ところで、上記特許文献1の技術では、前側のエアバッグの内圧は維持されたままであり、衝突時にシートベルト装置から乗員が受ける着座荷重を低減するとの観点からは改善の余地がある。
本発明は、衝突時にシートベルト装置から着座乗員が受ける荷重を低減することができる車両用シート及び自動車を得ることが目的である。
請求項1記載の発明に係る車両用シートは、シートクッションと、前記シートクッション内における車両前後方向の前側に設けられ、ガス供給を受けて膨張展開される第1膨張部と、前記シートクッション内における前記第1膨張部の後側に設けられ、ガス供給を受けて膨張展開される第2膨張部と、前記第1膨張部にガスを供給するガス供給手段と、前記第1膨張部と第2膨張部との間に設けられ、前記第1膨張部が膨張展開された後に該第1膨張部の内圧が低下するように該第1膨張部のガスを第2膨張部に逃がす弁構造と、を備えている。
この装置では、例えば車両の前面衝突時にガス供給手段が作動されると、該ガス供給手段から第1膨張部にガスが供給され、該第1膨張部が膨張展開される。このガス供給の初期には、弁構造により第1膨張部から第2膨張部へのガス供給が防止又は抑制され、第1膨張部の膨張展開によって着座乗員の大腿部が持ち上げられることで、着座乗員の前方への移動が抑制される。その後、弁構造による第1膨張部から第2膨張部へのガス供給の防止又は抑制状態が解消されると、第1膨張部から第2膨張部にガスが逃がされ、第1膨張部の内圧は低下される。このため、第1膨張部による着座乗員のシートクッションへの初期拘束後には、シートベルト装置から着座乗員に作用する荷重が緩和される。
このように、衝突時にシートベルト装置から着座乗員が受ける荷重を低減することができる。
請求項2記載の発明に係る車両用シートは、シートクッションと、前記シートクッション内における車両前後方向の前側に設けられ、ガス供給を受けて膨張展開される第1膨張部と、前記シートクッション内における前記第1膨張部の後側に設けられ、ガス供給を受けて膨張展開される第2膨張部と、前記第1膨張部にガスを供給するガス供給手段と、前記第1膨張部と第2膨張部との間に設けられ、前記第1膨張部への前記ガス供給手段からのガス供給開始から所定時間遅れて、該第1膨張部の内圧が低下するように該第1膨張部のガスを第2膨張部に逃がす弁構造と、を備えている。
この装置では、例えば車両の前面衝突時にガス供給手段が作動されると、該ガス供給手段から第1膨張部にガスが供給され、該第1膨張部が膨張展開される。このガス供給の初期には、弁構造により第1膨張部から第2膨張部へのガス供給が防止又は抑制され、第1膨張部の膨張展開によって着座乗員の大腿部が持ち上げられることで、着座乗員の前方への移動が抑制される。ガス供給手段から第1膨張部へのガス供給開始から所定時間経過すると、弁構造による第1膨張部から第2膨張部へのガス供給の防止又は抑制状態が解消され、該第1膨張部から第2膨張部にガスが移動する。これにより、第1膨張部の内圧は低下される。このため、第1膨張部による着座乗員のシートクッションへの初期拘束後には、シートベルト装置から着座乗員に作用する荷重が緩和される。
このように、衝突時にシートベルト装置から着座乗員が受ける荷重を低減することができる。
請求項3記載の発明に係る車両用シートは、シートクッションと、前記シートクッション内における車両前後方向の前側に設けられ、ガス供給を受けて膨張展開される第1膨張部と、前記シートクッション内における前記第1膨張部の後側に設けられ、ガス供給を受けて膨張展開される第2膨張部と、前記第1膨張部にガスを供給するガス供給手段と、前記第1膨張部と第2膨張部との間に設けられ、前記第1膨張部の内圧又は前記第1膨張部と第2膨張部との内圧差が所定内圧を超えると該第1膨張部のガスが第2膨張部に逃げて該第1膨張部の内圧が低下するように開弁する弁構造と、を備えている。
この装置では、例えば車両の前面衝突時にガス供給手段が作動されると、該ガス供給手段から第1膨張部にガスが供給され、該第1膨張部が膨張展開される。このガス供給の初期には、弁構造により第1膨張部から第2膨張部へのガス供給が防止又は抑制され、第1膨張部の膨張展開によって着座乗員の大腿部が持ち上げられることで、着座乗員の前方への移動が抑制される。第1膨張部の内圧が所定内圧を超えると、弁構造による第1膨張部から第2膨張部へのガス供給の防止又は抑制状態が解消され、該第1膨張部から第2膨張部にガスが移動する。これにより、第1膨張部の内圧は、低下される。このため、第1膨張部による着座乗員のシートクッションへの初期拘束後には、シートベルト装置から着座乗員に作用する荷重が緩和される。
このように、衝突時にシートベルト装置から着座乗員が受ける荷重を低減することができる。
請求項4記載の発明に係る車両用シートは、請求項1〜請求項3の何れか1項において、前記第1膨張部と第2膨張部とは一体のバッグとして形成されており、前記弁構造は、布材より成り前記第1膨張部と第2膨張部との境界部の少なくとも一部を構成し、前記第1膨張部と第2膨張部との差圧により開弁される布弁を含んで構成されている。
この装置では、弁構造が前後のエアバッグと共に布材より構成されているため、簡単な構造で初期拘束後に第1膨張部から第2膨張部にガスを逃がす構成が得られる。
請求項5記載の発明に係る車両用シートは、請求項1〜請求項4の何れか1項において、前記第1膨張部及び第2膨張部は、それぞれシート幅方向に離間して膨張展開される左右一対の膨張部を含んで構成されており、前記弁構造は、前記第1膨張部及び第2膨張部の左右の膨張部の間にそれぞれ設けられている。
この装置では、初期拘束の際には、第1膨張部の左右の膨張部が膨張されて着座乗員の大腿部を持ち上げる。第1膨張部は、左右の膨張部が車幅方向に離間しているので、シート幅方向に亘る第1膨張部と比較して、全体としての容量が小さい。このため、初期拘束の際に第1膨張部の左右の膨張部は短時間で膨張展開され、初期拘束性能の向上に寄与する。また、左右の膨張部のそれぞれに弁構造が設けられているので、第1膨張部から第2膨張部へガスがスムースに移動する。
請求項6記載の発明に係る車両用シートは、請求項5において、前記第1膨張部と第2膨張部とは、それぞれ前記左右一対の膨張部を連通する前後の膨張部を有し、全体として平面視で環状のエアバッグを構成している。
請求項7記載の発明に係る車両用シートは、請求項6において、前記環状のエアバッグの内縁部に全周に亘って接合されている補強布をさらに備えている。
この装置では、第1膨張部が後向きに開口する略U字状を成すと共に、第2膨張部が前向きに開口する略U字状を成し、全体として環状のエアバッグを成す。このため、第2膨張部の左右の膨張部が連通されていない構成と比較して、第2膨張部の容量が大きく、初期拘束後の第1膨張部の内圧を大きく低下させることができる。また、第1膨張部の左右の膨張部が連通されているため、該第1膨張部の左右の膨張部へのガス供給構造を簡素化することができる。
請求項8記載の発明に係る車両用シートは、請求項1〜請求項4の何れか1項において、前記第1膨張部及び第2膨張部は、単一のバッグが隔壁にて仕切られることで形成されており、前記弁構造は、前記隔壁に設けられている。
この装置では、単に単一のバッグを隔壁で仕切ると共に該隔壁に弁構造を設ける簡単な構造で、初期拘束後に第1膨張部から第2膨張部にガスを逃がす構成が得られる。
請求項9記載の発明に係る自動車は、請求項1〜請求項8の何れか1項記載の車両用シートと、前記車両用シートの着座乗員を、ショルダウエビング及びラップウエビングにて拘束するためのシートベルト装置と、を備えている。
この自動車では、上記の通り前面衝突の際の初期拘束後に第1膨張部から第2膨張部へガスが移動するため、シートクッションへの初期拘束後には、シートベルト装置から着座乗員に作用する荷重が緩和される。
以上説明したように本発明に係る車両用シート及び自動車は、衝突時にシートベルト装置から着座乗員が受ける荷重を低減することができるという優れた効果を奏する。
本発明の第1の実施形態に係る車両用シート10について、図1〜図7に基づいて説明する。なお、図中に適宜記す矢印FRは車両前後方向の前方向を、矢印UPは車両上下方向の上方向を、矢印RH及び矢印LHは車両用シート10の着座乗員Pから見て右側(シート幅方向の一方側)及び左側(シート幅方向の他方側)をそれぞれ示す。以下の説明で、特記なく前後、上下、左右の方向を用いる場合は、車両前後方向の前後、車両上下方向の上下、着座乗員Pから見た左右を示すものとする。なお、シート幅方向及び車幅方向は、着座乗員Pから見た左右方向に一致されている。
図1には、車両用シート10の要部構成が一部切り欠いた平面図にて示されている。また、図2には、車両用シート10が一部切り欠いた側面図にて示されている。この図2に示される如く、本実施形態では、車両用シート10は、後述するシートベルト装置30を備えた自動車11に適用されている。そして、図1に示される如く、車両用シート10は、乗員が着座するシートクッション14と、シートクッションの後端側に下端側が接続されバックレストを成すシートバック16とを含んで構成されている。そして、シートクッション14内には、クッションエアバッグ装置18が配設されている。クッションエアバッグ装置18は、ガス供給手段としてのインフレータ20と、インフレータ20からのガス供給を受けて膨張展開するエアバッグとしてのクッションエアバッグ22とを主要部として構成されている。
図2に示される如く、クッションエアバッグ装置18は、その機械的構成部分がシートクッション14を構成するシートパン14Aとクッション材14Bとの間に配置されている。図3に示される如くクッションエアバッグ22が膨張展開されることで、着座乗員Pの大腿部を上方に持ち上げる構成とされている。したがって、車両前面衝突の際にクッションエアバッグ装置18が作動されると、着座乗員Pはその大腿部が持ち上げられることで、慣性による車両前方への移動が抑制されるようになっている。
図1に膨張展開状態で示される如く、クッションエアバッグ22は、平面視で中央空間部22Cを囲む略環状(ドーナツ状)に膨張展開される構成とされている。このクッションエアバッグ22は、その内部に設けられた仕切布24によって、第1膨張部としての前側チャンバ22Fと第2膨張部としての後側チャンバ22Rとに仕切られている。仕切布24は、クッションエアバッグ22の前後方向の略中間部で中央空間部22Cをシート幅方向に挟むように左右一対設けられている。これにより、前側チャンバ22Fと後側チャンバ22Rとは、平面視で前後対称の半円弧状(U字状)に形成されている。前側チャンバ22F、後側チャンバ22Rのそれぞれにおける中央空間部22Cに対するシート幅方向の両側に位置する部分が本発明における左右一対の膨張部に相当する。また、クッションエアバッグ22における中央空間部22Cに対する前後方向の両側に位置する部分が本発明における左右一対の膨張部を連通する前後の膨張部に相当する。
クッションエアバッグ22は、その前側チャンバ22Fにおいて、その内部に配置されたインフレータ20を介してシートパン14Aに固定されている。このインフレータ20は、シート軸方向に長い筒状(本実施形態では略円筒状)を成しており、長手方向の複数位置でシートパン14Aに固定されている。インフレータ20は、その長手方向の一端側にガス噴出孔20Aが形成されており、作動されるとガス噴出孔20Aからガスを噴出する構成とされている。この実施形態では、複数のガス噴出孔20Aがインフレータ20の周方向に沿って形成されている。これらのガス噴出孔20Aは、クッションエアバッグ22における車幅方向中心線(図示省略)に対し車幅方向外側に配置されている。なお、インフレータ20の長手方向の両端側にガス噴出孔20Aが形成されても良い。
クッションエアバッグ装置18は、図示しない制御装置としてのエアバッグECUに電気的に接続されている。エアバッグECUは、図示しない前突センサからの信号に基づいて、車両の前面衝突(の不可避)を検知した場合に、インフレータ20を作動する構成とされている。
また、左右の仕切布24には、それぞれインフレータ20から前側チャンバ22Fに供給されたガスの一部を後側チャンバ22Rに移動させるための弁構造、布弁としてのチューブベント26が設けられている。チューブベント26は、図5(A)及び図6に示される如く一端が仕切布24の開口部24Aに連続し、他端が後側チャンバ22R側で自由端とされたチューブ状に形成されている。すなわち、チューブベント26は、仕切布24と同種の布材にて構成されている。
このチューブベント26の自由端側は、縫製や接着等によって閉じられ、又は、閉じられかつ仕切布24に接合されている。これにより、チューブベント26は、通常は前側チャンバ22Fから後側チャンバ22Rへのガス移動(流通)を規制するようになっており、仕切布24と共に前側チャンバ22Fと後側チャンバ22Rとの境界部を構成する。この状態をチューブベント26の閉弁状態ということとする。そして、前側チャンバ22Fの内圧が所定内圧を超えた場合に、図5(B)に示される如くチューブベント26は、上記縫製や接着による閉弁状態が解消されて(開弁されて)前側チャンバ22Fから後側チャンバ22Rへのガス移動を許容する構造になっている。
この所定内圧は、前面衝突時に前側チャンバ22Fによって着座乗員Pの大腿部を持ち上げて該着座乗員Pの前方への移動を抑制する機能(初期拘束機能)を果たした後に到達する内圧として設定されている。換言すれば、チューブベント26は、インフレータ20による前側チャンバ22Fへのガス供給開始から、前側チャンバ22Fが初期拘束機能を果たすのに要する(前側チャンバ22Fが所定内圧に達する)所定時間遅れて、開弁される構成とされている。なお、上記の所定内圧は前側チャンバ22Fと後側チャンバ22Rとの所定内圧差として捉えても良い。クッションエアバッグ22は、前面衝突の中期から終期にかけては、前側チャンバ22F及び後側チャンバ22Rが膨張展開された状態で着座乗員Pをシートクッション14に対し拘束するようになっている。
また、図2に示される如く、車両用シート10の着座乗員Pは、前面衝突の際にシートベルト装置30のウエビング30Wにて拘束されるようになっている。この実施形態では、ショルダウエビング30WS及びラップウエビング30WLにて着座乗員Pを上体(胸部)及び腰部において拘束する3点式のシートベルト装置30が採用されている。シートベルト装置30は、ウエビング30Wの両端が結合されたリトラクタ及びアンカ、並びにウエビング30Wの中間部に設けられたタングプレートが連結されるバックル装置が車両用シート10に設けられたシート付けとされても良い。また、シートベルト装置30は、リトラクタ、アンカ、バックル装置が車体に設けられたボディ付けとされても良い。
さらに、車両用シート10の前方のインストルメントパネル28(又はステアリングホイール)には、前面衝突の際に着座乗員Pの主に上体の前方移動を拘束するための前突エアバッグ装置32が設けられている。図3及び図4では、インストルメントパネル28から展開される助手席用の前突エアバッグ32Aの展開状態が図示されている。
また、図2に示される如く、シートクッション14には、シート冷却手段としてのシート冷却装置34が設けられている。シート冷却装置34は、車室内の空気を下方の吸い込み口36Aから吸い込んで吹き出し口36Bから吹き出すシートファンユニット36を含んで構成されている。また、シート冷却装置34は、シートファンユニット36が吹き出した空気をクッション材14Bの下面側に案内するダクト38を含んで構成されている。シートファンユニット36は、図示しないブラケットを介してシートクッション14のシートパン14Aに固定されている。
そして、図1及び図2に示される如く、ダクト38は、シートパン14Aを下方から貫通しており、その下流端の開口部38Aが平面視で中央空間部22Cにて開口している。これにより、ダクト38の開口部38Aから吹き出される空気がクッションエアバッグ22にて遮られることのない構成とされている。開口部38Aから吹き出された空気は、通気性を有するクッション材14B(及び表皮材)を通じてシートクッション14上に吹き出されるようになっている。
また、この実施形態では、クッションエアバッグ22の中央空間部22Cを覆うメッシュクロス40が設けられている。メッシュクロス40は、メッシュ地の基布より成り、通気性を有している。このため、メッシュクロス40を通じてシート冷却装置34(開口部38A)からの空気がクッション材14Bに導かれる構成とされている。このメッシュクロス40は、全周に亘ってクッションエアバッグ22の内縁部に縫製により接合されている。より具体的には、図6に半割りして示される如く、クッションエアバッグ22は、上下一対の基布22Up、22Lwの接合により形成されている。メッシュクロス40は、上下の基布22Up、22Lwの接合部分である内周フランジ部22Fiに、全周に亘って縫製にて接合されている。
次に、本実施形態の作用を説明する。
上記構成の車両用シート10では、車両の前面衝突が検知されると、クッションエアバッグ装置18のインフレータ20が作動される。すると、インフレータ20からガス供給を受けたクッションエアバッグ22の前側チャンバ22Fは、図3に示される如くシートクッション14内で膨張展開され、着座乗員Pの大腿部を持ち上げる。これにより、着座乗員Pの主に下肢の慣性による前方への移動が抑制され、インストルメントパネル等との衝突に対し保護される。具体的には、ウエビング30Wを装着している着座乗員Pのシートクッション14への潜り込み(所謂、サブマリン現象)が前側チャンバ22Fによって抑制されることで、着座乗員Pの前方移動が3点式シートベルト装置によって良好に拘束される。
すなわち、前面衝突初期の乗員拘束機能が良好に果たされる。特に、上下方向に扁平とされた薄型のインストルメントパネル28を採用する自動車の場合、ニーエアバッグではインストルメントパネルにて乗員膝からの反力を支持することが難しく、クッションエアバッグ装置18が有効である。
ここで、前側チャンバ22Fの内圧が所定内圧を超えると、該内圧によってチューブベント26の閉弁状態が解消され、図5(B)に示される如く前側チャンバ22Fから後側チャンバ22Rへガスが供給される。このため、前側チャンバ22Fの内圧が低下する一方、図4に示される如く後側チャンバ22Rが膨張展開される。このため、衝突(エネルギ吸収)の中期から終期にかけての乗員拘束性能を維持しつつ、該着座乗員Pに作用する荷重を抑えることができる。
この点について図7を参照しつつ補足する。図7(A)は、前面衝突後の乗員腰部の重心高の時間変化を示す線図である。一点鎖線は前側チャンバ22Fの内圧がP1(P1>P2)で一定である場合の腰部重心高の変化を示し、実線は前側チャンバ22Fの内圧がP1からP2に低下した場合の腰部重心高の変化を示している。この図から、腰部重心高のピーク付近でチューブベント26が開弁されると、前側チャンバ22Fのガスの一部が後側チャンバ22Rに逃がされることで前側チャンバ22Fの内圧が低下し、内圧がP1で一定の場合よりも腰部重心高が大きく低下することが解る。
図7(B)は、前面衝突のエネルギ吸収過程でのショルダウエビング30WSによる着座乗員Pの胸部のたわみ量(以下、「胸たわみ」という)の時間変化を示す線図である。一点鎖線は前側チャンバ22Fの内圧がP1で一定である場合の胸たわみの変化を示し、実線は前側チャンバ22Fの内圧がP2で一定である場合の胸たわみの変化を示している。これらの図から、胸たわみは腰部重心高の上昇と共に増加し、かつ腰部重心高がピークを迎えた後も一定期間は増加することが解る。そして、前側チャンバ22Fの内圧がP1からP2に低下されると、一点鎖線で示す胸たわみ特性から実線で示す胸たわみ特性に移行する。したがって、上記の通り腰部重心高のピーク付近で、すなわち胸たわみがピークを迎える前に、前側チャンバ22Fの内圧がP1からP2に低下させることで、胸たわみのピークを小さく抑えることができる。
図7(C)は、前面衝突のエネルギ吸収過程でのラップウエビング30WLから着座乗員Pの腰部に作用するラップベルト荷重の時間変化を示す線図である。一点鎖線は前側チャンバ22Fの内圧がP1で一定である場合のラップベルト荷重の変化を示し、実線は前側チャンバ22Fの内圧がP2で一定である場合のラップベルト荷重の変化を示している。これらの図から、ラップベルト荷重は腰部重心高の上昇と共に増加し、かつ腰部重心高がピークを迎えた後も一定期間は増加することが解る。そして、前側チャンバ22Fの内圧がP1からP2に低下されると、一点鎖線で示すラップベルト荷重特性から実線で示すラップベルト荷重特性に移行する。したがって、上記の通りそして重心高のピーク付近で、すなわちラップベルト荷重がピークを迎える前に、前側チャンバ22Fの内圧がP1からP2に低下させることで、ラップベルト荷重のピークを小さく抑えることができる。
このように、車両用シート10では、前面衝突の中期から終期にかけてウエビング30Wから着座乗員Pに作用する荷重を低減することができる。しかも、前側チャンバ22Fのガスを外部に排出することなく後側チャンバ22Rに逃がす構造であるため、前側チャンバ22Fすなわちクッションエアバッグ22全体として膨張展開状態(内圧)が維持される。このため、全体として展開されたクッションエアバッグ22は、ウエビング30Wによる乗員拘束に寄与し、着座乗員Pの腰部の前方移動を許容範囲内で停止させることができる。
また、上記の通り前面衝突のエネルギ吸収過程でウエビング30Wから着座乗員Pが受ける荷重の低減が果たされる。このため、シートベルト装置30(のリトラクタ等)が通常有する荷重制限機構(フォースリミッタ)を不要としたり簡素化したりする等、乗員保護構造全体としての構造の簡素化に寄与する。
またここで、車両用シート10は、前面衝突の初期に前側チャンバ22Fを膨張展開させる構成であるため、クッションエアバッグ22全体を膨張展開させる比較例と比較して、展開に要するガス量(バッグ容量)が小さい。このため、上記の比較例と比較して短時間で前側チャンバ22Fの膨張展開を完了させることができ、前面衝突検知から短時間で着座乗員Pの前方への移動を効果的に抑制することができる。すなわち、上記比較例との比較において、前面衝突時の初期拘束性能が向上する。
特に、クッションエアバッグ22は平面視で略円環状に膨張展開されるため、換言すれば、中央空間部22Cを囲む構成であるため、クッションエアバッグ22自体の容量が、中央空間部22Cが形成されない比較例と比較して小さい。このため、前面衝突時の初期拘束性能が一層向上する。
また、クッションエアバッグ22は、前側チャンバ22F内に配置されたインフレータ20を介してシートパン14Aに固定されている。このため、着座乗員Pの前方への移動を抑制する際にクッションエアバッグ22が前方に移動することが規制される。より具体的には、着座乗員Pの前方移動に伴ってクッションエアバッグ22が前方に倒れるようにしてシートクッション14に対し位置ずれすることが効果的に抑制される。これにより、クッションエアバッグ22による前面衝突時の初期拘束性能が一層向上する。特に、クッションエアバッグ22には中央空間部22Cを覆うメッシュクロス40が接合されているため、前側チャンバ22Fと後側チャンバ22Rとが前後に離れてしまうことがメッシュクロス40(の張力)により抑制される。すなわち、クッションエアバッグ22がメッシュクロス40により補強される。これによっても、着座乗員Pの前方への移動に伴うクッションエアバッグ22の前方への倒れ、これに起因する着座乗員Pの前方への移動量の増加が効果的に抑制される。すなわち、前側チャンバ22Fがインフレータ20を介してシートパン14Aに固定されている構造と合わせて、着座乗員Pの前方への移動を一層効果的に抑制することができる。
またさらに、クッションエアバッグ22が円環状に膨張展開される構成であるため、チューブベント26の開弁後における前側チャンバ22Fの内圧低下効果(着座乗員Pに対するウエビング30Wからの荷重抑制効果)が大きい。例えば、平面視で後向きに開口するU字状に膨張展開される比較例(本発明に含まれる)では、該開口側の左右のチャンバを連通する部分が存在しないため、前側チャンバ22Fからのガスを受け入れる受け入れ容量が小さい。このため、前側チャンバ22Fから逃がすガス量が少なく抑えられてしまう。これに対してクッションエアバッグ22は、中央空間部22Cの両側に位置する左右の膨張部が後端側で連通されているため、所要のガス受け入れ容量が確保され、上記の通り前側チャンバ22Fの内圧低下効果が大きい。
また、クッションエアバッグ22を構成する基布と同様の布材より成るチューブベント26によって、前面衝突の初期に前側チャンバ22Fから後側チャンバ22Rへのガス移動が規制される構造であるため、構造が簡単で信頼性が高い。
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る車両用シート50について、図8に基づいて説明する。なお、上記第1の形態の構成と基本的に同様の構成については、上記第1の形態の構成と同一の符号を付して、その説明、図示を省略する場合がある。
図8には、第2の実施形態に係る車両用シート50が図1に対応する一部切り欠いた平面図にて示されている。この図に示される如く、車両用シート50は、平面視で円環状に膨張展開されるクッションエアバッグ22に代えて、平面視で略矩形状に膨張展開されるクッションエアバッグ52を備える点で、第1の実施形態に係る車両用シート10とは異なる。
クッションエアバッグ52は、平面視で略矩形状を成す単一のエアバッグが隔壁54にて前後に仕切られている。隔壁54は、基布と同様の布材より成る。この隔壁54に対する前側が前側チャンバ52Fとされ、隔壁54に対する後側が後側チャンバ52Rとされる。インフレータ20は、前側チャンバ52F内に配置され、該前側チャンバ52Fにおいてクッションエアバッグ22をシートパン14Aに固定している。
隔壁54には、弁構造としての布弁56が設けられている。布弁56は、隔壁54に形成された矩形状の窓部54Aの周囲で該隔壁54に縫製されている。この縫製のうち窓部54Aの3辺に平行な部分はティアシーム58とされており、前側チャンバ52Fの内圧が所定内圧を超えると破断されるようになっている。この破断によりティアシーム58以外の(通常の強度を有する)縫製部60をヒンジとして、図8に想像線にて示される如く窓部54Aが開放されるようになっている。なお、隔壁54には、布弁56に代えて又は布弁56に加えて、チューブベント26を設けても良い。
また、この実施形態に係る車両用シート50は、シート冷却装置34が設定されない構成とされている。車両用シート50の他の構成は、図示しない部分を含め、車両用シート10の対応する構成と同じである。
したがって、第2の実施形態に係る車両用シート50によっても、クッションエアバッグ22が平面視で略環状に膨張展開されることによる作用効果を除いて、基本的に第1の実施形態に係る車両用シート10と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。また、単に単一のバッグ本体を隔壁54で仕切ると共に布弁56を設ける簡単な構造で、初期拘束後に前側チャンバ22Fから後側チャンバ22Rにガスを逃がす構成が得られる。
なお、上記した各実施形態では、弁構造としてチューブベント26、布弁56を用いた例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、前側チャンバ22Fと後側チャンバ22Rとの境界自体をティアシームとし、該ティアシームの破断後は前側チャンバ22Fと後側チャンバ22Rとの境界が残らない弁構造を採用しても良い。
また、上記した各実施形態では、クッションエアバッグ22、52が仕切布24、隔壁54で仕切られて前側チャンバ22F、52F、後側チャンバ22R、52Rが形成された例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、別のバッグとして構成された前後のチャンバを、弁構造を含む連通チャンバや連通管等で連通した構成としても良い。
さらに、上記した各実施形態では、車両用シート10、50が助手席用のシートである例を示したが、本発明はこれに限定されない。車両用シート10、50は運転席シートとされても良く、複数列のシートを有する車両における2列目以降のシートとされても良い。
またさらに、上記した各実施形態では、車両用シート10、50の着座乗員Pがクッションエアバッグ装置18、3点式のシートベルト装置30、及び前突エアバッグ装置32にて保護される例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、3点式のシートベルト装置30に代わる乗員保護装置(シートベルト装置)を備えた車両用シートに本発明を適用しても良い。このような乗員保護装置は、例えば、着座乗員Pの腹部に対し非接触かつ前方で車幅方向に配置されるラップバーに、前突時に乗員腰部に装着されるラップベルト及び乗員上体とインストルメントパネルとの間で展開するエアバッグを内蔵して構成される。
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で各種変形して実施可能である。