JP5323673B2 - ヒートインシュレータ用アルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents
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まず、Al−Mn−Mg系合金にブレージングシート屑を配合した原料を使用した場合の固溶Mg量および固溶Si量の減少に起因した強度低下を解決する技術として、ヒートインシュレータ用アルミニウム合金板ではないが缶胴用アルミニウム合金板に関する技術がある。例えば、特許文献3では、アルミニウム合金鋳塊に600〜640℃で1時間以上の均質化熱処理を施すことで、Mg、Siの固溶量を増加させ、かつ冷間圧延において加工発熱を利用して材料温度が120℃以上になるように冷間圧延を終了し、10℃/hr以下で冷却する技術が提案されている。
本発明のヒートインシュレータ用アルミニウム合金板の製造方法によれば、ブレージングイシート屑を配合した原料を用いても、優れた強度を有し、エンボス成形性およびプレス成形性に優れたアルミニウム合金板が製造される。
本発明に係るヒートインシュレータ用アルミニウム合金板について説明する。
ヒートインシュレータ用アルミニウム合金板は、Si:0.4〜2.0質量%、Fe:0.2〜0.6質量%、Cu:0.1〜0.7質量%、Mn:0.5〜1.5質量%、Mg:0.5〜2.0質量%、Zn:0.05〜1.0質量%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金から構成されるアルミニウム合金板であって、前記アルミニウム合金板は、板厚全断面にわたって再結晶組織を有し、かつ、再結晶粒径:50μm以下、導電率:43.0〜49.5%IACSであることを特徴とする。
(Si:0.4〜2.0質量%)
Siは、ブレージングシート屑によって原料に配合されるもので、鋳造、均質化熱処理時にAl−Fe−Si系あるいはMg2Si系の金属間化合物を生成する元素である。Si量が0.4質量%未満であると、原料に配合されるブレージングシート屑が少なくなり、リサイクル性が低下する。Si量が2.0質量%を超えると、粗大な金属間化合物が生成され、アルミニウム合金板のエンボス成形およびその後のプレス成形において割れの起点となり、エンボス成形性およびプレス成形性が低下する。
Feは、ブレージングシート屑および原料に含有されるもので、鋳造、均質化熱処理時にAl7Cu2Fe、Al12(Fe,Mn)3Cu2、(Fe,Mn)Al6などの晶出物を生成する元素である。Fe量が0.2質量%未満であると、原料に配合されるブレージングシート屑が少なくなり、リサイクル性が低下する。Fe量が0.6質量%を超えると、粗大な晶出物が生成され、アルミニウム合金板のエンボス成形およびその後のプレス成形において割れの起点となり、エンボス成形性およびプレス成形性が低下する。
Cuは、強度に寄与する重要な元素であって、ブレージングシート屑および原料に含有されるもので、エンボス成形性およびプレス成形性を向上させるものである。Cu量が0.1質量%未満であると、強度が低下する。また、原料に配合されるブレージングシート屑が少なくなり、リサイクル性が低下する。Cu量が0.7質量%を超えると、粗大なAl7Cu2Fe、Al2(Fe,Mn)3Cu2などの晶出物が生成され、エンボス成形性およびプレス成形性が低下すると共に、耐食性および溶接性を著しく劣化させる。
Mnは、均質化熱処理時に分散粒子(分散相)を生成する元素である。これらの分散粒子は、再結晶後の粒界移動を妨げ、再結晶粒を微細化するため、アルミニウム合金板のエンボス成形性およびプレス成形性を向上させる。Mn量が0.5質量%未満であると、再結晶粒が微細化せず、エンボス成形性およびプレス成形性が低下する。Mn量が1.5質量%を超えると、溶解、鋳造時に粗大なAl−Fe−Si−Mn系の金属間化合物を生成し、アルミニウム合金板のエンボス成形およびその後のプレス成形において破壊の起点となり、エンボス成形性およびプレス成形性が低下する。
Mgは強度に寄与する元素である。Mg量が0.5質量%未満であると、Mg2Siとして化合物を形成し、実質的に強度に寄与する固溶Mg量が低下し、ヒートインシュレータに要求される強度が得られない。Mg量が2.0質量%を超えると、強度過剰になると共に伸びが低下して、アルミニウム合金板のエンボス成形性およびプレス成形性が低下する。また、所定量を超えるMg添加はコストアップにもなる。
Znは、ブレージングシート屑によって原料に配合される元素である。Zn量が0.05質量%未満であると、原料に配合されるブレージングシート屑が少なくなり、リサイクル性が低下する。Zn量が1.0質量%を超えると、Al−Zn系化合物が生成され、アルミニウム合金板のエンボス成形およびその後のプレス成形において割れの起点となり、エンボス成形性およびプレス成形性が低下すると共に、耐食性を著しく低下させる。
不可避的不純物は、ブレージングシート屑などから混入される、Bi、Sn、Ga、V、Co、Ni、Ca、Mo、Be、Pb、Wなどの不純物元素であって、ヒートインシュレータ用アルミニウム合金板の特性を阻害しない範囲で含有する。不可避的不純物の含有量は、具体的には、前記不純物元素の合計量で0.15質量%以下が好ましい。
(Cr:0.15質量%以下、Zr:0.15質量%以下)
遷移元素であるCr、Zrには、Mnと同様、均質化熱処理時に分散粒子(分散相)を生成し、再結晶粒を微細化する作用を有する。しかし、Cr、Zrも、0.15質量%を超えて含有すると、粗大な金属間化合物が生成され、エンボス成形性およびプレス成形性が低下すると共に、耐食性を著しく低下させる。
TiおよびBは、鋳塊組織を微細化する作用を有する。通常、Tiを添加する場合には、Ti:B=5:1の割合とした鋳塊微細化剤(TiB)を、ワッフルあるいはロッドの形態で溶湯(溶解炉、介在物フィルター、脱ガス装置、溶湯流量制御装置のいずれかに投入された、スラブ凝固前の溶湯)に添加するため、含有割合に応じたBも必然的に添加されることとなる。Tiの添加量で0.007質量%以上の添加により、鋳塊の結晶粒が微細化され、アルミニウム合金板のエンボス成形性およびプレス成形性が向上する。一方、TiとBのいずれかの含有量が、Tiの含有量で0.1質量%を超えた含有量となると、粗大な晶出物が形成され、アルミニウム合金板のエンボス成形性およびプレス成形性が低下する。
(再結晶組織)
本発明のアルミニウム合金板は、ヒートインシュレータとしての所望の製品形状に不具合無くプレス成形を行うため、軟質材(O材)、すなわち、光学顕微鏡により観察した結晶組織において、板厚全断面にわたって再結晶組織(図3(a)参照)を有し、未再結晶組織(図3(b)参照)が認められないことを特徴とする。未再結晶組織は、加工硬化能を低下させ、エンボス成形性およびプレス成形性を低下させる。なお、このような再結晶組織は、アルミニウム合金板の製造における焼鈍条件を制御することによって達成される。
再結晶粒径の粗大化は、エンボス成形性およびプレス成形性を低下させる。したがって、再結晶粒径は50μm以下とする必要がある。また、好ましくは40μm以下である。
なお、再結晶粒径の調整は、アルミニウム合金板の製造における冷間圧延率および焼鈍条件を制御することによって達成される。再結晶粒径の測定は、後記するように、光学顕微鏡観察によって行う。
導電率は、アルミニウム合金板における添加元素、特に、MgおよびSiの固溶、析出状態を示すものである。そして、ヒートインシュレータ用アルミニウム合金板として要求される強度を確保するためには、MgおよびSiの固溶状態を適正範囲とする必要があり、導電率:43.0〜49.5%IACSとする。導電率が43.0%IACS未満であると、後記する固溶Mg量および固溶Si量が過剰となり、アルミニウム合金板の強度が過剰となり、エンボス成形性およびプレス成形性が低下する。導電率が49.5%IACSを超えると、固溶Mg量および固溶Si量が不足となり、アルミニウム合金板の強度が低下する。なお、導電率の調整は、アルミニウム合金におけるMg量およびSi量、アルミニウム合金板の製造における均質化熱処理条件および焼鈍条件を制御することによって達成される。導電率の測定は、後記するように、渦流導電率測定装置で行う。
(固溶Mg量と固溶Si量の合計量:0.8〜1.5質量%)
固溶Mg量および固溶Si量は、アルミニウム合金板の強度に大きく寄与する。そして、ヒートインシュレータ用アルミニウム合金板として要求される強度を得るためには、従来技術(特許文献5、6参照)のようにMgおよびSiの添加量のみの規定では不十分で、MgおよびSiの固溶・析出状態も制御する必要がある。
本発明において、凹凸形状とは、図1に示すように格子状の規則的な配列をなすべく、交差する2方向に沿って、それぞれ凹部および凸部が平面的に繰り返し設けられたものであることが好ましい。そして、図1においては、隣り合う4つの凸部が形成する格子の中央部に凹部、または、隣り合う4つの凹部が形成する格子の中央部に凸部を設けることによって、アルミニウム合金板の両面方向に凹凸形状が設けられている。
次に、ヒートインシュレータ用アルミニウム合金板の製造方法について説明する。
本発明に係る製造方法は、鋳造工程と、均質化熱処理工程と、熱間圧延工程と、冷間圧延工程と、焼鈍工程とを含むことを特徴とする。また、鋳造工程の後に得られた鋳塊を面削する面削工程を含んでもよい。以下、各工程について説明する。
鋳造工程は、前記アルミニウム合金を溶解し、DC鋳造により鋳塊を作製する工程である。なお、DC鋳造方法については常法に従って行う。
均質化熱処理工程は、前記工程で得られた鋳塊に450〜600℃の均質化熱処理を施す工程である。そして、均質化熱処理工程は、MgおよびSiの固溶による強度向上、および分散粒子制御による再結晶粒の微細化を図り、エンボス成形性を向上させるために重要な工程である。
熱間圧延工程は、前記工程で均質化熱処理された鋳塊を熱間圧延して熱延板を作製する工程である。熱間圧延方法については常法に従って行う。また、熱間圧延は、均質化熱処理直後に行っても、均質化熱処理後に一旦冷却し、再度鋳塊を加熱してから行ってもよい。なお、熱間圧延開始温度は、400〜600℃が好ましい。
冷間圧延工程は、前記工程で得られた熱延板を冷間圧延して冷延板を作製する工程である。そして、冷間圧延工程は、アルミニウム合金板の再結晶粒径を制御するために重要な工程である。
[(T1−T2)/T1]×100・・・(1)
式(1)において、T1:熱間圧延後または最終冷間圧延前の板厚、T2:最終冷間圧延後の板厚である。
焼鈍工程は、前記工程で得られた冷延板を、400〜500℃の範囲で5分以内の連続焼鈍(最終焼鈍)を施し、冷却速度10℃/秒以上で冷却する工程である。そして、焼鈍工程は、冷延板を再結晶させ、軟質材(O材、再結晶組織)にする工程で、アルミニウム合金板の導電率(固溶Mg量および固溶Si量)、再結晶粒径を制御するために重要な工程である。そして、バッチ焼鈍ではアルミニウム合金板に強度不足が生じるため、連続焼鈍である必要がある。なお、再結晶粒径を微細化させる最終焼鈍温度までの加熱速度は、5℃/秒以上が好ましい。
表1に示す各組成の鋳塊を、DC鋳造により溶製した。鋳造時の平均冷却速度は、溶解温度(約700℃)から固相線温度までを50℃/分とした。続いて鋳塊を、表2に示す均質化熱処理、熱間圧延を施した。熱間圧延終了温度は250〜350℃とした。その後、冷間圧延または中間焼鈍(連続焼鈍)後に冷間圧延し、厚さ0.4mmの冷延板とした。この各冷延板に対し、表2に示す最終焼鈍(連続焼鈍)を施して供試材とした。なお、Tiを含有する合金A、B、E、F、K〜Pは、Ti添加のためにTiBを用いたため、Tiと共にBを含有する。また、均質化熱処理において、上限値を超える温度で均質化熱処理を行った場合(表2の略号ヌ)には、鋳塊にバーニングが発生し、それ以降の製造が不可であった。
供試材の5ケ所より試料を採取し、板厚断面方向(圧延方向に対して直角方向)を鏡面状態まで研磨した後、バーカー液を用いて陽極酸化処理した表面を光学顕微鏡で観察し、板厚全断面にわたって再結晶組織(図3(a)参照)が認められるかどうかを確認した。なお、供試材No.1〜24では未再結晶組織(図3(b)参照)が確認されず再結晶組織であった。
ここで言う再結晶粒径とは供試材の長手方向(圧延方向)の再結晶粒の最大径である。この再結晶粒径は、供試材を0.05〜0.1mm機械研磨した後電解エッチングした表面を、光学顕微鏡を用いて観察し、前記長手方向に、ラインインターセプト法で測定した。1測定ライン長さは0.95mmとし、1視野当たり各3本で合計5視野を観察し、測定した再結晶粒径の平均値を算出した。
導電率の測定は、市販の渦流導電率測定装置によって測定した。また、導電率の測定は、供試材表面の互いに間隔を100mm以上開けた任意の5箇所で行った。そして、本発明における導電率は、測定された各導電率を平均化したものとした。
熱フェノールによる残渣抽出法により得られた溶液と粒子サイズが0.1μm以下の析出物中のMg量およびSi量を測定した。具体的には、熱フェノールによる残渣抽出法(フィルターのメッシュサイズ=0.1μm)により得られた残渣に含まれるMgおよびSi量をICP発光分析によって測定し、アルミニウム合金板に含まれる全Mg、Si量から除した値を用いた。
機械的性質を測定するための引張試験は、供試材から、各々、JISZ2201の5号試験片(25mm×50mmGL×板厚)を採取し、室温引張り試験を行った。このときの試験片の引張り方向は圧延方向と平行方向とした。引張り速度は、0.2%耐力までは5mm/分、耐力以降は20mm/分とした。機械的特性測定のN数は5とし、各々平均値で算出した。そして、引張強さが160MPa以上のものを合格(○)、160MPa未満のものを不合格(×)とした。
エンボス成形性試験は、供試材から矩形ブランク(サイズ:200mm×200mm)を切り出した。矩形ブランクに対して、図1に示す凹凸形状のエンボス成形金型を使用してエンボス成形を行った。凹凸部の頂点100個のうち、割れが発生した個数を割れ発生率と定義し、このときの割れ発生率が60%以下を合格(○)、60%超えを不合格(×)とした。なお、凹凸形状としては、凸部頂点間の距離a=10mm、距離b=10mm、凸部の高さh=2.4mmとした。また、凹部頂点間の距離、凹部の高さも凸部と同様とした。
プレス成形試験は、凹凸部の頂点に割れが発生しない加工条件(凹凸部の高さ=1.8mm)にてエンボス成形を行った供試材から矩形ブランク(サイズ:150mm×150mm)を切り出した。図2に示すように、矩形ブランク1に対して、ポンチ5:□90mm(肩R:10mm、コーナー:10mm)、ダイス6:□97.5mm(肩R:10mm、コーナー:10.75mm)の金型を使用して、しわ押え板3とスペーサー4によって、ダイフェース面のクリアランスCを各矩形ブランク1の凹凸部の高さと板厚を含めた高さにとり、角筒絞り成形を行った。角筒絞り成形時の成形限界高さが23mm以上を合格(○)、23mm未満を不合格(×)とした。なお、潤滑油として一般防錆油を塗油した。
各供試材に対して塩水噴霧試験(JIS Z2371)を行った。1000時間後の腐食発生状況を目視にて判定した。腐食の著しいものを不合格(×)、中程度のものを合格(△)、軽微なものを合格(○)とした。
1 矩形ブランク
3 しわ押え板
4 スペーサー
5 ポンチ
6 ダイス
C クリアランス
Claims (5)
- Si:0.4〜2.0質量%、Fe:0.2〜0.6質量%、Cu:0.1〜0.7質量%、Mn:0.5〜1.5質量%、Mg:0.5〜2.0質量%、Zn:0.05〜1.0質量%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金から構成されるアルミニウム合金板であって、
前記アルミニウム合金板は、板厚全断面にわたって再結晶組織を有し、かつ、再結晶粒径:50μm以下、導電率:43.0〜49.5%IACSであることを特徴とするヒートインシュレータ用アルミニウム合金板。 - 前記アルミニウム合金は、Cr:0.15質量%以下およびZr:0.15質量%以下の少なくとも一方をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載のヒートインシュレータ用アルミニウム合金板。
- 前記アルミニウム合金板は、その固溶Mg量と固溶Si量の合計量が0.8〜1.5質量%であり、前記固溶Mg量および固溶Si量が熱フェノールによる残渣抽出法により得られた溶液と、粒子サイズが0.1μm以下の析出物中に含まれるMg量およびSi量であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載されたヒートインシュレータ用アルミニウム合金板。
- 前記アルミニウム合金板は、その表面にエンボス成形により連続する凹凸形状を設けたことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のヒートインシュレータ用アルミニウム合金板。
- 請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金を溶解し、その溶湯からDC鋳造により鋳塊を作製する鋳造工程と、
前記鋳塊に450〜600℃の均質化熱処理を施す均質化熱処理工程と、
均質化熱処理された前記鋳塊を熱間圧延して熱延板を作製する熱間圧延工程と、
前記熱延板を冷間圧延率70%以上で冷間圧延して冷延板を作製する冷間圧延工程と、
前記冷延板に400〜500℃の範囲で5分以内の連続焼鈍を施し、冷却速度10℃/秒以上で冷却する焼鈍工程とを含むことを特徴とするヒートインシュレータ用アルミニウム合金板の製造方法。
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