JP2016141843A - 高強度アルミニウム合金板 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】Al−Mg−Si系アルミニウム合金板のアルミニウム合金組成や製造条件を大きく変えないことを前提に、製造した板の調質によって、固溶Mg量と固溶Si量とをバランス良く増加させ、MgとSiの原子数のバランスが良いMg−Siクラスタの形成を促進し、室温時効後でも、曲げ加工性を阻害せずに、BH後の高強度化を図る。
【選択図】なし
Description
ただ、これら自動車構造部材は、前記自動車パネルに比べて一層の高強度化が必要である。このため、前記自動車パネル材に使用されている6000系アルミニウム合金板を、これら骨格材あるいは補強材に適用するためには、更に高強度化する必要がある。
先ず、本発明のAl−Mg−Si系(以下、6000系とも言う)アルミニウム合金板の化学成分組成について、以下に説明する。本発明では、前記パネル材を除く、前記骨格材あるいは補強材用として、従来の組成や製造条件を大きく変えることなく、曲げ加工性を阻害せずに、高強度化する。
SiはMgとともに、固溶強化と、焼付け塗装処理などの人工時効処理時に、強度向上に寄与するMg−Si系析出物を形成して、時効硬化能を発揮し、自動車のアウタパネルとして必要な強度(耐力)を得るための必須の元素である。Si含有量が少なすぎると、焼付け塗装処理前の固溶Si量が減少し、Mg−Si系析出物の生成量が不足するため、BH性が著しく低下する。一方、Si含有量が多すぎると、粗大な晶出物および析出物が形成されて、熱間圧延中に大幅な板割れが生じる。したがって、Siは0.6〜2.0%の範囲とする。Siの好ましい下限値は0.8%であり、好ましい上限値は1.5%である。
MgもSiとともに、固溶強化と、焼付け塗装処理などの人工時効処理時に、強度向上に寄与するMg−Si系析出物を形成して、時効硬化能を発揮し、パネルとしての必要耐力を得るための必須の元素である。Mg含有量が少なすぎると、焼付け塗装処理前の固溶Mg量が減少し、Mg−Si系析出物の生成量が不足するため、BH性が著しく低下する。一方、Mg含有量が多すぎると、粗大な晶出物および析出物が形成されて、熱間圧延中に大幅な板割れが生じる。したがって、Mgの含有量は0.6〜2.0%の範囲とする。Mgの好ましい下限値は0.8%であり、好ましい上限値は1.5%である。
前記特許文献1など、従来の自動車パネル材用途における、6000系アルミニウム合金板の固溶Mg量と固溶Si量の制御の代表的な考え方は、板の室温時効の原因となる、Mg−Si、Si−SiやMg−Mgのクラスタの形成を抑制するために、固溶Mg量と固溶Si量を、BH性に必要な最低限に抑制するものだった。
すなわち、固溶Mg量と固溶Si量とをバランス良く増加させることで、後述する、製造した板の調質中(予備時効処理中)に生成する、SiリッチのMg−Siクラスタ(Mg原子とSi原子の集合体)の形成を抑制し、焼付け塗装処理時に形成して高強度化に寄与する、Mg−Si析出物量を確保できることを知見した。
これとは逆に、前記MgとSiのバランスが良いMg−Siクラスタは、室温時効の原因とならず、曲げ加工性を低下させず、塗装焼付処理時に、Mg−Si析出物に変遷しやすく、著しく高強度化に寄与する。
この板の固溶Mg量と固溶Si量の上限は、当然ながら、この板のMg含有量とSi含有量とから決まる。
この固溶Si量と固溶Mg量との比(固溶Si/固溶Mg)の上限1.2は、Mg固溶量に対してSi固溶量が多い場合に生成しやすい、SiリッチのMg−Siクラスタの、予備時効処理中での生成を抑制するためのものであり、好ましくは1.1以下とする。
その一方で、前記Si固溶量に対してMg固溶量が多すぎる場合でも、MgとSiの原子数のバランスが良いMg−Siクラスタの形成が抑制される。このため、固溶Si量と固溶Mg量との比の下限は0.8とする。
Mnは、固溶強化と結晶粒微細化効果により、アルミニウム合金の強度を向上させる。ただ、1.0%を超えて過度に含有すると、Al−Mn−Fe系金属間化合物量が多くなって破壊の起点になりやすく、高強度化に寄与するMg−Si系析出物量が低下する。したがって、Mnの含有量は1.0%以下(但し、0%を含まず)とする。
Feは、アルミニウム合金中でAl−Mn−Fe系金属間化合物を形成するため、含有量が多くなると、その化合物量が多くなって破壊の起点になりやすく、高強度化に寄与するMg−Si系析出物量も低下する。しかも、Feは地金不純物としてアルミニウム合金中に混入され、溶解原料としてアルミニウム合金スクラップ量(アルミニウム地金に対する割合)が増すほど、含有量が多くなるので、その含有量は少ないほど良く、規制すべき元素である。ただ、検出限界以下などにFeを低減することはコストアップとなるため、ある程度の含有の許容が必要となる。したがって、Feの含有量は0.5%以下(但し、0%を含まず)とする。
その他、本発明では、アルミニウム合金板の高強度化のために、Cu:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Cr:0.3%以下(但し、0%を含まず)、Zr:0.2%以下(但し、0%を含まず)、V:0.2%以下(但し、0%を含まず)、Ti:0.1%以下(但し、0%を含まず)、Zn:0.5%以下(但し、0%を含まず)、Ag:0.2%以下(但し、0%を含まず)、Sn:0.15%以下(但し、0%を含まず)の1種または2種以上を含んでも良い。
Cr、Zr、Vは、Mnと同様に、均質化熱処理時に分散粒子(分散相)を生成し、これらの分散粒子には再結晶後の粒界移動を妨げる効果があり、結晶粒を微細化する役割を果たす。Tiは晶出物を生成して、再結晶粒の核となり、結晶粒の粗大化を阻止し、結晶粒を微細化する役割を果たす。また、Cuは、強度を向上させるが、高強度化に応じて曲げ加工性を劣化させるため、好ましくは0.7%以下の含有量とする。Zn、Agは人工時効硬化能(BH性)を向上させるのに有用で、比較的低温短時間の人工時効処理の条件で、板組織の結晶粒内へのGPゾーンなどの化合物相の析出を促進させる効果がある。Snは原子空孔を捕獲することで、室温でのMgやSiの拡散を抑制し、室温における強度増加(室温時効)を抑制し、人工時効処理時に、捕獲していた空孔を放出し、MgやSiの拡散を促進し、BH性を高くする効果がある。
次ぎに、本発明アルミニウム合金板の製造方法について以下に説明する。本発明アルミニウム合金板は、製造工程自体は常法あるいは公知の方法であり、上記6000系成分組成のアルミニウム合金鋳塊を鋳造後に均質化熱処理し、熱間圧延、冷間圧延が施されて所定の板厚とされ、更に溶体化焼入れなどの調質処理が施されて製造される。
先ず、溶解、鋳造工程では、上記6000系成分組成範囲内に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯を、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。ここで、本発明の規定範囲内にクラスタを制御するために、鋳造時の平均冷却速度について、液相線温度から固相線温度までを30℃/分以上と、できるだけ大きく(速く)することが好ましい。
次いで、前記鋳造されたアルミニウム合金鋳塊に、熱間圧延に先立って、均質化熱処理を施す。この均質化熱処理(均熱処理)は、通常の目的である、組織の均質化(鋳塊組織中の結晶粒内の偏析をなくす)の他に、SiやMgを充分に固溶させるために重要である。この目的を達成する条件であれば、特に限定されるものではなく、通常の1回または1段の処理でも良い。
熱間圧延は、圧延する板厚に応じて、鋳塊(スラブ)の粗圧延工程と、仕上げ圧延工程とから構成される。これら粗圧延工程や仕上げ圧延工程では、リバース式あるいはタンデム式などの圧延機が適宜用いられる。
この熱延板の冷間圧延前の焼鈍(荒鈍)は必要ではないが、実施しても良い。
冷間圧延では、上記熱延板を圧延して、所望の最終板厚の冷延板(コイルも含む)に製作する。但し、結晶粒をより微細化させるためには、冷間圧延率は30%以上であることが望ましく、また前記荒鈍と同様の目的で、冷間圧延パス間で中間焼鈍を行っても良い。
冷間圧延後、溶体化処理と、これに続く、室温までの焼入れ処理を行う。この溶体化焼入れ処理については、通常の連続熱処理ラインを用いてよい。ただ、Mg、Siなどの各元素の十分な固溶量を得るためには、550℃以上、溶融温度以下の溶体化処理温度で10秒以上保持した後、その保持温度から100℃までの平均冷却速度を20℃/秒以上とすることが好ましい。550℃より低い温度、または10秒より短い保持時間では、溶体化処理前に生成していたAl−Mn−Fe系やMg−Si系などの化合物の再固溶が不十分になって、固溶Mg量と固溶Si量が低下する。このため、本発明の規定する組織(固溶Mg量と固溶Si量)とするための、SiやMgの固溶量が確保できない可能性が高くなる。
このような溶体化処理後に焼入れ処理して室温まで冷却した後、1時間以内に冷延板を予備時効処理(再加熱処理)する。室温までの焼入れ処理終了後、予備時効処理開始(加熱開始)までの室温保持時間が長すぎると、室温時効により前記したSiリッチのMg−Siクラスタが生成してしまい、前記MgとSiのバランスが良いMg−Siクラスタを増加させことができにくくなる。したがって、この室温保持時間は短いほど良く、溶体化および焼入れ処理と再加熱処理とが、時間差が殆ど無いように連続していても良く、下限の時間は特に設定しない。
そして、各例とも共通して、続く仕上げ圧延にて、各例とも表2に示す終了温度にて、厚さ4.0mmまで熱延し、熱間圧延板とした。熱間圧延後のアルミニウム合金板を、各例とも共通して、500℃×1分の荒焼鈍を施した後、冷延パス途中の中間焼鈍無しで、加工率50%の冷間圧延を行い、厚さ2.0mmの冷延板とした。
前記各供試板の固溶Mg量と固溶Si量の測定は、熱フェノールによる残渣抽出法により、測定対象となる板の試料を溶解し、メッシュを0.1μmとしたフィルターにより固液をろ過分離し、分離された溶液中のMgとSiの含有量を、各々固溶Mg量と固溶Si量として測定した。
前記供試板の機械的特性として、これらの各供試板を各々共通して、曲げ加工を模擬した2%のストレッチ後に、185℃×20分の人工時効硬化処理した後(BH後)の、供試板の0.2%耐力(BH後耐力)を引張試験により求めた。そして、これら0.2%耐力同士の差(耐力の増加量)から各供試板のBH性を評価した。
曲げ加工性は前記各供試板について行った。試験は、圧延方向に長軸をとって、幅30mm×長さ35mmの試験片を作成し、JISZ2248に準拠して、2000kgfの荷重をかけて、曲げ半径2.0mmで90°のV字曲げを行った。
9;割れなし、肌荒れなし、8;割れなし、僅かに肌荒れ、7;割れなし、肌荒れあり、6;微小な割れが僅かにあり、5;微小な割れあり、4;微小な割れが全面にあり、3;大きな割れ有、2;大きな割れがあり破断寸前、1;破断。
比較例10は、熱間粗圧延の最低温度が低すぎる。このため、固溶Mg量や、固溶Mg量と固溶Si量との和が下限を外れて少なすぎる一方で、(固溶Si/固溶Mg)が上限を外れて多すぎ、BH性が低く、BH後の0.2%耐力が低すぎる。
比較例11は、溶体化処理の保持温度が低すぎる。このため、固溶Mg量、固溶Si量、固溶Mg量と固溶Si量との和が下限を外れて少なすぎ、BH性が低く、BH後の0.2%耐力が低すぎる。
比較例12は、溶体化処理の保持時間が短すぎる。このため、固溶Mg量、固溶Si量、固溶Mg量と固溶Si量との和が下限を外れて少なすぎ、BH性が低く、BH後の0.2%耐力が低すぎる。
比較例13は、溶体化処理後の平均冷却速度が小さすぎる。このため、固溶Mg量、固溶Mg量と固溶Si量との和が下限を外れて少なすぎる一方で、(固溶Si/固溶Mg)が上限を外れて多すぎ、BH性が低く、BH後の0.2%耐力が低すぎる。
比較例14は、均熱温度と熱間粗圧延の最低温度が低すぎる。このため、固溶Mg量や、固溶Mg量と固溶Si量との和が少なすぎる一方で、(固溶Si/固溶Mg)が上限を外れて多すぎ、BH性が低く、BH後の0.2%耐力が低すぎる。また、曲げ加工性も低い。
比較例16は表1の合金11であり、Mgが多すぎる。
比較例17は表1の合金12であり、Siが少なすぎ。
比較例18は表1の合金13であり、Siが多すぎる。
比較例19は表1の合金14であり、Feが多すぎる。
比較例20は表1の合金15であり、Mnが多すぎる。
Claims (2)
- 質量%で、Mg:0.6〜2.0%、Si:0.6〜2.0%、Mn:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Fe:0.5%以下(但し、0%を含まず)を各々含み、残部がAl及び不可避不純物からなるAl−Mg−Si系アルミニウム合金板であって、この板の固溶Mg量と固溶Si量として、熱フェノールによる残渣抽出法により分離された溶液中のMg含有量とSi含有量とがともに0.6%以上であり、これら固溶Mg量と固溶Si量との和が1.4%以上で、かつ、これら固溶Si量と固溶Mg量との比(固溶Si/固溶Mg)が0.8〜1.2であることを特徴とする高強度アルミニウム合金板。
- 前記アルミニウム合金板が、更に、Cu:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Cr:0.3%以下(但し、0%を含まず)、Zr:0.2%以下(但し、0%を含まず)、V:0.2%以下(但し、0%を含まず)、Ti:0.1%以下(但し、0%を含まず)、Zn:0.5%以下(但し、0%を含まず)、Ag:0.2%以下(但し、0%を含まず)、Sn:0.15%以下(但し、0%を含まず)の1種または2種以上を含む請求項1に記載の高強度アルミニウム合金板。
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