電子機器における配線層や電極等の形成には、樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペーストのような銀ペーストが多用されている。これらの銀ペーストは、塗布又は印刷した後、加熱硬化あるいは加熱焼成されることによって、配線層や電極等となる導電膜を形成する。
例えば、樹脂型銀ペーストは、銀粉、樹脂、硬化剤、溶剤等からなり、導電体回路パターン又は端子の上に印刷し、100℃〜200℃で加熱硬化させて導電膜とし、配線や電極を形成する。また、焼成型銀ペーストは、銀粉、ガラス、溶剤等からなり、導電体回路パターン又は端子の上に印刷し、600℃〜800℃に加熱焼成して導電膜とし、配線や電極を形成する。これらの銀ペーストで形成された配線や電極では、銀粉が連なることで電気的に接続した電流パスが形成されている。
銀ペーストに使用される銀粉は、粒径が0.1μmから数μmであり、形成する配線の太さや電極の厚さによって使用される銀粉の粒径が異なる。また、ペースト中に均一に銀粉を分散させることにより、均一な太さの配線、均一な厚さの電極を形成することができる。
銀ペースト用の銀粉に求められる特性としては、用途及び使用条件により様々であるが、一般的で且つ重要なことは、粒径が均一で凝集が少なく、ペースト中への分散性が高いことである。粒径が均一で、且つペースト中への分散性が高いと、硬化あるいは焼成が均一に進み、低抵抗で強度の大きい導電膜を形成することができる。逆に、粒径が不均一で分散性が悪いと、印刷膜中に銀粒子が均一に存在しないため、配線や電極の太さや厚さが不均一となるばかりか、硬化あるいは焼成が不均一となるため、導電膜の抵抗が大きくなったり導電膜が脆く弱いものになったりしやすい。
さらに、銀ペースト用の銀粉に求められる事項として、製造コストが低いことも重要である。銀粉はペーストの主成分であるため、ペースト価格に占める割合が大きいためである。製造コストの低減のためには、生産性が高いことや使用する原料や材料の単価が低いだけでなく、廃液や排気の処理コストが低いことも重要となる。
上述した銀ペーストに使用される銀粉の製造は、硝酸銀等の銀塩のアンミン錯体を含む溶液が入った槽内に還元剤溶液を投入して還元するバッチ式で行われることが多かった。しかしながら、バッチ式では、還元剤が投入されたポイントで還元反応が始まり、還元剤の投入開始から終了までの間で銀粒子の核が随時発生していくため、均一な粒径の銀粉を得ることは難しい。
この問題に対して、バッチ式による還元を用いた銀粉の製造方法においても、粒度分布を改善した提案がなされている。例えば、特許文献1には、硝酸銀などの銀塩のアンミン錯体及び還元反応の際に媒晶剤として機能する重金属のアンミン錯体を含むスラリーと、還元剤である亜硫酸カリ及び保護コロイドとしてのアラビアゴムを含有する溶液とを混合して、銀塩のアンミン錯体を還元し、生成した銀粒子を回収する銀粉の製造方法が開示されている。
この製造方法によれば、1次粒子の平均粒径が0.1〜1μmであり、低凝集で且つ粒度分布が狭い粒状銀粉が得られるとされている。しかしながら、この方法では、重金属のアンミン錯体の存在下で銀塩を還元するため、重金属が不純物として混入しやすく、得られる銀粉の純度が低下する可能性がある。また、具体的な粒度分布は開示されておらず、どの程度の粒度分布を有した銀粉であるか不明である。
一方、銀塩のアンミン錯体を含む溶液と還元剤溶液を連続的に混合して還元する連続方式による粒度分布改善の試みも提案されている。例えば、特許文献2は、銀アンミン錯体水溶液S1が一定の第一流路aを流れ、その第一流路aの途中に合流する第二流路bを設け、この第二流路bを通じて有機還元剤及び添加剤S2を流し、第一流路aと第二流路bとの合流点mで接触混合して還元析出させる銀粉の製造方法が開示されている。
しかしながら、この方法で得られる銀粉は、走査型電子顕微鏡像の画像解析により得られる一次粒子の平均粒径DIAが0.6μm以下で、結晶子径が10nm以下であり、微細粒子であるため、一般的な銀ペーストの用途には不向きであり、用途が限られたものとなってしまう。また、反応溶液中の銀濃度が低く、生産性に優れた製造方法とは言い難い。
ここで、上述した製造方法を含めて、銀源として用いる原料は硝酸銀が一般的である。しかしながら、硝酸銀はアンモニア水等への溶解過程で有毒な亜硝酸ガスを発生し、これを回収する装置が必要となる。また、廃水中に硝酸系窒素やアンモニア系窒素が多量に含まれるので、その処理のための装置も必要となる。更に、硝酸銀は危険物であり劇物でもあるため、取り扱いに注意を要する。このように、硝酸銀を銀粉の原料として用いる場合は、環境に及ぼす影響やリスクが他の銀化合物に比べて大きいという問題点がある。
そこで、硝酸銀を原料とせずに、塩化銀を還元して銀粉を製造する方法も提案されている。塩化銀は危険物にも劇物にも該当せず、遮光の必要はあるものの比較的取り扱いが容易な銀化合物であるという利点を有している。また、塩化銀は銀の精製プロセスの中間品としても存在し、電子工業用として十分な純度を有している。
例えば、特許文献3には、塩化銀の銀に対して1〜5当量の水酸化アルカリ及び/又は炭酸アルカリを溶解させたアルカリ水溶液中において、還元剤により70〜100℃で塩化銀を処理して銀粉を得る方法が開示されている。しかしながら、この方法は、高純度銀を精製することを目的としたものであり、上述した銀ペーストに使用するためには粒径の均一性及び分散性に問題がある。
また、特許文献4には、塩化銀をアンモニア水に銀濃度で1〜100g/lとなるように溶解した後、この溶液に保護コロイドの存在下で還元剤を加えて攪拌し、溶液中の塩化アミン銀を液相還元して銀超微粒子を得る方法が開示されている。しかしながら、この方法で得られる銀粉の粒径は0.1μm以下と非常に微細であるため、電子工業用としては用途が限られたものとなってしまう。
以上のように、銀粉の製造方法については多くの提案がなされているが、平均粒径が0.1μmから数μm程度で均一な粒径を有した銀粉、すなわち粒度分布が狭い銀粉を得ることと、優れた生産性を有し低コストで銀粉を得ることが両立できていなかった。
以下、本発明に係る銀粉の製造方法及びその製造方法において用いられる銀粉の製造装置の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という。)について、図面を参照しながら以下の順序で詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて適宜変更することができる。
1.銀粉の製造方法
1−1.銀粒子の生成
1−2.銀粒子の成長(銀粉の生成)及び銀粉の回収
2.銀粉の製造装置
3.実施例
<1.銀粉の製造方法>
本実施の形態に係る銀粉の製造方法は、銀錯体を含む銀溶液と還元剤を含む還元剤溶液とを混合して混合液とし、その混合液中で銀錯体を還元して銀粉を含む反応液を得た後、洗浄処理と乾燥処理を施して銀粉を製造する方法である。
具体的に、この銀粉の製造方法では、銀溶液と還元剤溶液とが反応する反応空間内の分離された領域に銀溶液と還元剤溶液を同時に連続的且つ定量的に供給し、その領域内において銀溶液と還元剤溶液とを混合して銀錯体から銀粒子を生成させる。そしてその後、その分離された領域から、生成した銀粒子を含む混合液をその領域外の反応空間に排出して銀粒子を成長させ、その銀粒子を反応空間外に排出して還元反応を終了させることを特徴としている。
この銀粉の製造方法では、一定の限られた領域である、銀溶液と還元剤溶液とが反応する反応空間内の分離された領域に、それぞれの溶液を同時に連続的且つ定量的に供給して混合し、先ず、その領域において銀粒子を生成させることが重要となる。このように、限られた一定領域にて銀粒子を生成させることで、一定の粒成長により成長した銀粒子を得ることができる。そして次に、この製造方法では、生成させた銀粒子を含む混合液をその領域外の反応空間に排出し、その略一定の大きさに揃った銀粒子を核として反応空間内を経由させ、還元反応を進行させることによって銀粒子を成長させる。このように、一定の粒成長により得られた銀粒子を核として還元反応を進行させることによって、粒度分布の狭い均一な粒径を有する銀粉を得ることができる。
<1−1.銀粒子の生成>
本実施の形態に係る銀粉の製造方法では、先ず、銀溶液と還元剤溶液を同時に連続的且つ定量的に一定の領域に供給し、その領域内においてこれら溶液を混合して還元反応を生じせしめ、銀溶液中の銀錯体から還元物である銀粒子を生成させる。
(銀溶液)
ここで、銀溶液は、還元されて銀となる銀錯体を含む溶液であり、各種銀塩を銀の原料として用いることができる。その中でも、塩化銀をアンモニア水に溶解することにより得たものであることが好ましい。これにより、低コストで、環境への影響も少ないプロセスで銀粉を製造することができる。
すなわち、従来から通常行なわれている銀粉の製造プロセスでは、硝酸銀をアンモニア水に溶解して用いることが多いが、硝酸銀は溶解過程で亜硝酸ガスを発生するため、これを回収する装置が必要となる。また、還元後の廃液もアンモニア系窒素と硝酸系窒素の混合液となるため、廃液処理コストが大きくなるという問題がある。一方で、塩化銀を原料とすることにより、硝酸銀を出発原料とする方法で必要とされた亜硝酸ガスの回収装置や廃水中の硝酸系窒素の処理装置を設置する必要がなく、環境への影響も少ないプロセスとなり、製造コストの低減を図ることができる。また、粒径制御と反応液中の銀の高濃度化を両立することにおいて、塩化銀を用いることで他の銀塩より容易に行えることが実験的に確認されている。
原料として用いる塩化銀は、得られる銀粉への不純物の混入を防止するため、高純度のものを用いることが好ましい。このような塩化銀としては、高純度塩化銀が工業用に安定的に製造されている。また、塩化銀を溶解するアンモニア水についても、工業的に用いられる通常のものでよいが、可能な限り高純度のものが好ましい。
銀溶液中の銀濃度としては、特に限定されないが、銀溶液と還元剤溶液とを混合させた混合液中の銀濃度が20g/L以上60g/L以下となるように調製することが好ましい。混合液中の銀濃度が20g/L未満となるような銀溶液では、得られる銀粉に問題はないが、時間当たりに得られる銀粉の量が少なくなるため生産性が低下する。一方で、混合液中の銀濃度が60g/Lを超えるような銀溶液では、凝集が起こりやすくなり銀粉の粒度分布が悪化することがある。また、銀塩として塩化銀を用いた場合には、アンモニアへの溶解度の点から溶解が困難となる。
(還元剤溶液)
還元剤溶液は、銀溶液中に銀錯体と還元する還元剤を含む溶液である。その還元剤としては、特に限定されないが、アスコルビン酸を用いることが好ましい。還元剤として、一般的なヒドラジンやホルマリン等を用いることもできるが、還元力が強いため銀粒子中の結晶が小さくなりやすい。一方、アスコルビン酸は還元作用が緩やかであるため、銀粒子中の結晶粒が成長しやすく、また粒径制御が容易である。また、還元剤溶液としては、反応の均一性あるいは反応速度を制御するために、還元剤を純水等で溶解又は希釈して濃度調整した水溶液として用いることもできる。
また、還元剤溶液には、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、変性シリコンオイル系界面活性剤、ポリエーテル系界面活性剤から選択される1種以上の分散剤を含ませることが好ましい。これらの分散剤を還元剤溶液に添加することにより、還元反応により生成した銀粉の核となる銀粒子や銀粒子が成長した銀粉の凝集を防ぐことができ、分散性が良好な、すなわち粒度分布が狭い銀粉をより効率的に得ることができる。なお、この分散剤は、銀溶液に添加混合しておくことも選択肢としてはあり得るが、還元剤溶液に混合しておく方が分散性の良い銀粉が得られることが確認されている。このことは実験的に確認された結果であるが、還元剤溶液と分散剤を混合しておくことによって、核発生あるいは核成長の場に分散剤を構成する水溶性高分子が存在するようになり、核あるいは銀粉の表面に迅速にその水溶性高分子が吸着するためと考えられる。
還元剤溶液への分散剤の添加量としては、特に限定されず、分散剤の種類や得ようとする銀粉の粒径により適宜決めればよいが、上述のいずれの分散剤を用いた場合であっても、銀溶液中に含有される銀に対して3質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。なお、分散剤として用いるポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンは、還元反応時に発泡する場合があるため、銀溶液又は還元剤混合液に消泡剤を添加してもよい。
還元剤溶液の温度としては、特に限定されないが、銀溶液の保持温度以上、すなわち30℃以上45℃以下の範囲内の保持温度以上であって還元剤溶液を混合させたときの銀溶液の温度が55℃以下となる範囲の温度に調整することが好ましい。このような還元剤溶液の温度は、銀溶液の保持温度と還元剤溶液の添加量等から決定することができる。還元剤溶液の温度が30℃よりも低いと、還元剤溶液の添加時に銀溶液の温度が下がって銀塩が析出し易い状態となる。また、還元剤溶液を添加して混合させた後の銀溶液の温度が55℃を超えると、生成する銀粉の凝集が起こり易くなる。
(一定の領域)
銀溶液と還元剤溶液を同時に連続的且つ定量的に供給して混合させる場となる一定の領域とは、銀溶液と還元剤溶液とが還元反応して銀粉を生成させる反応空間内における分離された領域をいう。この領域は、例えば後述する図1に示すような銀粉製造装置10における混合管30等によって形成することができる。
本実施の形態に係る銀粉の製造方法では、この反応空間内における分離された一定の領域に、銀溶液と還元剤溶液とを同時に定量的且つ連続的に供給し、この領域内において各溶液を混合して還元反応を生じさせる。すると、この領域内における混合時に、銀溶液中の銀錯体と還元剤との還元反応が生じ、銀錯体の還元による銀粒子が生成する。
この銀粉の製造方法では、このように、還元反応場となる一定の領域に定量的且つ連続的に銀溶液と還元剤溶液を供給することで、その還元反応場における銀錯体の濃度と還元剤の濃度とが一定に保たれるようになり、還元反応により生じる銀粒子の生成速度とその濃度が一定となる。これにより、一定の粒成長で銀粒子を生成させることができ、大きさの揃った銀粒子を得ることができる。
そして、詳しくは後述するが、ここで生成する銀粒子は、その領域から混合液と共にその領域外の反応空間に排出され、反応空間内における成長の核、すなわち銀粉の生成の核となる。したがって、この一定の領域において大きさの揃った銀粒子を得ることができることにより、その銀粒子を核として一定の割合でその銀粒子の成長が起こり、その結果、粒度分布が狭い均一な粒径を有する銀粉を生成させることができる。
ここで、上述した一定の領域内での還元反応は、供給された銀溶液と還元剤溶液とが混合され、その混合液がその領域を通過するまでの短時間の間において生じるものであるため、銀粉への成長初期段階である銀粒子が生じることとなる。したがって、この一定の領域の大きさを制御して、各溶液が供給されて混ざり合いその混合液が排出されるまでの時間を調整することによって、得られる銀粒子の大きさ(粒径)を制御することができる。
そして、得られる銀粉の粒径は、この一定の領域にて生成される銀粒子の大きさとその個数に依存することになる。そのため、一定の領域の大きさを制御して、各溶液が供給されて混ざり合いその混合液が排出されるまでの時間を調整して、銀粒子の大きさを制御することによって、その銀粒子を核として得られる銀粉の平均粒径を所望とする大きさに制御することができる。例えば、混合液がその領域から排出されるまでの時間を長くするように、例えばその領域の大きさを制御して、その領域内で成長する銀粒子の粒径を大きくすることによって、銀粉の平均粒径を大きくすることができる。
また、その各溶液が供給されて混ざり合いその混合液が排出されるまでの時間は、銀溶液と還元剤溶液とが十分に混合され、銀錯体から銀粉への成長の核となる銀粒子が生成される時間とすることができる。これにより、銀錯体の濃度と還元剤の濃度が一定に保たれた反応場で核発生の速度とその濃度が一定に維持され、一定の大きさを有する銀粒子が定量的に混合液内で生成される。
また、その各溶液が供給されて混ざり合いその混合液が排出されるまでの時間は、その領域の大きさと共に、銀溶液と還元剤溶液の各溶液の供給流量や混合条件によっても制御することができる。したがって、例えば、銀粉の生産性を上げるためには、その領域を大きくする、あるいは、各溶液の供給流量を上げるようにすればよい。
なお、一定の領域の大きさは、例えば図1に示すように円筒形状の混合管によってその領域を形成する場合には、反応槽内に垂直に設けた混合管の鉛直方向の長さ及びその円筒形状の径によって定められる。
(銀溶液と還元剤溶液の供給及び供給速度)
上述した銀溶液と、還元剤溶液の供給方法としては、定量的且つ連続的に送液することが可能であれば特に限定されるものではなく、例えば一般的な定量ポンプ等を用いることができる。ただし、定量ポンプを用いる場合には、脈動の小さいものが好ましい。送液の脈動が大きい場合には、上述した一定の領域や、反応空間における混合液内での滞留時間が一定にならず、銀粉の粒径が不均一となって粒度分布が大きくなる可能性がある。
また、銀溶液と還元剤溶液の供給速度としては、特に限定されないが、銀錯体を還元する還元剤の化学当量を1としたとき、銀溶液中の銀錯体の時間当たりの供給量である供給速度と還元剤溶液中の還元剤の時間当たりの供給量である供給速度の比が、化学当量で1.0以上1.5以下となるように供給することが好ましく、1.0以上1.2以下となるように供給することがより好ましい。この供給速度の比が1.0未満であると、銀溶液中の銀錯体を完全に還元できない場合がある。一方で、この供給速度の比が1.5を超えると、銀粒子が微細になり、得られる銀粉も微細になり過ぎることがある。
(銀溶液と還元剤溶液との混合)
上述したように、一定の領域は、例えば混合管を反応槽により形成される反応空間内に設置することで形成することができる。そして、その混合管の径(水平方向の長さ)と、混合管の長さ(鉛直方向の長さ)、すなわち銀溶液及び還元剤溶液のそれぞれの供給位置から混合液を排出する排出口までの距離とにより、銀溶液と還元剤溶液との混合を制御することができる。
また、混合管等により形成される領域における銀溶液と還元剤溶液との混合に際しては、その一定の領域の内部に攪拌羽を備えた攪拌機構を設置し、その攪拌羽を回転させることにより混合液を攪拌しながら行うことができる。
このとき、攪拌機構を構成する攪拌羽は、混合管等により形成される一定の領域の排出方向に混合液が流れるように回転させることが好ましい。その領域内に戻る方向に攪拌羽を回転させた場合、その領域内での銀粒子の滞留時間がばらついて銀粒子の粒度分布が広くなって、その結果として得られる銀粉の粒度分布も広くなる可能性がある。
また、攪拌羽による攪拌条件、特に攪拌羽の回転によって生じるせん断力によっても、得られる銀粉の粒径を制御することができる。すなわち、せん断力が強くなるような条件で混合液を攪拌混合すると、生成する銀粒子の凝集が少なくなって粒径が小さくなるため、その銀粒子を核として成長する銀粉の粒径も小さくなる。
また、攪拌羽の設置位置としては、特に限定されないが、供給された銀溶液と還元剤溶液とが十分に混合される前にそれぞれの溶液と接触しない位置に設置されることが好ましく、上述のような混合管により一定の領域を形成する場合には、その混合管の出口付近、すなわち混合管の排出口付近に攪拌羽を設置することが好ましい。
<1−2.銀粒子の成長(銀粉の生成)及び銀粉の回収>
本実施の形態に係る銀粉の製造方法では、上述のようにして反応空間内の分離された一定の領域にて銀粒子を生成させた後、その分離された一定の領域から、生成した銀粒子を含む混合液をその領域外の反応空間に排出して銀粒子を成長させ、成長させた銀粒子を反応空間外に排出して還元反応を終了させることで銀粉を得る。
上述のようにして一定の領域内において得られた銀粒子を含む混合液を、その領域外の反応空間に排出すると、その反応空間内においてさらなる還元反応が進行する。このとき、混合液と共に排出された銀粒子が核となり、反応空間内の混合液中を上昇しながら滞留して、その銀粒子に基づいて還元が進行することで、銀粒子が成長する。上述のように、反応空間に排出された銀粒子は、一定の限られた領域内において一定の生成速度と濃度のもとに粒成長した大きさの揃った銀粒子であるため、この成長の核としての銀粒子を反応空間内において成長させることによって、粒径が略均一であり粒度分布が狭い銀粉を生成させることができる。
また、銀粒子の大きさ(粒径)は、一定の限られた領域の大きさによって制御することができるので、その制御された略均一な粒径を有する銀粒子を核として成長させることによって、その結果として所望とする平均粒径を有する銀粉を容易に製造することができる。
ここで、排出された銀粒子、もしくは銀粒子を核として成長した銀粒子の反応空間内での滞留時間は、混合液中の銀錯体が還元されることにより、核としての銀粒子が所定の大きさにまで成長するまでの時間とすればよい。なお、この所定の大きさとは、反応空間外において、成長した銀粒子に基づいて還元反応が完了し、その結果として得られる銀粉が所望とする平均粒径を有するようになる大きさである。
また、この方法では、それぞれの条件を一定にすることによって、安定した粒径の銀粉を得ることができるため、例えば予備試験を実施して条件を決定することにより、容易な操作で所望とする平均粒径を有し粒度分布が狭い良好な銀粉を得ることができる。
上述のようにして混合液中の銀粒子を反応空間内で滞留させて成長させると、次に、成長した銀粒子を含む混合液(銀粒子スラリー)をオーバーフローさせて排出し、例えば受け槽等に貯留する。この受け槽では、オーバーフローした混合液が貯留され、混合液に含まれる成長した銀粒子を核とした銀錯体の還元反応が完了して、銀粉が生成する。すなわち、この受け槽にて混合液中に含まれる銀錯体の還元反応が終了して銀粉となる。このように、得られた銀粒子スラリーをオーバーフローさせることによって、連続的且つ定量的にそのスラリーを排出させることができ、受け槽にて効率的に還元反応を終了させて銀粉を生成させることができ、高い生産性でもって銀粉を製造することができる。
なお、受け槽にて還元反応が完了して得られた銀粉を含む反応液に対しては、固液分離等することによって、その反応液から銀粉を回収する。
上述のようにして銀粉スラリーを固液分離等して得られた銀粉は、続いて、洗浄処理と乾燥処理とが施される。
洗浄方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、得られた銀粉を水に投入し、攪拌機又は超音波洗浄器を使用して攪拌した後、濾過して銀粉を回収する方法が用いられる。この洗浄方法においては、水への投入、攪拌洗浄、及び濾過からなる操作を、数回繰返して行うことが好ましい。また、洗浄に用いる水としては、銀粉に対して有害な不純物元素を含有していない水を使用し、特に純水を使用することが好ましい。
また、銀溶液中の原料として塩化銀を用いた場合には、固液分離して得られた銀粉を、水酸化ナトリウム水溶液で洗浄することが好ましい。水酸化ナトリウム水溶液で洗浄することによって、銀粉に含まれる塩素等の不純物を効率よく除去することができる。使用する水酸化ナトリウム水溶液の濃度としては、特に限定されるものではないが、0.005〜1.000mol/L程度とすることが好ましい。また、水酸化ナトリウム水溶液での洗浄後は、ナトリウムを除去するために水洗することが好ましい。
そして、洗浄後の銀粉に対しては乾燥処理を施し、銀粉に付着した水分を蒸発させて乾燥する。乾燥方法としては、特に限定されないが、例えば、洗浄後の銀粉をステンレスパッド上に置き、大気オーブン又は真空乾燥機等の市販の乾燥装置を用いて、40〜80℃程度の温度で加熱することにより行うことができる。
以上のように、本実施の形態に係る銀粉の製造方法では、銀溶液と還元剤溶液とが反応する反応空間内の分離された領域に銀溶液と還元剤溶液を同時に連続的且つ定量的に供給し、その領域内において銀溶液と還元剤溶液とを混合して銀粒子を生成させる。そしてその後、その分離された領域から、生成した銀粒子を含む混合液をその領域外の反応空間に排出して銀粒子を成長させ、その銀粒子を反応空間外に排出して還元反応を終了させる。
このような銀粉の製造方法によれば、一定の領域にて大きさの揃った銀粒子が生成し、反応空間内でその銀粒子が核となって成長するようになるので、銀粉の一次粒子の平均粒径が0.1μmから数μm程度であって、その粒度分布の狭い銀粉を、高い生産性でもって安定的に製造することができる。このようにして得られた粒度分布の狭い銀粉によれば、電子機器の配線層や電極等の形成に利用される樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペースト等のペースト用銀粉として好適に用いることができる。なお、一次粒子とは、外見上から判断して、単位粒子と考えられるものを意味する。
<2.銀粉の製造装置>
次に、上述した銀粉の製造方法に用いられる銀粉の製造装置について説明する。図1は、本実施の形態に係る銀粉の製造装置の構成の一例を示す概略断面図である。なお、銀粉の製造装置としては、この図1の具体例に限定されるものではなく、各構成部材のサイズも含めて適宜変更することができる。
図1に示すように、銀粉製造装置10は、銀錯体を含む銀溶液と還元剤を含む還元剤溶液とが反応する反応槽20と、反応槽20内に設けられ、その反応槽20内において分離された領域をなす混合管30とを備える。さらに、反応槽20から排出された混合液を貯留する受け槽35を備え、この受け槽35にて還元反応が完了する。
(反応槽)
反応槽20は、銀錯体を含む銀溶液と還元剤を含む還元剤溶液とを反応させ、その銀溶液中の銀錯体を還元剤により還元する還元反応の場となる反応空間21を構成する。この反応槽20には、その内部に、後述する混合管30が設けられており、その混合管30により銀溶液と還元剤溶液との反応空間21を構成する反応槽20内において分離された領域が構成されている。
このような反応槽20では、後述する混合管30内における銀溶液と還元剤溶液との混合により生じた銀粒子を含む混合液が混合管30の排出口33を介して流入し、その銀粒子を核としてさらなる還元反応が進行して、成長した銀粒子が生成する。より具体的には、混合液と共に流入した銀粒子が核となり、反応槽20における反応空間内の混合液中を上昇しながら滞留して還元反応が進行し、銀粒子が成長していく。
反応槽20の形状としては、特に限定されないが、反応槽20内の一部で流れが悪くなることを防ぐ観点から円筒形とすることが好ましい。また、反応槽20の大きさは、混合管30から流入した銀粒子の反応空間内での滞留時間に影響するものである。そのため、反応槽20の大きさを決める内径と深さについては、還元反応が進行して成長した銀粒子が反応槽20から排出されるまでに十分な還元反応が生じる滞留時間となるように適宜設定することができる。そして、この反応槽20の大きさによって滞留時間を制御することで、滞留して成長する銀粒子に基づいて得られる銀粉の平均粒径を所望とする範囲に制御することができる。
また、反応槽20は、その上部にオーバーフロー排出部22を備える。オーバーフロー排出部22は、反応槽20内の混合液の液面から、成長した銀粒子を含む混合液をオーバーフローさせて反応槽20外に排出する。このオーバーフロー排出部22の大きさとしては、銀溶液と還元剤溶液の合計流量に応じて適宜決定することができ、その合計流量がオーバーフロー排出部22から十分に排出される大きさとすればよい。
(混合管)
混合管30は、反応槽20内での銀溶液と還元剤溶液との反応空間において分離された一定の領域を形成するものであり、銀溶液と還元剤溶液が同時に連続的且つ定量的に供給される供給口31と、銀溶液と還元剤溶液とを混合して銀粒子を生成させる混合部32と、混合部32にて生成した銀粒子を含む混合液が排出される排出口33とからなる。
このような混合管30では、供給口31を介して供給された銀溶液と還元剤溶液とが、排出口33まで移動する間に混合部32にて混合されて還元反応により銀粒子が生成し、生成した銀粒子を含んだ混合液が排出口33を介して排出される。
混合管30は、混合液の流入と排出を円滑にするために、反応槽20内において垂直に設けることが好ましい。また、混合管30の形状としては、特に限定されないが、その水平断面が円形状で一定形状である円筒形とすることが好ましい。水平断面が円形状で一定形状である円筒形とすることにより、混合管30内における銀溶液と還元剤溶液との混合液の流れを円滑にし、滞留することなく混合管30の下方に移動させることができる。混合液が滞留すると、生成する銀粒子の成長が不均一となり、得られる銀粉の粒度分布が広くなることがある。
また、混合管30の内径と長さ(供給口31から排出口33までの長さ)は、銀溶液と還元剤溶液の合計流量に応じて、粒径制御に必要な銀粒子が生成される条件から適宜設定することができる。
混合管30の供給口31は、混合液をその供給口31から排出口33の方向に一様に流す(移動させる)観点から、混合管30の上部に設けることが好ましく、上端に設けることが好ましい。また、供給口31は、銀溶液を供給する銀溶液供給配管41と、還元剤溶液を供給する還元剤溶液供給配管42とがそれぞれ接続される接続部(図示しない)を有しており、それぞれの供給配管41,42を通って流れてきた各溶液がそれぞれ個別に供給口31を介して混合管30内に供給される。なお、各溶液を、混合させた混合液の状態で供給口31を介して混合管30に供給することは、混合管30への供給前に銀錯体の還元反応が生じ、生成する銀粒子の大きさにばらつきが生じてしまうため好ましくない。
なお、銀溶液供給配管41、還元剤溶液供給配管42には、それぞれ定量ポンプ等の供給機構43,44が設けられており、銀溶液供給槽45から銀溶液が、還元剤溶液供給槽46から還元剤溶液が、それぞれ同時に定量的且つ連続的に、供給口31を介して混合管30内に供給されるようになっている。
混合管30の排出口33は、混合液をその供給口31から排出口33の方向に一様に流す(移動させる)観点から、混合管30の下部に設けることが好ましく、下端に設けることが好ましい。また、排出口33を構成する下端部は、反応槽20内で開放された状態とする。すなわち、反応槽20内の底部にその排出口33を構成する下端部が接地した状態とするのではなく、排出口33と反応槽20内の底部との間に空間を設けておく。したがって、混合管30は、反応槽20内で浮いた状態のように設置される。これにより、混合管30内で生成した銀粒子を含む混合液を、排出口33付近において滞留させることなく、排出口33を介してこの混合管30以外の反応槽20内の反応空間に効率的に排出させることができる。
なお、混合管30の下端部の側面に排出口33を設けるような場合には、上述のように反応槽20内で浮いた状態にして混合管30を設置しても、あるいは混合管30の下端部が反応槽20内の底部に接地した状態に混合管30を設置しても、どちらでもよい。
混合管30の高さ方向(鉛直方向)における供給口31と排出口33の設置位置に関して、供給口31は、反応槽20のオーバーフロー液面、すなわち反応槽20の高さ方向におけるオーバーフロー排出部22の位置より上方に配置されるとともに、混合管30の排出口33は、そのオーバーフロー液面より下方に配置されてなる。このように混合管30を反応槽20内に配置することによって、銀溶液と還元剤溶液とが一定の濃度でもって供給され、一定の生成速度と濃度で大きさの揃った銀粒子を生成させることができる。
また、混合管30には、その内部に攪拌機構34を設けることができる。これにより、混合管30の混合部32における銀溶液と還元剤溶液との混合を、その攪拌機構34による攪拌を伴って行うことができ、より効率的に各溶液を混合することができる。
攪拌機構34としては、例えば攪拌羽34aと攪拌羽34aを回転させる回転軸34bとからなる構成とすることができる。このとき、攪拌羽34aの設置位置としては、特に限定されないが、供給された銀溶液と還元剤溶液とが十分に混合される前にそれぞれの溶液と接触しない位置とすることが好ましい。具体的には、混合管30の高さ方向における下方(下部)の位置に設置することが好ましく、混合管30の出口に相当する排出口33付近に設置することがより好ましい。混合管30内に供給された銀溶液と還元剤溶液とが混合される前に攪拌羽34bに当ると、生成する銀粒子が微細になりすぎてしまうため、混合管30内の上部への設置は好ましくない。
(受け槽)
受け槽35は、反応槽20に隣接して設けられ、反応槽20のオーバーフロー排出部22から連続的且つ定量的に排出された、成長した銀粒子を含む混合液を受け入れて貯留する。この受け槽35では、成長した銀粒子に基づいて残留する銀錯体に対して還元反応が生じ、最終的に還元反応が完了して銀粉が生成する。すなわち、この受け槽35では、反応槽20から排出された混合液中の銀錯体の還元反応が終了して、銀粉となる。
この受け槽35には、例えば貯留させた混合液を攪拌する攪拌装置(図示せず)を設けることができる。これにより、得られた銀粉が沈殿を形成することを防止することができ。より効率的に、粒径の揃った銀粉を製造することができる。
以上のような構成を有する銀粉の製造装置では、混合管30内において、供給口31を介して同時に連続的且つ定量的に供給された銀溶液と還元剤溶液とが排出口33から排出されるまでの間に混合部32にて混合され、銀溶液中の銀錯体から銀粒子が生成される。その後、生成した銀粒子を含む混合液が混合管30の排出口33から反応槽20に排出され、その反応槽20内に流入した銀粒子が核となって、反応槽20内の混合液中を上昇しながら滞留している間に銀粒子が成長していく。そして、反応槽20では、例えばオーバーフロー排出部22を介して成長した銀粒子を含む混合液(銀粒子スラリー)をオーバーフローさせて反応槽20外に排出し、受け槽35にて貯留してその混合液中に含まれる銀錯体の還元反応を終了させる。
このように、本実施の形態に係る銀粉の製造装置では、先ず、一定の分離された領域である混合管30内において、銀溶液と還元剤溶液を同時に連続的且つ定量的に供給して混合させ、銀粒子を得るようにしている。そのため、分離された一定領域をなす混合管30では、銀錯体の濃度と還元剤の濃度とが一定に保たれ、還元反応により生じる銀粒子の生成速度とその濃度が一定となり、一定の粒成長で銀粒子を生成させることができる。これにより、大きさの揃った銀粒子を混合管30内で生成させることができる。
そして、このように大きさの揃った銀粒子を含む混合液を、混合管30の排出口33を介して反応槽20内に流入させることによって、その一定の大きさの銀粒子が核となって、反応槽20内を滞留する間にさらなる還元反応が生じて成長していく。これにより、その銀粒子に基づいて粒度分布の狭い銀粉を生成させることができる。
以上のように、本実施の形態に係る銀粉の製造装置によれば、所望とする粒径を有し、その粒度分布が狭い銀粉を効率的に製造することができる。また、上述のように混合管30の供給口31を介して銀溶液と還元剤溶液の供給を連続的に行うとともに、反応槽20のオーバーフロー排出部22を介して銀粉スラリーの排出を連続的に行うことで、連続的に、高い生産性でもって銀粉を製造することができる。
<3.実施例>
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
[実施例1]
38℃の温浴中において液温36℃に保持した25%アンモニア水に、塩化銀623g(住友金属鉱山(株)製、純度99.9999%、水分率12.5%)を攪拌しながら投入して銀溶液4.3Lを作製した。
また、還元剤のアスコルビン酸209g(関東化学(株)製、試薬)と、分散剤のポリビニルアルコール23g((株)クラレ製、PVA205)と、界面活性剤(日本エマルジョン(株)製、SS-5602)2.9gを、36℃の純水に溶解して還元剤溶液1.4Lと作製した。
次に、図1に示すような銀粉の製造装置を準備した。この銀粉の製造装置においては、反応槽として、内径89mm、底面からオーバーフロー位置(オーバーフロー排出口の設置箇所)までの深さが125mmのポリエチレン(PE)製の円筒容器を使用した。また、混合管として、内径64mm、長さ150mmのPE製の円筒管を使用した。この混合管は、反応槽の略中心位置に垂直に設け、混合管の供給口の位置が反応槽のオーバーフロー位置より上に50mm、混合管の排出口の位置が反応槽のオーバーフロー位置より下に100mmとなるように配置した。また、混合管内部には、その混合管の下部(排出口付近)に、外径40mmの攪拌羽を設置した。また、反応槽の隣接する位置に、反応槽からオーバーフローさせた混合液を貯留する受け槽を設置した。
作製した銀溶液と還元剤溶液を、チューブポンプを用いてそれぞれ2.1L/分、0.6L/分の速度で製造装置の混合管に送液した。そして、供給した銀溶液と還元剤溶を混合管内で混合させ、混合管内を通過する混合液を混合管内部の下端に設けた攪拌羽により340rpmの回転数で攪拌した。なお、このとき、銀錯体を還元する還元剤の化学当量を1としたとき、銀錯体の供給速度と還元剤の供給速度との比は1.10となる。また、銀溶液と還元剤溶液を混合した混合液中の銀濃度は74g/Lとなる。
混合管において混合され通過した銀溶液と還元剤溶液との混合液は、反応槽内に流入した。混合液が流入した反応槽内においては、その混合液を所定の時間保持して、流入した混合液に含まれる銀粒子を発生の核として成長させる還元反応を生じさせた。
2分間の送液終了後の混合液(成長した銀粒子を含んだスラリー)を、反応槽上部に設けたオーバーフロー排出口からオーバーフローさせて受け槽に貯留した。受け槽にて所定時間攪拌しながら保持した後、スラリーを開口径0.1μmのメンブランフィルターを使用して濾過して、銀粒子を固液分離した。続いて、回収した銀粒子を0.01mol/LのNaOH水溶液4L中に投入して15分間攪拌した後、開口径0.1μmのメンブランフィルターで濾過して回収した。この0.01mol/LのNaOH水溶液への投入、攪拌、及び濾過からなる洗浄操作は、更に2回繰り返した。その後、銀粒子を純水4L中に投入し、攪拌、及び濾過からなる操作を行った後、その銀粒子をステンレスパッドに移し、真空乾燥機にて60℃で10時間乾燥して銀粉を得た。
得られた銀粉は、平均粒径が0.38μmで、これを標準偏差で除したバラツキを示す指標は0.37であり、均一な粒径を有し粒度分布の狭い銀粉が得られていることが確認された。
[実施例2]
38℃の温浴中において液温36℃に保持した25%アンモニア水に、塩化銀2297g(住友金属鉱山(株)製、純度99.9999%、水分率12.5%)を攪拌しながら投入して銀溶液16.0Lを作製した。
また、還元剤のアスコルビン酸695g(関東化学(株)製、試薬)と、分散剤のポリビニルアルコール78g((株)クラレ製、PVA205)と、界面活性剤(日本エマルジョン(株)製、SS-5602)9.7gを、36℃の純水に溶解して還元剤溶液4.7Lを作製した。
実施例1と同じ銀粉の製造装置を用い、作製した銀溶液と還元剤溶液を、チューブポンプを用いてそれぞれ1.1L/分、0.3L/分の速度で、製造装置の混合管に送液した。そして、供給した銀溶液と還元剤溶を混合管内で混合させ、混合管内を通過する混合液を混合管内部の下端に設けた攪拌羽により340rpmの回転数で攪拌した。なお、このとき、銀錯体を還元する還元剤の化学当量を1としたとき、銀錯体の供給速度と還元剤の供給速度との比は1.05となる。また、銀溶液と還元剤溶液を混合した混合液中の銀濃度は74g/Lとなる。
混合管において混合され通過した銀溶液と還元剤溶液との混合液は、反応槽内に流入した。混合液が流入した反応槽内においては、その混合液を所定の時間保持して、流入した混合液に含まれる銀粒子を発生の核として成長させる還元反応を生じさせた。
14分間の送液終了後の混合液(成長した銀粒子を含んだスラリー)を、反応槽上部に設けたオーバーフロー排出口からオーバーフローさせて受け槽に貯留した。受け槽にて所定時間攪拌しながら保持した後、スラリーを開口径0.1μmのメンブランフィルターを使用して濾過し、銀粒子を固液分離した。続いて、回収した銀粒子を0.01mol/LのNaOH水溶液15L中に投入して15分間攪拌した後、開口径0.1μmのメンブランフィルターで濾過して回収した。この0.01mol/LのNaOH水溶液への投入、攪拌、及び濾過からなる洗浄操作は、更に2回繰り返した。その後、銀粒子を純水15L中に投入、攪拌、及び濾過からなる操作を行った後、その銀粒子をステンレスパッドに移し、真空乾燥機にて60℃で10時間乾燥して銀粉を得た。
得られた銀粉は、平均粒径が0.41μmで、これを標準偏差で除したバラツキを示す指標は0.48であり、均一な粒径を有し粒度分布の狭い銀粉が得られていることが確認された。