以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する。
(第一実施形態)
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の第一実施形態によるバルブタイミング調整装置1を車両の内燃機関2に適用した例を示している。バルブタイミング調整装置1は、「供給源」としてのポンプ4から供給される「作動液」としての作動油により、カム軸3が開閉する「動弁」としての吸気弁のバルブタイミングを調整する。
(基本構成)
以下、バルブタイミング調整装置1の基本構成を説明する。バルブタイミング調整装置1は、内燃機関2のクランク軸(図示しない)からカム軸3に機関トルクを伝達する伝達系に設置される駆動部10、並びに当該駆動部10の作動を制御する制御部30を備えている。
(駆動部)
図1,2に示すように駆動部10において、ハウジング11は、シュー部材12、スプロケット部材18及びカバー部材13等から構成されている。
シュー部材12は金属により形成され、円筒状の筒部12a並びに複数のシュー12b,12c,12dを有している。各シュー12b〜12dは、筒部12aにおいて回転方向に略等間隔となる箇所から径方向内側に突出している。各シュー12b〜12dの突出側端面は円弧面状であり、ベーンロータ14のボス部14aの外周面に摺接する。回転方向において隣り合うシュー12b〜12dの間には、それぞれ収容室50が形成されている。
スプロケット部材18及びカバー部材13は、それぞれ金属によって円環板状に形成されており、それぞれシュー部材12の両端部に同軸固定されている。スプロケット部材18は、クランク軸との間にタイミングチェーン(図示しない)が掛け渡されることにより、当該クランク軸と連繋する。これにより内燃機関2の回転中は、クランク軸からスプロケット部材18に機関トルクが伝達されることで、ハウジング11がクランク軸と連動して図2の時計方向に回転するようになっている。
図1,2に示すようにベーンロータ14は、金属により形成されてハウジング11内に同心収容されており、軸方向の両端部がスプロケット部材18とカバー部材13とに摺接する。ベーンロータ14は、円柱状のボス部14a並びに複数のベーン14b,14c,14dを有している。
ボス部14aは、カム軸3に対して同軸固定されている。これによりベーンロータ14は、カム軸3と連動して図2の時計方向に回転すると共に、ハウジング11に対して相対回転可能となっている。各ベーン14b〜14dは、ボス部14aにおいて回転方向に略等間隔となる箇所から径方向外側に突出し、それぞれ対応する収容室50内に収容されている。各ベーン14b〜14dの突出側端面は円弧面状に形成され、筒部12aの内周面と摺接する。
各ベーン14b〜14dは、それぞれ対応する収容室50を回転方向に二分することにより、進角室52,53,54及び遅角室56,57,58をハウジング11内部に区画形成している。具体的には、シュー12bとベーン14bの間に進角室52、シュー12cとベーン14cの間に進角室53、シュー12dとベーン14dの間に進角室54がそれぞれ形成されている。また、シュー12cとベーン14bの間に遅角室56、シュー12dとベーン14cの間に遅角室57、シュー12bとベーン14dの間に遅角室58がそれぞれ形成されている。
こうした構成の駆動部10では、進角室52〜54への作動油導入並びに遅角室56〜58からの作動油排出により、ハウジング11に対するベーンロータ14の回転位相が進角側に変化する。故に、このときには、バルブタイミングが進角する。また一方、遅角室56〜58への作動油導入並びに進角室52〜54からの作動油排出により、回転位相が遅角側に変化する。故に、このときには、バルブタイミングが遅角する。
(制御部)
図1,2に示すように制御部30において、カム軸3及びその軸受(図示しない)を通して設けられる進角通路72は、回転位相の変化に拘らず進角室52〜54と常時連通する。また、カム軸3及びその軸受を通して設けられる遅角通路74は、回転位相の変化に拘らず遅角室56〜58と常時連通する。
図1に示すように、供給通路76はポンプ4の吐出口と連通しており、オイルパン5からポンプ4の吸入口に吸入された作動油が当該吐出口から吐出供給されるようになっている。ここで本実施形態のポンプ4は、内燃機関2の回転に伴ってクランク軸により駆動されることで、供給通路76に作動油を吐出供給するメカポンプであり、内燃機関2の停止に伴って当該吐出供給を停止するようになっている。また、ドレン通路78は、オイルパン5に作動油を排出可能に設けられている。
位相制御弁80は、進角通路72、遅角通路74、供給通路76及びドレン通路78に機械的に接続されている。位相制御弁80は、ソレノイド82への通電に従って作動することにより、進角通路72及び遅角通路74にそれぞれ連通する通路を供給通路76及びドレン通路78の間で切換える。
制御回路90は、マイクロコンピュータを主体に構成されており、位相制御弁80のソレノイド82と電気的に接続されている。制御回路90は、ソレノイド82への通電を制御する機能と共に、内燃機関2の作動を制御する機能を備えている。
こうした構成の制御部30では、制御回路90により制御されたソレノイド82への通電に従って位相制御弁80が作動することで、進角通路72及び遅角通路74に対する供給通路76及びドレン通路78の連通状態が切り換えられる。ここで、位相制御弁80が進角通路72及び遅角通路74にそれぞれ供給通路76及びドレン通路78を連通させるときには、ポンプ4からの作動油が通路76,72を通じて進角室52〜54に導入されると共に、遅角室56〜58の作動油が通路74,78を通じてオイルパン5に排出される。故に、このときには、バルブタイミングが進角する。また一方、位相制御弁80が遅角通路74及び進角通路72にそれぞれ供給通路76及びドレン通路78を連通させるときには、ポンプ4からの作動油が通路76,74を通じて遅角室56〜58に導入されると共に、進角室52〜54の作動油が通路72,78を通じてオイルパン5に排出される。故に、このときには、バルブタイミングが遅角する。
以下、バルブタイミング調整装置1の構成を詳細に説明する。
(変動トルクの作用構造)
ベーンロータ14にカム軸3が同軸固定されている駆動部10では、内燃機関2の回転中は、カム軸3が開閉駆動する吸気弁からのスプリング反力等に起因する変動トルクがベーンロータ14に作用する。ここで、図3に例示するように変動トルクは、ハウジング11に対する回転位相の進角側にベーンロータ14を付勢する負トルクと、回転位相の遅角側にベーンロータ14を付勢する正トルクとの間において、交番するものである。そして、特に本実施形態の変動トルクは、カム軸3及び軸受間のフリクション等に起因して、正トルクのピークトルクT+が負トルクのピークトルクT−よりも大きくなる傾向を示しており、当該変動トルクの平均トルクTaveによってベーンロータ14が正トルク側、即ち回転位相の遅角側に平均的に偏って付勢されるようになっている。
(付勢構造)
図1,4に示すように、ハウジング11においてカバー部材13には、金属によって円筒ハット状に形成されたハウジングブッシュ100のフランジ壁101が、同軸固定されている。ハウジングブッシュ100においてフランジ壁101とは反対側の端部には、径方向に貫通するハウジング溝102が設けられている。
ベーンロータ14においてボス部14aには、金属によって有底円筒状に形成されたロータブッシュ110の底壁111が、同軸固定されている。ロータブッシュ110は、ハウジングブッシュ100よりも小径に形成され、当該ハウジングブッシュ100の内周側に相対回転可能に同心配置されている。ロータブッシュ110において底壁111とは反対側の端部には、径方向に貫通するロータ溝112が設けられている。
ハウジングブッシュ100の外周側には、金属製のヘリカルトーションスプリングからなる付勢部材120が同心配置されている。付勢部材120の一端部120aは、カバー部材13に固定された係止ピン121に常時係止されている。付勢部材120の他端部120bは、ハウジング溝102及びロータ溝112を径方向の外側から内側に遊挿状態で貫通している。
本実施形態において、回転位相が図5に示す最遅角位相と図4に示す所定のロック位相との間にあるときには、付勢部材120の端部120bがロータ溝112により進角側から係止される。このとき付勢部材120の端部120bは、ハウジング溝102には係止されない状態となるので、内燃機関2の回転中は、付勢部材120のねじり変形によって発生する復原力が変動トルクの平均トルクTaveに抗してロータ溝112に作用する。これにより、ロータブッシュ110と共にベーンロータ14が回転位相の進角側へと付勢されるのである。
これに対し、回転位相が図4に示すロック位相と図6に示す最進角位相との間にあるときには、付勢部材120の端部120bがハウジング溝102により進角側から係止される。このとき付勢部材120の端部120bは、ロータ溝112には係止されない状態となるので、付勢部材120の復原力がハウジングブッシュ100にのみ作用することになる。以上より本実施形態では、ベーンロータ14の進角側への付勢がロック位相よりも遅角側では実現されるが、ロック位相よりも進角側では実現されないようになっているのである。
尚、バルブタイミング調整装置1が適用される本実施形態の内燃機関2については、その始動性を確保するために始動時に規制する規制位相の領域として、最遅角位相及び最進角位相の間の中間位相から最進角位相に至るまでの領域が設定されている。また特に本実施形態では、環境温度に拘らず最適な始動性を確保可能な規制位相として、上記ロック位相が設定されている。これらの設定によれば、内燃機関2を始動するクランキング中において、気筒への吸入空気量が吸気弁の閉弁遅延により減少し過ぎることを抑制し得るのである。
(第一規制・ロック構造)
図7,8に示すようにハウジング11のカバー部材13は、第一規制凹部131及びロック凹部134を形成している。第一規制凹部131は、カバー部材13の内面132に開口してハウジング11の回転方向に伸びており、閉塞された両端部に一対の規制ストッパ131a,131bが設けられた形となっている。ロック凹部134は、カム軸3に軸平行な有底筒孔状を呈しており、第一規制凹部131の進角側端部において当該規制凹部131の底面に開口している。
図4,8に示すように、ロック凹部134の底面を形成するハウジングブッシュ100は、大気孔136を形成している。このハウジングブッシュ100の大気孔136は、カム軸3に軸平行且つロック凹部134の幅よりも小径の円筒孔状を呈しており、フランジ壁101を貫通することで常時大気開放されている。図8に示すようにハウジング11のスプロケット部材18は、ベーンロータ14を挟んで大気孔136と対向する箇所に、別の大気孔137を形成している。このスプロケット部材18の大気孔137は、カム軸3に軸平行且つ後述する第一収容孔140の大径支持部142よりも小径の円筒孔状を呈しており、スプロケット部材18を貫通することで常時大気開放されている。
図2,8に示すようにベーンロータ14のベーン14bは、第一収容孔140及び第一貫通孔149を形成している。第一収容孔140は、カム軸3に軸平行な有底円筒孔状を呈しており、カバー部材13の内面132に対するベーンロータ14の摺接端面に開口している。第一収容孔140は、凹部131,134の形成されたカバー部材13側となる開口側に、小径支持部141を有している。小径支持部141は、第一規制凹部131及びロック凹部134に対し、それぞれ所定の回転位相において対向するように形成されている。尚、本実施形態の小径支持部141については、ベーンロータ14の母材に嵌合固定されたスリーブ141aの内周面により、形成されている。
第一収容孔140は、凹部131,134の形成されたカバー部材13側に対して反対側となる底面側に、小径支持部141よりも大径の大径支持部142を有している。大径支持部142においてカバー部材13側の端部は、ベーンロータ14に貫通形成された第一規制通路145と常時連通することで、作動油の入出可能な作動室146を形成している。また、大径支持部142においてカバー部材13側とは反対側の端部は、ベーンロータ14に貫通形成された第一進角連通孔147を介して進角室52と常時連通することで、連通室148を形成している。
図8に示すように第一貫通孔149は、カム軸3に軸平行且つ第一収容孔140の大径支持部142よりも小幅にて回転方向に伸びる長孔状を呈しており、スプロケット部材18の内面に対するベーンロータ14の摺接端面と、第一収容孔140における大径支持部142の底面との間を貫通している。これにより第一貫通孔149は、スプロケット部材18の大気孔137に対し、ロック位相を含む回転位相の所定領域において連通すると共に、大径支持部142に形成の連通室148と常時連通するようになっている。
図2,8に示すように第一収容孔140には、それぞれ金属により形成された円筒状の規制部材150,152が、同心収容されている。第一主規制部材150は、図8に示すように小径支持部141により外周面を支持されることで、軸方向に往復移動可能となっている。第一主規制部材150は、外周側に突出する円環板状の突出部151を、カバー部材13側とは反対側の端部に形成している。また、第一主規制部材150は、カバー部材13側とその反対側とを常時連通する通孔159を、内周孔によって形成している。
ここで第一主規制部材150は、ロック位相を含む規制位相の領域において突入方向Xに移動することで、図9の如くハウジング11の第一規制凹部131に突入する。こうして第一規制凹部131に突入した第一主規制部材150は、図11の如く当該規制凹部131の遅角側端部の規制ストッパ131aにより係止されることで、規制位相の領域のうちその遅角側限界の第一規制位相にて回転位相の遅角側変化を規制する。また一方、第一規制凹部131に突入した第一主規制部材150は、図10の如く当該規制凹部131の進角側端部の規制ストッパ131bにより係止されることで、ロック位相にて回転位相の進角側変化を規制する。
また、第一主規制部材150は、ロック位相において第一規制凹部131側から突入方向Xに移動することで、図8の如くハウジング11のロック凹部134に突入する。こうしてロック凹部134に突入した第一主規制部材150は、当該ロック凹部134との嵌合により回転位相の進角側及び遅角側双方への変化を規制することで、回転位相をロック位相にロックする。
さらに第一主規制部材150は、ロック位相を含む規制位相の領域において図12,13の如く脱出方向Yに移動することで、ハウジング11のロック凹部134及び第一規制凹部131の双方から脱出する。こうして第一主規制部材150が凹部134,131から脱出することによれば、回転位相の規制が解除されるので、図10,11,14〜17の如く任意の回転位相変化を許容することが可能となる。
以上の第一主規制部材150に対して、図8に示す第一副規制部材152は、第一収容孔140の小径支持部141よりも大径支持部142側にて第一主規制部材150の外周面に嵌合し、且つ大径支持部142によって外周面を支持されている。このような嵌合及び支持形態によって第一副規制部材152は、第一主規制部材150の場合と同方向となる軸方向に往復移動可能且つ第一主規制部材150に対して相対移動可能となっている。この相対移動可能な状態において第一主規制部材150と第一副規制部材152は、互いに摺動する関係にある。
第一副規制部材152は、作動室146に露出し、スリーブ141aにおいてカバー部材13側とは反対側に形成される端面143と対向する受圧部154を有している。受圧部154はカバー部材13側を向いた円環状の端面である。この受圧部154が作動室146の作動油から脱出方向Yに圧力を受けることで、第一副規制部材152を脱出方向Yに駆動する第一駆動力が発生する。
また、第一副規制部材152は、連通室148に露出して大径支持部142の底面と対向する係合部156を、カバー部材13側とは反対側を向いた円環状の段差面によって形成している。この係合部156が突出部151に対して図13の如く脱出方向Yに押すように係合した状態では、第一副規制部材152に発生する第一駆動力を第一主規制部材150に伝達して、それら規制部材150,152を脱出方向Yに一体に駆動することが可能となる。
さらに、本実施形態の第一副規制部材152は、外周面よりも凹んでカバー部材13側とは反対側の端面に開口する周溝部157を形成している。これにより、図13の如く周溝部157と第一進角連通孔147との間を連通遮断する遮断位置よりも突入方向Xに第一副規制部材152が移動することで、図8,9,12の如く第一貫通孔149が連通室148及び周溝部157を介して第一進角連通孔147と連通可能となっている。したがって、第一貫通孔149が大気孔137と連通する回転位相では、周溝部157及び第一進角連通孔147間の連通により、大気孔137から第一貫通孔149、連通室148及び周溝部157を経て第一進角連通孔147に至る第一連通経路158が形成されることとなる。また、このように形成される第一連通経路158においては、周溝部157における流体の流通面積を絞るように、当該周溝部157の径方向深さが調整されている。
第一収容孔140において少なくとも連通室148を含む部分には、弾性部材170,172が同心収容されている。第一主弾性部材170は金属製の圧縮コイルスプリングであり、大径支持部142の底面と第一主規制部材150との間に介装されている。第一主弾性部材170は、大径支持部142及び第一主規制部材150間での圧縮変形により第一主復原力を発生することで、当該主規制部材150を突入方向Xに付勢する。したがって、図14の最遅角位相を含む規制位相の領域外においては、第一主弾性部材170の第一主復原力により第一主規制部材150を突入方向Xに駆動することで、図12の如く当該主規制部材150をカバー部材13の内面132に当接させることが可能となっている。また、図13の如く係合部156が突出部151に対して係合した状態では、第一主弾性部材170の第一主復原力によって第一主規制部材150を第一副規制部材152に合わせて突入方向Xに一体に駆動することが、可能となる。
以上の第一主弾性部材170に対して、第一副弾性部材172は金属製の圧縮コイルスプリングであり、大径支持部142の底面と第一副規制部材152との間に介装されている。第一副弾性部材172は、大径支持部142及び第一副規制部材152間での圧縮変形により第一副復原力を発生することで、当該副規制部材152を突入方向Xに付勢する。したがって、規制位相の領域外において第一主規制部材150が図12の如くカバー部材13の内面132と当接した状態では、第一副弾性部材172の第一副復原力により第一副規制部材152のみを突入方向Xに駆動して、係合部156を突出部151から突入方向Xに離間させることが可能となっている。また、第一副弾性部材172の第一副復原力により係合部156を突出部151から離間させた第一副規制部材152については、図8,9,12の如く受圧部154をスリーブ141aの端面143に当接させることが可能となっている。
(第二規制構造)
図7,18に示すようにハウジング11のカバー部材13は、第二規制凹部231を形成している。第二規制凹部231は、カバー部材13の内面132に開口してハウジング11の回転方向に伸びており、遅角側から進角側に向かって一段階凹むことで浅底部232及び深底部233を有した形となっている。第二規制凹部231の浅底部232及び深底部233においてそれぞれ閉塞された遅角側端部には、規制ストッパ232a,233aが設けられている。
図4,18に示すようにカバー部材13は、大気孔236を形成している。このカバー部材13の大気孔236は、カム軸3に軸平行且つ第二規制凹部231の深底部幅よりも小径の円筒孔状を呈しており、カバー部材13の外面と深底部233の底面との間を貫通することで常時大気開放されている。図18に示すようにスプロケット部材18は、ベーンロータ14を挟んで大気孔236と対向する箇所に、別の大気孔237を形成している。このスプロケット部材18の大気孔237は、カム軸3に軸平行且つ後述する第二収容孔240の大径支持部242よりも小径の円筒孔状を呈しており、スプロケット部材18を貫通することで常時大気開放されている。
図2,18に示すようにベーンロータ14のベーン14cは、第二収容孔240及び第二貫通孔249を形成している。第二収容孔240は、第一収容孔140に準ずる構成となっている。但し、第二収容孔240の小径支持部241は、第二規制凹部231の浅底部232及び深底部233に対し、それぞれ所定の回転位相において対向するように形成されている。また、小径支持部241についても本実施形態では、ベーンロータ14の母材に嵌合固定されたスリーブ241aの内周面により、形成されている。さらに、第二収容孔240の大径支持部242においてカバー部材13側の端部は、ベーンロータ14に貫通形成された第二規制通路245と常時連通することで、作動油の入出可能な作動室246を形成している。またさらに、大径支持部242においてカバー部材13側とは反対側の端部は、ベーンロータ14に貫通形成された第二進角連通孔247を介して進角室53と常時連通することで、連通室248を形成している。
図18に示すように第二貫通孔249は、カム軸3に軸平行且つ第二収容孔240の大径支持部242よりも小幅にて回転方向に伸びる長孔状を呈しており、スプロケット部材18の内面に対するベーンロータ14の摺接端面と、第二収容孔240における大径支持部242の底面との間を貫通している。これにより第二貫通孔249は、スプロケット部材18の大気孔237に対し、ロック位相を含む回転位相の所定領域において連通すると共に、大径支持部242に形成の連通室248と常時連通するようになっている。
図2,18に示すように第二収容孔240には、それぞれ金属により形成された円筒状の規制部材250,252が、同心収容されている。第二主規制部材250は、図18に示すような第一主規制部材150に準ずる構成により、外周面を小径支持部141に支持されて軸方向に往復移動可能となっていると共に、突出部251及び通孔259を形成している。
ここで第二主規制部材250は、ロック位相を含む規制位相の領域において突入方向Xに移動することで、図19,18の如くハウジング11の第二規制凹部231のうち遅角側の浅底部232又は進角側の深底部233に突入する。こうして、浅底部232に突入した第二主規制部材250は、当該浅底部232の遅角側端部の規制ストッパ232aによって図15の如く係止されることで、規制位相の領域のうち第一規制位相よりも進角側の第二規制位相にて回転位相の遅角側変化を規制する。また一方、深底部233に突入した第二主規制部材250は、当該深底部233の遅角側端部の規制ストッパ233aによって図16の如く係止されることで、規制位相の領域のうち第二規制位相よりも進角側且つロック位相よりも遅角側の第三規制位相にて回転位相の遅角側変化を規制する。
さらに第二主規制部材250は、ロック位相を含む規制位相の領域において図20,21の如く脱出方向Yに移動することで、ハウジング11の第二規制凹部231から脱出する。こうして第二主規制部材250が第二規制凹部231から脱出することによれば、回転位相の規制が解除されるので、図10,11,14〜17の如く任意の回転位相変化を許容することが可能となる。
図18に示すような第一副規制部材152に準ずる構成により、以上の第二主規制部材250の外周面に嵌合する第二副規制部材252は、第二主規制部材250の場合と同方向となる軸方向に往復移動可能且つ第二主規制部材250に対して相対移動可能となっている。それと共に第二副規制部材252は、第一副規制部材152に準ずる構成により、受圧部254及び係合部256を形成している。したがって、受圧部254が作動室246の作動油から脱出方向Yに圧力を受けることで、第二副規制部材252を脱出方向Yに駆動する第二駆動力が発生することになる。また、係合部256が突出部251に対して図21の如く脱出方向Yに押すように係合した状態では、第二副規制部材252に発生する第二駆動力を第二主規制部材250に伝達して、それら規制部材250,252を脱出方向Yに一体に駆動することが可能となっている。
さらに、本実施形態の第二副規制部材252は、第一副規制部材152に準ずる構成により、周溝部257を形成している。これにより、図21の如く周溝部257と第二進角連通孔247との間を連通遮断する遮断位置よりも突入方向Xに第二副規制部材252が移動することで、図18〜20の如く第二貫通孔249が連通室248及び周溝部257を介して第二進角連通孔247と連通可能となっている。したがって、図18の如く第二貫通孔249が大気孔237と連通する回転ロック位相では、周溝部257及び第二進角連通孔247間の連通により、大気孔237から第二進角連通孔247に至る第二連通経路258が形成され、さらに当該経路258にて周溝部257における流通面積が絞られるのである。
第二収容孔240において少なくとも連通室248を含む部分には、弾性部材270,272が同心収容されている。第二主弾性部材270は、第一主弾性部材170に準ずる構成により、第二主規制部材250を突入方向Xに付勢する第二主復原力を発生する。したがって、図14の最遅角位相を含む規制位相の領域外においては、第二主弾性部材270の第二主復原力により第二主規制部材250を突入方向Xに駆動することで、図20の如く第二主規制部材250をカバー部材13の内面132に当接させることが可能となっている。また、図21の如く係合部256が突出部251に対して係合した状態では、第二主弾性部材270の第二主復原力によって第二主規制部材250を第二副規制部材252に合わせて突入方向Xに駆動することが、可能となっている。
以上の第二主弾性部材270に対して第二副弾性部材272は、第一副弾性部材172に準ずる構成により、第二副規制部材252を突入方向Xに付勢する第二副復原力を発生する。したがって、規制位相の領域外において第二主規制部材250が図20の如くカバー部材13の内面132と当接した状態では、第二副弾性部材272の第二副復原力により第二副規制部材252のみを突入方向Xに駆動して、係合部256を突出部251から突入方向Xに離間させることが可能となっている。また、第二副弾性部材272の第二副復原力により係合部256を突出部251から離間させた第二副規制部材252については、図18〜20の如く受圧部254を、それに対向する端面であってスリーブ241aにおけるカバー部材13側とは反対側に形成される端面243に当接させることが可能となっている。
(駆動力制御)
図1に示すように制御部30において、カム軸3及びその軸受を通して設けられる駆動通路300は、回転位相の変化に拘らず通路145,245と常時連通する。また、供給通路76から分岐する分岐通路302は、当該供給通路76を介してポンプ4からの作動油供給を受けるようになっている。さらに、ドレン通路304は、オイルパン5に作動油を排出可能に設けられている。
駆動制御弁310は、駆動通路300、分岐通路302及びドレン通路304と機械的に接続されている。駆動制御弁310は、制御回路90と電気的に接続されたソレノイド312への通電に従って作動することにより、駆動通路300に連通する通路を分岐通路302及びドレン通路304の間で切り換える。
ここで、駆動制御弁310が分岐通路302を駆動通路300に連通させるときには、ポンプ4からの作動油が通路76,302,300,145,245を通じて、各作動室146,246に導入される。故にこのときには、第一及び第二副規制部材152,252を駆動する脱出方向Yの駆動力が発生することになる。また一方、駆動制御弁310がドレン通路304を駆動通路300に連通させるときには、作動室146,246内の作動油が通路145,245,300,304を通じてオイルパン5に排出される。故に、このときには、第一及び第二副規制部材152,252を駆動する駆動力が消失することとなる。
以下、バルブタイミング調整装置1の作動を詳細に説明する。
(通常作動)
まず、内燃機関2が正常に停止する場合の通常作動について説明する。
(I)イグニッションスイッチのオフ等の停止指令に応じて内燃機関2を停止させる正常停止時には、制御回路90が位相制御弁80への通電を制御して供給通路76を進角通路72に連通させる。このとき、完全停止するまでは慣性回転する内燃機関2がその回転数を低下させることにより、ポンプ4から通路76,72を通じて進角室52〜54に導入される作動油の圧力も低下する。その結果、進角室52〜54への導入油の圧力によりベーンロータ14に作用する力が低下し、特にロック位相よりも遅角側の回転位相においては、ベーンロータ14を付勢する付勢部材120の復原力が支配的となる。
また、停止指令に応じた内燃機関2の正常停止時には、制御回路90が駆動制御弁310への通電を制御してドレン通路304を駆動通路300に連通させる。このとき、作動室146,246の作動油は通路145,245,300,304を通じて排出されて、第一及び第二副規制部材152,252を駆動する駆動力が消失する。その結果、第一及び第二副弾性部材172,272の復原力により第一及び第二副規制部材152,252が、作動室146,246の作動油を通路145,245に押し出しつつ突入方向Xに移動して、受圧部154,254を小径支持部141,241の端面143,243に当接させる。それと共に、第一及び第二主弾性部材170,270の復原力により第一及び第二主規制部材150,250が第一及び第二副規制部材152,252に合わせて突入方向Xに移動して、停止指令時の回転位相に応じた移動位置に定位する。
したがって、この後においては、停止指令時の回転位相に応じた作動にてロック位相へのロックが実現され、内燃機関2の次の始動が待たれることになる。以下、停止指令時の回転位相に応じたロック作動の詳細を説明する。
(I−1)停止指令時の回転位相が図14の最遅角位相である場合には、変動トルクとしての負トルク並びに付勢部材120の復原力によりベーンロータ14がハウジング11に対して進角側に相対回転し、それによって回転位相が進角側に変化する。この進角側への位相変化により回転位相が図11の第一規制位相に達すると、第一主弾性部材170の第一主復原力により第一主規制部材150が突入方向Xに移動して第一規制凹部131に突入することで、第一規制位相よりも遅角側への位相変化が規制される。さらに、進角側への位相変化により回転位相が図15の第二規制位相に達すると、第二主弾性部材270の第二主復原力により第二主規制部材250が第二規制凹部231の浅底部232に突入することで、第二規制位相よりも遅角側への位相変化が規制される。またさらに、進角側への位相変化により回転位相が図16の第三規制位相に達すると、第二主弾性部材270の第二主復原力により第二主規制部材250が第二規制凹部231の深底部233に突入することで、第三規制位相よりも遅角側への位相変化が規制される。
この後、進角側へのさらなる位相変化により回転位相が図10のロック位相に達すると、第一主規制部材150が第一規制凹部131の進角側端部の規制ストッパ131bにより係止される。このとき、付勢部材120の復原力により規制ストッパ131bに押し当てられる第一主規制部材150は、図8に示すように、第一主弾性部材170の第一主復原力により付勢されて、第一規制凹部131側からロック凹部134に突入嵌合する。その結果、回転位相がロック位相に規制されてロックされることになるのである。
(I−2)停止指令時の回転位相が最遅角位相及びロック位相の間、又はロック位相である場合には、上記(I−1)に準ずる作動が停止指令時の回転位相に対応する状態から開始される。したがって、この場合にも、回転位相がロック位相に規制されてロックされることになる。
(I−3)停止指令時の回転位相が図17の最進角位相である場合には、第二主弾性部材270の第二主復原力によって第二主規制部材250が第二規制凹部231の深底部233への突入状態となる。かかる状態下、付勢部材120の復原力作用がロック位相よりも進角側にて制限される本実施形態では、変動トルクの平均トルクTaveの偏り側である遅角側に向かって回転位相が徐々に変化する。これにより回転位相が図10のロック位相に達すると、第一主弾性部材170の第一主復原力により第一主規制部材150が第一規制凹部131及びロック凹部134に順次突入するので、以上の場合にも、回転位相がロック位相に規制されてロックされることになる。
(I−4)停止指令時の回転位相がロック位相及び最進角位相の間である場合には、上記(I−3)に準ずる作動が停止指令時の回転位相に対応する状態から開始される。したがって、この場合にも、回転位相がロック位相に規制されてロックされることになる。
(II)正常停止後、イグニッションスイッチのオン等の始動指令に応じて内燃機関2をクランキングして始動するときには、制御回路90が位相制御弁80への通電を制御して供給通路76を進角通路72に連通させる。このとき、ポンプ4からの作動油が通路76,72を通じて進角室52〜54に導入される。また、正常停止後の始動指令に応じた内燃機関2の始動時には、制御回路90が駆動制御弁310への通電を制御してドレン通路304を駆動通路300に連通させる。このとき、作動室146,246には作動油が導入されず、第一及び第二副規制部材152,252を駆動する駆動力が消失状態に維持される。
以上の結果、上記(I)の最終状態、即ち図8,18の如く第一及び第二主弾性部材170,270の復原力により第一及び第二主規制部材150,250がそれぞれ凹部134,231に突入した状態が、継続される。ここで特に、内燃機関2が完爆して始動が完了するまでのクランキング中は、ポンプ4からの作動油の圧力が低い状態にあるので、異常によって作動油が作動室146,246まで到達したとしても、各主規制部材150,250の凹部134,231への突入状態が、維持され得る。したがって、規制位相のうち内燃機関2の始動に最適なロック位相に回転位相をロックして、始動性を確保することができるのである。
(III)このような始動の完了後において制御回路90は、駆動制御弁310への通電を制御して供給通路76からの分岐通路302を駆動通路300に連通させる。このとき、圧力上昇した作動油が通路76,302,300,145,245を通じて作動室146,246に導入されるので、第一及び第二副規制部材152,252を駆動する駆動力が発生する。
以上の結果、第一及び第二副規制部材152,252が脱出方向Yに移動して係合部256が突出部251に係合することで、第一及び第二主規制部材150,250も脱出方向Yに移動する。これにより、第一主規制部材150がロック凹部134及び第一規制凹部131から脱出すると共に、第二主規制部材250が第二規制凹部231から脱出するので、回転位相の規制が解除されて任意の回転位相への変化が許容されることになる。したがって、この後においては、制御回路90が位相制御弁80への通電を制御してポンプ4からの作動油を進角室52〜54又は遅角室56〜58に導入することで、自由なバルブタイミング調整を実現することができるのである。
ここで、作動室146,246での作動油の油圧と第一及び第二副規制部材152,252等の挙動の関係について説明する。圧力上昇した作動油が第一及び第二規制通路145,245を通って作動室146,246に導入されると、受圧部154,254が作動室146,246の作動油からの圧力を受けて、第一及び第二副弾性部材172,272の弾性力に抗して第一及び第二副規制部材152,252が脱出方向Yに移動する。この脱出方向Yの移動に伴い、第一及び第二副規制部材152,252の係合部156,256が第一及び第二主規制部材150,250の突出部151,251に係合し、第一及び第二副規制部材152,252が第一及び第二主規制部材150,250を脱出方向Yに移動させるため、第一及び第二主規制部材150,250が第一及び第二規制凹部131,231から脱出し、位相の規制が解除される。
次に、作動油の油圧が降下すると、受圧部154,254に加わっていた圧力が減少して第一及び第二副弾性部材172,272の弾性力が打ち勝つようになる。このため、第一及び第二副規制部材152,252の突入方向Xへの移動によって、作動油が第一及び第二規制通路145,245へ流出し始め、第一及び第二主規制部材150,250が突入方向Xに移動してカバー部材13の内面132に接触するようになる。このように第一及び第二主規制部材150,250がカバー部材13の内面132に当接して突入方向Xの移動が規制されている状態では、例えば低温の環境下等に起因する作動油の油圧降下によって作動油の粘度が上昇するにしたがい、第一及び第二副弾性部材172,272の弾性力により第一及び第二副規制部材152,252のみの突入方向Xの移動が進み、作動油はさらに第一及び第二規制通路145,245へ流出して、作動室146,246からの排出が促進する。さらに作動油の油圧降下が進むと、スリーブ141a,241aの対向する端面143に受圧部154,254が突き当たって作動室146,246が最小容積になるため、作動油は完全に排出されるようになる。
(フェイルセーフ作動)
次に、内燃機関2が異常停止する場合のフェイルセーフ作動について説明する。
(i)クラッチの締結異常等により内燃機関2が瞬間的に停止してロックされる異常停止時には、制御回路90から位相制御弁80への通電がカットされて、供給通路76が進角通路72に連通した状態となる。このとき、ポンプ4から通路76,72を通じて進角室52〜54に導入される作動油の圧力が急低下するので、当該圧力によってベーンロータ14に作用する力は消失し、内燃機関2のロックにより回転位相は異常停止(瞬間停止)時の位相に保持される。
また、内燃機関2の異常停止時には、制御回路90から駆動制御弁310への通電もカットされて、ドレン通路304が駆動通路300に連通した状態となるので、第一及び第二副規制部材152,252を駆動する駆動力が消失する。その結果、通常作動の上記(I)に準じて第一及び第二副規制部材152,252が受圧部154,254を小径支持部141,241の端面143,243に当接させると共に、第一及び第二主規制部材150,250が異常停止時の回転位相に応じた移動位置に定位する。
したがって、この後においては、異常指令時の回転位相に応じた作動状態となるので、以下では、当該状態の詳細を説明する。
(i−1)異常停止時の回転位相が規制位相と異なる場合、即ち図14の最遅角位相を含む規制位相の領域外にある場合には、第一及び第二主弾性部材170,270の復原力により第一及び第二主規制部材150,250が、図12,20の如くカバー部材13の内面132に当接する。この当接により第一及び第二主規制部材150,250は、第一及び第二副規制部材152,252の係合部156,256から突出部151,251を離間させた状態で、カバー部材13の内面132よりも突入方向Xへの移動を規制される。したがって、カバー部材13の内面132よりも凹む凹部131,134,231には第一及び第二主規制部材250を突入させることができないので、ロック位相へのロックが実現されずに、内燃機関2の次の始動が待たれることになる。
(i−2)異常停止時の回転位相が第一規制位相、又は第一規制位相及びロック位相の間である場合、通常作動の上記(I−1)の作動状態のうち異常停止時の回転位相に対応する状態として、第一主弾性部材170の復原力により第一主規制部材150が第一規制凹部131への突入状態となる。これに対して第二主規制部材250は、第二主弾性部材270の復原力によりカバー部材13の内面132に当接した状態となる。これらにより、ロック位相へのロックは実現されず、内燃機関2の次の始動が待たれることになる。
(i−3)異常停止時の回転位相がロック位相である場合には、第一主弾性部材170の復原力により第一主規制部材150がロック凹部134に突入嵌合し得るので、ロック位相へのロックが実現されて、内燃機関2の次の始動が待たれることになる。
(i−4)異常停止時の回転位相が図17の最進角位相、又ロック位相及び最進角位相の間である場合には、通常作動の上記(I−3),(I−4)の作動状態のうち異常停止時の回転位相に対応する状態にて、駆動部10が止まる。したがって、ロック位相へのロックが実現されずに、内燃機関2の次の始動が待たれることになる。
(ii)異常停止後に始動指令に応じて内燃機関2を始動させるときには、制御回路90が位相制御弁80への通電を制御して、ポンプ4からの作動油を進角室52〜54に導入させる。それと共に制御回路90は、駆動制御弁310への通電を制御して、第一及び第二副規制部材152,252を駆動する駆動力を消失状態に維持する。これらの結果、内燃機関2の始動が完了するまでの間において回転位相は、異常停止時の回転位相と実質的に一致する始動指令時の回転位相に応じて、調整されることになる。以下、かかる始動指令時の回転位相に応じた調整の詳細を説明する。
(ii−1)始動指令時の回転位相が規制位相と異なる場合、即ち図14の最遅角位相を含む規制位相の領域外にある場合には、変動トルクとしての負トルク並びに付勢部材120の復原力により、ベーンロータ14がハウジング11に対して進角側に相対回転し、それによって回転位相が進角側に変化する。その結果、通常作動の上記(I−1)に準じて、第一及び第二主規制部材150,250が第一及び第二規制凹部131,231に順次突入し、さらに第一主規制部材150がロック凹部134に突入嵌合する。
このとき、作動室146,246に作動油が残存していても、当該残存作動油の圧力は第一及び第二主規制部材150,250には実質的に及ばない。したがって、第一及び第二主規制部材150,250について、図12,20の如く突出部151,251から離間した第一及び第二副規制部材152,252の係合部156,256側に、即ち突入方向Xに高速駆動して、凹部131,134,231へと迅速に突入させることができる。
ここで、第一及び第二主規制部材150,250に対して凹部131,134,231を形成のカバー部材13側は、少なくともロック位相において、凹部131,231と連通する大気孔136,236により大気開放されることになる。また、第一及び第二主規制部材150,250に対してカバー部材13側とは反対側の連通室148,248は、少なくともロック位相において、貫通孔149,249を介して連通する大気孔136,236により大気開放されることになる。これらによれば、第一及び第二主規制部材150,250がカバー部材13側又はその反対側の連通室148,248から受ける移動抵抗、例えば負圧の発生による抵抗や漏れた作動油による抵抗等を低減して、それら主規制部材150,250の突入速度を高めることができる。しかも、第一及び第二主規制部材150,250に対してカバー部材13側とその反対側の連通室148,248とは、通孔159,259を通じて相互連通することで、大気孔136,236等の詰まり等による大気開放状態の悪化を抑制されている。故に、第一及び第二主規制部材150,250の突入速度に影響を与える移動抵抗の低減作用について、その発揮の確度を高めることができるのである。
加えて、第一及び第二副規制部材152,252が受圧部154,254を小径支持部141,241の端面143,243に当接させている始動指令時の状態では、図8,9,12,18〜20の如く第一及び第二連通経路158,258が形成されることなる。ここで第一及び第二連通経路158,258は、進角室52,53に連通する進角連通孔147,247に対して大気孔137,237を連通させることで、それら進角室52,53を大気開放させるものとなる。さらに第一及び第二連通経路158,258は、その中途部にある周溝部157,257の絞り作用により、大気の流通抵抗を作動油の流通抵抗よりも小さくすることができる。これらによれば、変動トルクとしての負トルク並びに付勢部材120の復原力により進角室52,53が容積拡大して負圧が発生することを、それら進角室52,53への大気導入によって抑制し得る。したがって、第一及び第二主規制部材150,250を凹部131,134,231に突入させるのに必要な回転位相の変化速度について、高めることができるのである。
以上より、始動指令時に回転位相が規制位相と異なっていたとしても、規制位相のうち始動に最適なロック位相に回転位相を短時間で戻すようにして、始動性を確実に確保することができる。
(ii−2)始動指令時の回転位相が図11の第一規制位相、又は第一規制位相及びロック位相の間である場合には、上記(ii−1)に準ずる作動が始動指令時の回転位相に対応する状態から開始される。したがって、この場合にも、回転位相をロック位相に戻して、始動性を確保することができる。
(ii−3)始動指令時の回転位相が図10のロック位相である場合には、通常作動の上記(II)に準じた作動を実現して、始動性を確保することができる。
(ii−4)始動指令時の回転位相が図17の最進角位相、又はロック位相及び最進角位相の間である場合には、進角室52〜54への作動油の導入によって回転位相が最進角位相に調整されることになる。したがって、この場合には、規制位相としての最進角位相において内燃機関2の始動が実現されるので、その始動性を確保することができるのである。
(iii)このような始動の完了後においては、通常作動の上記(III)に準じた作動により、ポンプ4からの作動油を進角室52〜54又は遅角室56〜58に導入することで、自由なバルブタイミング調整を実現することができる。またこのとき、第一及び第二副規制部材152,252は図13,21の如く脱出方向Yの遮断位置まで移動して、第一及び第二連通経路158,258を形成する周溝部157,257及び進角連通孔147,247の間を遮断する状態となる。これによれば、進角連通孔147,247に連通する進角室52,53の作動油が第一及び第二連通経路158,258を通じて外部に漏れる事態を抑制し得るので、バルブタイミング調整の応答性を高めることもできるのである。
ここまで説明したように、第一実施形態によれば、内燃機関2の始動時には環境温度に拘らずに始動性を確保することができ、また内燃機関2の始動完了後には自由なバルブタイミング調整を実現することができるのである。
尚、以上の第一実施形態では、第一規制凹部131、第二規制凹部231、又はロック凹部134が特許請求の範囲に記載の「凹部」に相当し、第一主規制部材150又は第二主規制部材250が特許請求の範囲に記載の「主規制部材」に相当し、第一副規制部材152又は第二副規制部材252が特許請求の範囲に記載の「副規制部材」に相当し、第一主弾性部材170又は第二主弾性部材270が特許請求の範囲に記載の「主弾性部材」に相当し、第一副弾性部材172又は第二副弾性部材272が特許請求の範囲に記載の「副弾性部材」に相当している。また、大気孔136又は大気孔236が特許請求の範囲に記載の「凹部側を大気に開放させる大気孔」に相当し、大気孔137又は大気孔237が特許請求の範囲に記載の「凹部側とは反対側を大気に開放させる大気孔」及び「開放孔」に相当し、第一進角連通孔147又は第二進角連通孔247が特許請求の範囲に記載の「連通孔」に相当し、周溝部157又は周溝部257が特許請求の範囲に記載の「絞り部」に相当し、小径支持部141又は小径支持部241が特許請求の範囲に記載の「支持部」に相当している。
(第二実施形態)
図22〜25に示すように、本発明の第二実施形態は第一実施形態の変形例である。第二実施形態において第一及び第二副規制部材2152,2252が形成する周溝部2157,2257は、カバー部材13側とは反対側には開口しておらず、大径支持部142,242に形成される連通室148,248との間の連通を実質的に遮断されている。また、それぞれ進角室52,53と連通するようにベーンロータ14に貫通形成された第一及び第二進角連通孔147,247は、任意位置の第一及び第二副規制部材2152,2252により、対応する連通室148,248との間の連通を実質的に遮断される。さらに、それぞれ遅角室56,57と連通するようにベーンロータ14に貫通形成された第一及び第二遅角連通孔2147,2247は、任意位置の第一及び第二副規制部材2152,2252により、対応する連通室148,248との間の連通を実質的に遮断される。
以上の構成により第一及び第二副規制部材2152,2252は、図23,25の如く脱出方向Yの遮断位置に移動することで、対応する進角連通孔147,247及び遅角連通孔2147,2247の間の連通を遮断するようになっている。また一方、第一及び第二副規制部材2152,2252は、図22,24の如く遮断位置よりも突入方向Xに移動することで、対応する進角連通孔147,247及び遅角連通孔2147,2247の間を周溝部2157,2257により連通させるようになっている。
このような第二実施形態では、異常停止時及び始動指令時の回転位相が規制位相と異なる場合において、図22,24の如く第一及び第二副規制部材2152,2252が受圧部154,254を小径支持部141,241の端面143,243に当接させた状態となる。このとき、進角連通孔147,247と遅角連通孔2147,2247との間が第一及び第二副規制部材2152,2252の周溝部2157,2257により連通するので、遅角室56,57に作動油が残存していたとしても、当該残存作動油を進角室52,53に排出可能となる。これによれば、回転位相を進角側に変化させて第一及び第二主規制部材150,250を凹部131,134,231に突入させつつ、内燃機関2を始動させる際に、遅角室56,57の残存作動油に起因して回転位相の変化速度が低下する事態を抑制し得る。したがって、第二実施形態によっても、回転位相を始動に最適なロック位相に短時間で戻すようにして、始動性を確実に確保することができる。
加えて第二実施形態では、内燃機関2の始動完了後において第一及び第二副規制部材2152,2252が、図23,25の如く脱出方向Yの遮断位置まで移動して、進角連通孔147,247と遅角連通孔2147,2247との間を遮断する状態となる。これによれば、進角室52,53及び遅角室56,57の一方の作動油が他方に漏れる事態を抑制し得るので、バルブタイミング調整の応答性を高めることができるのである。
尚、以上の第二実施形態では、第一副規制部材2152又は第二副規制部材2252が特許請求の範囲に記載の「副規制部材」に相当し、第一進角連通孔147又は第二進角連通孔247が特許請求の範囲に記載の「進角連通孔」に相当し、第一遅角連通孔2147又は第二遅角連通孔2247が特許請求の範囲に記載の「遅角連通孔」に相当する。
(第三実施形態)
図26〜29に示すように、本発明の第三実施形態は第二実施形態の変形例である。第三実施形態において常時大気開放且つ連通室148,248に常時連通の大気孔3137,3237は、ロック位相を含む回転位相の全領域でそれぞれ第一及び第二貫通孔149,249と連通するようになっている。
また、第三実施形態の第一及び第二副規制部材3152,3252は、周溝部2157,2257の底部を径方向に貫通して周溝部2157,2257及び連通室148,248間を連通させる円筒孔状の第一及び第二呼吸通路3160,3260を、それぞれ周方向に複数ずつ形成している。ここで、第一及び第二進角連通孔147,247と第一及び第二遅角連通孔2147,2247とは、図27,29の如き遮断位置よりも突入方向Xとなる連通位置において、対応する周壁部2157,2257と図26,28の如く対向して連通可能となっている。
こうした構成により第一及び第二副規制部材3152,3252は、図27,29の如く脱出方向Yの遮断位置に移動することで、対応する進角連通孔147,247及び遅角連通孔2147,2247間の連通並びに当該間の大気孔3137,3237との連通を遮断する。また一方、第一及び第二副規制部材3152,3252は、図26,28の如く遮断位置よりも突入方向Xに移動することで、対応する進角連通孔147,247及び遅角連通孔2147,2247間を周溝部2157,2257により連通させると共に、当該間を第一及び第二呼吸通路3160,3260により大気孔3137,3237と連通させる。
このように第三実施形態では、大気孔3137,3237から第一及び第二貫通孔149,249、連通室148,248、第一及び第二呼吸通路3160,3260、並びに周溝部2157,2257を経て第一及び第二進角連通孔147,247と第一及び第二遅角連通孔2147,2247とに至る第一及び第二連通経路3158,3258が形成されている。そして、それら第一及び第二連通経路3158,3258においては、第一及び第二呼吸通路3160,3260の流通面積を絞って大気の流通抵抗を作動油の流通抵抗よりも小さくするように、第一及び第二呼吸通路3160,3260の内径が調整されている。
以上の第三実施形態では、異常停止時及び始動指令時の回転位相が規制位相と異なる場合において、図26,28の如く第一及び第二副規制部材3152,3252が受圧部154,254を小径支持部141,241の端面143,243に当接させた状態となる。このとき、進角連通孔147,247及び遅角連通孔2147,2247間が第一及び第二副規制部材3152,3252の周溝部2157,2257により連通するので、遅角室56,57に作動油が残存していたとしても、当該残存作動油を進角室52,53に排出可能となる。またこのとき、進角連通孔147,247及び遅角連通孔2147,2247間は周溝部2157,2257及び絞り作用の第一及び第二呼吸通路3160,3260により大気孔3137,3237と連通するので、高い粘度によって作動油の移動が困難な状態(例えば、作動油の劣化状態や低温状態等)でも、進角室52,53及び遅角室56,57への大気導入が容易となる。これらによれば、回転位相を進角側に変化させて第一及び第二主規制部材150,250を凹部131,134,231に突入させつつ、内燃機関2を始動させる際に、遅角室56,57の残存作動油と進角室52,53における負圧の発生とに起因して回転位相の変化速度が低下する事態を、抑制し得る。したがって、第三実施形態によれば、回転位相を始動に最適なロック位相に短時間で戻すようにして、始動性の確実な確保効果を高めることができる。
加えて第三実施形態では、内燃機関2の始動完了後に第一及び第二副規制部材3152,3252が図27,29の如く脱出方向Yの遮断位置まで移動して、遮断状態となった進角連通孔147,247及び遅角連通孔2147,2247の間が大気孔3137,3237に対しても遮断される。これによれば、進角室52,53及び遅角室56,57の一方の作動油がその他方と外部とに漏出する事態を抑制し得るので、バルブタイミング調整の応答性を飛躍的に高めることができる。
さらに加えて第三実施形態では、内燃機関2の停止状態において第一及び第二副規制部材3152,3252が進角連通孔147,247及び遅角連通孔2147,2247間を大気孔3137,3237と連通させる状態となる。これによれば、内燃機関2の運転終了後において進角室52,53及び遅角室56,57の残留作動油を例えば自重により排出させる際に、当該残留作動油と大気との置換が容易となる。したがって、内燃機関2の始動前には、遅角室56,57の残存作動油自体が低減されることになるので、回転位相の変化速度低下の抑制による始動性の確保効果をさらに高めることもできるのである。
尚、以上の第三実施形態では、第一副規制部材3152又は第二副規制部材3252が特許請求の範囲に記載の「副規制部材」に相当し、大気孔3137又は大気孔3237が特許請求の範囲に記載の「凹部側とは反対側を大気に開放させる大気孔」、「開放孔」に相当し、第一呼吸通路3160又は第二呼吸通路3260が特許請求の範囲に記載の「絞り部」に相当する。
(第四実施形態)
本発明の第四実施形態では、図33〜54を参照して、より好ましい実施形態を示すものである。また図33〜54において、上記の第一実施形態から第三実施形態において説明する構成要素と同一符号を付した構成要素は、同一のものであり、同様の作動及び作用効果を奏する。
以下、図33〜図50を参照してベーンロータ14の回転位相に対応する第一規制構造及び第二規制構造の作動状態を説明する。
まず、回転位相が図39に示す最遅角位相であるときには、図40に示すように、第一主規制部材150は、突入方向Xの端部が規制ストッパ131aよりも遅角側に形成されるカバー部材13の内面132に当接する位置にあるため、第一主弾性部材170からの弾性力によって突入方向Xに押されつつも、当該内面132よりも凹む凹部131,134には突入できない状態にある。さらに、第二主規制部材250についても、図41に示すように、突入方向Xの端部が規制ストッパ232aよりも遅角側に形成されるカバー部材13の内面132に当接する位置にあるため、第二主弾性部材270からの弾性力によって突入方向Xに押されても、当該内面132よりも凹む第二規制凹部231には突入できない状態にある。
このような最遅角位相の場合には、変動トルクとしての負トルク及び付勢部材120の復原力によりベーンロータ14がハウジング11に対して進角側に相対回転するため、回転位相は進角側に変化する。この進角側への位相変化により回転位相が図36に示すように、最遅角位相から進角側に向けて一回目に到来する第一規制位相に達すると、第一主規制部材150は、図37に示すように、突入方向Xの端部全体が規制ストッパ131aよりも進角側に位置するようになる。これにより、第一主規制部材150は、第一主弾性部材170の第一主復原力によって突入方向Xに移動して第一規制凹部131に突入する。したがって、第一規制位相よりも遅角側への位相変化が規制されるようになる。また、第二主規制部材250は、図38に示すように、突入方向Xの端部の一部分が、まだ規制ストッパ232aよりも遅角側に形成されるカバー部材13の内面132に当接する位置にあるため、第二主弾性部材270からの弾性力によって突入方向Xに押されても、当該内面132よりも凹む第二規制凹部231の浅底部232には突入できない状態にある。
このような第一規制位相から進角側への位相変化が進行することにより、回転位相が図42に示すように、最遅角位相から進角側に向けて二回目に到来する第二規制位相に達すると、第二主規制部材250が、図44に示すように突入方向Xの端部全体が規制ストッパ233aよりも進角側に位置するようになる。これにより、第二主規制部材250は、第二主弾性部材270の第二主復原力によって突入方向Xに移動して第二規制凹部231の浅底部232に突入する。したがって、第二規制位相よりも遅角側への位相変化が規制されるようになる。また、第一主規制部材150は、図43に示すように、突入方向Xの端面の一部分が、まだロック凹部134の遅角側の内壁よりも遅角寄りに位置するため、第一主弾性部材170からの弾性力によって突入方向Xに押されても、ロック凹部134に突入できず、第一規制凹部131に突入したままである。
第二規制位相からさらに、進角側への位相変化により回転位相が図45に示すように、最遅角位相から進角側に向けて三回目に到来する第三規制位相に達すると、第二主規制部材250は、図47に示すように、突入方向Xの端部が規制ストッパ233aよりも進角側に位置するようになる。これにより、第二主規制部材250は、第二主弾性部材270の第二主復原力によって突入方向Xに移動して第二規制凹部231の深底部233に突入する。したがって、第三規制位相よりも遅角側への位相変化が規制されるようになる。このとき、第一主規制部材150は、図46に示すように、二段状に形成された突入方向Xの端部の外周縁部がまだ第一規制凹部131に位置するため、第一主弾性部材170からの弾性力によって突入方向Xに押されても、第一規制凹部131に突入したままである。
第三規制位相から進角側へのさらなる位相変化により回転位相が図33に示すように、ロック位相に達すると、第一主規制部材150は、図34に示すように、第一規制凹部131の進角側端部の規制ストッパ131bにより係止され、付勢部材120の復原力により規制ストッパ131bに押し当てられるとともに、第一主弾性部材170の第一主復原力により付勢されて、第一規制凹部131側からロック凹部134に突入して嵌合する。したがって、回転位相がロック位相に規制されてロックされるようになる。このとき、第二主規制部材250は、図45に示すように第一規制凹部131に突入したままである。
回転位相が図48に示す最進角位相である場合には、図50に示すように、第二主規制部材250は、突入方向Xの端部が第二規制凹部231の進角側の内壁よりも遅角寄りに位置する。これにより、第二主規制部材250は、第二主弾性部材270の第二主復原力によって突入方向Xに移動して第二規制凹部231の深底部233への突入状態にある。また、第一主規制部材150については、図50に示すように、突入方向Xの端部が規制ストッパ131bよりも進角側に形成されるカバー部材13の内面132に当接する位置にあるため、第一主弾性部材170からの弾性力によって突入方向Xに押されても、当該内面132よりも凹む第一規制凹部131には突入できない状態にある。
次に、図51〜図54を参照して、作動室146,246での作動油の油圧と第一及び第二副規制部材152,252等の挙動の関係について説明する。図51〜図54は、第一規制構造について説明する図であるが、第二規制構造についても、以下に説明する第一規制構造の作動状態と同様である。
圧力上昇した作動油が第一規制通路145を通って作動室146に導入されると、図51に示すように、作動室146の圧力が上昇して受圧部154が脱出方向Yに押圧されるため、第一副規制部材152が第一副弾性部材172の弾性力に抗して第一主規制部材150の外側を脱出方向Yに摺動する。作動室146への作動油の流入及び第一副規制部材152の脱出方向Yへの移動が進むと、第一副規制部材152の係合部156が第一主規制部材150の突出部151に接触して係合し、さらに第一副規制部材152と第一主規制部材150が一体となって脱出方向Yに移動する。これにより、第一主規制部材150が脱出方向Yへ移動するにつれて第一規制凹部131から脱出し、位相の規制が解除されることになる。
次に、作動油の油圧が降下する状況になると、図52に示すように、受圧部154に押圧していた圧力が減少し、これに対して第一副弾性部材172の弾性力が打ち勝つようになり、第一副規制部材152を突入方向Xへ押し返すようになる。このため、第一副規制部材152の突入方向Xへの移動によって、作動油が作動室146から押し出されて第一規制通路145へ流出し始めるとともに、第一主規制部材150が突入方向Xに移動してカバー部材13の内面132に接触するようになる。図52の如く第一主規制部材150がカバー部材13の内面132に当接して突入方向Xへの移動が規制されている状態では、例えば低温の環境下等に起因する作動油の油圧降下によって作動油の粘度が上昇するにしたがい、図53に示すように第一副弾性部材172の弾性力により押し返されて第一副規制部材152のみが第一主規制部材150の外側を突入方向Xに摺動するようになる。このため、作動室146の容積が減少して、作動油はさらに第一規制通路145へ流出し、作動室146からの排出が促進するようになる。さらに第一副規制部材152のみの突入方向Xへの摺動が進むと、第一副規制部材152の受圧部154がスリーブ141aの端面143に突き当たって作動室146の容積が最小になるため、作動油は作動室146から完全に流出して作動油の排出が完了する。
(他の実施形態)
以上、本発明の複数の実施形態について説明したが、本発明はそれらの実施形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
具体的に第一〜第三実施形態では、第二規制凹部231、第二主規制部材250、第二副規制部材252,2252,3252、第二主弾性部材270及び第二副弾性部材272の組を設けないようにしてもよい。また、第一〜第三実施形態では、図30に変形例(図30は、規制部材150,152の組の場合の変形例)を示すように、主規制部材150,250及び副規制部材152,252,2152,2252,3152,3252を共に板状に形成してもよく、この場合には同図の(a)に示すように、主規制部材150,250を挟む形態で一対の副規制部材152,252,2152,2252,3152,3252を設けることが好ましい。さらに第一〜第三実施形態では、図31に変形例(図31は、小径支持部141の変形例)を示すように、小径支持部141,241をベーンロータ14の母材自体により形成してもよい。またさらに第一〜第三実施形態では、付勢部材120、ハウジング溝102及びロータ溝112の組を設けないようにしてもよい。加えて第一〜第三実施形態では、進角及び遅角の関係を逆にして実施するようにしてもよい。さらに加えて第三実施形態では、副規制部材3152,3252において周溝部2157,2257の底部に呼吸通路3160,3260を設けたが、図32に変形例(図32は、副規制部材3152の変形例)を示すように、副規制部材3152,3252の端部において周溝部2157,2257の側部を開放することにより呼吸通路3160,3260を形成しても、同様の作用を得ることができる。
上記の第一実施形態〜第四実施形態については、主規制部材150,250をベーンロータ14に配置し、ハウジング11に規制凹部131,231、ロック凹部134を形成しているが、本発明はこの形態に限定するものではない。例えば、図55に示すように、主規制部材150,250及び副規制部材152,252をハウジング11Aの所定箇所に配置し、ベーンロータ14に規制凹部131,231、ロック凹部134を形成するようにしてもよい。また、この場合の主規制部材150,250及び副規制部材152,252は、ベーンロータ14Aに対して突入方向Xが径方向内方であり、脱出方向Yが径方向外方に設定される。すなわち、本発明において、主規制部材150,250は、ベーンロータ14,14Aまたはハウジング11,11Aの一方に往復移動可能に収容され、他方に形成される規制凹部等に突入する突入方向Xに移動することにより、回転位相を最進角位相及び最遅角位相の間の規制位相において規制するとともに、当該規制凹部等から脱出する脱出方向Yに移動して回転位相の規制を解除する。さらに、副規制部材152,252は、主規制部材150,250と同方向に往復移動可能に収容され、ベーンロータ14,14Aまたはハウジング11,11Aの一方が形成する作動室146,246に導入される作動油から脱出方向Xに圧力を受ける受圧部154,254、及び主規制部材150,250に対して脱出方向Yに係合し突入方向Yに離間する係合部156,256を有するものである。
そして、本発明は、吸気弁のバルブタイミングを調整する装置以外にも、「動弁」としての排気弁のバルブタイミングを調製する装置や、吸気弁及び排気弁の双方のバルブタイミングを調整する装置にも、適用することができる。