JP5716679B2 - 撥水性基体およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、撥水性と耐磨耗性に優れた撥水性皮膜を有する撥水性基体およびその製造方法に関する。
輸送機器用の窓ガラスは、降雨時に雨水が付着すると、運転者の視界を遮り、運転の支障になることがある。そこで、ガラス板の表面に撥水性を付与し、雨水が付着した場合に容易に除去されるようにすることが行われている。そして、近年は、撥水性をより高め、視認性を向上させるとともに耐磨耗性も向上させる種々の試みが報告されている。
たとえば、特許文献1には、内部層(粒径の異なる2種類の金属酸化物球状微粒子の焼結体層)とその表面に形成された撥水層とを含み、表面凹凸形状に特徴のある撥水性表面を有する物品に関する技術が記載されている。この物品においては、表面撥水性は通常レベルの撥水性は確保されているものの、高い撥水レベルには達しておらず、さらに、耐磨耗性においても十分とは言い難い。これは、凹凸を形成する内部層の粒子径が比較的大きく、また内部層にはバインダーも使用していないため、空隙が多く粒子間の接着が弱いことに起因すると考えられる。
また、特許文献2には、内部層(粒径の異なる2種類の金属酸化物球状微粒子の焼結体層)と表面層(疎水化金属酸化物微粒子と金属酸化物バインダーとを含む層)とを含み、表面凹凸形状に特徴のある撥水性層を有する物品に関する技術が記載されている。特許文献2に記載の物品の撥水性層では、撥水性に優れるものの、特許文献1と同様の構成の内部層を有することに起因して、耐磨耗性が十分とは言えない。
さらに、特許文献3には、微小凹凸を有する下地膜とその上に形成された撥水性皮膜を備えた、撥水性被膜表面の水接触角および転落角に特徴のある超撥水性基体の技術が記載されている。特許文献3に記載の超撥水性基体においては、下地膜の微小凹凸は、予め作製した粒子を含有させて形成されているのではなく、膜材料を塗布し膜を形成させる際に室温で膜に粒子状の凹凸を形成することで得られている。特許文献3に記載の超撥水性基体は、撥水性には優れるものの、このような凹凸形成方法の特殊性から下地膜は緻密性に欠け、十分な耐磨耗性が出せない点で問題であった。
特開2008−119924号公報 国際公開第2008/072707号パンフレット 国際公開第2003/039856号パンフレット
本発明は、撥水性と耐磨耗性に優れた撥水性皮膜を有する撥水性基体およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、以下の構成を有する撥水性基体、撥水性基体を備えた輸送機器用物品、撥水性基体が有する撥水性皮膜の下地層形成用組成物および撥水性基体の製造方法を提供する。
[1]基体の少なくとも片側表面に撥水性皮膜を有する撥水性基体であって、
前記撥水性皮膜は、前記基体側に設けられた平均一次粒子径が20〜85nmの金属酸化物微粒子(A)の凝集体および金属酸化物バインダーを含みかつ表面が凹凸形状を示す下地層と、前記下地層の上に設けられた撥水層とを備え、
前記撥水性皮膜表面における下記方法で評価される水跳ね性が100mm以上であり、JIS L0803に準拠したネル布を用いた応力11.8N/4cmでのトラバース試験機による往復2000回摩擦試験後の前記撥水性皮膜表面における前記水跳ね性が20mm以上であることを特徴とする撥水性基体。
・水跳ね性:基体の撥水性皮膜を有する面(以下、測定面という)を上にして、測定面が水平面に対して45度の傾斜をもつように撥水性基体を設置し、20μlの純水の水滴を測定面から10cmの高さの位置から測定面に落とした際に、測定面に当たった水が測定面と平行な方向に跳ねた距離。
[2]基体の少なくとも片側表面に撥水性皮膜を有する撥水性基体であって、
前記撥水性皮膜は、前記基体側に設けられた平均一次粒子径が20〜85nmの金属酸化物微粒子(A)の凝集体および金属酸化物バインダーを含みかつ表面が凹凸形状を示す下地層と、前記下地層の上に設けられた撥水層とを備え、
前記撥水性皮膜表面における下記方法で評価される水跳ね性が100mm以上であり、かつ、前記撥水性皮膜における下記した空隙率が30%以下であることを特徴とする撥水性基体。
・水跳ね性:基体の撥水性皮膜を有する面(以下、測定面という)を上にして、測定面が水平面に対して45度の傾斜をもつように撥水性基体を設置し、20μlの純水の水滴を測定面から10cmの高さの位置から測定面に落とした際に、測定面に当たった水が測定面と平行な方向に跳ねた距離。
・空隙率:撥水性皮膜の断面中に空隙が占める面積の割合(%)。
[3]前記金属酸化物微粒子(A)凝集体の質量を(a)、前記金属酸化物バインダーの質量を(b)としたときの両者の質量比率(a):(b)が、金属酸化物換算の質量比で75:25〜50:50である、[1]または[2]に記載の撥水性基体。
[4]前記撥水性皮膜表面における、JIS R1683(2007)に準拠して走査型プローブ顕微鏡(SPM)により測定される算術平均面粗さ(Ra)が、15nm〜40nmである、[1]〜[3]のいずれかに記載の撥水性基体。
[5]前記金属酸化物微粒子(A)が中空状のシリカ微粒子である、[1]〜[4]のいずれかに記載の撥水性基体。
[6]前記下地層が、平均一次粒子径が3〜18nmの金属酸化物微粒子(C)の凝集体をさらに含む、[1]〜[5]のいずれかに記載の撥水性基体。
[7]前記撥水性皮膜の平均膜厚が50〜600nmである、[1]〜[6]のいずれかに記載の撥水性基体。
[8]基体の少なくとも片側表面に撥水性皮膜を有する撥水性基体であって、
前記撥水性皮膜は、平均一次粒子径が20〜85nmの金属酸化物微粒子(A)の凝集体および金属酸化物バインダー前駆体を含む下地層形成用組成物を塗布し乾燥して得られた、表面が凹凸形状を示す下地層と、前記下地層の上に設けられた撥水層とを備え、
前記撥水性皮膜表面における下記方法で評価される水跳ね性が100mm以上であり、JIS L0803に準拠したネル布を用いた応力11.8N/4cmでのトラバース試験機による往復2000回摩擦試験後の前記撥水性皮膜表面における前記水跳ね性が20mm以上であることを特徴とする撥水性基体。
・水跳ね性:基体の撥水性皮膜を有する面(以下、測定面という)を上にして、測定面が水平面に対して45度の傾斜をもつように撥水性基体を設置し、20μlの純水の水滴を測定面から10cmの高さの位置から測定面に落とした際に、測定面に当たった水が測定面と平行な方向に跳ねた距離。
[9]基体の少なくとも片側表面に撥水性皮膜を有する撥水性基体であって、
前記撥水性皮膜は、平均一次粒子径が20〜85nmの金属酸化物微粒子(A)の凝集体および金属酸化物バインダー前駆体を含む下地層形成用組成物を塗布し乾燥して得られた、表面が凹凸形状を示す下地層と、前記下地層の上に設けられた撥水層とを備え、
前記撥水性皮膜表面における下記方法で評価される水跳ね性が100mm以上であり、かつ、前記撥水性皮膜における下記する空隙率が30%以下であることを特徴とする撥水性基体。
・水跳ね性:基体の撥水性皮膜を有する面(以下、測定面という)を上にして、測定面が水平面に対して45度の傾斜をもつように撥水性基体を設置し、20μlの純水の水滴を測定面から10cmの高さの位置から測定面に落とした際に、測定面に当たった水が測定面と平行な方向に跳ねた距離。
・空隙率:撥水性皮膜の断面中に空隙が占める面積の割合(%)。
[10][1]〜[9]のいずれかに記載の撥水性基体を備えた輸送機器用物品。
[11][1]〜[9]のいずれかに記載の撥水性基体であって、基体がガラス板であることを特徴とする輸送機器用窓ガラス。
[12]基体の少なくとも片側表面に下地層と撥水層とを備えた撥水性皮膜を有する撥水性基体の製造方法であって、
前記基体の少なくとも片側表面に、金属酸化物微粒子の凝集体と金属酸化物バインダー前駆体と、分散媒体とを含む下地層形成用組成物であり、
前記金属酸化物微粒子の凝集体が、主として、平均一次粒子径が20〜85nm、かつ体積平均凝集粒子径が200〜600nmである金属酸化物微粒子(A)の凝集体からなり、前記金属酸化物微粒子(A)の凝集体と前記金属酸化物バインダー前駆体とを金属酸化物換算の質量比として75:25〜50:50の割合で含有する下地層形成用組成物、
または、前記金属酸化物微粒子の凝集体が、主として、前記金属酸化物微粒子(A)の凝集体と、前記金属酸化物微粒子(A)の凝集体の含有量の5〜200質量%の量の、平均一次粒子径が3〜18nm、かつ体積平均凝集粒子径が3〜30nmである金属酸化物微粒子(C)の凝集体とからなり、前記金属酸化物微粒子(A)の凝集体と前記金属酸化物バインダー前駆体とを金属酸化物換算の質量比として75:25〜50:50の割合で、かつ前記金属酸化物微粒子(A)の凝集体および前記金属酸化物微粒子(C)の凝集体の合計と前記金属酸化物バインダー前駆体とを金属酸化物換算の質量比として90:10〜50:50の割合で含有する下地層形成用組成物を、
塗布し乾燥させて、凹凸形状の表面を有する下地層を形成する工程と、
前記下地層の表面に撥水剤を含む撥水層形成用組成物を塗布し乾燥させて前記下地層表面に撥水層を形成し、平均膜厚が50〜600nmの撥水性皮膜を形成させる工程と、を有することを特徴とする撥水性基体の製造方法。
[13]前記金属酸化物微粒子(A)の凝集体と前記金属酸化物バインダー前駆体の、金属酸化物換算の質量比が72:28〜60:40の割合である、[12]に記載の撥水性基体の製造方法。
[14]前記金属酸化物バインダーの前駆体となる金属化合物がアルコキシシラン化合物および/またはその加水分解縮合物である[12]または[13]に記載の撥水性基体の製造方法。
[15]前記金属酸化物微粒子(A)がシリカ微粒子である、[12]〜[14]のいずれかに記載の撥水性基体の製造方法。
[16]前記金属酸化物微粒子(A)の平均一次粒子径が20〜75nmである、[12]〜[15]のいずれかに記載の撥水性基体の製造方法。
[17]前記金属酸化物微粒子(A)が中空状の金属酸化物微粒子である、[12]〜[16]のいずれかに記載の撥水性基体の製造方法。
[18]前記中空状金属酸化物微粒子(A)における平均シェル厚さが1〜10nmである、[17]に記載の撥水性基体の製造方法。
[19]前記金属酸化物微粒子(C)がシリカ微粒子および/またはジルコニア微粒子である、[12]〜[18]のいずれかに記載の撥水性基体の製造方法。
[20]前記下地層を形成する工程の後に、ポリシラザン類を含浸させ加水分解縮合または熱分解させる工程をさらに含む、[12]〜[19]のいずれかに記載の撥水性基体の製造方法。
[21]前記下地層を形成する工程の後に、アルコキシシラン類、クロロシラン類およびイソシアネートシラン類からなる群から選ばれる少なくとも1種および/またはその部分加水分解縮合物を主原料成分として含む密着層形成用組成物を下地層の表面に塗布し密着層を形成する工程をさらに含む、[12]〜[20]のいずれかに記載の撥水性基体の製造方法。
[22]前記撥水性皮膜表面における下記方法で評価される水跳ね性が100mm以上であり、JIS L0803に準拠したネル布を用いた応力11.8N/4cmでのトラバース試験機による往復2000回摩擦試験後の前記撥水性皮膜表面における前記水跳ね性が20mm以上である、[12]〜[21]のいずれかに記載の撥水性基体の製造方法。
・水跳ね性:基体の撥水性皮膜を有する面(以下、測定面という)を上にして、測定面が水平面に対して45度の傾斜をもつように撥水性基体を設置し、20μlの純水の水滴を測定面から10cmの高さの位置から測定面に落とした際に、測定面に当たった水が測定面と平行な方向に跳ねた距離。
[23]前記撥水性皮膜表面における下記方法で評価される水跳ね性が100mm以上であり、かつ、前記撥水性皮膜における下記した空隙率が30%以下である、[12]〜[21]のいずれかに記載の撥水性基体の製造方法。
・水跳ね性:基体の撥水性皮膜を有する面(以下、測定面という)を上にして、測定面が水平面に対して45度の傾斜をもつように撥水性基体を設置し、20μlの純水の水滴を測定面から10cmの高さの位置から測定面に落とした際に、測定面に当たった水が測定面と平行な方向に跳ねた距離。
・空隙率:撥水性皮膜の断面中に空隙が占める面積の割合(%)。
[24]分散媒体を含むとともに、平均一次粒子径が20〜85nmであり、体積平均凝集粒子径が200〜600nmである金属酸化物微粒子(A)の凝集体と、金属酸化物バインダー前駆体とを、金属酸化物換算の質量比として75:25〜50:50の割合で含有する[12]〜[23]のいずれかに記載の撥水性基体の製造方法に用いる下地層形成用組成物。
本発明の撥水性基体は表面に撥水性と耐磨耗性に優れる撥水性皮膜を有するものであり、それによって、撥水性基体自体も表面撥水性に優れ、さらにその優れた表面撥水性を長期にわたって持続することが可能である。また、本発明の製造方法によれば、基体表面に撥水性と耐磨耗性に優れる撥水性皮膜を形成することが可能である。
水跳ね性の測定方法を模式的に示す図である。 空隙率測定のために作製した撥水性皮膜断面の概念図である。
以下に本発明の実施の形態を説明する。
<撥水性基体>
本発明の撥水性基体は、基体と、この基体の少なくとも片側表面に形成された下記構成の撥水性皮膜を有する。また、前記撥水性皮膜は、下記表面特性を有するものである。
上記撥水性皮膜は、基体側に設けられた平均一次粒子径が20〜85nmの金属酸化物微粒子(A)の凝集体および金属酸化物バインダーを含み、かつ表面が前記凝集体に由来する凹凸形状を示す下地層と、前記下地層の上に設けられた撥水層とを備える構成の撥水性皮膜である。
この撥水性皮膜の表面特性については、撥水性皮膜表面における下記方法で評価される水跳ね性が100mm以上であり、JIS L0803に準拠したネル布を用いた応力11.8N/4cmでのトラバース試験機による往復2000回摩擦試験(以下、「耐磨耗試験」ということもある)後の前記撥水性皮膜表面における前記水跳ね性が20mm以上である。
水跳ね性:基体の撥水性皮膜を有する面(以下、測定面という)を上にして、測定面が水平面に対して45度の傾斜をもつように撥水性基体を設置し、20μlの純水の水滴を測定面から10cmの高さの位置から測定面に落とした際に、測定面に当たった水滴が測定面と平行な方向に跳ねた距離。
上記撥水性皮膜の表面特性を評価するために用いた「水跳ね性」は、以下に説明する通り撥水性を評価する指標である。本発明の撥水性基体が有する撥水性皮膜表面における上記「水跳ね性」の値、すなわち初期値が100mm以上であり、かつ上記耐磨耗試験後の値が20mm以上であることは、その撥水性皮膜が初期の撥水性に優れるとともに耐磨耗試験後にもその撥水性を維持していることを意味するものである。
なお、本発明の撥水性基体が有する撥水性皮膜の水跳ね性の初期値は100mm以上であるが、130mm以上であることが好ましく、150mm以上であることがより好ましい。また、上記耐磨耗試験後における水跳ね性は20mm以上であるが、35mm以上であることが好ましく、50mm以上であることがより好ましい。撥水性皮膜の水跳ね性の初期値が100mm未満であると耐摩耗試験後に水跳ね性が低下し、十分な水跳ね性を維持することができない。また、上記耐磨耗試験後における水跳ね性が20mm未満であると水跳ね性が不十分で、水滴が撥水性基板上に留まる確率が高まり、視界の妨げとなり問題である。
以下、図1を参照して水跳ね性の測定方法をより具体的に説明する。
図1は、基体1の片側表面に撥水性皮膜2を有する撥水性基体10を検体として、該撥水性皮膜2の表面における水跳ね性を測定する際の測定方法を模式的に示す図である。「水跳ね性」の測定方法としては、まず、水平面に対して45度の傾斜をもって設置された計測台8の所定位置に、撥水性皮膜2を有する面(測定面)を上にして検体10を固定する。これにより、測定面は水平面に対して45度の傾斜を有するように固定される。次に、検体10の測定面上のほぼ中央にある滴下点5に向けて、滴下手段4から20μlの純水の水滴3を10cmの落下高さをもって水平面に直交する方向から滴下する。滴下手段4から落下した純水の水滴3が、測定面の滴下点5に当たり水平方向に跳ねて、計測台8上もしくは撥水性皮膜2上に最初に落下した位置6と滴下点5との距離L(mm)を「水跳ね性」の測定値とする。
ここで、撥水性表面の撥水性の評価としては、水接触角、水転落角の測定値を指標とする方法や、撥水性表面の凹凸度合いを撥水性と関連付け、面粗さや、最大高低差を指標として撥水性を評価する方法が知られている。しかしながら、これらの評価方法が、必ずしも、実使用において撥水性基体に求められている撥水性、特に輸送機器用の窓ガラス(たとえば、自動車のウインドシールド用の窓ガラス)等として使用する場合に求められている撥水性に相関していないことがあった。それに比べて、上記水跳ね性は、撥水性表面に求められる撥水性能をより実使用に近い形で評価するものであり、求められる撥水性をより反映している評価方法であるといえる。
本発明の撥水性基体が有する撥水性皮膜は、上記方法で測定される「水跳ね性」が耐磨耗試験の前後で上記範囲となるように構成されたものであり、撥水性と耐磨耗性が確保された撥水性皮膜と言える。また、本発明の撥水性基体が有する撥水性皮膜は、撥水性皮膜表面における水接触角については、上記耐磨耗試験の前に測定した値、すなわち初期値が130°以上であることが好ましく、135°以上であることがより好ましい。さらに、撥水性皮膜表面における水接触角は、上記耐磨耗試験(JIS L0803に準拠したネル布を用いた応力11.8N/4cmでのトラバース試験機による往復2000回摩擦試験)の後に測定した値として、100°以上であることが好ましく、110°であることがより好ましく、120°以上であることが特に好ましい。
なお、このような耐磨耗性を得るための上記撥水性皮膜は、たとえば、以下の方法で評価される、空隙率、すなわち撥水性皮膜の断面中に空隙が占める面積の割合(%)が、30%以下の撥水性皮膜である。撥水性皮膜の構成にもよるが、通常は、撥水性皮膜は表面に凹凸形状を構成することで撥水性を発現している。しかしながら、表面に凹凸形状を形成しようとすると膜の内部にも空隙が形成されてしまう。この空隙が占める割合が大きいと耐磨耗性が確保できない。本発明において規定した空隙率が30%以下の撥水性皮膜であれば、上記水跳ね性で評価する基準に対応する十分な耐磨耗性が確保できる。
ここで、本発明の撥水性基体が有する撥水性皮膜の空隙率は30%以下であるが、25%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。特に好ましい空隙率は0%である。撥水性皮膜の空隙率が30%を越えると撥水性皮膜の強度が低下し、十分な耐摩耗性が確保できない。
撥水性皮膜の空隙率を求める方法としては、たとえば、7cm角の検体(撥水性皮膜)を一方向に1cm毎の位置で厚さ方向に切断した各断面における5万倍の走査型電子顕微鏡(SEM)写真について、断面を真横から投影した場合の撥水性皮膜面積に対する空隙(断面を真横から投影した場合に皮膜の内部に存在する閉じられた空隙、および、断面を真横から投影した場合に皮膜の平均膜厚以下に存在する皮膜上面(表面)に開いた凹状空隙の合計。ただし、中空状の金属酸化物微粒子(A)を用いた場合の中空状微粒子内部の空隙は、膜断面の空隙に算入しない。)が占める面積の割合(%)を、前記切断した断面の任意の20点について求め、これを平均する方法が挙げられる。なお、上記「断面を真横から投影した場合に皮膜の内部に存在する閉じられた空隙」には、この真横から投影された断面以外の部分で皮膜上面(表面)に連通するような空隙が含まれる。
以下、図2を参照して「空隙率」の測定方法をより具体的に説明する。図2は空隙率測定のために作製した撥水性皮膜2の断面の概念図である。図2に断面が示される撥水性皮膜2は、基体(図示されていない)上に形成された、表面が凹凸形状を有する下地層11とその表面に下地層11の凹凸形状に沿って形成された撥水層12とからなる。空隙率計測のために用いられる断面は、走査型電子顕微鏡(SEM)、たとえば、走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、S−4500型)を用いて5万倍の倍率で撮影される。
表面に凹凸形状を有する撥水性皮膜は上述のように内部に空隙を有する。さらに、本空隙率の測定方法によれば、平均膜厚以下に存在する皮膜上面(表面)に開いた凹状部分を空隙として扱う。
図2に示される撥水性皮膜2は、断面を真横から投影した場合に皮膜の内部に存在する閉じられた空隙a1、a2、a3、a4を有し、断面を真横から投影した場合に皮膜の平均膜厚以下に存在する皮膜上面(表面)に開いた凹状空隙b1およびb2を有する。よって、図2に示される撥水性皮膜2の断面における、空隙の面積は、a1、a2、a3、a4とb1、b2の占める面積の合計となる。また、図2に示す撥水性皮膜2の断面の、断面を真横から投影した場合の面積は、以下の方法で測定される平均膜厚tとSEM写真における断面の幅方向の長さwとの積として算出される。これらの値を用いて、図2に示される撥水性皮膜2の断面を用いた、空隙率(%)は、(a1+a2+a3+a4+b1+b2)/(t×w)×100と算出される。
ここで、本明細書において用いる空隙率は、7cm角の検体を一方向に1cm毎の位置で厚さ方向に切断した各断面から無作為に選ばれた20点について、SEM写真を撮影し、上記同様に計測・算出された空隙率の平均値をいうものである。
また、平均膜厚とは、上記空隙率測定に用いるのと同様に、走査型電子顕微鏡によって撮影(5万倍)された撥水性皮膜断面の写真を用いて測定・算出される。すなわち、前記撥水性皮膜断面写真において幅12.7cm(実際の撥水性皮膜としての幅は、2.54μm)の間に存在する撥水性皮膜表面について、撥水性皮膜の基体表面側の辺(撥水性皮膜の下辺)から撥水性皮膜表面までの距離を測定し、この断面における平均値を求める。この断面における平均値を、上記空隙率同様に作製された撥水性皮膜断面20点について求め、平均した値を平均膜厚とした。
以下、本発明の撥水性基体を構成する各構成要素について説明する。
(1)基体
本発明の撥水性基体に用いる基体は、一般に撥水性の付与が求められている材質からなる基体であれば特に限定されず、ガラス、金属、セラミックス、樹脂またはこれらの組み合わせ(複合材料、積層材料等)からなる基体が好ましく使用される。ガラスとしては、通常のソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられ、これらのうちでもソーダライムガラスが特に好ましい。樹脂製基体の材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、およびトリアセチルセルロースの群より選ばれる1種以上が挙げられる。基体は透明であっても不透明であってもよく、用途によって適宜選択すればよい。たとえば、本発明の撥水性基体を自動車等の輸送機器用の窓ガラス(たとえば、自動車の風防窓用窓ガラス、サイド窓用窓ガラス、リヤ窓用窓ガラス)や建築用の窓ガラス、太陽電池用カバー等に用いる場合は、透明なガラス板であることが好ましい。
基体は、基体面に後述する下地層を形成するに前に、その表面を酸化セリウム等の研磨剤で研磨したり、アルコール洗浄等により脱脂したりすることが好ましい。また、酸素プラズマ処理、コロナ放電処理、オゾン処理等を施してもよい。基体の形状は平板でもよく、全面または一部に曲率を有していてもよい。基体の表面は平坦でも凹凸形状を有していてもよい。基体の厚さは用途により適宜選択され、一般には1〜10mmが好ましい。また、基体として、厚さがおおよそ25〜500μmの樹脂製フィルムを用いてもよい。基体には、あらかじめ無機物及び/又は有機物からなる塗膜が形成されることで、ハードコート、アルカリバリア、着色、導電、帯電防止、光散乱、反射防止、集光、偏光、紫外線遮蔽、赤外線遮蔽、防汚、防曇、光触媒、抗菌、蛍光、蓄光、波長変換、屈折率制御、撥水、撥油、指紋除去、および滑り性の群より選ばれる1種以上の機能が付与されていてもよい。
本発明の撥水性基体は、基体の両側表面に撥水性皮膜を有していてもよく、基体の片側表面に撥水性皮膜を有していてもよく、用途により適宜選択できる。たとえば、本発明の撥水性基体を自動車等の輸送機器用の窓ガラスや、建築用窓ガラスに使用する場合は、基体の片側表面に撥水性皮膜を有するガラス板であることが好ましい。
(2)撥水性皮膜
本発明の撥水性基体が有する撥水性皮膜は、上に説明した水跳ね性の条件を満足する表面特性を有し、空隙率の条件を満足する膜構造特性を有するものであって、基体側に設けられた平均一次粒子径が20〜85nmの金属酸化物微粒子(A)の凝集体および金属酸化物バインダーを含みかつ表面が凹凸形状を示す下地層と、前記下地層の上に設けられた撥水層とを備える膜構成を有する。撥水性皮膜の膜構成は、上記下地層と撥水層のみからなる構成であってもよいが、上記表面特性および膜構造特性が損なわれない範囲で、下地層と撥水層の間に密着層等の各種機能層を設けることが可能である。本明細書における撥水性基体の製品における下地層は、平均一次粒子径が20〜85nmの金属酸化物微粒子(A)の凝集体および金属酸化物バインダー前駆体とを含む下地層形成用組成物を基体面に塗布し乾燥し、必要に応じて加熱して得られた、表面が凹凸形状を示す層を下地層と呼ぶこともできる。
ここで、下地層は基体上に配設される限りは、必ずしも基体の表面に直接設けられる必要はなく、基体と下地層の間には必要に応じて各種機能層、たとえば、基体の表面を改質する層や、下地層との密着性を改善する層(密着層)等が設けられていてもよい。ただし、本発明の撥水性基体が有する撥水性皮膜は、基体と下地層の間に形成された層を含むものではない。本明細書において、撥水性皮膜とは、下地層から表面の撥水層までの各層を含む積層皮膜をいい、撥水性皮膜を構成する層のなかでは下地層は最も基体に近い側に形成される。
撥水性皮膜の膜厚は、上記下地層と撥水層を合わせた、または下地層と撥水層の間に密着層等の各種機能層を有する場合は、下地層と撥水層にこれら機能層を合わせた膜厚として、50〜600nmであることが好ましい。撥水性皮膜の膜厚はより好ましくは、80〜400nmであり、さらに好ましくは100〜300nmである。撥水性皮膜の膜厚が50nm未満であったり、600nmを超えたりする場合には、超撥水性の発現に十分な凹凸形状を作製しづらいことがある。ここで、撥水性皮膜の膜厚とは、上記の方法で測定される平均膜厚をいう。
本発明の撥水性基体が有する撥水性皮膜の表面の算術平均面粗さは、JIS R1683(2007)に準拠して走査型プローブ顕微鏡(SPM)により測定される、表面の算術平均面粗さ(Ra)が15nm以上40nm以下であることが好ましい。撥水性皮膜表面における算術平均面粗さは、より好ましくは18nm以上35nm以下であり、さらに好ましくは20nm以上30nm以下である。撥水性皮膜の算術平均面粗さが15nm未満であると、撥水性皮膜の表面に十分な撥水性が得られないことがある。また、撥水性皮膜表面における算術平均面粗さが40nmを超えると撥水性皮膜の透明性が十分でないことがある。
また、撥水性皮膜表面の凹凸の最大高低差(P−V)は、150〜500nmであることが好ましく、250〜450nmであることがより好ましい。このような表面形状により本発明の撥水性基体が有する撥水性皮膜は、上記水跳ね性が100mm以上の撥水性能を有するものである。なお、本明細書における、撥水性皮膜表面の凹凸の最大高低差(P−V)は、走査型プローブ顕微鏡(SPM)で測定した値である。
以下、このような撥水性皮膜を構成する各層について説明する。
(2−1)下地層
上記撥水性皮膜を構成する層のうちで下地層は、基体に最も近い側に設けられる層であり、平均一次粒子径が20〜85nmの金属酸化物微粒子(A)の凝集体および金属酸化物バインダーを含む層である。
下地層は上記金属酸化物微粒子(A)の凝集体を含有することで表面に凹凸形状を有する層であり、下地層上の撥水層や、必要に応じて下地層と撥水層の間に設けられる機能層は、概ね下地層表面の凹凸形状に沿う形で存在する。すなわち、下地層表面の凹凸形状は上記撥水性皮膜表面の凹凸形状とほぼ同様の形状を有するものである。
また下地層の膜厚は、上記の方法で測定される平均膜厚で、45〜590nmであることが好ましく、75〜390nmであることがより好ましく、95〜290nmであることが特に好ましい。下地層の厚さが45nm以上であれば、得られる撥水性皮膜の上に水滴を垂らした際に、下地層表面と水滴の間に部分的に空気の層が生成して十分な超撥水性を発現される。下地層の厚さが590nm以下であれば、十分な透明性を確保できる。なお、下地層の厚さは、上記撥水性皮膜における平均膜厚の測定と同様にして、測定・算出した平均の層厚さである。
下地層における金属酸化物微粒子(A)の凝集体と金属酸化物バインダーの含有割合については、上記金属酸化物微粒子(A)凝集体の質量を(a)、上記金属酸化物バインダーの質量を(b)としたときの両者の質量比率(a):(b)で示される金属酸化物換算の質量比で、75:25〜50:50であることが好ましく、72:28〜60:40であることがより好ましい。金属酸化物微粒子(A)の凝集体と金属酸化物バインダーの割合が、この範囲にあれば、得られる下地層の凹凸が十分であり、これを反映する撥水性皮膜表面の超撥水性を発現することができる。また、金属酸化物微粒子(A)の凝集体と金属酸化物バインダーの割合が、この範囲にあれば、下地層と撥水層を含む撥水性皮膜の空隙率が上記本発明の範囲に制御されやすく、下地層の強度も十分に確保される。
(金属酸化物微粒子(A)の凝集体)
撥水性皮膜の下地層が含有する金属酸化物微粒子(A)の凝集体は、平均一次粒子径が20〜85nmの金属酸化物微粒子の凝集体である。金属酸化物微粒子(A)の平均一次粒子径が20〜85nmの範囲であれば、下地層の透明性と粒子の強度が保たれるという利点がある。なお、金属酸化物微粒子(A)の平均一次粒子径は、20〜75nmであることが好ましく、20〜60nmであることがより好ましい。
ここで、本明細書における、金属酸化物微粒子(A)の平均一次粒子径の値は、金属酸化物微粒子(A)を透過型電子顕微鏡(日立製作所社製、H−9000)にて観察し、100個の微粒子を無作為に選び出し、各金属酸化物微粒子(A)の粒子径を測定し、100個の金属酸化物微粒子(A)の粒子径を体積平均した値である。以下、金属酸化物微粒子(A)以外の微粒子に対する平均一次粒子径についても、同様の方法で測定・算出した値を用いている。
撥水性皮膜の下地層が含有する上記凝集体を構成する金属酸化物微粒子(A)としては、実質的に内部に空隙を持たない微粒子(中実微粒子)および内部に空隙を有する微粒子(中空状微粒子)をそれぞれ単独で用いることも可能であり、両者を併用することも可能である。中実微粒子と中空状微粒子のどちらを使用するかは、用途によって適宜選択すればよい。たとえば、本発明の撥水性基体を自動車等の輸送機器用の窓ガラスや建築用の窓ガラス、太陽電池用カバー等として使用する場合は、撥水性基体に透明性が求められる。よって、中空状微粒子を使用することが好ましい。また、この用途であっても必要に応じて中実微粒子と中空状微粒子とを併用することも可能である。
上記金属酸化物微粒子(A)として、具体的には、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化銅、酸化クロム、酸化コバルト、酸化鉄、酸化マンガン、酸化ニッケル、および酸化亜鉛からなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物を含む微粒子が挙げられる。これらのなかでも、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化ジルコニウム、および酸化セリウムからなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物を含む微粒子であることが好ましく、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、および酸化ジルコニウムからなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物を含む微粒子であることがより好ましく、酸化ケイ素を含む微粒子であることが特に好ましい。より具体的には、実質的に酸化ケイ素(SiO)のみからなる微粒子、酸化アルミニウム(Al)のみからなる微粒子、酸化ジルコニウム(ZrO)のみからなる微粒子が好ましく、特に好ましくは、実質的に酸化ケイ素のみからなる微粒子である。
ここで、「金属酸化物を含む微粒子」について、酸化ケイ素(SiO)を含む微粒子を例にして説明する。酸化ケイ素を含む微粒子を、微粒子の構造および組成の組合せで分類すると、下記(i)〜(iv)の構成の微粒子に分類される。
(i)実質的に内部に空隙を有さず、かつ実質的に酸化ケイ素のみからなる微粒子、すなわち、実質的に酸化ケイ素のみからなる中実微粒子。
(ii)実質的に内部に空隙を有さず、かつ、酸化ケイ素を主成分とし、さらに酸化ケイ素以外の金属酸化物を含む微粒子、すなわち、酸化ケイ素を主成分としさらに酸化ケイ素以外の金属酸化物を含む中実微粒子。
(iii)内部に空隙を有し、外殻(シェル)部分が実質的に酸化ケイ素のみからなる微粒子、すなわち、実質的に酸化ケイ素からなる外殻を有する中空状微粒子。
(iv)内部に空隙を有し、外殻(シェル)部分が酸化ケイ素を主成分とし、さらに酸化ケイ素以外の金属酸化物を含む微粒子、すなわち、外殻(シェル)部が酸化ケイ素を主成分とし、さらに酸化ケイ素以外の金属酸化物を含む中空状微粒子。
ここで、「実質的に内部に空隙を有さない」とは、透過型電子顕微鏡を用いて、加速電圧100kV、倍率20万倍の条件で観察した際に空隙が観察できないことを意味する。また、実質的に酸化ケイ素のみからなる微粒子とは、微粒子を構成する成分全体の99質量%以上が酸化ケイ素であることを意味する。以下、本明細書において、「酸化ケイ素からなる」とは、「実質的に酸化ケイ素のみからなる」ことを意味する。また、この定義は他の金属酸化物においても同様に用いられる。
上記(ii)および(iv)の場合、酸化ケイ素以外の金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化銅、酸化クロム、酸化コバルト、酸化鉄、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化亜鉛等が挙げられる。酸化ケイ素と酸化ケイ素以外の金属酸化物とは、単に混合されている状態であってもよく、複合酸化物として存在してもよい。また、上記(ii)の場合、コアが酸化ケイ素以外の金属酸化物(たとえば酸化亜鉛)からなり、シェルが酸化ケイ素からなるコア−シェル型の微粒子であってもよい。この場合、さらに中心から外側に向かって、酸化ケイ素以外の金属酸化物(たとえば酸化亜鉛)と酸化ケイ素の2者の組成が勾配をもって変化しているようなコア−シェル型の微粒子であってもよい。
上記(ii)の場合、微粒子が含む酸化ケイ素とそれ以外の金属酸化物の量の割合は、酸化ケイ素の100質量部に対して1.0〜8.0質量部であることが好ましく、1.5〜5.0質量部であることがより好ましい。酸化ケイ素以外の金属酸化物の量が1.0質量部以上であれば、微粒子の強度が十分に高くなり、酸化ケイ素以外の金属酸化物の量が8.0質量部以下であれば微粒子の屈折率が低く抑えられる。
酸化ケイ素以外の金属酸化物の量が1質量部以上であれば、中空状微粒子の強度が十分に高くなり、酸化ケイ素以外の金属酸化物の量が8.0質量部以下であれば、中空状微粒子の屈折率が低く抑えられる。
ここで、上記酸化ケイ素以外の金属酸化物の量とは、アルミニウムの場合、酸化アルミニウムに換算した量であり、銅の場合、酸化銅に換算した量であり、セリウムの場合、酸化セリウムに換算した量であり、スズの場合、酸化スズに換算した量であり、チタンの場合、酸化チタンに換算した量であり、クロムの場合、酸化クロムに換算した量であり、コバルトの場合、酸化コバルトに換算した量であり、鉄の場合、酸化鉄に換算した量であり、マンガンの場合、酸化マンガンに換算した量であり、ニッケルの場合、酸化ニッケルに換算した量であり、亜鉛の場合、酸化亜鉛に換算した量である。
上記酸化ケイ素を例にして微粒子の構造および組成の組合せで分類された上記(i)〜(iv)を説明したが、これと同様のことが酸化ケイ素以外の金属酸化物微粒子(A)において適用される。本発明に用いる金属酸化物微粒子(A)としては、上記(i)〜(iv)のいずれを用いてもよく、用途に応じて適宜選択すればよい。
本発明においては、これらのなかでも、上記(i)の性状の中実酸化ケイ素微粒子、(i)の酸化ケイ素に替えて酸化アルミニウムまたは酸化ジルコニウムを用いた、それぞれ中実酸化アルミニウム微粒子、中実酸化ジルコニウム微粒子、および(iii)の性状の中空酸化ケイ素、(iii)の酸化ケイ素に替えて酸化アルミニウムまたは酸化ジルコニウムを用いた、それぞれ中空酸化アルミニウム、中空酸化ジルコニウムが好ましく用いられる。
金属酸化物微粒子(A)の形状は、球状、紡錐形状、棒状、無定型、円柱状、針状、扁平状、鱗片状、葉状、チューブ状、シート状、鎖状、および板状のいずれであってもよく、球状または棒状であることが好ましい。ここで、「球状」とは、アスペクト比が1〜2のことを指す。
また、金属酸化物微粒子(A)として中空状微粒子を用いる場合、平均シェル厚さは1〜10nmが好ましく、2〜5nmが特に好ましい。平均シェル厚さが1nm以上であれば、十分な強度を有する下地層が得られる。平均シェル厚さが10nm以下であれば、粒子の屈折率が低く抑えられ、透明性の高い下地層を形成できる。
ここで、金属酸化物微粒子(A)が中空状微粒子である場合の平均シェル厚さは、金属酸化物微粒子(A)を透過型電子顕微鏡にて観察し、100個の微粒子を無作為に選び出し、各金属酸化物微粒子(A)の平均シェル厚さを測定し、得られた100個の金属酸化物微粒子(A)の平均シェル厚さを平均した値である。
なお、上記金属酸化物微粒子(A)の製造方法については、上記説明した金属酸化物微粒子(A)の性状、たとえば、上記(i)〜(iv)に分類される金属酸化物微粒子(A)における各性状、が得られる製造方法であれば特に限定されない。具体的には、必要に応じて、後述の本発明の撥水性基体の製造方法において、金属酸化物微粒子(A)の凝集体の製造方法と併せて説明する。コア−シェル型の金属酸化物微粒子(A)の製造方法についても、後述の本発明の撥水性基体の製造方法において、併せて説明する。
下地層の構成成分のひとつである、上記平均一次粒子径が20〜85nmの金属酸化物微粒子(A)の凝集体においては、上述の通り金属酸化物微粒子(A)として中空状金属酸化物微粒子(A)を用いることが好ましい。さらに、中空状金属酸化物微粒子(A)は、後述するコア−シェル型微粒子を調製する際に、マイクロ波を照射することによって得られる中空状金属酸化物微粒子(A)であることが特に好ましい。また、コア微粒子としては酸化亜鉛を用いることが好ましい。酸化亜鉛をコア微粒子として用いてマイクロ波で加熱した場合、コア微粒子が選択的に加熱されることで緻密なシェルが形成できるため、得られる下地層の強度が高まり好ましい。なお、この中空状金属酸化物微粒子(A)のシェルを構成する金属酸化物としてはシリカ(酸化ケイ素)が好ましい。したがって、本発明においては、下地層の一構成成分である金属酸化物微粒子(A)凝集体の金属酸化物微粒子(A)として、中空状シリカ微粒子が好ましく用いられる。
ここで、撥水性皮膜の表面に超撥水性を発現させるには比較的大きな凹凸形状が必要であるため、上記のように金属酸化物微粒子(A)の凝集体を用いるが、光の散乱強度は粒子径が大きいほど大きくなるため、透明性が損なわれやすくなる。一方で、光の散乱強度は粒子の屈折率にも依存し、空気(屈折率は1)との屈折率差が小さいほど小さくなる。従って、本発明に用いる金属酸化物微粒子(A)の凝集体の屈折率は1.4以下であることが好ましく、1.05〜1.35であることがより好ましく、1.1〜1.3であることが特に好ましい。金属酸化物微粒子(A)の凝集体の屈折率が1.05以上であれば、下地層の強度が十分に確保される。また、金属酸化物微粒子(A)の凝集体の屈折率が1.4以下であれば、高い透明性を有する下地層が得られる。このように、金属酸化物微粒子(A)の凝集体の屈折率を調整することによって、撥水性および透明性にも優れる撥水性基体を得ることができる。また、屈折率が1.1〜1.3程度の金属酸化物微粒子(A)の凝集体を用いて得られる撥水性基体は、良好な透明性を示し、十分な視野を確保でき、さらには優れた反射防止性能を示すので好ましい。よって、自動車等の車両窓または太陽電池用カバーに特に好適である。
なお、本発明において、金属酸化物微粒子(A)の凝集体の屈折率とは、凝集体を構成している個々の材料、すなわち金属酸化物微粒子(A)の屈折率を指すのではなく、凝集体全体としての屈折率を指す。凝集体全体としての屈折率は、分光光度計により測定した最低反射率から算出される。本発明に用いる下地層のように、下地層がバインダーを含む場合には、バインダーとともに膜(層)とした状態で分光光度計により測定した最低反射率より膜の屈折率を算出し、凝集体とバインダーとの重量比率より換算することにより算出される。
(金属酸化物バインダー)
本発明において撥水性皮膜を構成する層のひとつである下地層は、上記金属酸化物微粒子(A)の凝集体の他に、金属酸化物バインダーを含む。金属酸化物バインダーを構成する金属酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化スズ、および酸化セリウムからなる群から選ばれる1種以上の金属酸化物であることが好ましく、酸化ケイ素であることが特に好ましい。
なお、金属酸化物バインダーは加水分解縮合反応または熱分解により金属酸化物となる金属化合物、すなわち金属酸化物バインダーの前駆体となる金属化合物を含むバインダー材料より形成される成分であり、このようなバインダー材料から金属酸化物バインダーが形成される詳細については本発明の撥水基体製造方法において説明する。
(任意成分)
下地層は、任意成分として、平均一次粒子径が小さく、具体的には、平均一次粒子径が3〜18nm程度、好ましくは3〜10nm程度の、金属酸化物微粒子(A)の凝集体よりも凝集性の低い、言い換えれば分散性の高い、金属酸化物微粒子(C)の凝集体を含んでいることが好ましい。下地層が金属酸化物微粒子(C)の凝集体を含む場合、その含有量は、金属酸化物微粒子(A)の凝集体の含有量に対して200質量%以下とする。下地層が金属酸化物微粒子(C)の凝集体を、金属酸化物微粒子(A)の凝集体に対して200質量%を越えて含有すると下地層に十分な凹凸が形成されず、本発明の撥水性基体が有する上記のような超撥水性が発現されない。
下地層が金属酸化物微粒子(C)の凝集体を含む場合、その含有量は上記の通り金属酸化物微粒子(A)の凝集体の含有量に対して200質量%以下であるが、5〜100質量%の範囲であることが好ましく、10〜90質量%であることがより好ましい。
下地層が金属酸化物微粒子(C)の凝集体を含む場合には、さらに金属酸化物微粒子(A)の凝集体と金属酸化物微粒子(C)の凝集体の合計含有量と金属酸化物バインダー前駆体の含有量の割合が、金属酸化物換算の質量比として90:10〜50:50の割合であることが好ましく、80:20〜60:40であることがより好ましい。なお、この場合も、金属酸化物微粒子(A)の凝集体と金属酸化物バインダー前駆体の含有量の割合は、金属酸化物換算の質量比として75:25〜50:50であることが好ましく、72:28〜60:40であることがより好ましい。
金属酸化物微粒子(C)の凝集体を含むことによって、金属酸化物微粒子(A)の凝集体間の隙間を適度に埋めることが可能となり、下地層の機械的強度、耐熱性を高めることができるとともに、層形成時の硬化収縮を低減できる。このような金属酸化物微粒子(C)としては、透明性を有する金属酸化物微粒子が好ましい。金属酸化物微粒子(C)としては、たとえば、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、チタニア微粒子、ジルコニア微粒子、ITO微粒子、セリア微粒子、酸化スズ微粒子等が挙げられ、なかでもシリカ微粒子、ジルコニア微粒子等が好ましく、シリカ微粒子がより好ましい。これらは、1種を単独で用いることも可能であり、2種以上を併用することも可能である。
なお、金属酸化物微粒子(C)としてITO微粒子を使用した場合、上記同様、下地層の機械的強度、耐熱性を高めるとともに、ITOは赤外線吸収性を有するため、下地層に赤外線吸収性を付与することも可能である。
(下地層強化処理)
本発明においては、下地層の内部の間隙にポリシラザン類を含む組成物を含浸させ、このポリシラザン類を加水分解縮合または熱分解させることで形成される酸化ケイ素で、下地層の間隙の一部または全部を充填したものを下地層として用いることが可能である。このようにして得られる下地層は、上記下地層形成用組成物を硬化して得られる下地層の空隙率を低下させ硬度を大きくして、全体としての耐摩耗性を向上させた下地層として、本発明おいて好適に用いられる。なお、下地層強化処理の具体的な方法については、後述の本発明の撥水性基体の製造方法において説明する。
(2−2)撥水層
本発明の撥水性基体が有する撥水性皮膜は、上記基体の上に形成された下地層の上に撥水層を有する。撥水層は撥水皮膜の最も外側表面、言い換えれば最も基体から離れた位置に設けられる層であり、下地層の上に位置する限りは、必ずしも下地層の表面に直接設けられる必要はない。したがって、下地層と撥水層の間には必要に応じて密着層等の各種機能層を設けることができる。
本発明に係る撥水性皮膜においては、上記下地層の表面の凹凸形状を反映して、撥水層の表面も凹凸形状を有し、その凹凸形状が表面撥水性に寄与している。
撥水層は撥水性材料を含有する。撥水層を構成する撥水性材料は、特に制限されず、シリコーン系撥水性材料等が使用できる。なお、本発明においては、シリコーン系撥水剤や疎水性有機ケイ素化合物を含む撥水剤から加水分解縮合反応により形成される撥水性材料が好ましく用いられる。撥水剤については、本発明の撥水性基体の製造方法において説明する。
撥水層の厚さは、1〜10nmであることが好ましく、より好ましくは2〜5nmである。下地層の上に形成される撥水層は非常に薄い層であるため、撥水層表面の三次元形状は、下地層表面の三次元形状を反映して類似の形状となる。
ここで、撥水層に含まれる撥水剤は、撥水層が下地層表面に直接形成されている場合には、少なくとも下地層の凸部上面に結合しているのであって、金属酸化物微粒子(A)の凝集体の形状に由来して形成される下地層の凹部や間隙等の箇所(凸部上面以外の箇所)に結合していてもよい。撥水剤が下地層の凸部上面のみならず、下地層の凹部や間隙等の箇所にも付着している場合は、使用中の磨耗によって撥水性物品の凸部上面の撥水性が低下したとしても、下地層の凹部や間隙等の箇所に存在する撥水剤によって撥水性能を維持できるため好ましい。
本発明の撥水性基体が有する撥水性皮膜は、本発明の効果を損なわない範囲で、下地層と撥水層との間に、各種機能層を有していてもよい。このような機能層としては、下地層と撥水層との密着性を向上させるための密着層などが挙げられる。密着層としては、ポリシラザン類以外のケイ素化合物(アルコキシ基、イソシアネート基、ハロゲン原子等の加水分解性基がケイ素原子に結合したケイ素化合物等)から形成される酸化ケイ素の層であることが好ましい。密着層の厚さは、1〜10nmであることが好ましく、より好ましくは2〜5nmである。また、前記のようにして得られる密着層の表面は、その表面が下地層の凹凸形状を反映して下地層に類似の凹凸形状を有する。
ここで、上記撥水層および密着層、さらに必要に応じて設けられるその他機能層は、必ずしもそれぞれの下部に位置する層の表面の全体を覆っている必要はない。すなわち、各層の機能が充分に発現される限りにおいて部分的にこれらの層が形成されていない箇所があってもよい。
<撥水性基体の製造方法>
本発明の撥水性基体は、基体の少なくとも片側表面に上記説明した下地層と撥水層とを備えた上記表面特性を有する撥水性皮膜を有する。このような本発明の撥水性基体の製造方法としては、少なくとも以下の(I)の工程、(II)の工程を順に含むものである。
(I)基体の少なくとも片側表面に、金属酸化物微粒子の凝集体と金属酸化物バインダー前駆体と、分散媒体とを含む下記(Ia)または(Ib)の特徴を有する下地層形成用組成物を塗布し乾燥させて、前記凝集体由来の凹凸形状の表面を有する下地層を形成する工程(以下、「下地層形成工程」という。)。
(Ia)金属酸化物微粒子の凝集体が、主として、平均一次粒子径が20〜85nm、かつ体積平均凝集粒子径が200〜600nmである金属酸化物微粒子(A)の凝集体からなり、金属酸化物微粒子(A)の凝集体と金属酸化物バインダー前駆体とを金属酸化物換算の質量比として75:25〜50:50の割合で含有する下地層形成用組成物(以下、下地層形成用組成物(Ia)ということもある)。
(Ib)金属酸化物微粒子の凝集体が、主として、金属酸化物微粒子(A)の凝集体と、金属酸化物微粒子(A)の凝集体の含有量の5〜200質量%の量の、平均一次粒子径が3〜18nm、かつ体積平均凝集粒子径が3〜30nmである金属酸化物微粒子(C)の凝集体とからなり、金属酸化物微粒子(A)の凝集体と金属酸化物バインダー前駆体とを金属酸化物換算の質量比として75:25〜50:50の割合で、かつ金属酸化物微粒子の凝集体と金属酸化物バインダー前駆体とを金属酸化物換算の質量比として90:10〜50:50の割合で含有する下地層形成用組成物(以下、下地層形成用組成物(Ib)ということもある)。
(II)上記(I)で得られた下地層の表面に撥水剤を含む撥水層形成用組成物を塗布し乾燥させて、下地層表面に撥水層を形成し、平均膜厚が50〜600nmの撥水性皮膜を形成させる工程(以下、「撥水層形成工程」という。)。
また、上記(I)の下地層形成工程においては、さらに、下地層形成用組成物を、塗布し乾燥させた後に、得られた下地層にポリシラザン類を含む組成物を含浸させ、このポリシラザン類を加水分解縮合または熱分解させることで形成される酸化ケイ素で、下地層の間隙の一部または全部を充填する処理を含んでもよく、本発明の撥水性基体の製造方法においてはこの処理を含むことが好ましい。
さらに、本発明の撥水性基体の有する撥水性皮膜が、上記下地層と撥水層の間に密着層を有する場合は、上記(I)の工程と(II)の工程の間に、(I)’密着性向上成分を含有する密着層形成用組成物を上記下地層の表面に塗布し乾燥させて、上記下地層表面の凹凸形状に沿った密着層を形成する工程(以下、「密着層形成工程」という。)を設け、(II)の工程を、「下地層の表面に」から「密着層表面に」かえて同様の操作を行うことで本発明の撥水性基体を製造することができる。
ここで、下地層は基体上に形成される限りは、必ずしも基体の表面に直接設けられる必要はなく、基体と下地層の間には必要に応じて各種機能層、たとえば、基体の表面を改質する層や、下地層との密着性を改善する層等が設けられていてもよい。本発明の撥水性基体が有する撥水性皮膜とは、基体と下地層の間に形成された層を含むものではなく、下地層から表面の撥水層までの各層を含む積層皮膜をいい、撥水性皮膜を構成する層のなかでは下地層は最も基体に近い側に形成される。
以下、上記(I)の下地層形成工程、(II)の撥水層形成工程、(I)’の密着層形成工程について説明する。
(I)下地層形成工程
下地層形成工程は、基体の少なくとも片側表面に、以下に説明する特定の組成の下地層形成用組成物を塗布し乾燥させて、凹凸形状の表面を有する下地層を形成する工程である。
本発明の製造方法においては、下地層の上に撥水層や、必要に応じて下地層と撥水層の間に機能層が形成されるが、これらは概ね下地層表面の凹凸形状に沿う形で形成されるため、この下地層形成工程で形成される下地層表面の凹凸形状がそのまま撥水性皮膜表面の凹凸形状に反映される。したがって、本発明の製造方法により、下地層表面の凹凸形状を制御して、撥水性皮膜表面における算術平均面粗さ(Ra)を上記のように15nm〜40nmとなるように、また表面の凹凸の最大高低差(P−V)を150〜500nmとなるように調整することで、得られる撥水性基体において撥水性皮膜表面の透明性を保ちながら、上記水跳ね性の値に示す超撥水性を発現することが可能となる。
下地層形成工程に用いる基体は、上記本発明の撥水性基体における(1)基体の項にて説明したものと同様の基体が挙げられる。
(I−1)下地層形成用組成物
下地層形成工程において、上記基体に塗布する下地層形成用組成物は、金属酸化物微粒子の凝集体と、金属酸化物バインダー前駆体と、分散媒体とを含む組成物であって、上記(Ia)または(Ib)に含有成分および組成の特徴が示される下地層形成用組成物である。以下、単に下地層形成用組成物という用語を用いた場合は、下地層形成用組成物(Ia)と下地層形成用組成物(Ib)の両方を含むものである。
(金属酸化物微粒子(A)の凝集体)
上記下地層形成用組成物(Ia)、および下地層形成用組成物(Ib)がともに含有する金属酸化物微粒子(A)の凝集体は、平均一次粒子径が20〜85nmの金属酸化物微粒子(A)が凝集してなる体積平均凝集粒子径が200〜600nmの凝集体である。
金属酸化物微粒子(A)の凝集体の体積平均凝集粒子径は、200〜600nmであるが、300〜500nmであることが好ましい。金属酸化物微粒子(A)の凝集体の体積平均凝集粒子径が200nm以上であれば、これを含む下地層として基体上に形成された際に、下地層表面の凝集粒子間に適切な大きさの空隙すなわち表面の凹凸が形成される。下地層に凹凸が形成されることで、撥水性皮膜表面に水滴が付着した際に、空気を巻き込み超撥水性が発現される。また、金属酸化物微粒子(A)の凝集体の体積平均凝集粒子径が600nm以下であれば、撥水性皮膜内部の空隙を減らすことができ、十分な耐磨耗性が得られる。
なお、本明細書における金属酸化物微粒子(A)の凝集体の体積平均凝集粒子径は、動的光散乱法粒度分析計(日機装社製、マイクロトラックUPA)を用いて測定し、体積分布より求めたD50の値である。以下、金属酸化物微粒子(A)の凝集体以外の微粒子凝集体に対する体積平均凝集粒子径についても、同様の方法で測定・算出した値を用いている。
金属酸化物微粒子(A)の大きさ、形状、構成化合物の性状等については、好ましい態様を含めて、上記本発明の撥水性基体において説明したのと同様である。
本発明に用いる金属酸化物微粒子(A)の製造方法は特に限定されないが、具体的には、必要に応じて、金属酸化物微粒子(A)の凝集体の製造方法と併せて以下に説明する。特にコア−シェル型の金属酸化物微粒子(A)の製造方法については、以下に併せて説明する。
金属酸化物微粒子(A)の凝集体の製造方法は特に限定されないが、具体的には、上記好ましい体積平均凝集粒子径の凝集体が製造可能な以下の方法を採用することができる。
方法(1):所望の平均一次粒子径を有する金属酸化物微粒子(A)を凝集させ、所望の体積平均凝集粒子径を有する凝集体を得る方法。
方法(2):所望の平均一次粒子径を有する金属酸化物微粒子(A)から得られる凝集体を邂逅して、所望の体積平均凝集粒子径を有する凝集体を得る方法。
上記方法(1)および方法(2)は、中実微粒子(コア−シェル型微粒子を含む)、中空状微粒子の別なく採用できる。
方法(1)は、具体的には、所望の平均一次粒子径を有する金属酸化物微粒子(A)が分散した分散液に、表面電荷を低下させる、または粒子同士を結合させることが可能な物質(添加剤)を添加し、必要に応じて加熱熟成することによって行うことができる。
この方法においては、添加剤の量、加熱温度、加熱時間等を調整することによって、凝集体の体積平均凝集粒子径を調節可能である。通常、加熱温度は30〜500℃であり、加熱時間は1分間〜12時間である。添加剤としては、イオン交換樹脂、硝酸カルシウム、ポリアルミン酸ナトリウム等の表面電荷制御剤、珪酸ナトリウム、テトラエトキシシラン等の粒子結合剤が使用できる。添加剤の量は、金属酸化物微粒子(A)の固形分に対して10質量%以下とすることが好ましい。
また、金属酸化物微粒子(A)の凝集体を製造するための上記方法(2)として、具体的には、所望の平均一次粒子径を有する金属酸化物微粒子(A)および/または前記金属酸化物微粒子(A)が凝集してなる凝集体が分散媒体に分散した分散液を準備し、前記分散媒体を除去して得られる固形分を、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ホモミキサー、ペイントシェーカー等によって邂逅する方法が挙げられる。
上記方法において分散媒体の除去は、具体的には、以下の手法によることができる。
(a)金属酸化物微粒子の分散液を加熱して、分散媒体を揮発させる方法。
(b)金属酸化物微粒子の分散液を固液分離して、固形分を得る方法。
(c)スプレードライヤーを用い、加熱されたガス中に金属酸化物微粒子の分散液を噴霧して分散媒体等を揮発させる方法(スプレードライ法)。
(d)金属酸化物微粒子の分散液を冷却し減圧することで、分散媒体等を昇華させる方法(凍結乾燥法)。
このようにして本発明に用いる金属酸化物微粒子(A)の凝集体が製造できるが、金属酸化物微粒子(A)の凝集体として好ましい態様である中空状の金属酸化物微粒子(A)の凝集体の製造方法について、コア−シェル型の金属酸化物微粒子(A)凝集体の製造方法として、以下に具体的に説明する。
なお、コア−シェル型微粒子を用いて中空状微粒子が凝集してなる凝集体を得る場合、本出願人による特開2006−335881号公報、特開2006−335605号公報等を参考に実施できる。
コア−シェル型微粒子を製造する方法は、気相法であっても液相法であってもよい。気相法による方法では、コア微粒子の原料と、たとえば金属Si等の酸化ケイ素原料とにプラズマを照射することによってコア−シェル型微粒子を製造できる。気相法によりコア−シェル型の金属酸化物微粒子(A)を製造した場合、必要に応じてコアを形成する成分を除去し中空状微粒子とした後、ビーズミル等の分散機を用いて分散媒体中で分散することにより、所望の体積平均凝集粒子径を有する凝集体とすることができる。なお、コア成分を除去する方法としては、以下の液相法における方法と同様の方法を取ることができる。
コア−シェル型微粒子を液相法により製造する方法としては、まず、コア微粒子集合体を分散媒体に分散させた分散液に、酸化ケイ素等の金属酸化物の前駆体、必要に応じて水、有機溶媒、酸、アルカリ、硬化触媒等を添加して、コア−シェル型微粒子を製造するための原料液(以下、「コア−シェル型微粒子原料液」ということもある。)を調製し、つぎに、この原料液を加熱するとともに、酸化ケイ素等の金属酸化物の前駆体を加水分解して、コア微粒子集合体の表面に酸化ケイ素等の金属酸化物を析出させ、シェルを形成し、コア−シェル型微粒子凝集体を得る方法が挙げられる。
上記液相法に用いるコア微粒子としては、最終的にコア微粒子を含む中実のコア−シェル型微粒子として本発明に用いる場合には、金属酸化物微粒子(A)の構成成分として上記した金属酸化物からなる微粒子が用いられる。コア−シェル型微粒子を最終的にコア部分が取り除かれた中空状微粒子として本発明に用いる場合には、コア微粒子は、通常コア−シェル型微粒子の調製に用いられる材料からなる微粒子であれば特に限定されずに用いることが可能である。
たとえば、中空状微粒子の凝集体を得る場合は、コア微粒子を構成する材料として、熱、酸、または光によって溶解、または分解、昇華するものが好ましく使用される。このようなコア微粒子構成材料として、具体的には、界面活性剤ミセル、水溶性有機重合体、スチレン樹脂、アクリル樹脂等の熱分解性有機重合体微粒子;アルミン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、塩基性炭酸亜鉛、酸化亜鉛等の酸溶解性無機微粒子;硫化亜鉛、硫化カドミウム等の金属カルコゲナイド半導体および酸化亜鉛等の光溶解性無機微粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用できる。
ここで、上記液相法によるコア−シェル型微粒子原料液の加熱を、後述するようなマイクロ波を照射することにより行い、シェルを形成する手法においては、コア微粒子は比誘電率が10以上、好ましくは10〜200の材料からなる微粒子であることが好ましい。コア微粒子の材料の比誘電率が10以上であれば、マイクロ波を吸収しやすくなるため、マイクロ波によってコア微粒子を選択的に、かつ高温(100℃以上)に加熱できる。比誘電率は、ネットワークアナライザを用いて、ブリッジ回路によって試料に電場を印加し、反射係数と位相を測定した値から算出することができる。
比誘電率が10以上のコア微粒子用材料としては、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、硫化亜鉛、ガリウム砒素、酸化鉄、酸化カドミウム、酸化銅、酸化ビスマス、酸化タングステン、酸化セリウム、酸化スズ、金、銀、銅、白金、パラジウム、ルテニウム、鉄白金、カーボン等が挙げられる。
ここで得られるコア−シェル型微粒子を、最終的にコア微粒子を含む中実のコア−シェル型微粒子(金属酸化物微粒子(A))として本発明に用いる場合には、これらのコア微粒子用材料うち、酸化亜鉛、酸化チタン、ITO、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、硫化亜鉛、酸化セリウム、または酸化スズを用いることが、透明性の高い膜が得られる点から好ましい。
上記液相法に用いるコア微粒子の形状は特に限定されない。たとえば、球状、紡錐形状、棒状、無定型、円柱状、針状、扁平状、鱗片状、葉状、チューブ状、シート状、鎖状、または板状の粒子を使用できる。形状の異なる粒子を併用してもよい。また、コア微粒子が単分散であると、凝集体粒子が得られにくいことがあるため、コア微粒子が2〜10個集合した集合体を用いることが好ましい。
上記各種形状のコア微粒子のうちでも、本発明においては球状のコア微粒子が好ましく用いられる。この場合、コア微粒子の平均一次粒子径は、5〜75nmであることが好ましく、5〜70nmであることが特に好ましい。コア微粒子の平均一次粒子径が5nm以上であれば、得られるコア−シェル型微粒子の強度が保たれる。コア微粒子の平均一次粒子径が75nm以下であれば、下地層の透明性が保たれる。また、コア微粒子凝集体の体積平均凝集粒子径は50〜600nmが好ましく、100〜500nmが特に好ましい。体積平均凝集粒子径が50nm以上であれば、基材上に塗布された際に膜表面に凹凸が形成されるため、水滴を落とした際に空気を巻き込み超撥水性が発現し易い。体積平均凝集粒子径が600nm以下であれば、膜内部の空隙率が低く抑えらえ、磨耗条件が加わって磨耗が起こったとしても凹凸形状が維持されやすい。
コア微粒子を好ましくは集合体(凝集体)のかたちで分散媒体に分散させた状態を得るには、種々の方法を採用できる。たとえば、分散媒体中でコア微粒子を調製する方法;コア微粒子粉末に、後述するような分散媒体および分散剤を加えてボールミル、ビーズミル、サンドミル、ホモミキサー、ペイントシェーカー等の分散機で解膠する方法;等が挙げられる。
ここで、コア微粒子集合体(凝集体)を分散媒体に分散させた分散液中のコア微粒子の含有量は、分散液全量に対するコア微粒子の量として、0.1〜40質量%となる量が好ましく、0.5〜20質量%となる量がより好ましい。分散液中のコア微粒子含有量が前記の範囲であれば、分散液の安定性が良好であり、コア−シェル型微粒子の製造効率が良好となる。
コア微粒子の分散媒体としては、水を含有することは必須ではないが、つぎの金属酸化物前駆体の加水分解縮合工程にそのまま使用する場合は、分散媒体は、水単独または水と前記有機溶媒との混合媒体が好ましい。前記有機溶媒としては、少なくとも水に部分的に溶解しうるか、好ましくは水を部分的に溶解しうる有機溶媒であり、もっとも好ましくは水に混和しうる有機溶媒である。
このような有機溶媒として、具体的には、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル類(テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸メチル等)、グリコールエーテル類(エチレングリコールモノアルキルエーテル等)、含窒素化合物類(N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等)、含硫黄化合物類(ジメチルスルホキシド等。)等が挙げられる。
分散媒体が水と前記有機溶媒との混合媒体である場合、該混合媒体は全媒体に対して少なくとも5質量%以上の水を含むことが好ましい。水の含有量が5質量%未満であると加水分解縮合反応が充分進行しないおそれがある。なお、分散液中の酸化ケイ素前駆体中のケイ素原子に結合した水酸基または加水分解性基に対して、少なくとも化学量論以上の水を系内に存在させることが必要である。
つぎに、上記コア微粒子の集合体(凝集体)の周囲を酸化ケイ素等の金属酸化物で被覆し、コア−シェル型微粒子の凝集体を得る。具体的には、上記で得られたコア微粒子集合体の分散液に金属酸化物(酸化ケイ素等)の前駆体を添加して、加熱等により、コア微粒子集合体存在下に金属酸化物の前駆体を反応させて、該コア微粒子集合体の表面に金属酸化物(酸化ケイ素等)を析出させて外殻を形成することにより得られる。
シェル形成のために上記コア微粒子集合体の分散液中に添加される金属酸化物前駆体の量は、得られるコア−シェル型微粒子において平均シェル厚さが1〜10nmとなる量が好ましく、平均シェル厚さが2〜5nmとなる量がより好ましい。金属酸化物前駆体の量(金属酸化物換算)は、具体的には、コア微粒子100質量部に対して、3〜1000質量部が好ましい。
また、コア−シェル型微粒子を製造する際に用いる、コア−シェル型微粒子原料液における固形分濃度(コア微粒子(集合体)とシェル形成用の金属酸化前駆体(金属酸化物換算)の合計濃度)は、0.1質量%以上、30質量%以下の範囲であることが好ましく、1質量%以上、20質量%以下の範囲であることが特に好ましい。固形分濃度が30質量%を超えると微粒子分散液の安定性が低下するため、好ましくなく、0.1質量%未満では、得られるコア−シェル型微粒子凝集体、たとえば、中空状シリカ微粒子凝集体の生産性が非常に低くなり、好ましくない。
金属酸化物が酸化ケイ素である場合、酸化ケイ素の前駆体としては、ケイ酸、ケイ酸塩、およびケイ酸アルコキシドからなる群より選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。これらの化合物は、1個以上の水酸基または加水分解性基(ハロゲン原子、アルコキシ基等)がケイ素原子に結合した化合物である。これらの前駆体は異なる種類の化合物を併用してもよい。また、これらの前駆体は部分加水分解縮合物であってもよい。
ケイ酸としては、アルカリ金属ケイ酸塩を酸で分解した後、透析する方法;アルカリ金属ケイ酸塩を解膠する方法;アルカリ金属ケイ酸塩を酸型のカチオン交換樹脂と接触させる方法等によって得られるケイ酸が挙げられる。
ケイ酸塩としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のアルカリケイ酸塩;ケイ酸テトラエチルアンモニウム塩等のケイ酸アンモニウム塩;ケイ酸のアミン類(エタノールアミン等)の塩等が挙げられる。
ケイ酸アルコキシドとしては、テトラエトキシシラン等の、ケイ素原子に4個のアルコキシ基が結合した化合物が挙げられる。この他、ケイ素原子に1〜3個の有機基が結合したケイ酸アルコキシドであってもよい。該有機基としては、ビニル基、エポキシ基、アミノ基等の官能基を含む1価有機基;ペルフルオロアルキル基やエーテル性酸素原子を含むペルフルオロアルキル基等の含フッ素1価有機基等;が挙げられる。
これらの有機基が結合したケイ素原子を有するケイ酸アルコキシドとしては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、ペルフルオロエチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
ここで、上記コア−シェル型微粒子原料液には、上記コア微粒子(集合体)、シェル形成用の金属酸化物の前駆体、分散媒体の他に、必要に応じてアルカリ、酸、硬化触媒等を添加することができる。
アルカリとしては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、ジメチルアミン、トリエチルアミン、アニリン等が挙げられ、加温により除去可能な点から、アンモニアが好ましい。アルカリの量は、金属酸化物前駆体が三次元的に重合して緻密なシェルを形成しやすい点から、上記コア−シェル型微粒子原料液のpHが8.5〜10.5となる量が好ましく、9.0〜10.0となる量がより好ましい。
酸としては、塩酸、硝酸等が挙げられる。なお、酸化亜鉛粒子は酸に溶解するため、コア微粒子として酸化亜鉛粒子を用いる場合、金属酸化物前駆体の加水分解はアルカリによって行うことが好ましい。酸の量は、上記コア−シェル型微粒子原料液のpHが3.5〜5.5となる量が好ましい。
硬化触媒としては、金属キレート化合物、有機スズ化合物、金属アルコレート、金属脂肪酸塩等が挙げられ、シェルの強度の点から、金属キレート化合物、または有機スズ化合物が好ましく、金属キレート化合物が特に好ましい。金属キレート化合物を添加すると、鎖状中実微粒子が副生し、中空状微粒子同士が鎖状中実微粒子で連結した構造を形成しやすい。
金属キレートとしては、アルミニウムキレート化合物(アルミニウムアセチルアセトナート、アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトナート、アルミニウム−ジ−n−ブトキシド−モノエチルアセトアセテート、アルミニウム−ジ−イソプロポキシド−モノメチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセテート等。)、チタンキレート化合物(チタンアセチルアセトナート、チタンテトラアセチルアセトナート等。)、銅キレート化合物(銅アセチルアセトナート等。)、セリウムキレート化合物(セリウムアセチルアセトナート等。)、クロムキレート化合物(クロムアセチルアセトナート等。)、コバルトキレート化合物(コバルトアセチルアセトナート等。)、スズキレート化合物(スズアセチルアセトナート等。)、鉄キレート化合物(鉄(III)アセチルアセトナート等。)、マンガンキレート化合物(マンガンアセチルアセトナート等。)、ニッケルキレート化合物(ニッケルアセチルアセトナート等。)、亜鉛キレート化合物(亜鉛アセチルアセトナート等。)、ジルコニウムキレート化合物(ジルコニウムアセチルアセトナート等。)等が挙げられる。中空状微粒子の強度の点から、アルミニウムキレート化合物、特にアルミニウムアセチルアセトナートが好ましい。
硬化触媒の量(金属酸化物換算)は、金属酸化物前駆体の量(金属酸化物換算)の100質量部に対して0.1〜20.0質量部が好ましく、0.2〜8.0質量部がより好ましい。
また、コア−シェル型微粒子原料液を製造する際に、原料液のイオン強度を高めて酸化ケイ素等の金属酸化物の前駆体からシェルを形成しやすくするために、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、アンモニア、水酸化ナトリウム等の電解質を添加してもよい。また、これらの電解質を用いて反応液のpHを調整することができる。
コア−シェル型微粒子原料液の加熱は、通常の加熱によるほか、マイクロ波の照射によることもできる。マイクロ波とは、通常、周波数が300MHz〜300GHzの電磁波を指す。通常は、周波数が2.45GHzのマイクロ波が用いられるが、被加熱物が有効に加熱される周波数を選択すればよく、これに限定されるものではない。電波法により、ISMバンドと呼ばれる通信以外の目的で電波を利用する用途のために周波数帯が定められており、たとえば、433.92(±0.87)MHz、896(±10)MHz、915(±13)MHz、2375(±50)MHz、2450(±50)MHz、5800(±75)MHz、24125(±125)MHz等のマイクロ波を用いることができる。
マイクロ波の出力は、コア−シェル型微粒子原料液が30〜500℃に加熱される出力が好ましく、50〜300℃に加熱される出力がより好ましい。コア−シェル型微粒子原料液の温度が30℃以上であれば、緻密なシェルを短時間で形成できる。コア−シェル型微粒子原料液の温度が500℃以下であれば、コア微粒子表面以外で析出する金属酸化物の量が抑えられる。
マイクロ波の照射時間は、マイクロ波の出力(コア−シェル型微粒子原料液の温度)に応じて、所望の厚さのシェルが形成される時間に調整すればよく、たとえば、10秒間〜60分間である。
上記のように、比誘電率が10以上の材料からなるコア微粒子(集合体)と金属酸化物前駆体とを含むコア−シェル型微粒子原料液にマイクロ波を照射する方法では、コア微粒子(集合体)を選択的に、かつ高温(たとえば100℃以上)に加熱できる。そのため、コア−シェル型微粒子原料液全体が高温(たとえば100℃以上)になったとしても、コア微粒子がさらに高温に加熱されているため、金属酸化物前駆体の加水分解縮合がコア微粒子の表面にて優先的に進行し、コア微粒子の表面に金属酸化物が選択的に析出する。よって、コア微粒子の表面以外に単独で析出するシェル形成材料(金属酸化物)からなる粒子の量が抑えられる。また、シェルを高温条件にて形成できるため、シェルが短時間で形成される。さらに、シェルがより緻密になり、得られる撥水性基体の耐磨耗性が向上するため好ましい。
つぎに、得られたコア−シェル型微粒子の凝集体を邂逅し、本発明に用いる金属酸化物微粒子(A)の凝集体として所望の体積平均凝集粒子径を有するコア−シェル型微粒子(中実微粒子)の凝集体を得る。邂逅の方法は、前記方法(2)と同様の方法を採用できる。
本発明に用いる金属酸化物微粒子(A)の凝集体が中空状微粒子の凝集体である場合は、さらに、上記で得られたコア−シェル型微粒子(中実微粒子)のコア微粒子部分を除去する工程を行う。コア微粒子除去の工程は、邂逅工程の前後いずれで行ってもよい。
コア微粒子の除去は、コア−シェル型微粒子のコア微粒子を溶解または分解させることによって行うことができる。コア−シェル型微粒子のコア微粒子を、溶解、または分解させる方法としては、熱による分解、酸による溶解(分解)、光による分解等から選ばれる1種または2種以上の方法が挙げられる。
コア微粒子が熱分解性有機樹脂の場合、気相もしくは液相中で加熱することによってコア微粒子を除去することができる。加熱温度は200〜1000℃の範囲とすることが好ましい。200℃未満ではコア微粒子が残存するおそれがあり、1000℃を超えると酸化ケイ素等のシェルを構成する金属酸化物が溶融するおそれがあるため好ましくない。
コア微粒子が酸溶解性無機化合物の場合、気相もしくは液相中で酸もしくは酸性カチオン交換樹脂を加えることによってコア微粒子を除去可能である。
酸によってコア微粒子を溶解して除去する場合、酸としては、無機酸であっても、有機酸であってもよい。無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。有機酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸等が挙げられる。この場合、コア微粒子が溶解して発生したイオンを限外ろ過によって除去すればよい。
また、液状の酸または酸溶液の代わりに、酸性カチオン交換樹脂を用いることも好ましい。酸性カチオン交換樹脂としては、カルボン酸基を有するポリアクリル樹脂系またはポリメタクリル樹脂系のものが好ましく、より強酸性であるスルホン酸基を有するポリスチレン系のものが特に好ましい。この場合、コア微粒子が溶解した後に、ろ過等の固液分離操作によりカチオン交換樹脂を分離し、中空状金属酸化物微粒子、たとえば、中空状シリカ微粒子の分散液を得る。酸を加えてコア微粒子を溶解する方法では、コアが溶解して発生したイオンの限外ろ過による除去に長時間を要するため、酸性カチオン交換樹脂を用いて、コア微粒子を溶解することが好ましい。
なお、酸性カチオン交換樹脂を用いてコア−シェル型微粒子のコア微粒子を除去する場合には、この操作によって中空金属酸化物微粒子を得る際に、その中空金属酸化物微粒子からなる凝集体の体積平均凝集粒子径を、金属酸化物微粒子と酸性カチオン交換樹脂との攪拌時間によって制御することも可能である。
また、コア微粒子が光溶解性無機化合物の場合、気相もしくは液相中で光を照射することによってコア微粒子を除去することもできる。光としては、波長380nm以下の紫外線が好ましい。
本発明に用いる金属酸化物微粒子(A)の凝集体としては、このようにして得られる、中空状金属酸化物微粒子が凝集してなる凝集体が好ましい。さらに、中空状金属酸化物微粒子の凝集体は、コア−シェル型微粒子凝集体を調製する際に、マイクロ波を照射することによって得られる中空状金属酸化物微粒子の凝集体であることが特に好ましい。また、コア微粒子としては酸化亜鉛を用いることが好ましい。酸化亜鉛をコア微粒子として用いてマイクロ波で加熱した場合、コア微粒子が選択的に加熱されることで緻密なシェルが形成できるため、得られる下地層の強度が高まり好ましい。なお、この中空状金属酸化物微粒子のシェルを構成する金属酸化物としてはシリカ(酸化ケイ素)が好ましい。したがって、本発明に用いる金属酸化物微粒子(A)の凝集体としては、中空状シリカ微粒子の凝集体が好ましい。
また、本発明に用いる金属酸化物微粒子(A)の凝集体の屈折率については、好ましい態様を含めて、上記本発明の撥水性基体において説明したのと同様である。
下地層形成用組成物に含まれる金属酸化物微粒子(A)の凝集体の含有量は、下地層形成用組成物全量に対して0.1〜5質量%であることが好ましく、0.5〜3質量%であることが特に好ましい。この理由は、得られる下地層が適切な凹凸形状を有することにより超撥水性が発現しやすくなるためである。
また、下地層形成用組成物に含まれる金属酸化物微粒子(A)の凝集体と、以下に説明する金属化合物(B)との総量は、下地層形成用組成物の全量に対して0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜10質量%であることが特に好ましく、1〜5質量%が特に好ましい。固形分濃度が0.1質量%以上の場合、超撥水性を発現するのに十分な厚さの下地層を形成できる。固形分濃度が10質量%以下の場合、下地層の厚さが大きくなりすぎず透明性を確保できる。
また、本発明の製造方法においては、下地層形成用組成物に含まれる金属酸化物微粒子(A)の凝集体と金属酸化物バインダー前駆体、すなわち、金属化合物(B)との割合は、金属酸化物換算の質量比で、金属酸化物微粒子(A)の凝集体:金属化合物(B)として、75:25〜50:50であるが、72:28〜60:40であることが好ましい。金属酸化物微粒子(A)の凝集体と金属化合物(B)の割合が、この範囲にあれば、得られる下地層の凹凸が十分であり、これを反映する撥水性皮膜表面の超撥水性を発現することができ、下地層の強度も十分に確保される。
ここで、この下地層形成用組成物に含まれる金属酸化物微粒子(A)の凝集体と金属化合物(B)の割合は、金属酸化物換算の質量比で、そのまま、下地層における金属酸化物微粒子(A)の凝集体と金属酸化物バインダーとの割合となる。
(金属酸化物バインダー前駆体:金属化合物(B))
本発明の製造方法に用いる下地層形成用組成物(Ia)および下地層形成用組成物(Ib)はともに、金属酸化物バインダー前駆体を含有する。金属酸化物バインダー前駆体は、下地層形成工程において加水分解縮合反応や熱分解等の一般的な反応により、金属酸化物バインダーとなる金属化合物(以下、単に「金属化合物(B)」という)である。
金属化合物(B)としては、加水分解性基が結合した加水分解性金属化合物、該加水分解性金属化合物の部分加水分解縮合物、または配位子が配位した金属配位化合物であることが好ましい。加水分解性金属化合物は加水分解縮合反応により金属酸化物となり、金属配位化合物は熱分解して金属酸化物となる。金属原子としては、ケイ素原子、アルミニウム原子、チタン原子、スズ原子、およびセリウム原子からなる群から選ばれる1種以上の金属原子であることが好ましく、ケイ素原子であることが特に好ましい。
金属化合物(B)が加水分解性金属化合物である場合に、加水分解性基としては、アルコキシ基、イソシアネート基、およびハロゲン原子等が挙げられ、アルコキシ基が好ましい。アルコキシ基は、加水分解反応および縮合反応の進行が緩やかである。また、加水分解性基がアルコキシ基である場合には、金属化合物(B)は、後述する下地層形成用組成物中で凝集することなく分散し、下地層として成形された際に、金属酸化物微粒子(A)の凝集体のバインダーとして充分に機能できる利点がある。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、およびイソプロポキシ基が挙げられる。
金属化合物(B)が金属配位化合物である場合に、配位子としては、アセチルアセテート、アセチルアセトナート、エチルアセトアセテート、ラクテート、およびオクチレングリコレート等が挙げられる。
金属化合物(B)が加水分解性金属化合物である場合には、金属原子に少なくとも2個の加水分解性基が結合していることが好ましい。金属化合物(B)が金属配位化合物である場合には、金属原子に少なくとも2個の配位子が配位していることが好ましい。金属原子に、少なくとも2個の加水分解性基が結合(または少なくとも2個の配位子が配位)していると、該金属化合物(B)が金属酸化物バインダーになる際に、強固なバインダーとなる。
金属化合物(B)が加水分解性金属化合物である場合に、金属化合物(B)の金属原子には、加水分解性基以外の基が結合していてもよい。加水分解性基以外の基としては、1価有機基が挙げられる。1価有機基としては、アルキル基;フッ素原子、塩素原子、エポキシ基、アミノ基、アシルオキシ基、およびメルカプト基等の官能基を有するアルキル基;アルケニル基;等が挙げられ、具体的には、後述するR、R、R、Rと同様の基である。
金属化合物(B)が加水分解性金属化合物である場合には、金属化合物(B)は、金属原子がケイ素原子である加水分解性ケイ素化合物、または該ケイ素化合物の部分加水分解縮合物であることが好ましい。具体的には、下記化合物(B−1)、下記化合物(B−2)、下記化合物(B−3)および下記化合物(B−4)からなる群から選ばれる少なくとも1種の加水分解性ケイ素化合物、または、該加水分解性ケイ素化合物の部分加水分解縮合物であることが好ましい。
−Si(R)(X(3−m) …(B−1)
−Si(R)(X(3−k) …(B−2)
−Si(R)(X(3−n) …(B−3)
Si(X …(B−4)
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:炭素数1〜20のアルキル基、または、炭素数2〜6のアルケニル基。
:炭素数1〜20のポリフルオロアルキル基。
:エポキシ基、アミノ基、アシルオキシ基、メルカプト基および塩素原子からなる群から選ばれた少なくとも1種類の官能基を有する炭素数1〜10の有機基。
R:炭素数1〜6のアルキル基または炭素数2〜6のアルケニル基。
、X、X、X:それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のアシルオキシ基、またはイソシアネート基。
k、m、n:それぞれ独立に0または1。
なお、上記化合物(B−1)において、Rが炭素数1〜20のアルキル基である場合、アルキル基としてはメチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、およびn−デシル基が挙げられ、メチル基、エチル基、またはイソプロピル基が好ましい。
が炭素数2〜6のアルケニル基である場合、炭素数は2〜4の直鎖アルケニル基であることが好ましい。炭素数は2〜4の直鎖アルケニル基としては、具体的にはビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられ、ビニル基またはアリル基が好ましい。
上記化合物(B−2)において、Rは、対応する炭素数1〜20のアルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうちの2個以上がフッ素原子に置換された基である。Rとしては、全ての水素原子がフッ素原子に置換されたペルフルオロアルキル基が特に好ましい。Rとしては、さらに、下式(B−5)で表される基も好ましい。また、Rの炭素数は1〜10が好ましい。
F(CF(CH− …(B−5)
ただし、式(B−5)中のpは1〜8の整数、qは2〜4の整数であり、p+qは3〜12であり、6〜11が好ましい。pとしては4〜8の整数が好ましい。qとしては2または3が好ましい。
ペルフルオロアルキル基としては、CF−、F(CF−、F(CF−、またはF(CF−が好ましい。
式(B−5)で表される基としては、F(CF(CH−、F(CF(CH−、F(CF(CH−、F(CF(CH−、F(CF(CH−、またはF(CF(CH−が好ましい。
上記化合物(B−1)〜(B−4)において、X、X、X、およびXがハロゲン原子である場合は、塩素原子であることが好ましい。また、X、X、X、およびXが炭素数1〜6のアルコキシ基である場合は、それぞれ独立に、メトキシ基、エトキシ基、またはイソプロポキシ基であることが好ましい。また、X、X、X、およびXが炭素数1〜6のアシルオキシ基である場合は、それぞれ独立に、アセチルオキシ基、またはプロピオニルオキシ基が好ましい。
なお、上記化合物(B−3)において、Rの官能基としては、エポキシ基、アミノ基、またはアシルオキシ基が好ましい。また、官能基がアシルオキシ基である場合、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、またはブチリルオキシ基が好ましい。なお、ここでの「炭素数1〜10」とは、前記官能基に含まれる炭素原子の数は含まない。
k、m、およびnは、それぞれ独立に0または1である。k、m、およびnはそれぞれ、0であることが好ましい。k、m、およびnがそれぞれ0であると、金属化合物(B−1)〜(B−3)は加水分解性基を3個有することとなり、該金属化合物同士が、または該金属化合物と金属酸化物微粒子とが強固に結合できて好ましい。
化合物(B−1)として、具体的には、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エテニルジメトキシシラン、プロペニルジメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリエトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
化合物(B−2)として、具体的には、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)メチルジメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロメチル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロメチル)メチルジメトキシシラン、3−(ヘプタフルオロエチル)プロピルトリメトキシシラン、3−(ノナフルオロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、3−(ノナフルオロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、3−(トリデカフルオロオクチル)プロピルトリメトキシシラン、3−(トリデカフルオロオクチル)プロピルトリエトキシシラン、3−(ヘプタデカフルオロデシル)プロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
化合物(B−3)として、具体的には、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、アセトキシメチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
化合物(B−4)として、具体的には、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトライソシアネートシラン、テトラクロロシラン等が挙げられる。
本発明においては、金属化合物(B)としては、上記化合物(B−1)〜(B−4)のうちでも、アルコキシシラン化合物が好ましく、より好ましくは、化合物(B−4)の加水分解性基がアルコキシ基であるアルコキシシラン化合物または該化合物(B−4)の部分加水分解縮合物が好ましい。より具体的には、テトラエトキシシラン、テトラエトキシシランの部分加水分解縮合物、テトラメトキシシラン、またはテトラメトキシシランの部分加水分解縮合物が好ましい。
その他に、金属化合物(B)としては、テトライソプロポキシチタニウム、テトラブトキシチタニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、テトラブトキシジルコニウム、またはテトラプロポキシジルコニウムも好適に使用できる。
金属化合物(B)が金属配位化合物である場合、該化合物としては、アルミニウムトリス(アセチルアセテート)、アルミニウム(エチルアセトアセテート)ジイソプロポキシド、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、チタニウムビス(アセチルアセテート)ジイソプロポキシド、チタニウムテトラ(アセチルアセテート)、チタニウムビス(オクチレングリコレート)ジブトキシド、チタニウムビス(ラクテート)ジヒドロキシド、チタニウムビス(トリエタノールアミノレート)、チタニウムビス(エチルアセトアセテート)ジイソプロポキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート、ジルコニウム(テトラアセチルアセテート)、ジルコニウム(アセチルアセテート)トリブトキシド、ジルコニウムビス(アセチルアセテート)ジブトキシド、ジルコニウム(アセチルアセテート)(エチルアセトアセテート)ジブトキシド等が挙げられ、アルミニウムトリス(アセチルアセテート)が好ましい。
また、金属化合物(B)がフッ素原子を含む化合物であると、耐薬品性や対摩耗性などの耐久性が高い利点がある。
下地層形成用組成物における金属化合物(B)の含有量は上述の通りである。
(金属酸化物微粒子(C)の凝集体)
上記下地層形成用組成物(Ib)が、上記金属酸化物微粒子(A)の凝集体に加えてさらに含有する金属酸化物微粒子(C)の凝集体は、上記本発明の撥水性基体・下地層で説明した平均一次粒子径が小さく、具体的には、平均一次粒子径が3〜18nm、好ましくは3〜10nmであり、金属酸化物微粒子(A)の凝集体よりも凝集性の低い、体積平均凝集粒子径が3〜30nm、好ましくは、3〜15nmの特徴を有する金属酸化物微粒子の凝集体である。
下地層形成用組成物が、金属酸化物微粒子(C)の凝集体を含むことによって、金属酸化物微粒子(A)の凝集体間の隙間を適度に埋めることが可能となり、形成される下地層の機械的強度、耐熱性を高めることができ、また硬化反応時の層の硬化収縮を低減できる。
下地層形成用組成物(Ib)は、金属酸化物微粒子(C)の凝集体を、金属酸化物微粒子(A)の凝集体の含有量に対して5〜200質量%以下の含有量で含有する。下地層形成用組成物が金属酸化物微粒子(C)の凝集体を、金属酸化物微粒子(A)の凝集体に対して200質量%を越えて含有すると下地層に十分な凹凸が形成されず、本発明の撥水性基体が有する上記のような超撥水性が発現されない。なお、金属酸化物微粒子(C)の凝集体の含有量は、金属酸化物微粒子(A)の凝集体含有量に対して、5〜100質量%の範囲であることが好ましく、10〜90質量%であることがより好ましい。
下地層形成用組成物(Ib)においては、金属酸化物微粒子(A)の凝集体と金属酸化物微粒子(C)の凝集体の合計含有量と金属酸化物バインダー前駆体の含有量の割合が、金属酸化物換算の質量比として90:10〜50:50の割合であるが、80:20〜60:40であることが好ましい。なお、下地層形成用組成物(Ib)においても、下地層形成用組成物(Ia)と同様、金属酸化物微粒子(A)の凝集体と金属酸化物バインダー前駆体の含有量の割合は、金属酸化物換算の質量比として75:25〜50:50であり、72:28〜60:40であることが好ましい。
上記金属酸化物微粒子(C)として本発明に好ましく用いられるシリカ微粒子は、水またはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ブチル等の有機溶媒中に分散されたコロイダルシリカとして下地層形成用組成物に配合することができる。コロイダルシリカとしては、水に分散されたシリカヒドロゾル、水が有機溶媒に置換されたオルガノシリカゾルがあるが、どちらのコロイダルシリカを用いてもよい。好ましくは、下地層形成用組成物に好ましく用いられる有機溶剤と同様の有機溶媒を分散媒体として用いたオルガノシリカゾルが用いられる。
シリカヒドロゾル、オルガノシリカゾルとしては、市販品を用いることが可能であり、このような市販品として、たとえば、シリカ微粒子が水にシリカヒドロゾル全体量に対する酸化ケイ素含有量として15質量%の割合で分散したシリカヒドロゾルST−OXS(商品名、日産化学工業社製、平均一次粒子径:5nm、体積平均凝集粒子径:6nm)、シリカ微粒子がイソプロピルアルコールにオルガノシリカゾル全体量に対する酸化ケイ素含有量として30〜45質量%の割合で分散した、オルガノシリカゾルIPA−ST−S(商品名、日産化学工業社製、平均一次粒子径:9nm、体積平均凝集粒子径:10nm)、オルガノシリカゾルIPA−ST(商品名、日産化学工業社製、平均一次粒子径:15nm、体積平均凝集粒子径:14nm)、シリカ微粒子が酢酸ブチルにオルガノシリカゾル全体量に対する酸化ケイ素含有量として30質量%の割合で分散したオルガノシリカゾルNBAC−ST(商品名、日産化学工業社製、平均一次粒子径:15nm、体積平均凝集粒子径:15nm)等を挙げることができる。
なお、シリカ微粒子としてコロイダルシリカを用いる場合には、下地層形成用組成物に配合する溶媒の量を、コロイダルシリカに含まれる溶媒量を勘案して、適宜調整する。
また、上記金属酸化物微粒子(C)として本発明にシリカ微粒子と同様に好ましく用いられるジルコニア微粒子についても、上記コロイダルシリカ同様に、水や有機溶媒中に分散された状態で下地層形成用組成物に配合することができる。このような水や有機溶媒中に分散されたジルコニア微粒子分散液としては、市販品を用いることが可能である。たとえば、ジルコニア微粒子が水に、ゾル全体量に対する酸化ジルコニウムの含有量として、10質量%の割合でコロイド状に分散したZSL−10T(商品名、第一希元素社製、平均一次粒子径:12nm、体積平均凝集粒子径:23nm)を用いることが可能である。
(分散媒体)
下地層形成用組成物における分散媒体は、金属酸化物微粒子(A)の凝集体の製造において使用した媒体をそのまま使用することが好ましい。また、下地層形成用組成物が金属酸化物微粒子(C)の凝集体を含有する場合には、これに加えて金属酸化物微粒子(C)の凝集体の製造において使用した媒体をさらに含有することが可能である。
金属酸化物微粒子(A)の凝集体の製造において使用した媒体としては、たとえば、上記コア−シェル型微粒子の製造のための原料液に含まれる媒体、より具体的には、金属酸化物前駆体等の加水分解縮合によるシェル形成のために用いられる溶媒をそのまま使用することが好ましい。すなわち、水のほか、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類等の有機溶媒を用いることができる。ただし、所望により、当該溶媒から、たとえば水を共沸蒸留等の手段で除去して実質的に有機溶媒のみとしたり、逆に、有機溶媒を除き、水または水系溶媒とすることもできる。
下地層形成用組成物は、上記成分の他にさらに必要に応じて任意成分として、分散剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、酸化防止剤、界面活性剤等の添加剤を含んでいてもよい。分散剤としては、アセチルアセトンおよびポリビニルアルコール等が挙げられ、アセチルアセトンが好ましい。また、種々の顔料、たとえばチタニア、ジルコニア、鉛白、ベンガラ等を配合することも可能である。これら添加剤の量は、下地層形成用組成物に含まれる固形分の合計に対して10質量%以下であることが好ましい。
(I−2)下地層の形成
本発明の製造方法においては、上記各成分を上記配合割合で含有する下地層形成用組成物を、基体表面に塗布し乾燥させることで、下地層を形成する。
下地層形成用組成物を基体表面に塗布する方法としては、ローラーコート、フレキソコート、バーコート、ダイコート、グラビアコート、ロールコート、フローコート、スプレーコート、オンラインスプレーコート、超音波スプレーコート、インクジェット、ディップコート等の公知の方法が挙げられる。オンラインスプレーコートとは、基材を成形するライン上でそのままスプレー塗布する方法であり、基板を再加熱する工程が省けるため、物品を低コストで製造でき、有用である。下地層形成用組成物は、固形分濃度にもよるが、分散媒体を含んだ時点(ウェットの状態)で10000〜30000nmの厚さ(好ましくは15000〜25000nmの厚さ)になるように塗布されることが好ましい。
上記塗布に次いで行われる乾燥、すなわち、分散媒体の除去は、下地層形成用組成物を基体に塗布した後、室温(20℃程度)〜700℃で乾燥することによって実施することが好ましい。分散媒体を除去することにより、金属酸化物微粒子(A)の凝集体と金属酸化物バインダーの前駆体となる金属化合物(B)とを含む層が基体表面に形成される。そして、分散媒体の乾燥の過程において、金属化合物(B)が金属酸化物バインダーに変換され、下地層が形成される。下地層の形成に際しては、室温〜700℃の温度で乾燥することで充分であるが、塗膜の機械的強度を高める等の目的で、必要に応じてさらに加熱してもよい。
このようにして形成される下地層の厚さ(乾燥後の厚さ)は、おおよそ45〜590nmであり、75〜390nmが好ましく、95〜290nmが特に好ましい。層の厚さが50nm以上の場合、得られる撥水性皮膜の上に水滴を垂らした際に、下地層表面と水滴の間に部分的に空気の層が生成して超撥水性を発現する。層の厚さが590nm以下の場合、十分な透明性を確保できる。なお、下地層の厚さは、上記撥水性皮膜における平均膜厚の測定と同様にして、測定・算出した平均の層厚さである。
ここで、上記のようにして形成される下地層の表面は、下地層が含有する上記金属酸化物微粒子(A)の凝集体の形状に由来して凹凸形状を示すものである。下地層表面が示す凹凸形状としては、算術平均面粗さ(Ra)が好ましくは15〜40nm程度、より好ましくは20〜30nm程度の凹凸形状であることが好ましい。また、下地層表面の凹凸の最大高低差(P−V)は、150〜500nmであることが好ましく、200〜400nmがより好ましい。本発明の撥水性基体が有する撥水性皮膜表面は、この下地層表面の凹凸形状を反映しているものであり、下地層表面の凹凸形状により得られる撥水性基体表面の撥水性がほぼ決定されると考えてよい。したがって、下地層形成時においては、表面凹凸形状が上記好ましい形状となるように条件制御が行われる。
また、上記で得られる下地層の上記方法で測定した空隙率は、最終的に得られる撥水性皮膜の空隙率を30%以下とするために、40%以下であることが好ましく、35%以下であることがより好ましい。特に好ましい空隙率は0%である。空隙率が低いほど撥水性皮膜は耐磨耗性に優れる。なお、下地層の空隙率は、以下に説明するポリシラザン類を用いた層内間隙の一部または全部を充填する処理により適宜調整することができる。
(I−3)下地層強化処理
上記のようにして、下地層形成用組成物を基体上に塗布し乾燥することで、金属化合物(B)が硬化し、金属酸化物微粒子(A)の凝集体を含む下地層を形成する。本発明においては、これを下地層としてそのまま用いることも可能であるが、この下地層の内部の間隙にポリシラザン類を含む組成物を含浸させ、このポリシラザン類を加水分解縮合または熱分解させることで形成される酸化ケイ素で、下地層の間隙の一部または全部を充填したものを下地層として用いることが可能である。このようにして得られる下地層は、上記下地層形成用組成物を硬化して得られる下地層の空隙率を低下させ硬度を大きくして、全体としての耐摩耗性を向上させた下地層として、本発明において好適に用いられる。
なお、ポリシラザン類を含む組成物を上記下地層に含浸させ、ポリシラザン類を加水分解縮合または熱分解させることで形成される酸化ケイ素で間隙を充填する際、下地層の一部表面にポリシラザン類由来の酸化ケイ素皮膜が形成されることがあるが、これは上記下地層表面の凹凸形状に影響を与えるものではない。
ポリシラザン類とは、−SiR −NR−SiR −(R、Rは、それぞれ独立に水素もしくは炭化水素基を表し、複数のRは異なっていてもよい)で表される構造を有する線状または環状の化合物をいう。ポリシラザン類は雰囲気中の水分との反応によってSi−NR−Si結合が分解してSi−O−Siネットワークを形成し、酸化ケイ素となる。この加水分解縮合反応は熱により促進され、通常ポリシラザン類を加熱して酸化ケイ素に変換する。反応を促進するために、金属錯体触媒やアミン系触媒などの触媒を使用することができる。アルコキシシラン類から形成される酸化ケイ素に比較して、ポリシラザン類から形成される酸化ケイ素は緻密な構造を有し、高い機械的耐久性やガスバリヤ性を有する。
なお、ポリシラザン類から酸化ケイ素が生成する反応は通常300℃程度までの加熱では完全に進行するわけではなく、酸化ケイ素中にSi−N−Si結合、もしくは他の結合形態で窒素が残り、少なくとも一部に酸窒化ケイ素が生成していると考えられる。ポリシラザン類の数平均分子量は、500〜5000程度が好ましい。その理由は、数平均分子量が500以上であることで、酸化ケイ素の形成反応が有効に進行しやすくなる。一方、数平均分子量が5000以下であることで、酸化ケイ素ネットワークの架橋点の数が適度に保たれ、マトリックス中にクラックやピンホールが発生することを防止できる。
上記R、Rが炭化水素基の場合、メチル基やエチル基などの炭素数4以下のアルキル基およびフェニル基が好ましい。Rが炭化水素基の場合、生成する酸化ケイ素のケイ素原子にその炭化水素基が残存する。酸化ケイ素中にこのケイ素原子に結合した炭化水素基の量が多くなると、耐摩耗性などの特性が低下することが考えられることより、ポリシラザン類中のケイ素原子に結合した炭化水素基の量は少ないことが好ましい。また、ケイ素原子に結合した炭化水素基を有するポリシラザン類を使用する場合は、ケイ素原子に結合した炭化水素基を有しないポリシラザン類と併用することが好ましい。
より好ましく用いられるポリシラザン類としては、上記式でR=R=Hであるペルヒドロポリシラザン、R=炭化水素基、R=Hである部分有機化ポリシラザン、またはこれらの混合物が挙げられる。ポリシラザン類としては、炭化水素基が結合したケイ素原子の数の割合が、全ケイ素原子に対して30%以下、特に10%以下であることが好ましい。これらのポリシラザン類を用いて形成される酸化ケイ素は、機械的強度が高いため非常に好適である。特に好ましいポリシラザン類はペルヒドロポリシラザンである。
なお、上記下地層に含浸させるポリシラザン類を含有する組成物としては、少なくともポリシラザン類と溶媒を含有し、それ以外の任意成分として、上記下地層形成用組成物における任意成分と同様の成分を含有してもよい組成物を挙げることができる。溶媒としては、炭化水素類、エステル類、アルコール類、エーテル類等が挙げられ、エステル類が好ましい。具体的には、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル等の酢酸エステル系の溶媒が好ましく、酢酸n−ブチルが特に好ましい。この組成物における上記ポリシラザン類の含有量としては、組成物全量に対するポリシラザン類の量として0.25〜2.0質量%となる量を挙げることができ、0.5〜1.5質量%が好ましい。上記下地層の間隙の部分的な充填に用いる組成物の量としては、上記下地層にこの組成物が含浸できる量である。含浸の方法としては、塗布、浸漬等の方法が挙げられる。また、硬化の条件としては、200〜900℃、0.1〜1時間を好ましい条件として挙げることができる。
さらに、ポリシラザン類の硬化を促進させることにより、耐摩耗性を向上させることができる。このためには、上記下地層の間隙にポリシラザン類を侵入させた後に、アミン類をさらに侵入させることが好ましい。アミン類としては、アンモニア、メチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられ、それらの水溶液が使用できる。しかし、アミン類が最終的に撥水性基体に残存することは好ましくない。よって、沸点が低く、揮発しやすいメチルアミンの水溶液が好ましい。
(II)撥水層形成工程
撥水層形成工程は、下地層の表面に撥水層形成用組成物を塗布し乾燥させて、下地層表面に撥水層を形成する工程である。なお、本発明の撥水性基体の有する撥水性皮膜が、上記下地層と撥水層の間に密着層等の他の層を有する場合には、「下地層の表面に」を「密着層等の他の層の表面に」かえて同様の操作を行うことで、本発明の撥水性基体を製造することができる。本発明の製造方法においては、上記のように形成された下地層の表面の凹凸形状を反映して、撥水層の表面も凹凸形状を有するように形成され、その凹凸形状が表面撥水性に寄与している。
本発明の製造方法に用いる撥水層形成用組成物は、撥水剤および溶媒を含有する。なお、撥水層形成用組成物が含有する撥水剤は、加水分解縮合反応により撥水性材料となって撥水層を構成するシリコーン系撥水剤や疎水性有機ケイ素化合物を含む撥水剤が好ましい。
シリコーン系撥水剤としては、線状のシリコーン樹脂が好ましい。具体的には、線状のジアルキルポリシロキサン類およびアルキルポリシロキサン類が使用できる。これらは末端に水酸基を有していてもよく、末端がアルキル基やアルケニル基で封止されていてもよい。具体的には、両末端に水酸基を有するジメチルポリシロキサン、両末端がビニル基等で封止されたジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、アルコキシ変性ジメチルポシロキシサン、フルオロアルキル変性ジメチルシリコーン等が挙げられ、アルコキシ変性ジメチルポリシロキシサンが好ましい。
なお、これらのシリコーン系撥水剤を用いると、撥水性基体の撥水性皮膜表面の摩擦が小さくなり、凹凸の形状保持に有効である。
疎水性有機ケイ素化合物としては、疎水性有機基(ただし、ケイ素原子と炭素−ケイ素結合で結合)と加水分解性基が結合したケイ素原子を有する化合物であることが好ましい。
疎水性有機基としては、1価の疎水性有機基が好ましい。具体的には1価炭化水素基および1価含フッ素炭化水素基が好ましい。1価炭化水素基としては炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、炭素数4〜10の直鎖アルキル基が特に好ましい。具体的にはn−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、およびn−オクチル基が挙げられ、n−ヘプチル基、またはn−オクチル基が好ましい。その他に、炭素数3〜10のシクロアルキル基も好ましく、具体的にはシクロヘキシル基が好ましい。
1価含フッ素炭化水素基としては、前記1価炭化水素基に含まれる水素原子の1個以上がフッ素原子に置換された基であり、ポリフルオロアルキル基が好ましい。
加水分解性基としては、アルコキシ基、イソシアネート基、アシルオキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、またはイソプロポキシ基が好ましい。アシルオキシ基としては、アセチルオキシ基またはプロピオニルオキシ基が好ましい。ハロゲン原子としては塩素原子が好ましい。
疎水性有機ケイ素化合物としては、下記一般式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)ということもある。)および下記一般式(2)で表される化合物(以下、化合物(2)ということもある。)が好ましく、下一般式(1)で表される化合物が特に好ましい。
f1−Si(R)(X11(3−s) …(1)
a1−Si(R)(X21(3−t) …(2)
ただし、上記一般式(1)、および(2)中の記号は以下の意味を示す。
f1:炭素数1〜12のポリフルオロアルキル基。
a1:炭素数1〜20のアルキル基または炭素数3〜10のシクロアルキル基。
R:炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルケニル基。
11、X21:それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のアシルオキシ基、またはイソシアネート基。
s、t:それぞれ独立に0または1。
上記一般式(1)において、Rf1は、炭素数1〜12のポリフルオロアルキル基である。該ポリフルオロアルキル基としては、対応するアルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうちの2個以上がフッ素原子に置換された基が好ましく、全部の水素原子がフッ素原子に置換されたペルフルオロアルキル基または下記式(3)で表される基が特に好ましい。
F(CF(CH− …(3)
ただし、式(3)中のvは1〜8の整数であり、4〜10が好ましい。wは2〜4の整数であり、2または3が好ましい。v+wは3〜12であり、6〜11が好ましい。
ペルフルオロアルキル基としては、CF−、F(CF−、F(CF−、またはF(CF−が好ましい。式(3)で表される基としては、F(CF(CH−、F(CF(CH−、F(CF(CH−、F(CF(CH−、F(CF(CH−、またはF(CF(CH−が好ましい。
上記一般式(2)において、Ra1は炭素数1〜20のアルキル基または炭素数3〜10のシクロアルキル基である。Ra1が炭素数1〜20のアルキル基である場合、該基は直鎖構造であることが好ましい。また、炭素数は4〜10であることが好ましい。具体的には、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、およびn−オクチル基等が挙げられ、n−ヘプチル基またはn−オクチル基が好ましい。Ra1が炭素数3〜10のシクロアルキル基である場合、シクロヘキシル基が好ましい。
上記一般式(1)、および(2)において、Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルケニル基である。これらの基は直鎖構造であることが好ましい。炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、またはn−ヘキシル基が好ましい。炭素数6以下のアルケニル基としては、プロペニル基、ブテニル基等が挙げられる。
上記一般式(1)、および(2)において、X11、およびX21はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のアシルオキシ基、またはイソシアネート基である。ハロゲン原子としては、塩素原子が好ましい。炭素数1〜6のアルコキシ基としては、直鎖構造であることが好ましく、炭素数が1〜3であることが好ましい。X11、およびX21が炭素数1〜6のアシルオキシ基である場合、アセチルオキシ基およびプロピオニルオキシ基等が挙げられ、アセチルオキシ基が好ましい。
上記化合物(1)として、具体的には下記化合物が挙げられる。
F(CFSi(NCO)、F(CFSi(Cl)、F(CFSi(OCH(ただし、e、f、gはそれぞれ独立に1〜4の整数を表す。)。
より具体的には下記化合物が挙げられる。
F(CF(CHSi(NCO)、F(CF(CHSi(Cl)、F(CF(CHSi(OCH、F(CF(CHSi(NCO)、F(CF(CHSi(Cl)、F(CF(CHSi(OCH、F(CF(CHSi(NCO)、F(CF(CHSi(Cl)、F(CF(CHSi(OCH
これらのうち、F(CF(CHSi(NCO)、F(CF(CHSi(Cl)、またはF(CF(CHSi(OCHが好ましい。
上記化合物(2)としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−デシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのうち、ジメチルジメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、またはシクロヘキシルトリメトキシシランが好ましい。
なお、上記化合物(1)、および化合物(2)は単独で使用できるほか、上記化合物群から選ばれる1種以上の化合物の部分加水分解縮合物であってもよい。
また、撥水層は、撥水性に影響がない限り、上記化合物(1)、および化合物(2)以外に、下記一般式(4)で表される化合物を含む撥水剤から形成されてもよい。
Si(X41 …(4)
式(4)中のX41は加水分解性基を表し、前記X11、およびX21と同様の基であり、好ましい態様も同様である。式(4)で表される化合物としては、テトライソシアネートシランまたはテトラアルコキシシランが好ましい。
撥水層形成用組成物における溶媒としては、炭化水素類、エステル類、アルコール類、エーテル類等が挙げられ、エステル類が好ましい。具体的には、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル等の酢酸エステル系の溶媒が好ましく、酢酸n−ブチルが特に好ましい。また、撥水層形成用組成物には必要に応じて他の成分を加えてもよい。他の成分としては、たとえば撥水剤の加水分解縮合反応のため触媒(塩酸、硝酸等の酸等)が挙げられる。
撥水層形成用組成物を下地層の表面に塗布する方法としては、前記下地層形成用組成物を基体の表面に塗布する方法と同様の方法が挙げられ、好ましい方法も同様である。塗布に次いで行われる溶媒の除去、および、必要に応じて加水分解縮合反応、を含む工程である「乾燥」は、撥水層形成用組成物を塗布した後の物品を、たとえば、室温〜200℃で10〜60分間保持することによって実施できる。
撥水剤として上記化合物(1)、上記化合物(2)等の反応性を有する化合物を用いる場合には、下地層の表面において、これら化合物の加水分解反応および縮合反応等が進行し、下地層表面のほぼ全体を覆うかたちに撥水性材料からなる撥水層が形成される。撥水剤の種類によっては、撥水層の形成、すなわち、撥水剤の加水分解反応および縮合反応等が、溶媒の除去と同時に進行する場合もあり、加熱が必要な場合もある。加熱が必要な場合は、60〜200℃で10〜60分間加熱することが好ましい。
上記方法で形成される撥水層の厚さは、1〜10nmであることが好ましく、より好ましくは2〜5nmである。下地層の上に形成される撥水層は非常に薄い層であるため、撥水層表面の三次元形状は、下地層表面の三次元形状を反映して類似の形状となる。
ここで、撥水層に含まれる撥水性材料は、撥水層が下地層表面に直接形成されている場合には、少なくとも下地層の凸部上面に結合しているのであって、金属酸化物微粒子(A)の凝集体の形状に由来して形成される下地層の凹部や間隙等の箇所(凸部上面以外の箇所)に結合していてもよい。撥水性材料が下地層の凸部上面のみならず、下地層の凹部や間隙等の箇所にも付着している場合は、使用中の磨耗によって撥水性物品の凸部上面の撥水性が低下したとしても、下地層の凹部や間隙等の箇所に存在する撥水性材料によって撥水性能を維持できるため好ましい。
このようにして、本発明の製造方法により、基体の少なくとも片側表面に基体側から下地層と撥水層とを有する撥水性皮膜が形成された本発明の撥水性基体が得られる。
ここで、本発明の撥水性基体の製造方法においては、得られる撥水性皮膜の膜厚、すなわち上記下地層と撥水層の合計膜厚を、上記測定方法で測定される平均膜厚として、50〜600nmとなるように調整する。撥水性基体における撥水性皮膜の平均膜厚をこの範囲とすることで、上記に示す超撥水性を示す本発明の撥水性基体が得られる。なお、撥水性皮膜の平均膜厚は、好ましくは80〜400nmである。本発明の撥水性基体が有する撥水性皮膜の表面は、上記金属酸化物微粒子(A)の凝集体に由来する凹凸形状を有するものである。撥水性皮膜の表面の算術平均面粗さ(Ra)は、15〜40nmであることが好ましく、20〜30nmであることがより好ましい。
さらに、撥水性皮膜表面の凹凸の最大高低差(P−V)は、150〜500nmであることが好ましく、250〜450nmであることがより好ましい。このような表面形状により本発明の撥水性基体が有する撥水性皮膜は、上記水跳ね性が100mm以上の撥水性能を有するものとなる。また、本発明の撥水性基体が有する撥水性皮膜は、該皮膜表面の水接触角が、130°以上であることが好ましく、135°以上であることがより好ましい。
また、本発明の撥水性基体の撥水性皮膜の上記方法で測定される空隙率は、30%以下であり、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下である。空隙率が30%以下の値を有する撥水性皮膜は、耐磨耗性に優れ、JIS L0803に準拠したネル布を用いた応力11.8N/4cmでのトラバース試験機による往復2000回摩擦試験後においても、撥水性能が維持され、撥水性皮膜表面における上記水跳ね性は20mm以上の値を有するものである。さらに、撥水性皮膜表面における上記耐磨耗試験の後の水接触角は、100°以上であることが好ましく、110°であることがより好ましく、120°以上であることが特に好ましい。
本発明の撥水性基体が有する撥水性皮膜は、本発明の効果を損なわない範囲で、下地層と撥水層との間に、各種機能層を有していてもよい。このような機能層としては、下地層と撥水層との密着性を向上させるための密着層などが挙げられる。
(I)’密着層形成工程
本発明に係る撥水性皮膜が任意に有する密着層は、密着性向上成分および溶媒を含む密着層形成用組成物を、下地層が形成された基体の下地層の表面に塗布し、溶媒を除去することによって形成されることが好ましい。密着性向上成分として用いるケイ素化合物の種類等によっては、溶媒を除去した後、必要に応じて加熱してもよい。
密着性向上成分としては、ポリシラザン類以外のケイ素化合物(アルコキシ基、イソシアネート基、ハロゲン原子等の加水分解性基がケイ素原子に結合したケイ素化合物等)が好ましい。具体的には、テトラアルコキシシランやそのオリゴマー、オルガノトリアルコキシシランやそのオリゴマーなどのアルコキシシラン類;オルガノトリクロロシランやそのオリゴマーなどのクロロシラン類;イソシアネートシラン類からなる群から選ばれる少なくとも1種のケイ素化合物から形成される酸化ケイ素の層であることが好ましい。
密着層形成用組成物における溶媒としては、水のほか、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類等の有機溶媒を用いることができる。ただし、所望により、当該溶媒から、たとえば水を共沸蒸留等の手段で除去して、実質的に有機溶媒のみとしたり、逆に、有機溶媒を除き、水または水系溶媒とすることもできる。また、密着層形成用組成物には、必要に応じて他の成分を加えてもよい。他の成分としては、たとえば上記ケイ素化合物の加水分解縮合反応のための触媒(塩酸、硝酸等の酸等)が挙げられる。
密着層形成用組成物を下地層の表面に塗布する方法としては、前記下地層形成用組成物を基体の表面に塗布する方法と同様の方法が挙げられ、好ましい方法も同様である。溶媒の除去は、密着層形成用組成物を塗布した後の物品を、室温〜200℃で10〜60分間保持することによって実施できる。
このようにして形成される密着層の厚さは、1〜10nmであることが好ましく、より好ましくは2〜5nmである。また、前記のようにして得られる密着層の表面は、その表面が下地層の凹凸形状を反映して下地層に類似の凹凸形状を有する。
ここで、上記撥水層および密着層、さらに必要に応じて設けられるその他機能層は、必ずしもそれぞれの下部に位置する層の表面の全体を覆っている必要はない。すなわち、各層の機能が充分に発現される限りにおいて、部分的にこれらの層が形成されていない箇所があってもよい。
<輸送機器用物品>
本発明の撥水性皮膜を有する撥水性基体は、撥水性皮膜表面の水跳ね性が大きく、すなわち撥水性に優れ、一定の耐磨耗試験後も水跳ね性の大きい(撥水性に優れた)状態を維持することができる。よって、本発明の撥水性基体は、輸送機器(自動車、鉄道、船舶、飛行機等)用窓ガラス等の輸送機器用物品に好適であり、自動車用の風防窓用窓ガラス、サイド窓用窓ガラス、リヤ窓用窓ガラス等の窓ガラスに特に好適である。自動車用窓ガラスとしては、単板ガラスであっても、合わせガラスであってもよい。本発明の撥水性基体を合わせガラスに用いる場合は、すでに述べた方法によって製造された撥水性基体と、中間膜と、別の基体とを、この順に重ね合わせ、圧着する方法によることが好ましい。
本発明の撥水性基体を輸送機器用物品、特に窓ガラスに使用するにあたっては、その撥水性基体基体は透明であることが好ましい。具体的には、ヘイズ値が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは2%以下である。
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、例1〜31が実施例であり、例32〜43が比較例である。
<下地層形成用組成物>
[1]金属酸化物バインダーの前駆体となる金属化合物(B)を含む組成物(以下、「バインダー組成物」という)の調整
[1−1]バインダー組成物(1)の調製
エタノール(86.7g)にテトラエトキシシラン(5.2g)、メチルトリエトキシシラン(3.0g)、および1.2質量%硝酸水溶液(5.1g)を加えて1時間攪拌し、テトラエトキシシラン、およびメチルトリエトキシシランを加水分解縮合反応させてケイ酸オリゴマー溶液(酸化ケイ素換算固形分濃度が2.5質量%)を、バインダー組成物(1)として得た。
[1−2]バインダー組成物(2)の調製
エタノール(86.2g)にテトラエトキシシラン(8.7g)、および1.2質量%硝酸水溶液 (5.1g)を加えて1時間攪拌し、テトラエトキシシランを加水分解縮合反応させてケイ酸オリゴマー溶液(酸化ケイ素換算固形分濃度が2.5質量%)を、バインダー組成物(2)として得た。
[2]金属酸化物微粒子(A)の凝集体分散液(以下、「凝集体分散液」という)の調製[2−1]凝集体分散液(1)の調製
ロータリーエバポレータを用い、60℃にてアルミナ微粒子分散液(日産化学工業社製、アルミナゾル100、平均一次粒子径55nm)から分散媒体を除去し、粉末状の中実アルミナ微粒子(アルミナ微粒子の凝集体)を得た。つぎに、200mLのアルミナ製容器に、前記アルミナ微粒子の凝集体(2g)、エタノール(48g)、純水50g、およびアルミナ製のボール(直径0.5mm、10g)を加えて1時間撹拌した後、アルミナ製ボールをろ過により除去し、凝集体分散液(1)を得た。このアルミナ微粒子分散液の体積平均凝集粒子径は505nm、固形分濃度は2質量%であった。
なお、原料のアルミナ微粒子の分散液から分散媒体を除去することによって、アルミナ微粒子は凝集体を形成し、この凝集体をアルミナ製のボールとともに撹拌することによって、上記所望の体積平均凝集粒子径を有する凝集体が得られる。
[2−2]凝集体分散液(2)の調製
アルミナ微粒子分散液の代わりに、ジルコニア微粒子分散液(第一希元素社製、ZSL−20N、平均一次粒子径70nm)を用いる以外は、上記[2−1]と同様にして凝集体分散液(2)を作製した。この中実ジルコニア微粒子分散液の体積平均凝集粒子径は430nm、固形分濃度は2質量%であった。
[2−3]凝集体分散液(3)の調製
アルミナ微粒子分散液の代わりに、シリカ微粒子分散液(日産化学社製、ST−L、平均一次粒子径が50nm)を用いる以外は、上記[2−1]と同様にして凝集体分散液(3)を作製した。この中実シリカ微粒子分散液の体積平均凝集粒子径は220nm、固形分濃度は2質量%であった。
[2−4]凝集体分散液(4)の調製
80mLの石英製耐圧容器に、エタノール(7.17g)、酸化亜鉛水分散液(平均一次粒子径約25nm、固形分濃度20質量%)(10g)、アルミニウムアセチルアセトナート(2.7g)、および28質量%アンモニア水溶液(0.13g)を入れて混合し、原料液を調製した。
耐圧容器を密封した後、最大出力が1400Wのマイクロ波加熱装置を用い、原料液が200℃に加熱される出力にて、周波数2.45GHzのマイクロ波を原料液に5分間照射した。この操作により、コアが酸化亜鉛からなりシェルがアルミナからなる、コア−シェル型微粒子の分散液を得た。
このコア−シェル型微粒子の分散液(19g)に、強酸性カチオン交換樹脂(三菱化学社製、ダイヤイオン、総交換容量2.0meq/mL以上)を20g加え、6時間撹拌しコアの酸化亜鉛を溶解した後、ろ過により強酸性カチオン交換樹脂を除去し、中空状アルミナ微粒子の凝集体分散液(4)を得た。この中空状アルミナ微粒子分散液の平均一次粒子径は37nm、体積平均凝集粒子径は510nm、シェル厚は5.5nm、固形分濃度は4.2質量%であった。
[2−5]凝集体分散液(5)の調製
80mLの石英製耐圧容器に、エタノール(4.87g)、酸化亜鉛水分散液(平均一次粒子径約25nm、固形分濃度20質量%)(10g)、ジルコニウムアセチルアセトナート(5.0g)、および28質量%アンモニア水溶液(0.13g)を入れて混合し、原料液を調製した。
耐圧容器を密封した後、最大出力が1400Wのマイクロ波加熱装置を用い、原料液が200℃に加熱される出力にて、周波数2.45GHzのマイクロ波を原料液に5分間照射した。この操作により、コアが酸化亜鉛からなりシェルがジルコニアからなる、コア−シェル型微粒子の分散液を得た。
このコア−シェル型微粒子の分散液(19g)に、強酸性カチオン交換樹脂(三菱化学社製、ダイヤイオン、総交換容量2.0meq/mL以上)を20g加え、6時間撹拌した後、ろ過により強酸性カチオン交換樹脂を除去し、中空状ジルコニア微粒子の凝集体分散液(5)を得た。この中空状ジルコニア微粒子分散液の平均一次粒子径は37nm、体積平均凝集粒子径は420nm、シェル厚は5.5nm、固形分濃度は6.3質量%であった。
[2−6]凝集体分散液(6)の調製
80mLの石英製耐圧容器に、エタノール(8.21g)、酸化亜鉛水分散液(平均一次粒子径約25nm、固形分濃度20質量%)(10g)、アルミニウムアセチルアセトナート(0.07g)、28質量%アンモニア水溶液(0.13g)、およびテトラエトキシシラン(1.59g)を入れて混合し、原料液を調製した。
耐圧容器を密封した後、最大出力が1400Wのマイクロ波加熱装置を用い、原料液が150℃に加熱される出力にて、周波数2.45GHzのマイクロ波を原料液に3分間照射した。この操作により、コアが酸化亜鉛からなりシェルがシリカからなる、コア−シェル型微粒子の分散液を得た。
このコア−シェル型微粒子の分散液(19g)に、強酸性カチオン交換樹脂(三菱化学社製、ダイヤイオン、総交換容量2.0meq/mL以上)を20g加え、6時間撹拌した後、ろ過により強酸性カチオン交換樹脂を除去し、中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(6)を得た。この中空状シリカ微粒子分散液の平均一次粒子径は35nm、体積平均凝集粒子径は395nm、シェル厚は4.5nm、固形分濃度は2.3質量%であった。
なお、体積平均凝集粒子径は強酸性カチオン交換樹脂との攪拌時間によって制御した。シェルの厚みが10nmの場合は、pHが4となっても酸化亜鉛コア微粒子は溶解しなかった。
[2−7]凝集体分散液(7)の調製
平均一次粒子径が15nmである酸化亜鉛水分散液を用いること以外は、上記凝集体分散液(6)を調製したのと同様の操作で、中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(7)を得た。この中空状リカ微粒子分散液の平均一次粒子径は20nm、体積平均凝集粒子径は356nm、シェル厚は1.5nm、固形分濃度は2.3質量%であった。
[2−8]凝集体分散液(8)の調製
平均一次粒子径が60nmである酸化亜鉛水分散液を用いること以外は、上記凝集体分散液(6)を調製したのと同様の操作で、中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(8)を得た。この中空状シリカ微粒子分散液の平均一次粒子径は75nm、体積平均凝集粒子径は420nm、シェル厚は7nm、固形分濃度は2.3質量%であった。
[2−9]凝集体分散液(9)の調製
平均一次粒子径が70nmである酸化亜鉛水分散液を用いること以外は、上記凝集体分散液(6)を調製したのと同様の操作で、中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(9)を得た。この中空状シリカ微粒子分散液の平均一次粒子径は90nm、体積平均凝集粒子径は410nm、シェル厚は8nm、固形分濃度は2.3質量%であった。
[2−10]凝集体分散液(10)の調製
強酸性カチオン交換樹脂を加えた後、12時間攪拌する以外は、上記凝集体分散液(6)を調製したのと同様の操作で、中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(10)を得た。中空状シリカ微粒子の平均一次粒子径は40nmであり、体積平均凝集粒子径は170nm、平均シェル厚さは4.5nm、固形分濃度は2.3質量%であった。
[2−11]凝集体分散液(11)の調製
強酸性カチオン交換樹脂を加えた後、10時間攪拌する以外は、上記凝集体分散液(6)を調製したのと同様の操作で、中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(11)を得た。中空状シリカ微粒子の平均一次粒子径は35nmであり、体積平均凝集粒子径は240nm、平均シェル厚さは4.5nm、固形分濃度は2.3質量%であった。
[2−12]凝集体分散液(12)の調製
強酸性カチオン交換樹脂を加えた後、3時間攪拌する以外は、上記凝集体分散液(6)を調製したのと同様の操作で、中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(12)を得た。中空状シリカ微粒子の平均一次粒子径は35nmであり、体積平均凝集粒子径は580nm、平均シェル厚さは4.5nm、固形分濃度は2.3質量%であった。
[2−13]凝集体分散液(13)の調製
強酸性カチオン交換樹脂を加えた後、1時間攪拌する以外は、上記凝集体分散液(6)を調製したのと同様の操作で、中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(13)を得た。中空状シリカ微粒子の平均一次粒子径は35nmであり、体積平均凝集粒子径は720nm、平均シェル厚さは4.5nm、固形分濃度は2.3質量%であった。
[3]下地層形成用組成物の調製
下地層形成用組成物(以下「下地層形成用組成物」という)の調製は、以下の例毎に記述する添加量で、2−プロパノールと、上記[1]で調製したバインダー組成物のいずれかと、上記[2]で調整した凝集体分散液(例によっては、さらに以下の金属酸化物微粒子(C)分散液を例毎に記述する添加量で加えたもの)のいずれかと、を混合することで行った。
(金属酸化物微粒子(C)分散液)
ST−OXS(商品名、日産化学工業社製、金属酸化物:酸化ケイ素、平均一次粒子径:5nm、体積平均凝集粒子径:6nm、分散媒体:水、濃度:15質量%)、
IPA−ST−S(商品名、日産化学工業社製、金属酸化物:酸化ケイ素、平均一次粒子径:9nm、体積平均凝集粒子径:10nm、分散媒体:イソプロピルアルコール、濃度:30質量%)、
IPA−ST(商品名、日産化学工業社製、金属酸化物:酸化ケイ素、平均一次粒子径:15nm、体積平均凝集粒子径:14nm、分散媒体:イソプロピルアルコール、濃度:30質量%)、
IPA−ST−L(商品名、日産化学工業社製、金属酸化物:酸化ケイ素、平均一次粒子径:45nm、体積平均凝集粒子径:43nm、分散媒体:イソプロピルアルコール、濃度:30質量%)、
ZSL−10T(商品名、第一希元素社製、金属酸化物:酸化ジルコニウム、平均一次粒子径:12nm、体積平均凝集粒子径:23nm、分散媒体:水、濃度:10質量%)、ZSL−20NT(商品名、第一希元素社製、金属酸化物:酸化ジルコニウム、平均一次粒子径:70nm、体積平均凝集粒子径:72nm、分散媒体:水、濃度:10質量%)。
上記分散液中に記載の濃度(質量%)とは、分散液中の金属酸化物の含有量を示す。
[4]下地層強化処理用組成物の調製
パーヒドロポリシラザン(アクアミカNP110:商品名、AZエレクトロニクスマテリアル社製、濃度20質量%)を、酢酸ブチルで、以下の例毎に記述する濃度に薄めて下地層強化処理用組成物を得た。
[5]下地層強化処理用組成物の調製
メチルアミン水溶液(濃度40質量%)をエタノールで2倍に希釈し下地層強化処理用組成物を得た。
[6]密着層形成用組成物の調製
イソシアネートシラン(SI−400:商品名、マツモトファインケミカル社製)を酢酸ブチルで200倍に薄めて密着層形成用組成物(以下、「密着層形成用組成物」という)を得た。
[7]撥水層形成用組成物の調製
F(CF(CHSi(OCH(3.37g)を2−プロパノール(95.63g)に溶かし、0.8質量%の硝酸水溶液(1g)を加えて5h撹拌した液を3.33g分取し、エタノール(14.67g)、および乳酸エチル(2.0g)と混合して撥水層形成用組成物(以下、「撥水層形成用組成物」という)を得た。
[8]撥水性皮膜形成における各組成物の塗布・乾燥方法
酸化セリウムで研磨洗浄した後、エアブローでよく乾燥させたガラス基体(100mm×100mm)の表面に、上記で調製した[3]下地層形成用組成物、[4]下地層強化処理用組成物、[5]下地層強化処理用組成物、[6]密着層形成用組成物、および[7]撥水層形成用組成物を、この順番で、以下の塗布条件にて塗布し、その後以下に示す各層毎の条件で乾燥を行うことで、基体上に撥水性皮膜を形成した。
なお、例によっては、[4]下地層強化処理用組成物、[5]下地層強化処理用組成物、または[6]密着層形成用組成物の塗布・乾燥を行わない例もあるが、塗布されない組成物を除いた以外は上記の通りの順番で行った。
基体または各層の下となる層の表面に、各組成物とも約2gを滴下し、スピンコート(回転数500rpm、20秒間)して組成物を塗布した。乾燥・加熱条件は、[3]下地層形成用組成物、[4]下地層強化処理用組成物、および[6]密着層形成用組成物においては、大気中で約5分乾燥させた後、次の組成物の塗布を行った。[5]下地層強化処理用組成物は、大気中で約5分乾燥させた後、200℃で10分間加熱し、常温まで冷ました後、次の組成物の塗布を行った。[7]撥水層形成用組成物は、塗布後1日大気中で放置した後、エタノールで余剰の撥水剤を洗い流した。
[9]測定・評価方法
上記各組成物に用いた微粒子・凝集体、および、各例で得られた撥水性皮膜の物性評価を以下の方法で行った。
<金属酸化物微粒子・凝集体の物性>
1.平均一次粒子径
金属酸化物微粒子を透過型電子顕微鏡(日立製作所社製、H−9000)にて観察し、100個の粒子を無作為に選び出し、各金属酸化物微粒子の粒子径を測定し、体積平均した値を、平均一次粒子径とした。
2.体積平均凝集粒子径
金属酸化物微粒子の体積平均凝集粒子径は、動的光散乱法粒度分析計(日機装社製、マイクロトラックUPA)を用いて測定し、体積分布にてD50の値を体積平均凝集粒子径とした。測定条件は、分散成分の屈折率、主溶媒の屈折率・粘度を用いて測定を行った。 [2]で調製した凝集体分散液は、純水で3倍に希釈し、主溶媒の屈折率・粘度として水の屈折率・粘度を用いて測定を行った。中空状微粒子は、分散成分の屈折率としてシェル成分の屈折率を用いて測定を行った。
3.平均シェル厚さ(中空状微粒子)
中空状微粒子を透過型電子顕微鏡(日立製作所社製、H−9000)にて観察し、100個の粒子を無作為に選び出して平均シェル厚さを測定し、平均した値をシェル厚とした。
<撥水性皮膜の物性>
4.膜の厚さ
撥水性皮膜が形成された基体の断面を走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S−4500型、測定条件:加速電圧15kV、エミッション電流5μA)で撮影した、50000倍の画像において、断面を真横から投影した際の基体表面から撥水性皮膜の表面までの厚さを測定した。すなわち、撥水性皮膜断面写真において、幅12.7cm(実際の膜としての幅は、2.54μm)の間に存在する複数の撥水性皮膜表面について、撥水性皮膜の基体表面側の辺(撥水性皮膜の下辺)から撥水性皮膜表面までの距離を測定し、この断面における平均値を求めた。この断面における平均値を、以下の空隙率同様に、作製された撥水性皮膜断面の20点について求め、平均した値を平均膜厚とした。
5.空隙率
7cm角の撥水性皮膜つき基体を、一方向に1cm毎の位置で厚さ方向に切断した各断面における50000倍の走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S−4500型、測定条件:加速電圧15kV、エミッション電流5μA)写真について、断面を真横から投影した場合の面積に対する空隙(内部に存在する閉じられた空隙、および、断面を真横から投影した場合に皮膜の平均膜厚以下に存在する皮膜上面(表面)に開いた凹状空隙の合計。ただし、中空状の金属酸化物微粒子を用いた場合の中空状微粒子内部の空隙は、膜断面の空隙に算入しない。)が占める面積の割合(%)を求め、前記切断した断面から無作為に20箇所の断面写真を撮影し、その20点で平均した値を空隙率とした。
6.水接触角
撥水性皮膜の表面にシリンジ先端から出した2μlの純水の水滴を接触させて置く、もしくは、撥水性が高すぎて水滴が膜面に付着しない場合は滴下して、接触角計(協和界面科学社製、CA−X150型)を用いて、水滴の接触角を測定した。
7.水跳ね性
撥水性皮膜表面(測定面)を上にして、測定面が水平面に対して45度の傾斜をもつように設置された撥水性皮膜つき基体の測定面に、20μlの純水の水滴を10cmの落下高さをもって前記水平面に直交する方向から落とした際に、撥水性皮膜つき基体測定面に当たった水が基体に平行な方向に跳ねた距離を測定し水跳ね性とした。
8.表面凹凸形状の計測
(1)算術平均面粗さ(Ra)、および最大高低差(P−V)
プローブ顕微鏡(セイコーインスツルメンツ社製、SPA−400、Nanonaviステーション)を用いて、撥水性皮膜の表面形状を測定した。プローブ顕微鏡の観察モードはダンピングモードで、スキャンエリアは10μmで測定した。算術平均面粗さ(Ra)、および最大高低差(P−V)は、専用ソフトを用いて算出した。
9.曇価(ヘイズ率)
JIS K7105の規格に則り、撥水性基体の曇価をヘイズコンピューター(スガ試験機社製、型番:S−SM−K224)を用いて測定した。
10.摩耗試験
往復トラバース試験機(ケイエヌテー社製)を用いて、JIS L0803に準拠したネル布を用い、撥水性基体の撥水性皮膜表面に11.8N/4cmの荷重をかけて、撥水性皮膜表面を2000回往復まで摩耗させた。500回往復後、1000回往復後、2000回往復後で、上記の方法で水接触角および水跳ね性(500回往復後、2000回往復後)の評価を行った。
[例1]
下地層形成用組成物には、2−プロパノール(1.95g)、[2−1]で得たアルミナ微粒子の凝集体分散液(1)(1.43g)、および[1−1]で得たバインダー組成物(1)(0.62g)を混合した液を用いた。この下地層形成用組成物と、[4]の下地層強化処理用組成物または[5]の下地層強化処理用組成物、[6]の密着層形成用組成物、および[7]の撥水層形成用組成物を[8]の塗布・乾燥方法で塗布・乾燥し、撥水性皮膜が形成された撥水性基体サンプル(以下、単に「サンプル」という)を得た。なお、[4]下地層強化処理用組成物としては、パーヒドロポリシラザンの2質量%の濃度(以下、下地層強化処理用組成物の濃度は、パーヒドロポリシラザンの濃度をいう。)の液を用いた。
上記サンプル作製に用いた材料成分について表1にまとめた。なお、表1には下地層形成用組成物における、金属酸化物微粒子(A)凝集体と金属酸化物バインダーの前駆体となる金属化合物(B)の質量比率を示した。なお、金属酸化物微粒子(C)凝集体を含有する場合は、金属酸化物微粒子(A)凝集体、金属酸化物微粒子(C)凝集体と金属酸化物バインダーの前駆体となる金属化合物(B)の質量比率を示した。また、金属酸化物微粒子(C)凝集体の金属酸化物微粒子(A)凝集体に対する質量%を示した。
同様に以下の例2〜20については表1に、例21〜31については表2に、例32〜43については表5に、サンプル作製に用いた材料成分について示す。
また、得られたサンプルの撥水性皮膜について、上記[9]における4.〜10.の各測定、評価を行った。結果を表3に示す。なお、以下の各例についても、特に断りのない限り同様の測定、評価を行った。以下の各例の結果は、例1〜20については表3に、例21〜31については表4に、例32〜43については表6に示す。
[例2]
下地層形成用組成物に、2−プロパノール(1.95g)、[2−2]で得たジルコニア微粒子の凝集体分散液(2)(1.43g)、および[1−1]で得たバインダー組成物(1)(0.62g)を混合した液を用いたこと以外は例1と同様にしてサンプルを得た。
[例3]
下地層形成用組成物に、2−プロパノール(1.95g)、[2−3]で得たシリカ微粒子の凝集体分散液(3)(1.43g)、および[1−1]で得たバインダー組成物(1)(0.62g)を混合した液を用いたこと以外は例1と同様にしてサンプルを得た。
[例4]
下地層形成用組成物に、2−プロパノール(2.7g)、[2−4]で得たアルミナ中空状微粒子の凝集体分散液(4)(0.68g)、および[1−1]で得たバインダー組成物(1)(0.62g)を混合した液を用いたこと以外は例1と同様にしてサンプルを得た。
[例5]
下地層形成用組成物に、2−プロパノール(2.93g)、[2−5]で得たジルコニア中空状微粒子の凝集体分散液(5)(0.45g)、および[1−1]で得たバインダー組成物(1)(0.62g)を混合した液を用いたこと以外は例1と同様にしてサンプルを得た。
[例6]
下地層形成用組成物に、2−プロパノール(2.12g)、[2−6]で得た中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(6)(1.44g)、および[1−1]で得たバインダー組成物(1)(0.44g)を混合した液を用いたことと、[4]の下地層強化処理用組成物に1質量%の濃度の液を用いたこと以外は例1と同様にしてサンプルを得た。
[例7]
下地層形成用組成物に、2−プロパノール(2.12g)、[2−6]で得た中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(6)(1.40g)、および[1−1]で得たバインダー組成物(1)(0.48g)を混合した液を用いたこと以外は例6と同様にしてサンプルを得た。
[例8]
下地層形成用組成物に、2−プロパノール(2.14g)、[2−6]で得た中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(6)(1.24g)、および[1−1]で得たバインダー組成物(1)(0.62g)を混合した液を用いたこと以外は例6と同様にしてサンプルを得た。
[例9]
下地層形成用組成物に、2−プロパノール(2.16g)、[2−6]で得た中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(6)(0.96g)、および[1−1]で得たバインダー組成物(1)(0.88g)を混合した液を用いたこと以外は例6と同様にしてサンプルを得た。
[例10]
下地層形成用組成物に、2−プロパノール(2.07g)、[2−6]で得た中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(6)(1.33g)、[1−1]で得たバインダー組成物(1)(0.48g)、および金属酸化物微粒子(C)(日産化学工業社製、IPA−ST−Sを2−プロパノールで固形分2.5質量%に希釈した液)(0.128g)を混合した液を用いたこと以外は例6と同様にしてサンプルを得た。
[例11]
下地層形成用組成物に、2−プロパノール(2.01g)、[2−6]で得た中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(6)(1.26g)、[1−1]で得たバインダー組成物(1)(0.48g)、および金属酸化物微粒子(C)(日産化学工業社製、IPA−ST−Sを2−プロパノールで固形分2.5質量%に希釈した液)(0.256g)を混合した液を用いたこと以外は例6と同様にしてサンプルを得た。
[例12]
下地層形成用組成物に、2−プロパノール(2.01g)、[2−6]で得た中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(6)(1.26g)、[1−2]で得たバインダー組成物(2)(0.48g)、および金属酸化物微粒子(C)(日産化学工業社製、IPA−ST−Sを2−プロパノールで固形分2.5質量%に希釈した液)(0.256g)を混合した液を用いた。この下地層形成用組成物と、[7]の撥水層形成用組成物を[8]の塗布・乾燥方法で、塗布・乾燥しサンプルを得た。
[例13]
[6]の密着層形成用組成物を用いなかったこと以外は、例11と同様にしてサンプルを得た。
[例14]
[6]の密着層形成用組成物を用いたこと以外は、例12と同様にしてサンプルを得た。
[例15]
下地層形成用組成物に、2−プロパノール(1.89g)、[2−6]で得た中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(6)(1.12g)、[1−1]で得たバインダー組成物(1)(0.48g)、および金属酸化物微粒子(C)(日産化学工業社製、IPA−ST−Sを2−プロパノールで固形分2.5質量%に希釈した液)(0.512g)を混合した液を用いたこと以外は例6と同様にしてサンプルを得た。
[例16]
下地層形成用組成物に、2−プロパノール(1.77g)、[2−6]で得た中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(6)(0.98g)、[1−1]で得たバインダー組成物(1)(0.48g)、および金属酸化物微粒子(C)(日産化学工業社製、IPA−ST−Sを2−プロパノールで固形分2.5質量%に希釈した液)(0.768g)を混合した液を用いたこと以外は例6と同様にしてサンプルを得た。
[例17]
下地層形成用組成物に、2−プロパノール(1.54g)、[2−6]で得た中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(6)(0.70g)、[1−1]で得たバインダー組成物(1)(0.48g)、および金属酸化物微粒子(C)(日産化学工業社製、IPA−ST−Sを2−プロパノールで固形分2.5質量%に希釈した液)(1.28g)を混合した液を用いたこと以外は例6と同様にしてサンプルを得た。
[例18]
下地層形成用組成物中の金属酸化物微粒子(C)として、日産化学工業社製ST−OXSを純水で固形分2.5質量%に希釈した液(0.256g)を使用した以外は例11と同様にしてサンプルを得た。
[例19]
下地層形成用組成物中の金属酸化物微粒子(C)として、日産化学工業社製IPA−STを2−プロパノールで固形分2.5質量%に希釈した液(0.256g)を使用した以外は例11と同様にしてサンプルを得た。
[例20]
下地層形成用組成物中の金属酸化物微粒子(C)として、第一希元素社製ZSL−10T(固形分10質量%)(0.176g)を使用した以外は例11と同様にしてサンプルを得た。
[例21]
下地層強化処理用組成物に1.5質量%の濃度の液を用いたこと以外は例7と同様にしてサンプルを得た。
[例22]
下地層強化処理用組成物に2質量%の濃度の液を用いたこと以外は例7と同様にしてサンプルを得た。
[例23]
密着層形成用組成物に、[1−2]で調整したバインダー組成物(2)を2−プロパノールで5倍に希釈した液(4g)を用いたこと以外は例11と同様にしてサンプルを得た。
[例24]
密着層形成用組成物に、テトラクロロシランを酢酸ブチルで0.5質量%に希釈した液(4g)を用いたこと以外は例11と同様にしてサンプルを得た。
[例25]
下地層形成用組成物中の中空シリカとして、[2−7]で得た中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(7)(1.40g)を用いたこと以外は例7と同様にしてサンプルを得た。
[例26]
下地層形成用組成物中の中空シリカとして、[2−8]で得た中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(8)(1.24g)を用いたこと以外は例8と同様にしてサンプルを得た。
[例27]
下地層形成用組成物中の中空シリカとして、[2−11]で得た中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(11)(1.40g)を用いたこと以外は例7と同様にしてサンプルを得た。
[例28]
下地層形成用組成物中の中空シリカとして、[2−12]で得た中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(12)(1.40g)を用いたこと以外は例7と同様にしてサンプルを得た。
[例29]
下地層形成用組成物中の2−プロパノールの量を6.13gとしたこと以外は例27と同様にしてサンプルを得た。
[例30]
下地層形成用組成物中の2−プロパノールの量を0.8gとしたこと以外は例7と同様にしてサンプルを得た。
[例31]
下地層形成用組成物中の2−プロパノールの量を0.13gとしたこと以外は例7と同様にしてサンプルを得た。
[例32]
下地層形成用組成物に、2−プロパノール(2.12g)、[2−6]で得た中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(6)(1.53g)、および[1−1]で得たバインダー組成物(1)(0.352g)を混合した液を用いたことと、下地層強化処理用組成物に1質量%の濃度の液を用いたこと以外は例1と同様にしてサンプルを得た。
[例33]
下地層形成用組成物に、2−プロパノール(2.18g)、[2−6]で得た中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(6)(0.76g)、[1−1]で得たバインダー組成物(1)(1.06g)を混合した液を用いたこと以外は例6と同様にしてサンプルを得た。
[例34]
下地層形成用組成物に、2−プロパノール(1.43g)、[2−6]で得た中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(6)(0.56g)、[1−1]で得たバインダー組成物(1)(0.48g)、および金属酸化物微粒子(C)(日産化学工業社製、IPA−ST−Sを2−プロパノールで固形分2.5質量%に希釈した液)(1.54g)を混合した液を用いたこと以外は例6と同様にしてサンプルを得た。
[例35]
下地層形成用組成物中の金属酸化物微粒子(C)として、日産化学工業社製IPA−ST−Lを2−プロパノールで固形分2.5質量%に希釈した液(0.256g)を使用した以外は例11と同様にしてサンプルを得た。
[例36]
下地層形成用組成物中の金属酸化物微粒子(C)として、第一希元素社製ZSL−20N(固形分10質量%)(0.176g)を使用した以外は例11と同様にしてサンプルを得た。
[例37]
下地層強化処理用組成物に0.75質量%の濃度の液(4g)を用いたこと以外は例7と同様にしてサンプルを得た。
[例38]
下地層強化処理用組成物に3.0質量%の濃度の液(4g)を用いたこと以外は例7と同様にしてサンプルを得た。
[例39]
下地層形成用組成物中の中空シリカとして、[2−9]で得た中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(9)(1.24g)を用いたこと以外は例8と同様にしてサンプルを得た。
[例40]
下地層形成用組成物中の中空シリカとして、[2−10]で得た中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(10)(1.40g)を用いたこと以外は例7と同様にしてサンプルを得た。
[例41]
下地層形成用組成物中の中空シリカとして、[2−13]で得た中空状シリカ微粒子の凝集体分散液(13)(1.40g)を用いたこと以外は例7と同様にしてサンプルを得た。
[例42]
下地層形成用組成物中の2−プロパノールの量を14.13gとしたこと以外は例27と同様にしてサンプルを得た。
[例43]
下地層コート塗布時のスピンコーターの条件を400rpm、20秒としたこと以外は例31と同様にしてサンプルを得た。
上記例1〜31(実施例)の撥水性皮膜の材料成分を表1(例1〜20)、および表2(例21〜31)に、評価結果を表3(例1〜20)、および表4(例21〜31)に示す。また、例32〜43(比較例)の撥水性皮膜の材料成分を表5に、評価結果を表6に示す。
Figure 0005716679
Figure 0005716679
Figure 0005716679
上記(iv)の場合、中空状微粒子に含まれる酸化ケイ素以外の金属酸化物の量は、中空状微粒子に含まれる酸化ケイ素の100質量部に対して1.0〜8.0質量部であることが好ましく、1.5〜5.0質量部であることがより好ましい。
Figure 0005716679
Figure 0005716679
Figure 0005716679
表3、表4および表6から分かるように、本発明の撥水性基体(例1〜31)は、比較例の撥水性基体(例32〜43)に比べ、表面に設けられた撥水性皮膜について、撥水性および耐磨耗性に優れる。具体的には、本発明の撥水性基体(例1〜31)は、水跳ね性で評価される撥水性について、初期においても、耐磨耗試験後においても一定水準を上回る撥水性能を有する。
本発明の撥水性皮膜を有する撥水性基体は、その撥水性皮膜表面が撥水性に優れ、かつ、耐摩耗性に優れるので、輸送機器(自動車、鉄道、船舶、飛行機等)用物品、特に窓ガラスとして好適に用いることができる。
なお、2010年1月19日に出願された日本特許出願2010−008738号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
1…基体、2…撥水性皮膜、3…純水、4…滴下手段、5…滴下点、6…純水が計測台に落下した位置、8…計測台、10…撥水性基体(検体)、11…下地層、12…撥水層、a1、a2、a3、a4…内部に閉じられた空隙、b1、b2…断面を真横から投影した場合に皮膜の平均膜厚以下に存在する皮膜上面(表面)に開いた凹状空隙

Claims (24)

  1. 基体の少なくとも片側表面に撥水性皮膜を有する撥水性基体であって、
    前記撥水性皮膜は、前記基体側に設けられた平均一次粒子径が20〜85nmの金属酸化物微粒子(A)の凝集体および金属酸化物バインダーを含みかつ表面が凹凸形状を示す下地層と、前記下地層の上に設けられた撥水層とを備え、
    前記撥水性皮膜表面における下記方法で評価される水跳ね性が100mm以上であり、JIS L0803に準拠したネル布を用いた応力11.8N/4cmでのトラバース試験機による往復2000回摩擦試験後の前記撥水性皮膜表面における前記水跳ね性が20mm以上であることを特徴とする撥水性基体。
    ・水跳ね性:基体の撥水性皮膜を有する面(以下、測定面という)を上にして、測定面が水平面に対して45度の傾斜をもつように撥水性基体を設置し、20μlの純水の水滴を測定面から10cmの高さの位置から測定面に落とした際に、測定面に当たった水が測定面と平行な方向に跳ねた距離。
  2. 基体の少なくとも片側表面に撥水性皮膜を有する撥水性基体であって、
    前記撥水性皮膜は、前記基体側に設けられた平均一次粒子径が20〜85nmの金属酸化物微粒子(A)の凝集体および金属酸化物バインダーを含みかつ表面が凹凸形状を示す下地層と、前記下地層の上に設けられた撥水層とを備え、
    前記撥水性皮膜表面における下記方法で評価される水跳ね性が100mm以上であり、かつ、前記撥水性皮膜における下記する空隙率が30%以下であることを特徴とする撥水性基体。
    ・水跳ね性:基体の撥水性皮膜を有する面(以下、測定面という)を上にして、測定面が水平面に対して45度の傾斜をもつように撥水性基体を設置し、20μlの純水の水滴を測定面から10cmの高さの位置から測定面に落とした際に、測定面に当たった水が測定面と平行な方向に跳ねた距離。
    ・空隙率:撥水性皮膜の断面中に空隙が占める面積の割合(%)。
  3. 前記金属酸化物微粒子(A)凝集体の質量を(a)、前記金属酸化物バインダーの質量を(b)としたときの両者の質量比率(a):(b)が、金属酸化物換算の質量比で75:25〜50:50である、請求項1または2に記載の撥水性基体。
  4. 前記撥水性皮膜表面における、JIS R1683(2007)に準拠して走査型プローブ顕微鏡(SPM)により測定される算術平均面粗さ(Ra)が、15nm〜40nmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の撥水性基体。
  5. 前記金属酸化物微粒子(A)が中空状のシリカ微粒子である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の撥水性基体。
  6. 前記下地層が、平均一次粒子径が3〜18nmの金属酸化物微粒子(C)の凝集体をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の撥水性基体。
  7. 前記撥水性皮膜の平均膜厚が50〜600nmである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の撥水性基体。
  8. 基体の少なくとも片側表面に撥水性皮膜を有する撥水性基体であって、
    前記撥水性皮膜は、平均一次粒子径が20〜85nmの金属酸化物微粒子(A)の凝集体および金属酸化物バインダー前駆体を含む下地層形成用組成物を塗布し乾燥して得られた、表面が凹凸形状を示す下地層と、前記下地層の上に設けられた撥水層とを備え、
    前記撥水性皮膜表面における下記方法で評価される水跳ね性が100mm以上であり、JIS L0803に準拠したネル布を用いた応力11.8N/4cmでのトラバース試験機による往復2000回摩擦試験後の前記撥水性皮膜表面における前記水跳ね性が20mm以上であることを特徴とする撥水性基体。
    ・水跳ね性:基体の撥水性皮膜を有する面(以下、測定面という)を上にして、測定面が水平面に対して45度の傾斜をもつように撥水性基体を設置し、20μlの純水の水滴を測定面から10cmの高さの位置から測定面に落とした際に、測定面に当たった水が測定面と平行な方向に跳ねた距離。
  9. 基体の少なくとも片側表面に撥水性皮膜を有する撥水性基体であって、
    前記撥水性皮膜は、平均一次粒子径が20〜85nmの金属酸化物微粒子(A)の凝集体および金属酸化物バインダー前駆体を含む下地層形成用組成物を塗布し乾燥して得られた、表面が凹凸形状を示す下地層と、前記下地層の上に設けられた撥水層とを備え、
    前記撥水性皮膜表面における下記方法で評価される水跳ね性が100mm以上であり、かつ、前記撥水性皮膜における下記する空隙率が30%以下であることを特徴とする撥水性基体。
    ・水跳ね性:基体の撥水性皮膜を有する面(以下、測定面という)を上にして、測定面が水平面に対して45度の傾斜をもつように撥水性基体を設置し、20μlの純水の水滴を測定面から10cmの高さの位置から測定面に落とした際に、測定面に当たった水が測定面と平行な方向に跳ねた距離。
    ・空隙率:撥水性皮膜の断面中に空隙が占める面積の割合(%)。
  10. 請求項1〜9のいずれか1項に記載の撥水性基体を備えた輸送機器用物品。
  11. 請求項1〜9のいずれか1項に記載の撥水性基体であって、基体がガラス板であることを特徴とする輸送機器用窓ガラス。
  12. 基体の少なくとも片側表面に下地層と撥水層とを備えた撥水性皮膜を有する撥水性基体の製造方法であって、
    前記基体の少なくとも片側表面に、金属酸化物微粒子の凝集体と金属酸化物バインダー前駆体と、分散媒体とを含む下地層形成用組成物であり、
    前記金属酸化物微粒子の凝集体が、主として、平均一次粒子径が20〜85nm、かつ体積平均凝集粒子径が200〜600nmである金属酸化物微粒子(A)の凝集体からなり、前記金属酸化物微粒子(A)の凝集体と前記金属酸化物バインダー前駆体とを金属酸化物換算の質量比として75:25〜50:50の割合で含有する下地層形成用組成物、
    または、前記金属酸化物微粒子の凝集体が、主として、前記金属酸化物微粒子(A)の凝集体と、前記金属酸化物微粒子(A)の凝集体の含有量の5〜200質量%の量の、平均一次粒子径が3〜18nm、かつ体積平均凝集粒子径が3〜30nmである金属酸化物微粒子(C)の凝集体とからなり、前記金属酸化物微粒子(A)の凝集体と前記金属酸化物バインダー前駆体とを金属酸化物換算の質量比として75:25〜50:50の割合で、かつ前記金属酸化物微粒子(A)の凝集体および前記金属酸化物微粒子(C)の凝集体の合計と前記金属酸化物バインダー前駆体とを金属酸化物換算の質量比として90:10〜50:50の割合で含有する下地層形成用組成物を、
    塗布し乾燥させて、凹凸形状の表面を有する下地層を形成する工程と、
    前記下地層の表面に撥水剤を含む撥水層形成用組成物を塗布し乾燥させて前記下地層表面に撥水層を形成し、平均膜厚が50〜600nmの撥水性皮膜を形成させる工程と、を有することを特徴とする撥水性基体の製造方法。
  13. 前記金属酸化物微粒子(A)の凝集体と前記金属酸化物バインダー前駆体の、金属酸化物換算の質量比が72:28〜60:40の割合である、請求項12に記載の撥水性基体の製造方法。
  14. 前記金属酸化物バインダーの前駆体となる金属化合物がアルコキシシラン化合物および/またはその加水分解縮合物である請求項12または13に記載の撥水性基体の製造方法。
  15. 前記金属酸化物微粒子(A)がシリカ微粒子である、請求項12〜14のいずれか1項に記載の撥水性基体の製造方法。
  16. 前記金属酸化物微粒子(A)の平均一次粒子径が20〜75nmである、請求項12〜15のいずれか1項に記載の撥水性基体の製造方法。
  17. 前記金属酸化物微粒子(A)が中空状の金属酸化物微粒子である、請求項12〜16のいずれか1項に記載の撥水性基体の製造方法。
  18. 前記中空状金属酸化物微粒子(A)における平均シェル厚さが1〜10nmである、請求項17に記載の撥水性基体の製造方法。
  19. 前記金属酸化物微粒子(C)がシリカ微粒子および/またはジルコニア微粒子である、請求項12〜18のいずれか1項に記載の撥水性基体の製造方法。
  20. 前記下地層を形成する工程の後に、ポリシラザン類を含浸させ加水分解縮合または熱分解させる工程をさらに含む、請求項12〜19のいずれか1項に記載の撥水性基体の製造方法。
  21. 前記下地層を形成する工程の後に、アルコキシシラン類、クロロシラン類およびイソシアネートシラン類からなる群から選ばれる少なくとも1種および/またはその部分加水分解縮合物を主原料成分として含む密着層形成用組成物を下地層の表面に塗布し密着層を形成する工程をさらに含む、請求項12〜20のいずれか1項に記載の撥水性基体の製造方法。
  22. 前記撥水性皮膜表面における下記方法で評価される水跳ね性が100mm以上であり、JIS L0803に準拠したネル布を用いた応力11.8N/4cmでのトラバース試験機による往復2000回摩擦試験後の前記撥水性皮膜表面における前記水跳ね性が20mm以上である、請求項12〜21のいずれか1項に記載の撥水性基体の製造方法。
    ・水跳ね性:基体の撥水性皮膜を有する面(以下、測定面という)を上にして、測定面が水平面に対して45度の傾斜をもつように撥水性基体を設置し、20μlの純水を測定面から10cmの高さの位置から測定面に落とした際に、測定面に当たった水が測定面と平行な方向に跳ねた距離。
  23. 前記撥水性皮膜表面における下記方法で評価される水跳ね性が100mm以上であり、かつ、前記撥水性皮膜における下記する空隙率が30%以下である、請求項12〜21のいずれか1項に記載の撥水性基体の製造方法。
    ・水跳ね性:基体の撥水性皮膜を有する面(以下、測定面という)を上にして、測定面が水平面に対して45度の傾斜をもつように撥水性基体を設置し、20μlの純水を測定面から10cmの高さの位置から測定面に落とした際に、測定面に当たった水が測定面と平行な方向に跳ねた距離。
    ・空隙率:撥水性皮膜の断面中に空隙が占める面積の割合(%)。
  24. 分散媒体を含むとともに、平均一次粒子径が20〜85nmであり、体積平均凝集粒子径が200〜600nmである金属酸化物微粒子(A)の凝集体と、金属酸化物バインダー前駆体とを、金属酸化物換算の質量比として75:25〜50:50の割合で含有する請求項12〜23記載のいずれか1項に記載の撥水性基体の製造方法に用いる下地層形成用組成物。
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