JP5656104B2 - Fe−Co−Ni系合金スパッタリングターゲット材 - Google Patents

Fe−Co−Ni系合金スパッタリングターゲット材 Download PDF

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Description

本発明は、軟磁性膜を形成するためのFe−Co−Ni系合金スパッタリングターゲット材に関するものである
近年、高度情報化社会により磁気記録の高密度化が強く望まれている。この高密度化を実現する技術として、従来の面内磁気記録方式に代わり垂直磁気記録方式が実用化されている。
垂直磁気記録方式とは、垂直磁気記録媒体の磁性膜を媒体面に対して磁化容易軸が垂直方向に配向するように形成したものであり、記録密度を上げて行ってもビット内の反磁界が小さく、記録再生特性の低下が少ない高記録密度に適した方法である。そして、垂直磁気記録方式においては、記録感度を高めた磁気記録膜層と軟磁性膜層とを有する記録媒体が開発されている。
このような磁気記録媒体の軟磁性膜としては、優れた軟磁気特性が要求されることから、アモルファス軟磁性合金が採用されている。代表的な軟磁性膜用アモルファス合金として、Fe、CoあるいはFe−Co合金に添加元素を含む合金膜、Co−Zr−Nb合金膜、Co−Zr−Ta合金膜などが既に実用化されている(例えば、特許文献1参照)。
一般的に、軟磁性膜の成膜にはマグネトロンスパッタリング法が用いられることが知られている。マグネトロンスパッタリング法とは、ターゲット材の背後に磁石を配置し、ターゲット材の表面に磁束を漏洩させて、その漏洩磁束領域にプラズマが収束されることにより高速成膜を可能とするスパッタリング法である。このマグネトロンスパッタリング法はターゲット材のスパッタ表面に磁束を漏洩させることに特徴があるため、ターゲット材自身の透磁率が大きい場合あるいは飽和磁束密度が大きい場合にはターゲット材のスパッタ表面にマグネトロンスパッタリング法に必要十分な漏洩磁束を形成するのが難しくなる。そこで、ターゲット材自身の透磁率を極力低減しなければならないという要求がある。
このような要求に対して、スパッタリング後の軟磁性膜としては飽和磁束密度大きいが、ターゲット材としては十分な漏洩磁束が得られ、飽和磁束密度が低くなる材料が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
特開2004−206805号公報 特開2007−59424号公報
上述の特許文献2では、ターゲットの飽和磁束密度を低下させてマグネトロンスパッタ装置のマグネットからの漏洩磁束を十分に確保するため、2種類以上の結晶相を含む磁性薄膜作製用ターゲットにおいて、結晶相のうち少なくとも1種類をFe:60〜80原子%、かつNi:20〜40原子%のFeNi合金に制御することが提案されている。このターゲットは、FeNi系合金を主成分とするターゲットにおいて、重量比でFe:Ni=70:30で磁性がなくなる特徴を利用したターゲットの組織制御を行うことでターゲット自身の飽和磁束密度を低減できる大変優れたものである。
本発明の目的は、マグネトロンスパッタリングにおけるさらなる使用効率改善やターゲット板厚を厚くすることが可能である、より透磁率の低いFe−Co−Ni系合金スパッタリングターゲット材を提供することである。
本発明者らは、垂直磁気記録媒体等に用いられる軟磁性膜を形成するためのFe−Co−Ni系合金スパッタリングターゲット材について、漏洩磁束の確保のため、Fe−Co−Ni合金の結晶相の結晶構造を検討した結果、ターゲット材の組織中に、Feを主体とする結晶相として磁気モーメントの比較的小さいfcc相を一定量以上残存させた結晶組織とすることにより、透磁率の低いスパッタリングターゲット材が得られることを見出し本発明に到達した。
すなわち本発明は、原子比でFe:Ni=90:10〜65:35、かつ(Fe+Ni):Co=90:10〜10:90の組成比を有する焼結体からなるFe−Co−Ni系合金スパッタリングターゲット材であって、前記ターゲット材の焼結組織中に、35原子%以下のNi、15原子%以下のCoを含有するFeを主体とする結晶相を有し、かつターゲット材の10mm以上の領域をX回折強度測定した時の前記Feを主体とする結晶相のFeを主体とするfcc相の(200)面からのX線回折ピーク強度(Ifcc(200))とFeを主体とするbcc相の(200)面からのX線回折ピーク強度(Ibcc(200))との比Ifcc(200)/Ibcc(200)が10以上であるFe−Co−Ni系合金スパッタリングターゲット材ある。好ましくは、(Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、B、Al、Si)から選ばれる1種もしくは2種以上の元素を30原子%以下含有する。
本発明によれば、マグネトロンスパッタリングにおける使用効率改善やターゲット板厚を厚くすることが可能である透磁率が低い軟磁性膜形成用のFe−Co−Ni系合金スパッタリングターゲット材を安定提供でき、垂直磁気記録媒体のようにFe−Co−Ni系合金の軟磁性膜を必要とする工業製品を製造する上で極めて有効な技術となる。
実施例における試料1のX線回折強度チャートである。 実施例における試料2のX線回折強度チャートである。 実施例における試料3のX線回折強度チャートである。 実施例における試料4のX線回折強度チャートである。 実施例における試料5のX線回折強度チャートである。 実施例における試料6のX線回折強度チャートである。 実施例における試料7のX線回折強度チャートである。
上述したように、本発明の重要な特徴は、Fe−Co−Ni系合金スパッタリングターゲット材の組織中に、Feを主体とする結晶相としてfcc相を一定量以上残存させた結晶組織とすることで、従来にない低透磁率のスパッタリングターゲットを実現した点にある。
まず、本発明のFe−Co−Ni系合金スパッタリングターゲット材は、原子比でFe:Ni=90:10〜65:35、かつ(Fe+Ni):Co=90:10〜10:90の組成である。垂直式記録媒体の軟磁性膜としては、高飽和磁化を有することが望ましく、Fe、Ni、Coを含有する組成系が検討されている。本発明における組成を原子比Fe:Ni=90:10〜65:35としているのは、Niを10原子%以上とすることで磁歪を低減する効果が得られこと、また35原子%を超えると磁気モーメントの低下が大きく、磁気記録媒体の軟磁性膜として望ましい軟磁気特性が得がたくなるためである。また、原子比(Fe+Ni):Co=90:10〜10:90としているのは、Fe、Ni、Coの組成比率をこの値に制御することで、垂直磁気記録媒体に用いる軟磁性膜として高飽和磁化膜とすることが可能となるためである。
次に、本発明のスパッタリングターゲットの焼結組織について説明する。
本発明のスパッタリングターゲット材は、その焼結組織中に、35原子%以下のNi、15原子%以下のCoを含有するFeを主体とする結晶相を有し、ターゲット材の10mm以上の領域をX回折強度測定した時の当該Feを主体とする結晶相のFeを主体とするfcc相の(200)面からのX線回折ピーク強度(Ifcc(200))とFeを主体とするbcc相の(200)面からのX線回折ピーク強度(Ibcc(200))との比Ifcc(200)/Ibcc(200)が10以上になるように組織制御を行う。
本発明のFeを一定組成比以上含むFe−Co−Ni合金においては、Feが最も磁気モーメントが高いため、Feを主体とする結晶相の磁化を低減することが、Fe−Co−Ni系合金スパッタリングターゲット材の透磁率の低減において重要となる。
上述の特許文献2では、Fe:Ni=70:30で磁性がなくなる特徴を利用した組織制御を行うことで、ターゲット自身の飽和磁束密度を低減し、透磁率を低減することを見出したものである。一方、本発明では、原料粉末の粒度を粗くして拡散による組成変動を抑えたり、高温安定相であるfcc相を残留させるために急冷工程を含む熱処理を行うことにより、さらにFeを主体とする結晶相をfcc相として安定的に残存させることで、さらに透磁率の低減を図るものである。
一般にFeは磁気モーメントの大きいbcc相が安定であるが、fcc相は比較的磁気モーメントが小さい相となる。そこで、本発明においては、Feを主体とする結晶相において、fcc相の(200)面からのX線回折ピーク強度(Ifcc(200))とbcc相の(200)面からのX線回折ピーク強度(Ibcc(200))との比Ifcc(200)/Ibcc(200)が10以上となるように、Feを主体とする結晶相として安定的にfcc相を形成することで透磁率のさらなる低減を実現するものである。
なお、X線回折強度は、ターゲット材の10mm以上の面積の領域にX線を照射した場合の回折強度として測定する。
なお、本発明におけるFeを主体とする結晶相では、fcc相を主相にするためNiやCoを添加することが有効であるが、35原子%を超えるNiや15原子%を超えるCoがFeを主体とする結晶相に含有されるとfcc相が主相となってもfcc相自体の磁化が大きくなるため、Feを主体とする結晶相を35原子%以下のNi、15原子%以下のCoを含有するFeを主体とする結晶相とした。また、FeはNiの含有量が30原子%以下の領域においては平衡状態で安定的にfcc構造を得がたいため、特に30原子%以下でNiを含有するFeを主体とする結晶相である場合にfcc相を安定的に残存させることが効果的で望ましい。
また、Feを主体とする結晶相のFeを主体とするfcc相の(200)面からのX線回折ピーク強度(Ifcc(200))とFeを主体とするbcc相の(200)面からのX線回折ピーク強度(Ibcc(200))の比Ifcc(200)/Ibcc(200)が10未満であるとfcc相の存在がターゲット材の磁化低減には十分では無く、10以上とすることによりターゲット材の磁化低減の効果が得られることが確認された。なお、X線回折ピーク強度(Ifcc(200)/Ibcc(200))は大きければ大きいほど好ましいことは言うまでもない。
なお、本来、最密面であるfcc相(111)面とbcc相(110)面のX線回折ピーク強度比を比較することが好ましいが、fcc相(111)面とbcc相(110)はピーク位置が隣接するため、bcc相からのピークはfcc相からのいずれのピークとも隣接しない(200)面を選定した。また、bcc(200)面のピーク強度は比較的弱いためIfcc(200)/Ibcc(200)が10以上でなければターゲット材の磁化低減に十分なfcc相の量比とはならない。
また、本発明のFe−Co−Ni系合金スパッタリングターゲット材は、(Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、B、Al、Si)から選ばれる1種もしくは2種以上の元素を30原子%以下含有することが好ましい。それは、これらの元素を含有することにより、軟磁性膜として必要な特性を改善することが可能となる。特に、膜のアモルファス化、高耐食性、高透磁率には、(Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、B、Al、Si)から選ばれる2種以上の元素を5原子%以上添加することが好ましい。
本発明のFe−Co−Ni系合金ターゲット材の製造方法としては、例えば以下の方法が適用できる。
本発明のFe−Co−Ni系合金スパッタリングターゲット材は、Feを主体とする結晶相として安定的にfcc相を形成することに特徴を有するため、ターゲットを焼結法で作製する際には、Feはfcc構造を有する原料粉末として用いるのが良い。例えば、35原子%以下のNi、15原子%以下のCoを含有する残部Feからなるfcc構造のFeを主体とする合金粉末を必須の原料粉末とする。
焼結に適用する原料粉末の組合せとしては、上記のFeを主体とする合金粉末とその他の1種の合金粉末で所望のターゲット組成になることが好ましいが、Feを主体とする合金粉末と複数の合金粉末や純金属粉末を用いても本発明の効果は得られる。
また、Feを主体とする合金粉末は粉末の粒度が粗い方が製造過程での拡散による組成変動領域による結晶構造の変位が抑制されるためfcc相を安定的に形成可能となる。例えば、Feを主体とする合金粉末としては、平均粒度として35μmを超える粉末を使用することが望ましい。
本発明のターゲット材は、Feを主体とする合金粉末を必須で用い、所望のターゲット組成となるように準備した複数の粉末を混合して焼結を行うことで得られる。焼結方法としては、焼結温度800℃〜1100℃、加圧圧力50MPa以上の加圧焼結法、具体的には熱間静水圧プレス、ホットプレス、通電焼結、押し出し焼結等を用いることが可能である。さらに、焼結後の冷却過程で550℃以上かつ焼結温度以下の温度から水冷等の急冷を行うか、一旦冷却した後に550℃以上かつ焼結温度以下に加熱を行いその後の冷却過程で水冷等の急冷を行うことで、Feを主体とする結晶相をfcc相としてより安定して形成可能になる。
(実施例1)
Fe−29原子%Ni、Co−25原子%Zr、Co−20原子%Nb、純Co、純Niのガスアトマイズ粉末を準備した。
まず、試料1では、上記で準備したFe−29原子%Ni、Co−25原子%Zr、Co−20原子%Nb、純Co、純Niのガスアトマイズ粉末をそれぞれ網目250μmの篩で篩い分けをして、篩を通過した粉末を原料粉末とした。上記の原料粉末を((Fe66−Ni3438−Co6292−Nb−Zr(原子%)[原子比でFe:Ni=66:34かつ(Fe+Ni):Co=38:62、Nb:4原子%、Zr:4原子%]となるよう原料粉末を秤量、混合して混合粉末を作製した。得られた混合粉末を、軟鋼カプセルに充填し脱気封止した後、温度950℃、圧力100MPa、保持時間2時間の条件で熱間静水圧プレス(HIP)によって加圧焼結し、焼結体を作製した。
試料2では、上記原料粉末のうちFe−29原子%Niのガスアトマイズ粉末をさらに網目74μmの篩で篩い分けし、篩を通過した粉末を除去した粉末を原料粉末とし((Fe66−Ni3438−Co6292−Nb−Zr(原子%)[原子比でFe:Ni=66:34かつ(Fe+Ni):Co=38:62、Nb:4原子%、Zr:4原子%]となるよう原料粉末を秤量、混合して混合粉末を作製した。得られた混合粉末を、軟鋼カプセルに充填し脱気封止した後、温度950℃、圧力100MPa、保持時間2時間の条件で熱間静水圧プレス(HIP)によって加圧焼結し、焼結体を作製した。
また、試料2の焼結体の一部を切り出し600℃に加熱後30分保持し、水冷で常温まで冷却した焼結体を試料3とした。
上記で作製した試料1〜3の焼結体を直径180mm×厚さ7mmに機械加工してFe−Co−Ni系合金ターゲット材を作製した。作製した各ターゲット材の端材から長さ30mm、幅10mm、厚さ5mmの試験片を採取し、東英工業(株)製直流磁気特性測定装置TRF5Aを使用してこれらの試験片の磁化曲線を測定した。なお、最大印加磁場400(KA/m)として、得られた磁化曲線から最大透磁率を求めた。
また、作製した各ターゲット材の中心部より10mm×10mm×7mmの試験片を採取しバフ研磨を施した後、ターゲット材のスパッタ面についてX線回折強度測定を行った。なお、X線回折強度測定には(株)リガク製RINT2500Vを使用し、線源にはCoを用い、10mmの領域にX線を照射して測定した。X線回折強度測定結果より、Feを主体とするfcc相の(200)面からのX線回折ピーク強度(Ifcc(200))とFeを主体とするbcc相の(200)面からのX線回折ピーク強度(Ibcc(200))を算出し、強度比Ifcc(200)/Ibcc(200)を求めた。なお、X線回折ピーク強度の算出にあたっては、バックグラウンドを差引いた値として算出した。作製したターゲット材の原料粉末、熱処理、最大透磁率およびX線回折ピーク強度比を表1にまとめる。また、試料1〜3のそれぞれのターゲット材のX線回折強度のチャートをそれぞれ図1〜3として示す。
表1および図1〜3から、X線回折ピーク強度比Ifcc(200)/Ibcc(200)が10以上である試料2および3では、試料1との比較で最大透磁率が大きく低減されたターゲットが得られることが分かる。また、試料2と試料3の比較から、焼結体を550℃以上に加熱した後に水冷で急冷した試料3はよりX線回折ピーク強度比が大きく、最大透磁率が低減されていることが分かる。
なお、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)による観察から、試料2および3のターゲット材のFeを主体とする結晶相は、Niを29原子%含有するFeを主体とする相であることを確認した。
(実施例2)
試料4では、まず、Co−10原子%Ta−2原子%Zr粉末(−250μm)、Co−19原子%Al粉末(−250μm)のガスアトマイズ粉末と、実施例1の試料2で使用した篩分けをしたFe−29原子%Ni(74−250μm)、Co−25原子%Zr(−250μm)、純Co(−250μm)、純Ni(−250μm)のガスアトマイズ粉末を準備した。これらの各粉末を((Fe65−Ni3537−Co6390−Ta−Zr−Al(原子%)[原子比でFe:Ni=65:35かつ(Fe+Ni):Co=37:63、Ta:3原子%、Zr:5原子%、Al:2原子%]となるよう原料粉末を秤量、混合して混合粉末を作製した。得られた混合粉末を、軟鋼カプセルに充填し脱気封止した後、温度950℃、圧力100MPa、保持時間2時間の条件で熱間静水圧プレス(HIP)によって加圧焼結し、焼結体を作製した。
また、試料4の焼結体の一部を切り出し600℃に加熱後30分保持し、水冷で常温まで冷却した焼結体を試料5とした。
上記で作製した試料4、5の焼結体を直径180mm×厚さ7mmに機械加工してFe−Co−Ni系合金ターゲット材を作製した。作製した各ターゲット材の端材から長さ30mm、幅10mm、厚さ5mmの試験片を採取し、東英工業(株)製直流磁気特性測定装置TRF5Aを使用してこれらの試験片の磁化曲線を測定した。なお、最大印加磁場400(KA/m)として、得られた磁化曲線から最大透磁率を求めた。
また、作製した各ターゲット材の中心部より10mm×10mm×7mmの試験片を採取しバフ研磨を施した後、ターゲット材のスパッタ面について実施例1と同一の方法でX線回折強度測定を行った。X線回折強度測定結果より、Feを主体とするfcc相の(200)面からのX線回折ピーク強度(Ifcc(200))とFeを主体とするbcc相の(200)面からのX線回折ピーク強度(Ibcc(200))を算出し、強度比Ifcc(200)/Ibcc(200)を求めた。なお、X線回折ピーク強度の算出にあたっては、バックグラウンドを差引いた値として算出した。作製したターゲット材の原料粉末、熱処理、最大透磁率およびX線回折ピーク強度比を表2にまとめる。また、試料4、5のそれぞれのターゲット材のX線回折強度のチャートをそれぞれ図4、5として示す。
表2および図4、5から、X線回折ピーク強度比Ifcc(200)/Ibcc(200)が10以上である試料4および5では、低い最大透磁率のターゲットが得られることが分かる。
なお、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)による観察から、試料4および5のターゲット材のFeを主体とする結晶相は、Niを29原子%含有するFeを主体とする相であることを確認した。
(実施例3)
試料6では、まず、Co−10原子%Zr(−250μm)、Co−37原子%B(−250μm)のガスアトマイズ粉末、純Ti粉末(−250μm)と、実施例1の試料2で使用した篩分けをしたFe−29原子%Ni(74−250μm)、純Co(−250μm)のガスアトマイズ粉末を準備した。これらの各粉末を((Fe71−Ni2965−Co3592−Zr−B−Ti(原子%)[原子比でFe:Ni=71:29かつ(Fe+Ni):Co=65:35、Zr:3原子%、B:3原子%、Ti:2原子%]となるよう原料粉末を秤量、混合して混合粉末を作製した。得られた混合粉末を、軟鋼カプセルに充填し脱気封止した後、温度950℃、圧力100MPa、保持時間2時間の条件で熱間静水圧プレス(HIP)によって加圧焼結し、焼結体を作製した。
また、試料6の焼結体の一部を切り出し600℃に加熱後30分保持し、水冷で常温まで冷却した焼結体を試料7とした。
上記で作製した試料6、7の焼結体を直径180mm×厚さ7mmに機械加工してFe−Co−Ni系合金ターゲット材を作製した。作製した各ターゲット材の端材から長さ30mm、幅10mm、厚さ5mmの試験片を採取し、東英工業(株)製直流磁気特性測定装置TRF5Aを使用してこれらの試験片の磁化曲線を測定した。なお、最大印加磁場400(KA/m)として、得られた磁化曲線から最大透磁率を求めた。
また、作製した各ターゲット材の中心部より10mm×10mm×7mmの試験片を採取しバフ研磨を施した後、ターゲット材のスパッタ面について実施例1と同一の方法でX線回折強度測定を行った。X線回折強度測定結果より、Feを主体とするfcc相の(200)面からのX線回折ピーク強度(Ifcc(200))とFeを主体とするbcc相の(200)面からのX線回折ピーク強度(Ibcc(200))を算出し、強度比Ifcc(200)/Ibcc(200)を求めた。なお、X線回折ピーク強度の算出にあたっては、バックグラウンドを差引いた値として算出した。作製したターゲット材の原料粉末、熱処理、最大透磁率およびX線回折ピーク強度比を表3にまとめる。また、試料6、7のそれぞれのターゲット材のX線回折強度のチャートをそれぞれ図6、7として示す。
表3および図6、7から、X線回折ピーク強度比Ifcc(200)/Ibcc(200)が10以上である試料6、7では、低い最大透磁率のターゲットが得られることが分かる。また、試料6と試料7の比較から、焼結体を550℃以上に加熱した後に水冷で急冷した試料7はよりX線回折ピーク強度比が大きく、最大透磁率が低減されていることが分かる。
なお、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)による観察から、試料6、7のターゲット材のFeを主体とする結晶相は、Niを29原子%含有するFeを主体とする相であることを確認した。
本発明は透磁率が低いFe−Co−Ni系合金スパッタリングターゲット材の安定提供を可能とし、軟磁性膜の安定製造に欠かせない技術を提供する。

Claims (2)

  1. 原子比でFe:Ni=90:10〜65:35、かつ(Fe+Ni):Co=90:10〜10:90の組成比を有する焼結体からなるFe−Co−Ni系合金スパッタリングターゲット材であって、
    前記ターゲット材の焼結組織中に、35原子%以下のNi、15原子%以下のCoを含有するFeを主体とする結晶相を有し、かつターゲット材の10mm以上の領域をX回折強度測定した時の前記Feを主体とする結晶相のFeを主体とするfcc相の(200)面からのX線回折ピーク強度(Ifcc(200))とFeを主体とするbcc相の(200)面からのX線回折ピーク強度(Ibcc(200))の比Ifcc(200)/Ibcc(200)が10以上、最大透磁率が27以下であることを特徴とするFe−Co−Ni系合金スパッタリングターゲット材。
  2. (Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、B、Al、Si)から選ばれる1種もしくは2種以上の元素を0原子%以下含有することを特徴とする請求項1に記載のFe−Co−Ni系合金スパッタリングターゲット材。
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