本明細書における「樹脂」は「重合体」よりも広い概念である。樹脂は、1種または2種以上の重合体を含みうるし、必要に応じて、重合体以外の材料、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラー、相溶化剤、安定化剤のような添加剤を含みうる。
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は、以下に示す具体的な実施形態に限定されない。
本発明の製造方法について、図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の製造方法を実施しうる加熱延伸装置1における、左右のクリップ群の走行状態の一例を模式的に示している。図1に示す装置1では、複数個のクリップにより構成される左側クリップ群および複数個のクリップにより構成される右側クリップ群の各々に属するクリップが、クリップイン部(CIL,CIR)からL1〜L14,R1〜R12を経てクリップアウト部(COL,COR)に達し、左側クリップレールLRおよび右側クリップレールRRを経て、再びクリップイン部(CIL,CIR)に戻る走行を繰り返している。図1では原フィルムの図示が省略されているが、クリップイン部(CIL,CIR)において、帯状の原フィルムにおける左右の長辺縁部が、それぞれ左側クリップ群および右側クリップ群によって把持される。原フィルムは、当該フィルムを把持する左右のクリップ群の走行によって加熱延伸装置1に導かれるとともに、当該装置1における予熱ゾーンZ1、前段延伸ゾーンZ2、中段延伸ゾーンZ3、後段延伸ゾーンZ4および熱処理ゾーンZ5をこの順に通過する。
本発明の製造方法では、クリップ群が帯状の原フィルムを把持する際、すなわちクリップイン部(CIL,CIR)において、左右双方のクリップ群の走行速度が互いに等しい。クリップインの際に左右のクリップ群の走行速度が等しくない場合、原フィルムが走行速度の大きいクリップ側に引っ張られることにより、加熱延伸装置1への原フィルムの移動安定性および加熱延伸装置1における原フィルムの移動安定性が低下する。このため、望む光学特性を有する位相差フィルムが得られないことがある。最も悪いケースでは、原フィルムが破断し、帯状の位相差フィルムが製造できないことがある。
ここで、左右双方のクリップ群の走行速度が互いに「等しい」とは、完全に同一である状態だけではなく、僅かな差がある状態を含む。現実には、斜め方向に原フィルムを延伸する際に発生する応力によって、相対的に先行するクリップに対して引き戻す力が加わるとともに、相対的に遅れるクリップに対して前に進める力が加わる。このため、クリップイン時における左側クリップ群の走行速度と右側クリップ群の走行速度とを、常に、完全に同一となるようにコントロールすることは難しい。これを考慮し、本発明の製造方法では、クリップイン時における左側クリップ群の走行速度v1と、右側クリップ群の走行速度v2との比v1/v2を0.98以上1.02以下に保持する。比v1/v2は、好ましくは0.99以上1.01以下、より好ましくは0.995以上1.005以下である。
なお、クリップインの際に左右のクリップ間に走行速度差がある場合においても、クリップイン部(CIL,CIR)の直前に配置されている原フィルムの搬送ロールから当該クリップイン部までの区間において原フィルムの流れ方向に張力を与えることで、走行速度差により生じる原フィルムのシワまたは弛みを緩和して、当該フィルムの移動安定性を改善する方法が考えられる。しかし、この方法は、以下の1,2の問題がある。
1.室温に保持されている当該区間で原フィルムに張力をかけたとしても、原フィルムに生じるシワおよび弛みの緩和は難しい。さらに、アクリル重合体、特に主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含む熱可塑性樹脂により構成されるフィルムは脆い傾向があり、張力をかけると破断することがある。
2.当該区間に加熱装置を配置し、原フィルムを加熱しながら張力をかけた場合、当該フィルムがその長手方向に延伸される。この延伸は、後に加熱延伸装置1においてなされる斜め方向の延伸を打ち消す。これにより、望む光学特性を有する位相差フィルムが得られないことがある。また、得られた位相差フィルムが示す二軸延伸性が増すため、二軸延伸性が低い斜め延伸位相差フィルムを得ることが難しくなる。
左側クリップと右側クリップとが原フィルムの周辺縁部を把持するタイミングは、同時でありうるが、必ずしも同時でなくてもよい。
左側クリップが原フィルムを把持するクリップイン部(CIL)と、右側クリップが原フィルムを把持するクリップイン部(CIR)とを結ぶ直線が、原フィルムの長手方向(流れ方向)に対して垂直であることが好ましい。この場合、クリップイン部(CIL,CIR)から予熱ゾーンZ1への原フィルムの移動安定性が向上する。特に、左側クリップと右側クリップとの間で、原フィルムの周辺縁部を把持するタイミングが同時でないことがある場合に、上記直線が、原フィルムの長手方向に対して垂直であることが好ましい。
予熱ゾーンZ1では、加熱延伸装置1に供給された原フィルムが、後に通過する延伸ゾーン(前段延伸ゾーンZ2、中段延伸ゾーンZ3および後段延伸ゾーンZ4)において延伸可能となる温度にまで加熱される。原フィルムの加熱が不十分なまま延伸を開始すると、原フィルムが破断することがある。このため、例えば、加熱延伸装置における予熱ゾーンZ1の温調の設定温度あるいは予熱ゾーンZ1における原フィルムが通過する雰囲気の温度を、当該延伸可能となる温度に設定する。予熱ゾーンZ1において原フィルムが加熱される温度は、延伸ゾーン(特に前段延伸ゾーンZ1)における原フィルムの延伸温度と等しい温度または僅かに高い温度であることが好ましい。
予熱ゾーンZ1では、基本的に、原フィルムの延伸は実施されない。ただし、加熱によって原フィルムに弛みまたは収縮が生じることがあり、当該弛みまたは収縮を取り除くために、各クリップ群における隣り合うクリップ間の間隔(原フィルムの長手方向におけるクリップ間の間隔)および/またはクリップ群間の間隔(原フィルムの幅方向におけるクリップ間の間隔)を調整しうる。
延伸ゾーンは、予熱ゾーンから走行移動してきた双方のクリップ群(上記一方のクリップ群および他方のクリップ群)の間に走行速度差を発生させる第1の区間を有する。図1に示す例では、前段延伸ゾーンZ2が第1の区間に対応する。図1に示す例において、一方のクリップ群は右側クリップ群、他方のクリップ群は左側クリップ群である。
第1の区間における双方のクリップ群の走行状態は、当該双方のクリップ群の間に走行速度差を発生できる限り限定されない。図1に示す例では、第1の区間である前段延伸ゾーンZ2において、熱処理ゾーンZ1から走行移動してきた一方のクリップ群(右側クリップ群)の走行速度v1を順に増大させて、当該走行速度v1と他方のクリップ群(左側クリップ群)の走行速度v2との間に走行速度差を発生させている。この方法は、クリップ群の減速により走行速度差を発生させる場合に比べてフィルムにシワが生じにくく、第1の区間において発生させる走行速度差の調整の自由度が高い。
第1の区間において一方のクリップ群の走行速度v1を順に増大させる場合、第1の区間における当該速度v1の増加度は、後の第2の区間において斜め延伸が実現する限り、できるだけ小さいことが好ましい。また、この場合、第1の区間において他方のクリップ群を加速させない(他方のクリップ群の走行速度v2を保つ(一定とする)か減速させることを意味する。図1に示す例では、走行速度v2を保っている)ことが好ましい。走行速度v1の増加量が大きい場合、原フィルムに対してその長手方向に延伸する力(縦延伸の力)が加わり、得られた位相差フィルムの二軸延伸性が増す要因となる。また、他方のクリップ群を加速させると、原フィルムに対してその長手方向に延伸する力(縦延伸の力)が加わり、得られた位相差フィルムの二軸延伸性が増す要因となるし、そもそも双方のクリップ群の間に走行速度差を与え難くなる。なお、クリップ群を減速させる場合、その減速度が過剰に大きくならないように留意する必要がある。減速度が過剰に大きくなるとフィルムにシワが生じやすくなり、最も悪いケースでは生じたシワを起点にフィルムが破断することがある。
本明細書においてクリップ群の走行速度を保つ場合には、加熱延伸装置1の構成上(例えば、原フィルムの加熱延伸装置1への送り出し速度のムラ、あるいはレールおよびクリップの工作精度の影響を受けて)避けることができない走行速度の揺らぎが生じる場合が含まれる。揺らぎは、通常、走行速度の1%程度以下である。別の側面から述べると、クリップ群の走行速度を保つとは、フィルム延伸のために一般的に行われる意識的な走行速度の変化を起こさないことを意味する。
第1の区間では、後の第2の区間における、走行速度が小さい側のクリップ群(図1に示す例では右側クリップ群)の当該走行速度に対する走行速度が大きい側のクリップ群(図1に示す例では左側クリップ群)の当該走行速度の比が1.01〜1.40程度となるように(より好ましくは1.05〜1.30となるように)、双方のクリップ群の走行速度に速度差を発生させることが好ましい。
延伸ゾーンは、上記第1の区間より後(原フィルムの下流側)に、第1の区間を経て走行移動してきた双方のクリップ群の走行速度v1およびv2を保つ第2の区間をさらに有する。図1に示す例では、中段延伸ゾーンZ3が第2の区間に対応する。中段延伸ゾーンZ3では、左右双方のクリップ群の走行速度v1およびv2が保たれる、すなわち、左右双方のクリップ群間の走行速度差が保たれる。この走行速度差に基づいて、原フィルムが当該フィルムの長手方向に対して斜めに延伸される。この延伸は、縦延伸(フィルム長手方向の延伸)と横延伸(フィルム幅方向の延伸)とを組み合わせた従来の斜め延伸(縦延伸と横延伸のベクトル和による斜め延伸)とは異なり、一軸延伸性が強い。本発明の製造方法では、この一軸延伸性が強い延伸が実現可能であるという点によって、例えば、長手方向に対して傾いた遅相軸を有する(斜め延伸された)帯状の位相差フィルムであって、従来よりもNZ係数が1に近く、二軸延伸性が低い位相差フィルムを製造できる。
中段延伸ゾーンZ3において双方のクリップ群の走行速度v1およびv2は、例えば当該クリップ群に対する加減速を行わないことによって、保つことができる。
第2の区間(図1に示す例では中段延伸ゾーンZ3)における双方のクリップ群間の走行速度差は、走行速度が小さい側のクリップ群の当該走行速度に対する走行速度が大きい側のクリップ群の当該走行速度の比により表して、1.01〜1.40程度が好ましく、1.05〜1.30がより好ましい。
第2の区間における双方のクリップ群の間の走行速度差は、例えば、第1の区間において生じた上記走行速度差である。第1の区間と第2の区間とが連接している場合、第1の区間において生じた上記走行速度差が、第2の区間における双方のクリップ群の間の走行速度差となりうる。
本発明の製造方法では、第2の区間のみならず第1の区間および第3の区間においても双方のクリップ群間に走行速度差が存在する状態があり、その際、当該速度差に基づいて原フィルムが少なからず斜め延伸される。しかし、双方のクリップ群間の走行速度差が保たれる第2の区間における斜め延伸が、本発明の製造方法における一軸延伸性が強い斜め延伸を実現する。したがって、第2の区間の長さが、前記第1の区間および前記第3の区間から選ばれる短い(原フィルムの流れ方向に短い)方の区間の長さの50%以上であることが好ましい。例えば、「第1の区間の長さL1:第2の区間の長さL2:第3の区間の長さL3」が、少なくとも2:1:2であるケース(L2は1以上)がこれに該当する一例である。NZ係数がより1に近い斜め延伸位相差フィルムを得るためには、相対的に第2の区間の長さがより長い方が好ましい。具体的には、第2の区間の長さが、前記第1の区間および前記第3の区間から選ばれる短い方の区間の長さの100%以上であることが好ましい。例えば、「第1の区間の長さL1:第2の区間の長さL2:第3の区間の長さL3」が、少なくとも1:1:1であるケース(L2は1以上)がこれに該当する一例である。第2の区間の長さの上限は、特に限定されない。第1の区間の長さL1と第3の区間の長さL3とは、互いに同一であっても同一でなくてもよい。
延伸ゾーンは、上記第2の区間より後(原フィルムの下流側)に、第2の区間を経て走行移動してきた双方のクリップ群の間の走行速度差を解消させる第3の区間をさらに有する。具体的には、一方のクリップ群の走行速度v1と、他方のクリップ群の走行速度v2との比v1/v2が、0.98以上1.02以下、好ましくは0.99以上1.01以下、より好ましくは0.995以上1.005以下となるように双方のクリップ群の間の走行速度差を解消させる。第3の区間では、双方のクリップ群の走行速度v1,v2が当該区間の末端において互いに等しくなればよい。図1に示す例では、後段延伸ゾーンZ4が第3の区間に対応する。
第3の区間における双方のクリップ群の走行状態は、当該双方のクリップ群の間の走行速度差を解消できる限り限定されない。図1に示す例では、第3の区間である後段延伸ゾーンZ4において、第2の区間である中段延伸ゾーンZ3から走行移動してきた他方のクリップ群(左側クリップ群)の走行速度v2を順に増大させて、双方のクリップ群の間の走行速度差を解消させている。これにより、右側クリップ群の走行速度v1と左側クリップ群の走行速度v2とが互いに等しくなる。また、図1に示す例では、一方のクリップ群(右側クリップ群)の走行速度v1を保っている。
本発明の製造方法における一つの実施形態では、第2の区間から走行移動してきた一方のクリップ群の走行速度v1を順に減少させて、双方のクリップ群の間の走行速度差を解消させる。また別の実施形態では、第2の区間から走行移動してきた一方のクリップ群の走行速度v1を順に減少させるとともに他方のクリップ群の走行速度v2を順に増大させて、双方のクリップ群の間の走行速度差を解消させる。クリップ群の走行速度を減少させることに起因するシワの発生を抑制するためには、第3の区間において、走行速度が小さい側のクリップ群の速度変化量を、走行速度が大きい側のクリップ群の速度変化量よりも大きくすることが好ましい。さらに好ましくは、図1に示すように、第2の区間から走行移動してきた他方のクリップ群の走行速度v2を順に増大させて、双方のクリップ群の間の走行速度差を解消させる方法である。
本発明の製造方法における一つの実施形態では、第1の区間における一方のクリップ群の走行速度v1の増加度と、第3の区間における他方のクリップ群の走行速度v2の増加度とが等しい。図1に示す例が、第1の区間の長さ(前段延伸ゾーンZ2の長さ)と第3の区間の長さ(後段延伸ゾーンZ4の長さ)とが等しく、この実施形態に該当する。なお、各区間におけるクリップ群の走行速度の増加度(クリップ群の加速度)とは、当該区間の入口におけるクリップ群の走行速度に対する当該区間におけるクリップ群の走行速度の増加量(当該区間の出口におけるクリップ群の走行速度から当該区間の入口におけるクリップ群の走行速度を引いた値)の比をいう。増加度の好ましい範囲は、第1および第3の区間ともに1〜140%であり、5〜130%がより好ましい。増加度は、第1および第3の各区間内で均一でなくてもよいが、一軸延伸性が強い斜め延伸を実現するためには均一であることが好ましい。
本発明の製造方法において、延伸ゾーンに各区間が分割されて設けられていてもよい。各区間が分割された一例では、延伸ゾーンが「区間1A→区間2A→区間1B→区間2B→区間3」により構成されている。区間1Aおよび区間1Bが第1の区間、区間2Aおよび区間2Bが第2の区間、区間3が第3の区間にそれぞれ相当する。このとき、分割された区間1Aおよび区間1Bの双方の区間において双方のクリップ群の間に走行速度差を発生させればよいし、分割された区間2Aおよび区間2Bの双方の区間において双方のクリップ群の走行速度v1およびv2を保てばよい。各区間が分割された別の一例では、延伸ゾーンが「区間1→区間2A→区間3A→区間2B→区間3B」により構成されている。区間1が第1の区間、区間2Aおよび区間2Bが第2の区間、区間3Aおよび区間3Bが第3の区間にそれぞれ相当する。このとき、分割された区間2Aおよび区間2Bの双方の区間において双方のクリップ群の走行速度v1およびv2を保てばよいし、区間3Aおよび区間3Bの双方を通じて比v1/v2が0.98以上1.02以下となるように(すなわち、第3の区間の末端で比v1/v2が0.98以上1.02以下となるように)双方のクリップ群の間の走行速度差を解消させればよい。なお、現実の加熱延伸装置のサイズに限界があること、いたずらな区間の分割は位相差フィルムの生産効率を下げる可能性があることを考慮すると、本発明の製造方法の典型的な一実施形態は、図1に示すような、分割されていない第1、第2および第3の区間により延伸ゾーンが構成された形態である。図1に示す例では、互いに連接した未分割の第1、第2および第3の区間により延伸ゾーンが構成されている。
本発明の効果が得られる限り、延伸ゾーンは、第1の区間にも第2の区間にも第3の区間にも属さない他の区間を有しうる。
本発明の製造方法では、原フィルムを、少なくとも1つの上記延伸ゾーンを通過させる。斜め延伸された帯状の位相差フィルムが得られる限り、2以上の上記延伸ゾーンを通過させてもよいし、さらに他の延伸ゾーンを通過させてもよい。
前段延伸ゾーン、中段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンにおけるこのような延伸は、独立に加減速しうる複数のクリップにより構成される一対のクリップ群を備えた同時二軸延伸機により実施しうる。ただし、通常の延伸機は、フィルムの延伸時にクリップを加減速させない状態および減速させる状態を想定していない。このため、必要に応じて、延伸機の構造および/または延伸機の制御プログラムの改良が必要になることがある。当業者であれば、本発明の製造方法に関する本明細書の記載に従うことで、このような改良を実施しうる。
図1に示す例では一方のクリップ群が右側クリップ群、他方のクリップ群が左側クリップ群であるが、本発明の製造方法はこの例に限定されず、一方のクリップ群が左側クリップ群、他方のクリップ群が右側クリップ群であってもよい。
本発明の製造方法では、延伸ゾーンにおいて、原フィルムの幅方向に対する左右双方のクリップ群間の間隔を増大させて原フィルムをさらに横延伸してもよい。原フィルムをさらに横延伸する場合における左右のクリップ群の走行状態の一例を図2に示す。図2に示す例では、原フィルムをさらに横延伸している以外、左右のクリップ群を構成する各クリップ(L1〜L14、R1〜R12)の走行状態は図1に示す例と同一である。
横延伸は、前段延伸ゾーンZ2、中段延伸ゾーンZ3および後段延伸ゾーンZ4から選ばれる少なくとも1つのゾーンにて実施しうる。図2に示す例では、前段延伸ゾーンZ2、中段延伸ゾーンZ3および後段延伸ゾーンZ4の全てのゾーンで横延伸が実施されている。横延伸を併用することによって、得られた位相差フィルムが示す光学特性(例えば、光軸の向きおよび位相差値、特に位相差値)の制御の自由度が高くなる。例えば、100nmを超すような面内位相差を示す高位相差の位相差フィルムを得る場合には横延伸を併用することが好ましい。
本発明の製造方法は、さらに、得られた位相差フィルムの幅方向における光学特性(例えば、位相差、光軸の向き、およびNZ係数)の均一性を向上させる点からも有利である。
延伸ゾーンにおける延伸温度は、原フィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)を基準に、好ましくはTg−20℃〜Tg+60℃であり、より好ましくはTg−10℃〜Tg+30℃である。延伸温度がTg−20℃未満の場合、延伸の際に原フィルムの破断が起こりやすくなる。延伸温度がTg+60℃を越える場合、延伸ゾーンにおける原フィルムの弛みが大きくなって、当該フィルムと加熱延伸装置とが接触したり、原フィルムの破断が起こりやすくなる。延伸温度は、例えば、加熱延伸装置における延伸ゾーンの温調の設定温度あるいは延伸ゾーンにおける原フィルムが通過する雰囲気の温度である。原フィルムが複数の層からなる場合、最も高いTgを示す熱可塑性樹脂層のTgが、延伸温度の基準となる。
延伸ゾーンにおける延伸速度(斜め延伸方向の延伸速度)は、例えば、10〜20000%/分であり、好ましくは100〜10000%/分である。延伸速度が10%/分よりも小さい場合、延伸を完了するまでに必要な時間が長くなり、位相差フィルムの製造コストが増大する。これに加えて、延伸ゾーンに必要な長さが長大となり、そのような加熱延伸装置は現実的でない。延伸速度が20000%/分よりも大きい場合、原フィルムの破断が起きやすくなる。
熱処理ゾーンZ5では、延伸ゾーンにおいて延伸された原フィルムが、延伸ゾーンにおける延伸温度以下の特定の温度(熱処理温度)に保持される。これにより、当該フィルムに含まれる重合体の分子配向が安定し、当該フィルムの歪みが軽減されて、最終的に得られた位相差フィルムが示す特性、例えば光学特性および機械的特性の安定化が図られる。熱処理温度は延伸ゾーンにおける延伸温度未満が好ましい。熱処理ゾーンの全域にわたって同一の熱処理温度に保持されている必要は必ずしもない。熱処理ゾーンにおける少なくとも一部の熱処理温度が、延伸ゾーンにおける延伸温度未満の温度であることが好ましい。原フィルムが延伸温度未満になると収縮する。このとき、原フィルムに生じる収縮応力を適切に保つことによって、延伸によって生じた原フィルム中の分子配向が大きく損なわれることなく安定し、最終的に得られた位相差フィルムが示す特性の安定化が図られる。熱処理ゾーンにおける収縮応力を適切に保つために、例えば原フィルムの長手方向におけるクリップ間の間隔および/または原フィルムの幅方向におけるクリップ間の間隔を調整しうる。調整方法は、例えば、収縮応力が大きい場合に、フィルムの破断を防ぐためにクリップ間の間隔を狭める方向である。熱処理温度は、延伸ゾーンにおける熱処理ゾーンに隣接する部分の延伸温度をT℃として、好ましくはT−80℃〜T−1℃であり、より好ましくはT−40℃〜T−2℃である。熱処理温度は、例えば、加熱延伸装置における熱処理ゾーンの温調の設定温度あるいは熱処理ゾーンにおける原フィルムが通過する雰囲気の温度である。
本発明の製造方法では、原フィルムが加熱延伸装置1内を移送される速度(ラインスピード)に関し、加熱延伸装置1の入口における速度に対して当該装置1の出口における速度の方が大きい。これにより、生産性に優れる位相差フィルムの製造が可能となる。
熱処理ゾーンを通過した後、原フィルムが左右双方のクリップ群から解放される(クリップアウト)。本発明の製造方法では、延伸後の原フィルムをクリップ群が離す際、すなわち、クリップアウト部(COL,COR)において、左右双方のクリップ群の走行速度が互いに等しい(比v1/v2が0.98以上1.02以下)。クリップアウトの際に左右のクリップの走行速度が等しくない場合、クリップアウトしてから原フィルムが最初に接するガイドロールまでの区間において、フィルムに片弛みが生じる(走行速度が速いクリップ側に弛みが生じる)。
クリップアウトの際に左右のクリップの走行速度差があったとしても、クリップアウトしてから原フィルムが最初に接するガイドロールまでの区間において原フィルムの流れ方向に張力を与えることで、走行速度差により生じる原フィルムのシワまたは弛みを緩和して、当該フィルムの移動安定性を改善する方法が考えられる。しかし、この方法は、以下の理由1〜3から、現実には困難である。
1.室温に保持されている当該区間で原フィルムに張力をかけたとしても、原フィルムに生じるシワおよび弛みの緩和は難しい。さらに、アクリル重合体、特に主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含む熱可塑性樹脂により構成されるフィルムは脆い傾向があり、当該フィルムの端部(クリップが把持していた部分)をニップして張力をかけると、フィルムが破断する。
2.当該区間に加熱装置を配置し、原フィルムを加熱しながら張力をかけたとしても、加熱条件によっては弛みを緩和しうるものの、膜厚の大きいフィルム端部(クリップが把持していた部分)をニップして張力をかけるため、膜厚の薄いフィルム中央部はニップされず、シワの緩和は難しい。
3.当該区間に加熱装置を配置し、原フィルムを加熱しながら張力をかけた場合、当該フィルムがその長手方向に延伸される。この延伸は、加熱延伸装置1においてなされた斜め方向の延伸を打ち消す。これにより、目的とする光学特性が得られないだけではなく、得られた位相差フィルムが示す二軸延伸性が増大する。
上述したクリップイン部(CIL、CIR)と同様の理由に基づき、左側クリップ群のクリップアウト部(COL)と右側クリップ群のクリップアウト部(COR)とを結ぶ直線が、原フィルムの長手方向(流れ方向)に対して垂直であることが好ましい。この場合、加熱延伸装置1における原フィルムの移動安定性が向上する。特に、左側クリップと右側クリップとが原フィルムの周辺縁部を把持するタイミングが同時でないことがある場合に、上記直線が原フィルムの長手方向に対して垂直であることが好ましい。なお、クリップアウト部以降の左右のレールの軌跡は、原フィルムの主面に垂直な方向から見て互いに離れていくことが好ましい。これにより、クリップアウト後におけるクリップとフィルム端部との干渉を防ぐことができ、フィルム走行が安定する。また、干渉によるフィルムの破断を防ぐことができる。
本発明の製造方法では、加熱延伸装置における原フィルムの移動方向を、延伸ゾーンの前後において略並行に保つことが好ましい。言い換えれば、原フィルムを把持する際のクリップの走行方向は、延伸されたフィルムを解放する際のクリップの走行方向と略平行であることが好ましい。クリップの走行方向とは、原フィルムに対して横延伸をさらに加える場合を考慮し、一方の長辺縁部を把持または解放するクリップの走行方向と、他方の長辺縁部を把持または解放するクリップの走行方向とのベクトルの和の方向を意味する。特開2005-319660号公報および特開2010-266723号公報には、延伸の前後で原フィルムの移動方向が異なる、屈曲したテンターレールを有するテンター横延伸機を用いた斜め延伸が開示されている。フィルムの長手方向に対する遅相軸の角度が異なる2種以上の帯状の位相差フィルムを製造する場合、延伸倍率など、加熱延伸装置における延伸条件を変更する必要がある。上記のような、延伸の前後でフィルムの移動方向が異なる延伸機を用いた場合、延伸条件を変更するたびに、得られた位相差フィルムを巻き取る巻取り機の設置場所の変更や原フィルムを供給するロールの平行度の調整(芯だし)などが必要になり、位相差フィルムの生産性が低下する。さらに、テンターレールが屈曲しているため、延伸装置の設置に必要な面積の確保が難しい。一方、原フィルムの移動方向を延伸ゾーンの前後において略並行に保つ場合、延伸条件を変更したときにおいてもこのような調整を省略でき、帯状の位相差フィルムの生産性が向上する。この構成は、例えば同時二軸延伸機により実現可能である。
本発明の製造方法では、加熱延伸装置における原フィルムの移動方向が全てのゾーンを通して直線状であることが好ましい。また、加熱延伸装置内を移送される帯状の原フィルムの中心線(帯状の原フィルムにおける幅方向の中点を結ぶ線)が直線であることが好ましい。
本発明の製造方法によって得られた帯状の位相差フィルムは、続いて、任意の工程に供給しうる。例えば、ロールに巻回して位相差フィルムロールを得てもよいし、コーティング層の形成あるいは他のフィルムとの積層のような後工程に供給してもよい。
本発明の製造方法によって得られた帯状の位相差フィルムは、例えば、当該位相差フィルムと帯状の偏光フィルムとを連続的に積層しうる(より具体的な例としてロールtoロールで積層しうる)ため、効率よい偏光板(例えば円偏光板、楕円偏光板)の製造に好適である。ロールtoロール積層を用いた偏光板の製造では、帯状の位相差フィルムから特定の方向に斜めにフィルム片を切り出す工程および切り出したフィルム片をその光軸を調整しながら積層する工程を省略しうる。この省略は、偏光板の製造時における位相差フィルムの面積使用効率を向上させるとともに、位相差フィルムがアクリル樹脂により構成される場合に、アクリル樹脂フィルムに特有の硬さおよび脆さに由来する悪影響を小さくする。アクリル樹脂が主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含む場合に、特に後者の効果が大きくなる。
偏光板のうち円偏光板は、画像表示装置において、例えば外光の反射防止のため、あるいは3次元(3D)表示を実現するために使用される。これらの用途では、画面に正対する方向の光への円偏光機能だけではなく画面に対して斜め方向の光への円偏光機能を円偏光板が備えることが必要である。これは、例えば、LCDを斜めから見たときにも外光の反射が防止される、あるいは3D表示が実現される要請に基づく。位相差フィルムを通過する光の経路の長さは、当該フィルムを斜め方向に通過する光の方が厚さ方向に通過する光に比べて大きい。位相差フィルムの二軸延伸性が強い場合、当該フィルムを斜め方向に通過する光に生じるリターデーションの大きさ(位相差の大きさ)と、厚さ方向に通過する光に生じるリターデーションの大きさとの差が大きくなる。画像表示装置における光学的な設計は画面に正対する方向の光に対してなされるため、当該差が大きくなると、斜め方向から見たときの光学特性が担保できなくなる。このため、位相差フィルムの二軸延伸性は低ければ低いほど好ましい。
テンター横延伸機を用いた延伸方法では、原フィルムの幅方向の延伸に伴ってその長手方向に収縮力が発生する。しかし、原フィルムはその両端部が把持されているため長手方向に収縮できず、結果として長手方向にも延伸されることになる。このため、テンター横延伸機を用いて延伸したフィルムは強い二軸延伸性を示す。これは、特許文献2(特許第4557188号公報)および特許文献3(特開2009-143208号公報)に開示されている方法においても同様である。一方、特許文献4(特開2008-23775号公報)に開示されている方法では、同時二軸延伸機が使用される。しかし、当該方法においても原フィルムの長手方向に当該フィルムを延伸しており、得られた位相差フィルムは強い二軸延伸性を示す。
一方、本発明の製造方法は延伸の自由度が高く、例えば、長手方向に対して傾いた遅相軸を有し、従来よりもNZ係数が1に近く、二軸延伸性が低い帯状の位相差フィルムおよび当該フィルムを巻回した位相差フィルムロールを得ることができる。二軸延伸性が低い位相差フィルムによれば、例えば、画面に対して斜め方向からの視聴においても視野角特性に優れる画像表示装置が実現する。
位相差フィルムの二軸延伸性および一軸延伸性は、当該フィルムが示すNZ係数により評価しうる。NZ係数は、位相差フィルムの面内における遅相軸方向の屈折率をnx、当該フィルムの面内における進相軸方向の屈折率をny、当該フィルムの厚さ方向の屈折率をnzとしたときに、式(nx−nz)/(nx−ny)によって与えられる値である。位相差フィルムが示す面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthを用いると、NZ係数は、式|Rth|/|Re|+0.5により与えられる。NZ係数の値が1に近いほど、位相差フィルムの二軸延伸性が低く(一軸延伸性が強く)なる。
本発明の製造方法は、本発明の効果が得られる限り、上述した以外の任意の工程を含んでいてもよい。当該工程は、例えば、形成された位相差フィルムの光学特性および機械的特性を安定させるために実施される熱処理(アニーリング)工程である。
原フィルムは、典型的には未延伸フィルムである。ただし、本発明の効果が得られる限り、既に延伸されたフィルムを原フィルムとして使用しうる。
原フィルムを構成する熱可塑性樹脂(A)は、主鎖に環構造を有する重合体(B)を含むことが好ましい。すなわち、原フィルムは、主鎖に環構造を有する重合体(B)を含む熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂組成物)(A)からなることが好ましい。これにより、得られた位相差フィルムのガラス転移温度(Tg)が向上する。高いTgを有する位相差フィルムは、電源、光源、回路基板などの発熱体が狭い空間に集積された構造を有する、LCDなどの画像表示装置への使用に好適である。これに加えて、環構造の種類によっては、得られた位相差フィルムが示す位相差が増大する。
樹脂(A)における重合体(B)の含有率は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上である。
重合体(B)は、アクリル重合体、シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種が好ましい。アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。ただし、アクリル重合体が、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造を含む場合、当該環構造の含有率も(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率に含まれる。シクロオレフィン重合体は、シクロオレフィン単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。セルロース誘導体は、トリアセチルセルロース(TAC)単位、セルロースアセテートプロピオネート単位、セルロースアセテートブチレート単位、セルロースアセテートフタレート単位などの繰り返し単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体は、主鎖に環構造を有する。
重合体(B)はアクリル重合体が好ましい。アクリル重合体は、透明度が高く、表面強度などの機械的特性に優れる。このため、アクリル重合体を用いることにより、LCDなどの画像表示装置への使用に好適な位相差フィルムが得られる。
原フィルムは、単層フィルムまたは複数の熱可塑性樹脂層の積層フィルムでありうる。原フィルムは、主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含む熱可塑性樹脂により構成される層を有することが好ましい。原フィルムは、主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含む熱可塑性樹脂からなる一つの層により構成されうる。原フィルムは、当該層と、シクロオレフィンのような、アクリル重合体以外の他の重合体を含む熱可塑性樹脂層との積層体でありうる。
主鎖に環構造を有するアクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位と環構造とを含む。当該アクリル重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位と環構造との含有率の合計は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%、特に好ましくは95重量%以上、最も好ましくは99重量%以上である。環構造の含有率は、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは15重量%以上である。環構造の含有率が40重量%を超えると、そのような環構造の含有率を有する重合体の形成が難しくなったり(環化反応を進行させる際にゲルが生じやすくなる)、当該重合体を含む熱可塑性樹脂の成形性およびハンドリング性が低下して、原フィルムの生産性が低下したりすることがある。
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどの単量体に由来する構成単位である。アクリル重合体は、これらの構成単位を2種類以上有しうる。アクリル重合体はメタクリル酸メチル(MMA)単位を有することが好ましく、この場合、位相差フィルムの熱安定性が向上する。
アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単位以外の構成単位を有しうる。当該構成単位は、例えば、水酸基および/またはカルボン酸基を有する構成単位である。水酸基および/またはカルボン酸基を有する構成単位は、その種類によっては、重合後の環化反応によって重合体の主鎖に位置する環構造に変化する。アクリル重合体には、環構造に変化しなかった未反応のこれらの構成単位が残りうる。水酸基を有する構成単位は、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルの各単量体に由来する構成単位である。カルボン酸基を有する構成単位は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸の各単量体に由来する構成単位である。アクリル重合体は、これらの構成単位を2種類以上有しうる。
アクリル重合体が有しうる、(メタ)アクリル酸エステル単位以外のさらなる構成単位は、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタリルアルコール、アリルアルコール、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニル、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、メチルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾールの各単量体に由来する構成単位である。アクリル重合体は、これらの構成単位を2種類以上有しうる。
環構造の種類は特に限定されず、例えば、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種である。なかでも、成形時における耐熱性の観点から、ラクトン環構造、グルタルイミド構造およびマレイミド構造から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
アクリル重合体が主鎖に有していてもよいラクトン環構造は特に限定されず、例えば、4から8員環であってもよいが、環構造の安定性に優れることから5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。6員環であるラクトン環構造は、例えば、特開2004−168882号公報に開示されている構造であるが、前駆体の重合収率が高いこと、前駆体の環化反応により、高いラクトン環含有率を有するアクリル重合体が得られること、MMA単位を構成単位として有する重合体を前駆体にできること、などの理由から以下の式(1)に示される構造が好ましい。
式(1)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1から20の有機残基である。有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
式(1)における有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基のような炭素数1から20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基のような炭素数1から20の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基のような炭素数1から20の芳香族炭化水素基である。上記アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基は、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換されていてもよい。
アクリル重合体が主鎖にラクトン環構造を有する場合、当該重合体におけるラクトン環構造の含有率は特に限定されない。含有率は、例えば5〜90重量%であり、好ましくは10〜80重量%であり、より好ましくは10〜70重量%であり、さらに好ましくは20〜60重量%である。アクリル重合体における環構造の含有率が過度に小さくなると、得られた位相差フィルムにおいて、環構造の存在により期待される特性、例えば、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度および光学特性が不十分となることがある。環構造の含有率が過度に大きくなると、アクリル重合体および当該重合体を含む熱可塑性樹脂の成形性およびハンドリング性が低下して、原フィルムおよび位相差フィルムの生産性が低下する。
アクリル重合体におけるラクトン環構造の含有率は、公知の方法により評価しうる。具体的には、例えば、アクリル重合体に対してダイナミックTG測定を実施し、150℃から300℃に加熱したときの重量減少率(実測重量減少率)を求める。この重量減少率は、評価対象であるアクリル重合体に残留する水酸基の量に対応する。150℃は、アクリル重合体に残留する未反応の(環化しなかった)水酸基が再び環化反応を開始する温度であり、300℃はアクリル重合体が分解を始める温度である。この実測重量減少率と、環化反応前の前駆体が有する全ての水酸基(前駆体の組成から算出しうる)が脱アルコール環化反応したと仮定したときの理論重量減少率とから、ラクトン環構造の含有率を算出しうる。すなわち、ラクトン環構造を有するアクリル重合体のダイナミックTG測定において、150℃から300℃までの間の実測重量減少率(X)の測定を行う。これとは別に、当該重合体の組成から、その組成に含まれる全ての水酸基がラクトン環の形成(脱アルコール環化反応)に関与すると仮定したときの理論重量減少率(Y)を求める。理論重量減少率(Y)は、より具体的には、重合体中の脱アルコール環化反応に関わる構造(水酸基)を有する単量体のモル比、すなわち当該単量体の含有率から算出しうる。これらの値X,Yを式{1−(実測重量減少率(X)/理論重量減少率(Y))}×100(%)に代入して、脱アルコール反応率Aが得られる。次に、求めた脱アルコール反応率Aに対応する割合で環化反応が進行したと仮定して、式B×A×MR/Mmにより、ラクトン環の含有率が求められる。Bは、前駆体(ラクトン環化反応が進行する前の重合体)における、上記水酸基を有する単量体の含有率であり、MRは、環化反応により形成されるラクトン環構造の式量であり、Mmは、上記水酸基を有する単量体の分子量であり、Aは、脱アルコール反応率である。
主鎖に環構造を有するアクリル重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは8万以上、より好ましくは10万以上である。分子量の分散度は、好ましくは3.5以下であり、より好ましくは3以下である。これらの場合、アクリル重合体に存在する分岐構造が少なく、加工時の熱安定性が向上するとともに、得られた位相差フィルムの強度および外観が向上する。Mwおよび分散度は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)を用いてポリスチレン換算により求めうる。分散度は、重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnである。Mnも、GPCを用いて求めうる。
主鎖に環構造を有するアクリル重合体のガラス転移温度Tgは、例えば、110℃以上であり、115℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。一方、Tgが200℃を越えると、溶融製膜が困難になるなど、フィルムへの成形性およびフィルムの延伸性が低下する。主鎖に環構造を有さない一般的なアクリル重合体のTgは100℃程度である。
主鎖に環構造を有するアクリル重合体は、公知の方法により製造しうる。環構造が無水グルタル酸構造またはグルタルイミド構造であるアクリル重合体は、例えば、WO2007/26659号公報またはWO2005/108438号公報に記載されている方法により製造しうる。環構造が無水マレイン酸構造またはN−置換マレイミド構造であるアクリル重合体は、例えば、特開昭57-153008号公報または特開2007-31537号公報に記載されている方法により製造できる。環構造がラクトン環構造であるアクリル重合体は、例えば、特開2006-96960号公報、特開2006-171464号公報または特開2007-63541号公報に記載されている方法により製造できる。
原フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、上述した以外の他の重合体を含みうる。熱可塑性樹脂における当該重合体の含有率は、好ましくは0〜50重量%、より好ましくは0〜25重量%、さらに好ましくは0〜10重量%である。当該重合体は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)のようなオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂のような含ハロゲン系ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体のようなスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートのようなポリエステル;ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートのような生分解性ポリエステル;ポリカーボネート;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610のようなポリアミド;ポリアセタール;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルニトリル;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴムまたはアクリル系ゴムを配合したABS樹脂またはASA樹脂のようなゴム質重合体;である。原フィルムを構成する熱可塑性樹脂が、主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含む場合、当該アクリル重合体との相溶性の観点から、他の重合体はスチレン−アクリロニトリル共重合体であることが好ましい。ゴム質重合体は、当該アクリル重合体と相溶し得る組成を有するグラフト部を表面に有することが好ましい。ゴム質重合体の平均粒子径は、位相差フィルムとしての透明性の向上の観点から、例えば、400nm以下であり、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは100nm以下であり、さらに好ましくは70nm以下である。
原フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体を含みうる。この場合、熱可塑性樹脂の組成によっては、得られた位相差フィルムが示す複屈折の波長分散性の制御の自由度が高くなり、例えば、逆波長分散性を示す位相差フィルムが得られる。逆波長分散性は、少なくとも可視光域において、波長が短くなるほど複屈折が小さくなる(位相差が小さくなる)波長分散性である。複素芳香族基は、例えば、カルバゾール基、ピリジン基、チオフェン基およびイミダゾール基から選ばれる少なくとも1種である。複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位は、例えば、N−ビニルカルバゾール単位、ビニルピリジン単位、ビニルチオフェン単位およびビニルイミダゾール単位から選ばれる少なくとも1種である。なかでも、N−ビニルカルバゾール単位が好ましく、この場合、位相差フィルムが良好な逆波長分散性を示しうる。逆波長分散性を示す位相差フィルムによって、例えば、高い反射防止効果を示す楕円偏光板が実現する。
複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体は、主鎖に環構造を有するアクリル重合体でありうる。原フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、主鎖に環構造を有するアクリル重合体とは異なる重合体として、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体を含みうる。
逆波長分散性を示す位相差フィルムは、主鎖に環構造を有するアクリル重合体と、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体とを原フィルムが同一の層に含む場合だけではなく、双方の重合体を別々の層に含む場合(各重合体を含む層の積層構造を有する場合)にも実現しうる。
原フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、公知の添加剤を含みうる。添加剤は、例えば、紫外線吸収剤;酸化防止剤;位相差上昇剤および位相差低減剤のような位相差調整剤;位相差安定剤、耐光安定剤、耐候安定剤および熱安定剤のような安定剤;ガラス繊維および炭素繊維のような補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェ−ト、トリアリルホスフェ−トおよび酸化アンチモンのような難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に代表される帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料のような着色剤;有機フィラ−、無機フィラ−;樹脂改質剤;アンチブロッキング剤;マット剤;酸補足剤;金属不活性化剤;可塑剤;滑剤;難燃剤;ASAおよびABSのようなゴム質重合体;その他、位相差フィルムの光学特性および/または機械的特性を調整する材料である。添加剤の添加量は、例えば、0〜10重量%であり、好ましくは0〜5重量%であり、より好ましくは0〜2重量%であり、さらに好ましくは0〜0.5重量%である。
原フィルムの表面に、熱可塑性樹脂層ではない機能性層を設けうる。機能性層は、例えば、ハードコート層、易接着層、帯電防止層、反射防止層およびアンチブロッキング層である。
原フィルムの左右の端部(幅方向の端部)に、ナーリング加工のような機能性加工が施されうる。機能性加工は、原フィルムの破断防止または原フィルムへのアンチブロッキング性の付与を目的とするテープの貼付でありうる。テープは、例えば、積水化学製のタフライトテープ(商品名)である。
原フィルムを製造する方法は特に限定されない。原フィルムは、例えば、溶液製膜法(溶液流延法、キャスト成形法)、溶融製膜法(溶融押出法、押出成形法)、プレス成形法のような公知の手法により製造しうる。なかでも、環境負荷が小さく生産性に優れる観点から、溶融製膜法による原フィルムの製造が好ましい。
溶液製膜法では、例えば、原フィルムを構成する熱可塑性樹脂と良溶媒とを撹拌混合して均一な混合液とし、得られた混合液を支持フィルムまたはドラムにキャストしてキャスト膜を形成し、形成したキャスト膜を予備乾燥して自己支持性を有するフィルムとし、このフィルムを支持フィルムまたはドラムから剥がして乾燥し、原フィルムを形成する。原フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、必要ならば添加剤のような材料を含む。これは、他の製膜法においても同じである。溶液製膜法に用いられる溶媒は、例えば、クロロホルム、ジクロロメタンのような塩素系溶媒;トルエン、キシレン、ベンゼンおよびこれらの混合溶媒のような芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノールのようなアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ジオキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル;である。溶媒として、これらの1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。溶液製膜法を実施する装置は、例えば、ドラム式キャスティングマシン、ベルト式キャスティングマシンである。
溶融製膜法では、例えば、原フィルムを構成する熱可塑性樹脂の各成分をオムニミキサーのような混合機を用いてプレブレンドし、得られた混合物を混練機により混練した後、押出成形して原フィルムを形成する。別途形成した熱可塑性樹脂を溶融押出成形して原フィルムを形成してもよい。混練機は特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機、加圧ニーダーのような公知の混練機である。
押出成形は、例えば、Tダイ法、インフレーション法である。押出成形の温度(成形温度)は、好ましくは200〜350℃、より好ましくは250〜300℃、さらに好ましくは255℃〜300℃、特に好ましくは260℃〜300℃である。Tダイ法によれば、押出機の先端部にTダイを取り付け、当該Tダイから押し出して得たフィルムを巻き取ることによって、ロールに巻回した原フィルム(原フィルムロール)が得られる。
押出成形に用いる押出機の種類は特に限定されず、単軸、二軸、多軸のいずれの押出機も使用しうる。熱可塑性樹脂を十分に可塑化して良好な混練状態を得るために、押出機のL/D値(Lは押出機のシリンダの長さ、Dはシリンダ内径)は、好ましくは10以上100以下であり、より好ましくは15以上80以下であり、さらに好ましくは20以上60以下である。L/D値が10未満の場合、熱可塑性樹脂が十分に可塑化されず、良好な混練状態が得られないことがある。L/D値が100を超える場合、熱可塑性樹脂に対して過度に剪断発熱が加わることにより、樹脂に含まれる重合体が熱分解することがある。
押出機のシリンダの設定温度は、好ましくは200℃以上300℃以下であり、より好ましくは250℃以上300℃以下である。シリンダの設定温度が200℃未満の場合、樹脂の溶融粘度が過度に高くなり、原フィルムの生産性が低下しやすい。シリンダの設定温度が300℃を超える場合、樹脂に含まれる重合体が熱分解することがある。
押出機の形状は、特に限定されない。押出機は、1個以上の開放ベント部を有することが好ましい。この場合、押出機の開放ベント部から分解ガスを吸引でき、得られた原フィルムに残存する揮発成分の量が低減する。開放ベント部から分解ガスを吸引するためには、例えば、開放ベント部を減圧状態にすればよい。減圧状態にある開放ベント部の圧力は、1.3〜931hPaが好ましく、13.3〜798hPaがより好ましい。開放ベント部の圧力が931hPaより高いと、揮発成分ならびに重合体の分解により発生する単量体成分が樹脂中に残存しやすい。開放ベント部の圧力を1.3hPaより低く保つことは、工業的に困難である。
原フィルムの製造には、ポリマーフィルターにより濾過した熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。ポリマーフィルターを用いた濾過により、樹脂中に存在する異物が除去され、位相差フィルムの光学欠点および外観上の欠点が低減される。濾過は、溶液濾過または溶融濾過である。
溶融濾過の際、樹脂は高温の溶融状態となる。ポリマーフィルターを通過する際に樹脂に含まれる成分が劣化すると、劣化により発生したガス成分あるいは着色劣化物が流れ出し、得られた原フィルムに、穴あき、流れ模様、流れスジのような欠点が観察されることがある。これらの欠点は、特に、原フィルムの連続成形時に観察されやすい。溶融濾過時の樹脂の劣化は、樹脂の溶融粘度を低下させ、ポリマーフィルターにおける樹脂の滞留時間を短くすることによって防ぎうる。この観点から、ポリマーフィルターにより溶融濾過した樹脂の成形温度は、例えば、255〜320℃であり、260〜300℃が好ましい。
ポリマーフィルターの構成は特に限定されない。ハウジング内に多数枚のリーフディスク型フィルターを配したポリマーフィルターが好適に用いられる。リーフディスク型フィルターの濾材は、金属繊維不織布を焼結したタイプ、金属粉末を焼結したタイプ、金網を数枚積層したタイプ、またはそれらを組み合わせたハイブリッドタイプのいずれであってもよく、なかでも、金属繊維不織布を焼結したタイプが最も好ましい。
ポリマーフィルターの濾過精度は特に限定されないが、通常15μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。濾過精度が1μm以下の場合、ポリマーフィルターにおける樹脂の滞留時間が長くなるため、樹脂に含まれる重合体が熱劣化しやすい。さらに、原フィルムの生産性も低下する。濾過精度が15μmを超える場合、樹脂中の異物を除去することが難しくなる。
ポリマーフィルターの形状は特に限定されず、例えば、複数の樹脂流通口を有し、センターポール内に樹脂の流路を有する内流型;断面が複数の頂点もしくは面においてリーフディスクフィルターの内周面に接し、センターポールの外面に樹脂の流路がある外流型;である。なかでも、樹脂の滞留箇所の少ない外流型が好ましい。
ポリマーフィルターにおける樹脂の滞留時間は、好ましくは20分以下、より好ましくは10分以下、さらに好ましくは5分以下である。濾過時におけるフィルター入口圧および出口圧は、例えば、それぞれ3〜15MPaおよび0.3〜10MPaであり、圧力損失(フィルターの入口圧と出口圧の圧力差)は、1MPa〜15MPaが好ましい。圧力損失が1MPa以下の場合、樹脂がフィルターを通過する流路に偏りが生じやすく、得られたフィルムの品質が低下する傾向がある。圧力損失が15MPaを超えると、ポリマーフィルターの破損が起こり易くなる。
ポリマーフィルターに導入される樹脂の温度は、その溶融粘度に応じて適宜設定すればよく、例えば250〜300℃であり、好ましくは255〜300℃であり、さらに好ましくは260〜300℃である。
ポリマーフィルターを用いた溶融濾過により、異物および着色物の少ない原フィルムを得るための具体的な手順は、特に限定されない。例えば、(1)クリーン環境下で樹脂の形成および濾過処理を行い、引き続いてクリーン環境下で成形を行うプロセス、(2)異物または着色物を有する樹脂をクリーン環境下で濾過処理した後、引き続いてクリーン環境下で成形を行うプロセス、(3)異物または着色物を有する樹脂を、クリーン環境下で濾過処理すると同時に成形を行うプロセス、が採用される。それぞれの工程毎に、複数回、濾過処理を実施しうる。
ポリマーフィルターによって樹脂を溶融濾過する際には、押出機とポリマーフィルターとの間にギアポンプを設置して、フィルター内の樹脂の圧力を安定化させることが好ましい。
本発明の製造方法では、例えば、フィルム面内の遅相軸が当該フィルムの長手方向に対して40°以上50°以下傾いた位相差フィルムが形成できる。この位相差フィルムは、帯状の偏光フィルムとのロールtoロール積層による円偏光板の製造に好適である。原フィルムの構成および延伸条件によっては、フィルム面内の遅相軸が当該フィルムの長手方向に対して45°傾いた位相差フィルムを形成することも可能である。
本発明の製造方法では、例えば、二軸延伸性が低く、NZ係数が0.95以上1.30以下の位相差フィルムを形成できる。原フィルムの構成および延伸条件によっては、NZ係数が0.95以上1.2以下、さらには0.95以上1.15以下の位相差フィルムを形成することも可能である。NZ係数が1.0のとき、位相差フィルムの二軸延伸性は最も低くなる。
本発明の製造方法では、原フィルムの構成および延伸条件によっては、NZ係数が0.95以上1.30以下(0.95以上1.2以下または0.95以上1.15以下)であって、フィルム面内の遅相軸が当該フィルムの長手方向に対して40°以上50°以下傾いた位相差フィルムを形成できる。
本発明の製造方法で得た位相差フィルムの構成は、斜め方向に延伸されている以外、基本的に、原フィルムの構成と同じである。ただし、位相差フィルムには、延伸前の原フィルムにない層、例えば延伸後の工程により付加された層または延伸時もしくは延伸後の工程において変性した層が存在しうる。
本発明の製造方法により得た位相差フィルムは、例えば、主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含む熱可塑性樹脂により構成される層を有する。
本発明の製造方法により得た位相差フィルムが示す面内位相差Reは、波長590nmの光に対する値にして、例えば20nm以上500nm以下であり、30nm以上320nm以下が好ましい。位相差フィルムが示す面内位相差Reの値は、例えば、原フィルムの延伸条件により制御しうる。面内位相差Reは、1/4波長板または1/2波長板のような、位相差フィルムの具体的な用途に応じて、適宜、設定しうる。面内位相差Reは、位相差フィルム面内における遅相軸方向の屈折率をnx、位相差フィルム面内における進相軸方向の屈折率をny、位相差フィルムの厚さをdとして、式(nx−ny)×dにより与えられる値である。厚さ方向の位相差Rthは、さらに位相差フィルムの厚さ方向の屈折率をnzとして、式{(nx+ny)/2−nz}×dにより与えられる値である。
本発明の製造方法により得た位相差フィルムは、その構成によっては逆波長分散性を示す。この場合、例えば、当該位相差フィルムを画像表示装置に用いたときに、当該装置の視認性、コントラスト特性が向上する。この特性の向上は、例えば、黒色表示における青みの低減をもたらす。なお、従来、位相差フィルムには、ポリカーボネート、シクロオレフィン重合体が主に用いられてきたが、これら一般的な重合体から構成される位相差フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる波長分散性(順波長分散性)を示す。
逆波長分散性の指標は、以下のとおりである。波長447nmの光に対する位相差フィルムの面内位相差をRe(447)、波長590nmの光に対する位相差フィルムの面内位相差ReをRe(590)、波長750nmの光に対する面内位相差をRe(750)としたときに、例えば、Re(447)、Re(590)およびRe(750)が、式Re(447)/Re(590)≦0.98かつ式Re(750)/Re(590)≧1.01を満たす。好ましくは、0.50以上0.98以下のRe(447)/Re(590)かつ1.01以上1.50以下のRe(750)/Re(590)であり、より好ましくは、0.60以上0.95以下のRe(447)/Re(590)かつ1.02以上1.40以下のRe(750)/Re(590)であり、さらに好ましくは、0.70以上0.93以下のRe(447)/Re(590)かつ1.03以上1.30以下のRe(750)/Re(590)である。
本発明の製造方法により得た位相差フィルムの厚さは、例えば、10μm〜500μmであり、好ましくは20μm〜300μmであり、より好ましくは30μm〜150μmである。
本発明の製造方法により得た位相差フィルムの全光線透過率は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは91%以上である。全光線透過率は、位相差フィルムの透明性の目安となる。全光線透過率が85%未満の位相差フィルムは、光学用フィルムとして適さない。
本発明の製造方法により得た位相差フィルムのTgは、好ましくは110℃以上、より好ましくは115℃以上、さらに好ましくは120℃以上である。Tgの上限は限定されないが、位相差フィルムの生産性およびハンドリング性を考慮すると、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。
本発明の製造方法により得た位相差フィルムは、任意のサイズおよび形状に加工できる。
位相差フィルムを構成する樹脂の組成は、原フィルムを構成する樹脂の組成と基本的に同じである。
位相差フィルムの表面には、必要に応じて各種の機能性コーティング層が形成されていてもよい。機能性コーティング層は、例えば、帯電防止層、粘接着剤層、接着層、易接着層、防眩(ノングレア)層、光触媒層などの防汚層、反射防止層、ハードコート層、紫外線遮蔽層、熱線遮蔽層、電磁波遮蔽層、ガスバリヤー層である。機能性コーティング層の形成は、延伸前の原フィルムに対して行われてもよく、延伸により得た位相差フィルムに対して行われてもよい。
本発明の製造方法により得た位相差フィルムと偏光フィルムとを積層することによって、例えば、楕円偏光板が得られる。楕円偏光板は、例えば、LCDやEL発光表示装置の反射防止膜として好ましく使用される。偏光フィルムは、例えば、偏光子の少なくとも一方の主面に偏光子保護フィルムが積層された構造を有する。位相差フィルムを偏光子保護フィルムに接するように偏光フィルムと積層する場合、当該位相差フィルムの表面に予め易接着層を形成しておくことが好ましい。
本発明の製造方法により得た位相差フィルムは、各種の光学部材として好適に用いることができる。光学部材は、例えば、光学用保護フィルム、具体的には、各種の光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)の基板の保護フィルム、LCDなどの画像表示装置が備える偏光板に用いる偏光子保護フィルムである。視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルムなどに使用してもよい。
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
最初に、製造例において作製した熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂組成物)ならびに実施例および比較例において作製した位相差フィルムの特性の評価方法を示す。
[ガラス転移温度(Tg)]
樹脂のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、Thermo plus EVO DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
[重量平均分子量]
樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、以下の条件で求めた。
システム:東ソー製GPCシステム HLC−8220
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)、流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー製、PS−オリゴマーキット)
測定側カラム構成:ガードカラム(東ソー製、TSKguardcolumn SuperHZ−L)、分離カラム(東ソー製、TSKgel SuperHZM−M)2本直列接続
リファレンス側カラム構成:リファレンスカラム(東ソー製、TSKgel SuperH−RC)
[メルトフローレート(MFR)]
樹脂のメルトフローレート(MFR)は、JIS K6874に準拠して、試験温度を240℃、試験荷重を10kgとして求めた。
[固有複屈折]
フィルム(原フィルムおよび位相差フィルム)を構成する樹脂の固有複屈折の正負は以下のように評価した。最初に、作製した未延伸の原フィルムから80mm×50mmのフィルム片を切り出し、加温室を備えたオートグラフ(島津製作所製)を用いて、原フィルムのTg+3℃にて延伸倍率2倍で一軸延伸し、延伸フィルムを得た。このとき、フィルム片における長手方向の両端部のそれぞれ20mmをチャックの取り付けしろとしたため、実質的には、フィルム片における40mm×50mmの部分に対して延伸が実施された。次に、全自動複屈折計(王子計測機器製、KOBRA−WR)を用いて、得られた延伸フィルムの配向角を求め、これによりフィルムを構成する樹脂の固有複屈折の正負を決定した。測定された配向角が0°近傍であれば(すなわち、樹脂の配向方向が延伸方向と略平行であれば)、フィルムを構成する樹脂の固有複屈折は正である。測定された配向角が90°近傍であれば(すなわち、樹脂の配向方向が延伸方向と略垂直であれば)、フィルムを構成する樹脂の固有複屈折は負である。
[屈折率異方性]
作製した位相差フィルムの波長590nmの光に対する面内位相差Re(590)および波長590nmの光に対する厚さ方向の位相差Rthならびに光軸の方向(フィルム面内における遅相軸の方向)は、位相差フィルム・光学材料検査装置(大塚電子製、RETS−100)を用いて評価した。測定の際に当該装置に入力する位相差フィルムの厚さdは、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ製)により、位相差フィルムの平均屈折率はアッベ屈折率計により、それぞれ測定した。Rthは式{(nx+ny)/2−nz}×dにより与えられる値を用いた。Rthを測定する際には、測定対象である位相差フィルムを傾斜させるが、その傾斜軸は、当該フィルムの遅相軸および進相軸のうち、遅相軸を傾斜軸として測定した面内位相差Re(S40°)と、進相軸を傾斜軸として測定した面内位相差Re(F40°)とを比較して大きい値が得られる方とした。位相差フィルムの一軸延伸性は、NZ係数(NZ=|Rth|/|Re(590)|+0.5)により評価した。
位相差フィルムの光軸Rの方向(フィルム面内の遅相軸の方向)は、作製した帯状の位相差フィルムから、当該フィルムを幅方向に横切る帯状の評価用フィルムを切り出し、切り出した評価用フィルムの短辺を上記装置の基準バーに合わせて基準軸がぶれないようにして測定した。光軸Rの方向は、基準方向となる位相差フィルムの長手方向を0°として、当該方向からの角度をもって表現した。光軸Rの方向は、フィルムの上流側から下流側を見たときに光軸が左側(左側クリップ側)を向いている場合を「左側」、右側(右側クリップ側)を向いている場合を「右側」とした。
精度を評価するときを除き、位相差フィルムの光学特性は、作製した帯状の位相差フィルムにおける幅方向の中央部を評価した。
作製した位相差フィルムにおける幅方向の光学特性の均一性(面内位相差精度ΔRe(590)、光軸精度ΔR、一軸延伸性の精度ΔNZ)は、作製した帯状の位相差フィルム(幅500mm)の幅方向に、50mm間隔で11点、各光学特性(Re(590)、光軸Rの方向およびNZ係数)の測定ポイントを設け、各ポイントにおいて測定した最大値と最小値との差により評価した。
(製造例1)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応容器に、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)10重量部、メタクリル酸メチル(MMA)40重量部、重合溶媒としてトルエン50重量部および酸化防止剤としてアデカスタブ2112(ADEKA製)0.025重量部を仕込んだ。次に、反応容器に窒素ガスを導入しながら105℃まで昇温し、還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.05重量部を添加した。これと同時に上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.10重量部の滴下を開始し、これを2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させた。滴下終了後、反応容器を4時間加温し続けて熟成を行った。
次に、このようにして得た重合溶液に、環化反応の触媒としてリン酸2−エチルヘキシル(堺化学製、商品名:Phoslex A−8)0.05重量部を添加し、約90℃〜105℃の還流下で2時間、ラクトン環構造を形成する環化縮合反応を進行させた。次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、樹脂量換算で70重量部/時の処理速度で導入して、重合溶液を脱揮した。用いたベントタイプスクリュー二軸押出機のリアベント数は1個、フォアベント数は4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)とし、第3ベントと第4ベントとの間にサイドフィーダーを配置し、バレル温度は240℃、減圧度は13.3〜400hPa(10〜300mmHg)とした。脱揮の際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.05重量部/時の投入速度で第1ベントの後ろから、イオン交換水を1.05重量部/時の投入速度で第2および第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液として、5重量部の酸化防止剤(チバスペシャリティケミカルズ製、イルガノックス1010)と、環化触媒失活剤として55重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、商品名:ニッカオクチクス亜鉛3.6%)とをトルエン45重量部に溶解させた溶液を用いた。さらに、上記サイドフィーダーから、スチレン−アクリロニトリル共重合体(スチレン単位/アクリロニトリル単位の比率が73重量%/27重量%、重量平均分子量22万)のペレットを、投入速度30重量部/時で投入した。
その後、押出機内にある溶融状態の樹脂を押出機の先端から吐出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル重合体と、スチレン−アクリロニトリル共重合体とを含む熱可塑性樹脂組成物(1A)のペレットを得た。樹脂(1A)の固有複屈折は負、Tgは122℃、重量平均分子量は146000、MFRは13.6g/10分であった。
次に、ポリマーフィルター(濾過精度5μm)を備えるとともにTダイを先端に備えた単軸押出機を用いて、成形温度270°で樹脂(1A)のペレットを溶融押出成形して、厚さ220μm、幅570mmの帯状の未延伸フィルム(1A−F1)を作製した。
(実施例1)
実施例1では、製造例1で作製した未延伸フィルム(1A−F1)を原フィルムとして、本発明の製造方法に従って斜め延伸した。
加熱延伸装置には、複数個のクリップにより構成されるクリップ群が走行する一対のレール(左側クリップレールおよび右側クリップレール)と、原フィルムの上流側から下流側に向かって予熱ゾーン、前段延伸ゾーン、中段延伸ゾーン、後段延伸ゾーンおよび熱処理ゾーンが順に設定された加熱炉とを備える同時二軸延伸機を用いた。左側クリップレールの形状と右側クリップレールの形状とは、同時二軸延伸機の上方から見て、原フィルムを幅方向に二分割する、原フィルムの長手方向に伸長する直線に対称とした。換言すれば、左側クリップレールおよび右側クリップレールにおける、予熱ゾーンの入り口から等距離にある点を互いに結ぶ線分の中点が、常に上記直線(中心線)上にあるようにした。左右の両レールにおける各ゾーンの境界部には、レール間隔を調整し、前段延伸ゾーン、中段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンにおいて原フィルムの幅方向の延伸を可能とするための関節部を設けた。左側レールを走行するクリップの速度を増大させる区間(第1の区間)として前段延伸ゾーンを使用し、前段延伸ゾーンから走行移動してきた左右双方のレールを走行するクリップの速度を各々保つ区間(第2の区間)として中段延伸ゾーンを使用し、中段延伸ゾーンから走行移動してきた右側レールを走行するクリップの速度を増大させる区間(第3の区間)として後段延伸ゾーンを使用した。帯状の原フィルムを把持する際の左右のクリップ群の走行速度(左右のクリップイン部でのクリップ走行速度)は、ともに2.0m/分とした。クリップが原フィルムを把持する位置は、当該フィルムの幅方向の端部から25mmの位置とした。各延伸ゾーンの長さ(原フィルムの流れ方向の長さ)は同一とした。
実施例1では、以下の表1,2に示す延伸条件に従って、原フィルムの斜め延伸を実施した。原フィルムを延伸した後にクリップを解放する際の左右のクリップ群の走行速度(左右のクリップアウト部でのクリップ走行速度)は、それぞれ、表2に示される「左側(右側)クリップ倍率」の欄に記載されている数値に、左側(右側)のクリップイン部におけるクリップ走行速度を掛けた値となる。実施例1では、トータルのクリップ倍率が、左右のクリップともに1.30倍であるため、クリップアウト部でのクリップ走行速度は、左右のクリップともに2.6m/分であった。
予熱ゾーンおよび熱処理ゾーンでは、原フィルムの流れ方向および幅方向ともに、加熱による原フィルムの弛みの解消および冷却時にフィルムに生じる収縮応力の調整を目的とした、クリップ走行速度の微調整を実施した。ただし、微調整は、クリップアウト部における左右のクリップ走行速度の比が必ず0.98以上1.02以下となるように実施した。特に記載がない限り、以降の比較例においても同様である。
表2における「トータル」の欄は、左側クリップ倍率、右側クリップ倍率および横延伸倍率のそれぞれにおいて、前段、中段および後段の各延伸ゾーンにおけるクリップ倍率を乗じた値を示す。以降の表においても同様である。表2の条件では、左側クリップの走行速度は、前段延伸ゾーンにおいて当該ゾーンに入る前の1.30倍になるまで増加する。このとき、右側クリップの走行速度は保たれる。次に、中段延伸ゾーンにおいて左右双方のクリップの走行速度は、左側クリップの走行速度v1と右側クリップの走行速度v2との比v1/v2にして1.30で表される走行速度差を保ったまま保持される。その後、後段延伸ゾーンにおいて、右側クリップの走行速度が当該ゾーンに入る前の1.30倍になるまで増加する。このとき、左側クリップの走行速度は保たれる。
クリップレールは、左右ともに、前段延伸ゾーン、中段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンを通じて直線に設定した。しかし、横延伸に関し表2では、各延伸ゾーンにおける倍率が互いに異なっている。これは、各延伸ゾーンにおける倍率が、直前の延伸ゾーンにおいて横延伸した後の原フィルムの幅を基準にしているためである。横延伸の倍率に関して、以降の表においても同様である。
このようにして得た位相差フィルム(1A−F2)の光学特性を以下の表3に示す。位相差フィルム(1A−F2)は、光軸が長手方向に対して46°の方向を向いた、二軸延伸性の低い位相差フィルムであった。
(比較例1)
中段延伸ゾーンを二軸延伸機に設けず前段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンのみとし、以下の表4に示す延伸条件に従った以外は実施例1と同様にして、製造例1で作製した原フィルム(1A−F1)の斜め延伸を実施した。前段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンの長さ(原フィルムの流れ方向の長さ)は実施例1と同一とした。比較例1では、中段延伸ゾーンが存在しない分、延伸ゾーンの全長が実施例1よりも短いことになる。なお、比較例1では、実施例1における中段延伸ゾーンの斜め延伸が行われないことを考慮し、前段延伸ゾーンにおける左側クリップ倍率および後段延伸ゾーンにおける右側クリップ倍率を、実施例1よりも大きく1.50倍に設定した。
このようにして得た位相差フィルム(F11)の光学特性を以下の表5に示す。
表5に示すように位相差フィルム(F11)は、光軸が長手方向に対して44°の方向を向いているが、NZ係数が1.87と二軸延伸性が高くなった。また、面内位相差Re(590)も54.7nmと実施例1に比べて低く、二軸延伸性精度こそ実施例1と同等であったものの、面内位相差精度および光軸精度は実施例1に比べて低くなった。
(比較例2)
以下の表6に示す延伸条件に従った以外は比較例1と同様にして、製造例1で作製した原フィルム(1A−F1)の斜め延伸を実施した。なお、比較例2では、前段延伸ゾーンにおける左側クリップ倍率および後段延伸ゾーンにおける右側クリップ倍率を、実施例1と同じく1.30倍に設定した。
このようにして得た位相差フィルム(F12)の光学特性を以下の表7に示す。
表7に示すように位相差フィルム(F12)は、NZ係数が比較例1に比べて小さくなり二軸延伸性が低くなった一方で、光軸を長手方向に対して26°しか傾けることができなかった。また、面内位相差Re(590)も実施例1に比べて低く、面内位相差精度、光軸精度および二軸延伸性精度のいずれも実施例1に比べて低くなった。