本明細書における「熱可塑性樹脂」(あるいは単に「樹脂」)は「重合体」よりも広い概念である。樹脂は、1種または2種以上の重合体を含みうるし、必要に応じて、重合体以外の材料、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラー、相溶化剤、安定化剤のような添加剤を含みうる。
[延伸フィルム]
図1に、本発明の延伸フィルムの一例を示す。図1に示す延伸フィルム1は、長さ方向の端部2a,2bと、端部2a,2b以外の部分(センター部)3とを有しており、端部2a,2bとセンター部3とが互いに異なる熱可塑性樹脂により構成されている。端部2a,2bを構成する熱可塑性樹脂が示す耐折強度は、センター部3を構成する熱可塑性樹脂が示す耐折強度よりも大きい。延伸フィルム1の端部2a,2bにはナーリング部12が形成されている。
なお、本明細書において延伸フィルムの「幅方向」および「長さ方向」とは、それぞれ、矩形状の延伸フィルムにおける「短辺(が伸びる)方向」および「長辺(が伸びる)方向」を意味している。帯状の延伸フィルムにおいても同様である。また、図1では、延伸フィルム1の特定方向に伸びる帯としてナーリング部12が示されているが、ナーリングの形状自体が帯状というわけではなく、延伸フィルム1においてナーリング部12が形成されている領域を当該延伸フィルム1の特定方向に伸びる帯として模式的に示しているに過ぎない。以降の図においても同様である。
図1に示す延伸フィルム1は、その端部2a,2bにナーリング部12を有する。このため、当該フィルムを巻き取る、あるいは巻き返してロール(フィルムロール)とする際の巻き取り不良およびフィルム表面への傷、シワなどの発生が抑制され、外観欠点が少なく、保管安定性に優れた延伸フィルムロールが得られる。
また、図1に示す延伸フィルム1では、ナーリング部12が形成されている端部2a,2bが、センター部3よりも耐折強度が大きい熱可塑性樹脂から構成されている。このため、フィルムを巻き取る際および必要に応じて巻き返す際におけるナーリング部12の破損が抑制される。具体的な例としては、タッチロールを用いて延伸フィルム1のフィルムロールを形成する際;連続的に複数の延伸フィルムロールを形成する場合において、一本目のロールを製造した後、二本目のロールに巻き替える(帯状の延伸フィルムをカットし、二本目のロールを巻き取り始める)際;延伸フィルムを高速製膜しながらフィルムロールを形成する際;などにおいてナーリング部12の破損が抑制される効果が得られる。さらに、この破損抑制効果によって、ナーリング部12の高さを高くできるなど、ナーリング部12の形状の自由度が高くなる。
また、これらナーリング部12の破損は、当該破損を起因とする延伸フィルム1の破断につながるため、図1に示す延伸フィルム1では、例えば上記例示した状況における当該フィルムの破断が抑制される。さらに、ナーリング部12の破損を起因とするか否かに依らず、端部2a,2bがセンター部3よりも耐折強度が大きい熱可塑性樹脂から構成されることによって、当該端部からの延伸フィルム1の破断が抑制される。
延伸フィルム1に対するナーリング部12の形成は、センター部3がアクリル樹脂のような表面平滑性が高い熱可塑性樹脂により構成される場合に効果が高い。フィルムの表面平滑性が高いと、巻き取り不良(例えばゲージバンド)およびフィルム表面への傷、シワなどが発生しやすくなるからである。すなわち、センター部3がアクリル樹脂のような表面平滑性が高い樹脂から構成される場合に、本発明の効果はより顕著となる。
延伸フィルム1では、ナーリング部12の破損、および当該破損を起因とするか否かに依らず延伸フィルム1の破断は、センター部3がアクリル樹脂のような比較的硬くて脆い樹脂から構成される場合においても、端部2a,2bによって抑制される。すなわち、センター部3がアクリル樹脂のような比較的硬くて脆い樹脂から構成される場合に本発明の効果はより顕著となる。そして、センター部3が、表面平滑性が高くかつ比較的硬くて脆い樹脂から構成される場合に、本発明は特に顕著となる。
ナーリング部12の破損および延伸フィルム1の破断が抑制されることを除き、延伸フィルム1として求められる特性、例えば、延伸フィルム1が光学フィルムである場合の光学特性、は、当該フィルム1に占める面積の割合が大きいセンター部3によって(センター部3を構成する熱可塑性樹脂によって)担保することが一般的である。もちろん、端部2a,2bを含めて当該特性を実現してもよいし、端部2a,2bに対してセンター部3とは異なる機能を与えてもよい。例えば、端部2a,2bは延伸フィルム1を搬送する際の支持部とすることも可能であり、これにより搬送時における延伸フィルム1の破損が抑制される。
ナーリング部12は、端部2a,2bの少なくとも1つの端部に形成されていればよく、図1に示すように双方の端部2a,2bに形成されていてもよい。
延伸フィルム1は、例えば二軸延伸フィルムである。同時二軸延伸フィルムであっても、逐次二軸延伸フィルムであってもよい。延伸フィルムは、延伸軸(センター部3の延伸軸)が当該フィルム1の幅方向または長さ方向に伸びた延伸フィルムであってもよいし、当該フィルム1の幅方向および長さ方向に傾いた斜め延伸フィルムであってもよい。延伸フィルム1は、光学的に等方なフィルムであってもよい。延伸軸の状態は、延伸フィルム1の特性、例えば光学特性、に寄与する。
図2に、本発明の延伸フィルムの別の一例を示す。図2に示す延伸フィルム1は、幅方向の端部2a,2bと、端部2a,2b以外の部分(センター部)3とを有しており、端部2a,2bとセンター部3とが互いに異なる熱可塑性樹脂により構成される。図2に示す延伸フィルム1は、端部2a,2bの位置が当該フィルムの幅方向の端部であること以外は、図1に示す延伸フィルム1と同じである。
図3に、本発明の延伸フィルムの別の一例を示す。図3に示す延伸フィルム1は帯状であり、幅方向の端部2a,2bと、端部2a,2b以外の部分(センター部)3とを有しており、端部2a,2bとセンター部3とが互いに異なる熱可塑性樹脂により構成される。図3に示す延伸フィルム1は、帯状であること、および端部2a,2bの位置が当該フィルムの幅方向の端部であること以外は、図1に示す延伸フィルム1と同じである。
端部2a,2bが、延伸フィルム1の長さ方向の端部に位置するか幅方向の端部に位置するかは、例えば、図3に示す帯状の延伸フィルム1を裁断する位置によって選択することができる。帯状の延伸フィルム1は、例えば、本発明の製造方法により製造できる。
図3に示す帯状の延伸フィルム1をマザーフィルムとして、当該フィルム1を長さ方向に分割して2以上の延伸フィルム1を得ることもできる。この場合、マザーフィルムの幅方向の端部2aまたは2bを含む位置から得たフィルムは、その一方の端部が端部2aまたは2bであるため、本発明の延伸フィルムである。
本発明の延伸フィルムは、帯状の延伸フィルム1が巻回されたロール(フィルムロール)であってもよい。延伸フィルム1では、当該フィルムを巻き取る際および巻き返す際におけるナーリング部12の破損が抑制される。このため、ナーリング部12の破損により生じた破片の巻き込みによる外観欠点が少なく、保管安定性に優れる延伸フィルムロールが得られる。
ナーリング部12におけるナーリングの凹凸の高さは、例えば、1〜30μmであり、好ましくは1〜20μmである。ナーリング部12における凹凸の突起の個数は、例えば、面積1cm2あたり10〜100個である。ナーリング部12における凹凸の形状は、例えば、円錐台、角柱台、円柱、角柱、円錐および角錐である。凹凸の形状は不定形であってもよく、異なる形状を有する2種以上の凹凸によって、ナーリング部12が構成されていてもよい。ナーリング部12の幅は、例えば、延伸フィルム1全体の幅の0.3〜5%である。
本発明の延伸フィルム1において、端部2a,2bの幅は、当該端部を構成する熱可塑性樹脂の種類によっても異なるが、上述したナーリング部12の破損および延伸フィルム1の破断を抑制するためには、好ましくは5mm以上であり、より好ましくは10mm以上である。端部2a,2bの幅の上限は特に限定されないが、端部2a,2bの幅が大きくなるほど延伸フィルム1としての特性が担保されるセンター部3の面積が相対的に小さくなるため、本発明の効果が得られる範囲で小さいことが好ましく、例えば、100mm程度である。
ナーリング部12の幅は、端部2a,2bの幅以下であることが好ましく、端部2a,2bの幅の4.5〜100%が好ましい。
端部2aと端部2bとは、同一の熱可塑性樹脂から構成されていても、互いに異なる熱可塑性樹脂から構成されていてもよい。端部2a,2bが同一の熱可塑性樹脂から構成されている延伸フィルム1の方が、一般的に製造が容易である。
端部2aとセンター部3との境界および端部2bとセンター部3との境界は、必ずしも、図1〜3に示すように直線であるとは限らない。また、これらの境界は、必ずしも目視で確認できるとは限らない。端部2a,2bを構成する熱可塑性樹脂と、センター部3とを構成する熱可塑性樹脂との屈折率差によって、当該境界が確認できることがある。端部2a,2bとセンター部3との間で位相差の発現性が異なる場合、偏光下で当該境界が確認できることがある。
端部2a,2bを構成する熱可塑性樹脂は、センター部3を構成する熱可塑性樹脂に比べて耐折強度が大きい。当該強度が大きいことにより、上述したナーリング部12の破損および延伸フィルム1の破断が抑制される。
熱可塑性樹脂の耐折強度は、当該熱可塑性樹脂から構成される一軸延伸フィルムを形成し、当該フィルムに対して、JIS P8115の規定に準拠して耐折度試験機(MIT試験機)を用いた耐折強さ試験を行うことにより評価できる。耐折強さ試験では、試験サンプルである上記一軸延伸フィルムが破断するまでの折り曲げ回数(耐折回数)が評価されるが、熱可塑性樹脂の耐折強度が大きいほど、当該樹脂から構成されるフィルムの耐折回数が大きくなる。すなわち、端部2a,2bを構成する熱可塑性樹脂とセンター部3を構成する熱可塑性樹脂とでは、前者の方が耐折回数が大きい。耐折強度の評価に一軸延伸フィルムを使用するのは、未延伸フィルムでは延伸後のフィルムの状態を反映していないこと、および二軸延伸フィルムに比べて一軸延伸フィルムの方が破断が生じやすく、延伸状態における熱可塑性樹脂の特性をより強く反映すると考えられること、による。なお、ナーリング部12の破損および延伸フィルム1の破断はフィルム面内の延伸軸が伸びる方向に起きやすく、これらの破損および破断に対する耐性を評価するために、耐折強さ試験は、試験サンプルである一軸延伸フィルムの延伸軸方向が折れ曲げ軸となるように実施する必要がある。
端部2a,2bを構成する熱可塑性樹脂の耐折回数は、センター部3を構成する熱可塑性樹脂の耐折回数よりも大きければよい。
熱可塑性樹脂の耐折強度は、当該樹脂の引き裂き強度と相関があると考えられる。引き裂き強度とは、当該熱可塑性樹脂から構成される一軸延伸フィルムを形成したときに、フィルムをその延伸軸方向に引き裂こうとする力に対して当該フィルムが示す強度をいう。なお、斜め延伸は一軸延伸性が強い延伸である。
斜め延伸フィルムの製造工程を考慮すると、延伸前の段階においても、例えば原フィルムを搬送する際のロールへの追従性などから、フィルムが破断する可能性がある。このため、端部2a,2bを構成する熱可塑性樹脂とセンター部3を構成する熱可塑性樹脂とでは、前者の方が、上述した一軸延伸フィルムとしたときの耐折回数に加えて未延伸フィルムとしたときの耐折回数が大きいことが好ましい。未延伸フィルムにおける耐折回数は、試験サンプルを未延伸フィルムとする以外は上述した一軸延伸フィルムにおける耐折回数と同様に、評価できる。
また、端部2a,2b以外の部分(センター部3)を構成する熱可塑性樹脂に比べて、端部2a,2bを構成する熱可塑性樹脂が示す衝撃強度が大きいことが好ましい。この場合、さらに、原フィルムの形成時および延伸時におけるフィルムの破断が抑制される。熱可塑性樹脂の衝撃強度とは、当該熱可塑性樹脂から構成される未延伸フィルムを形成したときに、加えられた衝撃(インパクト)に対して当該未延伸フィルムが示す強度をいう。衝撃強度について未延伸フィルムとしているのは、キャストロールからの剥離、延伸のためのクリップによる把持など、衝撃によってフィルムの破断が起こりやすい工程が未延伸フィルム(原フィルム)の状態に集中しているためである。衝撃の印加および衝撃強度の評価は、例えば、ASTM−D3420の規定に準拠して実施できる。
端部2a,2bおよびセンター部3を構成する熱可塑性樹脂は、耐折強度に関する上述した大小関係が満たされる限り、特に限定されない。
センター部3を構成する熱可塑性樹脂は、例えば、非晶性高分子を主成分とする樹脂である。非晶性高分子は、一般に光学的な透明性に優れるため、延伸フィルムを位相差フィルム、偏光子保護フィルムのような光学フィルムとして使用する際に好ましい。ここで「主成分」とは、熱可塑性樹脂を構成する最も含有率が大きな成分をいう。当該成分の含有率は、例えば50重量%以上である。
非晶性高分子は特に限定されないが、センター部3を構成する熱可塑性樹脂について、例えば、アクリル重合体、スチレン系重合体およびシクロオレフィンから選ばれる少なくとも1種である。これらの重合体は、その光学的な透明性の高さから、延伸フィルム1を光学フィルムとして使用する際に特に好ましい。なお、本明細書では、アクリル重合体を主成分とする熱可塑性樹脂をアクリル樹脂、スチレン系重合体を主成分とする熱可塑性樹脂をスチレン系樹脂、シクロオレフィン重合体を主成分とする熱可塑性樹脂をシクロオレフィン樹脂とする。非晶性高分子は、その他、セルロース誘導体であってもよい。
センター部3がアクリル樹脂またはスチレン系樹脂により構成される場合、当該樹脂が比較的硬くて脆いことから、延伸フィルム1としたときに上述した破損および破断が生じやすい。このため、センター部3を構成する熱可塑性樹脂がアクリル樹脂またはスチレン系樹脂である場合に、本発明の効果がより顕著となる。
センター部3を構成する熱可塑性樹脂は、主鎖に環構造を有する重合体を含んでいてもよい。この場合、延伸フィルム1のガラス転移温度(Tg)が向上する。高いTgを有する延伸フィルム1は、耐熱性が要求される用途、例えば、電源、光源、回路基板などの発熱体が狭い空間に集積された構造を有する、液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置への光学フィルムとしての使用に好適である。光学フィルムは、例えば、位相差フィルム、偏光子保護フィルムである。また、環構造の種類によっては、延伸フィルム1の光学的な特性、例えば位相差値が向上する。
主鎖に環構造を有する重合体はアクリル重合体であってもよく、すなわち、センター部3は、主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含んでいてもよく、主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含むアクリル樹脂により構成されてもよい。主鎖に環構造を有するアクリル重合体は、主鎖に環構造を有さないアクリル重合体に比べて、さらに硬くて脆い傾向を有する。このため、延伸フィルムとしたときに上述した破断が生じやすい。すなわち、この場合、本発明の効果がさらに顕著となる。
アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単位を全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。ただし、アクリル重合体が、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造を含む場合、当該環構造の含有率も(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率に含まれる。アクリル重合体は光学的な透明度が高く、表面強度などの機械的特性に優れる。
シクロオレフィン重合体は、シクロオレフィン単位を全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。セルロース誘導体は、トリアセチルセルロース(TAC)単位、セルロースアセテートプロピオネート単位、セルロースアセテートブチレート単位、セルロースアセテートフタレート単位などの繰り返し単位を全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体は主鎖に環構造を有する。
スチレン系重合体は、スチレン単位、α−メチルスチレン単位、α−ヒドロキシメチルスチレン単位、α−ヒドロキシエチルスチレン単位などのスチレンおよびその誘導体に由来する構成単位を全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。スチレン系重合体は、例えば、ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体である。
センター部3を構成する熱可塑性樹脂は、これらの重合体を2種類以上含みうる。ただし、延伸フィルム1を光学フィルムとして使用する場合には、光学的に透明なフィルムとするために重合体同士の相溶性を考慮する必要がある。例えば、センター部3を構成する熱可塑性樹脂が主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含む場合、当該アクリル重合体との相溶性の観点から、同時に含む重合体はスチレン−アクリロニトリル共重合体であることが好ましい。
主鎖に環構造を有するアクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位と環構造とを含む。当該アクリル重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位と環構造との含有率の合計は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%、特に好ましくは95重量%以上、最も好ましくは99重量%以上である。環構造の含有率は、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは15重量%以上である。環構造の含有率が40重量%を超えると、そのような環構造の含有率を有する重合体の形成が難しくなったり(環化反応を進行させる際にゲルが生じやすくなる)、当該重合体を含む熱可塑性樹脂の成形性およびハンドリング性が低下して、延伸フィルム1の生産性が低下することがある。
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどの単量体に由来する構成単位である。アクリル重合体は、これらの構成単位を2種類以上有しうる。アクリル重合体はメタクリル酸メチル(MMA)単位を有することが好ましく、この場合、延伸フィルム1の熱安定性が向上する。
アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単位以外の構成単位を有しうる。当該構成単位は、例えば、水酸基および/またはカルボン酸基を有する構成単位である。水酸基および/またはカルボン酸基を有する構成単位は、その種類によっては、重合後の環化反応によって重合体の主鎖に位置する環構造に変化する。アクリル重合体には、環構造に変化しなかった未反応のこれらの構成単位が残りうる。水酸基を有する構成単位は、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルの各単量体に由来する構成単位である。カルボン酸基を有する構成単位は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸の各単量体に由来する構成単位である。アクリル重合体は、これらの構成単位を2種類以上有しうる。
アクリル重合体が有しうる、(メタ)アクリル酸エステル単位以外のさらなる構成単位は、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタリルアルコール、アリルアルコール、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニル、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、メチルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾールの各単量体に由来する構成単位である。アクリル重合体は、これらの構成単位を2種類以上有しうる。
環構造の種類は特に限定されず、例えば、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種である。なかでも、延伸前の原フィルム成形時における耐熱性の観点から、ラクトン環構造、グルタルイミド構造およびマレイミド構造から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
アクリル重合体が主鎖に有していてもよいラクトン環構造は特に限定されず、例えば、4から8員環であってもよいが、環構造の安定性に優れることから5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。6員環であるラクトン環構造は、例えば、特開2004−168882号公報に開示されている構造であるが、前駆体の重合収率が高いこと、前駆体の環化反応により、高いラクトン環含有率を有するアクリル重合体が得られること、MMA単位を構成単位として有する重合体を前駆体にできること、などの理由から以下の式(1)に示される構造が好ましい。
式(1)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1から20の有機残基である。有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
式(1)における有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基のような炭素数1から20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基のような炭素数1から20の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基のような炭素数1から20の芳香族炭化水素基である。上記アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基は、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換されていてもよい。
アクリル重合体が主鎖にラクトン環構造を有する場合、当該重合体におけるラクトン環構造の含有率は特に限定されない。含有率は、例えば5〜90重量%であり、好ましくは10〜80重量%であり、より好ましくは10〜70重量%であり、さらに好ましくは20〜60重量%である。アクリル重合体における環構造の含有率が過度に小さくなると、延伸フィルム1において、環構造の存在により期待される特性、例えば、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度および光学特性が不十分となることがある。環構造の含有率が過度に大きくなると、アクリル重合体および当該重合体を含む熱可塑性樹脂の成形性およびハンドリング性が低下して、原フィルムおよび延伸フィルム1の生産性が低下する。
アクリル重合体におけるラクトン環構造の含有率は、公知の方法により評価しうる。具体的には、例えば、アクリル重合体に対してダイナミックTG測定を実施し、150℃から300℃に加熱したときの重量減少率(実測重量減少率)を求める。この重量減少率は、評価対象であるアクリル重合体に残留する水酸基の量に対応する。150℃は、アクリル重合体に残留する未反応の(環化しなかった)水酸基が再び環化反応を開始する温度であり、300℃はアクリル重合体が分解を始める温度である。この実測重量減少率と、環化反応前の前駆体が有する全ての水酸基(前駆体の組成から算出しうる)が脱アルコール環化反応したと仮定したときの理論重量減少率とから、ラクトン環構造の含有率を算出しうる。すなわち、ラクトン環構造を有するアクリル重合体のダイナミックTG測定において、150℃から300℃までの間の実測重量減少率(X)の測定を行う。これとは別に、当該重合体の組成から、その組成に含まれる全ての水酸基がラクトン環の形成(脱アルコール環化反応)に関与すると仮定したときの理論重量減少率(Y)を求める。理論重量減少率(Y)は、より具体的には、重合体中の脱アルコール環化反応に関わる構造(水酸基)を有する単量体のモル比、すなわち当該単量体の含有率から算出しうる。これらの値X,Yを式{1−(実測重量減少率(X)/理論重量減少率(Y))}×100(%)に代入して、脱アルコール反応率Aが得られる。次に、求めた脱アルコール反応率Aに対応する割合で環化反応が進行したと仮定して、式B×A×MR/Mmにより、ラクトン環の含有率が求められる。Bは、前駆体(ラクトン環化反応が進行する前の重合体)における、上記水酸基を有する単量体の含有率であり、MRは、環化反応により形成されるラクトン環構造の式量であり、Mmは、上記水酸基を有する単量体の分子量であり、Aは、脱アルコール反応率である。
主鎖に環構造を有するアクリル重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは8万以上、より好ましくは10万以上である。分子量の分散度は、好ましくは3.5以下であり、より好ましくは3以下である。これらの場合、アクリル重合体に存在する分岐構造が少なく、加工時の熱安定性が向上するとともに、原フィルムおよび延伸フィルム1の強度および外観が向上する。Mwおよび分散度は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)を用いてポリスチレン換算により求めうる。分散度は、重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnである。Mnも、GPCを用いて求めうる。
主鎖に環構造を有するアクリル重合体のガラス転移温度Tgは、例えば、110℃以上であり、115℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。一方、Tgが200℃を越えると、溶融製膜が困難になるなど、原フィルムの成形性が低下する。主鎖に環構造を有さない一般的なアクリル重合体のTgは100℃程度である。
主鎖に環構造を有するアクリル重合体は、公知の方法により製造しうる。環構造が無水グルタル酸構造またはグルタルイミド構造であるアクリル重合体は、例えば、WO2007/26659号公報またはWO2005/108438号公報に記載されている方法により製造しうる。環構造が無水マレイン酸構造またはN−置換マレイミド構造であるアクリル重合体は、例えば、特開昭57-153008号公報または特開2007-31537号公報に記載されている方法により製造できる。環構造がラクトン環構造であるアクリル重合体は、例えば、特開2006-96960号公報、特開2006-171464号公報または特開2007-63541号公報に記載されている方法により製造できる。
センター部3を構成する熱可塑性樹脂のTgは、例えば、110℃以上であり、115℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。一方、Tgが200℃を越えると、溶融製膜が困難になるなど、原フィルムの成形性が低下する。
センター部3を構成する熱可塑性樹脂は、上述した以外の他の重合体を含みうる。センター部3を構成する熱可塑性樹脂における当該重合体の含有率は、好ましくは50重量%未満、より好ましくは0〜25重量%、さらに好ましくは0〜10重量%である。当該重合体は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)のようなオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル重合体のような含ハロゲン系ポリマー;ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートのような生分解性ポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610のようなポリアミド;ポリアセタール;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルニトリル;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴムまたはアクリル系ゴムを配合したABS樹脂またはASA樹脂のようなゴム質重合体;である。ただし、延伸フィルム1を光学用途に使用する場合、延伸フィルム1が光学フィルムである場合には、光学的に透明なフィルムを得るために重合体同士の相溶性を考慮する必要がある。センター部3を構成する熱可塑性樹脂が主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含む場合、当該アクリル重合体との相溶性の観点から、ゴム質重合体は、当該アクリル重合体と相溶し得る組成を有するグラフト部を表面に有することが好ましい。また、光学的に透明なフィルムを得るためには、ゴム質重合体の平均粒子径は、例えば、400nm以下であり、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは100nm以下であり、さらに好ましくは70nm以下である。
センター部3を構成する熱可塑性樹脂は、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体を含みうる。この場合、熱可塑性樹脂の組成によっては、延伸フィルム1が示す光学特性、具体的に複屈折の波長分散性、の制御の自由度が高くなり、例えば、逆波長分散性を示す光学フィルムが得られる。逆波長分散性は、少なくとも可視光域において、波長が短くなるほど複屈折が小さくなる(位相差が小さくなる)波長分散性である。複素芳香族基は、例えば、カルバゾール基、ピリジン基、チオフェン基およびイミダゾール基から選ばれる少なくとも1種である。複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位は、例えば、N−ビニルカルバゾール単位、ビニルピリジン単位、ビニルチオフェン単位およびビニルイミダゾール単位から選ばれる少なくとも1種である。なかでも、N−ビニルカルバゾール単位が好ましく、この場合、光学フィルムとして良好な逆波長分散性を示しうる。
複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体は、主鎖に環構造を有するアクリル重合体でありうる。センター部3を構成する熱可塑性樹脂は、主鎖に環構造を有するアクリル重合体とは異なる重合体として、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体を含みうる。
端部2a,2bを構成する熱可塑性樹脂は、上述した高分子を主成分とすることができる。また、耐折強度に優れ、衝撃強度にも優れることから、端部2a,2bを構成する熱可塑性樹脂は、ポリカーボネートおよびポリエステルから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、当該少なくとも1種を主成分として含むことがより好ましく、当該少なくとも1種から構成されることがさらに好ましい。
端部2a,2bおよびセンター部3を構成する熱可塑性樹脂は、公知の添加剤を含みうる。添加剤は、例えば、紫外線吸収剤;酸化防止剤;位相差上昇剤および位相差低減剤のような位相差調整剤;位相差安定剤、耐光安定剤、耐候安定剤および熱安定剤のような安定剤;ガラス繊維および炭素繊維のような補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェ−ト、トリアリルホスフェ−トおよび酸化アンチモンのような難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に代表される帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料のような着色剤;有機フィラー、無機フィラー;樹脂改質剤;マット剤;酸補足剤;金属不活性化剤;アンチブロッキング剤;可塑剤;滑剤;難燃剤;ASAおよびABSのようなゴム質重合体;その他、延伸フィルム1の光学特性および/または機械的特性を調整する材料である。添加剤の添加量は、例えば、0〜10重量%であり、好ましくは0〜5重量%であり、より好ましくは0〜2重量%であり、さらに好ましくは0〜0.5重量%である。
延伸フィルム1の表面には、熱可塑性樹脂の層ではない機能性層を設けうる。機能性層は、例えば、ハードコート層、易接着層、帯電防止層、反射防止層、防眩層、粘接着剤層およびアンチブロッキング層である。2以上の機能性層が積層して設けられていてもよい。
本発明の延伸フィルムは、一軸延伸フィルムおよび二軸延伸フィルムを含む従来の延伸フィルムと同様の用途に使用できる。用途の一例は、光学フィルムである。光学フィルムは、例えば、各種の光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)の基板の保護フィルム、LCDなどの画像表示装置が備える位相差フィルムおよび偏光子保護フィルム、ならびに視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルム、偏光板、円偏光板である。
[延伸フィルムの製造方法]
図4,5に、本発明の延伸フィルムの製造方法の一例を示す。図5は、図4に示す例をその側面(原フィルム4および延伸フィルム1の側面)から見た模式図である。図4,5に示す例では、帯状の樹脂フィルム(原フィルム)4を加熱延伸装置21において延伸し、加熱延伸装置21から送り出された延伸後のフィルムを、第一ロール23および第二ロール24に順に通している。加熱延伸装置21では、帯状の原フィルム4の幅方向の端部5a,5bを把持したクリップ(図示を省略)の走行移動により、原フィルム4が延伸される。加熱延伸装置21内でクリップの走行移動により延伸された原フィルム4は、クリップアウト部22においてクリップから開放される(クリップアウトされる)。図4,5に示す例では、延伸後のフィルムがクリップから開放された後、当該フィルムの端部2a,2bにおけるクリップによって把持されていた部分を、端部2a,2bの一部が当該フィルムに残留するように、当該端部2a,2bのインラインスリットにより取り除いている。そして、その後、延伸後のフィルムに残留した端部2a,2bに、ナーリング加工装置26によりナーリング部12を形成している。ここで、原フィルム4における端部5a,5bと、当該端部5a,5b以外の部分(センター部6)とは互いに異なる熱可塑性樹脂により構成されており、センター部6を構成する熱可塑性樹脂に比べて、端部5a,5bを構成する熱可塑性樹脂が示す耐折強度が大きい。
クリップの走行移動による樹脂フィルムの延伸では、当該樹脂フィルムにおけるクリップによって把持されている部分は延伸されておらず、その膜厚は厚いままである。また、当該フィルムにおける延伸された部分と、クリップによって把持されていた延伸されていない部分(把持跡の部分)との間で強度に差が生じている。これら、厚い部分と延伸によって薄くなった部分との厚さの差および/または強度の差によって、クリップから開放された後のロールへの接触時に樹脂フィルムにシワおよび/または割れが発生し、最悪の場合、当該フィルムの破断につながる。
本発明の製造方法では、延伸時にクリップによって把持される原フィルム4の端部5a,5bが、センター部6よりも耐折強度が大きい熱可塑性樹脂から構成される。このため加熱延伸装置21による延伸後、フィルムの経路上に配置されたロールと接触する場合にも、クリップによる把持跡の部分を起点とするシワおよび割れの発生が抑制され、フィルムの破断が抑制される。この破断の抑制によって、延伸フィルム1の製造装置の配置および製造条件の選択の自由度が増す効果も得られる。
また本発明の製造方法では、延伸後のフィルムにおいて、センター部3を構成する熱可塑性樹脂に比べて耐折強度が大きな熱可塑性樹脂から構成される端部2a,2bを、当該端部の一部が延伸後のフィルムに残留するようにインラインスリットする。すなわち、インラインスリットによる切断線は、センター部3ではなく、耐折強度の大きな端部2a,2bを通過する。これにより、例えば高速製膜時においても安定したインラインスリットが可能となり、フィルムの破断が抑制される。
さらに本発明の製造方法では、延伸の際にクリップによって把持されていた部分が取り除かれた後のフィルムに、センター部3を構成する熱可塑性樹脂に比べて耐折強度が大きな熱可塑性樹脂から構成される端部2a,2bが残留しており、当該端部2a,2bにナーリング部12が形成される。これにより、例えば、高速製膜時においても安定したナーリング部12の形成が可能となる、あるいはナーリング部12の高さを高くできるなど、形成するナーリング部12の形状の自由度が向上するといった効果が得られる。また、形成したナーリング部12の破損が、例えばナーリング部12の形成後に当該フィルム(延伸フィルム1)を巻き取る際および巻き返す際においても抑制される。また、ナーリング部12の破損が生じるか否かに依らず、端部2a,2bからの延伸フィルム1の破損が抑制される。
これらの破断および破損は、原フィルム4のセンター部6(=延伸フィルム1のセンター部3)が比較的硬くて脆い樹脂を含む場合に生じやすい。本発明の製造方法では、このような場合においても、延伸後のフィルムにおける上記破断および破損が抑制される。「比較的硬くて脆い樹脂」とは、例えば、アクリル樹脂およびスチレン系樹脂である。すなわち、原フィルム4および本発明の製造方法によって得られた延伸フィルム1のセンター部3,6を構成する熱可塑性樹脂がアクリル樹脂またはスチレン系樹脂であってもよく、この場合、本発明の製造方法による効果がより顕著となる。
本明細書における「インラインスリット」とは、延伸後のフィルムを一旦巻き取ってからスリットする(スリット工程を行う)のではなく、延伸後のフィルムを搬送しながら、当該フィルムをワインダーなどで巻き取るまでの間にカッターなどにより、その一部を切断することをいう。
<原フィルムの構成>
原フィルム4の構成は、原フィルム4における端部5a,5bと端部5a,5b以外の部分(センター部6)とが互いに異なる熱可塑性樹脂により構成され、センター部6を構成する熱可塑性樹脂に比べて、端部5a,5bを構成する熱可塑性樹脂が示す耐折強度が大きい限り限定されない。
原フィルム4の端部5a,5bを構成する熱可塑性樹脂は、本発明の延伸フィルム1の端部2a,2bを構成する熱可塑性樹脂と同様であればよい。原フィルムのセンター部6を構成する熱可塑性樹脂は、本発明の延伸フィルム1のセンター部3を構成する熱可塑性樹脂と同様であればよい。
端部5a,5b以外の部分(センター部6)を構成する熱可塑性樹脂に比べて、端部5a,5bを構成する熱可塑性樹脂が示す衝撃強度が大きいことが好ましい。
端部5a,5bの幅は、当該端部を構成する熱可塑性樹脂の種類によっても異なるが、溶融押出成形された原フィルムのエッジビートからの破断(エッジビートは他の部分よりも厚く、割れやすい)を抑制するためには少なくともエッジビートの幅よりも大きいことが好ましく、好ましくは5mm以上であり、より好ましくは10mm以上である。端部5a,5bの幅の上限は特に限定されず、延伸条件によって適宜設定することができる。端部5a,5bの幅は、延伸およびスリットを行った後の端部2a,2bの幅に基づいて設定することが好ましい。
端部5aと端部5bとは、同一の熱可塑性樹脂から構成されていても、互いに異なる熱可塑性樹脂から構成されていてもよい。端部5a,5bが同一の熱可塑性樹脂から構成されている原フィルム4の方が、延伸を安定して行うことができるとともに、一般的に形成が容易である。
端部5aとセンター部6との境界および端部5bとセンター部6との境界は、必ずしも、図5に示すように直線であるとは限らない。また、これらの境界は、必ずしも目視で確認できるとは限らない。両者を構成する熱可塑性樹脂の屈折率差によって、境界が視認できることがある。
センター部6は、2以上の熱可塑性樹脂層が積層された構造を有していてもよい。
原フィルム4は、典型的には未延伸フィルムである。ただし、本発明の効果が得られる限り、既に延伸されたフィルムを原フィルム4として使用しうる。
原フィルム4の幅方向の端部5a,5bには、機能性加工が施されていてもよい。機能性加工は、原フィルム4の破断防止または原フィルム4へのアンチブロッキング性の付与を目的とするテープの貼付でありうる。テープは、例えば、積水化学製のタフライトテープ(商品名)である。
<原フィルムの形成方法>
原フィルム4を形成する方法は特に限定されない。原フィルム4は、例えば、端部5a,5bを構成する熱可塑性樹脂とセンター部6を構成する熱可塑性樹脂とを溶融共押出することにより形成できる。溶融共押出法は公知の方法に従えばよく、2種以上の熱可塑性樹脂を連続して共押出することにより帯状の原フィルム4を形成できる。形成した帯状の原フィルム4を巻回して、ロール(原フィルムロール)としてもよい。
押出成形の温度(成形温度)は、好ましくは200〜350℃、より好ましくは250〜300℃、さらに好ましくは255℃〜300℃、特に好ましくは260℃〜300℃である。
押出成形に用いる押出機の種類は特に限定されず、単軸、二軸、多軸のいずれの押出機も使用しうる。熱可塑性樹脂を十分に可塑化して良好な混練状態を得るために、押出機のL/D値(Lは押出機のシリンダの長さ、Dはシリンダ内径)は、好ましくは10以上100以下であり、より好ましくは15以上80以下であり、さらに好ましくは20以上60以下である。L/D値が10未満の場合、熱可塑性樹脂が十分に可塑化されず、良好な混練状態が得られないことがある。L/D値が100を超える場合、熱可塑性樹脂に対して過度に剪断発熱が加わることにより、樹脂中の重合体が熱分解することがある。
押出機のシリンダの設定温度は、好ましくは200℃以上300℃以下であり、より好ましくは250℃以上300℃以下である。シリンダの設定温度が200℃未満の場合、熱可塑性樹脂の溶融粘度が過度に高くなり、原フィルム4の生産性が低下しやすい。シリンダの設定温度が300℃を超える場合、樹脂中の重合体が熱分解することがある。
押出機の形状は、特に限定されない。押出機は、1個以上の開放ベント部を有することが好ましい。この場合、押出機の開放ベント部から分解ガスを吸引でき、得られた原フィルムに残存する揮発成分の量が低減する。開放ベント部から分解ガスを吸引するためには、例えば、開放ベント部を減圧状態にすればよい。減圧状態にある開放ベント部の圧力は、1.3〜931hPaが好ましく、13.3〜798hPaがより好ましい。開放ベント部の圧力が931hPaより高いと、揮発成分ならびに重合体の分解により発生する単量体成分が熱可塑性樹脂中に残存しやすい。開放ベント部の圧力を1.3hPaより低く保つことは工業的に困難である。
原フィルム4の製造には、ポリマーフィルターにより濾過した熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。ポリマーフィルターを用いた濾過により、樹脂中に存在する異物が除去され、得られた延伸フィルムの欠点(光学欠点、外観上の欠点)が低減される。濾過は、溶液濾過または溶融濾過である。
溶融濾過の際、熱可塑性樹脂は高温の溶融状態となる。ポリマーフィルターを通過する際に樹脂に含まれる成分が劣化すると、劣化により発生したガス成分あるいは着色劣化物が流れ出し、得られた原フィルムに、穴あき、流れ模様、流れスジのような欠点が観察されることがある。これらの欠点は、特に、原フィルムの連続成形時に観察されやすい。溶融濾過時の熱可塑性樹脂の劣化は、樹脂の溶融粘度を低下させ、ポリマーフィルターにおける樹脂の滞留時間を短くすることによって防ぎうる。この観点から、ポリマーフィルターにより溶融濾過した樹脂の成形温度は、例えば、255〜320℃であり、260〜300℃が好ましい。
ポリマーフィルターの構成は特に限定されない。ハウジング内に多数枚のリーフディスク型フィルターを配したポリマーフィルターが好適に用いられる。リーフディスク型フィルターの濾材は、金属繊維不織布を焼結したタイプ、金属粉末を焼結したタイプ、金網を数枚積層したタイプ、またはそれらを組み合わせたハイブリッドタイプのいずれであってもよく、なかでも、金属繊維不織布を焼結したタイプが最も好ましい。
ポリマーフィルターの濾過精度は特に限定されないが、通常15μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。濾過精度が1μm以下の場合、ポリマーフィルターにおける熱可塑性樹脂の滞留時間が長くなるため、樹脂に含まれる重合体が熱劣化しやすい。さらに、原フィルムの生産性も低下する。濾過精度が15μmを超える場合、樹脂中の異物を除去することが難しくなる。
ポリマーフィルターの形状は特に限定されず、例えば、複数の流通口を有し、センターポール内に熱可塑性樹脂の流路を有する内流型;断面が複数の頂点もしくは面においてリーフディスクフィルターの内周面に接し、センターポールの外面に熱可塑性樹脂の流路がある外流型;である。なかでも、樹脂の滞留箇所の少ない外流型が好ましい。
ポリマーフィルターにおける熱可塑性樹脂の滞留時間は、好ましくは20分以下、より好ましくは10分以下、さらに好ましくは5分以下である。濾過時におけるフィルター入口圧および出口圧は、例えば、それぞれ3〜15MPaおよび0.3〜10MPaであり、圧力損失(フィルターの入口圧と出口圧の圧力差)は、1MPa〜15MPaが好ましい。圧力損失が1MPa以下の場合、熱可塑性樹脂がフィルターを通過する流路に偏りが生じやすく、得られたフィルムの品質が低下する傾向がある。圧力損失が15MPaを超えると、ポリマーフィルターの破損が起こり易くなる。
ポリマーフィルターに導入される熱可塑性樹脂の温度は、その溶融粘度に応じて適宜設定すればよく、例えば250〜300℃であり、好ましくは255〜300℃であり、さらに好ましくは260〜300℃である。
ポリマーフィルターを用いた溶融濾過により、異物および着色物の少ない原フィルムを得るための具体的な手順は、特に限定されない。例えば、(1)クリーン環境下で熱可塑性樹脂の形成および濾過処理を行い、引き続いてクリーン環境下で成形を行うプロセス、(2)異物または着色物を有する熱可塑性樹脂をクリーン環境下で濾過処理した後、引き続いてクリーン環境下で成形を行うプロセス、(3)異物または着色物を有する熱可塑性樹脂を、クリーン環境下で濾過処理すると同時に成形を行うプロセス、が採用される。それぞれの工程毎に、複数回、濾過処理を実施しうる。
ポリマーフィルターによって熱可塑性樹脂を溶融濾過する際には、押出機とポリマーフィルターとの間にギアポンプを設置して、フィルター内の樹脂の圧力を安定化させることが好ましい。
<原フィルムの延伸方法>
本発明の製造方法における原フィルム4の延伸は、帯状の原フィルム4の幅方向の端部5a,5b(長辺縁部)を把持したクリップの走行移動による延伸を用いる限り、限定されない。逐次二軸延伸を行う場合には、クリップの走行移動による延伸(例えばテンター型横延伸機を用いた横延伸)と、ロール型縦延伸機あるいはオーブン型縦延伸機を用いた縦延伸とを組み合わせてもよい。
原フィルムの延伸は、公知の方法に従えばよい。一つの実施形態では、原フィルムの双方の長辺縁部をテンター横延伸機の一対のクリップ群によって把持し、クリップの走行移動に伴って当該一対のクリップ群間の間隔を広げることにより、原フィルムをその幅方向に延伸する。別の実施形態では、原フィルムの双方の長辺縁部を同時二軸延伸機の一対のクリップ群によって把持し、クリップを走行移動させることによって、原フィルムをその幅方向に延伸するとともに、当該フィルムをその流れ方向(長手方向)に延伸するまたは収縮させる。また別の実施形態では、原フィルムの双方の長辺縁部を同時二軸延伸機またはそれに類する装置の一対のクリップ群によって把持し、クリップを走行移動させることによって、原フィルムをその幅方向に延伸することなく、その流れ方向に延伸する。
これらの方法は、原フィルムを斜め延伸する場合にも適用できる。具体的に、斜め延伸は、例えば、以下のようにして実施できる。なお、本明細書における「斜め延伸」とは、帯状の樹脂フィルム(原フィルム)に対して、その長さ方向に対して90°未満傾いた方向への延伸、例えばその長さ方向(長手方向)に対して10°〜80°、典型的な例としては40°〜50°、好ましくは43°〜47°、より好ましくは44°〜46°傾いた方向への延伸をいう。
複数個のクリップにより構成される一対のクリップ群によって、帯状の原フィルム4における双方の長辺縁部をそれぞれ把持し(クリップイン)、原フィルム4を把持した上記一対のクリップ群の走行によって原フィルム4を延伸し、原フィルム4の延伸後、当該原フィルムを上記一対のクリップ群から開放して(クリップアウト)、帯状の延伸フィルムを得る。ここで、原フィルム4の延伸を、一方のクリップ群と他方のクリップ群との走行速度差および/またはクリップインからクリップアウトまでの間の一方のクリップ群と他方のクリップ群との走行距離差に基づいて、原フィルム4を当該フィルムの長手方向に対して斜めに延伸する(斜め延伸する)。このような斜め延伸により、例えば、フィルム面内の延伸軸が当該フィルムの長さ方向(長手方向)に対して傾いた斜め延伸フィルムが形成される。延伸は、必要に応じて、クリップインとクリップアウトとの間で2回以上実施できる。
延伸により複屈折性を発現する熱可塑性樹脂を原フィルムのセンター部6に用いた場合、このような斜め延伸により、例えば、フィルム面内の光軸(遅相軸または進相軸)が当該フィルムの幅方向および長さ方向に対して傾いた斜め延伸光学フィルム(例えば、斜め延伸位相差フィルム)が形成される。なお、延伸軸の方向と光軸の方向とは必ずしも一致するとは限らない。熱可塑性樹脂の種類および延伸の状況によっては、フィルム面に垂直な方向から見て両者の間に数度〜十数度程度のずれが生じることがある。
具体的な斜め延伸は、例えば、以下のように実施する。
一つの実施形態では、帯状の原フィルムをその幅方向に一軸延伸しながら、左右(帯状の原フィルムをその長さ方向に見たときの左右、以下、同じ)の周辺縁部を、互いに異なる速度で、原フィルムの長さ方向に引張延伸する。
この実施形態は、例えば、テンター横延伸機のような横一軸延伸機を使用して実施できる。具体的には、当該延伸機における左右のクリップ群を互いに独立して駆動することにより実施可能である。より具体的には、帯状の原フィルムを横一軸延伸機に従来と同様に導入して横一軸延伸を実施しつつ、独立して駆動するように改良した左右のクリップ群を互いに異なる走行速度で駆動させる。当該走行速度差は、原フィルムの左右の周縁縁部における引張力の差となる。これにより、原フィルムの斜め延伸が実現する。この実施形態において、得られた斜め延伸フィルムが示す特性(例えば、光軸、位相差、NZ係数などの光学特性)は、左右クリップ群の走行速度差および/または横一軸延伸の延伸倍率によって変化させることができる。
この実施形態は、パンタグラフ式およびリニアモーター式の同時二軸延伸機を用いても実施できる。テンター横延伸機を用いた場合と同様に、帯状の原フィルムをその幅方向に一軸延伸しながら、クリップ群の走行速度を左右で異なる状態にする、すなわち、原フィルムを把持するクリップ群の走行によりもたらされる原フィルム周辺縁部の送り速度を左右で異なる状態にする。これにより、原フィルムの長手方向の延伸倍率が左右で異なる状態となり、原フィルムの斜め延伸が実現する。
別の実施形態では、屈曲したテンターレールを有するテンター横延伸機を用いて、帯状の原フィルムを斜め延伸する。具体的には、屈曲した内周レールおよび外周レールに左右のクリップ群を同じ走行速度で走行させると、内周レールのクリップ群が外周レールのクリップ群よりも先に進行する。このとき、内周レールを走行するクリップ群と外周レールを走行するクリップ群との間で、クリップインからクリップアウトまでの走行距離が異なることになる。これにより、原フィルムの斜め延伸が実現する。この実施形態において、得られた延伸樹脂フィルムが示す光学特性は、内周レールおよび外周レールの屈曲の程度によって変化させることができる。
また別の実施形態は、国際公開第2012/017639号に記載された方法による、原フィルムの斜め延伸である。当該方法の一例を図6を参照しながら説明する。
図6では、国際公開第2012/017639号に記載された方法の一例における左右のクリップ群の走行状態を模式的に示している。符号21は、当該一例を実施しうる加熱延伸装置21、例えば、独立に加減速しうる複数のクリップにより構成される一対のクリップ群を備えた同時二軸延伸機、である。装置21では、左側クリップ群および右側クリップ群の各々に属するクリップが、クリップイン部(CIL,CIR)からL1〜L10,R1〜R9を経てクリップアウト部(COL,COR)に達し、左側クリップレールLRおよび右側クリップレールRRを経て、再びクリップイン部(CIL,CIR)に戻る走行を繰り返している。図6では原フィルムの図示が省略されているが、クリップイン部(CIL,CIR)において、帯状の原フィルムにおける左右の長辺縁部が、それぞれ左側クリップ群および右側クリップ群によって把持される。原フィルムは、当該フィルムを把持する左右のクリップ群の走行によって加熱延伸装置21に導かれるとともに、当該装置21における予熱ゾーンZ1、前段延伸ゾーンZ2、後段延伸ゾーンZ3および熱処理ゾーンZ4をこの順に通過する。
この実施形態では、クリップ群が帯状の原フィルムを把持する際、すなわちクリップイン部(CIL,CIR)において、左右双方のクリップ群の走行速度が互いに等しい。クリップインの際に左右のクリップ群の走行速度が等しくない場合、原フィルムが走行速度の大きいクリップ側に引っ張られることにより、加熱延伸装置21への原フィルムの移動安定性および加熱延伸装置21における原フィルムの移動安定性が低下する。このため、望む特性を有する斜め延伸フィルムが得られないことがある。
現実には、斜め方向に原フィルムを延伸する際に発生する応力によって、相対的に先行するクリップに対して引き戻す力が加わり、相対的に遅れるクリップに対して前に進める力が加わる。このため、クリップイン時における左側クリップ群の走行速度と右側クリップ群の走行速度とを、常に、完全に同一となるように制御することは難しい。これを考慮し、この実施形態では、クリップイン時における左側クリップ群の走行速度v1と、右側クリップ群の走行速度v2との比v1/v2を0.98以上1.02以下に保持する。比v1/v2は、好ましくは0.99以上1.01以下、より好ましくは0.995以上1.005以下である。なお、上述した、または後述する他の実施形態を始めとする原フィルムの斜め延伸においても、クリップインの際の左右クリップ群の走行速度比v1/v2を0.98以上1.02以下とすることが好ましい。
同じく、この実施形態に限られず、上述した、または後述する他の実施形態を始めとする原フィルムの斜め延伸において、クリップアウトの際の左右クリップ群の走行速度比v1/v2を0.98以上1.02以下とすることが好ましい。
予熱ゾーンZ1では、加熱延伸装置21に供給された原フィルムが、後に通過する延伸ゾーン(前段延伸ゾーンZ2および後段延伸ゾーンZ3)において延伸可能となる温度にまで加熱される。
前段延伸ゾーンZ2では、予熱ゾーンZ1から走行移動してきた左側クリップ群の走行速度v1が順に減少する。これにより、前段延伸ゾーンZ2において、右側クリップ群に対する左側クリップ群の走行遅れが発生する。そして、発生した当該走行遅れに基づいて、原フィルムが、当該フィルムの長さ方向に対して斜めに延伸される。この延伸は、縦延伸(フィルム長さ方向の延伸)と横延伸(フィルム幅方向の延伸)とのベクトル和による延伸とは異なり、一軸延伸性が強い。これにより、例えば、NZ係数が1に近く、二軸延伸性が弱い(一軸延伸性が強い)延伸フィルムが得られる。
後段延伸ゾーンZ3では、前段延伸ゾーンZ2から走行移動してきた左側クリップ群の走行速度が順に増加し、当該ゾーンの出口において左側クリップ群の走行速度v1と右側クリップ群の走行速度v2とが互いに等しくなる。具体的には、左側クリップ群の走行速度v1と、右側クリップ群の走行速度v2との比v1/v2が、0.98以上1.02以下、好ましくは0.99以上1.01以下、より好ましくは0.995以上1.005以下となる。後段延伸ゾーンZ3においても、走行速度が互いに等しくなるまでは左右のクリップ群間に走行速度差が生じており、この速度差に基づいて原フィルムが斜め延伸される。
国際公開第2012/017639号には記載されていないが、前段延伸ゾーンZ2において一方のクリップ群の走行速度を増加させることで双方のクリップ群間に走行速度差を与えることによっても、当該走行速度差に基づいて原フィルムを斜め延伸できる。この場合、後段延伸ゾーンZ3において当該一方のクリップ群の走行速度を減少させ、当該ゾーンの出口において左右のクリップ群の走行速度を互いに等しくすることが好ましい。前段延伸ゾーンZ2において一方のクリップ群の走行速度を減少させる場合および増加させる場合のいずれの場合においても、前段延伸ゾーンZ2および後段延伸ゾーンZ3の間に、前段延伸ゾーンZ2において生じた左右のクリップ群間の走行速度差を保持する延伸ゾーンがさらに設けられていてもよい。
熱処理ゾーンZ4では、延伸ゾーンにおいて延伸された原フィルムが、延伸ゾーンにおける延伸温度以下の特定の温度(熱処理温度)に保持される。これにより、当該フィルムに含まれる樹脂の分子配向が安定し、当該フィルムの歪みが軽減されて、最終的に得られた延伸樹脂フィルムが示す特性、例えば、光学特性および機械的特性、の安定化が図られる。熱処理ゾーンZ4を通過した原フィルムは、クリップアウト部(COL,COR)において、左右双方のクリップ群から開放される。
国際公開第2012/017639号に記載された方法の別の一例を図7に示す。図7に示す方法では、前段延伸ゾーンZ2および後段延伸ゾーンZ3において、すなわち原フィルムを延伸する際に、原フィルムの幅方向に対する左右のクリップ群間の間隔を増大させている。このような、原フィルムの幅方向に対する一対のクリップ群間の間隔を増大させることによる当該幅方向の延伸(横延伸)の併用により、得られた斜め延伸フィルムが示す特性の制御の自由度が高くなる。横延伸を併用していることを除き、図7に示す例における左右のクリップ群の走行状態は、図6に示す例における左右のクリップ群の走行状態と同一である。また、横延伸を併用していることを除き、予熱ゾーンZ1、前段延伸ゾーンZ2、後段延伸ゾーンZ3および熱処理ゾーンZ4の各ゾーンも図6に示す例と同一である。横延伸は、この実施形態に限らず、上述した他の実施形態を始めとする原フィルムの斜め延伸に併用できる。
上記説明した各実施形態は、原フィルムの斜め延伸を実施する方法の一例である。
なお、NZ係数は、延伸フィルムの面内における遅相軸方向の屈折率をnx、当該フィルムの面内における進相軸方向の屈折率をny、当該フィルムの厚さ方向の屈折率をnzとしたときに、式(nx−nz)/(nx−ny)によって求めることができる。延伸樹脂フィルム(位相差フィルム)が示す面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthを用いると、NZ係数は、式|Rth|/|Re|+0.5により求めることもできる。NZ係数の値が1に近いほど、延伸樹脂フィルムの二軸延伸性が低く(一軸延伸性が強く)なる。
<延伸後のインラインスリット方法>
本発明の製造方法におけるインラインスリットでは、延伸後のフィルムの端部(帯状の当該フィルムの幅方向の端部)2a,2bにおける、延伸時にクリップによって把持されていた部分を、当該端部2a,2bの一部が延伸後のフィルムに残留するように取り除く。端部2a,2bのうち取り除く部分の幅は、クリップによって把持されていた部分(延伸時のクリップの把持によって変形した部分)を取り除くとともに、端部2a,2bの一部が延伸後のフィルムに残留する範囲で調整できる。一方の端部2aから取り除く部分の幅と、他方の端部2bから取り除く部分の幅とは同一であっても異なっていてもよい。
本発明の製造方法におけるインラインスリットは、延伸後のフィルムに対して行われる限り、その実施のタイミングは限定されない。図4,5に示すように、延伸後のフィルムが加熱延伸装置21のクリップから開放された後、すなわちクリップアウト部22の下流であって、ガイドロールなどのロールを1または2以上通過した後に実施してもよい。クリップアウト部22の下流であって、延伸後のフィルムが第一ロール(クリップアウトされた後に、延伸後のフィルムが最初に通過するロール)23に到達するまでの間に実施してもよい。なお、本明細書における「延伸後のフィルム」とは、原フィルムに対して加熱および/または延伸を行った後のフィルムを意味し、例えば、延伸の後に熱処理(アニーリング)を実施する場合においては当該熱処理後のフィルムを意味する。
インラインスリットを、延伸後のフィルムがクリップアウトされた以降、当該フィルムが第一ロール23に到達するまでに実施する場合、インラインスリットの際に当該延伸後のフィルムに加えられている搬送張力を5N/m〜100N/mの範囲とすることが好ましい。このように搬送張力を制御することによって、端部2a,2bにおけるクリップによって把持されていた部分を安定して取り除くことができる。
端部2a,2bにおけるクリップによって把持されていた部分をインラインスリットにより取り除く具体的な方法は限定されない。例えば、図4,5に示す例のように、カッター25によりインラインスリットを行えばよい。カッターは、レザー刃や丸刃などの金属刃を用いるもの、レーザーなどの高エネルギー線を用いるものなど種類を問わないが、せん断で樹脂フィルムをカットするシアーカッターが好ましい。カッターの位置は固定であっても、可動であってもよい。
インラインスリットにより取り除かれた端部2a,2bの一部は、原フィルムを延伸して延伸フィルムを得る製造ラインから排出すればよい。排出の方法は、本発明の効果が得られる限り、任意に選択することができる。端部2a,2bから取り除かれた部分は、例えば、そのまま延伸フィルムの製造ラインから排出してもよいし、一定の区間、延伸後のフィルムと同じ経路を通過させた後に、延伸フィルムの製造ラインから排出してもよい。一度取り除いた部分が延伸後のフィルムに接触することを防ぐために、インラインスリット後に通過する、取り除かれた部分の経路と当該部分が取り除かれた延伸後のフィルムの経路とが互いに分けられていることが好ましい。
原フィルム4の斜め延伸を行った場合、延伸後のフィルムにおける延伸軸は、当該フィルムの幅方向および長さ方向に対して傾いている。このため、斜め延伸後のフィルムがクリップアウト後にガイドロールなどのロールを通過する際、および斜め延伸後のフィルムに対して、端部2a,2bにおけるクリップによって把持されていた部分をインラインスリットする際には、当該フィルムの延伸軸の方向と進行方向との関係から、当該フィルムの一方の辺からの破断が生じやすい。この一方の辺は、ロールまたはインラインスリットに延伸軸が最初に到達する側の辺であり、すなわち、延伸軸がフィルムの進行方向に伸びている側の辺である。本発明の製造方法では、端部2a,2bの存在によって(端部2a,2bを切断線が通過することによって)このような破断が抑制される。
<ナーリング部の形成>
インラインスリット後のフィルムにおける端部2a,2bへのナーリング部12の形成には、公知のナーリング加工方法を適用できる。ナーリング部12は、例えば、刻印ロール、エンボスロール、エンボスベルト、あるいはこれらに加熱機構を加えた手法、またはレーザー加工などにより形成できる。
端部2a,2bにおけるナーリング部12が形成される位置は特に限定されない。ナーリング部12は、延伸後のフィルムの長さ方向に連続的に形成しても、断続的に形成してもよい。
本発明の製造方法では、原フィルム形成装置から連続的に供給される原フィルム4に対して上述した延伸、インラインスリットおよびナーリング加工を行うことで、延伸フィルム1を連続的に製造できる。原フィルム形成装置は、例えば、溶融共押出成形機である。
本発明の製造方法では、ロールから供給された原フィルム4に対して上述した延伸、インラインスリットおよびナーリング加工を行うことで、延伸フィルム1を連続的に形成できる。
ナーリング部12は、インラインスリット後の延伸フィルムを一度巻回してフィルムロールとした後、形成した当該ロールを巻き返しながら行ってもよい。
本発明の製造方法によって得られた延伸フィルム1は、続いて、任意の工程に供給しうる。例えば、ロールに巻回して延伸フィルム1のフィルムロールを得てもよい。その他、コーティング層の形成あるいは他のフィルムとの積層のような後工程に供給してもよいし、帯状の延伸フィルム1を裁断して、任意のサイズおよび形状の延伸フィルム1を得てもよい。
得られた延伸フィルム1は、例えば光学フィルムとして使用できる。光学フィルムの例は、上述したとおりである。
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
最初に、本実施例において作製した熱可塑性樹脂、延伸フィルムおよび延伸フィルムロールの評価方法を示す。
[ガラス転移温度(Tg)]
熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
[重量平均分子量]
熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置および測定条件は以下の通りである。
システム:東ソー製GPCシステム HLC−8220
測定側カラム構成:
・ガードカラム(東ソー製、TSKguardcolumn SuperHZ-L)
・分離カラム(東ソー製、TSKgel SuperHZM-M)2本直列接続
リファレンス側カラム構成:
・リファレンスカラム(東ソー製、TSKgel SuperH-RC)
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
展開溶媒の流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー製、PS−オリゴマーキット)
カラム温度:40℃
[フィルムの厚さ]
フィルムの厚さは、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ製)を用いて測定した。フィルムの厚さを含めフィルム物性の評価は、当該フィルムの幅方向の中央付近の領域に対して実施した。
[フィルムの表面状態の観察]
フィルムの表面状態は、当該フィルムに反り、弛みまたはシワが無い状態で、反射光により目視で観察して評価した。反射光の光源の像が歪むことなくフィルム表面に観察された場合を「表面状態が良好である」とし、反射光の光源の像が変形してフィルム表面に観察された場合を「表面状態が不良である」とした。
[グルタルイミド単位の含有率]
製造例3で使用したアクリル樹脂におけるグルタルイミド単位の含有率は、当該アクリル樹脂のペレットに対して赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)を測定し、イミドカルボニル基に対応する1670cm-1付近の吸収強度と、エステルカルボニル基に対応する1720cm-1付近の吸収強度および酸無水物のカルボニル基に対応する1760cm-1付近の吸収強度との比から求めた。
(製造例1)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応容器に、メタクリル酸メチル(MMA)40重量部、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)10重量部、酸化防止剤としてアデカスタブ2112(ADEKA製)0.025重量部および重合溶媒としてトルエン50重量部を仕込んだ。次に、反応容器に窒素ガスを導入しながら105℃まで昇温し、昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.05重量部を添加した。これと同時に上記ターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート0.10重量部の滴下を開始し、これを2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させた。滴下終了後、反応容器を4時間加温し続けて熟成を行った。
次に、このようにして得た重合溶液に、環化反応の触媒としてリン酸ステアリル(堺化学工業製、商品名:Phoslex A−18)0.05重量部を添加し、約90℃〜110℃の還流下で2時間、ラクトン環構造を形成する環化縮合反応を進行させた。
次に、得られた重合溶液を240℃に保持した多管式熱交換器に通して環化縮合反応を完結させた後、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、樹脂量換算で88重量部/時の処理速度で導入して、重合溶液を脱揮した。用いたベントタイプスクリュー二軸押出機のリアベント数は1個、フォアベント数は4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)とし、第3ベントと第4ベントとの間にサイドフィーダーを配置し、バレル温度は240℃、減圧度は13.3〜400hPa(10〜300mmHg)とした。脱揮の際、イオン交換水を1.3重量部/時の投入速度で第2ベントの後ろから、別途準備しておいた環化触媒失活剤の溶液を0.6重量部/時の投入速度で第3ベントの後ろから、紫外線吸収剤と酸化防止剤との混合溶液を2.7重量部/時の投入速度で第4ベントの後ろから、それぞれ投入した。環化触媒失活剤の溶液として、1.0重量部のオクチル酸カルシウム(日本化学産業製、商品名:ニッカオクチクスカルシウム5重量%)をトルエン1.8重量部に溶解させた溶液を用いた。紫外線吸収剤と酸化防止剤との混合溶液には、フェノール系酸化防止剤(BASFジャパン製、イルガノックス1010)0.1重量部、イオウ系酸化防止剤(ADEKA製、アデカスタブAO−412S)0.1重量部および紫外線吸収剤(BASFジャパン製、チヌビン477)8.55重量部をトルエン3.56重量部に溶解させた溶液を用いた。また、さらに、上記サイドフィーダーから、スチレン−アクリロニトリル共重合体(スチレン単位/アクリロニトリル単位の比率が73重量%/27重量%、重量平均分子量22万)のペレットを、投入速度12重量部/時で投入した。
その後、押出機内にある溶融状態の樹脂を押出機の先端から吐出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル重合体を主成分(88重量%)とし、スチレン−アクリロニトリル共重合体12重量%をさらに含む、アクリル樹脂(1A)の透明なペレットを得た。このアクリル樹脂のTgは124℃、重量平均分子量は14.9万であった。なお、以下の測定例、実施例および比較例において、当該ペレットは60℃の乾燥エアー中で24時間乾燥させた後に使用した。
(製造例2)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応容器に、MMA70重量部、MHMA20重量部、スチレン10重量部、重合溶媒としてメチルイソブチルケトン100重量部、およびn−ドデシルメルカプタン0.05重量部を仕込んだ。次に、反応容器に窒素ガスを導入しながら105℃まで昇温し、還流が始まったところで、重合開始剤としてターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.05重量部を添加すると同時に、メチルイソブチルケトン2.3重量部にターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート0.1重量部を溶解した溶液を2時間かけて滴下しながら、約105〜120℃の環流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間かけて熟成を行った。
次に、このようにして得た重合溶液に、環化反応の触媒としてリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(堺化学工業製、商品名:Phoslex A−18)0.03重量部を添加し、約90〜120℃の環流下で5時間、ラクトン環構造を形成する環化縮合反応を進行させた。引き続き、重合溶液に対してオートクレーブにより240℃で30分間の加熱処理を行い、環化縮合反応を完全に進行させた後、紫外線吸収剤としてトリアジン骨格を有するLA−F70(ADEKA製)1重量部および蛍光増白剤としてUVITEX OB(BASFジャパン製)0.01重量部を重合溶液に混合した。次に、得られた重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)、先端部にギアポンプを介してリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に導入し、当該押出機内でさらなる環化縮合反応の進行と脱揮とを行った。その後、押出機内にある溶融状態の樹脂組成物を押出機の先端から吐出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有するとともに構成単位としてスチレン単位を有するアクリル重合体を含む、低複屈折性かつ透明なアクリル樹脂(2A)のペレットを得た。このアクリル樹脂のTgは127℃、重量平均分子量は14.5万であった。なお、以下の測定例、実施例および比較例において、当該ペレットは60℃の乾燥エアー中で24時間乾燥させた後に使用した。
(製造例3)
構成単位としてグルタルイミド単位を有するアクリル樹脂(ダイセル・エボニック製、商品名:プレキシイミド8813、グルタルイミド単位の含有率42重量%)78重量部と、スチレン−アクリロニトリル共重合体(旭化成製、商品名:スタイラックAS783、スチレン単位/アクリロニトリル単位の比率が73重量%/27重量%)22重量部とを、先端部にギアポンプを介してポリマーフィルターが配置された二軸押出機を用いて混練し、主鎖にグルタルイミド環構造を有するアクリル重合体を主成分(78重量%)とし、さらにスチレン−アクリロニトリル共重合体を22重量%含む透明なアクリル樹脂(3A)のペレットを得た。このアクリル樹脂のTgは128℃、重量平均分子量は14.2万であった。なお、以下の測定例、実施例および比較例において、当該ペレットは60℃の乾燥エアー中で24時間乾燥させた後に使用した。
(製造例4)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応容器に、MMA40重量部、MHMA10重量部、酸化防止剤としてアデカスタブ2112(ADEKA製)0.025重量部および重合溶媒としてトルエン50重量部を仕込んだ。次に、反応容器に窒素ガスを導入しながら105℃まで昇温し、還流が始まったところで、重合開始剤としてターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.05重量部を添加した。これと同時に上記ターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート0.10重量部の滴下を開始し、これを2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させた。滴下終了後、反応容器を4時間加温し続けて熟成を行った。
次に、このようにして得た重合溶液に、環化反応の触媒としてリン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、商品名:Phoslex A−8)0.05重量部を添加し、約90℃〜105℃の還流下で2時間、ラクトン環構造を形成する環化縮合反応を進行させた。次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、先端部にギアポンプを介してリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、樹脂量換算で70重量部/時の処理速度で導入して、重合溶液を脱揮した。用いたベントタイプスクリュー二軸押出機のリアベント数は1個、フォアベント数は4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)とし、第3ベントと第4ベントとの間にサイドフィーダーを配置し、バレル温度は240℃、減圧度は13.3〜400hPa(10〜300mmHg)とした。脱揮の際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.05重量部/時の投入速度で第1ベントの後ろから、イオン交換水を1.05重量部/時の投入速度で第2および第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液には、5重量部の酸化防止剤(BASFジャパン製、イルガノックス1010)と、環化触媒失活剤として55重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、商品名:ニッカオクチクス亜鉛3.6%)とをトルエン45重量部に溶解させた溶液を用いた。さらに、上記サイドフィーダーから、スチレン−アクリロニトリル共重合体(スチレン単位/アクリロニトリル単位の比率が73重量%/27重量%、重量平均分子量22万)のペレットを、投入速度30重量部/時で投入した。
その後、押出機内にある溶融状態の樹脂を押出機の先端から吐出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル重合体と、スチレン−アクリロニトリル共重合体とを含み、負の固有複屈折を有するアクリル樹脂(4A)のペレットを得た。このアクリル樹脂のTgは122℃、重量平均分子量は14.6万、MFRは13.6g/10分であった。なお、以下の測定例、実施例および比較例において、当該ペレットは60℃の乾燥エアー中で24時間乾燥させた後に使用した。
(製造例5)
無水グルタル酸構造を主鎖に有するアクリル樹脂(5A)のペレット(住友化学製、スミペックスB−TR)を準備した。アクリル樹脂(5A)のTgは126℃であった。なお、以下の測定例、実施例および比較例において、当該ペレットは60℃の乾燥エアー中で24時間乾燥させた後に使用した。
(測定例1)
測定例1では、製造例1〜5で作製または準備した熱可塑性樹脂(1A),(2A),(3A),(4A)および(5A)ならびにポリカーボネート(帝人化成製、パンライトL−1225Y)の衝撃強度を評価した。
評価は、各熱可塑性樹脂の未延伸フィルム(厚さ250μm、ポリカーボネートについては厚さ250μmおよび20μm)に対して、ASTM−D3420の規定に準拠したインパクトテストを実施することにより行った。当該テストでは、フィルムに対して瞬間的にインパクト(衝撃)を加え、フィルムが破損した当該インパクトの強度(衝撃強度)を評価する。未延伸フィルムは、ポリマーフィルター(濾過精度5μm)および600mm幅のTダイを先端に備えた単軸押出機による270℃での溶融押出により形成した。形成した未延伸フィルムの幅は520mmであったが、インパクトテストは当該未延伸フィルムの幅方向の中央にて実施した。
評価結果を以下の表1に示す。なお、ポリカーボネートについては、厚さ250μmのときにフィルムに破損が生じなかったため、フィルムの厚さを20μmとして再度実施した。
表1に示すように、ポリカーボネートの衝撃強度は、樹脂(1A)〜(5A)よりも大きかった。
(測定例2)
測定例1で作製した厚さ250μmの未延伸フィルムを、当該フィルムを構成する熱可塑性樹脂のTgよりも10℃高い延伸温度および延伸倍率2倍で自由端一軸延伸して、一軸延伸フィルムを得た。得られた延伸フィルムを、その延伸方向(延伸軸の方向)に手で裂こうとしたところ、樹脂(1A)〜(5A)から構成される延伸フィルムはいずれも手で裂くことができた。一方、ポリカーボネートから構成される延伸フィルムは手で裂くことができなかった。
すなわち、ポリカーボネートの引き裂き強度は、樹脂(1A)〜(5A)よりも大きかった。
(測定例3)
測定例1で作製した厚さ250μmの未延伸フィルムおよび測定例2で作製した一軸延伸フィルムを温度25℃、相対湿度65%RHの雰囲気下に1時間以上静置した後、それぞれのフィルムから、幅15mm、長さ60mmの試験サンプルを切り出した。なお、未延伸フィルムについては当該フィルムの作製時の流れ方向が試験サンプルの長さ方向となるように、一軸延伸フィルムについては作製時の延伸方向が試験サンプルの幅方向となるように、それぞれ切り出した。切り出した試験サンプルに対して、耐折度試験機(東洋精機製作所製、MIT−DA型)を用い、JIS P8115に準拠し、荷重50gの条件にて、それぞれの耐折回数を評価した。評価結果を以下の表2に示す。なお、表2において「0回」とは、耐折回数の測定を開始するために折曲げクランプを一度振り上げた段階で試験サンプルが破断し、一度も往復折り曲げを実施できなかったことを示す。「1回」とは、耐折回数の測定を開始するための折曲げクランプの振り上げには耐えたが、一度の往復折り曲げにより試験サンプルが破断したことを示す。評価は、3回行った。
表2に示すように、ポリカーボネートの耐折強度は、樹脂(1A)〜(5A)よりも大きかった。なお、ポリカーボネートについては、樹脂(1A)〜(5A)に比べて耐折強度が高いことが確認できたため、10回を超えた時点で評価を中止した。
(実施例1)
製造例1で作製した熱可塑性樹脂(1A)をポリマーフィルター(濾過精度5μm)を備える単軸押出機S1(設定温度270℃)から、100℃の乾燥エアー中で24時間乾燥させたポリカーボネート(帝人化成製、パンライトL−1225Y)をポリマーフィルター(濾過精度5μm)を備える単軸押出機S2(設定温度270℃)から、それぞれ溶融押出し、幅方向にポリカーボネート/樹脂(1A)/ポリカーボネートとなるフィードブロックを介してTダイにてフィルム状に溶融押出成形し、厚さ360μmの未延伸の樹脂フィルム(原フィルム)を製膜した。成膜した帯状の原フィルムは、幅が650mm、幅方向の樹脂の配置および分布が、ポリカーボネート(175mm)/樹脂(1A);(300mm)/ポリカーボネート(175mm)となるように単軸押出機S1およびS2からの各樹脂の吐出量を調整した。ポリカーボネートの部分が原フィルム4における端部5a,5b、樹脂(1A)の部分がセンター部6である。幅方向の樹脂の分布は、ポリカーボネートと樹脂(1A)との屈折率差によって原フィルムの透過像がぼやける位置を目視にて確認し、当該位置と原フィルムの長辺との距離を金尺で測定して確認した。
次に、製膜した原フィルムを巻き取ることなく、その両端部をそれぞれ75mmずつインラインスリットして取り除いた後(すなわち、端部5a,5bの幅をそれぞれ100mmとした後)、そのまま連続的に複数の加熱ロールおよび赤外線(IR)ヒーターを備えた縦延伸機に供給し、加熱ロール温度を125℃、IRヒーター温度を680℃として、縦方向(樹脂フィルムの長さ方向)に延伸倍率3.0倍で縦延伸した。引き続き、縦延伸後の樹脂フィルムを連続的にテンター横延伸機に供給し、当該フィルムの幅方向に、延伸温度147℃、延伸倍率3.0倍で横延伸して、逐次二軸延伸フィルムを得た。この二軸延伸フィルムにおける、横延伸のクリップから開放された時点における当該クリップ間の距離は1200mm、センター部の厚さは40μmであった。引き続き、横延伸後の二軸延伸フィルムを連続的に2本のガイドロール(第一ロールおよび当該ロールに続く第二ロール)を通した後に、延伸後のフィルムの端部(ポリカーボネート部)におけるクリップによって把持されていた部分を、当該端部が幅50mm分だけセンター部(樹脂(1A)部)に残留するように、シアーカッターを用いたインライントリミングにより除去した。その後、残留した当該端部に、角錐台形状かつ高さ500μmの加工歯を有する転写ロールを用いて、加工歯およびフィルムを加熱することなくナーリング部を形成した。ナーリング部を形成する雰囲気の温度は23℃とした。また、この際、形成したナーリング部の高さが24μmとなるように転写ロールの隙間を調整し、ナーリング部の幅が10mm、ナーリング部における凹凸の個数が突起の個数にして80個/cm2、ナーリング部の中心線がフィルムの辺(長手方向の辺)から10mmの位置となるようにナーリング部を形成した。ナーリング部を形成したフィルムは、そのまま内径6インチのABS製コアに巻き取った。
実施例1では、延伸時、インラインスリット時およびナーリング加工時における原フィルムおよび延伸後のフィルムの破断もなく、安定した延伸フィルムの製造が可能であり、延伸フィルムを連続して長さ1000mにわたって製造することができた。原フィルムの供給を1000mで終了させたために延伸フィルムの製造を長さ1000mで終了したが、より長時間、原フィルムを供給することによって、さらなる長さを有する延伸フィルムを連続的に製造できる状況であった。また、製造した延伸フィルムにおけるシワおよび割れの発生の状況を目視により確認したが、シワおよび割れの発生は確認されなかった。得られたフィルムおよびフィルムロールの表面状態も良好であった。
次に、得られたフィルムロールを6ヶ月保管した後、当該ロールからフィルムを10m/分の速度で巻き出すとともにロールの内側に位置していたフィルムの表面状態を確認したが、ゲージバンドなどの巻き取り不良が生じた痕跡はなく、良好な表面状態が保たれていた。
(実施例2〜4)
製造例1で作製した熱可塑性樹脂(1A)の代わりに製造例2で作製した熱可塑性樹脂(2A)(実施例2);製造例3で作製した熱可塑性樹脂(3A)(実施例3);または製造例5で準備した熱可塑性樹脂(5A)(実施例4)を用いた以外は、実施例1と同様にして、延伸フィルムロールを作製した。
実施例2〜4のいずれについても、延伸時、インラインスリット時およびナーリング加工時における原フィルムおよび延伸後のフィルムの破断もなく、安定した延伸フィルムの製造が可能であり、延伸フィルムを連続して長さ1000mにわたって製造することができた。原フィルムの供給を1000mで終了させたために延伸フィルムの製造を長さ1000mで終了したが、より長時間、原フィルムを供給することによって、さらなる長さを有する延伸フィルムを連続的に製造できる状況であった。また、製造した延伸フィルムにおけるシワおよび割れの発生の状況を目視により確認したが、シワおよび割れの発生は確認されなかった。得られたフィルムロールの表面状態も良好であった。
次に、得られたフィルムロールを6ヶ月保管した後、当該ロールからフィルムを10m/分の速度で巻き出すとともにロールの内側に位置していたフィルムの表面状態を確認したが、ゲージバンドなどの巻き取り不良が生じた痕跡はなく、良好な表面状態が保たれていた。
(実施例5)
製造例4で作製した熱可塑性樹脂(4A)をポリマーフィルター(濾過精度5μm)を備える単軸押出機S1(設定温度270℃)から、100℃の乾燥エアー中で24時間乾燥させたポリカーボネート(帝人化成製、パンライトL−1225Y)をポリマーフィルター(濾過精度5μm)を備える単軸押出機S2(設定温度270℃)から、それぞれ溶融押出し、幅方向にポリカーボネート/樹脂(4A)/ポリカーボネートとなるフィードブロックを介してTダイにてフィルム状に溶融押出成形し、厚さ220μmの未延伸の樹脂フィルム(原フィルム)を製膜した。成膜した帯状の原フィルムは、幅が660mm、幅方向の樹脂の配置および分布が、ポリカーボネート(160mm)/樹脂(4A);(340mm)/ポリカーボネート(160mm)となるように単軸押出機S1およびS2からの各樹脂の吐出量を調整した。ポリカーボネートの部分が原フィルム4における端部5a,5b、樹脂(4A)の部分がセンター部6である。幅方向の樹脂の分布は、ポリカーボネートと樹脂(4A)との屈折率差によって原フィルムの透過像がぼやける位置を目視にて確認し、当該位置と原フィルムの長辺との距離を金尺で測定して確認した。
次に、製膜した原フィルムを巻き取ることなく、その両端部をそれぞれ75mmずつインラインスリットして取り除いた後(すなわち、端部5a,5bの幅をそれぞれ85mmとした後)、そのまま連続的にオーブン縦延伸機に供給し、当該延伸機にて当該フィルムの縦方向(溶融押出時の流れ方向、帯状のフィルムの長手方向)に延伸温度138℃、延伸倍率1.5倍で縦延伸した。さらに連続して、縦延伸後の樹脂フィルムを連続的にテンター横延伸機に供給し、当該フィルムの幅方向に、延伸温度147℃、延伸倍率3.2倍で横延伸して、逐次二軸延伸フィルムを得た。この二軸延伸フィルムにおける、横延伸のクリップから開放された時点における当該クリップ間の距離は1200mm、センター部の厚さは50μmであった。
得られた二軸延伸フィルムに対して、さらに連続的に、実施例1と同様のインライントリミングおよびナーリング加工をを実施し、実施例1と同様の延伸フィルムロールを作製した。
実施例5では、延伸時、インラインスリット時およびナーリング加工時における原フィルムおよび延伸後のフィルムの破断もなく、安定した延伸フィルムの製造が可能であり、延伸フィルムを連続して長さ1000mにわたって製造することができた。原フィルムの供給を1000mで終了させたために延伸フィルムの製造を長さ1000mで終了したが、より長時間、原フィルムを供給することによって、さらなる長さを有する延伸フィルムを連続的に製造できる状況であった。また、製造した延伸フィルムにおけるシワおよび割れの発生の状況を目視により確認したが、シワおよび割れの発生は確認されなかった。得られたフィルムおよびフィルムロールの表面状態も良好であった。
次に、得られたフィルムロールを6ヶ月保管した後、当該ロールからフィルムを10m/分の速度で巻き出すとともにロールの内側に位置していたフィルムの表面状態を確認したが、ゲージバンドなどの巻き取り不良が生じた痕跡はなく、良好な表面状態が保たれていた。
(比較例1〜4)
フィードブロックを使用せず、熱可塑性樹脂(1A)(比較例1);樹脂(2A)(比較例2);樹脂(3A)(比較例3);または樹脂(5A)(比較例4);のみの単一樹脂フィルムとした以外は実施例1と同様にして、当該樹脂の未延伸フィルムを製膜した。
次に、製膜した未延伸フィルムを用いて、当該未延伸フィルムの製膜から連続的に実施例1と同様に延伸フィルムロールの製造を試みた。しかし、比較例1〜4のいずれにおいても、加熱延伸機から排出した延伸後のフィルムが第一ロールおよび当該ロールに続く第二ロールを通過する際に、当該樹脂フィルムの幅方向の端部に存在する、延伸時にクリップによって把持されていた部分がロールの曲率に追随できず、当該部分からクラックが発生した。場合によってはクラックが急成長して延伸後のフィルムが破断した。このため、安定した延伸フィルムの製造が困難となり、長さ10m程度の延伸フィルムの製造しかできなかった。また、縦延伸前のインラインスリット部で発生したクラックを起点として、縦延伸の際にフィルム破断が生じることがあった。
(比較例5〜8)
製膜した未延伸フィルムの幅を500mmとし、延伸前の端部のインラインスリットを実施せず、第一ロールおよび第二ロールの幅を1050mmとし、延伸後のフィルムにおける延伸時にクリップによって把持されていた部分がこれらのロールに接触しないようにした以外は、比較例1〜4と同様にして延伸フィルムロールの製造を試みた。
結果、比較例5〜8では、延伸時およびインラインスリット時における原フィルムおよび延伸後のフィルムの破断もなく延伸フィルムの製造が可能であり、延伸フィルムを連続して長さ1000mにわたって製造することができた。しかし、端部にナーリング部を形成する際に、形成部分にヒビ割れや孔の発生などの破損が生じ、フィルムの破片が多数発生した。これらの破片がフィルムロールに多数巻き込まれたことにより、フィルムロールの保管開始後一ヶ月が経過した時点においてロールの表面に多数の凹凸が確認された。そこで、多数の凹凸が確認された当該ロールからフィルムを10m/分の速度で巻き出すとともにロールの内側に位置していたフィルムの表面状態を確認したところ、破片を巻き込んだことによる面状欠陥が多数発生していた。また、頻度は高くないものの、縦延伸の予熱ロールを未延伸フィルムが通過する際にフィルム破断が生じることがあった。この破断の事象をよく観察すると、未延伸フィルムの端部に存在するエッジビード部が予熱ロールの曲率に追随できず、当該部分からクラックが発生し、これが成長して破断につながったと考えられる。