JP5587644B2 - ホタルルシフェラーゼ、その遺伝子、およびホタルルシフェラーゼの製造法 - Google Patents
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その試みのひとつは、測定試薬中に塩等を添加して、ある程度の発光持続性と保存安定性と高い発光量を確保するという配合組成の工夫である。しかし、この方法は、それぞれに試薬組成上の制約を伴う各種の用途・試薬に対し広範に適用できるというものではなく、また、多くの場合、塩類の添加は、ルシフェラーゼ反応に何らかの反応障害を惹起しがちであるという欠点を有する。
しかしながら、発光持続性および安定性という産業上有用な性質が向上したBLU‐Y‐A3Tにおいても、その発光量が変異導入前と比較して非常に低くなっているという課題が存在する。すなわち、変異ホタルルシフェラーゼ(BLU‐Y‐A3T)を、高感度測定等へと好適に応用するためには、発光量が低いという課題を解決することが望まれている。
(1)ホタルルシフェラーゼにおいて、ヘイケボタルルシフェラーゼの344位に相当するアミノ酸がアラニンに変異され、287位に相当するアミノ酸がアラニンに変異され、326位に相当するアミノ酸がセリンに変異され、467位に相当するアミノ酸がイソロイシンに変異され、かつ75位に相当するアミノ酸がアラニンに変異されているホタルルシフェラーゼ。
(2)ヘイケボタルルシフェラーゼの293位に相当するアミノ酸がメチオニンに変異されている上記(1)記載のホタルルシフェラーゼ。
(3)ヘイケボタルルシフェラーゼの351位に相当するアミノ酸がバリンに変異されている上記(1)記載のホタルルシフェラーゼ。
(4)ヘイケボタルルシフェラーゼの172位に相当するアミノ酸がグルタミン酸に変異され、かつ259位に相当するアミノ酸がイソロイシンに変異されている上記(1)記載のホタルルシフェラーゼ。
(5)ヘイケボタルルシフェラーゼの359位に相当するアミノ酸がバリンに変異され、かつ490位に相当するアミノ酸がグルタミンに変異されている上記(1)記載のホタルルシフェラーゼ。
(6)上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載のホタルルシフェラーゼをコードするホタルルシフェラーゼ遺伝子。
(7)上記(6)記載のホタルルシフェラーゼ遺伝子をベクターDNAに挿入したことを特徴とする組換え体DNA。
(8)上記(6)記載のホタルルシフェラーゼ遺伝子または上記(7)記載の組換え体DNAを含み、ホタルルシフェラーゼ生産能を有する微生物を培養し、該培養物よりホタルルシフェラーゼを採取することを特徴とする、ホタルルシフェラーゼの製造法。
(ホタルルシフェラーゼ遺伝子およびその組換え体DNA)
本発明のホタルルシフェラーゼ遺伝子およびその組換え体DNAとしては、任意のホタル由来のものを用いることができる。例えば、ヘイケボタル、ゲンジボタル、北米産ホタル等由来のホタルルシフェラーゼを用いることができる。あるいは、各種のホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子をもとに作製されたキメラ遺伝子を用いてもよい。
本発明のホタルルシフェラーゼ遺伝子は、上述の任意のホタルルシフェラーゼ遺伝子に特定の変異を導入することを特徴とする。本発明の変異遺伝子のひとつは、具体的には、ヘイケボタルまたはゲンジボタルの場合、ルシフェラーゼの344位のアミノ酸(野生型の場合は、ロイシンである)がアラニンに変異された344A変異、287位のアミノ酸(野生型の場合は、バリンである)がアラニンに変異された287A変異、326位のアミノ酸(野生型の場合は、グリシンである)がセリンに変異された326S変異、467位のアミノ酸(野生型の場合は、フェニルアラニンである)がイソロイシンに変異された467I変異、さらに75位のアミノ酸(野生型の場合は、バリンである)がアラニンに変異された75A変異を有する変異ホタルルシフェラーゼをコードする変異ホタルルシフェラーゼ遺伝子である。
さらに、前記の5重変異に加えて293位のアミノ酸(野生型の場合は、ロイシンである)がメチオニンに変異された293M変異アミノ酸配列をコードする変異ホタルルシフェラーゼ遺伝子、もしくは、351位のアミノ酸(野生型の場合は、イソロイシンである)がバリンに変異された351V変異アミノ酸配列をコードする変異ホタルルシフェラーゼ遺伝子、もしくは、172位のアミノ酸(野生型の場合は、リジンである)がグルタミン酸に変異された172E変異および259位のアミノ酸(野生型の場合は、スレオニンである)がイソロイシンに変異された259I変異を含む変異アミノ酸配列をコードする変異ホタルルシフェラーゼ遺伝子、もしくは、359位のアミノ酸(野生型の場合は、アスパラギン酸である)がバリンに変異された359V変異および490位のアミノ酸(野生型の場合は、グルタミン酸である)がグルタミンに変異された490Q変異を含む変異アミノ酸配列をコードする変異ホタルルシフェラーゼ遺伝子である。
本発明における、ホタルルシフェラーゼの遺伝子配列およびアミノ酸配列における変異の位置を示す番号は、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼまたはゲンジボタルルシフェラーゼにおける番号を基準とする。すなわち、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼ以外のルシフェラーゼに本発明を適用する場合には、その遺伝子配列およびアミノ酸配列における変異位置は、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼまたはゲンジボタルルシフェラーゼにおいて相当する位置に置き換えた場合に各種ホタルルシフェラーゼで該当する位置である。具体的な例として、ヘイケボタルルシフェラーゼまたはゲンジボタルルシフェラーゼの75位、293位、351位、172位、259位、359位、および490位に相当する位置のアミノ酸の位置は、北米産ホタルルシフェラーゼにおいては、73位、291位、349位、170位、、257位、357位、および488位である。
上記の変異型ホタルルシフェラーゼ遺伝子は、公知の任意の方法でホタルルシフェラーゼ遺伝子を改変することにより、適宜得ることができる。遺伝子改変方法としては、部位特異的に変異を導入する方法、ランダムに変異を導入する方法、変異原となる薬剤を作用させる方法、紫外線照射法、蛋白質工学的手法等を広く用いることができる。
上記のように得られた変異ホタルルシフェラーゼ遺伝子を、常法により、バクテリオファージ、コスミド、または原核細胞若しくは真核細胞の形質転換に用いられるプラスミド等のベクターに組み込み、宿主に対して常法によりそのベクターを用いて、形質転換または形質導入を行わせることができる。
宿主には任意のものを用いることができるが、例えば微生物が好ましい。具体的には、エッシェリヒア属等に属する微生物が利用可能である。エッシェリヒア属に属する微生物の例としては、大腸菌K−12、JM109、DH5α、HB101、BL21等が挙げられる。
上記のようにして得られた、本発明の変異ホタルルシフェラーゼの生産能を有する菌株を用いて変異型ホタルルシフェラーゼを生産するために、変異ホタルルシフェラーゼの生産能を有する菌株を各種公知の方法で培養する。培養は、固体培養法でもよいが、好ましくは液体培養法を採用して培養する。
培地の初発pHは、pH7〜9に調整するのが適当である。また培養は30〜40℃、好ましくは37℃前後で4〜24時間、好ましくは6〜8時間で、通気攪拌培養、振盪培養、静置培養等により実施するのが好ましい。培養終了後、培養物より、安定性が向上したホタルルシフェラーゼを採取するには、通常の公知の酵素採取手段を用いればよい。
ビオチン化ルシフェラーゼ構造遺伝子を増幅するための全長用プライマー(配列番号1)を合成した。特許第3466765号記載のプラスミドpHLf248(本プラスミドを包含する大腸菌JM101[pHLf248]は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM BP−5081として寄託されている。)を鋳型とし、上記全長用プライマーおよび市販のM13−M4プライマー(タカラバイオ社製)を用いたPCRにより、DNA断片を増幅した。得られたDNA断片を、NdeIとHindIIIを用いて消化した後、アガロースゲル電気泳動に供し、1.9kbのバンドからDNA断片を精製した。
さらに、作製したプラスミドpET16b−BLU−Yを、大腸菌JM109株に導入し、形質転換した。得られた形質転換体よりプラスミドを精製した後に、DNA配列を確認した。このDNA配列中含まれるホタルルシフェラーゼ遺伝子から演繹されるホタルルシフェラーゼ(BLU−Y)のアミノ酸配列は、特許第3466765号記載のものと同一であった。
ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列において344番目のアミノ酸残基であるロイシンがアラニンに変異し(344A変異)、287番目のアミノ酸残基であるバリンがアラニンに変異し(287A変異)、326番目のアミノ酸残基であるグリシンがセリンに変異し(G326S変異)、467番目のアミノ酸残基であるフェニルアラニンがイソロイシンに変異した(F467I)ルシフェラーゼをコードする遺伝子を含むプラスミド(pHLfA3T)を、以下のように作製した。
本発明において見出された変異を人為的に組み合わせたルシフェラーゼ、あるいは、本発明において見出された変異を別のアミノ酸に置換したルシフェラーゼをコードする遺伝子を含むプラスミドは、いずれも上記の手順に準じて作製した。
実施例2記載の組換え体プラスミドpHLf−BLU−Y−A3Tを鋳型とし、変異ルシフェラーゼ遺伝子領域の上流、下流に設計したプライマー(配列番号11および12)を用いてエラープローンPCRを行った。具体的には、これらのプライマーを終濃度0.2μMにて用い、マンガンイオン濃度0.1mM、マグネシウムイオン濃度6.5mM下でEx−Taq(タカラバイオ社製)を使用して、pHLf−BLU−Y−A3T遺伝子領域に対するPCR増幅反応を行うことにより、種々の変異が導入されたホタルルシフェラーゼ遺伝子断片を得た。次いでこれらを、NdeI,HindIIIにて制限酵素処理したのち、アガロースゲル電気泳動により分離し、RECO−CHIP(タカラバイオ社製)を用いて電気泳動後のゲルからDNA断片を回収した。得られたDNA断片を、pHLf−BLU−Y−A3TをNdeIおよびHindIII処理して得られたpHLf−BLU−Y−A3Tベクターに、Ligation Convenience Kit(ニッポンジーン社製)を用いてライゲーションさせた。ライゲーション終了後、上述の方法に準じて、変異が導入された組換え体プラスミドDNAを用いて大腸菌(E.coli)BL21(DE3)(インビトロジェン社製)を形質転換し、変異体ライブラリーを作製した。この形質転換株をLB−amp寒天培地〔1%(w/v) バクトトリプトン、0.5%(w/v) 酵母エキス、0.5%(w/v) NaCl、および50μg/ml アンピシリン、および1.4%(w/v)寒天〕に接種し、37℃で平板培養した。
実施例3で選択した株を、2mlのLB−IPTG−amp培地中で培養した。18〜24時間の培養後、遠心分離にて菌体を回収して50mM リン酸カリウムバッファー,0.2%(w/v) BSA(和光純薬工業社製),pH7.5にて菌体を懸濁し、超音波破砕を行って、粗酵素液を得た。上記粗酵素液を、活性測定試薬〔50mM Tricine−NaOH,4mM ATP,2mM Luciferin,10mM MgSO4,pH7.8〕を用いて、ルシフェラーゼ粗酵素の活性を測定した。ルシフェラーゼ活性は、ルミノメーター(ベルトールド社製、LB96V)を用いて1秒間の積算にて得られる発光量にて評価した。活性が親株より大きい候補株を発光量向上変異体とし、CEQ2000 DNA Sequencing System(ベックマンコールター社製)を用いて、安定性向上変異体中のプラスミドがコードするホタルルシフェラーゼ遺伝子の配列を決定した。
さらに、得られた変異株における変異点の情報を利用し、先の実施例に記載の方法に準じて、上記変異を複数組み合わせた変異を有する新たな変異株や、変異を別のアミノ酸に置換した変異株を作製し、各種の変異ホタルルシフェラーゼを取得した。
実施例4記載の方法に準じ、得られた各種のアミノ酸配列を有する変異ホタルルシフェラーゼのルシフェラーゼ活性測定を行って、発光量を評価した。その結果を図1に示す。
ルミノメーター(ベルトールド社製、LB96V)を用いて実施例5で試験した各変異体の発光持続性を確認した〔反応試薬:50mM Tricine−NaOH,0.8mM ATP,0.5mM Luciferin,10mM MgSO4,0.2% BSA,2% Sucrose,1mM EDTA〕。発光持続性は、測定開始後1.2秒後から60秒後の測定値をとり、1.2秒後の測定値に対する60秒後の測定値の割合(発光率持続率)で比較した。すなわち、1.2秒後の測定値に対する60秒後の測定値の割合が低いほど、発光減衰の度合が大きく、発光持続性は悪いということになる。
実施例5で試験した各変異体の粗酵素液を、0.3M Tricine−NaOH,0.2% BSA,5% Glycerol,pH7.8に1〜10μl添加したものを、47℃反応温度下にて90分の熱処理に供した。そして、活性測定試薬〔50mM Tricine−NaOH,4mM ATP,2mM Luciferin,10mM MgSO4,pH7.8〕を用いて、熱処理前後のルシフェラーゼ粗酵素の活性を測定した。ルシフェラーゼ活性は、ルミノメーター(ベルトールド社製、LB96V)を用いて1秒間の積算にて得られる発光量にて評価し、熱処理前の発光量に対する熱処理後の発光量値の比を、「活性残存率」として算出した。
その結果、BLU−Y A3Tでは、活性残存率が34.4%であったのに対し、BLU−A3T−1では37.3%、B−A3T−2では38.3%、B−A3T−3では50.7%、さらにBLU−A3T−4では50.6%、BLU−A3T−5では52.7%であった。すなわち、75A変異という発光量向上変異、または75A変異に加えて293M変異、351V変異、172E変異および259I変異、あるいは359V変異および490Q変異の1以上を組み合わせた発光量向上変異を導入しても、344A変異、287A変異、326S変異、さらに467I変異の効果である高い熱安定性は良好に保持され、むしろ、さらに向上する傾向をも示すことが判明した。
Claims (8)
- ホタルルシフェラーゼにおいて、ヘイケボタルルシフェラーゼの344位に相当するアミノ酸がアラニンに変異され、287位に相当するアミノ酸がアラニンに変異され、326位に相当するアミノ酸がセリンに変異され、467位に相当するアミノ酸がイソロイシンに変異され、かつ75位に相当するアミノ酸がアラニンに変異されているホタルルシフェラーゼ。
- ヘイケボタルルシフェラーゼの293位に相当するアミノ酸がメチオニンに変異されている、請求項1記載のホタルルシフェラーゼ。
- ヘイケボタルルシフェラーゼの351位に相当するアミノ酸がバリンに変異されている、請求項1記載のホタルルシフェラーゼ。
- ヘイケボタルルシフェラーゼの172位に相当するアミノ酸がグルタミン酸に変異され、かつ259位に相当するアミノ酸がイソロイシンに変異されている、請求項1記載のホタルルシフェラーゼ。
- ヘイケボタルルシフェラーゼの359位に相当するアミノ酸がバリンに変異され、かつ490位に相当するアミノ酸がグルタミンに変異されている、請求項1記載のホタルルシフェラーゼ。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載のホタルルシフェラーゼをコードするホタルルシフェラーゼ遺伝子。
- 請求項6記載のホタルルシフェラーゼ遺伝子をベクターDNAに挿入したことを特徴とする組換え体DNA。
- 請求項6記載のホタルルシフェラーゼ遺伝子または請求項7記載の組換え体DNAを含み、ホタルルシフェラーゼ生産能を有する微生物を培養し、該培養物よりホタルルシフェラーゼを採取することを特徴とする、ホタルルシフェラーゼの製造法。
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