JP5874117B2 - 流体の温度と種類の影響を校正した熱伝導型センサと、これを用いた熱型フローセンサおよび熱型気圧センサ - Google Patents

流体の温度と種類の影響を校正した熱伝導型センサと、これを用いた熱型フローセンサおよび熱型気圧センサ Download PDF

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Description

本発明は、気体や液体である流体の流量、流速などの流れを計測する、もしくは気体の圧力を計測する熱伝導型センサに関するものである。未知の流体であってもその温度と種類の影響を自動的に校正できるような機能を熱伝導型センサに備え、これを熱型フローセンサと熱型気圧センサに適用したもので、この被測定流体の熱伝達率やその温度依存性に関する情報を基に、被測定流体の温度依存性やガス種などの種類の影響を校正できるようにした小型で単純構造かつ高感度で安価な熱伝導型センサとしての熱型フローセンサおよび熱型気圧センサを提供する。
従来、本出願人は、これまで宙に浮いた薄膜に、白金薄膜などの抵抗体を形成してヒータとする「電熱器」(特許文献1)を発明し、現在では、フローセンサや真空センサなどのマイクロヒータとして応用されている。更に本出願人は、半導体ダイオードをヒータとする「加熱ダイオード温度測定装置とこれを用いた赤外線温度測定装置および流量測定装置ならびに流量センシング部の製作方法」(特許文献2)を発明した。そして、半導体ダイオードは温度センサとしても利用できるので、ヒータ兼温度センサとして利用することを提案した。その後、本出願人は、熱電対を温度差センサとして利用するばかりでなく、ヒータとしても利用できる「熱電対ヒータとこれを用いた温度計測装置」(熱電対ヒータ)(特許文献3)も発明した。
従来、基板に形成した溝状流路(空洞)を橋架する構造で、この基板から熱分離した薄膜橋(宙に浮いた薄膜の橋)を3個溝に沿って対称に形成し、それぞれには白金薄膜が形成してあり、中央の薄膜橋をヒータとして利用し、両側の薄膜橋を温度センサとして利用する熱伝導型センサとしてのガスフローセンサがあった(特許文献4)。これは、流路に沿ったガスの流れがないときには、中央のヒータを中心に対称にある両側の薄膜橋の温度は等しいが、ガスの流れがあると、上流側の薄膜橋では、環境温度の冷たいガスが流れるので冷え、下流側では、中央のヒータ薄膜橋からの熱を受けて温度上昇する。このようにガスの流れにより、ヒータの両側の薄膜橋に温度差が生じるので、これを利用してガス流を計測する方法である。しかしながら、白金薄膜などの抵抗温度センサでは、絶対温度センサであるために抵抗そのものが、絶対温度に対応する。従って、温度差を計測するには絶対温度センサを2個用意し、これらの出力の差を求める必要があることなどから、微細な温度差計測には、誤差が大きく不向きであった。
また、従来の熱型フローセンサでは、多くの場合、白金薄膜をヒータ兼絶対温度センサとして使用していた。従って、経時変化が大きく、更に絶対温度センサであるため周囲温度の影響がそのまま反映するので、周囲温度補正が困難であり、それを達成するために、多くのセンサとそれによる温度制御系を必要とし、高価なフローセンサにならざるを得なかった。
一般に、基板から熱分離のために宙に浮いた薄膜を使用すると、加熱された薄膜は、加熱を止めるとニュートンの冷却の法則により、周囲環境温度Tcである基板の温度(加熱される前の周囲温度)と加熱された薄膜の温度Tとの温度差(T-Tc)に比例して放熱して冷却され、最終的には基板の温度に等しくなる。このように、加熱された物体の温度が周囲媒体へ熱伝導して、周囲媒体の熱伝達率に関係して温度上昇したり、温度降下したりする。温度センサの温度変化を計測して周囲媒体の物理的状態、例えば、流速、流量、真空度、気圧などを計測するために用いる熱伝導型センサでは、周囲温度Tcと考えてよい基板の温度と加熱された薄膜の温度Tとの温度差が、その絶対温度よりも重要である。このように、温度差を計測するには、白金抵抗体やサーミスタなどの絶対温度センサよりも、温度差のみを出力する小型の温度差センサである熱電対やサーモパイルが、周囲温度の変化の影響をほとんど受けずに計測できるために、好適である。
本発明者は、先に、温度差センサである熱電対を用いたガスフローセンサと不純物濃度センサを発明した(特許文献5)。また、先に、やはり、熱電対を温度差のみを計測することができる温度センサとしてセンシングユニットとこれを搭載した熱型フローセンサを発明した(特許文献6)。これらの熱型フローセンサでは、ヒータを流体の流れ方向に対して、空洞が延びているが、その空洞の流れ方向に沿う基板の側面を支持部としてカンチレバ状に飛び出したSOI薄膜に温度センサやヒータを形成していた。そして、中央にはヒータのカンチレバ状薄膜、その両側には、近接して流れの上流側と下流側に同等に形成されたカンチレバ状の薄膜に熱電対を形成して配置してあるが、ヒータのカンチレバ状薄膜と温度センサを形成した薄膜とは、支持部を除いて連結していないので、カンチレバ状のヒータ(そこでは、熱電対をヒータとしても利用できるようにしている)からの熱は、被測定流体である気体などの周囲流体を通してのみ熱伝導されて、ヒータの両側で上流側と下流側に配置した温度センサをもつ薄膜が熱せられるようにしていた。このために、流体の流れにより上流側の温度センサのあるカンチレバ状薄膜は、冷却され、下流側の温度センサのあるカンチレバ状薄膜は、ヒータからの熱を受けて温度上昇することで、流体の温度のみにより高感度に流体の流れを計測することができた。しかしながら、周囲流体の温度が変わったときに、流体の熱伝達率が変わり、折角、温度センサとして温度差センサである熱電対を設けても、流体の熱伝達率の温度依存性のために、ヒータを同一の電力で加熱した場合や同一の基板からの温度差になるように制御しながら加熱した場合でも、その流体自体の温度変動により温度差出力が異なり、温度補正が複雑になるという問題があった。もちろん、流体の種類を変更するとその熱伝達率が異なるので、その流体の種類による影響も大きいという問題があった。
従来、流体の流れによるヒータの前後の温度差を計測するのに、その温度差のみを計測するために、同一の空洞に形成してある同一の薄膜にサーモパイルを、ヒータを上流側と下流側に対称に形成配置して、流体の熱伝達率の温度依存性を結果的に小さくしたフローセンサがあった(特許文献7)。しかし、これらの例では、温度差出力を増幅するためにサーモパイルを使用していたために、センサ部分の領域が大きくならざるを得なかったこと、多くの冷接点を形成するために、ダイアフラム構造にして、基板との接合面積を大きくせざるを得なかったので、折角のヒータからの熱が基板側に流れてしまい温度低下を招くと共に、温度センサ領域に温度分布を有してしまうという問題があった。また、中央にヒータを置き、放射状に配置した熱電対や感温抵抗体薄膜などをヒータの周りに配置したフローセンサも従来報告されている(特許文献8)が、流体の流れ方向に沿って薄膜が延在して、その支持部も流れ方向にあるので、流れ方向に熱の移動が促進され温度分布が形成されてしまう。特に温度センサとして熱電対を使用している場合は、流体の流れに沿って移動する熱が流れ方向の基板側に伝導し、冷却されやすくなると共に、温度分布のピークの位置が熱電対の温接点の位置を越してしまう恐れを生じるという問題があった。
一般に、被測定流体の物理量(ここでは、被測定流体特有の密度、熱伝導率や比熱などの物性値の意味で表現する)や物理的状態(ここでは、被測定流体の流速や流量、気圧などの調整できる量の意味で表現する)を計測するときに、加熱したヒータからの熱を被測定流体が介入して熱伝導により温度センサに伝え、その温度センサの出力を基にして、被測定流体の物理量や物理的状態を知るようにしたセンサを熱伝導型センサと呼んでいる。
従って、本発明での熱型フローセンサや熱型気圧センサも、熱伝導型センサの範疇に入るもので、熱伝導型センサとしての共通点を有するものである。従来、熱型フローセンサにおいて、被測定流体の流速や流量などを計測する場合に、被測定流体の種類を事前に知っておく必要があった。その場合、特定の標準の被測定流体(標準ガス)、例えば、気体の場合は、窒素ガスの20℃、1気圧での熱伝達率などの基本データを利用して表示される熱型フローセンサの流速や流量などの出力値を、被測定流体の種類が標準ガスと異なり変更になった場合は、その被測定流体の温度や気圧における熱伝達率などの既知の基本データを利用して、熱型フローセンサの流速や流量などの出力値を校正していた。熱伝達率の大きいヘリウムガスや水素ガスなどの流量(例えば、質量流量)の計測では、標準ガスとしての窒素ガスから大きく表示がずれてしまい、どうしても、校正をする必要があった。この状況は、熱伝導型センサとしての熱型気圧センサにおいても同様で、計測に被測定流体の熱伝達率が関与している以上、被測定流体のガスの種類を事前に知り、出力値を校正する必要があった。このように、被測定流体のガスの種類を事前に知らなくとも自動校正できる熱伝導型センサが望まれていた。
特開昭55−119381公報(特許第1398241号) 特開2006−250736公報 特開2009−79965公報 US004478077公報 特開2009−128254公報 特開2010−230601公報 特開2001−165731公報 特表2004−514153公報
本発明は、上述の問題点を解決するためになされたもので、気体や液体の被測定流体の物理的状態(主に流速、流量や気圧)を計測するに当り、流体温度、周囲温度(室温)、流体の種類の影響を極力小さくさせるため、これらの影響を自動補正(校正)可能になるように構成した熱伝導型センサを提供し、これを用いて高感度で、小型、単純構造かつ安価な熱型フローセンサと熱型気圧センサとを提供すること、更に、被測定流体の種類も特定できるようにすることを目的としている。
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係わる熱伝導型センサは、被測定流体の温度と種類の影響を校正できるようにした熱伝導型センサにおいて、基板(1)から同一の空洞(40)により熱分離されている少なくとも二つの薄膜を具備し、一方の薄膜(10)には少なくともヒータ(25)と温度センサ(20)とを備え、他方の薄膜(12)には、温度センサ(20)を備えていること、薄膜(10)と薄膜(12)とは、薄膜(10)がヒータ(25)により加熱されたときに、薄膜(12)が、被測定流体を介してのみ熱せられるように互いに近接配置すると共に空間分離して形成していること、被測定流体の流れに直接晒されている構造であること、該被測定流体の物理的状態の計測に及ぼす被測定流体の温度と種類の影響を校正するための校正回路手段(200)を、基板(1)に備えるか、もしくは、外部に設けた校正回路手段(200)と通信するため校正回路用端子を基板(1)に備えたこと、前記被測定流体の物理的状態は、被測定流体の流れを止めて、該被測定流体の所定の一つの圧力環境の下で計測されたものであること、ヒータ(25)を加熱する前の前記被測定流体の温度の情報と、ヒータ(25)を加熱したときのヒータ(25)の温度に係る情報と、前記所定の一つの圧力環境の下での標準流体と未知の被測定流体における該薄膜(12)に形成した温度センサ(20)からのそれぞれの所定の温度に関する情報とを基にして、標準流体と未知の被測定流体の熱伝達率に係る量を算出し、該熱伝達率に係る量に基づいて校正する前記校正回路手段(200)であることを特徴とするものである。
熱伝導型センサは、ヒータ加熱した宙に浮いた薄膜(基板1から同一の空洞40により熱分離している)の温度は、周囲の流体の温度とその流体の種類により熱伝達率が変化し、従来、その周囲の流体の物質の熱的性質が予め分かっていないと、特定の流体で校正してある被測定流体の物理的状態である流量や気圧に大きな誤差が生じてしまうので、予め用意してある周囲の流体の物質の熱的性質、特にその温度と圧力での熱伝達率を基にして校正して、正しい測定値に修正していた。本発明の熱伝導型センサでは、ヒータ25に近接配置した薄膜12には、ヒータ25から熱が被測定流体を介してのみ伝わるように配置構成しているので、薄膜12の温度上昇から、その被測定流体の熱伝達率のその周囲温度における情報が得られる。この情報を利用すれば、例えば、同一の周囲温度において、ヒータ供給電力を固定したり、周囲温度に対して所定の温度上昇分を維持するように制御したりして、基準流体(流体が気体のときは、例えば、窒素ガスなどの特定の既知の流体としている)における薄膜10のヒータ25部の温度とその基準流体における薄膜12の温度の既知の関係と、未知の被測定流体におけるこれらの温度の関係から、この未知の被測定流体の熱伝達率に関する情報が校正回路手段200を介して得られ、この情報を基にして、計測された被測定流体の物理的状態である流量や気圧などの表示に当たり、被測定流体の温度と種類の影響がないように校正するものである。前記薄膜12と校正回路手段200とを組合せて、被測定流体の物理的状態である流量や気圧などの真の表示が達成される。なお、前述のヒータ25からの熱が近接して設けてある薄膜12には、被測定流体を介してのみ伝わるように配置構成しているという意味は、実際には、ヒータ25や薄膜12を支持している基板1を通しても、薄膜12への熱伝達が存在し、無視できないが、ここでは、基板1での支持部を介した熱伝導を除いた、直接の熱伝導は、被測定流体を介してのみであるということである。なお、基準流体の選択は、被測定流体が液体の時には、データが揃っている既知の液体を利用すると良いし、被測定流体が気体の時には、データが揃っている既知の気体(標準ガスという)を利用すると良い。
単位面積、単に温度、単位時間当たりの伝熱量を熱伝達係数hと呼び、表面温度Twの物体から流体の温度Taへの熱移動量Q[W]は、ニュートンの冷却の法則により数式1で表わされる。
Figure 0005874117
ここで、Aは伝熱面積[m2]である。また、強制対流時の熱伝達係数h[W/(m2K)]は、次の数式2で表わされる。
Figure 0005874117
ここで、Nはヌセルト数で、kは流体の熱伝導率[W/(m・K)]であり、温度の関数である。L[m]は流れ方向の物体の長さである。また、ヌセルト数Nはレイノルズ数Re(流体速度Vの2分の1乗に比例する関数)とプラントル数Prとの関数で表わされる。従って、熱伝達係数hは、流体の速度や温度の関数となっている。また、流れのある流体中での加熱された物体からの奪われる熱量Qf [W]は、流体の速度Vの2分の1に比例するというキングの法則があり、次のように表わされる。
Figure 0005874117
ここで、a 、bは流体や加熱物体で決まる定数、rは、流体の密度であり、(Tw-Ta)は、数式1と同じで、加熱物体の表面温度(Tw)と周囲流体の温度(Ta)との差である。このように、数式1と比較すると数式3のaは、被測定流体の熱伝達係数hと定数である伝熱面積Aとの積に対応していることが分かる。また、数式3のQfと数式1のQとの差は、流体の速度Vに起因する項であり、もちろん、速度Vがゼロの時は、数式1に戻る。しかし、数式1では、被測定流体に流れがあった場合も表現するようにしており、その流速の効果を、数式2の形で、温度の関数である熱伝導率kや流速の関数であるレイノルズ数Reなどで表現したものととらえることができる。また、数式3からQfは、流体の密度の2分の1乗に関係し、(rV)は、質量流量に対応するもの(実際の質量流量は、(rV)と流れの断面積Sとの積である)である。従って、数式3からQfにおける流れにより奪われる熱量分は、(Tw-Ta)を一定に保持した場合、質量流量(rV)の2分の1乗に比例するということができる。このように、熱型フローセンサの原理は、被測定流体に流れがあるので、数式3を使用すると、速度Vの項が分離しているので物理的に分かりやすい。しかし、実験的にも利用できる数式1では、一つの熱伝達係数hの中に、流体速度Vや温度の項が入り込んでいるので、熱伝達係数hとして取り扱うことが容易である。このように、速度Vの項を分離した数式3を用いると、被測定流体に流れがある数式3のQfが大きくなり、奪われる熱が多くなるから、ヒータにより加熱された物体は、温度降下を招くことがはっきりする。ここで注意する必要があるのは、キングの法則の「加熱物体から奪われる熱量は、流体の速度Vの2分の1に比例する」というのは、(Tw-Ta)を一定にさせた時という条件が入ることである。
上式のように、加熱された物体からの周囲の流体への熱移動量は、これらの温度差に比例し、単位面積当たりの熱移動量は、流体の熱伝達量hとなる。また、熱伝達量hは、流体の物質固有の熱伝導率kに比例することになる。一般に、流体の熱伝導率kは、温度の関数であり、温度上昇と共に大きくなる。被測定流体の流れがなければ、被測定流体の種類、その温度および圧力(気圧など)の関数として熱伝達率hが定まる。また、ヒータからの熱が、被測定流体を介してのみ伝達されるように近接配置し、温度センサを備えた微小薄膜の温度上昇分は、ヒータと温度センサとの距離が固定であれば、ヒータの温度と、被測定流体のその温度および圧力における熱伝達率で決定される。従って、ヒータと温度センサとの距離を固定し、被測定流体のその温度および圧力を既知としておき、ヒータの温度を何らかの方法で計測して既知となれば、前記の温度センサの温度上昇分を計測することにより、その時の被測定流体の熱伝達率が求まる。また、流れが無い状態で、この温度および気圧の下での熱伝達率が分かれば、熱伝導率は、物質の固有の値となる。熱伝達率は、この熱伝導率を含むので、おおよその気体などの被測定流体の種類が判明する。更に、熱伝導率は温度依存性を有するので、熱伝達率も温度依存性を有し、単に1点の温度だけでなく、被測定流体の温度を変化させて、各温度における熱伝達率を計測しておくことにより、詳細な温度依存性のデータ(情報)が得られ、被測定流体の種類を特定することができる。
熱型フローセンサとして用いる場合は、被測定流体の流れを止めて、例えば、特定の温度に加熱した薄膜10のヒータ25の下で、そこから近接している薄膜12の温度センサ20の温度上昇分を計測する場合、先ず熱伝達率に関して既知である標準ガス(例えば、窒素ガスとする)で計測し、その時の薄膜12の温度センサ20の温度上昇分を基準にし、次に被測定流体での計測を行い、標準ガスを基準にした被測定流体の熱伝達率に係る量、例えば、標準ガスと被測定流体との熱伝達率の比などを求める(例えば、標準ガスに関するデータベースをメモリに搭載しておき、校正回路手段200の演算回路で処理して求める)。この熱伝達率に係る量を利用して、被測定流体が流れたときの被測定流体の物理的状態としての流速や流量を校正して、表示できるようにすることができる。このように、実際に被測定流体の熱伝達率を求めなくとも、標準ガスの場合と被測定流体での場合の同一測定条件(周囲温度からのヒータ温度上昇分、気圧、流体温度、流れが無い状態)での薄膜12の温度センサの出力の比を求めるだけで良い。この出力の比は、標準ガスと被測定流体のこの同一条件での熱伝達率の比に対応するからである。
また、熱型気圧センサとして用いる場合は、被測定流体の物理的状態としての気圧を、気体の流れが無い状態で、この未知の気体の温度と、既知の特定気体(窒素ガスなど)での同一条件での予め取得してあるデータ(情報)を利用して、上述と同様にして気体の温度や気体の種類の影響を自動校正して、真の気圧を表示するようにできる。
温度センサの温度上昇分の計測は、温度センサに熱電対を用いると、温度差センサであるから好都合である。また、被測定流体の流れがあっても、流れの大きさを種々変化させること、所定の電力で加熱した薄膜10のヒータ25の奪わる熱量が、流速の2分の1乗に比例することと、定常状態の温度上昇分は、一定の熱伝達率の被測定流体では、ヒータ25の加熱に寄与する電力に比例することを利用して、流れがあっても被測定流体の物理的状態としての流量や流速、更には、気体の気圧を自動校正することができる。更に、ヒータ25を有する薄膜10の温度を計測して、薄膜10の温度を所定の温度一定に保持するように制御回路で制御すると、その消費電力の変化から薄膜10から奪われる熱量を容易に計測することができる。
例えば、熱伝導型センサを熱型フローセンサとして実施する場合、薄膜12が薄膜10に対して、上流側に存在しているときには、薄膜12に形成している温度センサ20(例えば、薄膜熱電対120)の出力情報(被測定流体の流れが無い場合のデータと、流れがあっても、その流れがあった場合のデータ)を利用して、例えば、周囲気体である被測定流体の物性のうちの少なくとも熱伝達率に関する情報を得ることができる。被測定流体の熱伝達率は、その流体の種類、温度や気圧により大きく変化するものである。従って、この得られた熱伝達率を利用して、被測定流体の流れに関する詳細な周囲温度などの補正(校正)が可能になる。熱伝導型センサを熱型気圧センサとして実施する場合は、気流が無い状態で、同様に被測定流体の気圧に関する詳細な周囲温度変化による影響を補正(校正)することが可能である。
本発明の請求項2に係わる熱伝導型センサは、ヒータ(25)の加熱温度を変化させるための温度可変手段(250)を備えて、その変化させた時のそれぞれの前記情報が得られるように構成し、被測定流体の種類をも特定できるようにした場合である。
同一の周囲温度における同一のヒータ供給電力に対して、被測定流体の熱伝達率のその周囲温度における情報が得られる。しかし、被測定流体の熱伝達率は、温度依存性があり、周囲環境温度が変われば、その分、熱伝達率も変化する。周囲環境温度を外部ヒータで調整することもできるが、本発明では、外部ヒータを用いなくとも、ヒータ25の温度可変手段により加熱温度を変化させて、そのヒータ25付近の被測定流体の温度をも変化させる。このときのヒータ25により加熱された薄膜10の温度と、その近接配置した薄膜12の温度を、これらに形成してある温度センサ20により計測して、被測定流体の熱伝達率の温度依存性を求めたり、その温度依存性を利用して被測定流体を特定するようにしたり、更には、被測定流体の物理的状態計測における被測定流体の温度と種類の影響を一層正確に校正できるようにした熱伝導型センサを提供する場合である。なお、温度可変手段250は、温度制御を必要とすることから熱伝導型センサのセンサチップの外側に設けるとよい。
本発明の請求項3に係わる熱伝導型センサは、温度センサ(20)を薄膜熱電対(120)とした場合である。
薄膜10)に形成したヒータ25が白金(Pt)などの測温抵抗体となる場合は、ヒータ25を温度センサ20として兼用に用いることもできる。しかし、ここでは、敢えて温度センサ20を薄膜熱電対120とした場合である。薄膜熱電対120は、温度差センサであり、温度差しか出力しないので、周囲温度を基準温度とすれば、周囲温度が変動してもその変動する周囲温度を基準として、そこからの温度変化だけを出力する。周囲温度をゼロとして、そこからの温度変化分をゼロ位法で高精度に計測できるという利点があり、例えば、ヒータ25が形成されている薄膜10にも薄膜熱電対120を形成しておき、近接配置した薄膜12にも薄膜熱電対120を形成すると、これらの薄膜熱電対120の差動により、周囲温度変化の影響なしに厳密にこれらの温度差を計測できる。ここでは、薄膜熱電対120と表現したが、熱電対を直列接続したサーモパイルを用いても良い。しかし、サーモパイルは、1個の薄膜熱電対に比べ、感度は大きくなるが、その面積が大きいために、超小型のセンサを提供するには不向きであり、その面積内の平均値の温度を計測することになる。
被測定流体の温度と熱伝導型センサの外の周囲温度(室温)とは、一般には異なる。ただ、被測定流体の温度と周囲温度とを一致させるようにすることが、熱伝導型センサでは、望ましい。従って、熱伝導型センサの半導体センサチップの基板1の温度(基板温度)を被測定流体の温度に長時間晒し、基板温度を被測定流体の温度に等しくさせて計測することが望ましい。
本発明の請求項4に係わる熱伝導型センサは、基板(1)に絶対温度センサを形成した場合である。
温度センサである薄膜熱電対120は、温度差センサであるので、その冷接点(または、温接点)を基準として、温接点(または、冷接点)までの温度差のみを計測する。従って、温度補正などにおいては、基準となる温度の絶対温度が必要となる。従って、熱容量が大きく、熱伝導率が大きい基板1を基準温度とすることが多い。このようなときに、基板1に絶対温度センサを製作しておき、これを基準温度として用いうと共に、この基準温度を随時計測できるようにしておく。薄膜熱電対120の冷接点が基板1に形成してあるので、基板1に絶対温度センサを製作することが大切である。この絶対温度センサの出力を利用して、周囲温度補正をすることができる。
絶対温度センサとして、pn接合ダイオード、ショットキ接合ダイオード、白金薄膜などの感温抵抗体、サーミスタ等が利用できる。
本発明の請求項5に係わる熱伝導型センサは、薄膜(10)と薄膜(12)とが、SOI層で構成されている場合である。
基板1から空洞40により熱分離している薄膜は、SOI層(Silicon on Insulator 層)の薄膜で形成すると製造技術上容易である。一般に、SOI層は、単結晶シリコン層であるので、その導電型をn型またはp型に選択できると共に、公知の半導体集積化技術やマイクロマシーンニング技術により、下部に空洞40を有する宙に浮いた構造の半導体層の薄膜、また、そこにダイオードやトランジスタなどの回路部品やこれらを組み合わせたICを形成することもできるという利点がある。
本発明の請求項6に係わる熱型フローセンサは、請求項1から5のいずれかに記載した熱伝導型センサにおける被測定流体の物理的状態を流速又は流量とし、前記校正回路手段(200)に少なくとも増幅回路と演算回路および制御回路を具備したことを特徴とするものである。
本発明の請求項7に係わる熱型フローセンサは、前記薄膜(10)の他に、前記空洞(40)を介して基板(1)から熱分離した薄膜(11)を有し、該薄膜(11)には温度センサ(20)を備え、薄膜(11)と薄膜(10)とは最高温度領域(85)付近で、熱抵抗を有するように幅を狭めた連結薄膜(13)で連結してあること、前記ヒータ(25)で薄膜(10)を加熱したとき、連結薄膜(13)を通して薄膜(11)が熱せられるような構造にした場合である。
薄膜10と薄膜11とが、それらの支持部を経由した基板1を介しての熱の移動以外に、熱が移動する連結部分がなく、互いに独立している場合は、薄膜10に形成しているヒータ25を加熱しても、温度センサ20をもつ薄膜11は、気体などの流体を通してのみ温度上昇する。このために被測定流体の種類や温度による熱伝達率の変化がそのまま薄膜11の温度上昇に反映するので、流量や流速が一定であっても、その流体の種類や温度の変化により、薄膜11の温度上昇に変化が現れてしまう。本発明では、薄膜10をそこに形成したヒータ25で加熱した時に、薄膜10の最高温度領域85 (最も高温になる領域のことを言い、カンチレバ構造では、ほぼ先端部分の領域であり、架橋構造では、ほぼその中央付近の領域である)と、薄膜11に形成した薄膜熱電対120の温接点81の領域とを連結薄膜13で連結すると、連結薄膜13を通して熱伝導が起こり、薄膜11が温度上昇を起こす。一般に、この固体である連結薄膜13は熱抵抗を有するが、気体などの流体よりも固体の熱伝達率が大きいので、流体を通した熱伝導よりも、この連結薄膜13を通しての熱伝導が十分大きい(例えば、1桁以上大きい)ように、長さ、幅や厚み、更には材料の選択することで、大きくすることが大切である。もちろん、流体の流れにより、連結する連結薄膜13の両端に温度差が生じなければならないから、その熱抵抗を決めるその長さ、幅、厚み、材料を選択し、適当な温度差が生じるような設計が必要である。このようにすれば、薄膜10と薄膜11との連結薄膜13を介しての固体の熱伝導により被測定流体の種類や温度による熱伝達率の変化の影響を極めて小さくすることができるという効果がある。
本発明では、上記の薄膜10と薄膜11との連結薄膜13を介しての固体の熱伝導により被測定流体の種類や温度による熱伝達率の変化の影響を極めて小さくするという効果を特徴とすると共に、熱伝導型センサとして、薄膜10と薄膜11とは異なる独立した基板から熱分離して温度センサ20を有する薄膜12を備え、この薄膜12の温度センサ20からの被測定流体の熱伝達率に関する情報と、薄膜10と薄膜11の温度情報、更に被測定流体の絶対温度情報を基にして、被測定流体の温度と種類の影響を更に補正(校正)するようにした校正回路手段200により、一層正確に被測定流体の温度と種類の影響を自動校正できるようにした熱型フローセンサを提供するものである。
基板1に形成してある空洞40は、気体などの被測定流体の流れに沿って形成してあり、その空洞40は、一般には基板1に取り囲まれている構造にしているが、場合によっては、空洞40の一方の側は、基板がなく開放端になっている場合もありうる。空洞40の流体の流れ方向に対して両側には、一般には、基板の露出端面があり、被測定流体の流れ方向の熱伝導での基板への熱の流入のための熱損失の立場から、流れ方向に対して両側の基板の露出端面に薄膜10や薄膜11の支持部を形成して、被測定流体の流れ方向に支持部を有していないようにした方が良い。カンチレバ構造(片持ち梁構造)である一端支持構造の場合は、薄膜10や薄膜11は、空洞40に向かって基板1の一方の端面から延びている構造が望ましい。空洞40を架橋する構造である場合は、薄膜10や薄膜11は、空洞40の両側にある基板の両端面に支持部を有し、空洞40の架橋構造となり、やはり被測定流体の流れ方向に支持部を有していない構造にした方が望ましい。このように、被測定流体の流れ方向に支持部を有していない薄膜10や薄膜11の構造とすることにより、ヒータ25により熱せられた被測定流体の流れにより、下流側の薄膜11の温接点81の温度が高くなりやすいようにすると共に、これらの薄膜10や薄膜11を通して流れ方向に沿って熱が基板1に流れ込まないようにすることができる。ただし、それらの支持部は、空洞40の流れに沿った片側もしくは両側の基板1の端面付近で、補強のために幅広にしても良いし、また、その幅広になった領域に穴を開けて、基板1への熱伝導を小さく抑えるようにしても良い。
本発明の熱型フローセンサとは、熱型フローセンサのセンサチップを意味する場合や、センサチップに駆動回路などの回路を備えたモジュール化やそれらを含む流体の流れを計測する装置を意味する場合もある。
本発明の熱型フローセンサのセンサチップは、MEMS技術で製造される極めて小さな寸法、例えば、2mm角程度の大きさであるので、熱容量が小さく、室温などの周囲温度が変動しても、速やかにセンサチップもその温度に達する。したがって、センサチップの基板1の温度もほぼ周囲温度になっていると考えることができる。また、被測定流体の温度と周囲温度とも異なる可能性があるが、センサチップを取り付けている系の熱容量を小さくさせるか、被測定流体を周囲温度に速やかに近づけるようにすることにより、周囲温度と被測定流体の温度との温度差、すなわちセンサチップと被測定流体との温度差をゼロに近づけるようにすると良い。もちろん、センサチップの基板1に形成してある薄膜10や薄膜11の空洞40に突き出している領域は、極めて熱容量が小さいので、ヒータ25で加熱されていないならば、被測定流体の温度になっており、したがって、周囲温度になっている。ヒータ25で薄膜10を加熱すると、被測定流体の熱伝達率が一定で流れがないならば、放熱の熱コンダクタンスが一定になるので、同一の加熱電力の下では、基板1からの温度上昇ΔT(基板との温度差)は一定になる。そして、加熱を停止すると、温度上昇ΔTがゼロになり、薄膜10は、元の周囲温度に戻る。このように、供給パワーである加熱電力が一定の下では、基板との温度差である温度上昇ΔTが一定になるので、温度センサとして、温度差センサである熱電対やサーモパイルが最適である。
本発明の請求項8に係わる熱型フローセンサは、薄膜(11)および連結薄膜(13)が、SOI層で構成されている場合である。
本発明の請求項9に係わる熱型フローセンサは、連結薄膜(13)にpn接合ダイオードを形成して、薄膜(10)と薄膜(11)との電気的絶縁が得られるようにした場合である。
薄膜10に形成したヒータ25に電流を流して薄膜10を加熱するが、このヒータ25がSOI層の薄膜10を通電して加熱するような場合で、連結薄膜13も、薄膜11も連続したSOI層から成り立っていると、薄膜11に形成した温度センサである薄膜熱電対120の温接点領域を介して薄膜熱電対120にも電流が流れ、起電力が薄膜熱電対120に発生してしまう恐れがある。これは、ヒータ25の駆動回路と薄膜熱電対120の熱起電力増幅回路との共通アースとした時に特に問題になる。このために、SOI層からなる連結薄膜13にpn接合ダイオードを形成して、その電位障壁を利用して薄膜10と薄膜11とを電気的に分離するようにした場合である。特に、ヒータ25に電流を流したときに、前記pn接合ダイオードが逆方向バイアスになるようにpn接合ダイオードとヒータ25の電流の向きとを設定すると良い。
もちろん、このヒータ25が、薄膜熱電対120の一方の熱電対導体としているSOI層から成る薄膜10のSOI層に通電して加熱するような場合ではなく、SOI層の薄膜10の上に形成した絶縁薄膜の上に形成した金属薄膜抵抗ヒータによる加熱の場合は、この絶縁薄膜によりヒータ25と薄膜熱電対120の温接点領域とは電気絶縁ができるので、必ずしもpn接合を形成する必要はない。
本発明の請求項10に係わる熱型フローセンサは、薄膜(10)に設けられているヒータ(25)として、感温抵抗体、熱電対もしくはダイオードを用いること、また、これらのヒータ(25)を必要に応じてヒータ兼温度センサとしても用いるようにした場合である。
SOI層からなる薄膜10をヒータ25としての抵抗体として、SOI層部分に通電しても良いし、これを感温抵抗体として温度センサとしても取り扱っても良い。また、温度センサとしてSOI層部分を熱電対の一方の熱電対導体材料として利用しても良いし、その上の絶縁膜上に形成した熱電対や感温抵抗体を利用しても良い。また、SOI層部分は、単結晶シリコン薄膜なので、pn接合ダイオードを形成して、このpn接合ダイオードに順方向電流を流して、接合部の主体としてヒータとして動作させることもできるし、このpn接合ダイオードを温度センサとして利用することもできる。
本発明の請求項11に係わる熱型フローセンサは、薄膜熱電対(120)が設けられている薄膜(11)として、薄膜(10)に対して、上流側に薄膜熱電対(120a)を設けた薄膜(11a)と、下流側に薄膜熱電対(120b)を設けた薄膜(11b)との少なくとも二個具備していること、それぞれの薄膜熱電対(120a、120b)の温接点の領域は、それぞれ固体の連結薄膜(13a)と連結薄膜(13b)とで薄膜(10)に、該薄膜(10)の最高温度領域(85)付近で連結されている場合である。
気体や液体の被測定流体の流れを計測するのに、流路の途中に宙に浮いた薄膜ヒータを設置し、その上流側と下流側に温度センサを有する宙に浮いた薄膜に温度センサを形成して、これらの温度センサの出力差から流れを計測する手段は従来から知られている。本発明も同様であるが、温度センサとして薄膜熱電対を形成している場合であり、これらの薄膜熱電対120a、120bの温接点付近と薄膜10の最高温度領域とを熱抵抗を有する固体の連結薄膜13aと連結薄膜13bで連結している場合である。これらの薄膜熱電対120a、120bの出力差を利用して、被測定流体の微小な流れを計測することができる。連結薄膜13bを介して下流側の薄膜11bが熱せられるので、薄膜11bに形成した薄膜熱電対120bの温接点領域は、薄膜10の最高温度領域85に近い温度に熱せられることになる。特に、温度差センサである薄膜熱電対120a、120bを利用するので、ヒータ25で加熱しても温度上昇分の計測となり、その周囲温度に対する温度上昇分も、その消費電力に比例するだけであり、温度上昇分の周囲温度変化の影響は極めて少ない。従って、この場合、温度差出力などの周囲温度依存性も直線的変化で表現できるような範囲で済み、上記薄膜12と、基板1か、もしくは外部に設けた校正回路手段200との組合せで周囲温度補正が極めて小さくできるので、単純な回路の校正回路手段200で済むことになる。
本発明の請求項12に係わる熱型気圧センサは、請求項1から5のいずれかに記載した熱伝導型センサにおける被測定流体の物理的状態を気圧とし、前記校正回路手段(200)に少なくとも増幅回路と演算回路および制御回路を具備したことを特徴とする熱型気圧センサ。
被測定流体の物理的状態を流速又は流量として熱型気圧センサを熱型フローセンサに適用した上述の場合と同様に、ここでは、熱型気圧センサを熱型気圧センサに適用して、被測定流体としての気体の温度や種類による被測定気体の物性値、特に、熱伝達率の影響を自動的に校正できるようにして、真空から1気圧以上の気圧まで表示できるように、少なくともその情報を出力できるような構成にするものである。
熱伝導型センサを、熱型フローセンサや熱型気圧センサに適用して提供するには、これらのセンサセンシング部分の他に、増幅回路、演算回路、ヒータ駆動回路、更には被測定流体のその温度における熱伝達率などを計測して、被測定流体の種類や温度の影響を除くための校正回路手段200を搭載する必要がある。この校正回路手段200は、半導体などの基板(半導体センサチップ)上に搭載してもよいし、この校正回路手段200の一部または、全部を半導体センサチップの外に設けるようにしてもよい。本発明では、このような半導体センサチップにこの校正回路手段200を搭載した場合や、半導体センサチップには、校正回路用端子を設けて、この校正回路手段200を半導体センサチップの外に備えるようにしてモジュール化した熱伝導型センサとしての熱型フローセンサや熱型気圧センサを提供する場合も含むものである。
本発明の請求項13に係わる熱型気圧センサは、前記薄膜(10)は、カンチレバ(46)の構造であること、該カンチレバ(46)はその支持部側の領域A(48)と先端側の領域B(49)とに熱抵抗領域(47)を介して分割してあること、少なくとも該領域A(48)には、ヒータ(25)と温度センサ(20)とを具備してあり、該領域B(49)には、温度センサ(20)を具備してある構造にした場合である。
本発明の熱型気圧センサでは、領域A(48)と領域B(49)との温度差を計測することにより、気圧、特に高真空における気圧を高精度で計測できるように構成している。なぜなら、領域A(48)に備えてあるヒータ25で薄膜10を加熱すると、薄膜10がカンチレバ46の構造であるから、領域B(49)は領域A(48)に対してカンチレバ46の先端側に位置しているので、高真空になると領域B(49)からの熱は輻射以外に熱伝導しなくなる。従って、領域B(49)と領域A(48)との温度差がゼロに向かう。領域B(49)と領域A(48)に備えた温度センサ20が、薄膜熱電対120であると、領域B(49)と領域A(48)との温度差を高精度で計測することができる。その温度差がゼロになることは、ゼロ位法を利用して高精度に高真空側を計測できることを意味する。
一方、本発明の熱型気圧センサでは、1気圧付近やそれ以上の気圧においても、前記薄膜(10)を熱膨張係数の異なる二重構造にすることにより、ヒータ25の加熱・冷却時の二重構造の膨張・収縮に基づいて、曲げ変形振動させて加熱された薄膜(10)を強制冷却させて、領域A(48)と領域B(49)との温度差を拡大計測することにより、その冷却度合いから気圧を計測することができるようにした場合である。
上記のように被測定流体としての気体の種類とその温度によりその熱伝達率が異なり、従来、その気体の種類を事前に知り、そして、その計測時の温度を計測して、これらの情報を元に、標準ガスでの表示値を補正するようにしていたが、本発明の熱型気圧センサでは、ヒータ25を搭載している薄膜10に近接して、しかも薄膜10とは独立して、基板1から熱分離させた、温度センサ20を有する薄膜12を設けて、標準ガスと同一の気圧の下で、薄膜12の出力からの温度情報、被測定気体の温度情報、薄膜10の温度出力情報を元にして、その時の気体の熱伝達率に関わる情報を得て、事前にこの熱型気圧センサで取得しておいた標準ガスでのデータとの比較により、校正回路手段200を用いて、自動校正するものである。なお、熱型フローセンサの場合と同様、ヒータ25の温度可変手段250によりヒータ25の温度を種々変化させて被測定流体としての気体の熱伝達率の温度依存性を計測できるようにすることにより、その気体の種類を特定できるようにするものである。
本発明の請求項14に係わる熱型気圧センサは、前記薄膜(12)の温度センサ(20)を薄膜熱電対(120)とし、該薄膜(12)は、ヒータ(25)からの熱を被測定流体である気体を介してのみ受け取り温度上昇することを利用して、該薄膜熱電対(120)を用いて基板(1)との間の温度差を計測して、1パスカル(Pa)以下の気圧における気圧計測にも使用するようにした場合である。
高真空(低気圧)になると、ガス分子数が極めて少なくなり、加熱した物体表面からの熱の奪われる量が激減する。熱型気圧センサでは、この気体分子による熱が奪われる量に応じての温度変化を計測する原理であるから、気体分子が少ない低い気圧での気圧計測は困難になる。熱電対は、冷接点と温接点との温度差のみ計測するので、温度差がゼロであれば熱起電力も本質的にゼロとなる。このゼロ出力を基準にして計測する方法がゼロ位法であり、高精度の計測が達成できる。本発明では、加熱されたヒータ25に近接して設けてある薄膜12の薄膜熱電対120の温接点が被測定気体を介してのみ熱せられるので、極めて気体の圧力には敏感である。周囲温度が変化しても、ヒータ25を基板1の温度から所定の一定温度分温度上昇させた場合は、熱容量が大きい基板1を冷接点にもつ薄膜熱電対の温接点の温度上昇分は、ヒータ25からの熱を、被測定気体を介してのみ熱せられたものであるから直接気体分子の存在、すなわち気圧に関係するので、ゼロ位法を適用して高精度に気圧を計測できる。このように、本発明は、薄膜12を、気圧計測における気体の種類やその温度の校正に使用するばかりでなく、高真空における真空センサ(気圧センサ)としても利用するようにしたものである。
本発明の熱伝導型センサは、所定のヒータ加熱の温度や電力等の指定条件の中で、基板から熱分離した少なくとも2つの薄膜10(薄膜ヒータと温度センサとを搭載)と薄膜12(温度センサを搭載)を備えてあり、互いに近接配置し被測定流体を介してのみ熱のやり取りをさせるので、未知の被測定流体であっても、所定の同一条件下で、予め標準ガスで計測してある熱伝達率に関するデータ(情報)と、未知の被測定流体の熱伝達率に関するデータとの比較により、熱型フローセンサとしての流速や流量、熱型気圧センサとしての気圧を被測定流体の種類とその温度の影響を自動校正して、表示するようにできるという利点がある。
熱伝導型センサの半導体センサチップに、被測定流体の温度と種類の影響を除くようにした校正回路手段200としての主要な増幅回路、演算回路や制御回路を組み込み、自動校正することができる。また、半導体センサチップには校正回路手段200を組み込まず、半導体センサチップに設けてあるヒータ25の電極パッド、温度センサ20の電極パッド、基板1の絶対温度を計測するための絶対温度センサの電極パッドなどの電極パッドからワイヤボンディングなどで、半導体センサチップをマウントしたパッケージに配線し、パッケージ化した熱伝導型センサ内に演算回路や制御回路などの校正回路手段200を設けることもできる。また、さらに、校正回路手段200を熱伝導型センサ外に形成しても良い。その場合、熱伝導型センサ内に校正回路手段用の端子を作製しておき、この端子を介して外部に設けた校正回路手段と通信ができるようにしても良い。このように、極めてコンパクトな熱伝導型センサが製作できるから、これを利用したコンパクトで被測定流体の温度と種類の影響を自動校正できる熱型フローセンサや熱型気圧センサが提供できるという利点がある。
本発明の熱伝導型センサでは、温度センサ20として薄膜熱電対120を用いているから、薄膜10や薄膜12におけるヒータ加熱での温度上昇分の計測に好適である。
本発明の熱伝導型センサでは、薄膜10、薄膜12、薄膜11および連結薄膜13が、SOI層で形成できるので、その単結晶性を利用すれば、この領域に、ダイオード、トランジスタ、薄膜熱電対、抵抗素子など容易に形成できるから、集積回路を形成することもできるし、埋め込み絶縁層(BOX層)とSOI層とのエッチャントの違いを利用し、宙に浮いた薄膜を容易に形成できると言う利点がある。
本発明の熱型フローセンサでは、基板から熱分離した薄膜10にヒータ25を備え、薄膜10に近接して薄膜熱電対120を備えた薄膜11が配置されており、さらに薄膜熱電対120の温接点81の領域と薄膜10の最高温度領域85とが熱抵抗を有する連結薄膜13で連結されている構造である。従って、気体や液体の被測定流体の熱伝達率よりも十分大きい連結薄膜13の熱伝達率となるので、被測定流体の種類や温度依存性のある熱伝達率がほぼ無視できる程度になる。特に周囲温度の補正(校正)が無視できるか、もしくは補正が必要であってもその影響が極めて小さくなり単純な校正回路からなる校正回路手段で済むので、小型で安価な熱型フローセンサが提供できると言う利点がある。
本発明の熱型フローセンサでは、熱抵抗領域47としての連結薄膜13を、その幅、長さや厚みの調整、必要に応じてその材料の選択により、その熱抵抗の大きさを調整できるという利点がある。
本発明の熱型気圧センサでも、ヒータ25を形成している薄膜10に近接して配置した薄膜熱電対120を備えた薄膜12の温度変化を利用して、大気圧などの所定の同一の気圧と温度の下で、未知の被測定流体と既知の標準ガスでの薄膜12の温度変化を比較計測して、それぞれの熱伝達率もしくはそれらの比を算出して、被測定流体の温度や種類による被測定流体の気圧の誤差を校正回路手段200を用いて自動校正できるという利点がある。
本発明の熱型気圧センサでは、薄膜熱電対120を備えた校正用の薄膜12を、高真空域での気圧センサの高感度化にも役立てることができるという利点がある。
本発明の熱伝導型センサの一実施例を示す熱伝導型センサチップの平面概略図である。(実施例1)、(実施例2) 図1のX−X線における断面概略図である。(実施例1)、(実施例2) 本発明の熱伝導型センサの他の一実施例を示す熱伝導型センサチップの平面概略図である。(実施例3) 本発明の熱伝導型センサの他の一実施例を示す熱伝導型センサチップの平面概略図である。(実施例3) 本発明の熱伝導型センサを熱型フローセンサに適用した一実施例を示し、校正回路手段を組み込んでモジュール化した熱型フローセンサの断面概略図である。(実施例3) 本発明の熱型フローセンサの他の一実施例を示し、センサチップをマウントして、流路管中に取り付けた場合の横断面概略図である。(実施例3) 本発明の熱伝導型センサの外部に備える校正回路の一実施例を示す横断面概略図である。(実施例3) 本発明の熱伝導型センサを熱型フローセンサに適用した場合の他の一実施例を示す熱型フローセンサチップの平面概略図である。(実施例4) 図8のX−X線における断面概略図である。(実施例4) 本発明の熱伝導型センサを熱型フローセンサに適用した場合の他の一実施例を示す熱型フローセンサチップの平面概略図である。(実施例5) 本発明の熱型フローセンサの他の一実施例を示す熱型フローセンサチップの平面概略図である。(実施例6) 本発明の熱型フローセンサの他の一実施例を示す熱型フローセンサチップの平面概略図である。(実施例7) 本発明の熱伝導型センサを熱型気圧センサに適用した場合の他の一実施例を示す熱型気圧センサチップの平面概略図を示す。(実施例8) 図13のX−X線における断面概略図である。(実施例8)
1 基板
10 、11、11a、11b、12 薄膜
13、13a、13b 連結薄膜
15 下地基板
16 SOI層
20 温度センサ
21 絶対温度センサ
25 ヒータ
40 空洞
41 スリット
46 カンチレバ
47 熱抵抗領域
48 領域A
49 領域B
50 シリコン酸化膜
51 BOX層
61 n型領域
62 p型拡散領域
70、70a、70b 電極パッド
71a、71b 電極パッド
72a、72b 電極パッド
73a、73b 電極パッド
74 電極パッド
75 校正回路用端子
76 校正回路用端子
80 コンタクトホール
81 温接点
82 冷接点
85 最高温度領域
90 絶縁分離用溝
91 pn接合
100 熱伝導型センサチップ
101 熱型フローセンサチップ
102 熱型気圧センサチップ
110 配線
120、120a、120b、120c 薄膜熱電対
121 熱電対導体
122 熱電対導体
200 校正回路手段
210 増幅器
220 演算回路
230 制御回路
250 温度可変手段
300 パッケージ
310 プリント基板
320 流路管
321 流路管狭窄部
325 流路
330 外部出力端子
350 ケーブル
400 モジュール化した熱型フローセンサ
500 校正手段の筺体
本発明の熱伝導型センサおよびこの熱伝導型センサの特徴を有した熱型フローセンサおよび熱型気圧センサは、成熟した半導体集積化技術とMEMS技術を用いて、ICも形成できるシリコン(Si)基板、特にSOI基板で形成しやすい。これらの熱伝導型センサと熱型フローセンサおよび熱型気圧センサをシリコン(Si)基板であるSOI基板を用いて製作した場合について、図面を参照しながら実施例に基づき、以下に詳細に説明する。
図1は、本発明の熱伝導型センサの一実施例を示すセンサチップの平面概略図で、図2は、そのX−X断面における断面概略図である。本実施例では、本発明の熱伝導型センサとして、半導体シリコンの基板1を利用し、この基板1に、被測定流体の種類や温度の影響を校正するための校正回路手段200としての主要部である増幅器210、演算回路220および制御回路230を形成して具備した場合の例を示している。また、ここでは、基板1としてSOI基板を用いて、熱型フローセンサに応用した場合であるが、これをそのまま熱型気圧センサとしても実施できるようにした場合である。
基板1としてのSOI基板は、SOI層16には、その下部に埋め込み絶縁層であるBOX層51が存在しているために、例えば、アルカリ性エッチャントであるヒドラジン水溶液では、単結晶シリコンから成るSOI層16や下地基板15は溶解(エッチング)されるが、BOX層51はエッチングされないので、容易に基板1から熱分離している宙に浮いた薄膜構造体が形成できる。この技術を利用してある一方のヒータ25と温度センサ20である薄膜熱電対120が形成されている薄膜10と、他方の温度センサ20である薄膜熱電対120を形成した薄膜12を、SOI層16を主たる構成材料として用い、近接して形成(例えば、最近接個所で50マイクロメートル程度)している。また、SOI層16側からの異方性エッチングによりスリット41が形成され、基板1の裏面からの異方性エッチングにより空洞40が形成される。この時、シリコン酸化膜50とBOX層51に囲まれ保護された領域としての薄膜10と薄膜12が宙に浮いた薄膜として空洞40の対向する両側面での基板1に支持部を持つ架橋構造の形で形成されている。ここでは、金属の配線110や電極パッド70、71,73など及び薄膜熱電対120を構成する一方の熱電対導体122をアルカリ性エッチャントに耐えるニクロム薄膜を使用している。
本実施例では、温度センサ20として薄膜熱電対120を用い、薄膜10にもヒータ25と共に、薄膜10の温度(以下、ヒータ温度という)を計測するための温度センサ20を備えた場合である。薄膜熱電対120は温度差センサであり、周囲温度等には無関係に、温接点81と冷接点82の温度差だけで熱起電力は決定されるので、好都合である。ここでは、温度センサ20として薄膜熱電対120を用いているので、薄膜10と薄膜12との温接点81同士の温度差は、電極パッド71aと電極パッド73aとの熱起電力差を計測すればよい。ここでは、薄膜10と薄膜12に形成した薄膜熱電対120は、薄膜10と薄膜12を構成するSOI層16を一方の熱電対導体121とし、他方の熱電対導体122を異方性エッチングにも耐えるニクロム薄膜とし、電極パッド71a、73aなどや配線110と同一材料としている。また、薄膜10と薄膜12に形成した薄膜熱電対120の冷接点82を共通端子としている。
本実施例では、校正回路手段200の主要部である増幅器210、演算回路220および制御回路230を、シリコン半導体基板1に形成した場合の例であるが、ヒータ25や温度センサ20である2個の薄膜熱電対120およびpn接合からなる絶対温度センサ21の各電極パッドを用意してあり、これらの各電極パッドから配線110により増幅器210、演算回路220および制御回路230との信号のやり取りができるようにすると共に、外部にもそれらの信号を出力させたり、ヒータ25への電力供給ができるようにしている。
本発明の熱伝導型センサの動作について、これを単純な熱型フローセンサに適用して本実施例の図1と図2を参照して説明すると次のようである。薄膜10に備えたヒータ25に電流を流し、被測定流体である例えば、未知の気体中で、流れが無い状態が達成できる場合は、室温(例えば、20℃)、大気圧(1気圧)の下で熱型フローセンサチップを晒す。ヒータ25に所定の電力,例えば10[mW]で駆動したときに、ヒータ25の温度上昇分ΔTu(実際には、薄膜10に形成してある温度センサである薄膜熱電対120の温度上昇分)が12℃であったとする。流体(ここでは、気体を例にしている)の温度である室温20℃は、熱型フローセンサチップに形成してあるpn接合を利用した絶対温度センサ21により知ることができる。標準ガス(例えば、窒素(N2)ガス)中で、同様にヒータ25に所定の同一の電力,例えば上述の10[mW]で駆動したときに、ヒータ25の温度上昇分ΔTsが10℃であったとする。未知の気体でのヒータ25の温度上昇分である12℃と、同一条件での標準ガスの温度上昇分である10℃との違いは、上記数式1のニュートンの冷却の法則から、これらの気体のこの温度における熱伝達率に基づくものであることが分かる。また、一般に、一定電力で駆動しているヒータの温度上昇分は、流体への熱移動の熱コンダクタンスGに反比例すること、熱コンダクタンスGは、その流体の熱伝達率hに比例することが分かっている。従って、単純には、同一の室温(ここでは20℃)における未知の気体の熱伝達率huは、標準ガスの熱伝達率hsのΔTs/ΔTu倍した値となる。所定の温度での標準ガスの熱伝達率hsは既知であり、ΔTs/ΔTuは計測により求まるので、未知の気体の熱伝達率huが判明し、これを元にして熱型フローセンサの流速や流量を、上記数式1や数式3を利用して求めることができる。なお、数式3でのaは、上述のように、これらの気体の熱伝達率hに対応している(実際には、ほぼ定数であるヒータ部の加熱有効表面積Aとの積)。これらの気体の薄膜10や薄膜12に備える温度センサ20として薄膜熱電対120を用いると、周囲温度からの温度上昇分だけが計測されるので、好都合である。
上述では、被測定流体である未知の気体の温度と標準ガスの熱伝達率hsが同一の温度でのデータを仮定したが、異なる温度の場合は、計測した未知の気体の温度における標準ガスの熱伝達率hsのデータを直線近似で推定して算出しておき、これを元にして、上述のようにして未知の気体のその温度における熱伝達率huを求めることができる。
また、薄膜10から固定した距離だけ離れた位置の薄膜12の温度センサ20である薄膜熱電対120の温度は、ほぼヒータ25から離れるに従い指数関数的に減衰する温度の中に晒されており、その薄膜12の位置における距離だけによって決定されると近似することができる。また、薄膜10と薄膜12とが近接配置していると、薄膜10からの熱で周囲気体の熱伝達率を介して薄膜12が熱せられているので、ヒータ25の温度を所定の一定温度上昇分に保持した場合、薄膜10と薄膜12との距離(間隔)が一定で、しかも極めて小さいとすると、ヒータ25の温度と薄膜12の温度との差は、ほぼ周囲気体の熱伝達率に逆比例すると近似することができる。従って、ヒータ25の温度からの薄膜12の温度降下分として薄膜10と薄膜12との温度差を計測して、標準ガスにおける薄膜10と薄膜12との温度差との比較からの既知の熱伝達率hsを利用して未知の気体のその温度における熱伝達率huを求めることができる。
被測定流体の物理的状態である流速や流量を熱型フローセンサとして計測するとき、その温度における流れが無い状態において、標準ガスの既知の熱伝達率hsと未知の気体のその温度における熱伝達率huとの比、r=(hs/hu)を、標準ガスの場合と未知の被測定流体である気体の場合での薄膜10の温度Twと薄膜12の温度Tbとのそれぞれの温度差、標準ガス:(Tw-Tb)=ΔTsと、未知の気体:(Tw-Tb)=ΔTuとの比の逆数,(ΔTu/ΔTs)に等しいとおくことができる。それぞれの温度差ΔTsとΔTuは、薄膜10と薄膜12に備えた薄膜熱電対120の出力差から求まるので、結局、(hs/hu)が数値として求めることができる。同一温度における水素ガスやヘリウムガスのように熱伝達率が大きい気体では、一般に薄膜10と薄膜12との温度差が小さくなり、アルゴンガスやキセノンガスのように分子量が大きいガスでは、熱伝達率が小さくなり、従って、薄膜10と薄膜12との温度差が大きくなる。このようにして、例えば、標準ガスとして窒素ガスを用いて、他の未知の気体のその温度における(hs/hu)を算出して、熱型フローセンサとしてガス種の違いによる標準ガスからの流速や流量表示のための出力誤差を補正(校正)することができる。被測定流体に流れがあるとその値が大きくなり変化するが、それらの比である(hs/hu)は、流れがあってもほぼ変化が無いと近似している。熱型フローセンサとしての流速や流量表示のための出力信号の取り出し方は、種々あるが、例えば、図1での熱伝導型センサの薄膜10の温度を、被測定流体の気体の流れがあった時に、その流量(または、流速)における12℃一定に保持するために必要なヒータ25に供給する電力(ヒータ供給電流と電圧の積)の変化を利用することもできるし、後述するように、ヒータ25を有する薄膜10に連結している薄膜11と薄膜10の温度差や、ヒータ25を有する薄膜10に連結している上流側の薄膜11aと下流側の薄膜11bとの温度差を薄膜熱電対120aと薄膜熱電対120bとの熱起電力差を利用することもできる。従って、このような流速や流量表示のための出力信号と、標準ガスを用いて算出しておいた(hs/hu)を利用して、実験データを元にして実際の流速や流量の表示を校正すると良い。
被測定流体の絶対温度は、熱型フローセンサチップの半導体の基板1に形成した絶対温度センサ21からの信号を利用し、ヒータ25の加熱供給電力(ヒータ25の電極パッド70a、70bへの供給電力)の計測、ヒータ25の温度または温度上昇分または温度降下分は、薄膜10に形成した温度センサ20である薄膜熱電対120(電極パッド71a、71b)からの熱起電力信号と、薄膜12に形成した温度センサ20である薄膜熱電対120(電極パッド73a、73)からの熱起電力信号とを、熱型フローセンサチップの半導体の基板1に形成した校正回路手段200の一部である制御回路230と増幅回路210および演算回路220に送り処理して、被測定流体の種類の影響、温度の影響を補正(校正)するものである。このとき、制御回路230では、ヒータ25の所定の温度上昇分の制御、所定電力供給制御、ヒータの加熱温度制御が行えるようにし、増幅回路210では、薄膜熱電対120からの熱起電力信号の増幅し、演算回路220では、標準ガスの既知の熱伝達率hsと未知の気体のその温度における熱伝達率huとの比を算出して、被測定流体の種類の影響、温度の影響の補正(校正)に利用し、その未知の気体の流速や流量の真の値を表示できるようにするものである。また、上記の未知の気体の熱伝達率huの温度依存性も温度可変手段250を用いてヒータ温度を変化させて計測し、この熱伝達率huの温度依存性を加えることで未知の気体を正しく特定することもできる。
キングの法則の数式3から分かるように、実際には、式中の定数a は流体の熱伝達率hに対応し、このaと密度rとも流体の温度により異なり温度依存性を有する。従って、標準ガスの熱伝達率h等のデータを利用して、未知の気体の物理的状態である流速や流量を校正する場合、同一温度での値を用いて校正することが重要である。上述のように、実際に測定する環境の被測定流体の温度が、標準ガスの熱伝達率h等のデータにその温度におけるデータが無い場合は、その温度に近い温度での標準ガスのデータを直線近似で推定して使用するよい。また、数式3を利用して、事前にその熱型フローセンサに関して、標準ガス、例えば、窒素ガスを用いて、所定の温度における種々の質量流量成分(rV)を変化させて、ヒータ25の温度Twと薄膜12に備えた薄膜熱電対120の温度Tbとの温度差(Tw-Tb)を一定に保つようにヒータ25の供給電力Pを校正回路手段200の制御回路230を用いて制御し、このときのPと質量流量成分(rV)との関係のデータを取得しておき、更に被測定流体の所定の温度を変化させて、それぞれの所定温度における供給電力Pと質量流量成分(rV)との関係をデータ化しておき、更に、これらから種々の被測定流体の温度での数式3におけるa とbの値をデータ化して未知の気体の校正に使用できるようにすることもできる。
前述の実施例における図1と図2に示す熱伝導型センサチップ100を利用して、簡単な熱型気圧センサとして実施することができる。ここでは、本発明の図1と図2に示した熱伝導型センサを熱型気圧センサとして実施した場合の実施例を示す。熱型気圧センサでは、上述の実施例1における熱型フローセンサへの適用と異なり、被測定流体に流れが無い場合、もしくは流れがあったとしても、直接センサチップのセンシング部である薄膜10と薄膜12には、気流が達しないように、メッシュカバーなどを取り付けて流れを遮断した状態で計測するものである。従って、この熱型気圧センサとして実施する場合は、上記数式1が適用される。そして、気体の熱伝達率hは、気体の種類とその温度Taおよび気圧の関数である。先ず、標準ガス(例えば、窒素ガス)中で、1気圧の下で薄膜10の温度Tw(ヒータ温度)を温度Ta(例えば20℃)の下でヒータ25の加熱により(Tw-Ta)が一定値100℃となるように制御回路230を用いて制御しながら定常状態で薄膜12の温度Tbを計測する。この時の(Tw-Tb)の大きさは、近接配置した薄膜10と薄膜12との間では、この間を満たしている流体である標準ガスのこの周囲温度における熱伝達係数hsに逆比例すると近似できる。そして、標準ガスにおける種々の周囲温度Taで同様にして熱伝達係数hsを算出してデータベース化しておく。次に実際に標準ガスの代わりに未知の気体を用いて、同様にして周囲温度Taにおける1気圧での熱伝達係数huを算出して、その温度での標準ガスの熱伝達係数hsと未知の気体の熱伝達係数huとの比、r=(hs/hu)、を前記実施例1と同様にして求めておく。この比rをこの温度における補正係数として利用し、この値を用いて、上述の熱型フローセンサの時と同様にして、その温度における未知の気体の気圧の値として補正(校正)する。なお、この比rは、被測定流体の温度(周囲温度)Taの大きさにより、多少異なるので、周囲温度Taを熱型気圧センサチップに備えてある絶対温度センサ21を用いて計測して、その温度における比rを用いて補正すると良い。
上述では、薄膜10と周囲流体の温度の差(Tw-Ta)を一定に保ちながら薄膜10と薄膜12との温度差(Tw-Tb)を用いることにしたが、薄膜10と周囲流体の温度の差(Tw-Ta)を一定に保つために必要なヒータ加熱電力Pを比較して、標準ガスの場合と未知の気体の場合のヒータ加熱電力Pの比を利用することもできる。ただ、薄膜10と薄膜12との温度差(Tw-Tb)の値が小さいので、その分変化率が大きくなり、(Tw-Tb)を用いた方が高感度に校正することができる。
上述の熱型気圧センサの実験では、標準ガスの周囲温度を変化させてデータベースを作成することを述べたが、標準ガスの周囲温度を変化させることは一般に困難なことである。近接配置した薄膜10と薄膜12との間の流体の温度は、1気圧に近い場合は、ヒータで加熱されて高温になっており、従って、その温度における熱伝達率hも、低温である周囲温度Taとは、異なっている。従って、これらの薄膜10と薄膜12との間での温度差(Tw-Tb)の計測では、この流体の熱伝達率hは、実際には、この薄膜10と薄膜12との間の平均的な温度における流体の熱伝達率hを使用すべきである。逆に言うと、薄膜10の温度Tw(ヒータ25の温度としている)を変えることにより、その付近の温度における流体の熱伝達率hを(Tw-Tb)を計測することで算出することができる。このようにして、所定のヒータ25の温度Twを変化させて、それぞれの温度における標準ガスの1気圧での熱伝達率hsを算出して、データベース化しておき、未知の気体のその温度Twにおける(Tw-Tb)を計測して熱伝達率huを算出して補正(校正)するようにして良い。なお、未知の気体に関する特定の温度での熱伝達率huやその温度依存性から未知の気体の種類を特定することもできる。逆に、この未知の気体が特定できた結果、既知の気体となれば、その気体の既存のデータベースを利用して、流速や流量を自動構成することもできることは言うまでもない。
図3は、本発明の熱伝導型センサの他の一実施例で、校正回路手段200の主要部である増幅器210、演算回路220および制御回路230を熱伝導型センサチップ100上に形成せず、外部に設けるようにした場合で、その代わり、熱伝導型センサチップ100上には、外部に備えた校正回路手段200と電力の授受や通信ができるように、各電極パッド70a、70b、71a、71bなどを外部に備えた校正回路手段200のための校正回路用端子75としても利用できるように、設けた例で、図3は、そのようにした熱伝導型センサチップの平面概略図である。また、図4は、熱伝導型センサチップ100の図3に示した場合とは異なり、薄膜12をカンチレバ46で構成して、温度センサ20としての薄膜熱電対120の温接点81をその先端部に備えてあり、薄膜10の温度センサ20としての薄膜熱電対120と共通の冷接点82を熱伝導率の高い半導体SOIの基板1に形成してある場合である。なお、薄膜10も同様にカンチレバ46で構成することもできるが、ここでは、そのようにした図面と説明は省略する。図5に示す本実施例は、熱伝導型センサチップ100を熱型フローセンサに適用して、しかも、校正回路手段200を組み込んでモジュール化した熱型フローセンサ400として提供する場合の一実施例を示す断面概略図である。モジュール化した熱型フローセンサ400には外部出力端子330を備え、外部に設けた表示部や電源などとの接続ができるようにしている。被測定流体を流す流路管320の中に、層流が達成できるようにスムーズに流れるようにした流路管狭窄部321を設けて、その流路管狭窄部321の領域に熱型フローセンサチップ101を取り付け、熱型フローセンサのセンシング部である薄膜10と薄膜12とが被測定流体に直接触れるように配置している。また、図6には、図3や図4に示した熱伝導型センサチップ100をパッケージ300にマウントして、流路管320の中に取り付けた場合の熱型フローセンサの横断面概略図を示し、この外に設ける校正回路200とは、ソケットなどを有するケーブル350等で電気的に接続できるように校正回路用端子76を備えている。図7は、外部に備える校正回路200の一実施例で、その校正回路200の筺体500の中に校正回路200の主要部である増幅器210、演算回路220および制御回路230、更には、温度可変手段250などが収納されている様子を示す。もちろん、図7には描いていないが、校正回路200の筺体500の中に、校正回路200としての回路だけでなく、熱型フローセンサとしての動作させるための電源や表示に必要な回路等を入れておくと良い。図3や図4に示す熱伝導型センサを熱型フローセンサや熱型気圧センサに適用した場合の動作原理は、上記実施例1および実施例2で説明した通りで、校正回路200の主要部を基板1上に設けているか、外部に設けているかの違いであり、本質的には変わらないので、ここではその説明を省略する。
図8は、熱伝導型センサを熱型フローセンサに適用した場合の他の一実施例を示す熱型フローセンサチップ101の平面概略図であり、被測定流体の種類や温度の影響を校正するために設けた薄膜12の他に、従来の熱型フローセンサのように、ヒータ25を搭載している基板1から熱分離した薄膜10の被測定流体の流れの上流側と下流側に、それぞれ薄膜11aと薄膜11bを形成してあり、それぞれに温度センサ20を形成している。本実施例では、特に、高感度の熱型フローセンサが達成でき、コンパクトでありながら超小型のセンサが達成できるようにするためと、さらに、周囲流体である被計測流体の温度や種類の影響が、フローセンサの出力である流速や流量に現れがたくするように工夫したものである。このために、薄膜10の最高温度領域85と、外部加熱したときに薄膜11aと薄膜11bが最高温度となる中央部付近とを連結薄膜13で接続している。この連結薄膜13の部分が熱抵抗領域47となるように狭く形成して、薄膜10がヒータ加熱されて、被計測流体が流れた時に、薄膜11aと薄膜11bとに温度差が生じるような構造にしている。薄膜12は、カンチレバ46の構造とし、温度センサ20として温度差検出に好適な薄膜熱電対120としてあり、その温接点81をカンチレバ46の先端部に設けてあり、ヒータ25で加熱された熱が、先端部に被計測流体を介してのみ伝わり、先端部を熱するように近接配設している。熱分布のため幾何学的対称性を考慮しX字型形状とした薄膜10と、薄膜11とが空洞40により宙に浮いた薄膜の架橋構造で形成されている。なお、ここでは、薄膜11は、二つに分割しており、被測定流体の流れ方向に関し、薄膜10より上流側を薄膜11aとして、下流側を薄膜11bとして形成している。また、金属の配線や電極パッド及び薄膜熱電対120の一方の熱電対導体62をアルカリ性エッチャントに耐えるニクロムを使用している。図9には、図8に示す熱型フローセンサチップ101のX-X断面における断面概略図を示す。
アルカリ性エッチャントでシリコン単結晶を異方性エッチングすると、(111)面が極めてエッチングがされ難い結晶面であるから、(111)面で、ほぼエッチングが停止する。本実施例での図8や図9では、基板1として(100)面を有するSOI基板を用いているので、異方性エッチング時に薄膜10、薄膜11a、薄膜11b、薄膜12の下部のシリコンも容易にエッチング除去できるように、それらの薄膜の長さ方向の選択が重要で、ここでは、(110)結晶方向に対して、それらの薄膜の長さ方向が平行にならず、ある角度を有するようにし空洞40を架橋する形で形成している。このために、薄膜10は、X字型構造とし、薄膜11と薄膜12も屈曲した構造になっている。これらの薄膜の長さが長い方が、温度が上昇しやすい点も考慮している。異方性エッチングを利用しないDRIEなどのドライプロセスを利用する場合は、このような薄膜10や薄膜11の長さ方向の配慮は、不必要となる。
本実施例では、上流側の薄膜11aと下流側の薄膜11bの温度センサ20としてのそれぞれの薄膜熱電対120aと薄膜熱電対120bとは、それぞれ一方の熱電対導体121としてn型のSOI層16からなる薄膜11aと薄膜11bを利用し、他方の熱電対導体122をヒータ25と同様にニクロム薄膜なる金属を利用して構成している。そして、それらの温接点81をそれぞれSOI層16の連結薄膜13aと連結薄膜13bとで、X字型の薄膜10の最高温度領域85と連結している。従って、ヒータ25を加熱したときに、これらの固体であるSOI層16の連結薄膜13aと連結薄膜13bを介して、薄膜熱電対120aと薄膜熱電対120aのそれぞれの温接点81が加熱されることになる。架橋構造の薄膜11aと薄膜11bとのそれぞれの薄膜熱電対120aと薄膜熱電対120bとの冷接点82は、薄膜11aと薄膜11bの支持部付近の基板1にあり、電極パッド71aと電極パッド71bの対および電極パッド72aと電極パッド72bの対である。冷接点82の温度は、基板1の温度でシリコン単結晶基板を使用しているので、熱伝達率が金属並みであり、ほぼ基板1は一様な温度と考えることができる。また、薄膜11aと薄膜11bの支持部付近にある電極パッド71bと電極パッド72bの領域のSOI層16は、他の領域のSOI層16の領域と電気絶縁するために、空洞40の部分も含め絶縁分離用溝90で囲んでいる。ここで、薄膜11aと薄膜11bの支持部として、被測定流体の流れ方向に加熱による熱の流れが薄膜11aと薄膜11bを通して基板1直接流れ込まないように、そして、被測定流体の流れ方向に温度のピークがずれて、温接点81を超えてしまわないようにすること(薄膜11aと薄膜11bに形成している熱電対の温接点81が、流れ方向に対して端部となるようにすること)が大切である。
このようにして、電極パッド70aと電極パッド70bとの間にヒータ駆動電圧を印加してヒータ25を、例えば20ミリワット(mW)で加熱すると、ほぼX字構造の薄膜10の中心部は、例えば、空気である被測定流体の流れが無い時には、薄膜10の寸法にもよるが実験では、約20℃の温度上昇となった。そして薄膜10に対して対称配置している薄膜11aと薄膜11bのそれぞれの温接点81の温度は、連結薄膜13aと連結薄膜13bの寸法にもよるが、SOI層16の厚みは一定なので、連結薄膜13aと連結薄膜13bの幅を温接点81や最高温度領域85より狭め、さらに長さを調節して熱抵抗を積極的に形成しているので、ほぼ3℃下がり、室温を基準にして共に17℃だけの温度上昇分になっている。被測定流体の空気の流れがあると、その流れの速度に応じて、上流側の薄膜11aは、例えば、室温(たとえば、25℃)からの温度上昇分が16℃となり、下流側の薄膜11bは、例えば、温度上昇分が16.8℃となる。この時、薄膜10の中心部は、少し温度が下がり、例えば、19℃になる。このとき、加熱された薄膜10と、薄膜10と連結薄膜13aで繋がっている薄膜11aの温度は、それほど差が無いが、これらに近接配置されている校正用の薄膜12は、被計測流体を通してのみ加熱されるので、薄膜11aからの距離にも依るが周囲温度から5℃程度の温度上昇に留まる。上流側の薄膜11aと下流側の薄膜11bとは、熱抵抗があるものの熱伝導率が大きいSOI層の連結薄膜13a、13bで、ヒータ25を備えた薄膜10に繋がっているので、上流側の薄膜11aと下流側の薄膜11bとの間の被計測流体の流れによる温度差は、流れによる被計測流体の温度分布の変化に基づくことが主になり、被測定流体の熱伝達率huの影響が小さくなる。従って、被計測流体の種類の影響も、温度の影響も小さくなるという利点があり、更に、流体の流れ方向の空洞40の端部の基板1には、薄膜10や薄膜11の支持部を有しないので、上流側の薄膜11aと下流側の薄膜11bとの間に温度差が大きくなりやすい構造であり、高感度になるという利点も持つ。
本実施例では、更に、薄膜10や薄膜11とは、独立した薄膜12を備えて、校正回路200をこの熱型フローセンサチップ101外に備えるように校正回路用端子75を各電極パッドと兼用にしていることから、上述の実施例での説明のように、被測定流体の熱伝達率huが算出できるので、さらに詳細な流量などの物理的状態の被計測流体の種類や温度の影響が無くなるように自動校正できる。なお、本実施例でも、基板1の基準温度を知るための絶対温度センサ21としてのpn接合91を同一の基板1に形成している。
図10には、熱伝導型センサを熱型フローセンサに適用した時の他の一実施例を示す熱型フローセンサチップ101の平面概略図を示す。薄膜10に形成したヒータ25の加熱による熱は、被測定流体を通してのみ(実際には、基板1を通して薄膜12の支持部を介しても熱せられる要素があるが、基板1は、十分熱容量があり、熱伝導率が高ければ、この要素はほぼ無視できる)、薄膜12に到達すると考えることができる。熱型フローセンサとしてのヒータ加熱や薄膜11a及び薄膜11bに形成した薄膜熱電対120aや薄膜熱電対120bの出力の取り出し方法などは、前述の実施例の場合と同様であるので、ここでは、その説明は省略する。薄膜12は、上述のように空気などの被測定流体を通してのみ周囲温度である室温から温度上昇するが、被測定流体の熱伝達率は、流体の種類や温度により大きく異なるので、薄膜10を一定温度駆動させた場合でも、被測定流体の流速と、薄膜熱電対120aと薄膜熱電対120bの出力差に基づく流速の決定には、誤差が出てくる。この誤差の補正をするのに、被測定流体の熱伝達率の影響を直接受ける薄膜12に形成した薄膜熱電対120cの出力を利用することも前述の実施例と同様である。
薄膜12に形成した薄膜熱電対120cの出力を、薄膜10のヒータ25や演算回路にフィードバックして、被測定流体の熱伝達率の温度依存性などの影響を補正することもできる。この実施例では、薄膜10に形成したヒータ25は、n型のSOI層16の一部にp型不純物を熱拡散して形成したp型拡散領域62であり、基板1に形成した空洞40を架橋する薄膜10のSOI層16の表面付近のp型拡散領域62に電流を流し、薄膜10のSOI層16が発熱するようにしている。この時ヒータ25の駆動電圧は、空洞40を挟む電極パッド70と電極パッド70b間に印加することになる。これらの電極パッド70と電極パッド70bは、それらの下部にあるコンタクトホール80を介してp型拡散領域62に導通している。なお、SOI層16は、n型であるので、p型拡散領域62は、n型SOI層16領域とはpn接合のために電気的に絶縁されている。また、温度センサ20として薄膜熱電対120を形成した薄膜11は、二つに分かれており、上流側の薄膜11aと下流側の薄膜11bにそれぞれ形成している薄膜熱電対120aと薄膜熱電対120bとは、薄膜11aと薄膜10及び薄膜10と薄膜11bとを連結している連結薄膜13aと連結薄膜13bとに形成されているpn接合91の存在のために、やはり電気的に分離されている。従って、ヒータ25の電極パッド70に対して、負のヒータ駆動電圧を電極パッド70bに印加したとき、薄膜11aと薄膜11bにそれぞれ形成されている薄膜熱電対120aと薄膜熱電対120bの温接点81は、連結薄膜13aと連結薄膜13bとに形成されるpn接合91が逆方向バイアスされるようになり、ヒータ駆動電圧の影響を受けない。
図11は、本発明の熱型フローセンサの他の一実施例を示す熱型フローセンサチップ101の平面概略図である。実施例5における図10との違いは、図10では、薄膜10、薄膜11a及び薄膜11bとも空洞40を跨ぐ架橋構造であったのに対し、本実施例の図11では、空洞40の一方の基板1の側面に支持部を有し、そこから延びるカンチレバ構造になっている点である。従って、逆V字型の薄膜10に形成されているヒータ25や薄膜11a及び薄膜11bとも空洞40の一方の側面の基板1に支持部を有している場合である。ここでも、n型のSOI層16にp型拡散領域62を形成してあり、pn接合91で他のn型のSOI層16領域との間を電気的絶縁している。従って、ヒータ25を加熱するための電極パッドは、例えば、電極バッド70と、二つの電極バッド70a同士を並列接続した電極バッド70aとの間に印加するか(この場合は、薄膜熱電対120をヒータ25として使用することになる)、または、ニクロム薄膜である熱電対導体122を金属抵抗体のヒータ25として使用し、二つの独立した電極バッド70a間にヒータ駆動電圧を印加する。また、実施例1の場合と同様に、ヒータ25の加熱停止直後に薄膜10の薄膜熱電対120の電極バッド70と電極バッド70a間に現れる熱起電力の出力を利用して、基板1の温度を基準として、カンチレバ形状の薄膜10の先端部になる最高温度領域85の温度をモニターすることができる。校正回路200のための薄膜12の形成も、実施例5における図10と同様であり、外部に設けた校正回路200と電気的に接続するために、各薄膜熱電対120やヒータ25などの電極パッドを、校正回路用端子75と兼用にしている点も実施例5における図10の場合と同様であり、校正回路200の動作も同様である。
薄膜10がヒータ25により加熱されると、実施例5の図10で述べたように、連結薄膜13aと連結薄膜13bを介して対称配置している薄膜11a及び薄膜11bが同様に熱せられる。薄膜11a及び薄膜11bに形成してある薄膜熱電対120aと薄膜熱電対120bとが、流体の流れがない時には同等に熱せられて、同一の温度になっている。しかし、流れがあると上流側の薄膜11aが冷却されるが、下流側が薄膜11bは、薄膜10のヒータ25の加熱の影響で、温度上昇する。このときの薄膜熱電対120aと薄膜熱電対120bとの温度差と被測定流体の流速との関係から微小な流速を決定することができる。もちろん、薄膜熱電対120aと薄膜熱電対120bとの温度差ばかりでなく、例えば、上流側の薄膜熱電対120aの単独出力や下流側の薄膜熱電対120bの単独出力と流速との予め調べてある関係から流速を決定することもできる。加熱停止直後であれば、薄膜10に形成している薄膜熱電対120の出力と、上流側の薄膜熱電対120aの出力や下流側の薄膜熱電対120bの出力との差の出力と流速との関係から、流速を求めることもできることは、実施例5の図10の場合と同様である。なお、薄膜熱電対120aと薄膜熱電対120bの出力端子は、それぞれ、電極バッド71aと電極バッド71b、および電極バッド72aと電極バッド72bであり、測定回路では、電極バッド71bと電極バッド72bとは、同一のSOI層16にオーム性コンタクトで結ばれているので、等電位として取り扱うとよい。ここでは図示していないが、電極バッド71bと電極バッド72bの周りに、絶縁分離用溝90を形成して、互いに独立にすることもできる。
図12は、本発明の熱型フローセンサの他の一実施例を示す熱型フローセンサチップ101の平面概要図であり、実施例4の図8に示した場合と同様であるが、実施例4の図8での薄膜11aの連結薄膜13aを除去して、連結薄膜13を有せず独立薄膜とした薄膜12として、利用した場合である。薄膜12には、薄膜熱電対120cが形成されている。従って、基本的動作は、上述の実施例4の図8の場合と同様であり、被測定流体の熱伝達率の影響を直接受ける薄膜12として、被測定流体の熱伝達率の温度依存性などの影響を補正(校正)するものである。校正方法は、実施例4の図8の場合と同様なので、ここではその説明を省略する。
上述の実施例での連結薄膜13は、薄膜10、薄膜11aと薄膜11bと同一のSOI層16を使用した場合であったが、電気的絶縁性のあるシリコン酸化膜、シリコン窒化膜やアルミナ膜などを使用しても良いし、連結薄膜13を金属薄膜などの導体でで形成するが、シリコン酸化膜を用いて、薄膜10、薄膜11aと薄膜11bとは、電気的に絶縁するように形成しても良い。また、連結薄膜13を電気的絶縁性材料で形成するか、もしくは薄膜10、薄膜11aと薄膜11bとの間で電気的に絶縁することにより、薄膜11aと薄膜11bに形成している薄膜熱電対120aと薄膜熱電対120bに、ヒータ25の駆動電圧の影響を与えないようにすることができる。
図13には、本発明の熱伝導型センサを熱型気圧センサに適用した場合の他の一実施例を示すもので、熱型気圧センサチップ102の一実施例の平面概略図を示す。図14は、そのX-X線に沿った横断面概略図である。本実施例では、特に、公知の高真空から1気圧以上の広帯域の熱型気圧センサに、基板1から熱分離した校正用の薄膜12を、薄膜10のヒータ25に近接配設して、未知の気体の被測定流体の特定とその真の気圧を算出できるようにした熱型気圧センサを提供するものである。大気圧や1気圧などの所定の気圧での標準ガス、例えば窒素ガス、の下で、しかも被測定流体の所定の温度Taでの熱伝達率hに関するデータベースを元にして、被測定流体である未知の気体の前記所定の気圧での薄膜12の温度に関する情報、薄膜10上の熱抵抗領域47を挟んだ領域A48と領域B49との温度差の情報などから、被測定流体である未知の気体の熱伝達率huを算出して未知の気体の気圧を校正する。薄膜10は、カンチレバ46の構造であり、カンチレバ46はその支持部側の領域A48と先端側の領域B49とに熱抵抗領域47を介して分割し、少なくとも該領域A48には、ヒータ25と温度センサ20とを備え、領域B49には、温度センサ20を備えた構造にした場合である。ここでの熱抵抗領域47は、上述の実施例5から7における熱型フローセンサの連結薄膜13の役目をしており、被計測流体としての周囲気体からすれば極めて熱伝導率の大きな半導体薄膜で形成してあるので、本質的に被測定流体の種類や温度の影響を受け難い構造になっている。
実施例の熱型気圧センサでは、領域A48と領域B49との温度差を計測する。1気圧付近やそれ以上の気圧においては、薄膜10を熱膨張係数の異なる二重構造にすることにより、ヒータ25の加熱・冷却時の二重構造の膨張・収縮に基づいて、曲げ変形振動させて加熱された薄膜10を強制冷却させて、領域A48と領域B49との温度差を計測することにより、その冷却度合いから気圧を計測することができるようにしている。本発明の熱型気圧センサでは、薄膜12の温度出力情報、気体の温度情報、薄膜10の温度出力情報を元にして、その時の気体の熱伝達率に関わる情報を得て、事前にこの熱型気圧センサで取得しておいた標準気体でのデータとの比較により、校正回路手段200を用いて、自動校正できるようにするものである。なお、熱型フローセンサの場合と同様、ヒータ25の温度可変手段250によりヒータ25の温度を種々変化させて被測定流体としての気体の熱伝達率の温度依存性を計測できるようにすることにより、その気体の種類の特定もできるようにしている。本実施例では、校正回路手段200を外部に備えるようにしており、熱型気圧センサチップ102には、校正回路手段200と電気的接続をして、ヒータ加熱制御や校正回路手段200との信号のやり取りのための校正回路用端子75を、熱型フローセンサの前述の実施例と同様に、薄膜熱電対120やヒータ25、絶対温度センサ21などの電極パッドと兼用にするようにしている。上記の数式1のニュ−トンの冷却の法則を利用し、1気圧での標準ガスを用いた熱伝達率hと未知の気体の熱伝達率huの実験を元にした算出方法とそれらの比を利用については、実施例2に記載した熱型気圧センサの場合と同様であるので、ここでの説明は省略する。
本発明の熱型フローセンサは、本実施例に限定されることはなく、本発明の主旨、作用および効果が同一でありながら、当然、種々の変形がありうる。
本発明の被測定流体の種類や温度などの影響を自動構成できる熱伝導型センサと、この機能を有するようにした熱型フローセンサと熱型気圧センサは、これまで未知の流体では、その熱伝達係数が不明なために流速、流量や気圧などの表示が被測定流体の種類や温度により異なるので、大きな誤差があっても校正できないでいた。しかし、本発明により自動校正が可能となったので、精度の良い計測が可能になる。また、センサチップはMEMS技術で形成できるので、超小型のセンシング部を有し、画一的な形状で大量生産性があり、高感度となる。温度センサに薄膜熱電対を用いることができるので、これは温度差計測を主体とする熱伝導型センサでは、好適である。熱型フローセンサでも熱型気圧センサでも、ヒータ25と連結薄膜となる熱抵抗領域47を介して接続しているもう一つの薄膜11とを熱伝導の良い固体の薄膜で連結できるので、被測定流体の種類や温度などの影響を受け難い構造で、被測定流体の熱伝達率の温度依存性には、鈍感な構造となっている。

Claims (14)

  1. 被測定流体の温度と種類の影響を校正できるようにした熱伝導型センサにおいて、基板(1)から同一の空洞(40)により熱分離されている少なくとも二つの薄膜を具備し、一方の薄膜(10)には少なくともヒータ(25)と温度センサ(20)とを備え、他方の薄膜(12)には、温度センサ(20)を備えていること、薄膜(10)と薄膜(12)とは、薄膜(10)がヒータ(25)により加熱されたときに、薄膜(12)が、被測定流体を介してのみ熱せられるように互いに近接配置すると共に空間分離して形成していること、被測定流体流れに直接晒されている構造であること、該被測定流体の物理的状態の計測に及ぼす被測定流体の温度と種類の影響を校正するための校正回路手段(200)を、基板(1)に備えるか、もしくは、外部に設けた校正回路手段(200)と通信するため校正回路用端子を基板(1)に備えたこと、前記被測定流体の物理的状態は、被測定流体の流れを止めて、該被測定流体の所定の一つの圧力環境の下で計測されたものであること、ヒータ(25)を加熱する前の前記被測定流体の温度の情報と、ヒータ(25)を加熱したときのヒータ(25)の温度に係る情報と、前記所定の一つの圧力環境の下での標準流体と未知の被測定流体における該薄膜(12)に形成した温度センサ(20)からのそれぞれの所定の温度に関する情報とを基にして、標準流体と未知の被測定流体の熱伝達率に係る量を算出し、該熱伝達率に係る量に基づいて校正する前記校正回路手段(200)であること、を特徴とする熱伝導型センサ。
  2. ヒータ(25)の加熱温度を変化させるための温度可変手段(250)を備えて、その変化させた時のそれぞれの前記情報が得られるように構成し、被測定流体の種類をも特定できるようにした請求項1記載の熱伝導型センサ。
  3. 温度センサ(20)を薄膜熱電対(120)とした請求項1から2のいずれかに記載の熱伝導型センサ。
  4. 基板(1)に絶対温度センサを形成した請求項1から3のいずれかに記載の熱伝導型センサ。
  5. 薄膜(10)と薄膜(12)とが、SOI層で構成されている請求項1から4のいずれかに記載の熱伝導型センサ。
  6. 請求項1から5のいずれかに記載した熱伝導型センサにおける被測定流体の物理的状態を流速又は流量とし、前記校正回路手段(200)に少なくとも増幅回路と演算回路および制御回路を具備したことを特徴とする熱型フローセンサ。
  7. 前記薄膜(10)の他に、前記空洞(40)を介して基板(1)から熱分離した薄膜(11)を有し、該薄膜(11)には温度センサ(20)を備え、薄膜(11)と薄膜(10)とは最高温度領域(85)付近で、熱抵抗を有するように幅を狭めた連結薄膜(13)で連結してあること、前記ヒータ(25)で薄膜(10)を加熱したとき、連結薄膜(13)を通して薄膜(11)が熱せられるような構造にした請求項6記載の熱型フローセンサ。
  8. 薄膜(11)および連結薄膜(13)が、SOI層で構成されている請求項6から7のいずれかに記載の熱型フローセンサ。
  9. 連結薄膜(13)にpn接合ダイオードを形成して、薄膜(10)と薄膜(11)との電気的絶縁が得られるようにした請求項8に記載の熱型フローセンサ。
  10. 薄膜(10)に設けられているヒータ(25)として、感温抵抗体、熱電対もしくはダイオードを用いること、また、これらのヒータ(25)を必要に応じてヒータ兼温度センサとしても用いるようにした請求項6から9のいずれかに記載の熱型フローセンサ。
  11. 薄膜熱電対(120)が設けられている薄膜(11)として、薄膜(10)に対して、上流側に薄膜熱電対(120a)を設けた薄膜(11a)と、下流側に薄膜熱電対(120b)を設けた薄膜(11b)との少なくとも二個具備していること、それぞれの薄膜熱電対(120 a、120b)の温接点の領域は、それぞれ固体の連結薄膜(13a)と連結薄膜(13b)とで薄膜(10)に、該薄膜(10)の最高温度領域(85)付近で連結されている請求項6から10のいずれかに記載の熱型フローセンサ。
  12. 請求項1から5のいずれかに記載した熱伝導型センサにおける被測定流体の物理的状態を気圧とし、前記校正回路手段(200)に少なくとも増幅回路と演算回路および制御回路を具備したことを特徴とする熱型気圧センサ。
  13. 前記薄膜(10)と薄膜(12)は、カンチレバ(46)の構造であること、薄膜(10)のカンチレバ(46)はその支持部側の領域A(48)と先端側の領域B(49)とに熱抵抗領域(47)を介して分割してあること、少なくとも該領域A(48)には、ヒータ(25)と温度センサ(20)とを具備してあり、該領域B(49)には、温度センサ(20)を具備してある構造にした請求項12記載の熱型気圧センサ。
  14. 前記薄膜(12)の温度センサ(20)を薄膜熱電対(120)とし、該薄膜熱電対(120)の温接点(81)は、前記カンチレバ(46)構造の先端付近に形成して、前記ヒータ(25)に近接するように形成してあり、ヒータ(25)からの熱を被測定流体である気体を介してのみ受け取り温度上昇することを利用して、該薄膜熱電対(120)を用いて基板(1)との間の温度差を計測して、1パスカル(Pa)以下の気圧における気圧計測にも使用するようにした請求項12から13のいずれかに記載の熱型気圧センサ。
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