠心力で混練してペースト化した後、さらに3本ロールミル(ビューラー株式会社製、3本ロールミル SDY−300)を用いて混練して評価を行った。3本ロールミルによる混練中、目視によるフレークの発生は認められず、混練性は良好であった。
(実施例2)
実施例2では、受槽内のORPが−533mVになるよう銀溶液ポンプと還元剤溶液ポンプの流量を調整したこと以外は実施例1と同様に銀粉を製造した。還元中のチューブ(流路)出口ORPは−69〜−72mVであり、受槽内ORPは−535〜−531mVであった。また、還元終了後、用意した液量から残液量を差し引いて求めた送液量から計算される還元当量は、1.36であった。
得られた銀粉のSEM観察による平均粒径は0.74μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.23であり、ペースト用銀粉として良好な粒度分布を有していることが確認された。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は8.5mL/100gであった。
さらに、銀粉の塩素含有量について分析したところ、塩素含有量は25質量ppmであった。さらにまた、銀粉のレーザー回折錯乱法で得られる体積基準の平均粒径D50は、2.0μmであり、タップ密度は、5.1g/mlであった。
そして、ペースト化による混練性評価を行ったところ、3本ロールミルによる混練中に目視によるフレークの発生は認められず、混練性は良好であった。
(実施例3)
実施例3では、受槽内のORPが−495mVになるよう銀溶液ポンプと還元剤溶液ポンプの流量を調整したこと以外は実施例1と同様に銀粉を製造した。還元中のチューブ(流路)出口ORPは−54〜−48mVであり、受槽内のORPは−499〜−493mVであった。また、還元終了後、用意した液量から残液量を差し引いて求めた送液量から計算される還元当量は、1.29であった。
得られた銀粉のSEM観察による平均粒径は0.71μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.18であり、ペースト用銀粉として良好な粒度分布を有していることが確認された。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は9.4mL/100gであった。
さらに、銀粉の塩素含有量について分析したところ、塩素含有量は33質量ppmであった。さらにまた、銀粉のレーザー回折錯乱法で得られる体積基準の平均粒径D50は、2.2μmであり、タップ密度は、5.0g/mlであった。
そして、ペースト化による混練性評価を行ったところ、3本ロールミルによる混練中に目視によるフレークの発生は認められず、混練性は良好であった。
(実施例4)
実施例4では、受槽内のORPが−545mVになるよう銀溶液ポンプと還元剤溶液ポンプの流量を調整したこと以外は実施例1と同様に銀粉を製造した。還元中のチューブ出口のORPは、−76〜−72mVであり、受槽内のORPは、−547〜−541mVであった。また、還元終了後、用意した液量から残液量を差し引いて求めた送液量から計算される還元当量は、1.42であった。
得られた銀粉のSEM観察による平均粒径は、0.80μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.23であり、ペースト用銀粉として良好な粒度分布を有していることが確認された。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は8.1mL/100gであった。
さらに、銀粉の塩素含有量について分析したところ、塩素含有量は26質量ppmであった。さらにまた、銀粉のレーザー回折錯乱法で得られる体積基準の平均粒径D50は、2.1μmであり、タップ密度は、5.3g/mlである。
そして、ペースト化による混練性評価を行ったところ、3本ロールミルによる混練中に目視によるフレークの発生は認められず、混練性は良好であった。
次に、実施例5、6では、銀核作製条件を変更して一次粒子の平均粒径の目標を0.4μmとし、チューブ(流路)出口のORPを制御して銀粉を得た。銀核作製は、分散剤のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA205)1.76kgを36℃の純水147Lに溶解し、塩化銀50.1g(住友金属鉱山株式会社製、水分率12.41%)をアンモニア水1.13Lに溶解した銀溶液を加え、さらに純水24.5Lにヒドラジン11.4mlを加えた核用銀液を添加して粒径40nmの銀核溶液を作製した。この溶液に還元剤のアスコルビン酸20.10kg(関東化学株式会社製、試薬)と純水を加えて液量を220Lとして還元剤溶液とし、温度を36℃に調整した。
(実施例5)
実施例5では、チューブ(流路)出口のORPが−67mVになるよう銀溶液ポンプと還元剤溶液ポンプの流量を調整したこと以外は実施例1と同様に銀粉を製造した。還元中のチューブ(流路)出口のORPは、−69〜−65mVであり、受槽内のORPは、−541〜−533mVであった。また、還元終了後、用意した液量から残液量を差し引いて求めた送液量から計算される還元当量は、1.37であった。
得られた銀粉のSEM観察による平均粒径は0.37μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.23であり、ペースト用銀粉として良好な粒度分布を有していることが確認された。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は9.7mL/100gであった。
さらに、銀粉の塩素含有量について分析したところ、塩素含有量は、14質量ppmであった。さらにまた、銀粉のレーザー回折錯乱法で得られる体積基準の平均粒径D50は、2.1μmであり、タップ密度は、4.5g/mlである。
そして、ペースト化による混練性評価を行ったところ、3本ロールミルによる混練中に目視によるフレークの発生は認められず、混練性は良好であった。
(実施例6)
実施例6では、チューブ(流路)出口のORPが−86mVになるよう銀溶液ポンプと還元剤溶液ポンプの流量を調整したこと以外は実施例1と同様にした。還元中のチューブ(流路)出口のORPは、−88〜−82mVであり、受槽内のORPは、−550〜−543mVであった。また、還元終了後、用意した液量から残液量を差し引いて求めた送液量から計算される還元当量は、1.47であった。
得られた銀粉のSEM観察による平均粒径は0.46μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.19であり、ペースト用銀粉として良好な粒度分布を有していることが確認された。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は8.3mL/100gであった。
さらに、銀粉の塩素含有量について分析したところ、塩素含有量は26質量ppmであった。さらにまた、銀粉のレーザー回折錯乱法で得られる体積基準の平均粒径D50は、1.3μmであり、タップ密度は、5.0g/mlであった。
また、ペースト化による混練性評価を行ったところ、3本ロールミルによる混練中に目視によるフレークの発生は認められず、混練性は良好であった。
実施例7、8では、実施例1と同様に銀核を作製しその溶液から9.0Lを分取し、そこに純水を加え、アスコルビン酸とPVAをそれぞれの濃度が実施例1と同じになるように添加して還元剤溶液220Lを準備し、一次粒子の平均粒径の目標を1.9μmとしてチューブ出口のORPを制御して銀粉を得た。
(実施例7)
実施例7では、チューブ(流路)出口のORPが−69mVになるよう銀溶液ポンプと還元剤溶液ポンプの流量を調整したこと以外は実施例1と同様にした。還元中のチューブ出口ORPは−72〜−66mVであり、受槽内ORPは−568〜−561mVであった。また、還元終了後、用意した液量から残液量を差し引いて求めた送液量から計算される還元当量は、1.41であった。
得られた銀粉のSEM観察による平均粒径は1.83μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.25であり、ペースト用銀粉として良好な粒度分布を有していることが確認された。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は7.0mL/100gであった。
さらに、銀粉の塩素含有量について分析したところ、塩素含有量は12質量ppmであった。さらにまた、銀粉のレーザー回折錯乱法で得られる体積基準の平均粒径D50は、3.7μmであり、タップ密度は、5.6g/mlであった。
そして、ペースト化による混練性評価を行ったところ、3本ロールミルによる混練中に目視によるフレークの発生は認められず、混練性は良好であった。
(実施例8)
実施例8では、チューブ(流路)出口のORPが−90mVになるよう銀溶液ポンプと還元剤溶液ポンプの流量を調整したこと以外は実施例1と同様に銀粉を製造した。還元中のチューブ(流路)出口のORPは、−93〜−88mVであり、受槽内のORPは、−591〜−583mVであった。また、還元終了後、用意した液量から残液量を差し引いて求めた送液量から計算される還元当量は、1.28であった。
得られた銀粉のSEM観察による平均粒径は1.92μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.18であり、ペースト用銀粉として良好な粒度分布を有していることが確認された。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は4.3mL/100gであった。
さらに、銀粉の塩素含有量について分析したところ、塩素含有量は11質量ppmであった。さらにまた、銀粉のレーザー回折錯乱法で得られる体積基準の平均粒径D50は、2.7μmであり、タップ密度は、5.3g/mlであった。
そして、ペースト化による混練性評価を行ったところ、3本ロールミルによる混練中に目視によるフレークの発生は認められず、混練性は良好であった。
実施例1〜8の製造条件と得られた銀粉の特性を表1にまとめて示す。
また、実施例1〜8について、受槽のORPとフタル酸ジブチルの吸収量の関係を図1に示す。図1に示す結果から、受槽のORPが高くなると、フタル酸ジブチルの吸収量が多くなり、受槽のORPとフタル酸ジブチルの吸収量に一定の関係が得られた。この関係からORPを制御することにより吸収量、すなわち凝集度を制御することが可能であることがわかる。
実施例1〜8について、流路出口のORPとフタル酸ジブチルの吸収量の関係を図2に示す。図2に示す結果から、流路出口のORPが高くなると、フタル酸ジブチルの吸収量が多くなり、特に同じ粒径同士の比較において、流路出口のORPとフタル酸ジブチルの吸収量に一定の関係が得られた。すなわち、流路出口では還元反応が完全に終了していないため、平均粒径が異なるとORPの差が大きくなるが、同じ平均粒径同士の比較ではORPとフタル酸ジブチルの吸収量に一定の関係が得られ、この関係からORPを制御することにより吸収量、すなわち凝集度を制御することが可能であることがわかる。