以下、図面を参照して、本発明の燃料温度センサの異常診断装置及び蓄圧式燃料噴射装置に関する実施の形態について具体的に説明する。ただし、係る実施の形態は本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の範囲内で任意に変更することが可能である。なお、それぞれの図中、同じ符号を付してあるものは同一の部材を示しており、適宜説明が省略されている。
[第1の実施の形態]
1.蓄圧式燃料噴射装置
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る蓄圧式燃料噴射装置50の全体的構成の一例を示している。この蓄圧式燃料噴射装置50は、車両に搭載された内燃機関(本実施形態ではディーゼルエンジン)の気筒内に燃料を噴射するための装置であり、燃料タンク1と、低圧ポンプ2と、高圧ポンプ5と、コモンレール10と、燃料噴射弁13と、制御装置70等を備えている。このような蓄圧式燃料噴射装置50の基本的な構成は従来公知のものであり、その構成の一部が異なっていても構わない。
本実施形態の蓄圧式燃料噴射装置50において、低圧ポンプ2と高圧ポンプ5のカム室16、高圧ポンプ5のカム室16と高圧ポンプ5の加圧室5aは、それぞれ低圧燃料通路18a、18bで連通している。また、高圧ポンプ5の加圧室5aとコモンレール10、コモンレール10と燃料噴射弁13は、それぞれ高圧燃料通路37、39で連通している。さらに、高圧ポンプ5や燃料噴射弁13には、燃料を燃料タンク1に戻すためのリターン配管30a、30bが接続されている。
低圧ポンプ2は、燃料タンク1内の燃料を吸い上げ高圧ポンプ5の加圧室5aに燃料を供給する。また、高圧ポンプ5は、加圧室5a内の燃料をプランジャ7によって加圧し、燃料吐出弁9を介してコモンレール10に圧送する。
低圧燃料通路18bには、加圧室5aに供給される燃料の流量を調整する流量制御弁8が備えられている。流量制御弁8は、例えば、供給される電流値の大きさによって弁体のストローク量が調節され、燃料が通過するポートの面積を可変とする電磁比例式制御弁が用いられる。本実施形態では、非通電状態で燃料の流路が全閉となるノーマルクローズ型の流量制御弁8が用いられている。ただし、非通電状態で燃料の流路が全開となるノーマルオープン型の流量制御弁であってもよい。流量制御弁8を制御することによって加圧室5aに供給される燃料の流量が調節され、コモンレール10に圧送される高圧燃料の流量が調節される。
流量制御弁8よりも上流側にはオーバーフローバルブ14が接続されており、低圧ポンプ2によって圧送される燃料の圧力が所定の圧力に調節されるようになっている。オーバーフローバルブ14は、燃料の圧力が所定の開弁圧以上のときに開弁する構成のものであってもよいし、オーバーフローバルブ14の前後の差圧を所定値に維持する構成のものであってもよい。オーバーフローした燃料はリターン配管30aを介して燃料タンク1に戻される。
また、本実施形態の蓄圧式燃料噴射装置50においては、低圧燃料通路18bに燃料温度センサ25が設けられている。燃料温度センサ25のセンサ信号は制御装置70に送られ、制御装置70ではセンサ信号に基づいて燃料温度を検出する(以下、燃料温度センサのセンサ信号に基づいて検出される燃料温度を「検出温度」と称する。)。燃料温度センサ25の配置位置は低圧燃料通路18bに限られず、燃料が流通する領域であればどの位置に設けられていても構わない。
コモンレール10は、高圧ポンプ5から圧送される高圧燃料を一時的に蓄積し、複数の燃料噴射弁13に対して燃料を供給する。コモンレール10には、安全弁12が備えられたリターン通路30c及びレール圧を検出するための圧力センサ21が取り付けられている。圧力センサ21のセンサ信号は制御装置70に送られ、制御装置70ではセンサ信号に基づいてレール圧が検出される。圧力センサ21は、コモンレール10に設けられていなくてもよく、コモンレール10に連通し、高圧燃料が流通する位置であれば別の位置でも構わない。
燃料噴射弁13は、噴射孔が設けられたノズルボディと、噴射孔を閉塞するニードル弁と、ニードル弁の後端側に作用する背圧を制御することによってニードル弁の進退移動を制御する背圧制御部とを備えている。この燃料噴射弁13は、背圧制御弁への通電制御によってニードル弁の後端側に作用する背圧が逃されて、噴射孔が開かれているときに燃料噴噴射弁13から燃料が噴射される。背圧制御部への通電制御によってニードル弁の後端側から排出される燃料は、リターン配管30bを介して燃料タンク1に戻される。
本実施形態では、背圧制御部として電磁ソレノイドが備えられた電磁弁型の燃料噴射弁13が用いられている。この燃料噴射弁13は、ニードル弁やニードル弁に当接するバルブピストンの摺動部分の間隙を介して高圧状態の燃料が燃料低圧領域にリークする構造を有している(以下、この燃料リークを「静的リーク」と称する。)。すなわち、本実施形態の蓄圧式燃料噴射装置50では、燃料噴射弁13の静的リークによって、流量制御弁8や燃料噴射弁13が閉じられている場合であってもレール圧が低下するようになっている。静的リークによって燃料低圧領域にリークする燃料は、リターン配管30bを介して燃料タンク1に戻される。背圧制御部としてピエゾアクチュエータが備えられた電歪型の燃料噴射弁であってもよい。
ここで、図2に示すように、燃料は、温度が高くなるほどその粘度が低下する性質を有している。燃料の粘性が変化すると、同じ圧力の燃料が同じ通過面積の流路を通過する際に、そこを通過する燃料の流量が変化する。このような燃料の粘性の違いによる燃料の流量の差は、通過面積が小さいほど顕著に現れる。燃料噴射弁13の静的リークを生じさせる間隙は非常に狭いものであり、燃料の粘性の違いによって静的リーク量に差が生じやすくなっている。
2.制御装置(燃料温度センサの異常診断装置)
図3は、本実施形態の蓄圧式燃料噴射装置50の制御装置70の構成のうち、燃料温度センサの異常診断に関連する部分を機能的なブロックで表したブロック図を示している。つまり、制御装置70が本実施形態の燃料温度センサ25の異常診断装置として構成される。
この制御装置70は、公知の構成からなるマイクロコンピュータ(図示せず)を中心に構成されており、燃料温度検出手段71と、圧力検出手段72と、目標噴射量演算手段73と、目標圧力設定手段74と、燃料噴射弁制御手段75と、流量制御弁制御手段76と、異常判定手段77とを備えている。これらの各手段は、マイクロコンピュータによるプログラムの実行によって実現されるものである。
また、図示しないものの、制御装置70は、車両に備えられたアクセルセンサ、エンジンに備えられた回転数センサやクランク角センサ等から出力されるセンサ信号や、その他のエンジンの運転状態に関する情報を読込んで、アクセル操作量Accや機関回転数Ne、クランク角θc等を検出可能になっている。さらに、制御装置70には図示しないRAM(Random Access Memory)等の記憶手段が備えられており、読込まれる各種の情報や、各手段での演算結果が記憶される。
燃料温度検出手段71は、燃料温度センサ25のセンサ信号を読込み、検出温度Tsensorを継続的に求めるように構成されている。求められる検出温度Tsensorは燃料温度センサ25が配置された位置における低圧の燃料の温度ではあるが、この値はコモンレール10内の燃料温度と相関関係を有する値である。圧力検出手段72は、圧力センサ21のセンサ信号を読込み、レール圧Prail_actを検出するように構成されている。
目標噴射量演算手段73は、機関回転数Neやアクセル操作量Accを読込み、マップ情報に基づいて、内燃機関の気筒内に噴射する燃料の目標噴射量Qtgtを求めるように構成されている。目標噴射量演算手段73は、目標噴射量Qtgtがゼロとなったときには、内燃機関が燃料無噴射状態となっていることを示す信号を異常判定手段77に対して送るように構成されている。内燃機関の燃料無噴射状態は、主として、アクセルペダルの踏込が解除された場合に発生する。
目標圧力設定手段74は、目標噴射量Qtgt及び機関回転数Neを読込み、マップ情報に基づいてレール圧の目標値(以下、単に「目標レール圧」と称する。)Prail_tgtを求めるように構成されている。また、目標圧力設定手段74は、目標噴射量Qtgtがゼロとなったときには、目標レール圧Prail_tgtを無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に設定するようになっている。無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0は固定値であってもよいし、機関回転数Neに応じて随時変更されるようになっていてもよい。
燃料噴射弁制御手段75は、目標噴射量Qtgtやレール圧Prail_actを読込み、マップ情報に基づいて燃料噴射弁13の通電時間を求め、クランク角θcに応じた噴射タイミングに合わせて燃料噴射弁13の通電制御を行うように構成されている。
流量制御弁制御手段76は、レール圧Prail_actや目標レール圧Prail_tgt、目標噴射量Qtgtを読込み、レール圧Prail_actが目標レール圧Prail_tgtとなるように流量制御弁8の開度をフィードバック制御するように構成されている。このような流量制御弁制御手段76では、目標噴射量Qtgtがゼロとなったときには目標レール圧Prail_tgtが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0まで低下するため、流量制御弁8は閉じられることとなる。そして、流量制御弁制御手段76は、流量制御弁8を閉じたときには、流量制御弁8が閉弁状態となったことを示す信号を、異常判定手段77に対して送るように構成されている。なお、目標噴射量Qtgtがゼロとなったときに流量制御弁8のフィードバック制御を解除するとともに、流量制御弁8を強制的に閉弁するように制御を行うようにしてもよい。
異常判定手段77は、目標噴射量Qtgtがゼロになりかつ流量制御弁8が閉じられた基準時以降、燃料噴射弁13の静的リークに起因して低下するレール圧が、検出温度Tsensorから想定される圧力低下速度に応じて低下しているか否かを判断することで、燃料温度センサ25の異常診断を行うように構成されている。
本実施形態において、上述の通り検出温度Tsensorがコモンレール10内の温度と相関関係にあることや、燃料温度の変化に応じて燃料の粘性が変化して燃料噴射弁13の静的リークに起因するレール圧Prail_actの減圧特性が変化することに着目すると、圧力検出手段72で検出されるレール圧Prail_actは、実燃料温度Tactに応じた推移を示すこととなる。本実施形態の異常判定手段77は、検出温度Tsensorから想定されるレール圧の低下速度に相関する基準値と、この基準値に対応する値であって圧力検出手段72で検出されるレール圧Prail_actの推移に基づいて得られる値との差分が所定の閾値αを超えるときに、燃料温度センサ25に異常が有ると判定するように構成されている。
(1)燃料温度センサの異常診断の第1の例
図4は、本実施形態の燃料温度センサ25の異常診断方法の第1の例を説明するためのタイムチャートである。この第1の例では、基準値として、目標噴射量Qtgtがゼロになりかつ流量制御弁8が閉じられた基準時t1から所定時間TimerXを経過した後のレール圧の想定値(基準圧力値)Xprailが用いられている。
レール圧Prail_actの減圧特性は燃料の温度やその時のレール圧Prail_actによって異なるが、燃料温度センサ25による検出温度Tsensorとコモンレール10内の燃料の温度とは相関関係があるため、これらはあらかじめ実験等によって求めることができる。基準圧力値Xprailは、検出温度Tsensor、基準時t1でのレール圧の開始値Prail_act1、及び比較するレール圧Prail_act2を求めるまでの所定時間TimerXの長さに基づいてマップ計算により求められる。所定時間TimerXの長さが一定であれば、基準圧力値Xprailの算出の際に考慮すべきパラメータが検出温度Tsensor及びレール圧の開始値Prail_act1のみになるため、演算処理の負荷が軽減される。
図4において、点線Tが目標レール圧Prail_tgtを示し、実線Aが、実燃料温度Tactが検出温度Tsensorと一致している場合のレール圧Prail_actの推移を示している。また、破線Bが、実燃料温度Tactが検出温度Tsensorよりも低い場合のレール圧Prail_actの推移を示し、一点鎖線C及び二点鎖線Dが、実燃料温度Tactが検出温度Tsensorよりも高い場合のレール圧Prail_actの推移を示している。
基準時t1の時点で目標噴射量Qtgtがゼロになり、目標レール圧Prail_tgtが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に向けて低下させられて流量制御弁8が閉弁状態となると、異常判定手段77は、レール圧の開始値Prail_act1及び検出温度Tsensorを読込む。そして、異常判定手段77は、基準時t1から所定時間TimerXが経過したt2の時点におけるレール圧Prail_act2を読込み、レール圧の開始値Prail_act1及び検出温度Tsensorから想定される基準圧力値Xprailと、t2の時点で得られたレール圧Prail_act2との差分ΔPが所定の閾値α以下になっているか否かを判別する。
例えば、検出温度Tsensorが実燃料温度Tactよりも高くなる方向にズレている場合、すなわち、実燃料温度Tactが検出温度Tsensorよりも低い場合には、t2の時点でのレール圧Prail_act2が基準圧力値Xprailよりも大きくなる(破線B)。一方、検出温度Tsensorが実燃料温度Tactよりも低くなる方向にズレている場合、すなわち、実燃料温度Tactが検出温度Tsensorよりも高い場合には、t2の時点でのレール圧Prail_act2が基準圧力値Xprailよりも小さくなる(一点鎖線C及び二点鎖線D)。燃料温度センサ25による検出温度Tsensorと実燃料温度Tactとの誤差が大きいほど、t2の時点でのレール圧Pact_rail2と基準圧力値Xprailとの差分ΔPは大きくなるため、異常判定手段77は、差分ΔPが閾値αを超える場合には燃料温度センサ25の異常が生じていると判定する。
所定時間TimerXは、燃料噴射弁13の静的リークの流量に応じて、レール圧Prail_actの低下速度の差異を十分に確認できるような時間に適宜設定される。所定時間TimerXは可変値であってもよいし、固定値であってもよい。また、閾値αは、検出温度Tsensorと実燃料温度Tactとの許容誤差に応じて適宜設定することができる。
また、燃料温度センサ25の異常の有無を判定する際に、t2の時点でのレール圧Prail_act2と基準圧力値Xprailとの大小関係をも判断するようにすれば、検出温度Tsensorが実燃料温度Tactよりも高くなる方向にズレているのか、あるいは、低くなる方向にズレているのかについても判定することができる。
また、この異常診断方法の第1の例によって燃料温度センサ25の異常の有無を判定するにあたり、基準時t1でのレール圧の開始値Prail_act1が低すぎると、燃料の粘性の違いによるレール圧の低下量の差が現れにくくなる。そのため、レール圧の開始値Prail_act1が所定値Prail_init0未満のときには、異常判定手段77が異常診断を中止するように設定することが好ましい。
また、異常診断方法の第1の例を実行する際に、求められる基準圧力値Xprailと無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0との差分ΔP1が小さすぎると、所定時間TimerXが経過する前にレール圧Prail_actが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に到達してしまい(図4の二点鎖線D)、レール圧Prail_actを維持するために流量制御弁8が開かれてしまうため、誤診断が生じるおそれがある。そのため、基準圧力値Xprailは少なくとも設定される無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0よりも閾値α以上大きい値に設定されるようにする。
ただし、設定される無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0が機関回転数Neに応じて随時変更されるようになっている場合には、設定され得る最大の無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0MAXよりも閾値α以上大きい値に基準圧力値Xprailが設定されるようにすることで、機関回転数Neの変動にかかわらず誤診断が生じないようにすることができる。また、このように設定されていれば、制御装置70の負荷の軽減にもつながる。
なお、所定時間TimerXの経過前にレール圧Prail_actが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に到達してしまうことによる誤診断を防ぐためには、基準時t1以降のレール圧Prail_actの推移を監視し、所定時間TimerXの経過前にレール圧Prail_actが無噴射レール圧Prail_tgt_q0に到達した場合に、異常判定手段77による異常診断を中止するように設定することもできる。
次に、制御装置70によって実行される燃料温度センサ25の異常診断方法の第1の例を、図5〜図7のフローチャートに基づいて説明する。
まず、図5のステップS1において、燃料温度センサ25の診断開始条件の成立を検出する。図6は、ステップS1の具体的なフローの一例を示している。
図6のステップS11では、まず、制御装置70は目標噴射量Qtgtを読み込み、目標噴射量Qtgtがゼロであるか否かを判別する。目標噴射量QtgtがゼロになるまではステップS11が繰り返される。
ステップS11において目標噴射量Qtgtがゼロであると判別されるとステップS12に進み、制御装置70は無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0を算出して目標レール圧Prail_tgtの設定を行い、次いで、ステップS13において流量制御弁8が全閉状態となったか否かを判別する。通常、目標レール圧Prail_tgtが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に設定されたことに伴って流量制御弁8は全閉状態に制御されるため、流量制御弁8が全閉状態になったと判別されるまでステップS13が繰り返される。
流量制御弁8が全閉状態となると、ステップS14において、制御装置70はこのときのレール圧Prail_actを検出し、開始値Prail_act1として記憶する。次いで、ステップS15において、制御装置70はレール圧の開始値Prail_act1があらかじめ設定された所定値Prail_init0以上であるか否かを判別する。レール圧の開始値Prail_act1が所定値Prail_init0未満である場合には、燃料の粘性の違いによるレール圧の低下量の違いが現れにくく、誤診断をするおそれがあることから、制御装置70は燃料温度センサ25の異常診断を中止する。一方、レール圧の開始値Prail_act1が所定値Prail_init0以上である場合には診断開始条件が成立した状態となったために図5のステップS2に進む。
図5のステップS2において、制御装置70はタイマカウントを開始した後、ステップS3で検出温度Tsensorを求め、記憶する。その後、ステップS4で、制御装置70は燃料温度センサ25の異常の有無の判定を行う。
図7は、ステップS4の具体的なフローの一例を示している。
図7のステップS21では、まず、制御装置70はタイマ値が所定時間TimerXを経過したか否かを判別する。所定時間TimerXが経過していない場合にはステップS27に進み、制御装置70は目標噴射量Qtgtを読み込むとともに目標噴射量Qtgtがゼロのままで維持されているか否かを判別する。目標噴射量Qtgtがゼロ以下であると判別される場合にはステップS28に進み、制御装置70はレール圧Prail_actを検出するとともにレール圧Prail_actが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に到達していないかを判別する。
レール圧Prail_actが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0を超えている場合には異常診断を継続することができるためにステップS21に戻る。一方、ステップS27において目標噴射量Qtgtがゼロでない場合や、ステップS28においてレール圧Prail_actが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に到達している場合には、制御装置70は異常診断を中止し、図5のステップS1に戻る。
一方、ステップS21においてタイマ値が所定時間TimerXを経過した場合には、ステップS22に進み、制御装置70はレール圧Prail_act2を検出する。次いで、ステップS23において、制御装置70は、レール圧の開始値Prail_act1及び検出温度Tsensorに基づいて基準圧力値Xprailをマップ計算により求めた後、ステップS24において、レール圧Prail_act2と基準圧力値Xprailとの差分ΔPが閾値α以下であるか否かを判別する。
差分ΔPが閾値α以下である場合にはステップS25に進み、制御装置70は燃料温度センサ25の異常が生じていないと判定する一方、差分ΔPが閾値αを超えている場合にはステップS26に進み、制御装置70は燃料温度センサ25の異常が生じていると判定し、異常診断を終了する。
このように行われる燃料温度センサ25の異常診断方法の第1の例によれば、レール圧の開始値Prail_act1及び検出温度Tsensorの値から推定される所定時間TimerX経過後の基準圧力値Xprailと実際のレール圧Prail_act2との差分ΔPに基づいて、燃料温度センサ25の検出値の信頼性を判定することができ、燃料温度センサ25の異常診断を精度よく実行することができる。
なお、この異常診断方法の第1の例の基準値を、所定時間TimerX経過後の基準圧力値Xprailではなく、所定時間TimerXを経過するまでのレール圧の低下量に置き換えても、同様のフローにしたがって異常診断を実行することができる。
(2)燃料温度センサの異常診断の第2の例
図8は、本実施形態の燃料温度センサ25の異常診断方法の第2の例を説明するためのタイムチャートである。この第2の例では、基準値として、目標噴射量Qtgtがゼロになりかつ流量制御弁8が閉じられた基準時t11から、レール圧Prail_actが所定値P0に到達するまでの想定時間(基準時間)YtimerP=P0が用いられている。
第1の例と同様に、燃料の温度やその時のレール圧Prail_actによって異なるレール圧Prail_actの減圧特性はあらかじめ実験等によって求めることができ、基準時間YtimerP=P0は、検出温度Tsensor、基準時t11でのレール圧の開始値Prail_act1、及び設定される所定値P0に基づいてマップ計算により求められる。
図8において、点線Tが目標レール圧Prail_tgtを示し、実線Aが、実燃料温度Tactが検出温度Tsensorと一致している場合のレール圧Prail_actの推移を示している。また、破線Bが、実燃料温度Tactが検出温度Tsensorよりも低い場合のレール圧Prail_actの推移を示し、一点鎖線Cが、実燃料温度Tactが検出温度Tsensorよりも高い場合のレール圧Prail_actの推移を示している。
基準時t11の時点で目標噴射量Qtgtがゼロになり、目標レール圧Prail_tgtが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に向けて低下させられて流量制御弁8が閉弁状態となると、異常判定手段77は、レール圧の開始値Prail_act1及び検出温度Tsensorを読込む。このとき、タイマカウントが開始されるとともに、異常判定手段77はタイマ値TimerP=P0を読込むための所定値P0を決定する。図8の例では、所定値P0は、無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0よりも大きい値に設定されるようになっている。そして、異常判定手段77は、その後のレール圧Prail_actの推移を監視し、レール圧Prail_actが所定値P0に到達したt12の時点でのタイマ値TimerP=P0を読み込み、検出温度Tsensor、レール圧の開始値Prail_act1、及び所定値P0から想定される基準時間YtimerP=P0と、t12の時点で得られたタイマ値TimerP=P0との差分ΔTimerが所定の閾値β以下になっているか否かを判別する。
例えば、検出温度Tsensorが実燃料温度Tactよりも高くなる方向にズレている場合、すなわち、実燃料温度Tactが検出温度Tsensorよりも低い場合には、レール圧Prail_actが所定値P0に到達するまでの時間TimerP=P0が基準時間YtimerP=P0よりも長くなる(破線B)。一方、検出温度Tsensorが実燃料温度Tactよりも低くなる方向にズレている場合、すなわち、実燃料温度Tactが検出温度Tsensorよりも高い場合には、レール圧Prail_actが所定値P0に到達するまでの時間TimerP=P0が基準時間YtimerP=P0よりも短くなる(一点鎖線C)。燃料温度センサ25による検出温度Tsensorと実燃料温度Tactとの誤差が大きいほど、レール圧Pact_railが所定値P0に到達する時間TimerP=P0と基準時間YtimerP=P0との差分ΔTimerは大きくなるため、異常判定手段77は、差分ΔTimerが閾値βを超える場合には燃料温度センサ25の異常が生じていると判定する。
この異常診断方法の第2の例においても、レール圧Prail_actが所定値P0に到達したときのタイマ値TimerP=P0と基準時間YtimerP=P0との大小関係をも判断するようにすれば、検出温度Tsensorが実燃料温度Tactよりも高くなる方向にズレているのか、あるいは、低くなる方向にズレているのかについても判定することができる。
基準時間YtimerP=P0との差分ΔTimerを得るための時間TimerP=P0を読み込む時期の基準となる所定値P0は任意に設定することができる。基本的には、基準時t11以降にレール圧Prail_actが取り得る値であればよく、具体的には、基準時t11のレール圧の開始値Prail_act1よりも小さく、無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0以上の値であればよい。ただし、レール圧の到達値をレール圧の開始値Prail_act1に近い値に設定すると、燃料温度センサ25の異常の有無の判定が困難になるため、比較的無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に近い値に設定することが好ましい。
また、このレール圧の所定値P0は固定値であってもよいが、レール圧の開始値Prail_act1や無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に応じて診断ごとに設定することもできる。無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0が固定値である場合には、無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0を所定値P0として用いてもよい。ただし、レール圧の開始値Prail_act1と所定値P0との差分ΔP2が大きすぎると、異常判定結果が得られるまでに長時間を要することから、異常判定を実行するに足りる最低限のレール圧の低下量を考慮して、時間TimerP=P0を読み込むための所定値P0を設定することが好ましい。
また、異常診断方法の第2の例においても、基準時t11でのレール圧の開始値Prail_act1が低すぎると、燃料の粘性の違いによるレール圧の低下量の差が現れにくくなるため、レール圧の開始値Prail_act1が所定値Prail_init0未満のときには、異常判定手段77が異常診断を中止するように設定することが好ましい。
次に、制御装置70によって実行される燃料温度センサ25の異常診断方法の第2の例を、図5及び図9を用いて説明する。異常診断方法の第2の例の基本的なフローは図5のフローチャートによって表される。このうち、ステップS1〜ステップS3は、第1の例で説明したのと同様にして実行することができる一方、ステップS4は第1の例と異なっており、その具体的フローが図9に示されている。
図9のステップS51では、まず、制御装置70はレール圧Prail_actを検出し、次いで、ステップS52において、検出されたレール圧Prail_actが所定値P0に到達したか否かを判別する。レール圧Prail_actが所定値P0に到達していない場合にはステップS58に進み、制御装置70は目標噴射量Qtgtを読込むとともに目標噴射量Qtgtがゼロのままで維持されているか否かを判別する。目標噴射量Qtgtがゼロとなっている場合には異常診断を継続することができるためにステップS51に戻る。一方、目標噴射量Qtgtがゼロでない場合には、制御装置70は異常診断を中止し、図5のステップS1に戻る。
一方、ステップS52においてレール圧Prail_actが所定値P0に到達したと判別された場合には、ステップS53に進み、制御装置70はそのときのタイマ値TimerP=P0を読込む。次いで、ステップS54において、制御装置70は、レール圧の開始値Prail_act1、検出温度Tsensor、及び設定されている所定値P0に基づいて基準時間YtimerP=P0をマップ計算により求めた後、ステップS55において、タイマ値TimerP=P0と基準時間YtimerP=P0との差分ΔTimerが閾値β以下であるか否かを判別する。
差分ΔTimerが閾値β以下である場合にはステップS56に進み、制御装置70は燃料温度センサ25の異常が生じていないと判定する一方、差分ΔTimerが閾値βを超えている場合にはステップS57に進み、制御装置70は燃料温度センサ25の異常が生じていると判定し、異常診断を終了する。
このように行われる燃料温度センサ25の異常診断方法の第2の例によれば、レール圧の開始値Prail_act1、検出温度Tsensor、及び設定されるレール圧の所定値P0から推定される、レール圧Prail_actが所定値P0に到達するまでの基準時間YtimerP=P0と、実際にレール圧Prail_actが所定値P0に到達するまでの所要時間TimerP=P0との差分ΔTimerに基づいて、燃料温度センサ25の検出値の信頼性を判定することができ、燃料温度センサ25の異常診断を精度よく実行することができる。
(3)燃料温度センサの異常診断の第3の例
図10は、本実施形態の燃料温度センサ25の異常診断方法の第3の例を説明するためのタイムチャートである。この第3の例では、基準値として、目標噴射量Qtgtがゼロになりかつ流量制御弁8が閉じられた基準時t1以降のレール圧の低下速度の想定値(基準低下速度)Zdp/dtが用いられている。
第1の例と同様に、燃料の温度やその時のレール圧Prail_actによって異なるレール圧Prail_actの減圧特性はあらかじめ実験等によって求めることができ、基準低下速度Zdp/dtは、検出温度Tsensor、基準時t1でのレール圧の開始値Prail_act1、及びレール圧Prail_act2を求めるまでの待機時間dtの長さに基づいてマップ計算により求められる。待機時間dtの長さが一定であれば、基準低下速度Zdp/dtの算出の際に考慮すべきパラメータが検出温度Tsensor及びレール圧の開始値Prail_act1のみになる。
図10において、点線Tが目標レール圧Prail_tgtを示し、実線Aが、実燃料温度Tactが検出温度Tsensorと一致している場合のレール圧Prail_actの推移を示している。また、破線Bが、実燃料温度Tactが検出温度Tsensorよりも低い場合のレール圧Prail_actの推移を示し、一点鎖線C及び二点鎖線Dが、実燃料温度Tactが検出温度Tsensorよりも高い場合のレール圧Prail_actの推移を示している。
基準時t21の時点で目標噴射量Qtgtがゼロになり、目標レール圧Prail_tgtが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に向けて低下させられて流量制御弁8が閉弁状態となると、異常判定手段77は、レール圧の開始値Prail_act1及び検出温度Tsensorを読込む。そして、異常判定手段77は、基準時t21から待機時間dtが経過したt22の時点におけるレール圧Prail_act2を読込むとともにレール圧の低下速度dp/dtを算出し、開始値Prail_act1、検出温度Tsensor及び待機時間dtから想定される基準低下速度Zdp/dtと、得られた低下速度dp/dtとの差分Δdp/dtが所定の閾値γ以下になっているか否かを判別する。
例えば、検出温度Tsensorが実燃料温度Tactよりも高くなる方向にズレている場合、すなわち、実燃料温度Tactが検出温度Tsensorよりも低い場合には、レール圧の低下速度dp/dtが基準低下速度Zdp/dtよりも小さくなる(破線B)。一方、検出温度Tsensorが実燃料温度Tactよりも低くなる方向にズレている場合、すなわち、実燃料温度Tactが検出温度Tsensorよりも高い場合には、レール圧の低下速度dp/dtが基準低下速度Zdp/dtよりも大きくなる(一点鎖線C及び二点鎖線D)。燃料温度センサ25による検出温度Tsensorと実燃料温度Tactとの誤差が大きいほど、実際のレール圧の低下速度dp/dtと基準低下速度Zdp/dtとの差分Δdp/dtは大きくなるため、異常判定手段77は、差分Δdp/dtが閾値γを超える場合には燃料温度センサ25の異常が生じていると判定する。
待機時間dtは固定値であっても良いが、可変値であってもよい。例えば、レール圧の開始値Prail_act1及び検出温度Tsensorに応じて、レール圧Prail_actの低下速度の差異を十分に確認できるような待機時間dtに適宜設定することができる。また、閾値γは、検出温度Tsensorと実燃料温度Tactとの許容誤差に応じて適宜設定することができる。
また、異常診断方法の第3の例を実行する際に、待機時間dtが長すぎると、待機時間dtの経過前にレール圧Prail_actが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に到達してしまい(図10の二点鎖線D)、レール圧Prail_actを維持するために流量制御弁8が開かれてしまうため、誤診断が生じるおそれがある。そのため、待機時間dtは少なくともレール圧Prail_actが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に到達する予想時間よりも小さい値に設定されるようにする。
この異常診断方法の第3の例においても、実際のレール圧の低下速度dp/dtと基準低下速度Zdp/dtとの大小関係をも判断するようにすれば、検出温度Tsensorが実燃料温度Tactよりも高くなる方向にズレているのか、あるいは、低くなる方向にズレているのかについても判定することができる。
また、異常診断方法の第3の例においても、基準時t21でのレール圧の開始値Prail_act1が低すぎると、燃料の粘性の違いによるレール圧の低下量の差が現れにくくなるため、レール圧の開始値Prail_act1が所定値Prail_init0未満のときには、異常判定手段77が異常診断を中止するように設定することが好ましい。
なお、待機時間dtの経過前にレール圧Prail_actが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に到達してしまうことによる誤診断を防ぐためには、基準時t21以降のレール圧Prail_actの推移を監視し、待機時間dtの経過前にレール圧Prail_actが無噴射レール圧Prail_tgt_q0に到達した場合に、異常判定手段77による異常診断を中止するように設定することもできる。
次に、制御装置70によって実行される燃料温度センサ25の異常診断方法の第3の例を、図5及び図11のフローチャートに基づいて説明する。異常診断方法の第3の例の基本的なフローは図5のフローチャートによって表される。このうち、ステップS1〜ステップS3は、第1の例で説明したのと同様にして実行することができる一方、ステップS4は第1の例と異なっており、その具体的フローが図11に示されている。
図11のステップS61では、まず、制御装置70はレール圧の開始値Prail_act1及び検出温度Tsensorに基づいて、待機時間dtを算出する。次いで、ステップS62において、制御装置70は、ステップS2でカウントが開始されたタイマ値が待機時間dtを経過しているか否かを判別する。待機時間dtが経過していない場合にはステップS68に進み、制御装置70は目標噴射量Qtgtを読み込むとともに目標噴射量Qtgtがゼロのままで維持されているか否かを判別する。目標噴射量Qtgtがゼロ以下であると判別される場合にはステップS69に進み、制御装置70はレール圧Prail_actを検出するとともにレール圧Prail_actが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に到達していないかを判別する。
レール圧Prail_actが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0を超えている場合には異常診断を継続することができるためにステップS62に戻る。一方、ステップS68において目標噴射量Qtgtがゼロでない場合や、ステップS69においてレール圧Prail_actが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に到達している場合には、制御装置70は異常診断を中止し、図5のステップS1に戻る。
一方、ステップS62においてタイマ値が待機時間dtを経過した場合には、ステップS63に進み、制御装置70はレール圧Prail_act2を検出する。次いで、ステップS64において、制御装置70は、レール圧の開始値Prail_act1、検出温度Tsensor及び待機時間dtに基づいて基準低下速度Zdp/dtをマップ計算により求めた後、ステップS65において、待機時間dt中のレール圧の低下量dp(Prail_act1−Prail_act2)を待機時間dtで除算して得られる実際のレール圧の低下速度dp/dtと基準低下速度Zdp/dtとの差分Δdp/dtが閾値γ以下であるか否かを判別する。
差分Δdp/dtが閾値γ以下である場合にはステップS66に進み、制御装置70は燃料温度センサ25の異常が生じていないと判定する一方、差分Δdp/dtが閾値γを超えている場合にはステップS67に進み、制御装置70は燃料温度センサ25の異常が生じていると判定し、異常診断を終了する。
このように行われる燃料温度センサ25の異常診断方法の第3の例によれば、レール圧の開始値Prail_act1、検出温度Tsensor及び設定される待機時間dtの値から推定される基準低下速度Zdp/dtと実際のレール圧の低下速度dp/dtとの差分Δdp/dtに基づいて、燃料温度センサ25の検出値の信頼性を判定することができ、燃料温度センサ25の異常診断を精度よく実行することができる。
なお、本実施形態の異常診断方法として第1〜第3の例について説明をしたが、これら以外にもレール圧の低下速度に相関をもつ値を基準値として診断を実施することができる。例えば、目標噴射量Qtgtがゼロになりかつ流量制御弁8が閉じられた基準時から所定時間経過までのレール圧の低下割合等を基準値として、燃料温度センサ25の異常診断を行うこともできる。
また、本実施形態で説明した制御装置70は、安全弁12の代わりに比例制御式の圧力制御弁がコモンレール10に備えられた蓄圧式燃料噴射装置にも適用することができる。この場合、目標噴射量Qtgtがゼロになり、かつ、流量制御弁8が閉じられるときに圧力制御弁も閉じられるように制御が行われるように構成される。このようにすれば、少なくともレール圧Prail_actが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に到達するまでは、レール圧Prail_actの低下の原因が燃料噴射弁13の静的リークによるもののみになるために、説明したフローに沿って燃料温度センサ25の異常診断を実行できるようになる。
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態にかかる燃料温度センサの異常診断装置は、目標噴射量がゼロになった後、レール圧を一定の値に調節した上で、燃料温度センサの異常診断を開始するように構成されたものである。以下、制御装置70による制御の内容について、第1の実施の形態と異なる点を中心に説明する。
本実施形態において、目標噴射量演算手段73によって算出される目標噴射量Qtgtがゼロになると、目標圧力設定手段74は、目標レール圧Prail_tgtを、あらかじめ定められた開始目標値Prail_initに設定する。これに伴い、流量制御弁制御手段76は、レール圧Prail_actが開始目標値Prail_initとなるように流量制御弁8の通電制御を実行する。設定される開始目標値Prail_initは、無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0が最大値Prail_tgt_q0MAXに設定された場合であっても、異常診断に十分なレール圧の低下幅が確保されるような値に設定される。また、目標圧力設定手段74は、レール圧Prail_actが開始目標値Prail_initになった後、今度は、目標レール圧Prail_tgtを無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に設定する。無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0は第1の実施の形態と同様に、固定値であってもよいし、機関回転数Neに応じて随時変更されるようになっていてもよい。
異常判定手段77は、目標噴射量Qtgtがゼロになり、かつ、レール圧Prail_actが開始目標値Prail_initとなり、さらに、目標レール圧Prail_tgtが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に設定されることによって流量制御弁8が閉じられたときを基準時として、燃料温度センサ25の異常の有無を判定するように構成されている。具体的な異常判定の方法は第1の実施の形態で説明した方法と同様の内容で実施される。このとき、異常診断に用いられるレール圧の開始値Prail_act1は開始目標値Prail_initに統一される。
図12は、本実施形態の燃料温度センサ25の異常診断方法の具体例を説明するためのタイムチャートである。図12において、点線Tが目標レール圧Prail_tgtを示し、実線Aがレール圧Prail_actの推移を示している。
t31の時点で目標噴射量Qtgtがゼロになると、目標レール圧Prail_tgtが開始目標値Prail_initに向けて変化させられる。これに伴って流量制御弁8の制御が行われる結果、レール圧Prail_actが開始目標値Prail_initとなったt32の時点で目標レール圧Prail_tgtが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に向けて低下させられる。その結果、流量制御弁8が閉弁状態になる。このt32の時点が基準時とされ、以降、開始目標値Prail_initが開始値Prail_act1とされて異常診断制御が実行される。
次に、制御装置70によって実行される本実施形態の燃料温度センサ25の異常診断方法について、図5及び図13のフローチャートに基づいて説明する。本実施形態の異常診断方法の基本的なフローは図5のフローチャートによって表される。このうち、ステップS2〜ステップS4は、第1の実施の形態で説明した各例と同様にして実行することができる一方、ステップS1は第1の実施の形態と異なっており、その具体的フローが図13に示されている。
図13のステップS71では、まず、制御装置70は目標噴射量Qtgtを読み込み、目標噴射量Qtgtがゼロであるか否かを判別する。目標噴射量QtgtがゼロになるまではステップS71が繰り返される。ステップS71において目標噴射量Qtgtがゼロであると判別されるとステップS72に進み、制御装置70は目標レール圧Prail_tgtを開始目標値Prail_initに設定する。
次いで、ステップS73において、制御装置70はレール圧Prail_actを検出するとともにレール圧Prail_actが開始目標値Prail_initとなったか否かを判別する。レール圧Prail_actが開始目標値Prail_initになるまではステップS73が繰り返される。ステップS73においてレール圧Prail_actが開始目標値Prail_initになったと判別されるとステップS74に進み、制御装置70は、目標レール圧Prail_tgtを無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に設定する。
次いで、ステップS75において流量制御弁8が全閉状態となったか否かを判別する。通常、目標レール圧Prail_tgtが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に設定されたことに伴って流量制御弁8は全閉状態に制御されるため、流量制御弁8が全閉状態になったと判別されるまでステップS75が繰り返される。流量制御弁8が全閉状態になった場合には診断開始条件が成立した状態となったために図5のステップS2に進み、以降は、すでに説明したフローに従って異常診断制御を実行する。
本実施形態の燃料温度センサの異常診断方法によれば、レール圧の開始値Prail_act1が開始目標値Prail_initに固定されるようになっているので、異常判定を実行する際にレール圧の開始値Prail_act1の情報をその都度読込む必要がなくなり、制御装置70への負荷が軽減される。また、開始目標値Prail_initを、設定され得る無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0MAXの最大値を考慮して設定することによって、常に燃料温度センサ25の異常診断を最後まで完結することができるようになり、診断頻度を増やすことができる。
なお、本実施形態についても、コモンレール10に圧力制御弁が備えられた蓄圧式燃料噴射装置に適用することができる。この場合、目標噴射量Qtgtがゼロになり、かつ、流量制御弁8が閉じられるときに圧力制御弁も閉じられるように制御が行われるように構成される。このようにすれば、少なくともレール圧Prail_actが無噴射時目標レール圧Prail_tgt_q0に到達するまでは、レール圧Prail_actの低下の原因が燃料噴射弁13の静的リークによるもののみになるために、説明したフローに沿って燃料温度センサ25の異常診断を実行できるようになる。
[第3の実施の形態]
本発明の第3の実施の形態は、燃料噴射弁からの静的リークがゼロあるいは極く少量であるために、燃料無噴射状態でのレール圧の低下が生じにくい構成の蓄圧式燃料噴射装置に適用される燃料温度センサの異常診断装置に関するものである。本実施形態の異常診断装置は、レール圧を強制的に低下させる制御を実行することによって燃料温度センサの異常診断を実行するように構成されている。以下、本実施形態の異常診断装置を構成する制御装置の構成について具体的に説明する。
図14は、本実施形態の蓄圧式燃料噴射装置の制御装置170の構成のうち、燃料温度センサの異常診断に関連する部分を機能的なブロックで表したブロック図を示している。
この制御装置170は、公知の構成からなるマイクロコンピュータ(図示せず)を中心に構成されており、燃料温度検出手段171と、圧力検出手段172と、目標噴射量演算手段173と、目標圧力設定手段174と、燃料噴射弁制御手段175と、流量制御弁制御手段176と、異常判定手段177とを備えている。これらの各手段は、マイクロコンピュータによるプログラムの実行によって実現されるものである。
これらの各手段のうち、燃料温度検出手段171、圧力検出手段172、目標噴射量演算手段173、目標圧力設定手段174、流量制御弁制御手段176は、基本的に第1の実施の形態や第2の実施の形態の制御装置70の各手段と同様に構成されている。
一方、本実施形態の制御装置170の異常判定手段177は、目標噴射量Qtgtがゼロになり、かつ、流量制御弁8が全閉状態になったことを検出すると、燃料噴射弁制御手段175に対して燃料噴射弁13の空打ち制御を実行するように指示を送る。空打ち制御とは、燃料噴射弁13の噴射孔から燃料が噴射されることが無い程度に、背圧制御部によってニードル弁の後端側に作用する背圧を極く短時間だけ逃す制御である。
燃料噴射弁制御手段175は、異常判定手段177から空打ち制御を実行するように指示を受けると、燃料噴射弁13の背圧制御部を通電制御し、所定回数の空打ちを実行する。その結果、燃料噴射弁13の背圧が空打ちの回数分逃され、これに応じてレール圧Prail_actが低下する。本実施形態では、燃料噴射弁制御手段175が圧力低下制御手段として機能する。
空打ち制御の実行回数は、レール圧の低下量との関係を考慮して適宜設定される。すなわち、燃料温度センサ25の異常診断を実行可能な程度にレール圧を低下させることができる回数分、空打ち制御が実行されるようになっている。空打ち制御によってリターン配管30bに排出される燃料の流量は燃料の粘性の違いよって異なるため、空打ち制御に伴うレール圧Prail_actの低下量は燃料温度に応じて差が現れる。
そのため、本実施形態において、異常判定手段177は、目標噴射量Qtgtがゼロになりかつ流量制御弁8が閉じられた基準時以降、燃料噴射弁13の空打ち制御に起因して低下するレール圧が、検出温度Tsensorから想定される圧力低下速度に応じて低下しているか否かを判断することで、燃料温度センサ25の異常診断を行うように構成されている。
図15は、本実施形態の燃料温度センサ25の異常診断方法を説明するためのタイムチャートである。図15において、点線Tが目標レール圧Prail_tgtを示し、実線Aがレール圧Prail_actの推移を示している。
基準時t41の時点で目標噴射量Qtgtがゼロになり、目標レール圧Prail_tgtが無噴射時目標レール値Prail_tgt_q0に向けて低下させられて流量制御弁8が閉弁状態となると、異常判定手段177は、レール圧の開始値Prail_act1及び検出温度Tsensorを読込むとともに燃料噴射弁制御手段175に対して空打ち制御を実行するように指示を送る。この図15の例では、燃料噴射弁制御手段175に対して2回の空打ち制御を実行するように指示されている。
燃料噴射弁制御手段175は指示に従って、t42及びt43の時点で空打ち制御を実行する。空打ち制御に伴って、t42及びt43の時点の後、レール圧Prail_actが低下させられる。このときの圧力低下量が、実燃料温度Tactに応じた変化量となって現れる。異常判定手段177は、レール圧Prail_actを強制的に低下させる前の開始値Prail_act1と、レール圧Prail_actを強制的に低下させた後のレール圧Prail_act2を用いて、第1の実施の形態の異常診断方法の第1の例や第3の例、さらには、第2の実施の形態の異常診断方法に基づいて燃料温度センサ25の異常診断を実行する。
このように実行される本実施形態の燃料温度センサ25の異常診断方法について、図16のフローチャートに基づいて説明する。
まず、ステップS91〜ステップS93は、第1の実施の形態や第2の実施の形態で説明したステップS1〜ステップS3に準じて実行される。ステップS3が終了した段階では、目標噴射量Qtgtがゼロで、かつ、流量制御弁8が全閉状態になっている。
次いで、ステップS94において、制御装置70は空打ち制御を所定回数、所定のタイミングで実行する。この空打ち制御によって、燃料温度Tactに応じた低下速度でレール圧Prail_actが強制的に低下させられる。
空打ち制御の実行が終了すると、ステップS95において、制御装置70は燃料温度センサ25の異常判定を実行する。このステップS95は、図7や図11のフローチャートに沿って実行することができる。このとき、図7のステップS23で求められる基準圧力値Xprailは、レール圧の開始値Prail_act、検出温度Tsensor、及び空打ち制御の実行回数の情報に基づいて算出される。また、図11のステップS64で求められる基準低下速度Zdp/dtは、レール圧の開始値Prail_act、検出温度Tsensor、待機時間dt経過後のレール圧Prail_act2及び空打ち制御の実行回数の情報に基づいて算出される。
本実施形態の燃料温度センサの異常診断方法によれば、燃料噴射弁13の静的リークが少ない場合であっても、レール圧Prail_actが強制的に低下させられるため、燃料の粘性の違いによるレール圧の低下速度の違いを利用した燃料温度センサの異常診断を実行することが可能になる。
なお、本実施形態についても、コモンレール10に圧力制御弁が備えられた蓄圧式燃料噴射装置に適用することができる。このとき、制御可能な流量の最小値によっては、圧力制御弁の制御手段を圧力低下制御手段として構成することできる。また、燃料噴射弁や圧力制御弁以外の圧力低下装置を燃料高圧領域に備えている場合には、それらを制御する手段を圧力低下制御手段として構成することもできる。