図1,2に、本発明の延伸樹脂フィルムの製造方法の一例を示す。図2は、図1に示す例をその側面(樹脂フィルムの側面)から見た模式図である。図1,2に示す例では、帯状の樹脂フィルム(原フィルム)を加熱延伸装置11において延伸し、加熱延伸装置11から送り出された延伸後の樹脂フィルム1を、第一ロール21および第二ロール22に順に通している。加熱延伸装置11では、原フィルムの長辺縁部を把持したクリップ(図示を省略)の走行移動により、原フィルムが延伸される。加熱延伸装置11内でクリップの走行移動により延伸された原フィルムは、クリップアウト部12においてクリップから開放される(クリップアウトされる)。第一ロール21は、クリップから開放された延伸後の樹脂フィルム1が接触する最初のロールである。図1に示す例では、延伸後の樹脂フィルム1がクリップから開放された後、当該フィルム1が第一ロール21に到達するまでに、クリップによって把持された部分を含むその幅方向の端部2a,2bを、それぞれカッター3を用いたインラインスリットにより取り除いている。このインラインスリットにより、第一ロール21には、幅方向の端部2a,2bが取り除かれた状態にある延伸後の樹脂フィルム1が接触する。その後、延伸後の樹脂フィルム1は、当該ロール21およびその下流に配置された第2のロール22を通過する。
クリップの走行移動による樹脂フィルムの延伸では、当該樹脂フィルムにおけるクリップによって把持されている部分は延伸されておらず、その膜厚は厚いままである。また、当該フィルムにおける延伸された部分と、クリップによって把持されていた延伸されていない部分(把持跡の部分)との間で強度に差が生じている。これら、厚い部分と延伸によって薄くなった中央部との厚さの差および/または強度の差によって、ロールへの接触時に樹脂フィルムにシワおよび/または割れが発生し、最悪の場合、当該フィルムの破断につながる。本発明の製造方法では、クリップの走行移動による延伸を経た樹脂フィルム1は、クリップによって把持された部分を含む幅方向の端部2a,2bを取り除かれた後、第一ロール21に接触する。このため、ロールへの接触時に樹脂フィルム1にシワおよび/または割れが生じにくく、フィルム1の破断が抑制される。
ロールへの接触によるシワおよび/または割れの発生ならびにフィルムの破断は、原フィルムが比較的硬くて脆い樹脂を含む場合に生じやすい。本発明の製造方法では、このような場合においても、延伸後の樹脂フィルムにおけるシワおよび割れの発生が抑制され、フィルム破断が抑制される。「比較的硬くて脆い樹脂」とは、例えば、アクリル樹脂およびスチレン系樹脂である。すなわち、樹脂フィルム(原フィルム、延伸樹脂フィルム)がアクリル樹脂および/またはスチレン系樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物のフィルムであってもよく、この場合、本発明の製造方法による効果がより顕著となる。
また、ロールへの接触によるシワおよび/または割れの発生ならびにフィルムの破断は、クリップの走行移動により原フィルムを斜め延伸する場合に特に生じやすい。これは、斜め延伸ではクリップにより把持された部分に「ひねり」が加わることで、例えば、当該部分に「盛り上がりジワ」が生じたり、フィルム全体が波打つなど平面性に劣る形状となるため、ロールへの接触による、当該部分を起点とするシワおよび/または割れがさらに生じやすくなることによる。本発明の製造方法では、これらの場合においても、延伸後の樹脂フィルムにおけるシワおよび割れの発生が抑制され、フィルム破断が抑制される。すなわち、本発明の製造方法では、クリップの走行移動により樹脂フィルム(原フィルム)を斜め延伸してもよく、この場合、本発明の製造方法による効果がより顕著となる。
本明細書における「斜め延伸」とは、帯状の樹脂フィルム(原フィルム)に対して、その長手方向に対して90°未満傾いた方向への延伸、例えばその長手方向に対して10°〜80°、典型的な例としては40°〜50°、好ましくは43°〜47°、より好ましくは44°〜46°傾いた方向への延伸をいう。
本発明の製造方法では、クリップの走行移動により樹脂フィルム(原フィルム)をその幅方向に延伸してもよく、この場合にも本発明の効果を得ることができる。なお、幅方向の延伸(横延伸)を行う際には、同時に他の方向の延伸、例えば、帯状の樹脂フィルム(原フィルム)の長手方向への延伸(縦延伸)を併用してもよい。縦延伸を併用する延伸は、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸である。
本明細書における「インラインスリット」とは、延伸後の樹脂フィルムを一旦巻き取ってからスリットする(スリット工程を行う)のではなく、延伸後、樹脂フィルムを搬送しながら、当該フィルムをワインダーなどで巻き取るまでの間にカッターなどにより、その一部を切断することをいう。
インラインスリットにより延伸後の樹脂フィルム1から取り除かれる端部2a,2bは、当該樹脂フィルム1における、延伸時にクリップによって把持された部分を含む幅方向の端部である。具体的な端部2a,2bの幅は、延伸時にクリップによって把持された部分を当該端部2a,2bが含み、かつ本発明の効果を得ることができる限り、任意に設定することができる。なお、図1では、端部2a,2bの幅を、延伸後の樹脂フィルム1の幅に比べて誇張して示している。
本発明の製造方法におけるインラインスリットは、延伸後の樹脂フィルムに対して、当該樹脂フィルムが第一ロールに到達するまでに実施する限り、その実施のタイミングは限定されない。図1に示すように、延伸後の樹脂フィルム1が加熱延伸装置11のクリップから開放された後、すなわちクリップアウト部12の下流であって、当該フィルム1が第一ロール21に到達するまでの区間で実施してもよいし、延伸後の樹脂フィルム1が加熱延伸装置11のクリップから開放された際に、すなわちクリップアウト部12において実施してもよい。延伸後の樹脂フィルム1が加熱延伸装置11のクリップから開放される前、すなわちクリップアウト部12の上流において実施してもよい。インラインスリットを、延伸後の樹脂フィルムがクリップから開放された以降、当該樹脂フィルムが第一ロールに到達するまでに実施することにより、インラインスリットが安定し、その制御が行いやすくなる。なお、本明細書における「延伸後の樹脂フィルム」とは、原フィルムに対して加熱および/または延伸を行った後のフィルムを意味し、例えば、延伸の後に熱処理(アニーリング)を実施する場合においては当該熱処理後の樹脂フィルムを意味する。
インラインスリットを、延伸後の樹脂フィルムがクリップから開放された以降、当該樹脂フィルムが第一ロールに到達するまでに実施する場合、インラインスリットの際に当該延伸後の樹脂フィルムに加えられている搬送張力を5N/m〜100N/mの範囲とすることが好ましい。このように搬送張力を制御することによって、端部2a,2bを安定して取り除くことができる。
延伸後の樹脂フィルム1における幅方向の端部2a,2bをインラインスリットにより取り除く具体的な方法は限定されない。例えば、図1に示す例のように、カッター3によりインラインスリットを行えばよい。カッターは、レザー刃や丸刃などの金属刃を用いるもの、レーザーなどの高エネルギー線を用いるものなど種類を問わないが、せん断で樹脂フィルムをカットするシアーカッターが好ましい。カッターの位置は固定であっても、可動であってもよい。
本発明の製造方法において、インラインスリットにより取り除かれた端部2a,2bは、原フィルムを延伸して延伸樹脂フィルムを得る製造ラインから排出すればよい。排出の方法は、本発明の効果が得られる限り、任意に選択することができる。端部2a,2bは、カッターで切断され、延伸後の樹脂フィルムから取り除かれた後、例えば、そのまま延伸樹脂フィルムの製造ラインから排出してもよいし、端部2a,2bが取り除かれた延伸後の樹脂フィルムと同じ経路を通過させた後に、延伸樹脂フィルムの製造ラインから排出してもよい。一度取り除いた端部2a,2bが樹脂フィルムに接触することを防ぐために、インラインスリット後に通過する、取り除かれた端部2a,2bの経路と当該端部2a,2bが取り除かれた延伸後の樹脂フィルム1の経路とが互いに分けられていることが好ましい。
原フィルムは、典型的には未延伸フィルムである。ただし、本発明の効果が得られる限り、既に延伸されたフィルムを原フィルムとして使用しうる。
原フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物が含む樹脂(重合体)は特に限定されない。当該樹脂は、例えば、光学フィルムとして使用されている樹脂である。具体的な例は、アクリル樹脂、スチレン系樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、セルロース誘導体である。上述したように、原フィルムがアクリル樹脂および/またはスチレン系樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物のフィルムである場合に、本発明の効果がより顕著となる。
原フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物は、主鎖に環構造を有する樹脂を含むことが好ましい。すなわち原フィルムは、主鎖に環構造を有する樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物のフィルムであることが好ましい。これにより、得られた延伸樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)が向上する。高いTgを有する延伸樹脂フィルムは、耐熱性が要求される用途、例えば、電源、光源、回路基板などの発熱体が狭い空間に集積された構造を有する、液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置への使用に好適である。画像表示装置において延伸樹脂フィルムは、例えば、位相差フィルム、偏光子保護フィルムなどに使用される。また、環構造の種類によっては、得られた延伸樹脂フィルムの光学特性、例えば位相差値が向上する。
主鎖に環構造を有する樹脂はアクリル樹脂であってもよく、すなわち、原フィルムは、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物のフィルムであってもよい。主鎖に環構造を有するアクリル樹脂は、主鎖に環構造を有さないアクリル樹脂に比べて、さらに硬くて脆い傾向を有する。また、他の樹脂に比べて、同程度の位相差を得るためには強く延伸する必要がある。このため、延伸後の樹脂フィルムにおけるシワおよび割れの発生ならびに破断が起きやすい。本発明の製造方法では、このような場合においても、延伸後の樹脂フィルムにおけるシワおよび割れの発生が抑制され、フィルム破断が抑制される。すなわち、この場合、本発明の製造方法による効果がさらに顕著となる。
アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する樹脂である。ただし、アクリル樹脂が、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造を含む場合、当該環構造の含有率も(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率に含まれる。アクリル樹脂は、透明度が高く、表面強度などの機械的特性に優れる。アクリル樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物の原フィルムを用いることにより、延伸樹脂フィルムとして、例えば、LCDなどの画像表示装置への使用に好適な光学フィルムが得られる。
シクロオレフィン樹脂は、シクロオレフィン単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する樹脂である。セルロース誘導体は、トリアセチルセルロース(TAC)単位、セルロースアセテートプロピオネート単位、セルロースアセテートブチレート単位、セルロースアセテートフタレート単位などの繰り返し単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する樹脂である。シクロオレフィン樹脂およびセルロース誘導体は、主鎖に環構造を有する。
スチレン系樹脂は、スチレン単位、α−メチルスチレン単位、α−ヒドロキシメチルスチレン単位、α−ヒドロキシエチルスチレン単位などのスチレンおよびその誘導体に由来する構成単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する樹脂である。スチレン系樹脂は、例えば、ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体である。
ポリエステル樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートである。
原フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物は、これらの樹脂を2種類以上含みうる。ただし、得られた延伸樹脂フィルムを光学用途に使用する場合には、光学的に透明なフィルムを得るために樹脂同士の相溶性を考慮する必要がある。例えば、原フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物が主鎖に環構造を有するアクリル樹脂を含む場合、当該アクリル樹脂との相溶性の観点から、同時に含む樹脂はスチレン−アクリロニトリル共重合体であることが好ましい。
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位と環構造とを含む。当該アクリル樹脂における(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位と環構造との含有率の合計は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%、特に好ましくは95重量%以上、最も好ましくは99重量%以上である。環構造の含有率は、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは15重量%以上である。環構造の含有率が40重量%を超えると、そのような環構造の含有率を有する樹脂の形成が難しくなったり(環化反応を進行させる際にゲルが生じやすくなる)、当該樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物の成形性およびハンドリング性が低下して、原フィルムの生産性が低下したりすることがある。
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどの単量体に由来する構成単位である。アクリル樹脂は、これらの構成単位を2種類以上有しうる。アクリル樹脂はメタクリル酸メチル(MMA)単位を有することが好ましく、この場合、得られた延伸樹脂フィルムの熱安定性が向上する。
アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位以外の構成単位を有しうる。当該構成単位は、例えば、水酸基および/またはカルボン酸基を有する構成単位である。水酸基および/またはカルボン酸基を有する構成単位は、その種類によっては、重合後の環化反応によって樹脂の主鎖に位置する環構造に変化する。アクリル樹脂には、環構造に変化しなかった未反応のこれらの構成単位が残りうる。水酸基を有する構成単位は、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルの各単量体に由来する構成単位である。カルボン酸基を有する構成単位は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸の各単量体に由来する構成単位である。アクリル樹脂は、これらの構成単位を2種類以上有しうる。
アクリル樹脂が有しうる、(メタ)アクリル酸エステル単位以外のさらなる構成単位は、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタリルアルコール、アリルアルコール、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニル、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、メチルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾールの各単量体に由来する構成単位である。アクリル樹脂は、これらの構成単位を2種類以上有しうる。
環構造の種類は特に限定されず、例えば、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種である。なかでも、成形時における耐熱性の観点から、ラクトン環構造、グルタルイミド構造およびマレイミド構造から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
アクリル樹脂が主鎖に有していてもよいラクトン環構造は特に限定されず、例えば、4から8員環であってもよいが、環構造の安定性に優れることから5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。6員環であるラクトン環構造は、例えば、特開2004−168882号公報に開示されている構造であるが、前駆体の重合収率が高いこと、前駆体の環化反応により、高いラクトン環含有率を有するアクリル樹脂が得られること、MMA単位を構成単位として有する樹脂を前駆体にできること、などの理由から以下の式(1)に示される構造が好ましい。
式(1)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1から20の有機残基である。有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
式(1)における有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基のような炭素数1から20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基のような炭素数1から20の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基のような炭素数1から20の芳香族炭化水素基である。上記アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基は、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換されていてもよい。
アクリル樹脂が主鎖にラクトン環構造を有する場合、当該樹脂におけるラクトン環構造の含有率は特に限定されない。含有率は、例えば5〜90重量%であり、好ましくは10〜80重量%であり、より好ましくは10〜70重量%であり、さらに好ましくは20〜60重量%である。アクリル樹脂における環構造の含有率が過度に小さくなると、得られた延伸樹脂フィルムにおいて、環構造の存在により期待される特性、例えば、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度および光学特性が不十分となることがある。環構造の含有率が過度に大きくなると、アクリル樹脂および当該樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物の成形性およびハンドリング性が低下して、原フィルムおよび延伸樹脂フィルムの生産性が低下する。
アクリル樹脂におけるラクトン環構造の含有率は、公知の方法により評価しうる。具体的には、例えば、アクリル樹脂に対してダイナミックTG測定を実施し、150℃から300℃に加熱したときの重量減少率(実測重量減少率)を求める。この重量減少率は、評価対象であるアクリル樹脂に残留する水酸基の量に対応する。150℃は、アクリル樹脂に残留する未反応の(環化しなかった)水酸基が再び環化反応を開始する温度であり、300℃はアクリル樹脂が分解を始める温度である。この実測重量減少率と、環化反応前の前駆体が有する全ての水酸基(前駆体の組成から算出しうる)が脱アルコール環化反応したと仮定したときの理論重量減少率とから、ラクトン環構造の含有率を算出しうる。すなわち、ラクトン環構造を有するアクリル樹脂のダイナミックTG測定において、150℃から300℃までの間の実測重量減少率(X)の測定を行う。これとは別に、当該樹脂の組成から、その組成に含まれる全ての水酸基がラクトン環の形成(脱アルコール環化反応)に関与すると仮定したときの理論重量減少率(Y)を求める。理論重量減少率(Y)は、より具体的には、樹脂中の脱アルコール環化反応に関わる構造(水酸基)を有する単量体のモル比、すなわち当該単量体の含有率から算出しうる。これらの値X,Yを式{1−(実測重量減少率(X)/理論重量減少率(Y))}×100(%)に代入して、脱アルコール反応率Aが得られる。次に、求めた脱アルコール反応率Aに対応する割合で環化反応が進行したと仮定して、式B×A×MR/Mmにより、ラクトン環の含有率が求められる。Bは、前駆体(ラクトン環化反応が進行する前の樹脂)における、上記水酸基を有する単量体の含有率であり、MRは、環化反応により形成されるラクトン環構造の式量であり、Mmは、上記水酸基を有する単量体の分子量であり、Aは、脱アルコール反応率である。
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは8万以上、より好ましくは10万以上である。分子量の分散度は、好ましくは3.5以下であり、より好ましくは3以下である。これらの場合、アクリル樹脂に存在する分岐構造が少なく、加工時の熱安定性が向上するとともに、得られた延伸樹脂フィルムの強度および外観が向上する。Mwおよび分散度は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)を用いてポリスチレン換算により求めうる。分散度は、樹脂の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnである。Mnも、GPCを用いて求めうる。
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂のガラス転移温度Tgは、例えば、110℃以上であり、115℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。一方、Tgが200℃を越えると、溶融製膜が困難になるなど、フィルムへの成形性およびフィルムの延伸性が低下する。主鎖に環構造を有さない一般的なアクリル樹脂のTgは100℃程度である。
主鎖に環構造を有するアクリル樹脂は、公知の方法により製造しうる。環構造が無水グルタル酸構造またはグルタルイミド構造であるアクリル樹脂は、例えば、WO2007/26659号公報またはWO2005/108438号公報に記載されている方法により製造しうる。環構造が無水マレイン酸構造またはN−置換マレイミド構造であるアクリル樹脂は、例えば、特開昭57-153008号公報または特開2007-31537号公報に記載されている方法により製造できる。環構造がラクトン環構造であるアクリル樹脂は、例えば、特開2006-96960号公報、特開2006-171464号公報または特開2007-63541号公報に記載されている方法により製造できる。
原フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物のTgは、例えば、110℃以上であり、115℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。一方、Tgが200℃を越えると、溶融製膜が困難になるなど、フィルムへの成形性およびフィルムの延伸性が低下する。
原フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物は、上述した以外の他の樹脂を含みうる。熱可塑性樹脂における当該樹脂の含有率は、好ましくは0〜50重量%、より好ましくは0〜25重量%、さらに好ましくは0〜10重量%である。当該樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)のようなオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂のような含ハロゲン系ポリマー;ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートのような生分解性ポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610のようなポリアミド;ポリアセタール;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルニトリル;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴムまたはアクリル系ゴムを配合したABS樹脂またはASA樹脂のようなゴム質重合体;である。ただし、得られた延伸樹脂フィルムを光学用途に使用する場合には、光学的に透明なフィルムを得るために樹脂同士の相溶性を考慮する必要がある。原フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物が主鎖に環構造を有するアクリル樹脂を含む場合、当該アクリル樹脂との相溶性の観点から、ゴム質重合体は、当該アクリル樹脂と相溶し得る組成を有するグラフト部を表面に有することが好ましい。また、光学的に透明なフィルムを得るためには、ゴム質重合体の平均粒子径は、例えば、400nm以下であり、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは100nm以下であり、さらに好ましくは70nm以下である。
原フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物は、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する樹脂を含みうる。この場合、熱可塑性樹脂組成物の組成によっては、得られた延伸樹脂フィルムが示す光学特性、具体的には複屈折の波長分散性、の制御の自由度が高くなり、例えば、延伸樹脂フィルムとして逆波長分散性を示す位相差フィルムが得られる。逆波長分散性は、少なくとも可視光域において、波長が短くなるほど複屈折が小さくなる(位相差が小さくなる)波長分散性である。複素芳香族基は、例えば、カルバゾール基、ピリジン基、チオフェン基およびイミダゾール基から選ばれる少なくとも1種である。複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位は、例えば、N−ビニルカルバゾール単位、ビニルピリジン単位、ビニルチオフェン単位およびビニルイミダゾール単位から選ばれる少なくとも1種である。なかでも、N−ビニルカルバゾール単位が好ましく、この場合、位相差フィルムが良好な逆波長分散性を示しうる。逆波長分散性を示す位相差フィルムによって、例えば、高い反射防止効果を示す楕円偏光板が実現する。
複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する樹脂は、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂でありうる。原フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物は、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂とは異なる樹脂として、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する樹脂を含みうる。
逆波長分散性を示す位相差フィルムは、主鎖に環構造を有するアクリル樹脂と、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する樹脂とを原フィルムが同一の層に含む場合だけではなく、双方の樹脂を別々の層に含む場合(各樹脂を含む層の積層構造を有する場合)にも実現しうる。
原フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物は、公知の添加剤を含みうる。添加剤は、例えば、紫外線吸収剤;酸化防止剤;位相差上昇剤および位相差低減剤のような位相差調整剤;位相差安定剤、耐光安定剤、耐候安定剤および熱安定剤のような安定剤;ガラス繊維および炭素繊維のような補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェ−ト、トリアリルホスフェ−トおよび酸化アンチモンのような難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に代表される帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料のような着色剤;有機フィラ−、無機フィラ−;樹脂改質剤;アンチブロッキング剤;マット剤;酸補足剤;金属不活性化剤;可塑剤;滑剤;難燃剤;ASAおよびABSのようなゴム質重合体;その他、延伸樹脂フィルムの光学特性および/または機械的特性を調整する材料である。添加剤の添加量は、例えば、0〜10重量%であり、好ましくは0〜5重量%であり、より好ましくは0〜2重量%であり、さらに好ましくは0〜0.5重量%である。
原フィルムの表面に、樹脂および熱可塑性樹脂組成物の層ではない機能性層を設けうる。機能性層は、例えば、ハードコート層、易接着層、帯電防止層、反射防止層およびアンチブロッキング層である。
原フィルムの幅方向の端部に、ナーリング加工のような機能性加工が施されうる。機能性加工は、原フィルムの破断防止または原フィルムへのアンチブロッキング性の付与を目的とするテープの貼付でありうる。テープは、例えば、積水化学製のタフライトテープ(商品名)である。
原フィルムを製造する方法は特に限定されない。原フィルムは、例えば、溶液製膜法(溶液流延法、キャスト成形法)、溶融製膜法(溶融押出法、押出成形法)、プレス成形法のような公知の手法により製造しうる。なかでも、環境負荷が小さく生産性に優れる観点から、溶融製膜法による原フィルムの製造が好ましい。
溶液製膜法では、例えば、原フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物と良溶媒とを撹拌混合して均一な混合液とし、得られた混合液を支持フィルムまたはドラムにキャストしてキャスト膜を形成し、形成したキャスト膜を予備乾燥して自己支持性を有するフィルムとし、このフィルムを支持フィルムまたはドラムから剥がして乾燥し、原フィルムを形成する。原フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物は、必要ならば添加剤のような材料を含む。これは、他の製膜法においても同じである。溶液製膜法に用いられる溶媒は、例えば、クロロホルム、ジクロロメタンのような塩素系溶媒;トルエン、キシレン、ベンゼンおよびこれらの混合溶媒のような芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノールのようなアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ジオキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル;である。溶媒として、これらの1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。溶液製膜法を実施する装置は、例えば、ドラム式キャスティングマシン、ベルト式キャスティングマシンである。
溶融製膜法では、例えば、原フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物の各成分をオムニミキサーのような混合機を用いてプレブレンドし、得られた混合物を混練機により混練した後、押出成形して原フィルムを形成する。別途形成した熱可塑性樹脂組成物を溶融押出成形して原フィルムを形成してもよい。混練機は特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機、加圧ニーダーのような公知の混練機である。
押出成形は、例えば、Tダイ法、インフレーション法である。押出成形の温度(成形温度)は、好ましくは200〜350℃、より好ましくは250〜300℃、さらに好ましくは255℃〜300℃、特に好ましくは260℃〜300℃である。Tダイ法によれば、押出機の先端部にTダイを取り付け、当該Tダイから押し出して得たフィルムを巻き取ることによって、ロールに巻回した原フィルム(原フィルムロール)が得られる。
押出成形に用いる押出機の種類は特に限定されず、単軸、二軸、多軸のいずれの押出機も使用しうる。熱可塑性樹脂組成物を十分に可塑化して良好な混練状態を得るために、押出機のL/D値(Lは押出機のシリンダの長さ、Dはシリンダ内径)は、好ましくは10以上100以下であり、より好ましくは15以上80以下であり、さらに好ましくは20以上60以下である。L/D値が10未満の場合、熱可塑性樹脂組成物が十分に可塑化されず、良好な混練状態が得られないことがある。L/D値が100を超える場合、熱可塑性樹脂組成物に対して過度に剪断発熱が加わることにより、樹脂組成物に含まれる樹脂が熱分解することがある。
押出機のシリンダの設定温度は、好ましくは200℃以上300℃以下であり、より好ましくは250℃以上300℃以下である。シリンダの設定温度が200℃未満の場合、熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度が過度に高くなり、原フィルムの生産性が低下しやすい。シリンダの設定温度が300℃を超える場合、樹脂組成物に含まれる樹脂が熱分解することがある。
押出機の形状は、特に限定されない。押出機は、1個以上の開放ベント部を有することが好ましい。この場合、押出機の開放ベント部から分解ガスを吸引でき、得られた原フィルムに残存する揮発成分の量が低減する。開放ベント部から分解ガスを吸引するためには、例えば、開放ベント部を減圧状態にすればよい。減圧状態にある開放ベント部の圧力は、1.3〜931hPaが好ましく、13.3〜798hPaがより好ましい。開放ベント部の圧力が931hPaより高いと、揮発成分ならびに樹脂の分解により発生する単量体成分が熱可塑性樹脂組成物中に残存しやすい。開放ベント部の圧力を1.3hPaより低く保つことは、工業的に困難である。
原フィルムの製造には、ポリマーフィルターにより濾過した熱可塑性樹脂組成物を使用することが好ましい。ポリマーフィルターを用いた濾過により、樹脂組成物中に存在する異物が除去され、得られた延伸樹脂フィルムの欠点(光学欠点、外観上の欠点)が低減される。濾過は、溶液濾過または溶融濾過である。
溶融濾過の際、樹脂組成物は高温の溶融状態となる。ポリマーフィルターを通過する際に樹脂組成物に含まれる成分が劣化すると、劣化により発生したガス成分あるいは着色劣化物が流れ出し、得られた原フィルムに、穴あき、流れ模様、流れスジのような欠点が観察されることがある。これらの欠点は、特に、原フィルムの連続成形時に観察されやすい。溶融濾過時の樹脂組成物の劣化は、樹脂組成物の溶融粘度を低下させ、ポリマーフィルターにおける樹脂組成物の滞留時間を短くすることによって防ぎうる。この観点から、ポリマーフィルターにより溶融濾過した樹脂組成物の成形温度は、例えば、255〜320℃であり、260〜300℃が好ましい。
ポリマーフィルターの構成は特に限定されない。ハウジング内に多数枚のリーフディスク型フィルターを配したポリマーフィルターが好適に用いられる。リーフディスク型フィルターの濾材は、金属繊維不織布を焼結したタイプ、金属粉末を焼結したタイプ、金網を数枚積層したタイプ、またはそれらを組み合わせたハイブリッドタイプのいずれであってもよく、なかでも、金属繊維不織布を焼結したタイプが最も好ましい。
ポリマーフィルターの濾過精度は特に限定されないが、通常15μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。濾過精度が1μm以下の場合、ポリマーフィルターにおける樹脂組成物の滞留時間が長くなるため、樹脂組成物に含まれる樹脂が熱劣化しやすい。さらに、原フィルムの生産性も低下する。濾過精度が15μmを超える場合、樹脂組成物中の異物を除去することが難しくなる。
ポリマーフィルターの形状は特に限定されず、例えば、複数の流通口を有し、センターポール内に樹脂組成物の流路を有する内流型;断面が複数の頂点もしくは面においてリーフディスクフィルターの内周面に接し、センターポールの外面に樹脂組成物の流路がある外流型;である。なかでも、樹脂組成物の滞留箇所の少ない外流型が好ましい。
ポリマーフィルターにおける樹脂組成物の滞留時間は、好ましくは20分以下、より好ましくは10分以下、さらに好ましくは5分以下である。濾過時におけるフィルター入口圧および出口圧は、例えば、それぞれ3〜15MPaおよび0.3〜10MPaであり、圧力損失(フィルターの入口圧と出口圧の圧力差)は、1MPa〜15MPaが好ましい。圧力損失が1MPa以下の場合、樹脂組成物がフィルターを通過する流路に偏りが生じやすく、得られたフィルムの品質が低下する傾向がある。圧力損失が15MPaを超えると、ポリマーフィルターの破損が起こり易くなる。
ポリマーフィルターに導入される樹脂組成物の温度は、その溶融粘度に応じて適宜設定すればよく、例えば250〜300℃であり、好ましくは255〜300℃であり、さらに好ましくは260〜300℃である。
ポリマーフィルターを用いた溶融濾過により、異物および着色物の少ない原フィルムを得るための具体的な手順は、特に限定されない。例えば、(1)クリーン環境下で樹脂組成物の形成および濾過処理を行い、引き続いてクリーン環境下で成形を行うプロセス、(2)異物または着色物を有する樹脂組成物をクリーン環境下で濾過処理した後、引き続いてクリーン環境下で成形を行うプロセス、(3)異物または着色物を有する樹脂組成物を、クリーン環境下で濾過処理すると同時に成形を行うプロセス、が採用される。それぞれの工程毎に、複数回、濾過処理を実施しうる。
ポリマーフィルターによって樹脂組成物を溶融濾過する際には、押出機とポリマーフィルターとの間にギアポンプを設置して、フィルター内の樹脂組成物の圧力を安定化させることが好ましい。
本発明の製造方法における原フィルムの延伸は、帯状の原フィルムの長辺縁部を把持したクリップの走行移動による延伸である限り、限定されない。
原フィルムの延伸は、公知の方法に従えばよい。一つの実施形態では、原フィルムの双方の長辺縁部をテンター横延伸機の一対のクリップ群によって把持し、クリップの走行移動に伴って当該一対のクリップ群間の間隔を広げることにより、原フィルムをその幅方向に延伸する。別の実施形態では、原フィルムの双方の長辺縁部を同時二軸延伸機の一対のクリップ群によって把持し、クリップを走行移動させることによって、原フィルムをその幅方向に延伸するとともに、当該フィルムをその流れ方向(長手方向)に延伸するまたは収縮させる。また別の実施形態では、原フィルムの双方の長辺縁部を同時二軸延伸機またはそれに類する装置の一対のクリップ群によって把持し、クリップを走行移動させることによって、原フィルムをその幅方向に延伸することなく、その流れ方向に延伸する。
これらの方法は、原フィルムを斜め延伸する場合にも適用できる。具体的に、斜め延伸は、例えば、以下のようにして実施できる。
複数個のクリップにより構成される一対のクリップ群によって、帯状の原フィルムにおける双方の長辺縁部をそれぞれ把持し(クリップイン)、原フィルムを把持した上記一対のクリップ群の走行によって原フィルムを延伸し、原フィルムの延伸後、当該原フィルムを上記一対のクリップ群から開放して(クリップアウト)、帯状の延伸樹脂フィルムを得る。ここで、原フィルムの延伸を、一方のクリップ群と他方のクリップ群との走行速度差および/またはクリップインからクリップアウトまでの間の一方のクリップ群と他方のクリップ群との走行距離差に基づいて、原フィルムを当該フィルムの長手方向に対して斜めに延伸する(斜め延伸する)。このような斜め延伸により、例えば、フィルム面内の光軸(遅相軸)が当該フィルムの長手方向に対して傾いた延伸樹脂フィルム(例えば、斜め延伸位相差フィルム)が形成される。延伸は、必要に応じて、クリップインとクリップアウトとの間で2回以上実施できる。
具体的な斜め延伸は、例えば、以下のように実施する。
一つの実施形態では、帯状の原フィルムをその幅方向に一軸延伸しながら、左右(帯状の原フィルムをその長手方向に見たときの左右、以下、同じ)の周辺縁部を、互いに異なる速度で、原フィルムの長手方向に引張延伸する。
この実施形態は、例えば、テンター横延伸機のような横一軸延伸機を使用して実施できる。具体的には、当該延伸機における左右のクリップ群を互いに独立して駆動することにより実施可能である。より具体的には、帯状の原フィルムを横一軸延伸機に従来と同様に導入して横一軸延伸を実施しつつ、独立して駆動するように改良した左右のクリップ群を互いに異なる走行速度で駆動させる。当該走行速度差は、原フィルムの左右の周縁縁部における引張力の差となる。これにより、原フィルムの斜め延伸が実現する。この実施形態において、得られた延伸樹脂フィルムが示す光学特性(光軸、位相差、NZ係数など)は、左右クリップ群の走行速度差および/または横一軸延伸の延伸倍率によって変化させることができる。
この実施形態は、パンタグラフ式およびリニアモーター式の同時二軸延伸機を用いても実施できる。テンター横延伸機を用いた場合と同様に、帯状の原フィルムをその幅方向に一軸延伸しながら、クリップ群の走行速度を左右で異なる状態にする、すなわち、原フィルムを把持するクリップ群の走行によりもたらされる原フィルム周辺縁部の送り速度を左右で異なる状態にする。これにより、原フィルムの長手方向の延伸倍率が左右で異なる状態となり、原フィルムの斜め延伸が実現する。
別の実施形態では、屈曲したテンターレールを有するテンター横延伸機を用いて、帯状の原フィルムを斜め延伸する。具体的には、屈曲した内周レールおよび外周レールに左右のクリップ群を同じ走行速度で走行させると、内周レールのクリップ群が外周レールのクリップ群よりも先に進行する。このとき、内周レールを走行するクリップ群と外周レールを走行するクリップ群との間で、クリップインからクリップアウトまでの走行距離が異なることになる。これにより、原フィルムの斜め延伸が実現する。この実施形態において、得られた延伸樹脂フィルムが示す光学特性は、内周レールおよび外周レールの屈曲の程度によって変化させることができる。
また別の実施形態は、国際公開第2010/017639号に記載された方法による、原フィルムの斜め延伸である。当該方法の一例を図3を参照しながら説明する。
図3では、国際公開第2010/017639号に記載された方法の一例における左右のクリップ群の走行状態を模式的に示している。符号11は、当該一例を実施しうる加熱延伸装置11、例えば、独立に加減速しうる複数のクリップにより構成される一対のクリップ群を備えた同時二軸延伸機、である。装置11では、左側クリップ群および右側クリップ群の各々に属するクリップが、クリップイン部(CIL,CIR)からL1〜L10,R1〜R9を経てクリップアウト部(COL,COR)に達し、左側クリップレールLRおよび右側クリップレールRRを経て、再びクリップイン部(CIL,CIR)に戻る走行を繰り返している。図3では原フィルムの図示が省略されているが、クリップイン部(CIL,CIR)において、帯状の原フィルムにおける左右の長辺縁部が、それぞれ左側クリップ群および右側クリップ群によって把持される。原フィルムは、当該フィルムを把持する左右のクリップ群の走行によって加熱延伸装置11に導かれるとともに、当該装置11における予熱ゾーンZ1、前段延伸ゾーンZ2、後段延伸ゾーンZ3および熱処理ゾーンZ4をこの順に通過する。
この実施形態では、クリップ群が帯状の原フィルムを把持する際、すなわちクリップイン部(CIL,CIR)において、左右双方のクリップ群の走行速度が互いに等しい。クリップインの際に左右のクリップ群の走行速度が等しくない場合、原フィルムが走行速度の大きいクリップ側に引っ張られることにより、加熱延伸装置11への原フィルムの移動安定性および加熱延伸装置11における原フィルムの移動安定性が低下する。このため、望む光学特性を有する延伸樹脂フィルムが得られないことがある。
現実には、斜め方向に原フィルムを延伸する際に発生する応力によって、相対的に先行するクリップに対して引き戻す力が加わり、相対的に遅れるクリップに対して前に進める力が加わる。このため、クリップイン時における左側クリップ群の走行速度と右側クリップ群の走行速度とを、常に、完全に同一となるように制御することは難しい。これを考慮し、この実施形態では、クリップイン時における左側クリップ群の走行速度v1と、右側クリップ群の走行速度v2との比v1/v2を0.98以上1.02以下に保持する。比v1/v2は、好ましくは0.99以上1.01以下、より好ましくは0.995以上1.005以下である。なお、上述した、または後述する他の実施形態を始めとする原フィルムの斜め延伸においても、クリップインの際の左右クリップ群の走行速度比v1/v2を0.98以上1.02以下とすることが好ましい。
同じく、この実施形態に限られず、上述した、または後述する他の実施形態を始めとする原フィルムの斜め延伸において、クリップアウトの際の左右クリップ群の走行速度比v1/v2を0.98以上1.02以下とすることが好ましい。
予熱ゾーンZ1では、加熱延伸装置11に供給された原フィルムが、後に通過する延伸ゾーン(前段延伸ゾーンZ2および後段延伸ゾーンZ3)において延伸可能となる温度にまで加熱される。
前段延伸ゾーンZ2では、予熱ゾーンZ1から走行移動してきた左側クリップ群の走行速度v1が順に減少する。これにより、前段延伸ゾーンZ2において、右側クリップ群に対する左側クリップ群の走行遅れが発生する。そして、発生した当該走行遅れに基づいて、原フィルムが、当該フィルムの長手方向に対して斜めに延伸される。この延伸は、縦延伸(フィルム長手方向の延伸)と横延伸(フィルム幅方向の延伸)とのベクトル和による延伸とは異なり、一軸延伸性が強い。これにより、斜め延伸された帯状の延伸樹脂フィルムであって、上述した他の実施形態で形成した延伸樹脂フィルムに比べてNZ係数が1に近く、二軸延伸性が弱い(一軸延伸性が強い)延伸樹脂フィルムが得られる。
後段延伸ゾーンZ3では、前段延伸ゾーンZ2から走行移動してきた左側クリップ群の走行速度が順に増加し、当該ゾーンの出口において左側クリップ群の走行速度v1と右側クリップ群の走行速度v2とが互いに等しくなる。具体的には、左側クリップ群の走行速度v1と、右側クリップ群の走行速度v2との比v1/v2が、0.98以上1.02以下、好ましくは0.99以上1.01以下、より好ましくは0.995以上1.005以下となる。後段延伸ゾーンZ3においても、走行速度が互いに等しくなるまでは左右のクリップ群間に走行速度差が生じており、この速度差に基づいて原フィルムが斜め延伸される。
国際公開第2010/017639号には記載されていないが、前段延伸ゾーンZ2において一方のクリップ群の走行速度を増加させることで双方のクリップ群間に走行速度差を与えることによっても、当該走行速度差に基づいて原フィルムを斜め延伸できる。この場合、後段延伸ゾーンZ3において当該一方のクリップ群の走行速度を減少させ、当該ゾーンの出口において左右のクリップ群の走行速度を互いに等しくすることが好ましい。前段延伸ゾーンZ2において一方のクリップ群の走行速度を減少させる場合および増加させる場合のいずれの場合においても、前段延伸ゾーンZ2および後段延伸ゾーンZ3の間に、前段延伸ゾーンZ2において生じた左右のクリップ群間の走行速度差を保持する延伸ゾーンがさらに設けられていてもよい。
熱処理ゾーンZ4では、延伸ゾーンにおいて延伸された原フィルムが、延伸ゾーンにおける延伸温度以下の特定の温度(熱処理温度)に保持される。これにより、当該フィルムに含まれる樹脂の分子配向が安定し、当該フィルムの歪みが軽減されて、最終的に得られた延伸樹脂フィルムが示す特性、例えば、光学特性および機械的特性、の安定化が図られる。熱処理ゾーンZ4を通過した原フィルムは、クリップアウト部(COL,COR)において、左右双方のクリップ群から開放される。
国際公開第2010/017639号に記載された方法の別の一例を図4に示す。図4に示す方法では、前段延伸ゾーンZ2および後段延伸ゾーンZ3において、すなわち原フィルムを延伸する際に、原フィルムの幅方向に対する左右のクリップ群間の間隔を増大させている。このような、原フィルムの幅方向に対する一対のクリップ群間の間隔を増大させることによる当該幅方向の延伸(横延伸)の併用により、得られた延伸樹脂フィルムが示す光学特性の制御の自由度が高くなる。横延伸を併用していることを除き、図4に示す例における左右のクリップ群の走行状態は、図3に示す例における左右のクリップ群の走行状態と同一である。また、横延伸を併用していることを除き、予熱ゾーンZ1、前段延伸ゾーンZ2、後段延伸ゾーンZ3および熱処理ゾーンZ4の各ゾーンも図3に示す例と同一である。横延伸は、この実施形態に限らず、上述した他の実施形態を始めとする原フィルムの斜め延伸に併用できる。
上記説明した各実施形態は、原フィルムの斜め延伸を実施する方法の一例である。
なお、NZ係数は、延伸樹脂フィルムの面内における遅相軸方向の屈折率をnx、当該フィルムの面内における進相軸方向の屈折率をny、当該フィルムの厚さ方向の屈折率をnzとしたときに、式(nx−nz)/(nx−ny)によって求めることができる。延伸樹脂フィルム(位相差フィルム)が示す面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthを用いると、NZ係数は、式|Rth|/|Re|+0.5により求めることもできる。NZ係数の値が1に近いほど、延伸樹脂フィルムの二軸延伸性が低く(一軸延伸性が強く)なる。
本発明の製造方法では、原フィルム形成装置から連続的に供給される当該原フィルムに対して上述した延伸およびインラインスリットを行うことで、延伸樹脂フィルムを連続的に形成できる。原フィルム形成装置は、例えば、溶融押出成形機、キャスト装置である。
本発明の製造方法では、ロールから供給された原フィルムに対して上述した延伸およびインラインスリットを行うことで、延伸樹脂フィルムを連続的に形成できる。
本発明の製造方法によって得られた延伸樹脂フィルムは、続いて、任意の工程に供給しうる。例えば、ロールに巻回して延伸樹脂フィルムのロールを得てもよいし、コーティング層の形成あるいは他のフィルムとの積層のような後工程に供給してもよい。また、帯状の延伸樹脂フィルムを裁断して、任意のサイズおよび形状の延伸樹脂フィルムを得てもよい。
得られた延伸樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物の組成は、原フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物の組成と基本的に同じである。
本発明の製造方法は、本発明の効果が得られる限り、上述した以外の任意の工程を含んでいてもよい。
本発明の製造方法によって延伸樹脂フィルムは、従来の延伸樹脂フィルムと同様の用途に使用できる。当該用途は、例えば、各種の光学フィルムである。具体的には、各種の光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)の基板の保護フィルム、LCDなどの画像表示装置が備える位相差フィルムおよび偏光子保護フィルム、ならびに視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルムなどに使用することができる。これらの使用可能な用途を考慮すると、本発明の延伸樹脂フィルムの製造方法は、光学フィルムの製造方法であるともいえる。
すなわち本発明の製造方法は、延伸樹脂フィルムの用途が光学フィルムである場合、帯状の樹脂フィルムの長辺縁部を把持したクリップの走行移動により、前記樹脂フィルムを延伸し、延伸後の前記樹脂フィルムにおける、前記クリップによって把持された部分を含む幅方向の端部を、インラインスリットにより取り除き、前記インラインスリットを、前記延伸後の樹脂フィルムが前記クリップから開放された後に最初に接触する第一ロールに到達するまでに実施することによって、前記幅方向の端部が取り除かれた状態にある前記延伸後の樹脂フィルムを前記第一ロールに接触させる、光学フィルムの製造方法である。
得られた延伸樹脂フィルムを光学フィルムとして使用する場合、原フィルムの延伸状態が当該光学フィルムの光学特性に寄与する。他の光学フィルムとの積層によって変化する場合が存在するが、例えば、原フィルムを斜め延伸した場合、斜め延伸の、すなわち光軸の方向が当該フィルムの長手方向に対して傾いた、光学フィルムを得ることができる。
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
最初に、製造例において作製した熱可塑性樹脂組成物の特性の評価方法を示す。
[ガラス転移温度(Tg)]
熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
[重量平均分子量]
熱可塑性樹脂組成物の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置および測定条件は以下の通りである。
システム:東ソー製GPCシステム HLC−8220
測定側カラム構成:
・ガードカラム(東ソー製、TSKguardcolumn SuperHZ-L)
・分離カラム(東ソー製、TSKgel SuperHZM-M)2本直列接続
リファレンス側カラム構成:
・リファレンスカラム(東ソー製、TSKgel SuperH-RC)
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
展開溶媒の流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー製、PS−オリゴマーキット)
カラム温度:40℃
[メルトフローレート(MFR)]
熱可塑性樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は、JIS K6874に準拠して、試験温度を240℃、試験荷重を10kgとして求めた。
[固有複屈折]
フィルム(原フィルムおよび延伸樹脂フィルム)を構成する熱可塑性樹脂組成物の固有複屈折の正負は以下のように評価した。最初に、作製した未延伸の原フィルムから80mm×50mmのフィルム片を切り出し、加温室を備えたオートグラフ(島津製作所製)を用いて、原フィルムのTg+3℃にて延伸倍率2倍で一軸延伸し、固有複屈折評価用の延伸フィルムを得た。このとき、フィルム片における長手方向の両端部のそれぞれ20mmをチャックの取り付けしろとしたため、実質的には、フィルム片における40mm×50mmの部分に対して延伸が実施された。次に、全自動複屈折計(王子計測機器製、KOBRA−WR)を用いて、得られた評価用延伸フィルムの配向角を求め、これによりフィルムを構成する樹脂組成物の固有複屈折の正負を決定した。測定された配向角が0°近傍であれば(すなわち、樹脂組成物に含まれる樹脂の配向方向が延伸方向と略平行であれば)、フィルムを構成する樹脂組成物の固有複屈折は正である。測定された配向角が90°近傍であれば(すなわち、樹脂組成物に含まれる樹脂の配向方向が延伸方向と略垂直であれば)、フィルムを構成する樹脂組成物の固有複屈折は負である。
(製造例1)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応容器に、メタクリル酸メチル(MMA)40重量部、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)10重量部、酸化防止剤としてアデカスタブ2112(ADEKA製)0.025重量部および重合溶媒としてトルエン50重量部を仕込んだ。次に、反応容器に窒素ガスを導入しながら105℃まで昇温し、還流が始まったところで、重合開始剤としてターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.05重量部を添加した。これと同時に上記ターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート0.10重量部の滴下を開始し、これを2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させた。滴下終了後、反応容器を4時間加温し続けて熟成を行った。
次に、このようにして得た重合溶液に、環化反応の触媒としてリン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、商品名:Phoslex A−8)0.05重量部を添加し、約90℃〜105℃の還流下で2時間、ラクトン環構造を形成する環化縮合反応を進行させた。次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、先端部にギアポンプを介してリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、樹脂量換算で70重量部/時の処理速度で導入して、重合溶液を脱揮した。用いたベントタイプスクリュー二軸押出機のリアベント数は1個、フォアベント数は4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)とし、第3ベントと第4ベントとの間にサイドフィーダーを配置し、バレル温度は240℃、減圧度は13.3〜400hPa(10〜300mmHg)とした。脱揮の際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.05重量部/時の投入速度で第1ベントの後ろから、イオン交換水を1.05重量部/時の投入速度で第2および第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液として、5重量部の酸化防止剤(BASFジャパン製、イルガノックス1010)と、環化触媒失活剤として55重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、商品名:ニッカオクチクス亜鉛3.6%)とをトルエン45重量部に溶解させた溶液を用いた。さらに、上記サイドフィーダーから、スチレン−アクリロニトリル共重合体(スチレン単位/アクリロニトリル単位の比率が73重量%/27重量%、重量平均分子量22万)のペレットを、投入速度30重量部/時で投入した。
その後、押出機内にある溶融状態の樹脂組成物を押出機の先端から吐出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル樹脂と、スチレン−アクリロニトリル共重合体とを含み、負の固有複屈折を有する熱可塑性樹脂組成物(1A)のペレットを得た。樹脂組成物(1A)のTgは122℃、重量平均分子量は146000、MFRは13.6g/10分であった。
(製造例2)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応容器に、MMA70重量部、MHMA20重量部、スチレン10重量部、重合溶媒としてメチルイソブチルケトン100重量部、およびn−ドデシルメルカプタン0.05重量部を仕込んだ。次に、反応容器に窒素ガスを導入しながら105℃まで昇温し、還流が始まったところで、重合開始剤としてターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.05重量部を添加すると同時に、メチルイソブチルケトン2.3重量部にターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート0.1重量部を溶解した溶液を2時間かけて滴下しながら、約105〜120℃の環流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間かけて熟成を行った。
次に、このようにして得た重合溶液に、環化反応の触媒としてリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(堺化学工業製、商品名:Phoslex A−18)0.03重量部を添加し、約90〜120℃の環流下で5時間、ラクトン環構造を形成する環化縮合反応を進行させた。引き続き、重合溶液に対してオートクレーブにより240℃で30分間の加熱処理を行い、環化縮合反応を完全に進行させた後、紫外線吸収剤としてトリアジン骨格を有するLA−F70(ADEKA製)1重量部および蛍光増白剤としてUVITEX OB(BASFジャパン製)0.01重量部を重合溶液に混合した。次に、得られた重合溶液を、バレル温度240℃、回転速度100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)、先端部にギアポンプを介してリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に導入し、当該押出機内でさらなる環化縮合反応の進行と脱揮とを行った。その後、押出機内にある溶融状態の樹脂組成物を押出機の先端から吐出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有するとともに構成単位としてスチレン単位を有するアクリル樹脂を含む、低複屈折性熱可塑性樹脂組成物(2A)のペレットを得た。樹脂組成物(2A)のTgは127℃、重量平均分子量は145000であった。
(製造例3)
構成単位としてグルタルイミド単位を有するアクリル樹脂(ダイセル・エボニック製、商品名:プレキシイミド8813、グルタルイミド単位の含有率42重量%)78重量部と、スチレン−アクリロニトリル共重合体(旭化成製、商品名:スタイラックAS783、スチレン単位/アクリロニトリル単位の比率が73重量%/27重量%)22重量部とを、先端部にギアポンプを介してポリマーフィルターが配置された二軸押出機を用いて混練し、主鎖にグルタルイミド環構造を有するアクリル樹脂と、スチレン−アクリロニトリル共重合体とを含む熱可塑性樹脂組成物(3A)のペレットを得た。樹脂組成物(3A)のTgは128℃、重量平均分子量は142000であった。なお、上記アクリル樹脂におけるグルタルイミド単位の含有率は、当該アクリル樹脂のペレットに対して赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)を測定し、イミドカルボニル基に対応する1670cm-1付近の吸収強度と、エステルカルボニル基に対応する1720cm-1付近の吸収強度および酸無水物のカルボニル基に対応する1760cm-1付近の吸収強度との比から求めた。
(製造例4)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管および滴下ロートを備えた反応容器に、MHMA15重量部、MMA27重量部、アクリル酸メチル(MA)10重量部、N−ビニルカルバゾール(NVCz)6重量部、トルエン37重量部およびメタノール2重量部を仕込んだ。次に、反応容器に窒素ガスを導入しながら95℃まで昇温し、還流が始まったところで、重合開始剤としてターシャリーアミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス575)0.029重量部を添加した。これと同時に、MHMA15重量部、MMA27重量部、トルエン17重量部およびターシャリーアミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.082重量部の混合物の滴下を開始し、この混合物を8時間かけて滴下しながら、約90℃〜100℃の還流下で溶液重合を進行させた。また、重合開始から5時間経過した時点以降、23.3重量部のトルエンを3時間かけて重合系に滴下し、重合溶液を希釈した。
次に、このようにして得た重合溶液に、環化反応の触媒としてリン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、商品名:Phoslex A−8)0.24重量部を添加し、80℃〜105℃の還流下で2時間、ラクトン環構造を形成する環化縮合反応を進行させた。次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、バレル温度250℃、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)であり、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、樹脂量換算で100重量部/時の処理速度で導入して、重合溶液を脱揮した。脱揮の際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.5重量部/時の投入速度で第2ベントの後ろから、イオン交換水を0.5重量部/時の投入速度で第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液には、10重量部の酸化防止剤(5重量部のBASFジャパン製、イルガノックス1010および5重量部のADEKA製、アデカスタブAO−412Sの混合物)と、環化触媒失活剤として80重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、商品名:ニッカオクチクス亜鉛3.6%)とを、トルエン65重量部に溶解させた溶液を用いた。
その後、押出機内にある溶融状態の樹脂組成物を押出機の先端から吐出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有するとともに構成単位としてN−ビニルカルバゾール単位を有するアクリル樹脂を含む、熱可塑性樹脂組成物(4A)のペレットを得た。樹脂組成物(4A)のTgは132℃、重量平均分子量は110000であった。
(製造例5)
攪拌機を備えた耐圧反応容器に、脱イオン水70重量部、ピロリン酸ナトリウム0.5重量部、オレイン酸カリウム0.2重量部、硫酸第一鉄0.005重量部、デキストロース0.2重量部、p−メンタンハイドロパーオキシド0.1重量部および1,3−ブタジエン28重量部からなる反応混合物を加え、容器内を65℃に昇温して、2時間重合を進行させた。次に、この重合によって得られた容器内の混合物に、p−ハイドロパーオキシド0.2重量部をさらに加えた後、1,3−ブタジエン72重量部、オレイン酸カリウム1.33重量部および脱イオン水75重量部の混合物を2時間かけて連続滴下した。その後、重合開始の時点から21時間が経過するまで重合を進行させて、平均粒子径が0.240μmのブタジエン系ゴム重合体ラテックスを得た。
次に、冷却器と攪拌機とを備えた重合容器に、脱イオン水120重量部、ブタジエン系ゴム重合体ラテックス50重量部(固形分換算)、オレイン酸カリウム1.5重量部およびソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.6重量部を投入し、重合容器内を窒素ガスで十分に置換した。
次に、容器内の温度を70℃に上昇させた後、スチレン36.5重量部およびアクリロニトリル13.5重量部からなる混合モノマー溶液と、クメンハイドロキシパーオキサイド0.27重量部および脱イオン水20.0重量部からなる重合開始剤溶液とを、個別に、2時間かけて連続滴下させながら重合を進行させた。滴下終了後、容器内の温度を80℃とし、さらに2時間重合を継続させた。次に、容器内の温度を40℃に下げた後、内容物を300メッシュの金網を通過させて、弾性有機微粒子の乳化重合液を得た。
得られた弾性有機微粒子の乳化重合液を塩化カルシウムを用いて塩析、凝固させ、凝固物を水洗、乾燥して、粉体状の弾性有機微粒子(G1)(平均粒子径0.260μm、軟質重合体層の屈折率1.516)を得た。
(製造例6)
製造例4で作製した樹脂組成物(4A)のペレット、製造例5で作製した弾性有機微粒子(G1)およびスチレン−アクリロニトリル共重合体(スチレン単位/アクリロニトリル単位の比率が73重量%/27重量%、重量平均分子量22万)を、81:14:5の混合比(重量基準)で、二軸押出機を用いて240℃で混練し、透明な熱可塑性樹脂組成物(5A)のペレットを得た。樹脂組成物(5A)のTgは129℃であった。
(実施例1)
製造例1で作製した樹脂組成物(1A)のペレットを、ポリマーフィルター(濾過精度5μm)を備えるとともにTダイを先端に備えた単軸押出機を用いて成形温度270℃で溶融押出成形し、厚さ150μmの未延伸の樹脂フィルム(原フィルム)を製膜した。成膜した帯状の原フィルムは、幅が540μmとなるようにその幅方向の端部をインラインでトリミングして、ロールに巻き取った。
次に、作製したロールから連続的に原フィルムを繰り出し、繰り出した原フィルムを、図4に示す、予熱ゾーンZ1、前段延伸ゾーンZ2、後段延伸ゾーンZ3および熱処理ゾーンZ4が設定された同時二軸延伸機を用いて斜め延伸した。
斜め延伸に用いた同時二軸延伸機は、複数個のクリップにより構成される一対のクリップ群が走行する一対のレール(左側クリップレールおよび右側クリップレール)と、原フィルムの上流側から下流側に向かって予熱ゾーンZ1、前段延伸ゾーンZ2、後段延伸ゾーンZ3および熱処理ゾーンZ4が順に設定された加熱炉とを備えていた。左側クリップレールの形状と右側クリップレールの形状とは、同時二軸延伸機の上方から見て、原フィルムを幅方向に二分割する、原フィルムの長手方向に伸長する直線に対称とした。換言すれば、左側クリップレールおよび右側クリップレールにおける、予熱ゾーンの入り口から等距離にある点を互いに結ぶ線分の中点が、常に上記直線(中心線)上にあるようにした。左右の両レールにおける各ゾーンの境界部には、レール間隔を調整し、前段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンにおいて横延伸の併用を可能とするための関節部を設けた。前段延伸ゾーンZ2では左側レールを走行するクリップ群(左側クリップ群)の走行速度を減少させ、後段延伸ゾーンZ3では、前段延伸ゾーンZ2において減速した左側クリップ群の走行速度を、減速前の走行速度に回復させた。帯状の原フィルムを把持する際の左右クリップ群の走行速度(左右のクリップイン部での走行速度)は、ともに2.0m/分とした。クリップ群が原フィルムを把持する位置は、当該フィルムの幅方向の端部から25mmの位置とした(左右のクリップ群ともに、掴みしろが25mmであった)。各延伸ゾーンの長さ(原フィルムの流れ方向の長さ)は同一とした。
実施例1では、以下の表1,2に示す延伸条件に従って、原フィルムを斜め延伸した。表2に示すように、前段延伸ゾーンZ2および後段延伸ゾーンZ3において左右のクリップ群に走行速度差を与え、原フィルムを斜め延伸した。また、前段延伸ゾーンZ2および後段延伸ゾーンZ3では、原フィルムの幅方向に対する左右のクリップ群間の間隔を増大させる横延伸を併用した。クリップインからクリップアウトに至るまでの原フィルムが通過するその他の区間では、左右のクリップ群の走行速度および当該間隔を変化させることなく保持した。ただし、予熱ゾーンZ1および熱処理ゾーンZ4では、加熱による原フィルムの弛みの解消および冷却時にフィルムに生じる収縮応力の調整を目的とした、クリップ群の走行速度およびクリップ群間の間隔の微調整を実施した。また、斜め延伸の際に生じる応力によって、クリップ群の走行速度が通常生じる程度のふらつきを示した。
表2に示す各延伸ゾーンの左側(右側)クリップ倍率とは、当該各延伸ゾーンにおける左側(右側)クリップ群の走行速度の変化の指標である。具体的に、各延伸ゾーンの入口における左側(右側)クリップ群の走行速度に対する、各延伸ゾーンの出口における左側(右側)クリップ群の走行速度の比がクリップ倍率である。クリップ倍率が1の場合は当該延伸ゾーンにおいてクリップ群の走行速度が一定であり、1未満の場合は減少し、1を超える場合は増加していることを示す。トータルのクリップ倍率とは、前段延伸ゾーンにおけるクリップ倍率に後段延伸ゾーンにおけるクリップ倍率を乗じた値であり、この値が1の場合は、前段延伸ゾーンの入口におけるクリップ群の走行速度と、後段延伸ゾーンの出口におけるクリップ群の走行速度とが等しいことを示す。表2に示す例では、左右のクリップ群ともにトータルのクリップ倍率が1であるため、各延伸ゾーン以外では、クリップイン時の走行速度が保たれていたことを示す。また、右側クリップ群に関しては、各延伸ゾーンにおけるクリップ倍率も1であるため、クリップインからクリップアウトに至るまで、走行速度が一定であったことを示す。なお、「一定」、「等しい」および「保たれていた」は、上述した走行速度の微調整およびふらつきによるクリップ群の走行速度の変動を許容する。
横延伸を一定の比率で実施するために、クリップレールは、左右ともに前段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンを通じて直線に設定した。しかし、横延伸に関し表2では、各延伸ゾーンにおける倍率が互いに異なっている。これは、各延伸ゾーンにおける横延伸倍率が、直前の延伸ゾーンにおいて横延伸した後の原フィルムの幅を基準にしているためである。
次に、このように斜め延伸した樹脂フィルムに対して、クリップによって把持された部分を含む幅方向の双方の端部を、樹脂フィルムのクリップアウトから当該樹脂フィルムが第一ロールに接触するまでの区間にて、シアーカッターを用いたインライントリミングにより除去した。延伸後の樹脂フィルムにおける端部を取り除いた中央部はそのままライン搬送し、第一ロールおよび第二ロールならびに第一ロール以降の複数のガイドロールおよび/またはニップロールを通して巻取機まで搬送し、当該巻取機においてロールに巻き取った。なお、当該中央部について、クリップアウトから第一ロールまでの搬送張力を50N/mに設定した。取り除いた端部は、第一ロールに通すことなく、延伸樹脂フィルムの製造ラインから排出した。
実施例1では、原フィルムおよび延伸後の樹脂フィルムの破断もなく安定した延伸樹脂フィルム(斜め延伸フィルム)の製造が可能であり、連続して500mの延伸樹脂フィルムを製造できた。また、製造した延伸樹脂フィルムにおけるシワおよび割れの発生の状況を目視にて確認したが、シワおよび割れの発生は確認されなかった。
(比較例1)
比較例1では、斜め延伸した樹脂フィルムに対して幅方向の端部を除去しなかった以外は実施例1と同様にして、延伸樹脂フィルム(斜め延伸フィルム)のロールの製造を試みた。しかし、以下の(1)〜(3)に示す延伸後の樹脂フィルムの破断が頻発し、斜め延伸した樹脂フィルムをニップロール以降、巻取機まで搬送することができなかった。
(1)延伸後の樹脂フィルムが第一ロールおよび当該ロール以降のガイドロールを通過する際に、当該フィルムの幅方向の端部に存在する、延伸時にクリップによって把持されていた部分で発生していた盛り上がりジワがロールの曲率に追随できず、当該シワからクラックが発生した。場合によっては、クラックが急成長して延伸後の樹脂フィルムが破断した。
(2)(1)のロールよりも下流側に配置されたニップロールを延伸後の樹脂フィルムが通過する際に、当該フィルムの幅方向の端部に存在する、延伸時にクリップによって把持されていた部分で発生していた盛り上がりジワが砕け散り、これに伴って延伸後の樹脂フィルムが破断した。
(3)(1),(2)の破断により発生した樹脂フィルムの破片がロールに多数付着することで、当該ロールを通過する延伸後の樹脂フィルムに打痕が生じ、その部分から当該フィルムが破断した。
(比較例2)
比較例2では、斜め延伸した樹脂フィルムに対する幅方向の端部の除去を、延伸後の樹脂フィルムが第一ロールを通過した後で行った以外は実施例1と同様にして、延伸樹脂フィルム(斜め延伸フィルム)のロールの製造を試みた。より具体的には、第一ロールとこれに続く第二ロールとを延伸後の樹脂フィルムが通過した後で当該フィルムにおける幅方向の端部を除去した。延伸後の樹脂フィルムにおける端部を取り除いた中央部(製品部分)はそのままライン搬送し、第三ロールを通した後にニップロールへ導入した。取り除いた端部は、第三ロールを通した後に延伸樹脂フィルムの製造ラインから排出した。
しかし、比較例2では、以下の(1),(2)に示す延伸後の樹脂フィルムの破断が頻発し、斜め延伸した樹脂フィルムを巻取機まで安定的に搬送することができなかった。
(1)延伸後の樹脂フィルムが第一ロールおよび当該ロール以降のガイドロールを通過する際に、当該樹脂フィルムの幅方向の端部に存在する、延伸時にクリップによって把持されていた部分で発生していた盛り上がりジワが第一ロールの曲率に追随できず、当該シワからクラックが発生した。場合によっては、クラックが急成長して延伸後の樹脂フィルムが破断した。
(2)第三ロール上で、インラインスリットにより取り除かれた端部が中央部の上に乗り上げる不具合が生じ、これにより中央部の搬送が阻害され、中央部の端部を起点に延伸後の樹脂フィルムが破断した。
(比較例3)
比較例3では、取り除いた端部を、第三ロールを通すことなく、インラインスリット後にそのまま延伸樹脂フィルムの製造ラインから排出した以外は比較例2と同様にして、延伸樹脂フィルム(斜め延伸フィルム)のロールの製造を試みた。
しかし、比較例3では、延伸後の樹脂フィルムが第一ロールおよび当該ロール以降のガイドロールを通過する際に、当該樹脂フィルムの幅方向の端部に存在する、延伸時にクリップによって把持されていた部分で発生していた盛り上がりジワが第一ロールの曲率に追随できず、当該シワからクラックが発生した。場合によっては、クラックが急成長して延伸後の樹脂フィルムが破断した。このため、数m程度の延伸樹脂フィルムの製造しかできなかった。
(実施例2)
製造例1で作製した樹脂組成物(1A)のペレットを、ポリマーフィルター(濾過精度5μm)を備えるとともにTダイを先端に備えた単軸押出機を用いて成形温度270℃で溶融押出成形し、厚さ175μmの未延伸の樹脂フィルム(原フィルム)を製膜した。次に、作製した原フィルムを、溶融押出成形に続いて連続的にオーブン縦延伸機に供給し、当該延伸機にて当該フィルムの縦方向(溶融押出時の流れ方向、帯状のフィルムの長手方向)に延伸温度138℃、延伸倍率2.2倍で縦延伸した。さらに連続して、縦延伸後の樹脂フィルムをテンター横延伸機に供給し、当該延伸機にて当該フィルムの幅方向に延伸温度138℃、延伸倍率2.2倍で横延伸することで、原フィルムを逐次二軸延伸した。
次に、このように逐次二軸延伸した樹脂フィルムに対して、テンター横延伸機においてクリップにより把持された部分を含む幅方向の双方の端部を、樹脂フィルムのクリップアウトから当該樹脂フィルムが第一ロールに接触するまでの区間にて、シアーカッターを用いたインライントリミングにより除去した。延伸後の樹脂フィルムにおける端部を取り除いた中央部はそのままライン搬送し、第一ロールおよび第二ロールならびに第一ロール以降の複数のガイドロールおよび/またはニップロールを通して巻取機まで搬送し、当該巻取機においてロールに巻き取った。なお、当該中央部について、クリップアウトから第一ロールまでの搬送張力を50N/mに設定した。取り除いた端部は、第一ロールに通すことなく、延伸樹脂フィルムの製造ラインから排出した。
実施例2では、原フィルムおよび延伸後の樹脂フィルムの破断もなく安定した延伸樹脂フィルム(逐次二軸延伸フィルム)の製造が可能であり、連続して500mの延伸樹脂フィルムを製造できた。また、製造した延伸樹脂フィルムにおけるシワおよび割れの発生の状況を目視にて確認したが、シワおよび割れの発生は確認されなかった。
(実施例3)
製造例2で作製した樹脂組成物(2A)のペレットを、ポリマーフィルター(濾過精度5μm)を備えるとともにTダイを先端に備えた単軸押出機を用いて成形温度270℃で溶融押出成形し、厚さ415μmの未延伸の樹脂フィルム(原フィルム)を製膜した。次に、作製した原フィルムを、溶融押出成形に続いて連続的に縦延伸機(複数の加熱ロールとIRヒーターとを備える)に供給し、当該延伸機にて当該フィルムの縦方向に、加熱ロール温度125℃、IRヒーター温度680℃、延伸倍率3.0倍で縦延伸した。さらに連続して、縦延伸後の樹脂フィルムをテンター横延伸機に供給し、当該延伸機にて当該フィルムの幅方向に延伸温度125℃、延伸倍率3.2倍で横延伸することで、原フィルムを逐次二軸延伸した。
次に、このように逐次二軸延伸した樹脂フィルムに対して、テンター横延伸機においてクリップにより把持された部分を含む幅方向の双方の端部を実施例2と同様に除去し、端部を取り除いた中央部を実施例2と同様にしてロールに巻き取った。なお、取り除いた当該端部は、実施例2と同様に延伸樹脂フィルムの製造ラインから排出した。
実施例3では、原フィルムおよび延伸後の樹脂フィルムの破断もなく安定した延伸樹脂フィルム(逐次二軸延伸フィルム)の製造が可能であり、連続して500mの延伸樹脂フィルムを製造できた。また、製造した延伸樹脂フィルムにおけるシワおよび割れの発生の状況を目視にて確認したが、シワおよび割れの発生は確認されなかった。
(実施例4)
製造例2で作製した樹脂組成物(2A)のペレットの代わりに製造例3で作製した樹脂組成物(3A)のペレットを用いた以外は、実施例3と同様にして、延伸樹脂フィルム(逐次二軸延伸フィルム)を製造した。
実施例4では、原フィルムおよび延伸後の樹脂フィルムの破断もなく安定した延伸樹脂フィルム(逐次二軸延伸フィルム)の製造が可能であり、連続して500mの延伸樹脂フィルムを製造できた。また、製造した延伸樹脂フィルムにおけるシワおよび割れの発生の状況を目視にて確認したが、シワおよび割れの発生は確認されなかった。
(比較例4,5,6)
比較例4,5および6では、逐次二軸延伸した樹脂フィルムに対して幅方向の端部を除去しなかった以外は、それぞれ実施例2,3および4と同様にして、延伸樹脂フィルム(逐次二軸延伸フィルム)のロールの製造を試みた。
しかし、比較例4〜6では、第一ロールより下流側に配置されたガイドロールを延伸後の樹脂フィルムが通過する際に、延伸時にクリップによって把持されていた部分を含む当該フィルムの端部がガイドロールの曲率に追随できず、当該端部にクラックが発生した。場合によっては、クラックが急成長して延伸後の樹脂フィルムが破断した。また、ガイドロールに続くニップロールを延伸後の樹脂フィルムが通過する際に、ガイドロール通過時に生じたクラックを基点にして延伸後の樹脂フィルムが破断することもあり、この場合、破断により発生したフィルムの破片がニップロールに多数付着した。このように、比較例4〜6では延伸樹脂フィルムの安定かつ連続的な製造ができなかった。
(比較例7,8,9)
比較例7,8および9では、逐次二軸延伸した樹脂フィルムに対する幅方向の端部の除去を、延伸後の樹脂フィルムが第一ロールを通過した後で行った以外は、それぞれ実施例2,3および4と同様にして、延伸樹脂フィルム(逐次二軸延伸フィルム)のロールの製造を試みた。より具体的には、第一ロールとこれに続く第二ロールとを延伸後の樹脂フィルムが通過した後で当該フィルムにおける幅方向の端部を除去した。延伸後の樹脂フィルムにおける端部を取り除いた中央部(製品部分)はそのままライン搬送し、第三ロールを通した後にニップロールへ導入した。取り除いた端部は、第三ロールを通した後に延伸樹脂フィルムの製造ラインから排出した。
しかし、比較例7〜9では、以下の(1),(2)に示す延伸後の樹脂フィルムの破断により、安定して延伸樹脂フィルムを製造することができず、数m程度の延伸樹脂フィルムの製造しかできなかった。
(1)延伸後の樹脂フィルムが第一ロールおよび当該ロール以降のガイドロールを通過する際に、延伸時にクリップによって把持されていた部分を含む当該フィルムの端部が第一ロールの曲率に追随できず、当該端部にクラックが発生した。場合によっては、クラックが急成長して延伸後の樹脂フィルムが破断した。
(2)第三ロール上で、インラインスリットにより取り除かれた端部が中央部の上に乗り上げる不具合が生じ、これにより中央部の搬送が阻害され、中央部の端部を起点に延伸後の樹脂フィルムが破断した。
(比較例10,11,12)
比較例10,11および12では、取り除いた端部を、第三ロールを通すことなく、インラインスリット後にそのまま延伸樹脂フィルムの製造ラインから排出した以外は、それぞれ比較例7,8および9と同様にして、延伸樹脂フィルム(逐次二軸延伸フィルム)のロールの製造を試みた。
しかし、比較例10〜12では、延伸後の樹脂フィルムが第一ロールおよび当該ロール以降のガイドロールを通過する際に、延伸時にクリップによって把持されていた部分を含む当該フィルムの端部が第一ロールの曲率に追随できず、当該端部にクラックが発生した。場合によっては、クラックが急成長して延伸後の樹脂フィルムが破断した。このため、安定して延伸樹脂フィルムを製造することができず、10m程度の延伸樹脂フィルムの製造しかできなかった。
(実施例5)
製造例1で作製した樹脂組成物(1A)のペレットの代わりに製造例6で作製した樹脂組成物(5A)のペレットを用いた以外は、実施例1と同様にして、延伸樹脂フィルム(斜め延伸フィルム)を製造した。
実施例5では、原フィルムおよび延伸後の樹脂フィルムの破断もなく安定した延伸樹脂フィルム(斜め延伸フィルム)の製造が可能であり、連続して500mの延伸樹脂フィルムを製造できた。また、製造した延伸樹脂フィルムにおけるシワおよび割れの発生の状況を目視にて確認したが、シワおよび割れの発生は確認されなかった。
(比較例13)
比較例13では、斜め延伸した樹脂フィルムに対して幅方向の端部を除去しなかった以外は実施例5と同様にして、延伸樹脂フィルム(斜め延伸フィルム)のロールの製造を試みた。しかし、以下の(1)〜(3)に示す延伸後の樹脂フィルムの破断が頻発し、斜め延伸した樹脂フィルムをニップロール以降、巻取機まで搬送することができなかった。
(1)延伸後の樹脂フィルムが第一ロールおよび当該ロール以降のガイドロールを通過する際に、当該フィルムの幅方向の端部に存在する、延伸時にクリップによって把持されていた部分で発生していた盛り上がりジワがロールの曲率に追随できず、当該シワからクラックが発生した。場合によっては、クラックが急成長して延伸後の樹脂フィルムが破断した。
(2)(1)のロールよりも下流側に配置されたニップロールを延伸後の樹脂フィルムが通過する際に、当該フィルムの幅方向の端部に存在する、延伸時にクリップによって把持されていた部分で発生していた盛り上がりジワが砕け散り、これに伴って延伸後の樹脂フィルムが破断した。
(3)(1),(2)の破断により発生した樹脂フィルムの破片がロールに多数付着することで、当該ロールを通過する延伸後の樹脂フィルムに打痕が生じ、その部分から当該フィルムが破断した。
(比較例14)
比較例14では、斜め延伸した樹脂フィルムに対する幅方向の端部の除去を、延伸後の樹脂フィルムが第一ロールを通過した後で行った以外は実施例5と同様にして、延伸樹脂フィルム(斜め延伸フィルム)のロールの製造を試みた。より具体的には、第一ロールとこれに続く第二ロールとを延伸後の樹脂フィルムが通過した後で当該フィルムにおける幅方向の端部を除去した。延伸後の樹脂フィルムにおける端部を取り除いた中央部(製品部分)はそのままライン搬送し、第三ロールを通した後にニップロールへ導入した。取り除いた端部は、第三ロールを通した後に延伸樹脂フィルムの製造ラインから排出した。
しかし、比較例14では、以下の(1),(2)に示す延伸後の樹脂フィルムの破断が頻発し、斜め延伸した樹脂フィルムを巻取機まで安定的に搬送することができなかった。
(1)延伸後の樹脂フィルムが第一ロールおよび当該ロール以降のガイドロールを通過する際に、当該樹脂フィルムの幅方向の端部に存在する、延伸時にクリップによって把持されていた部分で発生していた盛り上がりジワが第一ロールの曲率に追随できず、当該シワからクラックが発生した。場合によっては、クラックが急成長して延伸後の樹脂フィルムが破断した。
(2)第三ロール上で、インラインスリットにより取り除かれた端部が中央部の上に乗り上げる不具合が生じ、これにより中央部の搬送が阻害され、中央部の端部を起点に延伸後の樹脂フィルムが破断した。
(比較例15)
比較例15では、取り除いた端部を、第三ロールを通すことなく、インラインスリット後にそのまま延伸樹脂フィルムの製造ラインから排出した以外は比較例14と同様にして、延伸樹脂フィルム(斜め延伸フィルム)のロールの製造を試みた。
しかし、比較例15では、延伸後の樹脂フィルムが第一ロールおよび当該ロール以降のガイドロールを通過する際に、当該樹脂フィルムの幅方向の端部に存在する、延伸時にクリップによって把持されていた部分で発生していた盛り上がりジワが第一ロールの曲率に追随できず、当該シワからクラックが発生した。場合によっては、クラックが急成長して延伸後の樹脂フィルムが破断した。このため、数m程度の延伸樹脂フィルムの製造しかできなかった。