JP5334994B2 - ポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の製造方法およびその凝集体 - Google Patents

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Description

本発明は、ポリ−3−ヒドロキシアルカン酸水性懸濁液からポリ−3−ヒドロキシアルカン酸凝集体を形成する方法、及びそれにより得られる凝集体に関する。
ポリ−3−ヒドロキシアルカン酸(以後、PHAと略す)は、多くの微生物種の細胞にエネルギー蓄積物質として生成、蓄積される熱可塑性ポリエステルであり、生分解性を有している。現在、環境への意識の高まりから非石油由来のプラスチックが着目されている。中でも、自然界の物質循環に取り込まれ分解生成物が有害とならないPHAの様な生分解性プラスチックが注目されており、その実用化が切望されている。特に、微生物が菌体内で生成蓄積するPHAは、自然界の炭素循環プロセスに取り込まれることから生態系への悪影響が小さいと予想されている。
微生物が生成するPHAは、通常顆粒体を形成してその微生物の菌体内に蓄積されるため、PHAをプラスチックとして利用するためには、微生物の菌体内からPHAを分離して取り出すという工程が必要である。また、プラスチックとして使用するためにはPHAの純度を高くし、菌体構成成分等の夾雑物の含有量を低くすることが望まれる。
PHA以外の生物由来成分を分解および/または除去する方法として、PHA以外の生物由来成分を物理的処理、化学的処理または生物学的処理によって可溶化させて除去する方法が提案されている。例えば、PHA含有微生物菌体を破砕する処理と界面活性剤処理を組み合わせる方法(特許文献1)、アルカリを添加し加熱処理を行った後に破砕処理を行う方法(特許文献2)などが挙げられる。その他、微生物菌体の水性懸濁液を次亜塩素酸ナトリウムや酵素などで処理してPHA以外の生物由来成分を可溶化し、PHAを得る方法(特許文献3)も提案されている。
また、PHA含有微生物の菌体を破砕もしくはPHA以外の生物由来成分を可溶化して得た水性懸濁液からPHAを取り出す手段としては、遠心分離機やろ過などの分離操作、あるいはスプレードライなどの乾燥操作が挙げられる。ただし、菌体が生産したPHA粒子をそのまま一次粒子として取り出すと、微粉が多くなり、製品としてのハンドリングが困難となるという問題を抱えている。
塩などを添加すると微細なスラリー状固液分散液中の固体粉末を凝集できることは一般に知られている。しかし、PHAに加えて、タンパク質など、破砕された細胞から漏出する細胞質成分を含む水性懸濁液から目的のPHAだけを凝集させることは極めて困難であり、いまだにその例がない。活性汚泥処理などに広く用いられる硫酸アルミニウムなどを用いても、水性懸濁液中のほぼ全ての成分を凝集させてしまうため目的物であるPHAだけを選択的に凝集させることはできない。また、高分子凝集剤などで選択的にPHAを凝集できたとしてもこれらの添加剤はPHAと分離することが困難であるため、高分子材料としての品質に影響を及ぼしてしまう。
凝集剤によらない方法としては、PHA懸濁液を加熱する方法(特許文献4)、加熱と冷却を繰り返す方法(特許文献5)などが知られていた。いずれの方法でもPHAの融点付近まで加熱するため、加熱に伴うPHAの分子量低下が懸念されていた。
一方、PHAを有機溶媒に溶解した後、溶解度の低い有機溶媒や水を添加することで、溶解したPHAを析出させる方法が知られていた。この方法によると、PHA溶液を精製できるため、最も純度の高いPHAが得られていた。このような溶媒抽出方法として、低級ケトンなどを抽出溶剤とする例(特許文献6)、テトラヒドロフランを用いる例(特許文献7)などが報告されている。PHAを溶解した有機溶媒に貧溶媒を添加すれば、PHAを析出させることができ、添加する溶媒種や、温度や添加量などの添加条件や、添加時の攪拌条件などにより析出体の形状や大きさを比較的任意にコントロールすることが可能であった。
このように有機溶媒からPHAを析出させることで析出物の形状や大きさをコントロールできる点は、水溶性溶媒を用いて精製したPHAに微粉が多いという課題に対して非常に有効なものであった。しかし、抽出する際に大量の有機溶媒を使用する点や、そもそも分解性の高いPHAを溶解させるためにこれを加熱すると、精製工程においてPHAの分子量が低下してしまう点など根本的な課題を抱えていた。
このように、微生物が産生するPHAを工業的に分離・精製する際、菌体構成成分に由来する夾雑物を低減しつつ、環境に配慮し、かつ、生産性よく任意の体積平均粒径のPHA粒子を得ることが出来ないという問題が存在していた。さらに、PHA粒子の凝集を支配しているパラメータが不明であったために、この課題の解決策の提示はより困難を極めていた。
特表平08−502415号公報 国際公開第2004/065608号 特開2005−348640号公報 特表2000−502399号公報 特表2002−517582号公報 特表平10−504460号公報 特開平07−79788号公報
本発明は、微生物が産生するPHAを工業的に分離・精製するに際し、菌体構成成分に由来する夾雑物を低減しつつ、有機溶媒の使用量を抑制し、塩や高分子凝集剤などの添加や高温処理を行わず、かつ、生産性よく任意の体積平均粒径のPHA粒子を得ることを課題とする。
本発明者らは、PHAを含む水性懸濁液のpHを酸性領域に調整することで、PHAの融点付近まで加熱することなく比較的低温で塩や高分子凝集剤などの添加をせずともPHAが凝集することを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、PHA水性懸濁液のpHを酸性領域に調整して、PHAの凝集体を得ることを特徴とする、PHAの製造方法に関する。
本発明では、酸性領域がpH2以上の酸性領域であることが好ましい。
本発明では、PHA水性懸濁液中に存在する有機窒素量がPHA重量当たり6000ppm以下であることが好ましい。
本発明では、PHA水性懸濁液に含まれる溶媒が、水、水と相溶性のある有機溶媒、又は、水と前記有機溶媒との混合溶媒を含むことが好ましい。
本発明では、PHAが、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシバレレート、3−ヒドロキシヘキサノエート、3−ヒドロキシヘプタノエート、および3−ヒドロキシオクタノエートからなる群より選択される2種以上の3−ヒドロキシアルカン酸から構成される共重合体であることが好ましい。
本発明では、PHAが、3−ヒドロキシヘキサノエートと3−ヒドロキシブチレートの2成分共重合体、または3−ヒドロキシヘキサノエートと3−ヒドロキシブチレートと3−ヒドロキシバレレートの3成分共重合体であることが好ましい。
本発明では、PHAが、微生物を用いて産出されることが好ましい。
本発明では、微生物が、アエロモナス属、アルカリゲネス属、ラルストニア属、または、カプリアビダス属に属する微生物であることが好ましい。
本発明では、微生物が、カプリアビダス・ネケータであることが好ましい。
また本発明は、上記方法で製造される有機窒素量が500ppm以下であるPHA凝集体にも関する。
前記PHA凝集体は、体積平均粒径が20μm以上であることが好ましい。
本発明によると、微生物が産出したPHAを有機溶媒による抽出操作によらず精製することができ、しかも、塩や高分子凝集剤などの第三成分を添加せず、PHAの融点よりも低い温度でPHAを凝集させることができる。菌体構成成分の混入を防ぎつつ、生産性よく、微粉の少ないPHA凝集体を得ることができる。得られるPHA凝集体は、第三物質添加による品質への影響を懸念する必要がなくなり、また、加熱によるPHAの分子量低下を避けることができる。
本発明に用いる微生物は、細胞内にPHAを生成する微生物である限りにおいて、特に限定されない。天然から単離された微生物や菌株の寄託機関(例えばIFO、ATCC等)に寄託されている微生物、または、それらから調製し得る変異体や形質転換体等を使用できる。例えばカプリアビダス(Cupriavidus)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、ラルストニア(Ralstonia)属、シュウドモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、アゾトバクター(Azotobacter)属、ノカルディア(Nocardia)属、アエロモナス(Aeromonas)属の菌等が挙げられる。なかでも、アエロモナス属、アルカリゲネス属、ラルストニア属、または、カプリアビダス属に属する微生物が好ましい。特に、アルカリゲネス・リポリティカ(A.lipolytica)、アルカリゲネス・ラトゥス(A.latus)、アエロモナス・キャビエ(A.caviae)、アエロモナス・ハイドロフィラ(A.hydrophila)、カプリアビダス・ネケータ(C.necator)等の菌株がより好ましく、カプリアビダス・ネケータが最も好ましい。また、微生物が、本来PHAの生産能力を有しない場合、もしくは生産量が低い場合には、該微生物に目的とするPHAの合成酵素遺伝子および/またはその変異体を導入し、得られる形質転換体を用いることもできる。このような形質転換体の作製に用いるPHAの合成酵素遺伝子としては特に限定されないが、アエロモナス・キャビエ由来のPHA合成酵素の遺伝子が好ましい。これら微生物を適切な条件で培養することで、菌体内にPHAを蓄積した微生物菌体を得ることができる。その培養方法については特に限定されないが、例えば特開平05−93049号公報等に記載された方法が用いられる。
本発明におけるPHAとは、3−ヒドロキシアルカン酸をモノマーユニットとする重合体の総称である。構成する3−ヒドロキシアルカン酸としては特に限定されないが、具体的には、3−ヒドロキシブチレート(3HB)と他の3−ヒドロキシアルカン酸との共重合体、または、3−ヒドロキシヘキサノエート(3HH)を含む3−ヒドロキシアルカン酸の共重合体などが挙げられる。さらに、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシバレレート、3−ヒドロキシヘキサノエート、3−ヒドロキシヘプタノエート及び3−ヒドロキシオクタノエートからなる群より選択される2種以上の3−ヒドロキシアルカン酸をモノマーユニットとする共重合体なども挙げられる。なかでもモノマーユニットとして3HHを含む共重合体、例えば、3HBと3HHとの2成分共重合体(PHBH)(Macromolecules, 28, 4822-4828 (1995))、または、3HBと3−ヒドロキシバレレート(3HV)と3HHとの3成分共重合体(PHBVH)(特許第2777757号公報、特開平08−289797号公報)が、得られるポリエステルの物性の面からより好ましい。ここで3HBと3HHの2成分共重合体PHBHを構成する各モノマーユニットの組成比については特に限定されるものではないが、全モノマーユニットの合計を100モル%とした時に、3HHユニットが1〜99モル%、好ましくは1〜50モル%、より好ましくは1〜25モル%といった組成比が好適である。また、3HBと3HVと3HHとの3成分共重合体PHBVHを構成する各モノマーユニットの組成比については特に限定されるものではないが、全モノマーユニットの合計を100モル%とした時に、例えば、3HBユニットの組成比は1〜95モル%、3HVユニットの組成比は1〜96モル%、3HHユニットの組成比は1〜30モル%といった範囲が好適である。
本発明において凝集工程の実施にあたり、PHA水性懸濁液のpHを酸性領域に調整するため、PHA水性懸濁液に酸を添加する。このために使用する酸は特に限定されず、有機酸、無機酸のいずれでもよく、揮発性の有無は問わない。また、例えば、硫酸、塩酸などの強酸、リン酸や酢酸などの弱酸いずれも使用できる。また、凝集に際してPHA水性懸濁液のpHを、好ましくはpH2以上の酸性領域、より好ましくはpH3以上の酸性領域、さらに好ましくはpH4以上の酸性領域とする。また、好ましい酸性領域の上限は、pH7以下の酸性領域、より好ましくはpH6以下の酸性領域、さらにより好ましくはpH5以下の酸性領域である。また、得られるPHA凝集体の粒度をより高めるために、凝集工程の際に加熱操作を実施することができる。その際の加熱温度は特に限定されないが、PHAの融点より低いものであり、PHAの融点より5℃以上低いことが好ましく、10℃以上低いことがより好ましく、20〜30℃低いことがさらに好ましい。PHAの分子量低下を抑止するため、より低い温度が望ましい。具体的には、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。加熱温度の下限は特に限定されないが、より大きい粒径の凝集体を製造するため、20℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましい。装置サイズや能力により昇温に必要な時間は異なるが、PHAが凝集し粒度が高まる温度に到達するまで十分に加熱する必要がある。加熱時間は、前記加熱温度に達してから、概ね5時間以下、好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下、さらにより好ましくは30分以下である。少なくとも1秒間以上の加熱が好ましい。また、PHA水性懸濁液中のPHA濃度に関しても特に限定されないが、攪拌する際にはその影響などを考慮して、好ましくは40重量%以下、より好ましくは20重量%以下、さらにより好ましくは10重量%以下である。PHA濃度の下限は特に限定されないが、凝集を効率よく行うため、1重量%以上が好ましい。これらの操作は連続式でもバッチ式でもよい。また、水性懸濁液を攪拌してもよいし、撹拌しなくともよい。本発明における凝集とは、PHA粒子の体積平均粒径が、凝集操作前のPHA体積平均粒径に対して5倍以上、望ましくは10倍以上、より望ましくは15倍以上となることを指している。
本発明における水性懸濁液に含まれる溶媒は、水、水と相溶性のある有機溶媒、又は、水と前記有機溶媒との混合溶媒を含むものであってもよい。前記有機溶媒は1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、水と前記有機溶媒との混合溶媒中の前記有機溶媒の濃度としては、使用する有機溶媒の水への溶解度以下であれば特に限定されない。また、水と相溶性のある有機溶媒としては特に限定されるものではないが、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、iso−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、ジメチルホルムアミド、アセトアミドなどのアミド類、ジメチルスルホキシド、ピリジン、ピペリジンなどが挙げられる。なかでも、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、iso−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、プロピオニトリルなどが除去の容易さの面などから好適である。さらに、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、iso−ブタノール、アセトンなどが入手容易であることからより好ましい。さらに好ましくは、メタノール、エタノール、アセトンである。なお、本発明の本質を損なわない限り、他の溶媒や菌体由来の成分および精製時に発生する化合物を含んでいても構わない。
PHA水性懸濁液のpHを酸性領域に調整することでPHAを凝集させる凝集工程の前に、予め、PHA水性懸濁液に含まれている不純物(特にPHA以外の生物由来成分や培養基質由来成分)を分解および/または除去する工程を実施することにより、PHA水性懸濁液中の有機窒素量を低減することが好ましい。これにより、後の凝集工程でPHAが効率よく凝集し、精製度の高いPHAの取得が助長される。不純物の分解および/または除去の目安としてはPHA水性懸濁液中に含まれるPHA重量あたりの有機窒素量で表記できる。当該有機窒素量は、好ましくはPHA重量当たり6000ppm以下、より好ましくは4000ppm以下、さらに好ましくは2000ppm以下、さらにより好ましくは1500ppm以下、最も好ましくは1000ppm以下である。
本発明においてPHA以外の生物由来成分等の不純物を分解および/または除去する前に、予め、PHAを含有する細胞を物理的処理、化学的処理もしくは生物学的処理によって破砕することが好ましい。これにより、後の分解および/または除去工程を効率的に実施することができる。破砕の方法としては特に限定されないが、従来公知のフレンチプレスやホモジナイザー、X−プレス、ボールミル、コロイドミル、DYNOミル、超音波ホモジナイザーなどの、流体せん断力や固体せん断力、磨砕を利用した方法が使用しうる。また、酸やアルカリ、界面活性剤、有機溶剤、細胞壁合成阻害剤などの薬剤を用いる方法、リゾチーム、ペクチナーゼ、セルラーゼ、チモリアーゼなどの酵素を用いる方法、超臨界流体を用いる方法や、浸透圧破砕法、凍結法、乾燥粉砕法などが挙げられる。また、細胞自身に含まれるプロテアーゼやエステラーゼなどの作用を利用する自己消化法も破砕法の一種として挙げられる。上記破砕方法においては、一連の処理によるPHAの分子量低下を抑える方法を選択することが望ましい。また、これらの破砕方法は単独で用いても良いし、複数の方法を組み合わせても良い。また、バッチ処理でも良いし、連続処理を行っても良い。
通常、上記方法にてPHA含有菌体を破砕して得たPHA水性懸濁液には、細胞中のタンパク質や核酸、脂質、糖成分およびその他の菌体構成成分や、培養基質残分などが混入している。以降に述べる分解および/または除去工程の前に、これらのタンパク質等を含む水を分離する脱水工程を実施することが好ましい。これにより、PHA水性懸濁液に含まれる不純物の量を低減し、後の分解および/または除去工程を効率よく実施することができる。脱水の方法としては特に限定されないが、ろ過や遠心分離、沈降分離による方法が挙げられる。分解および/または除去工程に供する水性懸濁液中のPHAの濃度は特に限定されないが、50g/L以上が好ましく、100g/L以上がより好ましく、さらに好ましくは200g/L以上、さらにより好ましくは300g/L以上である。また、水性懸濁液中のPHAの濃度を調整することを目的に、上記脱水工程を実施してもよい。
PHA以外の生物由来成分等の不純物を分解および/または除去する方法としては、特に限定されないが、例えば酵素を用いる方法を挙げることができる。使用する酵素としては、蛋白質分解酵素、脂質分解酵素、細胞壁分解酵素、核酸分解酵素等が挙げられる。これらの酵素の具体例としては下記のものが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
(1)蛋白質分解酵素
エスペラーゼ、アルカラーゼ、ペプシン、トリプシン、パパイン、キモトリプシン、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ等
(2)脂質分解酵素
リパーゼ、ホスホリパーゼ、コリンエステラーゼ、ホスファターゼ等
(3)細胞壁分解酵素
リゾチーム、アミラーゼ、セルラーゼ、マルターゼ、サッカラーゼ、α−グリコシダーゼ、β−グリコシダーゼ、N−グリコシダーゼ等
(4)核酸分解酵素
リボヌクレアーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ等
PHA以外の生物由来成分等の不純物の分解に用いられる酵素は、上記のものに限定されるわけではなく、工業的な製品に用いられ得るものであれば、生物由来成分を分解する活性を有する任意の酵素であってよい。また、一般に市販されている洗濯用酵素洗剤等も用いることができる。さらには、例えば、酵素の安定化剤や再汚染防止剤等と酵素とを含有する酵素組成物であってもよく、酵素のみには限定されない。好ましい蛋白質分解酵素としては、上記例示に含まれるもののうち、プロテアーゼA、プロテアーゼP、プロテアーゼN(以上、天野エンザイム社製)、エスペラーゼ、アルカラーゼ、ザビナーゼ、エバラーゼ(以上、ノボザイム社製)等が工業的に使用可能なものとして挙げられ、分解活性の点からも好適に使用できる。しかし、これらに限られるものではない。
酵素処理時間は、所望の処理度を達成するまで行うのが好ましく、通常0.5〜2時間である。酵素の使用量は、酵素の種類及び活性に依存し、特に制限はされないが、PHA100重量部に対して、0.001〜10重量部が好ましく、さらにはコストの点から0.001〜5重量部がより好ましい。
PHA以外の生物由来成分等の不純物を分解するその他の方法としては、次亜塩素酸や過酸化水素を用いる方法が挙げられる。次亜塩素酸を用いる際は、系のpHをアルカリ領域とし、熱や光、金属との接触を抑制した条件で実施することで、塩素残量の低いPHAを得ることができる。pHは8以上が望ましく、より望ましくは10以上、さらに望ましくは12以上である。処理温度は40℃以下が望ましく、より望ましくは30℃以下であり、さらに望ましくは20℃以下、確実に効果を発揮するためには10℃以下で実施することが望ましい。
上述したように前記脱水工程では、PHAと、それ以外の生物由来成分等の不純物を含む水を分離するために、ろ過や遠心分離等を実施することができる。ろ過の方法は特に制限がないが、ヌッチェなどを用いる方法や、吸引ろ過や加圧ろ過などの方法が望ましい。工業的にはフィルタープレス、チューブプレス、プレートプレス、ゲージプレス、ベルトプレス、スクリュープレス、円板プレスなどの圧搾機能を有したろ過装置や、遠心脱水機、多室円筒ろ過機なども選択可能である。生産性を高める場合には多室円筒ろ過機などの連続式が望ましい。連続式ろ過機の粒子の除滓方法として、ストリング方式、スクレパー方式、プレコートスクレパー方式などが挙げられる。また、膜分離方式を用いてもよい。膜分離を含めたろ過の方法としては、デッドエンドろ過、クロスフローろ過を選択することができる。いずれもろ過性やろ材、膜などへの閉塞の程度などから選択できる。また減圧、あるいは真空にしてもよいし、加圧してもよい。また、遠心力を用いる方法であってもよい。ろ材としては、紙、織布、不織布、スクリーン、焼結板、素焼、高分子膜、パンチングメタル、ウェッジワイヤーなど様々な素材を選択できる。いずれも生産性や閉塞の程度などから選択できる。また、ろ過助剤を用いてもよいし、用いなくともよい。ろ過助剤を用いる場合にも、ろ材に予めプレコートしておく方法(プレコート方式)、ろ過原液に予め添加しておく方法がある(ボディーフィード法)。
前記脱水工程での遠心分離の方法は特に限定されないが、遠心沈降機や遠心脱水機等を使用できる。遠心沈降機であれば分離板型、円筒型、デカンター型が挙げられる。分離板型であれば、ディスク型、セルフクリーニング型、ノズル型、スクリューデカンター型、スキミング型などが挙げられる。それぞれ沈降成分の排出の方法により回分式と連続式がある。また遠心脱水機についても回分式と連続式が挙げられる。これらの機器によって比重差により、PHAを含む沈降物と、培養液成分とを分離することが可能である。
前記脱水工程で使用可能な他の方法としてはフローテーション法、電気泳動法、サイクロン処理などが挙げられる。ろ過や遠心分離、またフローテーションなどの方法を単独で用いてもよいし、組み合わせてもよい。
前記脱水工程でろ過や遠心分離などの方法でPHAを回収した後、回収したPHAを水等で洗浄することで、更に精製度を高めたPHAを得ることができる。洗浄は水以外にも有機溶媒を使用してもよいし、水と有機溶媒を混合して用いても良い。また水のpHを調整してもよい。有機溶媒を洗浄溶媒として用いる場合、好ましくは、親水性溶媒、具体的にはメタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ケトン類、アミン類などを用いる。また界面活性剤などを水に添加してもよい。これらの有機溶媒や水を複数種類混合して用いてもよい。また、短時間であれば水やこれらの有機溶媒を加温あるいは蒸気として噴霧することで洗浄性を高めることもできる。
以上説明したとおり、本発明の最も好適な態様によると、細胞内にPHAを生成する能力を有する微生物を培養する培養工程、PHAを含有する前記微生物を破砕する破砕工程、破砕した微生物を含む水性懸濁液から水を分離する脱水工程、不純物を分解および/または除去する精製工程、PHAを洗浄する洗浄工程、及び得られたPHA水性懸濁液のpHを酸性領域に調整してPHA凝集体を得る凝集工程を順次実施することにより、PHAの凝集体を効率よく製造することができる。しかし本発明は必ずしも上記すべての工程を実施することを必要とするものではない。
このようにして菌体由来および培養基質由来の不純物を分解および/または除去する精製工程、および/または、洗浄工程を実施した後に、本発明の凝集工程を行なうことで精製度の高いPHA凝集体を取得できる。また、必要に応じて、得られた凝集体を上記に挙げた洗浄方法にてさらに洗浄することで、より精製度の高いPHA凝集体を取得することができる。
以上より、有機窒素量が500ppm以下、好ましくは400ppm以下、より好ましくは300ppm、さらに好ましくは200ppm以下、特に好ましくは100ppm以下のPHA凝集体を製造することが可能となった。また、以上により、微粉の少ないPHA凝集体を得ることができる。得られるPHA凝集体の体積平均粒径は、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは100μm以上である。上限は特に限定されないが、本発明により体積平均粒径が約5000μm程度以下のPHA凝集体を得ることができる。
このようにして作成された有機窒素含量の低いPHA凝集体は、体積平均粒径の観点からも加工しやすい。また、不純物も少ないため様々な用途、例えばフィルムやボトルなど汎用品は勿論のこと、低アレルゲンであるため医療用としても幅広い応用が期待できる。
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
(PHA水性懸濁液中の有機窒素量(PHA重量あたり)の算出法)
PHA水性懸濁液中の水溶性溶媒を全量蒸発させ残存する固形分を得た。この固形分に対して5MのNaOHを添加し、95℃で加水分解反応を実施した。この加水分解液を等量の60%酢酸水溶液で中和し、酢酸緩衝液とニンヒドリン溶液を添加し100℃で呈色反応を行った。この呈色反応液の吸光度を日立製作所社製レシオビーム分光光度計U−1800形により測定した。この吸光度と、ロイシン試料を用いて作成した検量線とを比較することで、固形分中の有機窒素量を算出した。固形分の重量あたりの有機窒素量をもって、PHA水性懸濁液中の有機窒素量(PHA重量あたり)とした。
(PHA凝集体中の有機窒素量(PHA重量あたり)の算出法)
PHA凝集体に対して5MのNaOHを添加し、95℃で加水分解反応を実施した。この加水分解液を等量の60%酢酸水溶液で中和し、酢酸緩衝液とニンヒドリン溶液を添加し100℃で呈色反応を行った。この呈色反応液の吸光度を日立製作所社製レシオビーム分光光度計U−1800形により測定した。この吸光度と、ロイシン試料を用いて作成した検量線とを比較することで、PHA凝集体中の有機窒素量を算出した。PHA凝集体の重量あたりの有機窒素量をもって、PHA凝集体中の有機窒素量(PHA重量あたり)とした。
(実施例1)菌体培養液の調製
国際公開第2008/010296号[0049]に記載のラルストニア・ユートロファKNK−005株を、同[0050]−[0053]に記載の方法で培養し、PHAを含有する菌体を含む菌体培養液を得た。なお、ラルストニア・ユートロファは、現在では、カプリアビダス・ネケータに分類されている。
(実施例2)滅菌の方法
実施例1で得られた菌体培養液を内温60〜80℃で20分加熱・攪拌処理し、滅菌処理を行った。
(実施例3)
実施例2で得られた滅菌済みの菌体培養液に対して0.2%重量のドデシル硫酸ナトリウムを添加した。さらに、pHが11.0になるように水酸化ナトリウムを添加した後、50℃で1時間保温した。その後、高圧破砕機(ニロソアビ社製高圧ホモジナイザーモデルPA2K型)で450〜550kgf/cm2の圧力で高圧破砕を行った。
高圧破砕後の破砕液に対して等量の蒸留水を添加した。その後、高圧破砕後の破砕液を遠心分離した後、上清を排除した(3倍濃縮)。3倍濃縮したPHAの水性懸濁液に、排除した上清と同量の水を添加して、懸濁し、0.2%重量のドデシル硫酸ナトリウムと、PHAの1/100重量のプロテアーゼ(ノボザイム社製、エスペラーゼ)を添加し、pH10で50℃に保持したまま、2時間攪拌した。その後、PHA濃度が10重量%になるように調整した。得られたPHA水性懸濁液中に存在する有機窒素量は、PHA重量当たり3415ppmであった。
このPHA水性懸濁液のpHを、硫酸を用いて3、4、5、6又は7に調整し、撹拌しながら温度を30℃、50℃又は70℃に調整して凝集させた。なお加熱時間は60分であった。得られた凝集体の体積平均粒径を、粒度測定装置(島津製作所製、SALD−300V型)を使って測定した。結果を表1に示した。これより、PHA水性懸濁液のpHをより強酸性にするほど、より低温でもPHAが凝集しやすいことが分かった。
Figure 0005334994
(実施例4)
実施例2で得られた滅菌済みの菌体培養液に対して0.2%重量のドデシル硫酸ナトリウムを添加した。さらに、pHが11.0になるように水酸化ナトリウムを添加した後、50℃で1時間保温した。その後、高圧破砕機(ニロソアビ社製高圧ホモジナイザーモデルPA2K型)で450〜550kgf/cm2の圧力で高圧破砕を行った。
高圧破砕後の破砕液に対して等量の蒸留水を添加した。その後、高圧破砕後の破砕液を遠心分離した後、上清を排除した(2倍濃縮)。2倍濃縮したPHAの水性懸濁液に、排除した上清と同量の水を添加して遠心分離し、上清を排除してから再度水を添加して懸濁し、0.2%重量のドデシル硫酸ナトリウムと、PHAの1/100重量のプロテアーゼ(ノボザイム社、エスペラーゼ)を添加し、pH10で50℃に保持したまま、2時間攪拌した。その後、PHA濃度が10重量%になるように調整した。得られたPHA水性懸濁液中に存在する有機窒素量は、PHA重量当たり5486ppmであった。
このPHA水性懸濁液のpHを、硫酸を用いて4に調整し、撹拌しながら温度を70℃に調整して30分かけて凝集させた。得られた凝集体の体積平均粒径を、粒度測定装置(島津製作所製、SALD−300V型)を使って測定したところ、凝集操作前の体積平均粒径が1.5μmに対し、凝集操作後の体積平均粒径は218.2μmであった。さらに得られた凝集体をpH11.5のアルカリ水およびメタノールで洗浄した。洗浄後のPHA凝集体の有機窒素量はPHA当たり426ppmであった。これにより、有機窒素量500ppm以下のPHA凝集体を取得することができた。

Claims (11)

  1. 細胞内にポリ−3−ヒドロキシアルカン酸を生成する能力を有する微生物を培養する培養工程、及び、ポリ−3−ヒドロキシアルカン酸以外の不純物を分解および/または除去する精製工程を実施することでポリ−3−ヒドロキシアルカン酸水性懸濁液を得、当該ポリ−3−ヒドロキシアルカン酸水性懸濁液中に存在する有機窒素量がポリ−3−ヒドロキシアルカン酸重量当たり6000ppm以下であるポリ−3−ヒドロキシアルカン酸水性懸濁液のpHを酸性領域に調整して、ポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の凝集体を得ることを特徴とする、ポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の凝集体の製造方法。
  2. 酸性領域がpH2以上の酸性領域である請求項1記載のポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の凝集体の製造方法。
  3. 酸性領域がpH3以上の酸性領域である請求項2記載のポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の凝集体の製造方法。
  4. ポリ−3−ヒドロキシアルカン酸水性懸濁液中に存在する有機窒素量がポリ−3−ヒドロキシアルカン酸重量当たり4000ppm以下である請求項1〜3のいずれかに記載のポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の凝集体の製造方法。
  5. ポリ−3−ヒドロキシアルカン酸水性懸濁液に含まれる溶媒が、水、水と相溶性のある有機溶媒、又は、水と前記有機溶媒との混合溶媒を含む請求項1〜のいずれかに記載のポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の凝集体の製造方法。
  6. ポリ−3−ヒドロキシアルカン酸が、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシバレレート、3−ヒドロキシヘキサノエート、3−ヒドロキシヘプタノエート、および3−ヒドロキシオクタノエートからなる群より選択される2種以上の3−ヒドロキシアルカン酸から構成される共重合体である請求項1〜のいずれかに記載のポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の凝集体の製造方法。
  7. ポリ−3−ヒドロキシアルカン酸が、3−ヒドロキシヘキサノエートと3−ヒドロキシブチレートの2成分共重合体、または3−ヒドロキシヘキサノエートと3−ヒドロキシブチレートと3−ヒドロキシバレレートの3成分共重合体である請求項に記載のポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の凝集体の製造方法。
  8. 微生物が、アエロモナス属、アルカリゲネス属、ラルストニア属、または、カプリアビダス属に属する微生物である請求項1〜7のいずれかに記載のポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の凝集体の製造方法。
  9. 微生物が、カプリアビダス・ネケータである請求項記載のポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の凝集体の製造方法。
  10. 微生物が形質転換体である請求項1〜9のいずれかに記載のポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の凝集体の製造方法。
  11. 微生物が、アエロモナス・キャビエ由来のポリ−3−ヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子および/またはその変異体が導入された形質転換体である請求項10記載のポリ−3−ヒドロキシアルカン酸の凝集体の製造方法。
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