以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する。
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態によるバルブタイミング調整装置1について、車両の内燃機関2に適用した例を示している。このバルブタイミング調整装置1は、カム軸3が開閉する「動弁」としての吸気弁のバルブタイミングを、「供給源」としてのポンプ4から「作動液」として供給される作動油により調整する。
(基本構成)
以下、バルブタイミング調整装置1の基本構成を説明する。バルブタイミング調整装置1は、内燃機関2のクランク軸(図示しない)からカム軸3に機関トルクを伝達する伝達系に設置される駆動部10、並びに当該駆動部10の作動を制御する制御部30を備えている。
(駆動部)
図1,2に示す駆動部10において、ハウジング11は、シュー部材12及びスプロケット部材13等から構成されている。
シュー部材12は金属により形成され、有底円筒状の筒部12a並びに複数のシュー12b,12c,12dを有している。各シュー12b,12c,12dは、筒部12aにおいて回転方向に略等間隔となる箇所から径方向内側に突出している。各シュー12b,12c,12dの突出側端面は円弧面状であり、ベーンロータ14のボス部14aの外周面に摺接する。回転方向において隣り合うシュー12b,12c,12dの間には、それぞれ収容室50が形成される。
スプロケット部材13は金属により円環板状に形成され、シュー部材12の筒部12aの開口側端部に同軸上に固定されている。スプロケット部材13は、クランク軸との間にタイミングチェーン(図示しない)が掛け渡されることにより、当該クランク軸と連繋する。これにより内燃機関2の運転時には、クランク軸からスプロケット部材13に機関トルクが伝達されることで、ハウジング11がクランク軸と連動して回転中心Oまわりに回転する。尚、本実施形態においてハウジング11の回転方向は、図2の時計方向に設定されている。
図1,2に示すように、ベーンロータ14は金属により形成され、ハウジング11の内部に同心上に収容されて軸方向の両端部を筒部12aの円環板状の底壁とスプロケット部材13とに摺接させる。ベーンロータ14は、円柱状のボス部14a並びに複数のベーン14b,14c,14dを有している。
ボス部14aは、カム軸3に対して同軸上に連結されている。これによりベーンロータ14は、カム軸3と連動してハウジング11と共通の回転中心Oまわりに回転すると共に、ハウジング11に対して相対回転可能となっている。尚、本実施形態においてベーンロータ14の回転方向は、図2の時計方向である。
各ベーン14b,14c,14dは、ボス部14aにおいて回転方向に略等間隔となる箇所から径方向外側に突出し、それぞれ対応する収容室50内に収容されている。各ベーン14b,14c,14dの突出側端面は円弧面状に形成され、筒部12aの内周面と摺接する。各ベーン14b,14c,14dは、それぞれ対応する収容室50を回転方向に二分することにより、進角室52,53,54及び遅角室56,57,58をハウジング11の内部に区画形成している。
具体的には、シュー12bとベーン14bの間に進角室52、シュー12cとベーン14cの間に進角室53、シュー12dとベーン14dの間に進角室54がそれぞれ形成されている。また、シュー12cとベーン14bの間に遅角室56、シュー12dとベーン14cの間に遅角室57、シュー12bとベーン14dの間に遅角室58がそれぞれ形成されている。尚、図1,2において符号Rを付した一点鎖線は、ハウジング11及びベーンロータ14の回転中心Oを中心軸として進角室52,53,54及び遅角室56,57,58の最内周縁を通るように想定した仮想円筒面を、模式的に表示するものである。
こうした構成の駆動部10では、進角室52,53,54への作動油の導入と遅角室56,57,58からの作動油の排出とにより、ハウジング11に対するベーンロータ14の回転位相が進角側に変化する。故に、このときには、バルブタイミングが進角する。また一方、遅角室56,57,58への作動油の導入と進角室52,53,54からの作動油排出とにより、回転位相が遅角側に変化する。故に、このときには、バルブタイミングが遅角する。
(制御部)
図1に示す制御部30において、進角通路72は、カム軸3及びその軸受(図示しない)を貫通しており、回転位相の変化に拘らず進角室52,53,54(図2参照)と連通する。遅角通路74は、カム軸3及びその軸受を貫通しており、回転位相の変化に拘らず遅角室56,57,58(図2参照)と連通する。
供給通路76はポンプ4の吐出口と連通しており、オイルパン5からポンプ4の吸入口に吸入された作動油が当該吐出口から吐出供給される。ここで、本実施形態のポンプ4は、始動を含む内燃機関2の運転に伴ってクランク軸により駆動されることで、供給通路76に作動油を吐出供給するメカポンプである。ドレン通路78は、オイルパン5に作動油を排出可能に設けられている。
位相制御弁80は、進角通路72、遅角通路74、供給通路76及びドレン通路78に機械的に接続されている。位相制御弁80は、ソレノイド82への通電に従って作動することで、進角通路72及び遅角通路74にそれぞれ連通する通路を供給通路76及びドレン通路78の間で切換える。
制御回路90は、マイクロコンピュータを主体に構成されており、位相制御弁80のソレノイド82と電気的に接続されている。制御回路90は、ソレノイド82への通電を制御する機能のみならず、内燃機関2の運転を制御する機能も備えている。
こうした構成の制御部30では、内燃機関2の運転時に制御回路90により制御されたソレノイド82への通電に従って位相制御弁80が作動することで、進角通路72及び遅角通路74に対する供給通路76及びドレン通路78の連通状態が切換えられる。ここで、位相制御弁80が進角通路72及び遅角通路74にそれぞれ供給通路76及びドレン通路78を連通させるときには、ポンプ4からの作動油が通路76,72を通じて進角室52,53,54に導入されると共に、遅角室56,57,58の作動油が通路74,78を通じてオイルパン5に排出される。故に、このときには、バルブタイミングが進角する。
また一方、位相制御弁80が遅角通路74及び進角通路72にそれぞれ供給通路76及びドレン通路78を連通させるときには、ポンプ4からの作動油が通路76,74を通じて遅角室56,57,58に導入されると共に、進角室52,53,54の作動油が通路72,78を通じてオイルパン5に排出される。故に、このときには、バルブタイミングが遅角する。
(詳細構成)
以下、バルブタイミング調整装置1の詳細構成を説明する。
(変動トルクの作用構造)
図1に示すようにベーンロータ14がカム軸3と連結されている駆動部10では、内燃機関2の運転中にカム軸3によって開閉駆動される吸気弁のスプリング反力等に起因して、変動トルクがベーンロータ14に作用する。ここで、図3に例示するように変動トルクは、ハウジング11に対する回転位相の進角側にベーンロータ14を付勢する負トルクと、回転位相の遅角側にベーンロータ14を付勢する正トルクとの間で交番する。そして、特に本実施形態の変動トルクは、カム軸3及び軸受間のフリクション等に起因して、正トルクのピークトルクT+が負トルクのピークトルクT−よりも大きくなる傾向を示している。これによりベーンロータ14は、変動トルクの平均トルクTaveによって正トルク側、即ち回転位相の遅角側に平均的に偏って付勢されるようになっている。
(付勢構造)
図1,4に示すようにハウジング11は、金属により円筒状に形成されたハウジングブッシュ100を備えている。ハウジングブッシュ100は、スプロケット部材13と反対側から筒部12aの底壁に同軸上に固定されるフランジ壁101を、有している。ハウジングブッシュ100の軸方向においてフランジ壁101と反対側の端部には、径方向に貫通する円弧状のハウジング溝102が図4の如く設けられている。
図1,4に示すようにベーンロータ14は、金属により有底円筒状に形成されたロータブッシュ110を備えている。ロータブッシュ110は、スプロケット部材13と反対側からボス部14aに同軸上に固定される底壁111を、有している。ロータブッシュ110は、ハウジングブッシュ100よりも小径に形成され、当該ハウジングブッシュ100の内周側及び筒部12aの底壁の内周側に相対回転可能に配置されている。ロータブッシュ110の軸方向において底壁111と反対側の端部には、径方向に貫通する円弧状のロータ溝112が図4の如く設けられている。
ハウジングブッシュ100の外周側には、金属製のヘリカルトーションスプリングからなる付勢部材120が同心上に配置されている。付勢部材120の一端部120aは、筒部12aに固定された係止ピン121により係止されている。付勢部材120の他端部120bは、ハウジング溝102及びロータ溝112を径方向の外側から内側に貫通する形態で、それらの溝102,112に遊挿されている。
本実施形態において、回転位相が図5に示す最遅角位相と図4に示す所定のロック位相との間にあるときには、付勢部材120の端部120bがロータ溝112により進角側から係止される。このとき付勢部材120の端部120bは、ハウジング溝102には係止されない状態となるので、内燃機関2の運転中は、付勢部材120のねじり変形によって発生する復原力が変動トルクの平均トルクTaveに抗してロータ溝112に作用する。ここで特に本実施形態では、付勢部材120の復原力が変動トルクの平均トルクTaveよりも大きく設定されていることから、ロータブッシュ110がベーンロータ14と共に回転位相の進角側へと付勢されるのである。
また一方、回転位相が図4に示すロック位相と図6に示す最進角位相との間にあるときには、付勢部材120の端部120bがハウジング溝102により進角側から係止される。このとき付勢部材120の端部120bは、ロータ溝112には係止されない状態となるので、付勢部材120の復原力がハウジングブッシュ100にのみ作用することになる。
以上より、回転位相が規制位相としてのロック位相に至るまでは、付勢部材120による進角側への付勢がベーンロータ14に対して実現されるが、ロック位相を進角側に越えた回転位相では、当該付勢が実現されないようになっている。ここで、バルブタイミング調整装置1が適用される内燃機関2については、その始動性を確保するために始動時に規制する規制位相の領域として、最遅角位相及び最進角位相間の所定の中間位相から最進角位相に至るまでの領域が設定されている。また特に本実施形態では、環境温度に拘らず最適な始動性を確保可能な規制位相として、上記のロック位相が設定されている。これらの設定によれば、内燃機関2をクランキングして始動する始動時には、吸気量が吸気弁の閉弁遅延により減少し過ぎることを抑制し得るのである。
(第一規制構造)
図1,7に示すようにハウジング11は、スプロケット部材13に埋設された金属製のガイド130と共同して、第一規制凹部132及びロック凹部134を形成している。第一規制凹部132は、ベーンロータ14と摺接するスプロケット部材13の内面135に開口し且つハウジング11の回転方向に延伸する形状であり、その延伸方向の閉塞された両端部に一対の第一規制ストッパ136,137を形成している。ロック凹部134はカム軸3に軸平行な有底筒孔状であり、第一規制凹部132の進角側端部において当該規制凹部132の底面に開口している。
図1,2に示すようにベーンロータ14は、ベーン14bに埋設された金属製スリーブ140の段付円筒面状の内周面により、ボス部14aに軸平行な第一小径孔142及び第一大径孔144を形成している。第一小径孔142は、第一大径孔144よりも小径に且つ第一大径孔144よりも軸方向のスプロケット部材13側に形成されている。第一小径孔142は、スプロケット部材13の内面135に向かって開口しており、ベーンロータ14の回転方向に延伸する形態の第一規制凹部132に対して所定の回転位相領域で対向するようになっている。第一大径孔144は、スリーブ140及びベーンロータ14を貫通する第一規制通路146と連通している。
ベーンロータ14は、金属により有底筒状に形成された第一規制部材150を、スリーブ140により、ボス部14aと軸平行に支持している。第一規制部材150は、図1に示すような段付形状により、本体部152及び受力部156を形成している。本体部152は、第一小径孔142内に、軸方向に往復移動可能に収容されている。受力部156は、第一大径孔144内に、軸方向に往復移動可能に収容されている。受力部156においてスプロケット部材13側の端面には、第一規制通路146を通じて第一大径孔144内に導入される作動油の圧力が作用する。したがって、スプロケット部材13とは反対側に向かって第一規制部材150を駆動する第一駆動力は、この圧力作用により発生する。
図1,2に示すようにベーンロータ14は、金属製の圧縮コイルスプリングよりなる第一弾性部材170を、スリーブ140内にボス部14aと軸平行に収容している。第一弾性部材170は、第一大径孔144の底部と第一規制部材150との間に挟まれている。第一弾性部材170は、要素144,150間での圧縮変形によって発生する第一復原力を第一規制部材150に作用させることで、当該規制部材150をスプロケット部材13側に向かって押圧する。
以上の構成により第一規制部材150の本体部152は、図8(b)〜(d)の如く第一規制凹部132に突入することで、当該凹部132内を揺動可能且つ各第一規制ストッパ136,137により係止可能となっている。ここで、図8(b)に示すように第一規制部材150は、第一規制凹部132に突入した本体部152を遅角側の第一規制ストッパ136により係止されることで、規制位相の領域うち遅角側限界の第一規制位相にて回転位相の遅角側変化を規制する。また一方、図8(d)に示すように第一規制部材150は、第一規制凹部132に突入した本体部152を進角側の第一規制ストッパ137により係止されることで、規制位相の領域うちロック位相にて回転位相の進角側変化を規制する。
さらに、第一規制部材150の本体部152は、図8(e)の如くロック凹部134に第一規制凹部132を通じて突入することで、当該凹部134に同心上に嵌入して回転位相をロック可能となっている。したがって、第一規制部材150は、ロック凹部134に嵌入した本体部152を当該凹部134の内周面により係止されることで、規制位相の領域のうちロック位相にて回転位相の進角側変化及び遅角側変化の双方を規制する。
またさらに、第一規制部材150の本体部152は、図8(a),(f)の如く第一弾性部材170の復原力に抗して軸方向移動することで、ロック凹部134及び第一規制凹部132から脱出して回転位相のロック及び規制を解除可能となっている。したがって、第一規制部材150は、本体部152をロック凹部134及び第一規制凹部132から脱出させることで、任意の回転位相の変化を許容することができる。
(第一開閉構造)
図1,2に示すように駆動部10には、第一流体回路160が設けられている。第一流体回路160は、第一ハウジング通路162及び第一ロータ通路164を有している。
第一ハウジング通路162は、ハウジング11において筒部12aの底壁を軸方向に貫通し且つハウジング11の回転方向に延伸する円弧状であり、特に本実施形態では、ロータブッシュ110の外周面に沿う当該底壁の内周面に開口している。これにより第一ハウジング通路162は、ロータブッシュ110及びハウジングブッシュ100間の円環状の隙間161を通じて、当該通路162の開放端162aからハウジング11外部の大気に開放されている。
第一ロータ通路164は、連通孔165,166,167及び第一大径孔144の共同により形成されている。第一進角連通孔165は、ベーンロータ14のベーン14b及びスリーブ140を貫通することで、進角室52及び第一大径孔144の間を連通している。第一遅角連通孔166は、ベーン14b及びスリーブ140を貫通することで、遅角室56及び第一大径孔144の間を連通している。第一大気連通孔167は、ベーンロータ14及びスリーブ140を貫通し且つ第一ハウジング通路162と対向する箇所に開口することで、当該通路162及び第一大径孔144の間を回転位相の変化に拘らずに連通する。
こうした第一流体回路160において、第一ハウジング通路162と、第一ロータ通路164をなす第一大気連通孔167のうち少なくとも通路162への連通側部分とは、当該回路160に連通する進角室52及び遅角室56よりも回転中心O側(即ち、図1,2の仮想円筒面Rの内周側)に形成されている。これにより第一流体回路160は、進角室52及び遅角室56よりも回転中心O側を経由して、かかる回転中心O側にてハウジング11に形成される開放端162aから大気開放されているのである。
以上の構成により第一流体回路160は、その一部をなす第一大径孔144に収容された第一規制部材150の移動位置に応じて、開閉可能となっている。ここで、図1の如く第一規制部材150が第一規制凹部132を通じてロック凹部134に嵌入する移動位置から、図9の如く第一規制部材150がスプロケット部材13の内面135と当接する移動位置までの範囲では、第一流体回路160にて第一大径孔144と各連通孔165,166,167との連通部が開放される。即ち、第一規制部材150については、ロック凹部134への嵌入位置と、スプロケット部材13との当接位置と、それらの間の移動位置とが第一流体回路160の開放位置に設定され、当該開放位置にて、進角室52及び遅角室56の間が連通することになる。
また一方、図10の如く第一規制部材150がスプロケット部材13の内面135から所定距離、離間する移動位置では、第一流体回路160において第一大径孔144と各連通孔165,166,167との連通部が閉塞される。即ち、第一規制部材150については、スプロケット部材13に対する所定の離間位置が第一流体回路160の閉塞位置に設定され、当該閉塞位置にて、進角室52及び遅角室56の間が遮断されることになる。
(第二規制構造)
図1,7に示すようにハウジング11は、スプロケット部材13に埋設された金属製のガイド200と共同して、第二規制凹部202を形成している。第二規制凹部202は、スプロケット部材13の内面135に開口し且つハウジング11の回転方向に延伸する形状であり、その延伸方向の閉塞された両端部のうち遅角側端部に第二規制ストッパ206を形成している。
図1,2に示すようにベーンロータ14は、ベーン14cに埋設された金属製スリーブ210の段付円筒面状の内周面により、ボス部14aに軸平行な第二小径孔212及び第二大径孔214を形成している。第二小径孔212は、第二大径孔214よりも小径に且つ第二大径孔214よりも軸方向のスプロケット部材13側に形成されている。第二小径孔212は、スプロケット部材13の内面135に向かって開口しており、ベーンロータ14の回転方向に延伸する形態の第二規制凹部202に対して所定の回転位相領域で対向するようになっている。第二大径孔214は、スリーブ210及びベーンロータ14を貫通する第二規制通路216と連通している。
ベーンロータ14は、金属により有底筒状に形成された第二規制部材220を、スリーブ210により、ボス部14aと軸平行に支持している。第二規制部材220は、図1に示すような段付形状により、本体部222及び受力部226を形成している。本体部222は、第二小径孔212内に、軸方向に往復移動可能に収容されている。受力部226は、第二大径孔214内に、軸方向に往復移動可能に収容されている。受力部226においてスプロケット部材13側の端面には、第二規制通路216を通じて第二大径孔214内に導入される作動油の圧力が作用する。したがって、スプロケット部材13とは反対側に向かって第二規制部材220を駆動する第二駆動力は、この圧力作用により発生する。
図1,2に示すようにベーンロータ14は、金属製の圧縮コイルスプリングよりなる第二弾性部材230を、スリーブ210内にボス部14aと軸平行に収容している。第二弾性部材230は、第二大径孔214の底部と第二規制部材220との間に挟まれている。第二弾性部材230は、要素214,220間での圧縮変形によって発生する第二復原力を第二規制部材220に作用させることで、当該規制部材220をスプロケット部材13側に向かって押圧する。
以上の構成により第二規制部材220の本体部222は、図8(c)〜(f)の如く第二規制凹部202に突入することで、当該凹部202内を揺動可能且つ第二規制ストッパ206により係止可能となっている。ここで、図8(c)に示すように第二規制部材220は、第二規制凹部202に突入した本体部222を遅角側の第二規制ストッパ206により係止されることで、規制位相の領域うち第一規制位相よりも進角側となる第二規制位相にて回転位相の遅角側変化を規制する。
さらに、第二規制部材220の本体部222は、図8(a),(b)の如く第二弾性部材230の復原力に抗して軸方向移動することで、第二規制凹部202から脱出して回転位相の規制を解除可能となっている。したがって、第二規制部材220は、本体部222を第二規制凹部202から脱出した状態下、例えば図8(a)の如く第一規制部材150の本体部152が第一規制凹部132から脱出することで、任意の回転位相変化を許容することができる。
(第二開閉構造)
図1,2に示すように駆動部10には、第二流体回路240が設けられている。第二流体回路240は、第二ハウジング通路242及び第二ロータ通路244を有している。
第二ハウジング通路242は、ハウジング11において筒部12aの底壁を軸方向に貫通し且つハウジング11の回転方向に第一ハウジング通路162からずれて延伸する円弧状であり、特に本実施形態では、当該底壁の内周面に開口している。これにより第二ハウジング通路242は、ブッシュ110,100間の隙間161を通じて当該通路242の開放端242aから大気開放されている。
第二ロータ通路244は、連通孔245,246,247及び第二大径孔214の共同により形成されている。第二進角連通孔245は、ベーンロータ14のベーン14c及びスリーブ210を貫通することで、進角室53及び第二大径孔214の間を連通している。第二遅角連通孔246は、ベーン14c及びスリーブ140を貫通することで、遅角室57及び第二大径孔214の間を連通している。第二大気連通孔247は、ベーンロータ14及びスリーブ140を貫通し且つ第二ハウジング通路242と対向する箇所に開口することで、当該通路242及び第二大径孔214の間を回転位相の変化に拘らずに連通する。
こうした第二流体回路240において、第二ハウジング通路242と、第二ロータ通路244をなす第二大気連通孔247のうち少なくとも通路242への連通側部分とは、当該回路240に連通する進角室53及び遅角室57よりも回転中心O側(即ち、図1,2の仮想円筒面Rの内周側)に形成されている。これにより第二流体回路240は、進角室53及び遅角室57よりも回転中心O側を経由して、かかる回転中心O側にてハウジング11に形成される開放端242aから大気開放されているのである。
以上の構成により第二流体回路240は、その一部をなす第二大径孔214に収容された第二規制部材220の移動位置に応じて、開閉可能となっている。ここで、図1の如く第二規制部材220が第二規制凹部202に突入する移動位置から、図9の如く第二規制部材220がスプロケット部材13の内面135と当接する移動位置までの範囲では、第二流体回路240において第二大径孔214と各連通孔245,246,247との連通部が開放される。即ち、第二規制部材220については、第二規制凹部202への突入位置とスプロケット部材13との当接位置と、それらの間の移動位置とが第二流体回路240の開放位置に設定され、当該開放位置にて、進角室53及び遅角室57の間が連通することになる。
また一方、図10の如く第二規制部材220がスプロケット部材13の内面135から所定距離、離間する移動位置では、第二流体回路240において第二大径孔214と各連通孔245,246,247との連通部が閉塞される。即ち、第二規制部材220については、スプロケット部材13に対する所定の離間位置が第二流体回路240の閉塞位置に設定され、当該閉塞位置にて、進角室53及び遅角室57の間が遮断されることになる。
(駆動力制御)
図1に示す制御部30において、カム軸3及びその軸受を貫通する駆動通路300は、回転位相の変化に拘らず通路146,216と連通する。ポンプ4と接続の供給通路76から分岐する分岐通路302は、当該ポンプ4の供給する作動油を供給通路76から受ける。さらに、ドレン通路304は、オイルパン5に作動油を排出可能に設けられている。
駆動制御弁310は、駆動通路300、分岐通路302及びドレン通路304と機械的に接続されている。駆動制御弁310は、制御回路90と電気的に接続されたソレノイド312への通電に従って作動することにより、駆動通路300に連通する通路を分岐通路302及びドレン通路304の間で切り換える。
ここで、駆動制御弁310が分岐通路302を駆動通路300に連通させるときには、ポンプ4からの作動油が通路76,302,300,146,216を通じて、各規制部材150,220を収容する大径孔144,214内に導入される。故に、このときには、各規制部材150,220をそれぞれ弾性部材170,230の復原力に抗して流体回路160,240の閉塞位置側へと駆動するように、第一及び第二駆動力が発生する。また一方、駆動制御弁310がドレン通路304を駆動通路300に連通させるときには、各規制部材150,220を収容する大径孔144,214内の作動油が通路146,216,300,304を通じてオイルパン5に排出される。故に、このときには第一及び第二駆動力が消失するので、各規制部材150,220がそれぞれ弾性部材170,230の復原力により流体回路160,240の開放位置側へと押圧されることになる。
(詳細作動)
以下、バルブタイミング調整装置1の詳細作動を説明する。
(通常作動)
まず、内燃機関2が正常に停止するときの通常作動について説明する。
(I)イグニッションスイッチのオフ等の停止指令に応じて内燃機関2が停止する正常停止時には、制御回路90が位相制御弁80への通電を制御して供給通路76を進角通路72に連通させる。このとき、完全に停止するまでは慣性によって回転する内燃機関2がその回転数を低下させることで、ポンプ4から進角室52,53,54に導入される作動油の圧力が低下する。その結果、進角室52,53,54への導入油によるベーンロータ14の駆動力が低下するので、特にロック位相よりも遅角側の回転位相では、ベーンロータ14を付勢する付勢部材120の復原力が支配的な状態となる。
また、停止指令に応じた内燃機関2の正常停止時には、制御回路90が駆動制御弁310への通電を制御してドレン通路304を駆動通路300に連通させる。その結果、大径孔144,214内の作動油が排出されて各規制部材150,220の駆動力が消失するので、それら規制部材150,220を押圧する弾性部材170,230の復原力が支配的な状態となる。これにより、規制部材150,220が流体回路160,240の開放位置側に移動して進角室52,53を大気に開放させるので、ポンプ4から進角室52,53,54への導入油によるベーンロータ14の駆動力をさらに減じさせることができる。
したがって、以上の状態下、正常停止時の回転位相に応じた作動によりロック位相へのロックが実現されて、内燃機関2の次の始動が待たれることになる。そこで、以下では、正常停止時の回転位相に応じたロック作動を具体的に説明する。
(I−1)正常停止時の回転位相が図8(a)の最遅角位相である場合には、変動トルクとしての負トルク及び付勢部材120の復原力により、ベーンロータ14がハウジング11に対して相対回転して回転位相が進角側に変化する。この進角側への位相変化により回転位相が図8(b)の第一規制位相に達すると、第一弾性部材170の復原力を受ける第一規制部材150が第一規制凹部132に突入することで、第一規制位相よりも遅角側への位相変化が規制される。さらに進角側への位相変化が進んで、回転位相が図8(c)の第二規制位相に達すると、第二弾性部材230の復原力を受ける第二規制部材220が第二規制凹部202に突入することで、第二規制位相よりも遅角側への位相変化が規制される。
この後、進角側へのさらなる位相変化により、回転位相が図8(d)のロック位相に達すると、第一規制部材150が第一規制凹部132の進角側の第一規制ストッパ137に係止される。このとき、付勢部材120の復原力を受けて第一規制ストッパ137に押し当てられる第一規制部材150は、第一弾性部材170の復原力により、図8(e)の如くロック凹部134に嵌入して係止されることになる。したがって、回転位相がロック位相に規制された状態でロックされるのである。
(I−2)正常停止時の回転位相が例えば図8(b),(c)の如き最遅角位相及びロック位相の間、又は図8(d)のロック位相にある場合には、上記(I−1)に準ずる作動が当該正常停止時の回転位相状態から実現される。したがって、この場合にも、回転位相がロック位相にロックされることとなる。
(I−3)正常停止時の回転位相が図8(f)の最進角位相である場合には、第二弾性部材230の復原力により第二規制部材220が第二規制凹部202への突入状態となる。かかる状態下、付勢部材120の付勢作用がロック位相よりも進角側にて制限される本実施形態では、慣性回転状態にある内燃機関2から変動トルクがベーンロータ14に作用することで、回転位相が当該変動トルクの平均トルクTaveの偏り側、即ち遅角側へと変化する。この遅角側への位相変化により回転位相が図8(d)のロック位相に達すると、第一弾性部材170の復原力を受ける第一規制部材150が第一規制凹部132及びロック凹部134に順次突入して、回転位相がロック位相にロックされるのである。尚、このとき、回転位相がロック位相を遅角側にすり抜けるようなことがあったとしても、すでに第二規制凹部202に突入している第二規制部材220は、図8(c)の第二規制位相にて第二規制ストッパ206に一旦係止されることになる。故に、この後には、上記(I−2)に準じた作動を経て、回転位相がロック位相にロックされることとなる。
(I−4)正常停止時の回転位相が最進角位相及びロック位相の間にある場合には、上記(I−3)に準ずる作動が当該正常停止時の回転位相状態から実現される。したがって、この場合にも、回転位相がロック位相にロックされることとなる。
(II)以上説明した正常停止後、イグニッションスイッチのオン等の始動指令に応じて内燃機関2をクランキングにより始動させるときには、制御回路90が位相制御弁80への通電を制御して供給通路76を進角通路72に連通させる。その結果、ポンプ4からの作動油が進角室52,53,54に導入される。また、このとき制御回路90は、駆動制御弁310への通電を制御してドレン通路304を駆動通路300に連通させる。その結果、大径孔144,214内には作動油が導入されず、各規制部材150,220の駆動力が消失状態に維持されるので、それら規制部材150,220を押圧する弾性部材170,230の復原力が支配的となる。
したがって、上記(I)の最終状態、即ち図8(e)に示すように、第一規制部材150がロック凹部134に嵌入し且つ第二規制部材220が第二規制凹部202に突入した状態が、継続されることになる。ここで特に、内燃機関2が完爆して始動が完了するまでのクランキング中は、ポンプ4からの作動油の圧力が低い状態にあるので、異常によって作動油が大径孔144,214にまで到達したとしても、かかる状態は継続され得る。したがって、内燃機関2の始動に最適なロック位相に回転位相をロックして、機関始動性を確保することができるのである。
しかも、本実施形態では、上述した規制部材150,220の状態継続により、流体回路160,240が開放されることになる。その結果、進角室52,53が連通孔165,166,167及び245,246,247を介して遅角室56,57に連通且つ流体回路160,240から大気に開放された状態となるので、ポンプ4から進角室52,53へと導入された作動油は、流体回路160,240及び遅角室56,57へも導入される。ここで流体回路160,240は、それぞれ遅角室56,57よりも回転中心O側を経由しているので、回転運動に伴う遠心力の作用によって、遅角室56,57への作動油の導入が優先して行われ得る。したがって、内燃機関2の始動後に開始されるバルブタイミング調整装置1の調整作動に向けた準備を、速やかに実施することも可能となるのである。
(III)こうして内燃機関2の始動が完了した後において制御回路90は、駆動制御弁310への通電を制御して分岐通路302を駆動通路300に連通させる。これにより、圧力上昇した作動油が通路76,302,300,146,216を通じて大径孔144,214内に導入されるので、各規制部材150,220の駆動力が発生する。その結果、第一規制部材150は、発生した第一駆動力により第一弾性部材170の復原力に抗して駆動され、ロック凹部134及び第一規制凹部132の双方から脱出する。このとき第一規制部材150は、図10の如くスプロケット部材13から離間して第一流体回路160を閉塞する閉塞位置まで、移動する。また、発生した第二駆動力により第二規制部材220は、第二弾性部材230の復原力に抗して駆動され、第二規制凹部202から脱出する。このとき第二規制部材220は、図10の如くスプロケット部材13から離間して第二流体回路240を閉塞する閉塞位置まで、移動する。
以上によれば、各流体回路160,240を通じて進角室52,53及び遅角室56,57から作動油が漏出する事態を防止しつつ、任意の回転位相変化を許容することができる。したがって、この後においては、位相制御弁80への通電を制御回路90により制御してポンプ4からの作動油を進角室52,53,54又は遅角室56,57,58に導入することで、バルブタイミング調整を高い応答性にて実現可能である。
また、こうしたバルブタイミング調整中の例えばアイドル運転時等、内燃機関2の停止が予測されるときには、各制御弁80,310への通電を制御回路90により制御して回転位相を、事前にロック位相にロックすることができる。但し、かかる事前ロックの場合には、第一弾性部材170の復原力により第一規制部材150がロック凹部134に嵌入して第一流体回路160を開放すると共に、第二弾性部材230の復原力により第二規制部材220が第二規制凹部202に突入して第二流体回路240を開放する状態となる(図1)。しかし、各流体回路160,240に連通する進角室52,53及び遅角室56,57において遠心力の作用を受ける作動油は、それら各室52,53,56,57よりも回転中心O側から大気開放される流体回路160,240を通じては、漏出し難い。したがって、以上の事前ロックによれば、機関始動性を確保するための規制位相から回転位相がずれて内燃機関2が停止するのを未然に防止しつつも、内燃機関2が停止せずに運転し続けた場合のバルブタイミング調整にも備えることができるのである。
(フェイルセーフ作動)
次に、内燃機関2が異常停止した場合のフェイルセーフ作動について説明する。
(i)クラッチの締結異常等により内燃機関2が瞬間的に停止する異常停止時には、制御回路90から位相制御弁80への通電がカットされて、供給通路76が進角通路72に連通する。このとき、ポンプ4から進角室52,53,54への導入油の圧力は急激に低下するので、当該導入油によるベーンロータ14の駆動力が消失して、回転位相が異常停止(瞬間停止)時の位相に保持される。
また、内燃機関2の異常停止時には、制御回路90から駆動制御弁310への通電もカットされて、ドレン通路304が駆動通路300に連通する。その結果、上記通常作動の(I)に準じて各規制部材150,220の駆動力が消失するので、それら規制部材150,220を押圧する弾性部材170,230の復原力が支配的となる。
したがって、異常停止時の回転位相がロック位相である場合は、第一弾性部材170の復原力により第一規制部材150がロック凹部134への嵌入状態となるので、回転位相をロック位相にロックした状態で内燃機関2の次の始動を待つことができる。しかし、異常停止時の回転位相がロック位相以外の場合には、第一規制部材150をロック凹部134に嵌入させられなくなるため、回転位相がロック位相にロックされないまま内燃機関2の次の始動を待つことになる。
(ii)以上説明した異常停止後に、始動指令に応じて内燃機関2を始動させるときには、制御回路90が位相制御弁80への通電を制御して供給通路76を進角通路72に連通させることで、ポンプ4からの作動油を進角室52,53,54に導入する。それと共に、制御回路90が駆動制御弁310への通電を制御してドレン通路304を駆動通路300に連通させることで、各規制部材150,220の駆動力を、弾性部材170,230の復原力が支配的となる消失状態に維持する。これらの結果、内燃機関2の始動が完了するまでの間に本実施形態では、ロック位相へのロックが異常停止時の回転位相に応じた作動によって実現されることになる。そこで、以下では、異常停止時の回転位相に応じたロック作動を具体的に説明する。尚、異常停止時の回転位相がロック位相の場合、上記(i)で説明した作動によって内燃機関2の始動時にはロック位相が確保されているので、上記通常作動の(II)に準じた始動が実現されることから、詳細な説明は割愛する。
(ii−1)異常停止時の回転位相が図8(a)の最遅角位相である場合、始動直前において各規制部材150,220は、それぞれ弾性部材170,230の復原力によりスプロケット部材13と当接して流体回路160,240を開放する開放位置に、図9の如く定位している。そして、かかる定位状態において内燃機関2の始動が開始されると、変動トルクとしての負トルク及び付勢部材120の復原力により、ベーンロータ14がハウジング11に対して相対回転して回転位相が進角側に変化する。その結果、上記通常作動の(I−1)に準じて各規制部材150,220が規制凹部132,202へと順次突入し、さらに第一規制部材150がロック凹部134に嵌入する。このとき各規制部材150,220は、一連のいずれの状態においても、それぞれ弾性部材170,230の復原力を受けて流体回路160,240の開放位置となる(例えば図9,1)。
したがって、このような進角側への位相変化中、進角側の変動トルクである負トルクの作用によって容積拡大する進角室52,53には、大気開放された流体回路160,240を通じて、それぞれ空気が吸入されることになる。またこのとき、進角室52,53よりも回転中心O側の開放端162a,242a等に作動油が存在する流体回路160,240においては、当該作動油の各室52,53への吸入を遠心力によりアシストして、各室52,53に向かう空気の吸入経路を確実に確保することができる。これらのことから進角室52,53では、作動油が高粘度となる極低温下(例えば−30℃レベル)にあっても、容積拡大により懸念される負圧の発生が抑制されるのである。尚、こうした負圧の発生抑制作用は、変動トルクの平均トルクTaveが遅角側に偏っていると共に、付勢部材120によってベーンロータ14が進角側へ付勢され、しかもポンプ4から供給の作動油圧力が始動時に低い本実施形態の如き構成において、特に有効である。
加えて、上述した負トルク作用時の容積拡大により空気と共に進角室52,53へと吸入されて、遠心力の作用を受けることになる作動油は、それら各室52,53よりも回転中心O側から大気開放される流体回路160,240を通じては、漏出し難い。したがって、進角室52,53の作動油が流体回路160,240へ漏出するのに起因して、それら各室52,53への空気の吸入が妨げられる事態を、抑制することができる。
さらに加えて、各規制部材150,220が流体回路160,240を開放する状態においては、それぞれ対応する進角室52,53と遅角室56,57とが連通することになる。故に、上述した負トルク作用によって容積拡大する進角室52,53には、当該負トルク作用によって容積縮小する遅角室56,57から、先の運転時の残存作動油を押出して、それら進角室52,53への作動油導入をアシストすることができる。
以上によれば、規制位相としてのロック位相からずれた回転位相であっても、内燃機関2のクランキング中に発生する負トルクを利用して、当該ロック位相まで迅速に戻すことができる。したがって、内燃機関2の異常停止に拘らず、回転位相をロック位相にロックした状態で内燃機関2を完爆させること、即ち機関始動性を確保することが可能となるのである。
(ii−2)異常停止時の回転位相が例えば図8(b),(c)の如き最遅角位相及びロック位相の間にある場合には、上記(ii−1)に準ずる作動が当該異常停止時の回転位相状態から実現される。したがって、この場合にも回転位相をロック位相に戻して、機関始動性を確保することが可能である。
(ii−3)異常停止時の回転位相が図8(f)の最進角位相にある場合、始動直前において第一規制部材150は、第一弾性部材170の復原力により、スプロケット部材13と当接して第一流体回路160を開放する開放位置に定位している。またこの場合、始動直前において第二規制部材220は、第二弾性部材230の復原力により、第二規制凹部202に突入して第二流体回路240を開放する開放位置に定位している。そして、これらの定位状態において内燃機関2の始動が開始されると、作動油が進角室52,53,54へと導入されるが、進角室52,53が流体回路160,250を通じて大気に開放されているため、ベーンロータ14の駆動力が減じられることになる。その結果、変動トルクの平均トルクTaveの偏りに応じて、回転位相が遅角側のロック位相まで変化するのである。尚、このとき、回転位相がロック位相を遅角側にすり抜けるようなことがあったとしても、すでに第二規制凹部202に突入している第二規制部材220は、図8(c)の第二規制位相にて第二規制ストッパ206に一旦係止されることになる。故に、この後には、上記(ii−2)に準じた作動を経て、回転位相がロック位相にロックされることとなる。したがって、内燃機関2の異常停止に拘らず、回転位相を規制位相の領域内のロック位相に調整した状態で内燃機関2を完爆させること、即ち機関始動性を確保することが可能である。(ii−4)異常停止時の回転位相が最進角位相及びロック位相の間にある場合には、上記(ii−3)に準ずる作動が当該異常停止時の回転位相状態から実現される。したがって、この場合にも回転位相をロック位相に戻して、機関始動性を確保することが可能である。
(iii)こうして内燃機関2の始動が完了した後においては、上記通常作動の(III)に準じた作動により、ポンプ4からの作動油を進角室52,53,54又は遅角室56,57,58に導入することで、高応答性のバルブタイミング調整の実現が可能である。また、バルブタイミング調整中の内燃機関2の停止予測時には、上記通常作動の(III)に準じた作動により回転位相を、作動油の漏出なく事前にロック位相にロック可能である。
尚、ここまで説明した第一実施形態では、規制部材150,220、弾性部材170,230、駆動制御弁310及び制御回路90が共同して「開閉制御手段」を構成し、規制部材150,220が「開閉体」に相当している。また、規制部材150,220、弾性部材170,230、駆動制御弁310、制御回路90及び付勢部材120が共同して、「開閉体」相当の規制部材150,220を「開閉制御手段」と共有する「規制手段」を構成している。さらに、進角室52,53及び遅角室56,57が「特定室」に相当している。
(第二実施形態)
図11,12に示すように、本発明の第二実施形態は第一実施形態の変形例である。第二実施形態の第一流体回路1160では、第一ハウジング通路162の代わりに、円筒孔状の第一ブッシュ通路1162がベーンロータ14におけるロータブッシュ1110の底壁1111を軸方向に貫通して、同ロータ14における第一ロータ通路1164の第一大気連通孔1167に向かって開口している。これにより第一ブッシュ通路1162は、ロータブッシュ1110の内周側空間1114を通じて、当該通路1162の開放端1162aからハウジング11外部の大気に開放されていると共に、第一大気連通孔1167と常時連通している。
また同様に、第二実施形態の第二流体回路1240では、第二ハウジング通路242の代わりに、円筒孔状の第二ブッシュ通路1242がベーンロータ14におけるロータブッシュ1110の底壁1111を軸方向に貫通して、同ロータ14における第二ロータ通路1244の第二大気連通孔1247に向かって開口している。これにより第二ブッシュ通路1242は、ロータブッシュ1110の内周側空間1114を通じて当該通路1242の開放端1242aから大気開放されていると共に、第二大気連通孔1247と常時連通している。
以上の構成の各流体回路1160,1240において、ブッシュ通路1162,1242と、大気連通孔1167,1247のうち少なくとも通路1162,1242への連通側部分とは、それぞれ対応して連通する進角室52,53及び遅角室56,57よりも回転中心O側(即ち、図11,12の仮想円筒面Rの内周側)に形成されている。したがって、第二実施形態の各流体回路1160,1240は、進角室52,53及び遅角室56,57よりも回転中心O側を経由して、かかる回転中心O側にてベーンロータ14に形成される開放端1162a,1242aから大気開放されている。
このような第二実施形態によれば、第一実施形態に準ずる作動により各流体回路1160,1240を適宜開閉することで、第一実施形態と同様な作用効果を発揮することができるのである。
(第三実施形態)
図13,14に示すように、本発明の第三実施形態は第一実施形態の変形例である。第三実施形態の第一流体回路2160では、第一ハウジング通路162の代わりに、円筒孔状の第一カム通路2162がカム軸3をL字形に貫通して、同ロータ14における第一ロータ通路2164の第一大気連通孔2167に向かって開口している。これにより第一カム通路2162は、第一大気連通孔2167と常時連通して、当該連通孔2167とは反対側の開放端2162aからハウジング11外部の大気に開放されている。
また同様に、第三実施形態の第二流体回路2240では、第二ハウジング通路242の代わりに、円筒孔状の第二カム通路2242がカム軸3をL字形に貫通して、同ロータ14における第二ロータ通路2244の第二大気連通孔2247に向かって開口している。これにより第二カム通路2242は、第二大気連通孔2247と常時連通して、当該連通孔2247とは反対側の開放端2242aから大気開放されている。
以上の構成の各流体回路2160,2240において、カム通路2162,2242と、大気連通孔2167,2247のうち少なくとも通路2162,2242への連通側部分とは、それぞれ対応して連通する進角室52,53及び遅角室56,57よりも回転中心O側(即ち、図13,14の仮想円筒面Rの内周側)に形成されている。したがって、第三実施形態の各流体回路2160,2240は、進角室52,53及び遅角室56,57よりも回転中心O側を経由して、かかる回転中心O側にてベーンロータ14に形成される開放端2162a,2242aから大気開放されている。
このような第三実施形態によれば、第一実施形態に準ずる作動により各流体回路2160,2240を適宜開閉することで、第一実施形態と同様な作用効果を発揮することができるのである。
(他の実施形態)
以上、本発明の複数の実施形態について説明したが、本発明はそれらの実施形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用してもよい。
具体的には、第一〜第三実施形態においては、第二規制凹部202、第二規制部材220、第二弾性部材230及び第二流体回路240,1240,2240の組を設けないようにしてもよいし、逆に、第一規制及びロック凹部132,134、第一規制部材150、第一弾性部材170及び第一流体回路160,1160,2160の組を設けないようにしてもよい。また、第一〜第三実施形態においては、「開閉体」としての規制部材150,220をハウジング11に収容支持させて、当該規制部材150,220をベーンロータ14に係止させることにより、回転位相を規制位相に規制する構成としてもよい。さらにまた、第一〜第三実施形態においては、規制部材150,220に準ずる機能を複数の部材の共同によって果たすように、「開閉体」を構成してもよい。
さらに、第一〜第三実施形態においては、第一流体回路160,1160,2160及び第二流体回路240,1240,2240の少なくとも一方を、規制部材150,220とは異なる専用の「開閉体」により開閉する構成としてもよい。この場合、凹部132,134,202に突入又は嵌入させない構成とする以外は、規制部材150,220に準じて、駆動通路300を通じた作動油の導入及び排出並びに専用の「弾性部材」の復原力により、専用の「開閉体」を往復移動させることで、第一〜第三実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
加えて、第一〜第三実施形態においては、流体回路160,1160,2160,240,1240,2240の全域を、「特定室」としての進角室52,53及び「遅角室56,57」よりも回転中心O側に設けてもよい。また、第一〜第三実施形態においては、流体回路160,1160,2160,240,1240,2240を、それぞれ対応する遅角室56,57と連通させないようにしてもよい。さらにまた、第一実施形態の流体回路160,240において、第二実施形態の流体回路1160,1240のブッシュ通路1162,1242を追加的に組み合わせてもよいし、第三実施形態の流体回路2160,2240のカム通路2162,2242を追加的に組み合わせてもよいし、それらブッシュ通路1162,1242及びカム通路2162,2242の双方を追加的に組み合わせてもよい。
以上に加えて、第一〜第三実施形態においては、付勢部材120及び溝102,112の組を設けないようにしてもよい。そして、本発明は、吸気弁のバルブタイミングを調整する装置以外にも、「動弁」としての排気弁のバルブタイミングを調製する装置や、吸気弁及び排気弁の双方のバルブタイミングを調整する装置に適用可能である。