以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態の化学気相成長装置1の全体概略構成を示す正面図である。また、図2は、化学気相成長装置1の平面図である。また、図3は、化学気相成長装置1を図2のC−C断面から見た図である。図1および以降の各図においては、それらの方向関係を明確にするためZ軸方向を鉛直方向とし、XY平面を水平面とするXYZ直交座標系を適宜付している。また、図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法を誇張して描いている。
本発明に係る化学気相成長装置1は、表面に触媒を配置した基板(ガラス基板)にアセチレンなどの炭素源ガスを供給しつつ加熱処理も行ってカーボンナノチューブを形成する装置である。化学気相成長装置1は、主たる構成として筐体10の内部に、ローラコンベア20、ヘッド30および給電ユニット60を備えている。
ローラコンベア20は、複数のローラ21およびそれらの一部または全部を回転させるモータ(図示省略)を備えて構成されている。所定数の一組のローラ21がX方向に沿って設けられた1本の回転軸22に取り付けられている。そのような回転軸22がY方向に沿って複数配列されることにより、XY平面に複数のローラ21が配置される。複数のローラ21が回転することによって、ローラ21に支持された基板WがY方向に沿って搬送されることとなる。すなわち、複数のローラ21の頂点によって形成される平面が基板Wの搬送平面である。なお、本実施形態においては、(−Y)側から(+Y)側に向けて基板Wが搬送される。
略直方体形状のヘッド30は、支持ブロック31によって基板Wの搬送平面よりも上方に固定設置されている。図4は、ヘッド30を底面から(基板W側から)見た図である。また、図5は、ヘッド30を図4のA−A断面から見た図である。ヘッド30の底面側には2つの凹部が形成されている。2つの凹部のうちの一方が還元室40であり、他方が炭素源室50である。なお、還元室40および炭素源室50の双方を総称して処理室とする。
還元室40の中央にはX方向(基板Wの幅方向)に沿ってスリット状の還元ノズル42が形成されている。同様に、炭素源室50の中央にはX方向に沿ってスリット状の炭素源ノズル52が形成されている。還元室40と炭素源室50とは仕切壁49によって分離されている。すなわち、還元室40および炭素源室50は、仕切壁49を挟み込んで隣り合うように設けられている。第1実施形態において、仕切壁49の幅は2mmである。
還元室40および炭素源室50の周囲(仕切壁49を除く周囲)は、それぞれスカート48およびスカート58として規定される。スカート48,58の下端高さ位置と仕切壁49の下端高さ位置とは等しい。これらスカート48,58および仕切壁49は、ノズル42,52よりも基板Wに近接するように、突出して形成されている。基板Wの処理中、すなわちヘッド30の下方を基板Wが通過しているときのスカート48,58および仕切壁49の下端と基板Wの表面との間隔は0.01mm以上1mm以下(本実施形態では0.2mm)である。このため、還元室40および炭素源室50と基板Wとの隙間から流出するガスは最小限に抑制される。ヘッド30と基板Wとの間隔が0.01mm未満であるとヘッド30と基板Wとが接触するおそれがあり、1mmより大きいと還元室40および炭素源室50から漏出するガス量が多くなる。なお、第1実施形態において、少なくともX方向に沿った(仕切壁49と平行な)スカート48,58の幅は2mmである。
ヘッド30の(−Y)側端部および(+Y)側端部にはX方向に沿って排気ノズル59が形成されている。排気ノズル59もスリット状のノズルであり、還元室40および炭素源室50から流出したガスを吸引する。
図6は、ヘッド30に対する給排気機構を説明するための図である。還元ノズル42は、還元ガス配管43によって還元ガス供給源46と連通接続されている。還元ガス配管43の経路途中にはガスバルブ44およびマスフローコントローラ45が介挿されている。ガスバルブ44を開放することによって、還元ガス供給源46から還元ノズル42に還元ガスが送給される。さらに、送給された還元ガスはスリット状の還元ノズル42から還元室40内に供給される。還元室40に供給される還元ガスの流量はマスフローコントローラ45によって調整される。ここで、還元ガスとしては、水素ガス(H2)とアルゴンガス(Ar)との混合ガスが用いられる。
炭素源ノズル52は、炭素源ガス配管53によって炭素源ガス供給源56と連通接続されている。炭素源ガス配管53の経路途中にはガスバルブ54およびマスフローコントローラ55が介挿されている。ガスバルブ54を開放することによって、炭素源ガス供給源56から炭素源ノズル52に炭素源ガスが送給される。さらに、送給された炭素源ガスはスリット状の炭素源ノズル52から炭素源室50内に供給される。炭素源室50に供給される炭素源ガスの流量はマスフローコントローラ55によって調整される。ここで、炭素源ガスとしては、アセチレンガス(C2H2)とアルゴンガス(Ar)との混合ガスが用いられる。炭素源ガスにはさらに水素ガスを混入するようにしても良い。
排気ノズル59は、排気配管33によって排気機構36と連通接続されている。排気配管33の経路途中には排気バルブ34が介挿されている。排気バルブ34を開放することによって、排気ノズル59からヘッド30のY方向両端付近の雰囲気および仕切壁49付近の雰囲気を吸引して排気することができる。
図5に示すように、第1実施形態においては、Y方向が基板搬送方向であり、(−Y)側から(+Y)側に向けて基板Wが搬送される。そして、還元室40は炭素源室50よりも(−Y)側に設けられている。すなわち、基板Wは還元室40から炭素源室50に向けて搬送されることとなり、基板Wの搬送方向に沿って還元室40は炭素源室50よりも前段側に設けられている。
還元室40の下方を基板Wが通過しているときにガスバルブ44を開放すると、還元ノズル42から供給された還元ガスが還元室40に対向する基板Wの領域に供給される。還元室40からスカート48と基板Wとの隙間を通過して流出した還元ガスは排気ノズル59によって吸引回収される。同様に、炭素源室50の下方を基板Wが通過しているときにガスバルブ54を開放すると、炭素源ノズル52から供給された炭素源ガスが炭素源室50に対向する基板Wの領域に供給される。炭素源室50からスカート58と基板Wとの隙間を通過して流出した炭素源ガスは排気ノズル59によって吸引回収される。
ところで、スカート48,58の下端高さ位置と仕切壁49の下端高さ位置とは等しいため、還元ガスがスカート48を越えて還元室40から流出するときには、仕切壁49を越えて還元室40から炭素源室50に還元ガスが流入する可能性もある。同様に、炭素源ガスがスカート58を越えて炭素源室50から流出するときには、仕切壁49を越えて炭素源室50から還元室40に炭素源ガスが流入する可能性もある。還元室40および炭素源室50の双方の下方を基板Wが通過しているときには、還元ガスおよび炭素源ガスがともに供給されている。
ここで、本実施形態においては、還元室40および炭素源室50から還元ガスおよび炭素源ガスをそれぞれ供給している間の還元室40内の圧力が炭素源室50内の圧力よりも高圧となるようにしている。具体的には、マスフローコントローラ45,55によって還元室40への還元ガスの供給流量が炭素源室50への炭素源ガスの供給流量よりも多くなるようにしている。これにより、ヘッド30から還元ガスおよび炭素源ガスがともに供給されているときには、還元室40の方が炭素源室50よりも高圧となり、還元室40から仕切壁49を越えて炭素源室50に還元ガスが若干流入する可能性がある。逆に、炭素源室50から仕切壁49を越えて還元室40に炭素源ガスが流入することは完全に防止される。なお、炭素源室50内の圧力はヘッド30外部の大気圧よりは高圧である。また、還元室40および炭素源室50への還元ガスおよび炭素源ガスのそれぞれの供給流量はペクレ数が10以上となるようにマスフローコントローラ45,55によって流量調整している。
図1〜3に戻り、化学気相成長装置1の筐体10の内部には一対の給電ユニット60が設けられている。一対の給電ユニット60は、処理対象となる基板Wの搬送方向に沿った両側端部の上側に相対向して設けられている。給電ユニット60の下部には複数のプローブ66が設けられている。複数のプローブ66のそれぞれは、基板Wの表面に配置された後述の電極パッドに接触する。一対の給電ユニット60は、複数のプローブ66を介して基板W上の電極パッドに電圧を印加する。また、給電ユニット60には、図示を省略する可撓性の給電コードから電力供給がなされる。
給電ユニット60は、Y方向に沿って延設されたボールネジ62に螺合されている。ボールネジ62はモータ64によって回転される。モータ64がボールネジ62を正方向または逆方向に回転させると、給電ユニット60がY方向に沿ってスライド移動する。給電ユニット60は、ローラコンベア20による基板Wの搬送に同期してスライド移動する。従って、基板Wが筐体10の内部にてローラコンベア20によって搬送されている間は、その基板Wの上方には常に一対の給電ユニット60が存在して基板Wと等速でY方向に移動している。このため、給電ユニット60は、基板W上の電極パッドが任意の位置を通過する時点で当該電極パッドに電圧を印加することができる。なお、ヘッド30を保持する支持ブロック31には、給電ユニット60が通過するための溝部32が設けられている。
また、化学気相成長装置1には制御部90が設けられている(図1参照)。制御部90は、化学気相成長装置1に設けられた種々の動作機構を制御する。制御部90のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部90は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクなどを備えている。
次に、上記構成を有する化学気相成長装置1における動作手順について説明する。図7は、化学気相成長装置1における処理動作の手順を示すフローチャートである。まず、カーボンナノチューブを形成する対象となる基板Wを準備する(ステップS1)。カーボンナノチューブを形成するためには、下地となる基板W上に触媒を配置する必要がある。第1実施形態においては、ガラスの基板W上に発熱体として機能するクロム(Cr)の線状部材を複数配置し、その線状部材を含む基板W上にアルミナ(Al2O3)等の支持体層を形成し、さらにその支持体層の上に鉄(Fe)の触媒を配置する。
図8は、表面に触媒を配置した基板Wの一例を示す図である。同図に示すように、基板Wの表面にはクロムの配線パターンが形成されている。このような配線パターンは、例えば、ガラスの基板Wの表面に蒸着またはめっきなどによってクロムの薄膜を成膜し、フォトリソグラフィの技法を用いてパターンのマスクを形成し、その後エッチングによって不要なクロム膜を除去することにより形成することができる。クロムの配線パターンを他の手法によって形成しても良いことは勿論である。
図8の配線パターンは、2つの基幹電極81a,81bの間を複数の細線(線状部材)80で連結して構成されている。本実施形態においては、クロムの細線80および基幹電極81a,81bの膜厚を100nmとしている。一対の基幹電極81a,81bの間に配置された複数の細線80はメッシュ状をなしており、各細線80の幅は1μm、隣り合う細線80同士の間隔は9μmである。また、各細線80の長さ(すなわち、基幹電極81aと基幹電極81bとの間隔)は、0.1mm以上10mm以下である。
基板Wの幅方向(X方向)両端部において、基幹電極81a,81bにはそれぞれ電極パッド82a,82bが配置されている。これら電極パッド82a,82bのそれぞれには給電ユニット60のプローブ66が接触する。電極パッド82a,82bは、例えば銀(Ag)にて形成すれば良い。
図8に示すように、2つの基幹電極81a,81bの間に複数の細線80を配置して構成される配線パターンを基板Wの表面にY方向に沿って繰り返し形成している。図9は、細線80を配置した基板Wの一部領域を拡大した断面図である。細線80を含む基板Wの上面には、アルミナの支持体層85が形成される。このアルミナの支持体層85はクロムの細線80と鉄の触媒との合金化を防ぐためのものである。そして、支持体層85の表面に鉄の触媒87の粒子が配置されている。このようにして、カーボンナノチューブを形成する対象となる基板Wが用意され、複数のクロムの細線80の上にアルミナの支持体層85を挟んで配置された鉄の触媒87がカーボンナノチューブ形成の触媒として機能する。なお、配線パターンのサイズおよび形状は上記に限定されるものではなく、適宜の変更が可能である。また、カーボンナノチューブ形成のための触媒としては、鉄に限定されるものではなく、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)のうち少なくとも一つを含む金属であれば利用可能である。また、発熱体を構成する細線80の材質はクロムに限定されるものではなく、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)等の導電性材料を利用することが可能である。
図8,図9に示す如き表面に触媒87を配置した基板Wを搬入口11(図1,2参照)から化学気相成長装置1内に搬入し、ローラコンベア20によって基板Wの搬送を開始する(ステップS2)。第1実施形態では、静止状態のヘッド30に対して基板Wが搬送される。ローラコンベア20は、基板WをY方向に沿って(+Y)側に向けて一定速度で搬送する。ローラコンベア20による基板Wの搬送速度は10mm/秒以上1000mm/秒以下であり、本実施形態では27mm/秒としている。
基板Wが化学気相成長装置1内に搬入されると同時に、一対の給電ユニット60が基板Wの上方に位置し、複数の電極パッド82a,82bのそれぞれに給電ユニット60のプローブ66が接触する。そして、基板Wの搬送が開始されると同時に、モータ64がボールネジ62を回転させて給電ユニット60も移動を開始する(ステップS3)。給電ユニット60もY方向に沿って(+Y)側に向けて一定速度で移動する。給電ユニット60の移動速度は基板Wの搬送速度と全く同じである(本実施形態では27mm/秒)。すなわち、給電ユニット60は、ローラコンベア20による基板Wの搬送と完全に同期して移動する。このため、電極パッド82a,82bには絶えず給電ユニット60のプローブ66が接触しており、任意のタイミングで細線80に電圧を印加することができる。なお、細線80がヘッド30の下方に到達する以前に当該細線80に電圧を印加することは無い。その理由は、化学気相成長装置1の筐体10の内部は通常の大気雰囲気であって、ヘッド30の下方に到達する以前に細線80を通電加熱すると鉄の触媒87が酸化されるためである。
次に、基板Wの先端がヘッド30の下方に到達するよりも前に、ガスバルブ44を開放して還元室40に還元ガスを供給するとともに(ステップS4)、ガスバルブ54を開放して炭素源室50に炭素源ガスを供給する(ステップS5)。還元ガスおよび炭素源ガスの供給開始タイミングは基板Wの先端がヘッド30の下方に到達するよりも前であれば良く、当該先端がヘッド30の下方に到達する直前であっても良いし、基板Wが化学気相成長装置1に搬入される前であっても良い。
基板Wがヘッド30の下方に到達した後に、給電ユニット60がプローブ66を介して電極パッド82a,82bに電圧を印加し、細線80の通電加熱を開始する(ステップS6)。第1実施形態においては、細線80がヘッド30の下方を通過している間、絶えず通電加熱が行われているわけではなく、その間も細線80への通電が制御部90によってオンオフ制御されている(ステップS7)。また、基板Wがヘッド30の下方に到達した後においては、基板Wの一部がヘッド30によって覆われ、基板Wの還元室40に対向する領域には還元ガスが供給され、基板Wの炭素源室50に対向する領域には炭素源ガスが供給される。以下、細線80への通電制御についてさらに説明を続ける。
図10から図17は、細線80への通電制御を説明するための図である。ここでは、基板Wの最も先端側((+Y)側)に配置された細線80に注目して説明を行うが、それよりも後段側に配置された細線80についても同様である。
図10には、基板Wの先端が還元室40の下方に到達した状態を示す。このときには、還元室40の一部は基板Wに対向しているものの、残部の下方には基板Wが存在していない。よって、当該残部の下方は開放されている。このような状態のときには、還元ノズル42から還元室40内に還元ガスを供給していたとしても、当該残部の下方が開放されているために、還元室40内には酸素を含む大気も混入している。従って、還元室40に細線80が対向していたとしても、触媒87の酸化のおそれがあるため、その細線80に通電加熱を行うことは不可能である。このような事情を考慮して、基板Wの最先端領域には細線80を配していない。なお、図10の状態においては、最初の細線80への通電加熱は当然に行っていない。
図10の状態から基板Wが前進し、やがて図11に示すように、細線80の先端部CA((+Y)側端部)が還元室40の下方に到達する。より厳密には、細線80の先端部CAがスカート48の内壁面の直下に到達する。図11の状態以降は細線80の上に配置された触媒87が還元ガスに曝されることとなる。そして、図11に示すように、細線80の先端部CAが還元室40の下方に到達したときには、基板Wの先端は炭素源室50の下方に到達している。すなわち、還元室40の全部が基板Wと対向することとなり、還元室40の内部は半密閉空間となる。なお、既述したように、ヘッド30と基板Wの表面との間隔は0.01mm以上1mm以下(本実施形態では0.2mm)である。
還元室40の全部が基板Wと対向すれば、還元ノズル42から還元ガスを供給し続けている限りにおいては、還元室40内の雰囲気はほぼ完全に還元ガスに置換される。このような状態となってようやく細線80の通電加熱を行うことができるのである。換言すれば、基板Wの先端から還元室40の全部を覆うことができる長さの領域には細線80を形成したとしても処理を行うことができないのである。その具体的な長さについてはさらに後述する。なお、図11の状態では細線80の上に配置された触媒87に還元ガスが供給されていないため、細線80への通電加熱は行っていない。
図11の状態から基板Wがさらに前進すると、図12に示すように、細線80の後端部CB((−Y)側端部)が還元室40の下方に到達する。この時点にて、細線80の全体が還元室40に対向することとなり、細線80の上面全体に還元ガスが均等に供給されることとなる。そして、細線80の後端部CBが還元室40の下方に到達すると同時に、制御部90が給電ユニット60を制御して電極パッド82a,82bに電圧を印加し、細線80の通電加熱を開始する。なお、制御部90の制御によって給電ユニット60は複数のプローブ66のそれぞれごとに電圧を印加することができる。また、本実施形態における給電ユニット60による初期投入電力は9.5MW/m2〜12MW/m2である。
水素ガスを含む還元ガスの雰囲気下にて、細線80の通電加熱を行うと、その細線80の上に配置された触媒87の表面が還元される。鉄の触媒87の表面は常温であっても容易に酸化されて酸化被膜を形成する。すなわち、ステップS1にて表面に触媒87を配置した基板Wを準備して化学気相成長装置1に搬入する時点では、通常既に触媒87の表面には酸化被膜が形成されている。このように触媒87の表面が酸化されていると、触媒としての機能が十分ではなく、いわば触媒が失活した状態となっている。触媒が失活していると、カーボンナノチューブが安定して成長しない。このため、本実施形態においては、還元室40から還元ガスを供給しつつ、細線80に通電加熱を行って細線80の上に配置された触媒87を還元しているのである。
基板Wがさらに前進すると、図13に示すように、細線80の先端部CAが還元室40の下方から外れる位置に到達する(厳密には、仕切壁49の還元室40側の内壁面直下に到達する)。そして、細線80の先端部CAが還元室40の下方から外れる位置に到達すると同時に、制御部90が給電ユニット60を制御して細線80の通電加熱を停止する。図12から図13に至る間は、細線80の全体が常に還元室40に対向しており、細線80の上面全体に還元ガスが均等に供給され続けている。また、図12から図13に至る間は、細線80が継続して通電加熱されており、この期間に細線80の上に配置された触媒87の還元処理が実行されるのである。
本実施形態においては、還元処理時間、つまり図12から図13に至るまでの通電時間は約0.5秒としている。0.5秒程度あれば、触媒87の表面を十分に還元して失活状態を回復することができる。また、細線80の上に配置された触媒87全体に還元ガスを均等に供給しつつ通電加熱を行っているため、当該触媒87全体に均等な還元処理を行うことができる。
ここで、本実施形態においては、ガラス基板Wの大きさをG5サイズとし、基板Wの搬送速度を27mm/秒としている。27mm/秒の搬送速度にて還元処理時間に約0.5秒を要するのであれば、その間に基板Wは少なくとも13.5mm以上搬送されることとなる。すなわち、図12に示す細線80の後端部CBが還元室40の下方に到達した状態から図13に示す細線80の先端部CAが還元室40の下方から外れる位置に到達するまでに基板Wは13.5mm以上前進することとなる。また、還元処理を開始する時点(図12に示す状態)において、既に細線80の全体が還元室40の下方に進入している。
従って、還元室40の基板搬送方向(Y方向)に沿った幅としては、細線80の長さと還元処理時間の間に基板Wが進行する距離との和以上を確保する必要がある。第1実施形態においては、還元処理時間の間に基板Wが進行する距離に若干余裕を持たせて15mmを確保することとしている。従って、細線80の基板搬送方向に沿った長さをLmmとすれば、還元室40の基板搬送方向における幅を(15+L)mmとしている。
次に、基板Wがさらに前進すると、図14に示すように、細線80の一部が炭素源室50の下方に進入する。細線80の先端部CAが炭素源室50の下方に到達(厳密には、仕切壁49の炭素源室50側の内壁面直下に到達)した時点で、炭素源室50の全部が基板Wと対向することとなり、炭素源室50の内部は半密閉空間となる。このため、図14に示す状態においては、炭素源室50の雰囲気はほぼ完全に炭素源ガスに置換されている。但し、図14の状態では細線80の全体に炭素源ガスが供給されていないため、細線80への通電加熱は行っていない。
図14の状態から基板Wがさらに前進すると、図15に示すように、細線80の後端部CBが炭素源室50の下方に到達する。この時点にて、細線80の全体が炭素源室50に対向することとなり、細線80の上に配置された触媒87全体に炭素源ガスが均等に供給されることとなる。そして、細線80の後端部CBが炭素源室50の下方に到達すると同時に、制御部90が給電ユニット60を制御して電極パッド82a,82bに再度電圧を印加し、細線80の通電加熱を開始する。
アセチレンガスを含む炭素源ガスの雰囲気下にて、細線80の通電加熱を行うと、細線80の上に配置された鉄の触媒87上にカーボンナノチューブが成長する。本実施形態においては、細線80が炭素源室50に到達する前に、細線80の上に配置された触媒87の還元処理を行っている。このため、細線80が炭素源室50に到達した時点において、触媒87は酸化されておらずに活性な状態を維持しているため、カーボンナノチューブを適切に形成することができる。
基板Wがさらに前進すると、図16に示すように、細線80の先端部CAが炭素源室50の下方から外れる位置に到達する。そして、細線80の先端部CAが炭素源室50の下方から外れる位置に到達すると同時に、制御部90が給電ユニット60を制御して細線80の通電加熱を停止する。図15から図16に至る間は、細線80の全体が常に炭素源室50に対向しており、細線80の上面全体に炭素源ガスが均等に供給され続けている。また、図15から図16に至る間は、細線80が継続して通電加熱されており、この期間に細線80の上に配置された触媒87上にカーボンナノチューブが形成されるのである。
本実施形態においては、炭素源室50の基板搬送方向における幅を還元室40と同様の(15+L)mmとしている。このようにしている理由は、還元室40の場合におけるのと全く同様である。すなわち、カーボンナノチューブの成長時間として0.5秒程度以上を確保するために必要な基板Wの搬送距離と細線80の長さとの和以上の長さとして(15+L)mmとしている。0.5秒程度あれば、活性な触媒87の表面に1μm程度のカーボンナノチューブを形成することができる。電界放出ディスプレイのエミッタとしては、カーボンナノチューブが1μm程度成長すれば十分である。また、細線80の上に配置された触媒87全体に炭素源ガスを均等に供給しつつ通電加熱を行っているため、当該触媒87全体に均等にカーボンナノチューブを形成することができる。
上述したように、各処理室(還元室40および炭素源室50)の幅は(15+L)mmであり、スカート48,58の幅および仕切壁49の幅がそれぞれ2mmであるため、ヘッド30の全体としての基板搬送方向における幅は(36+2L)mmとなる。なお、各処理室(還元室40および炭素源室50)の幅は上記に限定されるものではなく、処理時間(還元処理時間およびカーボンナノチューブの形成時間)、基板Wの大きさ、基板搬送速度等に応じて(15+L)mmよりも長くするようにしても良い。この場合、ヘッド30の全体としての幅も(36+2L)mmより長くなるが、その上限は500mm以下とする。また、ヘッド30の基板幅方向(X方向)における長さは基板Wの幅を覆うことができる長さとするのが好ましいが、基板Wを化学気相成長装置1内にて複数回搬送するのであれば、それより短くても良い。
図16の状態から基板Wがさらに前進すると、図17に示すように、最初の細線80が炭素源室50の下方から外れ、当該細線80の上に配置された触媒87に対するカーボンナノチューブの形成処理が完了する。2番目以降の細線80についても上記と同様の処理がなされて各細線80の上に配置された触媒87にカーボンナノチューブが形成される。その後、処理が完了した基板Wが化学気相成長装置1の搬出口12(図1,2)から搬出される。
図18は、ある一つの細線80に対する印加電圧を示すタイミングチャートである。時刻t0に細線80の先端部CAが還元室40の下方に到達し(図11の状態)、時刻t1に後端部CBが還元室40の下方に到達する(図12の状態)。この時刻t1の時点にて、制御部90の制御により給電ユニット60が電極パッド82a,82bに電圧を印加し、細線80の通電加熱を開始する。これにより細線80の上に配置された触媒87の還元処理が進行する。細線80の通電加熱は、細線80の先端部CAが還元室40の下方から外れる位置に到達する時刻t2まで継続される(図13の状態)。時刻t2にて、制御部90の制御により給電ユニット60が電圧印加を停止する。時刻t1から時刻t2までの間は、基板Wの表面に配置された触媒87を載せた細線80に一定の電圧が印加されるとともに、細線80の全体が還元室40に対向しており、細線80の上に配置された触媒87全体に還元ガスが均等に供給されている。よって、時刻t1から時刻t2にかけては、触媒87の表面の均一な還元処理を行うことができる。
次に、時刻t3に細線80の後端部CBが炭素源室50の下方に到達する(図15の状態)。この時刻t3の時点にて、制御部90の制御により給電ユニット60が再び電極パッド82a,82bに電圧を印加し、細線80の通電加熱を開始する。これにより、細線80の上に配置された触媒87にカーボンナノチューブが形成される。細線80の通電加熱は、細線80の先端部CAが炭素源室50の下方から外れる位置に到達する時刻t4まで継続される(図16の状態)。時刻t4にて、制御部90の制御により給電ユニット60が電圧印加を停止する。時刻t3から時刻t4までの間は、細線80に一定の電圧が印加されるとともに、細線80の全体が炭素源室50に対向しており、細線80の上に配置された触媒87全体に炭素源ガスが均等に供給されている。よって、時刻t3から時刻t4にかけては、触媒87の表面に均一にカーボンナノチューブを成長させることができる。
制御部90の制御により、給電ユニット60は複数のプローブ66のそれぞれごとに電圧を印加することができる。従って、給電ユニット60は、一対の基幹電極81a,81bに連結された細線80ごとに電圧を印加することが可能であり、ヘッド30に対向し、かつ、触媒87を載せた細線80が配置された領域のみを加熱することが可能である。このため、基板搬送方向に沿って断続的に配置された複数の細線80の全てについて、図18に示すようなパターンにて電圧を印加することができ、全ての細線80の上に配置された触媒87に適切にカーボンナノチューブを形成することができる。
なお、仕切壁49の幅は2mmと比較的狭いため、時刻t2から時刻t3までの間は、必ずしも細線80に対する電圧印加を停止する必要は無い。すなわち、細線80の後端部CBが還元室40の下方に到達する時刻t1から先端部CAが炭素源室50の下方から外れる位置に到達する時刻t4までの間、常に細線80への電圧印加を継続するようにしても良い。
第1実施形態においては、基板Wに還元ガスを供給する還元室40と炭素源ガスを供給する炭素源室50とをヘッド30に設けている。そして、基板Wの搬送方向に沿って還元室40を炭素源室50よりも上流側、つまり前段側に設けている。従って、還元室40から還元ガスが供給された基板Wの領域と同じ領域に炭素源室50から炭素源ガスを供給することとなる。また、基板Wの表面に配置された触媒87を載せた細線80の全体が還元室40または炭素源室50に対向しているときには、当該細線80の通電加熱を行っている。これにより、まず細線80の上に配置された触媒87の表面に還元ガスを供給して還元処理を行って活性な表面状態を回復し、その活性な表面を有する触媒87に炭素源ガスを供給することとなるため、カーボンナノチューブを適切に形成することができる。
特に、第1実施形態においては、還元室40および炭素源室50が仕切壁49を挟み込んで隣り合うように設けられている。このため、基板W上の細線80の上に配置された触媒87は還元室40にて還元処理がなされた後、直ちに炭素源室50に搬送されて炭素源ガスの供給を受けることとなる。従って、還元室40にて還元された触媒87は再度大気雰囲気に暴露されて酸化されることなく、炭素源室50の炭素源ガス雰囲気に投入されることとなり、触媒87の表面酸化によってカーボンナノチューブの適切な成長が阻害されるのを防止することができる。
また、基板Wに比較して小さなヘッド30を固定設置し、そのヘッド30に対して基板Wを搬送するようにしている。すなわち、大きな基板Wの表面に対してその一部を覆う小さなヘッド30を相対的に走査することによって、カーボンナノチューブを形成している。このため、基板Wが大型であったとしても、還元室40および炭素源室50の雰囲気置換に長時間を要することはなく、大面積の基板Wであっても短時間にカーボンナノチューブを形成することができる。
また、ヘッド30の還元室40および炭素源室50から還元ガスおよび炭素源ガスをそれぞれ供給している間の還元室40内の圧力を炭素源室50内の圧力よりも高圧としているため、処理中に炭素源室50から仕切壁49を越えて還元室40に炭素源ガスが流入することは防止される。このため、還元室40内に炭素源ガスが流入して還元が不十分な触媒87の表面に炭素源ガスが作用することは防止される。逆に、処理中に還元室40から仕切壁49を越えて炭素源室50に還元ガスが流入する可能性はある。しかし、処理中の炭素源ガスに還元ガスが混入したとしても、カーボンナノチューブの形成処理にはほとんど影響をあたえない。なお、還元室40よりも低圧の炭素源室50であってもヘッド30外部の大気圧よりは高圧であるため、基板Wと対向しているときの還元室40および炭素源室50に大気雰囲気が混入することは防止される。
ところで、第1実施形態においては、還元室40の全部が基板Wと対向しなければ、還元室40内に大気が混入するおそれがあるため、細線80の処理を行うことはできない。このため、基板Wの搬送方向に沿った先端側から還元室40の全部を覆う長さの領域には細線80を配置していない。具体的には、上述の通り、細線80の基板搬送方向に沿った長さをLmmとしたときに、還元室40の基板搬送方向における幅を(15+L)mmとしている。これに、仕切壁49の幅(2mm)を加算した(17+L)mmを基板Wの先端から還元室40の全部を覆うのに必要な長さとしている。よって、最初の細線80は基板Wの先端から(17+L)mm以上内側に配置され、基板Wの搬送方向先端側より少なくとも(17+L)mm内側からヘッド30によるカーボンナノチューブの成膜処理が行われることとなる。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第1実施形態ではローラコンベア20によって基板Wを水平方向に搬送するようにしていたが、第2実施形態においては浮上搬送方式によって基板WをY方向に搬送するようにしている。
図19は、第2実施形態において基板Wを搬送する浮上搬送機構120を示す斜視図である。浮上搬送機構120は、複数の浮上搬送ユニット121をY方向に沿って配列して構成されている。また、第2実施形態の化学気相成長装置1においても、第1実施形態と同様のヘッド30が固定設置されており、ヘッド30の直下には浮上搬送ユニット131が配置されている。
各浮上搬送ユニット121の上面には、複数の噴出孔122が穿設されている。各噴出孔122は、鉛直方向(Z方向)に対して斜めに向けて設けられている。具体的には、噴出孔122から噴出される気体の噴出方向が(+Z)方向と(+X)方向の成分を合成した方向となるように構成されている。従って、浮上搬送ユニット121の上側に基板Wが存在しているときに、複数の噴出孔122から気体を噴出すると、その基板Wは上側に押し上げられて浮上搬送ユニット121の上面から浮上するとともに、(+X)側に向かう力を受ける。
浮上搬送ユニット121の上面以上の高さ位置であって、(+X)側の側方には複数の搬送ローラ125がY方向に沿って一列に配置されている。モータ126の回転駆動はギア128を介して複数の搬送ローラ125に伝達される。これにより、複数の搬送ローラ125は連動して同一方向に回転される。
浮上搬送機構120によって基板Wを搬送するときには、各浮上搬送ユニット121の複数の噴出孔122から圧縮空気を噴出するとともに、複数の搬送ローラ125を回転させる。噴出孔122からの圧縮空気の噴出によって基板Wは押し上げられて浮上されるとともに、基板Wのエッジが搬送ローラ125に押し付けられる。その結果、基板Wのエッジと搬送ローラ125との間に摩擦力が生じ、搬送ローラ125の回転によって基板WがY方向に沿って搬送されることとなる。第2実施形態においては、噴出孔122からの圧縮空気の噴出によって浮上された基板Wの下面が搬送平面であり、(−Y)側から(+Y)側に向けて基板Wが搬送される。
図20は、ヘッド30の直下に設けられた浮上搬送ユニット131を示す図である。ヘッド30直下の浮上搬送ユニット131も他の浮上搬送ユニット121と同様に圧縮空気を噴出して基板Wを浮上させる。
また、第2実施形態においては、加熱手段として浮上搬送ユニット131にハロゲンランプ138を設けている。ハロゲンランプ138は、還元室40および炭素源室50のそれぞれと対向する位置に設けられている。このため、基板W上に配置された細線80が還元室40および炭素源室50のそれぞれの下方を通過しているときに、ハロゲンランプ138を点灯して個別に細線80を加熱することができる。すなわち、ハロゲンランプ138は、ヘッド30に対向し、かつ、触媒87を載せた細線80が配置された領域のみを加熱することが可能である。第2実施形態のように、基板Wの下方からハロゲンランプ138の光照射によって加熱する場合には、基板Wは透明基板で、かつ、細線80はカーボン等の黒色材料にて形成することが好ましい。
ローラコンベア120に代えて搬送手段として浮上搬送機構120を用いている点、および、給電ユニット60に代えて加熱手段としてハロゲンランプ138を用いている点以外は、第2実施形態の化学気相成長装置1は第1実施形態と同様の構成を備える。なお、第2実施形態においては、給電ユニット60を設けていないため、給電ユニット60を駆動する機構(ボールネジ62およびモータ64)も設けていない。
第2実施形態の化学気相成長装置1における動作手順は、図7に示した第1実施形態における手順と概ね同様となる。但し、第2実施形態においては、給電ユニット60が存在しないため、ステップS3の処理は行われない。また、ステップS6,S7での細線80の通電加熱に代えてハロゲンランプ138による光照射加熱を実行する。
第2実施形態においては、浮上搬送機構120によって基板Wの下面から気体を噴出して基板Wを浮上させつつY方向に沿って(+Y)側に向けて一定速度で搬送する。ヘッド30の還元室40には還元ガスが供給され、炭素源室50には炭素源ガスが供給されている。そして、基板Wの表面に配置された触媒87を載せた細線80の全体が還元室40に対向しているときに、制御部90の制御によって還元室40の下方に設けられたハロゲンランプ138が点灯して当該細線80の光照射加熱を行う。これにより、細線80の上に配置された触媒87の表面に還元処理が行われ、活性な表面状態が回復される。
続いて、還元処理のなされた触媒87を載せた細線80の全体が炭素源室50に対向しているときに、制御部90の制御によって炭素源室50の下方に設けられたハロゲンランプ138が点灯して当該細線80の光照射加熱を行う。これにより、第1実施形態と同様に、還元室40から還元ガスが供給された基板Wの領域と同じ領域に炭素源室50から炭素源ガスを供給して加熱することとなり、還元処理によって活性な表面状態を回復した触媒87にカーボンナノチューブを適切に形成することができる。
また、基板W上の細線80の上に配置された触媒87は還元室40にて還元処理がなされた後、直ちに炭素源室50に搬送されて炭素源ガスの供給を受けることとなるため、還元室40にて還元された触媒87は再度大気雰囲気に触れて酸化されることなく、炭素源室50の炭素源ガス雰囲気に投入される。その結果、触媒87の表面酸化によってカーボンナノチューブの適切な成長が阻害されるのを防止することができる。
さらに、第1実施形態と同様に、基板Wの一部を覆う比較的小さなヘッド30に対して基板Wを搬送するようにしているため、基板Wが大型であったとしても、還元室40および炭素源室50の雰囲気置換に長時間を要することはなく、大面積の基板Wであっても短時間にカーボンナノチューブを形成することができる。
また、第2実施形態においても、還元室40の全部が基板Wと対向しなければ、還元室40内に大気が混入するおそれがあるため、細線80の処理を行うことはできない。特に、第2実施形態では、ヘッド30直下の浮上搬送ユニット131から圧縮空気を噴出するため、還元室40内に空気が混入するおそれが強い。このため、第1実施形態と同様に、基板Wの搬送方向に沿った先端側から還元室40の全部を覆う長さの領域、具体的には基板Wの先端から(17+L)mmには細線80を配置しておらず、基板Wの搬送方向先端側より少なくとも(17+L)mm内側からヘッド30によるカーボンナノチューブの成膜処理が行われることとなる。
<変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記各実施形態においては、ヘッド30を固定設置するとともに、基板WをY方向に沿って搬送するようにしていたが、これに代えて、基板Wを載置台上に静止状態で載置してヘッド30を基板Wに対して走査するようにしても良い。この場合、載置台のサイズを基板Wよりも相応に大きくしておけば、ヘッド30が基板Wの上方に位置していなくても載置台によって還元室40および炭素源室50を覆うことができるため、還元室40および炭素源室50への大気雰囲気の混入を防止することができる。その結果、基板Wの端縁部近傍(基板端より2mm程度内側)にも細線80を配置して成膜処理を行うことができ、基板Wの表面領域を有効に利用することができる。
また、基板Wを搬送しつつ、かつ、ヘッド30を移動させるようにしても良い。要するに、基板Wに対してヘッド30を所定の方向に所定の速度で相対的に移動させる形態であれば、還元室40および炭素源室50の雰囲気置換に長時間を要することがなく、大面積の基板Wであっても短時間にカーボンナノチューブを形成することができる。ヘッド30を移動させる場合であっても、基板Wに対するヘッド30の相対移動方向に沿って還元室40を炭素源室50よりも前段側に設ける。これにより、まず細線80の上に配置された触媒87の表面に還元ガスを供給して還元処理を行って活性な表面状態を回復し、その活性な表面を有する触媒87に炭素源ガスを供給することとなるため、カーボンナノチューブを適切に形成することができる。
また、図21および図22に示すように、還元室40と炭素源室50とを仕切る仕切壁49にX方向に沿って雰囲気遮断ノズル47を形成するようにしても良い。図21は、雰囲気遮断ノズル47を設けたヘッド30を底面から見た図である。図22は、ヘッド30を図21のB−B断面から見た図である。雰囲気遮断ノズル47は、排気ノズル59と同様のスリット状のノズルであり、仕切壁49付近の雰囲気を吸引して排気する。仕切壁49に設けた雰囲気遮断ノズル47からも周辺雰囲気の排気を行うことによって、処理中に炭素源室50から仕切壁49を越えて還元室40に流入しようとする炭素源ガスを排気することができ、還元室40への炭素源ガスの混入をより確実に防止することができる。
また、図21および図22の雰囲気遮断ノズル47から排気を行うのに代えて、アルゴンガスを供給するようにしても良い。仕切壁49に設けた雰囲気遮断ノズル47から不活性なアルゴンガスを供給することによって、還元室40と炭素源室50との雰囲気を分離することができ、還元室40への炭素源ガスの混入をより確実に防止することができる。
また、還元ノズル42および炭素源ノズル52はスリット状のノズルに限定されるものではなく、還元室40および炭素源室50に均一に還元ガスおよび炭素源ガスを供給できるノズルであれば良く、例えばX方向に沿って列設された複数の噴出孔にて構成するようにしても良い。
また、第1実施形態では給電ユニット60によって細線80を通電加熱し、第2実施形態ではハロゲンランプ138によって細線80を光照射加熱するようにしていたが、細線80の加熱手段としてはこれらに限定されるものではなく、レーザ加熱、電磁誘導加熱、マイクロ波加熱、フラッシュランプ加熱などを用いることができる。すなわち、基板Wの表面のうち、ヘッド30に対向し、かつ、触媒が配置された領域を加熱することができる要素であれば良い。よって、第1実施形態において、ヘッド30の下方のローラ21間にランプを設けて細線80を光照射加熱するようにしても良いし、第2実施形態において、第1実施形態と同様の給電ユニット60を設けて細線80を通電加熱するようにしても良い。なお、細線80は必ずしも線状でなくとも良く、例えば平面状にすることも可能である。触媒を載せた平面状の導電性部材の両端に電圧を印加して通電加熱するようにしても良いし、平面状の黒色部材をランプ加熱するようにしても良い。