JP5922613B2 - ナーリング装置及び方法並びにフィルムロール製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ナーリング装置及び方法並びにフィルムロール製造方法に関するものである。
ポリマーフィルムは、優れた光透過性や柔軟性を有し、軽量薄膜化が可能であるため、光学フィルム等として多岐に利用されている。ポリマーフィルムとしては、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムを初め、PETフィルム、アクリルフィルムなど各種フィルムが知られている。例えば、セルロースエステル系フィルムは、写真感光用フィルムや、液晶表示装置の構成部材である偏光板の保護フィルムや位相差フィルム等の光学フィルムに用いられている。
ポリマーフィルムの製造過程、または、製造されたポリマーフィルムを保管や輸送のためにロール状に巻き取ってフィルムロールを製造する過程において、ポリマーフィルムの側部にはナーリングと呼ばれる微小な凹凸が付与される。ナーリングは、少なくとも一方の周面に突起が形成された一対のローラ間にポリマーフィルムを通過させ、この通過の際に突起をポリマーフィルムに押し付けることによって付与される。このようにして付与されたナーリングは、ポリマーフィルムのハンドリングを高める作用や、フィルムロールの巻きズレや変形を防ぐ作用を有する。
上述のように、ポリマーフィルムにナーリングを付与することは有効であるが、ナーリングを付与する際にポリマーフィルムの温度が低いと、変形し難い状態でポリマーフィルムが押圧されるので、十分な高さのナーリングを形成することができない。また、ナーリング高さを高くしようとして、ポリマーフィルムへの接触圧力を高めるとナーリングから微小な割れ(クラック)が発生する。また、形成されたナーリングにヘタリ(搬送や保管の際の押圧や、時間の経過に伴って突起が小さくなること)が生じ易い。このため、特許文献1、2では、加熱したナーリングローラでポリマーフィルムを押圧してナーリングを付与している。また、特許文献3では、ナーリングローラの表面温度をフィルムのガラス転移温度とフィルムの融点温度との関係に基づき求めて、この表面温度にてフィルムにナーリングを付与している。また、フィルムを目的とする温度にまで加熱可能なように、支持ローラへのラップ角度を例えば180°に設定している。特許文献4では、ナーリングローラ(エンボスロール)の表面温度、バックロールの表面温度、ナーリングロールのロール径、及びバックロールの材質のうち少なくとも二以上を種々組み合わせて調整することにより、ナーリングの凸部の耐つぶれ率を改善している。
特開2003−175522号公報 特開2009−073154号公報 特開2009−288412号公報 特許第5105033号公報
ナーリングを付与する際に、ポリマーフィルムの温度が低すぎると十分な高さのナーリングを付与することができない。反対にポリマーフィルムの温度が高すぎると、ポリマーフィルムが破断したりする他に、意図した形状のナーリングを付与することができない。このため、ローラを加熱する場合は、ポリマーフィルムの温度が適正な温度範囲になるようにローラの温度を制御する必要がある。
しかし、特許文献1〜3に示されるような従来の手法は、ローラとポリマーフィルムとの接触がローラ間をポリマーフィルムが通過する僅かな期間だけであり、この僅かな期間で加熱とナーリングの付与とを同時に行っている。しかも、製造効率の観点から、近年ではポリマーフィルムの搬送速度が100m/minを超える範囲での高速搬送でのナーリング付与が求められている。このため、ローラとポリマーフィルムとの接触時間がさらに短くなり、ポリマーフィルムの温度制御が難しく、安定したナーリングの付与ができない。
特に、次の工程で、ポリマーフィルムにハードコート層などの塗膜を形成する場合には、この塗膜分を考慮して、通常のものよりもナーリング高さを高くする必要がある。ある程度のフィルム厚みがある場合にはナーリング高さを高くすることが可能であるが、25μm以上60μm以下の薄手フィルムの場合には、ナーリング高さを高くしようとすると、ナーリングの窪み部分にクラックが発生してポリマーフィルムが割れやすくなる。しかも、薄手のポリマーフィルムに対して15μm程度の高さを有するナーリングを付与する場合には、ヘタリ易くなる。特許文献4では、例えば、ナーリングの凸部の耐つぶれ率を高めるために、エンボスロールの表面温度を高くし、かつバックロールの表面温度を高くしている。しかし、この特許文献4の方法でも、ナーリングのヘタリ及び割れを十分に抑制することができない。
本発明は、上記背景を鑑みてなされたものであり、薄手のポリマーフィルムに対して、クラックを発生させることなく、ナーリング高さが高く、ヘタリの少ないナーリングを付与することができるナーリング装置及び方法並びにフィルムロール製造方法を提供することを目的としている。
上記目的を達成するために、本発明のナーリング装置は、搬送される帯状のポリマーフィルムに対してナーリングを付与するナーリング装置であって、ナーリングローラと支持ローラとを備える。ナーリングローラは、周面に突起を有し、ポリマーフィルムの第1面に接触する。支持ローラは、平坦な周面を有し、ナーリングローラとポリマーフィルムとの接触位置よりも搬送方向下流側位置で、第1面とは反対側の第2面に接触しナーリングローラとの間でポリマーフィルムを挟持する。ナーリングローラに対するポリマーフィルムのラップ角度は、5°以上20°以下である。ポリマーフィルムとナーリングローラの接触時間は2m秒以上80m秒以下である。ナーリングローラの表面温度は、ポリマーフィルムの融点±20℃の温度範囲内にする。支持ローラの表面温度は、100℃以下の温度にする。なお、ポリマーフィルムの融点とは、示差走査熱量計DSC(Differential scanning calorimetric)を用いて10℃/minでサンプルを加熱した時に現れる吸熱ピークの温度(融点Tm)をいう。
ポリマーフィルムの厚みFtは25μm以上60μm以下であり、ナーリングローラ側のナーリング高さをHn1とする場合に、ナーリング高さHn1を、Ft×0.05以上Ft×0.30以下とすることが好ましい。ナーリングローラ及び支持ローラは、ポリマーフィルムの幅方向両側部に設けられ、ナーリングは、ポリマーフィルムの幅方向両側部に付与されることが好ましい。ポリマーフィルムはセルロースアシレートフィルムであり、ナーリングローラの温度は270℃以上310℃以下であり、支持ローラの温度は0℃以上100℃以下であることが好ましい。
本発明のナーリング方法は、上記のナーリング装置を用い、ポリマーフィルムにナーリングを付与する。また、本発明のフィルムロール製造方法は、上記ナーリング方法によりナーリングを付与するナーリング工程と、ナーリングの付与されたポリマーフィルムを巻き取る巻き取り工程とを含む。
本発明は、ウェブを搬送方向上流側のナーリングローラの外周にポリマーフィルムを巻き掛けて加熱した後に、このナーリングローラよりもウェブ搬送方向下流側の支持ローラにより、ナーリングローラとの間でポリマーフィルムを挟持してナーリングを付与するから、ポリマーフィルムがナーリングローラに接触する短い時間にナーリングローラによりポリマーフィルムを加熱することができる。そして、加熱の後に、支持ローラとの間でポリマーフィルムを挟持してナーリングを付与し、支持ローラはナーリングローラの温度よりも低く設定されているため、支持ローラ側フィルム面でのナーリングの突出量が抑えられる。また、ナーリングローラ側のフィルム面はナーリングローラの突起に接触して加熱されるため、ナーリング付与部分のみに集中的に加熱することができ、ナーリングローラ側フィルム面での突出量が増大する。この突出した肉厚部分は突起の接触により加熱されるため、裾野が広く且つ高い肉厚部となり、ナーリングのヘタリが抑えられる。また、突起により予熱した後に、ポリマーフィルムの挟持による押圧でナーリングを付与し、支持ローラ側のフィルム面は、支持ローラとの接触により、ナーリングローラ側の温度よりも低くされる。このため、支持ローラ側フィルム面では剪断変形が抑えられるため、クラックが発生することが無くなる。
フィルムロール製造設備の概略の一例を示す側面図である。 ナーリングを付与している状態を下から見た斜視図である。 ナーリング装置の概略の一例を示す側面図である。 突起の一例を示す斜視図である。 ナーリングが付与される状態を説明する断面図である。 突起により形成されるナーリングを示す断面図である。 クラックの発生を説明する断面図である。
図1に示すように、本発明のフィルムロール製造設備10は、フィルム製造ライン12、ナーリング装置13、巻取り装置14を有する。フィルム製造ライン12は、図示は省略したが、流延装置、テンタ、乾燥装置を有し、例えば溶液製膜方法により、帯状のポリマーフィルム16(例えばTAC(トリアセチルセルロース)フィルム)を製造する。
巻取り装置14は、例えばターレットアーム18を有し、巻取り軸20にセットされた巻き芯22にポリマーフィルム16を巻き取る。ターレットアーム18は図示しないアーム駆動部によって180度間欠回転し、巻き芯22を巻取り位置PS1と、巻き芯交換位置PS2とに選択的に切り換える。ターレットアーム18は、ガイドアーム24と、このガイドアーム24の先端にガイドローラ26とを有する。ガイドローラ26は、ターレットアーム18の回転時にポリマーフィルム16に接触し、ポリマーフィルム16のターレットアーム18やアーム取付軸28への接触を防止する。
巻取り位置PS1では、搬送ローラ30から送られてくるポリマーフィルム16を巻き芯22に巻き取る。また、巻き芯交換位置PS2では、一定長さのポリマーフィルム16を巻き取って満巻きとなったフィルムロール32を巻き芯22と一緒に巻取り軸20から取り外し、この巻取り軸20には新たな空の巻き芯22がセットされ、巻き芯22の交換が行われる。
巻取り位置PS1で、所定の長さのポリマーフィルム16が巻き芯22に巻き取られて、フィルムロール32が満巻きに近い状態になると、ターレットアーム18が180度回転し、巻き芯交換位置PS2に満巻きに近いフィルムロール32を位置させる。また、巻取り位置PS1には空の巻き芯22が位置決めされる。フィルムロール32が所定の長さとなると、図示しない巻替え装置が作動して、ポリマーフィルム16が切断される。切断された先行フィルムの後端部は巻き芯交換位置PS2にてフィルムロール32に巻き取られる。また、切断された後行フィルムの先端部は巻取り位置PS1にて空の巻き芯22に巻き取られる。
以下、同じように、巻き芯22にポリマーフィルム16が巻き取られることにより、連続して送られてくるポリマーフィルム16がフィルムロール32の形態として、製品となる。このようにして得られたポリマーフィルム16は、偏光板保護フィルムや位相差フィルムとして用いられる。また、ポリマーフィルム16に、次の塗布工程で、光学的異方性層、反射防止層、防眩機能層等が付与され、高機能フィルムとして用いられる。
フィルム製造ライン12と巻取り装置14との間には、ナーリング装置13が設けられている。ナーリング装置13は、ナーリングローラ36と支持ローラ38と加熱制御機構40と冷却制御機構41とを備える。このナーリング装置13により、ポリマーフィルム16にナーリング44(図2参照)を付与するナーリング工程が行われる。
図2に示すように、ナーリング装置13は、ナーリングローラ36と支持ローラ38とによってポリマーフィルム16を挟持(ニップ)し、多数の突起42をポリマーフィルム16に押し当てる。これにより、ポリマーフィルム16にナーリング44(微細な凹凸)が付与される。
図3に示すように、ナーリングローラ36は、外周面に多数の微細な突起(ナーリング歯)42を有する。図4に示すように、突起42は例えば角錐台形状であり、角錐を底面に平行な平面で切り、小角錐の部分を除いた形状になっている。これら突起42はマトリックス状に多数並べて形成されている。突起42の高さHt1は50μmであり、底面の一辺の長さLt1は850μmであり、上面42aの一辺の長さLt2は250μmである。突起42の高さHt1は20μm以上100μm以下、長さLt1は500μm以上1000μm以下、長さLt2は100μm以上500μm以下が好ましい。また、突起42の配置ピッチは、500μm以上2000μm以下であることが好ましく、800μm以上1200μm以下であることがより好ましい。突起42は角錐台に限られず、他の円錐台やその他の形状であってもよい。
図3に示すように、支持ローラ38は突起42が無い平坦な外周面を有する。この支持ローラ38は、ナーリングローラ36に対し、ポリマーフィルム16の搬送方向下流側位置で、ナーリングローラ36に接するように配されている。具体的には、ナーリングローラ36の中心を通る鉛直線CL1と、支持ローラ38とナーリングローラ36との中心を結ぶ線分CL2との交差角度θ1が10°になっている。この交差角度θ1は水平面内で搬送されるポリマーフィルム16がナーリングローラ36に巻き掛けられるラップ角度と同義である。この交差角度(ラップ角度)θ1は、5°以上20°以下が好ましい。ラップ角度θ1が5°以上であると適正な接触時間となり所望の変形が得られる。また、ラップ角度θ1が20°以下であると、フィルムのツレが大きくなることに起因する搬送不良とならない。
ナーリングローラ36及び支持ローラ38は両端で図示しない軸受により回転自在に支持されている。また、支持ローラ38の軸受にはニップ圧調節機構39が設けられている。ニップ圧調節機構39は、ポリマーフィルム16のニップ圧を適正に維持する。なお、ニップ圧調節機構39は、ナーリングローラ36側に設けてもよく、また両方のローラ36,38に設けてもよい。
加熱制御機構40は、加熱器46、温度センサ48、制御部50を有する。加熱器46は、ナーリングローラ36の近傍に配置される。制御部50は、加熱器46を制御して、ナーリングローラ36を一定の温度に加熱する。加熱器46としては、ナーリングローラ36に対して熱風を当てるもの、ナーリングローラ36に対してセラミックヒータなどにより赤外線を当てるもの、ナーリングローラ36の近傍で磁界変化を発生させることによりナーリングローラ36を誘導加熱するもの、ナーリングローラ36内にオイルや水蒸気などの温調媒体を循環させるものなど様々なタイプのものや、これらを組み合わせた複合タイプのもの等を用いることができる。なお、ナーリングローラ36を誘導加熱する場合、ナーリングローラ36を、鉄、SUS440、超硬材などの強磁性金属、またはこれらを含む金属から形成する。
温度センサ48は、例えば、熱電対、放射温度計等からなり、常時または所定周期でナーリングローラ36の温度を測定して制御部50に通知する。制御部50は、温度センサ48からの情報に基づいて、ナーリングローラ36が予め設定された所定の温度範囲内に収まるように加熱器46を駆動制御する。
制御部50は、ナーリング44を付与する時の(すなわち、ポリマーフィルム16がナーリングローラ36と支持ローラ38との間を通過する時の)ナーリングローラ36の表面温度が融点±20℃となるように、ナーリングローラ36の温度を制御する。
ナーリングローラ36の温度がポリマーフィルム16の融点−20℃よりも低いと、十分な高さのナーリング44が形成されない問題や、ポリマーフィルム16が割れてしまう問題がある。また、ナーリング44がヘタリ易い。反対に、ナーリングローラ36の温度がポリマーフィルム16の融点+20℃よりも高いと、ポリマーフィルム16が破断してしまう虞れがあり、しかも意図した形状のナーリング44を形成することができなくなる。このような問題は、厚いポリマーフィルム16を搬送する場合よりも、薄いポリマーフィルム16を搬送する場合の方がより顕著となる。このようにして、融点±20℃の融点近傍範囲にポリマーフィルム16が加熱されるため、ポリマーフィルム16の弾性率が低下して、ナーリングローラ36側のフィルム面(第1面)16bに、囲繞隆起部54が形成される。しかも、囲繞隆起部54の裾野の幅Nw1が広く、且つナーリング高さHn1が高いものが得られる。なお、ナーリング凹部52と裏面隆起部55は、熱変形ではなくナーリングローラ36の押し込み力により形成されるものであり、加熱することにより、ナーリング凹部52の深さと裏面隆起部55の高さは減少する傾向を示す。
ナーリングローラ36はポリマーフィルム16の融点+20℃に加熱されるため、ポリマーフィルム16を間に介して接触する支持ローラ38も、連続処理の場合にはナーリングローラ36の加熱に応じて上昇することがある。このため、支持ローラ38を冷却制御機構41によって温度制御し、一定の温度範囲に維持する。なお、常温環境下からポリマーフィルム16が連続して送られてくる場合には、ナーリングローラ36に比べて温度が低いポリマーフィルム16によって常時支持ローラが冷却されるため、昇温することが無い場合もある。このような場合には、冷却制御機構41の冷却制御を停止したり、冷却制御機構41を省略したりしてもよい。
冷却制御機構41は、冷却器47、温度センサ49、制御部51を有する。冷却器47は制御部51によって制御され、支持ローラ38を冷却する。冷却器47としては、支持ローラ38に対して冷却風を当てるもの、支持ローラ38内にオイルや水などの温調媒体を循環させるものや、これらを組み合わせた複合タイプのもの等が用いられる。
温度センサ49は、常時または所定周期で支持ローラ38の温度を測定して制御部51に通知する。制御部51は、温度センサ49からの情報に基づいて、支持ローラ38を所定の温度になるように冷却器47を駆動制御する。支持ローラ38の温度は、0℃以上100℃以下の適宜範囲に設定される。支持ローラ38の温度が100℃を超えると支持ローラ側フィルム面(第2面)16aの突出量が増加してしまい、この増加分に対応してヘタリやすくなる。また、支持ローラの温度が0℃未満であると、ローラ表面に結露が発生する不具合がある。
図2に示すように、ナーリングローラ36、支持ローラ38は、ポリマーフィルム16の両側部にそれぞれ設けられている。そして、ナーリング44は、ポリマーフィルム16の両側部に付与される。同様に、加熱器46、冷却器47、温度センサ48,49(図2では図示を省略している)も、ナーリングローラ36や支持ローラ38に対応してポリマーフィルム16の両側部にそれぞれ設けられている。そして、制御部50,51(図2では図示を省略している)は、ポリマーフィルム16の両側部のナーリング44がそれぞれ最適な条件で形成されるように、加熱器46及び冷却器47を駆動制御する。
以上のように、ナーリングローラ36及び支持ローラ38の温度を管理し、ポリマーフィルム16の温度を適正な範囲内に保つことで、安定したナーリング44の付与が可能となる。しかし、ナーリングローラ36とポリマーフィルム16との接触時間が短いと、この短い時間でポリマーフィルム16の内部まで適正な温度とするようにナーリングローラ36の温度を制御することは難しく、安定したナーリング44を付与することができない。
このため、図3に示すように、ナーリング装置13では、支持ローラ38よりもポリマーフィルム16の搬送方向Aの上流側にナーリングローラ36を配置して、ポリマーフィルム16をナーリングローラ36に巻き掛けている。ラップ角度θ1は例えば10°である。このラップ角度θ1は、ナーリング44を付与する時のナーリングローラ36の表面温度が融点±20℃となるように、ナーリングローラ36の温度を制御する。具体的には、ラップ角度θ1は5°以上20°以下であることが好ましい。ラップ角度θ1が大きくなるほどポリマーフィルム16とナーリングローラ36との接触時間が長くなるので、ナーリングローラ36の温度制御が容易となる。一方、ラップ角度θ1が大きすぎると、加熱により強度の低下したポリマーフィルム16が破断や変形する恐れがある。
適正なラップ角度θ1は、ナーリングローラ36の温度やポリマーフィルム16の搬送速度によって変化する。このため、ナーリングローラ36の温度や搬送速度に応じてラップ角度θ1を決定する。具体的には、ナーリングローラ36の温度が高い場合はラップ角度θ1を小さくし、ナーリングローラ36の温度が低い場合はラップ角度θ1を大きくする。
このように、ナーリング装置13では、ナーリングローラ36にポリマーフィルム16を巻き掛けて、予め突起42をポリマーフィルム16に接触させて、突起42を介してポリマーフィルム16を加熱することができる。そして、一定温度への加熱後に、ナーリングローラ36と支持ローラ38とのニップにより、ポリマーフィルム16にナーリング44が付与される。
ナーリング44の形成に影響を及ぼす要因としては、ナーリングローラ36の温度やラップ角度θ1、ポリマーフィルム16の搬送速度の他、ナーリング44を付与する時のポリマーフィルム16のニップ圧、及び、ポリマーフィルム16の特性(熱伝導率、ヤング率の温度関数、弾性変形率など)が挙げられる。良好なナーリングが形成されるように、これら各要因を設定する。
以上のように、本発明では、ポリマーフィルム16を搬送方向上流側のナーリングローラ36の外周に巻き掛けて加熱した後に、ナーリングローラ36と支持ローラ38との間を通過させて、ナーリング44を付与することにより、ナーリングローラ36の温度制御を容易とし、安定したナーリング44を付与することができる。特に、ナーリング44を付与するための突起42がナーリングローラ36に付されており、ポリマーフィルム16のナーリングローラ36への巻き掛けによって、突起42を介してポリマーフィルム16がナーリング付与部分に対し加熱される。このように、突起42により集中的にナーリング付与部分に対し加熱することができ、短時間のフィルム接触でも十分な加熱が可能になる。なお、ポリマーフィルム16とナーリングローラ36の接触時間は、2m秒以上80m秒以下が好ましく、10m秒以上50m秒以下がより好ましい。2m秒以上であると、突起42からポリマーフィルム16にナーリング44付与のための熱伝達が容易になる。また、80m秒以下であると、過剰加熱がなくなり、適正なナーリング44を形成することができる。さらに、10m秒以上50m秒以下であると、2m秒以上80m秒以下に比べて、より好ましい結果が得られる。
その後、支持ローラ38とのニップにより、図5に示すように、突起42によりポリマーフィルム16にナーリング凹部52が形成され、この凹部52の形成に伴い、凹部52の周囲に突起42を囲むようにフィルム16の一部が隆起する。この隆起により囲繞隆起部54が形成される。囲繞隆起部54は、ポリマーフィルム16が十分に加熱された状態で形成されるため、ハッチングで示す部分が囲繞隆起部54の形成に寄与することになる。これにより、図6に示すように、囲繞隆起部54の裾野の幅Nw1が20μm以上60μm以下となり、しかもナーリング高さHn1も高くなる。ナーリング高さHn1は、ポリマーフィルム16の厚みFtが25μm以上60μm以下である場合に、Ft×0.05以上Ft×0.30以下であることが好ましい。
また、凹部52の形成に伴い、支持ローラ側フィルム面16aに裏面隆起部55が隆起する。裏面隆起部55は角錐台形状であり、裾野の幅Nw2は100μm以上300μm以下であり、高さHn2は1μm以上6μm以下である。
図3に示すように、支持ローラ38は冷却制御機構41により、0℃以上100℃以下の温度範囲内になるように温度制御されるため、支持ローラ38に接触するフィルム面16aは加熱されることがない。したがって、突起42の押圧による変形が支持ローラ側フィルム面16aに現れることは少なく、上記のように僅かな隆起高さHn2を有する裏面隆起部55となる。一方、突起42によってナーリングローラ側フィルム面16bは十分に加熱されているため、突起42によって溶融変形が促進され、これが凹部52の周囲の隆起につながり、囲繞隆起部54が得られる。囲繞隆起部54は、溶融変形が促進されることから、幅Nw1及び高さHn1がヘタリに耐えうる十分な幅及び高さを有する。しかも、溶融変形の促進によって、剪断応力が抑制されるため、図7に示すようなクラック60が発生することがない。
これに対して、特許文献3のように、支持ローラ側にポリマーフィルムを巻き掛けて、支持ローラ側からポリマーフィルムを加熱してしまうと、ポリマーフィルム全体が加熱される。このため、図7に示すように、ナーリングローラ側フィルム面16bに突起42によってナーリング凹部56が形成される他に、支持ローラ側フィルム面16aにも、ナーリング凹部56に対応する形でナーリング突起58が形成される。しかも、このナーリング凹部56及びナーリング突起58が形成される際に、ナーリング凹部56の内側角部からナーリング突起58の外側角部にかけての剪断応力によって、クラック60が発生し易くなる。また、ナーリング凹部56に対応して反対側面にナーリング突起58が形成されるため、ナーリング凹部56の周囲に形成される囲繞隆起部57の高さ及び幅は、図5の囲繞隆起部54に比べて小さくなる。したがって、ナーリング突起58と囲繞隆起部57との高さを加算した総合ナーリング高さが、図6の囲繞隆起部54の高さHn1と同じであっても、凸部としての囲繞隆起部57、ナーリング突起58が両面に分散される分、ヘタリ易くなる。しかも、矩形等の環状突起からなりヘタリに強い構造となっている囲繞隆起部57の幅及び高さが本発明の囲繞隆起部54に比べて小さいため、ヘタリ易い。また、クラック60が発生するため、次の塗布工程などで塗布液がクラック60を介して裏面側に回り込む不都合が発生する。
本発明のナーリング装置及びナーリング方法によれば、図6に示すように、薄手のポリマーフィルム16に対して、十分な高さのナーリング44を安定して付与することができるので、ポリマーフィルム16を巻き取ったフィルムロール32の形態において、フィルムの巻きズレを防止する効果が高い。また、次工程において、各種塗布膜を形成する場合でも、十分な高さのナーリング44によって、ヘタリが抑えられる。したがって、塗布後の巻き取りの際に、ナーリング44のヘタリに起因して塗布面が搬送ローラ等に貼りついて搬送不良となることがない。
ポリマーフィルム16は、単層であっても複層(例えば、プラスチック支持体上に薄膜が複数層形成されたもの)であってもよい。さらに、ポリマーフィルム16としては、光学機能性を有するものに限定されず、樹脂フィルムに蒸着層、塗布層などが形成された記録媒体、樹脂フィルムに有機膜、無機膜が積層された防湿防気フィルムなど、各種のものを用いることができる。
上記実施形態では、図3に示すように、温度センサ48によりナーリングローラ36の温度を測定し、この測定結果に基づいてナーリングローラ36の温度を制御する例で説明したが、温度センサ48は省き、ポリマーフィルム16の搬送速度などによるナーリングを付与する際の条件に応じた一定の熱を加熱器46からナーリングローラ36に供給してもよい。同様にして、温度センサ49も省き、ナーリングを付与する際の条件に応じて支持ローラ38を冷却してもよい。
上記実施形態では、フィルム製造ライン12と、巻取り装置14との間でナーリング44を付与する例で説明をしたが、フィルム製造ライン12内に本発明のナーリング装置13を配置して、製造中のフィルムに対してナーリング44を付与してもよい。
上記実施形態では、ポリマーフィルム16の幅方向両側部にナーリングローラ36と支持ローラ38とを設けたが、これらナーリングローラ36及び支持ローラ38のいずれか一方または両方は、ポリマーフィルム16の幅方向に長い1本のローラから構成してもよい。この場合、ナーリングローラの外周のうちナーリングを付与する部分(ナーリングローラの両側部の外周)に突起42を設ければよい。
また、上記実施形態では、ナーリングローラ36を加熱することによって、ナーリング付与前のポリマーフィルム16を加熱したが、これに加えて、例えば、ヒータからの熱風を送風することによってナーリング付与前のポリマーフィルム16を予熱してもよい。もちろん、ポリマーフィルム16をヒータにより直接加熱したり、予熱ローラに接触させて加熱したりしてもよい。
以下、表1をもとに、本発明の実験例について説明する。
Figure 0005922613
実験1〜6では、図3に示すように、ラップ角度θ1を10°として、ナーリングローラ36を支持ローラ38よりも搬送方向上流側に配置したナーリング装置13を用い、ナーリングローラ36の温度を290℃とし、支持ローラ38の温度を、15℃、20℃、50℃、100℃、130℃、270℃と変化させた。また、実験7〜12では、支持ローラ38の温度を25℃とし、ナーリングローラ36の温度を200℃、250℃、
270℃、300℃、310℃、350℃に変化させた。実験13では、実験1に対し、支持ローラ38の周面を突起無しのフラットから突起有りとし、支持ローラの温度を25℃とした以外は、実験1と同じ条件とした。支持ローラ38の突起はナーリングローラ36に形成した突起42と同形状である。実験14は、ナーリングローラ36の突起42を無くしてフラットとした以外は実験13と同じ条件とした。この実験14は、具体的には、実験13のナーリングローラと支持ローラとの位置を入れ替えたものと同じである。実験15〜19では、実験1の支持ローラ38の温度を25℃とし、ナーリングローラ36へのポリマーフィルム16のラップ角度θ1を0°、5°、10°、20°、40°とした以外は実験1と同じ条件とした。各実験において、フィルムの搬送速度(巻き取り速度)を100m/minとし、ナーリング付与時のニップ圧を300Nとした。
各実験では、ポリマーフィルム16としてトリアセチルセルロースフィルムを用い、このフィルムにナーリング44を付与して巻き取った後にナーリング44のヘタリ率、割れを求めて、評価した。なお、フィルムが破れしまい巻き取りを停止した場合の搬送不可や、発塵があった場合には、その他に記載した。ポリマーフィルム16の融点はDSCにて測定したところ、290℃であった。
ヘタリ率は、フィルムのナーリング部分に、1×10N/mmの圧力を18時間かけて、初期の高さHt1に対する減少量の割合を百分率として求めた。ヘタリ評価は、ヘタリ率が30%以下の場合にAとし、30%を超えて60%以下の場合にBとし、60%を超える場合にCとした。
割れ評価は次のようにして行った。100mの長さのサンプルフィルムの片面に対し、着色したエタノールを塗布し、塗布面とは反対側面にクラックを介して裏回りの有無を確認した。長さ100mでナーリング部(幅15mm)の裏周りが発生した個所の数をカウントした。カウント値が「0」の時に、裏周りの発生が無いとして「A」、カウント値が「1または2」の時に「B」、カウント値が3以上9以下の時に「C」、カウント値が10以上の時に「D」とし、「B」以上を合格とし、「C」以下を不合格とした。
総合評価は、ヘタリ率、ヘタリ評価、割れ評価、その他を総合的に判断し、製品として問題ないと判断できる場合は、好ましい方から順に「A」、「B」とし、製品としては問題があり、改善の必要がある場合は、「C」,「D」とした。
実験1〜6では、支持ローラ38の適正温度範囲を検討した。表1に示すように、支持ローラ38の温度が0℃以上50℃以下ではヘタリ率が30%であり、100℃ではヘタリ率が45%、130℃ではヘタリ率が65%、270℃ではヘタリ率が60%であった。割れ評価は、実験1〜6全てにおいて、Aとなった。
実験7〜12では、ナーリングローラ36の適正温度範囲を検討した。ナーリングローラ36の温度が200℃の実験7では、ヘタリ率が70%でヘタリ評価はC、割れ評価はDであった。また、ナーリングローラ36の温度が250℃である実験8ではヘタリ率が70%、ヘタリ評価及び割れ評価が共にCであり、総合評価はDであった。さらに、ナーリングローラ36の温度が350℃の実験12では、ヘタリ率が30%、ヘタリ評価及び割れ評価がAであったものの発塵があり、総合評価はCであった。これに対して、ナーリングローラ36の温度が270℃である実験9ではヘタリ率が40%、ヘタリ評価、割れ評価がBであり、総合評価はBであった。また、ナーリングローラ36の温度が300℃である実験10及び310℃ある実験11ではヘタリ率が30%、ヘタリ評価、割れ評価がAであり、総合評価はAであった。
実験13,14では、ナーリングローラ36及び支持ローラ38の周面形状において、突起42の有無について、検討した。実験11では、ナーリングローラ36及び支持ローラ38の両方に突起42を形成した。この場合には、ヘタリ率が50%、ヘタリ評価がC、割れ評価がBであり、ヘタリ評価で問題があり、総合評価がCとなった。また、実験14では、ナーリングローラ36の周面から突起42を無くしてフラットとし、支持ローラ38の周面に突起42を形成したもので、実験13に対してナーリングローラとフラットローラの位置を入れ替えたものである。なお、ナーリングローラ36は290℃であり、支持ローラ38は25℃であった。この実験14では、ヘタリ率が60%であり、ヘタリ評価がC、割れ評価がDであり、搬送不可となり、総合評価はDとなった。
ラップ角度θ1を0°とした実験15では、ヘタリ率が80%、ヘタリ評価、割れ評価がCであり、総合評価はDとなった。同様にして、ラップ角度θ1を40°とした実験17では、ヘタリ率が25%、ヘタリ評価及び割れ評価がAであるものの搬送不可となり、総合評価はDとなった。これに対して、ラップ角度θ1を5°とした実験14では、ヘタリ率が45%、ヘタリ評価及び割れ評価がBであり、総合評価はBとなった。同様にして、ラップ角度θ1が10°の実験17、及びラップ角度θ1が20°の実験18では、ヘタリ率が30%、ヘタリ評価及び割れ評価がAであり、総合評価がAとなった。
以上の実験結果により、フラットな周面を有する支持ローラ38の適正温度範囲は0℃以上100℃以下であることが分かる。また、突起42を周面に有するナーリングローラ36の適正温度範囲は270℃以上310℃以下であることが分かる。さらに、ナーリングローラ36のラップ角度θ1は5°以上20°以下であることが分かる。
10 フィルムロール製造設備
12 フィルム製造ライン
14 巻き取り装置
16 ポリマーフィルム
32 フィルムロール
34 ナーリング装置
36 ナーリングローラ
38 支持ローラ
44 ナーリング

Claims (6)

  1. 搬送される帯状のポリマーフィルムに対してナーリングを付与するナーリング装置において、
    周面に突起を有し、前記ポリマーフィルムの第1面に接触し、前記ポリマーフィルムの融点±20℃の範囲内の表面温度のナーリングローラと、
    平坦な周面を有し、前記ナーリングローラと前記ポリマーフィルムとの接触位置よりも搬送方向下流側位置で、前記第1面とは反対側の第2面に接触し前記ナーリングローラとの間で前記ポリマーフィルムを挟持し、表面温度が100℃以下の支持ローラとを備え、前記ナーリングローラに対する前記ポリマーフィルムのラップ角度が5°以上20°以下であり、
    前記ポリマーフィルムと前記ナーリングローラの接触時間が2m秒以上80m秒以下であるナーリング装置。
  2. 前記ポリマーフィルムの厚みFtが25μm以上60μm以下であり、ナーリングの高さをHn1とする場合に、前記Hn1を、Ft×0.05以上Ft×0.30以下とする請求項1記載のナーリング装置。
  3. 前記ナーリングローラ及び前記支持ローラは、前記ポリマーフィルムの幅方向両側部に設けられ、前記ナーリングは、前記ポリマーフィルムの幅方向両側部に付与される請求項1又は2項記載のナーリング装置。
  4. 前記ポリマーフィルムはセルロースアシレートフィルムであり、前記ナーリングローラの温度は270℃以上310℃以下であり、前記支持ローラの温度は0℃以上100℃以下である請求項1から3いずれか1項記載のナーリング装置。
  5. 請求項1から4いずれか1項記載のナーリング装置を用い、前記ポリマーフィルムにナーリングを付与するナーリング方法。
  6. 請求項1から4いずれか1項記載のナーリング装置を用い、前記ポリマーフィルムにナーリングを付与するナーリング工程と、
    ナーリングの付与されたポリマーフィルムを巻き取る巻き取り工程と
    を含むフィルムロール製造方法。
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