本発明の積層セラミックコンデンサについて、図1の概略断面図をもとに詳細に説明する。図1(a)は、本実施形態の積層セラミックコンデンサの一例を示す概略断面図であり、(b)は、内部の拡大図である。
この実施形態の積層セラミックコンデンサは、コンデンサ本体1の両端部に外部電極3が形成されている。外部電極3は、例えば、CuもしくはCuとNiの合金ペーストを焼き付けて形成されている。
コンデンサ本体1は、誘電体磁器からなる誘電体層5と内部電極層7とが交互に積層されて構成されている。図1では誘電体層5と内部電極層7との積層状態を単純化して示しているが、この実施形態の積層セラミックコンデンサは誘電体層5と内部電極層7とが数百層にも及ぶ積層体となっている。
本実施形態の積層セラミックコンデンサは、誘電体層5が、チタン酸バリウムを主成分とする主結晶粒子9と、該主結晶粒子9間に存在する粒界11とを有する焼結体からなり、粒界11にBaTiSiO化合物結晶相12を有することを特徴とする。
これにより、本実施形態の積層セラミックコンデンサでは、高温負荷寿命を高めることができる。
図2は、従来の積層セラミックコンデンサの一例を示す概略断面図であり、(b)は、内部の拡大図である。なお、図2では、積層セラミックコンデンサを構成する各部材の符号は、図1と同じ部分は、同じ符号を付している。
小型、高容量の積層セラミックコンデンサは、従来より、主成分であるチタン酸バリウ
ムに対し、誘電特性を制御するための成分であるマグネシウムおよび希土類元素等の酸化物粉末、ならびに、誘電体磁器の焼結性を高めるための成分であるSiO2を主成分とするガラス粉末が添加されて誘電体材料が調製され、これにより静電容量の温度特性や高温負荷寿命を満足するものとなっている。
ところが、誘電体磁器の焼結助剤として、SiO2を主成分とするガラス粉末を用いた場合、焼成後に、SiO2を主成分とするガラス粉末がチタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子間である粒界に非晶質相となって存在するようになる。誘電体磁器中に形成された非晶質相は、温度が高い場合に、チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子に比べて絶縁性が劣ることから、これにより積層セラミックコンデンサは誘電体層5の絶縁性が低下しやすく、その結果、積層セラミックコンデンサに対する信頼性試験の一つである高温負荷寿命を満足させることが困難となっている。このことは、誘電体層5が薄層化されるほど顕著なものとなる。
これに対して、本実施形態の積層セラミックコンデンサは、誘電体層5中のチタン酸バリウムを主成分とする主結晶粒子間に形成された粒界11にBaTiSiO化合物結晶相12を有している。
BaTiSiO化合物結晶相12は、Ba:Ti:Siのモル比が、1:1.2〜1.3:9.0〜10.0となっている化合物である。この場合、酸素量xは、Baの原子価(+2)、Tiの原子価(+4)およびSiの原子価(+4)を合計した価数に対応する値に近似したものとなっている。なお、本実施形態では、金属元素として、Ba、TiおよびSiを含む化合物を便宜上BaTiSiO化合物結晶相と表している。
また、BaTiSiO化合物結晶相12は結晶質であり、チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子の粒界である三重点粒界付近に存在しており、そのサイズは最大径が50nm以下であり、チタン酸バリウムを主成分とする主結晶粒子のサイズに比較して著しく小さい。なお、BaTiSiO化合物結晶相12の存在、BaTiSiO化合物結晶相12が結晶相であるか非晶質であるかの判定は、走査型電子顕微鏡観察または透過電子顕微鏡観察における高解像度の画像解析および走査型電子顕微鏡または透過電子顕微鏡に付設された解析装置から得られたBaTiSiO化合物結晶相12の電子線解析データにより行う。また、BaTiSiO化合物結晶相12の組成は、走査型電子顕微鏡または透過電子顕微鏡に付設のX線マイクロアナライザにより求める。
なお、本実施形態の積層セラミックコンデンサでは、BaTiSiO化合物結晶相12は粒界11または三重点粒界においてBaTiSiO化合物結晶相12の輪郭部分を除いて結晶質となっている。
本実施形態の積層セラミックコンデンサでは、チタン酸バリウムを主成分とする主結晶粒子間に存在する粒界に結晶質であるBaTiSiO化合物結晶相12を存在させることによりSiO2を主成分とする非晶質相の割合が減少し、これにより積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層5の絶縁性が高まり、その結果、高温負荷寿命を向上させることができる。
ところで、誘電体層5となる焼結体を構成する主結晶粒子9としては、所望とする誘電特性に応じて、チタン酸バリウム(BaTiO3)、バリウムサイトにカルシウムまたはストロンチウムなどのアルカリ土類元素を固溶させたBa1−xCaxTiO3(x=0.01〜0.1)またはBa1−xSrxTiO3(x=0.01〜0.1)、あるいはバリウムサイトにカルシウムを固溶させるとともに、チタンサイトにジルコニウムを固溶させたBa1−xCaxTi1−yZryO3(x=0.01〜0.1、y=0.05〜
0.5)を用いることができる。特に、高温負荷寿命を高められることに加えて、室温を中心とする広い温度範囲で静電容量の温度変化率を比較的小さくできるという理由から、BaTiO3が好適である。
また、本実施形態の積層セラミックコンデンサでは、誘電体層5を構成する焼結体が、チタン酸バリウムに、少なくともバナジウム(V)と、マグネシウム(Mg)と、イットリウム、ジスプロシウム、ホルミウムおよびイッテルビウムから選ばれる少なくとも1種の希土類元素(RE)と、マンガンと、およびリチウム(Li)とを含有するものであることが望ましい。誘電体層5を構成する焼結体が、チタン酸バリウムに、少なくともバナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、希土類元素(RE)、マンガンおよびリチウム(Li)を含有するものであると、誘電体層5を構成する焼結体の密度を高められるとともに、積層セラミックコンデンサのキュリー温度を室温に近い適正な温度範囲に制御することができ、これにより静電容量の温度特性を安定化させることが可能になる。
例えば、誘電体層5を構成する焼結体が、チタン酸バリウム100モルに対して、バナジウムをV2O5換算で0.03〜0.08モル、マグネシウムをMgO換算で0.9〜1.1モル、イットリウム、ジスプロシウム、ホルミウムおよびイッテルビウムから選ばれる少なくとも1種の希土類元素(RE)をRE2O3換算で0.4〜0.6モルおよびマンガンをMnO換算で0.2〜0.3モル含有するとともに、誘電体層5の平均厚みが0.5〜1.0μm、内部電極層7の平均厚みが0.4〜0.8μmであるものを用いると、積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層5の室温における比誘電率が3000以上であり、静電容量の温度特性がEIA規格のX5R特性(−55〜85℃の温度範囲において、25℃を基準にしたときの静電容量の変化率が±15%以内を示すもの)を満足するとともに、170℃、10Vの条件での高温負荷寿命を7時間以上に高めることができ、かつ積層セラミックコンデンサの単位体積当たりの静電容量を29μF/mm3以上に高めることができる。この場合、単位体積当たりの静電容量は、測定した静電容量の値をコンデンサ本体1の静電容量を発現する部分の体積で除して求める。ここで、コンデンサ本体1の静電容量を発現する部分の体積は、コンデンサ本体1中の内部電極層7の有効面積と、コンデンサ本体1における最上層の内部電極層7から最下層の内部電極層7までの厚みとを乗じた値であり、また、有効面積とは、コンデンサ本体1の異なる端面にそれぞれ露出するように積層方向に交互に形成された内部電極層7同士の重なる部分の面積のことである。
また、本実施形態の積層セラミックコンデンサでは、上記の室温における比誘電率、静電容量の温度特性、高温負荷寿命および単位体積当たりの静電容量の各特性を満足できるという点で、誘電体層5を構成するチタン酸バリウムを主成分とする主結晶粒子9の平均粒径が0.15〜0.25μmであることが望ましい。
ここで、主結晶粒子9の平均粒径は、以下の手順で測定する。まず、焼成後のコンデンサ本体1である試料の破断面を研磨する。この後、研磨した試料を走査型電子顕微鏡を用いて内部組織の写真を撮り、その写真上で結晶粒子が50〜100個入る円を描き、円内および円周にかかった結晶粒子を選択する。次いで、各結晶粒子の輪郭を画像処理して、各結晶粒子の面積を求め、同じ面積をもつ円に置き換えたときの直径を算出し、その平均値より求める。
また、誘電体層5の平均厚みは、以下のようにして測定する。まず、積層セラミックコンデンサを内部電極層7が複数積層されている方向を見ることができるように研磨し、断面を露出させる。次に、走査型電子顕微鏡観察により、その積層方向の中央部の誘電体層5を5層選択する。次に、走査型電子顕微鏡に映し出された画像を観察しながら、選択した誘電体層5を内部電極層7の両端間を面方向におおよその間隔で10等分し、その等分
した箇所(両端を含め11箇所)のうち両端を除いた9箇所について誘電体層5の厚みを測定する。この測定を他の4層の誘電体層5についても同様に適用し、測定した厚みの値から平均値を求めることにより、誘電体層5の平均厚みを求める。
内部電極層7の平均厚みは、上記誘電体層5の平均厚みの測定の場合を内部電極層7に置き換えた測定を行って求める。
また、誘電体磁器の組成は、積層セラミックコンデンサを酸に溶解させた溶液をICP(Inductively Coupled Plasma)分析および原子吸光分析を用いて求められる。この場合、各元素の価数を周期表に示される価数として酸素量を求める。
また、誘電体層5を構成する焼結体として、チタン酸バリウム100モルに対して、バナジウムをV2O5換算で0.03〜0.08モル、マグネシウムをMgO換算で0.9〜1.1モル、イットリウム、ジスプロシウム、ホルミウムおよびイッテルビウムから選ばれる少なくとも1種の希土類元素(RE)をRE2O3換算で0.4〜0.6モルおよびマンガンをMnO換算で0.2〜0.3モル含有するとともに、誘電体層5の平均厚みが0.5〜1.0μm、内部電極層7の平均厚みが0.4〜0.8μmであるものを用いる場合、誘電体層5と内部電極層7とが交互に積層され、静電容量の発現に寄与する部分の断面における100μm×100μmの領域において、積層方向をY方向とし、積層方向に垂直な方向をX方向としたとき、X方向およびY方向にそれぞれ等間隔で20等分したときの全視野数に対して、BaTiSiO化合物結晶相12が確認された視野数の割合が17〜30%であることが望ましい。
これにより、積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層5の室温における比誘電率が3400以上であり、静電容量の温度特性がEIA規格のX5R特性を満足し、積層セラミックコンデンサの単位体積当たりの静電容量が30μF/mm3以上を有するとともに、170℃、10Vの条件での高温負荷寿命を9時間以上に高めることができる。
ここで、BaTiSiO化合物結晶相12の存在割合は、上述した分析機を備えた走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて求める。この場合、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡の画像から、コンデンサ本体1を積層方向に切断したときの静電容量の発現に寄与する部分の断面における100μm×100μmの領域を選択し、次いで、この100μm×100μmの領域をX方向およびY方向にそれぞれほぼ等間隔で20等分する。次に、分割した各領域の観察と分析を行い、BaTiSiO化合物結晶相12の有無を判定し、100μm×100μmの領域の全視野数を100%としたときに、BaTiSiO化合物結晶相12が存在している視野数の割合を求める。この場合、BaTiSiO化合物結晶相12が存在するという判定は、上述したように走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡に付設の分析機により行う。
次に、本発明の積層セラミックコンデンサを製造する方法について説明する。
まず、誘電体粉末をポリビニルブチラール樹脂などの有機樹脂やトルエンおよびアルコールなどの溶媒とともにボールミルなどを用いてセラミックスラリを調製し、次いで、セラミックスラリをドクターブレード法やダイコータ法などのシート成形法を用いて基材上にセラミックグリーンシートを形成する。セラミックグリーンシートの厚みは誘電体層5の高容量化のための薄層化、高絶縁性を維持するという点で0.8〜1.5μmが好ましい。
ところで、積層セラミックコンデンサの製造に用いる誘電体材料としては、所望とする誘電特性に応じて、チタン酸バリウム(BaTiO3、以下BT粉末という)、バリウム
サイトにカルシウムまたはストロンチウムなどのアルカリ土類元素を固溶させたBa1−xCaxTiO3(x=0.01〜0.1、以下、BCT粉末という)粉末またはBa1−xSrxTiO3(x=0.01〜0.1、以下、BST粉末という)粉末、あるいは、チタン酸バリウムのバリウムサイトにカルシウムを固溶させるとともに、チタンサイトにジルコニウムを固溶させたBa1−xCaxTi1−yZryO3(x=0.01〜0.1、y=0.05〜0.5、以下、BCTZ粉末という)粉末を用いることができる。
上述した粉末の中で、室温を中心とする広い温度範囲で静電容量の温度変化率が比較的小さい積層セラミックコンデンサを得ることができるという理由から、BT粉末が好適である。BT粉末は、Ba/Tiのモル比が1.001〜1.009であり、また、その平均粒径が0.1〜0.2μmであるものがよい。これにより誘電体層5の薄層化を容易にし、BT粉末として、後述する焼成条件により、優れた高温負荷寿命を示す積層セラミックコンデンサを得ることができる。
また、上述のBT粉末、BCT粉末、BST粉末およびBCTZ粉末のいずれか1種の粉末を含むセラミックスラリに、少なくともMgO粉末とともに、SiO2、BaO、CaOおよびLi2Oを主成分として含むガラス粉末と、微粒のSiO2粉末とリチウムを含む溶液とを添加すると、セラミックグリーンシートが焼成された誘電体層5と内部電極層7との間に、BaTiSiO化合物結晶相12を生成させることが可能になる。この場合、SiO2、BaO、CaOおよびLi2Oを主成分として含むガラス粉末の平均粒径は0.2〜0.3μmであり、これに対して、微粒のSiO2粉末の平均粒径は、微小サイズのBaTiSiO化合物結晶相12を形成し易いという理由から20〜50nmであるものがよい。
これは、セラミックスラリ中に微粒のSiO2粉末とともにリチウムを含む溶液を添加することで、SiO2、BaO、CaOおよびLi2Oを主成分として含むガラス粉末の焼結助剤としての効果がさらに高まり、誘電体層5となる焼結体の焼結性を高めることができるとともに、微小サイズのBaTiSiO化合物結晶相12を主結晶粒子間に生成させることができるからである。なお、セラミックスラリ中に少なくともリチウムを含む溶液を添加して作製したセラミックグリーンシートを用いた場合には、リチウムを含む溶液を添加せずに作製したセラミックグリーンシートを用いた場合に比較して、焼結温度を10℃以上低くすることもできる。
また、この実施形態の積層セラミックコンデンサを製造する際に用いる誘電体粉末として、チタン酸バリウム粉末に、バナジウム、マグネシウム、希土類元素(RE)、マンガンおよびSiO2を主成分とするガラス粉末などの焼結助剤を所定量添加したものを用いた場合には、高温負荷寿命とともに、高誘電率であり、EIA規格のX5R特性を満足しつつ、積層セラミックコンデンサの単位体積当たりの静電容量の高い積層セラミックコンデンサを得ることが可能になる。
例えば、純度が99.9%以上、Ba/Tiのモル比が1.001〜1.009であり、平均粒径が0.1〜0.2μmであるBT粉末に、V2O5粉末と、MgO粉末と、Y2O3粉末、Dy2O3粉末、Ho2O3粉末およびYb2O3粉末から選ばれる少なくとも1種の希土類元素(RE)の酸化物粉末と、およびマンガンを含む粉末(ここでは、MnCO3粉末を用いる)とを添加する。この場合、その組成は、BT粉末100モルに対し、V2O5粉末を0.03〜0.08モル、MgO粉末を0.9〜1.1モル、Y2O3粉末、Dy2O3粉末、Ho2O3粉末、およびYb2O3粉末から選ばれる少なくとも1種の希土類元素(RE)の酸化物粉末を0.4〜0.6モルおよびマンガンを含む粉末を0.2〜0.3モルの割合で配合することが望ましい。
続いて、上述した範囲で、V2O5粉末、MgO粉末、希土類元素(RE)の酸化物粉末およびマンガンを含む粉末を添加したBT粉末に対し、SiO2を主成分とするガラス粉末と、平均粒径が20〜50nmのSiO2粉末と、リチウムを含む溶液とを添加し、これに有機バインダと溶媒とを加え混合してセラミックスラリを調製する。
用いるガラス粉末は、SiO2、BaO、CaOおよびLi2Oを主成分として含むものであり、その組成は、SiO2を1モルとしたときに、BaOを0.15〜0.70モル、CaOを0.15〜0.70モルおよびLi2Oを0.05〜0.45モル含むものを用いることが好ましい。微粒のSiO2粉末を添加する割合は、モル比でガラス粉末中に含まれるSiO2と同等であることが好ましい。
また、リチウムを含む溶液としては、Li成分をLi2Oとして0.05〜1質量%含む水溶液を用いるのがよく、焼結助剤としての組成は、SiO2を1モルとしたときに、0.3〜0.9モルであることが好ましい。
このように、ガラス成分として、SiO2、BaO、CaOおよびLi2Oを主成分として含むガラス粉末とともに、微粒のSiO2粉末とリチウムを含む溶液とを添加する。これによりセラミックグリーンシートが焼成された誘電体層5のチタン酸バリウムを主成分とする主結晶粒子間の粒界11にBaTiSiO化合物結晶相12を生成させることが可能になる。
この場合、セラミックスラリ中に含まれるSiO2の全モル数をM1とし、Li2Oのモル数をM2としたときの比M2/M1が0.83〜1.08であることが望ましい。これにより、積層セラミックコンデンサの静電容量の発現に寄与する部分の断面における100μm×100μmの領域において、積層方向をY方向とし、積層方向に垂直な方向をX方向としたとき、X方向およびY方向にそれぞれ等間隔で20等分したときの全視野数に対して、BaTiSiO化合物結晶相12が確認された割合が17〜30%となり、これにより、室温における比誘電率が3400以上であり、静電容量の温度特性がEIA規格のX5R特性を満足し、積層セラミックコンデンサの単位体積当たりの静電容量が30μF/mm3以上を有するとともに、170℃、10Vの条件での高温負荷寿命を9時間以上という特性を有する積層セラミックコンデンサを得ることができる。
なお、これらの原料試薬の純度は、得られる誘電体層5となる焼結体への不純物の混入を抑制し、高い誘電特性を得るという理由からいずれも99.5%以上であるのがよい。
次に、得られたセラミックグリーンシートの主面上に矩形状の内部電極パターンを印刷して形成する。内部電極パターンとなる導体ペーストは、Niもしくはこれらの合金粉末を主成分金属とし、これに共材としてのセラミック粉末(この場合、BT粉末またはセラミックグリーンシートに用いた誘電体粉末を用いる)を混合し、有機バインダ、溶剤および分散剤を添加して調製する。また、セラミックグリーンシート上の内部電極パターンによる段差を解消するために、内部電極パターンの周囲にセラミックパターンを内部電極パターンと実質的に同一厚みで形成することが好ましい。この場合、セラミックパターンを構成するセラミック成分は、同時焼成での焼成収縮を同じにするという点でセラミックグリーンシートに用いた誘電体粉末を用いることが好ましい。
次に、内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを所望枚数重ねて、その上下に内部電極パターンを形成していないセラミックグリーンシートを複数枚、上下層が同じ枚数になるように重ねて仮積層体を形成する。仮積層体中における内部電極パターンは長寸方向に半パターンずつずらしてある。このような積層工法により切断後の積層体の端面に内部電極パターンが交互に露出されるように形成できる。
なお、本実施形態の積層セラミックコンデンサは、セラミックグリーンシートの主面に内部電極パターンを予め形成した後に積層する工法の他に、セラミックグリーンシートを一旦下層側の機材に密着させた後に、内部電極パターンを印刷し、乾燥させ、印刷、乾燥された内部電極パターン上に、内部電極パターンを印刷していないセラミックグリーンシートを重ねて仮密着させ、セラミックグリーンシートの密着と内部電極パターンの印刷を逐次行う工法によっても形成できる。
次に、仮積層体を上記仮積層時の温度圧力よりも高温、高圧の条件にてプレスを行い、セラミックグリーンシートと内部電極パターンとが強固に密着された積層体を形成する。
次に、積層体を格子状に切断することにより内部電極パターンの端部が露出するコンデンサ本体成形体を形成する。
次に、コンデンサ本体成形体を、所定の雰囲気下、温度条件で焼成してコンデンサ本体1を形成する。場合によっては、コンデンサ本体1の稜線部分の面取りを行うとともに、コンデンサ本体1の対向する端面から露出する内部電極層7を露出させるためにバレル研磨を施しても良い。
次に、得られたコンデンサ本体成形体を脱脂した後、焼成する。焼成は、昇温速度を1000〜2400℃/hとし、最高温度を1030〜1230℃、保持時間を0.1〜4時間とし、水素−窒素の雰囲気中にて行うことが望ましい。この後、900〜1100℃の温度範囲で再酸化処理を行うことによってコンデンサ本体1を得る。焼成をこのような条件で行うことにより、誘電体層5と内部電極層7との間に、BaTiSiO化合物結晶相12を有する焼結体からなる誘電体層5を有するコンデンサ本体1を得ることができる。
次に、このコンデンサ本体1の対向する端部に、外部電極ペーストを塗布して焼付けを行い外部電極3を形成する。また、場合によっては、この外部電極3の表面に実装性を高めるためにメッキ膜を形成する。こうして本実施形態の積層セラミックコンデンサが得られる。
まず、原料粉末として、純度が99.9%、平均粒径が0.2μm、Ba/Tiのモル比が1.005のBT粉末を準備した。
次に、ボールミル中において、BT粉末100モルに対して、V2O5粉末と、MgO粉末と、Y2O3粉末、Dy2O3粉末、Ho2O3粉末、Yb2O3粉末およびTb2O3粉末から選ばれる少なくとも1種の希土類元素(RE)の酸化物粉末と、MnCO3粉末と、平均粒径が0.3μmのガラス粉末、平均粒径が30nmのSiO2粉末およびリチウム溶液(Li2Oを0.1質量%を含む水溶液)とを、表1に示す割合になるように添加混合した。次いで、これにポリビニルブチラール樹脂と、トルエンおよびアルコールの混合溶媒中に投入し、直径1mmのジルコニアボールを用いて湿式混合してセラミックスラリを調製し、ドクターブレード法により厚み0.6〜2.5μmのセラミックグリーンシートを作製した。
次に、このセラミックグリーンシートの上面にNiを主成分とする導体ペーストを矩形状の内部電極パターンとなるように複数形成した。内部電極パターンを形成するための導体ペーストは、平均粒径が0.2μmのNi粉末100質量部に対してBT粉末を添加したものを用いた。
次に、内部電極パターンを印刷したセラミックグリーンシートを200枚積層し、その上下面に内部電極パターンを印刷していないセラミックグリーンシートをそれぞれ20枚積層し、プレス機を用いて温度60℃、圧力107Pa、時間10分の条件で密着させて積層体を作製し、しかる後、この積層体を、所定の寸法に切断してコンデンサ本体成形体を形成した。
次に、コンデンサ本体成形体を大気中で脱バインダ処理した後、水素−窒素中、1150で焼成してコンデンサ本体を作製した。この焼成では、ローラーハースキルンを用いて、2000℃/hrの昇温速度の条件で焼成を行った。なお、焼結助剤として、Liを含む溶液を用いなかった試料No.5は、1150℃では他の試料と同等の密度にまで至らなかったため、焼成温度を1170℃とした。
作製したコンデンサ本体は、続いて、窒素雰囲気中1000℃で4時間再酸化処理を行った。このコンデンサ本体の大きさは0.6mm×0.3mm×0.3mm、内部電極層の1層の有効面積は設計値で0.125mm2になるようにした。
次に、コンデンサ本体をバレル研磨した後、コンデンサ本体の両端部にCu粉末とガラスとを含んだ外部電極ペーストを塗布し、850℃で焼き付けを行って外部電極を形成した。その後、電解バレル機を用いて、この外部電極の表面に、順にNiメッキ及びSnメッキを行い、積層セラミックコンデンサを作製した。
次に、これらの積層セラミックコンデンサについて以下の評価を行った。高温負荷試験は、温度170℃、直流電圧10Vとし、試料である積層セラミックコンデンサの抵抗が106Ωを下回ったときの時間を測定した。この場合、温度170℃、直流電圧10Vで4時間以上であれば、X5R特性の上限温度である85℃で、定格電圧の1.5倍の電圧の条件で1000時間以上を満足するものとなる。試料数は20個とした。
室温(25℃)における比誘電率は静電容量をLCRメータ(ヒューレットパッカード社製)を用いて、温度25℃、周波数1.0kHz、AC電圧を1.0Vrmsとして測定し、誘電体層の厚みと内部電極層の有効面積から求めた。なお、有効面積とは、コンデンサ本体の異なる端面にそれぞれ露出するように積層方向に交互に形成された内部電極層同士の重なる部分の面積のことである。
また、静電容量の温度特性は静電容量を温度−55〜85℃の範囲で測定し、25℃での静電容量を基準にしたときの85℃における静電容量の変化率を求めた。
また、測定した静電容量の値をコンデンサ本体の静電容量Cを発現する部分の体積Vで除して、単位体積当たりの静電容量(C/V)を求めた。なお、コンデンサ本体の静電容量を発現する部分の体積Vは、コンデンサ本体において、誘電体層を挟んで内部電極層が重なっている領域を面積Aとし、また、積層方向の最上層の内部電極層から最下層の内部電極層までの厚みを長さLとしたときに、A×Lで表される値である。ここで比誘電率、静電容量の温度特性および単位体積当たりの静電容量(C/V)を求めるときの試料数は各50個とした。
BaTiSiO化合物結晶相は、透過型電子顕微鏡に備えられている分析機(エネルギー分散型X線マイクロアナライザ(EDX)を用いて同定した。この場合、BaTiSiO化合物結晶相の結晶相としての判定は、透過電子顕微鏡観察画像と透過電子顕微鏡に付設の電子線解析データから判定した。なお、作製した試料では、試料No.5を除いて、誘電体層中にBaTiSiO化合物結晶相が認められ、その最大径はいずれも50nm以
下であった。BaTiSiO化合物結晶相は、粒界または三重点粒界においてBaTiSiO化合物結晶相12の輪郭部分を除いて結晶質となっていた。
また、BaTiSiO化合物結晶相の存在割合は、上述した分析機を備えた透過型電子顕微鏡を用いて求めた。具体的には、まず、透過型電子顕微鏡の画像からコンデンサ本体を積層方向に切断したときの断面の誘電体層と内部電極層とが交互に積層され、静電容量の発現に寄与する部分の100μm×100μmの領域を選択し、次いで、コンデンサ本体の積層方向をY方向とし、積層方向に垂直な方向をX方向としたとき、100μm×100μmの領域をX方向およびY方向にそれぞれ等間隔で20等分し、次に、等間隔で分割した各領域の観察と分析を行って、BaTiSiO化合物結晶相の有無を判定し、100μm×100μmの領域の全視野数に対して、BaTiSiO化合物結晶相が存在している視野数の割合を求めた。
また誘電体層を構成する主結晶粒子の平均粒径は、焼成後のコンデンサ本体である試料の破断面を研磨した後、走査型電子顕微鏡を用いて内部組織の写真を撮り、その写真上で結晶粒子が30個入る円を描き、円内および円周にかかった結晶粒子を選択し、各結晶粒子の輪郭を画像処理し、各粒子の面積を求め、同じ面積を持つ円に置き換えたときの直径を算出し、その平均値より求めた。測定した結果、作製した試料である積層セラミックコンデンサは、誘電体層を構成するチタン酸バリウムを主成分とする主結晶粒子の平均粒径がいずれも0.20〜0.23μmの範囲の値を示した。
また、誘電体層の平均厚みは、以下のようにして求めた。まず、積層セラミックコンデンサを内部電極層が複数積層されている方向を見ることができるように研磨し、断面を露出させた。次に、走査型電子顕微鏡観察により、その積層方向の中央部の誘電体層を5層選択した。次に、走査型電子顕微鏡に映し出された画像を観察しながら、選択した誘電体層を内部電極層の両端間を面方向におおよそ10等分し、その等分した箇所のうち両端を除いた9箇所について誘電体層の厚みを測定し、この測定を他の4層の誘電体層についても同様に適用して測定した。測定した厚みの値から平均値を求めることにより、誘電体層5の平均厚みを求めた。
内部電極層の平均厚みは、上記誘電体層の平均厚みの測定の場合を内部電極層7に置き換えた測定を行って求めた。
また、得られた試料の組成分析はICP(inductively Coupled Plasma)分析および原子吸光分析により行った。この場合、得られた積層セラミックコンデンサから外部電極を取り除きコンデンサ本体の状態にしたものを硼酸と炭酸ナトリウムと混合し、溶融させ、これを塩酸に溶解させて、まず、原子吸光分析により誘電体層に含まれる元素の定性分析を行った。次に、特定した各元素について標準液を希釈したものを標準試料として、ICP発光分光分析にかけて定量化した。また、各元素の価数を周期表に示される価数として酸素量を求めた。なお、得られた積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層に含まれる各成分(V2O5、希土類元素の酸化物(RE2O3)、MgOおよびMnO(MnCO3は焼結体中ではCO2が除かれたものとなる))の組成は表1に示した組成と一致した。
なお、BaTiSiO化合物結晶相の存在割合、誘電体層を構成する主結晶粒子の平均粒径、誘電体層の平均厚みおよび内部電極層の平均厚みは、各1個の試料を用いて求めた。
調合組成および焼成条件を表1に、誘電体層の平均厚み、内部電極層の平均厚み、得られた積層セラミックコンデンサの誘電体層中に存在するBaTiSiO化合物結晶相の存
在割合および誘電特性(高温負荷寿命、比誘電率、静電容量の温度特性および単位体積当たりの静電容量)の結果を表2にそれぞれ示す。
表1、2の結果から明らかなように、本発明の試料No.1〜4および6〜39では、積層セラミックコンデンサを170℃、10Vの条件で処理したときの高温負荷寿命を4時間以上にできた。
また、誘電体層を構成する焼結体が、チタン酸バリウム100モルに対して、バナジウムをV2O5換算で0.03〜0.08モル、マグネシウムをMgO換算で0.9〜1.1モル、イットリウム、ジスプロシウム、ホルミウムおよびイッテルビウムから選ばれる少なくとも1種の希土類元素(RE)をRE2O3換算で0.4〜0.6モルおよびマンガンをMnO換算で0.2〜0.3モル含有し、その平均厚みが0.5〜1.0μmであるとともに、内部電極層7の平均厚みが0.4〜0.8μmである試料No.1〜4、6、13〜23、26、27、29、30、33、34および36〜39では、室温における比誘電率が3000以上であり、静電容量の温度特性がEIA規格のX5R特性を満足するとともに、170℃、10Vの条件での高温負荷寿命を7時間以上に高めることができ、かつ積層セラミックコンデンサの単位体積当たりの静電容量が29μF/mm3以上であった。
さらに、BaTiSiO化合物結晶相の存在割合が、誘電体層と内部電極層とが交互に積層され、静電容量の発現に寄与する部分の断面における100μm×100μmの領域において、積層方向をY方向とし、積層方向に垂直な方向をX方向としたとき、X方向およびY方向にそれぞれ等間隔で20等分したときの全視野数に対して、BaTiSiO化合物結晶相が確認された視野数の割合が17〜30%である試料No.1〜3、13〜23、26、27、29、30、33、34および36〜39では、比誘電率が3400以上であり、静電容量の温度特性がEIA規格のX5R特性を満足し、積層セラミックコンデンサの単位体積当たりの静電容量が30μF/mm3以上を有するとともに、170℃、10Vの条件での高温負荷寿命が9時間以上であった。
これに対し、誘電体層と内部電極層7との間に、BaTiSiO化合物結晶相を有しない試料No.5では、積層セラミックコンデンサを170℃、10Vの条件で処理したときの高温負荷寿命が2時間であった。