電子機器における配線層や電極などの形成には、樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペーストのような銀ペーストが多用されている。これらの銀ペーストは、塗布又は印刷した後、加熱硬化あるいは加熱焼成されることによって、配線層や電極などとなる導電膜を形成する。
例えば、樹脂型銀ペーストは、銀粉、樹脂、硬化剤、溶剤などからなり、導電体回路パターン又は端子の上に印刷し、100℃〜200℃で加熱硬化させて導電膜とし、配線や電極を形成する。また、焼成型銀ペーストは、銀粉、ガラス、溶剤などからなり、導電体回路パターン又は端子の上に印刷し、600℃〜800℃に加熱焼成して導電膜とし、配線や電極を形成する。これらの銀ペーストで形成された配線や電極では、銀粉が連なることで電気的に接続した電流パスが形成されている。
銀ペーストに使用される銀粉は、粒径が0.3μmから2μmであり、形成する配線の太さや電極の厚さによって使用される銀粉の粒径が異なる。また、銀ペースト中に均一に銀粉を分散させることにより、均一な太さの配線、均一な厚さの電極を形成することができる。
銀ペースト用の銀粉に求められる特性としては、用途及び使用条件により様々であるが、一般的で且つ重要なことは、粒径が均一であることである。粒径が不均一になると配線や電極の太さや厚さが不均一となるばかりか、硬化あるいは焼成が不均一となるため、導電膜の抵抗が大きくなったり、導電膜が脆く弱いものになったりする。
また、銀粉には、適度な二次凝集があり樹脂との馴染みが良く分散性が高いことも求められる。二次凝集が不適当で樹脂との馴染みが悪いと分散性も悪くなり、印刷膜中に銀粒子が均一に存在しないため、上述の粒径が不均一な際に生じる問題をさらに助長する。
また、銀粉を他の成分と混練して3本ロールミルで混練することが一般的なペースト製造方法である。二次凝集が極端に少ない場合には、ペースト混練時に粘度が小さくなり過ぎて十分なせん断力が加わらず、混練中に新たに粗大な凝集体を形成してしまう。一方、多くの凝集体が存在するものであれば、粗大な凝集体も含まれることになる。これら粗大な凝集は、3本ロールミルで潰されてフレーク状の粗大粒となってしまう。
更に、銀ペースト用の銀粉に求められる事項としては、製造コストが低いことも重要である。銀粉は、銀ペーストの主成分であり、銀ペースト価格に対して占める割合が大きいからである。製造コストの低減のためには、生産性が高いことや、使用する原料や材料の単価が低いだけでなく、廃液や排気の処理コストが低いことも重要となる。
上述した銀ペーストに使用される銀粉の製造は、硝酸銀などの銀塩のアンミン錯体を含む溶液が入った槽内に還元剤溶液を投入して還元するバッチ式で行なわれることが多い。しかしながら、バッチ式では、還元剤が投入されたポイントで還元反応が始まり、還元剤の投入開始から終了までの間で銀粒子の核が随時発生していくため、均一な粒径の銀粉を得ることは難しい。
このため、バッチ式ではなく、銀塩のアンミン錯体を含む溶液と還元剤溶液を連続的に混合する還元方法が提案されている。
特許文献1には、銀アンミン錯体水溶液S1が一定の第一流路aを流れ、その第一流路aの途中に合流する第二流路bを設け、この第二流路bを通じて有機還元剤及び必要に応じた添加剤S2を流し、第一流路aと第二流路bとの合流点mで接触混合して還元析出させる銀粉の製造方法が開示されている。
しかしながら、この方法で得られる銀粉は、走査型電子顕微鏡像の画像解析により得られる一次粒子の平均粒径DIAが0.6μm以下で、結晶子径が10nm以下であり、微細粒子であるため、一般的な銀ペーストの用途には不向きであり、用途が限られたものとなってしまう。また、この銀粉の製造方法は、反応溶液中の銀濃度が低く、生産性に優れた製造方法とは言い難いものである。
ここで、上述した従来の製造方法を含めて、銀源として用いる原料は、硝酸銀が一般的である。しかしながら、硝酸銀は、アンモニア水等への溶解過程で有毒な亜硝酸ガスを発生し、これを回収する装置が必要となる。また、硝酸銀を用いた場合には、廃水中に硝酸系窒素やアンモニア系窒素が多量に含まれるので、その処理のための装置も必要となる。さらに、硝酸銀は、危険物であり劇物でもあるため、取り扱いに注意を要する。このように、硝酸銀を銀粉の原料として用いる場合は、環境に及ぼす影響やリスクが他の銀化合物に比べて大きいという問題点を抱えている。
そこで、硝酸銀を原料とせずに、塩化銀を還元して銀粉を製造する方法が提案されている。塩化銀は、危険物にも劇物にも該当せず、遮光の必要はあるものの比較的取り扱いが容易な銀化合物であるという利点を有している。また、塩化銀は、銀の精製プロセスの中間品としても存在し、電子工業用として十分な純度を有するものが提供されている。
例えば、特許文献2には、塩化銀をアンモニア水に銀濃度で1〜100g/lとなるように溶解した後、この溶液に保護コロイドの存在下で還元剤を加えて撹拌し、溶液中の銀アンミン錯体を液相還元して銀超微粒子を得る方法が開示されている。しかしながら、この方法で得られる銀粉の粒径は0.1μm以下と微細であるため、電子工業用としては用途が限られてしまう。
さらに、銀粒子の凝集を制御して、ペースト化時の混練性を改善する提案もなされている。例えば、特許文献3には、凝集力が−0.2N/cm2以上0.7N/cm2以下であり、粉体層せん断力測定における圧縮率が20〜50%であり、かつJIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量が3.0〜9.0ml/100gである銀粉が開示されている。
しかしながら、この提案においては、銀粒子の凝集形態に関しては検討されているものの銀粒子の均一性に関して考慮されておらず、焼成の均一化や導電膜の低抵抗化と強度に改善が望まれる。さらに、その製造方法は、連続化が十分に検討されたものではなく、銀粉をより均一なものとするため、連続的な製造方法による銀粉の粉体特性の制御が必要である。
上記のごとく、銀粉及びその製造方法については多くの提案がなされているが、銀粒子の平均粒径が0.3μmから2.0μmで均一な粒径を有した銀粉、すなわち粒度分布がシャープであり、さらに、適度な二次凝集を有する銀粉を得ることができない。また、このような銀粉を生産性が高く且つ低コストで製造することが求められている。
以下、本発明に係る銀粉及びその製造方法の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない限りにおいて適宜変更することができる。
銀粉は、銀粒子からなる。ここで、銀粒子形態を次のように定義する。すなわち、銀粒子を、外見上の幾何学的形態から判断して、単位粒子と考えられるものを一次粒子と呼ぶ。また、一次粒子がネッキングにより2乃至3以上連結し、一次粒子及びネッキングした一次粒子が凝集したものを二次粒子と呼ぶ。したがって、銀粒子は、一次粒子及び二次粒子からなるものである。
<1.銀粉の製造方法>
本発明を適用した銀粉の製造方法は、銀錯体を含む銀溶液と還元剤溶液とをそれぞれ定量的かつ連続的に流路内に供給し、該銀溶液と該還元剤溶液とを流路内で混合させた反応液中で銀錯体を定量的かつ連続的に還元反応を生じせしめ、還元反応が終了した還元後液の銀粒子スラリーを定量的かつ連続的に排出する。これにより、銀粉の製造方法では、還元反応場の銀錯体の濃度と還元剤の濃度が一定に保たれ、核発生の速度とその濃度が一定になり、さらに一定の粒成長を図ることができる。このため、この銀粉の製造方法では、得られる銀粒子の大きさが揃い、粒度分布がシャープな銀粉を得ることができる。さらに、この銀粉の製造方法では、銀溶液と還元剤溶液のそれぞれの流量により反応液中の銀に対する還元剤の還元当量を調整することで、得られる銀粉に適度な凝集状態を形成することができる。また、この銀粉の製造方法では、銀溶液と還元剤溶液の供給と銀粒子スラリーの排出を連続的に行うことで、連続的に銀粉を得ることができ、高い生産性をもって銀粉を製造することができる。
また、この銀粉の製造方法では、塩化銀を原料とすることが可能であり、硝酸銀を出発原料とした際の亜硝酸ガスの回収装置や廃水中の硝酸系窒素の処理装置を必要とせず、環境への影響も少ないプロセスであり、製造コストを低くすることができる。
この銀粉の製造方法は、流路、即ち配管内を流れる銀溶液と、銀溶液の配管と同軸上に設けた配管内を流れる還元溶液とが同方向に流れ、かつ銀溶液の流速に対する還元溶液の流速の比が重要となる。即ち、配管内の銀溶液の流速に対するこの配管内の同軸上に設けた配管から銀溶液の供給方向と同方向に供給する還元剤溶液の流速の比を、銀溶液と還元剤溶液の混合時において1.5以上に制御することが重要となる。
銀粉の製造方法では、混合時における銀溶液と還元剤溶液の流速比を1.5以上、好ましくは1.6以上とすることにより、流速差によって銀溶液と還元剤溶液が迅速かつ均一に混合される。これにより、銀粉の製造方法では、核が発生する時間が短くなり、核発生数が安定する。核が成長して形成される一次粒子の粒径は、核発生数と供給される銀前駆体の量によって決定されるため、連続法により一定量の銀前駆体が供給されている状態では、粒成長が安定的に制御され、一次粒子の粒径を均一に制御することができる。さらに、粒成長の安定化により、粒成長中に形成される一次粒子の凝集状態も一定の範囲に制御することができる。
ここで、流速比とは、銀溶液と還元剤溶液の混合時、即ち、上述の製造方法においては、銀溶液の配管内の同軸上に設けられた還元剤溶液の配管出口での流速比である。
流速比が1.5未満になると、銀溶液と還元剤溶液とが均一混合されるまでに要する時間が長くなり、銀溶液と還元剤溶液が不均一に混合された領域が発生する。不均一に混合された領域の発生はわずかな時間であるが、核発生が瞬時に起こり粒成長する銀溶液の還元では核発生数が不均一となり、一次粒子の粒径が不均一になる。また、粒径の不均一化にともない凝集形成も不均一になり、粗大な凝集粉が発生しやすくなる。
流速比は、大きいほど流速差によって銀溶液と還元剤溶液が迅速かつ均一に混合されるが、銀溶液と還元剤溶液の混合比や装置上の制約を受けるため、実用的な流速比の上限は5程度である。
混合時における還元剤溶液の流速は、1.5〜4m/秒とすることが好ましい。還元剤溶液の流速が1.4m/秒以下になると、銀溶液と均一に混合されるまでの時間が長くなり核発生が不均一になりやすいという問題が生じる。また、還元剤溶液の配管出口に還元された銀が堆積し、これが剥離することによって生じる粗大な銀粒子が混入することがある。一方、還元剤溶液の流速を4m/秒より大きくしてもさらなる粒度分布の改善はみられない。流速比を大きくするために還元液を希釈することになり、廃液量を増やして廃液処理の負担が大きくなり、さらに流体の圧力が大きくなるために装置を高耐圧としなければならず、コスト的に不利となるだけである。
上述した銀粉の製造方法では、銀溶液と還元溶液とが同方向に供給され、均一に混合できる反応管を用いる。銀溶液と還元剤溶液を供給し混合して銀錯体を還元する流路として用いる反応管は、銀溶液を供給する配管内に還元剤溶液を供給する配管を同軸上に設けた構成からなり、この反応管内で銀溶液と還元剤溶液を同方向に供給すものである。
反応管について、一例を示した図1を用いて説明する。この図1(A)は、反応管1の正面を示す図であり、図1(B)は、反応管1のX−X’断面を模式的に示した図である。図1に示すように、この反応管1は、銀錯体を含む銀溶液を供給する配管である銀溶液供給管11と、還元剤溶液を供給する配管である還元剤溶液供給管12と、銀溶液供給管11と還元剤溶液供給管12が接合され銀溶液と還元剤溶液とを混合する配管である混合管13とから構成されている。還元剤溶液供給管11は、直線状に形成され、還元剤溶液供給管12は、略L字状に形成されている。
図1に示すように、反応管1は、還元剤溶液供給管12の出口で両液が同方向に供給されるように、銀溶液供給管11の内部に還元剤溶液供給管12の直線部12Aが同軸上に配置され、銀溶液供給管11と還元剤溶液供給管12とが組み合わされている。これにより、反応管1では、銀溶液と還元剤溶液を同方向に供給することが可能となり、還元剤溶液供給管12の出口から供給された還元剤溶液の周りを銀溶液が均一に取り囲んで混合される。反応管1では、このような混合形態となることによって、局部的な混合比の変動や反応液の滞留が抑制され、両液は均一な還元当量で混合されるため、吸収量の安定した制御が可能となる。また、還元剤供給管12の出口付近に、還元された銀が堆積することを抑制することができる。
反応管1では、銀溶液の供給方向に対する還元剤溶液の供給方向が0°となるように還元剤溶液供給管12を配置することが好ましい。なお、反応管1の製造上の誤差を含む程度に角度が付いてもよく、銀溶液の供給方向に対する還元剤溶液の供給方向が5°以内の角度であってもよい。すなわち、上述の混合形態を可能とする範囲内において、供給方向は、銀溶液の供給方向に対する還元剤溶液の供給方向が5°以内であることを含み、還元剤溶液供給管12の同軸上の配置は、供給方向が5°以内に収まるような角度が付くことを含むことを意味する。
また、銀溶液供給管11と還元剤溶液供給管12のそれぞれの径や長さについては、特に限定されるものではなく、各供給管11、12を介して供給される銀溶液と還元剤溶液の流速の違いによって効果的な混合ができるように適宜設定することが好ましい。
例えば、反応管1においては、銀溶液供給管11の内部にその銀溶液供給管11と同軸に配置された還元剤溶液供給管12の直線部12Aを、還元剤溶液供給管12の内径の5倍以上の長さに設けている。これにより、還元剤溶液供給管12の出口から出る還元剤溶液を層流とすることができ、それぞれの溶液の流速の違いによって両液が均一に混合されることになる。
なお、各供給管11、12の配置等は、各溶液の供給量や流速によっても、適宜変更することができ、還元剤溶液供給管12の直線部12Aと銀溶液供給管11の外部との接続部を曲線としたり、銀溶液の供給方向と反応管外から供給される還元剤溶液の供給方向とがなす角度を小さくして、還元剤溶液がより層流となりやすくしてもよい。また、各供給管11、12の寸法等についても、特に限定されるものではなく、各溶液を供給する際の所望とする流速や流れの状態等に基づいて、適宜設定することができる。
反応管1の材質は、銀溶液や還元剤溶液と反応しないことと、還元反応後の銀が付着しないことが選択上重要であり、ガラスもしくは石英が好ましい。銀溶液供給管11と還元剤溶液供給管12は、銀溶液や還元剤溶液と反応しない材質が選択されればよく、塩化ビニルやポリプロピレン、ポリエチレンなどから選択できる。
以下に、本実施の形態に係る銀粉の製造方法について、より詳細に説明する。
銀溶液は、還元されて銀となる銀錯体を含む溶液であり、各種銀塩を銀の原料として用いることができるが、塩化銀をアンモニア水に溶解することにより得たものであることが好ましい。このように、銀粉の製造方法では、塩化銀を原料とすることにより、硝酸銀を出発原料とする方法で必要とされた亜硝酸ガスの回収装置や廃水中の硝酸系窒素の処理装置を設置する必要がなく、環境への影響も少ないプロセスとなり、製造コストの低減を図ることができる。塩化銀は、高純度のものを用いることが好ましく、高純度塩化銀が工業用に安定的に製造されている。塩化銀を溶解するアンモニア水は、工業的に用いられる通常のものでよいが、不純物混入を防止するため可能な限り高純度のものが好ましい。
還元剤としては、一般的なヒドラジンやホルマリン等を用いることもできるが、アスコルビン酸を用いることが特に好ましい。アスコルビン酸は、その還元作用が緩やかであるため、銀粒子中の結晶粒が成長しやすく、銀溶液と還元剤溶液の混合時の核生成速度も遅くなり、一次粒子の粒径均一化と凝集の制御が容易であり、好ましい。また、反応の均一性あるいは反応速度を制御するために、還元剤を純水等で溶解又は希釈して濃度調整した水溶液として用いることもできる。
還元剤としてアスコルビン酸を用いた場合、化学量論的には、アスコルビン酸0.25モルで銀1モルを還元することができる。銀溶液と還元剤溶液との混合時における混合比は、化学量論による混合比より多くすることが好ましく、具体的には銀1モルに対して還元剤を0.25〜0.50モルとすることが好ましく、0.30〜0.40モルとすることがより好ましい。0.25モル未満の場合は、廃液に未還元の銀錯体が残留し、銀粉の収率が低下する。一方、0.50モルを超えると、還元に利用されないアスコルビン酸が多く残留することになり、コスト的に不利となる。
銀粉の製造方法においては、銀溶液と還元剤溶液と混合させた反応液中の銀濃度を好ましくは5〜75g/Lの範囲、より好ましくは20〜60g/Lの範囲で調整する。これにより、一次粒子の平均粒径が0.3〜2.0μmで粒度分布がより狭い銀粉を高い生産性で製造することが可能となる。すなわち、反応液中の銀濃度を5〜75g/Lの範囲で調整することにより、還元により生成される銀粒子の粒径及び粒度分布をより厳密に制御することができる。
上述のように、この銀粉の製造方法においては、連続的に銀溶液と還元剤溶液を定量的に混合するため、混合後の還元反応場の銀錯体の濃度と還元剤の濃度が一定に保たれる。したがって、核発生の速度とその濃度が一定であるため、高い銀濃度であっても濃度の揺らぎによる異常な粒成長が抑制され、全体として粒子の成長速度を一定に保つことができ、粗大粒子の生成を抑制することができる。
ここで、銀濃度が低い場合には、粒子の成長速度は一定に保たれるものの、粒子成長が十分でなく、得られる一次粒子は微細なものとなることがある。このような微細な一次粒子では、洗浄後の乾燥処理において、銀粒子間で過度凝集が起こり易くなる。一方、銀濃度が高い場合には、核発生の濃度が一定に保たれても核発生が多過ぎるため、粒子の凝集が発生して粗大粒子が生成されることがある。したがって、銀溶液と還元剤溶液の混合後の反応液中の銀濃度を5〜75g/Lの範囲で調整することにより、一次粒子の平均粒径が0.3〜2.0μmで粒度分布がより狭い銀粉をより高い生産性で得ることができる。
より具体的に、一次粒子の粒径は、反応液中の銀錯体を低濃度とすれば小さくなり、高濃度にすれば大きくなる傾向にあり、反応液中の銀濃度の調整により粒径を制御することができる。しかしながら、銀濃度が5g/L未満では、粒径が小さくなり過ぎる場合があるとともに十分な生産性が得られない。また、得られる銀粉のタップ密度も低くなり過ぎることがある。一方、銀濃度が75g/Lを超えると、一次粒子の凝集による粗大粒子が生成するため、銀粒子の粒度分布が広くなってしまう。
銀溶液と還元剤溶液を反応管に供給する手段としては、一般的な定量ポンプを用いることができるが、脈動の小さいものが望ましい。また、ポンプの流量は、インバータ制御で可変なものが望ましく、銀溶液と還元剤溶液の流量を調整することで、還元反応における還元当量を調整する。
また、銀の還元反応時の反応液の温度は、25〜40℃とすることが好ましい。25℃未満では、原料として塩化銀を用いた場合、塩化銀のアンモニア水に対する溶解度が小さくなり、反応液中の銀濃度を高められないことにより所望の粒径が得られない可能性がある。一方、40℃を超えると、アンモニアの揮発が激しくなり、溶解度が低下して核発生速度が大きくなり粒径が変動する可能性があり、さらの塩化銀の析出が起きることがある。
銀粉の製造方法では、流路内で銀の還元反応を完了させることが好ましい。このため、流路内で銀溶液と還元剤溶液とが混合されてからその流路内を流下して出口に出るまでの時間(流下時間)が15秒以上60秒以下となるような流路長に流路を構成することが好ましい。その流下時間が15秒未満では、還元反応が終了せず、未還元の銀錯体が反応液中に残留し、粒子が連結して粗大粒となることや、凝集して分散性が悪くなることがある。一方、60秒を越える時間では、装置を無用に大きくするだけである。また、流路の長さは、銀溶液と還元剤溶液とを混合させる混合管に軟質チューブを接続し、そのチューブを螺旋状に巻くようにして調整してもよい。これにより、スペースを要せずに流路の長さを調整することができる。なお、図1に示す反応管1の例では、銀溶液と還元剤溶液とが混合されてから混合管13の出口に出るまでの時間が15秒以上60秒以下となるような長さの混合管1を使用することが好ましい。
また、銀粉の製造方法では、還元反応が終了しても余剰の還元剤の活性により、銀粒子の連結や凝集を起こすことがある。そのため、流路末端の反応液、すなわち銀粒子スラリーの出口に受槽を配置するようにし、流路内で混合し還元反応させて得た銀粒子スラリーを、その受槽に保持して攪拌することが好ましい。
ここで、受槽内では、還元により生成した銀粒子が沈降しないように十分に攪拌することが必要になる。沈降すると、銀粒子が凝集体を形成して分散性が悪くなってしまうため好ましくない。攪拌は、銀粒子が沈降しない程度の力で行えばよく、一般的な攪拌機を用いることができる。受槽に入って余剰の還元剤が失活した反応液は、ポンプでフィルタープレス等の濾過機に送液することで、連続的に次の工程へと移送することができる。
銀粉の製造方法においては、銀溶液と還元剤溶液とを混合させた反応液に、分散剤を含有させることが好ましい。分散剤が含有されていないと、還元により発生した銀粒子が凝集を起こし、粗大粒子が発生したり、分散性が悪いものとなることがある。分散剤としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、変性シリコンオイル系界面活性剤、ポリエーテル系界面活性剤から選択される少なくとも1種であることが好ましく、又はこれらの2種以上を組合せて用いることがより好ましい。
分散剤は、予め還元剤溶液に添加しておくことにより、反応液に含有させることが好ましい。分散剤を銀溶液に混合しておくことも選択肢としてはあり得るが、還元剤溶液に混合しておく方が分散性の良い銀粉が得られることが実験的に確認されている。これは、還元剤溶液に分散剤を添加しておくことで、銀粒子の生成場に分散剤が存在し、効率よく銀粒子の凝集を抑制できるためと考えられる。なお、分散剤として用いるポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンは、還元反応時に発泡する場合があるため、還元剤溶液や銀溶液に消泡剤を添加してもよい。
分散剤の含有量としては、分散剤の種類及び得ようとする銀粉粒径により適宜決めればよいが、銀溶液中に含有される銀に対して0.3〜20質量%とすることが好ましく、0.3〜10質量%とすることがより好ましい。分散剤の含有量が0.3質量%未満であると、銀粒子の凝集抑制効果が十分に得られない可能性があり、一方で含有量が20質量%を超えても、それ以上に凝集抑制効果の向上はなく、排水処理等の負荷が増加するのみである。
得られた銀スラリーは、濾過した後、洗浄し、乾燥する。洗浄方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、銀粒子を水に投入し、撹拌機又は超音波洗浄器を使用して撹拌した後、濾過して銀粉を回収する方法を用いることができる。この方法において、銀粒子の水への投入、撹拌洗浄及び濾過からなる操作を、数回繰返して行うことが好ましい。また、洗浄に用いる水は、銀粉に対して有害な不純物元素を含有していない水を使用し、特に純水を使用することが好ましい。
そして、水による洗浄を行った後、銀粒子の水分を蒸発させて乾燥させる。乾燥の方法としては、例えば、水洗浄後の銀粒子をステンレスパッド上に置き、大気オーブン又は真空乾燥機等の一般的な乾燥装置を用いて、40〜80℃程度の温度で加熱することにより行うことができる。
乾燥した銀粉は、乾燥凝集を解すために解砕機で処理をする。解砕機は、真空減圧雰囲気転動攪拌機等の解砕力の弱い装置が好ましい。解砕能力が強すぎると還元工程で制御した凝集形態を壊してしまうからである。乾燥工程で凝集した弱い凝集のみを解すことが必要である。
<2.銀粉>
上述した銀粉の製造方法により得られた銀粉は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって測定される一次粒子の平均粒径が0.3〜2.0μm、好ましくは0.4〜1.5μmであり、電子機器の配線層や電極等の形成に利用される樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペースト等のペースト用銀粉として好適に用いられる。平均粒径が0.3μm未満になると、一次粒子の凝集が激しくなり、ペースト中に分散させることが困難となる。一方、平均粒径が2.0μmを超えると、ペースト中での銀粒子の分散安定性の低下や微細な配線層や電極等の形成が困難になるなどの問題が生じる。
また、銀粉は、一次粒子の粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.25以下である。標準偏差を平均粒径で除した値が0.25を超えると、均一な太さの配線や均一な厚さの電極を形成することが困難になるとともに、ペースト中での分散性が低下してペーストとしての特性が悪化する。
ここで、平均粒径は、個数平均の粒径であり、SEM観察により300個以上の一次粒子の粒径測長結果より平均粒径と標準偏差が求められる。
さらに、本発明の銀粉は、一次粒子の平均粒径(SEM径)に対するBET法により求めた比表面積から算出した平均粒径(BET径)の比が0.9〜1.5であることが好ましく、1.0〜1.4であることがより好ましい。
BET法による比表面積測定において、一次粒子が凝集すると、その連結部は粒子表面に露出しないため、その分だけ比表面積(SA)は減少する。したがって、連結部が多い状態、すなわち、一次粒子の凝集が進んだ状態では比表面積が小さくなる。したがって、下記式によって求められるBET径は大きくなる。
これに対して、一次粒子の凝集が少ない場合、例えば球状の一次粒子が単独で多数存在するような場合には、一次粒子の連結部は少ないため、その結果測定される比表面積の減少が少なく、BET径は小さくなる。
また、一次粒子間の連結が強い場合、喩えれば、二次粒子がひょうたん状や雪だるま状となるように一次粒子が強く連結している場合には、太い連結部の比表面積が減少するため、その結果、比表面積が大きく減少し、BET径も大きくなる。
一方、上述したように走査型電子顕微鏡の画像解析により得られる一次粒子の平均粒径は、凝集状態に関わらずほぼ一定であるため、一次粒子の平均粒径に対するBET径の比は、一次粒子の凝集状態を示す指標となり、これにより、凝集の形成量や一次粒子がどの程度強固に連結しているかを判断することができる。
BET径(μm)=6/(密度×SA)
(Ag密度:10.5g/cm3)
SEM径に対するBET径の比(BET径/SEM径)が0.9〜1.5である銀粉は、凝集が適度に形成され、また、一次粒子間の凝集の強度も適度であり、体が所定の強度を有することを意味し、樹脂との馴染みが高い分散性を有するため、好ましい。このような銀粉を用いてペーストを作製すると、ペースト混練時に十分なせん断力が加わり、銀粒子の分散性を高くすることができ、フレークの発生も効果的に抑制することができる。
BET径/SEM径が0.9未満になると、凝集が少なく、ペースト混練時に加わるせん断力が小さくなるため、ペースト中の銀粒子の分散性が低下することがある。一方、BET径/SEM径が1.5を超えると、凝集による粗大粒子が形成されることがある。このような粗大粒子が存在すると、混練時に押し潰されフレークが発生することがある。
以上のように、銀粉の製造方法では、配管内を流れる銀溶液と、銀溶液の配管と同軸上に設けた配管内を流れる還元溶液とが同方向に流れ、かつ銀溶液の流速に対する還元溶液の流速の比を1.5以上とすることにより、流速差によって銀溶液と還元剤溶液が迅速かつ均一に混合され、かつ連続法により一定量の銀前駆体が供給されているので、粒成長が安定的に制御され、一次粒子の粒径を均一でかつ狭い粒度分布の銀粉を得ることができる。具体的には、一次粒子の平均粒径が0.3〜2.0μmで、粒径の標準偏差をその平均値で除した値が0.25以下である銀粉を得ることができる。得られた銀粉は、電子機器の配線層や電極等の形成に利用される樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペースト等のペースト用銀粉として好適なものである。
また、上述の銀粉の製造方法では、銀溶液と還元剤溶液の供給と銀粒子スラリーの排出を連続的に行うことで、連続的に銀粉を得ることができるため、生産性が高く、しかも安価な塩化銀を出発原料として用いることが可能で、排気及び排水用の硝酸系処理装置を必要としないため、低コストで実施することができ、工業的価値が極めて大きいものである。
以下に、本発明の具体的な実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
実施例1では、38℃の温水で加熱した槽中において液温32℃に保持した25質量%アンモニア水18Lに、塩化銀1.452kg(住友金属鉱山株式会社製、水分率12.41質量%)を撹拌しながら投入して溶解して銀アンミン溶液を作製した。消泡剤(株式会社アデカ製、アデカノールLG−126)を体積比で100倍に希釈し、この消泡剤希釈液12.5mlを作製した銀アンミン溶液に添加して、得られた銀溶液を温浴中において32℃に保持した。
次に、還元剤のアスコルビン酸1.009kg(関東化学株式会社製、試薬)を、36℃の純水2Lに溶解した。また、分散剤のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA205)88gを36℃の純水8Lに溶解した。これら2液を混合して還元剤溶液とし、その液量を11Lとし、温度を36℃に調整した。
次に、作製した銀溶液と還元剤溶液を、チューブポンプを使用して、銀溶液を2.70L/分、還元剤溶液を0.90L/分で反応管に供給し、反応管から排出された反応液は撹拌しながら受槽で保持した。
使用した反応管は、ガラス製で図1に示す構造であり、銀溶液供給管11は内径10.0mm、外径12.0mm、還元剤溶液供給管12は内径3.6mm、外径6.0mm、反応管長は100mmとした。還元反応を送液中に完全に終了させるため、内径12mm長さ10mの軟質塩化ビニル樹脂製チューブを混合管13の出口側に接続して、反応液を受槽に送液した。このときの銀溶液の流速は0.90m/秒、還元剤溶液の流速は1.47m/秒であり、流速比(還元剤溶液/銀溶液)は1.65である。また、還元速度は、銀量で144g/分であり、反応液中の銀濃度は40g/Lであり、分散剤のポリビニルアルコールの量は混合時の反応液中の銀量に対して5.0質量%とした。銀溶液と還元剤溶液の供給が終了した後受槽内での攪拌を60分継続した。
撹拌終了後の銀溶液を、フィルタープレス機を使用して濾過し、銀粒子を固液分離した。続いて、回収した銀粒子を0.2%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液13.4L中に投入し、15分間撹拌した後、フィルタープレス機で濾過して回収した。NaOH水溶液への投入、撹拌、及び濾過からなる操作を更に2回繰返した後、回収した銀粒子を純水13.4L中に投入し、撹拌及び濾過からなる操作を行った。濾過後、銀粒子をステンレスパッドに移し、真空乾燥機にて60℃で15時間乾燥した後、解砕して銀粉を得た。
得られた銀粉を走査電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、SEM観察による一次粒子の平均粒径が0.79μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.20であり、高分散性を有し、ペースト用銀粉として良好であることが確認された。また、BET径/SEM径は1.27であった。BET径は、窒素吸着によるBET法により求めた比表面積から算出した。
次に、得られた銀粉を用いてペーストの評価を行った。得られた銀粉を80質量%、エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製、819)を20質量%となるように秤量し、自公転ミキサー(株式会社シンキー製、ARE−250)を用いて、420Gの遠心力で混練してペースト化した後、さらに3本ロールミル(ビューラー株式会社製、3本ロールミル SDY−300)を用いて混練して評価を行った。3本ロールミルによる混練中、目視によるフレークの発生は認められず、混練性は良好であった。銀溶液と還元剤溶液の混合条件および一次粒子の測定結果を表1に示す。
[実施例2]
実施例2では、実施例1における還元剤溶液を純水で2倍に希釈して、送液速度を1.8L/分としたこと以外は実施例1と同様にして銀粉を作製した。この時の還元剤溶液の流速は2.95m/秒であり、流速比(還元剤溶液/銀溶液)は3.29である。得られた銀粉の平均粒径が0.79μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.18であり、高分散性を有し、ペースト用銀粉として良好であることが確認された。また、BET径/SEM径は1.38であった。またペースト化における混練性も良好であった。銀溶液と還元剤溶液の混合条件および一次粒子の測定結果を表1に示す。
[実施例3]
実施例3では、38℃の温水で加熱した槽中において液温32℃に保持した25質量%アンモニア水18Lに、塩化銀1.451kg(住友金属鉱山株式会社製、水分率12.14質量%)を撹拌しながら投入して銀アンミン溶液を作製した。消泡剤(株式会社アデカ製、アデカノールLG−126)を体積比で100倍に希釈し、この消泡剤希釈液12.5mlを作製した銀アンミン溶液に添加して、得られた銀溶液を温浴中において32℃に保持した。
次に、還元剤のアスコルビン酸1.006kg(関東化学株式会社製、試薬)を、36℃の純水2Lに溶解した。また、分散剤のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA205)88gを36℃の純水8Lに溶解した。これら2液を混合して還元剤溶液とし、その液量を11Lとし、温度を36℃に調整した。
次に、銀溶液と還元剤溶液を、チューブポンプを使用して、銀溶液を6.00L/分、還元剤溶液を2.0L/分で反応管に供給し、反応管から排出された反応液は撹拌しながら受槽で保持した。反応管は、ガラス製で図1に示す構造であり、銀溶液供給管11は内径12.6mm、外径15.0mm、還元剤溶液供給管12は内径4.6mm、外径7.0mm、混合管長は150mmとした。還元反応を送液中に完全に終了させるため、内径15mm長さ10mの軟質塩化ビニル樹脂製チューブを混合管13の出口側に接続して、反応液を受槽に送液した。このときの銀溶液の流速は1.16m/秒、還元剤溶液の流速は2.01m/秒であり、流速比(還元剤溶液/銀溶液)は1.73である。また、還元速度は、銀量で320g/分であり、反応液中の銀濃度は40g/Lとした。また、分散剤のポリビニルアルコールの量は混合時の反応液中の銀量に対して5.0質量%とした。銀溶液と還元剤溶液の供給が終了した後受槽内での攪拌を60分継続した。
撹拌終了後の銀溶液を、フィルタープレス機を使用して濾過し、銀粒子を固液分離した。続いて、回収した銀粒子を0.2%のNaOH水溶液13.4L中に投入し、15分間撹拌した後、フィルタープレス機で濾過して回収した。NaOH水溶液への投入、撹拌、及び濾過からなる操作を更に1回繰返した後、回収した銀粒子を純水13.4L中に投入し、撹拌及び濾過からなる操作を行った。濾過後、銀粒子をステンレスパッドに移し、真空乾燥機にて60℃で15時間乾燥した後、解砕して銀粉を得た。
得られた銀粉を実施例1と同様に評価したところ、一次粒子の平均粒径が0.82μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.22であり、高分散性を有し、ペースト用銀粉として良好であることが確認された。また、BET径/SEM径は1.30であり、混練性の評価においても、目視によるフレークの発生は認められず、混練性は良好であった。銀溶液と還元剤溶液の混合条件および一次粒子の測定結果を表1に示す。
[実施例4]
実施例4では、実施例3における還元剤溶液を純水で1.7倍に希釈して、送液速度を3.4L/分としたこと以外は実施例3と同様にして銀粉を作製した。この時の還元剤溶液の流速は3.41m/秒であり、流速比(還元剤溶液/銀溶液)は2.94である。得られた銀粉の平均粒径が0.82μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.19であり、高分散性を有し、ペースト用銀粉として良好であることが確認された。また、BET径/SEM径は1.34であった。またペースト化における混練性も良好であった。銀溶液と還元剤溶液の混合条件および一次粒子の測定結果を表1に示す。
[実施例5]
実施例5では、38℃の温水で加熱した槽中において液温32℃に保持した25質量%アンモニア水18Lに、塩化銀1.451kg(住友金属鉱山株式会社製、水分率12.14質量%)を撹拌しながら投入して銀アンミン溶液を作製した。消泡剤(株式会社アデカ製、アデカノールLG−126)を体積比で100倍に希釈し、この消泡剤希釈液12.5mlを作製した銀アンミン溶液に添加して、得られた銀溶液を温浴中において32℃に保持した。
次に、還元剤のアスコルビン酸1.009kg(関東化学株式会社製、試薬)を、36℃の純水2Lに溶解した。また、分散剤のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA205)88gを36℃の純水8Lに溶解した。これら2液を混合して還元剤溶液とし、その液量を11Lとし、温度を36℃に調整した。
次に、銀溶液と還元剤溶液を、チューブフローポンプを使用して、銀溶液10.2L/分、還元剤溶液を3.4L/分で反応管に供給し、反応管から排出された反応液は撹拌しながら受槽で保持した。反応管は、ガラス製で図1に示す構造であり、銀溶液供給管11は内径16.6mm、外径19.0mm、還元剤溶液供給管12は内径6.0mm、外径8.0mm、混合管長は200mmとした。還元反応を送液中に完全に終了させるため、内径19mm長さ10mの軟質塩化ビニル樹脂製チューブを混合管13の出口側に接続して、反応液を受槽に送液した。このときの銀溶液の流速は1.02m/秒、還元剤溶液の流速は2.01m/秒であり、流速比(還元剤溶液/銀溶液)は1.96である。また、還元速度は、銀量で544g/分であり、反応液中の銀濃度は40g/Lとした。また、分散剤のポリビニルアルコールの量は混合時の反応液中の銀量に対して5.0質量%とした。銀溶液と還元剤溶液の供給が終了した後受槽内での攪拌を60分継続した。
撹拌終了後の銀溶液を、フィルタープレス機を使用して濾過し、銀粒子を固液分離した。続いて、回収した銀粒子を0.2%のNaOH水溶液13.4L中に投入し、15分間撹拌した後、フィルタープレス機で濾過して回収した。NaOH水溶液への投入、撹拌、及び濾過からなる操作を更に1回繰返した後、回収した銀粒子を純水13.4L中に投入し、撹拌及び濾過からなる操作を行った。濾過後、銀粒子をステンレスパッドに移し、真空乾燥機にて60℃で15時間乾燥した後、解砕して銀粉を得た。
得られた銀粉を実施例1と同様に評価したところ、一次粒子の平均粒径が0.90μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.21であり、高分散性を有し、ペースト用銀粉として良好であることが確認された。また、BET径/SEM径は1.28であり、混練性の評価においても、目視によるフレークの発生は認められず、混練性は良好であった。銀溶液と還元剤溶液の混合条件および一次粒子の測定結果を表1に示す。
[実施例6]
実施例6では、実施例5における還元剤溶液供給管を内径4.6mm、外径7.0mmとしたこと以外は実施例5と同様にして銀粉を作製した。この時の銀溶液の流速は、0.96m/秒、還元剤溶液の流速は3.41m/秒であり、流速比(還元剤溶液/銀溶液)は3.57である。得られた銀粉の平均粒径が0.92μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.19であり、高分散性を有し、ペースト用銀粉として良好であることが確認された。また、BET径/SEM径は1.29であった。またペースト化における混練性も良好であった。銀溶液と還元剤溶液の混合条件および一次粒子の測定結果を表1に示す。
[比較例1]
比較例1では、実施例1における銀溶液と還元剤溶液の送液速度をそれぞれ2.65L/分、0.80L/分としたこと以外は実施例1と同様にして銀粉を作製した。この時の2液の流速はそれぞれ0.88m/秒、1.31m/秒であり、流速比(還元剤溶液/銀溶液)は1.49である。得られた銀粉の平均粒径が0.89μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.26であった。SEM観察で連結粒子や凝集体があることが確認された。また、BET径/SEM径は1.43であった。またペースト化における混練ではロール間でフレークの発生が観察された。銀溶液と還元剤溶液の混合条件および一次粒子の測定結果を表1に示す。
[比較例2]
比較例2では、実施例1における銀溶液と還元剤溶液の送液速度をそれぞれ3.10L/分、0.88L/分としたこと以外は実施例1と同様にして銀粉を作製した。この時の2液の流速はそれぞれ1.03m/秒、1.44m/秒であり、流速比(還元剤溶液/銀溶液)は1.40である。得られた銀粉の平均粒径が0.96μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.29であった。SEM観察で連結粒子や凝集体があることが確認された。また、BET径/SEM径は1.42であった。またペースト化における混練ではロール間でフレークの発生が観察された。銀溶液と還元剤溶液の混合条件および一次粒子の測定結果を表1に示す。
また、図2に、実施例1〜6および比較例1、2で得られた銀粉の粒度分布を示す。
表1及び図2に示す結果から、実施例1〜6は、銀溶液供給と還元剤溶液供給の流速比が1.5以上であり、粒径均一性が高く、粒度分布が狭く、更に適度な二次粒子が凝集を形成しているため、ペースト作製において銀粒子の均一な分散が可能であり、フレークの発生がなく混練性に優れた銀粉となっている。
一方、比較例1〜2では、銀溶液供給と還元剤溶液供給の流速比が1.5未満であり、粒径均一性が実施例より悪化し、粒度分布も広くなっている。また、二次粒子の凝集が多いため、ペースト作製においてフレークが発生し、混練性の点においても実施例より劣っている。