JP5522317B2 - 隅肉アーク溶接継手及びその形成方法 - Google Patents
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Description
本発明は、隅肉アーク溶接継手及びその形成方法に関し、特に、複数の金属部材を隅肉アーク溶接するために用いて好適なものである。
例えば、自動車分野では、環境保全のため、車体の軽量化による燃費の向上とともに、衝突安全性の向上が求められている。そのため、高強度鋼板を使用して薄肉化するとともに、車体構造を最適化して、車体の軽量化と衝突安全性の向上を図ることが、これまで、種々、なされてきた。
車体の軽量化を図る高強度鋼板には疲労強度も求められる。通常、母材の疲労強度は鋼板強度に比例して増加するが、溶接継手の疲労強度は、鋼板強度が増加しても殆ど増加しないことが知られている。このことが、高強度薄鋼板の使用による車体の軽量化を阻害する。
特に、サスペンションアームやサブフレームなどの足回り部材は、溶接部の疲労強度が問題となるので、軽量化が困難である。これらの足回り部材の溶接には、通常、隅肉アーク溶接が用いられるので、隅肉アーク溶接継手の疲労強度を高めることが課題となる。以下では、「隅肉アーク溶接継手」を必要に応じて「隅肉溶接継手」と記載する。
特に、サスペンションアームやサブフレームなどの足回り部材は、溶接部の疲労強度が問題となるので、軽量化が困難である。これらの足回り部材の溶接には、通常、隅肉アーク溶接が用いられるので、隅肉アーク溶接継手の疲労強度を高めることが課題となる。以下では、「隅肉アーク溶接継手」を必要に応じて「隅肉溶接継手」と記載する。
このような課題に対し、特許文献1には、重ね隅肉溶接継手の疲労強度は止端部の曲率半径と関係があり、その曲率半径は、溶接金属の化学成分に依存するとの知見に基づいて、溶接金属の化学成分を最適化して止端部の曲率半径を大きくして、応力集中を低減して疲労強度を向上させる手法が開示されている。
しかし、特許文献1に開示の手法に、ルート部への応力集中を低減する効果はない。また、止端部への応力集中が低減すると、相対的に、ルート部への応力集中が顕在化し、ルート部を起点として疲労破壊が発生する恐れがある。
しかし、特許文献1に開示の手法に、ルート部への応力集中を低減する効果はない。また、止端部への応力集中が低減すると、相対的に、ルート部への応力集中が顕在化し、ルート部を起点として疲労破壊が発生する恐れがある。
特許文献2には、鋼板の一面に他方の鋼板の端面を突き合わせ、突合せ部分の両側に隅肉ビードを形成し、さらに、この溶接ビードを延長する溶接ビード構造が開示されている。
特許文献2に開示の溶接ビード構造は、止端部を、他の鋼板の端部から遠ざけることによって止端部への応力集中を緩和するものである。しかし、ルート部への応力集中を低減する効果はないうえ、重ね隅肉溶接継手には、止端部の応力集中低減効果もほとんどなく、疲労破壊の発生を効果的に抑制することはできない。
特許文献2に開示の溶接ビード構造は、止端部を、他の鋼板の端部から遠ざけることによって止端部への応力集中を緩和するものである。しかし、ルート部への応力集中を低減する効果はないうえ、重ね隅肉溶接継手には、止端部の応力集中低減効果もほとんどなく、疲労破壊の発生を効果的に抑制することはできない。
また、特許文献3では、リブ板の角回し溶接において、主板とリブ板との隅肉溶接を行った後、室温まで冷却してから、リブ板の端部に「リブ板厚+2×隅肉溶接脚長」よりも「2×隅肉溶接脚長」以上長くなるように直線溶接を配置することによって、溶接部の残留応力及び応力集中を低減し疲労強度を高める技術が提案されている。
しかし、特許文献3に記載の技術は対象とする鋼材が15〜25mmの厚板を対象としており、自動車の足回り部材などで用いられる3.6mm以下程度の薄鋼板の溶接部に適用することはできない。すなわち、薄板のT字継手では、溶接能率の観点から立板(リブ板に相当する板)を両側から隅肉溶接することはほとんどない。また、回し溶接のように薄板の端部の溶接を行うと、溶接時の入熱で立板溶接部の端部が溶け落ち、アンダーカット欠陥が発生してしまう。
さらに、特許文献3における課題である溶接部の残留応力に対して、厚板の溶接部では、母材自身の拘束により溶接部の残留応力が高まる。これに対し、薄板の溶接では、板が容易に面外に変形できるため残留応力は比較的小さくなる。一方で、薄板の溶接部材では面外変形が容易なため、引っ張りの荷重が入力されると溶接部がねじれ、溶接止端部のみならずルート部の応力集中が高まることがあり、これら両者から発生するき裂を抑制する技術を考案する必要がある。
以上のように、重ね隅肉溶接継手や、片側隅肉アーク溶接継手などの継手形式において、ルート部の開口が起きるような荷重が負荷される時、応力集中の度合いは、止端部よりルート部の方が大きくなることがある。しかし、ルート部への応力集中を低減し、ルート部を起点とする疲労破壊の発生を効果的に抑制する手法は提案されていない。
本発明は、上記実情に鑑み、金属部材の隅肉アーク溶接継手において、止端部及びルート部の一方又は双方を起点とする疲労破壊の発生を抑制することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決する手法について鋭意研究した。その結果、金属部材と金属部材を隅肉アーク溶接した溶接継手において、隅肉ビードを起点として、隅肉ビードとは別のビードを、該隅肉ビードと同一面内で所要の角度をもって、少なくとも一方の金属部材の表面に少なくとも一つ形成すると、溶接継手の疲労強度が顕著に向上することが判明した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下の通りである。
本発明の隅肉アーク溶接継手では、
金属部材と金属部材とを隅肉アーク溶接して形成した隅肉アーク溶接継手であって、
前記隅肉アーク溶接によって形成された隅肉ビードとは別に、アーク溶接によって形成された補剛用ビードが少なくとも一方の金属部材の表面に少なくとも一つ形成されており、
前記補剛用ビードは、前記隅肉ビードと角度45〜135°をもって、かつ、前記隅肉ビードと重なるように形成されているとともに、下記(a1)、(b)、および(c)の条件を満たすように形成されていることを特徴とする。
(a1) 補剛用ビードの長さの総和l≧L×0.5
(b) 補剛用ビードの高さh≧t/2
(c) 補剛用ビードの幅w≧2.5t
L:隅肉ビードの長さ(mm)
t:補剛用ビードを形成する金属部材の厚さ(mm)
本発明の隅肉アーク溶接継手では、
金属部材と金属部材とを隅肉アーク溶接して形成した隅肉アーク溶接継手であって、
前記隅肉アーク溶接によって形成された隅肉ビードとは別に、アーク溶接によって形成された補剛用ビードが少なくとも一方の金属部材の表面に少なくとも一つ形成されており、
前記補剛用ビードは、前記隅肉ビードと角度45〜135°をもって、かつ、前記隅肉ビードと重なるように形成されているとともに、下記(a1)、(b)、および(c)の条件を満たすように形成されていることを特徴とする。
(a1) 補剛用ビードの長さの総和l≧L×0.5
(b) 補剛用ビードの高さh≧t/2
(c) 補剛用ビードの幅w≧2.5t
L:隅肉ビードの長さ(mm)
t:補剛用ビードを形成する金属部材の厚さ(mm)
また、本発明の隅肉アーク溶接継手の他の例では、
金属部材と金属部材とを隅肉アーク溶接することにより形成された隅肉アーク溶接継手であって、
前記隅肉アーク溶接によって形成された隅肉ビードとは別に、アーク溶接によって形成された補剛用ビードが少なくとも一方の金属部材の表面に少なくとも一つ形成されており、
前記補剛用ビードは、前記隅肉ビードの始端および終端の少なくとも何れか一方の位置から、前記隅肉ビードが形成されている方向に沿って、前記隅肉ビードの長さの1/4の長さだけ離れた位置までの範囲内に、前記隅肉ビードと角度45〜135°をもって、かつ、前記隅肉ビードと重なるように形成されているとともに、下記(a2)、(b)、および(c)の条件を満たすように形成されていることを特徴とする隅肉アーク溶接継手。
(a2) 1つの補剛用ビードの長さl≧max{2×Wf,D}
(b) 補剛用ビードの高さh≧t/2
(c) 補剛用ビードの幅w≧2.5t
Wf:隅肉ビードの幅(mm)
D:補剛用ビードと隅肉ビードの始端および終端の位置のうち当該補剛用ビードに近い方の端との間の距離(mm)
max{2×Wf,D}:2×WfおよびDのうち大きい方の値
L:隅肉ビードの長さ(mm)
t:補剛用ビードを形成する金属部材の厚さ(mm)
金属部材と金属部材とを隅肉アーク溶接することにより形成された隅肉アーク溶接継手であって、
前記隅肉アーク溶接によって形成された隅肉ビードとは別に、アーク溶接によって形成された補剛用ビードが少なくとも一方の金属部材の表面に少なくとも一つ形成されており、
前記補剛用ビードは、前記隅肉ビードの始端および終端の少なくとも何れか一方の位置から、前記隅肉ビードが形成されている方向に沿って、前記隅肉ビードの長さの1/4の長さだけ離れた位置までの範囲内に、前記隅肉ビードと角度45〜135°をもって、かつ、前記隅肉ビードと重なるように形成されているとともに、下記(a2)、(b)、および(c)の条件を満たすように形成されていることを特徴とする隅肉アーク溶接継手。
(a2) 1つの補剛用ビードの長さl≧max{2×Wf,D}
(b) 補剛用ビードの高さh≧t/2
(c) 補剛用ビードの幅w≧2.5t
Wf:隅肉ビードの幅(mm)
D:補剛用ビードと隅肉ビードの始端および終端の位置のうち当該補剛用ビードに近い方の端との間の距離(mm)
max{2×Wf,D}:2×WfおよびDのうち大きい方の値
L:隅肉ビードの長さ(mm)
t:補剛用ビードを形成する金属部材の厚さ(mm)
また、肉ビードに対して形成される前記補剛用ビードの数nが、下記の(d)の条件を満たすようにしてもよい。
(d) L/n≦50t
L:隅肉ビードのビード長さ(mm)
t:補剛用ビードを形成する金属部材の厚さ(mm)
(d) L/n≦50t
L:隅肉ビードのビード長さ(mm)
t:補剛用ビードを形成する金属部材の厚さ(mm)
また、前記補剛用ビードが前記隅肉ビードを起点として一方の金属部材の表面に形成されるようにしてもよい。
また、前記補剛用ビードが前記隅肉ビードを横切って両方の金属部材の表面に形成されるようにしてもよい。
また、前記補剛用ビードが前記隅肉ビードを横切って両方の金属部材の表面に形成されるようにしてもよい。
また、前記溶接継手を、金属部材と金属部材を重ねて隅肉アーク溶接して形成した溶接継手にしてもよい。
また、隅肉アーク溶接継手の第1の態様および第2の態様では、
前記溶接継手を、金属部材の端部を金属部材の面に載置して隅肉アーク溶接して形成した溶接継手にしてもよい。
また、隅肉アーク溶接継手の第1の態様および第2の態様では、
前記溶接継手を、金属部材の端部を金属部材の面に載置して隅肉アーク溶接して形成した溶接継手にしてもよい。
また、隅肉アーク溶接継手の形成方法では、
金属部材と金属部材とを隅肉アーク溶接して溶接継手を形成する隅肉アーク溶接継手の形成方法であって、
前記隅肉アーク溶接により隅肉ビードを形成するとともに、当該隅肉アーク溶接とは別のアーク溶接によって補剛用ビードを少なくとも一方の金属部材の表面に少なくとも一つ形成するに際し、
前記補剛用ビードを、前記隅肉ビードと角度45〜135°をもって、かつ、前記隅肉ビードと重なるように形成するとともに、下記(a1)、(b)、および(c)の条件を満たすように形成することを特徴とする。
(a1) 補剛用ビードの長さの総和l≧L×0.5
(b) 補剛用ビードの高さh≧t/2
(c) 補剛用ビードの幅w≧2.5t
L:隅肉ビードの長さ(mm)
t:補剛用ビードを形成する金属部材の厚さ(mm)
金属部材と金属部材とを隅肉アーク溶接して溶接継手を形成する隅肉アーク溶接継手の形成方法であって、
前記隅肉アーク溶接により隅肉ビードを形成するとともに、当該隅肉アーク溶接とは別のアーク溶接によって補剛用ビードを少なくとも一方の金属部材の表面に少なくとも一つ形成するに際し、
前記補剛用ビードを、前記隅肉ビードと角度45〜135°をもって、かつ、前記隅肉ビードと重なるように形成するとともに、下記(a1)、(b)、および(c)の条件を満たすように形成することを特徴とする。
(a1) 補剛用ビードの長さの総和l≧L×0.5
(b) 補剛用ビードの高さh≧t/2
(c) 補剛用ビードの幅w≧2.5t
L:隅肉ビードの長さ(mm)
t:補剛用ビードを形成する金属部材の厚さ(mm)
また、隅肉アーク溶接継手の形成方法の他の例では、
金属部材と金属部材とを隅肉アーク溶接して溶接継手を形成する隅肉アーク溶接継手の形成方法であって、
前記隅肉アーク溶接により隅肉ビードを形成するとともに、当該隅肉アーク溶接とは別のアーク溶接によって補剛用ビードを少なくとも一方の金属部材の表面に少なくとも一つ形成するに際し、
前記補剛用ビードを、前記隅肉ビードの始端および終端の少なくとも何れか一方の位置から、前記隅肉ビードが形成されている方向に沿って、前記隅肉ビードの長さの1/4の長さだけ離れた位置までの範囲内に、前記隅肉ビードと角度45〜135°をもって、かつ、前記隅肉ビードと重なるように形成するとともに、下記(a2)、(b)、および(c)の条件を満たすように形成することを特徴とする隅肉アーク溶接継手の形成方法。
(a2) 1つの補剛用ビードの長さl≧max{2×Wf,D}
(b) 補剛用ビードの高さh≧t/2
(c) 補剛用ビードの幅w≧2.5t
Wf:隅肉ビードの幅(mm)
D:補剛用ビードと隅肉ビードの始端および終端の位置のうち当該補剛用ビードに近い方の端との間の距離(mm)
max{2×Wf,D}:2×WfおよびDのうち大きい方の値
L:隅肉ビードの長さ(mm)
t:補剛用ビードを形成する金属部材の厚さ(mm)
金属部材と金属部材とを隅肉アーク溶接して溶接継手を形成する隅肉アーク溶接継手の形成方法であって、
前記隅肉アーク溶接により隅肉ビードを形成するとともに、当該隅肉アーク溶接とは別のアーク溶接によって補剛用ビードを少なくとも一方の金属部材の表面に少なくとも一つ形成するに際し、
前記補剛用ビードを、前記隅肉ビードの始端および終端の少なくとも何れか一方の位置から、前記隅肉ビードが形成されている方向に沿って、前記隅肉ビードの長さの1/4の長さだけ離れた位置までの範囲内に、前記隅肉ビードと角度45〜135°をもって、かつ、前記隅肉ビードと重なるように形成するとともに、下記(a2)、(b)、および(c)の条件を満たすように形成することを特徴とする隅肉アーク溶接継手の形成方法。
(a2) 1つの補剛用ビードの長さl≧max{2×Wf,D}
(b) 補剛用ビードの高さh≧t/2
(c) 補剛用ビードの幅w≧2.5t
Wf:隅肉ビードの幅(mm)
D:補剛用ビードと隅肉ビードの始端および終端の位置のうち当該補剛用ビードに近い方の端との間の距離(mm)
max{2×Wf,D}:2×WfおよびDのうち大きい方の値
L:隅肉ビードの長さ(mm)
t:補剛用ビードを形成する金属部材の厚さ(mm)
また、前記隅肉ビードに対する前記補剛用ビードの数nが、下記の(d)の条件を満たすように、複数の補剛用ビードを形成してもよい。
(d) L/n≦50t
L:隅肉ビードの長さ(mm)
t:補剛用ビードを形成する金属部材の厚さ(mm)
(d) L/n≦50t
L:隅肉ビードの長さ(mm)
t:補剛用ビードを形成する金属部材の厚さ(mm)
また、前記補剛用ビードを、前記隅肉ビードを起点として一方の金属部材の表面に形成してもよい。
また、前記補剛用ビードを、前記隅肉ビードを横切って両方の金属部材の表面に形成してもよい。
また、前記補剛用ビードを、前記隅肉ビードを横切って両方の金属部材の表面に形成してもよい。
また、前記溶接継手を、金属部材と金属部材とを重ねて隅肉アーク溶接して形成した溶接継手にしてもよい。
また、前記溶接継手を、金属部材の端部を金属部材の面に載置し隅肉アーク溶接して形成した溶接継手にしてもよい。
また、前記溶接継手を、金属部材の端部を金属部材の面に載置し隅肉アーク溶接して形成した溶接継手にしてもよい。
本発明によれば、金属部材を隅肉アーク溶接した溶接継手の止端部及びルート部の一方又は双方から発生する疲労破壊を顕著に抑制できるので、疲労特性に優れた隅肉アーク溶接継手を形成することができる。
本発明の溶接継手とその形成方法の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
[基本原理の説明]
図1に、重ね隅肉溶接継手の断面形状の一例を示す。図1に示すように、上側鋼板1の端部と下側鋼板2の表面との間の空間を、溶接ワイヤを用いてアーク溶接することで、上側鋼板1の端部と下側鋼板2の表面部とが溶融境界6まで溶融して凝固し、隅肉ビード3が形成される。なお、鋼板と溶接ワイヤとが溶融して凝固した部分を溶接金属7という。また、特に断らない限り、表面とは、鋼板の溶接ビードを形成する側の面、又は、鋼板の溶接ビードが形成されている側の面を指す。
図1に示すような、鋼板重ね部の一方の端部を隅肉アーク溶接した重ね隅肉溶接継手において、隅肉アーク溶接によって形成され隅肉ビード3に、上側鋼板1に沿って引張力F1が作用し、下側鋼板2に沿って引張力F2が作用すると、上側鋼板1の中心軸と下側鋼板2の中心軸とのずれにより、大きな曲げモーメントが発生する。
そのため、上側鋼板1は下反りし、かつ、下側鋼板2は上反りする変形モードで変形し、止端部4及びルート部5には大きな応力集中が起きる。この応力集中が原因で、疲労き裂は止端部4又はルート部5から発生する。疲労き裂は、略荷重方向に垂直に進展して溶接継手が破壊する。このことは、図1に示す重ね隅肉溶接継手に限らず、その他の隅肉溶接継手において生じるものである。なお、図1に示す例では、止端部4は、下側鋼板2と隅肉ビード3との境界を指し、ルート部5は、上側鋼板1又は下側鋼板2と、溶接金属7との境界を指す。
[基本原理の説明]
図1に、重ね隅肉溶接継手の断面形状の一例を示す。図1に示すように、上側鋼板1の端部と下側鋼板2の表面との間の空間を、溶接ワイヤを用いてアーク溶接することで、上側鋼板1の端部と下側鋼板2の表面部とが溶融境界6まで溶融して凝固し、隅肉ビード3が形成される。なお、鋼板と溶接ワイヤとが溶融して凝固した部分を溶接金属7という。また、特に断らない限り、表面とは、鋼板の溶接ビードを形成する側の面、又は、鋼板の溶接ビードが形成されている側の面を指す。
図1に示すような、鋼板重ね部の一方の端部を隅肉アーク溶接した重ね隅肉溶接継手において、隅肉アーク溶接によって形成され隅肉ビード3に、上側鋼板1に沿って引張力F1が作用し、下側鋼板2に沿って引張力F2が作用すると、上側鋼板1の中心軸と下側鋼板2の中心軸とのずれにより、大きな曲げモーメントが発生する。
そのため、上側鋼板1は下反りし、かつ、下側鋼板2は上反りする変形モードで変形し、止端部4及びルート部5には大きな応力集中が起きる。この応力集中が原因で、疲労き裂は止端部4又はルート部5から発生する。疲労き裂は、略荷重方向に垂直に進展して溶接継手が破壊する。このことは、図1に示す重ね隅肉溶接継手に限らず、その他の隅肉溶接継手において生じるものである。なお、図1に示す例では、止端部4は、下側鋼板2と隅肉ビード3との境界を指し、ルート部5は、上側鋼板1又は下側鋼板2と、溶接金属7との境界を指す。
そこでまず、隅肉アーク溶接継手の変形挙動を解析するために、板幅60mmの2枚の鋼板を、重ね代20mmで重ね、重ね部をアーク溶接して、図2に示すように、重ね部に長さが40mm強の隅肉ビードを有する試験片を作製した。この試験片に対し、引張り試験を実施した。そして、溶接継手に引張力が作用したときの試験片の変形態様を、三次元有限要素法によって解析した。なお、図2の上図は、試験片の平面図であり、図2の下図は、試験片の側面図である。図2の上図に示すG1とG2は、試験時の把持位置である。
図3に、試験片の変形態様を模式的に示す。溶接継手に引張力が作用した場合には、図3に示すように、下側鋼板2が、隅肉ビード3の近傍で大きく曲がり、ルート部5が、開口角αで大きく開口する。また、三次元有限要素法により、試験片の変形の挙動を解析した結果、ルート部5の近傍に大きな応力集中箇所が存在することが確認された。
この結果から、下側鋼板2が、隅肉ビード3の近傍で大きく曲がり、ルート部5が大きく開口していることが、ルート部5への応力集中を高め、疲労き裂の発生を引き起こす原因であると考えられる。次に、下側鋼板2の曲がりを抑制する手段について検討した。
本発明者らは、検討の結果、隅肉ビード3を起点にして、該隅肉ビード3と交差する方向にビードオン溶接を行って別のアーク溶接ビード(補剛用ビード)を形成しておけば、この補剛用ビードが、鋼板の剛性を高める部材として機能して下側鋼板2の曲がりを抑制し、疲労き裂の発生を抑制することができるのではないかと考えた。
本発明者らは、このことの有効性を確認するために、図2に示す試験片に対し、さらに、隅肉ビード3の表面を起点として、隅肉ビード3に略直角方向に溶接トーチ先端の移動距離が40mmとなるようにビードオン溶接を行って、補剛用ビード32を形成した。このようにして作製された試験片の形状を図4に示す。
次に、この試験片に対する引張り試験を実施し、試験片の変形の挙動を三次元有限要素法により解析した。
図5に、隅肉ビード3に略直角に補剛用ビード32を形成した試験片の変形態様を模式的に示す。
図5に、隅肉ビード3に略直角に補剛用ビード32を形成した試験片の変形態様を模式的に示す。
図5に示す試験片と図3に示す試験片とを比較すると、下側鋼板2の隅肉ビード3近傍での曲がりは、補剛用ビード32を形成した図5に示す試験片の方が、補剛用ビード32を形成しなかった図3に示す試験片より小さいことが解る。また、図5に示すルート部5の開口角βは、図3に示すルート部5の開口角αより小さいことが解る。
このことから、隅肉ビード3に略直角に補剛用ビード32を形成すると(図4を参照)、補剛用ビード32が鋼板の剛性を高める作用を強く発揮して、下側鋼板2の曲がりが抑制されることが確認された。
このことから、隅肉ビード3に略直角に補剛用ビード32を形成すると(図4を参照)、補剛用ビード32が鋼板の剛性を高める作用を強く発揮して、下側鋼板2の曲がりが抑制されることが確認された。
さらに、ルート部5に対する三次元有限要素法による解析の結果、図5に示すルート部5の近傍における応力集中の程度は、図3に示すルート部5の近傍における応力集中の程度より小さいことが確認された。
このような補剛用ビード32の効果をさらに確認するため、本発明者らは、補剛用ビード32の機能を定量的に解析した。
図2に示す試験片の解析モデルと、図4に示す試験片の解析モデルとを作成し、それぞれの解析モデルのルート部5における応力集中の程度を三次元有限要素法による解析にて算出した。なお、図2に示す試験片は、補剛用ビードが配置されない試験片であり、後述する実施例の表2及び表3中の試験片記号「TP2」に該当する試験片である。また、図4に示す試験片は、補剛用ビードが配置された試験片であり、表2及び表3中の試験片記号「TP10」に該当する試験片である。
図6に、補剛用ビードの効果を確認するために行った三次元有限要素法による解析時の溶接ビード近傍の要素分割の態様と、応力集中係数の比較を行った位置および座標の設定態様と、を示す。図6に示すように、座標は、ルート部5の先端を座標0とし、左方向(−方向)にとった。
図2に示す試験片の解析モデルと、図4に示す試験片の解析モデルとを作成し、それぞれの解析モデルのルート部5における応力集中の程度を三次元有限要素法による解析にて算出した。なお、図2に示す試験片は、補剛用ビードが配置されない試験片であり、後述する実施例の表2及び表3中の試験片記号「TP2」に該当する試験片である。また、図4に示す試験片は、補剛用ビードが配置された試験片であり、表2及び表3中の試験片記号「TP10」に該当する試験片である。
図6に、補剛用ビードの効果を確認するために行った三次元有限要素法による解析時の溶接ビード近傍の要素分割の態様と、応力集中係数の比較を行った位置および座標の設定態様と、を示す。図6に示すように、座標は、ルート部5の先端を座標0とし、左方向(−方向)にとった。
図7に、補剛用ビード32を配置しない場合と43mmの補剛用ビード32を配置した場合のそれぞれについて、ルート部5の先端(座標0)の近傍における上側鋼板1の裏側表面における最大の応力集中係数Ktを解析した結果を示す。以下の説明では、応力集中係数Ktは図6に示すルート部5の先端(座標0)の近傍の上側鋼板1における最大の最大主応力の値を鋼板の端部に加わる平均の引張主応力で除した値である。
補剛用ビード32がない場合、応力集中係数Ktは5.3であったが、補剛用ビード32を配置することにより応力集中係数Ktは4.3に低減した。補剛用ビード32は下側鋼板2にのみ配置したが、ルート部5に対しても応力集中係数Ktの低減効果が得られることがわかる。
このことが、ルート部5を起点とする疲労き裂の発生の抑制に大きく貢献しているといえる。
このことが、ルート部5を起点とする疲労き裂の発生の抑制に大きく貢献しているといえる。
本発明者らは、次に、鋼板の板厚と補剛用別ビード補剛用ビード32の長さとを種々変更した試験片を作成して、鋼板の板厚及び補剛用ビード32の長さと、疲労寿命(回)との関係を調査した。
調査結果の一例として、図8に、後述する条件に従って実施した疲労試験のうち、表2及び表3に示す試験片記号「TP1」から「TP15」の結果を補剛用ビードの長さと疲労寿命との関係で整理した結果を示す。
図8に示されるように、補剛用ビードの長さが20mm以上あれば、疲労寿命(回)が大幅(1.5倍以上)に向上する。
調査結果の一例として、図8に、後述する条件に従って実施した疲労試験のうち、表2及び表3に示す試験片記号「TP1」から「TP15」の結果を補剛用ビードの長さと疲労寿命との関係で整理した結果を示す。
図8に示されるように、補剛用ビードの長さが20mm以上あれば、疲労寿命(回)が大幅(1.5倍以上)に向上する。
以上の結果から、隅肉ビードに略直角に補剛用ビードを形成すると、補剛用ビードが鋼板の剛性を高める作用を強く発揮する。これにより、下側鋼板の曲がりが抑制され、その結果、疲労き裂の発生が顕著に抑制される。
[個々の要件の説明]
以上のような解析と実験により、補剛用ビード32を形成すると疲労強度が向上することが確認されたので、次に、補剛用ビード32に必要な条件について検討した。以下に、その検討の結果について説明する。
以上のような解析と実験により、補剛用ビード32を形成すると疲労強度が向上することが確認されたので、次に、補剛用ビード32に必要な条件について検討した。以下に、その検討の結果について説明する。
(補剛用ビードの配置態様)
補剛用ビード32は、隅肉ビード3と重なり部を有するように形成する必要がある。隅肉ビードと離れて形成されると、鋼板の剛性を高める部材として十分に機能しない。そのため、隅肉ビード3を起点にして(即ち、隅肉ビード3の中に溶接開始点をおいて)補剛用ビード32を形成するか、隅肉ビード3を横切って補剛用ビード32を形成するか、の何れかの態様にする必要がある。
補剛用ビード32を隅肉ビード3と重なり部を有するように配置するには、様々な形態が可能である。なお、以下では、隅肉ビード3を先に配置し、それに重なるように補剛用ビード32を配置する場合について説明する。しかし、補剛用ビード32を先に配置し、それに重なるように隅肉ビード3を配置しても、以下に示す態様と同じ態様を採用することができる。
補剛用ビード32は、隅肉ビード3と重なり部を有するように形成する必要がある。隅肉ビードと離れて形成されると、鋼板の剛性を高める部材として十分に機能しない。そのため、隅肉ビード3を起点にして(即ち、隅肉ビード3の中に溶接開始点をおいて)補剛用ビード32を形成するか、隅肉ビード3を横切って補剛用ビード32を形成するか、の何れかの態様にする必要がある。
補剛用ビード32を隅肉ビード3と重なり部を有するように配置するには、様々な形態が可能である。なお、以下では、隅肉ビード3を先に配置し、それに重なるように補剛用ビード32を配置する場合について説明する。しかし、補剛用ビード32を先に配置し、それに重なるように隅肉ビード3を配置しても、以下に示す態様と同じ態様を採用することができる。
まず、補剛用ビード32を重ね隅肉溶接継手に形成する場合の配置形態について説明する。
(I)片側の鋼板に形成する(片側ビード)。
基本原理の説明で示したように、下側鋼板2上に、隅肉ビード3を起点とし、かつ、隅肉ビード3と交差する方向に補剛用ビード32を配置する。以下の説明では、このような配置の補剛用ビードを必要に応じて片側ビードと記載する。また、補剛用ビード32として片側ビードを指す場合には、必要に応じて片側ビード32Aと記載する(図9A、図9D、図9F、図9H等を参照)。
ここで、隅肉ビード3の長さをLとする。隅肉ビード3の長さLは、隅肉ビード3の両側の溶融端の長さである。補剛用ビード32を片側ビード32Aとして1箇所配置する場合には、隅肉ビード3の一方の溶融端から(1/4)Lの長さだけ隅肉ビード3が形成されている方向に沿って離隔した位置と、当該隅肉ビード3の一方の溶融端から(3/4)Lの長さだけ隅肉ビード3が形成されている方向に沿って離隔した位置との間の範囲内に片側ビード32Aを配置するのが効果的である。また、隅肉ビード3側を起点として片側ビード32Aを形成する方が、鋼板側を起点として片側ビード32Aを形成するよりも疲労強度の向上効果が大きい。アーク溶接における溶接ビードの始端部は、突形状になり、応力集中が起こるのに対し、終端部は、扁平な形状になり、応力集中が低減するからである。
(I)片側の鋼板に形成する(片側ビード)。
基本原理の説明で示したように、下側鋼板2上に、隅肉ビード3を起点とし、かつ、隅肉ビード3と交差する方向に補剛用ビード32を配置する。以下の説明では、このような配置の補剛用ビードを必要に応じて片側ビードと記載する。また、補剛用ビード32として片側ビードを指す場合には、必要に応じて片側ビード32Aと記載する(図9A、図9D、図9F、図9H等を参照)。
ここで、隅肉ビード3の長さをLとする。隅肉ビード3の長さLは、隅肉ビード3の両側の溶融端の長さである。補剛用ビード32を片側ビード32Aとして1箇所配置する場合には、隅肉ビード3の一方の溶融端から(1/4)Lの長さだけ隅肉ビード3が形成されている方向に沿って離隔した位置と、当該隅肉ビード3の一方の溶融端から(3/4)Lの長さだけ隅肉ビード3が形成されている方向に沿って離隔した位置との間の範囲内に片側ビード32Aを配置するのが効果的である。また、隅肉ビード3側を起点として片側ビード32Aを形成する方が、鋼板側を起点として片側ビード32Aを形成するよりも疲労強度の向上効果が大きい。アーク溶接における溶接ビードの始端部は、突形状になり、応力集中が起こるのに対し、終端部は、扁平な形状になり、応力集中が低減するからである。
(II)隅肉ビード3を横切って両側の鋼板に形成する(クロスビード)。
基本原理の説明では、重ね隅肉ビード3を起点に、下側鋼板2に補剛用ビード32を配置する場合の疲労強度向上のメカニズムについて述べた。しかし、隅肉ビード3を横切って上側鋼板1と下側鋼板2との両方に補剛用ビード32を配置することによって、更なる疲労強度の向上が可能となる。したがって、このように補剛用ビード32を配置してもよい。以下の説明では、このような配置の補剛用ビードを必要に応じてクロスビードと記載する。また、補剛用ビード32としてクロスビードを指す場合には、必要に応じてクロスビード32Bと記載する(図9B、図9C、図9G等を参照)。また、片側ビード32Aとクロスビード32Bとを総称する場合に補剛用ビード32と記載する。
疲労強度向上のメカニズムは、前述のように隅肉ビード3の近傍の曲がり抑制である。クロスビード32Bでは、上側鋼板1にも補剛用ビードが配置されるので、上側鋼板1の変形抑制効果を高め、ルート部5の開口角αを小さくすることができる。
基本原理の説明では、重ね隅肉ビード3を起点に、下側鋼板2に補剛用ビード32を配置する場合の疲労強度向上のメカニズムについて述べた。しかし、隅肉ビード3を横切って上側鋼板1と下側鋼板2との両方に補剛用ビード32を配置することによって、更なる疲労強度の向上が可能となる。したがって、このように補剛用ビード32を配置してもよい。以下の説明では、このような配置の補剛用ビードを必要に応じてクロスビードと記載する。また、補剛用ビード32としてクロスビードを指す場合には、必要に応じてクロスビード32Bと記載する(図9B、図9C、図9G等を参照)。また、片側ビード32Aとクロスビード32Bとを総称する場合に補剛用ビード32と記載する。
疲労強度向上のメカニズムは、前述のように隅肉ビード3の近傍の曲がり抑制である。クロスビード32Bでは、上側鋼板1にも補剛用ビードが配置されるので、上側鋼板1の変形抑制効果を高め、ルート部5の開口角αを小さくすることができる。
なお、図4の試験片の変形の解析結果で示されるように、上側鋼板1の表面に対しては圧縮の応力が、下側鋼板2の表面に対しては引張の応力が作用する。このため、隅肉ビード3を横切るように補剛用ビードを配置する場合(即ち、クロスビード32Bを配置する場合)は、溶接開始位置を上側鋼板1とし溶接終了位置を下側鋼板2とすることによって、下側鋼板2の引張応力部の応力集中係数を低減することが望ましい。また、このクロスビード32Bを1箇所配置する場合には、片側ビード32Aの場合と同様に、隅肉ビード3の一方の溶融端から(1/4)Lの長さだけ隅肉ビード3が形成されている方向に沿って離隔した位置と、当該隅肉ビード3の一方の溶融端から(3/4)Lの長さだけ隅肉ビード3が形成されている方向に沿って離隔した位置との間の範囲内にクロスビード32Bを配置するのが効果的である。
(III)補剛用ビード32を複数形成する(複数ビード)。
補剛用ビード32は1箇所である必要はなく、複数個を配置することによっても疲労強度は増加する。複数個配置する場合は、片側ビード32Aあるいはクロスビード32Bをそれぞれ単独に複数配置してもよいし、片側ビード32Aとクロスビード32Bとを混在させて配置させてもよい。
片側ビード32Aあるいはクロスビード32Bを複数配置する場合の配置位置は、隅肉ビード3の両端部でもよい。
補剛用ビード32は1箇所である必要はなく、複数個を配置することによっても疲労強度は増加する。複数個配置する場合は、片側ビード32Aあるいはクロスビード32Bをそれぞれ単独に複数配置してもよいし、片側ビード32Aとクロスビード32Bとを混在させて配置させてもよい。
片側ビード32Aあるいはクロスビード32Bを複数配置する場合の配置位置は、隅肉ビード3の両端部でもよい。
補剛用ビード32の配置の例を図9にまとめて示す。
図9Aは、隅肉ビード3の中央部付近から隅肉ビード3に対し傾斜するように配置された片側ビード32Aの例である。図9Bは、隅肉ビード3の中央部付近に配置されたクロスビード32Bの例である。図9Cは、隅肉ビード3の両端部にそれぞれ配置された2つのクロスビード32Bの例である。図9Dは、隅肉ビード3の中央部に近い位置で間隔を有して配置された2つの片側ビード32Aの例である。図9Eは、隅肉ビード3の両端部にそれぞれ配置された2つのクロスビード32Bと、隅肉ビード3の中央部に近い位置で間隔を有して上側鋼板1側に配置された2つの片側ビード32Aの例である。図9Fは、隅肉ビード3の両端部にそれぞれ配置された2つの片側ビード32Aの例である。図9Gは、隅肉ビード3の両端部に近い位置にそれぞれ配置された2つのクロスビード32Bの例である。図9Hは、隅肉ビード3の両端部に近い位置にそれぞれ配置された2つの片側ビード32Aの例である。図9Iは、隅肉ビード3の両端部にそれぞれ配置された2つのクロスビード32Bと、隅肉ビード3の中央部に近い位置で間隔を有して下側鋼板2側に配置された2つの片側ビード32Aの例である。
図9Aは、隅肉ビード3の中央部付近から隅肉ビード3に対し傾斜するように配置された片側ビード32Aの例である。図9Bは、隅肉ビード3の中央部付近に配置されたクロスビード32Bの例である。図9Cは、隅肉ビード3の両端部にそれぞれ配置された2つのクロスビード32Bの例である。図9Dは、隅肉ビード3の中央部に近い位置で間隔を有して配置された2つの片側ビード32Aの例である。図9Eは、隅肉ビード3の両端部にそれぞれ配置された2つのクロスビード32Bと、隅肉ビード3の中央部に近い位置で間隔を有して上側鋼板1側に配置された2つの片側ビード32Aの例である。図9Fは、隅肉ビード3の両端部にそれぞれ配置された2つの片側ビード32Aの例である。図9Gは、隅肉ビード3の両端部に近い位置にそれぞれ配置された2つのクロスビード32Bの例である。図9Hは、隅肉ビード3の両端部に近い位置にそれぞれ配置された2つの片側ビード32Aの例である。図9Iは、隅肉ビード3の両端部にそれぞれ配置された2つのクロスビード32Bと、隅肉ビード3の中央部に近い位置で間隔を有して下側鋼板2側に配置された2つの片側ビード32Aの例である。
(IV)T形断面の隅肉溶接継手(T字継手)
次に、鋼部材の端部を鋼部材の面に載置してT形断面の継手を構成し、その隅部をアーク溶接した隅肉溶接継手に補剛用ビードを形成する場合について説明する。
鋼部材の形状によっては、T形断面の隅肉溶接継手の一方の隅部しか溶接できない場合がある。そのような片側のみ隅肉溶接した隅肉溶接継手では、重ね隅肉溶接継手と同様に取り扱うことができる。
次に、鋼部材の端部を鋼部材の面に載置してT形断面の継手を構成し、その隅部をアーク溶接した隅肉溶接継手に補剛用ビードを形成する場合について説明する。
鋼部材の形状によっては、T形断面の隅肉溶接継手の一方の隅部しか溶接できない場合がある。そのような片側のみ隅肉溶接した隅肉溶接継手では、重ね隅肉溶接継手と同様に取り扱うことができる。
板厚が3.6mm以下の薄い鋼板を使用する場合は、T形断面の隅肉溶接継手においても鋼板の変形が溶接部の疲労寿命に影響を及ぼす。図10にT形断面の隅肉溶接継手の立鋼板8に引張荷重を入力した場合の試験片の変形形態を模式的に示す。立鋼板8に入力された荷重は溶接金属7(隅肉溶接部)を通して横鋼板9に伝達される。このため、立鋼板8側の溶接止端部4は隅肉ビード3側に引き寄せられるように変形する。また、横鋼板9側の溶接止端部4は上方に引き寄せられるように変形する。加えて、ルート部5は引き裂かれるように変形する。このため、T形断面の隅肉溶接継手においても、重ね隅肉溶接継手と同様に、補剛用ビードを形成し、部材の変形を抑制することによって疲労寿命の向上が可能となる。
図11に、立鋼板8と横鋼板9とによって形成されるT形断面の隅肉溶接継手における補剛用ビード32の配置の例を示す。図11Aは、単一のクロスビード32Bの例であり、図11Bは、複数のクロスビード32Bの例である。
T形断面の隅肉溶接継手では、立鋼板8の高さにもよるが、立鋼板8と横鋼板9との両方にまたがるクロスビード32Bを配置するのが好ましい。ただし、立鋼板8と横鋼板9との一方に片側ビード32Aを配置してもよい。T形断面の隅肉溶接継手においても、本実施形態で説明する重ね隅肉溶接継手と同じ条件で補剛用ビード32を配置することができる。
T形断面の隅肉溶接継手では、立鋼板8の高さにもよるが、立鋼板8と横鋼板9との両方にまたがるクロスビード32Bを配置するのが好ましい。ただし、立鋼板8と横鋼板9との一方に片側ビード32Aを配置してもよい。T形断面の隅肉溶接継手においても、本実施形態で説明する重ね隅肉溶接継手と同じ条件で補剛用ビード32を配置することができる。
(補剛用ビード32の角度)
隅肉ビード3と補剛用ビード32とがなす角度γは、力学的には略直角が好ましい。このため、図4において、隅肉ビード3と補剛用ビード32とは略直角をなしているが、隅肉ビード3と補剛用ビード32とがなす角度γは、略直角である必要はない。しかし、補剛用ビード32が、鋼板の剛性を高め、曲がりを抑制する機能を発揮するためには、角度γは45°〜135°である必要がある。角度γが45°未満又は135°超であると、補剛用ビード32の前記機能が著しく低下するからである。
隅肉ビード3と補剛用ビード32とがなす角度γは、力学的には略直角が好ましい。このため、図4において、隅肉ビード3と補剛用ビード32とは略直角をなしているが、隅肉ビード3と補剛用ビード32とがなす角度γは、略直角である必要はない。しかし、補剛用ビード32が、鋼板の剛性を高め、曲がりを抑制する機能を発揮するためには、角度γは45°〜135°である必要がある。角度γが45°未満又は135°超であると、補剛用ビード32の前記機能が著しく低下するからである。
(補剛用ビード32の長さ)
図8に示されるように、補剛用ビード32の長さが短い場合には十分に鋼板の剛性を高めて、溶接継手の疲労強度を向上させる機能を発揮できない。
ここで、補剛用ビード32が片側ビード32Aである場合、補剛用ビード32の長さは、隅肉ビード3と補剛用ビード32との接点32aと、補剛用ビード32の溶融端32bとの間の長さであるとする(図4を参照)。また、補剛用ビード32がクロスビード32Bである場合、補剛用ビード32の長さは、補剛用ビード32の両側の溶融端の長さであるとする。
図8に示されるように、補剛用ビード32の長さが短い場合には十分に鋼板の剛性を高めて、溶接継手の疲労強度を向上させる機能を発揮できない。
ここで、補剛用ビード32が片側ビード32Aである場合、補剛用ビード32の長さは、隅肉ビード3と補剛用ビード32との接点32aと、補剛用ビード32の溶融端32bとの間の長さであるとする(図4を参照)。また、補剛用ビード32がクロスビード32Bである場合、補剛用ビード32の長さは、補剛用ビード32の両側の溶融端の長さであるとする。
本発明者らの調査の結果によれば、補剛用ビード32の長さの総和l1は、補剛用ビード32の機能を確保するため、下記の(a1)の第1の条件を満たすようにする必要がある。
(a1) 補剛用ビード32の長さの総和l1≧L×0.5
L:隅肉ビード3の長さ(mm)
(a1) 補剛用ビード32の長さの総和l1≧L×0.5
L:隅肉ビード3の長さ(mm)
補剛用ビード32の長さの総和l1が“L×0.5”未満であると、補剛用ビード32としての機能を十分に発揮しない。補剛用ビード32の長さの総和l1の上限値は、溶接で製造する鋼製品の形状・構造により制約を受けるので、特に限定しない。前記(a1)の第1の条件は、片側ビード32Aと、クロスビード32Bとの双方に適用される。すなわち、上側鋼板1および下側鋼板2の補剛用ビード32の長さの比率に係わらず、前記(a1)の第1の条件を満たすようにすることで、上側鋼板1と下側鋼板2の両方の変形を抑制でき、溶接部の疲労強度の向上が可能となる。
図2に示すような、始端と終端とを有する溶接継手に引っ張り荷重が作用すると、特に溶接部の始端と終端の応力集中が高くなる。部材に引っ張りの荷重が入力されると、溶接部から離れた位置では板幅方向に均一な応力が発生する。これに対し、溶接部では荷重の伝達範囲が溶接ビード部に制限される。このため、溶接部の始端と終端の応力集中が高くなる。したがって、補剛用別ビード補剛用ビード32を隅肉ビード3(溶接部)の始端と終端に近い位置に配置することによって、隅肉ビード3の始端と終端のき裂の抑制効果が高くなる。特に、隅肉ビード3の始端付近と終端付近に補剛用ビードを配置すると、図3に示すような上側鋼板1と下側鋼板2との中心軸のずれによって発生する曲げモーメントを低減する効果が高まり、隅肉ビード3の始端・終端に発生するき裂を抑制することができる。
本発明者らは、隅肉ビード3(溶接部)の始端と終端からの距離と、1つの補剛用ビード32の長さとの関係を調査した。その結果、以下に示す第2の条件を満たせば、前記(a1)の第1の条件を満たさなくても、隅肉ビード3の始端と終端のき裂の抑制効果を得ることができるという知見を得た。以下に、補剛用ビード32の長さの第2の条件について説明する。
図12は、補剛用ビード32を隅肉ビード3の始終端付近に形成した試験片を示す平面図である。図12に示す試験片を構成する鋼板1、2は、後述する実施例の表1中の鋼種「SP2」に該当する鋼種である。図12において、板幅110mmの鋼板1、2に対して、板幅方向の中央が中心となるように、長さが95mm(L=95mm)の隅肉ビード3を配置した後に、隅肉ビード3を起点に補剛用ビード32を、隅肉ビード3の始端付近と終端付近にそれぞれ形成した。なお、隅肉ビード3の幅Wfは7.5mmであり、補剛用ビード32(のビード幅の中央位置)と、隅肉ビード3の始端及び終端の位置のうち当該補剛用ビード32に近い方の端の位置と、の間の距離をDとした。図12では、隅肉ビード3の始端の位置から補剛用ビード32までの距離をD1とし、隅肉ビード3の終端の位置から補剛用ビード32までの距離をD2として示すが、ここではそれら距離を共にDとして表記する。
図12は、補剛用ビード32を隅肉ビード3の始終端付近に形成した試験片を示す平面図である。図12に示す試験片を構成する鋼板1、2は、後述する実施例の表1中の鋼種「SP2」に該当する鋼種である。図12において、板幅110mmの鋼板1、2に対して、板幅方向の中央が中心となるように、長さが95mm(L=95mm)の隅肉ビード3を配置した後に、隅肉ビード3を起点に補剛用ビード32を、隅肉ビード3の始端付近と終端付近にそれぞれ形成した。なお、隅肉ビード3の幅Wfは7.5mmであり、補剛用ビード32(のビード幅の中央位置)と、隅肉ビード3の始端及び終端の位置のうち当該補剛用ビード32に近い方の端の位置と、の間の距離をDとした。図12では、隅肉ビード3の始端の位置から補剛用ビード32までの距離をD1とし、隅肉ビード3の終端の位置から補剛用ビード32までの距離をD2として示すが、ここではそれら距離を共にDとして表記する。
本発明者らは、この試験片を用いて、補剛用ビード32を隅肉ビード3の始端及び終端付近に形成した場合の疲労強度を評価した。補剛用ビード32がない条件(後述する実施例の表4〜表6中の試験片記号「TP34」に該当する試験片)での破断寿命は、18kNの試験荷重に対して382000回であった。そこで、この1.5倍以上の破断寿命となる場合を良好(○)と判断し、そうでない場合を非良好(×)とした。
図13に、このような試験片の、1つの補剛用ビード32の長さl2と、補剛用ビード32と隅肉ビード3の始端及び終端の位置のうち当該補剛用ビード32に近い方の端との間の距離(溶接始終端からの距離)Dとを指標とした試験片の評価結果を示す。
隅肉ビード3の始終端の位置(D=0mm)に補剛用ビード32を形成する場合と、補剛用ビード32と、隅肉ビード3の始端及び終端の位置のうち当該補剛用ビード32に近い方の端との間の距離Dが10mmの位置(D=10mm)に補剛用ビード32を形成する場合と、では、1つの補剛用ビード32の長さl2が15mm以上で疲労寿命が向上する効果が得られた。隅肉ビード3の幅Wfは7.5mmであることから、隅肉ビード3の始終端に近接する位置に補剛用ビード32を形成する場合には、1つの補剛用ビード32の長さl2として、隅肉ビード3の幅Wfの2倍以上の長さが必要となる。
隅肉ビード3の始終端の位置(D=0mm)に補剛用ビード32を形成する場合と、補剛用ビード32と、隅肉ビード3の始端及び終端の位置のうち当該補剛用ビード32に近い方の端との間の距離Dが10mmの位置(D=10mm)に補剛用ビード32を形成する場合と、では、1つの補剛用ビード32の長さl2が15mm以上で疲労寿命が向上する効果が得られた。隅肉ビード3の幅Wfは7.5mmであることから、隅肉ビード3の始終端に近接する位置に補剛用ビード32を形成する場合には、1つの補剛用ビード32の長さl2として、隅肉ビード3の幅Wfの2倍以上の長さが必要となる。
一方、補剛用ビード32と、隅肉ビード3の始端及び終端の位置のうち当該補剛用ビード32に近い方の端との間の距離Dが隅肉ビードの幅Wfの2倍以上になると、当該距離Dの増加に応じて、それぞれの補剛用ビード32の長さを増加させる必要があり、1つの補剛用ビード32の長さl2が当該距離D以上(l2≧D)の条件で疲労寿命が向上する効果が得られた。
以上の評価結果から、隅肉ビード3の始終端付近に補剛用ビード32を形成する場合は、1つの補剛用ビード32の長さl2を、2×Wf及びDのうち大きい方の値以上とすることによって良好な疲労寿命が得られる。すなわち、隅肉ビード3の始終端付近に配置する補剛用ビード32の長さについては、前記(a1)の第1の条件に替えて、下記の(a2)の第2の条件を満たすようにしてもよい。
(a2) 1つの補剛用ビード32の長さl2≧max{2×Wf,D}
ここで、max{2×Wf,D}は、2×Wf及びDのうち大きい値を指す。
(a2) 1つの補剛用ビード32の長さl2≧max{2×Wf,D}
ここで、max{2×Wf,D}は、2×Wf及びDのうち大きい値を指す。
前記(a2)の第2の条件は、鋼板の板厚の影響を含まないが、後述の条件に示すように、板厚tの増加に応じて補剛用ビード32の高さh及び幅wを増加させることによって、補剛用ビード32による疲労き裂の抑制効果が得られた。
また、補剛用ビード32と隅肉ビード3の始端及び終端の位置のうち当該補剛用ビード32に近い方の端との間の距離Dの範囲に特別な制約はないが、当該距離Dが短いほど短い補剛用ビード32でも隅肉ビード3の始端及び終端におけるき裂を抑制することができる。このため、補剛用ビード32の形成における効率の観点から、当該距離Dの上限は、隅肉ビード3の長さLの1/4をとする。
以上のように、隅肉ビード3の始端及び終端の少なくとも何れか一方の位置から、隅肉ビード3が形成されている方向に沿って、隅肉ビード3の長さLの1/4の長さだけ離れた位置までの範囲に補剛用ビード32を形成する場合には、前記(a1)の第1の条件に替えて、下記の(a2)の第2の条件を満たすように前記範囲内に補剛用ビード32を形成してもよい。前記(a2)の第2の条件は、片側ビード32Aと、クロスビード32Bとの双方に適用される。
また、補剛用ビード32と隅肉ビード3の始端及び終端の位置のうち当該補剛用ビード32に近い方の端との間の距離Dの範囲に特別な制約はないが、当該距離Dが短いほど短い補剛用ビード32でも隅肉ビード3の始端及び終端におけるき裂を抑制することができる。このため、補剛用ビード32の形成における効率の観点から、当該距離Dの上限は、隅肉ビード3の長さLの1/4をとする。
以上のように、隅肉ビード3の始端及び終端の少なくとも何れか一方の位置から、隅肉ビード3が形成されている方向に沿って、隅肉ビード3の長さLの1/4の長さだけ離れた位置までの範囲に補剛用ビード32を形成する場合には、前記(a1)の第1の条件に替えて、下記の(a2)の第2の条件を満たすように前記範囲内に補剛用ビード32を形成してもよい。前記(a2)の第2の条件は、片側ビード32Aと、クロスビード32Bとの双方に適用される。
なお、実際の溶接部材では部材への入力荷重の状態によって、始端部および終端部のうちの一方のみの疲労寿命が問題となることがある。そのような条件で荷重が入力される溶接部材に対しては、始端(始端付近)および終端(終端付近)のうちの一方のみに補剛用ビードを形成することによって、疲労寿命が向上する。
また、隅肉ビード3の始端・終端付近(隅肉ビード3の始端及び終端の少なくとも何れか一方の位置から、隅肉ビード3が形成されている方向に沿って、隅肉ビード3の長さLの1/4の長さだけ離れた位置までの範囲内)に補剛用ビード32を配置する場合に、前記(a2)の第2の条件を満たさずに、前記(a1)の第1の条件を満たすように、前記範囲内に補剛用ビード32を形成してもよい。すなわち、前記範囲外に形成される補剛用ビード32の数及び長さによっては、前記範囲内に形成される補剛用ビード32は、前記(a2)の第2の条件を満たさなくてもよい。
また、前記(a2)の第2の条件で前記範囲内に補剛用ビード32を形成し、かつ、前記範囲外に補剛用ビード32を形成する場合には、前記(a2)の第2の条件で前記範囲内に形成された補剛用ビード32を含む全ての補剛用ビード32の総和lが、前記(a1)の第1の条件を満たすようにする。
また、隅肉ビード3の始端・終端付近(隅肉ビード3の始端及び終端の少なくとも何れか一方の位置から、隅肉ビード3が形成されている方向に沿って、隅肉ビード3の長さLの1/4の長さだけ離れた位置までの範囲内)に補剛用ビード32を配置する場合に、前記(a2)の第2の条件を満たさずに、前記(a1)の第1の条件を満たすように、前記範囲内に補剛用ビード32を形成してもよい。すなわち、前記範囲外に形成される補剛用ビード32の数及び長さによっては、前記範囲内に形成される補剛用ビード32は、前記(a2)の第2の条件を満たさなくてもよい。
また、前記(a2)の第2の条件で前記範囲内に補剛用ビード32を形成し、かつ、前記範囲外に補剛用ビード32を形成する場合には、前記(a2)の第2の条件で前記範囲内に形成された補剛用ビード32を含む全ての補剛用ビード32の総和lが、前記(a1)の第1の条件を満たすようにする。
(補剛用ビード32の高さ)
補剛用ビード32の高さhは、下記の(b)の条件を満たすようにする。
(b) 補剛用ビード32の高さh≧t/2
t:補剛用ビード32を形成する鋼部材の厚さ(mm)
補剛用ビード32の高さhが、補剛用ビード32が形成される鋼部材の厚さtの“t/2”未満であると、補剛用ビード32としての機能を十分に発揮しない。補剛用ビード32の高さhが大きいほど、その効果は大きいが、鋼板への裏抜けや溶け落ちを避けるため自ずと限界がある。したがって、補剛用ビード32の高さhは、“補剛用ビード32が形成される鋼部材の厚さt”以下が現実的である。補剛用ビード32の高さhは、補剛用ビード32が形成される鋼部材の(ビードが形成されていない領域の)表面と、補剛用ビード32の最も高い位置との間の高さ方向の距離をいう。
なお、補剛用ビード32をクロスビード32Bとする場合であって、溶接の対象となる複数の鋼板の板厚が異なる場合は、鋼板ごとに上記(b)の要件を満たすものとする。このことは、以下の条件でも同様とする。
補剛用ビード32の高さhは、下記の(b)の条件を満たすようにする。
(b) 補剛用ビード32の高さh≧t/2
t:補剛用ビード32を形成する鋼部材の厚さ(mm)
補剛用ビード32の高さhが、補剛用ビード32が形成される鋼部材の厚さtの“t/2”未満であると、補剛用ビード32としての機能を十分に発揮しない。補剛用ビード32の高さhが大きいほど、その効果は大きいが、鋼板への裏抜けや溶け落ちを避けるため自ずと限界がある。したがって、補剛用ビード32の高さhは、“補剛用ビード32が形成される鋼部材の厚さt”以下が現実的である。補剛用ビード32の高さhは、補剛用ビード32が形成される鋼部材の(ビードが形成されていない領域の)表面と、補剛用ビード32の最も高い位置との間の高さ方向の距離をいう。
なお、補剛用ビード32をクロスビード32Bとする場合であって、溶接の対象となる複数の鋼板の板厚が異なる場合は、鋼板ごとに上記(b)の要件を満たすものとする。このことは、以下の条件でも同様とする。
(補剛用ビード32の幅)
補剛用ビード32の幅wは、下記の(c)の条件を満たすようにする。
(c) 補剛用ビード32の幅w≧2.5t
t:補剛用ビード32を形成する鋼部材の厚さ(mm)
補剛用ビード32の幅wが補剛用ビード32が形成される鋼部材の厚さtの“2.5t”未満であると、補剛用ビード32としての機能を十分に発揮しない。補剛用ビード32の幅wの上限は、特に定めないが、補剛用ビード32の高さhと同様に、鋼板への裏抜けや溶け落ちがない範囲で補剛用ビード32を形成する必要があるので、その観点から自ずと定まる。
補剛用ビード32の幅wは、下記の(c)の条件を満たすようにする。
(c) 補剛用ビード32の幅w≧2.5t
t:補剛用ビード32を形成する鋼部材の厚さ(mm)
補剛用ビード32の幅wが補剛用ビード32が形成される鋼部材の厚さtの“2.5t”未満であると、補剛用ビード32としての機能を十分に発揮しない。補剛用ビード32の幅wの上限は、特に定めないが、補剛用ビード32の高さhと同様に、鋼板への裏抜けや溶け落ちがない範囲で補剛用ビード32を形成する必要があるので、その観点から自ずと定まる。
(隅肉ビード3に対して形成される補剛用ビード32の数)
補剛用ビード32は、補剛用ビード32を形成する鋼部材の厚みをt(mm)として、隅肉ビード3の長さLが“50t”毎に少なくとも1箇所配置するのが好ましい。すなわち、隅肉ビード3の長さLが“50t”を超える場合には、複数の補剛用ビード32を形成することが好ましい。
したがって、長さがLの隅肉ビード3に対して形成される補剛用ビード32の数nは、下記の(d)の条件を満たすことが望ましい。
(d) L/n≦50t
n:隅肉ビード3に対して形成される補剛用ビード32の数
L:隅肉ビード3の長さ(mm)
t:補剛用ビード32を形成する鋼部材の厚さ(mm)
補剛用ビード32は、補剛用ビード32を形成する鋼部材の厚みをt(mm)として、隅肉ビード3の長さLが“50t”毎に少なくとも1箇所配置するのが好ましい。すなわち、隅肉ビード3の長さLが“50t”を超える場合には、複数の補剛用ビード32を形成することが好ましい。
したがって、長さがLの隅肉ビード3に対して形成される補剛用ビード32の数nは、下記の(d)の条件を満たすことが望ましい。
(d) L/n≦50t
n:隅肉ビード3に対して形成される補剛用ビード32の数
L:隅肉ビード3の長さ(mm)
t:補剛用ビード32を形成する鋼部材の厚さ(mm)
(鋼部材の厚さt)
鋼部材の厚さt(板厚)は、特に限定されるものではない。ただし、前述したように本実施形態では、補剛用ビード32の形成による薄鋼板部材の面外変形を抑制することによって、溶接部の疲労寿命を向上させる。このため、厚鋼板の溶接部材よりも薄鋼板の溶接部材において疲労寿命の向上効果が得られやすく、鋼板の板厚(鋼部材の厚さt)は3.6mm以下とすることが望ましい。
鋼部材の厚さt(板厚)は、特に限定されるものではない。ただし、前述したように本実施形態では、補剛用ビード32の形成による薄鋼板部材の面外変形を抑制することによって、溶接部の疲労寿命を向上させる。このため、厚鋼板の溶接部材よりも薄鋼板の溶接部材において疲労寿命の向上効果が得られやすく、鋼板の板厚(鋼部材の厚さt)は3.6mm以下とすることが望ましい。
なお、2つの鋼部材を隅肉アーク溶接して接合する場合、隅肉ビード3の長さLを10t以上とすることが好ましい。隅肉ビード3の長さLが10t未満であると、鋼部材の接合長に対する、隅肉ビード3の始終端の長さの比率が高まり、十分な接合強度を確保できないからである。
(その他の要件)
隅肉ビード3の施工時や補剛用ビード32の施工時のアーク溶接条件や使用する溶接ワイヤの組成は、常法に従えばよく、特定のものに限定されない。ただし、同じ溶接機器を用いて、隅肉ビード3の施工と補剛用ビード32の施工とを連続的に行うことが生産上好ましい。しかし、補剛用ビード32の鋼板の剛性を高める機能が担保される限り、両者の溶接条件や使用する溶接ワイヤの組成が異なってもよい。
隅肉ビード3の施工時や補剛用ビード32の施工時のアーク溶接条件や使用する溶接ワイヤの組成は、常法に従えばよく、特定のものに限定されない。ただし、同じ溶接機器を用いて、隅肉ビード3の施工と補剛用ビード32の施工とを連続的に行うことが生産上好ましい。しかし、補剛用ビード32の鋼板の剛性を高める機能が担保される限り、両者の溶接条件や使用する溶接ワイヤの組成が異なってもよい。
本実施形態で対象とする溶接継手は、隅肉アーク溶接で形成した隅肉溶接継手であればよく、特定の溶接継手に限定されないが、鋼部材と鋼部材を重ねて隅肉アーク溶接して形成した溶接継手や、鋼部材の端部を鋼部材の面に載置し隅肉アーク溶接して形成した溶接継手が好ましい。また、本実施形態で対象とする溶接継手は、鋼板同士の溶接に限られない。例えば、概ね3.6mm以下の板厚であれば、プレス成形された鋼板部材、鋼管、及び形鋼の継手に本実施形態の手法を適用することができる。
また、溶接継手では、隅肉ビードに重なるように補剛用ビードを形成するために、溶接継手の周辺に、補剛用ビードを、所要の角度、及び、所要の長さ、高さ、幅で形成し得る領域があることが必要である。ただし、溶接される2つの鋼部材を跨ぐように補剛用ビードを形成している場合、隅肉ビードの始端および終端と、当該補剛用ビードとが離れていてもよい。
また、溶接継手では、隅肉ビードに重なるように補剛用ビードを形成するために、溶接継手の周辺に、補剛用ビードを、所要の角度、及び、所要の長さ、高さ、幅で形成し得る領域があることが必要である。ただし、溶接される2つの鋼部材を跨ぐように補剛用ビードを形成している場合、隅肉ビードの始端および終端と、当該補剛用ビードとが離れていてもよい。
なお、上側鋼板と下側鋼板を重ねる場合、両者の間に隙間がないことが好ましいが、溶接施工上、両者の間に略1mm程度の隙間が生じることがある。本実施形態では、上側鋼板と下側鋼板の間に1mm程度の隙間があっても、補剛用ビードの機能は阻害されず、疲労き裂の発生は顕著に抑制される。
また、鋼部材以外の金属部材であっても、本実施形態の手法を適用することができる。例えば、鋼部材の代わりに、アルミニウム部材又はステンレス部材に本実施形態の手法を適用することができる。また、異種の金属部材についても本実施形態の手法を適用することができる。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例1)
薄鋼板に重ね隅肉アーク溶接を施した試験片を用いて疲労試験を行い、溶接継手の効果を検証した。表1に供試鋼板の成分組成を示す。
薄鋼板に重ね隅肉アーク溶接を施した試験片を用いて疲労試験を行い、溶接継手の効果を検証した。表1に供試鋼板の成分組成を示す。
図2に示す隅肉ビードを有する試験片を作製し疲労試験に供した。また、図2に示す試験片に対し、さらに図4に示すように補剛用ビードを配置した試験片を作製し疲労試験に供した。
即ち、図2に示すように、板幅:60mmの2枚の鋼板を、重ね代20mmで重ね合せ、重ね隅肉アーク溶接を、溶接トーチの移動距離が40mmとなるように設計して試験片を作製した。
なお、溶接トーチの移動端で溶融部が拡がるため、実際の隅肉ビードの長さは、教示距離より若干大きくなる。
即ち、図2に示すように、板幅:60mmの2枚の鋼板を、重ね代20mmで重ね合せ、重ね隅肉アーク溶接を、溶接トーチの移動距離が40mmとなるように設計して試験片を作製した。
なお、溶接トーチの移動端で溶融部が拡がるため、実際の隅肉ビードの長さは、教示距離より若干大きくなる。
また、図4に示すように、補剛用ビードを図2の試験片の幅方向の中央部において、隅肉ビードと略直角に1本配置して試験を行った。補剛用ビードの溶接開始点は、隅肉ビードの表面とし、下側鋼板へ、所要の長さの補剛用ビードを形成した。なお、補剛用ビードの長さは、隅肉ビードと補剛用ビードとの接点を起点として、補剛用ビードの溶融端までの長さである。
溶接条件は、以下の通りである。
<共通する溶接条件>
溶接方式:耗式電極溶接
溶接電源:DP350(株式会社ダイヘン製)
溶接モード:DC−Pulse
溶接姿勢:下向き水平
チップ鋼板間距離(突き出し長さ):15mm
シールドガス種:Ar+20%CO2
シールドガス流量:20L/min
溶接ワイヤ:JIS Z3312 YGW15相当
<隅肉ビードの形成条件>
トーチ角度:下板からの起こし角55°、前進角0°
ねらい位置:重ね部の隅
溶接速度:40cm/min
ワイヤ送給速度:上側鋼板にアンダーカットが出ない値を設定(一例:板厚2.6mmの上側鋼板の重ね隅肉アーク溶接の場合、3.8/min(約120A、約22V))
<補剛用ビードの形成条件>
トーチ角度:鋼板からの起こし角90°、前進角0°
ねらい位置と溶接方向:試験片の幅方向中央で、隅肉ビードの溶接金属表面を起点とし、隅肉ビードに直角方向に下側鋼板へ溶接
溶接速度:50cm/min
ワイヤ送給速度:隅肉ビードの形成条件と同じ
<共通する溶接条件>
溶接方式:耗式電極溶接
溶接電源:DP350(株式会社ダイヘン製)
溶接モード:DC−Pulse
溶接姿勢:下向き水平
チップ鋼板間距離(突き出し長さ):15mm
シールドガス種:Ar+20%CO2
シールドガス流量:20L/min
溶接ワイヤ:JIS Z3312 YGW15相当
<隅肉ビードの形成条件>
トーチ角度:下板からの起こし角55°、前進角0°
ねらい位置:重ね部の隅
溶接速度:40cm/min
ワイヤ送給速度:上側鋼板にアンダーカットが出ない値を設定(一例:板厚2.6mmの上側鋼板の重ね隅肉アーク溶接の場合、3.8/min(約120A、約22V))
<補剛用ビードの形成条件>
トーチ角度:鋼板からの起こし角90°、前進角0°
ねらい位置と溶接方向:試験片の幅方向中央で、隅肉ビードの溶接金属表面を起点とし、隅肉ビードに直角方向に下側鋼板へ溶接
溶接速度:50cm/min
ワイヤ送給速度:隅肉ビードの形成条件と同じ
作製した試験片の下側鋼板の止端部が中央となるように、電気油圧式疲労試験装置で試験片を把持する。そして、荷重範囲を一定(応力範囲一定)、荷重比を0.1、繰返し周波数を25Hzにして、軸力引張疲労試験に供した。なお、試験機の軸心を合わせるため、上側鋼板と下側鋼板に、同じ板厚の当板を当てて試験片を把持した。
なお、補剛用ビードを形成しない試験片が約40万回で破断する荷重範囲を、鋼板毎に事前の試験にて探索し、それぞれの鋼板毎に補剛用ビードを形成しない試験片の破断回数を疲労寿命の比較基準とした。
溶接条件及び疲労特性評価結果を表2及び表3に示す。
TP4〜15の発明例では、補剛用ビードを形成しない比較例TP1〜3に対して150%以上の疲労寿命向上率が得られたが、TP16〜27の比較例では、補剛用ビードが必要な条件を満たさず、疲労寿命向上率が発明例より劣った。
溶接条件及び疲労特性評価結果を表2及び表3に示す。
TP4〜15の発明例では、補剛用ビードを形成しない比較例TP1〜3に対して150%以上の疲労寿命向上率が得られたが、TP16〜27の比較例では、補剛用ビードが必要な条件を満たさず、疲労寿命向上率が発明例より劣った。
(実施例2)
図2に示す試験片において、さらに図9A〜図9Eに示す態様で補剛用ビードを形成した試験片を作成し、疲労試験に供した。
TP28〜33、39は単一の補剛用ビードを配置した例であり、TP28〜30、39の片側ビードは図9Aの態様に相当し(TP39は角度γが90度)、TP31〜33のクロスビードは図9Bの態様に相当する。また、TP36〜38は複数の補剛用ビードを配置した例であり、TP36は図9Cの態様に、TP37は図9Dの態様に、TP38は図9Eの態様にそれぞれ相当する。TP34、35は、図2の態様に相当し、補剛用ビードを配置せずに隅肉ビードを配置したものである。
各試験片の作成にあたり、補剛用ビードのねらい位置と溶接方向は図9A〜図9Eの通りであり、それ以外は実施例1と同じ条件で行った。TP36〜38では補剛用ビード毎に溶接条件を記載した。
溶接条件及び疲労特性評価結果を表4〜表6に示す。
発明例では、補剛用ビードを形成しない試験片に対して200%を超える疲労寿命向上率が得られた。表3における補剛ビード長さ判定の欄には、前述した(a1)の第1の条件を満たす場合に「○」を付した。
TP28〜33及びTP36〜38はL(隅肉ビードの長さ)/n(補剛用ビードの数)が50t(t:鋼厚さ)に比べて小さいが、TP39は、L/nが50tに比べて大きい。そのため、TP39の疲労寿命の向上率は161%程度であった。
図2に示す試験片において、さらに図9A〜図9Eに示す態様で補剛用ビードを形成した試験片を作成し、疲労試験に供した。
TP28〜33、39は単一の補剛用ビードを配置した例であり、TP28〜30、39の片側ビードは図9Aの態様に相当し(TP39は角度γが90度)、TP31〜33のクロスビードは図9Bの態様に相当する。また、TP36〜38は複数の補剛用ビードを配置した例であり、TP36は図9Cの態様に、TP37は図9Dの態様に、TP38は図9Eの態様にそれぞれ相当する。TP34、35は、図2の態様に相当し、補剛用ビードを配置せずに隅肉ビードを配置したものである。
各試験片の作成にあたり、補剛用ビードのねらい位置と溶接方向は図9A〜図9Eの通りであり、それ以外は実施例1と同じ条件で行った。TP36〜38では補剛用ビード毎に溶接条件を記載した。
溶接条件及び疲労特性評価結果を表4〜表6に示す。
発明例では、補剛用ビードを形成しない試験片に対して200%を超える疲労寿命向上率が得られた。表3における補剛ビード長さ判定の欄には、前述した(a1)の第1の条件を満たす場合に「○」を付した。
TP28〜33及びTP36〜38はL(隅肉ビードの長さ)/n(補剛用ビードの数)が50t(t:鋼厚さ)に比べて小さいが、TP39は、L/nが50tに比べて大きい。そのため、TP39の疲労寿命の向上率は161%程度であった。
(実施例3)
立鋼板と横鋼板とによって形成されるT形断面の隅肉溶接継手において、隅部の片側のみ隅肉ビードを形成した試験片と、その試験片にさらに隅肉ビードを横切るように補剛用ビードを形成した試験片を作製して疲労試験に供した。
TP41は単一の補剛用ビードを配置した例であり図10Aの態様に相当し、TP42は隅肉ビードの両端部に補剛用ビードを配置した例であり図10Bの態様に相当する。
各試験片の作成にあたり、継手の形状、補剛用ビードのねらい位置、補剛用ビードの形成の態様は図10の通りであり、それ以外は実施例1と同じ条件で行った。TP42では補剛用ビード毎に溶接条件を記載した。
溶接条件及び疲労特性評価結果を表7及び表8に示す。
TP41、42の発明例では、補剛用ビードを形成しない比較例TP40に対して500%を超える疲労寿命向上率が得られた。
立鋼板と横鋼板とによって形成されるT形断面の隅肉溶接継手において、隅部の片側のみ隅肉ビードを形成した試験片と、その試験片にさらに隅肉ビードを横切るように補剛用ビードを形成した試験片を作製して疲労試験に供した。
TP41は単一の補剛用ビードを配置した例であり図10Aの態様に相当し、TP42は隅肉ビードの両端部に補剛用ビードを配置した例であり図10Bの態様に相当する。
各試験片の作成にあたり、継手の形状、補剛用ビードのねらい位置、補剛用ビードの形成の態様は図10の通りであり、それ以外は実施例1と同じ条件で行った。TP42では補剛用ビード毎に溶接条件を記載した。
溶接条件及び疲労特性評価結果を表7及び表8に示す。
TP41、42の発明例では、補剛用ビードを形成しない比較例TP40に対して500%を超える疲労寿命向上率が得られた。
(実施例4)
図2に示す試験片において、さらに図9F〜図9Iに示す態様で補剛用ビードを形成した試験片を作成し、疲労試験に供した。
TP43〜47は複数の補剛用ビードを配置した例であり、TP43は図9Fの態様に、TP44は図9Gの態様に、TP45、47は図9Hの態様に、TP46は図9Iの態様にそれぞれ相当する。TP34は、表4〜表6に示すものと同じである。
各試験片の作成にあたり、補剛用ビードのねらい位置と溶接方向は図9F〜図9Iの通りであり、それ以外は実施例3と同じ条件で行った。TP43〜47では補剛用ビード毎に溶接条件を記載した。
溶接条件及び疲労特性評価結果を表9及び表10に示す。表10における補剛ビード長さ判定(第1の条件)の欄には、前述した(a1)の第1の条件を満たす場合に「○」を付した。また、表9における補剛ビード長さ判定(第2の条件)の欄には、前述した(a2)の第2の条件を満たす場合に「○」を付した。
図2に示す試験片において、さらに図9F〜図9Iに示す態様で補剛用ビードを形成した試験片を作成し、疲労試験に供した。
TP43〜47は複数の補剛用ビードを配置した例であり、TP43は図9Fの態様に、TP44は図9Gの態様に、TP45、47は図9Hの態様に、TP46は図9Iの態様にそれぞれ相当する。TP34は、表4〜表6に示すものと同じである。
各試験片の作成にあたり、補剛用ビードのねらい位置と溶接方向は図9F〜図9Iの通りであり、それ以外は実施例3と同じ条件で行った。TP43〜47では補剛用ビード毎に溶接条件を記載した。
溶接条件及び疲労特性評価結果を表9及び表10に示す。表10における補剛ビード長さ判定(第1の条件)の欄には、前述した(a1)の第1の条件を満たす場合に「○」を付した。また、表9における補剛ビード長さ判定(第2の条件)の欄には、前述した(a2)の第2の条件を満たす場合に「○」を付した。
TP43〜47では、隅肉ビードの始端付近と終端付近に、長さが隅肉ビードの長さLの1/2未満となる長さの補剛用ビードを形成した。TP43〜46では、隅肉ビードの始端及び終端の位置から、隅肉ビードが形成されている方向に沿って、隅肉ビードの長さLの1/4の長さだけ離れた位置までの範囲内に、補剛用ビードを、前述した(a2)の第2の条件を満たすようにして形成した。TP43〜46の発明例では、補剛用ビードを形成しない比較例TP34に対して150%以上の疲労寿命向上率が得られた。一方、TP47の比較例では、補剛用ビードが前述した(a2)の第2の条件を満たさず、疲労寿命向上率が発明例より劣った。
なお、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
本発明は、機械工業をはじめ、鋼板などの金属部材の溶接産業において利用可能性が高いものである。
Claims (14)
- 金属部材と金属部材とを隅肉アーク溶接することにより形成された隅肉アーク溶接継手であって、
前記隅肉アーク溶接によって形成された隅肉ビードとは別に、アーク溶接によって形成された補剛用ビードが少なくとも一方の金属部材の表面に少なくとも一つ形成されており、
前記補剛用ビードは、前記隅肉ビードと角度45〜135°をもって、かつ、前記隅肉ビードと重なるように形成されているとともに、下記(a1)、(b)、および(c)の条件を満たすように形成されていることを特徴とする隅肉アーク溶接継手。
(a1) 補剛用ビードの長さの総和l≧L×0.5
(b) 補剛用ビードの高さh≧t/2
(c) 補剛用ビードの幅w≧2.5t
L:隅肉ビードの長さ(mm)
t:補剛用ビードを形成する金属部材の厚さ(mm) - 金属部材と金属部材とを隅肉アーク溶接することにより形成された隅肉アーク溶接継手であって、
前記隅肉アーク溶接によって形成された隅肉ビードとは別に、アーク溶接によって形成された補剛用ビードが少なくとも一方の金属部材の表面に少なくとも一つ形成されており、
前記補剛用ビードは、前記隅肉ビードの始端および終端の少なくとも何れか一方の位置から、前記隅肉ビードが形成されている方向に沿って、前記隅肉ビードの長さの1/4の長さだけ離れた位置までの範囲内に、前記隅肉ビードと角度45〜135°をもって、かつ、前記隅肉ビードと重なるように形成されているとともに、下記(a2)、(b)、および(c)の条件を満たすように形成されていることを特徴とする隅肉アーク溶接継手。
(a2) 1つの補剛用ビードの長さl≧max{2×Wf,D}
(b) 補剛用ビードの高さh≧t/2
(c) 補剛用ビードの幅w≧2.5t
Wf:隅肉ビードの幅(mm)
D:補剛用ビードと隅肉ビードの始端および終端の位置のうち当該補剛用ビードに近い方の端との間の距離(mm)
max{2×Wf,D}:2×WfおよびDのうち大きい方の値
L:隅肉ビードの長さ(mm)
t:補剛用ビードを形成する金属部材の厚さ(mm) - 前記隅肉ビードに対して形成される前記補剛用ビードの数nが、下記の(d)の条件を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の隅肉アーク溶接継手。
(d) L/n≦50t
L:隅肉ビードのビード長さ(mm)
t:補剛用ビードを形成する金属部材の厚さ(mm) - 前記補剛用ビードが前記隅肉ビードを起点として一方の金属部材の表面に形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の隅肉アーク溶接継手。
- 前記補剛用ビードが前記隅肉ビードを横切って両方の金属部材の表面に形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の隅肉アーク溶接継手。
- 前記溶接継手が、金属部材と金属部材とを重ねて隅肉アーク溶接して形成した溶接継手であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の隅肉アーク溶接継手。
- 前記溶接継手が、金属部材の端部を金属部材の面に載置して隅肉アーク溶接して形成した溶接継手であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の隅肉アーク溶接継手。
- 金属部材と金属部材とを隅肉アーク溶接して溶接継手を形成する隅肉アーク溶接継手の形成方法であって、
前記隅肉アーク溶接により隅肉ビードを形成するとともに、当該隅肉アーク溶接とは別のアーク溶接によって補剛用ビードを少なくとも一方の金属部材の表面に少なくとも一つ形成するに際し、
前記補剛用ビードを、前記隅肉ビードと角度45〜135°をもって、かつ、前記隅肉ビードと重なるように形成するとともに、下記(a1)、(b)、および(c)の条件を満たすように形成することを特徴とする隅肉アーク溶接継手の形成方法。
(a1) 補剛用ビードの長さの総和l≧L×0.5
(b) 補剛用ビードの高さh≧t/2
(c) 補剛用ビードの幅w≧2.5t
L:隅肉ビードの長さ(mm)
t:補剛用ビードを形成する金属部材の厚さ(mm) - 金属部材と金属部材とを隅肉アーク溶接して溶接継手を形成する隅肉アーク溶接継手の形成方法であって、
前記隅肉アーク溶接により隅肉ビードを形成するとともに、当該隅肉アーク溶接とは別のアーク溶接によって補剛用ビードを少なくとも一方の金属部材の表面に少なくとも一つ形成するに際し、
前記補剛用ビードを、前記隅肉ビードの始端および終端の少なくとも何れか一方の位置から、前記隅肉ビードが形成されている方向に沿って、前記隅肉ビードの長さの1/4の長さだけ離れた位置までの範囲内に、前記隅肉ビードと角度45〜135°をもって、かつ、前記隅肉ビードと重なるように形成するとともに、下記(a2)、(b)、および(c)の条件を満たすように形成することを特徴とする隅肉アーク溶接継手の形成方法。
(a2) 1つの補剛用ビードの長さl≧max{2×Wf,D}
(b) 補剛用ビードの高さh≧t/2
(c) 補剛用ビードの幅w≧2.5t
Wf:隅肉ビードの幅(mm)
D:補剛用ビードと隅肉ビードの始端および終端の位置のうち当該補剛用ビードに近い方の端との間の距離(mm)
max{2×Wf,D}:2×WfおよびDのうち大きい方の値
L:隅肉ビードの長さ(mm)
t:補剛用ビードを形成する金属部材の厚さ(mm) - 前記隅肉ビードに対する前記補剛用ビードの数nが、下記の(d)の条件を満たすように、複数の補剛用ビードを形成することを特徴とする請求項8又は9に記載の隅肉アーク溶接継手の形成方法。
(d) L/n≦50t
L:隅肉ビードの長さ(mm)
t:補剛用ビードを形成する金属部材の厚さ(mm) - 前記補剛用ビードを、前記隅肉ビードを起点として一方の金属部材の表面に形成することを特徴とする請求項8〜10の何れか1項に記載の隅肉アーク溶接継手の形成方法。
- 前記補剛用ビードを、前記隅肉ビードを横切って両方の金属部材の表面に形成することを特徴とする請求項8〜10の何れか1項に記載の隅肉アーク溶接継手の形成方法。
- 前記溶接継手が、金属部材と金属部材とを重ねて隅肉アーク溶接して形成した溶接継手であることを特徴とする請求項8〜12の何れか1項に記載の隅肉アーク溶接継手の形成方法。
- 前記溶接継手が、金属部材の端部を金属部材の面に載置し隅肉アーク溶接して形成した溶接継手であることを特徴とする請求項8〜12の何れか1項に記載の隅肉アーク溶接継手の形成方法。
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