JP2023147358A - 重ね隅肉溶接継手の製造方法、重ね隅肉溶接継手の重ね幅の設定方法および重ね隅肉溶接継手 - Google Patents

重ね隅肉溶接継手の製造方法、重ね隅肉溶接継手の重ね幅の設定方法および重ね隅肉溶接継手 Download PDF

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誠仁 浅倉
Masahito Asakura
詠一朗 石丸
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Abstract

【課題】重ね隅肉溶接継手の割れの発生を抑制する技術を提供する。【解決手段】重ね隅肉溶接継手の溶接方法は、第1鋼材の縁部に沿って溶接部が形成されるように第1鋼材の縁部と第2鋼材の表面とを隅肉溶接する溶接工程を備える。第1鋼材および第2鋼材の重ね幅(mm)をW1とし、第1鋼材の厚み(mm)をTとし、第2鋼材の厚み(mm)をtとし、第1鋼材と第2鋼材との隙間(mm)をsとして、前記溶接工程では、前記溶接部の溶接線方向に直交する断面において、(W1≧6.0+2s-(t-T))が満たされるように、前記第1鋼材と前記第2鋼材とを溶接する。【選択図】 図2

Description

本発明は、重ね隅肉溶接継手の製造方法、重ね隅肉溶接継手の重ね幅の設定方法および重ね隅肉溶接継手に関する。
自動車の排気系部品などの製造において、2つの部材の一部同士を上下に重ね合わせて、上側の部材の端部を下側の部材の上面に溶接する重ね隅肉溶接が利用されている。この重ね隅肉溶接によって得られる隅肉溶接継手では、下側の部材において割れが発生する場合がある。
そこで、従来、隅肉溶接継手において割れが生じることを防止するための技術が提案されている。例えば、特許文献1には、2枚の鋼板を重ね合わせ、上板端部と下板を溶融し、該上板端部に沿って溶接する重ねすみ肉溶接方法が開示されている。
特許文献1に開示された重ねすみ肉溶接方法では、溶融部と下板の端部との距離を、溶接速度および下板の板厚を変数とする式によって規定している。これにより、下板において割れが発生することを防止している。
特開2009-285722号公報
しかしながら、本発明者による検討の結果、特許文献1に記載された要件を満たすように溶接継手を製造した場合でも、下側の部材に割れが発生する場合があることが分かった。
そこで、本発明は、重ね隅肉溶接継手の割れの発生を適切に抑制する技術を提供することを目的とする。
本発明は、下記の重ね隅肉溶接継手の製造方法、重ね隅肉溶接継手の重ね幅の設定方法および重ね隅肉溶接継手を要旨とする。
(1)所定の厚みを有する第1鋼材の一部を、所定の厚みを有する第2鋼材上に重ねた状態で、前記第1鋼材の縁部に沿って溶接部が形成されるように、前記縁部と前記第2鋼材の表面とを隅肉溶接する溶接工程を備え、
前記溶接工程では、前記溶接部の溶接線方向に直交する断面において、下記の(i)式、(ii)式および(iii)式が満たされるように、前記第1鋼材と前記第2鋼材とを溶接する、重ね隅肉溶接継手の製造方法。
≧6.0+2s-(t-T) ・・・(i)
0.5≦T≦3.0 ・・・(ii)
0.5≦t≦3.0 ・・・(iii)
上記式において、Wは第1鋼材および第2鋼材の重ね幅(mm)を表し、Tは第1鋼材の厚み(mm)を表し、tは第2鋼材の厚み(mm)を表し、sは第1鋼材と第2鋼材との隙間(mm)を表し、0以上である。
(2)前記第1鋼材と前記第2鋼材との隙間は0.2mm以上である、上記(1)に記載の重ね隅肉溶接継手の製造方法。
(3)前記溶接工程では、前記溶接部の溶接線方向に直交する前記断面において、下記の(iv)式が満たされるように、前記第1鋼材と前記第2鋼材とを溶接する、上記(1)または(2)に記載の重ね隅肉溶接継手の製造方法。
6.0+2s-(t-T)≦W≦8.0+2s-(t-T) ・・・(iv)
上記式において、Wは第1鋼材および第2鋼材の重ね幅(mm)を表し、Tは第1鋼材の厚み(mm)を表し、tは第2鋼材の厚み(mm)を表し、sは第1鋼材と第2鋼材との隙間(mm)を表し、0以上である。
(4)所定の厚みを有する第1鋼材の一部を、所定の厚みを有する第2鋼材上に重ねた状態で、前記第1鋼材の縁部に沿って溶接部が形成されるように前記縁部と前記第2鋼材の表面とを隅肉溶接して重ね隅肉溶接継手を製造する際の、前記第1鋼材と前記第2鋼材との重ね幅の設定方法であって、
前記溶接部の溶接線方向に直交する断面において、下記の(i)式、(ii)式および(iii)式が満たされるように、前記重ね幅を設定する、重ね隅肉溶接継手の重ね幅の設定方法。
≧6.0+2s-(t-T) ・・・(i)
0.5≦T≦3.0 ・・・(ii)
0.5≦t≦3.0 ・・・(iii) 上記式において、Wは第1鋼材および第2鋼材の重ね幅(mm)を表し、Tは第1鋼材の厚み(mm)を表し、tは第2鋼材の厚み(mm)を表し、sは第1鋼材と第2鋼材との隙間(mm)を表し、0以上である。
(5)前記第1鋼材と前記第2鋼材との隙間は0.2mm以上である、上記(4)に記載の重ね隅肉溶接継手の重ね幅の設定方法。
(6)前記溶接部の溶接線方向に直交する前記断面において、下記の(iv)式が満たされるように、前記重ね幅を設定する、上記(4)または(5)に記載の重ね隅肉溶接継手の重ね幅の設定方法。
6.0+2s-(t-T)≦W≦8.0+2s-(t-T) ・・・(iv)
上記式において、Wは第1鋼材および第2鋼材の重ね幅(mm)を表し、Tは第1鋼材の厚み(mm)を表し、tは第2鋼材の厚み(mm)を表し、sは第1鋼材と第2鋼材との隙間(mm)を表し、0以上である。
(7)所定の厚みを有する第1鋼材の一部が所定の厚みを有する第2鋼材上に重ねられ、前記第1鋼材の縁部に沿って形成された溶接部によって前記縁部と前記第2鋼材の表面とが隅肉溶接された重ね隅肉溶接継手であって、
前記溶接部の溶接線方向に直交する断面において、下記の(v)式、(ii)式および(iii)式を満たす、重ね隅肉溶接継手。
≧4.8+2s-(t-T) ・・・(v)
0.5≦T≦3.0 ・・・(ii)
0.5≦t≦3.0 ・・・(iii)
上記式において、Wは第1鋼材および第2鋼材の重ね幅(mm)を表し、Tは第1鋼材の厚み(mm)を表し、tは第2鋼材の厚み(mm)を表し、sは第1鋼材と第2鋼材との隙間(mm)を表し、0以上である。
(8)前記第1鋼材と前記第2鋼材との隙間は0.2mm以上である、上記(7)に記載の重ね隅肉溶接継手。
(9)前記溶接部の溶接線方向に直交する断面において、下記の(vi)式を満たす、上記(7)または(8)に記載の重ね隅肉溶接継手。
4.8+2s-(t-T)≦W≦7.2+2s-(t-T) ・・・(vi)
上記式において、Wは第1鋼材および第2鋼材の重ね幅(mm)を表し、Tは第1鋼材の厚み(mm)を表し、tは第2鋼材の厚み(mm)を表し、sは第1鋼材と第2鋼材との隙間(mm)を表し、0以上である。
本発明によれば、重ね隅肉溶接継手の割れの発生を適切に抑制することができる。
図1は、重ね隅肉溶接継手の一例を示す図である。 図2は、図1の重ね隅肉溶接継手の溶接部の近傍を示す拡大断面図である。 図3は、解析結果を示す図である。 図4は、溶接継手の溶接部近傍の変形態様を説明するための図である。 図5は、溶接継手の溶接部近傍の変形態様を説明するための図である。 図6は、重ね隅肉溶接継手の製造方法を説明するための図である。 図7は、重ね隅肉溶接継手の変形例を示す図である。
(本発明者による検討)
本発明者は、重ね隅肉溶接継手の割れを防止する技術について詳細な検討を行った。具体的には、図1に示すような、2枚の鋼材10,12を備えた隅肉重ね溶接継手100(以下、溶接継手100と略記する。)において、鋼材12に生じる割れについて詳細な検討を行った。その結果、以下に説明する知見を得た。なお、図1において(a)は、溶接継手100を示す斜視図であり、(b)は、(a)の溶接継手100のb-b部分を示す概略断面図である。
図1に示す溶接継手100は、従来の一般的な隅肉重ね溶接継手と同様に、鋼材10の一部を鋼材12に重ねた状態で、鋼材10の縁部10aに沿って溶接部(溶接金属)14が形成されるように、縁部10aを鋼材12の表面12aに隅肉溶接することによって製造されたものである。
なお、図1には、鋼材10,12の積層方向X、溶接部14の溶接線方向Y、および積層方向Xと溶接線方向Yとに直交する方向Z(以下、溶接部14の幅方向Zとする。)が示されている。積層方向Xは、鋼材10および鋼材12の厚み方向に平行な方向である。本明細書では、積層方向Xにおいて鋼材10側を溶接継手100の表側とし、鋼材12側を溶接継手100の裏側とする。
溶接継手100の鋼材12において生じる割れについて本発明者が詳細な検討を行った結果、鋼材12の割れの発生には、溶接の際の鋼材12の変形が大きく影響することが分かった。また、本発明者の検討の結果、鋼材12の変形には、鋼材10と鋼材12との重ね幅W(鋼材10および鋼材12が互いに重なっている部分の幅方向Zにおける長さ)が影響することが分かった。以下、具体的に説明する。
本発明者は、有限要素法を用いた熱応力解析を行うことにより、溶接継手100の変形態様(冷却後の変形態様)について調査した。具体的には、溶接継手100を模擬した2次元解析モデルを作成し、重ね幅Wと冷却後の溶接継手100の溶接部14近傍に発生する幅方向Zのひずみとの関係ついて調査した。なお、溶接継手100を製造する際には、図2に示すように、種々の要因により、積層方向Xにおいて鋼材10と鋼材12との間に隙間sを設ける場合がある。本解析においても、鋼材10と鋼材12との間に、0.5mmの隙間を設けた。図3に、解析結果を示す。
なお、図3においては、溶接部14の近傍の解析結果を示している。図3(a)は、重ね幅Wを3mmに設定した解析モデルの解析結果を示し、図3(b)は、重ね幅Wを13mmに設定した解析モデルの解析結果を示す。本解析では、鋼材10,12としてそれぞれ、フェライト系ステンレス鋼(17Cr-1.2Mo-0.2Ti-0.09Si-0.02C,N)を想定した物性値を設定し、溶接部14として、オーステナイト系ステンレス鋼(日本ウェルディング・ロッド株式会社製のWEL MIG 308)を想定した物性値を設定した。鋼材10の厚みは1.0mmとし、鋼材10の幅方向Zの長さは60mmとした。鋼材12の厚みは1.0mmとし、鋼材12の幅方向Zの長さは60mmとした。また、本解析では、溶接時(加熱および冷却時)に、溶接継手100の溶接部近傍及び重なり部近傍以外(鋼材10は、鋼材12の重なり部12c(図4参照)の端部から5mmより外側、鋼材12は、重なり部12cの端部から30mmより外側)の板厚方向Xの変形が拘束されているものとした。
図3(a)に示すように、重ねWが小さい場合には、鋼材12の裏面12b側の部分のうち、鋼材12の厚み方向において溶接部14に対向する部分に引張ひずみが発生している。この場合、引張ひずみが発生した部分において、亀裂が発生しやすくなると考えられる。一方、図3(b)に示すように、重ねWが大きい場合には、鋼材12において溶接部14の近傍の部分に圧縮ひずみが発生している。この圧縮ひずみにより、鋼材12の裏面12b側において亀裂が発生することを防止できると考えられる。以下、図3(a),(b)に示したように、重ねWによって、ひずみの発生態様が異なる理由を説明する。
図4および図5は、溶接継手100の溶接部14近傍の変形態様を説明するための図であり、(a)は、加熱中の溶接継手100を示す図であり、(b)は、冷却中の溶接継手100を示す図である。なお、図4は、鋼材10と鋼材12との重ね幅を小さく設定した場合の変形態様を示す図であり、図5は、鋼材10と鋼材12との重ね幅を大きく設定した場合の変形態様を示す図である。
図4(a)に示すように、鋼材10と鋼材12との重ね幅が小さい場合には、溶接中に鋼材12が加熱されると、鋼材12の表面12a側が、溶接部14を中心として幅方向Zに熱膨張する。この熱膨張に伴って、鋼材12の裏面12b側も幅方向Zに伸長し、幅方向Zにおいて引張ひずみが生じる。なお、鋼材12のうち、幅方向Zにおいて溶接部14よりも鋼材10側の部分(以下、重なり部12cと記載する。)は、加熱時に高温になりやすい。このため、鋼材12において溶接部14の近傍の部分のうち、重なり部12c側には大きな拘束力は作用せず、熱膨張しやすい。一方、鋼材12のうち、溶接部14から見て重なり部12cとは反対側の部分(以下、非重なり部12dと記載する。)は、熱拡散によって冷却されやすい。このため、溶接部14の近傍の部分のうち非重なり部12d側は、非重なり部12dによって拘束されることによって変形が多少抑制される。このため、鋼材12の溶接部14近傍の部分では、重なり部12c側への熱膨張量が、非重なり部12d側への熱膨張量よりも大きくなりやすい。また、その後の冷却時には、図4(b)に示すように、溶接部14が熱収縮することによって、鋼材12には、溶接部14の溶接線方向Yから見て溶接部14を底部としてV字状に変形させようとする力が作用する。これにより、重なり部12cが鋼材10側に向かって湾曲し、鋼材12の裏面12bに、幅方向Zにおいて引張ひずみが生じる。これらの引張ひずみにより、鋼材12の裏面12b側において割れが生じると推定される。
図5(a)に示すように、鋼材10と鋼材12との重ね幅が大きい場合も同様に、溶接中に鋼材12が加熱されると、鋼材12の表面12a側が、溶接部14を中心として幅方向Zに熱膨張する。ただし、鋼材10と鋼材12との重ね幅が大きい場合には、熱拡散によって重なり部12cが冷却されやすく、重なり部12cの変形が抑制される。このため、鋼材10と鋼材12との重ね幅が大きい場合には、鋼材12において溶接部14の近傍の部分が、重なり部12c側および非重なり部12d側から拘束される。その結果、溶接部14の近傍において、鋼材12の裏面12b側の部分に圧縮ひずみが発生する。その後の冷却時には、図5(b)に示すように、溶接部14が熱収縮するが、鋼材12において溶接部14近傍の部分は重なり部12c側および非重なり部12d側から拘束されているので、図4(b)に示したような変形は生じない。これにより、鋼材12の裏面12b側に生じている圧縮ひずみが維持される。これらの圧縮ひずみにより、鋼材12の裏面12b側において割れが生じることを防止できると推定される。
以上のことから、鋼材12の割れは、鋼材10および鋼材12の重ね幅W(鋼材10および鋼材12が互いに重なっている部分の幅方向Zにおける長さ)を調整し、鋼材10によって鋼材12の変形を適切に拘束することで防止することができると考えられる。
なお、本発明者の検討の結果、鋼材12の変形は、鋼材12の厚みを大きくすることによっても抑制できることが分かった。特に、鋼材10に比べて鋼材12の厚みを大きくすることによって、割れを抑制しやすくなる。また、本発明者の検討の結果、鋼材10と鋼材12との隙間s(図2参照)も、鋼材12の割れ発生に大きく影響することが分かった。具体的には、隙間sが大きくなるほど、鋼材10による鋼材12の拘束が弱くなり、鋼材12が変形しやすくなる。その結果、鋼材12に割れが生じやすくなる。
上記の知見に基づいて、本発明者が鋼材10と鋼材12の適切な重ね幅についてさらに検討を進めた結果、溶接部14の溶接線方向Yに直交する断面において、下記の(i)式、(ii)式および(iii)式が満たされるように、鋼材10と鋼材12とを溶接することによって、鋼材12の割れ発生を抑制できることが分かった。
≧6.0+2s-(t-T) ・・・(i)
0.5≦T≦3.0 ・・・(ii)
0.5≦t≦3.0 ・・・(iii)
上記式において、Wは鋼材10および鋼材12の重ね幅(mm)を表し、Tは鋼材10の厚み(mm)を表し、tは鋼材12の厚み(mm)を表し、sは、鋼材10と鋼材12との隙間(mm)を表し、0以上である。
(本発明の実施形態)
以下、本発明の実施の形態に係る重ね隅肉溶接継手の製造方法について図面を用いて説明する。図6は、本発明の一実施形態に係る重ね隅肉溶接継手の製造方法を説明するための図である。以下においては、図1に示す溶接継手100を製造する場合について説明する。なお、本実施形態に係る重ね隅肉溶接継手の製造方法には、重ね隅肉溶接継手の重ね幅の設定方法が含まれる。本実施形態では、鋼材10が第1鋼材に対応し、鋼材12が第2鋼材に対応する。
図6(a)に示すように、溶接継手100を製造する際には、まず、鋼材10の一部を鋼材12上に重ねる。なお、本明細書において、鋼材10の一部を鋼材12上に重ねるとは、鋼材12の厚み方向から見て鋼材10の一部が鋼材12に重なるように鋼材10および鋼材12を配置することを意味する。したがって、鋼材10の一部を鋼材12上に重ねるとは、鋼材12に接触するように鋼材12上に鋼材10の一部を置く場合に限定されず、鋼材10と鋼材12との間に隙間が形成されるように鋼材12上に鋼材10の一部を配置する場合が含まれる。以下の説明では、上側に配置される鋼材を上側鋼材と記載し、下側に配置される鋼材を下側鋼材と記載する。
上側鋼材10および下側鋼材12の材料としては、例えば、炭素鋼またはステンレス鋼(フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、二相系ステンレス鋼等)等の種々の鋼を用いることができる。本実施形態では、例えば、Tiおよび/またはNbを含有したステンレス鋼が用いられる。本実施形態では、上側鋼材10および下側鋼材12のうち互いに重なる部分は、平坦な板形状を有している。本実施形態では、上側鋼材10および下側鋼材12はそれぞれ鋼板である。
上側鋼材10および下側鋼材12の厚みはそれぞれ、0.5mm以上3.0mm以下に設定される。なお、上述したように、上側鋼材10に比べて下側鋼材12の厚みを大きくすることによって、下側鋼材12の割れの発生を抑制しやすくなる。言い換えると、上側鋼材10に比べて下側鋼材12の厚みを十分に大きくできない場合には、下側鋼材12の割れの発生を抑制しにくくなる。このような場合でも、本発明によれば、下側鋼材12の割れの発生を適切に抑制できる。上側鋼材10の厚みと下側鋼材12の厚みの関係については後述する。
次に、図1および図6(b)に示すように、溶接機20(図6参照)および溶加材(図示せず)を用いて、上側鋼材10の縁部10aに沿って溶接部(溶接金属)14が形成されるように、上側鋼材10の縁部10aを下側鋼材12の表面12aに隅肉溶接する(溶接工程)。これにより、溶接継手100が製造される。溶接部14の下側鋼材12への溶け込み深さは、例えば、下側鋼材12の厚みの1/4以上3/4以下に設定される。なお、図6(b)においては、溶接機20のトーチが示されている。溶加材としては、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼または二相系ステンレス鋼を用いることができる。
本実施形態では、溶接工程における入熱量は、例えば150~300J/mmに設定され、溶接速度は、10~20mm/sに設定される。シールドガスとしては、例えば、アルゴンと酸素の混合ガスが用いられる。
溶接工程では、図示しない保持部材によって上側鋼材10および下側鋼材12を保持した状態で、上側鋼材10と下側鋼材12とが溶接される。図1、図2および図6を参照して、本実施形態では、溶接部14の溶接線方向Yに直交する断面において、下記の(i)式、(ii)式および(iii)式が満たされるように、上側鋼材10と下側鋼材12とを溶接する。
≧6.0+2s-(t-T) ・・・(i)
0.5≦T≦3.0 ・・・(ii)
0.5≦t≦3.0 ・・・(iii)
上記式において、Wは上側鋼材10および下側鋼材12の重ね幅(mm)を表し、Tは上側鋼材10の厚み(mm)を表し、tは下側鋼材12の厚み(mm)を表し、sは、上側鋼材10と下側鋼材12との隙間(mm)を表す。
本実施形態では、上側鋼材10と下側鋼材12との間の隙間sは、0mm以上に設定される。隙間sは設けなくてもよい。また、隙間sが存在するときは、隙間sの上限値は、1.0mm、上側鋼材10の厚みT(mm)および下側鋼材12の厚みt(mm)のうち最も小さい値以下に設定される。例えば、厚みTが0.4mmで、厚みtが0.6mmの場合、隙間sは、0.4mm以下に設定される。また、例えば、厚みTが1.2mmで、厚みtが1.1mmの場合、隙間sは、1.0mm以下に設定される。
なお、上述したように、隙間sが存在する場合、隙間sが大きくなるほど、下側鋼材12に割れが生じやすくなる。このため、本発明は、隙間sが存在する場合、すなわち、隙間sが0mmよりも大きい場合に好適に用いられ、0.1mm以上の場合により好適に用いられ、0.2mm以上の場合にさらに好適に用いられる。
また、隙間sが溶接線方向Yに連続的に存在している場合に、下側鋼材12に割れが生じやすくなる。このため、本発明の効果は、隙間sが0mmよりも大きい部分が、溶接線方向Yに沿って50mm以上連続して存在する溶接継手100において好適に用いられる。
上側鋼材10と下側鋼材12との重ね幅が大きくなり過ぎると、溶接継手100の重量が増加する。したがって、溶接継手100の軽量化を実現しつつ、下側鋼材12の割れ発生を防止するためには、溶接部14の溶接線方向Yに直交する断面において、下記の(iv)式が満たされるように、上側鋼材10および下側鋼材12を溶接することが好ましい。
6.0+2s-(t-T)≦W≦8.0+2s-(t-T) ・・・(iv)
上記式において、Wは上側鋼材10および下側鋼材12の重ね幅(mm)を表し、Tは上側鋼材10の厚み(mm)を表し、tは下側鋼材12の厚み(mm)を表し、sは上側鋼材10と下側鋼材12との隙間(mm)を表し、0以上である。
なお、溶接部14は上側鋼材10の縁部10aに溶け込むので、溶接継手100においては、上側鋼材10と下側鋼材12との重ね幅Wは、溶接前の上側鋼材10と下側鋼材12との重ね幅Wに比べて、0.8~1.2mm程度小さくなる。したがって、本実施形態に係る溶接継手100は、溶接部14の溶接線方向Yに直交する断面において、下記の(v)式を満たすことが好ましい。
≧4.8+2s-(t-T) ・・・(v)
上記式において、Wは上側鋼材10および下側鋼材12の重ね幅(mm)を表し、Tは上側鋼材10の厚み(mm)を表し、tは下側鋼材12の厚み(mm)を表し、sは上側鋼材と下側鋼材との隙間(mm)を表し、0以上である。
なお、本実施形態に係る重ね隅肉溶接継手では、図2に示すように、溶接部14のうち上側鋼材10側に最も溶け込んだ位置14aを上側鋼材10の端部として、溶接継手100における上側鋼材10および下側鋼材12の重ね幅Wが求められる。
また、溶接継手100の軽量化を実現しつつ、下側鋼材12の割れ発生を防止するためには、溶接部14の溶接線方向Yに直交する断面において、溶接継手100が、下記の(vi)式を満たすことが好ましい。
4.8+2s-(t-T)≦W≦7.2+2s-(t-T) ・・・(vi)
上記式において、Wは上側鋼材10および下側鋼材12の重ね幅(mm)を表し、Tは上側鋼材10の厚み(mm)を表し、tは下側鋼材12の厚み(mm)を表し、sは上側鋼材10と下側鋼材12との隙間(mm)を表し、0以上である。
(変形例)
上述の実施形態では、第1鋼材および第2鋼材として、鋼板(板状部材)を用いる場合について説明したが、第1鋼材および第2鋼材の形状は上述の例に限定されず、種々の形状の鋼材を第1鋼材および第2鋼材として用いることができる。例えば、第1鋼材および/または第2鋼材として、筒状の鋼材(鋼管)を用いてもよい。また、第1鋼材および/または第2鋼材として、種々の形状の成形品を用いてもよい。具体的には、例えば、図7に示すような溶接継手100に本発明を適用してもよい。
図7に示す溶接継手100では、上側鋼材10(外側の鋼材)および下側鋼材12(内側の鋼材)がともに筒形状を有している。本実施形態においても、上述した要件を満たすように溶接継手100を製造することによって、下側鋼材12の割れ発生を抑制することができる。なお、図7に示した溶接継手100では、上側鋼材10および下側鋼材12が円筒形状を有しているが、上側鋼材10および下側鋼材12が角筒形状を有していてもよい。また、上側鋼材10および下側鋼材12として、他の種々の形状の成形品を用いてもよい。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
図1および図2に示した溶接継手100と同様の構成を有する溶接継手を、上側鋼材10の厚みT、下側鋼材12の厚みt、上側鋼材10と下側鋼材12との隙間s、および上側鋼材10と下側鋼材12との重ね幅Wを変えて作製し、下側鋼材12の裏面12b側に発生する割れの有無を調査した。具体的には、試験板として、60mm×150mmの長方形の鋼板2枚を用意し、一方の鋼板(上側鋼材10)の裏面と他方の鋼板(下側鋼材12)の表面とが長辺側において重さなるように配置し、上側の鋼板の板厚方向に延びる一つの端面と、これにほぼ直交する下側の鋼板の表面とが接合するようにアーク溶接を行い、溶接継手を得た。溶接部14の下側鋼材12への溶け込み深さは、下側鋼材12の厚みの1/2とした。また、溶接部14の長さは100mmとした。割れの発生の有無は、目視で確認した。具体的には、溶接線方向Yに沿って長さ2mm以上の亀裂が発生している場合に、割れが発生したと判定した。溶接条件および調査結果を下記の表1に示す。なお、上側鋼材10および下側鋼材12の材料としては、フェライト系ステンレス鋼(日鉄ステンレス株式会社製のNSSC436S:17Cr-1.2Mo-0.2Ti-0.09Si-0.02C,N)およびオーステナイト系ステンレス鋼(SUS316L)を用いた。溶加材としては、オーステナイト系ステンレス鋼(日本ウェルディング・ロッド株式会社製のWEL MIG 308)を用い、シールドガスは、Ar+2%Oとした。
表1において、重ね幅Wは、図2および図6に示したように、溶接時における上側鋼材10および下側鋼材12の重ね幅を表し、重ね幅Wの下限値Wは、上述の(i)式の右辺によって求めた値であり、重ね幅Wは、図2に示したように、溶接継手100における上側鋼材10および下側鋼材12の重ね幅を表す。また、重ね幅Wの下限値は、上述の(v)式の右辺によって算出される値である。
Figure 2023147358000002
表1に示すように、溶接時の鋼材10および鋼材12の重ね幅Wが下限値W以上であったNo.2、3、5、6、8、9、11、12、14、15、19、20の本発明例の溶接継手では、鋼材12の裏面12bにおいて割れが発生しなかった。
一方、溶接時の鋼材10および鋼材12の重ね幅Wが下限値Wよりも小さかったNo.1、4、7、10、13、16~18の比較例の溶接継手では、鋼材12の裏面12bにおいて割れが発生した。
以上の結果から、本発明の要件を満たした重ね隅肉溶接継手の製造方法によれば、溶接継手において割れが発生することを抑制することができることが分かる。
本発明によれば、第1鋼材と第2鋼材との重ね幅を適切に設定することによって、重ね隅肉溶接継手の割れの発生を抑制することができる。
10,12 鋼材
10a 縁部
12a 表面
12b 裏面
14 溶接部
100 溶接継手

Claims (9)

  1. 所定の厚みを有する第1鋼材の一部を、所定の厚みを有する第2鋼材上に重ねた状態で、前記第1鋼材の縁部に沿って溶接部が形成されるように、前記縁部と前記第2鋼材の表面とを隅肉溶接する溶接工程を備え、
    前記溶接工程では、前記溶接部の溶接線方向に直交する断面において、下記の(i)式、(ii)式および(iii)式が満たされるように、前記第1鋼材と前記第2鋼材とを溶接する、重ね隅肉溶接継手の製造方法。
    ≧6.0+2s-(t-T) ・・・(i)
    0.5≦T≦3.0 ・・・(ii)
    0.5≦t≦3.0 ・・・(iii)
    上記式において、Wは第1鋼材および第2鋼材の重ね幅(mm)を表し、Tは第1鋼材の厚み(mm)を表し、tは第2鋼材の厚み(mm)を表し、sは第1鋼材と第2鋼材との隙間(mm)を表し、0以上である。
  2. 前記第1鋼材と前記第2鋼材との隙間は0.2mm以上である、請求項1に記載の重ね隅肉溶接継手の製造方法。
  3. 前記溶接工程では、前記溶接部の溶接線方向に直交する前記断面において、下記の(iv)式が満たされるように、前記第1鋼材と前記第2鋼材とを溶接する、請求項1または2に記載の重ね隅肉溶接継手の製造方法。
    6.0+2s-(t-T)≦W≦8.0+2s-(t-T) ・・・(iv)
    上記式において、Wは第1鋼材および第2鋼材の重ね幅(mm)を表し、Tは第1鋼材の厚み(mm)を表し、tは第2鋼材の厚み(mm)を表し、sは第1鋼材と第2鋼材との隙間(mm)を表し、0以上である。
  4. 所定の厚みを有する第1鋼材の一部を、所定の厚みを有する第2鋼材上に重ねた状態で、前記第1鋼材の縁部に沿って溶接部が形成されるように前記縁部と前記第2鋼材の表面とを隅肉溶接して重ね隅肉溶接継手を製造する際の、前記第1鋼材と前記第2鋼材との重ね幅の設定方法であって、
    前記溶接部の溶接線方向に直交する断面において、下記の(i)式、(ii)式および(iii)式が満たされるように、前記重ね幅を設定する、重ね隅肉溶接継手の重ね幅の設定方法。
    ≧6.0+2s-(t-T) ・・・(i)
    0.5≦T≦3.0 ・・・(ii)
    0.5≦t≦3.0 ・・・(iii)
    上記式において、Wは第1鋼材および第2鋼材の重ね幅(mm)を表し、Tは第1鋼材の厚み(mm)を表し、tは第2鋼材の厚み(mm)を表し、sは第1鋼材と第2鋼材との隙間(mm)を表し、0以上である。
  5. 前記第1鋼材と前記第2鋼材との隙間は0.2mm以上である、請求項4に記載の重ね隅肉溶接継手の重ね幅の設定方法。
  6. 前記溶接部の溶接線方向に直交する前記断面において、下記の(iv)式が満たされるように、前記重ね幅を設定する、請求項4または5に記載の重ね隅肉溶接継手の重ね幅の設定方法。
    6.0+2s-(t-T)≦W≦8.0+2s-(t-T) ・・・(iv)
    上記式において、Wは第1鋼材および第2鋼材の重ね幅(mm)を表し、Tは第1鋼材の厚み(mm)を表し、tは第2鋼材の厚み(mm)を表し、sは第1鋼材と第2鋼材との隙間(mm)を表、0以上である。
  7. 所定の厚みを有する第1鋼材の一部が所定の厚みを有する第2鋼材上に重ねられ、前記第1鋼材の縁部に沿って形成された溶接部によって前記縁部と前記第2鋼材の表面とが隅肉溶接された重ね隅肉溶接継手であって、
    前記溶接部の溶接線方向に直交する断面において、下記の(v)式、(ii)式および(iii)式を満たす、重ね隅肉溶接継手。
    ≧4.8+2s-(t-T) ・・・(v)
    0.5≦T≦3.0 ・・・(ii)
    0.5≦t≦3.0 ・・・(iii)
    上記式において、Wは第1鋼材および第2鋼材の重ね幅(mm)を表し、Tは第1鋼材の厚み(mm)を表し、tは第2鋼材の厚み(mm)を表し、sは第1鋼材と第2鋼材との隙間(mm)を表し、0以上である。
  8. 前記第1鋼材と前記第2鋼材との隙間は0.2mm以上である、請求項7に記載の重ね隅肉溶接継手。
  9. 前記溶接部の溶接線方向に直交する断面において、下記の(vi)式を満たす、請求項7または8に記載の重ね隅肉溶接継手。
    4.8+2s-(t-T)≦W≦7.2+2s-(t-T) ・・・(vi)
    上記式において、Wは第1鋼材および第2鋼材の重ね幅(mm)を表し、Tは第1鋼材の厚み(mm)を表し、tは第2鋼材の厚み(mm)を表し、sは第1鋼材と第2鋼材との隙間(mm)を表し、0以上である。
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