以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は、以下に示す具体的な実施形態に限定されない。
[位相差フィルムの製造方法]
本発明の製造方法では、複数個のクリップにより構成される第1のクリップ群によって一方の長辺縁部が把持され、第1のクリップ群とは異なる第2のクリップ群によって他方の長辺縁部が把持された帯状の原フィルムを、第1および第2のクリップ群を走行させることで、加熱延伸装置における予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび熱処理ゾーンを、この順に、移動、通過させる。加熱延伸装置は、例えば、テンター延伸機である。
予熱ゾーンでは、加熱延伸装置に供給された原フィルムが、後に通過する延伸ゾーンにおいて延伸可能となる温度にまで加熱される。原フィルムの加熱が不十分なまま延伸を開始すると、原フィルムが破断することがある。このため、例えば、加熱延伸装置における予熱ゾーンの温調の設定温度あるいは予熱ゾーンにおける原フィルムが通過する雰囲気の温度を、当該延伸可能となる温度に設定する。予熱ゾーンにおいて原フィルムが加熱される温度は、延伸ゾーンにおける原フィルムの延伸温度と等しい温度または僅かに高い温度であることが好ましい。予熱ゾーンでは、基本的に、原フィルムの延伸は行われない。ただし、加熱によって原フィルムに弛み、または収縮が生じることがあり、当該弛み、または収縮を取り除くために、各クリップ群におけるクリップ間の間隔(原フィルムの長辺方向におけるクリップ間の間隔)および/またはクリップ群間の間隔(原フィルムの幅方向におけるクリップ間の間隔)を調整しうる。
延伸ゾーンでは、(1)予熱ゾーンから延伸ゾーンに走行移動してきたクリップの走行速度が順に増大することによって、第1のクリップ群における隣り合ったクリップ間の間隔および第2のクリップ群における隣り合ったクリップ間の間隔が広がって、原フィルムがその長辺方向に延伸されるとともに、(2)帯状の原フィルムにおける一方の長辺縁部を把持する第1のクリップ群のクリップと、他方の長辺縁部を把持する第2のクリップ群のクリップとの間で、走行速度が増大する位置および/または程度が異なることによって、原フィルムにおける一方の長辺縁部と他方の長辺縁部との間の延伸倍率に差が生じ、これにより原フィルムが当該フィルムの長辺方向に対してさらに斜めに延伸される。(2)の延伸において、原フィルムにおける一方の長辺縁部と他方の長辺縁部との間の延伸倍率に差が生じる理由は、第1のクリップ群のクリップと第2のクリップ群のクリップとの間で、クリップの走行速度が増大する位置および/または程度が異なることによって、双方のクリップ群のクリップ間に走行速度差(予熱ゾーンと延伸ゾーンとの境界から等距離の位置における走行速度差)が生まれるからである。本発明の製造方法では、延伸ゾーンにおける(1)および(2)の延伸により、フィルム面内の遅相軸が当該フィルムの長辺方向に対して10〜80°傾いた帯状の位相差フィルムが得られる。延伸ゾーンにおけるこのような延伸は、独立に加減速可能な複数個のクリップにより構成される一対のクリップ群を備える、公知のテンター延伸機により実施できる。独立に加減速可能なクリップは、例えば、パンタグラフ式、リニアモータ式のクリップである。クリップの走行速度が増大する程度が異なる場合とは、例えば、クリップの走行速度が増大する加速度が異なる場合である。後述の実施例では、クリップの走行速度が増大する位置が異なることによって、延伸倍率に差が生じている。
延伸ゾーンにおける延伸温度は、原フィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)を基準に、好ましくはTg−20℃〜Tg+60℃であり、より好ましくはTg−10℃〜Tg+30℃である。延伸温度がTg−20℃未満の場合、延伸の際に原フィルムの破断が起こりやすくなる。延伸温度がTg+60℃を越える場合、延伸ゾーンにおける原フィルムの弛みが大きくなって、当該フィルムと加熱延伸装置とが接触したり、原フィルムの破断が起こりやすくなる。延伸温度は、例えば、加熱延伸装置における延伸ゾーンの温調の設定温度あるいは延伸ゾーンにおける原フィルムが通過する雰囲気の温度である。
延伸ゾーンにおける延伸速度は、例えば、10〜20000%/分であり、好ましくは、100〜10000%/分である。延伸速度が10%/分よりも小さい場合、延伸を完了するまでに必要な時間が長くなり、位相差フィルムの製造コストが増大する。また、延伸ゾーンに必要な長さが長大となり、そのような加熱延伸装置は現実的でない。延伸速度が20000%/分よりも大きい場合、原フィルムの破断が起こりやすくなる。
熱処理ゾーンでは、延伸ゾーンにおいて延伸された原フィルムが、延伸ゾーンにおける延伸温度以下の特定の温度(熱処理温度)に保持される。これにより、当該フィルムに含まれる重合体の分子配向が安定し、当該フィルムの歪みが軽減されて、最終的に得られた位相差フィルムが示す特性、例えば、光学特性および機械的特性、の安定化が図られる。熱処理温度は、延伸ゾーンにおける延伸温度未満が好ましい。熱処理ゾーンの全域にわたって、同一の熱処理温度に保持されている必要は必ずしもない。熱処理ゾーンにおける少なくとも一部の熱処理温度が、延伸ゾーンにおける延伸温度未満の温度であることが好ましい。原フィルムが延伸温度未満になると、収縮する。このとき、原フィルムに生じる収縮応力を適切に保つことによって、延伸によって生じた原フィルム中の分子配向が大きく損なわれることなく安定し、最終的に得られた位相差フィルムが示す特性の安定化が図られる。熱処理ゾーンにおける収縮応力を適切に保つために、例えば、原フィルムの長辺方向におけるクリップ間の間隔、および/または原フィルムの幅方向におけるクリップ間の間隔を調整しうる。調整方法は、例えば、収縮応力が大きい場合に、フィルムの破断を防ぐためにクリップ間の間隔を狭める方向である。熱処理温度は、延伸ゾーンにおける、熱処理ゾーンに隣接する部分の延伸温度をT℃として、好ましくはT−80℃〜T−1℃であり、より好ましくはT−40℃〜T−2℃である。熱処理温度は、例えば、加熱延伸装置における熱処理ゾーンの温調の設定温度あるいは熱処理ゾーンにおける原フィルムが通過する雰囲気の温度である。
延伸ゾーンにおける原フィルムへの上述した(1),(2)の延伸だけでは、フィルム面内の遅相軸が当該フィルムの長辺方向に対して10〜80°傾いた帯状の位相差フィルムが得られるものの、幅方向における光学特性の均一性が必ずしも十分に確保できない。本発明者らの検討により、これは以下の理由によることが判明した。
延伸ゾーンでは、帯状の原フィルムにおける双方の長辺縁部を把持したクリップの走行により、原フィルムの延伸が行われる。このとき、原フィルムの一方の長辺縁部を把持するクリップと、他方の長辺縁部を把持するクリップとの間に走行速度差が与えられ、それぞれの長辺縁部における延伸倍率に差が生じることによって、遅相軸が傾いた位相差フィルムが形成される。この様子を図1に示す。図1に示す例では、帯状の原フィルム1が、予熱ゾーンZ1から延伸ゾーンZ2に連続的に移動している。ある瞬間の、予熱ゾーンZ1と延伸ゾーンZ2との境界における原フィルム1の幅方向の両端部を、それぞれA,Bとする。両端部A,Bにおいて、原フィルム1は、それぞれクリップD,Eにより把持されている。延伸ゾーンZ2において、クリップEの走行速度を一定に保ちながら、クリップDの走行速度のみを一定の加速度で増加させる。すると、延伸ゾーンZ2におけるクリップDの走行速度がクリップEの走行速度よりも早くなるため、原フィルム1が上記境界を通過した後、両端部A,Bを結ぶ線分Cは、原フィルム1の幅方向から次第に傾いていく(図1では、原フィルム1が上記境界を通過した後、一定の時間が経過する毎の両端部A,B、クリップD,Eおよび線分Cの位置を、それぞれ、A'〜A'''、B'〜B'''、C'〜C'''、D'〜D'''、E'〜E'''として示す)。すなわち、原フィルム1の斜め延伸が行われることになり、遅相軸が傾いた位相差フィルムが得られる。しかし、クリップによる原フィルムの拘束力は、クリップが把持する当該フィルムの長辺縁部において最も大きく、長辺縁部から離れるに従って小さくなる。このため、現実には、図1に示すように、線分Cからの延伸の遅れΔが当該線分Cの中央部において生じ、当該遅れΔが、最終的に得られた位相差フィルムにおける幅方向の光学特性が不均一である原因となる。このような遅れは、クリップを用いた横延伸(フィルムの幅方向の延伸)の際に生じることがあるが、本発明の製造方法のように斜め延伸を行う際にも特に顕著となることが判明した。なお、形成した位相差フィルムにおける遅相軸の方向は、線分Cが伸長する方向または線分Cが伸長する方向に垂直な方向であるとは限らない。上記延伸と同時に行われる横延伸の有無または程度によって、遅相軸の方向に、線分Cが伸長する方向および当該方向とは垂直な方向からのズレが生じる。また、図1の遅れΔは、説明を分かり易くするために、現実よりも誇張して描かれている。
本発明の製造方法では、予熱ゾーンと延伸ゾーンとの境界における原フィルムの幅方向の両端部をそれぞれA,Bとして、延伸ゾーンにおける原フィルムの移動と延伸とによる当該両端部A,Bの移動(例えば、図1におけるA→A'→A''→A'''の移動)に伴って移動する、当該両端部A,Bを結ぶ線分Cを考えたときに(図1に示す例では、A,Bの移動に伴って、線分CはC→C'→C''→C'''と移動する)、延伸ゾーンにおいて上述した延伸倍率に差が生じた以降の時点、すなわち、線分Cが傾き、遅れΔが発生した以降の時点、において、原フィルムにおける線分Cの中央部の温度を、線分Cの双方の端部の温度に比べて低くする。これにより、当該中央部における原フィルム1の収縮が起こるが、線分Cの両端部A,BはクリップD,Eにより固定されているため、図1に示す、遅れΔを表す曲線(一点鎖線の曲線)が線分Cに接近し、遅れΔは緩和される。すなわち、幅方向における光学特性の均一性が向上する。なお、遅れΔの発生および緩和には、クリップにより把持された原フィルムの長辺縁部に対して、クリップによる把持の影響が小さい原フィルムの中央部において、延伸により生じる縦方向の延伸応力および温度低下により生じる収縮応力の影響が大きいことも寄与している。
また、遅れΔは、位相差フィルムの位相差および光軸の向きに特に影響を与える。したがって、本発明の製造方法によれば、特に位相差および光軸の向きの均一性(位相差精度および光軸精度)が向上した位相差フィルムが得られる。
本発明の製造方法において、線分Cの中央部は、遅れΔが発生している部分、すなわち、クリップにより把持された、原フィルムの長辺縁部を除く部分またはその一部分である。遅れΔは、双方のクリップから遠い、線分Cの中点の近傍で大きくなるため、線分Cの中央部は、線分Cの中点を含む部分であることが好ましい。例えば、線分Cの中点F1の温度をT1、線分Cの両端F2,F3の温度をT2,T3として、延伸ゾーンにおいて上記延伸倍率に差が生じた以降の時点において、原フィルムにおける温度T1,T2,T3について、式T1<T3および式T1<T2で示される関係が満たされればよい。このとき、中点F1を含む部分の温度は、長辺縁部の温度であるT2およびT3よりも低くなる。
線分Cの中央部の温度および線分Cの双方の端部の温度は、例えば、原フィルムにおける当該中央部および当該端部が通過する雰囲気の温度である。
本発明の製造方法において、この遅れΔを緩和する処理は、延伸ゾーンにおいて上記延伸倍率に差が生じた以降の時点において、少なくとも一度、実施されればよい。当該処理の実施は、延伸ゾーンまたは熱処理ゾーンにて実施されることが好ましい。双方のゾーンにまたがって実施されてもよい。
本発明の製造方法において、線分Cにおける遅れΔが大きい部分の温度を、線分Cにおける双方の端部の温度よりも低くすることが好ましい。この場合、温度を低くすることによる遅れΔの緩和が、フィルム幅方向における光学特性の均一性向上に、より効果的となる。
なお、予熱ゾーンと延伸ゾーンとの境界における原フィルムの幅方向の両端部A,Bを把持するクリップD,Eを、以下、クリップペアと呼ぶことがある。
本発明の製造方法は、例えば、加熱延伸装置における各ゾーンの温調の設定により実現できる。温調の設定は、例えば、加熱延伸装置の延伸ゾーンにおける、延伸によって原フィルムに延伸倍率の差が生じた以降の部分、および/または熱処理ゾーンに対して、原フィルムの幅方向に二分割された加熱温度の設定がなされており、この二分割された設定は、原フィルムにおける延伸倍率が相対的に小さい長辺縁部が移動する側の加熱温度が相対的に低く、延伸倍率が相対的に大きい長辺縁部が移動する側の加熱温度が相対的に高い設定である(以下、二分割温調と呼ぶ)。温調の設定は、例えば、加熱延伸装置の延伸ゾーンにおける、延伸によって原フィルムに延伸倍率の差が生じた以降の部分、および/または熱処理ゾーンに対して、原フィルムの幅方向に三分割された加熱温度の設定がなされており、この三分割された設定は、原フィルムにおける幅方向の中央部が移動する側の加熱温度が、原フィルムにおける双方の長辺縁部が移動する側の加熱温度よりも低い設定である(以下、三分割温調と呼ぶ)。二分割温調および三分割温調の設定は、少なくとも熱処理ゾーンになされていることが好ましい。二分割温調および三分割温調は、延伸ゾーンおよび/または熱処理ゾーンの少なくとも一部に設定されうる。
従来、加熱延伸装置における原フィルムが通過する雰囲気の温度は、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱処理ゾーンの各ゾーンごとに、すなわち、原フィルムの移動方向(長辺方向、縦方向)にのみ制御されていた。一方、二分割温調および三分割温調では、加熱延伸装置における原フィルムが通過する雰囲気の温度が、その移動方向だけではなく幅方向(横方向)にも制御され、例えば、一つのゾーンにおける全部または一部に、原フィルムの幅方向に対する温度勾配が設定される。原フィルムの幅方向に分割された温調は、各分割部に独立して配置された加熱装置および/または冷却装置により実現できる。加熱装置は、例えば、公知のヒーター、温風装置である。冷却装置は、例えば、雰囲気温度よりも低い温度の気体を原フィルムに吹き付けるブロアである。
二分割温調の設定の一例を、図2に示す。図2に示す例では、熱処理ゾーンZ4における区画壁W3とW4とに挟まれた部分(延伸ゾーンZ2に隣接する部分)に対して、原フィルムの幅方向に二分割された加熱温度の設定がなされている。この二分割された設定は、原フィルムにおける延伸倍率が相対的に小さい長辺縁部が移動する側の加熱温度が相対的に低く、延伸倍率が相対的に大きい長辺縁部が移動する側の加熱温度が相対的に高い設定である。
二分割温調の設定の別の一例を、図3に示す。図3に示す例では、熱処理ゾーンZ4における区画壁W4とW5とに挟まれた部分(熱処理ゾーンZ4における区画壁W3とW4とに挟まれた部分に隣接し、当該部分の下流に位置する部分)に対して、原フィルムの幅方向に二分割された加熱温度の設定がなされている。この二分割された設定は、原フィルムにおける延伸倍率が相対的に小さい長辺縁部が移動する側の加熱温度が相対的に低く、延伸倍率が相対的に大きい長辺縁部が移動する側の加熱温度が相対的に高い設定である。
三分割温調の設定の一例を、図4に示す。図4に示す例では、加熱延伸装置の延伸ゾーンZ2における、延伸によって原フィルムに延伸倍率の差が生じた以降の部分であって、熱処理ゾーンZ4に隣接する部分(後段延伸ゾーンZ2B)、ならびに熱処理ゾーンZ4における区画壁W3とW4とに挟まれた部分に対して、原フィルムの幅方向に三分割された加熱温度の設定がなされている。この三分割された設定は、それぞれ、原フィルムにおける幅方向の中央部が移動する側の加熱温度が、原フィルムにおける双方の長辺縁部が移動する側の加熱温度よりも低い設定、ならびに原フィルムにおける幅方向の中央部が移動する側の加熱温度および原フィルムにおける延伸倍率が相対的に小さい長辺縁部が移動する側の加熱温度が、延伸倍率が相対的に大きい長辺縁部が移動する側の加熱温度よりも低い設定である。
三分割温調の設定の別の一例を、図5に示す。図5に示す例では、加熱延伸装置の熱処理ゾーンZ4における区画壁W4とW5とに挟まれた部分(熱処理ゾーンZ4における区画壁W3とW4とに挟まれた部分に隣接し、当該部分の下流に位置する部分)に対して、原フィルムの幅方向に三分割された加熱温度の設定がなされている。この三分割された設定は、原フィルムにおける幅方向の中央部が移動する側の加熱温度が、原フィルムにおける双方の長辺縁部が移動する側の加熱温度よりも低い設定である。
図2,3では、加熱延伸装置100を原フィルム(図示せず)の主面に垂直な方向から見たときの、二分割温調の設定およびクリップペアの走行移動が模式的に示されている。図4,5では、加熱延伸装置200を原フィルム(図示せず)の主面に垂直な方向から見たときの、三分割温調の設定およびクリップペアの走行移動が模式的に示されている。図2〜5において、原フィルムは紙面の下から上へと流れる。図2,3に示す加熱延伸装置100および図4,5に示す加熱延伸装置200では、温調のみが互いに異なり、クリップペアの走行は同一である。原フィルムの上流側から見た、加熱延伸装置の右側および左側には、それぞれ、複数個の右側クリップ13が走行移動する右側レール11および複数個の左側クリップ14が走行移動する左側レール12が設けられている。レール11,12上を走行する右側クリップ13および左側クリップ14が、クリップペアとして、原フィルムの幅方向における両端部を順次把持することにより、加熱延伸装置100,200内に原フィルムが連続的に供給される。
右側クリップ13および左側クリップ14は、それぞれ独立して走行速度が可変である。加熱延伸装置100,200では、右側クリップ13と左側クリップ14との間で、走行速度が変化する位置が異なることによって、双方のクリップ13,14間に走行速度差が生じる。
R1〜R17およびL1〜L15は、それぞれ、ある時点において、予熱ゾーンZ1、延伸ゾーンZ2および熱処理ゾーンZ4のレール11,12上にある右側クリップ13および左側クリップ14の位置を示す。R1〜R17およびL1〜L15は、右側クリップ13および左側クリップ14の経時的な軌跡を表している。図2〜5には、クリップペアである右側クリップ13(Rn)と左側クリップ14(Ln)との間を結ぶ線分Cが示されている(n=1〜15)。右側クリップR1〜R17および左側クリップL1〜L15によって把持された原フィルムは、図2〜5には図示されていない。
加熱延伸装置100および200では、それぞれ、温調領域20および30において温調が実施される。各温調領域20および30は、加熱延伸装置100,200において原フィルムが移動する空間の天井に固定され、原フィルムの移動方向に垂直な方向に伸長する区画壁W0,W1,W3,W5によって、予熱ゾーンZ1、延伸ゾーンZ2、熱処理ゾーンZ4に区分されている。さらに、延伸ゾーンZ2は、区画壁W2によって、原フィルムの移動方向に互いに隣接して配置された、前段延伸ゾーンZ2Aと後段延伸ゾーンZ2Bとに区分されている。さらに、熱処理ゾーンZ4は、区画壁W4によって、原フィルムの移動方向に互いに隣接して配置された、2つのゾーン(前段熱処理ゾーン、後段熱処理ゾーン)に区分されている。加熱延伸装置100,200において、原フィルムの移動方向に対する、予熱ゾーンを除く4つのゾーンの長さは、いずれも等しい。
右側クリップ13および左側クリップ14は、予熱ゾーンZ1において速度V0で等速走行する。右側クリップ13は、前段延伸ゾーンZ2Aにおいて速度V0を維持して等速走行し、区画壁W2を通過して後段延伸ゾーンZ2Bに移動した後に、一定の加速度aで走行速度が増大する。他方、左側クリップ14は、区画壁W1を通過して前段延伸ゾーンZ2Aに入るとともに、一定の加速度aで走行速度が増大する。左側クリップ14は、前段延伸ゾーンZ2Aと後段延伸ゾーンZ2Bを区分する区画壁W2に到達したときに速度V1に達し、以後、後段延伸ゾーンZ2Bおよび熱処理ゾーンZ4において、速度V1を維持して等速走行する。右側クリップ13は、後段延伸ゾーンZ2Bと熱処理ゾーンZ4とを区分する区画壁W3に到達したときに速度V1に達し、以後、熱処理ゾーンZ4において、速度V1を維持して等速走行する。右側クリップ13および左側クリップ14は、その走行速度が変化するゾーンが互いに異なっている。
加熱延伸装置100の温調領域20は、原フィルムをその幅方向に二等分する、原フィルムの長辺方向に平行な直線21と区画壁W0〜W5とを境界として、互いに独立して温調の制御が可能な、右側領域AR1〜AR5および左側領域AL1〜AL5の合計10個の領域からなる。これにより、加熱延伸装置100では、温調領域20において二分割温調を実施できる。
図2に示す例では、領域AR1〜AR3および領域AL1〜AL4において相対的に高温に、領域AR4,AR5およびAL5において相対的に低温に、温調が制御されている。相対的に高温に制御されている領域と、相対的に低温に制御されている領域との境界では、明確に雰囲気温度が分断されているのではなく、一定の温度勾配が生じていると考えられる。区画壁によって区切られている境界では、そうでない境界に比べて、生じている温度勾配が急である。図2に示す加熱延伸装置100では、領域AL4から領域AR4に向かって温度が降下する温度勾配(原フィルムの幅方向の温度勾配)が、双方の領域の境界で生じている。また、領域AR3から領域AR4に向かって温度が降下する温度勾配および領域AL4から領域AL5に向かって温度が降下する温度勾配(いずれも原フィルムの長辺方向の温度勾配)が、双方の領域の境界で生じている。これら、原フィルムの幅方向および長辺方向の温度勾配を合わせて考えると、図2に示す加熱延伸装置100には、延伸倍率が相対的に高い長辺縁部を把持する左側クリップ14の加速が終了した、前段延伸ゾーンZ2Aと後段延伸ゾーンZ2Bとの境界近傍から、当該境界以降のゾーンにおける線分Cの伸長する向きに垂直な方向、すなわち、図1に示す遅れΔの方向、に低くなる温度勾配が設定されている。なお、当該境界近傍において、既に、原フィルムの双方の長辺縁部における延伸倍率の差が生じている。
図2に示すように、右側クリップ13および左側クリップ14ならびに双方のクリップペアを結ぶ線分Cを、予熱ゾーンZ1から熱処理ゾーンZ4に向けて移動させていくと、右側クリップR12および左側クリップL12を結ぶ線分Cを二等分する位置から、原フィルムは冷却され始める。当該位置は熱処理ゾーンにあり、当該位置における雰囲気温度は、右側クリップR12における雰囲気温度および左側クリップL12における雰囲気温度よりも低い。すなわち、クリップペアR12,L12間を結ぶ線分Cを見たとき、原フィルムの冷却が、当該線分Cの中央部から開始されることになる。これにより、上述した遅れΔが緩和される。その後、右側クリップ13および左側クリップ14が走行するにつれて、クリップペア間を結ぶ線分Cの中央部から右側(原フィルムの延伸倍率が小さい側)へ向かって冷却範囲が拡大した後に、線分Cの中央部から左側(原フィルムの延伸倍率が大きい側)へと冷却範囲が拡大する。熱処理ゾーンZ4における区画壁W3とW4とに挟まれた領域では、直線21を境界として、原フィルムにおける延伸倍率が小さい側(領域AR4)における雰囲気温度が、延伸倍率が大きい側(領域AL4)における雰囲気温度よりも低い。
図3に示す例では、領域AR1〜AR4および領域AL1〜AL5において相対的に高温に、領域AR5において相対的に低温に、温調が制御されている。図3に示す加熱延伸装置100では、領域AL5から領域AR5に向かって温度が降下する温度勾配(原フィルムの幅方向の温度勾配)が、双方の領域の境界で生じている。また、領域AR4から領域AR5に向かって温度が降下する温度勾配(原フィルムの長辺方向の温度勾配)が、双方の領域の境界で生じている。これら、原フィルムの幅方向および長辺方向の温度勾配を合わせて考えると、図3に示す加熱延伸装置100には、前段熱処理ゾーンと後段熱処理ゾーンの境界(区画壁W4)近傍から、後段熱処理ゾーンにおける線分Cの伸長する向きに垂直な方向、すなわち、図1に示す遅れΔの方向、に低くなる温度勾配が設定されている。
図3に示すように、右側クリップ13および左側クリップ14ならびに双方のクリップペアを結ぶ線分Cを、予熱ゾーンZ1から熱処理ゾーンZ4に向けて移動させていくと、右側クリップR14および左側クリップL14を結ぶ線分Cを二等分する位置から、原フィルムは冷却され始める。当該位置は熱処理ゾーンにあり、当該位置における雰囲気温度は、右側クリップR14における雰囲気温度および左側クリップL14における雰囲気温度よりも低い。すなわち、クリップペアR14,L14間を結ぶ線分Cを見たとき、原フィルムの冷却が、当該線分Cの中央部から開始されることになる。これにより、上述した遅れΔが緩和される。
加熱延伸装置200の温調領域30は、原フィルムをその幅方向に三等分する、原フィルムの長辺方向に平行な直線31および32と、区画壁W0〜W5とを境界として、互いに独立して温調の制御が可能な、右側領域BR1〜BR5、中央領域BC1〜BC5および左側領域BL1〜BL5の合計15個の領域からなる。これにより、加熱延伸装置200では、温調領域30において三分割温調を実施できる。
図4に示す例では、領域BR1〜BR3,BC1〜BC2およびBL1〜BL4において相対的に高温に、領域BR4〜BR5,BC3〜BC5およびBL5において相対的に低温に、温調が制御されている。図2,3に示す例と同様に、相対的に高温に制御されている領域と、相対的に低温に制御されている領域との境界では、明確に雰囲気温度が分断されているのではなく、一定の温度勾配が生じていると考えられる。図4に示す加熱延伸装置200では、後段延伸ゾーンZ2Bにおいて、領域BL3から領域BC3に向かって温度が降下するとともに、領域BR3から領域BC3に向かって温度が降下する温度勾配(いずれも原フィルムの幅方向の温度勾配)が、双方の領域の境界で生じている。熱処理ゾーンZ4における区画壁W3とW4との間の部分おいて、領域BL4から領域BC4に向かって温度が降下する温度勾配(原フィルムの幅方向の温度勾配)が、双方の領域の境界で生じている。また、領域BL4から領域BL5に向かって、領域BC2から領域BC3に向かって、および領域BR3から領域BR4に向かって、それぞれ温度が降下する温度勾配(いずれも原フィルムの長辺方向の温度勾配)が、双方の領域の境界で生じている。これら、原フィルムの幅方向および長辺方向の温度勾配を合わせて考えると、図4に示す加熱延伸装置200には、延伸倍率が相対的に高い長辺縁部を把持する左側クリップ14の加速が終了した、前段延伸ゾーンZ2Aと後段延伸ゾーンZ2Bとの境界近傍から、当該境界以降のゾーンにおける線分Cの中央部に低くなる温度勾配が設定された後に、さらに後段延伸ゾーンZ2Bと熱処理ゾーンZ4との境界近傍から、当該境界以降のゾーンにおける線分Cの伸長する向きに垂直な方向に低くなる温度勾配が設定されている。
図4に示すように、右側クリップ13および左側クリップ14ならびに双方のクリップペアを結ぶ線分Cを、予熱ゾーンZ1から熱処理ゾーンZ4に向けて移動させていくと、右側クリップR9および左側クリップL9を結ぶ線分Cの中央部から、原フィルムは冷却され始める。当該中央部は後段延伸ゾーンZ2Bにあり、当該中央部における雰囲気温度は、右側クリップR9における雰囲気温度および左側クリップL9における雰囲気温度よりも低い。すなわち、クリップペアR9,L9を結ぶ線分Cを見たとき、原フィルムの冷却が、当該線分Cの中央部から開始されることになる。これにより、上述した遅れΔが緩和される。
その後、右側クリップ13および左側クリップ14が走行するにつれて、クリップペア間を結ぶ線分Cの中央部から右側(原フィルムの延伸倍率が小さい側、領域BR4側)へ向かって冷却範囲が拡大した後に、線分Cの中央部から左側(原フィルムの延伸倍率が大きい側、領域BL5側)へと冷却範囲が拡大する。また、熱処理ゾーンZ4における区画壁W3とW4とに挟まれた領域では、直線31,32を境界として、原フィルムにおける延伸倍率が小さい側(領域BR4)における雰囲気温度が、延伸倍率が大きい側(領域BL4側)における雰囲気温度よりも低い。
図5に示す例では、領域BR1〜BR5,BC1〜BC4およびBL1〜BL5において相対的に高温に、領域BC5において相対的に低温に、温調が制御されている。図2〜4に示す例と同様に、相対的に高温に制御されている領域と、相対的に低温に制御されている領域との境界では、明確に雰囲気温度が分断されているのではなく、一定の温度勾配が生じていると考えられる。図5に示す加熱延伸装置200では、熱処理ゾーンZ4における区画壁W4とW5との間の部分(後段熱処理ゾーン)において、領域BL5から領域BC5に向かって温度が降下するとともに、領域BR5から領域BC5に向かって温度が降下する温度勾配(いずれも原フィルムの幅方向の温度勾配)が、双方の領域の境界で生じている。また、領域BC4から領域BC5に向かって温度が降下する温度勾配(原フィルムの長辺方向の温度勾配)が、双方の領域の境界で生じている。これら、原フィルムの幅方向および長辺方向の温度勾配を合わせて考えると、図5に示す加熱延伸装置200には、前段熱処理ゾーンと後段熱処理ゾーンとの境界(区画壁W4)近傍から、後段熱処理ゾーンにおける線分Cの中央部が低くなる温度勾配が設定されている。
図5に示すように、右側クリップ13および左側クリップ14ならびに双方のクリップペアを結ぶ線分Cを、予熱ゾーンZ1から熱処理ゾーンZ4に向けて移動させていくと、右側クリップR14および左側クリップL14を結ぶ線分Cの中央部から、原フィルムは冷却され始める。当該中央部は後段熱処理ゾーンにあり、当該中央部における雰囲気温度は、右側クリップR14における雰囲気温度および左側クリップL14における雰囲気温度よりも低い。すなわち、クリップペアR14,L14を結ぶ線分Cを見たとき、原フィルムの冷却が、当該線分Cの中央部から開始されることになる。これにより、上述した遅れΔが緩和される。
図2〜5に示す温調は、ゾーンごとの温度設定のみが可能である従来の加熱延伸装置においても、加熱機やブロアなどを増設することによって実施できる。図2に示す二分割温調の場合、例えば、区画壁W3とW4とに挟まれた領域において、相対的に低温にしたい領域AR4のみに冷風の吹き出しノズルを設ければよい。図4に示す三分割温調の場合、例えば、後段延伸ゾーンZ3において、相対的に低温にしたい領域BC3のみに冷風の吹き出しノズルを設ければよい。さらに、区画壁W3とW4とに挟まれた領域において、相対的に高温にしたい領域BL4のみに加熱機を設ければよい。このように、本発明の製造方法は、従来の加熱延伸装置に対して大きな構造上の変更を加えることなく実施可能であるという点にもメリットを有している。もちろん、左右に独立した温調機および/またはブロアを設置し、AR4側の設定温度をAL4側よりも低く設定することで、区画壁W3とW4とに挟まれた領域内の温度を、左右で傾斜がついたプロファイルとすることができ、いずれの場合も、原フィルムを線分Cの中央部から冷却しうる。
加熱延伸装置における予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび熱処理ゾーンは、他のゾーンに対して機械的または構造的に独立したゾーンを必ずしも意味しない。予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび熱処理ゾーンは、それぞれ、当該装置を原フィルムの幅方向に横切る帯状のゾーンであって、上述した各条件に適した雰囲気温度に保たれたゾーンを意味する。温調の管理が容易となる観点からは、隣り合うゾーンの境界に、原フィルムの移動方向に垂直に伸長する区画壁を設けることによって、各ゾーンを区分することが好ましい。区画壁の形状は、必要な温度勾配に応じて、適宜、設計できる。予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび熱処理ゾーンは、必要に応じて、さらに2以上のゾーンに区分されていてもよい。区分されたゾーンの境界には、温調の管理を容易とするなどの目的のために、区画壁を設けることができる。
本発明の製造方法において、上述した斜め延伸と同時に、原フィルムをその幅方向にさらに延伸(横延伸)してもよい。横延伸は、例えば、原フィルムの双方の長辺縁部を把持する一対のクリップ群の間隔を増大または縮小させることにより、実施できる。間隔が増大させることにより横延伸を加えた場合、得られた位相差フィルムの二軸延伸性が増し、当該フィルムの強度が向上する。間隔を縮小させることにより横延伸を加えた場合(この場合、フィルムの幅が縮小する。すなわち、延伸倍率が1未満である)、得られた位相差フィルムの一軸延伸性が増す。横延伸の延伸倍率は、目的とする位相差フィルムの光学特性、強度などに応じて、設定すればよい。横延伸の有無および程度によって、最終的に得られた位相差フィルムにおける遅相軸の方向を調整しうる。
本発明の製造方法では、原フィルムの長辺縁部をクリップが把持する際の当該クリップの走行速度が、それぞれの長辺縁部の間で互いに等しく、熱処理後、延伸されたフィルムを解放する際のクリップの走行速度が、それぞれの長辺縁部の間で互いに等しいことが好ましい。これにより、クリップがフィルムを把持および解放する工程が安定し、高品質の位相差フィルムが安定して得られる。
本発明の製造方法では、加熱延伸装置における原フィルムの移動方向を、延伸ゾーンの前後において略並行に保つことが好ましい。言い換えれば、原フィルムを把持する際のクリップの走行方向は、延伸されたフィルムを解放する際のクリップの走行方向と略平行であることが好ましい。なお、クリップの走行方向は、原フィルムに横延伸をさらに加える場合を考慮し、一方の長辺縁部を把持または解放するクリップの走行方向と、他方の長辺縁部を把持または解放するクリップの走行方向とのベクトルの和の方向を意味する。特開2005−319660号公報および特開2010−266723号公報には、延伸の前後でフィルムの移動方向が異なる、屈曲したテンターレールを有するテンター延伸機を用いた斜め延伸が開示されている。フィルムの長辺方向に対する遅相軸の角度が異なる2種以上の位相差フィルムを製造する場合、延伸倍率など、加熱延伸装置における延伸条件を変更する必要がある。上記のような、延伸の前後でフィルムの移動方向が異なる延伸機を用いた場合、延伸条件を変更するたびに、得られた位相差フィルムを巻き取る巻取り機の設置場所の変更や原フィルムを供給するロールの平行度の調整(芯だし)などが必要になり、位相差フィルムの生産性が低下する。また、テンターレールが屈曲しているため、延伸装置の設置に必要な面積の確保が難しい。一方、原フィルムの移動方向を、延伸ゾーンの前後において略並行に保つ場合、延伸条件を変更したときにおいてもこのような調整を省略でき、位相差フィルムの生産性が向上する。この構成は、例えば、同時二軸延伸機により実現可能である。
本発明の製造方法では、本発明の効果が得られる限り、原フィルムの一方の長辺縁部を把持するクリップ群の走行軌跡と、他方の長辺縁部を把持するクリップ群の走行軌跡とが、原フィルムを幅方向に二等分する、原フィルムの長辺方向に伸びる直線に対して、対称である必要はない。例えば、一方のクリップ群を原フィルムの縦方向(MD方向)に加速するとともに横方向(TD方向)に拡張または収縮させ、その後、他方のクリップ群を原フィルムの横方向に拡張または収縮させるとともに縦方向に加速してもよい。この場合、双方のクリップ群の走行軌跡はS字を描くように蛇行し、上記直線に対して互いに非対称となる。なお、この場合であっても、原フィルムを把持する際のクリップの走行方向は、延伸されたフィルムを解放する際のクリップの走行方向と略平行であることが好ましい。
本発明の製造方法において、帯状の原フィルムを加熱延伸装置に供給する方法は限定されない。例えば、原フィルムのロールから順に当該フィルムを繰り出しながら、加熱延伸装置に供給すればよい。
本発明の製造方法によって得られた帯状の位相差フィルムは、続いて、任意の工程に供給できる。例えば、ロールに巻回して位相差フィルムロールを得てもよいし、コーティング層の形成あるいは他のフィルムとの積層など、後工程に供給してもよい。
本発明の製造方法によって帯状の位相差フィルムを製造した場合、例えば、当該位相差フィルムと、帯状の偏光フィルムとを連続的に積層できる(より具体的な例として、ロールtoロールで積層できる)ため、効率よく、楕円偏光板を製造することができる。
本発明の製造方法は、本発明の効果が得られる限り、上述した以外の任意の工程を含んでいてもよい。
[原フィルム]
本発明の製造方法に用いられる原フィルムは、通常、熱可塑性樹脂組成物からなる。原フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物(A)は、主鎖に環構造を有する重合体(B)を含むことが好ましい。すなわち、本発明の製造方法に用いられる原フィルムは、主鎖に環構造を有する重合体(B)を含む熱可塑性樹脂組成物(A)からなることが好ましい。これにより、得られた位相差フィルムのガラス転移温度(Tg)が向上する。高いTgを有する位相差フィルムは、電源、光源、回路基板などの発熱体が狭い空間に集積された構造を有する、LCDなどの画像表示装置への使用に好適である。また、環構造の種類によっては、得られた位相差フィルムにおける位相差を増大させる作用を有する。
樹脂組成物(A)における重合体(B)の含有率は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上である。
重合体(B)は、(メタ)アクリル重合体、シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種が好ましい。(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。ただし、(メタ)アクリル重合体が、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造を含む場合、当該環構造の含有率も、(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率に含まれる。シクロオレフィン重合体は、シクロオレフィン単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。セルロース誘導体は、トリアセチルセルロース(TAC)単位、セルロースアセテートプロピオネート単位、セルロースアセテートブチレート単位、セルロースアセテートフタレート単位などの繰り返し単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体は、主鎖に環構造を有する。
重合体(B)は、(メタ)アクリル重合体が好ましい。(メタ)アクリル重合体は、透明度が高く、表面強度などの機械的特性に優れる。このため、(メタ)アクリル重合体を用いることにより、LCDなどの画像表示装置への使用に好適な位相差フィルムが得られる。
(メタ)アクリル重合体が主鎖に有していてもよい環構造は、例えば、エステル基、イミド基または酸無水物基を有する環構造である。環構造は、当該環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体に対して、正の固有複屈折を与える作用を有することが好ましい。
より具体的には、環構造は、ラクトン環構造、グルタルイミド構造または無水グルタル酸構造である。これらの環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体は、大きな正の固有複屈折を有するため、位相差フィルムへの使用に好適である。環構造は、ラクトン環構造および/またはグルタルイミド構造が好ましく、ラクトン環構造がより好ましい。(メタ)アクリル重合体がこれらの環構造(特に、ラクトン環構造)を主鎖に有する場合、配向によって生じる位相差の波長分散性が特に小さくなる。また、負の固有複屈折を有する重合体との組み合わせによっては、得られた位相差フィルムにおける波長分散性の制御の自由度が向上する。
ラクトン環構造は、特に限定されず、例えば、以下の式(1)に示す構造である。
式(1)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数1〜20のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数1〜20の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数1〜20の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基または上記芳香族炭化水素基における水素原子の1つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
式(1)に示すラクトン環構造は、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)と2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)とを含む単量体群を共重合した後、得られた共重合体における隣り合ったMMA単位とMHMA単位とを脱アルコール環化縮合させることにより形成できる。このとき、R1はH、R2はCH3、R3はCH3である。
グルタルイミド構造は、以下の式(2)に示す環構造である。
式(2)において、R4、R5およびR6は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。有機残基は、例えば、式(1)における有機残基として例示した基である。グルタルイミド構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体群を重合した後、得られた重合体をメチルアミンなどのイミド化剤によりイミド化することにより形成できる。
無水グルタル酸構造は、以下の式(3)に示す環構造である。
式(3)において、R7およびR8は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。有機残基は、例えば、式(1)における有機残基として例示した基である。無水グルタル酸構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸とを含む単量体群を共重合した後、得られた共重合体を分子内で脱アルコール環化縮合させることにより形成できる。
式(1)〜(3)の説明において例示した、環構造を形成する各方法では、環構造の形成に用いる重合体は全て(メタ)アクリル重合体であり、形成される環構造は全て(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である。
主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル重合体において、環構造の含有率は特に限定されないが、通常5〜90重量%であり、20〜90重量%が好ましく、30〜90重量%がより好ましく、35〜90重量%がさらに好ましく、40〜80重量%および45〜75重量%が特に好ましい。(メタ)アクリル重合体における環構造の含有率は、特開2001−151814号公報に記載の方法により求めることができる。
(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリルエステル単位およびその誘導体である環構造以外の構成単位を有していてもよい。
本発明の効果が得られる限り、樹脂組成物(A)は、重合体(B)以外の材料を含んでいてもよい。当該材料は、例えば、重合体(B)以外の重合体であって、重合体(B)と相溶性を有する重合体である。当該材料は、例えば、添加剤である。添加剤は、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、位相差調整剤、フィラー、ゴム粒子、相溶化剤、安定化剤、その他、位相差フィルムの光学特性および機械特性を調整する物質である。
原フィルムは、単層フィルムであってもよいし、積層フィルムであってもよい。必要に応じて、原フィルムの片面または両面に、ハードコート層、易接着層、帯電防止層などの機能性層が設けられていてもよい。原フィルムは、通常、未延伸フィルムであるが、延伸フィルムであってもよい。
原フィルムを製造する方法は特に限定されず、例えば、溶液製膜法(溶液流延法、キャスト成形法)、溶融製膜法(溶融押出法、押出成形法)、プレス成形法などの公知の手法により製造できる。なかでも、環境負荷が小さく生産性に優れる観点から、溶融製膜法による原フィルムの製造が好ましい。
溶液製膜法では、樹脂組成物(A)を良溶媒中に撹拌混合して均一な混合液とし、得られた混合液を支持フィルムまたはドラムにキャストしてキャスト膜を形成し、形成したキャスト膜を予備乾燥させて自己支持性を有するフィルムとし、このフィルムを支持フィルムまたはドラムから剥がして乾燥させることにより、原フィルムが得られる。溶液製膜法に用いられる溶媒は、例えば、クロロホルム、ジクロロメタンなどの塩素系溶媒;トルエン、キシレン、ベンゼンおよびこれらの混合溶媒などの芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノールなどのアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ジオキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル;である。溶媒として、これらの1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。溶液製膜法を行う装置は、例えば、ドラム式キャスティングマシン、ベルト式キャスティングマシンである。
溶融製膜法では、例えば、樹脂組成物(A)を構成する各成分をオムニミキサーなどの混合機を用いてプレブレンドし、得られた混合物を混練機により混練した後、押出成形して原フィルムが得られる。別途形成した樹脂組成物(A)を溶融押出成形して原フィルムを得てもよい。混練機は特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機、加圧ニーダーなど、公知の混練機である。
押出成形は、例えば、Tダイ法、インフレーション法である。押出成形の温度(成形温度)は、好ましくは200〜350℃、より好ましくは250〜300℃、さらに好ましくは255℃〜300℃、特に好ましくは260℃〜300℃である。Tダイ法によれば、押出機の先端部にTダイを取り付け、当該Tダイから押し出して得たフィルムを巻き取ることによって、ロールに巻回した原フィルム(原フィルムロール)が得られる。このとき、巻き取りの温度および速度を制御することによって、当該フィルムの押し出し方向に延伸(一軸延伸)を加えることもできる。
押出成形に用いる押出機の種類は特に限定されず、単軸、二軸、多軸のいずれの押出機も使用できる。樹脂組成物(A)を十分に可塑化して良好な混練状態を得るためには、押出機のL/D値(Lは押出機のシリンダの長さ、Dはシリンダ内径)は、好ましくは10以上100以下であり、より好ましくは15以上80以下であり、さらに好ましくは20以上60以下である。L/D値が10未満の場合、樹脂組成物を十分に可塑化できず、良好な混練状態が得られないことがある。L/D値が100を超える場合、樹脂組成物に対して過度に剪断発熱が加わることにより、樹脂組成物中の重合体が熱分解することがある。
押出機のシリンダの設定温度は、好ましくは200℃以上300℃以下であり、より好ましくは250℃以上300℃以下である。シリンダの設定温度が200℃未満である場合、樹脂組成物の溶融粘度が過度に高くなり、原フィルムの生産性が低下しやすい。シリンダの設定温度が300℃を超える場合、樹脂組成物中の重合体が熱分解することがある。
押出機の形状は、特に限定されない。押出機は、1個以上の開放ベント部を有することが好ましい。この場合、押出機の開放ベント部から分解ガスを吸引でき、得られた原フィルムに残存する揮発成分の量が低減する。開放ベント部から分解ガスを吸引するためには、例えば、開放ベント部を減圧状態にすればよい。減圧状態にある開放ベント部の圧力は、1.3〜931hPaが好ましく、13.3〜798hPaがより好ましい。開放ベント部の圧力が931hPaより高いと、揮発成分および重合体の分解により発生する単量体成分が樹脂組成物中に残存しやすい。開放ベント部の圧力を1.3hPaより低く保つことは、工業的に困難である。
原フィルムを製造する際には、樹脂組成物(A)をポリマーフィルターにより溶融濾過することが好ましい。ポリマーフィルターを用いた溶融濾過により、樹脂組成物中に存在する異物が除去され、得られた位相差フィルムの光学欠点および外観上の欠点が低減される。
ポリマーフィルターによる溶融濾過の際、樹脂組成物は高温の溶融状態となる。ポリマーフィルターを通過する際に樹脂組成物に含まれる成分が劣化すると、劣化により発生したガス成分あるいは着色劣化物が流れ出し、得られた原フィルムに、穴あき、流れ模様、流れスジなどの欠点が観察されることがある。これらの欠点は、特に、原フィルムの連続成形時に観察されやすい。樹脂組成物の劣化は、当該組成物の溶融粘度を低下させ、ポリマーフィルターにおける組成物の滞留時間を短くすることによって防ぐことができる。このため、ポリマーフィルターにより溶融濾過した樹脂組成物の成形温度は、例えば、255〜300℃であり、260〜320℃が好ましい。
ポリマーフィルターの構成は特に限定されない。ハウジング内に多数枚のリーフディスク型フィルターを配したポリマーフィルターを好適に用いることができる。リーフディスク型フィルターの濾材は、金属繊維不織布を焼結したタイプ、金属粉末を焼結したタイプ、金網を数枚積層したタイプ、またはそれらを組み合わせたハイブリッドタイプのいずれであってもよく、なかでも、金属繊維不織布を焼結したタイプが最も好ましい。
ポリマーフィルターの濾過精度は特に限定されないが、通常15μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。濾過精度が1μm以下の場合、ポリマーフィルターにおける樹脂組成物の滞留時間が長くなるため、樹脂組成物が熱劣化しやすい。また、原フィルムの生産性も低下する。濾過精度が15μmを超える場合、樹脂組成物中の異物を除去することが難しくなる。
ポリマーフィルターの形状は特に限定されず、例えば、複数の樹脂流通口を有し、センターポール内に樹脂の流路を有する内流型;断面が複数の頂点もしくは面においてリーフディスクフィルターの内周面に接し、センターポールの外面に樹脂の流路がある外流型;である。なかでも、樹脂の滞留箇所の少ない外流型が好ましい。
ポリマーフィルターにおける樹脂組成物の滞留時間は、好ましくは20分以下、より好ましくは10分以下、さらに好ましくは5分以下である。濾過時におけるフィルター入口圧および出口圧は、例えば、それぞれ3〜15MPaおよび0.3〜10MPaであり、圧力損失(フィルターの入口圧と出口圧の圧力差)は、1MPa〜15MPaが好ましい。圧力損失が1MPa以下の場合、樹脂組成物がフィルターを通過する流路に偏りが生じやすく、得られたフィルムの品質が低下する傾向がある。圧力損失が15MPaを超えると、ポリマーフィルターの破損が起こり易くなる。
ポリマーフィルターに導入される樹脂組成物の温度は、その溶融粘度に応じて適宜設定すればよく、例えば250〜300℃であり、好ましくは255〜300℃であり、さらに好ましくは260〜300℃である。
ポリマーフィルターを用いた溶融濾過により、異物および着色物の少ない原フィルムを得るための具体的な手順は、特に限定されない。例えば、(1)クリーン環境下で樹脂組成物の形成および濾過処理を行い、引き続いてクリーン環境下で成形を行うプロセス、(2)異物または着色物を有する樹脂組成物を、クリーン環境下で濾過処理した後、引き続いてクリーン環境下で成形を行うプロセス、(3)異物または着色物を有する樹脂組成物を、クリーン環境下で濾過処理すると同時に成形を行うプロセス、などが採用される。それぞれの工程毎に、複数回、濾過処理を行ってもよい。
ポリマーフィルターによって樹脂組成物を溶融濾過する際には、押出機とポリマーフィルターとの間にギアポンプを設置して、フィルター内の樹脂の圧力を安定化させることが好ましい。
[位相差フィルム]
本発明の製造方法によって得た位相差フィルムでは、斜め延伸により、その面内の遅相軸が、当該フィルムの長辺方向に対して10〜80°傾いている。本発明の製造方法によって得た位相差フィルムは、例えば、フィルム面内の遅相軸が当該フィルムの長辺方向に対して約45°傾いた帯状のフィルムである。
本発明の製造方法により、幅方向における光学特性の均一性に優れた、帯状の位相差フィルム(長尺の位相差フィルム)が得られる。得られた位相差フィルムを、その幅方向に見たときに、光学的な配向角の最大値と最小値との差は、例えば、0°〜10°であり、原フィルムの構成および位相差フィルムの製造条件によっては、0°〜2°となる。また、得られた位相差フィルムを、その幅方向に見たときに、面内位相差Reの最大値と最小値との差は、例えば、0nm〜10nmであり、原フィルムの構成および位相差フィルムの製造条件によっては、0nm〜2nmとなる。
本発明の製造方法によって得た位相差フィルムは、全光線透過率が85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、91%以上がさらに好ましい。全光線透過率は、位相差フィルムの透明性の目安となる。なお、全光線透過率が85%未満のフィルムは、光学用のフィルムとして適さない。
本発明の製造方法によって得た位相差フィルムのTgは、110℃以上が好ましい。Tgは、好ましくは115℃以上、より好ましくは120℃以上である。Tgの上限は限定されないが、位相差フィルムの生産性およびハンドリング性を考慮すると、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。
本発明の製造方法により得た位相差フィルムの表面には、必要に応じて、各種の機能性コーティング層が形成されていてもよい。機能性コーティング層は、例えば、帯電防止層、粘接着剤層、接着層、易接着層、防眩(ノングレア)層、光触媒層などの防汚層、反射防止層、ハードコート層、紫外線遮蔽層、熱線遮蔽層、電磁波遮蔽層、ガスバリヤー層である。機能性コーティング層の形成は、延伸前の原フィルムに対して行われてもよく、延伸により得た位相差フィルムに対して行われてもよい。
本発明の製造方法により得た位相差フィルムにおける、波長590nmの光に対する面内位相差Reは、20〜500nmが好ましい。面内位相差Reは、原フィルムの延伸条件により制御できる。面内位相差Reは、1/4波長板や1/2波長板などといった位相差フィルムの用途に応じて適宜、定めることができる。なお、面内位相差Reは、フィルム面内の遅相軸方向の屈折率をnx、フィルム面内の進相軸方向の屈折率をny、フィルムの厚さをdとして、式(nx−ny)×dにより与えられる値である。
本発明の製造方法により得た位相差フィルムと、偏光フィルムとを積層することによって、例えば、楕円偏光板が得られる。偏光フィルムは、例えば、偏光子の少なくとも一方の主面に偏光子保護フィルムが積層された構造を有する。本発明の製造方法により得た位相差フィルムを、偏光子保護フィルムに接するように偏光フィルムと積層する場合、当該位相差フィルムの表面に易接着層を予め形成しておくことが好ましい。
本発明の製造方法により得た位相差フィルムは、各種の光学部材として好適に用いることができる。光学部材は、例えば、光学用保護フィルム、具体的には、各種の光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)の基板の保護フィルム、LCDなどの画像表示装置が備える偏光板に用いる偏光子保護フィルムである。視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルムなどに使用してもよい。
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
最初に、各実施例および比較例において作製した重合体およびフィルムの特性評価方法を示す。
<ガラス転移温度(Tg)>
重合体のTgは、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温速度20℃/分で昇温して得られたDSC曲線から、始点法により算出した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
<重量平均分子量>
重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、以下の条件で求めた。
システム:東ソー社製GPCシステム HLC−8220
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)、流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー社製、PS−オリゴマーキット)
測定側カラム構成:ガードカラム(東ソー社製、TSKguardcolumn SuperHZ−L)、分離カラム(東ソー社製、TSKgel SuperHZM−M)2本直列接続
リファレンス側カラム構成:リファレンスカラム(東ソー社製、TSKgel SuperH−RC)
<メルトフローレート(MFR)>
重合体のMFRは、JIS K7210:1999の規定に準拠して求めた。具体的には、メルトインデクサー(テクノセブン製)を用い、試験温度240℃、荷重98N(10kgf)として求めた。
<固有複屈折>
フィルムを構成する樹脂組成物の固有複屈折の正負は、以下のように評価した。最初に、作製した未延伸の原フィルムから80mm×50mmのフィルム片を切り出し、加温室を備えたオートグラフ(島津製作所製)を用いて、延伸温度125℃、延伸倍率2倍で一軸延伸し、延伸フィルムとした。フィルム片における長手方向の両端部のそれぞれ20mmをチャックの取り付けしろとしたため、実質的には、フィルム片における40mm×50mmの部分に対して延伸が行われた。次に、全自動複屈折計(王子計測機器製、KOBRA−WR)を用いて当該延伸フィルムの配向角を求めることにより、固有複屈折の正負を決定した。測定された配向角が0°近傍であれば、フィルムを構成する樹脂組成物の固有複屈折は正であり、測定された配向角が90°近傍であれば、フィルムを構成する樹脂組成物の固有複屈折は負である。
<屈折率異方性>
作製した位相差フィルムの、波長590nmの光に対する面内位相差Re(590)、波長447nmの光に対する面内位相差Re(447)、波長750nmの光に対する面内位相差Re(750)および波長590nmの光に対する厚さ方向の位相差Rthならびに光軸の方向(フィルム面内における遅相軸の方向)は、位相差フィルム・光学材料検査装置(大塚電子製、RETS−100)を用いて評価した。測定の際に当該装置に入力する位相差フィルムの厚さdは、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ製)により、位相差フィルムの平均屈折率はアッベ屈折率計により、それぞれ測定した。なお、Rthの測定の際には、測定対象である位相差フィルムを傾斜させた。その傾斜軸は、当該フィルムの遅相軸および進相軸のうち、遅相軸を傾斜軸として測定したRe(S40°)と、進相軸を傾斜軸として測定したRe(F40°)とを比較して大きい値が得られる方とした。
位相差フィルムにおける光軸の方向(フィルム面内の遅相軸の方向)は、作製した位相差フィルムから、当該フィルムを幅方向に横切る、帯状の評価用フィルムを切り出し、切り出した評価用フィルムの短辺を上記装置の基準バーに合わせて基準軸がぶれないようにして測定した。光軸の方向は、基準方向となる位相差フィルムの長辺方向を0°として、当該方向からの角度をもって表現した。光軸精度ΔRは、作製した位相差フィルムにおける幅方向の中心、および当該中心からそれぞれの長辺に向けて100mm離れた位置の合計3点に対して測定した光軸の方向(角度)から選ばれる最大値と最小値との差とした。この差ΔRが1°以下であれば○とし、1°を超えれば×とした。
位相差精度ΔReは、作製した位相差フィルムにおける幅方向の中心、および当該中心からそれぞれの長辺に向けて100mm離れた位置の合計3点に対して測定した、波長590nmの光に対する面内位相差Reから選ばれる最大値と最小値との差とした。この差ΔReが5nm以下であれば○とし、5nmを超えれば×とした。
(製造例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応釜に、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)15質量部、メタクリル酸メチル(MMA)27質量部、アクリル酸メチル(AM)5質量部、N−ビニルカルバゾール3質量部、および重合溶媒としてトルエン50質量部を投入した。次に、反応釜に窒素ガスを導入しながら105℃まで昇温し、昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.02質量部を添加するとともに、上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.04質量部を3時間かけて滴下しながら、約105℃〜110℃の還流下で溶液重合を進行させた。その後、反応釜を4時間加温し続けて、熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に、環化触媒としてリン酸ステアリル(堺化学製、商品名:Phoslex A−18)0.1質量部を添加し、約80℃〜105℃の還流下で2時間、ラクトン環構造を形成する環化縮合反応を進行させた。
次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、樹脂量換算で100質量部/時の処理速度で導入して、重合溶液を脱揮した。用いたベントタイプスクリュー二軸押出機のリアベント数は1個、フォアベント数は4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)とし、バレル温度は240℃、減圧度は13.3〜400hPa(10〜300mmHg)とした。脱揮の際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.5質量部/時の投入速度で第2ベントの後ろから、イオン交換水を0.5質量部/時の投入速度で第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液として、5質量部の酸化防止剤(チバジャパン製、イルガノックス1010)と、環化触媒失活剤として81質量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、商品名:ニッカオクチクス亜鉛3.6%)とをトルエン64質量部に溶解させた溶液を用いた。
上記脱揮操作により、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体のペレット(1A)を得た。当該重合体の重量平均分子量は105,000、Tgは129℃、MFRは30.7g/10分であり、固有複屈折は正であった。
次に、ポリマーフィルター(濾過精度5μm)を備えるとともにTダイを先端に備えた単軸押出機を用いて、成形温度270℃でペレット(1A)を溶融押出成形して、厚さ380μm、幅570mmの帯状かつ未延伸の原フィルム(1AF)を作製した。
(製造例2)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応釜に、MHMA15質量部、MMA35質量部および重合溶媒としてトルエン60質量部を投入した。次に、反応釜に窒素ガスを導入しながら105℃まで昇温し、昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.03質量部を添加するとともに、上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.06質量部を2時間かけて滴下しながら、約105℃〜110℃の還流下で溶液重合を進行させた。その後、反応釜を4時間加温し続けて、熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に、環化触媒としてリン酸2−エチルヘキシル(堺化学製、商品名:Phoslex A−8)0.1質量部を添加し、約80℃〜105℃の還流下で2時間、ラクトン環構造を形成する環化縮合反応を進行させた。
次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、樹脂量換算で100質量部/時の処理速度で導入して、重合溶液を脱揮した。用いたベントタイプスクリュー二軸押出機のリアベント数は1個、フォアベント数は4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)とし、バレル温度は240℃、減圧度は13.3〜400hPa(10〜300mmHg)とした。脱揮の際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.5質量部/時の投入速度で第2ベントの後ろから、イオン交換水を1.5質量部/時の投入速度で第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液として、5質量部の酸化防止剤(チバジャパン製、イルガノックス1010)と、環化触媒失活剤として132質量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、商品名:ニッカオクチクス亜鉛3.6%)とをトルエン13質量部に溶解させた溶液を用いた。
上記脱揮操作により、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体のペレット(2A)を得た。当該重合体の重量平均分子量は110,000、Tgは140℃、固有複屈折は正であった。
次に、ポリマーフィルター(濾過精度5μm)を備えるとともにTダイを先端に備えた単軸押出機を用いて、成形温度270℃でペレット(2A)を溶融押出成形して、厚さ200μm、幅570mmの帯状かつ未延伸の原フィルム(2AF)を作製した。
(製造例3)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応釜に、MHMA10質量部、MMA40質量部、重合溶媒としてトルエン50質量部、および酸化防止剤としてアデカスタブ2112(ADEKA製)0.025質量部を投入した。次に、反応釜に窒素を導入しながら105℃まで昇温し、昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.05質量部を添加するとともに、上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.1質量部を3時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させた。その後、反応釜を4時間加温し続けて、熟成を行った。
次に、得られた重合溶液に、環化触媒としてリン酸2−エチルヘキシル(堺化学製、商品名:Phoslex A−8)0.05質量部を添加し、約90〜105℃の還流下で2時間、ラクトン環構造を形成する環化縮合反応を進行させた。
次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、樹脂量換算で70質量部/時の処理速度で導入して、重合溶液を脱揮した。用いたベントタイプスクリュー二軸押出機のリアベント数は1個、フォアベント数は4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)とし、第3ベントと第4ベントとの間にサイドフィーダーを配置し、バレル温度は240℃、減圧度は13.3〜400hPa(10〜300mmHg)とした。脱揮の際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.05質量部/時の投入速度で第1ベントの後ろから、イオン交換水を1.05質量部/時の投入速度で第2および第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液として、5質量部の酸化防止剤(チバスペシャリティケミカルズ製、イルガノックス1010)と、環化触媒失活剤として46質量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、商品名:ニッカオクチクス亜鉛3.6%)とをトルエン54質量部に溶解させた溶液を用いた。さらに、上記サイドフィーダーから、スチレン−アクリロニトリル共重合体(スチレン単位/アクリロニトリル単位の比率が73質量%/27質量%、重量平均分子量22万)のペレットを、投入速度30質量部/時で投入した。その後、押出機内にある溶融状態の樹脂組成物を押出機の先端から吐出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体と、スチレン−アクリロニトリル共重合体とを含む樹脂組成物からなるペレット(3A)を得た。当該組成物のTgは122℃であり、固有複屈折は負であった。
次に、ポリマーフィルター(濾過精度5μm)を備えるとともにTダイを先端に備えた単軸押出機を用いて、成形温度270℃でペレット(3A)を溶融押出成形して、厚さ200μm、幅570mmの帯状かつ未延伸の原フィルム(3AF)を作製した。
(製造例4)
シクロオレフィン重合体として、ポリノルボルネン(JSR製、ARTON RH5200J、Tg:144℃)のペレット(4A)を準備した。次に、ポリマーフィルター(濾過精度5μm)を備えるとともにTダイを先端に備えた単軸押出機を用いて、成形温度280℃でペレット(4A)を溶融押出成形して、厚さ120μm、幅570mmの帯状かつ未延伸の原フィルム(4AF)を作製した。当該シクロオレフィン重合体の固有複屈折は正であった。
(製造例5)
セルロース誘導体として、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)[アセチル基置換度2.5重量%、ヒドロキシル基置換度1.8重量%、プロピオニル基置換度46重量%、数平均分子量Mn=6.3万、重量平均分子量Mw=17.5万、Tg:128℃]の粉体を、二軸押出機(φ=15mm、L/D=45、バレル温度250℃)に投入して溶融混練し、ペレット(5A)を得た。次に、ポリマーフィルター(濾過精度5μm)を備えるとともにTダイを先端に備えた単軸押出機を用いて、成形温度240℃でペレット(5A)を溶融押出成形して、厚さ300μm、幅570mmの帯状かつ未延伸の原フィルム(5AF)を作製した。当該セルロース誘導体の固有複屈折は正であった。
(実施例1)
実施例1では、製造例1で作製した原フィルム(1AF)を、本発明の製造方法に従って斜め延伸した。加熱延伸装置には、クリップ群が走行する一対のレール(左側レールおよび右側レール)を備える同時二軸延伸機を用いた。クリップには20ミリのものを用い、クリップが原フィルムを把持する位置は、当該フィルムの幅方向の端部から25mmの位置とした。
実施例1では、図2に示す二分割温調を採用した。加熱延伸装置の温調領域には、原フィルムの幅方向に伸長する区画壁によって、上流から下流へ向かって順に、予熱ゾーン、前段延伸ゾーン、後段延伸ゾーンおよび熱処理ゾーンを設定した。これら4つのゾーンのうち、後段延伸ゾーンおよび熱処理ゾーンにおいて、左右の設定温度に差をつけることで、原フィルムの幅方向に温度の異なる領域を設けた。なお、左右の両レールにおける各ゾーンの境界部には、レール間隔を調整し、前段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンにおいて原フィルムの幅方向の延伸を可能とするための関節部を設けた。予熱ゾーン、前段延伸ゾーン、後段延伸ゾーンおよび熱処理ゾーンの縦方向(原フィルムの移動方向)の長さは、それぞれ、2m、2m、2mおよび4mとした。
各ゾーンにおける温調の設定温度およびクリップの走行速度を以下の表1に示す。なお、実施例1では、前段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンにおいて、原フィルムの幅方向に対する延伸(横延伸)を、左側レールと右側レールとの間隔を広げることにより併せて行った。横延伸の倍率は、前段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンの合計で1.11倍とし、横延伸は双方の延伸ゾーンにわたって均等に行った。予熱ゾーンおよび熱処理ゾーンにおける幅方向の延伸は「なし」であるが、加熱による原フィルムの弛みの解消、および冷却時にフィルムに生じる収縮応力の調整を目的とした微調整は実施した。以降の実施例および比較例においても、この微調整は実施した。左側レールの形状と右側レールの形状とは、原フィルムを幅方向に二分割する、原フィルムの長辺方向に伸長する直線に対称とした。なお、各表におけるTgは、原フィルムのTg(原フィルムを構成する重合体または樹脂組成物のTg)である。
上流側から下流側を見て左側に位置するクリップ(左側クリップ)の縦方向の走行速度は次のとおりである。予熱ゾーンにおいて2m/minの等速で走行し、前段延伸ゾーンに入ると同時に0.7m/min2の加速度で加速し、速度が2.6m/minに達した後は等速で後段延伸ゾーンおよび熱処理ゾーンを走行した。上流側から下流側を見て右側に位置するクリップ(右側クリップ)の縦方向の走行速度は次のとおりである。予熱ゾーンおよび前段延伸ゾーンにおいて2m/minの等速で走行し、後段延伸ゾーンに入ると同時に0.7m/min2の加速度で加速し、速度が2.6m/minに達した後は等速で熱処理ゾーンを走行した。左側クリップおよび右側クリップとも、縦方向の加速(縦加速)の倍率は1.3倍であった。
このようにして得た、斜め延伸位相差フィルム(1AF−2)の光学特性を以下に示す。位相差フィルム(1AF−2)は、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
面内位相差 108nm
波長分散性Re(447)/Re(590) 0.90
波長分散性Re(750)/Re(590) 1.05
位相差精度ΔRe ○
遅相軸の方向 38°(フィルムの長辺方向が0°)
光軸精度ΔR ○
遅相軸の方向は、上流側から下流側を見て左側(左側クリップ側)を向いていた。
(実施例2)
実施例1で使用した延伸機を用いて、製造例1で作製した原フィルム(1AF)の斜め延伸を行った。実施例2では、延伸ゾーンにおける横延伸は行わなかった。各ゾーンにおける温調の設定温度およびクリップの走行速度を以下の表2に示す。
左側クリップの縦方向の走行速度は次のとおりである。予熱ゾーンにおいて2m/minの等速で走行し、前段延伸ゾーンに入ると同時に0.6m/min2の加速度で加速し、速度が2.54m/minに達した後は等速で後段延伸ゾーンおよび熱処理ゾーンを走行した。右側クリップの縦方向の走行速度は次のとおりである。予熱ゾーンおよび前段延伸ゾーンにおいて2m/minの等速で走行し、後段延伸ゾーンに入ると同時に0.6m/min2の加速度で加速し、速度が2.54m/minに達した後は等速で熱処理ゾーンを走行した。左側クリップおよび右側クリップとも、縦加速の倍率は1.27倍であった。
このようにして得た、斜め延伸位相差フィルム(1AF−3)の光学特性を以下に示す。位相差フィルム(1AF−3)は、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
面内位相差 122nm
波長分散性Re(447)/Re(590) 0.90
波長分散性Re(750)/Re(590) 1.05
位相差精度ΔRe ○
遅相軸の方向 25°(フィルムの長辺方向が0°)
光軸精度ΔR ○
遅相軸の方向は、上流側から下流側を見て左側(左側クリップ側)を向いていた。
(実施例3)
製造例1で作製したペレット(1A)を、ポリマーフィルター(濾過精度5μm)およびTダイを先端に備えた単軸押出機を用いて、成形温度270℃で溶融押出成形して、厚さ380μm、幅800mmの帯状かつ未延伸の原フィルム(1AF−4)を作製した。次に、実施例1で使用した延伸機を用いて、作製した原フィルム(1AF−4)の斜め延伸を行った。実施例3における横延伸の倍率は、前段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンの合計で0.75倍とし、横延伸は双方の延伸ゾーンにわたって均等に行った。各ゾーンにおける温調の設定温度およびクリップの走行速度を以下の表3に示す。
右側クリップおよび左側のクリップの縦方向の走行速度は、実施例1と同様とした。
このようにして得た、斜め延伸位相差延伸フィルム(1AF−5)の光学特性を以下に示す。位相差フィルム(1AF−5)は、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
面内位相差 137nm
波長分散性Re(447)/Re(590) 0.90
波長分散性Re(750)/Re(590) 1.05
位相差精度ΔRe ○
遅相軸の方向 30°(フィルムの長辺方向が0°)
光軸精度ΔR ○
遅相軸の方向は、上流側から下流側を見て左側(左側クリップ側)を向いていた。
(実施例4)
実施例1で使用した延伸機を用いて、製造例1で作製した原フィルム(1AF)の斜め延伸を行った。実施例4における横延伸の倍率は、前段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンの合計で1.5倍とし、横延伸は双方の延伸ゾーンにわたって均等に行った。各ゾーンにおける温調の設定温度およびクリップの走行速度を以下の表4に示す。
左側クリップの縦方向の走行速度は次のとおりである。予熱ゾーンにおいて2m/minの等速で走行し、前段延伸ゾーンに入ると同時に1.25m/min2の加速度で加速し、速度が3m/minに達した後は等速で後段延伸ゾーンおよび熱処理ゾーンを走行した。右側クリップの縦方向の走行速度は次のとおりである。予熱ゾーンおよび前段延伸ゾーンにおいて2m/minの等速で走行し、後段延伸ゾーンに入ると同時に1.25m/min2の加速度で加速し、速度が3m/minに達した後は等速で熱処理ゾーンを走行した。左側クリップおよび右側クリップとも、縦加速の倍率は1.5倍であった。
このようにして得た、斜め延伸位相差フィルム(1AF−6)の光学特性を以下に示す。位相差フィルム(1AF−6)は、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
面内位相差 105nm
波長分散性Re(447)/Re(590) 0.90
波長分散性Re(750)/Re(590) 1.05
位相差精度ΔRe ○
遅相軸の方向 45°(フィルムの長辺方向が0°)
光軸精度ΔR ○
遅相軸の方向は、上流側から下流側を見て左側(左側クリップ側)を向いていた。
(実施例5)
実施例5では、実施例1で使用した延伸機を用いて、製造例1で作製した原フィルム(1AF)を、本発明の製造方法に従って斜め延伸した。実施例5では、図3に示す二分割温調を採用した。加熱延伸装置の温調領域には、原フィルムの幅方向に伸長する区画壁によって、上流から下流へ向かって順に、予熱ゾーン、前段延伸ゾーン、後段延伸ゾーン、前段熱処理ゾーンおよび後段熱処理ゾーンを設定した。これら5つのゾーンのうち、熱処理ゾーンにおいて、左右の設定温度に差をつけることで、原フィルムの幅方向に温度の異なる領域を設けた。左右の両レールにおける各ゾーンの境界部には、実施例1と同様に、関節部を設けた。予熱ゾーン、前段延伸ゾーン、後段延伸ゾーン、前段熱処理ゾーンおよび後段熱処理ゾーンの縦方向の長さは、それぞれ、2m、2m、2m、2mおよび2mとした。
各ゾーンにおける温調の設定温度およびクリップの走行速度を以下の表5に示す。実施例5における横延伸の倍率は、前段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンの合計で1.5倍とし、横延伸は双方の延伸ゾーンにわたって均等に行った。
左側クリップの縦方向の走行速度は次のとおりである。予熱ゾーンにおいて4m/minの等速で走行し、前段延伸ゾーンに入ると同時に3m/min2の加速度で加速し、速度が6m/minに達した後は等速で後段延伸ゾーン、前段熱処理ゾーンおよび後段熱処理ゾーンを走行した。右側クリップの縦方向の走行速度は次のとおりである。予熱ゾーンおよび前段延伸ゾーンにおいて4m/minの等速で走行し、後段延伸ゾーンに入ると同時に3m/min2の加速度で加速し、速度が6m/minに達した後は等速で前段および後段熱処理ゾーンを走行した。左側クリップおよび右側クリップとも、縦加速の倍率は1.5倍であった。
このようにして得た、斜め延伸位相差フィルム(1AF−7)の光学特性を以下に示す。位相差フィルム(1AF−7)は、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
面内位相差 130nm
波長分散性Re(447)/Re(590) 0.90
波長分散性Re(750)/Re(590) 1.05
位相差精度ΔRe ○
遅相軸の方向 45°(フィルムの長辺方向が0°)
光軸精度ΔR ○
遅相軸の方向は、上流側から下流側を見て左側(左側クリップ側)を向いていた。
(実施例6)
原フィルム(1AF)の代わりに、製造例2で作製した原フィルム(2AF)を用いた以外は実施例1と同様にして、斜め延伸を行った。
このようにして得た、斜め延伸位相差フィルム(2AF−2)の光学特性を以下に示す。位相差フィルム(2AF−2)は、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
面内位相差 119nm
波長分散性Re(447)/Re(590) 1.03
波長分散性Re(750)/Re(590) 0.98
位相差精度ΔRe ○
遅相軸の方向 38°(フィルムの長辺方向が0°)
光軸精度ΔR ○
遅相軸の方向は、上流側から下流側を見て左側(左側クリップ側)を向いていた。
(実施例7)
原フィルム(1AF)の代わりに、製造例2で作製した原フィルム(2AF)を用いた以外は実施例2と同様にして、斜め延伸を行った。
このようにして得た、斜め延伸位相差フィルム(2AF−3)の光学特性を以下に示す。位相差フィルム(2AF−3)は、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
面内位相差 135nm
波長分散性Re(447)/Re(590) 1.03
波長分散性Re(750)/Re(590) 0.98
位相差精度ΔRe ○
遅相軸の方向 25°(フィルムの長辺方向が0°)
光軸精度ΔR ○
遅相軸の方向は、上流側から下流側を見て左側(左側クリップ側)を向いていた。
(実施例8)
製造例2で作製したペレット(2A)を、ポリマーフィルター(濾過精度5μm)およびTダイを先端に備えた単軸押出機を用いて、成形温度270℃で溶融押出成形して、厚さ380μm、幅800mmの帯状かつ未延伸の原フィルム(2AF−4)を作製した。次に、原フィルム(1AF−4)の代わりに、作製した原フィルム(2AF−4)を用いた以外は実施例3と同様にして、斜め延伸を行った。
このようにして得た、斜め延伸位相差フィルム(2AF−5)の光学特性を以下に示す。位相差フィルム(2AF−5)は、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
面内位相差 148nm
波長分散性Re(447)/Re(590) 1.03
波長分散性Re(750)/Re(590) 0.98
位相差精度ΔRe ○
遅相軸の方向 30°(フィルムの長辺方向が0°)
光軸精度ΔR ○
遅相軸の方向は、上流側から下流側を見て左側(左側クリップ側)を向いていた。
(実施例9)
原フィルム(1AF)の代わりに、製造例2で作製した原フィルム(2AF)を用いた以外は実施例4と同様にして、斜め延伸を行った。
このようにして得た、斜め延伸位相差フィルム(2AF−6)の光学特性を以下に示す。位相差フィルム(2AF−6)は、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
面内位相差 116nm
波長分散性Re(447)/Re(590) 1.03
波長分散性Re(750)/Re(590) 0.98
位相差精度ΔRe ○
遅相軸の方向 45°(フィルムの長辺方向が0°)
光軸精度ΔR ○
遅相軸の方向は、上流側から下流側を見て左側(左側クリップ側)を向いていた。
(実施例10)
原フィルム(1AF)の代わりに、製造例2で作製した原フィルム(2AF)を用いた以外は実施例5と同様にして、斜め延伸を行った。
このようにして得た、斜め延伸位相差フィルム(2AF−7)の光学特性を以下に示す。位相差フィルム(2AF−7)は、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
面内位相差 143nm
波長分散性Re(447)/Re(590) 1.03
波長分散性Re(750)/Re(590) 0.98
位相差精度ΔRe ○
遅相軸の方向 45°(フィルムの長辺方向が0°)
光軸精度ΔR ○
遅相軸の方向は、上流側から下流側を見て左側(左側クリップ側)を向いていた。
(実施例11)
原フィルム(1AF)の代わりに、製造例3で作製した原フィルム(3AF)を用いた以外は実施例1と同様にして、斜め延伸を行った。
このようにして得た、斜め延伸位相差フィルム(3AF−2)の光学特性を以下に示す。位相差フィルム(3AF−2)は、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
面内位相差 128nm
波長分散性Re(447)/Re(590) 1.08
波長分散性Re(750)/Re(590) 0.96
位相差精度ΔRe ○
遅相軸の方向 52°(フィルムの長辺方向が0°)
光軸精度ΔR ○
遅相軸の方向は、上流側から下流側を見て右側(右側クリップ側)を向いていた。
(実施例12)
原フィルム(1AF)の代わりに、製造例3で作製した原フィルム(3AF)を用いた以外は実施例2と同様にして、斜め延伸を行った。
このようにして得た、斜め延伸位相差フィルム(3AF−3)の光学特性を以下に示す。位相差フィルム(3AF−3)は、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
面内位相差 138nm
波長分散性Re(447)/Re(590) 1.08
波長分散性Re(750)/Re(590) 0.96
位相差精度ΔRe ○
遅相軸の方向 65°(フィルムの長辺方向が0°)
光軸精度ΔR ○
遅相軸の方向は、上流側から下流側を見て右側(右側クリップ側)を向いていた。
(実施例13)
製造例3で作製したペレット(3A)を、ポリマーフィルター(濾過精度5μm)およびTダイを先端に備えた単軸押出機を用いて、成形温度270℃で溶融押出成形して、厚さ380μm、幅800mmの帯状かつ未延伸の原フィルム(3AF−4)を作製した。次に、原フィルム(1AF−4)の代わりに、作製した原フィルム(3AF−4)を用いた以外は実施例3と同様にして、斜め延伸を行った。
このようにして得た、斜め延伸位相差フィルム(3AF−5)の光学特性を以下に示す。位相差フィルム(3AF−5)は、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
面内位相差 145nm
波長分散性Re(447)/Re(590) 1.08
波長分散性Re(750)/Re(590) 0.96
位相差精度ΔRe ○
遅相軸の方向 60°(フィルムの長辺方向が0°)
光軸精度ΔR ○
遅相軸の方向は、上流側から下流側を見て右側(右側クリップ側)を向いていた。
(実施例14)
原フィルム(1AF)の代わりに、製造例3で作製した原フィルム(3AF)を用いた以外は実施例4と同様にして、斜め延伸を行った。
このようにして得た、斜め延伸位相差フィルム(3AF−6)の光学特性を以下に示す。位相差フィルム(3AF−6)は、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
面内位相差 125nm
波長分散性Re(447)/Re(590) 1.03
波長分散性Re(750)/Re(590) 0.98
位相差精度ΔRe ○
遅相軸の方向 45°(フィルムの長辺方向が0°)
光軸精度ΔR ○
遅相軸の方向は、上流側から下流側を見て右側(右側クリップ側)を向いていた。
(実施例15)
原フィルム(1AF)の代わりに、製造例3で作製した原フィルム(3AF)を用いた以外は実施例5と同様にして、斜め延伸を行った。
このようにして得た、斜め延伸位相差フィルム(3AF−7)の光学特性を以下に示す。位相差フィルム(3AF−7)は、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
面内位相差 154nm
波長分散性Re(447)/Re(590) 1.03
波長分散性Re(750)/Re(590) 0.98
位相差精度ΔRe ○
遅相軸の方向 45°(フィルムの長辺方向が0°)
光軸精度ΔR ○
遅相軸の方向は、上流側から下流側を見て右側(右側クリップ側)を向いていた。
(実施例16)
原フィルム(1AF)の代わりに、製造例4で作製した原フィルム(4AF)を用いた以外は実施例2と同様にして、斜め延伸を行った。
このようにして得た、斜め延伸位相差フィルム(4AF−2)の光学特性を以下に示す。位相差フィルム(4AF−2)は、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
面内位相差 166nm
波長分散性Re(447)/Re(590) 1.01
波長分散性Re(750)/Re(590) 0.99
位相差精度ΔRe ○
遅相軸の方向 25°(フィルムの長辺方向が0°)
光軸精度ΔR ○
遅相軸の方向は、上流側から下流側を見て左側(左側クリップ側)を向いていた。
(実施例17)
原フィルム(1AF)の代わりに、製造例5で作製した原フィルム(5AF)を用いた以外は実施例2と同様にして、斜め延伸を行った。
このようにして得た、斜め延伸位相差フィルム(5AF−2)の光学特性を以下に示す。位相差フィルム(5AF−2)は、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
面内位相差 87nm
波長分散性Re(447)/Re(590) 0.79
波長分散性Re(750)/Re(590) 1.11
位相差精度ΔRe ○
遅相軸の方向 25°(フィルムの長辺方向が0°)
光軸精度ΔR ○
遅相軸の方向は、上流側から下流側を見て左側(左側クリップ側)を向いていた。
(比較例1)
実施例1で使用した延伸機を用い、各ゾーンにおける温調を原フィルムの幅方向に均一として、製造例3で作製した原フィルム(3AF)の斜め延伸を行った。比較例1における横延伸の倍率は、前段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンの合計で1.11倍とし、横延伸は双方の延伸ゾーンにわたって均等に行った。各ゾーンにおける温調の設定温度およびクリップの走行速度を以下の表6に示す。
右側クリップおよび左側のクリップの縦方向の走行速度は、実施例1と同様とした。
このようにして得た、斜め延伸位相差延伸フィルム(3AF−8)の光学特性を以下に示す。位相差フィルム(3AF−8)は、幅方向における光学特性の均一性に劣っていた。
面内位相差 128nm
波長分散性Re(447)/Re(590) 1.08
波長分散性Re(750)/Re(590) 0.96
位相差精度ΔRe ×
遅相軸の方向 52°(フィルムの長辺方向が0°)
光軸精度ΔR ○
遅相軸の方向は、上流側から下流側を見て右側(右側クリップ側)を向いていた。
(比較例2)
実施例1で使用した延伸機を用い、各ゾーンにおける温調を原フィルムの幅方向に均一とし、さらに全てのゾーンの設定温度を同一として、製造例3で作製した原フィルム(3AF)の斜め延伸を行った。比較例2における横延伸の倍率は、前段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンの合計で1.11倍とし、横延伸は双方の延伸ゾーンにわたって均等に行った。各ゾーンにおける温調の設定温度およびクリップの走行速度を以下の表7に示す。
右側クリップおよび左側のクリップの縦方向の走行速度は、実施例1と同様とした。
このようにして得た、斜め延伸位相差延伸フィルム(3AF−9)の光学特性を以下に示す。位相差フィルム(3AF−9)は、幅方向における光学特性の均一性に劣っていた。
面内位相差 113nm
波長分散性Re(447)/Re(590) 1.08
波長分散性Re(750)/Re(590) 0.96
位相差精度ΔRe ×
遅相軸の方向 52°(フィルムの長辺方向が0°)
光軸精度ΔR ×
遅相軸の方向は、上流側から下流側を見て右側(右側クリップ側)を向いていた。