JP5851336B2 - 複合ゴム材料、成形体、複合ゴム材料の製造方法 - Google Patents
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Description
このような問題に対し、例えば、特許文献1には、ゴム成分中にセルロースナノファイバー及びシランカップリング剤を含むゴム組成物が開示されている。また、特許文献2には、ゴム成分中にセルロースナノファイバーを含むゴム組成物において、該セルロースナノファイバーとして、モノマー若しくはポリマーをグラフト重合させた複合化セルロースナノファイバーを用いたゴム組成物が開示されている。これらの方法においては、補強効果が高いセルロースナノファイバーを用いるとともに、セルロースナノファイバーのゴム成分への分散性等を向上させることで、優れた耐久性及び剛性を発揮するゴム組成物が得られるとされている。
特許文献2記載のゴム組成物は、耐熱性が低く、上記と同様、高温環境下に置かれる部材への適用は難しい。
なお、前述した特許文献1、2はいずれも、タイヤ製品用途における耐久性及び剛性の向上を目的としている。ゴム成分として具体的に開示されているのはジエン系ゴムのみであり、他のゴム、例えばシリコーンゴムは記載されていない。
[1]シリコーンゴム中にセルロースファイバーを含有し、
前記セルロースファイバーの少なくとも一部が、オルガノシラン化合物により前記シリコーンゴムに連結され複合物を形成している複合ゴム材料。
[2]前記複合物が、セルロースファイバーの水酸基をオルガノシラン化合物で修飾した修飾セルロースファイバーと、シリコーンゴムとの反応生成物である[1]記載の複合ゴム材料。
[3]前記オルガノシラン化合物が、下記一般式(I):
(RO)3−Si−Y …(I)
[式中、Rはアルキル基であり、Yは、ビニル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、エポキシ基、アミノ基、スチリル基、ウレイド基、スルフィド基、イソシアネート基及びメルカプト基からなる群から選ばれる反応性官能基を有する基である。]
で表される化合物である[1]又は[2]記載の複合ゴム材料。
[4]前記セルロースファイバーがセルロースナノファイバーである[1]〜[3]のいずれか一項に記載の複合ゴム材料。
[5]前記セルロースファイバーの平均重合度が600以上30000以下であり、アスペクト比が20〜10000であり、平均直径が1〜800nmである[1]〜[4]のいずれか一項に記載の複合ゴム材料。
[6]前記セルロースファイバーが、θの範囲を0〜30とするX線回折パターンにおいて、14≦θ≦18に1つ又は2つのピークを有し、20≦θ≦24に1つ又は2つのピークを有し、他にはピークを有さないセルロースファイバーである[1]〜[5]のいずれか一項に記載の複合ゴム材料。
[7]前記セルロースファイバー及び前記オルガノシラン化合物の合計量が、1〜50質量%である[1]〜[6]のいずれか一項に記載の複合ゴム材料。
[8][1]〜[6]のいずれか一項に記載の複合ゴム材料で構成される成形体。
[9]医療用部材である[8]記載の成形体。
[10][1]〜[7]のいずれか一項に記載の複合ゴム材料を製造する方法であって、
セルロースファイバーの水酸基の少なくとも一部を、オルガノシラン化合物によりシリコーンゴムに連結する複合化工程を含む複合ゴム材料の製造方法。
[11]前記複合化工程が、セルロースファイバーの水酸基をオルガノシラン化合物で修飾し、得られた修飾セルロースファイバーと、シリコーンゴムとを反応させることにより行われる[10]記載の複合ゴム材料の製造方法。
本発明の複合ゴム材料は、シリコーンゴム中にセルロースファイバーを含有し、
前記セルロースファイバーの少なくとも一部が、オルガノシラン化合物により前記シリコーンゴムに連結され複合物を形成しているものである。
複合ゴム材料のマトリックスを構成するシリコーンゴム中にセルロースファイバーを分散させるとともに、分散させたセルロースファイバーの少なくとも一部をシリコーンゴムに連結することで、界面結合が強化され、セルロースファイバーによる補強効果が充分に発揮され、シリコーンゴムの機械的強度が向上する。また、セルロースファイバー表面の水酸基の少なくとも一部がオルガノシラン化合物により修飾されることで、複合ゴム材料中でのセルロースファイバーの耐熱性が向上する。シリコーンゴム自体の耐熱性は高いが、これらを結合することでさらに耐熱性が向上する。
セルロースファイバーの水酸基を予めオルガノシラン化合物で修飾することで、予めシリコーンゴムをオルガノシラン化合物で修飾する場合に比べて、オルガノシラン化合物がセルロースファイバーの水酸基に効率よく結合する。また、水酸基が減少することで、セルロースファイバー間の水素結合による強い密着が抑制され、分散性が向上する。そのため、修飾セルロースファイバーとシリコーンゴムとを混合したときに修飾セルロースファイバーがシリコーンゴム中に均一に分散し、優れた補強効果を発揮する。
複合ゴム材料を構成するシリコーンゴムとしては、特に限定されず、成形体等を構成するシリコーンゴムとして公知のものであってよい。
シリコーンゴムとしては、例えば下記一般式(s1)で表される構成単位(以下、構成単位(s1)と略記する)を有するポリオルガノシロキサンを架橋したものが挙げられる。
直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基は、炭素数が1〜5であることが好ましく、メチル基又はエチル基であることがより好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
環状のアルキル基は、単環式及び多環式のいずれでも良いが、単環式であることが好ましく、炭素数が5〜7の単環式であることがより好ましい。
Ra及びRbにおけるアルケニル基としては、ビニル基又は2−プロペニル基が好ましい。
Ra及びRbにおけるアリール基は、単環式及び多環式のいずれでも良いが、単環式であることが好ましく、フェニル基が特に好ましい。
Ra及びRbにおけるアルコキシ基は、前記Ra及びRbにおけるアルキル基が酸素原子に結合したものが例示でき、メトキシ基又はエトキシ基であることが好ましく、メトキシ基であることが特に好ましい。
Ra及びRbにおけるアルコキシカルボニルアルキル基は、前記Ra及びRbにおけるアルキル基と、前記Ra及びRbにおけるアルキル基から一つの水素原子を除いたアルキレン基とが、オキシカルボニル基(−O−C(=O)−)を介して結合したものが例示できる。
Ra及びRbにおけるアルキルカルボニルオキシアルキル基は、前記Ra及びRbにおけるアルコキシカルボニルアルキル基の、オキシカルボニル基(−O−C(=O)−)をカルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)で置換したものが例示できる。
具体的には、これらの基の少なくとも一つの水素原子が置換基で置換されたものが例示できる。該置換基としては、ハロゲン原子が好ましく、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が例示でき、フッ素原子又は塩素原子であることが好ましく、フッ素原子であることが特に好ましい。置換基で置換される水素原子の数は、一つでも複数でもよく、すべての水素原子が置換基で置換されていてもよい。
また、前記Ra及びRbにおけるアリール基の芳香環を構成する炭素原子の一部が、窒素原子、酸素原子又はイオウ原子等のヘテロ原子で置換されていてもよい。
該二価の基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基等のアルキレン基、酸素原子(−O−)等が例示できる。
未架橋のシリコーンゴムは市販品を使用してもよく、公知の方法により製造したものを使用してもよい。未架橋のシリコーンゴムは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
未架橋のシリコーンゴムの架橋は、該シリコーンゴムが有する官能基(例えばRaやRb)の種類に応じ、公知の方法により実施できる。一般的には、有機過酸化物の作用により架橋する方法、付加反応により架橋する方法、縮合反応により架橋する方法等が用いられている。
例えば、Ra及びRbの少なくとも一方がメチル基等のアルキル基である構成単位(s1)同士は、有機過酸化物の作用により架橋させることができる。この場合、エチレン基等のアルキレン基を介してポリオルガノシロキサンが架橋する。
Ra及びRbの少なくとも一方がビニル基や2−プロペニル基等のアルケニル基である構成単位(s1)と、Ra及びRbの少なくとも一方が水素原子である構成単位(s1)とは、付加反応により架橋させることができる。この場合、エチレン基やプロピレン基等のアルキレン基を介してポリオルガノシロキサンが架橋する。
Ra及びRbの少なくとも一方が水酸基である構成単位(s1)同士は、脱水縮合により架橋させることができる。また、Ra及びRbの少なくとも一方が水酸基である構成単位(s1)と、Ra及びRbの少なくとも一方がメトキシ基等のアルコキシ基である構成単位(s1)とは、脱アルコール縮合により架橋させることができる。これらの場合、酸素原子を介してポリオルガノシロキサンが架橋する。
これらの架橋反応は、いずれも公知の反応であり、有機過酸化物等の硬化剤を使用することで円滑に進行させることができる。有機過酸化物の具体例は後で説明する。
有機過酸化物により架橋可能なシリコーンゴムとしては、前記構成単位(s1)として、Ra及びRbの少なくとも一方がメチル基等のアルキル基である構成単位を有するポリオルガノシロキサンが挙げられる。
前記シリコーンゴムの具体例としては、例えばメチルビニルシリコーンゴム、メチルビニルフェニルシリコーンゴム等が挙げられる。また、複数のシリコーンゴムの混合物であってもよい。
セルロースファイバーは、ファイバー状のセルロースであり、例えば粒状のセルロースなどに比べて、シリコーンゴムに対する補強効果に優れる。
セルロースファイバーとしては、特に限定されず、市販のものや、公知の製造方法により製造したものを用いることができる。
セルロースファイバーは、平均直径が小さいほど、表面積が大きくなり、シリコーンゴムに対する補強効果が向上することから、セルロースナノファイバーが好ましい。セルロースナノファイバーは、シリコーンゴム中にナノレベルで均一に分散し、優れた補強効果を発揮する。
平均重合度が600以上であれば充分な補強効果が得られ、30000以下であればセルロースファイバーとシリコーンゴムとの混合時に粘性が高くならず、複合樹脂材料の調製が良好である。
アスペクト比が上記範囲内であれば、分子同士の絡まりや網目構造が強固となり、複合ゴム材料に優れた機械的強度が付与される。また、10000以下であれば成形性が良好である。
本明細書において「アスペクト比」とは、平均繊維長と平均直径の比(平均繊維長/平均直径)を意味する。セルロースファイバーの平均直径及び平均繊維長は、走査電子顕微鏡(SEM)により測定できる。
平均直径が1nm以上の場合、製造コストがかからず、800nm以下の場合、アスペクト比が低下しにくい。そのため平均直径が上記範囲内であれば安価で充分な補強効果が得られる。
天然の植物細胞壁から得られるセルロースI型は、Iα型結晶とIβ型結晶の複合結晶であり、木材、木綿などの高等植物由来セルロースはIβ型結晶成分が多いが、バクテリアセルロースの場合はIα型結晶成分が多い。
Iβ型の結晶ピークを有するセルロースファイバーは、Iβ型の結晶ピークを有さないセルロースファイバー、例えばIα型の結晶ピークを有するセルロースファイバーに比べて、結晶化度が高く、補強効果に優れる。
Iβ型の結晶ピークを有するセルロースファイバーは、Iβ型の結晶ピークのみを有することが好ましい。すなわち、θの範囲を0〜30とするX線回折パターンが、図1に示すように、14≦θ≦18に1つ又は2つのピークを有し、20≦θ≦24に1つのピークを有し、他にはピークを有さないことが好ましい。
セルロースファイバーのX線回折パターンは、例えば粉末X線回折装置を用いて分析できる。
セルロースファイバーは、水酸基の一部が、シリコーンゴムに結合していないオルガノシラン化合物で修飾されていてもよい。例えば前記複合物が、セルロースファイバーの水酸基をオルガノシラン化合物で修飾した修飾セルロースファイバーと、シリコーンゴムとの反応生成物である場合に、水酸基を修飾するオルガノシラン化合物の一部が、シリコーンゴムと反応せずに残留していてもよい。
前記修飾セルロースファイバーのオルガノシラン化合物による修飾率、つまりセルロースファイバー中の全体の水酸基(修飾されている水酸基と、修飾されていない水酸基との合計)のうち、オルガノシラン化合物で修飾されている水酸基の割合は、0.1〜50%であることが好ましく、10〜20%であることがより好ましい。この範囲内であると、分散性、耐熱性等の向上効果に優れる。修飾率が0.1%未満であると、シリコーンゴム中への分散性が低くなり補強効果が低下するおそれがある。50%を超えるとセルロースファイバー間の水素結合がなくなり樹脂への補強効果が低下するおそれがある。
修飾率は、元素分析により得られた炭素、水素、酸素の元素割合から算出できる。
オルガノシラン化合物以外の修飾剤としては、水酸基と反応し得るものであれば良く、これまで提案されている修飾剤のなかから適宜選択できる。簡便で効率がよい点から、エーテル化剤又はエステル化剤が好ましい。
エーテル化剤としては、例えば、アルキルエーテル化剤、芳香環含有エーテル化剤等が挙げられる。
アルキルエーテル化剤としては、メチルクロライド、エチルクロライド等のハロゲン化アルキル;炭酸ジメチル、炭酸ジエチル等の炭酸ジアルキル;硫酸ジメチル、硫酸ジエチル等の硫酸ジアルキル;エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド等が好ましい。
芳香環含有エーテル化剤としては、例えばベンジルブロマイド等が挙げられる。
エステル化剤としては、例えば、ヘテロ原子を含んでも良いカルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸ハロゲン化物が挙げられ、より具体的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体等が挙げられる。
エステル化剤としては、アルキルエステル化剤が好ましく、酢酸、無水酢酸、無水酪酸がより好ましい。
これらの修飾剤によるセルロースファイバーの水酸基の修飾は、公知の方法により実施できる。
複合ゴム材料におけるセルロースファイバーの含有量は、特に限定されないが、セルロースファイバー及びオルガノシラン化合物の合計量が、複合ゴム材料の総質量に対し、1〜50質量%の範囲内となる量が好ましく、3〜30質量%の範囲内となる量がより好ましい。該合計量が1質量%以上であると、線膨張係数や耐熱性等の熱特性、および機械特性の向上効果に優れる。50質量%を超えるとシリコーンゴム中でセルロースファイバーが凝集し、分散が不充分となって複合ゴム材料の機械的強度が低下するおそれがある。
オルガノシラン化合物は、セルロースファイバーが有する水酸基、シリコーンゴムが有する官能基それぞれに配位し、化学結合の形成などを通じて界面結合を強化する。
オルガノシラン化合物としては、セルロースファイバーが有する水酸基と反応し得る第一の反応性官能基と、シリコーンゴムが有する官能基と反応し得る第二の反応性官能基とを有するものが好ましい。
−Si(OR)n(R’)3−nにおいては、加水分解により−Si−ORが−Si−OH(シラノール基)となり、セルロースファイバーの水酸基と反応(脱水縮合)して共有結合を形成する。
Rのアルキル基としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。
R’の非加水分解性の有機基としては、例えば、アルキル基、芳香族基、有機官能基、またはその組み合わせ等が挙げられるが、これらに制限されない。
第二の反応性官能基としては、前記有機基と反応し得るものが好ましく、例えばビニル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、スチリル基、ウレイド基、スルフィド基、イソシアネート基、メルカプト基等が挙げられる。
第二の反応性官能基としては、得られる複合ゴム材料が医療用部材として有用であることから、スルフィド基以外の反応性官能基、すなわち、ビニル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、エポキシ基、アミノ基、スチリル基、ウレイド基、イソシアネート基及びメルカプト基からなる群から選ばれるものが好ましい。
シランカップリング剤としては、例えば、下記一般式(I):
(RO)3−Si−Y …(I)
[式中、Rはアルキル基であり、Yは、ビニル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、エポキシ基、アミノ基、スチリル基、ウレイド基、スルフィド基、イソシアネート基及びメルカプト基からなる群から選ばれる反応性官能基を有する基である。]
で表される化合物が挙げられる。
式中、Rは前記と同じである。
Yにおける反応性官能基としては、上述した第二の反応性官能基と同様、スルフィド基以外の反応性官能基が好ましい。
Yにおいて、反応性官能基は、Siに直接結合してもよく、アルキレン基、アリーレン基等の炭化水素基を介して結合してもよい。
硬化剤としては、有機過酸化物が好ましい。有機過酸化物により架橋したシリコーンゴムは機械的強度に優れる。また、有機過酸化物は、シリコーンゴムとオルガノシラン化合物との反応の触媒としても機能する。例えばシリコーンゴムが、Ra及びRbの少なくとも一方がアルキル基である構成単位(s1)を有するものであり、オルガノシラン化合物が、前記式(I)で表される化合物である場合、有機過酸化物が触媒として機能してアルキル基とYが結合する。
例えばRa及びRbがメチル基である構成単位(s1)を有するシリコーンゴムと、Yがビニル基(−CH=CH2)であるオルガノシラン化合物で修飾されたセルロースファイバーとは、有機過酸化物の存在下で下記のように反応して複合物を形成する。
なお、シリコーンゴムとセルロースファイバーとの間のオルガノシラン化合物による連結箇所は、1箇所でも2箇所以上でもよい。
有機過酸化物は、通常、シリコーンゴム100質量部あたり、0.01〜3質量部程度配合される。
本発明の成形体は、前記本発明の複合ゴム材料で構成されるものである。
前記本発明の複合ゴム材料は、耐熱性、機械的強度に優れるほか、マトリックスがシリコーンゴムであることから、柔軟性、密封性等にも優れている。そのため、成形体としては、これらの特性が要求されることから、医療用部材が好適である。
特に好ましい医療用部材として、具体的には、内視鏡用鉗子栓、あるいは内視鏡のうち体腔内に挿入する挿入部を外装するチューブや各種処置具用のチューブ等の医療用チューブが例示できる。
本発明の複合ゴム材料は、セルロースファイバーの水酸基の少なくとも一部を、オルガノシラン化合物によりシリコーンゴムに連結する複合化工程を含む製造方法により製造できる。
複合化工程は、例えば、セルロースファイバーの水酸基をオルガノシラン化合物で修飾し、得られた修飾セルロースファイバーと、シリコーンゴムとを反応させる方法により行うことができる。
セルロースファイバーの水酸基を先にオルガノシラン化合物で修飾することで、オルガノシラン化合物がセルロースファイバーの水酸基に効率よく結合する。また、得られる修飾セルロースファイバーは、未修飾のセルロースに比べて、水酸基が減少しているため、セルロースファイバー間の水素結合による強い密着が抑制され、分散性に優れる。そのため、修飾セルロースファイバーとシリコーンゴムとを混合したときに修飾セルロースファイバーがシリコーンゴム中に均一に分散し、優れた補強効果を発揮する。
このときオルガノシラン化合物で修飾するセルロースファイバーは、未修飾の水酸基を有するものであればよく、市販品を用いても公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。セルロースファイバーの好ましい製造方法については後で詳細に説明する。
オルガノシラン化合物は、一般的に市販されているものを使用できる。
複合ゴム材料の製造時に成形を行って本発明の成形体としてもよい。例えば、上記のように各成分を混合して得られた組成物を、一般の有機合成ゴムと同じく、プレス成形、押出し成形、カレンダー成形、インジェクション成形等により成形することで成形体を得ることができる。成形後、必要に応じて、更に150〜250℃で1〜10時間程度の加熱を行って二次加硫してもよい。
セルロースファイバーは、公知の方法により製造できる。例えば、含セルロース原料に、機械的せん断、化学的処理等の解繊処理、及び必要に応じて修飾を施すことにより製造できる。
含セルロース原料としては、特に限定されないが、リンター、綿、麻などの天然セルロース原料;クラフトパルプ、サルファイトパルプなどの木材化学処理パルプ;セミケミカルパルプ;古紙またはその再生パルプ等が挙げられる。コスト面、品質面、環境面から、木材化学処理パルプ、木材化学処理パルプが好ましく、平均重合度の高いリンターがより好ましい。含セルロース原料の形状は特に限定されないが、機械的せん断の容易さ、化学的処理における溶媒の浸透促進の観点から、含セルロース原料を適宜粉砕してから用いることが好ましい。
解繊処理には、機械的せん断、化学的処理のいずれも利用できる。化学的処理としては、N−メチルモルフォリン−N−オキシド(NMMO)法、銅アンモニア溶液法、イオン液体法等が挙げられる。
具体的には、処理液に含セルロース原料を添加し、撹拌すると、含セルロース原料が膨潤、溶解してセルロースファイバーが得られる。このときの処理液中のイオン液体の種類や濃度、撹拌条件、処理時間等を調節することで、セルロースファイバーの解繊度、結晶化度等を調節することができる。解繊度が高いほど、処理液中に含まれるセルロースファイバーの直径が小さくなる。
イオン液体に添加する有機溶剤は、イオン液体との相溶性、セルロースとの親和性、イオン液体との混合後のセルロースファイバーの溶解性、粘度などを考慮し適宜選択すればよいが、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルフォキサイド、アセトニトリル、メタノール、エタノールから選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらの有機溶剤の共存により、セルロースの微細繊維間へのイオン液体の浸透が促進される。またイオン液体による微細繊維の結晶構造の破壊を防ぐことが出来る。
セルロースファイバーの修飾は、セルロースファイバーを含む処理液中に修飾剤を添加し、反応させることにより実施できる。
修飾剤としては、上述したように、エーテル化剤又はエステル化剤が好ましい。
修飾剤の使用量は、セルロースファイバーの所望の修飾率に応じて設定される。
セルロースファイバーと修飾剤との反応条件は、特に限定するものではなく、解繊処理の処理温度と同様であってよい。
上記のようにして解繊処理、及び任意に修飾を行った後の処理液をろ過することにより、処理液中のセルロースファイバーを回収できる。
各実施例及び各比較例で用いた測定方法を以下に示す。
セルロースファイバーの平均直径(数平均繊維径)及び平均繊維長(数平均繊維長)は、SEM解析により評価した。詳細には、セルロースファイバー分散液をウェーハ上にキャストしてSEM観察し、得られた1枚の画像当たり20本以上の繊維について繊維径と繊維長の値を読み取り、これを少なくとも3枚の重複しない領域の画像について行い、最低30本の繊維径と繊維長の情報を得た。得られた繊維径のデータから平均直径を算出した。また、繊維長のデータから平均長さを算出し、平均繊維長と平均直径との比から平均アスペクト比(平均繊維長/平均直径)を算出した。
セルロースファイバーの平均重合度は、粘度法(参考文献:Macromolecules,18,2394−2401,1985)により求めた。
セルロースファイバーの結晶構造は、粉末X線回折装置Rigaku Ultima IV(株式会社リガク社製)を用いて分析した。
分析結果から、θの範囲を0〜30とするX線回折パターンが、14≦θ≦18に1つ又は2つのピークと、21≦θ≦24に1つのピークとを有し、他にはピークを有さない場合にはIβ型、そうでない場合にはIα型とした。
各実施例及び各比較例で得た複合ゴム材料(成形体)の機械的強度を評価するため、JIS K6251に準拠して引張破断応力(MPa)を測定した。試験片として2mm厚プレスシートを3号ダンベル型に打ち抜いたものを使用した。
各実施例及び各比較例で得た複合ゴム材料(成形体)の耐熱性を評価するため、JIS K7191に準拠して熱変形温度(℃)を測定した。テストサンプルのサイズは20mm(長)×5mm(幅)とした。
ナタデココ(株式会社フジッコ社製、平均重合度:3000以上、平均アスペクト比:1000以上、平均直径:100nm)を乾燥し、セルロースファイバーを得た。結晶構造はIα型であった。
該セルロースファイバーを、シランカップリング剤(信越シリコーン社製、製品名:KBM−403、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)の水溶液に浸漬し、乾燥させた。これにより、シランカップリング剤で水酸基が修飾された修飾セルロースファイバーを得た。
次に、シリコーンゴム(信越シリコーン社製、製品名:KE−931−U)100質量部に、修飾セルロースナノファイバー10質量部、硬化剤としてベンゾイルパーオキサイド(信越化学社製、製品名:C−8)2質量部を、バンバリーミキサーを用い分散させた。得られた組成物を、120℃に設定した熱プレスによりシート状(100×100×1mm)に加工し、圧力4MPaで10分保持することにより、複合ゴム材料からなる成形体を得た。
ろ紙をハサミで3mm角に切断したもの2gを200mLのフラスコビーカーに入れ、さらにN,N−ジメチルアセトアミド50mLと塩化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム(イオン液体)60gを加え、攪拌して解繊処理を行った。その後、フラスコビーカー内の処理液をろ過してセルロースファイバーを回収した。このとき得られたセルロースファイバーの平均重合度は800、平均アスペクト比は10、平均直径は10μm、結晶構造はIβ型であった。
このセルロースファイバーを用いた以外は実施例1と同様の手順により成形体を得た。
解繊処理条件を変更した以外は実施例2と同様にしてセルロースファイバーを得た。該セルロースファイバーの平均重合度は800、平均アスペクト比は100、平均直径は100nm、結晶構造はIβ型であった。
このセルロースファイバーを用いた以外は実施例1と同様の手順により成形体を得た。
シリコーンゴム100質量部に対し、修飾セルロースファイバーを110質量部入れた以外は、実施例3と同様の手順により成形体を得た。
シランカップリング剤(信越シリコーン社製、製品名:KBE−846、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)を変更した以外は、実施例3と同様の手順により成形体を得た。
シリコーンゴムのみを、120℃に設定した熱プレスによりシート状(100×100×1mm)に加工し、圧力4MPaで10分保持して成形体を得た。
セルロースファイバーに修飾を施さなかった以外は、実施例3と同様の手順で成形体を得た。
エチレンプロピレンゴム(JSR社製、製品名:EP51)100質量部に、実施例3で作製した修飾セルロースファイバー10質量部、硬化剤としてジクミルパーオキサイド(日本油脂社製、製品名:パークミルD)1質量部を、バンバリーミキサーを用い分散させた。得られた組成物を、150℃に設定した熱プレスによりシート状(100×100×1mm)に加工し、圧力4MPaで10分保持することにより成形体を得た。
一方、シリコーンゴムのみを成形した比較例1の成形体は、耐熱性が実施例1〜5よりも劣っていた。
修飾していないセルロースファイバーを用いた比較例2の成形体は、比較例1よりもさらに機械的強度と耐熱性が低下し、特に機械的強度が低かった。
修飾セルロースファイバーにエチレンプロピレンゴムを組み合わせた比較例3の成形体は、機械的強度、耐熱性ともに実施例1〜5よりも劣っており、特に耐熱性が低かった。
Claims (11)
- シリコーンゴム中にセルロースファイバーを含有し、
前記セルロースファイバーの水酸基の少なくとも一部が、オルガノシラン化合物により前記シリコーンゴムに連結され複合物を形成している複合ゴム材料。 - 前記複合物が、セルロースファイバーの水酸基をオルガノシラン化合物で修飾した修飾セルロースファイバーと、シリコーンゴムとの反応生成物である請求項1記載の複合ゴム材料。
- 前記オルガノシラン化合物が、下記一般式(I):
(RO)3−Si−Y …(I)
[式中、Rはアルキル基であり、Yは、ビニル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、エポキシ基、アミノ基、スチリル基、ウレイド基、スルフィド基、イソシアネート基及びメルカプト基からなる群から選ばれる反応性官能基を有する基である。]
で表される化合物である請求項1又は2記載の複合ゴム材料。 - 前記セルロースファイバーがセルロースナノファイバーである請求項1〜3のいずれか一項に記載の複合ゴム材料。
- 前記セルロースファイバーの平均重合度が600以上30000以下であり、アスペクト比が20〜10000であり、平均直径が1〜800nmである請求項1〜4のいずれか一項に記載の複合ゴム材料。
- 前記セルロースファイバーが、θの範囲を0〜30とするX線回折パターンにおいて、14≦θ≦18に1つ又は2つのピークを有し、20≦θ≦24に1つ又は2つのピークを有し、他にはピークを有さないセルロースファイバーである請求項1〜5のいずれか一項に記載の複合ゴム材料。
- 前記セルロースファイバー及び前記オルガノシラン化合物の合計量が、1〜50質量%である請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合ゴム材料。
- 請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合ゴム材料で構成される成形体。
- 医療用部材である請求項8記載の成形体。
- 請求項1〜7のいずれか一項に記載の複合ゴム材料を製造する方法であって、
セルロースファイバーの水酸基の少なくとも一部を、オルガノシラン化合物によりシリコーンゴムに連結する複合化工程を含む複合ゴム材料の製造方法。 - 前記複合化工程が、セルロースファイバーの水酸基をオルガノシラン化合物で修飾し、得られた修飾セルロースファイバーと、シリコーンゴムとを反応させることにより行われる請求項10記載の複合ゴム材料の製造方法。
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