JP6993252B2 - 熱硬化性樹脂組成物、摩擦材及び熱硬化性樹脂組成物の製造方法 - Google Patents

熱硬化性樹脂組成物、摩擦材及び熱硬化性樹脂組成物の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、熱硬化性樹脂組成物に関するものであり、更に詳しくは、産業機械、鉄道車両、貨物車両、乗用車等のブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等に用いられる摩擦材用樹脂組成物に好適な熱硬化性樹脂組成物に関する。また前記熱硬化性樹脂組成物の製造方法に関し、さらには、前記熱硬化性樹脂組成物を含有する摩擦材にも関する。
熱硬化性樹脂組成物は摩擦材の結合材として使用され、中でもフェノール系熱硬化性樹脂組成物は、耐熱性、寸法安定性、機械的強度等に優れるため、広く使用されている。近年、摩擦材への熱的及び機械的負荷が増加しており、結合材として使用される熱硬化性樹脂組成物に対しても耐熱性及び強度を高めることのできるものが要求されている。これらの要求に応えるために、熱硬化性樹脂組成物を改質(変質)し、所望の特性を改善する技術が種々提案されている。
例えば、特許文献1には、耐熱性と柔軟性に優れた熱硬化性樹脂組成物として、フェノールモノマー類(a)とトリアジン類(b)とアルデヒド類(c)とノボラック型フェノール樹脂(d)とを反応して得られるトリアジン変性レゾール型フェノール樹脂を含有する熱硬化型樹脂組成物が提案されている。
一方、大気中の炭酸ガス濃度増加による地球温暖化問題が世界的な問題となりつつあり、各産業分野においても、炭酸ガス排出量を削減する技術の開発が行われている。このような背景から、樹皮、間伐材、建築廃材等の木質系廃材を再利用することが検討されており、このような植物由来材料(植物系バイオマス)を用いた樹脂組成物が種々提案されている。
例えば、特許文献2には、リグノセルロースのフェノール類への可溶化物を、ホルムアルデヒド源の存在下で樹脂化した後、該樹脂に充填剤及び硬化剤を配合して成形材料とする方法が記載されている。また、特許文献3には、植物由来材料を加水分解してリグニンとセルロースを1≦r≦10(r=A/B、Aはリグニンの重量部、Bはセルロースの重量部)の割合で含むリグノセルロース含有物を得て、このリグノセルロース含有物を80℃以下で乾燥して得られた乾燥リグノセルロース含有物を含有する樹脂組成物が記載されている。
また、特許文献4には、木質系バイオマスをイオン液体に混合することで、主として当該木質系バイオマス由来のセルロース及び/又はヘミセルロースを当該イオン液体に溶解させる工程と、当該イオン液体から残渣成分を分離する工程とを含む、木質系バイオマスの処理方法が開示されている。
特開2006-152052号公報 特開平3-43442号公報 特開2009-35582号公報 特開2009-189277号公報
摩擦材の分野においても、環境保全の観点から、摩擦材から発生する摩耗粉や廃棄後の摩擦材による環境負荷に対する配慮が求められており、上記のような植物系バイオマスを用いた樹脂組成物を結合材として用いることが考えられる。
しかしながら、植物系バイオマスを含有した樹脂組成物は、摩擦材用樹脂組成物として使用するには強度が不十分であった。また、リグノセルロース繊維は樹脂組成物中で凝集しやすいことから、界面活性剤等の分散剤が必要となる。
そこで、本発明は、植物系バイオマスにより改質した熱硬化性樹脂組成物であって、摩擦材用樹脂組成物として用いた場合に十分な摩擦材強度と耐摩耗性を与えることができる熱硬化性樹脂組成物、該熱硬化性樹脂組成物を含有した摩擦材、及び該熱硬化性樹脂組成物の製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、植物系バイオマスに含有されるリグノセルロース繊維をイオン液体処理することにより得られるイオン液体処理リグノセルロース繊維を含む熱硬化性樹脂組成物とすることにより、当該樹脂組成物を摩擦材に適用した際の摩擦材強度を向上し、かつ耐摩耗性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、下記[1]~[9]からなるものである。
[1] イオン液体処理リグノセルロース繊維と熱硬化性樹脂とを含む熱硬化性樹脂組成物。
[2] 熱硬化性樹脂組成物に対する、前記イオン液体処理リグノセルロース繊維におけるリグノセルロース繊維と、前記リグノセルロース繊維に由来する成分との合計の含有量が0.1~10質量%である、前記[1]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[3] 前記イオン液体処理リグノセルロース繊維の平均繊維長が1000μm以下である、前記[1]又は[2]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[4] 熱硬化性樹脂組成物に対する、前記イオン液体処理リグノセルロース繊維におけるイオン液体に由来する成分の含有量が1~20質量%である、前記[1]~[3]のいずれか一に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[5] 前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂である、前記[1]~[4]のいずれか一に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[6] 前記[1]~[5]のいずれか一に記載の熱硬化性樹脂組成物を結合材として含有する摩擦材。
[7] 前記熱硬化性樹脂組成物の含有量が5~15質量%である前記[6]に記載の摩擦材。
[8] 植物系バイオマス及びイオン液体を混合し、加熱処理によりイオン液体処理リグノセルロース繊維を得る工程、及び
樹脂と前記イオン液体処理リグノセルロース繊維とを混合する工程を含む、熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
[9] 前記樹脂がフェノール樹脂であり、
フェノール及びアルデヒド類を、酸触媒の存在下で反応させ、前記フェノール樹脂を得る工程を含む、前記[8]に記載の熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
本発明によれば、イオン液体処理リグノセルロース繊維を含む熱硬化性樹脂組成物は、摩擦材用樹脂組成物として、摩擦材強度及び耐摩耗性を向上することができる。
また、リグノセルロース繊維をイオン液体処理することにより、リグノセルロース繊維が熱硬化性樹脂組成物中に良好に分散することから、凝集を抑制するための分散剤も不要となる。
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
<熱硬化性樹脂組成物>
本発明の熱硬化性樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう。)は、イオン液体処理されたリグノセルロース繊維と熱硬化性樹脂とを含むことを特徴とする。
リグノセルロース繊維とは植物系バイオマスの主要となる構成成分であり、植物細胞壁の成分である。セルロースがリグニン及びヘミセルロースに強固に結びついた三次元ネットワーク階層構造を有しており、セルロースは単分子が規則的に凝集して数十本集まった結晶性を有するミクロフィブリル(セルロースナノファイバー)を形成している。
リグノセルロース繊維を含有する植物系バイオマスとしては、例えば、製紙用樹木、林地残材、間伐材等のチップ又は樹皮、製材工場等から発生する鋸屑又はおがくず、街路樹の剪定枝葉、建築廃材等の木質系材料、ケナフ、稲藁、麦藁、コーンコブ、バガス等の草木系材料、微生物が産生するバクテリアセルロース等を挙げることができる。
木質系材料としては、具体的に、スギ(Cryptomeria)属植物、ユーカリ(Eucalyptus)属植物、アカシア(Acacia)属植物、ヤナギ(Salix)属植物、ポプラ属植物等が挙げられ、中でも、入手が容易であるスギ属植物、ユーカリ属植物を用いることが好ましい。
これらの植物系バイオマスは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
リグノセルロース繊維の主要な構成分子はセルロース、ヘミセルロース及びリグニンである。それら各構成分子のリグノセルロース繊維中における含有量は、植物系バイオマスの種類によって異なるが、概ね、セルロース約45~50質量%、ヘミセルロース約15~30質量%、リグニン約25~35質量%の割合で含まれている。
リグノセルロース繊維は、例えば、リグノセルロース繊維に対して必要に応じて前処理を施した後、無機酸、有機酸、アルカリ、酵素、亜臨界水、超臨界水等による加水発熱又は熱により各構成分子に分解される。また、イオン液体中での加熱攪拌によっても分解されるものと考えられるが、イオン液体に対する溶解性も併せ持つ。
イオン液体処理リグノセルロース繊維とは、リグノセルロース繊維をイオン液体又はイオン液体を含む溶液中で攪拌する(イオン液体処理する)ことにより得られるものであり、イオン液体又はイオン液体を含む溶液中で、リグノセルロース繊維の少なくとも一部が解繊された状態で分散しているものと考えられる。また、リグノセルロース繊維の一部がイオン液体又はイオン液体を含む溶液中に溶解していてもよいが、リグノセルロース繊維の少なくとも一部は、繊維状態としてある程度維持されている必要がある。
また、イオン液体処理により、リグノセルロース繊維の少なくとも一部が、セルロース、ヘミセルロース及び/又はリグニンに分解されていてもよく、これらをリグノセルロース繊維に由来する成分と称する。リグノセルロース繊維に由来する成分には、リグニンとセルロースが完全に分離せず、両者が結合した状態の繊維も含まれる。
なおセルロースは、セルロース単体まで分解せずに、セルロース繊維の状態となる程度まで分解されることが好ましい。
イオン液体処理を行う際の温度は用いるイオン液体の種類によって異なるが、イオン液体を単独で用いる場合には、イオン液体の融点以上の温度で攪拌を行う。またイオン液体を含む溶液を用いる場合には、イオン液体の融点以上、かつ溶液(水溶液である場合には水)の沸点未満の温度で攪拌を行う。
イオン液体とは、イオンのみからなり液体状態で存在する塩であり、低融点溶融塩等と呼ばれることもある。イオン液体の融点は概ね100℃以下であり、難揮発性や熱的安定性が高いといった特徴を有する。
本発明で用いられるイオン液体は特に限定されないが、例えばアンモニウム系、イミダゾリウム系、ホスホニウム系、ピリジニウム系、ピロリジニウム系、ピラゾリウム系、スルホニウム系、コリン系等の様々なカチオン種のイオン液体を用いることができる。
アニオン種も、PF 等のリン系アニオン、BF 等のホウ素系アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TfN)、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミド(BETI)、(2,2,2-トリフルオロ-N-(トリフルオロメタンスルホニル)アセトアミド(TSAC)、N(CN) 等の窒素系アニオン、Cl、OH、C(CN) 、SCN等、様々なアニオン種のイオン液体を用いることができる。
これらは1種を単体で又は溶媒と共に用いても、2種以上をイオン液体のみで又は溶媒と共に用いてもよい。
イオン液体処理リグノセルロース繊維は、熱硬化性樹脂組成物中において、イオン液体処理リグノセルロース繊維として存在するものもあれば、分解されてイオン液体処理リグノセルロース繊維に由来する成分として存在するものもある。ここでイオン液体処理リグノセルロース繊維に由来する成分とは、イオン液体処理セルロース、イオン液体処理ヘミセルロース及び/又はイオン液体処理リグニンを意味し、イオン液体処理セルロースとイオン液体処理リグニンとが完全に分離せず、両者が結合した状態の繊維も含まれる。
本発明の熱硬化性樹脂組成物に含まれるイオン液体処理リグノセルロース繊維は、リグノセルロース繊維が解繊された状態のものを含み、またリグノセルロース繊維の凝集を防ぐ。そのため、イオン液体処理リグノセルロース繊維を樹脂と混合した際に、イオン液体処理リグノセルロース繊維やそれに由来する成分が当該樹脂に良好に分散し、均質な複合化状態となることから、得られる熱硬化性樹脂組成物を摩擦材に用いた場合に、当該摩擦材の摩擦材強度及び耐摩耗性が向上するものと推察される。
また、リグノセルロース繊維の凝集を抑制するための界面活性剤等の分散剤を添加する必要がなくなる点も好ましい。
熱硬化性樹脂組成物に対する、前記イオン液体処理リグノセルロース繊維におけるリグノセルロース繊維と、前記リグノセルロース繊維に由来する成分(以下、「リグノセルロース繊維等」と称することがある。)との合計の含有量は0.1質量%以上であることが、熱硬化性樹脂組成物を摩擦材に適用した際の摩擦材強度や弾性率を向上できることから好ましい。一方、10質量%以下とすることにより、熱硬化性樹脂組成物の強度が高くなり過ぎることを防ぎ、良好な弾性率を得ることができるため好ましい。当該合計の含有量は1質量%以上がより好ましく、また、8質量%以下がより好ましい。
ここで前記イオン液体処理リグノセルロース繊維におけるリグノセルロース繊維等の合計の含有量とは、イオン液体処理後にリグノセルロース繊維等を積極的に除去せず、また、揮発もしないことから、イオン液体処理を行う前のリグノセルロース繊維等(リグノセルロース繊維、セルロース、ヘミセルロース及びリグニン)の合計の含有量に相当し、初期の(イオン液体処理を行う前の)リグノセルロース繊維の仕込量と同じであると見なすことができる。
また、前記イオン液体処理リグノセルロース繊維におけるリグノセルロース繊維等の合計の含有量は、得られた熱硬化性樹脂組成物に対して有機溶剤への不溶解残渣率を測定することで求めることも可能である。
イオン液体処理リグノセルロース繊維の平均繊維長は、熱硬化性樹脂への分散性の観点から1000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましい。平均繊維長の下限は特に限定されないが、摩擦材強度の観点から30μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。
なお、平均繊維長は走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより求めることができる。
リグノセルロース繊維は、イオン液体処理により一部溶解するとその繊維長が短くなることが考えられるが、長くなることはない。そのため、イオン液体処理前のリグノセルロース繊維として平均繊維長が1000μm以下のものを用いることにより、イオン液体処理リグノセルロース繊維の平均繊維長を、少なくとも1000μm以下とすることができる。
熱硬化性樹脂組成物に対する、前記イオン液体処理リグノセルロース繊維におけるイオン液体に由来する成分の含有量は繊維の分散性の点から1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。また、繊維の溶解性の点から20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
イオン液体に由来する成分の含有量は、イオン液体が難揮発性かつ熱安定性が高いという特徴を有し、かつイオン液体処理後の積極的なイオン液体除去も行わないことから、初期のイオン液体の仕込量と同じであると見なすことができる。なお、イオン液体を含む溶液でイオン液体処理を行う場合には、イオン液体のみの仕込量と同じであると見なすことができ、イオン液体を溶解させている溶液(水や有機溶媒)の仕込量は含まない。
前記イオン液体に由来する成分の含有量は、熱硬化性樹脂組成物に対して、例えばイオン液体のアニオン成分及び/又はカチオン成分における特定の元素を原子核としたNMRやGC-MSにより測定することもできる。
熱硬化性樹脂組成物における樹脂としては、例えば、フェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂、エラストマー等による各種変性フェノール樹脂)、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。エラストマー変性フェノール樹脂としては、アクリルゴム変性フェノール樹脂やシリコーンゴム変性フェノール樹脂、NBRゴム変性フェノール樹脂などを挙げることができる。これらの樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
中でも、フェノール樹脂の原料であるフェノールはリグノセルロース繊維を分解する際の触媒としての機能も有し、熱硬化性樹脂組成物の原料のうちリグノセルロース繊維の分解触媒として使用することもできることから、フェノール樹脂を用いることが好ましい。
熱硬化性樹脂組成物における樹脂の含有量は50質量%以上が摩擦材強度の点から好ましく、60質量%以上がより好ましい。
熱硬化性樹脂組成物における樹脂の含有量はGC-MSにより測定することができる。
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、前記イオン液体処理リグノセルロース繊維及び樹脂の他に、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、硬化剤や硬化促進剤等が挙げられる。
硬化剤には、例えばヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチロールメラミン、レゾール樹脂等が挙げられる。
硬化促進剤には、例えばp-トルエンスルホン酸等が挙げられる。
これらその他の成分は、熱硬化性樹脂組成物に対して合計で20質量%以下とすることが好ましい。
<熱硬化性樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法は、下記工程(a)及び工程(b)を含む。
工程(a):植物系バイオマス及びイオン液体を混合し、加熱処理によりイオン液体処理リグノセルロース繊維を得る工程、
工程(b):樹脂と、前記工程(a)で得られたイオン液体処理リグノセルロース繊維とを混合する工程。
工程(a)では植物系バイオマスとイオン液体とを混合、好ましくは加熱攪拌することにより、前記植物系バイオマスが分解されたイオン液体処理リグノセルロース繊維が得られる。イオン液体処理リグノセルロース繊維には、イオン液体処理リグノセルロース繊維に由来する成分(イオン液体処理セルロース、イオン液体処理ヘミセルロース及び/又はイオン液体処理リグニン)が含まれていてもよい。
植物系バイオマスとしては、上記した植物系バイオマスを使用することができる。植物系バイオマスは、まず機械的処理を施し、所望の粒径を有する原料粉とすることが好ましい。機械的処理の方法としては、例えば、切断、裁断、破砕、磨砕等の手段が挙げられる。
原料粉の粒径としては、その平均粒子径が500μm以下となるように調整することが好ましく、300μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましい。また下限は特に限定されないが、例えば1μm以上が好ましい。
原料粉の平均粒子径を500μm以下とすることにより、得られるリグノセルロース繊維の平均繊維長を1000μm以下とすることができ、イオン液体処理リグノセルロース繊維の平均繊維長も1000μm以下とすることができる。
植物系バイオマスとイオン液体の混合比は、質量比でイオン液体の方が多いことが好ましい。具体的な好ましい混合比はイオン液体の種類によっても異なるが、例えば質量比でイオン液体を植物系バイオマスの1倍量以上用いることがバイオマスの溶解性の点から好ましく、2倍量以上用いることが好ましい。また上限は特に限定されないが、例えばイオン液体を植物系バイオマスの5倍量以下とすることが好ましい。
なお、植物系バイオマスとイオン液体とを混合する際に、イオン液体単体ではなくイオン液体を含む溶液を用いる場合には、当該溶液に含まれるイオン液体そのものの含有量を、前記混合比とする。
工程(a)では、容器内に植物系バイオマスとイオン液体とを投入し、加熱攪拌を行う。攪拌温度はイオン液体の融点以上の温度であればよく、また、イオン液体を含む溶液を用いる場合には、当該溶液の溶媒(水溶液であれば水)の沸点未満の温度とする。
イオン液体の融点が室温以下であり、加熱せずとも液体状態を保てるのであれば、必ずしも加熱を行う必要はない。ただし、植物系バイオマスから得られるリグノセルロース繊維の一部をセルロース、ヘミセルロース及び/又はリグニンに分解させるという観点からは、イオン液体の融点に関わらず加熱することが好ましく、40℃以上で加熱攪拌することが好ましく、70℃以上がより好ましい。
攪拌時間(イオン液体処理時間)は、10分以上が良好な解繊状態となり、またリグノセルロース繊維に由来する成分が適度に得られることから好ましく、1時間以上がより好ましい。一方、処理時間が長すぎると、リグノセルロース繊維がイオン液体に溶解し過ぎたり、リグノセルロース繊維に由来する成分としてセルロースが分解され過ぎる等のおそれがあることから、8時間以下が好ましい。
なお、前記処理時間の好ましい範囲は、加熱温度やイオン液体の種類等によっても異なる。
工程(b)では、樹脂に前記工程(a)で得られたイオン液体処理リグノセルロース繊維を混合する。
樹脂とイオン液体処理リグノセルロース繊維の混合比は、樹脂100質量部に対して、イオン液体処理リグノセルロース繊維を1質量部以上とすることが、熱硬化性樹脂組成物を摩擦材に適用した際の摩擦材強度及び耐摩耗性を向上する点から好ましく、3質量部以上がより好ましい。また、上限は結合材としての機能を確保する点から40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。
樹脂とイオン液体処理リグノセルロース繊維とを混合することにより本発明の熱硬化性樹脂組成物を得ることができるが、前記熱硬化性樹脂組成物は、イオン液体処理リグノセルロース繊維が熱硬化性樹脂内に分散された形態を取るものと推測される。
樹脂とイオン液体処理リグノセルロース繊維とを混合する際、樹脂及び/又はイオン液体処理リグノセルロース繊維に含まれる水や不純物等を除去する目的で、減圧蒸留や水蒸気蒸留を行うことが好ましい。
減圧蒸留は、例えば150℃以上で行うことが好ましく、180℃以上がより好ましい。
樹脂は市販のものを用いても、合成したものを用いてもよいが、例えばフェノール樹脂である場合には、フェノール及びアルデヒド類を酸触媒の存在下で反応させることによりフェノール樹脂を得ることができる。
アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、グリオキサール、アセトアルデヒド、クロラール、フルフラール、ベンズアルデヒド等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アルデヒド類の使用量は、フェノール溶液100質量部に対して、10質量部以上であるとフェノール類モノマーの残存を抑制することができることから好ましく、13質量部以上がより好ましい。また、30質量部以下とすることで、樹脂組成物の重合度を良好に制御できることから好ましく、27質量部以下がより好ましい。
酸触媒として用いられる酸としては、例えば、蓚酸、ギ酸、酢酸等の有機酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸等が挙げられる。なお、摩擦材の材料において酸成分は錆の原因となることから、錆の発生を防止するために当該酸成分を中和する必要がある。しかしながら、フェノール樹脂を製造する工程における酸触媒として、弱酸性の有機酸を用いると、重合時の加熱により酸が分解してしまうので、中和する必要がない。そのため、熱硬化性樹脂を摩擦材用熱硬化性樹脂組成物に用いる場合には、酸触媒として蓚酸、ギ酸、酢酸を用いることが好ましい。
酸の使用量は、フェノール100質量部に対して、0.1質量部以上であることが、十分に重合反応を進行させることができることから好ましい。また上限は特に制限されないが、通常10質量部以下が好ましい。
上記フェノール、アルデヒド類、及び酸を反応容器に投入し、加熱処理することによりフェノール樹脂を得ることができる。
加熱処理の加熱温度は60℃以上が反応を促進することから好ましく、90℃以上がより好ましい。また、180℃以下とすることが過剰な反応を抑制することから好ましく、150℃以下がより好ましい。
加熱処理における反応時間は十分な反応促進の点から1時間以上が好ましく、3時間以上がより好ましい。また、生産性の観点から10時間以下が好ましく、8時間以下がより好ましい。
熱硬化性樹脂組成物に、イオン液体処理リグノセルロース繊維(イオン液体処理リグノセルロース繊維に由来する成分を含む)及び熱硬化性樹脂の他に、その他の成分を含む場合、その他の成分の添加は、工程(a)の前後や工程(b)の前後、工程(a)又は工程(b)と同時等、任意に決定することができる。
その他の成分としては、例えば硬化剤を添加する場合であって、前記工程(b)で得られる樹脂組成物が塊状(固体)である場合には、当該塊状の樹脂組成物を粉砕しながら、硬化剤を添加することで、粉末状の、硬化剤を含む熱硬化樹脂組成物を得ることもできる。
<摩擦材>
本発明の摩擦材は、前記熱硬化性樹脂組成物を結合材として含むことが好ましい。
摩擦材には、その他に繊維基材、摩擦調整材、潤滑材等を含むことができ、摩擦調整材には、無機/有機充填材や研削材等が含まれる。また、結合材として、前記熱硬化性樹脂組成物以外の結合材を併用して用いてもよく、必要に応じてその他の材料を配合することもできる。
繊維基材は摩擦材の補強材として用いられ、有機繊維、無機繊維、金属繊維等が使用される。
有機繊維としては、例えば、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、耐炎性アクリル繊維、セルロース繊維等が挙げられる。
無機繊維としては、例えば、生体溶解性繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、チタン酸カリウム繊維、ロックウール等が挙げられる。
金属繊維としては、例えば、スチール繊維、アルミニウム繊維、亜鉛繊維、錫または錫合金繊維、ステンレス繊維、銅又は銅合金繊維等が挙げられる。
これら繊維基材は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの繊維基材の中でも、アラミド繊維を単独で、又はアラミド繊維と他の繊維基材を組み合わせて用いることが好ましい。他の繊維基材として、生体溶解性繊維は人体への影響が少ない点から好適に用いることができる。このような生体溶解性繊維としては、SiO-CaO-MgO系繊維やSiO-CaO-MgO-Al系繊維、SiO-MgO-SrO系繊維などの生体溶解性セラミック繊維や生体溶解性ロックウールなどを挙げることができる。
繊維基材の含有量は、十分な機械強度を確保するため、摩擦材全体に対し1~20質量%とすることが好ましく、3~15質量%とすることがより好ましい。
摩擦調整材は、耐摩耗性、耐熱性、耐フェード性等の所望の摩擦特性を摩擦材に付与するために用いられる。
無機充填材としては、例えば、アルミナ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、バーミキュライト、マイカ、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム等が挙げられる。
有機充填材としては、例えば、シリカ、マグネシア、ジルコニア、ケイ酸ジルコニウム、酸化クロム、四三酸化鉄(Fe)、等の研削材、アルミニウム、亜鉛、錫等の金属粉末、各種ゴム粉末(ゴムダスト、タイヤ粉末等)、カシューダスト、メラミンダスト等が挙げられる。
潤滑材としては、黒鉛(グラファイト)、二硫化モリブデン、硫化錫、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。
これらの摩擦調整材は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
摩擦調整材の含有量は、所望する摩擦特性に応じて適宜調整すればよく、摩擦材全体に対し、60~90質量%とすることが好ましく、70~90質量%とすることがより好ましい。
結合材は摩擦材に含まれる繊維基材及び摩擦調整材を一体化するために用いられる。
結合材として本発明の熱硬化性樹脂組成物の含有量は、十分な機械的強度、耐摩耗性を確保するため、摩擦材全体に対し、5~15質量%とすることが好ましく、7~13質量%がより好ましい。
その他の結合材を併用する場合、その他の結合材としては、例えば、ストレートフェノール樹脂、エラストマー等による各種変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
エラストマー変性フェノール樹脂としては、アクリルゴム変性フェノール樹脂やシリコーンゴム変性フェノール樹脂、NBRゴム変性フェノール樹脂等を挙げることができる。
本発明の摩擦材は、公知の製造工程により製造することができ、例えば、摩擦材組成物の予備成形、熱成形、加熱、研摩等の工程を経て摩擦材を作製することができる。
一例として、ディスクブレーキ用ブレーキパッドの製造における一般的な工程(i)~(v)を以下に示すが、これらに限定されない。
(i)板金プレスにより鋼板(プレッシャプレート)を所定の形状に成形する工程、
(ii)上記プレッシャプレートに脱脂処理、化成処理およびプライマー処理を施し、接着剤を塗布する工程、
(iii)繊維基材と、摩擦調整材と、結合材等の粉末原料とを配合し、混合により十分に均質化した摩擦材組成物を、常温にて所定の圧力で成形して予備成形体を作製する工程、
(iv)上記予備成形体と接着剤が塗布されたプレッシャプレートとを、所定の温度および圧力を加えて両部材を一体に固着する熱成形工程(成形温度130~180℃、成形圧力30~80MPa、成形時間2~10分間)、
(v)アフターキュア(150~300℃、1~5時間)を行って、最終的に研摩や表面焼き、塗装等の仕上げ処理を施す工程。
このような工程により、本発明の摩擦材を備えたディスクブレーキ用ブレーキパッドを製造することができる。
摩擦材には耐フェード性を確保するために、銅や銅合金の繊維又は粒子等の銅成分が添加されている。しかし、銅成分を含む摩擦材はブレーキ制動により銅成分が摩耗粉として空気中に放出されるため、自然環境への影響が指摘されている。そこで、自動車用ブレーキパッドへの銅等の使用を制限する取り組みがなされており、銅フリーの摩擦材が種々提案されている。本発明の摩擦材は、元素としての銅含有量が0.5質量%以下の、いわゆる銅フリーのノンアスベスト摩擦材にも好適に用いることができる。また、本発明の摩擦材は、ロースチールの銅フリー材にも適用可能である。
本発明の摩擦材は、自動車などのブレーキパッドやブレーキライニング等の摩擦材として好適に使用することができる。
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
<実施例1-1>
ビーカーに平均粒子径(D50)が115μmの杉木粉(富山県西部森林組合製、80mesh)6g及びイオン液体である1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド(和光純薬工業株式会社社製、[bmim][Cl])15gを入れ、120℃で3時間攪拌することで、イオン液体処理リグノセルロース繊維を得た(工程(a))。
一方、ジムロート冷却器、温度計及び攪拌機を備えた4つ口フラスコに、フェノール(和光純薬工業株式会社製)216g、37%ホルムアルデヒド液(和光純薬工業株式会社製)149g、及び蓚酸(和光純薬工業株式会社製)0.5gを測り取り、100℃での加熱還流を6時間行うことでフェノール樹脂を得た。
得られたフェノール樹脂を室温まで冷却した後、工程(a)で得られたイオン液体処理リグノセルロース繊維を加え、180℃まで昇温させて減圧蒸留を行い、水及び未反応フェノールを留去することで、樹脂組成物を塊状の固体で得た(工程(b))。
得られた樹脂組成物をハンマーミルで粉砕しながら、ヘキサメチレンテトラミン(和光純薬工業株式会社製)を硬化剤として10質量%となるように添加した。
得られた硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物におけるリグノセルロース繊維及びリグノセルロース繊維に由来する成分の合計の含有量は、その仕込量から2質量%であり、イオン液体に由来する成分の含有量は、その仕込量から5質量%である。
<実施例1-2>
イオン液体を40%テトラブチルホスホニウムヒドロキシド水溶液(東京化成工業株式会社製、TBPH)15gとし、工程(a)の処理温度を80℃にした以外は実施例1-1と同様にし、硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物を得た。
当該熱硬化性樹脂組成物におけるリグノセルロース繊維及びリグノセルロース繊維に由来する成分の合計の含有量は2質量%であり、イオン液体に由来する成分の含有量は5質量%である。
<実施例1-3>
杉木粉の使用量を9gとし、イオン液体([bmim][Cl])の使用量を30gとした以外は実施例1-1と同様にし、硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物を得た。
当該熱硬化性樹脂組成物におけるリグノセルロース繊維及びリグノセルロース繊維に由来する成分の合計の含有量は3質量%であり、イオン液体に由来する成分の含有量は10質量%である。
<実施例1-4>
杉木粉の使用量を15gとし、イオン液体([bmim][Cl])の使用量を45gとした以外は実施例1-1と同様にし、硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物を得た。
当該熱硬化性樹脂組成物におけるリグノセルロース繊維及びリグノセルロース繊維に由来する成分の合計の含有量は5質量%であり、イオン液体に由来する成分の含有量は15質量%である。
<比較例1-1>
住友ベークライト株式会社製のストレートフェノール樹脂を使用した。
<実施例2-1~2-4及び比較例2-1>
実施例1-1~1-4又は比較例1-1で得られた熱硬化性樹脂組成物を用いて、表1に記載の割合で摩擦材を作製した。具体的には、表1に示す配合材料を、混合攪拌機に一括して投入し、常温で5分間混合を行い摩擦材組成物を得た。その後、得られた摩擦材組成物を成形圧力50MPa、成形温度150℃、成形時間5分で加熱加圧成形を行い、加熱加圧成形後さらに250℃で3時間の熱処理を行うことで、摩擦材を得た。
得られた各摩擦材について、曲げ試験及び摩擦性能試験を行い、摩擦材強度、弾性率及び摩耗量の評価を行った。
Figure 0006993252000001
<曲げ試験>
摩擦材から50mm×10mm×2mmの試験片を切り出し、JIS-K7171に準拠して、当該試験片の室温(25℃)と300℃での曲げ強度と曲げ弾性率を測定した。結果を表2に示す。
<摩擦性能試験>
JASO-C406に準拠して、ブレーキダイナモメータにより、相手材にFC250のロータを用いた摩擦性能試験を行った。試験前後の摩擦材厚みをマイクロメータにより測定し、摩擦材摩耗量を測定した。結果を表2に示す。
Figure 0006993252000002
表2の結果より、イオン液体処理リグノセルロース繊維を含有する熱硬化性樹脂組成物を用いた摩擦材は、従来のストレートフェノール樹脂を含有する摩擦材と比べて、室温、高温(300℃)共に曲げ強度及び弾性率が高く、かつ摩擦材摩耗量が小さいことから、十分な摩擦材強度と耐摩耗性を備えるといった本発明の効果が確認された。

Claims (7)

  1. イオン液体処理リグノセルロース繊維と熱硬化性樹脂とを含み、
    熱硬化性樹脂組成物に対する、前記イオン液体処理リグノセルロース繊維におけるイオン液体に由来する成分の含有量が1~20質量%であり、
    前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂である、熱硬化性樹脂組成物。
  2. 熱硬化性樹脂組成物に対する、前記イオン液体処理リグノセルロース繊維におけるリグノセルロース繊維と、前記リグノセルロース繊維に由来する成分との合計の含有量が0.1~10質量%である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
  3. 前記イオン液体処理リグノセルロース繊維の平均繊維長が1000μm以下である、請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
  4. 請求項1~のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物を結合材として含有する摩擦材。
  5. 前記熱硬化性樹脂組成物の含有量が5~15質量%である請求項に記載の摩擦材。
  6. 植物系バイオマス及びイオン液体を混合し、加熱処理によりイオン液体処理リグノセルロース繊維を得る工程、及び
    樹脂と前記イオン液体処理リグノセルロース繊維とを混合する工程を含み、
    前記樹脂がフェノール樹脂であり、
    熱硬化性樹脂組成物に対する、前記イオン液体処理リグノセルロース繊維におけるイオン液体に由来する成分の含有量を1~20質量%とする、熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
  7. ェノール及びアルデヒド類を、酸触媒の存在下で反応させ、前記フェノール樹脂を得る工程を含む、請求項に記載の熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
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