JP5377242B2 - 位相差フィルムの製造方法 - Google Patents
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近年、光学的な設計技術の進歩により、また、消費者へのLCDの訴求力向上のために、様々な光学設計に対応可能な位相差フィルムが求められるようになってきている。例えば、液晶表示モードの一種であるインプレーンスイッチング(IPS)モードは、位相差フィルムを用いることなく広い視野角を実現できることが特長である。しかし、液晶セルの光学的な特性上、斜め方向から画面をみたときに光漏れが発生し、いわゆる「黒浮き」による表示画像のコントラストの低下が生じる。一方、IPSモードと競合する液晶表示モードに垂直配向(VA)モードがあるが、VAモードでは、IPSモードのような広い視野角は得られないものの、光漏れの少ない、高コントラストの画像表示を実現できる。現在、VAモードにおける視野角拡大の技術が急速に進歩しており、これに対抗するために、位相差フィルムの配置によるIPSモードでの光漏れの抑制が求められている。
IPSモードの液晶セルにおける厚さ方向の屈折率は、面内方向の屈折率よりも小さい。このため、光漏れの抑制には、厚さ方向の位相差Rthが負となる位相差フィルムが必要となる。厚さ方向の位相差Rthは、フィルムの面内方向の主屈折率と主屈折率に直行する方向の屈折率をnx、ny、フィルムの厚さ方向の屈折率をnz、フィルムの厚さをdとしたときに、Rth={(nx+ny)/2−nz}×dで表わされる値である。厚さ方向の位相差Rthが負の位相差フィルムは、ポリカーボネート(PC)やシクロオレフィン(COP)など、正の固有複屈折を有する樹脂フィルムを厚み方向へ延伸(Z軸延伸)することによって得られるが、生産性や均一性の面でまだまだ課題が多いのが現状である。これに対し、負の固有複屈折を有する樹脂フィルムであれば、縦横二軸に延伸することにより、簡便に得ることができる。
ところで、成形加工性や表面硬度などのバランスが良く、高い光線透過率や低波長依存性などの光学特性に優れているポリメタクリル酸メチル(PMMA)は光学材料として広く使用されているが、負の固有複屈折を有しており、PMMAからなるフィルムの延伸により、負の位相差フィルムが得られる(特許文献1)。しかし、PMMAからなる位相差フィルムのガラス転移温度(Tg)は100℃程度と低く、より高いTgが求められる用途への使用(より高い耐熱性が求められる用途への使用:例えば、画像表示装置への使用)が困難である。
他方、透明性と耐熱性とを兼ね備えたアクリル樹脂として、主鎖に環構造を有するアクリル系重合体を含む樹脂が開発されている。例えば、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体をラクトン環化縮合反応させることによって得られる主鎖にラクトン環構造を含む重合体(例えば、特許文献2および3参照)やグルタルイミド環構造を含む重合体(例えば、特許文献4参照)、グルタル酸無水物構造を含む重合体(例えば、特許文献5参照)などにおいて、それらの位相差フィルムなどの光学フィルム用途への応用が進められている。
これらの主鎖に環構造を有するアクリル系重合体を含むフィルムは、アクリル樹脂本来の光線透過率や低波長依存性などの優れた光学特性を維持しながら、耐熱性を付与することが出来たが、反面、主鎖の環構造環構造が正の固有複屈折を有しているため、負の位相差フィルムへの適用は困難であった。そこで、特許文献4では、負の固有複屈折を付与するスチレン系単量体を共重合した主鎖にグルタルイミド環構造を含む重合体を含む負の位相差フィルムが開示されている。
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、簡便な方法で幅方向の位相差ムラを低減することができる位相差フィルムの製法を提供することを目的とする。
本発明の製造方法は、熱可塑性樹脂を、ダイスを用いてシート状に溶融押出しし、冷却ドラムにて該シート状物を冷却し、フィルムの左右横端部から100mmまでの膜厚の両最大値が、共に、フィルムの両横端部からそれぞれ100mmの部分を除いたフィルム中央部の平均膜厚の105%以上130%以下であり、フィルムの両横端部からそれぞれ100mmまでの両最小膜厚が、共に、前記平均膜厚の50%以上95%以下である光学用未延伸フィルムを得る工程(a)、及び得られた未延伸フィルムを延伸して延伸フィルムを得る工程(b)とを含むことを特徴とする位相差フィルムの製造方法である。
本発明の製造方法は、前記延伸フィルムを得る工程(b)が、未延伸フィルムを縦延伸して一軸延伸フィルムを得た後、更に横延伸して二軸延伸フィルムとする請求項2記載の位相差フィルムの製造方法である。
本発明の製造方法は、工程(b)にて得られた延伸フィルムの両横端部をスリットして除去する工程を更に含む、位相差フィルムの製造方法である。
本発明の製造方法は、前記熱可塑性樹脂が、スチレン系重合体を含む熱可塑性樹脂である位相差フィルムの製造方法である。
本発明の製造方法は、前記熱可塑性樹脂が、主鎖に環構造を有するアクリル系重合体を含む位相差フィルムの製造方法である。
本発明の製造方法で得られる位相差フィルムは、例えば液晶表示装置などの画像表示装置に好適に使用できる。また、本発明の製造方法により得られた位相差フィルムを用いた画像表示装置は、斜めから画面を見たときの光漏れが少ないなど、画像表示特性に優れる。
また、本明細書における「樹脂」は「重合体」よりも広い概念である。樹脂は、例えば1種または2種以上の重合体からなってもよいし、必要に応じて、重合体以外の材料、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラーなどの添加剤、相溶化剤、安定化剤などを含んでいてもよい。
[位相差フィルムの製造方法]
本発明の位相差フィルムの製造方法は、フィルムの流れ方向(長手方向)の屈折率をnx、フィルムの幅方向の屈折率をny、フィルムの厚さ方向の屈折率をnz、フィルムの厚さをdとしたときに、Re=(nx−ny)×dで表わされる面内位相差Reが50〜300nm、Rth={(nx+ny)/2−nz}×dで表わされる厚さ方向位相差Rthが−300〜−30nmである負の位相差フィルムの製造方法であって、原フィルムのガラス転移温度をTg℃としたとき、(Tg+20)℃以上で縦延伸後、(Tg+20)℃未満で横延伸する多段延伸する製造方法である。
本明細書における屈折率nx、ny、nzは、波長589nmの光に対する屈折率であり、本明細書では、このような厚さ方向の位相差Rthが負であるフィルムを「負の位相差フィルム」と定義する。ここで、ガラス転移温度とは、ポリマー分子がミクロブラウン運動を始める温度であり、各種の測定方法があるが、本明細書においては、示差走査熱熱量計(DSC)によって、JIS K7121に準拠して、始点法で求めた温度である。
本発明の位相差フィルムの製造方法は、延伸後の強度の低い位相差フィルムに有効であり、熱可塑性樹脂のガラス転移温度が110℃〜200℃であるものに効果的であり、更にスチレン系重合体を含む熱可塑性樹脂に好適な発明である。
本発明の位相差フィルムの製造方法において、原フィルムの膜厚は50μm〜500μmが好ましい。原フィルムは熱可塑性樹脂を含むフィルムであれば未延伸フィルムであっても、延伸フィルムであってもよく、単層構造であっても積層構造であってもよい。
本発明の位相差フィルムの製造方法は後述する負の固有複屈折を有する熱可塑性樹脂からなることが好ましいことから、縦延伸後のフィルムの遅相軸はフィルムの略幅方向となることが好ましく、横延伸後のフィルムの遅相軸はフィルムの略流れ方向となることが好ましい。
次に、本発明の位相差フィルムの具体的製法を示す。
フィルムを成形する方法としては、溶融押出法と呼ばれる従来公知の方法が可能である。溶融押出法はT型ダイスやコートハンガーダイ等を装着した押出機、或いはインフレーション法によって、熱可塑性樹脂、或いは、必要によりその他の重合体やその他の添加剤などを予め混練した熱可塑性樹脂を加熱溶融にて押し出し、得られるフィルムを引き取ることにより任意の厚みを持つフィルムとする方法である。
本発明の位相差フィルムは、延伸前の未延伸フィルムの状態での膜厚は、フィルムの中央部分と両端部で異なることを特徴としている。フィルムの両横端部からそれぞれ100mmの部分を除いた中央部分(ロ)の平均膜厚は、20〜600μmが好ましく、より好ましくは50〜500μmである。膜厚が20μmより薄いと強度に乏しく、安定に延伸することが困難となり、膜厚が400μmより厚いと液晶表示装置の薄型化に不利となる。
また、フィルムの左右横端部から100mmまでの膜厚の両最大値(イ)については、フィルムの両横端部からそれぞれ100mmの部分を除いた中央部分の105%以上130%以下であることが好ましく、より好ましくは110%以上120%以下である。105%より小さい場合には、縦延伸後のフィルム端部が弛んだり、テンター延伸機でのクリップ不良の原因となり、120%より大きいと、縦延伸で延伸されにくくひび割れが生じ、その部分がフィルム破断の原因となる。
さらに、フィルムの左右横端部から100mmまでの両最小膜厚(ハ)については、フィルムの両横端部からそれぞれ100mmの部分を除いた中央部分の50%以上95%以下であることが好ましく、より好ましくは60%以上90%以下である。50%より小さい場合には強度に乏しく、95%より大きい場合には縦延伸後にテンター延伸機に通す際、クリップクリップ不良の原因となる。
次に、本発明における延伸方法の具体的方法を示す。
(1.オーブン縦延伸)
オーブン縦延伸機はオーブン入口側と出口側にある搬送ロールとオーブンとから構成される。
オーブン入口側と出口側にある搬送ロールに周速差をつけることによってフィルム流れ方向に延伸を行う。また、オーブンはフィルムを延伸可能な温度まで加熱すると共に、延伸後のフィルムに熱処理効果を与える。
(2.ロール縦延伸)
ロール縦延伸機は、加熱可能な多数のロール或いはニップロール(予熱ロール)、と冷却可能な多数のロール或いはニップロール(冷却ロール)とから構成される。フィルムは多数の加熱ロールに連続接触しながら延伸する温度まで余熱され、冷却ロールとの短区間のニップロール間で延伸された後、冷却ロールによって冷却される。
(3.テンター横延伸)
フィルムの幅方向に延伸する装置であり、幅方向への延伸はグリップ式でもピン式でもかまわないが、フィルムの引き裂けが生じにくいことから、グリップ式がより好ましい。グリップ式のテンター延伸機は横延伸用のクリップ走行装置とオーブンとから構成される。クリップ走行装置はフィルムの横端部をクリップで掴んで搬送すると同時にクリップ走行装置のガイドレールを開いて左右2列のクリップ間の距離を広げることによって延伸する。なお、フィルムの流れ方向にもクリップの拡縮機能を持たせた同時二軸延伸機であっても良い。また、オーブンはフィルムを延伸可能な温度まで加熱すると共に、延伸後は必要に応じて熱処理を行い、その後冷却する。
いずれの場合においても、フィルムの加熱は、熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度をTgとしたとき、Tg−10℃〜Tg+50℃が好ましく、より好ましくはTg−5℃〜Tg+30℃である。
なお、未延伸フィルムを得る工程から延伸を行う工程は連続的に行っても良いし、未延伸フィルムを得る工程後に中間スプールとして巻き取ってから、非連続に延伸を行う工程にかけてもよい。
また横延伸は、厚みムラや位相差ムラの観点から、前段の延伸工程として延伸倍率の50〜95%まで延伸を実施した後に、残りの5〜50%を延伸することが好ましい。前段の延伸工程における延伸の割合は50〜95%が好ましく、より好ましくは、55〜90%、さらに好ましくは、65〜90%である。後段の延伸工程における延伸の割合は5〜50が好ましく、より好ましくは10〜45%、さらに好ましくは10〜35%である。前段の延伸工程における延伸温度の最高温度がT1℃であるとき、後段の延伸工程の延伸温度は(T1−12)℃〜(T1−2)℃であることが好ましく、より好ましくは、(T1−10)℃〜(T1−4)℃であり、さらに好ましくは(T1−9)℃〜(T1−5)℃。である。前記の延伸割合や温度範囲を外れると、厚みムラや光軸ムラが大きくなる傾向がある。また、延伸温度がTgに達するまで延伸は行わないことが好ましい。これにより、厚みムラ、位相差ムラが小さい位相差フィルムとすることができる。なおここでいう横延伸工程とは、加熱、延伸、冷却の一連の操作を一つの工程として指し、同時二軸延伸については、横方向(幅方向)の延伸倍率についてのみ横延伸工程として計算するものとする。
また、縦延伸時と横延伸時の延伸温度の温度差は5℃以上であることが好ましく、10℃〜60℃がより好ましく、20℃〜50℃がさらに好ましい。温度差が5℃未満であるときは、目的とする位相差を発現することが難しく、60℃以上ではフィルムの製膜が難しくなるために好ましくない。
縦延伸における延伸倍率は1.1倍以上であることが好ましく、1.2倍〜5倍がより好ましく、1.3倍〜3倍がさらに好ましい。1.1倍未満であると十分な強度が発現されなくなるおそれがある。
横延伸における延伸倍率は1.2倍以上であることが好ましく、1.3倍〜5倍がより好ましく、1.5倍〜4倍がさらに好ましい。1.2倍未満であると十分な強度と所望する位相差が発現できないおそれがある。
[位相差フィルム]
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムは、面内位相差Reが50〜300nm、厚さ方向の位相差Rthが−300〜−30nmである位相差フィルムである。
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムにおいて、屈折率nx、ny、nzは、nz≧nx>ny、nz>nx≧nyまたはnx>nz>nyの関係にあり、厚さ方向の位相差Rthは負となる。負の位相差フィルムでは、屈折率nx、ny、nzは、nz≧nx>ny、nz>nx≧nyまたはnx>nz>nyの関係にあり、nx、ny、nzが、nz=nx>nyの関係にあるとき、位相差フィルムはネガティブAプレートとなる。nx、ny、nzが、nz>nx=nyの関係にあるとき、位相差フィルムはポジティブCプレートとなる。nx、ny、nzは、nx>nz>nyかつnz>(nx+ny)/2の関係にあってもよい。
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムのガラス転移温度(Tg)が110℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度(Tg)の下限は、好ましくは110℃以上、より好ましくは115℃以上、さらに好ましくは120℃以上であり、上限は200℃以下、より好ましくは180℃以下である。
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムは、MIT耐折度試験回数はフィルムの流れ方向(長手方向、MD方向)と幅方向(TD方向)とでは、流れ方向の方が小さく、幅方向の方が大きくなり、フィルムの流れ方向におけるMIT耐折度試験回数は3回以上であることが好ましく、10回以上であることがより好ましい。本明細書において、フィルムの流れ方向のMIT耐折度試験回数は、折り曲げ線が製膜時のフィルムの流れ方向と平行となるように切り出した試験片を、MIT耐折度試験機を用いて、荷重200gの条件で、JIS P8115に準拠して測定した回数の平均値である。
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムは、フィルムの幅方向に50mm離れた2点の面内位相差値の差、及び厚み位相差値の差がともに1nm以下であることが好ましく、0.7nm以下であることがより好ましく、0.5nm以下であることが更に好ましい。
光軸ムラがフィルムの幅方向の中心を基準として±3°以内であることが好ましく、±2°以内であることがより好ましく、±1°以内であることがさらに好ましい。光軸ムラは、位相差フィルムの屈折率異方性を測定することにより、その遅相軸の方向を光軸として、フィルムの幅方向における最大値と最小値との差として求めた値である。
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムの厚さは特に限定されないが、例えば10μm〜500μmであり、20μm〜300μmが好ましく、30μm〜100μmが特に好ましい。
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムは、全光線透過率が85%以上であることが好ましい。より好ましくは90%以上、さらに好ましくは91%以上である。全光線透過率は、透明性の目安であり、85%未満であると透明性が低下し、光学フィルムとして適さない。
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムは、後述する負の固有複屈折を有する熱可塑性樹脂(以下、熱可塑性樹脂(A))からなることが好ましい。
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムは、厚さ方向の位相差Rthおよび面内位相差Reが上記範囲にある負の位相差フィルムであり、IPSモードのLCDに配置することにより、斜めから画面を見たときの光漏れを抑制できる。また、高コントラストおよび低い色ずれの画像表示を実現できる。
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムにおけるRthおよびReの値、ならびに屈折率nx、nyおよびnzの関係は、目的とする光学特性に応じて選択できる。
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムは、一軸延伸性であっても二軸延伸性であってもよい。位相差など、目的とする光学特性に応じて選択できる。
本発明の製造方法によって得られた位相差フィルムに、光学特性が同一または異なる2以上の層を積層された積層構造を形成してもよい。
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムの用途は特に限定されず、従来の位相差フィルムと同様の用途への使用が可能である。より具体的には、得られた位相差フィルムを、IPSモード、OCB(optically compensated birefringence)モードのLCDにおける光学補償フィルムとして使用できる。
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムは、その位相差および波長分散性の調整を目的として、他の光学部材(例えば位相差フィルム、偏光板など)と組み合わせることができる。
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムの原フィルムは公知の手法により形成することができ、特に限定されない。熱可塑性樹脂(A)が溶液状である場合、例えばキャスト成形すればよい。熱可塑性樹脂(A)が固形状である場合、溶融押出やプレス成形などの成形手法を用いればよい。
本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムは、液晶表示装置用の光学補償部材として好適に用いられ、特に、OCBモードやIPSモードの液晶表示装置の位相差フィルムとして好適に用いられる。偏光板の偏光子保護フィルムとして、本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムを用いてもよい。
[熱可塑性樹脂(A)]
熱可塑性樹脂(A)は、ガラス転移温度が110℃以上である限り、特に限定されないが、負の固有複屈折を有する重合体を含む。負の固有複屈折を有する重合体としては、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体などのスチレン系重合体;ポリメチルメタクリラートなどのアクリル系重合体;フルオレン骨格を有するポリカーボネート系重合体;N−ビニルカルバゾール、N−ビニルピロリドンなどの複素環を有するビニル化合物との共重合体などが挙げられ、他の重合体との相溶性にすぐれることからスチレン系重合体が好ましい。
ここで、重合体の固有複屈折とは、当該重合体の分子鎖が一軸配向した層を想定したときに、当該層における分子鎖が配向する方向(配向軸)に平行な方向の光の屈折率から、配向軸に垂直な方向の光の屈折率を引いた値をいう。樹脂の固有複屈折は、当該樹脂が含む各重合体の固有複屈折の兼ね合いにより決定される。
スチレン系重合体としては負の固有複屈折を有する以外は特に限定されず、スチレン系単量体に由来する構成単位(スチレン単位)を含む公知のスチレン系重合体を使用できる。スチレン系単量体としては特に限定されず、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、クロロスチレンなどが挙げられる。スチレン系重合体のスチレン単位の含有量は10質量%以上が好ましく、更に好ましくは30質量%以上、特に好ましくは50質量%以上である。
スチレン系重合体の具体的な種類は特に限定されないが、例えば、ポリスチレン、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−マレイミド共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体などであってもよい。後述するアクリル重合体との相容性に優れることから、アクリロニトリルやメタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体に由来する構成単位を含むスチレン系重合体が好ましく、アクリロニトリルに由来する構成単位を含むスチレン系重合体がより好ましく、アクリロニトリル−スチレン共重合体やアクリロニトリル−スチレン−マレイミド共重合体が特に好ましい。
なお、スチレン系重合体が後述するアクリル系重合体と相容性を有するか否かは、両者を混合して得た樹脂のTgを後述する方法によって測定することにより確認できる。一般的には、当該組成物のTgが1点のみ確認されれば、スチレン系重合体はアクリル系重合体と相容性を有しているといえる。
スチレン系重合体が、アクリロニトリル−スチレン共重合体である場合、当該共重合体の全構成単位におけるスチレン単位が占める割合は特に限定されないが、通常、60〜80質量%程度の範囲であればよい。
スチレン系重合体がアクリロニトリル−スチレン−マレイミド共重合体である場合、当該共重合体の全構成単位におけるスチレン単位が占める割合は特に限定されないが、通常、55〜80質量%程度の範囲であればよい。
スチレン系重合体はグラフト鎖にスチレン系重合体を有するゴム質重合体を含んでいてもよい。グラフト鎖にスチレン系重合体を有するゴム質重合体は、特に限定されないが、例えば、微粒子のアクリルゴムやブタジエンゴムなどの存在下にスチレン系単量体を含む単量体を重合することによって製造が可能である。
グラフト鎖にスチレン系重合体を有するゴム質重合体としては、グラフト鎖にアクリロニトリルに由来する構成単位を含むスチレン系重合体を有するゴム質重合体が好ましい。グラフト鎖がアクリロニトリルに由来する構成単位を含むと、アクリル重合体との相容性が向上するため、樹脂中でゴム質重合体が均一に分散し、得られる位相差フィルムの全光線透過率が向上する。具体的には、アクリルゴムやブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴムにアクリロニトリル−スチレン共重合体をグラフトしたASA樹脂やABS樹脂、AES樹脂が挙げられ、スチレン系重合体の負の固有複屈折を低下させないことから、ASA樹脂が特に好ましい。
スチレン系重合体の重量平均分子量は、好ましくは10,000〜500,000、より好ましくは50,000〜300,000である。
また、熱可塑性樹脂(A)はアクリル系重合体を含んでいてもよい。アクリル系重合体の固有複屈折は正であっても負であってもよい。
アクリル系重合体は、構成単位に(メタ)アクリル酸エステル単位を有する重合体であり、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、公知の熱可塑性アクリル系重合体を用いることが出来る。アクリル系重合体の(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は10質量%以上が好ましく、更に好ましくは30質量%以上、特に好ましくは50質量%以上である。
(メタ)アクリル酸エステル単量体の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ベンジル;(メタ)アクリル酸クロロメチル;(メタ)アクリル酸2−クロロエチル;(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル;(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル;(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル;(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられ、これらの(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構造単位のうち1種を単独で含んでいてもよいし、2種以上併存してもよい。中でも、熱安定性や光学特性に優れる点で(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチルが最も好ましい。
アクリル系重合体は、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体由来以外の構造単位を含んでも良く、(メタ)アクリル酸エステル単量体以外の単量体を含む単量体混合物を重合して得られる。(メタ)アクリル酸エステル単量体以外の単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、クロロスチレン、酢酸ビニル、メタリルアルコール、アリルアルコール、2−ヒドロキシメチル−1−ブテンなどのアリルアルコール、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−ヒドロキシエチルスチレン、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルなどの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾールなどが挙げられ、これらの単量体は1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
熱可塑性樹脂(A)は、正の固有複屈折を有する重合体をさらに含んでいてもよい。
正の固有複屈折を有する重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィン系重合体;ノルボルネン樹脂などの環状オレフィン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系重合体;三酢酸セルロースなどのセルロース系重合体;ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系重合体;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリアミドイミドなどが挙げられるが、負の固有複屈折を有する重合体との相溶性にすぐれることから、正の固有複屈折を有するアクリル系重合体(以下、アクリル系正重合体(B))が好ましい。
ポリメチルメタアクリレートなどのアクリル系重合体は通常、負の固有複屈折を有するが、アクリル系重合体に正の固有複屈折を付与する方法としては、正の固有複屈折を有する環構造をアクリル系重合体の主鎖に導入することや、正の固有複屈折を有する構造単位を構成する単量体単位を共重合することが考えられる。
正の固有複屈折を有する環構造としては、ラクトン環構造やグルタル酸無水物構造、グルタルイミド構造、無水マレイン酸由来の環構造が挙げられ、耐熱性からはラクトン環構造とグルタルイミド構造を有するものが好ましい。
アクリル系正重合体(B)は、前記アクリル系重合体と同様に、構成単位に(メタ)アクリル酸エステル単位を有する重合体であり、固有複屈折が正である限り特に限定されず、公知の熱可塑性アクリル系重合体を用いることが出来る。アクリル系正重合体(B)の(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は10質量%以上が好ましく、更に好ましくは30質量%以上、特に好ましくは50質量%以上である。また、アクリル系正重合体(B)が主鎖に環構造を有する場合には、全構成単位に占める(メタ)アクリル酸エステル単位の割合と環構造の含有率との合計は30質量%以上が好ましく、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90%質量以上である。
(メタ)アクリル酸エステル単量体の好ましい具体例としては、前記の(メタ)アクリル酸エステル単量体が挙げられ、これらの(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構造単位のうち1種を単独で含んでいてもよいし、2種以上併存してもよい。中でも、熱安定性や光学特性に優れる点で(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチルが最も好ましい。また、(メタ)アクリル酸ベンジルは弱いながらもアクリル系正重合体(B)に正の固有複屈折を与える作用を有している。
アクリル系正重合体(B)は、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体由来以外の構造単位を含んでも良く、(メタ)アクリル酸エステル単量体以外の単量体を含む単量体混合物を重合して得られる。(メタ)アクリル酸エステル単量体以外の単量体としては、前記の単量体などが挙げられ、これらの単量体は1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
アクリル系正重合体(B)は(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む単量体混合物を重合して得られ、製法は公知の製法を適用出来る。また、主鎖に環構造を有する場合も公知の製法が可能であり、マレイミドや無水マレイン酸などの環構造を有する単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む単量体混合物を共重合する方法や、水酸基や酸基などの反応性基を有する単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む単量体混合物を共重合した後に、環化反応により主鎖に環構造を導入する方法が考えられる。重合後の環化反応で主鎖に環構造を導入することが好ましく、その場合の環構造としては、ラクトン環構造、およびグルタルイミド構造、グルタル酸無水物構造などが挙げられる。例えば、ラクトン環構造を含有するアクリル樹脂の製法については、特開2006−96960号公報や特開2006−171464号公報や特開2007−63541号公報に記載の製造方法による製造が可能である。また、グルタル酸無水物構造やグルタルイミド構造を含有する熱可塑性アクリル系重合体については、WO2007/26659号公報やWO2005/108438号公報などに記載の製法を用いればよい。
主鎖のラクトン環構造に関しては、4〜8員環でもよいが、構造の安定性から5〜6員環の方がより好ましく、6員環が更に好ましい。また、主鎖のラクトン環構造が6員環である場合、一般式(1)や特開2004−168882号公報で表される構造などが挙げられるが、主鎖にラクトン環構造を導入する前の重合体を合成する上において重合収率が高い点や、ラクトン環構造の含有割合の高い重合体を得易い点、更にメタクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステルとの共重合性が良い点で、一般式(1)で表される構造であることが好ましい。
アクリル系正重合体(B)のガラス転移温度は110℃以上が好ましい。より好ましくは115℃以上、さらに好ましくは120℃以上である。またガラス転移温度の上限は特に限定されないが、成形性からは200℃以下が好ましい。
アクリル系正重合体(B)の重量平均分子量は、好ましくは10,000〜300,000、より好ましくは30,000〜300,000、更に好ましくは50,000〜250,000、特に好ましくは、80,000〜200,000である。
熱可塑性樹脂(A)は、相溶性にすぐれる負の固有複屈折を有するスチレン系重合体とアクリル系重合体とを含むことが好ましい。熱可塑性樹脂(A)を構成する、スチレン系重合体の含有割合、およびアクリル系重合体の含有割合を調整することにより、位相差を幅広く制御することが可能である。これにより、スチレン系重合体とアクリル系重合体の相溶性が良好であるため、透明性の高い位相差フィルムが得られる。また、スチレン系重合体として前記グラフト鎖にスチレン系重合体有するゴム質重合体を用いる場合、グラフト鎖がアクリロニトリルに由来する構成単位を含むと、アクリル重合体との相容性が向上するため、樹脂中でゴム質重合体が均一に分散し、得られる位相差フィルムの全光線透過率が向上する。このとき、アクリル系重合体は、アクリル系正重合体(B)であってもよい。
熱可塑性樹脂(A)は、アクリル系重合体とスチレン系重合体以外のその他の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。これらのその他の熱可塑性樹脂は、特に種類は問わないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)等のオレフィン系ポリマー;ノルボルネン樹脂等の環状オレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂等の含ハロゲン系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル等のアクリルポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;三酢酸セルロース等のセルロース系ポリマー;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;スチレン系重合体をグラフト鎖に有しないゴム質重合体;などが挙げられる。
熱可塑性樹脂(A)は、その他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤:ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーや無機フィラー:樹脂改質剤;可塑剤;滑剤;などが挙げられる。位相差上昇剤、位相差低減剤などの光学特性を調整する添加剤や位相差安定剤、湿度安定剤などの光学安定性を向上させる添加剤を加えてもよい。熱可塑性樹脂(A)中のその他の添加剤の含有割合は、好ましくは10質量%未満、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下である。
熱可塑性樹脂(A)は、特に限定されないが、スチレン系重合体やアクリル系重合体および、その他の熱可塑性樹脂や添加剤などを、従来公知の混合方法にて混合することで製造できる。例えば、オムニミキサー等の混合機でプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練する方法を採用することができる。この場合、押出混練に用いる混練機は、特に限定されるものではなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機等の押出機や加圧ニーダー等、例えば、従来公知の混練機を用いることができる。成形温度は、好ましくは1800〜350℃、より好ましくは200〜320℃、更に好ましくは220℃〜300℃、特に好ましくは250℃〜300℃である。
尚、実施例において便宜上、下記略称を用いて説明する。
MMA:メタクリル酸メチル
MHMA:2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル
<ガラス転移温度>
各サンプルのガラス転移温度(Tg)はJIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温速度20℃/分で昇温して得られたDSC曲線から始点法により算出した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により以下の条件で求めた。
システム:東ソー社製GPCシステム HLC−8220
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)、流量:0.6ml/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー社製、PS−オリゴマーキット)
測定側カラム構成:ガードカラム(東ソー社製、TSKguardcolumn SuperHZ−L)、分離カラム(東ソー社製、TSKgel SuperHZM−M)2本直列接続
リファレンス側カラム構成:リファレンスカラム(東ソー社製、TSKgel SuperH−RC)
<メルトフローレート>
メルトフローレートはJIS K7210:1999の規定に準拠して、メルトインデクサー(テクノセブン製)を用い、試験温度240℃、荷重98N(10kgf)で測定した。
波長589nmにおける、フィルムの面内位相差値Re、厚み方向位相差値Rth、及び光軸は、大塚電子社製RETS−100を用いて測定した。
また、厚み方向位相差値Rthは、アッベ屈折率計で測定したフィルムの平均屈折率、膜厚d、40°傾斜させて測定した位相差値(Re(40°))、三次元屈折率nx、ny、nzの値を得た後、下記式から求めた。なお、フィルムの流れ方向の屈折率をnx、フィルムの幅方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnzとした。
厚み方向位相差Rth(nm)=d×{(nx+ny)/2−nz}
フィルムの膜厚dは、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ製)を用いて測定した。
なお、傾斜させる方向は、遅相軸を傾斜軸としたRe(S40°)と進相軸を傾斜軸としたRe(F40°)を測定し、Re(S40°)>Re(F40°)となる場合は遅相軸を傾斜軸とし、逆にRe(S40°)<Re(F40°)となる場合は進相軸を傾斜軸とした。
また、ロールフィルムの流れ方向に対して垂直にフィルムを切り出し、この切り出したエッジをRETS−100の基準バーに合わせて基準軸がぶれないようにサンプルをセットして測定した時の遅相軸の向きを光軸とした。
さらに、光軸ムラは得られたフィルムのセンター部分500mmを50mmピッチで光軸の測定を行い、その最大値と最小値の差から求めた。
フィルムのMIT回数は、MIT耐折度試験機(テスター産業製、BE−201型)を用いて、23℃、50%RHの状態に1時間以上静置させた、折り曲げ線が製膜時のフィルムの流れ方向に平行となる幅15mm、長さ90mmの試験フィルムを使用し、荷重200gの条件で、JIS P8115に準拠して測定し、5枚のサンプルの平均値を測定結果とした。
<製造例1>
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した反応釜に、MMA40部、MHMA10部、トルエン50部、アデカスタブ2112(ADEKA製)0.025部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温し、還流したところで、開始剤としてターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.05部を添加すると同時に、ターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート0.1部を3時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
[実施例1]
製造例1で得られた樹脂ペレット(1A)を、Tダイを有するベント付単軸押出機により溶融押出して未延伸フィルムを成膜した。
その際、Tダイのリップ間隔は、中央部が最も広く、両端部に近づくほど徐々に狭くなるようにした。具体的には、中央部の開度を100%とした場合、両端部は70%に設定した。
またTダイの温度設定は、中央部を265℃、両端部275℃、両端部側面を250℃に設定した。
これにより得られた未延伸フィルムは、両端エッジ部の膜厚の最高点は、両側とも端部で、その膜厚は、左側が中央部の平均膜厚の110%、右側が110%であった。また最低点は、左側が端部より65mmの位置、右側が端部より60mmの位置で、その膜厚は、左側が中央部の平均膜厚の72%、右側が70%であった。
この未延伸フィルムを温度130℃まで加熱して縦方向に1.9倍に延伸して一軸延伸フィルムを得、次いで一軸延伸フィルムを温度140℃まで加熱して横延伸機で2.2倍に延伸を行った後、両端部をそれぞれ200mmずつスリットして位相差ロールフィルムとして巻き取った。特に延伸に問題はなかった。
また、得られた位相差フィルムの光学特性を表1に示す。
[比較例1]
Tダイのリップ間隔を、中央部から両端部まで全て同じ開度に設定する以外は[実施例1]と同様に行った。
これにより得られた未延伸フィルムは、両端エッジ部の膜厚の最高点は、両側とも端部で、その膜厚は、左側が中央部の平均膜厚の140%、右側が143%であった。また最低点は、左側が端部より80mmの位置、右側が端部より84mmの位置で、その膜厚は、左側が中央部の平均膜厚の85%、右側が87%であった。
この未延伸フィルムを温度130℃まで加熱して縦方向に1.9倍に延伸して一軸延伸フィルムを得、次いで一軸延伸フィルムを温度140℃まで加熱して横延伸機で2.2倍に延伸を行った。
縦延伸では、時々エッジ部分からひび割れが発生し、それが元になってフィルム破断が生じることがあり、長尺の位相差フィルムロールサンプルを得ることはできなかった。
また、得られた位相差フィルムの光学特性を表1に示す。
[比較例2]
Tダイのリップ間隔を、両端部を40%に設定する以外は[実施例1]と同様に行った。
これにより得られた未延伸フィルムは、両端エッジ部の膜厚の最高点は、両側とも端部で、その膜厚は、左側が中央部の平均膜厚の108%、右側が109%であった。また最低点は、左側が端部より48mmの位置、右側が端部より45mmの位置で、その膜厚は、左側が中央部の平均膜厚の40%、右側が41%であった。
この未延伸フィルムを温度130℃まで加熱して縦方向に1.9倍に延伸して一軸延伸フィルムを得た。この縦延伸フィルムはエッジ部分の薄い部分が中央部よりも延伸され易くフィルムの端部が弛んだ一軸延伸フィルムとなった。
この一軸延伸フィルムを温度140℃まで加熱して横延伸機で2.2倍に延伸を行った。横延伸では、端部の弛んだ部分を安定してクリップで掴むことができず、時々クリップはずれが生じて長尺の位相差フィルムロールサンプルを得ることはできなかった。
また、得られた位相差フィルムの光学特性を表1に示す。
[比較例3]
Tダイのリップ間隔を、両端部を120%に設定する以外は[実施例1]と同様に行った。
これにより得られた未延伸フィルムは、両端エッジ部の膜厚の最高点は、両側とも端部で、その膜厚は、左側が中央部の平均膜厚の188%、右側が189%であった。また最低点は、中央部であり、実施例1、比較例1、及び2で見られたような、エッジより数十mm内側の薄くなる部分は見られなかった。
この未延伸フィルムを温度130℃まで加熱して縦方向に1.9倍に延伸して一軸延伸フィルムを得ようとしたが、フィルム端部から破断が多発し、フィルムロールサンプルを得ることはできなかった。
[比較例4]
[実施例1]で得られた未延伸フィルムの両端をスリットし、全幅において膜厚ブレが2%以下としたフィルムを用いた以外は[実施例1]と同様に延伸を行った。
この未延伸フィルムを温度130℃まで加熱して縦方向に1.9倍に延伸して一軸延伸フィルムを得、次いで一軸延伸フィルムを温度140℃まで加熱して横延伸機で2.2倍に延伸を行った後、両端部をそれぞれ200mmずつスリットしてロールフィルムとして巻き取った。特に延伸に問題はなかったものの、得られた位相差フィルムは均一性に劣るものであった。
また、得られた位相差フィルムの光学特性を表1に示す。
ロ : フィルムの両横端部からそれぞれ100mmの部分を除いたフィルム中央部
ハ : フィルムの両横端部からそれぞれ100mmまでの両最小膜厚
Claims (5)
- 面内位相差Reが50〜300nm、厚さ方向位相差Rthが−30〜−300nmであり、幅方向に50mm離れた2点の面内位相差値の差、及び厚み位相差値の差がともに1nm以下であるアクリル系熱可塑性樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂からなる位相差フィルムの製造方法であって、フィルムの左右横端部から100mmまでの膜厚の両最大値が、共に、フィルムの両横端部からそれぞれ100mmの部分を除いたフィルム中央部の平均膜厚の105%以上130%以下であり、フィルムの両横端部からそれぞれ100mmまでの両最小膜厚が、前記平均膜厚の50%以上95%以下である光学用未延伸フィルムを延伸することを特徴とする、位相差フィルムの製造方法。
- フィルムの幅方向に50mm離れた2点の面内位相差値の差が1nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。
- フィルムの幅方向に50mm離れた2点の厚み位相差値の差が1nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の位相差フィルムの製造方法。
- 前記熱可塑性樹脂が、スチレン系重合体を含む熱可塑性樹脂である請求項1から3のいずれかに記載の位相差フィルムの製造方法。
- 前記熱可塑性樹脂が、主鎖に環構造を有するアクリル系重合体を含む請求項1から4のいずれかに記載の位相差フィルムの製造方法。
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