1.エステルワックス:
エステルワックスとして、4価以上の多価アルコールとカルボン酸化合物との多官能エステル化合物A、及び1価アルコールとカルボン酸化合物との単官能エステル化合物Bを、A:Bの重量比で50:50〜95:5の範囲内で組み合わせて使用する。A:Bの重量比は、好ましくは55:45〜90:10、より好ましくは60:40〜85:15、特に好ましくは65:35〜80:20である。
多官能エステル化合物の重量比が小さすぎると、静電荷像現像用トナーの定着温度を十分に低下させることができない。多官能エステル化合物の重量比が大きすぎると、多官能エステル化合物の種類によっては、定着温度の低下効果が小さくなったり、保存性や印字耐久性が低下したりする。多官能エステル化合物と単官能エステル化合物とを前記範囲内の重量比で併用することによって、低温定着性、保存性、及び印字耐久性が高度にバランスした静電荷像現像用トナーを得ることができる。
多官能エステル化合物とは、使用する多価アルコールの価数に応じて、分子内に複数のエステル結合を有するエステル化合物を意味する。単官能エステル化合物とは、1価アルコールとカルボン酸化合物とのモノエステル化合物を意味する。
使用する多官能エステル化合物及び単官能エステル化合物は、いずれも実質的に完全なエステル化合物であって、部分エステル化物ではない。使用する多官能エステル化合物及び単官能エステル化合物の水酸基価は、それぞれ、好ましくは8.0mgKOH/g以下、より好ましくは5.0mgKOH/g以下、特に好ましくは3.0mgKOH/g以下であり、酸価は、それぞれ、好ましくは5.0mgKOH/g以下、より好ましくは3.0mgKOH/g以下、さらに好ましくは1.0mgKOH/g以下、特に好ましくは0.5mgKOH/g以下である。
多官能エステル化合物及び単官能エステル化合物の水酸基価が高すぎると、重合トナーを製造する場合、水系分散媒体中で、これらのエステル化合物を含む単量体組成物の液滴を造粒する際に悪影響を及ぼし、粒径分布が均一で安定した液滴粒子を造粒することが困難になる。水酸基価の高いエステル化合物を含有する静電荷像現像用トナーは、高温高湿下での帯電性が低下し、カブリが発生することがある。
多官能エステル化合物としては、4価以上の多価アルコールと脂肪酸との多官能脂肪酸エステルが好ましい。4価以上の多価アルコールは、単一の化合物であっても、多価アルコール混合物であってもよい。4価以上の多価アルコールが多価アルコール混合物である場合、多官能エステル化合物は、少なくとも4価から8価までの各多価アルコールを含有する多価アルコール混合物と脂肪酸との多官能脂肪酸エステル混合物であることが好ましい。
4価以上の多価アルコールとしては、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン、ペンタデカグリセリン、エイコサグリセリン、トリアコンタグリセリンなどのグリセリンの脱水縮合物(重縮合体)〔以下、「ポリグリセリン」ということがある〕;ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどの脂肪族多価アルコール;D−エリトロース、アラビノース、D−キシルロース、α―D−キシロース、2−デオキシ−D−リボース、α−D−リキソース、D−リブロース、D−アラビトール、リビトール、β−D−アルトロース、β−D−アロース、α−D−ガラクトース、β−D−ガラクトース、α−L−ガラクトース、α−D−キノボース、α−D−グルコース、β−D−グルコース、L−ソルボース、D−タガトース、α−D−タロース、D−フコース、α−D−フコース、α−L−フコース、D−プシコース、D−フルクトース、D−マンノース、α−D−マンノース、α−L−ラムノース、D−イノシトール、myo−イノシトール、ガラクチトール、D−グリシトール、D−マンニトール、D−altro−ヘプツロース、D−manno−ヘプツロース、D−altro−3−ヘプツロース、D−glycero−D−galacto−ヘプチルトール、D−galacto−D−galacto−オクチトール、D−glycero−D−manno−オクツロース、D−erythro−L−gulo−ノヌロース、アガロビオース、α−ゲンチオロース、スクロース(sucrose)、β−セロビオース、β−マルトース、α−ラクトース、ラフィノース、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン等の糖質類またはこれらの脱水縮合物;が挙げられる。
これらの中でも、グリセリン重縮合体(ポリグリセリン);ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどの脂肪族多価アルコールが好ましい。本発明では、4価以上の多価アルコールのポリグリセリンを用いる。
多価アルコールの分子量は、好ましくは100〜1,500、より好ましくは110〜1,000、特に好ましくは150〜800である。したがって、多価アルコールとして多価アルコール混合物を用いる場合には、該多価アルコール混合物の平均分子量も、上記範囲内になる。分子量が大きすぎる多価アルコールを用いた多官能エステル化合物は、離型効果が小さくなる傾向にある。
静電荷像現像用トナーの低温定着性、保存性、及び印字耐久性を高度にバランスさせる観点から、多価アルコールとして、グリセリン重縮合体(ポリグリセリン)が特に好ましい。ポリグリセリンは、一般に、重縮合度の異なるグリセリン重縮合体混合物(多価アルコール混合物)として得られる。グリセリン及びポリグリセリンは、下記式で表すことができる。
式中、nは、1以上の整数である。n=1の場合、グリセリンの単量体であって、その水酸基数(官能基数)は、3個となる。n=2の場合、グリセリンの2量体であって、その水酸基数は、4個となる。nが1つ増えるごとに、水酸基数が1個ずつ増える。即ち、水酸基数=3+(n−1)となる。n=6の場合、グリセリンの6量体であって、その水酸基数は8個となる。
グリセリンを脱水重縮合すると、重合度が異なるグリセリン重縮合体の混合物が得られる。本発明では、多価アルコール混合物として、少なくとも2量体から6量体までのグリセリン重縮合体混合物を含有するポリグリセリンを用いることが好ましい。このポリグリセリンは、少なくとも4価から8価までの各多価アルコールを含有する多価アルコール混合物である。このポリグリセリンには、グリセリン単量体及び/または7量体以上のポリグリセリンが含まれていてもよい。
ポリグリセリンとして、最終的に得られる多官能エステル化合物が、4官能以下のエステル化合物の含有割合が10重量%以下であり、かつ、8官能以上のエステル化合物の含有割合が15重量%以上であるような官能基の分布を有するポリグリセリンを使用することが好ましい。ポリグリセリンは、5官能乃至7官能の各多官能エステル化合物の含有割合が、それぞれ15重量%以上となるような多官能エステル化合物を与えることができる官能基の分布を有するものであることが好ましい。このようなポリグリセリンは、グリセリンの平均重縮合度が6以上となるような条件で脱水重縮合させ、その際、ジグリセリン重縮合体からデカグリセリン重縮合体まで分布が広くなるように重縮合条件を設定することにより得ることができる。
カルボン酸化合物としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、3−メチルブタン酸、2−メチル酪酸、ピバル酸、ヘキサン酸、4−メチル吉草酸、2−エチル酪酸、2,2−ジメチル酪酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシル酸、ラクセシル酸などの飽和脂肪酸;オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸;シクロヘキサンカルボン酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸などの脂環式カルボン酸;安息香酸、トルイル酸、クミン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメシン酸、トリメリト酸、ヘミメリト酸などの芳香族カルボン酸;などを挙げることができる。
これらのカルボン酸化合物の中でも、飽和または不飽和の脂肪酸が好ましい。飽和または不飽和の脂肪酸としては、炭素数が好ましくは10〜30、より好ましくは12〜26、さらに好ましくは14〜25、特に好ましくは18〜24の飽和若しくは不飽和の脂肪酸が好適である。本発明では、14〜25である。
好ましい脂肪酸の具体例には、ミリスチン酸(炭素数14)、パルミチン酸(炭素数16)、ステアリン酸(炭素数18)、イコサン酸(炭素数20)、ベヘン酸(炭素数22)、リグノセリン酸(炭素数24)等の飽和の高級脂肪酸;オレイン酸(炭素数18)、エルカ酸(炭素数22)等の高級不飽和脂肪酸;が含まれる。これらの中でも、ステアリン酸、イコサン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、及びエルカ酸が好ましい。
炭素数が少ない脂肪酸を用いて得られた多官能脂肪酸エステルを使用すると、高温雰囲気下に保持した静電荷像現像用トナーの耐久性が低下傾向を示す上、凝集性が高まったり、現像ロールが白化したりすることがある。
多官能エステル化合物は、その水酸基価が8.0mgKOH/g以下となるように、多価アルコールとカルボン酸化合物(例えば、脂肪酸)とのエステル化反応率を高めることが好ましい。そのために、エステル化反応時に、多価アルコールの水酸基数に対して過剰量のカルボン酸化合物を反応させ、反応後には、反応生成物を精製することが好ましい。カルボン酸化合物は、遊離のカルボキシル基を有する化合物だけではなく、その塩化物(酸クロライド)など、アルコール性水酸基との間でエステル化反応することができるものも使用することができる。
使用する多官能エステル化合物は、4価以上の多価アルコールと脂肪酸との多官能脂肪酸エステルであることが好ましい。このような多官能脂肪酸エステルとしては、例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどの脂肪族多価アルコールと、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イコサン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の飽和の高級脂肪酸またはオレイン酸、エルカ酸等の高級不飽和脂肪酸とのエステル化物が挙げられる。好ましい多官能脂肪酸エステルとして、例えば、ぺンタエリスリトールテトラミリステート、ぺンタエリスリトールテトラパルミテート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ジペンタエリスリトールヘキサミリステート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサベヘネートなどが挙げられる。
多官能脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、日本油脂社製のWEP6(商品名;ぺンタエリスリトールテトラステアレート)、WEP5(商品名;ぺンタエリスリトールテトラべへネート)、WEP4(商品名;ぺンタエリスリトールテトラパルミテート)、WEP1(商品名;ぺンタエリスリトールテトラミリステート)等が挙げられる。
多官能エステル化合物として、4価以上の多価アルコールを2種以上含有する多価アルコール混合物と脂肪酸との多官能脂肪酸エステル混合物を用いることができる。このような多官能脂肪酸エステル混合物としては、少なくとも4価から8価までの各多価アルコールを含有する多価アルコール混合物と脂肪酸との多官能脂肪酸エステル混合物が好ましい。
使用する多官能脂肪酸エステル混合物は、少なくとも4官能から8官能までの多価アルコールを含有する多価アルコール混合物と脂肪酸とのエステル化物であることが好ましい。多価アルコール混合物中には、少量の1〜3官能及び/または9官能以上の多価アルコールが含まれていてもよい。
使用する多官能脂肪酸エステル混合物は、4官能以下の脂肪酸エステル化合物の含有割合が10重量%以下、好ましくは8重量%以下、より好ましくは5重量%以下であり、かつ、8官能以上の脂肪酸エステル化合物の含有割合が15重量%以上、好ましくは18重量%以上、より好ましくは20重量%以上である。該多官能脂肪酸エステル混合物は、5官能乃至7官能の各多官能脂肪酸エステルを、それぞれ好ましくは15重量%以上、より好ましくは18重量%以上、特に好ましくは20重量%以上の割合で含有することが望ましい。多官能脂肪酸エステル混合物は、5官能以上の各多官能脂肪酸エステルを、合計で80重量%以上の割合で含有することが好ましい。
用いる多官能脂肪酸エステル混合物は、その脂肪酸残基の90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上が炭素数16〜25であることが望ましい。脂肪酸残基の炭素数は、好ましくは20〜25、より好ましくは20〜22である。
各官能の多官能脂肪酸エステルの割合及び脂肪酸残基の炭素数の割合は、GC−MS(ガスクロマトグラフィ/質量分析)測定により得られた分析値である。原料の多価アルコールの官能基数(OH基数)及び長鎖脂肪酸の炭素数は、主成分の官能基数や炭素数により表示されているが、実際には、バラツキがあるため、合成した多官能脂肪酸エステルについて、これらの値を実測することが望ましい。
使用する多官能脂肪酸エステル混合物が前記の選択された組成を備えていることにより、本発明の前記課題をより良く達成することができる。4官能以下の脂肪酸エステルの含有割合が大きすぎたり、8官能以上の脂肪酸エステルの含有割合が小さすぎたりすると、高温雰囲気下に放置後の耐久性と耐ブロッキング性が低下したり、現像ロールの白化現象も見られるようになることがある。多官能脂肪酸エステル混合物中の炭素数16〜25の脂肪酸残基の割合が小さすぎると、高温雰囲気下に放置後の耐ブロッキング性が著しく悪化したり、耐久性が低下したりすることがある。加えて、現像ロールの白化現象が生じ易くなる。
多官能脂肪酸エステル混合物を得るには、4価以上の多価アルコールとして、前述のグリセリン重縮合体(ポリグリセリン)を用いることが好ましい。その理由は、ポリグリセリンは、一般に、重縮合度の異なるグリセリン重縮合体混合物(多価アルコール混合物)として得られるからである。ポリグリセリンは、重縮合条件を制御することによって、重縮合度の異なるグリセリン重縮合体混合物を容易に調製することができる。
多官能脂肪酸エステル混合物の好ましい具体例としては、例えば、ポリグリセリンのベヘン酸エステル、ポリグリセリンのステアリン酸エステル、ポリグリセリンのイコサン酸エステル、ポリグリセリンのリグノセリン酸エステル、ポリグリセリンのエルカ酸エステルなどが挙げられる。これらの中でも、ポリグリセリンのベヘン酸エステルが特に好ましい。
使用する多官能エステル化合物のスチレンに対する溶解性は、35℃で測定したスチレン100gに対する溶解量(g/100gST;35℃)で表したとき、好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上、さらに好ましくは15g以上、特に好ましくは20g以上である。多官能エステル化合物の35℃でのスチレンに対する溶解量が少なすぎると、一般にスチレンを主成分とする重合性単量体に対する多官能エステル化合物の溶解性が低下する。そのため、重合トナーを製造する際、トナー中の多官能エステル化合物の含有量が不足し、定着温度を十分に下げることが困難になる。また、この溶解量が少なすぎると、重合性単量体中に十分な量の多官能エステル化合物を溶解させるのに、高温に加熱する必要が生じる。しかも、スチレンに対する溶解量が少なすぎる多官能エステル化合物は、重合性単量体中に加熱して溶解させても、生成した重合トナー中で均一に分散し難くなる。
使用する多官能エステル化合物の平均分子量は、好ましくは500〜6,000、より好ましくは2,000〜5,000である。多官能エステル化合物が、多官能脂肪酸エステル混合物である場合には、その平均分子量は、好ましくは2,300〜4,000、より好ましくは2,500〜3,500である。
多官能エステル化合物の平均分子量が低すぎると、定着温度を低下させることが難しく、耐オフセット性も不十分となる。多官能エステル化合物の平均分子量が低すぎると、それ自体の融点が低くなり、静電荷像現像用トナーの保存中あるいは現像装置のトナーボックス中の高温環境下で、静電荷像現像用トナーから多官能エステル化合物が析出(ブリード)しやすくなり、その結果、静電荷像現像用トナーが凝集したり、ブリードアウトした多官能エステル化合物の結晶が大きく成長したりすることがある。
印字中に多官能エステル化合物が静電荷像現像用トナーから析出すると、装置の各部を汚染し、現像ロールや感光体表面などへのトナーフィルミング発生の原因ともなる。多官能エステル化合物の平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した標準ポリスチレン換算値として得ることができる。また、多官能エステル化合物の平均分子量は、エステル化に使用した多価アルコールの平均分子量(計算値)と脂肪酸の分子量とから計算によって算出することもできる。
使用する多官能エステル化合物は、示差走査熱量計により測定されるDSC曲線において、昇温時に50〜80℃の領域に最大吸熱ピークを示すものであることが好ましい。最大吸熱ピーク温度が50〜80℃にある多官能エステル化合物は、静電荷像現像用トナーの低温定着性に寄与することができる。最大吸熱ピーク温度は、好ましくは55〜78℃、特に好ましくは60〜75℃である。
使用する単官能エステル化合物は、1価アルコールとカルボン酸化合物とのエステル化合物である。該エステル化合物は、使用するアルコールが1価アルコールであって、水酸基(官能基)数が1つであること、該エステル化合物が分子中に1つのエステル結合を有していることから、単官能エステル化合物と呼ばれる。
1価アルコールには、例えば、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、ベヘニルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコールなどの1価の飽和脂肪族アルコールが含まれる。1価アルコールとしては、炭素数が好ましくは10〜29、より好ましくは11〜26、特に好ましくは13〜25の高級飽和脂肪族アルコールが好ましい。
1価アルコールとエステル結合するカルボン酸化合物としては、前述の飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、芳香族カルボン酸などを挙げることができる。これらのカルボン酸化合物の中でも、飽和または不飽和の脂肪酸が好ましい。飽和または不飽和の脂肪酸としては、炭素数が好ましくは10〜30、より好ましくは12〜26、さらに好ましくは14〜25、特に好ましくは18〜24の飽和若しくは不飽和の脂肪酸が好適である。本発明では、14〜25である。
好ましい脂肪酸の具体例には、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イコサン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の飽和の高級脂肪酸;オレイン酸、エルカ酸等の高級不飽和脂肪酸;が含まれる。これらの中でも、ステアリン酸、イコサン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、及びエルカ酸が好ましい。
炭素数が少ない脂肪酸を用いて得られた単官能脂肪酸エステルを使用すると、高温雰囲気下に保持した静電荷像現像用トナーの耐久性が低下傾向を示す上、凝集性が高まることがある。単官能エステル化合物は、その水酸基価が8.0mgKOH/g以下となるように、1価アルコールとカルボン酸化合物(例えば、脂肪酸)とのエステル化反応率を高めることが好ましい。
使用する単官能エステル化合物は、1価アルコールと脂肪酸との単官能脂肪酸エステルであることが好ましい。このような単官能脂肪酸エステルとしては、例えば、ステアリルステアレート(ステアリン酸ステアリル)、ステアリルベヘネート、ベヘニルベヘネート(ベヘン酸ベヘニル)、ベヘニルステアレートなどが挙げられる。市販品としては、例えば、日本油脂社製のWEP3(商品名;べへン酸べへニル)が挙げられる。
使用する単官能エステル化合物は、示差走査熱量計により測定されるDSC曲線において、昇温時に50〜80℃の領域に最大吸熱ピークを示すものであることが好ましい。
使用する単官能エステル化合物のスチレンに対する溶解性は、35℃で測定したスチレン100gに対する溶解量(g/100gST;35℃)で表したとき、好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上である。
エステルワックスとして、多官能エステル化合物と単官能エステル化合物とを組み合わせて使用する。多官能エステル化合物と単官能エステル化合物とは、所定量をそれぞれ別々に用いてもよいが、予め両者を混合して、共晶を形成してもよい。
共晶を形成するには、多官能エステル化合物と単官能エステル化合物の各所定量を容器に入れ、オイルバスなどの加熱手段によって加熱し、溶融混合物を調製する。この溶融混合物を、氷水の中に投入するなどの方法により急冷し、凝固させる。凝固物は、必要に応じて乾燥する。得られた凝固物は、多官能エステル化合物と単官能エステル化合物とが共晶状態で混合した共融混合物である。共晶では、2成分が単に混ざり合っているものではなく、双方の結晶粒子間で結合力が働くようになることが知られている。
共晶の形成が行われたか否かは、共融混合物について、示差走査熱量計を用いてDSC測定することにより判定することができる。具体的には、共融混合物のDSC測定することによりDSC曲線を得て、当該DSC曲線がショルダーを有さず、かつ、1つの最大吸熱ピークを示し、単一の吸熱ピーク温度(融点Tm)を特定できる場合に、共晶が形成されていると判定することができる。共晶の吸熱ピーク温度は、55〜75℃の範囲内にあることが好ましい。
共晶(共融混合物)の吸熱ピーク温度が低すぎると、静電荷像現像用トナーの保存性が低下し、定着ロールに該トナーが融着するホットオフセット現象が生じたり、印字性能に悪影響を及ぼしたりする場合がある。一方、共晶の吸熱ピーク温度が高すぎると、静電荷像現像用トナーの低温定着性が低下し、定着時に定着ロールの温度を高温に設定する必要があるため、消費エネルギーの低減化の要請に応えられない場合がある。
多官能エステル化合物と単官能エステル化合物の合計での使用割合は、静電荷像現像用トナーの結着樹脂または結着樹脂を形成する重合性単量体100重量部に対して、通常0.5〜40重量部、好ましくは1〜30重量部、より好ましくは2〜20重量部、特に好ましくは4〜15重量部である。この使用割合が小さすぎると、低温定着性、保存性、印字耐久性が高度にバランスした静電荷像現像用トナーを得ることが困難となる。この使用割合が大きすぎると、耐オフセット性が低下したり、感光体表面へのトナーフィルミングが生じたり、これらのエステル化合物がトナー表面から析出したりしやすくなる。
2.着色樹脂粒子:
静電荷像現像用トナーは、結着樹脂、着色剤、及びエステルワックス(多官能エステル化合物と単官能エステル化合物)を含有する着色樹脂粒子であればよく、その製造方法によって特に制限されない。着色樹脂粒子は、トナー粒子とも呼ばれ、重合トナーの場合には、着色重合体粒子と呼ばれることがある。
静電荷像現像用トナーの製造方法としては、粉砕法や重合法が代表的なものである。粉砕法では、結着樹脂、着色剤、エステルワックスなどの各成分を溶融混練し、粉砕し、分級することによって、トナー粒子が製造される。重合法としては、乳化重合法、凝集法、分散重合法、懸濁重合法などが挙げられる。
重合法によれば、ミクロンオーダーのトナー粒子を、比較的小さい粒径分布で直接得ることができる。本発明の静電荷像現像用トナーは、着色樹脂粒子の表面に樹脂被覆層(重合体層)を形成したコア−シェル型トナー(カプセルトナー)であってもよい。本発明の静電荷像現像用トナーは、懸濁重合法によって得られる重合トナーであることが、現像剤特性の観点から特に好ましい。
懸濁重合による重合トナーは、分散安定剤を含有する水系分散媒体中で、少なくとも重合性単量体、着色剤、エステルワックスを含有する重合性単量体組成物を懸濁重合することにより得ることができる。重合性単量体組成物には、必要に応じて、架橋性単量体、マクロモノマー、分子量調整剤、帯電制御剤、その他の離型剤、滑剤、分散助剤などの各種添加剤を含ませることができる。
コア−シェル構造を有する重合トナーは、スプレイドライ法、界面反応法、in situ 重合法、相分離法などの方法により製造することができる。特に、in situ 重合法や相分離法は、製造効率がよく好ましい。具体的には、分散安定剤を含有する水系分散媒体中で、少なくとも重合性単量体、着色剤、及びエステルワックスを含有する重合性単量体組成物を懸濁重合することにより得られた着色樹脂粒子をコア粒子とし、該コア粒子の存在下にシェル用重合性単量体を懸濁重合することにより得ることができる。シェル用単量体が重合して形成される重合体層が樹脂被覆層(シェル)となる。
重合性単量体としては、モノビニル系単量体が好ましい。具体的には、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等のスチレン系単量体;アクリル酸、メタクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアクリル酸またはメタクリル酸の誘導体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のエチレン性不飽和モノオレフィン;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル;ビニルメチルケトン、メチルイソプロペニルケトン等のビニルケトン;2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン等の含窒素ビニル化合物;などが挙げられる。モノビニル系単量体は、それぞれ単独で、あるいは複数の単量体を組み合わせて用いることができる。モノビニル系単量体のうち、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸の誘導体とを併用するのが好適である。
重合性単量体と共に架橋性単量体及び/または架橋性重合体を用いると、耐ホットオフセット性の改善に有効である。架橋性単量体は、2以上の重合可能な炭素−炭素不飽和二重結合を有する単量体であり、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、これらの誘導体等の芳香族ジビニル化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート等のジエチレン性不飽和カルボン酸エステル;1,4−ブタンジオール、1,9−ノナンジオール等の脂肪族両末端アルコール由来の(メタ)アクリーレート;N,N−ジビニルアニリン、ジビニルエーテル等のジビニル化合物;3個以上のビニル基を有する化合物;などを挙げることができる。
架橋性重合体としては、分子内に2個以上の水酸基を有するポリエチレンやポリプロピレン、ポリエステルやポリシロキサン由来の(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの架橋性単量体及び架橋性重合体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋性単量体及び/または架橋性重合体は、重合性単量体100重量部に対して、通常10重量部以下、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.1〜2重量部の割合で使用される。
重合性単量体と共にマクロモノマーを用いると、保存性やオフセット防止性と低温定着性とのバランスを改善することができる。マクロモノマーは、分子鎖の末端に重合可能な官能基(例えば、炭素−炭素二重結合のような不飽和基)を有する比較的長い線状分子である。マクロモノマーとしては、数平均分子量が通常1,000〜30,000のオリゴマーまたはポリマーが好ましい。数平均分子量が小さいマクロモノマーを用いると、トナー粒子の表面部分が柔らかくなり、保存性が低下する。逆に、数平均分子量が大きいマクロモノマーを用いると、マクロモノマーの溶融性が悪く、トナーの定着性が低下する。
マクロモノマーの具体例としては、スチレン、スチレン誘導体、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を単独でまたは2種以上を重合して得られる重合体、ポリシロキサン骨格を有するマクロモノマーなどが挙げられる。マクロモノマーの中でも、結着樹脂のガラス転移温度より高いガラス転移温度を有する重合体が好ましく、特にスチレンとメタクリル酸エステル及び/またはアクリル酸エステルとの共重合体マクロモノマーやポリメタクリル酸エステルマクロモノマーが好適である。マクロモノマーを使用する場合、その配合割合は、重合性単量体100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.03〜5重量部、より好ましくは0.05〜1重量部である。マクロモノマーの使用割合が大きすぎると、定着性が低下する傾向を示す。
着色剤としては、カーボンブラックやチタンホワイトなどのトナーの分野で用いられている各種顔料及び染料を使用することができる。黒色着色剤としては、カーボンブラック、ニグロシンベースの染顔料類;コバルト、ニッケル、四三酸化鉄、酸化鉄マンガン、酸化鉄亜鉛、酸化鉄ニッケル等の磁性粒子;などを挙げることができる。カーボンブラックを用いる場合、一次粒径が20〜40nmであるものを用いると良好な画質が得られ、また、トナーの環境への安全性も高まるので好ましい。
カラートナー用着色剤としては、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、シアン着色剤などを使用することができる。イエロー着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー3、12、13、14、15、17、62、65、73、83、90、93、97、120、138、155、180、181;ネフトールイエローS、ハンザイエローG、C.I.バットイエロー等が挙げられる。
マゼンタ着色剤としては、アゾ系顔料、縮合多環系顔料等が挙げられ、より具体的には、例えば、C.I.ピグメントレッド48、57、58、60、63、64、68、81、83、87、88、89、90、112、114、122、123、144、146、149、163、170、184、185、187、202、206、207、209、251;C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
シアン着色剤としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物等が挙げられ、より具体的には、例えば、C.I.ピグメントブルー2、3、6、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、17、60;フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、C.I.アシッドブルーなどが挙げられる。
これらの着色剤は、結着樹脂または結着樹脂を形成する重合性単量体100重量部に対して、通常0.1〜50重量部、好ましくは1〜20重量部の割合で用いられる。
分子量調整剤としては、例えば、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素類;などを挙げることができる。これらの分子量調整剤は、重合開始前、あるいは重合途中に添加することができる。分子量調整剤は、重合性単量体100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部の割合で用いられる。
着色剤の均一分散のために、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸、脂肪酸とNa、K、Ca、Mg、Zn等の金属とからなる脂肪酸金属塩などの滑剤;シラン系またはチタン系カップリング剤などの分散助剤;を使用することができる。滑剤及び分散剤は、着色剤の重量を基準として、それぞれ通常1/1,000〜1/1程度の割合で使用される。
トナーの帯電性を向上させるために、各種の正帯電性または負帯電性の帯電制御剤を使用する。帯電制御剤としては、例えば、ボントロンN01(オリエント化学社製)、ニグロシンベースEX(オリエント化学社製)、スピロブラックTRH(保土ケ谷化学社製)、T−77(保土ケ谷化学社製)、ボントロンS−34(オリエント化学社製)、ボントロンE−81(オリエント化学社製)、ボントロンE−84(オリエント化学社製)、ボントロンE−89(オリエント化学社製)、ボントロンF−21(オリエント化学社製)、COPY CHRGE NX VP434(クラリアント社製)、COPY CHRGE NEG VP2036(クラリアント社製)、TNS−4−1(保土ケ谷化学社製)、TNS−4−2(保土ケ谷化学社製)、LR−147(日本カーリット社製)などの帯電制御剤;特開平11−15192号公報、特開平3−175456号公報、特開平3−243954号公報などに記載の4級アンモニウム(塩)基含有共重合体、特開平3−243954号公報、特開平1−217464号公報、特開平3−15858号公報などに記載のスルホン酸(塩)基含有共重合体等の帯電制御樹脂;を用いることができる。帯電制御剤は、結着樹脂または結着樹脂を形成する重合性単量体100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜7重量部の割合で用いられる。
使用する多官能エステル化合物と単官能エステル化合物から成るエステルワックスは、離型剤として作用するため、その他の離型剤の使用は必要ないけれども、所望により、オフセット防止などの目的で汎用の離型剤を含有させてもよい。このような離型剤としては、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリブチレンなどの低分子量ポリオレフィンワックス類;分子末端酸化低分子量ポリプロピレン、分子末端をエポキシ基に置換した低分子量末端変性ポリプロピレン、及びこれらと低分子量ポリエチレンのブロックポリマー、分子末端酸化低分子量ポリエチレン、分子末端をエポキシ基に置換した低分子量ポリエチレン、及びこれらと低分子量ポリプロピレンのブロックポリマーなどの末端変性ポリオレフィンワックス類;キャンデリラ、カルナウバ、ライス、木ロウ、ホホバなどの植物系天然ワックス;パラフィン、マイクロクリスタリン、ペトロラクタムなどの石油系ワックス及びその変性ワックス;モンタン、セレシン、オゾケライト等の鉱物系ワックス;フィッシャートロプシュワックスなどの合成ワックス;これらの混合物等が例示される。これらの離型剤を用いる場合には、結着樹脂または結着樹脂を形成する重合性単量体100重量部に対して、0.1〜20重量部の割合で用いるのが好ましく、1〜15重量部の割合で用いるのがより好ましい。
重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が好適に用いられる。具体的には、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;4,4′−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2′−アゾビス−2−メチル−N−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチルプロピオアミド、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、1,1′−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物;イソブチリルパーオキサイド、2,4−ジ−クロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5′−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド系;ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジ−カーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジ−カーボネート、ジ−イソプロピルパーオキシジ−カーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジ−カーボネート、ジ(2−エチルエチルパーオキシ)ジ−カーボネート、ジ−メトキシブチルパーオキシジ−カーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジ−カーボネート等のパーオキシジ−カーボネート類;(α,α−ビス−ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1′,3,3′−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、メチルエチルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、アセチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の他の過酸化物類などが例示される。これら重合開始剤と還元剤とを組み合わせたレドックス開始剤を使用することもできる。
これらの重合開始剤の中でも、重合性単量体に可溶な油溶性ラジカル開始剤が好ましく、必要に応じて、水溶性の開始剤をこれと併用することもできる。重合開始剤の使用割合は、重合性単量体100重量部に対して、通常0.1〜20重量部、好ましくは0.3〜15重量部、より好ましくは0.5〜10重量部である。この使用割合が小さすぎると重合速度が遅くなり、大きすぎると分子量が低くなるので、好ましくない。重合開始剤は、単量体組成物中に予め添加することができるが、早期重合を避ける目的で、水系分散媒体中での単量体組成物の造粒工程終了後に懸濁液中に添加することもできる。重合開始剤の使用割合は、水系分散媒体基準で、通常0.001〜3重量%程度である。
用いられる分散安定剤としては、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの硫酸塩;炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩;リン酸カルシウムなどのリン酸塩;酸化アルミニウム、酸化チタン等の金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化第二鉄等の金属水酸化物;ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ゼラチン等の水溶性高分子;アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤;などを挙げることができる。これらの中でも、硫酸塩、炭酸塩、金属酸化物、金属水酸化物などの金属化合物が好ましく、難水溶性の金属化合物のコロイドがより好ましい。特に、難水溶性の金属水酸化物のコロイドは、トナー粒子の粒径分布を狭くすることができ、画像の鮮明性が向上するので好適である。
難水溶性金属化合物のコロイドは、その製法による制限はないが、水溶性多価金属化合物の水溶液のpHを7以上に調整することによって得られる難水溶性の金属水酸化物のコロイド、特に水溶性多価金属化合物と水酸化アルカリ金属塩との水相中の反応により生成する難水溶性の金属水酸化物のコロイドが好ましい。難水溶性金属化合物のコロイドは、個数粒径分布D50(個数粒径分布の50%累積値)が0.5μm以下で、D90(個数粒径分布の90%累積値)が1μm以下であることが好ましい。コロイドの粒径が大きくなりすぎると、重合の安定性が崩れ、また、トナーの保存性が低下する。
分散安定剤は、重合性単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.3〜10重量部の割合で使用する。この使用割合が小さすぎると、十分な重合安定性を得ることが困難となり、重合凝集物が生成しやすくなる。逆に、この使用割合が大きすぎると、微粒子の増加によりトナー粒子の粒径分布が広がったり、水溶液粘度が大きくなって重合安定性が低くなる。
懸濁重合法により着色樹脂粒子(着色重合体粒子)を製造するには、先ず、重合性単量体、着色剤、エステルワックス、必要によりその他の添加剤成分を混合し、重合性単量体組成物を調製する。次に、該重合性単量体組成物を、分散安定剤を含有する水系媒体中に投入し、高速攪拌機等により高剪断力で攪拌して、水系媒体中に重合性単量体組成物の微小な液滴を形成する。
重合性単量体組成物の液滴形成においては、先ず、体積平均粒径が50〜1,000μm程度の一次液滴を形成する。重合開始剤は、早期重合を避けるため、水系媒体中での一次液滴の大きさが均一になってから水系分散媒体に添加することが好ましい。水系分散媒体中に重合性単量体組成物の一次液滴が分散した懸濁液に重合開始剤を添加混合し、さらに、高速回転剪断型撹拌機を用いて、液滴の粒径が目的とする着色重合体粒子に近い小粒径になるまで撹拌する。このようにして、体積平均粒径が2〜15μm程度の微小粒径の二次液滴を形成する。
液滴形成の方法は、特に限定されないが、例えば、(インライン型)乳化分散機(株式会社荏原製作所製、商品名「マイルダー」)、高速乳化・分散機(特殊機化工業製、商品名「T.K.ホモミクサー MARK II型」)等の強攪拌が可能な装置を用いて行う。
水系媒体中に液滴として分散した重合性単量体組成物を、重合開始剤の存在下に重合して、着色重合体粒子を生成させる。重合温度は、通常50℃以上、好ましくは60〜95℃である。重合の反応時間は、通常1〜20時間、好ましくは2〜15時間である。生成した着色重合体粒子を含有する水分散液を濾過し、次いで、洗浄、脱水、及び乾燥の各工程を経て、着色重合体粒子を回収する。
着色重合体粒子を形成するのに用いる重合性単量体は、それを重合して得られる重合体のガラス転移温度Tgが通常80℃以下、好ましくは40〜80℃、より好ましくは50〜70℃になるように選択することが望ましい。重合性単量体を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することにより、生成する重合体のガラス転移温度を所望の範囲に調整することができる。
コア−シェル型着色重合体粒子の場合、シェルを構成する重合体のガラス転移温度が、コアの着色重合体粒子を構成する重合体のガラス転移温度より高いことが好ましく、5℃以上高いことがより好ましく、10℃以上高いことが特に好ましい。シェル用重合性単量体としては、80℃を超える高いガラス転移温度を持つ重合体を形成することができるスチレン、メチルメタクリレート、アクリロニトリル、これらの混合物などが好ましい。
シェル用重合性単量体の重合に用いる重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;2,2′−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド〕、2,2′−アゾビス−[2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)2−ヒドロキシエチル〕プロピオンアミド]等のアゾ系開始剤;等の水溶性重合開始剤を挙げることができる。重合開始剤の添加量は、シェル用重合性単量体100重量部に対して、好ましくは、0.1〜30重量部、より好ましくは1〜20重量部である。シェル層の重合温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60〜95℃である。重合の反応時間は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜15時間である。
重合により生成した着色重合体粒子(コア−シェル型を含む)を含有する水分散液は、分散安定剤を含んでいるため、着色重合体粒子の表面には、多数の分散安定剤の微粒子が付着している。分散安定化剤として、酸で可溶な無機水酸化物等の無機化合物を使用した場合には、生成した着色重合体粒子を含有する水分散液に酸を添加し、分散安定化剤を水に溶解させて除去する。分散安定化剤がアルカリで可溶な無機化合物である場合には、着色重合体粒子を含有する水分散液にアルカリを添加して、分散安定化剤を水に溶解させて除去する。
例えば、分散安定剤として水酸化マグネシウムコロイドなどの難水溶性金属水酸化物のコロイドを用いた場合には、水分散液に硫酸の如き酸を加えて分散安定剤を水に可溶化させる(これを「酸洗浄」という)。酸洗浄により、水分散液のpHを通常6.5以下、好ましくは2〜6.5、より好ましくは3〜6.0に調整する。添加する酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸;蟻酸、酢酸等の有機酸;を用いることができる。
酸洗浄またはアルカリ洗浄工程で得られた水分散液を濾過して、着色重合体粒子を濾別する。次に、濾別した着色重合体粒子を、水で洗浄し、洗浄水を濾過する。水洗工程では、濾液(濾過した洗浄水)の電気伝導度が1,000μS/cm以下となるまで水で洗浄し、洗浄水を濾過することが好ましい。水洗工程は、バッチ式で繰り返し行ってもよく、あるいはベルトフィルターなどを用いて連続的に行ってもよい。水洗浄に用いる洗浄装置としては、例えば、ベルトフィルター、ロータリーフィルター、及びフィルタープレスのいずれか1つもしくはこれらの複数を組み合わせて用いることが好ましい。洗浄工程後、湿潤状態の着色重合体粒子は、脱水工程により脱水され、乾燥される。
着色樹脂粒子(コア−シェル型着色樹脂粒子を含む)の体積平均粒径(Dv)は、通常3〜12μm、好ましくは5〜11μm、より好ましくは6〜10μmである。本発明の着色樹脂粒子の体積平均粒径(Dv)と個数平均粒径(Dn)との比(Dv/Dn)で表される粒径分布は、通常1以上で、1.7以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.4以下、特に好ましくは1.3以下である。着色樹脂粒子の体積平均粒径が大きすぎると、解像度が低下しやすくなる。着色樹脂粒子の粒径分布が大きいと、大粒径の粒子の割合が多くなり、解像度が低下しやすくなる。
着色樹脂粒子の平均円形度は、画像再現性の観点から、好ましくは0.96〜1.00、より好ましくは0.97〜1.00、特に好ましくは0.98〜1.00である。円形度は、粒子像と同じ投影面積を有する円の周囲長を、粒子の投影像の周囲長で除した値として定義される。平均円形度は、粒子の形状を定量的に表現する方法であり、着色樹脂粒子の凹凸の度合いを示す指標である。平均円形度は、着色樹脂粒子が完全な球形の場合に1を示し、着色樹脂粒子の表面形状が複雑になるほど小さな値となる。平均円形度は、0.6μm以上の円相当径の粒子群について測定された各粒子の円形度(Ci)をn個の粒子について下記計算式1よりそれぞれ求め、次いで、下記計算式2より平均円形度(Ca)を求める。
計算式1:
円形度(Ci)=粒子の投影面積に等しい円の周囲長/粒子投影像の周囲長
計算式2:
計算式2において、fiは、円形度(Ci)の粒子の頻度である。円形度及び平均円形度は、シスメックス社製フロー式粒子像分析装置「FPIA−2000」、「FPIA−2100」、「FPIA−3000」等を用いて測定することができる。
着色樹脂粒子の平均円形度が小さすぎると、印字による細線再現性が悪くなるおそれがあることに加えて、静電荷像現像用トナーの流動性と転写性が低下しやすくなる。着色樹脂粒子の平均円形度が大きすぎると、感光体上に残留する静電荷像現像用トナーのクリーニング性が低下傾向を示す。着色樹脂粒子の平均円形度が上記範囲内にある場合は、静電荷像現像用トナーの流動性、転写性、及びクリーニング性を高度にバランスさせる上で好ましい。
コア−シェル型トナー粒子におけるシェルの平均厚みは、通常0.001〜1μm、好ましくは0.003〜0.5μm、より好ましくは0.005〜0.2μm、特に好ましくは0.02〜0.05μm(20〜50nm)である。シェル厚みが大きすぎると定着性が低下し、小さすぎると保存性が低下する。重合トナーのコア粒径及びシェルの厚みは、電子顕微鏡により観察できる場合は、その観察写真から無作意に選択した粒子の大きさ及びシェル厚みを直接測ることにより得ることができる。電子顕微鏡でコア粒子とシェルとを区別して観察することが困難な場合は、コア粒子の体積平均粒径とシェルを形成する重合性単量体の使用量とから、シェルの厚みを算出することができる。
コア−シェル構造の形成方法は、重合トナーの場合には、前記着色樹脂粒子をコア粒子とし、該コア粒子の存在下にシェル用重合性単量体を重合して、コア粒子の表面に重合体層(シェル)を形成する方法(in situ 重合法)が好ましい。
本発明の静電荷像現像用トナーは、定着温度が低く、高温で保存後の耐ブロッキング性(保存性)に優れ、連続印字特性にも優れる。本発明の静電荷像現像用トナーは、55℃で8時間保存後の凝集度が好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、特に好ましくは2重量%以下、多くの場合1重量%以下であり、高温での耐ブロッキング性に優れている。
3.静電荷像現像用トナー:
本発明の静電荷像現像用トナーは、一成分現像剤または二成分現像剤などとして使用することができる。本発明の静電荷像現像用トナーを非磁性一成分現像剤として使用する場合は、着色樹脂粒子に外添剤を混合することが好ましい。外添剤としては、流動化剤や研磨剤などとして作用する無機粒子及び有機樹脂粒子が挙げられる。無機粒子としては、例えば、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどが挙げられる。
有機樹脂粒子としては、メタクリル酸エステル重合体粒子、アクリル酸エステル重合体粒子、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体粒子、スチレン−アクリル酸エステル共重合体粒子、コアがメタクリル酸エステル共重合体でシェルがスチレン重合体で形成されたコア−シェル型粒子などが挙げられる。
これらの中でも、無機酸化物粒子が好ましく、二酸化ケイ素(シリカ)が特に好ましい。無機微粒子表面を疎水化処理することができ、疎水化処理された二酸化ケイ素粒子が特に好適である。外添剤は、2種以上を組み合わせて用いてもよく、外添剤を組み合わせて用いる場合には、平均粒子径の異なる無機粒子同士または無機粒子と有機樹脂粒子とを組み合わせる方法が好適である。外添剤の量は、特に限定されないが、トナー粒子100重量部に対して、通常0.1〜6重量部である。外添剤をトナー粒子に付着させるには、通常、トナー粒子と外添剤とをヘンシェルミキサーなどの混合機に入れて攪拌する。
以下に、実施例、参考例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。以下において、「部」及び「%」は、特に断りのない限り重量基準である。試験方法及び評価方法は、以下のとおりである。
(1)溶解量(g/100gST;35℃):
多官能及び単官能エステル化合物のスチレンに対する溶解量は、35℃に保持したスチレン100g中に溶解する多官能及び単官能エステル化合物の量を測定した。
(2)酸価(mgKOH/g)及び水酸基価(mgKOH/g):
酸価は、日本油化学協会(JOCS)測定の基準油脂分析手法である、JOCS 2.3.1−96に準拠して測定した。また、水酸基価は、JOCS 2.3.6.2−96に準拠して測定した。
(3)多官能脂肪酸エステル混合物の官能基数の割合:
試料2gをはかり取り、該試料に6Nの塩酸を加えて110℃で6時間加熱して加水分解を行った。加水分解後、試料溶液を分液ロートに移し、ジエチルエーテルを加えて抽出を行った。エーテル相については、そのままGC−MS(ガスクロマトグラフィ/質量分析)測定に供した。水相については、水を蒸発乾固させ、次いで、ピリジン1mL、ヘキサメチルジシラザン0.2mL、及びトリメチルクロロシラン0.1mLを添加して、100℃で20分間加熱してシリル化を行った。このシリル化を行った試料についてGC−MS測定を行った。各成分の割合は、クロマトグラム上のピーク面積値より求めた。この方法により、同時に、多官能脂肪酸エステル混合物中の飽和脂肪酸残基の炭素数20〜25の割合を測定した。
測定装置:Agilent 5975 inert GC/MSシステム(Agilent製)、
カラム:HP−5ms(30m×250μmφ×0.25μm)、
カラム温度:100℃から320℃に昇温(昇温速度10℃/分、15分間保持)、
キャリヤーガス:He(1mL/分)、
イオン化法:EI(70eV)
(4)最大吸熱ピーク温度:
試料用ホルダーに6〜8mgの試料を計量して入れ、示差走査熱量計(セイコーインスツル社製、商品名:RDC−220)を用いて、−20℃〜100℃まで10℃/分で昇温する条件で測定を行い、DSC曲線を得た。DSC測定で得られたDSC曲線において、ショルダーを有さず、かつ、1つの最大吸熱ピークから吸熱ピーク温度(融点Tm)を特定できる場合、共晶形成が行われたと判定した。
(5)体積平均粒径(Dv)及び粒径分布(Dv/Dn):
測定試料(着色樹脂粒子)を約0.1g秤量してビーカーに取り、分散剤としてアルキルベンゼンスルホン酸塩水溶液(富士フィルム社製、商品名:ドライウエル)1mLを加えた。そのビーカーへ、更にアイソトンIIを10〜30mL加え、出力20Wの超音波分散機で3分間分散させた後、粒径測定機(べックマン・コールター社製、商品名:マルチサイザー)を用いて、アパーチャー径;100μm、媒体;アイソトンII、測定粒子個数;100,000個の条件下で、着色樹脂粒子の体積平均粒径(Dv)及び個数平均粒径(Dn)を測定し、粒径分布(Dv/Dn)を算出した。
(6)平均円形度:
着色樹脂粒子の平均円形度は、フロー式粒子像分析装置(FPIA−1000;シスメックス社製)を用いて、水分散系で測定し得られた値である。測定方法としては、容器中に予めイオン交換水10mLを用意し、その中に分散剤として界面活性剤、好ましくはアルキルベンゼンスルホン酸塩を加えた後、測定試料0.2gを加え、均一に分散させる。分散手段としては、超音波分散機を用いて、出力60W、3分間の条件で分散処理を行った。測定時の着色樹脂粒子の濃度は、3,000〜10,000個/μLとなるよう調整した。着色樹脂粒子1,000個から10,000個の円形度を計測した。このデータを用いて、平均円形度を求めた。
(7)最低定着温度:
市販の非磁性一成分現像方式のブリンターの定着ロール部の温度を変化できるように改造したプリンターを用いて、定着試験を行った。定着試験は、黒べタ(印字濃度100%)を印字して、改造プリンターの定着ロールの温度を5℃ずつ変化させて、それぞれの温度でのトナーの定着率を測定し、温度−定着率の関係を求めて行った。定着率は、黒べタ(印字濃度100%)の印字領域においてテープ剥離を行ない、テープ剥離前後の画像濃度の比率から計算した。すなわち、テープ剥離前の画像濃度をID(前)、テープ剥離後の画像濃度をID(後)とすると、定着率は、下記計算式3により算出できる。
計算式3: 定着率(%)=(ID(後)/ID(前))×100
テープ剥離操作とは、試験用紙の測定部分に粘着テープ(住友スリーエム社製、商品名:スコッチメンディングテープ810−3−18)を貼り、一定圧力で押圧して付着させ、その後、一定速度で紙に沿った方向に粘着テープを剥離する一連の操作である。画像濃度は、反射式画像濃度計(マクベス社製、商品名:RD914)を用いて測定した。この定着試験において、定着率が80%を超える最低の定着ロールの温度をトナーの最低定着温度とした。
(8)保存性:
トナー10gを密閉可能な容器(ポリエチレン製、容量100mL)に入れて、密閉した後、当該容器を55℃の温度に保持した恒温水槽の中に沈めた。8時間経過した後、恒温水槽から当該容器を取り出し、容器内のトナーを42メッシュの篩上へ置いた。この際、容器内でのトナーの凝集構造を破壊しないように、容器内からトナーを静かに取り出し、注意深く篩上に移して置くようにする。 トナーを置いた篩を、粉体測定機(ホソカワミクロン社製、商品名:パウダテスタPT−R)を用いて、振幅1mmの条件で、30秒間振動させた後、篩上に残留したトナーの重量を測定し、凝集トナーの重量とした。最初に容器に入れたトナーの重量に対する凝集トナーの重量の割合(重量%)を算出した。なお、1サンプルにつき上記測定を3回行ない、凝集トナーの重量の割合(重量%)を算出し、その平均値を保存性の指標とした。
(9)耐久印字試験:
耐久印字試験は、市販の非磁性一成分現像方式のプリンターを用い、現像装置のトナーカートリッジに、トナーを充填した後、印字用紙をセットして行った。温度23℃、相対湿度50%の常温常湿(N/N)環境下で、24時間放置した後、同環境下にて、5%印字濃度で17,000枚まで連統印字を行なった。
1,000枚毎に黒べタ印字(印字濃度100%)を行ない、反射式画像濃度計(マクベス社製、商品名:RD914)を用いて黒べタ画像の印字濃度を測定した。さらに、その後、白べタ印字(印字濃度0%)を行ない、白べタ印字の途中でプリンターを停止させ、現像後の感光体上における非画像部のトナーを、粘着テープ住友スリーエム社製、商品名:スコッチメンディングテープ810−3−18)に付着させた後、剥ぎ取り、それを印字用紙に貼り付けた。
次に、その粘着テープを貼り付けた印字用紙の白色度(B)を、白色度計(日本電色社製、商品名:ND−1)で測定した。同様にして、未使用の粘着テ一ブだけを印字用紙に貼り付け、その白色度(A)を測定した。白色度の差(B−A)をカブリ値とした。この値が小さい方が、カブリが少なく良好であることを示す。印字濃度が1.3以上で、かつ、カブリ値が5%以下の画質を維持できる連続印字枚数を調べた。
[製造例1]
ポリグリセリン(阪本薬品工業社製、商品名:#500)100部とベヘン酸490部を反応容器に入れ、触媒及び窒素気流下に240℃で反応させ、エステル化率が95%以上となるように反応させることによりポリグリセリンのベヘン酸エステル化合物(多官能脂肪酸エステル混合物)を調製した。この化合物をDSCを使用して、吸熱ピーク温度を測定したところ71℃であった。
該多官能脂肪酸エステル混合物は、35℃でのスチレン100gに対する溶解量が25gであり、水酸基価が2.6mgKOH/g、酸価は0.4mgKOH/gであった。該多官能脂肪酸エステル混合物の各官能基ごとの脂肪酸エステルの割合は、4官能以下が4.7重量%、5官能が24.5重量%、6官能が26.7重量%、7官能が22.4重量%、8官能以上が21.7重量%であった。また、該多官能脂肪酸エステル混合物中の飽和脂肪酸残基の炭素数20〜25の割合は、98.6重量%であった。
得られた多官能脂肪酸エステル混合物(ポリグリセリンのベヘン酸エステル化合物)70部と、吸熱ピーク温度が73℃のベヘン酸ベヘニル(日本油脂社製、商品名:WEP3)30部をビーカーに入れ、オイルバスを用いて溶融するまで加熱し、溶融混合物を得た。得られた溶融混合物を、氷水の中へ投入して急速に冷却を行なうことによって、凝固体の共融混合物を得て、さらに風乾を行った。
得られた共融混合物のDSC測定を行ったところ、吸熱ピーク温度は67℃であり、共晶状態にあることが確認された。単官能エステル化合物であるベヘン酸ベヘニルの35℃でのスチレン100gに対する溶解量は、10gであり、水酸基価は3mgKOH/gであり、酸価は0.1mgKOH/gであった。
[実施例1]
1.コア用重合性単量体組成物の調製
スチレン76部及びn−ブチルアクリレート24部からなるコア用重合性単量体、ポリメタクリル酸エステルマクロモノマー(東亜合成化学工業社製、製品名AA6)0.25部、カーボンブラック(三菱化学社製、商品名:#25B)6部、及び正帯電制御樹脂(第4アンモニウム塩基含有スチレン/アクリル樹脂、藤倉化成社製、製品名FCA−161P)0.8部とを、撹拌翼を有する撹拌装置で撹拌し、混合した後、メディア型分散機により均一分散した。得られた混合液に、製造例1により作製した共晶状態にあるエステル混合物8部を添加し、混合、溶解してコア用重合性単量体組成物を得た。
2.水系分散媒体の調製
イオン交換水250部に塩化マグネシウム(水溶性多価金属塩)8.6部を溶解した水溶液を撹拌しながら、該水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム(水酸化アルカリ金属塩)4.8部を溶解した水溶液を、徐々に添加して、水酸化マグネシウムコロイド(難水溶性の金属水酸化物コロイド)の分散液を調製した。
3.液滴形成工程
上記水酸化マグネシウムコロイド分散液に、25℃で、上記コア用重合性単量体組成物を添加し、撹拌翼を備えた撹拌装置により、生成する粗い液滴が安定するまで撹拌した。ここに、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシジエチルアセテート4.5部、分子量調整剤としてテトラエチルチウラムジスルフィド1.0部、及び架橋性の重合性単量体としてジビニルベンゼン0.5部を添加し、次いで、高速剪断撹拌機(荏原製作所製、製品名エバラマイルダー)を用いて15,000rpmの回転数で10分間高速剪断撹拌して、重合性単量体組成物の液滴を形成した。
4.シェル用重合性単量体の調製
シェル用重合性単量体としてメチルメタクリレート1部を、シェル用の水溶性の重合開始剤として2,2′−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ハイドロキシエチル)−プロピオンアミド〕(和光純薬社製、商品名VA−086、水溶性重合開始剤)0.1部をイオン交換水10部に溶解した溶液を調製した。
5.懸濁重合工程
撹拌翼を持つ撹拌装置を備えた反応器を用意した。上記反応器の上部から、上記コア用重合性単調量体の液滴が分散した水系分散液を投入した。
反応器内の分散液を、反応器の外部に設けたジャケットにより加熱することにより、液温を90℃としてコア用重合性単量体組成物の重合反応を開始した。重合反応を継続し、重合転化率が95%に達した時に、反応系内の温度を90℃に維持しながら、上記のシェル用重合性単量体とシェル用水溶性重合開始剤を添加した。さらに3時間、90℃に反応系内の温度を維持することにより重合反応を継続した後、ジャケットに冷却水を循環させることにより、系内の温度を約25℃に下げることにより重合反応を停止した。以上の操作により、反応器内に、生成コア−シェル型の着色重合体粒子を含む水系分散液を得た。反応器内の内液のpHは、10.6であった。
6.後処理工程
得られた着色重合体粒子を含む水系分散液をストリッピング処理した。まず、得られた着色重合体粒子を含む水系分散液に、イオン交換水を、その固形分濃度が20%になるように追加して希釈した。希釈した後の着色重合体粒子を含む水系分散液を蒸発器に供給した。この水系分散液に非シリコーン系消泡剤(サンノプコ社製、製品名SNデフォーマー180)1部を加えた。蒸発器内に、窒素ガスを流して、その気層部を窒素ガスで置換した。次いで、着色重合体粒子を含む水系分散液を、撹拌翼で回転数20rpmで撹拌しながら、蒸発器の外部に接して設けられたジャケットに温水を通じることにより、蒸発器を加温し、内部の着色重合体粒子を含む水系分散液が80℃になるまで加熱した。その後、ブロアーを起動して、着色重合体粒子を含む水系分散液の液中に、気体吹き込み口が直管形状の気体吹き込み管から窒素ガスを吹き込んで、液中の揮発性物質を除去していった。
このストリッピング工程を、蒸発器内の、液温80℃、圧力48kPa、及び窒素ガスの流量0.1リットル/hr・kgになるように調整しながら6時間行った。この間、泡レベルは、蒸発器内の高さの90%以上95%以下の水準を維持した。その後、着色重合体粒子を含む水系媒体を、前述のジャケットに冷却水を通じることにより25℃まで冷却した。
冷却後の着色重合体粒子を含む水系媒体を撹拌しながら、硫酸を加えて、その液のpHを4.5に中和することより、酸洗浄を行った。中和後の着色重合体粒子を含む水系分散液から、濾過により湿潤状態の着色重合体粒子を分離した。その後、新たにイオン交換水500部を加えて、湿潤状態の着色重合体粒子を再度スラリー化し、これを再度濾別した。このスラリー化と濾別を5回繰り返して行うことにより、湿潤状態の着色重合体粒子を水洗した。
水洗後の湿潤状態の着色重合体粒子を、真空乾燥機により、温度50℃、圧力4kPaで24時間乾燥して、乾燥した着色重合体粒子を得た。得られた着色重合体粒子は、コア−シェル型着色重合体粒子であり、その体積平均粒径(Dv)は7.6μm、粒径分布(Dv/Dn)は1.20、平均円形度は0.98であった。
7.非磁性一成分現像剤
着色重合体粒子100部に、疎水化処理したシリカ微粒子(キャポット社製、製品名TG820F)0.8部、及び疎水化処理したシリカ微粒子(日本アエロジル社製、製品名NA50Y)1部を添加し、ヘンシェルミキサーを用いて混合して、非磁性一成分現像剤を得た。得られた現像剤(単に、「トナー」と呼ぶことがある)の試験結果をまとめて表1に示す。
[参考例1]
実施例1のエステル混合物8部を、ペンタエリスリトールテトラステアレート(日本油脂社製、商品名:WEP6)6部、ステアリン酸ステアリル2部に変更した以外は、実施例1と同様にして着色重合体粒子と非磁性一成分現像剤を作成し、試験に供した。
ペンタエリスリトールテトラステアレートは、35℃でのスチレン100gに対する溶解量が2gであり、水酸基価が3mgKOH/gであり、酸価が0.1mgKOH/gであった。ステアリン酸ステアリルは、35℃でのスチレン100gに対する溶解量が15gであり、水酸基価が3mgKOH/gであり、酸価が0.1mgKOH/gであった。
[比較例1]
実施例1のエステル混合物8部を、ベヘン酸ベヘニル3部に変更した以外は、実施例1と同様にして着色重合体粒子と非磁性一成分現像剤を作成し、試験に供した。
[比較例2]
実施例1のエステル混合物8部を、製造例1で製造したポリグリセリンのベヘン酸エステル化合物8部に変更した以外は、実施例1と同様にして着色重合体粒子と非磁性一成分現像剤を作成し、試験に供した。
[比較例3]
実施例1のエステル混合物8部を、ペンタエリスリトールテトラステアレート(WEP6)8部に変更した以外は、実施例1と同様にして着色重合体粒子と非磁性一成分現像剤を作成し、試験に供した。
(脚注)
A1:ポリグリセリンのベヘン酸エステル
A2:ペンタエリスリトールテトラステアレート
B1:ベヘン酸ベヘニル
B2:ステアリン酸ステアリル
A1+B1=共晶
[考察]
エステルワックスが単官能エステル化合物だけの場合(比較例1)は、最低定着温度が200℃と高い。エステルワックスが多官能エステル化合物(多官能脂肪酸エステル混合物)であるポリグリセリンのベヘン酸エステルだけの場合(比較例2)は、最低定着温度が180℃であり、低温定着性が不十分である。
エステルワックスが多官能エステル化合物のペンタエリスリトールテトラステアレートだけの場合(比較例3)は、低温定着性に優れるものの、保存性が劣悪であり、印字耐久性も不十分である。
これに対して、エステルワックスが多官能エステル化合物と単官能エステル化合物との共晶混合物である場合(実施例1)には、低温定着性に優れると共に、保存性及び印字耐久性も高い水準にあることが分かる。エステルワックスが多官能エステル化合物と単官能エステル化合物との組み合わせである場合(参考例1)には、低温定着性に優れると共に、保存性に優れ、印字耐久性も高水準を保持している。