JP5600344B2 - 磁気抵抗効果素子及び磁気メモリ - Google Patents

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Description

本発明は、磁気抵抗効果素子及びその磁気抵抗効果素子をメモリセルとして備えた磁気メモリに関する。
図1に示すように、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)のメモリセル100は、磁気抵抗効果素子101と選択トランジスタ102が直列に電気的に接続された構造となっている。選択トランジスタ102のソース電極はソース線103に、ドレイン電極は磁気抵抗効果素子101を介してビット線104に、ゲート電極はワード線105にそれぞれ電気的に接続されている。磁気抵抗効果素子101は、第1の強磁性層106と第2の強磁性層107の2つの強磁性層で非磁性層108を挟んだ3層構造を基本構造とする。図示した例では、第1の強磁性層106は磁化方向が固定されていて固定層となり、第2の強磁性層107は磁化方向が可変であって記録層となる。この磁気抵抗効果素子101は、第1の強磁性層106の磁化方向と第2の強磁性層107の磁化方向が互いに平行(P状態)のとき低抵抗に、反平行(AP状態)のとき高抵抗になる。MRAMでは、この抵抗変化をビット情報の「0」と「1」に対応させる。ビット情報は、磁気抵抗効果素子101を流れる電流によるスピントルク磁化反転によって書込む。電流が固定層から記録層に流れるとき、記録層の磁化は固定層の磁化に対して反平行になり、ビット情報は「1」となる。電流が記録層から固定層に流れるとき、記録層の磁化は固定層の磁化に対して平行になり、ビット情報は「0」となる。電流による磁化反転の速さは1ナノ秒程度であるため、MRAMは非常に高速な書込みが可能である。また、記録層の磁化の向きによってビット情報を記録するため、MRAMは不揮発性を有し、待機時電力消費を抑えることができる。このため、MRAMは次世代のメモリとして期待されている。
また、図1では磁気抵抗効果素子101の第1の強磁性層106が固定層、第2の強磁性層107が記録層の場合を示したが、磁気抵抗効果素子101の第1の強磁性層106を磁化方向が可変な記録層とし、第2の強磁性層107を磁化方向が固定されている固定層としても、同様にMRAMとして動作する。この場合でも、電流が固定層から記録層に流れるとき、記録層の磁化は固定層の磁化に対して反平行になり、ビット情報は「1」となる。電流が記録層から固定層に流れるとき、記録層の磁化は固定層の磁化に対して平行になり、ビット情報は「0」となる。
S. MANGIN, D. RAVELOSONA, J. A. KATINE, M. J. CAREY, B. D. TERRIS and ERIC E. FULLERTON, "Current-induced magnetization reversal in nanopillars with perpendicular anisotropy", Nature Mater. 5, 210 (2006).
MRAMを実現するためには課題があり、その主なものとして、記録素子である磁気抵抗効果素子の磁気抵抗変化率(MR比)、書込み電流密度、熱安定性定数の3つの特性が満たさなければならない条件がある。これらの条件は、MRAMの集積度、最小加工寸法、動作速度などによって異なる。例えば、読出しが高速になるほど磁気抵抗変化率は高い値が必要となる。MRAMを混載メモリとするか単体メモリとするかで異なるが、一般的には50%から100%以上の高い磁気抵抗変化率が必要とされる。また、書込みの高速化及び低消費電力化のため、2×106A/cm2以下の書込み電流密度が必要である。さらに、10年以上の記録保持時間及び誤書き込み防止のため80以上の熱安定性定数が必要とされる。
高い磁気抵抗変化率を得るために、第1の強磁性層106及び第2の強磁性層107に3d遷移金属元素を含む材料と、第1の非磁性層のMgOを用いた構成が知られている。この場合、3d遷移金属元素を含む材料が、熱処理を施すことによってbcc構造に結晶化するほうが望ましい。これは、3d遷移金属元素を含む材料がbcc構造の場合、MgOとのコヒーレントな伝導を実現するため磁気抵抗変化率が大きくなりやすいという利点があるからである。この場合、第1の強磁性層106及び第2の強磁性層107の磁化方向は、図1のように膜面に対して平行方向になる。一方、非特許文献1のように、CoとPt、NiとPtなどの多層膜や、FePt,TbTeCoなどの合金に代表される垂直磁気異方性材料を第1の強磁性層106及び第2の強磁性層107に用いた場合、低い書込み電流密度と高い熱安定性定数を実現できるとされている。これは、第1の強磁性層106及び第2の強磁性層107の磁化方向が膜面に対して垂直方向になることに起因する。しかし、これらの垂直磁気異方性材料とMgOの組合せの場合、磁気抵抗変化率が小さくなってしまう。このため、現状はMgOと垂直磁気異方性材料の間に、膜面に対して平行な磁化を持ちbcc構造である3d遷移金属元素を含む材料を挿入し、MR比を高くするなどの方法が試されている。しかし、この方法では構造は複雑になり、 3d遷移金属元素を含む材料の磁化方向の制御や磁気抵抗変化率が予想されるほど高くならないなどの課題が残っている。
上述の課題を解決するために、図1の磁気抵抗効果素子を構成する第1の強磁性層106及び第2の強磁性層107の少なくともどちらか一方に用いる材料を、Co,Feなどの3d遷移金属を少なくとも1種類含んだ材料、若しくはCo2MnSiなどに代表されるホイスラー合金のようなダンピング定数の小さい強磁性層で構成することで磁気抵抗変化率を制御することとした。通常、Co,Feなどの3d遷移金属を少なくとも1種類含み、且つ、bcc構造になる材料で磁気抵抗効果素子を作製した場合、強磁性層の磁化方向は膜面に対して平行な方向を向くが、本発明者らは、強磁性層の膜厚を3nm以下に制御して磁化方向を膜面に対して垂直にすることによって低い書き込み電流密度と高い熱安定性定数を実現する技術を開発した。
図2に示したのは、強磁性層にCoFeBを用いた例において、磁化方向が膜面に対して垂直になるために必要な膜厚を、製造工程に含まれる熱処理工程の温度に対して示したものである。ここで熱処理を行った時間は1時間であった。図中の白丸は膜厚の上限を、黒丸は下限を表している。図のように、熱処理温度に対応して、磁化方向が膜面に対して垂直になるCoFeBの膜厚範囲は変化する。また、この材料を用いた場合、図2からわかるように熱処理を施していない場合でも、磁化方向は膜面に対しても垂直になる。熱処理を施していない場合は、CoFeBは非晶質である。非晶質である場合は、後述のように抵抗変化率が小さくなる欠点があるが、磁化の大きさが小さいという利点がある。
図2の例はCoFeBに対するものであり、他の3d遷移金属を少なくとも1種類含んだ材料に対しては、磁化方向が膜面に対して垂直になるために必要な膜厚と熱処理温度の関係は図2と異なる場合があるが、材料に適した膜厚に制御することにより磁化方向を膜面に対して平行から垂直に変化させることが可能である。このように磁化方向が膜面に対して垂直になる原因は、CoFeBの界面における特殊な異方性の変化だと考えられる。CoFeBの膜厚を原子層レベルに制御して薄膜化することによって、CoFeB層の体積に対して界面の効果が及ぶ体積の割合を増大することができる。このため、界面の特殊な異方性の効果が顕著に現れ、磁化方向が膜面に対して垂直になる。特に、MgO,Al23,SiO2などに代表される酸素を含む化合物と、Co,Feなどの3d遷移金属を少なくとも1種類含む強磁性材料の界面にこのような効果が大きく表れ、磁化が膜面垂直方向に向き易くなる傾向があると考えられる。
一方、図3は、例として第1の強磁性層106と第2の強磁性層107にCoFeBを用いた場合の磁気抵抗効果素子の磁気抵抗変化率を、熱処理時の温度に対して示したものである。熱処理温度が大きくなるとともに、磁気抵抗変化率は大きくなる。従って、この例では、例えば70%の磁気抵抗変化率を得るためにはおよそ250℃で熱処理を行えばよいし、100%の磁気抵抗変化率を得るためには300℃で熱処理を行えばよい。このとき、熱処理温度を300℃として膜面に垂直な磁化方向を持つ磁気抵抗効果素子を得るには、図2を参照すると第1の強磁性層106及び第2の強磁性層107の膜厚を1.0nmから1.6nm程度に制御すればよい。
他の材料を用いた場合でも、熱処理温度と磁気抵抗変化率の関係を調査しておくことによって、所望の磁気抵抗変化率が得られ、且つ、磁化方向が膜面に対して垂直方向を向いている磁気抵抗効果素子を作製することが可能である。図4は第1の強磁性層106及び第2の強磁性層107の材料としてCoFeB、非磁性層108としてMgOを用いた場合の、膜面に対して垂直方向に印加した磁場に対する磁気抵抗効果素子の抵抗変化を示している。この例では、熱処理温度を300℃とした。実験結果から、磁化方向は膜面に対して垂直を向いていることがわかる。また、このときの磁気抵抗変化率は100%であった。
本発明を適用することによって、磁気抵抗変化率が大きく、且つ、膜面に対して垂直な磁化方向を持つ磁気抵抗効果素子を容易に作製することができる。また、磁気抵抗変化率を制御したい場合、熱処理温度を制御するとともに、非磁性層を挟んで形成される第1の強磁性層及び第2の強磁性層の膜厚を調整することにより膜面に対して垂直な磁化方向を維持した磁気抵抗効果素子を作製することができる。
磁気メモリのメモリセル基本構造を示す模式図。 第1の強磁性層及び第2の強磁性層にCoFeBを用いた場合の、熱処理工程の温度に対する、磁気抵抗効果素子の磁化方向が膜面に対して垂直になるために必要な膜厚の変化を示す図。 第1の強磁性層及び第2の強磁性層にCoFeBを用いた場合の、熱処理工程の温度に対する、磁気抵抗効果素子の磁気抵抗変化率の変化を示す図。 第1の強磁性層及び第2の強磁性層にCoFeBを用いた場合の、膜面垂直方向の磁場印加に対する磁気抵抗効果素子の抵抗変化を示す図。 本発明による磁気抵抗効果素子の例を示す断面模式図。 本発明による磁気抵抗効果素子の例を示す断面模式図。 本発明による磁気抵抗効果素子の例を示す断面模式図。 本発明による磁気抵抗効果素子の例を示す断面模式図。 本発明による磁気抵抗効果素子の例を示す断面模式図。 本発明による磁気抵抗効果素子の例を示す断面模式図。 本発明による磁気抵抗効果素子の例を示す断面模式図。 本発明による磁気抵抗効果素子の例を示す断面模式図。 本発明による磁気抵抗効果素子の例を示す断面模式図。 本発明による磁気メモリの例を示す概念図。
以下、本発明を適用した磁気メモリ及び磁気抵抗効果素子について、図面を参照して詳細に説明する。
<実施例1>
本発明の一観点によると、磁気抵抗効果素子101は、図5に示すように、磁化方向が固定されている第1の強磁性層106と、磁化方向が可変である第2の強磁性層107と、第1の強磁性層と第2の強磁性層の間に電気的に接続された非磁性層108を備える。第1の強磁性層106及び第2の強磁性層107の材料は、Co,Feなどの3d遷移金属元素を少なくとも1種類含む強磁性材料若しくはCo2MnSiなどに代表されるホイスラー合金が望ましく、非磁性層108の材料はMgO,Al23,SiO2などの酸素を含む化合物やCuなどの金属などが候補であり、磁気抵抗変化率が大きくなる材料が望ましい。実施例1では、第1の強磁性層106及び第2の強磁性層107の材料がCoFeBであり、非磁性層108がMgOである場合を例として説明する。
図2に示したように、第1の強磁性層106及び第2の強磁性層107の膜厚を1.0nmから1.6nm程度に制御することによって、熱処理温度が300℃のとき、第1の強磁性層106の磁化501及び第2の強磁性層107の磁化502は膜面に対して垂直になる。図3に示したように、このときの磁気抵抗変化率は100%以上を達成している。図5の例では、磁化方向が膜面に対して垂直になる範囲内で、第1の強磁性層106と第2の強磁性層107に膜厚差をつけることにより保磁力差をつけ、第1の強磁性層106を固定層とし、第2の強磁性層107を記録層とした。一例として、第1の強磁性層106は膜厚を1.0nmとし、第2の強磁性層107の膜厚は1.2nmとした。この例の場合には、膜厚の薄い方の強磁性層106が固定層として機能した。勿論、第1の強磁性層106を記録層とし、第2の強磁性層107を固定層とするように膜厚を調整してもよい。
また、図5の例では固定層である第1の強磁性層106の磁化方向は上向きであるが、下向きに固定されていてもよい。また、第1の強磁性層106及び第2の強磁性層107のうち少なくとも一方を、熱処理温度と膜厚を制御することで磁化方向が膜面に対して平行方向から垂直方向に変化する強磁性体によって構成し、他方はCoとPt、NiとPtなどの多層膜や、FePt,TbTeCo合金などの従来から知られている別の垂直磁気異方性材料で構成してもよい。
図6には、第1の強磁性層106に従来から知られた垂直異方性材料であるFePtを用いて固定層とし、第2の強磁性層107には、CoFeBを用いた場合の例を示した。この場合、記録層と固定層の材料が異なるので、容易に保磁力差をつけることができる。このときの熱処理温度は、CoFeBを用いた磁気抵抗効果素子の抵抗変化率を参考にすればよく、例えば100%の抵抗変化率を得たい場合には300℃とすればよい。さらに、CoFeBの場合は、300℃で熱処理を行う場合、膜厚を1.0nmから1.6nmとすることによって磁化方向を膜面に対して垂直な方向にすることができる。また、第1の強磁性層107と非磁性層108の間にCo,Feなどの3d遷移金属を少なくとも1種類含む強磁性体若しくはホイスラー合金を材料とした層を新たに挿入してもよい。
磁気抵抗効果素子101は、下地層503及びキャップ層504を備えた構造であってもよい。下地層503は、磁気抵抗効果素子101を作製する下地となる層であるため、表面粗さが小さいことが必要であり、例として、Ta,Ruを用いることができる。Ta/Ru/Taなどの多層構造であってもよい。また、下地層に配向制御層としての効果を持たせてもよい。特に、第1の強磁性層106に、上で述べたFePtなどの従来から知られている垂直異方性材料を用いる場合は、配向制御の必要性が高い。キャップ層504は磁気抵抗効果素子を保護する目的も備えており、例としてMgO,Ru,Taなどを用いることができる。キャップ層504も、Ta/Ruなどの多層構造であってもよい。
<実施例2>
本発明の別の観点によると、磁気抵抗効果素子は、記録層として作用する第2の強磁性層107の、非磁性層108と反対側の界面702に第2の非磁性層701を形成した構造であってもよい。図7に実施例2の磁気抵抗効果素子の断面模式図を示す。
実施例1の磁気抵抗効果素子では、第2の強磁性層107の磁化を膜面垂直方向にするための界面効果は、第2の強磁性層107と非磁性層108の界面703でのみ生じたが、実施例2の磁気抵抗効果素子101では、第2の強磁性層107と第2の非磁性層701の界面702でも界面効果が生じる。このため、実施例1の磁気抵抗効果素子と比べて、実施例2の磁気抵抗効果素子では、第2の強磁性層107の磁化方向が膜面垂直方向に強く向き、熱安定性定数を大きくすることができる。このとき、第2の強磁性層107の膜厚は、磁化が膜面垂直方向に向き、界面効果が最大になるよう制御されており、実施例1の構成における第2の強磁性層107の膜厚と異なっている場合がある。図7の例として、第1の強磁性層106及び第2の強磁性層107にCoFeB、非磁性層108及び非磁性層701にMgOを用いた。この場合の熱処理温度を300℃とした結果、100%を超える抵抗変化率が得られた。また、この例では第2の強磁性層107の膜厚は1.2nmとすることで、磁化方向は膜面に対して垂直になった。第2の非磁性層701の材料は、MgO,Al23,SiO2などの酸素を含む化合物やCuなどの金属などの候補があり、第2の強磁性層107の磁化方向を垂直に向かせるための界面効果が大きくなる材料を選択するのが望ましい。
<実施例3>
本発明のさらに別の観点によると、磁気抵抗効果素子の記録層は、非磁性層108と接する面から強磁性層と非磁性層を交互に積層させた構造であってもよい。記録層として強磁性層/非磁性層/強磁性層/非磁性層と4層を積層させた場合の断面模式図を例として図8に示した。ここで、実施例3の磁気抵抗効果素子において、記録層は3層以上の積層構造であればよい。
この構造を採用することによって、強磁性層と非磁性層の界面の数が増えるため記録層801の磁化方向が垂直に向くための界面効果が大きく生じ、実施例2の磁気抵抗効果素子と比べてより熱安定性定数を大きくすることができる。また、記録層801を構成する強磁性層部分の全体積が大きくなることも、熱安定性定数の増大に寄与する。記録層801を構成する強磁性層の材料はCo,Feなどの3d遷移金属元素を少なくとも1種類含む強磁性材料若しくはホイスラー合金が望ましく、記録層801を構成する非磁性層の材料にはMgO,Al23,SiO2などの酸素を含む化合物やCuなどの金属などの候補があり、記録層801の磁化方向を垂直に向かせるための界面効果が大きくなる材料を選択するのが望ましい。また、記録層801を構成する強磁性層の磁化が膜面垂直方向に向き、界面効果が最大になるよう制御される必要があり、実施例1若しくは実施例2の構成における第2の強磁性層107の膜厚と異なっている場合がある。
図8に示した例では、記録層801を構成する強磁性層802,804の材料をCoFeBとし、記録層801を構成する非磁性層803,805の材料をMgOとした。この例では、熱処理温度を300℃として100%の抵抗変化率を得ることができた。また、このときの記録層801を構成する強磁性層802,804の膜厚をそれぞれ1.2nmとすることで、磁化方向は膜面に対して垂直になった。さらに、記録層801を構成する強磁性層802と強磁性層804の磁化は、互いに平行若しくは反平行に配置することができ、間に介在する非磁性層803の膜厚を変更することでこの配置を制御する。また、記録層801を構成する非磁性層803の材料がRu,Rh,Vなどの元素を少なくとも1種類含む非磁性体であってもよい。この場合、強磁性層802と強磁性層804の間に交換結合が働くため、非磁性層803の膜厚を制御することによって、強磁性層802と強磁性層804の磁化方向を平行若しくは反平行に容易に変更することができる。
<実施例4>
本発明の別の観点によると、磁気抵抗効果素子は、固定層として作用する第1の強磁性層106の、非磁性層108と反対側の界面903に第2の非磁性層901を形成した構造であってもよい。図9に実施例4の磁気抵抗効果素子の断面模式図を示す。
実施例1の磁気抵抗効果素子では、第1の強磁性層106の磁化を膜面垂直方向にするための界面効果は、第1の強磁性層106と非磁性層108の界面902でのみ生じたが、実施例4の磁気抵抗効果素子では第1の強磁性層106と第2の非磁性層901の界面903でも界面効果が生じる。このため、実施例1の磁気抵抗効果素子と比べて、実施例4の磁気抵抗効果素子では、第1の強磁性層106の磁化方向が膜面垂直方向に強く向き、熱安定性定数を大きくすることができる。このとき、第1の強磁性層106の膜厚は、磁化が膜面垂直方向に向き、界面効果が最大になるよう制御されており、実施例1の構成における第1の強磁性層106の膜厚と異なっている場合がある。
図9の構造の例として、第1の強磁性層106及び第2の強磁性層107にCoFeB、非磁性層108及び非磁性層901にMgOを用いた。熱処理温度を300℃とした結果、100%を超える抵抗変化率が得られた。また、この例では第1の強磁性層106の膜厚は1.0nmとすることで、磁化方向は膜面に対して垂直になった。第2の非磁性層901の材料には、MgO,Al23,SiO2などの酸素を含む化合物やCuなどの金属などの候補があり、第1の強磁性層106の磁化方向を垂直に向かせるための界面効果が大きくなる材料を選択するのが望ましい。
<実施例5>
本発明の別の観点によると、磁気抵抗効果素子の固定層1001は、非磁性層108と接する面から強磁性層と非磁性層を交互に積層させた構造であってもよい。固定層1001として強磁性層/非磁性層/強磁性層/非磁性層と4層を積層させた場合の断面図を例として図10に示した。ここで、実施例5の磁気抵抗効果素子において、固定層は3層以上の積層構造であればよい。
この構造を採用することによって、強磁性層と非磁性層の界面の数が増えるため固定層1001の磁化方向が垂直に向くための界面効果が大きく生じ、固定層1001を構成する強磁性層部分の全体積が大きくなるため、磁化方向は膜面に対して垂直方向に安定化する。固定層1001を構成する強磁性層1002,1004の材料は、Co,Feなどの3d遷移金属元素を少なくとも1種類含む強磁性材料若しくはホイスラー合金が望ましく、固定層1001を構成する非磁性層1003,1005の材料には、MgO,Al23,SiO2などの酸素を含む化合物やCuなどの金属などの候補があり、固定層1001の磁化方向を垂直に向かせるための界面効果が大きくなる材料を選択するのが望ましい。また、固定層1001を構成する強磁性層の磁化が膜面垂直方向に向き、界面効果が最大になるよう制御される必要があり、実施例1若しくは実施例4の構成における第1の強磁性層106の膜厚と異なっている場合がある。
図10に示した構成の例では、固定層1001を構成する強磁性層1002,1004の材料をCoFeBとし、固定層1001を構成する非磁性層1003,1005の材料をMgOとした。この例では、熱処理温度を300℃として100%の抵抗変化率を得ることができた。また、このときの固定層1001を構成する強磁性層1002,1004の膜厚は、それぞれ1.0nmとすることで、磁化方向は膜面に対して垂直になった。さらに、固定層1001を構成する強磁性層1002と強磁性層1004の磁化は、互いに平行若しくは反平行に配置することができ、間に介在する非磁性層1003の膜厚を変更することでこの配置を制御する。また、固定層1001を構成する非磁性層1003の材料がRu,Rh,Vなどの元素を少なくとも1種類含む非磁性体であってもよい。この場合、強磁性層1002と強磁性層1004の磁化の間に交換結合が働くため、非磁性層1003の膜厚を制御することによって、強磁性層1002と強磁性層1004の磁化方向を平行若しくは反平行に容易に変更することができる。
<実施例6>
本発明の別の観点によると、磁気抵抗効果素子は、固定層1101として第1の強磁性層106の非磁性層108と反対側の界面に形成された非磁性層1103を備え、且つ、記録層1102として第2の強磁性層107の非磁性層108と反対側の界面に形成された非磁性層1104を備えた構造であってもよい。図11に実施例6の磁気抵抗効果素子の断面模式図を示す。この構成を採用することにより、固定層及び記録層がともに膜面に対して垂直方向に安定化する。
<実施例7>
本発明の別の観点によると、磁気抵抗効果素子は、固定層1201として、非磁性層108と接する面から強磁性層と非磁性層を交互に積層した構造を備え、且つ、記録層1202として、非磁性層108と接する面から強磁性層と非磁性層を交互に積層した構造を備えた構成としてもよい。固定層1201として、非磁性層108側から順に強磁性層1203/非磁性層1204/強磁性層1205/非磁性層1206と4層を積層し、記録層1202として非磁性層108側から順に強磁性層1210/非磁性層1209/強磁性層1208/非磁性層1207と4層を積層した場合の断面模式図を例として図12に示した。この構成を採用することにより、固定層及び記録層がともに膜面に対して垂直方向に安定化する。
<実施例8>
本発明の別の観点によると、磁気抵抗効果素子において、図3の断面模式図に示すように、固定層106の非磁性層108と反対側の界面に反強磁性層1301を形成した構成としてもよい。この構成を採用すると、固定層106の磁化方向が膜面に対して垂直方向に安定化する。
<実施例9>
本発明の別の観点によると、実施例1〜8の磁気抵抗効果素子を記録素子として採用することでMRAMを実現することができる。本発明のMRAMは、図14に示すように、互いに平行に配置された複数のビット線104と、ビット線104と平行に配置され、且つ、互いに平行に配置された複数のソース線103と、ビット線104と垂直に配置され、且つ、互いに平行な複数のワード線105を備え、ビット線104とワード線105の各交点にはメモリセル100が配置される。メモリセル100は、実施例1〜8の磁気抵抗効果素子101と選択トランジスタ102を備えている。これら複数のメモリセル100がメモリアレイ1401を構成している。ビット線104は、磁気抵抗効果素子101を介して選択トランジスタ102のドレイン電極に電気的に接続されており、ソース線103は配線層を介して選択トランジスタ102のソース電極に電気的に接続されている。また、ワード線105は選択トランジスタ102のゲート電極に電気的に接続されている。ソース線103とビット線104の一端は、電圧印加のためのライトドライバ1402とセンス増幅器1403に電気的に接続されている。ワード線105の一端はワードドライバ1404に電気的に接続されている。
「0」書込み動作では、ライトドライバ1402からビット線104に電圧を印加するとともに、ワードドライバ1404からワード線105に電圧を印加することによって、ビット線104から磁気抵抗効果素子101を介してソース線103に電流を流す。このとき、磁気抵抗効果素子101の構成が図6のように、第1の強磁性層106が固定層であり第2の強磁性層107が記録層である場合、磁気抵抗効果素子101は低抵抗になり磁気抵抗効果素子101が保持する情報は「0」になる。一方、「1」書込み動作では、ライトドライバ1402にからソース線103に電圧を印加するとともに、ワードドライバ1404からワード線105に電圧を印加することによって、ソース線103から磁気抵抗効果素子101を介してビット線104に電流を流す。このとき、磁気抵抗効果素子101は高抵抗になり磁気抵抗効果素子101が保持する情報は「1」になる。読出し時は、センス増幅器1403を用いて抵抗変化による信号の違いを読取る。このような構成のメモリアレイを採用することで、磁気抵抗変化率が大きく、書込み電流密度が小さく、熱安定性定数が大きくなり、MRAMは不揮発なメモリとして動作することができる。
100 磁気メモリのメモリセル
101 磁気抵抗効果素子
102 選択トランジスタ
103 ソース線
104 ビット線
105 ワード線
106 第1の強磁性層
107 第2の強磁性層
108 非磁性層
501 磁化
502 磁化
503 下地層
504 キャップ層
701 第2の非磁性層
801 記録層
802 強磁性層
803 非磁性層
804 強磁性層
805 非磁性層
901 非磁性層
1001 固定層
1002 強磁性層
1003 非磁性層
1004 強磁性層
1005 非磁性層
1101 固定層
1102 非磁性層
1103 記録層
1104 非磁性層
1201 固定層
1202 記録層
1203 強磁性層
1204 非磁性層
1205 強磁性層
1206 非磁性層
1207 非磁性層
1208 強磁性層
1209 非磁性層
1210 強磁性層
1301 反強磁性層
1401 メモリアレイ
1402 ライトドライバ
1403 センス増幅器
1404 ワードドライバ

Claims (10)

  1. 磁化方向が固定されている第1の強磁性層と、
    磁化方向が可変である第2の強磁性層と、
    前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層の間に電気的に接続された第1の非磁性層とを備え、
    前記第1の強磁性層は固定層として作用し、前記第2の強磁性層は記録層として作用する磁気抵抗効果素子であって、
    前記第1の非磁性層は酸素を含む絶縁体であり、
    前記第1の強磁性層及び前記第2の強磁性層は、3d遷移金属を少なくとも1種類含む強磁性材料で構成され、膜厚を3nm以下に調整することによって前記第1の非磁性層との界面における磁気異方性によって磁化方向が膜面に対して垂直方向に制御されていることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
  2. 請求項1記載の磁気抵抗効果素子において、
    前記第1の強磁性層及び前記第2の強磁性層は、膜厚が1.0nmから1.6nmであることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
  3. 請求項1記載の磁気抵抗効果素子において、
    前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層は熱処理を施さず非晶質であることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項記載の磁気抵抗効果素子において、
    前記固定層と前記記録層のうち少なくとも一方は、Co,Feのうち少なくとも一つを含む強磁性材料であり、
    前記第1の非磁性層が酸化マグネシウムであり、
    磁気抵抗変化率が50%以上であることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
  5. 請求項1〜のいずれか1項記載の磁気抵抗効果素子において、
    前記第2の強磁性層の、前記第1の非磁性層と反対側の面に第2の非磁性層を備え、
    前記第2の非磁性層は前記第2の強磁性層の磁化方向を制御するための制御層として作用していることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
  6. 請求項1〜のいずれか1項記載の磁気抵抗効果素子において、
    前記第1の強磁性層の、前記第1の非磁性層と反対側の面に第3の非磁性層を備え、
    前記第3の非磁性層は前記第1の強磁性層の磁化方向を制御するための制御層として作用していることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
  7. 請求項1〜のいずれか1項記載の磁気抵抗効果素子において、
    前記固定層の前記第1の非磁性層と反対側の面に反強磁性層が形成されていることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
  8. 磁化方向が固定されている第1の強磁性層と、
    磁化方向が可変である第2の強磁性層と、
    前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層の間に電気的に接続された第1の非磁性層とを備え、
    前記第1の強磁性層は固定層として作用し、前記第2の強磁性層は記録層として作用する磁気抵抗効果素子であって、
    前記第1の非磁性層は酸素を含む絶縁体であり、
    前記第1の強磁性層及び前記第2の強磁性層は、3d遷移金属を少なくとも1種類含む強磁性材料で構成され、膜厚を3nm以下に調整することによって磁化方向が膜面に対して垂直方向に制御されていることを特徴とする磁気抵抗効果素子であって、
    前記記録層は、前記第1の非磁性層と接する面から順に強磁性層と非磁性層を交互に3層以上積層した積層構造を有し、前記第1の非磁性層と接する強磁性層は、前記第2の強磁性層であり、
    前記記録層を構成する複数の強磁性層の磁化は、磁化方向が互いに平行若しくは反平行に結合しており、
    前記強磁性層と交互に積層された非磁性層が酸素を含む絶縁体、または、酸化マグネシウムである、ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
  9. 磁化方向が固定されている第1の強磁性層と、
    磁化方向が可変である第2の強磁性層と、
    前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層の間に電気的に接続された第1の非磁性層とを備え、
    前記第1の強磁性層は固定層として作用し、前記第2の強磁性層は記録層として作用する磁気抵抗効果素子であって、
    前記第1の非磁性層は酸素を含む絶縁体であり、
    前記第1の強磁性層及び前記第2の強磁性層は、3d遷移金属を少なくとも1種類含む強磁性材料で構成され、膜厚を3nm以下に調整することによって磁化方向が膜面に対して垂直方向に制御されていることを特徴とする磁気抵抗効果素子であって、
    前記固定層は、前記第1の非磁性層と接する面から順に強磁性層と非磁性層を交互に3層以上積層した積層構造を有し、前記第1の非磁性層と接する強磁性層は、前記第1の強磁性層であり、
    前記固定層を構成する複数の強磁性層の磁化は、磁化方向が互いに平行若しくは反平行に結合しており、
    前記強磁性層と交互に積層された非磁性層が酸素を含む絶縁体、または、酸化マグネシウムである、ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
  10. 相互に平行に配置された複数のビット線と、前記ビット線と平行な方向に、互いに平行に配置された複数のソース線と、前記ビット線と交差する方向に、互いに平行に配置された複数のワード線と、前記ビット線と前記ワード線とが交差する部分に配置された磁気抵抗効果素子とを備え、
    前記ビット線は前記磁気抵抗効果素子の一端に電気的に接続され、前記磁気抵抗効果素子の他端は選択トランジスタのドレイン電極に電気的に接続され、前記ソース線は前記選択トランジスタのソース電極に電気的に接続され、前記ワード線は前記選択トランジスタのゲート電極に電気的に接続され、
    前記磁気抵抗効果素子の膜面垂直方向に電流を印加する機構を備えている磁気メモリにおいて、
    前記磁気抵抗効果素子は請求項1〜のいずれか1項記載の磁気抵抗効果素子であることを特徴とする磁気メモリ。
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