JP5333886B2 - マグネシウム系生分解性金属材料 - Google Patents
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Description
さらに詳しくは、本発明は、強度−延性バランスが高く維持されたまま、生体内に埋入後の分解速度を制御することができるマグネシウム系生分解性金属材料と、それから構成される医療用インプラント・デバイスに関するものである。
これは、このようなデバイスに用いられる生体用金属材料が、高分子材料およびセラミックス材料と比較して力学特性に優れているからである。
このような従来の人工歯根、人工股関節、骨折固定治具、ステント等の金属製生体用デバイスは、体内埋入後は手術等により抜去されるまで体内に残存することになるが、デバイスによっては、周辺組織の修復後に速やかに除去されることが望ましいものもある。
しかしながら、除去には開胸手術が求められ、患者に肉体的、精神的、時間的、金銭的な大きな負担を与えるため、ほとんどの場合体内に残されたままである。
このような場合、デバイスを構成する金属材料と生体組織の力学特性が異なるため、心臓の拍動の度にデバイス周辺の血管組織に力学的刺激を加え、結果として内膜肥厚による再狭窄を誘発させてしまうと考えられている。
また、骨折固定治具についても、再手術による除去を行わない例も多いが、骨よりも強度に優る金属製固定治具により荷重が支持されるため、骨に十分な荷重が加わらず適切な骨修復が行われないケースも報告されている。
しかしながら、高分子あるいはセラミックスからなる生分解性材料は、力学特性等の点において、金属製生体用デバイスの代替となり得ない場合があった。
一方で、生体内で分解される金属材料からなるインプラント・デバイスが提案されてもいる(例えば、特許文献1および2参照)。
そして、特許文献2の金属材料は、その分解速度については一切考慮しておらず、生体内での用途が限定されるとともに、インプラント・デバイスの設計が困難となるという問題があった。
一方の特許文献1の金属材料は、その材料の厚みを調整することで腐食速度を制御するものであるが、得られるインプラント・デバイスはその厚み等の形状が腐食速度により制限されてしまうという問題が生じる。
たとえば、短期間で腐食を完了させるためにはインプラント・デバイスの厚みを薄くする必要があるが、厚みの減少によって強度が低下してしまい、インプラント・デバイスを金属材料で作製するメリットが少なくなるという問題があった。
すなわち、その分解速度がインプラント・デバイスの目的に合わせて最適化されているとは言い難く、特許文献2の金属材料と同様に、実用には様々な問題を抱えているものである。
また、従来の一般的なマグネシウム合金は、主として過飽和な異種元素の組み合わせによる粗大金属間化合物の晶出や析出を利用するか、または高濃度の析出物を均一分散させることにより、高強度化を実現させていた。
しかしながら、そのような従来のマグネシウム合金は、金属間化合物の分散強化に依存しているため延性に乏しいという欠点があった。
また、そのようなマグネシウム合金をマグネシウム系生分解性金属材料として使用すると、生体環境下で分解する可能性の低い金属間化合物が微粒子として体内に残留し、生体の炎症反応や抹消血管の閉塞を惹起する恐れがあった。さらに、合金元素の添加濃度が高くなるにつれ主成分とするマグネシウムではなく、添加元素が溶出して生成されるイオンまたは化合物の毒性が現われる恐れがあった。
さらに、希土類元素など、人類の利用経験が浅い元素については、ヒトを始めとする哺乳類への影響はほとんど調べられておらず、その生体毒性は未知である。
元素の金属結合半径は例えば日本化学会編、化学便覧 基礎編改訂5版(丸善、東京、2004)に、マグネシウムに対する固溶限界濃度は、例えばBinary Alloy Phase Diagrams Second edition,Plus Updates Version 1.0(ASM International、1996)に記述されている。
元素の金属結合半径は例えば日本化学会偏、化学便覧 基礎編改訂5版、丸善、東京、2004に、マグネシウムに対する固溶限界濃度は、例えばBinary Alloy Phase Diagrams Second edition,Plus Updates Version 1.0(ASM International、1996)に記述されている。
経口投与による過剰症は確認されておらず、生体為害性の低い元素であり、生体内で分解されてマグネシウムイオンおよび分解化合物が生成しても、生体為害性を示す可能性は非常に低い。
また、体液のように塩類等の存在する水溶液中では耐食性に劣るため、腐食する。
そのため、本発明のようなほぼ純マグネシウムからなるマグネシウム系生分解性金属材料には、医療用生分解金属材料として利用されるべく開発されている。
しかしながら、単純な純マグネシウムの機械的特性は、作製するデバイスによっては必ずしも十分ではない。
特に、荷重を支える骨等の代替となるデバイスは、いわば生体用構造材料として使用されるため、高強度であることは勿論、高延性も求められる。
同時に、生体内で所望の期間荷重を支えるため、分解速度をも制御可能である必要がある。
そこで、本発明の医療用生分解金属材料では、他の元素の添加により合金化したり、結晶組織の粒径を微細に制御し、かつ、第二成分の結晶粒界への偏在濃度を制御することにより、強度−延性バランス等の機械的特性を確保するとともに、体内での分解速度を制御できるようにした。
マグネシウム及びその合金の結晶粒径を変化させると、その機械的特性および分解速度等が変化する。表1に示した結晶粒径の異なるマグネシウム系生分解性金属材料の機械的特性値から、結晶粒微細化による高強度化の効果は明らかである。
また、結晶粒径が小さくなると、耐食性に影響を及ぼす結晶粒界が増えるため、分解速度が大きくなる傾向がある。図1および表3に示した結晶粒径の異なるマグネシウム系生分解性金属材料の分解速度の値から、5μmまでは結晶粒微細化により分解速度が高くなる傾向が明らかである。1μm材については、5μm材よりも分解速度が減少しているが、これはある限界値よりも結晶粒径が小さくなると、結晶粒界の影響が及ぶ範囲が結晶粒内の全ての領域に達するため、結果的に試料全体が均質化されるためと考えられる。
以上のように、結晶粒径を制御することにより、マグネシウム系生分解性材料の機械的特性・分解速度を制御することが可能である。
ステントなどの小さなデバイスを考えた場合、その厚さが数百μmであるのにあまり結晶粒径が大きいと、断面当たりの結晶粒の数が少なくなる。そうすると、個々の結晶の機械的特性の異方性が部材の強度特性に反映されることになり、荷重の作用する方向に対し、最も強度が低い結晶の変形がデバイスの強度を左右する。しかし、断面当たり結晶粒の数が多くなると、個々の結晶の特性は相殺され、平均化した機械的特性が得られるようになる。
これらのことから、微小部材に適用するためには、結晶粒径があまり大きすぎることは好ましくない。ステントの厚さが200μm程度であることを考えると、取りうる粒径の最大値は50μm以下と考えられる。ミニ・マイクロプレートシステム等では、厚さが0.8-4mm程度であるので、取りうる粒径の最大値は200μm以下と考えられる。
そして、上記の第二成分は、より好ましくはその元素のマグネシウムに対する固溶限界濃度の1/4以下含有されている。
そして、上記の第二成分は、より好ましくはマグネシウムに対してほとんど固溶しない元素や生体為害性の明らかな元素を除いたAu、Ir、Pd、Mn、Zr、Bi、Co、Zn、Pu、Ga、Ag、Al、Li、Ce、Pr、La、Th、Nd、Ca、Yb、Rb、Y、Gd、Dy、Ho、Tm、Er、Lu、Sc又はInの中の何れか1元素とすることができる。
第二成分についてより具体的に説明すると、0.03原子%以下のCe、0.03原子%以下のPr、0.033原子%以下のAu、0.043原子%以下のIr、0.047原子%以下のLa、0.067原子%以下のPd、0.17原子%以下のTh、0.21原子%以下のNd、0.3原子%以下のCa、0.3原子%以下のMn、0.35原子%以下のZr、0.37原子%以下のBi、0.4原子%以下のYb、0.47原子%以下のRb、0.64原子%以下のCo、0.8原子%以下のZn、0.8原子%以下のPu、1.0原子%以下のGa、1.3原子%以下のY、1.3原子%以下のAg、1.5原子%以下のGd、1.6原子%以下のDy、1.8原子%以下のHo、2.1原子%以下のTm、2.4原子%以下のEr、3.0原子%以下のLu、3.9原子%以下のAl、5.0原子%以下のSc、5.7原子%以下のLi、6.5原子%以下のInとなる。
さらに好ましくは、0.023原子%以下のCe、0.023原子%以下のPr、0.025原子%以下のAu、0.033原子%以下のIr、0.035原子%以下のLa、0.05原子%以下のPd、0.13原子%以下のTh、0.16原子%以下のNd、0.23原子%以下のCa、0.23原子%以下のMn、0.26原子%以下のZr、0.28原子%以下のBi、0.3原子%以下のYb、0.35原子%以下のRb、0.48原子%以下のCo、0.6原子%以下のZn、0.6原子%以下のPu、0.79原子%以下のGa、0.94原子%以下のY、0.96原子%以下のAg、1.1原子%以下のGd、1.2原子%以下のDy、1.4原子%以下のHo、1.6原子%以下のTm、1.8原子%以下のEr、2.3原子%以下のLu、3.0原子%以下のAl、3.8原子%以下のSc、4.3原子%以下のLi、4.9原子%以下のInとなる。
しかしながら、そのような従来のマグネシウム合金は、金属間化合物の分散強化に依存しているため延性に乏しいという欠点があった。
また、そのようなマグネシウム合金をマグネシウム系生分解性金属材料として使用すると、生体環境下で分解する可能性の低い金属間化合物が微粒子として体内に残留し、生体の炎症反応や抹消血管の閉塞を惹起する恐れがあった。さらに、合金元素の添加濃度が高くなるにつれ主成分とするマグネシウムではなく、添加元素が溶出して生成されるイオンまたは化合物の毒性が現われる恐れがあった。
希土類元素など、人類の利用経験が浅い元素については、ヒトを始めとする哺乳類への影響はほとんど調べられておらず、その生体毒性は未知である。
一般に、元素化合物の生体に対する毒性は、生体内における濃度(量)に依存しており、その元素が必須元素でないならば、微量であればあるほど毒性の現われる可能性は低くなる。
これらの第二成分の含有量の限定範囲は、周期律表2,3,4,5および6族またはランタノイドに含まれる元素のうち、生体毒性の明らかな元素を除く残りの元素について、マグネシウムへの固溶限界濃度の1/3程度を最高濃度とする範囲、望ましくは1/4程度以下の範囲となるように設定するようにしている。
マグネシウム合金を構成する第二成分としては、Mgよりも金属結合半径の小さいものと大きいものとの二種類が存在し、それぞれに発揮する機能が異なるものであることを見いだした。
何れの元素も、そのマグネシウム合金に対する固溶限界濃度の1/3以下、より好ましくは1/4以下の含有により医療用生分解金属材料としての基本的な機能を損なうことなく、降伏強度および引張強さを高くすることができた。
しかし、金属結合半径の小さい、Au,Ir,Pd,Mn,Co,Ga,Ag、Al、Zn、Zr、Bi、Pu、Liよりも、金属結合半径の大きい、Ce,Pr,La,Th,Rb,Ho,Tm,Er,Lu、Nd、Ca、Yb、Y、Gd、Dy、Sc、Inを添加すると定常分解速度が低くなることを見いだした。
つまり、本発明は、マグネシウム系生分解性金属材料において、添加する第二元素の種類と量によりその耐食性を制御できることを見いだしたものである
そして、本発明では、このような組成において上記のとおりの平均結晶粒径の制御が可能であることを確認している。
なお、生体毒性の明らかな元素とは、「経口投与による金属および金属化合物のラットに対する半数致死量(LD50)」(山本玲子、まてりあ,43(8),639−642,2004)より、毒物劇物取締法により規制基準として掲げられている動物に対する経口投与による半数致死量が300mg/kg以下の元素、または「金属は人体になぜ必要か」(桜井弘著、講談社、1996)に挙げられた毒性元素を基準としている。
また、上記第二成分には、主な同位体が放射性元素であるTh、Puをも含めているが、これは近年放射性同位元素を腫瘍の治療に利用するという研究がなされており、本発明の生分解金属材料もそのような目的で使用可能とすることが考慮されるためである。
このような第二成分の含有量の範囲は、析出物を生じにくい濃度範囲であるため、析出物の界面等で破壊が容易に進展することがなく、高い延性を得ることができる。
同時に、添加元素濃度を比較的低濃度に限定できるため、添加元素が生体毒性を引き起こす危険性を低く押さえることができる。
表1に示すように、同じ1μmの平均結晶粒径であっても、純マグネシウムよりも0.3原子%の第二成分元素を含む合金の方が、機械的特性に優れており、合金化の効果は明らかである。また、第二成分元素の種類により、機械的特性の向上割合が異なることも明らかである。たとえば、平均結晶粒径1μmであり、0.3原子%のLiを含むマグネシウム合金よりも、0.3原子%のCaを含むマグネシウム合金の方が、強度が高い。
分解速度についても、表3に示すように、同じ1μmの平均結晶粒径であっても、純マグネシウムよりも0.3原子%の第二成分元素を含む合金の方が、定常分解速度が小さくなり、合金化の効果は明らかである。また、第二成分元素の種類により、定常分解速度の減少度が異なることも明らかである。たとえば、平均結晶粒径1μmであり、0.3原子%のLiを含むマグネシウム合金よりも、0.3原子%のCaを含むマグネシウム合金の方が、定常分解速度は小さい。0.3原子%の第二成分元素を含む合金の場合、金属結合半径がMgよりも小さい元素を含む合金よりも、金属結合半径が大きい元素を含む合金の方が、定常分解速度が小さくなる傾向がある。ただし、これらは個々の第二成分元素で、マグネシウムおよび生体内環境との関係が異なるため一概に言えるものではなく、おおよその目安とすることができる。
第二成分元素の濃度を変化させることによっても、合金の分解速度を変化させることができる。表3または図3に示すように、平均結晶粒径が約1μmであり、AlまたはLiを0.3、0.6または1.0原子%含む合金の定常分解速度は第二成分元素の濃度によって変化することが明らかである。
このように、同じ平均結晶粒径であっても、第二成分の選択およびその濃度の制御により強度および分解速度が変化されるため、両者のバランスを所望のものとしたマグネシウム系生分解性金属材料を実現することが可能となる。
第二成分の結晶粒界への偏在濃度と結晶粒内の平均濃度との差異は、合金の結晶粒径、第二成分元素の種類と濃度により変化する。第二成分元素の結晶粒界における最大濃度は、その元素のマグネシウムに対する固溶限界値である。したがって、第二成分元素濃度が固溶限界濃度であれば、理想的な(析出物を生じない)場合には、第二成分の結晶粒界濃度は結晶粒内の平均濃度(この場合は固溶限界濃度)と同じであり、偏在はしない。したがって、第二成分濃度が固溶限界値に近いほど、第二成分の結晶粒界への偏在濃度と結晶粒内の平均濃度の差は小さくなる。
一方、結晶粒径が小さい程、結晶粒界は多くなり、結晶粒界に第二成分元素が偏在する可能性が高くなる。また、結晶粒径が大きい場合、すなわち結晶成長をさせるためには、より高い温度下に材料を置くことが必要になり、したがって材料内部における物質拡散は進み、結晶粒界における第二成分元素の偏在は小さくなる。したがって、大きな結晶粒径を有する材料ほど、第二成分の結晶粒界への偏在濃度と結晶粒内の平均濃度との差異は小さくなる。
また、第二成分元素の種類により、その大きさや重さなどの特性が異なるゆえ、マグネシウム合金内における拡散速度が異なり、結晶粒界への偏在のしやすさが変化する。
このように、第二成分元素の結晶粒界への偏在濃度と結晶粒内での平均濃度の差異は、マグネシウム合金の結晶粒径、第二成分元素の種類、第二成分元素の濃度の組み合わせにより決まる。これら3要素単独で制御できるものではない。
第二成分元素の結晶粒界への偏在濃度と結晶粒内における平均濃度の差異は、マグネシウム合金の機械的特性(強度―延性バランス)ならびに生体内における分解速度に影響を与える。
結晶粒径の制御は、材料の再結晶が起こる温度以上で強いひずみ加工、たとえば、押出・圧延加工などを行うことで可能である。
母合金の組成にもよるが、450〜550℃程度の温度範囲で1.5〜8時間程度の均質化処理を施したのち、焼入れを行って均一分散組織を凍結し、80〜350℃程度の温度範囲で温間ひずみを加えることなどが一例として示される。
平均結晶粒径の制御は、このような押出・圧延加工に限定されることはないが、押出・圧延加工による場合は、上記のとおりの再結晶温度以上での強加工が欠かせないものである。
またこの場合の押出比(断面積比)は、たとえば16〜100程度と、通常の押出加工よりも強加工となるよう行うことが好適な例として示される。
第二成分の固溶状態および結晶粒界への偏在状態の制御は、上記のとおりの組成の選択とともに、加工プロセスによる組織制御を利用することで実現される。
第二成分の固溶状態および結晶粒界への偏在状態の制御は、第二成分の濃度と結晶粒径の調整により可能となる。
基本的なインプラント・デバイスとして、管ないしは管状の部材を考慮することができる。
また、インプラント・デバイスが、コイル、シールド、ステント、ワイヤ編物、クリップ、栓などであっても良い。
その制御範囲は最大5日〜数年が可能であり、用途に応じて、埋入後1週間〜12週間とすることができる。
この場合、たとえば、生体内での分解を、埋入後6ヶ月〜5年で終了するように粒径や第二成分の選択およびその偏在状態を制御することができる。
より限定的には、たとえば、生体内での分解が、埋入後8ヶ月〜3年で終了するように制御しても良い。
また、本発明の生分解金属材料は、純マグネシウムあるいはマグネシウムの2元系合金であることから、このような分解速度の微調整をより簡便、かつ精密に行うことができる。
もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
なお、培養液は毎日15mLずつ交換し、採取した液を用いてマグネシウムイオンを定量した。
37℃、5%CO2環境は人体内の状態に近く、また使用した細胞培養液(血清を添加したもの)は血漿成分に近い溶液である。また、組織液(細胞間液)は血管から血漿成分が滲みだしたものと考えられており、その成分は血漿に近い。
成人1人当たりの血漿の量は約2.75Lであり、そのうち1.5Lが1日当たり尿として排出される。浸漬に用いた培養液の量は、成人の場合の1/100スケールとして設定した。また、用いた試験片底部はガラス瓶の底部と接するため、培養液と接する試験片表面積としては上面および側面のみ計算した。
14日間の浸漬期間における総マグネシウムイオンの溶出量を図1に示した。図中に示した値は1つの合金について3試料の浸漬試験を行った平均値である。
純マグネシウムの結晶粒径が小さい程、溶液中へのマグネシウム溶出量が多い、すなわち分解速度が速いことが判明した。
比較のために、ASM Specialty Handbook, Magnesium and magnesium alloys, (Materials Park, OH, ASM International, 1999), p.170に記されている既存のマグネシウム合金の機械的性質を表2に示した。
その結果を図2に示した。
添加元素の種類により、溶液中へのマグネシウム溶出量が異なる、すなわち分解速度を変化させられることが示された。
また、分解速度についても、Mgよりも金属結合半径が大きいGd、In、Ca、Dy、を添加した場合は、金属結合半径の小さいZn、Al、Liを添加した場合よりも定常分解速度が低くなることが確認された。
前者は、マグネシウム合金の生体内における分解初速度、後者は定常状態における分解速度であると考えることができる。後者は、図1および2から、6−14日間の総溶出量のグラフの傾きを最小二乗法により求めた。
なお、結果は3試料の平均値であって、()内は標準偏差を示している。
表4より、この表に示した試料のみをみても、結晶粒径と添加元素およびその濃度を制御することにより、幅広い分解速度を達成できることが確認できた。
既存材は、高体積率の金属間化合物を含むため、生体環境下で分解する可能性の低い金属間化合物が微粒子として体内に残留し、生体の炎症反応や抹消血管の閉塞を惹起する恐れがある。既存材は、本発明のマグネシウム合金よりも1日目の溶出量すなわち分解初速度は若干低く、6〜14日目の溶出量すなわち定常分解速度は既存材の間で差がなく同程度である。
このことから、本発明のマグネシウム合金の方が、既存材よりも幅広い定常分解速度を備えることが可能なことがわかる。
生分解性デバイスの生体内での埋入期間が時に数年に亙ることを考慮すると、デバイスの分解時間に及ぼす影響は、初速度よりも定常速度の方が大きい。
したがって、結晶粒径および合金組成を制御することにより、開発合金において既存材の分解速度範囲よりも広範囲で生体内の分解速度を制御できることが確認できた。
これらの試料について、実施例1と同様の手法で37℃に保った5%CO2インキュベータ内で、27.5mLの細胞培養液中に14日間浸漬し、培養液中に溶出したマグネシウムイオンの定量をキシリジルブルー法により行った。
ただし、培養液は毎日15mLずつ交換し、交換のため採取した液について溶出量を測定した。試料の形状は幅約4mm、長さ約14mm、厚さ約2mmの小判型または直径約8mm、厚さ約2mmの円板とした。各合金について2ないし3試料を用いて浸漬試験を行い、その平均を求めた。また、実施例5と同様に、1日目のマグネシウムイオン溶出濃度および6−14日目の溶出濃度の平均値を求め、その結果を図3および表4に示した。
添加元素の濃度により、溶液中へのマグネシウム溶出量が異なる、すなわち分解速度を変化させられることが示された。
Alを含む合金の結果について図4に、また全ての合金について、初期分解速度を表4に示した。
その結果、同一合金組成であっても、結晶粒径の変化により溶液中へのマグネシウム溶出量が異なる、すなわち分解速度を変化させられることが示された。
しかし、溶出量はデバイスの形状(大きさおよび表面積)により異なるため、推定するのは難しい。
そこで、ステントを例にとり、溶出イオン量の推定を試みた。
上記表4に示した値から、このステントの分解初速度は、最も分解速度の大きかった平均結晶粒径5μmの純マグネシウム材により作製した場合について25.67mg/Lとなり、また、最も分解速度の小さかった0.3原子%Dyを含む合金について15.46 mg/Lとなる。
その結果、マグネシウムイオンが細胞増殖を阻害する濃度は0.01M(=243.1mg/L)以上であることが判明した。
これは、上記のとおり推測した溶出イオン量の4〜10倍以上の高い濃度である。
したがって、たとえば分解速度の大きい平均結晶粒径5μmの純マグネシウム材からなる 本発明のステントは、生体内で分解中に生体に対する毒性はないと判断することができ る。
マウス線維芽細胞L929の増殖を50%阻害する濃度(IC50)は、LiClが0.0132M、Al(NO3)3が4.18mM、YCl3が0.254mM、InCl4が0.145mMであると報告されている。
これらの中で最も細胞毒性が強いInについて、0.3原子%Inを含むマグネシウム合金を例として溶出量を推定した。
合金組成と同じ比率でInが溶出すると仮定すると、最も溶出量が高かった1日目のIn溶出量は上記の平均的なステントの例で2μMであり、InのIC50(0.145mM=100μm)の約1/50である。
したがって、デバイス形状と合金の分解速度を考慮することで、Inを含む合金であっても医療用生分解性合金として使用可能であることが確認された。
さらに、材料の組成および結晶粒径を制御することにより、個々のデバイスに求められる所望の強度・加工硬化性・延性等の力学的特性を実現しながら、生体内における分解速度を制御することができる。
また、マグネシウム合金は、合金元素として1種のみを添加するという簡単な構成で所望の強度・加工硬化性・延性等の力学的特性および分解速度を実現できることから、分解速度や生体への影響等の管理をより精密に行うことが可能となる。
本発明のマグネシウム系生分解性金属材料によると、たとえば、ステント再狭窄の問題が解消され、再手術によるボーンプレート等の除去が不要になると同時に、これまで不可能であった骨・歯等の荷重の加わる硬組織の再生医療にも適用可能なマグネシウム系生分解性金属材料が提供されることになる。
また、医療費削減やQOL向上にも貢献することが期待される。
Claims (11)
- Mgが93.5原子%以上含有されており、第二成分としてAu、Ir、Pd、Mn、Zr、Bi、Co、Zn、Pu、Ga、Ag、Al、Li、Ce、Pr、La、Th、Nd、Ca、Yb、Rb、Y、Gd、Dy、Ho、Tm、Er、Lu、Sc及びInからなる群から選択された一金属元素をそのマグネシウムに対する固溶限界濃度の1/3以下含有されているとともに、析出物・金属間化合物を含まず、平均結晶粒径が部材の最小部位の1/4以下であり、結晶粒界への前記第二成分の偏在濃度が結晶粒内平均濃度の1.5倍以上になるように制御されているマグネシウム系生分解性金属材料をその主要部を構成する材料とする生体埋め込み用の医療用インプラント・デバイス。
- Mgが93.5原子%以上含有されており、第二成分としてAu、Ir、Pd、Mn、Zr、Bi、Co、Zn、Pu、Ga、Ag、Al、及びLiからなる群から選択された一金属元素をそのマグネシウムに対する固溶限界濃度の1/3以下含有されているとともに、析出物・金属間化合物を含まず、平均結晶粒径が部材の最小部位の1/4以下であり、結晶粒界への前記第二成分の偏在濃度が結晶粒内平均濃度の1.2倍以上になるように制御されているマグネシウム系生分解性金属材料をその主要部を構成する材料とする生体埋め込み用の医療用インプラント・デバイス。
- 結晶粒界への前記第二成分の偏在濃度が結晶粒内平均濃度の1.4倍以上になるように制御されている、請求項2に記載の医療用インプラント・デバイス。
- 前記第二成分がマグネシウムに対する固溶限界濃度の1/4以下含有されている、請求項1から3の何れかに記載の医療用インプラント・デバイス。
- 管または略管形状の部材が前記マグネシウム系生分解性金属材料で構成されている、請求項1から4の何れかに記載の医療用インプラント・デバイス。
- 前記マグネシウム系生分解性金属材料で構成した部材の生体内分解が埋入後5日〜6ヶ月で終了する、請求項1から5の何れかに記載の医療用インプラント・デバイス。
- 前記マグネシウム系生分解性金属材料で構成した部材の生体内分解が埋入後1週間〜12週間で終了する、請求項1から5の何れかに記載の医療用インプラント・デバイス。
- コイル、シールド、ステント、ワイヤ編物、クリップ、栓のいずれかである、請求項1から7の何れかに記載の医療用インプラント・デバイス。
- 整形外科用インプラントである、請求項1から8の何れかに記載の医療用インプラント・デバイス。
- 整形外科用インプラントであり、前記マグネシウム系生分解性金属材料で構成した部材の生体内での分解が埋入後6ヶ月〜5年で終了する、請求項1から5の何れかに記載の医療用インプラント・デバイス。
- 整形外科用インプラントであり、前記マグネシウム系生分解性金属材料で構成した部材の生体内での分解が埋入後8ヶ月〜3年で終了する、請求項1から5の何れかに記載の医療用インプラント・デバイス。
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