JP2009209821A - バルブタイミング調整装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】ハウジングとベーンロータとの相対回動を規制する嵌合ピンによる嵌合状態の誤解除を抑制し、誤解除に基づく不具合の発生を抑止可能なバルブタイミング調整装置を提供する。
【解決手段】ストッパピストン80が収容される穴55の深部を、作動油を貯留可能な第3油圧室60とする。第3油圧室60へは、供給油路61によって、遅角油圧室301から作動油が供給される。ここで、エンジン停止時を含め、遅角油圧室301の内圧が低い状態では、供給油路61に設けられた逆止弁62によって、第3油圧室60の作動油が遅角油圧室301へ逆流しないようになっている。また、進角油圧室311の内圧が上昇すると、開閉弁65が変位することにより、排出油路63が開放される。
【選択図】図4

Description

本発明は、内燃機関の吸気弁および排気弁の少なくとも一方の開閉タイミング(以下、バルブタイミングという)を調整するバルブタイミング調整装置に関する。
内燃機関のクランクシャフトによる駆動力を受けるハウジングと、ハウジング内に収容され、カムシャフトにクランクシャフトの駆動力を伝達するベーンロータとを備えたバルブタイミング調整装置が知られている。このバルブタイミング調整装置は、遅角室および進角室の作動油圧によりハウジングに対し遅角側および進角側にベーンロータを相対回動することにより、クランクシャフトに対するカムシャフトの位相を変えて、バルブタイミングを調整するものである。
このようなベーン式のバルブタイミング調整装置では、通常、エンジン始動時には、ベーンロータに設けられたストッパピストンがハウジングに形成された嵌合穴に嵌合しているため、ベーンロータとハウジングとの相対回動が規制されている。これにより、エンジン始動直後におけるクランクシャフトからカムシャフトへの駆動力の安定した伝達が実現され、カムシャフトのトルク変動によって生じる打音の抑制を図っている。
このようなバルブタイミング調整装置には、ストッパピストンの嵌合部の外周面と嵌合穴の内周面とをそれぞれテーパ形状に形成し、両テーパ面でストッパピストンの外周面と嵌合穴の内周面とを当接させるタイプのものがある(例えば、特許文献1参照)。これにより、製造誤差による位置ズレ等があっても、ストッパピストンを嵌合穴に確実に嵌合させることができる。
ところで、エンジン始動直後、作動油圧が低いことから、ストッパピストンは、付勢部材によって嵌合穴方向へ変位して嵌合穴と嵌合している。このとき、上述のごとく当接面にテーパ面を採用すると、カムシャフトのトルク変動によってストッパピストンを引き抜く方向(嵌合穴方向と逆方向)のテーパ分力が生じる。そのため、作動油圧が低いにもかかわらずストッパピストンが嵌合穴から離脱してしまうおそれがある。つまり、作動油圧が低いにもかかわらず、嵌合状態が誤って解除されてしまうおそれがある。そこで、従来、テーパ面の摩擦力を考慮し、ストッパピストンの離脱による嵌合状態の誤解除が生じないようテーパ角度が設計されている。
しかしながら、近年、バルブ開閉方式に所謂ローラロッカー式が採用されるようになってきたため、カムシャフトのトルク変動が比較的大きくなっている。また、ストッパピストンと嵌合穴との嵌合が繰り返されると、徐々に、テーパ面の摩擦係数が低下していく。結果として、上述のようにテーパ角度を設計したとしても、ストッパピストンの嵌合状態が誤解除されてしまうことがあった。特に、長時間放置後のエンジン始動時には、装置内の作動油(特に遅角室)が抜けてしまうため(ベーンロータが作動油に邪魔されることなく動けるため)、このような誤解除が生じやすい。
特許第3033581号公報
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、ハウジングとベーンロータとの相対回動を規制する嵌合ピンによる嵌合状態の誤解除を抑制し、誤解除に基づく不具合の発生を抑止可能なバルブタイミング調整装置を提供することにある。
請求項1記載の発明では、ハウジングおよびベーンロータの一方に、ピン突出手段が設けられている。ピン突出手段は、嵌合ピンと当該嵌合ピンを収容するピン収容部とを有し、ハウジングおよびベーンロータの他方に設けられた嵌合穴に嵌合ピンが嵌合することにより、ハウジングとベーンロータとの相対回動を規制する。このとき、嵌合ピンの嵌合状態は、ピン収容穴の深部方向への嵌合ピンの変位によって解除される。
ここで特に、本発明では、ピン収容穴の深部が、作動流体を貯留可能な流体貯留部となっている。したがって、流体貯留部に作動流体を貯留すれば、ピン収容穴の深部方向への嵌合ピンの変位が抑制される。これにより、嵌合状態の誤解除が抑制され、誤解除に基づく不具合の発生を抑止することができる。
請求項2記載の発明では、遅角室又は進角室から流体貯留部へ作動流体を供給するための流体供給通路を有する。これにより、遅角制御あるいは進角制御に合わせて、遅角室又は進角室から作動流体を供給することが可能となる。例えば、内燃機関がアイドル運転時に遅角制御を行うものであれば、遅角室から作動流体が供給されるように流体供給通路を設けるという具合である。このようにすれば、内燃機関の停止に先立って作動流体を流体貯留部へ貯留することができ、次の始動時における誤解除を抑制することができる。
請求項3記載の発明では、流体供給通路における作動流体の流体貯留部からの逆流を規制する逆止弁を有する。これにより、流体供給通路における作動流体の逆流が規制されるため、ピン収容穴の深部方向への嵌合ピンの変位の抑制に寄与する。
請求項4記載の発明によれば、流体排出通路を介して作動流体を流体貯留部から排出可能となるため、嵌合ピンを速やかに変位させることが可能となり、嵌合状態の積極的な解除に寄与する。
請求項5記載の発明では、流体排出通路を開閉する開閉弁を有している。この開閉弁は、遅角室又は進角室の作動流体の圧力によって流体排出通路を開閉する。これにより、遅角制御あるいは進角制御に合わせて、作動流体を流体貯留部から排出することが可能となる。例えば、進角室の圧力上昇によって流体排出通路を開放するという具合である。このようにすれば、内燃機関始動後、進角制御への移行に際し、嵌合ピンを速やかに変位させることが可能となる。
請求項6記載の発明では、嵌合ピンの嵌合部の外周面および嵌合穴の内周面のうち少なくとも一方がテーパ状に形成されている。ここで嵌合ピンと嵌合穴とは、嵌合状態においてテーパ面で当接する。これにより、製造誤差による位置ズレ等があっても、嵌合ピンを嵌合穴に確実に嵌合させることができる。また、この構成を採用した場合、テーパ分力により嵌合ピンの嵌合状態が解除されやすくなるため、上述の効果が際立つ。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
本実施形態のバルブタイミング調整装置10を図1〜5に示す。本実施形態のバルブタイミング調整装置10は、作動流体として作動油を用いる油圧制御式であり、エンジンの吸気弁のバルブタイミングを調整するものである。
図1に示すバルブタイミング調整装置10は、従動軸としてのカムシャフト70に用いられる。このカムシャフト70は、図示しない駆動軸としてのクランクシャフトにより回転駆動されることで吸気弁を開閉する。バルブタイミング調整装置10は、クランクシャフトの位相とカムシャフト70との位相を変化させることにより、吸気弁のバルブタイミングを調整する。
図1に示すように、バルブタイミング調整装置10は、ハウジング11およびベーンロータ50を備えている。ハウジング11は、フロントプレート20、シューハウジング30およびチェーンスプロケット40を有している。ここで、フロントプレート20およびシューハウジング30は、一体に形成されている。また、フロントプレート20、シューハウジング30およびチェーンスプロケット40は、ボルト12によって同軸上に固定されている。これにより、ハウジング11内部に収容室35が形成されている。この収容室35に収容されるのが、ベーンロータ50である。
上述したクランクシャフトは、チェーンにより、チェーンスプロケット40と結合されている。したがって、チェーンスプロケット40(これを含むハウジング11)は、クランクシャフトに同期して回転する。一方、カムシャフト70は、図示しない軸受けによって支持され、チェーンスプロケット40に対して回動可能となっており、その回転軸方向の端面をベーンロータ50に当接させるように、ベーンロータ50に対し図示しないボルトによって同軸上に固定されている。すなわち、カムシャフト70は、ベーンロータ50と共に、ハウジング11に対して相対回動可能となっている。つまり、カムシャフト70は、クランクシャフトの回転によりハウジング11が回転すると、ハウジング11の収容室35に収容されたベーンロータ50が回転することによって回転するのである。なお、ハウジング11は、図1中の矢印X方向から見て時計方向へ回転する。このとき、ベーンロータ50が時計方向へ回転することにより、カムシャフト70も時計方向へ回転する。以下、この回転方向をクランクシャフトに対するカムシャフト70の進角方向とし、この回転方向と反対方向を遅角方向とする。
図2は、図1のII−II線概略断面図である。また、図3は、図1のIII−III線概略断面図である。図2および図3に示すように、ハウジング11のシューハウジング30は、筒状の筒部31と、筒部31から径内方向へ延びるシュー32、33、34とを有している。シュー32、33、34は、略台形状に形成され、筒部31の周方向にほぼ等間隔に配置されている。
ベーンロータ50は、上述したように、ハウジング11の収容室35に収容されている。また、ハウジング11に対し相対回動可能となっている。ベーンロータ50は、ボス部51と、ボス部51の径外方向に形成されたベーン52、53、54とを有している。ベーン52、53、54は、周方向にほぼ等間隔に配置されており、ボス部51と一体に形成されている。また、ベーン52、53、54は、シュー32、33、34により周方向の三箇所に形成されたベーン収容室351に、それぞれ収容されている。
ベーン52、53、54は、各ベーン収容室351を、遅角室としての遅角油圧室301、302、303と、進角室としての進角油圧室311、312、313とに仕切っている。具体的には、ベーン52によって遅角油圧室301と進角油圧室311とが仕切られ、ベーン53によって遅角油圧室302と進角油圧室312とが仕切られ、同様に、ベーン54によって遅角油圧室303と進角油圧室313とが仕切られている。
このような遅角油圧室301,302,303および進角油圧室311、312、313の液密性を向上させるため、シール部材15が配置されている。シール部材15は、具体的には、ベーンロータ50におけるボス部51のシュー32、33、34との対向面、並びに、ベーン52、53、54の筒部31との対向面に配設されている。シール部材15は、ボス部51およびベーン52、53、54に形成された溝にはめ込まれており、バネなどによりシュー32、33、34および筒部31に対して付勢されている。
ところで、図1に示すように、ベーンロータ50は、1つのベーン52に軸方向の穴55を有している。この穴55には、ストッパピストン80、およびスプリング83が収容されている。ストッパピストン80は、略円筒状に形成され、軸方向への往復移動が可能となるよう穴55に収容されている。スプリング83は、軸方向の一方の端部が穴55の最深部84に接し、他方の端部がストッパピストン80に接するよう配置されている。これにより、ストッパピストン80をフロントプレート20側へ付勢している。
図4は、図2のIV−O−IV線概略断面図であるが、図1および図4に示すように、フロントプレート20は、その内側面に、嵌合穴23を有する。嵌合穴23は、穴55に合わせて形成されており、ベーン52が最遅角位置(図2の位置)にあるとき、その中心軸が穴55の中心軸とほぼ一致する。つまり、ストッパピストン80は、ベーン52が最遅角位置にあるときに、嵌合穴23方向へ変位することにより、嵌合穴23に嵌合する。嵌合穴23は、略円筒状の嵌合リング22を、フロントプレート20に形成された凹部21に圧入することで形成されている。このように嵌合リング22を介在させることによって、ストッパピストン80によるフロントプレート20の摩耗を抑制することができる。
ストッパピストン80の嵌合部80aおよび嵌合穴23の内周壁23aは共に、テーパ状に形成されている(図4参照)。そのため、設計誤差などが生じても、ストッパピストン80は、その変位によって嵌合穴23に確実に嵌合する。
また、ストッパピストン80の外周には、第1油圧室81が形成されている(図4参照)。第1油圧室81は、ストッパピストン80の外周に設けられた凹部と、穴55の内周面とで形成される。ここで、第1油圧室81に作動油が供給されて第1油圧室81の内圧が上昇すると、ストッパピストン80は、穴55の深部方向、すなわち嵌合穴23から離脱する方向へ変位する。
さらにまた、ストッパピストン80が嵌合穴23に嵌合した状態においては、嵌合穴23とストッパピストン80の嵌合部80aによって、第2油圧室82が形成される。ここで、第2油圧室82に作動油が供給されて第2油圧室82の内圧が上昇すると、ストッパピストン80は、穴55の深部方向、すなわち嵌合穴23から離脱する方向へ変位する。
次に、油路について説明する。ここでは最初にカムシャフト70からベーンロータ50の遅角油圧室301、302、303および進角油圧室311、312、313への油路について説明し、その後、ストッパピストン80の作動に関連する油路について説明する。
カムシャフト70の内部には、軸方向に平行な油路が複数形成されている。これらの油路は、ベーンロータ50側に連通している。これにより、カムシャフト70を介して作動油がベーンロータ50側へ供給される。カムシャフト70に形成されている油路は、上述した遅角油圧室301、302、303への遅角側の油路と、進角油圧室311、312、313への進角側の油路とに分けられる。
遅角側の油路は、図2に示すベーンロータ50内部の遅角側油路361、362に連結されている。遅角側油路361、362は、ベーンロータ50の軸方向に平行である。そして、遅角側油路361、362と上述の遅角油圧室301、302、303とを連結するのが、軸方向に垂直な連結油路363、364、365である。詳しくは、連結油路363が、遅角側油路361と遅角油圧室301とを連結し、連結油路364が、遅角側油路362と遅角油圧室302とを連結し、連結油路365が、遅角側油路362と遅角油圧室303とを連結する。かかる構成により、遅角制御が開始されて作動油が図示しないオイルポンプから送り出されると、カムシャフト70を介して遅角油圧室301、302、303へ供給されることになる。その結果、遅角制御が開始された場合、遅角油圧室301、302、303の内圧が上昇する。
一方、進角側の油路は、図2に示す進角側油路371、372、373に連結されている。進角側油路371、372、373は、チェーンスプロケット40のシューハウジング30との当接面を切り欠いて設けられており(図1参照)、ちょうど進角油圧室311、312、313に対応させて形成されている。かかる構成により、進角制御が開始されて作動油がオイルポンプから送り出されると、カムシャフト70を介して進角油圧室311、312、313へ供給されることになる。その結果、進角制御が開示された場合、進角油圧室311、312、313の内圧が上昇する。
続けて、ストッパピストン80の作動に関連する油路について説明する。図5は、図2のベーン52を拡大して示す模式図である。
図2および図5に示すように、ベーン52には穴55へ向かう油路381、382が形成されている。ストッパピストン80の外周に第1油圧室81が形成されていることは既に述べたが(図4参照)、この第1油圧室81と遅角油圧室301とを連結するのが、一方の油路381である。また、ストッパピストン80の嵌合時に第2油圧室82が形成されることも既に述べたが(図4参照)、この第2油圧室82と進角油圧室311とを連結するのが、他方の油路382である。したがって、遅角制御が開始されると、上述したように遅角油圧室301の内圧が上昇するため、このときは、第1油圧室81の内圧が上昇することになる。また、進角制御が開始されると、進角油圧室311の内圧が上昇するため、このときは、第2油圧室82の内圧が上昇することになる。これにより、遅角制御が開始されても、進角制御が開始されても、作動油の油圧が一定圧を上回ると、ストッパピストン80は、嵌合穴23から離脱することになる。
ストッパピストン80が嵌合穴23から離脱することで、ベーンロータ50とフロントプレート20、すなわちハウジング11との相対回動が許容される。したがって、遅角制御が開始された場合、遅角油圧室301、302、303の内圧の上昇により、ベーンロータ50は遅角方向へ相対回動する。一方、進角制御が開始された場合、進角油圧室311、312、313の内圧の上昇により、ベーンロータ50は進角方向へ相対回動する。その結果、カムシャフト70のクランクシャフトに対する位相を調整することができ、バルブの開閉タイミングを調整することが可能となる。
上述した基本構成に加え、本実施形態ではさらに、図4に示すように、第3油圧室60、供給油路61、逆止弁62、排出油路63、スプロケット側油路64、および、開閉弁65を備えている。
第3油圧室60は、穴55の深部に形成されており、穴55に収容されるストッパピストン80の基端側に生じる空間である。供給油路61は、第3油圧室60と遅角油圧室301とを連結する。この供給油路61の途中に設けられているのが逆止弁62であり、逆止弁62は、遅角油圧室301の内圧が上昇したときに供給油路61を開放する(図5参照)。したがって、遅角油圧室301の内圧が上昇すると、供給油路61が開放されて、第3油圧室60へ作動油が供給されることになる。一方、遅角油圧室301の内圧が低いと、供給油路61が閉塞される。これにより、第3油圧室60から遅角油圧室301への作動油の逆流が抑制される。
排出油路63は、第3油圧室60から、ベーンロータ50の軸方向に垂直な方向へ形成されている。この排出油路63は、チェーンスプロケット40の軸方向に貫通するスプロケット側油路64に連結されている。スプロケット側油路64は、ほぼ大気圧の外部に通じている。すなわち、排出油路63およびスプロケット側油路64が、第3油圧室60と外部とを連結している。
開閉弁65は、排出油路63を開閉する弁であり、進角油圧室311の内圧が上昇したときに排出油路63を開放する。具体的には、図5に示すように開閉弁65を作動させるために進角油圧室311からの弁開閉油路66が設けられており、進角油圧室311の内圧が上昇すると、開閉弁65が変位することにより、排出油路63が開放されるようになっている。一方、進角油圧室311の内圧が低いと、開閉弁65が変位することなく、排出油路63が閉塞される。
なお、本実施形態の第3油圧室60が「流体貯留部」を構成し、供給油路61が「流体供給通路」を形成し、逆止弁62が「逆止弁」を構成する。また、排出油路63およびスプロケット側油路64が「流体排出通路」を構成し、開閉弁65が「開閉弁」を構成する。さらにまた、上述したストッパピストン80が「嵌合ピン」を構成し、穴55が「ピン収容穴」を構成する。そして、第3油圧室60、供給油路61、逆止弁62、排出油路63、スプロケット側油路64、開閉弁65、ストッパピストン80、および、穴55が「ピン突出手段」を構成する。
次に、本実施形態のバルブタイミング調整装置10の作用を説明する。
<エンジンの運転時>
エンジン始動後、十分な時間が経過した後のエンジンの運転時においては、運転条件に合わせて、ハウジング11とベーンロータ50との位相差、すなわちクランクシャフトとカムシャフト70との位相差が決定される。そして、決定された位相差となるように図示しない切換弁が制御され、遅角油圧室301、302、303または進角油圧室311、312、313に、作動油が供給される。遅角油圧室301、302、303へ作動油が供給される場合、進角油圧室311、312、313からは作動油が排出される。これにより、ベーンロータ50は、ハウジング11に対して遅角方向へ相対回動する。一方、進角油圧室311、312、313へ作動油が供給される場合、遅角油圧室301、302、303からは作動油が排出される。これにより、ベーンロータ50は、ハウジング11に対して進角方向へ相対回動する。
<エンジンのアイドリング時>
特に、エンジンのアイドリング時においては、ベーンロータ50の位相がハウジング11の位相から最も遅れる最遅角制御が行われる。この最遅角制御では、ベーンロータ50が、最遅角位置(図2の位置)となり、嵌合穴23の中心軸が穴55の中心軸とほぼ一致する。このときは、遅角油圧室301、302、303の内圧が上昇することから、第1油圧室81および第3油圧室60の内圧が上昇する。
本実施形態の特徴部分は、このような最遅角制御において、第3油圧室60へ遅角油圧室301から作動油が供給される点にある。また、このとき、進角油圧室311、312、313の内圧は上昇しないため、開閉弁65は閉塞されたままとなる。その結果、第3油圧室60に作動油が貯留される。
<エンジンの停止時>
エンジンの停止時においては、作動油を供給するためのオイルポンプも停止するため、遅角油圧室301、302、303および進角油圧室311、312、313から、作動油が排出される。したがって、第1油圧室81および第2油圧室82の内圧の上昇もない。これにより、ストッパピストン80は、スプリング83の付勢力によって、嵌合穴23の方向へ変位する。また、通常はアイドリング時の最遅角制御を経てエンジンが停止されるため、嵌合穴23の中心軸が穴55の中心軸とほぼ一致しており、ストッパピストン80は、嵌合穴23に嵌合する。特に本実施形態では、遅角油圧室301、302、303および進角油圧室311、312、313に作動油が供給されていない状態では、逆止弁62および開閉弁65は閉塞された状態となる。これにより、エンジン停止時においても、第3油圧室60に作動油が貯留された状態が維持される。
<エンジンの始動時>
エンジンの始動直後においては、作動油が遅角油圧室301、302、303および進角油圧室311、312、313の内圧が高くない。そのため、上述したようにストッパピストン80が嵌合穴23に嵌合しており、ハウジング11に対するベーンロータ50の回動が規制されている。これにより、クランクシャフトからカムシャフト70への駆動力の安定した伝達が実現される。特に本実施形態では、上述したように第3油圧室60に作動油が貯留されているため、穴55の深部方向へのストッパピストン80の変位が抑制される。
その後、遅角油圧室301、302、303へ作動油が供給されるようになり、さらに、ベーンロータ50の位相を進角方向へずらす進角制御が開始されると、進角油圧室311、312、313へ作動油が供給される。このように進角油圧室311に作動油が供給されることで、進角油圧室311の内圧が上昇すると、第2油圧室82の内圧が上昇する。また、開閉弁65が変位することにより、排出油路63が開放される。これにより、ストッパピストン80は、穴55の深部方向へ変位する。このとき、第3油圧室60に貯留された作動油はスプロケット側油路64を経由して外部へ排出されるため、ストッパピストン80の変位が抑制されることなく、ストッパピストン80の速やかな変位が可能となる。そして、ストッパピストン80が嵌合穴23から離脱することにより、ハウジング11に対するベーンロータ50の回動が許容される。その結果、進角油圧室311、312、313の内圧の上昇によって、ベーンロータ50は進角方向へ相対回動することになる。
以上詳述したように本実施形態のバルブタイミング調整装置10では、穴55の深部を、作動油を貯留可能な第3油圧室60とした。そして、エンジン停止前の最遅角制御時において第3油圧室60に作動油を貯留するようにしたため、エンジン始動直後、穴55の深部方向へのストッパピストン80の変位が抑制される。これにより、ストッパピストン80の嵌合状態が誤解除されることを抑制でき、誤解除に基づく不具合の発生を抑止することができる。
また、本実施形態では、遅角油圧室301から第3油圧室60へ作動流体を供給するための供給油路61を有する。これにより、エンジン停止前の最遅角制御時に第3油圧室60に作動油を供給することができる。しかも、エンジン停止時を含め、遅角油圧室301、302、303の内圧が低い状態では、供給油路61に設けられた逆止弁62によって、第3油圧室60の作動油が遅角油圧室301へ逆流しないようになっている。その結果、エンジン始動直後における穴55の深部方向へのストッパピストン80の変位の抑制に寄与する。
さらにまた、本実施形態では、ベーンロータ50の位相を進角方向へずらす進角制御が開始されると、進角油圧室311、312、313へ作動油が供給される。すると、開閉弁65が変位することにより、排出油路63が開放される。これにより、第3油圧室60に貯留された作動油はスプロケット側油路64を経由して外部へ排出されるため、ストッパピストン80の変位が抑制されることなく、ストッパピストン80を速やかに変位させることができる。
なお、本実施形態では、ストッパピストン80の嵌合部80aおよび嵌合穴23の内周壁23aが、テーパ状に形成されている(図4参照)。そのため、設計誤差などが生じても、ストッパピストン80は、その変位によって嵌合穴23に確実に嵌合する。そして、このような構成を採用した場合、テーパ分力によりストッパピストン80と嵌合穴23との嵌合状態が誤解除されやすくなるため、上述の効果が際立つ。
(その他の実施形態)
上記第1実施形態でストッパピストン80の嵌合部80aおよび嵌合穴23の内周壁23aがテーパ状に形成されることは、既に述べた(図4参照)。このように嵌合面をテーパ面とする場合、両者のテーパ角度は特に限定されない。
すなわち、図6(a)に示すように、ストッパピストン90の嵌合部90aのテーパ角度と嵌合穴91の内周壁91aのテーパ角度とをほぼ同一とすることが例示される。また、ストッパピストン92の嵌合部92aのテーパ角度を、嵌合穴93の内周壁93aのテーパ角度よりも、小さくすることが例示される。さらにまた、ストッパピストン94の嵌合部94aのテーパ角度を、嵌合穴95の内周壁95aのテーパ角度よりも、大きくすることが例示される。繰り返すことになるが、これらの構成を採用することで、設計誤差などが生じていても、ストッパピストン90、92、94は、その変位によって嵌合穴91、93、95に確実に嵌合する。そして、これらの構成を採用した場合、テーパ分力によりストッパピストン90、92、94と嵌合穴91、93、95との嵌合状態が誤解除されやすくなるため、上述の効果が際立つ。なお、図6(c)に示す構成では、ストッパピストン94が浅い位置で嵌合穴95に嵌合することになるため、誤解除を抑制するという観点からは、図6(a)または図6(b)に示した構成を採用することがより好ましい。
また、上記第1実施形態は、フロントプレート20に嵌合穴23を設け、ストッパピストン80を嵌合させるものである。これに対し、フロントプレートとは反対側のチェーンスプロケットに嵌合穴を設け、ストッパピストンをチェーンスプロケット側へ嵌合させるようにしてもよい。
さらにまた、上記第1実施形態では、嵌合穴23を嵌合リング22を圧入することによって形成していたが、嵌合リングを用いずフロントプレートに直接嵌合穴を形成してもよい。ただし、フロントプレートがアルミニウムなどの材料で形成されることを考慮すると、その摩耗を抑制するという意味において嵌合リングを用いることが望ましい。
また、上記第1実施形態のバルブタイミング調整装置10は、エンジンの吸気弁を開閉するカムシャフト70に用いられるものであった。これに対し、本発明の思想は、排気弁を開閉するカムシャフトにも適用することができる。
なお、本発明は、上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施することができる。
本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整装置の構成を示す概略断面図である。 図1のII−II線概略断面図である。 図1のIII−III線概略断面図である。 図2のIV−O−IV線概略断面図である。 本発明の第1実施形態によるベーンの構成を示す拡大模式図である。 本発明の他の実施形態による嵌合部の変形例を示す模式図である。
符号の説明
10:バルブタイミング調整装置、11:ハウジング、12:ボルト、15:シール部材、20:フロントプレート、21:凹部、22:嵌合リング、23:嵌合穴、23a:内周壁、30:シューハウジング、31:筒部、32:シュー、35:収容室、40:チェーンスプロケット、50:ベーンロータ、51:ボス部、52:ベーン、53:ベーン、54:ベーン、55:穴、60:第3油圧室、61:供給油路、62:逆止弁、63:排出油路、64:スプロケット側油路、65:開閉弁、66:弁開閉油路、70:カムシャフト、80:ストッパピストン、80a:嵌合部、81:第1油圧室、82:第2油圧室、83:スプリング、84:最深部、90,92,94:ストッパピストン、90a,92a,94a:嵌合部、91,93,95:嵌合穴、91a,93a,95a:内周壁、301〜303:遅角油圧室、311〜313:進角油圧室、351:ベーン収容室、361,362:遅角側油路、363〜365:連結油路、371:進角側油路、381,382:油路。

Claims (6)

  1. 内燃機関の駆動軸の駆動力により回転駆動されて弁を開閉する従動軸に用いられ、前記駆動軸と前記従動軸との位相を変化させることにより、吸気弁および排気弁のうち少なくとも一方の開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整装置において、
    前記駆動軸および前記従動軸の一方とともに回転するハウジングと、
    前記駆動軸および前記従動軸の他方とともに回転し、前記ハウジング内に形成された収容室に収容されるベーンを有し、前記ベーンにより前記収容室が仕切られて形成される遅角室および進角室の作動流体の圧力によって、前記ハウジングに対し相対回動可能なベーンロータと、
    前記ハウジングおよび前記ベーンロータの一方に設けられ、他方に形成される嵌合穴に嵌合することによって前記ハウジングと前記ベーンロータとの相対回動を規制する嵌合ピンおよび、当該嵌合ピンを収容するピン収容穴を有するピン突出手段とを備え、
    前記ピン収容穴の深部方向への前記嵌合ピンの変位によって、前記嵌合穴との嵌合状態が解除可能となっており、
    前記ピン突出手段は、前記ピン収容穴の深部が、前記作動流体を貯留可能な流体貯留部として構成されていること
    を特徴とするバルブタイミング調整装置。
  2. 前記ピン突出手段は、前記遅角室又は前記進角室から前記流体貯留部へ前記作動流体を供給するための流体供給通路を有すること
    を特徴とする請求項1記載のバルブタイミング調整装置。
  3. 前記ピン突出手段は、前記流体供給通路における前記作動流体の前記流体貯留部からの逆流を規制する逆止弁を有すること
    を特徴とする請求項2記載のバルブタイミング調整装置。
  4. 前記ピン突出手段は、前記貯留された作動流体を前記流体貯留部から排出するための流体排出通路を有すること
    を特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載のバルブタイミング調整装置。
  5. 前記ピン突出手段は、前記遅角室又は前記進角室の前記作動流体の圧力によって前記流体排出通路を開閉する開閉弁を有すること
    を特徴とする請求項4記載のバルブタイミング調整装置。
  6. 前記嵌合ピンの嵌合部の外周面および前記嵌合穴の内周面のうち少なくとも一方がテーパ状に形成されており、前記嵌合ピンと前記嵌合穴とは、嵌合状態においてテーパ面で当接すること
    を特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載のバルブタイミング調整装置。
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