JP5349451B2 - 転がり案内装置 - Google Patents

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Description

本発明は、移動ブロックが多数のボールを介して軌道レールに組みつけられ、前記移動ブロックに固定された被搭載物を軌道レールに沿って自在に往復運動させることが可能な転がり案内装置に係り、詳細には、前記移動ブロック及び軌道レールに形成されるボールの転走溝の新たな構造に関する。
工作機械のワークテーブルや各種搬送装置の直線案内部では、テーブル等の可動体の自在な移動を支承するものとして、移動ブロックが多数のボールを介して軌道レールに組付けられた転がり案内装置が多用されている。この種の転がり案内装置では、軌道レールにボールの転走溝が形成される一方、移動ブロックにも軌道レールの転走溝と対向する転走溝が形成されており、軌道レールの転走溝と移動ブロックの転走溝とが対向することによってボールの負荷軌道が完成するようになっている。ボールはこの負荷軌道の内部で荷重を負荷しながら転走し、それによって移動ブロックを軌道レールに対して極僅かな抵抗で軽く運動させることが可能となっている。
特開昭61−286608号公報に開示される通り、この種の転がり案内装置の転走溝の形状は単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝形状と2つの円弧が複合したゴシックアーチ溝形状とに大別されるが、これら2つの転走溝の形状は転がり案内装置の性能に直結する長所及び短所を有しており、転がり案内装置の具体的な使用条件に応じて使い分けられるのが一般的である。
前者のサーキュラーアーク溝形状は単一の円弧状曲面から形成されており、かかる円弧状曲面は転走溝の被形成面の法線方向(以下、「垂直方向」という)に面している。サーキュラーアーク溝形状をなす円弧状曲面はボール球面の曲率半径よりも僅かに大きな曲率半径で形成されているので、ボールは転走溝に対して一点でのみ接触する。このため、ボールに対して前記垂直方向から荷重が作用する場合には、かかる荷重に対して十分な負荷能力を発揮することができる。しかし、転走溝の被形成面と平行な方向、すなわち前記垂直方向と直交する方向(以下、「横方向」という)に作用する荷重に対してはボールが転走溝の内部でその円弧方向に移動してしまい、軌道レールに対する移動ブロックの変位が大きくなってしまう傾向にある。換言すれば、横方向の荷重に対しては、転走溝が形成された軌道レール又は移動ブロックに対するボールの接触位置の変化が大きいのである。
一方、後者のゴシックアーチ溝形状の転走溝は2つの円弧状曲面が略90°で交わって形成されており、各円弧状曲面はボール球面の曲率半径よりも僅かに大きな曲率半径で形成されると共に、垂直方向に対して約45°で傾斜している。このため、ボールは転走溝内の各円弧状曲面に対して接触し、軌道レール及び移動ブロックの転走溝に対しては夫々2点で接触するので、垂直方向から作用する荷重、横方向から作用する荷重の双方に対して十分な荷重負荷能力を発揮することが可能である。また、垂直方向又は横方向の荷重が作用した場合であっても、転走溝に対するボールの変位は微小なので、軌道レール又は移動ブロックに対するボールの接触位置の変化は殆どない。
これらの長所及び短所を踏まえ、テーブル等の可動体の直線移動を支承する転がり案内装置では、移動ブロックに作用する荷重の大きさや方向といった使用用途に応じて、軌道レール及び移動ブロックに形成する転走溝の構造を選択している。
尚、転走溝の構造について開示する他の文献としては、特開平5−10325号公報、特開2002−5178、特開2004−19728等が知られている。
特開昭61−286608号公報 特開平5−10325号公報 特開2002−5178 特開2004−19728
ところで、断面円弧状に形成された転走溝をボールが転走するとき、かかるボールと転走溝との間には僅かではあるが滑り接触が(以下、「差動すべり」という)が生じている。サーキュラーアーク溝形状とゴシックアーチ溝形状についてこの差動すべりの発生量を対比した場合、後者のゴシックアーチ溝形状の方が大きな差動すべりが発生することが知られている。特に、ゴシックアーチ溝形状の転走溝では、かかる転走溝を転走するボールに対して垂直方向の荷重が作用した場合に、差動すべりが顕著になるといった特性がある。
このため、軌道レールの両側面にゴシックアーチ溝形状の転走溝を形成した転がり案内装置では、複数本の軌道レールを平行に配設すると共にこれら軌道レールを走行する複数の移動ブロックを同一の可動体に固定して使用する場合に、これら軌道レールの平行度が悪いと、各転走溝を転走するボールに対して垂直方向の荷重が作用しているのと同じ状態が生じ、軌道レールに対する移動ブロックの動きが極端に重くなってしまう。
このことから、ゴシックアーチ溝形状の転走溝を採用した転がり案内装置では、被取付け面に対する軌道レールの取付け精度の管理が重要であり、かかる取付け作業に手間がかかるといった問題点があった。
また、転走溝の加工精度が悪い場合、例えば軌道レールの両側面に形成された転走溝の平行度が悪い場合や、これら転走溝に対向して移動ブロックに形成された転走溝の平行度が悪い場合等も、各転走溝を転走するボールに対して垂直方向の荷重が作用しているのと同じ状態が生じ、前述の差動すべりが顕著に発生することとなり、軌道レールに対する移動ブロックの動きが極端に重くなってしまう。この点に関し、従来、転がり案内装置の軌道レール及び移動ブロックにおける転走溝は、荒加工によって大まかな形状を与えた後、研削加工によって仕上げられており、転走溝の加工精度に起因する差動すべりの顕著化については、かかる研削加工を高精度に実施することによって抑え込むことが可能であった。
しかし、転走溝を高精度に研削加工するには時間と手間がかかり、その分だけ転がり案内装置の生産コストが上昇する原因となっている。一方、生産コストの低減化のために、より量産に適した切削加工や鍛造加工といった加工方法を採用する場合、研削加工に比べて加工精度の確保が難しく、前述の理由から軌道レールに対する移動ブロックの動きが極端に重くなってしまう懸念があった。
本発明はこのような問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、転走溝内を転走するボールに対して垂直方向又は横方向のいずれの荷重が作用した場合であっても、転走溝内におけるボールの変位量が小さく、移動ブロックを軌道レールに対して精度良く案内することが可能であると共に、垂直方向の荷重が作用した場合におけるボールの差動すべりの発生を抑え、移動ブロックが軌道レールに対して軽快に運動することが可能な転がり案内装置を提供することにある。
すなわち、本発明の転がり案内装置において、互いに対向する軌道レール側の転走溝及び移動ブロック側の転走溝は、かかる転走溝の被形成面の法線方向に面すると共にボール球面の曲率半径よりも僅かなに大きな曲率半径で円弧状に形成された第一負荷領域と、この第一負荷領域の両側に隣接して設けられると共にボール球面の曲率半径よりも僅かなに大きな曲率半径で円弧状に形成され、かかる転走溝の被形成面の法線方向に対して傾斜して設けられた一対の第二負荷領域とから構成されており、前記移動ブロックの無負荷状態ではボールが前記第一負荷領域にのみ接触し、前記第二負荷領域との間には隙間が形成されるようになっている。
この転がり案内装置におけるボールの転走溝は、第一負荷領域とこれを挟んで存在する一対の第二負荷領域の3つの円弧領域から構成されている。前記第一負荷領域は転走溝の最深部に位置して、かかる転走溝の被形成面の法線方向に面しており、従来のサーキュラーアーク溝形状と略同様な円弧形状を有している。また、一対の第二負荷領域は前記第一負荷領域の両側に隣接すると共に該第一負荷領域に対して傾斜して設けられており、従来のゴシックアーチ溝形状と略同様な円弧状曲面の配置となっている。換言すれば、本発明の転がり案内装置におけるボールの転走溝は、1条の転走溝の内部にサーキュラーアーク溝形状とゴシックアーチ溝形状とが融合した溝形状をなしている。
移動ブロックと軌道レールとの間に何ら荷重が作用していない状態(以下、「初期状態」という)において、ボールはサーキュラーアーク溝形状に類似した第一負荷領域にのみ接しており、ゴシックアーチ溝形状に類似した第二負荷領域とボールとの間には隙間が形成されている。このため、転走溝の被形成面に対して垂直方向の荷重が作用したしとしても、かかる荷重がある程度の大きさに達するまでは、該荷重によって弾性変形したボールが第二負荷領域に接することはなく、ボールはサーキュラーアーク溝形状に類似した第一負荷領域にのみ接触し続けることになる。その結果、転走溝として単純なゴシックアーチ溝形状を採用した場合と比較して、ボールの差動すべりを抑えることができ、その分だけ軌道レールに対する移動ブロックの走行抵抗を小さくすることが可能となる。
従って、2軸の軌道レールを平行に配設してテーブル等の可動体の直線案内部を構成する場合に、これら軌道レールの間に平行度誤差が存在しても、転走溝として単純なゴシックアーチ溝形状を採用した従来の転がり案内装置と比較して、移動ブロックの走行抵抗の増加を抑えることが可能となる。
また、同じ理由から、軌道レールの両側面に形成された2条の転走溝の間に平行度誤差が存在する場合であっても、転走溝として単純なゴシックアーチ溝形状を採用した従来の転がり案内装置と比較して、移動ブロックの走行抵抗の増加を抑えることが可能となる。このことは、移動ブロックの走行性能が転走溝の加工精度に依存する割合を減じる結果を生むので、本発明の転がり案内装置では従来のそれよりも転走溝の加工精度に対する要求を緩く設定することができ、その分だけ転走溝の加工方法としてより低コストの方法を選択することが可能となる。すなわち、本発明は転がり案内装置の生産コストの低減化に資するものである。
一方、転走溝の被形成面と平行な方向、すなわち横方向の荷重がボールに作用すると、ボールが初期状態で接している第一負荷領域はサーキュラーアーク溝形状に類似していることから、ボールは荷重に押されて第一負荷領域の片側へ寄せられる。このため、ボールと該ボールが寄った方向に存在する一方の第二負荷領域との隙間が排除され、ボールは第一負荷領域だけではなく当該第二負荷領域にも接して荷重を負荷することになる。その結果、軌道レール又は移動ブロックに対するボールの接触位置の変化を抑えることができ、移動ブロックに固定した可動体を軌道レールに対して精度良く案内することが可能である。
つまり、本発明の転がり案内装置における転走溝の構造は、かかる転走溝としてゴシックアーチ溝形状を採用した場合の欠点、すなわち垂直方向の荷重に対する差動すべりの増加という問題点を克服しつつ、ゴシックアーチ溝形状を採用した場合の利点、すなわち横方向の荷重に対する負荷能力の確保を図るものであり、加えて、前述の如く、転がり案内装置の生産性の向上をも可能とするものである。
本発明を適用した転がり案内装置の実施の形態を示す正面断面図である。 図1に示す転がり案内装置の正面断面図である。 移動ブロックのトラック溝を平面上に展開した様子を示す図である。 エンドプレートを示す正面図である。 軌道レールの転走溝及び移動ブロック負荷直線溝の形状の詳細を示す図である。 第一負荷領域及び第二負荷領域の曲率中心の位置関係を示す図である。 初期状態におけるボールと転走溝及び負荷直線溝の接触状態を示す図である。 図1に示す直線案内装置において、垂直方向の荷重が作用した場合のボールと転走溝及び負荷直線溝の接触状態を示す図である。 図1に示す直線案内装置において、横方向の荷重が作用した場合のボールと転走溝及び負荷直線溝の接触状態を示す図である。
以下、添付図面を用いながら本発明の転がり案内装置を詳細に説明する。
図1及び図2は本発明の転がり案内装置の実施の形態を示すものである。この転がり案内装置は、断面略矩形状に形成された長尺な直線状の軌道レール1と、チャネル状に形成されると共に多数のボール3を介して前記軌道レール1に組付けられた移動ブロック2とから構成されており、前記移動ブロック2が軌道レール1に跨がるようにして該軌道レール1上を自在に往復運動するように構成されている。
前記軌道レール1の両側面には長手方向に沿ってボール3の転走溝10が各1条ずつ形成されている。また、これらの転走溝10よりも僅かに上方において、軌道レール1の上角部は斜めに切り欠かれており、後述する無負荷ボール補助面11が形成されている。従って、軌道レール1は前記ボール転走溝10の形成部位よりも上方では略台形状をなしている。また、軌道レール1には長手方向に所定の間隔をおいて複数のボルト取付け孔12が貫通形成されており、かかるボルト取付け孔12を利用して軌道レール1を各種機械装置のベッドやコラム等の固定部に取り付けることができるようになっている。
一方、前記移動ブロック2は基部20及びこの基部20と直交する一対のフランジ部21を有してチャネル状に形成されており、これら一対のフランジ部21の間に案内溝22を有している。そして、図1に示すように、この移動ブロック2は前記案内溝22に軌道レール1の上部を遊嵌させ、僅かな隙間を介して軌道レール1に跨がっている。すなわち、軌道レール1の両側面は移動ブロック2のフランジ部21の内側面と互いに対向している。また、前記基部20の上面はテーブル等の可動体の取付け面23となっており、かかる基部20には取付けねじを螺合させるタップ穴24が形成されている。
この移動ブロック2は前記ボール3が無限循環するトラック溝30を有している。このトラック溝30は、軌道レール1の転走溝10と対向して前記フランジ部21の内側面に形成された負荷直線溝31(本発明の「転走溝」に相当)と、この負荷直線溝31と平行に形成されると共に軌道レール1の無負荷ボール補助面11と対向して形成された無負荷直線溝32と、これら負荷直線溝31と無負荷直線溝32との間でボール3を往来させるボール偏向溝33とから構成されている。このトラック溝30はその全域において軌道レール1に向けて開放されており、トラック溝30に配列されたボール3は軌道レール1と面した状態で該トラック溝30内を循環する。
図3は前記トラック溝30を平面上に展開した様子を示すものである。ボール3は軌道レール1の転走溝10と移動ブロック2の負荷直線溝31との間で荷重を負荷しながら転動し、移動ブロック2はその移動方向以外に作用するあらゆる荷重を負荷しながら軌道レール1に沿って往復動することが可能となっている。
一方、前記トラック溝30の一部を構成する無負荷直線溝32はボール3の直径よりも僅かに大きな内径の通路として形成されており、ボール3は無負荷状態、すなわち自由に回転し得る状態のまま無負荷転走溝32内に収容されている。また、この無負荷直線溝32はその開口幅がボール3の直径よりも大きく設定されており、ボール3は軌道レール1と接触した状態で無負荷直線溝32の内部に保持されている。
また、前記ボール偏向溝33は負荷直線溝31と無負荷直線溝32とを連結する略U字状の軌道を有しており、荷重を負荷しながら負荷直線溝31を転走してきたボール3を荷重から解放すると共に、かかるボール3の転走方向を徐々に変化させ、180度方向転換させて前記無負荷直線溝32に送り込むように構成されている。
従って、移動ブロック2を軌道レール1に沿って移動させると、ボール3は移動ブロック2のトラック溝30内を循環し、これに伴って移動ブロック2が軌道レール1に沿って間断なく連続的に移動することが可能となっている。
前記移動ブロック2に対するトラック溝30の形成し易さを考慮し、図1に示されるように、かかる移動ブロック2は、ブロック本体4と、このブロック本体4の移動方向の前後両端面に固定される一対のエンドプレート5とから構成されている。すなわち、トラック溝30を構成する負荷直線溝31及び無負荷直線溝32は前記ブロック本体4に形成され、ボール偏向溝33は各エンドプレート5に形成されている。図3には、ブロック本体4とエンドプレート5との境界、つまりトラック溝30の分断面を一対の二点鎖線A,Bで示している。これら二点鎖線A,Bに挟まれた領域はブロック本体4であり、これら二点鎖線よりも外側の領域はエンドプレート5である。この図3から明らかなように、トラック溝30は、前記負荷直線溝31及び無負荷直線溝32からなる直線領域と、ボール偏向溝33からなる曲線領域に分割され、直線領域はブロック本体に、曲線領域はエンドプレートに形成される。
図4は前記エンドプレート5のブロック本体4との接触面を示す正面図である。このエンドプレート5には前記トラック溝30を構成するボール偏向溝33が一対形成されている。また、ボール偏向溝33の負荷直線溝31に対応した端部には、軌道レール1の転走溝10に入り込んで、エンドプレート5と軌道レール1の隙間を最小限に抑えるシール突起35が形成されている。各ボール偏向溝33はブロック本体4の端面に向けて開放されているため、ボール偏向溝33を具備したエンドプレート5は型成形により容易に製作することが可能である。例えば、合成樹脂の射出成形や、金属射出成形(MIM成形)、あるいは金属粉末による圧縮成形(焼結合金)を用いて製作することができる。そして、このエンドプレート5はボルト50によってブロック本体4の端面に固定され、かかるエンドプレートの固定によって移動ブロック2に前記トラック溝30が完成する。
図5は、軌道レール1の側面に配置した転走溝10とこれに対向する移動ブロック2の負荷直線溝31の形状の詳細を示す断面図である。この図において軌道レール1の長手方向は紙面に垂直な方向であり、転走溝10及び負荷直線溝31は図5に示された断面形状のまま紙面垂直方向へ連続している。
軌道レール1の転走溝10は、かかる転走溝10の最深部に位置すると共に軌道レール1の側面の法線方向に面した第一負荷領域10aと、この第一負荷領域10aの両側に隣接して配置された一対の第二負荷領域10b,10cとから構成されている。一対の第二負荷領域は第一負荷領域に対して傾斜して設けられており、第一負荷領域に接するボールを囲むように配置されている。すなわち、転走溝10は3つの円弧を合成して構成されている。これら第一負荷領域10a及び第二負荷領域10b,10cは同一の曲率半径R1で形成されており、この例ではボール3の直径Dの約55%に設定されている。尚、この曲率半径については任意に設計変更することが可能である。
但し、これら第一負荷領域10a及び第二負荷領域10b,10cの曲率中心は異なった位置に設けられており、その結果として、移動ブロック2と軌道レール1との間に何ら荷重が作用していない初期状態では、ボール3が第一負荷領域10aにのみ接触し、第二負荷領域10b,10cとボールとの間には隙間が形成されるようになっている。
図6は第一負荷領域10aの曲率中心Am及び第二負荷領域10b,10cの曲率中心Ad,Auの配置を示す詳細図である。図中の点Oは無負荷状態で第一負荷領域10aに接して転走するボール3の中心を表している。第一負荷領域10aの曲率中心Amは点Oを中心とする基準円C0上に位置している。曲率中心Amと点Oを結ぶ線分は転走溝10が形成された軌道レール1の側面と垂直な方向に合致している。ここで、前記基準円C0上に点Ad0,Au0を設定する。これらの点Ad0,Au0は第一負荷領域の曲率中心Amと点Oの中心角αの位置に設定される。そして、これら点Ad0,Au0を軌道レール1の側面に接近する方向へ距離δだけオフセット配置したものが第二負荷領域10b,10cの曲率中心Ad,Auである。すなわち、第二負荷領域10b,10cの曲率中心Ad,Auは前記基準円C0から軌道レール1の方向へ距離δだけオフセットされていることになる。これにより、初期状態では、第二負荷領域10b,10cとボール3との間にオフセット距離δに対応した隙間が発生することになる。
図6に示す例において、前記中心角αは45°に設定されている。従って、各第二負荷領域は第一負荷領域に対して45°傾斜していることになる。尚、前記中心角αは転がり案内装置の用途等に応じて適宜選択することが可能である。また、点Ad0,Au0の夫々について中心角αを別々に選択することもできる。
移動ブロック2の負荷直線溝31も軌道レール1の転走溝10と同一の形状に形成されている。すなわち、負荷直線溝は、かかる負荷直線溝31の最深部に位置する第一負荷領域31aと、この第一負荷領域31aに隣接して配置された一対の第二負荷領域31b,31cとから構成されおり、初期状態では、ボール3が第一負荷領域31aにのみ接触し、第二負荷領域31b,31cとボールとの間には隙間が形成されるようになっている。
このように3つの円弧領域から構成される軌道レール1の転走溝10及び移動ブロックの負荷直線溝31は、換言すれば、サーキュラーアーク溝形状とゴシックアーチ溝形状を複合したものと言うことができる。
図7は、初期状態におけるボール3と軌道レール1の転走溝10、ボール3と移動ブロック2の負荷直線溝31との接触状態を示す図である。図中でボール3の球面上に斜線で示した領域は、ボールが転走溝10及び負荷直線溝31と接触する領域である。また、図中の一点鎖線Lはボール3の回転軸である。前述の如く、初期状態において、ボールは転走溝10及び負荷直線溝31の第一負荷領域10a,31aにのみ接しており、第二負荷領域10b,10c,31b,31cには接していない。この接触状態は、サーキュラーアーク溝形状の転走溝に対してボールが接触している状態と類似している。このため、ボール3が第一負荷領域10a,31aを転走しても、ボール3と軌道レール1の転走溝10との間、ボール3と移動ブロック2の負荷直線溝31との間には、差動すべりが殆ど発生せず、軌道レール1に対して移動ブロック2を軽い力で移動させることが可能となっている。
一方、移動ブロック2に対して図2に示す荷重F1を作用させると、軌道レール1には両側面に1条ずつの転走溝10が形成されていることから、かかる荷重F1の作用方向の上流側に位置する転走溝10(図2の紙面左側に位置する転走溝10)を転走するボール3がこの垂直方向の荷重を負荷することになる。図8は、垂直方向(紙面左右方向)の荷重を負荷しているボール3と軌道レール1の転走溝10及び移動ブロック2の負荷直線溝31との接触状態を示す図である。図中でボール3の球面上に斜線で示した領域は、ボールが転走溝10及び負荷直線溝31と接触する領域である。また、図中の一点鎖線Lはボール3の回転軸である。
垂直方向の荷重が大きくなるにつれ、ボール3は転走溝10の第一負荷領域10aと負荷直線溝31の第一負荷領域31aとの間で押しつぶされて弾性変形し、移動ブロック2と軌道レール1との隙間Dは徐々に小さくなっていく。このため、垂直方向の荷重がある程度の大きさに達すると、ボール3は第一負荷領域10a,31aのみでなく、転走溝10の第二負荷領域10b,10c及び負荷直線溝31の第二負荷領域31b,31cにも接触し、ボール3は転走溝10と及び負荷直線溝31に対して3点ずつで接触するようになる。但し、ボール3が第二負荷領域31b,31cに接するようになっても、主として垂直方向の荷重を負荷するのは当該荷重方向と対向している第一負荷領域10a,31aであり、ボール3と第一負荷領域10a,31aの接触幅の方が第二負荷領域10b,10c,31b,31cのそれよりも明らかに大きくなっている。
前記第二負荷領域10b,10c,31b,31cは垂直方向の荷重に対して約45°傾斜していることから、これら第二負荷領域10b,10c,31b,31cとボール3との接触状態は、ゴシックアーチ溝形状の転走溝に対するボールの接触状態と類似している。このため、ボール3が第二負荷領域10b,10c,31b,31cを転走すると、ボール3と転走溝10の第二負荷領域10b,10cとの間、ボール3と負荷直線溝31の第二負荷領域31b,31cとの間には差動すべりが発生する。この差動すべりの量はボール3の回転軸Lと直交する方向における接触幅(d1−d2)に比例している。尚、ボール3は第一負荷領域10a,31aに対して赤道付近で接しているため、図7に示す場合と同様に、ボール3と第一負荷領域10a,31aとの間には差動すべりが殆ど発生していない。
このように本発明を適用した転走溝においても、従来のゴシックアーチ溝形状の転走溝と同様に、垂直方向の荷重に対してはボール3と転走溝10、あるいはボール3と負荷直線溝31との間に差動すべりが発生する。しかし、かかる垂直方向の荷重は主として第一負荷領域10a,31aによって負荷されており、前述の如く、第二負荷領域10b,10c,31b,31cとボール3との接触幅は第一負荷領域10a,31aのそれよりも小さくなっている。このため、第一負荷領域10a,31aを具備した本発明の転走溝とこれを具備しない従来のゴシックアーチ溝形状の転走溝とを比較した場合、同程度の大きさの垂直方向の荷重が作用したのであれば、本発明の転走溝10(負荷直線溝31)の方が差動すべりを小さく抑えることが可能となる。
しかも、本発明の転走溝では図6に示したオフセット距離δを任意に調整することで、初期状態におけるボール3と第二負荷領域10b,10c,31b,31cとの隙間量を自由に調整することが可能である。このため、ボールが第一負荷領域10a,31aのみに対する2点接触(図7に示す状態)から第二負荷領域10b,10c,31b,31cを含めた6点接触に変化する垂直方向の荷重の大きさを任意に調整することができるのである。
従って、複数軸の軌道レール1を平行に配設して可動体の直線案内部を構成する場合に、これら軌道レール1の平行度に誤差が存在する場合であっても、本発明の転がり案内装置を使用すれば、従来のゴシックアーチ溝形状を採用する転がり案内装置に比べ、ボール3と転走溝10(負荷直線溝31)との間における差動すべりの発生を抑えることができ、移動ブロック2に固定した可動体の走行抵抗を低減化することができるものである。
また、軌道レール1又は移動ブロック2の加工精度が悪く、軌道レール1の両側面に形成した2条の転走溝10の平行度、あるいは移動ブロック2に具備された2条の負荷直線溝31の平行度に誤差が存在する場合であっても、3つの円弧領域からなる本発明の転走溝を採用すれば、従来のゴシックアーチ溝形状を採用する転がり案内装置に比べ、ボール3と転走溝10(負荷直線溝31)との間における差動すべりの発生を抑えることができ、軌道レール1に対する移動ブロック2の走行抵抗を低減化することが可能となる。
従って、軌道レール1の転走溝10及び移動ブロック2の負荷直線溝31に関しては、研削加工による高精度の仕上げ加工が不要となり、例えば、軌道レール1の転走溝10であれば引き抜き加工や転造加工によって、また、移動ブロック2の負荷直線溝31であれば引き抜き加工や鍛造加工によって形成することが可能となり、軌道レール1及び移動ブロック2の生産コストの低下を図ることが可能となる。
一方、図9は、移動ブロック2に対して図2に示す荷重F2を作用させた際の、ボール3と軌道レール1の転走溝10及び移動ブロック2の負荷直線溝31との接触状態を示す図である。図中でボール3の球面上に斜線で示した領域は、ボールが転走溝10及び負荷直線溝31と接触する領域である。また、図中の一点鎖線Lはボール3の回転軸である。
荷重F2はボール3と第一負荷領域10a,31aとの接触方向、すなわち垂直方向に対して直交する横方向に作用することから、かかる荷重F2が移動ブロック2に対して作用すると、ボール3は第一負荷領域10a,31aの中心から変位し、移動ブロック2が軌道レール1に対して図9に示した距離mだけ押し下げられることになる。このため、転走溝10の第二負荷領域10cとボール3との隙間、負荷直線溝31の第二負荷領域31bとボール3との隙間が排除され、ボールは転走溝10に対しては第一負荷領域10aと第二負荷領域10cで接し、負荷直線溝31に対しては第一負荷領域31aと第二負荷領域31bとで接することになる。すなわち、横方向の荷重が作用すると、ボール3は初期状態の2点接触から4点接触へ移行するのである。
この例の場合、第二負荷領域10c,31bは横方向に対して45°で傾斜していることから、これら第二負荷領域10c,31bがボール3と接触することによって、ボール3と転走溝10及び負荷直線溝31との接触状態は従来のゴシックアーチ溝形状に対するものと略同等となる。従って、本発明の転がり案内装置は横方向の荷重に対しても十分な荷重負荷能力を発揮することが可能である。
横方向の荷重が作用した際に移動ブロック2が軌道レール1に対して押し下げられる距離mは、初期状態において第二負荷領域とボールとの間に形成されていた隙間量、すなわち図6に示したオフセット距離δに対応したものとなる。このため、かかるオフセット量δを適宜選択することにより、ボール3と第二負荷領域10c,31bとが接触を開始する横方向の荷重の大きさを任意に調整することができる。このことは、オフセット距離δの設定により、荷重F2の作用方向に関し、軌道レール1に対する移動ブロック2の剛性を任意に調整し得ることを意味している。
以上説明してきたように、転走溝を3つの円弧領域から形成した本発明の転がり案内装置によれば、被取付け面に対する軌道レールの取付け精度の管理や、軌道レール及び移動ブロックの加工精度の管理を容易なものとしつつ、従来のゴシックアーチ溝形状の転走溝を採用する転がり案内装置と同程度の荷重負荷能力を発揮することができるものである。

Claims (2)

  1. 長手方向に沿ってボールの転走溝が複数形成された軌道レールと、前記転走溝と対向するボールの転走溝を有し、これら転走溝の間に配置されたボールを介して前記軌道レールの長手方向へ移動自在な移動ブロックと、を備えた転がり案内装置において、
    互いに対向する軌道レール側の転走溝及び移動ブロック側の転走溝は、かかる転走溝の最深部に位置すると共にボール球面の曲率半径よりも大きな曲率半径で円弧状に形成された第一負荷領域と、この第一負荷領域の両側に隣接して設けられると共にボール球面の曲率半径よりも大きな曲率半径で円弧状に形成され、前記第一負荷領域に対して傾斜して設けられた一対の第二負荷領域とから構成され、
    前記第一負荷領域の曲率半径と前記第二負荷領域の曲率半径は同一であり、前記第二負荷領域の曲率中心は、前記第一負荷領域及び第二負荷領域を同時にボールに接触させる場合の曲率中心の位置に比べ、かかる転走溝の被形成面の法線方向へオフセットされ、
    前記移動ブロックと軌道レールとの間に荷重が作用していない状態ではボールが前記第一負荷領域にのみ接触し、前記第二負荷領域との間には隙間が形成される一方、
    前記移動ブロックと軌道レールとの間に荷重が作用している状態ではボールが前記第一負荷領域と第二負荷領域の双方に接触していることを特徴とする転がり案内装置。
  2. 前記第二負荷領域に対するボールの接触点は、ボール中心に対し、前記第一負荷領域に対するボールの接触点と約45°の角度で配置されていることを特徴とする請求項1記載の転がり案内装置。
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