以下、本発明の実施の形態の例について、図1および図2を参照しながら説明する。
但し、以下で参照する各図は、説明の便宜上、本発明の実施の形態の一例の構成部材のうち、本発明を説明するために必要な主要部材のみを簡略化して示したものである。したがって、本発明に係るセラミック基板および電子装置は、本明細書が参照する各図に示されていない任意の構成部材を備え得る。また、各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法および各部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
図1および図2において、1は電子装置、2は電子部品、4はセラミック基板(セラミック積層体)、41はガラスセラミック層(ガラスセラミック焼結体)であって、41aは第1ガラスセラミック層(第1ガラスセラミック焼結体)、41bは第2ガラスセラミック層(第2ガラスセラミック焼結体)、42はフェライト層(フェライト焼結体)、43は介在層であって、43aは第1介在層、43bは第2介在層、51は配線導体、52はコイル導体である。
本発明のセラミック積層体4は、図1および図2に示す例のように、非晶質のガラス成分および第1結晶を含むガラスセラミック焼結体41と、ガラスセラミック焼結体41に接合された、フェライト結晶を含むフェライト焼結体42とを備え、ガラスセラミック焼結体41とフェライト焼結体42との間に非晶質のガラス成分および第2結晶を含む介在層43が形成されており、第2結晶がフェライト結晶および第1結晶と同じ結晶構造であって、第2結晶とフェライト結晶との格子定数の差および第2結晶と第1結晶との格子定数の差がそれぞれ第2結晶の格子定数の10%以内の大きさであるとともに、非晶質のガラス成分が介在層43に10〜50質量%の割合で含まれている。
このような本発明のセラミック積層体4によれば、ガラスセラミック層41となるセラミックグリーンシートにフェライト層42となるフェライトペーストを塗布するか、もしくはセラミックグリーンシートとフェライト層42となるフェライトグリーンシートとを積層して、同時焼成した際に、セラミックグリーンシートがフェライトペーストまたはフェライトグリーンシートよりも早く焼結されても、介在層43に10〜50質量%の割合で含まれた非晶質のガラス成分が流動可能であるので、フェライトペーストがガラスセラミック層41に拘束されることがなく、フェライトペーストの焼結が阻害されることがない。従って、焼結されたフェライト層42を有するとともに、ガラスセラミック層41とフェライト層42との
接合が十分に確保され、ガラスセラミック層41からフェライト層42が剥がれることを低減したセラミック基板4を得ることができる。
また、図2に示す例のように、ガラスセラミック層41は、第1ガラスセラミック層41aと第2ガラスセラミック層41bとを有し、フェライト層42は、第1ガラスセラミック層41aと第2ガラスセラミック層41bとの間に設けられていると、フェライト層42と比較して絶縁抵抗が高く、配線導体51との接合強度が高いガラスセラミックスがセラミック積層体4の表面に位置するので、フェライト層42に配線導体51を配置する場合に比べて、実装信頼性の高いセラミック積層体4とすることができる。
また、本発明のセラミック積層体4は、ガラスセラミック層41およびフェライト層42は、所定の温度域で同時に焼成されることによって形成され、ガラスセラミック層41が含む非晶質のガラス成分の軟化点は、焼成される温度域よりも低い温度であるとともに、ガラスセラミック層41が含む非晶質のガラス成分の結晶化温度は、焼成される温度域よりも高い温度であると、ガラスセラミック層41とフェライト層42との間に介在層43を有する接合強度の高いセラミック基板4を、通常の積層体の作製工程および焼成工程により容易に作製することができる。
また、本発明の電子装置1は、図1に示す例のように、上記構成のセラミック基板4に電子部品2が搭載されていることから、フェライト層42への水分等の浸入をより低減できるとともに、フェライト層42がガラスセラミック層41から剥がれてしまうことを防止することができる信頼性の高い電子装置1とすることができる。
また、本例の電子装置1は、例えば、携帯電話やDC−DCコンバータ等に用いられる装置であって、電子部品2は、例えば、半導体素子,圧電素子,抵抗体,コンデンサまたは水晶振動子等である。
本例のセラミック基板4は、電子部品2が搭載される基板であって、第1ガラスセラミック層(第1ガラスセラミック焼結体)41a、第2ガラスセラミック層(第2ガラスセラミック焼結体)41b、フェライト層(フェライト焼結体)42、第1介在層43a、および第2介在層43bを備えている。なお、図1では、簡略化のために、第1介在層43aおよび第2介在層43bの図示を省略している。
なお、以下では、第1ガラスセラミック層41aおよび第2ガラスセラミック層41bを説明する際に、特に区別する必要がない場合あるいは総称する場合には、単にガラスセラミック層41として説明する。また、第1介在層43aおよび第2介在層43bについても同様に介在層43として説明する。
ガラスセラミック層41は、非晶質のガラスおよび第1結晶を含んでいる。具体的には、ガラスセラミック層41は、60〜90質量%のガラスと10〜40質量%のフィラーとを含んでいる。また、このガラスは、SiO2,Al2O3,ZnO,CaO,MgOおよびB2O3から選ばれる少なくとも1つのガラス材料を含んでいる。例えば、SiO2系,SiO2−B2O3系,SiO2−Al2O3系,SiO2−MO系(但し、MはCa、Sr、Mg、BaまたはZnを示す),SiO2−B2O3系−MO系,SiO2−M1O−M2O系(但し、M1およびM2は同一または異なってCa、Sr、Mg、BaまたはZnを示す),SiO2−B2O3−M1O−M2O系,SiO2−M3 2O系(但し、M3はLi、NaまたはKを示す),SiO2−B2O3−M3 2O系等のガラスが挙げられる。また、上記以外にCo,Cd,Inやその酸化物が含まれていてもよい。
具体的には例えば、22〜52質量%のSiO2と、2〜12質量%のAl2O3と、9〜29
質量%のZnOと、1〜9質量%のCaOと、7〜21質量%のMgOとを含んでいる。また、フィラーは、実質的にフォルステライトからなる。
ガラスにおけるAl2O3に対するZnOのモル比は、ガラスセラミック層41とフェライト層42との接合強度を向上させることを目的に、0.8〜1.2までの範囲に含まれることが好ましい。
第1結晶は、ガラスセラミック層41用のセラミックグリーンシートを焼成することによって、ガラス粉末とフィラー粉末とを含むガラスセラミック層41用のセラミックグリーンシート中のガラスが結晶化してできた結晶、またはガラス成分とフィラー成分とから生成された結晶、あるいはガラスセラミック層41用のセラミックグリーンシート中に含まれている結晶である。結晶化してスピネル構造となるガラスとしては、例えばSiO2−Al2O3−MgOガラス(但し、Al2O3に対するMgOのモル比が0.8〜1.2),SiO2−MgOガラス(但し、SiO2に対するMgOのモル比が1.8〜2.2),SiO2−Al2O3−ZnOガラス(但し、Al2O3に対するZnOのモル比が0.8〜1.2),SiO2−CoO−MnO2ガラス(但し、MnO2に対するCoOのモル比が1.8〜2.2),SiO2−CdO−InO2ガラス(但し、InO2に対するCdOのモル比が1.8〜2.2)等がある。また、ガラス成分としてMgOを含み、フィラー成分としてSiO2を含む場合であれば、これらによって第1結晶としてMg2SiO4が生成されることがある。あるいは、ガラス成分としてZnOを含み、フィラー成分としてAl2O3を含む場合であれば、これらによって第1結晶としてZnAl2O4が生成されることがある。あるいは、ガラス成分としてAl2O3を含み、フィラー成分としてFe2O3を含む場合であればFeAl2O4が生成されることがある。第1結晶がセラミックグリーンシートにフィラーとして含まれる場合は、フィラーとして例えば、フォルステライト(Mg2SiO4)やガーナイト(ZnAl2O4)が挙げられる。
第1結晶としては、フェライト結晶と同じ構造であれば特に限定されるものではないが、例えば、フェライト結晶が後述するようなスピネル構造である場合であれば、フォルステライト(Mg2SiO4)およびガーナイト(ZnAl2O4)が挙げられる。
ここで、ガラスセラミック層41は、例えば、次のようにして作製される。すなわち、ガラス粉末および有機バインダを主成分とするセラミックグリーンシートを製作し、このセラミックグリーンシートを必要な配線展開ができるだけの枚数を積層した後、800〜1000
℃の温度で焼成することによって作製される。
フェライト層42は、第1ガラスセラミック層41aと第2ガラスセラミック層41bとの間に設けられている。ここで、フェライト層42は、フェライト材料を含んでいる。本例においては、フェライト層42は、スピネル構造の固溶体である強磁性フェライトからなる。例えば、フェライト層42は、Ni−Zn系フェライト,Mn−Zn系フェライト,Mg−Zn系フェライト,Ni−Co系フェライトからなる。
フェライト層42は、高周波帯域における透磁率を向上させることを目的として、特にNi−Zn系フェライトからなることが好ましい。Ni−Zn系フェライトは、X−Fe2O4として示される逆スピネル構造の固溶体である。なお、Xは、Cu,NiまたはZnである。
Ni−Zn系フェライトの場合であれば、その組成比は焼結体としてFeFe2O4を63〜73質量%、CuOを5〜10質量%、NiOを5〜12質量%、ZnOを10〜23質量%とすると、1000℃以下の低温で焼結密度5.0g/cm3以上となる高密度焼成が可能である
とともに、高周波帯域で十分に高い透磁率を得ることができるので好ましい。
FeFe2O4はフェライトの主成分であり、その割合が63質量%未満であると十分な透磁率が得られない傾向があり、73質量%よりも多いと焼結密度の低下によって機械的強度が低下する傾向がある。CuOは焼結温度の低温化のために重要な要素であり、CuOが低温で液相を形成することによって焼結を促進させる効果を用いて、磁気特性を損なわずに800〜1000℃の低温で焼成することができる。このことから、その割合が5質量%未
満であると、配線導体51やコイル導体52と同時に800〜1000℃で焼成を行なうと焼結密度
が不十分になり、機械強度が不足する傾向があり、10質量%よりも多いと、磁気特性の低いCuFe2O4の割合が多くなるため磁気特性を損ないやすくなる傾向がある。NiOはフェライト層42の高周波域における透磁率を確保するために含有される。NiFe2O4は高周波域まで共振による透磁率の減衰を起こさず、高周波域での透磁率を比較的高い値に維持することができるが、初期透磁率は低いという特性を有するため、5質量%未満であると10MHz以上の高周波域での透磁率が低下する傾向があり、12質量%よりも多いと初期透磁率が低下する傾向にある。ZnOはフェライト層42の透磁率向上のために重要な要素であり、フェライト組成のうち10質量%未満であると透磁率が低くなり、逆に23質量%より多くても磁気特性が悪くなる傾向がある。
フェライト層42は、フェライト層42用のフェライトグリーンシートを焼成することで作製される。フェライトグリーンシートに用いられる強磁性フェライト粉末は、例えば、FeFe2O4とCuO,ZnOまたはNiOとを予め仮焼することによって作製されたフェライト粉末であり、平均粒径が0.1μm〜0.9μmの範囲で均一であり、粒形状は球形状に近いものが望ましい。これは、平均粒径が0.1μm以上であると、フェライトグリーン
シートの製作においてフェライト粉末の均一な分散が容易となり、平均粒径が0.9μm以
下であるとフェライトグリーンシートの焼結温度を低く抑えることができるからである。また、粒径が均一で球状に近いことによって均一な焼結状態を得ることができる。フェライト粉末の粒径が均一であると、局所的に結晶粒の成長が低下するといったこともなく、焼結後に得られるフェライト層42の透磁率が安定しやすい。
介在層43は、非晶質のガラス成分および第2結晶を含む層であって、ガラスセラミック層41とフェライト層42との間に形成されている。具体的には、第1介在層43aは、第1ガラスセラミック層41aとフェライト層42との間に形成されている。また、第2介在層43bは、第2ガラスセラミック層41bとフェライト層42との間に形成されている。ガラスセラミック層41とフェライト層42との間に介在層43が形成されているので、次のような効果を有する。すなわち、セラミックグリーンシートにフェライトペーストを塗布して同時焼成し、セラミックグリーンシートがフェライトペーストよりも早く焼結した場合であっても、介在層43が含むガラス成分が流動可能であるので、フェライトペーストの焼結が阻害されることはない。すなわち、介在層43が含むガラス成分が、非晶質のガラス成分であることから、当該ガラス成分は、セラミック基板4の焼結時において、流動可能となるからである。このため、ガラスセラミック層41とフェライト層42との接合強度が強くなり、フェライト層42がガラスセラミック層41から剥がれてしまう可能性を低減できる。
第2結晶は、例えば、ZnFe2O4,FeFe2O4,FeAl2O4,ZnAl2O4,Co2MnO4またはCdIn2O4を含む結晶であり、介在層43とフェライト層42との境界面の全体にわたって存在している。例えば、ガラスセラミック層41がSiO2−B2O3−Al2O3−ZnO−MgO系ガラスを含むセラミックグリーンシートを焼結してなるものであり、フェライト層42がX−Fe2O4(XはCu,Ni,Zn)として示されるNi−Zn系フェライトからなる場合であれば、第2結晶としては、ZnFe2O4,FeAl2O4およびZnAl2O4が生成される。セラミックグリーンシートを焼成することによって、セラミックス中のガラス成分が焼成温度領域において軟化して流動し、フェライト層との界面にZnFe2O4,FeAl2O4およびZnAl2O4
を析出しながら焼結する。そのため、ZnFe2O4,FeAl2O4およびZnAl2O4とガラスセラミック層41との結合は強固なものとなる。
第1結晶、第2結晶およびフェライト結晶は、同じ構造であり、第2結晶の格子定数とフェライト結晶の格子定数との差、および第2結晶の格子定数と第1結晶の格子定数との差は、第2結晶の格子定数の10%以内である。このように、第2結晶が第1結晶と同じ結晶構造を有し、かつ第2結晶の格子定数と第1結晶の格子定数との差が第2結晶の格子定数の10%以内であると、ガラスセラミック層41と介在層43とを原子レベルで接合させることができるため、ガラスセラミック層41と介在層43との接合強度を高くすることができる。また、ガラスセラミック層41と介在層43との間における格子欠陥の発生を抑制することができることから、第2結晶と第1結晶との界面において、ボイドおよび隙間の発生を低減することができる。また、同様に、第2結晶がフェライト結晶と同一の結晶構造を有し、かつ第2結晶の格子定数とフェライト結晶の格子定数との差が第2結晶の格子定数の10%以内であると、フェライト層42と介在層43とを原子レベルで接合させることができるため、フェライト層42と介在層43との接合強度を高くすることができる。また、フェライト層42と介在層43との間における格子欠陥の発生を抑制することができることから、第2結晶とフェライト結晶との界面においてボイドおよび隙間の発生を低減することができる。
第2結晶が第1結晶に含まれる元素の一部とフェライト結晶に含まれる元素の一部とを有するとき、例えば、フェライト結晶がFeFe2O4で、第1結晶がZnAl2O4であって、第2結晶がZnFe2O4であるときには、異元素間における結合と比較して、同元素間における結合の方が結合強度が高くなるので、介在層43中の第2結晶とガラスセラミック層41中の第1結晶およびフェライト層42中のフェライト結晶との結合強度が高くなり、ガラスセラミック層41とフェライト層42との接合強度がより高いものとなる。また、ガラスセラミック層41となるセラミックグリーンシートとフェライト層42となるフェライトグリーンシートとを積層して焼成することによって、第2結晶を形成することができる。そのため、ガラスセラミック層41とフェライト層42との間の接合強度の高いセラミック基板4を、通常の積層体作製工程および焼成工程によって容易に作製することができる。
第1結晶はフォルステライト(Mg2SiO4)を主相とし、フェライト結晶はFeFe2O4を主相とし、第2結晶はZnFe2O4,FeAl2O4およびZnAl2O4のいずれか1つを主相とすることが好ましい。このようにすると、第2結晶はフェライト結晶および第1結晶と同一の結晶構造であるとともに、第2結晶とフェライト結晶との格子定数の差、および第2結晶と第1結晶との格子定数の差は、それぞれ第2結晶の格子定数の5%以内とより小さいものとなることから、ボイドや隙間を発生させることがより少なくなるので、より接合強度の高いセラミック基板4とすることができる。具体的には、ガラスセラミック層41と介在層43との結合は、ガラスセラミックス中の第1結晶であるフォルステライト(Mg2SiO4)結晶と介在層43との結合と、ガラスセラミックス中のガラス相と介在層43との結合とによる。ガラスセラミックス中の第1結晶であるフォルステライト結晶と介在層43との結合については、第1結晶であるフォルステライト結晶と介在層43中の結晶、すなわち第2結晶であるZnFe2O4,FeAl2O4およびZnAl2O4との結晶構造が同じであり、両者の格子定数の差が第2結晶の格子定数の5%以内であることから、両者の原子レベルでの結合が可能である。また、ガラスセラミック層41のガラスセラミックスがフォルステライト(Mg2SiO4)を主相とし、フェライト層42のフェライト結晶がFeFe2O4を主相とすることによって、両者の熱膨張係数が近くなるため、焼成工程やその後の加熱工程、あるいは信頼性評価の工程において、熱膨張の差から生じる応力によるクラックの発生を抑えることができる。
なお、第2結晶は、ZnFe2O4,FeFe2O4およびFeAl2O4を全て含ん
でいなくてもよく、ZnFe2O4,FeAl2O4およびZnAl2O4の少なくともいずれか1つを含む結晶であればよい。ZnFe2O4,FeAl2O4およびZnAl2O4は、それぞれ第1結晶およびフェライト結晶と同じ結晶構造を有しており、第1結晶と第2結晶との格子定数の差、および第2結晶とフェライト結晶との格子定数との差は、それぞれ第2結晶の格子定数の10%以内である。
ここで、ガラスセラミック層41における第1結晶の結晶構造、介在層43における第2結晶の結晶構造、およびフェライト層42の結晶構造を確認する方法としては、透過型電子顕微鏡を用いる方法がある。この方法によれば、まず、セラミック基板4の切断加工およびその切断面の研磨加工を行なって、結晶構造を確認したい層、すなわちガラスセラミック層41,介在層43およびフェライト層42のいずれかを透過型電子顕微鏡で観察できる状態にする。その後、その層の切断面における回折格子像を観察することによって、所望の層の結晶構造を同定することができる。結晶相の同定は、既知のものについてはJPCDSカードを参照して行なうことができる。例えば、ZnFe2O4,FeAl2O4およびZnAl2O4の結晶構造および回折格子像は、JPCDSカード(ZnFe2O4:JPCDSNo.22−1012,FeAl2O4:JPCDS No.34−0192,ZnAl2O4:JPCDS No.5−669)に記載されているので、上記結晶相が析出しているかど
うかは容易に確認することができる。
第1結晶と第2結晶との格子定数の差、および第2結晶とフェライト結晶との格子定数との差が、それぞれ第2結晶の格子定数の10%以内であることは、第1結晶,第2結晶およびフェライト結晶が同じ結晶構造である場合は、回折格子像の原点からそれぞれの同じ面方位に対応する点までの距離を測定することによって確認することができる。第1結晶,第2結晶およびフェライト結晶が同じ結晶構造であることを上記JPCDSカードなどで確認した後、回折格子像の原点からそれぞれ同じ面方位に対応する点までの距離を測定する。第1結晶,第2結晶およびフェライト結晶の、回折格子像の原点からそれぞれ同じ面方位に対応する点までの距離をd1,d2およびd3とすると、第1結晶と第2結晶との格子定数の差の、第2結晶の格子定数に対する割合は、(1/d1−1/d2)×d2から算出することができ、第2結晶とフェライト結晶との格子定数の差の、第2結晶の格子定数に対する割合は、(1/d2−1/d3)×d2から算出することができる。
透過型電子顕微鏡を用いる方法以外のガラスセラミック層41,フェライト層42および介在層43の結晶構造を確認する方法としては、X線回折法を用いる方法がある。この方法によれば、まず、セラミック基板4の切断加工およびその切断面の研磨加工を行なって、所望の層をX線回折によって観察できる状態にする。その後、その層の断面にX線を照射することによって、回折格子像を得ることができる。X線の照射は、所望の層の部分のみが照射されるように、10μm四方程度の領域に照射するようにする。その後、上記透過型電子顕微鏡での結晶構造の同定と同じ手順で、ガラスセラミック層41,フェライト層42および介在層43の結晶構造を特定することができる。
また、介在層43が含む非晶質のガラス成分の割合は、10〜50質量%である。すなわち、介在層43が含む非晶質のガラス成分の割合が50質量%以上になると、ガラスセラミック層41とフェライト層42との間で耐薬品性が低下し、セラミック基板4の絶縁抵抗が低下する。また、介在層43が含む非晶質のガラス成分の割合が10質量%以下になると、介在層43が含む非晶質のガラス成分が少ないため、フェライトペーストの焼結が阻害されてしまう。そのため、ガラスセラミック層41とフェライト層42との接合強度が弱く、フェライト層42がガラスセラミック層41から剥がれてしまう可能性があった。また、介在層43が含む非晶質のガラス成分の割合が10質量%以下になると、結晶相のガラス成分の割合が高くなるので、セラミック基板4が脆くなり、ひいてはセラミック基板4が介在層43の部分から破断したり、介在層43に欠けや割れの症状であるチッピングが発生し易くなる。
ここで、介在層43が含むガラス成分の割合を確認する方法としては、上記の透過型電子顕微鏡またはX線回折法を用いる方法がある。具体的には、まず、セラミック基板4を断面方向から透過型電子顕微鏡またはX線回折法で観察できるように、セラミック基板4を切断・研磨し、介在層43を観察できる状態にする。そして、介在層43にX線を照射することによって、回折格子像を得ることが可能となる。ここで、X線の照射は、介在層43のみに照射されるように、10μm四方程度の領域に照射するようにする。そして、得られた回折格子像を観察して、介在層43に対応する回折格子像のピーク強度を測定することによって、介在層43の結晶構造を同定することができ、非晶質のガラス成分の割合を算出することができる。
ところで、ガラスセラミック層41、およびフェライト層42は、所定の温度帯域(例えば、800〜1000℃)で同時に焼成されることによって形成される。ここで、ガラスセラミッ
ク層41が含むガラス成分の軟化点は、焼成された温度帯域よりも低い温度であり、かつガラスセラミック層41が含むガラス成分の結晶化温度は、焼成された温度帯域よりも高い温度である。これは、以下の理由による。
すなわち、上記とは逆に、ガラスセラミック層41が含むガラス成分の軟化点が、焼成された温度帯域よりも高い温度である場合は、当該焼成される温度帯域でガラス成分の軟化が行なわれないため、介在層43が形成され難くなる。このため、焼成時において、フェライトペーストが平面方向に収縮することを抑制してしまうため、フェライトペーストの焼結が阻害されてしまう。そのため、ガラスセラミック層41とフェライト層42との接合強度が弱く、フェライト層42がガラスセラミック層41から剥がれてしまう可能性があった。しかしながら、本例においては、ガラスセラミック層41が含むガラス成分の軟化点が、焼成された温度帯域よりも低い温度であるので、このような問題は生じない。
また、ガラスセラミック層41が含むガラス成分の結晶化温度が、焼成された温度帯域よりも低い温度である場合、当該焼成される温度帯域で、ガラスセラミック層41が含むガラス成分が結晶化することになる。ガラス成分が結晶化すると、ガラス成分の軟化が行なわれない。ガラス成分の軟化が行なわれないため、介在層43が形成され難くなる。このため、焼成時において、フェライトペーストが平面方向に収縮することを抑制してしまうため、フェライトペーストの焼結が阻害されてしまう。そのため、ガラスセラミック層41とフェライト層42との接合強度が弱く、フェライト層42がガラスセラミック層41から剥がれてしまう可能性があった。しかしながら、本例においては、ガラスセラミック層41が含むガラス成分の結晶化温度が、焼成された温度帯域よりも高い温度であるので、このような問題は生じない。
以上のような理由から、セラミック基板4の焼成温度は介在層43に含まれる非晶質のガラスの軟化点の100℃以上であり、かつ、ガラスの結晶化温度の30℃以下であることが好
ましい。ガラスの軟化点がこのような範囲である場合には、介在層43が含む非晶質のガラス成分の割合を10〜50質量%にすることができる。例えば、800℃〜1000℃でセラミック
基板4を焼成する場合であれば、ガラスセラミック焼結体41に含まれるガラス成分として、22〜52質量%のSiO2と、2〜12質量%のAl2O3と、9〜29質量%のZnOと、1〜9質量%のCaOと、7〜21質量%のMgOとを用いることによって、非晶質のガラス成分の割合が10〜50質量%の介在層43を形成することができる。
ガラスの軟化温度および結晶化温度は、種々のガラス組成を変更することによって調整することが可能である。例えば、22〜52質量%のSiO2と、2〜12質量%のAl2O3と、9〜29質量%のZnOと、1〜9質量%のCaOと、7〜21質量%のMgOとを含んでいるガラスの場合であれば、B2O3を添加すると軟化温度および結晶化温度が低くな
るので、B2O3の添加量によって調整が可能である。添加量は焼成温度によって適宜決められるが、例えば、添加するB2O3量が8質量%の場合であれば、焼成温度を900℃
にすることで上記範囲内とすることができる。
ガラスの軟化点および結晶化温度を測定する方法としては、昇温脱離ガス分析が挙げられる。具体的には、ガラス粉末を昇温脱離ガス分析することによってガラス粉末を過熱し、ガラスの重量の増加および減少のピークを各温度で測定することによってガラスの軟化点および結晶化温度を算出することができる。
このような本発明のセラミック基板4は、ガラスセラミック層41用のセラミックグリーンシートを準備する第1準備工程と、フェライト層42用のフェライトグリーンシートを準備する第2準備工程と、セラミックグリーンシートとフェライトグリーンシートとを積層してグリーンシート積層体を作製する積層体作製工程と、グリーンシート積層体を焼成する焼成工程とを経て作製される。
また、図2に示すように、本例のセラミック基板4には、表面および内部に配線導体51が形成されている。すなわち、本例における配線導体51は、第1ガラスセラミック層41aの表面と内部、および第2ガラスセラミック層41bの表面と内部に形成されている。ここで、配線導体51は、例えば、Cu,Ag,Au,Pt,Ag−Pd合金、Ag−Pt合金等の低抵抗金属の粉末の焼結体であるメタライズ金属からなる。また、配線導体51は、セラミックグリーンシート(ガラスセラミック層41用のグリーンシート)に配線導体51用の導体ペーストを印刷することによって配線パターンを形成し、セラミックグリーンシートと同時焼成することによって形成される。
また、本例のセラミック基板4には、内部にコイル導体52が形成されている。すなわち、本例におけるコイル導体52は、フェライト層42に埋設されている。ここで、コイル導体52は、配線導体51と同様の、例えば、Cu,Ag,Au,Pt,Ag−Pd合金、Ag−Pt合金等の低抵抗金属の粉末の焼結体であるメタライズ金属からなる。コイル導体52が低抵抗金属の粉末の焼結体であるメタライズ金属からなるので、コイル導体52の抵抗値を小さくすることができる。また、コイル導体52は、フェライトペーストの表面にコイル導体52用の導体ペーストを印刷することによってコイルパターンを形成し、その上にフェライトペーストを積層して同時焼成することによって形成される。なお、コイル導体52が上下に複数重ねて形成される場合には、コイルパターンが形成されたフェライトペーストを複数積層した上にさらにフェライトペーストを積層すればよい。
以上のように、本例のセラミック基板4によれば、焼結されたフェライト層42を有するとともにフェライト層42とガラスセラミック層41とが十分に接合されたセラミック基板4を実現でき、およびこれを備えた信頼性の高い電子装置を実現できる。
なお、上記の例では、フェライト層42にコイル導体52が埋設されている例について説明したが、フェライト層42に埋設されるものはこれに限定されない。すなわち、フェライト層42には、コイル導体52以外の、低周波フィルタやノイズ吸収体の役割を担う電子素子が埋設されていてもよい。
すなわち、本発明は上述した実施の形態の例に限定されるものではなく、請求項に示した本発明の要旨の範囲で種々の変更が可能である。つまり、請求項に示した本発明の要旨の範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
上記の実施の形態の例によるコイルを内蔵したセラミック基板4およびその製造方法の実施例を以下に詳細に説明する。
まず、ガラス粉末として表1の「介在層のガラスに含まれる主な元素」に示す元素を含み、かつ、表1に示すガラス軟化温度およびガラス結晶化温度のガラス粉末80質量%と、フィラー粉末としてフォルステライト(Mg2SiO4)またはガーナイト(ZnAl2O4)の粉末20質量%とを混合して絶縁体粉末とし、この絶縁体粉末100質量%に対して
、有機バインダとしてアクリル樹脂を12質量%、可塑剤としてフタル酸系可塑剤を6質量%および溶剤としてトルエンを30質量%を加え、ボールミル法によって混合してスラリーを調製し、このスラリーを用いてドクターブレード法によって厚さ160μmの、絶縁層と
なるセラミックグリーンシートを成形した。
次に、FeFe2O4粉末700g,CuO粉末60g,NiO粉末60g,ZnO粉末180gおよび純水4000cm3をジルコニアボールとともに容量が7000cm3のポットに入れて、ポットを回転させることによるボールミルにて24時間かけて混合した後、乾燥した混合粉末をジルコニアるつぼに入れて大気中730℃で1時間加熱することによって、強磁性フェ
ライト粉末を作製した。このフェライト粉末100質量部に対し、有機バインダとしてブチ
ラール樹脂を10質量部および有機溶剤としてIPA(イソプロピルアルコール)を45質量部添加し、上記と同様のボールミル法によって混合してスラリーとした。このスラリーを用いてドクターブレード法によって厚さ100μmのフェライトグリーンシートを成形した
。
次に、これらのフェライトグリーンシートを8枚重ねたその上下にそれぞれ2枚のセラミックグリーンシートを積み重ねて、20MPaの圧力および55℃の温度で加熱圧着して、セラミックグリーンシートが表層に位置する積層体を作製した。
次に、この積層体を30×35mmの大きさに切断した後、大気中で400℃、1時間の条件
で加熱して有機成分を除去した後、大気中で900℃、1時間の条件で焼成することによっ
て、セラミックス層41の間にフェライト層42が設けられたセラミック基板4を作製した。
このようにして得られた実施例1〜14の試料および比較例1〜14の試料をそれぞれ5個ずつ作製して、透過型電子顕微鏡による介在層の非晶質の割合の測定、第1結晶および第2結晶ならびにフェライト結晶の同定、吸水率の測定、レッドチェック試験および耐薬品性試験を行なった。
透過型電子顕微鏡による非晶質のガラスの割合の測定においては、まず、コイルを内蔵したセラミック基板4を断面方向から透過型電子顕微鏡で観察できるように基板の切断加工および研磨加工を行なった後、介在層43の部分を透過型電子顕微鏡で観察できる状態にした。透過型電子顕微鏡はJEM−2010F(JEOL製)を用いた。その後、像観察を行なって介在層43の回折格子像を観察することによって、介在層43の第2結晶の同定とその割合の測定および非晶質のガラス成分の同定とその割合の測定を行なった。第2結晶の同定はJPCDSカードで行なった。また、ガラスセラミック層の第1結晶およびフェライト層のフェライト結晶の結晶構造についても、同様にして同定を行った。
また、吸水率の測定においては、セラミック基板4の質量を測定した後、90℃の温水に浸漬した状態で1時間放置し、温水から取り出した後の質量を再測定して、浸漬前後の質量変化から基板の吸水率を算出した。
レッドチェック試験においては、セラミック基板4をレッドチェック液に浸漬した状態で10秒間放置し、レッドチェック液から取り出した後、コイルを内蔵したセラミック基板
4の側面へのレッドチェック液の浸透があるかどうかの確認を目視で行なった。浸透があったものについては、ガラスセラミック層41とフェライト層42との界面にボイドや隙間が形成されていると判断した。
耐薬品性試験においては、セラミック基板4の質量を測定した後、10%の硫酸水溶液に浸漬した状態で1分間放置し、硫酸水溶液から取り出して水洗を行ない、80℃の温風で乾燥した後に質量を再測定して、浸漬前後の質量変化から基板の質量変化率を算出し、変化率が0.3%以上である場合は不良品と判定した。
表1に、透過型電子顕微鏡による介在層43の非晶質のガラス成分の割合の測定結果、吸水率の測定結果、レッドチェック試験および耐薬品性試験の結果を示す。なお、表1に示す試験結果でレッドチェックおよび耐薬品性試験に示す数値は、5個中いくつの試料が良品であったかを示すものである。それぞれの試験で5個中全てが合格したもの(数値が5)を良品とした。また、表2に、透過型電子顕微鏡により同定した第1結晶および第2結晶の結晶構造、およびこれらの結晶の格子定数の差を示す。なお、フェライト結晶はすべてFeFe2O4のスピネル構造の結晶構造であり、格子定数は8.40であった。
表1および表2に示すように、非晶質のガラス成分の割合が9質量%以下の比較例1および比較例2のセラミック基板は、基板の吸水率が0.1%を超えるとともに、レッドチェ
ック試験でレッドチェック液の浸透があり、不合格であった。また、非晶質のガラス成分の割合が51質量%以上の比較例3〜8のセラミック基板は、耐薬品性試験において質量変化率が0.3%以上となって、不合格であった。さらに、第2結晶がフェライト結晶および
第1結晶と同じ結晶構造であって、第2結晶とフェライト結晶との格子定数の差または第2結晶と第1結晶との格子定数の差がそれぞれ第2結晶の格子定数の10%以上である比較例3〜7のセラミック基板は、レッドチェック液の浸透があり、不合格であった。
これに対して、第2結晶がフェライト結晶および第1結晶と同じ結晶構造であって、第2結晶とフェライト結晶との格子定数の差または第2結晶と第1結晶との格子定数の差がそれぞれ第2結晶の格子定数の10%以内であるとともに、非晶質のガラスの割合が10〜50質量%の実施例1〜14のセラミック基板4は吸水率が0.1%未満であるとともに、レッド
チェック試験および耐薬品性試験において合格であり、良品であった。
また、比較例1および比較例2はガラス結晶化温度が焼成温度(900℃)よりも低く、
比較例8はガラス軟化温度が焼成温度(900℃)よりも高いものであることから、それぞ
れの介在層の非晶質のガラス成分の割合が10%よりも低くなった。この結果、比較例1および比較例2はレッドチェック試験に不合格となって、比較例8は耐薬品性試験に不合格
となった。
以上の結果から、第2結晶がフェライト結晶および第1結晶と同じ結晶構造であって、第2結晶とフェライト結晶との格子定数の差または第2結晶と第1結晶との格子定数の差がそれぞれ第2結晶の格子定数の10%以内であるとともに、介在層43の非晶質のガラスの割合を10〜50質量%とすることによって、焼結されたフェライト層42を有するとともにフェライト層42とガラスセラミック層41とが十分に接合されたセラミック積層体を得ることができることを確認した。
また、ガラスセラミック層41およびフェライト層42は、ガラスセラミック層41が含む非晶質のガラス成分の軟化点は、焼成される温度域よりも低い温度であるとともに、ガラスセラミック層41が含む非晶質のガラス成分の結晶化温度は、焼成される温度域よりも高い温度であると、ガラスセラミック層41とフェライト層42との間に介在層43を有する接合強度の高いセラミック基板4を、通常の積層体の作製工程および焼成工程により作製することができることを確認した。