JP6993252B2 - 熱硬化性樹脂組成物、摩擦材及び熱硬化性樹脂組成物の製造方法 - Google Patents
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Description
しかしながら、植物系バイオマスを含有した樹脂組成物は、摩擦材用樹脂組成物として使用するには強度が不十分であった。また、リグノセルロース繊維は樹脂組成物中で凝集しやすいことから、界面活性剤等の分散剤が必要となる。
[1] イオン液体処理リグノセルロース繊維と熱硬化性樹脂とを含む熱硬化性樹脂組成物。
[2] 熱硬化性樹脂組成物に対する、前記イオン液体処理リグノセルロース繊維におけるリグノセルロース繊維と、前記リグノセルロース繊維に由来する成分との合計の含有量が0.1~10質量%である、前記[1]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[3] 前記イオン液体処理リグノセルロース繊維の平均繊維長が1000μm以下である、前記[1]又は[2]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[4] 熱硬化性樹脂組成物に対する、前記イオン液体処理リグノセルロース繊維におけるイオン液体に由来する成分の含有量が1~20質量%である、前記[1]~[3]のいずれか一に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[5] 前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂である、前記[1]~[4]のいずれか一に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[6] 前記[1]~[5]のいずれか一に記載の熱硬化性樹脂組成物を結合材として含有する摩擦材。
[7] 前記熱硬化性樹脂組成物の含有量が5~15質量%である前記[6]に記載の摩擦材。
[8] 植物系バイオマス及びイオン液体を混合し、加熱処理によりイオン液体処理リグノセルロース繊維を得る工程、及び
樹脂と前記イオン液体処理リグノセルロース繊維とを混合する工程を含む、熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
[9] 前記樹脂がフェノール樹脂であり、
フェノール及びアルデヒド類を、酸触媒の存在下で反応させ、前記フェノール樹脂を得る工程を含む、前記[8]に記載の熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
また、リグノセルロース繊維をイオン液体処理することにより、リグノセルロース繊維が熱硬化性樹脂組成物中に良好に分散することから、凝集を抑制するための分散剤も不要となる。
本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本発明の熱硬化性樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう。)は、イオン液体処理されたリグノセルロース繊維と熱硬化性樹脂とを含むことを特徴とする。
リグノセルロース繊維とは植物系バイオマスの主要となる構成成分であり、植物細胞壁の成分である。セルロースがリグニン及びヘミセルロースに強固に結びついた三次元ネットワーク階層構造を有しており、セルロースは単分子が規則的に凝集して数十本集まった結晶性を有するミクロフィブリル(セルロースナノファイバー)を形成している。
木質系材料としては、具体的に、スギ(Cryptomeria)属植物、ユーカリ(Eucalyptus)属植物、アカシア(Acacia)属植物、ヤナギ(Salix)属植物、ポプラ属植物等が挙げられ、中でも、入手が容易であるスギ属植物、ユーカリ属植物を用いることが好ましい。
これらの植物系バイオマスは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
なおセルロースは、セルロース単体まで分解せずに、セルロース繊維の状態となる程度まで分解されることが好ましい。
アニオン種も、PF6 -等のリン系アニオン、BF4 -等のホウ素系アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Tf2N)、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド(BETI)、(2,2,2-トリフルオロ-N-(トリフルオロメタンスルホニル)アセトアミド(TSAC)、N(CN)2 -等の窒素系アニオン、Cl-、OH-、C(CN)3 -、SCN-等、様々なアニオン種のイオン液体を用いることができる。
これらは1種を単体で又は溶媒と共に用いても、2種以上をイオン液体のみで又は溶媒と共に用いてもよい。
また、リグノセルロース繊維の凝集を抑制するための界面活性剤等の分散剤を添加する必要がなくなる点も好ましい。
また、前記イオン液体処理リグノセルロース繊維におけるリグノセルロース繊維等の合計の含有量は、得られた熱硬化性樹脂組成物に対して有機溶剤への不溶解残渣率を測定することで求めることも可能である。
なお、平均繊維長は走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより求めることができる。
前記イオン液体に由来する成分の含有量は、熱硬化性樹脂組成物に対して、例えばイオン液体のアニオン成分及び/又はカチオン成分における特定の元素を原子核としたNMRやGC-MSにより測定することもできる。
中でも、フェノール樹脂の原料であるフェノールはリグノセルロース繊維を分解する際の触媒としての機能も有し、熱硬化性樹脂組成物の原料のうちリグノセルロース繊維の分解触媒として使用することもできることから、フェノール樹脂を用いることが好ましい。
熱硬化性樹脂組成物における樹脂の含有量はGC-MSにより測定することができる。
その他の成分としては、硬化剤や硬化促進剤等が挙げられる。
硬化促進剤には、例えばp-トルエンスルホン酸等が挙げられる。
これらその他の成分は、熱硬化性樹脂組成物に対して合計で20質量%以下とすることが好ましい。
本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法は、下記工程(a)及び工程(b)を含む。
工程(a):植物系バイオマス及びイオン液体を混合し、加熱処理によりイオン液体処理リグノセルロース繊維を得る工程、
工程(b):樹脂と、前記工程(a)で得られたイオン液体処理リグノセルロース繊維とを混合する工程。
原料粉の平均粒子径を500μm以下とすることにより、得られるリグノセルロース繊維の平均繊維長を1000μm以下とすることができ、イオン液体処理リグノセルロース繊維の平均繊維長も1000μm以下とすることができる。
なお、植物系バイオマスとイオン液体とを混合する際に、イオン液体単体ではなくイオン液体を含む溶液を用いる場合には、当該溶液に含まれるイオン液体そのものの含有量を、前記混合比とする。
イオン液体の融点が室温以下であり、加熱せずとも液体状態を保てるのであれば、必ずしも加熱を行う必要はない。ただし、植物系バイオマスから得られるリグノセルロース繊維の一部をセルロース、ヘミセルロース及び/又はリグニンに分解させるという観点からは、イオン液体の融点に関わらず加熱することが好ましく、40℃以上で加熱攪拌することが好ましく、70℃以上がより好ましい。
なお、前記処理時間の好ましい範囲は、加熱温度やイオン液体の種類等によっても異なる。
樹脂とイオン液体処理リグノセルロース繊維の混合比は、樹脂100質量部に対して、イオン液体処理リグノセルロース繊維を1質量部以上とすることが、熱硬化性樹脂組成物を摩擦材に適用した際の摩擦材強度及び耐摩耗性を向上する点から好ましく、3質量部以上がより好ましい。また、上限は結合材としての機能を確保する点から40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。
減圧蒸留は、例えば150℃以上で行うことが好ましく、180℃以上がより好ましい。
加熱処理の加熱温度は60℃以上が反応を促進することから好ましく、90℃以上がより好ましい。また、180℃以下とすることが過剰な反応を抑制することから好ましく、150℃以下がより好ましい。
加熱処理における反応時間は十分な反応促進の点から1時間以上が好ましく、3時間以上がより好ましい。また、生産性の観点から10時間以下が好ましく、8時間以下がより好ましい。
本発明の摩擦材は、前記熱硬化性樹脂組成物を結合材として含むことが好ましい。
摩擦材には、その他に繊維基材、摩擦調整材、潤滑材等を含むことができ、摩擦調整材には、無機/有機充填材や研削材等が含まれる。また、結合材として、前記熱硬化性樹脂組成物以外の結合材を併用して用いてもよく、必要に応じてその他の材料を配合することもできる。
有機繊維としては、例えば、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、耐炎性アクリル繊維、セルロース繊維等が挙げられる。
無機繊維としては、例えば、生体溶解性繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、チタン酸カリウム繊維、ロックウール等が挙げられる。
金属繊維としては、例えば、スチール繊維、アルミニウム繊維、亜鉛繊維、錫または錫合金繊維、ステンレス繊維、銅又は銅合金繊維等が挙げられる。
これら繊維基材は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
無機充填材としては、例えば、アルミナ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、バーミキュライト、マイカ、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム等が挙げられる。
有機充填材としては、例えば、シリカ、マグネシア、ジルコニア、ケイ酸ジルコニウム、酸化クロム、四三酸化鉄(Fe3O4)、等の研削材、アルミニウム、亜鉛、錫等の金属粉末、各種ゴム粉末(ゴムダスト、タイヤ粉末等)、カシューダスト、メラミンダスト等が挙げられる。
潤滑材としては、黒鉛(グラファイト)、二硫化モリブデン、硫化錫、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。
これらの摩擦調整材は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
結合材として本発明の熱硬化性樹脂組成物の含有量は、十分な機械的強度、耐摩耗性を確保するため、摩擦材全体に対し、5~15質量%とすることが好ましく、7~13質量%がより好ましい。
エラストマー変性フェノール樹脂としては、アクリルゴム変性フェノール樹脂やシリコーンゴム変性フェノール樹脂、NBRゴム変性フェノール樹脂等を挙げることができる。
一例として、ディスクブレーキ用ブレーキパッドの製造における一般的な工程(i)~(v)を以下に示すが、これらに限定されない。
(i)板金プレスにより鋼板(プレッシャプレート)を所定の形状に成形する工程、
(ii)上記プレッシャプレートに脱脂処理、化成処理およびプライマー処理を施し、接着剤を塗布する工程、
(iii)繊維基材と、摩擦調整材と、結合材等の粉末原料とを配合し、混合により十分に均質化した摩擦材組成物を、常温にて所定の圧力で成形して予備成形体を作製する工程、
(iv)上記予備成形体と接着剤が塗布されたプレッシャプレートとを、所定の温度および圧力を加えて両部材を一体に固着する熱成形工程(成形温度130~180℃、成形圧力30~80MPa、成形時間2~10分間)、
(v)アフターキュア(150~300℃、1~5時間)を行って、最終的に研摩や表面焼き、塗装等の仕上げ処理を施す工程。
このような工程により、本発明の摩擦材を備えたディスクブレーキ用ブレーキパッドを製造することができる。
ビーカーに平均粒子径(D50)が115μmの杉木粉(富山県西部森林組合製、80mesh)6g及びイオン液体である1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド(和光純薬工業株式会社社製、[bmim][Cl])15gを入れ、120℃で3時間攪拌することで、イオン液体処理リグノセルロース繊維を得た(工程(a))。
得られた硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物におけるリグノセルロース繊維及びリグノセルロース繊維に由来する成分の合計の含有量は、その仕込量から2質量%であり、イオン液体に由来する成分の含有量は、その仕込量から5質量%である。
イオン液体を40%テトラブチルホスホニウムヒドロキシド水溶液(東京化成工業株式会社製、TBPH)15gとし、工程(a)の処理温度を80℃にした以外は実施例1-1と同様にし、硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物を得た。
当該熱硬化性樹脂組成物におけるリグノセルロース繊維及びリグノセルロース繊維に由来する成分の合計の含有量は2質量%であり、イオン液体に由来する成分の含有量は5質量%である。
杉木粉の使用量を9gとし、イオン液体([bmim][Cl])の使用量を30gとした以外は実施例1-1と同様にし、硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物を得た。
当該熱硬化性樹脂組成物におけるリグノセルロース繊維及びリグノセルロース繊維に由来する成分の合計の含有量は3質量%であり、イオン液体に由来する成分の含有量は10質量%である。
杉木粉の使用量を15gとし、イオン液体([bmim][Cl])の使用量を45gとした以外は実施例1-1と同様にし、硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物を得た。
当該熱硬化性樹脂組成物におけるリグノセルロース繊維及びリグノセルロース繊維に由来する成分の合計の含有量は5質量%であり、イオン液体に由来する成分の含有量は15質量%である。
住友ベークライト株式会社製のストレートフェノール樹脂を使用した。
実施例1-1~1-4又は比較例1-1で得られた熱硬化性樹脂組成物を用いて、表1に記載の割合で摩擦材を作製した。具体的には、表1に示す配合材料を、混合攪拌機に一括して投入し、常温で5分間混合を行い摩擦材組成物を得た。その後、得られた摩擦材組成物を成形圧力50MPa、成形温度150℃、成形時間5分で加熱加圧成形を行い、加熱加圧成形後さらに250℃で3時間の熱処理を行うことで、摩擦材を得た。
得られた各摩擦材について、曲げ試験及び摩擦性能試験を行い、摩擦材強度、弾性率及び摩耗量の評価を行った。
摩擦材から50mm×10mm×2mmの試験片を切り出し、JIS-K7171に準拠して、当該試験片の室温(25℃)と300℃での曲げ強度と曲げ弾性率を測定した。結果を表2に示す。
JASO-C406に準拠して、ブレーキダイナモメータにより、相手材にFC250のロータを用いた摩擦性能試験を行った。試験前後の摩擦材厚みをマイクロメータにより測定し、摩擦材摩耗量を測定した。結果を表2に示す。
Claims (7)
- イオン液体処理リグノセルロース繊維と熱硬化性樹脂とを含み、
熱硬化性樹脂組成物に対する、前記イオン液体処理リグノセルロース繊維におけるイオン液体に由来する成分の含有量が1~20質量%であり、
前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂である、熱硬化性樹脂組成物。 - 熱硬化性樹脂組成物に対する、前記イオン液体処理リグノセルロース繊維におけるリグノセルロース繊維と、前記リグノセルロース繊維に由来する成分との合計の含有量が0.1~10質量%である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
- 前記イオン液体処理リグノセルロース繊維の平均繊維長が1000μm以下である、請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
- 請求項1~3のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物を結合材として含有する摩擦材。
- 前記熱硬化性樹脂組成物の含有量が5~15質量%である請求項4に記載の摩擦材。
- 植物系バイオマス及びイオン液体を混合し、加熱処理によりイオン液体処理リグノセルロース繊維を得る工程、及び
樹脂と前記イオン液体処理リグノセルロース繊維とを混合する工程を含み、
前記樹脂がフェノール樹脂であり、
熱硬化性樹脂組成物に対する、前記イオン液体処理リグノセルロース繊維におけるイオン液体に由来する成分の含有量を1~20質量%とする、熱硬化性樹脂組成物の製造方法。 - フェノール及びアルデヒド類を、酸触媒の存在下で反応させ、前記フェノール樹脂を得る工程を含む、請求項6に記載の熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
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