JP5724250B2 - 1,1,3−トリクロロ−1−プロペンの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、1,1,3−トリクロロ−1−プロペンの製造方法に関する。
1,1,3−トリクロロ−1−プロペンは、農薬、医薬等の合成中間体として有用である。その製造方法として、例えば、1,1,1,3−テトラクロロプロパンを無水塩化第二鉄存在下に80〜95℃で加熱することにより、1,1,3−トリクロロ−1−プロペンを得る方法が、特許文献1に記載されている。
特開昭49−66613号公報(実施例)
しかしながら、特許文献1に記載される方法は、1,1,3−トリクロロ−1−プロペンの二量化という副反応を抑制することが困難であるという点で、必ずしも十分に満足できる方法ではなかった。かかる状況下、1,1,3−トリクロロ−1−プロペンの新たな製造方法が求められていた。
本発明者らは鋭意検討し、本発明に至った。
即ち本発明は、以下の通りである。
〔1〕 下記の工程A及びBを含む1,1,3−トリクロロ−1−プロペンの製造方法;
工程A:アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の塩基並びに相間移動触媒の存在下、30℃〜50℃の範囲から選択される温度下にて1,1,1,3−テトラクロロプロパンを脱塩化水素化させる工程、
工程B:工程Aにより得られた3,3,3-トリクロロ-1-プロペンを金属触媒の存在下で異性化させる工程。
〔2〕 工程Bが、前記工程Aにより得られた1,1,3−トリクロロ−1−プロペン及び3,3,3−トリクロロ−1−プロペンを含む混合物と、金属触媒とを接触させることにより、該混合物に含まれる3,3,3−トリクロロ−1−プロペンを異性化させる工程である前記〔1〕記載の製造方法。
〔3〕 工程Aにおける相間移動触媒が、第四級アンモニウム塩又は第四級ホスホニウム塩である前記〔1〕又は〔2〕記載の製造方法。
〔4〕 工程Aにおける塩基の形態が水溶液である前記〔1〕〜〔3〕のいずれか記載の製造方法。
〔5〕 下記の工程Cを工程Aと工程Bとの間に行う前記〔1〕〜〔4〕のいずれか記載の製造方法;
工程C:工程Aにより得られた反応混合物を酸で洗浄し、更に水で洗浄する工程。
〔6〕 工程Cにおける酸が、塩酸、硫酸、リン酸又は硝酸である前記〔5〕記載の製造方法。
〔7〕 工程Bにおける金属触媒が、周期表における第7族元素、第8族元素、第9族元素、第10族元素、第11族元素、第12族元素、第14族元素及び第15族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む前記〔1〕〜〔6〕のいずれか記載の製造方法。
〔8〕 工程Bにおける金属触媒が、鉄、銅、亜鉛、銀、ニッケル、パラジウム、スズ、ビスマス及びマンガンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む前記〔1〕〜〔6〕のいずれか記載の製造方法。
〔9〕 工程Bの異性化が50℃〜120℃の範囲から選択される温度下で行われる前記〔1〕〜〔8〕のいずれか記載の製造方法。
〔10〕 工程Aが、有機溶媒の非存在下で行われる前記〔1〕〜〔9〕のいずれか記載の製造方法。
〔11〕 工程Bが、有機溶媒の非存在下で行われる前記〔1〕〜〔10〕のいずれか記載の製造方法。
〔12〕 アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の塩基並びに相間移動触媒の存在下、30℃〜50℃の範囲から選択される温度下にて1,1,1,3−テトラクロロプロパンを脱塩化水素化させる工程を含む1,1,3−トリクロロ−1−プロペンの製造方法。
本発明によれば、1,1,3−トリクロロ−1−プロペンの新たな製造方法を提供することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の製造方法は工程Aを含み、好ましくは工程Aおよび工程Bを含む。
本発明において、工程Aは、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の塩基並びに相間移動触媒の存在下で、30℃〜50℃の範囲から選択される温度、すなわち30℃以上、50℃以下の温度で1,1,1,3−テトラクロロプロパンを脱塩化水素化させる工程である。
上記相間移動触媒は、相間移動能がある化合物である。上記相間移動触媒としては、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、アミンN−オキシド、クラウンエーテル、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。
第四級アンモニウム塩としては、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド、トリオクチルエチルアンモニウムクロリド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロリド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、トリカプリルメチルアンモニウムクロリド、トリデシルメチルアンモニウムクロリド、トリヘキシルメチルアンモニウムクロリド、トリデシルメチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、N−ラウリルピリジニウムクロリド、N−セチルピリジニウムクロリド、N−ラウリルピコリニウムクロリド等の第四級アンモニウムクロリド、
トリオクチルメチルアンモニウムブロミド、トリオクチルエチルアンモニウムブロミド、ジラウリルジメチルアンモニウムブロミド、ラウリルトリメチルアンモニウムブロミド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムブロミド、トリカプリルメチルアンモニウムブロミド、トリデシルメチルアンモニウムブロミド、トリヘキシルメチルアンモニウムブロミド、トリデシルメチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、N−ラウリルピリジニウムブロミド、N−セチルピリジニウムブロミド、N−ラウリルピコリニウムブロミド等の第四級アンモニウムブロミド、
前記第四級アンモニウムクロリド類を構成する塩素イオンが、ヨウ素イオンに代わった第四級アンモニウムヨーダイド、前記第四級アンモニウムクロリドを構成する塩素イオンが、亜硫酸イオンに代わった第四級アンモニウム亜硫酸塩、
前記第四級アンモニウムクロリドを構成する塩素イオンが、硫酸イオンに代わった第四級アンモニウム硫酸塩、
前記第四級アンモニウムクロリドを構成する塩素イオンが、硫酸水素イオンに代わった第四級アンモニウム硫酸水素塩
等が挙げられる。
第四級ホスホニウム塩としては、トリブチルメチルホスホニウムクロリド、トリエチルメチルホスホニウムクロリド、ブチルトリフェニルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド、テトラエニルホスホニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルホスホニウムクロリド、ヘキサデシルトリブチルホスホニウムクロリド等の第四級ホスホニウムクロリド、
前記第四級ホスホニウムクロリドを構成する塩素イオンが、臭素イオンに代わった第四級ホスホニウムブロミド、
前記第四級ホスホニウムクロリドを構成する塩素イオンが、ヨウ素イオンに代わった第四級ホスホニウムヨーダイド
等が挙げられる。
アミンN−オキシドとしては、トリオクチルアミンN−オキシド、ジラウリルメチルアミンN−オキシド、ラウリルジメチルアミンN−オキシド、ステアリルジメチルアミンN−オキシド、トリカプリルアミンN−オキシド、トリデシルアミンN−オキシド、ジメチルドデシルアミンN−オキシド、トリヘキシルアミンN−オキシド、トリドデシルアミンN−オキシド、ベンジルジメチルアミンN−オキシド、ベンジルジエチルアミンN−オキシド等が挙げられる。
クラウンエーテルとしては、12−クラウン−4、18−クラウン−6、ベンゾ−18−クラウン−6等が挙げられる。
ポリエチレングリコールとしては、ポリエチレングリコール600(平均分子量:約600)、ポリエチレングリコール700(平均分子量:約700)、ポリエチレングリコール800(平均分子量:約800)等が挙げられる。
相間移動触媒としては、好ましくは第四級アンモニウム塩および第四級ホスホニウム塩であり、より好ましくは第四級アンモニウム塩であり、更に好ましくは第四級アンモニウムブロミドである。
上記第四級アンモニウムブロミドとしては、テトラアルキルアンモニウムブロミドが好ましい。上記テトラアルキルアンモニウムブロミドにおける各アルキル基の炭素数は、好ましくは1〜10である。
工程Aにおける相間移動触媒の量は、1,1,1,3−テトラクロロプロパン1モルに対して、好ましくは0.0001モル以上、より好ましくは0.0005モル〜0.1モルの量、更に好ましくは0.001〜0.1モルの範囲である。
相間移動触媒は、市販のもの、及び、公知の方法により調製したものの何れでもよい。
工程Aにおける塩基は、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選ばれる。上記アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。上記アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。
上記塩基は、好ましくはアルカリ金属水酸化物であり、より好ましくは水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムである。
工程Aにおいて、塩基の量は、1,1,1,3−テトラクロロプロパン1モルに対して、好ましくは1モル以上の量、より好ましくは1.05〜10モルの範囲である。
工程Aにおける塩基の形態は、好ましくは水溶液である。
上記水溶液における塩基の濃度は、例えば5〜50重量%の範囲である。
上記水溶液は、市販の製品であってもよいし、市販の塩基と水とから調製してもよい。
上記水溶液の量は、該水溶液における塩基の量が、上述の塩基の量となる範囲内であればよい。
工程Aは、有機溶媒の非存在下に行ってもよいし、脱塩化水素化を阻害しない有機溶媒の存在下に行ってもよい。
前記有機溶媒としては、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテル等のエーテル溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;などが挙げられる。
有機溶媒の使用量は、特に制限されないが、容積効率等を考慮すると、1,1,1,3−テトラクロロプロパン1重量部に対して、実用的には100重量部以下、好ましくは20重量部以下である。
工程Aは、有機溶媒の非存在下で行うことが好ましい。なお、ここでいう有機溶媒の非存在下とは、工程Aで用いる1,1,1,3−テトラクロロプロパンと、工程Aにより得られる1,1,3−トリクロロ−1−プロペン及び3,3,3−トリクロロ−1−プロペンと以外の有機溶媒が存在しない条件下であることを意味する。
工程Aにおける1,1,1,3−テトラクロロプロパンと相間移動触媒と塩基との混合順序は、特に限定されない。
工程Aは、30℃以上、50℃以下の温度にて行われる。
工程Aを行うことにより、1,1,3−トリクロロ−1−プロペン及び3,3,3−トリクロロ−1−プロペンが得られる。
工程Aでは、30℃以上の温度で脱塩化水素化を行うので、未反応の1,1,1,3−テトラクロロプロパンを低減することができる。更に、工程Aでは、50℃以下の温度で脱塩化水素化を行うので、3,3,3−トリクロロ−1−プロペンの二量化という副反応を抑制することができる。このため、二量化による高沸点化合物の生成が抑制され、1,1,3−トリクロロ−1−プロペン及び3,3,3−トリクロロ−1−プロペンの合計収率を向上することができる。3,3,3−トリクロロ−1−プロペンは、後述する工程Bにおいて異性化することにより、1,1,3−トリクロロ−1−プロペンに変換されるので、工程A及び工程Bを含む本発明の製造方法により、優れた収率で1,1,3−トリクロロ−1−プロペンを得ることができる。
工程Aは、好ましくは1,1,1,3−テトラクロロプロパンと相間移動触媒とを混合し、得られた混合物を30℃以上、50℃以下の温度範囲に保温した後に、前記温度範囲を維持しながら上記混合物と塩基とを混合することにより行われる。
工程Aは、常圧条件下で行うことが好ましいが、加圧条件下で行ってもよい。
工程Aの反応時間は、例えばガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の分析手段により1,1,1,3−テトラクロロプロパン、1,1,3−トリクロロ−1−プロペン又は3,3,3−トリクロロ−1−プロペンの量を確認することにより適宜決定される。工程Aの反応時間は、例えば10分間〜24時間の範囲である。
本発明の製造方法において、工程Cを工程Aと工程Bとの間に行うことが好ましい。
工程C:工程Aにより得られた反応混合物を酸で洗浄し、更に水で洗浄する工程。
上記工程Cにおいて、酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等の鉱酸が挙げられる。上記工程Cにおける酸は、水溶液の形態であってもよい。
工程Cは、工程Aにおける塩基の形態が水溶液である場合、例えば、以下のように行うことができる。
・上記反応混合物から水層を分離した後、得られた有機層を酸で洗浄し、さらに水で洗浄する。
・上記反応混合物を酸で洗浄し、得られた混合液から水層を除去し、さらに得られた有機層を水で洗浄する。
工程Cにおいて、分離された水層と有機溶媒と混合することにより、該水層中の1,1,3−トリクロロ−1−プロペン及び3,3,3−トリクロロ−1−プロペンを有機溶媒に抽出してもよい。該有機溶媒としては、限定されず、上述のエーテル溶媒、芳香族炭化水素溶媒、脂肪族炭化水素溶媒等が挙げられる。
次に、工程Bについて説明する。
工程Bは、工程Aにより得られた3,3,3-トリクロロ-1-プロペンを金属触媒存在下で異性化させる工程である。工程Bにより、3,3,3-トリクロロ-1-プロペンは1,1,3-トリクロロ−1−プロペンに変換される。
工程Bは、例えば、工程Aにより得られた1,1,3−トリクロロ−1−プロペン及び3,3,3−トリクロロ−1−プロペンを含む混合物と、金属触媒とを接触させることにより行うことができる。
工程Bにおいて、上記工程Aにより得られた反応混合物をそのまま用いてもよいし、工程Aにより得られた反応混合物を工程Cに付した後に用いてもよい。上記混合物は、3,3,3−トリクロロ−1−プロペンの含量等が互いに異なる2種以上の混合物を混ぜたものであってもよいし、蒸留などの精製操作を行った後に工程Bに用いてもよい。
上記金属触媒は、好ましくは、金属または金属化合物である。
上記金属または金属化合物を構成する元素としては、マンガン、レニウム等の周期表第7族元素;鉄、ルテニウム等の第8族元素;コバルト、ロジウム等第9族元素;ニッケル、パラジウム、白金等の第10族元素;銅、銀等の第11族元素;亜鉛等の第12族元素;スズ、鉛等の第14族元素;アンチモン、ビスマス等の第15族元素;を挙げることができる。
上記金属化合物としては、金属酸化物;金属塩化物、金属臭化物などの金属ハロゲン化物;金属硫化物;金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属リン酸塩などの金属鉱酸塩;カルボニル錯体などを挙げることができる。
前記金属触媒は、鉄ハロゲン化物の水和物など、他の化合物との水和物であってもよいし、他の化合物との錯体を形成していてもよい。
第7族元素を含む金属化合物としては、例えば、酸化マンガン、塩化マンガン、メチルレニウムトリオキシド、酸化レニウム、塩化レニウム等が挙げられる。
第8族元素を含む金属化合物としては、例えば、塩化第一鉄およびその水和物、塩化第二鉄およびその水和物、臭化第一鉄およびその水和物、臭化第二鉄およびその水和物、酸化第一鉄、酸化第二鉄、硝酸鉄およびその水和物、鉄アセチルアセナート錯体、鉄カルボニル錯体、塩化ルテニウム、酸化ルテニウム等が挙げられる。
第9族元素を含む金属化合物としては、例えば、酸化コバルト、塩化コバルト、塩化ロジウム、酸化ロジウム等が挙げられる。
第10族元素を含む金属化合物としては、例えば、酸化ニッケル、酸化パラジウム、塩化パラジウム等が挙げられる。
第11族元素を含む金属化合物としては、酸化第一銅、酸化第二銅、銀金属、酸化銀等が挙げられる。
第12族元素を含む金属化合物としては、酸化亜鉛、臭化亜鉛、塩化亜鉛等が挙げられる。
第14族元素を含む金属化合物としては、酸化スズ、塩化スズ、酸化鉛等が挙げられる。
第15族元素を含む金属化合物としては、酸化アンチモン、塩化アンチモン、酸化ビスマス、塩化ビスマス等が挙げられる。
上記金属触媒は、好ましくは、周期表における第7族元素、第8族元素、第9族元素、第10族元素、第11族元素、第12族元素、第14族元素及び第15族元素からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含む金属または金属化合物であり、より好ましくは、鉄、銅、亜鉛、銀、ニッケル、パラジウム、スズ、ビスマスおよびマンガンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属または金属化合物である。
金属触媒は、単独で用いてもよいし、2種以上の金属触媒を混合して用いてもよい。
金属触媒は、金属触媒をそのまま用いてもよいし、例えば活性炭、シリカ、アルミナ、チタニア、ゼオライト等の担体に担持して用いてもよい。
金属触媒をそのまま用いる場合には、粒径の小さいものが好ましい。
好ましい金属触媒の具体例としては、鉄;塩化第一鉄およびその水和物、塩化第二鉄およびその水和物、臭化第一鉄およびその水和物、臭化第二鉄およびその水和物、酸化第一鉄、酸化第二鉄、硝酸鉄およびその水和物、鉄アセチルアセナート錯体、鉄カルボニル錯体などの鉄化合物;銅;酸化第一銅、酸化第二銅、などの銅化合物;亜鉛;酸化亜鉛、臭化亜鉛、塩化亜鉛などの亜鉛化合物;銀;酸化銀などの銀化合物;ニッケル;酸化ニッケルなどのニッケル化合物;パラジウム;酸化パラジウム、塩化パラジウムなどのパラジウム化合物;マンガン;酸化マンガン、塩化マンガンなどのマンガン化合物;スズ;酸化スズ、塩化スズなどのスズ化合物;ビスマス;酸化ビスマス、塩化ビスマスなどのビスマス化合物;が挙げられ、より好ましくは鉄、塩化第一鉄水和物、塩化第二鉄水和物、酸化第一鉄、酸化第二鉄、硝酸鉄水和物などの鉄化合物;銅、酸化第一銅、酸化第二銅、などの銅化合物;亜鉛、酸化亜鉛、塩化亜鉛などの亜鉛化合物;銀;ニッケル;パラジウム;マンガン;スズ;ビスマスが挙げられ、更に好ましくは、鉄、塩化第一鉄、銅、亜鉛および二塩化亜鉛、特に好ましくは鉄、銅、亜鉛が挙げられる。
金属触媒の量は、3,3,3−トリクロロ−1−プロペン1モルに対して、好ましくは0.0001モル以上、より好ましくは0.01〜1モルの範囲である。
工程Bは、異性化を阻害しない有機溶媒の存在下に行ってもよいし、前記有機溶媒の非存在下に行ってもよい。なお、ここでいう有機溶媒の非存在下とは、1,1,1,3−テトラクロロプロパンと、1,1,3−トリクロロ−1−プロペンと、3,3,3−トリクロロ−1−プロペンと以外の有機溶媒が存在しない条件下であることを意味する。
前記有機溶媒としては、工程Aにおける有機溶媒として挙げた有機溶媒が例示され、好ましくは、工程Aで使用したものと同一溶媒である。
有機溶媒の使用量は特に制限されないが、容積効率等を考慮すると、1,1,1,3−テトラクロロプロパン1重量部に対して、実用的には100重量部以下、好ましくは20重量部以下である。工程Bは、更に好ましくは有機溶媒の非存在下で行われる。
工程Bの異性化は、例えば0〜150℃の範囲、好ましくは50〜120℃の範囲、より好ましくは60〜100℃の範囲から選択される温度で行われる。
上記温度が0℃以上であると、1,1,3−トリクロロ−1−プロペンの収率を向上することができ、上記温度が150℃以下であると高沸点化合物の生成を抑制することができる。
工程Bをさらに具体的に説明すると、例えば、工程Aにより得られた1,1,3−トリクロロ−1−プロペン及び3,3,3−トリクロロ−1−プロペンを含む混合物と、金属触媒とを、常圧下または加圧下、上記温度にて接触させることにより、該混合物に含まれる3,3,3−トリクロロ−1−プロペンを1,1,3−トリクロロ−1−プロペンに異性化させることができる。
工程Bにおける金属触媒との接触時間は、例えばガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の分析手段により1,1,3−トリクロロ−1−プロペン、1,1,3−トリクロロ−1−プロペン又は3,3,3−トリクロロ−1−プロペンの量を確認することにより、適宜、決定される。接触時間は、例えば10分間〜24時間の範囲である。
接触終了後に得られる反応混合物を濾過する等により、該反応混合物から金属触媒等の不溶物を除去することが好ましい。金属触媒等の不溶物を除去する前または後に、上記反応混合物に、必要に応じて水、酸又は塩基等で中和、洗浄などを行ってもよい。
さらに、工程Aおよび/または工程Bを有機溶媒の存在下で行った場合、上記反応混合物を濃縮処理することにより、1,1,3−トリクロロ−1−プロペンを単離することもできる。また、蒸留、カラムクロマトグラフィー等の精製手段により、1,1,3−トリクロロ−1−プロペンを精製してもよい。
反応混合物から除去された金属触媒等を含む不溶物は、そのまま、あるいは、上述の有機溶媒、水、酸、塩基等で洗浄した後、工程Bの金属触媒として再使用することもできる。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。%は特に断りがない限り、重量基準を意味する。
<実施例1>
還流冷却管を付した3Lフラスコに、1,1,1,3−テトラクロロプロパン800g、20%水酸化ナトリウム水溶液1200gおよびテトラブチルアンモニウムブロマイド0.8gを仕込み、内温45℃まで昇温した。同温度で13時間攪拌するとほぼ1,1,1,3−テトラクロロプロパンが消失することをガスクロマトグラフィーで確認したので、この反応液を約25℃の室温まで冷却した。
この反応液を静置したところ2層に分離した。このうち、上層を回収し、該上層に5%硫酸水溶液を240g加え、10分攪拌した後、静置したところ、2層に分離した。このうち上層を水240gで洗浄することにより、1,1,3−トリクロロ−1−プロペンと3,3,3−トリクロロ−1−プロペンとを含む混合物627gを得た。該混合物をガスクロマトグラフィー面積百分率法により組成分析し、収率を求めた。
(混合物の組成)
1,1,3−トリクロロ−1−プロペン:39.5%
3,3,3−トリクロロ−1−プロペン:56.0%
3,3,3−トリクロロ−1−プロペンの2量体(以下、高沸点化合物と記すことがある):
2.3%
1,1,1,3−テトラクロロプロパン: 2.2%
(収率:1,1,3−トリクロロ−1−プロペンと3,3,3−トリクロロ−1−プロペンの合計) 91.5%
<実施例2>
反応温度が40℃であり、反応時間が28時間である以外は、実施例1と同様に操作して、1,1,3−トリクロロ−1−プロペンと3,3,3−トリクロロ−1−プロペンとを含む混合物623gを得た。該混合物をガスクロマトグラフィー面積百分率法により組成分析し、収率を求めた。
(混合物の組成)
1,1,3−トリクロロ−1−プロペン:39.9%
3,3,3−トリクロロ−1−プロペン:55.9%
高沸点化合物: 3.1%
1,1,1,3−テトラクロロプロパン: 1.2%
(収率:1,1,3−トリクロロ−1−プロペンと3,3,3−トリクロロ−1−プロペンの合計) 90.4%
<実施例3>
反応温度が35℃であり、反応時間が42時間である以外は、実施例1と同様に操作して、1,1,3−トリクロロ−1−プロペンと3,3,3−トリクロロ−1−プロペンとを含む混合物625gを得た。該混合物をガスクロマトグラフィー面積百分率法により組成分析し、収率を求めた。
(混合物の組成)
1,1,3−トリクロロ−1−プロペン:39.2%
3,3,3−トリクロロ−1−プロペン:56.8%
高沸点化合物: 2.7%
1,1,1,3−テトラクロロプロパン: 1.3%
(収率:1,1,3−トリクロロ−1−プロペンと3,3,3−トリクロロ−1−プロペンの合計) 90.9%
<実施例4>
反応温度が50℃であり、反応時間が9時間である以外は、実施例1と同様に操作して、1,1,3−トリクロロ−1−プロペンと3,3,3−トリクロロ−1−プロペンとを含む混合物624gを得た。該混合物をガスクロマトグラフィー面積百分率法により組成分析し、収率を求めた。
(混合物の組成)
1,1,3−トリクロロ−1−プロペン:39.9%
3,3,3−トリクロロ−1−プロペン:55.7%
高沸点化合物: 2.6%
1,1,1,3−テトラクロロプロパン: 1.7%
(収率:1,1,3−トリクロロ−1−プロペンと3,3,3−トリクロロ−1−プロペンの合計) 89.3%
<実施例5>
還流冷却管を付した500mLフラスコに、実施例1で得た混合物300g(1,1,3−トリクロロ−1−プロペンと3,3,3−トリクロロ−1−プロペンの合計含量93.3%)と塩化亜鉛0.3gとを仕込み、90℃に昇温後、同温度で6時間攪拌した。
得られた反応混合物を室温まで冷却後、5%水酸化ナトリウム水溶液120gを加え、10分攪拌した後、静置したところ2層に分離した。このうち、上層を回収し、該上層に5%硫酸水溶液を120g加え、10分攪拌後、静置したところ2層に分離した。このうち、上層を回収し、該上層を水120gで洗浄し、1,1,3−トリクロロ−1−プロペンの粗生成物303gを得た。該溶液をガスクロマトグラフィー内部標準法により組成分析し、収率を求めた。
(組成) 1,1,3−トリクロロ−1−プロペン含量:91.5%
(収率) 97.2%
上記収率は、(1,1,3−トリクロロ−1−プロペン量×100)/(反応に用いた混合物中の1,1,3−トリクロロ−1−プロペンおよび3,3,3−トリクロロ−1−プロペンの合計量)を示す。
(以下、実施例6〜19における収率も同じ。)
この粗生成物285gを蒸留装置に仕込み、減圧度10kPa、塔頂温度60℃〜67℃における留分261g得た。この留分をガスクロマトグラフィー内部標準法により組成分析し、収率を求めた。
(組成)1,1,3−トリクロロ−1−プロペン含量:95.4%
(蒸留収率)95.6%
上記蒸留収率(モル比)は、(1,1,3−トリクロロ−1−プロペン量×100)/(粗生成物中の1,1,3−トリクロロ−1−プロペン量)を示す。
<実施例6>
実施例1〜4と同様の方法で1,1,3−トリクロロ−1−プロペンと3,3,3−トリクロロ−1−プロペンとを含む混合物(1,1,3−トリクロロ−1−プロペン含量41%、3,3,3−トリクロロ−1−プロペン含量59%)を調製した。
還流冷却管を付した100mLフラスコに、調製した混合物10gと鉄粉0.1gとを仕込み、90℃に昇温後、同温度で8時間攪拌した。得られた反応混合物を室温まで冷却後、該反応混合物をガスクロマトグラフィー内部標準法により組成分析し、収率を求めた。
(組成) 1,1,3−トリクロロ−1−プロペン:3,3,3−トリクロロ−1−プロペン=100:0
(収率)96%
<実施例7>
鉄粉の代わりに酸化鉄(III)[Fe]0.1gを用いる以外は、実施例6と同様に行った。
(組成)1,1,3−トリクロロ−1−プロペン:3,3,3−トリクロロ−1−プロペン=100:0
(収率)94%
<実施例8>
鉄粉の代わりに塩化第一鉄4水和物(FeCl・4HO)0.1gを用いる以外は、実施例6と同様に行った。
(組成)1,1,3−トリクロロ−1−プロペン:3,3,3−トリクロロ−1−プロペン=100:0
(収率)94%
<実施例9>
鉄粉の代わりに塩化第二鉄6水和物(FeCl・6HO)0.1gを用いる以外は、実施例6と同様に行った。
(組成) 1,1,3−トリクロロ−1−プロペン:3,3,3−トリクロロ−1−プロペン=100:0
(収率)88%
<実施例10>
鉄粉の代わりに銅粉0.1gを用いる以外は、実施例6と同様に行った。
(組成) 1,1,3−トリクロロ−1−プロペン:3,3,3−トリクロロ−1−プロペン=100:0
(収率)94%
<実施例11>
鉄粉の代わりに酸化銅(CuO)0.1gを用いる以外は、実施例6と同様に行った。
(組成) 1,1,3−トリクロロ−1−プロペン:3,3,3−トリクロロ−1−プロペン=100:0
(収率)92%
<実施例12>
鉄粉の代わりに銀粉0.1gを用いる以外は、実施例6と同様に行った。
(組成) 1,1,3−トリクロロ−1−プロペン:3,3,3−トリクロロ−1−プロペン=99:1
(収率)92%
<実施例13>
鉄粉の代わりに亜鉛粉0.1gを用いる以外は、実施例6と同様に行った。
(組成) 1,1,3−トリクロロ−1−プロペン:3,3,3−トリクロロ−1−プロペン=100:0
(収率) 92%
<実施例14>
鉄粉の代わりに酸化亜鉛(ZnO)0.1gを用いる以外は、実施例6と同様に行った。
(組成) 1,1,3−トリクロロ−1−プロペン:3,3,3−トリクロロ−1−プロペン=100:0
(収率) 93%
<実施例15>
鉄粉の代わりにニッケル粉0.1gを用いる以外は、実施例6と同様に行った。
(組成) 1,1,3−トリクロロ−1−プロペン:3,3,3−トリクロロ−1−プロペン=100:0
(収率) 92%
<実施例16>
鉄粉の代わりにパラジウム粉0.1gを用いる以外は、実施例6と同様に行った。
(組成) 1,1,3−トリクロロ−1−プロペン:3,3,3−トリクロロ−1−プロペン=100:0
(収率) 96%
<実施例17>
鉄粉の代わりにマンガン粉0.1gを用いる以外は、実施例6と同様に行った。
(組成) 1,1,3−トリクロロ−1−プロペン:3,3,3−トリクロロ−1−プロペン=95:5
(収率) 90%
<実施例18>
鉄粉の代わりに錫粉0.1gを用いる以外は、実施例6と同様に行った。
(組成) 1,1,3−トリクロロ−1−プロペン:3,3,3−トリクロロ−1−プロペン=100:0
(収率) 98%
<実施例19>
鉄粉の代わりにビスマス粉0.1gを用いる以外は、実施例6と同様に行った。
(組成) 1,1,3−トリクロロ−1−プロペン:3,3,3−トリクロロ−1−プロペン=100:0
(収率) 93%
<比較例1>
還流冷却管を付した200mlフラスコに、1,1,1,3−テトラクロロプロパン91g(0.5モル)と無水塩化第二鉄0.2gとを仕込み、内温80℃まで昇温した。80℃にて4時間加熱攪拌した。反応後、ガスクロマトグラフィー内部標準法にて、生成物の分析をしたところ、1,1,3−トリクロロ−1−プロペンの収率は56%であった。原料が7%残存し、高沸点化合物が37%生成していた。
1,1,3−トリクロロ−1−プロペンは、農薬、医薬等の合成中間体として有用である。本発明の製造方法は、1,1,3−トリクロロ−1−プロペンの製造方法として産業上利用することができる。

Claims (6)

  1. 下記の工程A及びBを含む1,1,3−トリクロロ−1−プロペンの製造方法;
    工程A:アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の塩基並びに相間移動触媒の存在下、30℃〜50℃の範囲から選択される温度下にて1,1,1,3−テトラクロロプロパンを脱塩化水素化させる工程、
    工程B:工程Aにより得られた3,3,3−トリクロロ−1−プロペンを、塩化亜鉛、酸化銅、銀粉、亜鉛粉、酸化亜鉛、ニッケル粉、パラジウム粉、マンガン粉、錫粉及びビスマス粉からなる群より選ばれる1種以上の金属触媒の存在下で異性化させる工程。
  2. 工程Bが、前記工程Aにより得られた1,1,3−トリクロロ−1−プロペン及び3,3,3−トリクロロ−1−プロペンを含む混合物と、塩化亜鉛、酸化銅、銀粉、亜鉛粉、酸化亜鉛、ニッケル粉、パラジウム粉、マンガン粉、錫粉及びビスマス粉からなる群より選ばれる1種以上の金属触媒とを接触させることにより、該混合物に含まれる3,3,3−トリクロロ−1−プロペンを異性化させる工程である請求項1記載の製造方法。
  3. 工程Aにおける塩基の形態が水溶液である請求項1又は2記載の製造方法。
  4. 下記の工程Cを工程Aと工程Bとの間に行う請求項1〜のいずれか記載の製造方法;
    工程C:工程Aにより得られた反応混合物を酸で洗浄し、更に水で洗浄する工程。
  5. 工程Bの異性化が50℃〜120℃の範囲から選択される温度下で行われる請求項1〜のいずれか記載の製造方法。
  6. 工程Aおよび工程Bが、有機溶媒の非存在下で行われる請求項1〜のいずれか記載の製造方法。
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