(バルブタイミング制御装置の構成)
図1は、内燃機関(以下、機関という。)のシリンダブロックをクランクシャフト(又はカムシャフト)の軸方向から見たバルブタイミング制御装置(以下、装置1という。)の部分正面図である。本実施例1の装置1が適用される機関は、クランクシャフトを起点としてV字型に2つの気筒列(バンク)を配置したV型エンジンであって、1つの気筒に対して吸気弁用のカムシャフト(以下、吸気カムシャフト3aという。)と排気弁用のカムシャフト(以下、排気カムシャフト3bという。)が2本設置されたDOHC方式である。気筒列ごとに吸気カムシャフト1本と排気カムシャフト1本のセットが設けられている。吸気カムシャフト3aはシリンダブロックの幅方向内側に設置されており、吸気弁を駆動する。排気カムシャフト3bはシリンダブロックの幅方向外側に設置されており、排気弁を駆動する。
各カムシャフト3の軸方向一端にはそれぞれ装置1が設置されている。吸気側の装置1aは吸気カムシャフト3aに固定設置され、排気側の装置1bは排気カムシャフト3bに固定設置されている。各装置1にはプーリ100が設けられており、各プーリ100には1本のタイミングベルト(以下、ベルトBという。)が掛け渡されている(図1の二点鎖線)。ベルトBはゴム製の歯付ベルトである。クランクシャフトの回転力はベルトBを介して各プーリ100に伝達される。各装置1はプーリ100により回転駆動されると共に、各バルブ(吸気弁・排気弁)の開閉タイミングを運転条件に応じて最適に可変制御する。
以下、説明の便宜上、吸気カムシャフト3a及び排気カムシャフト3bの軸方向にX軸を設け、装置1a及び装置1bが設置されている側を正方向とする。
(吸気側の装置の構成)
まず、機関の吸気側に適用された装置1aの構成を図2〜図14に基づき説明する。図2は装置1aを構成する各部材を分解して同軸上に並べ、斜めから見た図である。図3は、装置1aのカムシャフト回転軸O(図4参照)を通る部分断面を示す。図4及び図5は、フロントプレート8等を取り外した状態の装置1a(ハウジング本体10にベーンロータ4を組み付けたもの)をX軸正方向側から見た正面図である。遅角油路408と進角油路409をあわせて示す(図3の破線)。なお、図3は、図4のA−O−A断面(一点鎖線)に相当する。
装置1aは、油圧給排機構2から作動油の供給を受け、又は油圧給排機構2へ作動油が排出されることで作動する油圧アクチュエータ(油圧駆動タイプの位相変換機構)である。油圧給排機構2による装置1aへの作動油の給排は、制御手段(コントローラCU)により制御される。装置1aは、供給される作動油圧を用いてクランクシャフトに対する吸気カムシャフト3a(以下、カムシャフト3aという。)の回転位相を連続的に変化させることで、吸気弁のバルブタイミングを可変制御する。
装置1aは、プーリ100とハウジングHSGとベーンロータ4とを有している。ハウジングHSGにはプーリ100を介してクランクシャフトの回転力が伝達される。ハウジングHSGの内部に収容されたベーンロータ4は、ハウジングHSGに対して相対回動自在に設けられており、作動油を介してハウジングHSGから回転力が伝達されるとともに、この回転力をカムシャフト3aへ伝達する。
ハウジングHSGは、フロントプレート8と、リアプレート9と、ハウジング本体10とを有したハウジング部材である。ハウジング本体10は、中空円筒状のハウジング部材であり、X軸方向両端が開口している。フロントプレート8は、ハウジング本体10のX軸正方向側の開口端を封止・閉塞する円盤状のハウジング部材である。リアプレート9は、ハウジング本体10のX軸負方向側の開口端を封止・閉塞する円盤状のハウジング部材である。本実施例1のハウジング本体10は、後述するように押出し成形により作られるため、中空円筒状であり両端が開口している。よって、フロントプレート8及びリアプレート9により両開口端を封止する。
図6はハウジング本体10を示す。(a)はハウジング本体10をX軸正方向側から見た正面図であり、(b)は(a)のC−C視断面を示し、(c)はハウジング本体10をX軸負方向側から見た正面図である。図7、図8は、ハウジング本体10の製造過程における中間状態(素材)を示す。
ハウジング本体10は、図7に示すようなアルミ押出し材から形成される。まず、アルミ系金属材料(アルミニウム、又はA6000やA7000等のアルミ合金)を金型から押し出し、図7に示すような、内周に各シュー11〜13の形状を有し、外周にプーリ100の形状を有する連続体へと押出し成形する(これを一次加工品P1という)。その後、一次加工品P1の外周面および内周面全体に陽極酸化処理(アルマイト処理)を施して表面を高硬度化する(これを二次加工品P2という)。そして、図8に示すように、二次加工品P2を一定の軸方向間隔で径方向に切断することで、同形状の複数の部材とする(これらの部材を三次加工品P3という)。そして、三次加工品P3に対して切削加工を施し、封止凹部101やボルト孔110等を設けることで、図6に示す最終的な形状を有するハウジング本体10とする。
図6(b)(c)に示すように、ハウジング本体10のX軸負方向側の開口端には、X軸正方向側に向かって穿たれた凹部(段差部)である封止凹部101が設けられている。封止凹部101は、上記三次加工品P3を、回転軸Oを中心として所定の半径Rを有する円筒状に、X軸正方向に向かって所定の深さまで穿つ(減肉する)ことで形成されている。封止凹部101は、外周が円形の底面102と、底面102を取り囲み封止凹部101の内周面である壁面103とを有している。壁面103は、回転軸Oを中心に半径Rを有している。
回転軸Oを中心として、ハウジング本体10の内周面の半径をRi、プーリ100の歯先までの最大半径をRoとすると、Ro>R>Riであり、Ro:Ri≒100:82である。また、(Ro+Ri)/2≒Rである。言い換えると、ハウジング径方向で見ると、封止凹部101は、ハウジング本体10の内周面と外周面との間における略半分の範囲にわたって設けられている。一方、X軸方向では、ハウジング本体10のX軸負方向側の端面104と封止凹部101の底面102との間の距離L2は、ハウジング本体10のX軸方向長さLの略20%強である。言い換えると、封止凹部101は、X軸方向でハウジング本体10の略20%強の範囲にわたって設けられている。
ハウジング本体10の外周のX軸方向全範囲には、ハウジング本体10と一体にプーリ100が成形されている。ハウジング本体10の内周側のX軸方向長さL1は、封止凹部101により、外周側(プーリ100)よりも短くなっている(L1<L)。言い換えると、プーリ100のX軸方向長さLは、ハウジング本体10の内周側(L1)よりも長く確保されている。プーリ100は、X軸方向に延在する凹凸(歯)から構成され、ベルトBが巻回される歯車であり、機関のクランクシャフトにより回転駆動され、ハウジング本体10と共に図4の時計回り方向(図1の矢印方向に相当する。)に回転する。
ハウジング本体10の内周には、内側に向かって突出する複数のシュー11〜13が、ハウジング本体10と一体に成形されている。具体的には、回転軸Oの周りの方向(以下、周方向という。)で略等間隔に、3つの隔壁部である第1〜第3シュー11〜13が、ハウジング本体10の内周面から内径方向(回転軸Oに向かう方向)に向かって突設されている。第1、第2、第3シュー11,12,13は、この順番で、図4の時計回り方向に並んでいる。各シュー11〜13はX軸方向に延びて形成されており、X軸に対して垂直方向のそれらの断面は略台形状に設けられている。
周方向における各シュー11〜13の幅は、略同じ大きさに設けられている。第2シュー12と第3シュー13の間の隙間、及び第3シュー13と第1シュー11の間の隙間の周方向幅は、略同じ大きさに設けられている。第1シュー11と第2シュー12の間の隙間は、後述する幅広の第1ベーン41が収容されるため、その周方向幅が、他のシュー間の上記隙間よりも若干大きく設けられている。
第1シュー11の上記台形断面の略中央には、ボルトb1が挿通するボルト孔110がX軸方向に貫通形成されている。同様に、第2、第3シュー12、13にもそれぞれボルト孔120,130が貫通形成されている。
各シュー11〜13のX軸正方向側の端面は、フロントプレート8に密着固定されている。封止凹部101の底面102の一部として設けられた各シュー11〜13のX軸負方向側の端面は、リアプレート9に密着固定されている。
X軸正方向側から見て、第2シュー12と第3シュー13の時計回り方向側には、それぞれ平面部121,131が形成されている。平面部121,131は、X軸方向から見て、ハウジング本体10の回転軸Oを通る径方向直線と略一致した直線状である。
一方、第1シュー11の時計回り方向側は、(ハウジング外径方向の)根元部分に肉盛り部112が設けられると共に、(ハウジング内径方向の)先端部分に切り欠き部113が設けられている。肉盛り部112と切り欠き部113との間には、第2シュー12及び第3シュー13と同様の平面部111が形成されている。肉盛り部112の形状は、X軸方向から見て、内側に凸の、所定の曲率を有する略円弧状であり、第1シュー11がハウジング本体10の内周面に沿って立ち上がり始める位置からなだらかに湾曲するように形成されている。
図6(c)に示すように、封止凹部101の底部102であって上記肉盛り部112には、ボルト孔110に隣接して、ボルト孔110よりも小径の位置決め用凹部114が設けられている。肉盛り部112は、第1シュー11に位置決め用凹部114を設けることを可能にすると共に、後述する第1ベーン41が第1シュー11に当接しても強度の点で問題ないように、第1シュー11の根元部分における周方向での剛性を高めている。
また、X軸正方向側から見て、第1〜第3シュー11〜13の反時計回り方向側には、X軸方向全範囲にわたる幅広の溝である凹部115,125,135がそれぞれ形成されている。
第1〜第3シュー11〜13の先端部116,126,136の、回転軸Oに対向する内径側の面は、X軸方向から見て、後述するベーンロータ4のロータ40の外周面411等に沿って窪んだ円弧状に形成されている。先端部116には、シール溝117がX軸方向に沿って形成されている。シール溝117の内部には、ロータ40の外周面に液密に摺接するシール部材118と、このシール部材118をロータ40の外周面へ向けて押圧するシールスプリング(板バネ119)が嵌合保持されている。シール部材118はガラス繊維入りの樹脂製であり、X軸に対して直角の方向から見て略コ字状である。同様に、他の先端部127,137にも、それぞれシール部材128,138及び板バネ139,149が設けられている(図3参照)。
図9はベーンロータ4を示す。(a)はベーンロータ4をX軸正方向側から見た正面図であり、(b)は(a)のD−D視断面を示す。なお、油路408,409の一部のみの開口を示す。図10、図11は、ベーンロータ4の製造過程における中間状態(素材)を示す。
ベーンロータ4は、図10に示すようなアルミ押出し材から形成される。まず、アルミ系金属材料を金型から押し出し、図10に示すように、ロータ40と各ベーン41〜43の外周形状を有する連続体へと押出し成形する(これを一次加工品Q1という)。そして、図11に示すように、一次加工品Q1を一定の軸方向間隔で径方向に切断することで、複数の部材とする(これらの部材を二次加工品Q2という)。そして、二次加工品Q2に対して切削加工を施し、ボス部401や嵌合穴402等を設けることで、図9に示すような最終的な形状とする(これを三次加工品Q3という)。その後、三次加工品Q3の外周面全体に陽極酸化処理を施して表面を高硬度化することで完成品とする。
ベーンロータ4は、プーリ100(ハウジングHSG)に対して相対回転自在な従動回転体(従動部材)であり、カムシャフト3aと一体になって図4の時計回り方向に回転するベーン部材である。ベーンロータ4は、回転軸部であるロータ40と、3枚の羽根である第1〜第3ベーン41,42,43とを有している。
ロータ40は、3本のカムボルト31〜33によって、カムシャフト3aと同軸に、カムシャフト3aのX軸正方向側の端部30(挿通部301)に固定されている。ロータ40は、ロータ本体400とボス部401とを同軸に有している。ロータ本体400は、ハウジングの第1〜第3シュー11〜13にそれぞれ設置されたシール部材118,128,138に摺動しつつ回転支持されている。
ボス部401は、ロータ本体400からX軸負方向に向かって突出するように形成されている。ボス部401は、リアプレート9の支持孔92に挿通され、支持孔92に対して僅かな隙間を介して設置される。ボス部401の外径(外周面の直径)はロータ本体400の外径よりも若干小さい。ボス部401のX軸方向長さL3は、封止凹部101のX軸方向長さL2よりも若干短い。ロータ本体400のX軸方向長さは、封止凹部101を除いたハウジング本体10のX軸方向長さL1と略等しい。
ボス部401及びロータ本体400の内周には、カムシャフト3aと略同径の嵌合穴402が、X軸負方向側からX軸正方向に向かって、ロータ本体400の2/3弱の深さまで、ロータ40と略同軸に穿設されている。ロータ本体400には、ロータ本体400の直径よりも若干小径の凹部403が、X軸正方向側からX軸負方向に向かって、ロータ本体400の約13%の深さまで、ロータ40と略同軸に穿設されている。
また、ロータ本体400には、カムボルト31〜33がそれぞれ挿通するボルト穴404〜406がX軸方向に穿設されており、凹部403と嵌合穴402とを連通している。ボルト穴404〜406は、ロータ40の回転軸Oの周りに略等間隔に設けられている。また、ロータ本体400には、回転軸O上に、嵌合穴402と凹部403とを連通する小径の空気抜き孔407が貫通形成されている。
ロータ本体400の外周面には、周方向で略等間隔に、第1〜第3ベーン41〜43が、外径方向(回転軸Oから離れる外側方向)に向かって突出するように放射状に設けられている。第1、第2、第3ベーン41、42、43は、この順番で、図4の時計回り方向に並んで設けられている。各ベーン41〜43はロータ40(ロータ本体400)と一体に成形されており、各ベーン41〜43のX軸に対して垂直方向の断面形状は、外径方向に向かうにつれて周方向幅が広くなる略台形状に形成されている。
各ベーン41〜43のX軸方向長さはロータ本体400のX軸方向長さL1と同じに設けられている。ベーンロータ4がハウジングHSG内に設置された状態で、各ベーン41〜43のX軸正方向側の面は、フロントプレート8のX軸負方向側の面に対して極僅かな隙間を介して対向している。また、各ベーン41〜43のX軸負方向側の面は、リアプレート9のX軸正方向側の面に対して極僅かな隙間を介して対向している。
ベーンロータ4の周方向における第2、第3ベーン42、43の幅は、略同じ大きさに設けられている。第1ベーン41の周方向幅は、第2、第3ベーン42、43よりも広く形成され、各ベーン41〜43のなかでも最大幅となっており、後述するロック機構5を収容可能としている。
各ベーン41〜43の重心は、ベーンロータ4の周方向で互いに略等間隔位置に設けられている。ただし、第1ベーン41は幅広でありロック機構5が設けられている分だけ他のベーン42、43よりも若干重い。このため、第1ベーン41と第2ベーン42の間の隙間、及び第3ベーン43と第1ベーン41の間の隙間は、第2ベーン42と第3ベーン43の間の隙間よりも若干広く設けられており、これによりベーンロータ4の重心を全体として回転軸O上に近づけている。
ベーンロータ4がハウジングHSG内に設置された状態で、第1ベーン41は第1シュー11と第2シュー12の間、第2ベーン42は第2シュー12と第3シュー13の間、第3ベーン43は第3シュー13と第1シュー11の間の隙間に、それぞれ配置されている。
各ベーン41〜43のロータ外径側(回転軸Oから離れる側)の外周面411,421,431は、X軸方向から見て、ハウジング本体10の内周面に沿って円弧状に形成されている。第1ベーン41の外周面411には、溝412がX軸方向に沿って形成されている。溝412の内部には、ハウジング本体10の上記内周面に液密に摺接するシール部材413と、シール部材413を上記内周面に向けて押圧するシールスプリング(板バネ414)とが嵌着保持されている。同様に、第2、第3ベーン42、43の外周面421,431にも、それぞれシール部材423,433及び板ばね424,434が設けられている(図2参照)。
X軸正方向側から見て、第1ベーン41の反時計回り方向側には、平面部415が形成されている。平面部415は、X軸方向から見て、ロータの回転軸Oを通る径方向直線と略一致した直線状である。また、平面部415よりもロータ径方向内側の根元部分には、切り欠き部416が設けられている。切り欠き部416の形状は、X軸方向から見て、内側に凸の(窪んだ)、所定の曲率を有する円弧状である。第2、第3ベーン42、43においても、同様に、平面部425,435と切り欠き部426,436がそれぞれ設けられている。
X軸正方向側から見て、第1ベーン41の反時計回り方向側には、平面部415よりもロータ径方向外側の先端部分に、切り欠き部417が設けられている。切り欠き部417の形状は、X軸方向から見て、外側に凸の、第1シュー11の肉盛り部112よりも若干大きい(後述する凹部900と略等しい)曲率を有する円弧状である。切り欠き部417は、第1ベーン41の平面部415が第1シュー11の平面部111と面同士で接触することを可能にすると共に、第1ベーン41の重量を少なくすることに役立っている。
一方、X軸正方向側から見て、第1〜第3ベーン41〜43の時計回り方向側には、X軸方向全範囲にわたる幅広の溝である凹部418,428,438が、それぞれ形成されている。
また、X軸正方向側から見て、第1ベーン41の時計回り方向側には、(ロータ40に連続する)根元部分から所定の周方向長さにわたり、ロータ40(ロータ本体400)の外周に沿って時計回り方向に延びる凸部が設けられている。凸部は、第1ベーン41の根元部分に連続して、ロータ40(ロータ本体400)の外周から第1ベーン41の先端の間で、ロータ40(ロータ本体400)から外周側に突出させた部分であり、この凸部により、ストッパ部419が構成されている。同様に、第2ベーン42の根元部分の時計回り方向側には、ストッパ部429が構成されている。
ロータ本体400には、嵌合穴402とロータ40(ロータ本体400)の外周面とを連通する遅角油路408と進角油路409がそれぞれ3本設けられている。第1ベーン41についてみると、X軸に対して直角方向から見て第1ベーン41のX軸方向における略中間位置であり(図9(b)参照)、かつX軸正方向から見て第1ベーン41の時計回り方向側の根元に(図4参照)、遅角油路408が、ロータ径方向に貫通形成されている。また、X軸に対して直角方向から見て第1ベーン41のX軸負方向側であり(図9(b)参照)、かつX軸正方向から見て第1ベーン41の反時計回り方向側の根元に(図4参照)、進角油路409がロータ径方向に貫通形成されている。他のベーン42、43の根元にも同様に、進角油路408と遅角油路409がそれぞれ貫通形成されている。
ベーンロータ4は、ハウジング1との間で、流体(作動油)が給排される進角室Aと遅角室Rを形成している。すなわち、X軸方向から見て、隣り合うシューとロータ40(ロータ本体400)の外周面との間で3つの油室が隔成されており、これらの油室はそれぞれベーン41等によって進角室A及び遅角室Rに隔成されている。進角室A及び遅角室Rは、シール部材113等によりそれぞれ液密状態に保たれている。これらの油室A,RにオイルポンプPから供給される作動油を導入し、作動油を介してベーンロータ4とハウジングHSGとの間の回転伝達を行う。
具体的には、フロントプレート8のX軸負方向側の面と、リアプレート9のX軸正方向側の面と、各ベーン41〜43の周方向での両側面と、各シュー11〜13の周方向での両側面との間で、3組の油圧作動室、すなわち3つの進角室A1,A2,A3と3つの遅角室R1,R2,R3が隔成されている。例えば、図4に示すように、第1シュー11の時計回り方向側の面と第1ベーン41の反時計回り方向側の面との間に第1進角室A1が隔成されている。また、第1ベーン41の時計回り方向側の面と第2シュー12の反時計回り方向側の面との間に第1遅角室R1が隔成されている。
同様に、第2シュー12と第2ベーン42との間に第2進角室A2、第2ベーン42と第3シュー13との間に第2遅角室R2、第3シュー13と第3ベーン43との間に第3進角室A3、第3ベーン43と第1シュー11との間に第3遅角室R3が、それぞれ隔成されている。
ベーンロータ4がハウジングHSGに対して反時計回り方向に所定角度以上相対回転しようとすると、図4に示すように、第1シュー11の時計回り方向側面に設けられた平面部111と、第1ベーン41の反時計回り方向側面に設けられた平面部415とが、面同士で接触し、当接する。このとき、第2シュー12と第2ベーン42の平面部121,425は若干の隙間を介して対向しており、第2シュー12と第2ベーン42の周方向側面は互いに接触しない(非当接状態を維持する)。同様に、第3シュー13と第3ベーン43の平面部131,435も若干の隙間を介して対向しており、互いに接触しない。
すなわち、ベーンロータ4のハウジングHSGに対する反時計回り方向の回転は、第1シュー11の平面部111と第1ベーン41の平面部415とが当接することで規制される。このように、第1シュー11と第1ベーン41の周方向側面である平面部111,415により、ベーンロータ4の反時計回り方向(遅角方向)の相対回転を規制する第1ストッパ部が構成されている。
図4の相対回転規制位置において、第1ベーン41の根元部分に設けられたストッパ部419の時計回り方向側の端面と、第2シュー12のハウジング内径方向先端部126における反時計回り方向側の端面とが回転軸Oに対してなす角αは、第2ベーン42の根元部分に設けられたストッパ部429の時計回り方向側の端面と、第3シュー13のハウジング内径方向先端部136の反時計回り方向側の端面とが回転軸Oに対してなす角βよりも、僅かに小さい。
よって、図4の位置からベーンロータ4がハウジングHSGに対して時計回り方向に角αだけ相対回転すると、図5に示すように、第2シュー12の先端部126と第1ベーン41のストッパ部419とが、面同士で接触し、当接する。このとき、第3シュー13の先端部136と第2ベーン42のストッパ部429とは周方向で僅かな隙間を介して対向しており、第3シュー13と第2ベーン42(ストッパ部429)は互いに接触しない(非当接状態を維持する)。また、第1シュー11と第3ベーン43も所定の隙間を介して対向しており、互いに接触しない。
すなわち、ベーンロータ4のハウジングHSGに対する時計回り方向の回転は、第2シュー12の先端部126と第1ベーン11のストッパ部419とが当接することで規制される。このように、ロータ40から外周側に突出させた部分であるストッパ部419の時計回り方向側面と第2シュー12(の先端部126)の反時計回り方向側面とにより、ベーンロータ4の時計回り方向(進角方向)の相対回転を規制する第2ストッパ部が構成されている。第1、第2ストッパ部により、ベーンロータ4のハウジングHSGに対する相対回転変換角度を調整している。
この第2シュー12の先端部126と第1ベーン11のストッパ部419との当接面積(第2ストッパ部の当接面積S2)は、上記反時計回り方向における第1シュー11の平面部111と第1ベーン41の平面部415との当接面積(第1ストッパ部の当接面積S1)よりも小さく設けられている(S1>S2)。
なお、ベーンロータ4がハウジングHSGに対して相対回転する全角度範囲にわたって、遅角室Rないし進角室Aの容積がゼロになることは防止されており、また、遅角油路408ないし進角油路409の遅角室Rないし進角室Aへの開口は確保されている。例えば、図4において、第1シュー11の切り欠き部113と第1ベーン41の切り欠き部416との間で形成される空間により第1進角室A1の容積及び進角油路409の開口が確保されている。同様に、第2、第3シュー12、13の平面部121,131と第2、第3ベーン42,43の切り欠き部426,436及び平面部425,435との間で形成される空間(上記隙間)により第2、第3進角室A2,A3の容積及び進角油路409,409の開口が確保されている。
フロントプレート8は、鉄系金属材料(鉄合金)を鍛造することによって成形されており、後述するリアプレート9よりも薄肉な円板(円盤)状に形成されている。フロントプレート8は、ハウジング本体10のカムシャフト軸方向先端側、すなわちハウジング本体10における進角室Aと遅角室RのX軸正方向側の端を封止する。
図3に示すように、フロントプレート8の直径は、プーリ100の直径(最大径)よりも若干大きく設けられており、フロントプレート8の外周部80は、プーリ100よりも外径方向側に突出している。
図2に示すように、フロントプレート8のX軸正方向側の面の略中央には、(装置1の組み付け時に)カムボルト31〜33が挿通する大径孔81がX軸方向に貫通形成されるとともに、大径孔81を取り囲んでX軸正方向に突出する円筒状の雌ねじ部82が形成されている。雌ねじ部82(大径孔81)の内周面には、後述するプラグ7の雄ねじ700が螺着する雌ねじ820が形成されている。雌ねじ部82のX軸正方向側の環状の端面にはシールリングS4を設置するための環状の溝821が形成されている。
フロントプレート8において、雌ねじ部82と外周部80の間には、周方向で略等間隔に、ボルトb1〜b3がそれぞれ挿通する3つのボルト孔83,84,85がX軸方向に貫通形成されている。これらのボルト孔83〜85は、ハウジング本体10の各シュー11〜13のボルト孔110〜130とX軸方向で対向するそれぞれの箇所に設けられている。
なお、フロントプレート8におけるボルト孔83〜85の周囲には、ボルトb1〜b3の軸力に対する強度を高めるために、他の部位よりもX軸方向で若干肉厚の肉厚部86,87,88が、それぞれ形成されている。肉厚部86〜88はそれぞれ内径方向に向かって広がりつつ雌ねじ部82に連続している。言い換えると、フロントプレート8は、ボルトb1〜b3に対する強度を確保するための肉厚部86〜88を除いて、肉抜きされ、X軸方向にできるだけ薄くなるように形成されている。
図12は、フロントプレート8をX軸負方向側から見た斜視図である。X軸負方向側の面には、シールリングS3が挿入設置される1本の環状の溝89が形成されている。溝89は、フロントプレート8の外周縁から若干の径方向距離rを介して外周部80の内周側に沿うと共に、ボルト孔83〜85を迂回して、ボルト孔83〜85の内周側(回転軸Oの側)を通るように設けられており、全体として、周方向の3箇所で内側に向かって凹んだ三つ葉のクローバーの様な形状となっている。
プラグ7は、有底円筒形状の蓋部材であり、鉄系金属材料を鍛造することによって成形されている。プラグ7は、X軸方向に延びる円筒状の雄ねじ部70と、雄ねじ部70の開口を閉塞する隔壁部71と、雄ねじ部70のX軸正方向側の端から外周側に広がるフランジ部72とを有している。雄ねじ部70の外周には雄ねじ700が形成されている。また、隔壁部71の中央には、正六角柱状のボルト頭部710が一体に設けられており、このボルト頭部710を用いてプラグ7がフロントプレート8にねじ込まれ、フロントプレート8の雌ねじ820にプラグ7の雄ねじ700が螺着することで、フロントプレート8の大径孔81が封止される。
リアプレート9は、ハウジング本体10の封止凹部101に挿入固定されて、ハウジング本体10の軸方向カムシャフト側、すなわちハウジング本体10における進角室Aと遅角室RのX軸負方向側の端を封止する。リアプレート9は、S45CやS48等の鉄系金属材料を鍛造することによって成形されており、円盤状のプレート本体90と軸受部91とを有している。
軸受部91は、プレート本体90のX軸負方向側に設けられた円筒状の延在部であり、プレート本体90の略中央からX軸負方向に突出して、回転軸Oと略同軸に形成されている。軸受部91の内周には、カムシャフト3aが挿通される孔である支持孔92が設けられている。支持孔92は、リアプレート9をX軸方向に貫通して形成されている。支持孔92の直径は、フロントプレート8の大径孔81よりも僅かに小さい。
支持孔92にはベーンロータ4のボス部401が挿通される。ボス部401は支持孔92に対して僅かな隙間を介して設置されている。ボス部401が支持孔92に挿通されることで、ベーンロータ4がリアプレート9に位置決めされる。リアプレート9(軸受部91)はベーンロータ4(ボス部401)を回転自在に支持する。
軸受部91のX軸負方向側の外周面にはオイルシールが設置されており、軸受部91はオイルシールを介して機関のシリンダブロックに回転自在に支持されている。オイルシールは、カムシャフト3aの外周と軸受部91の内周との間の隙間CL(図3参照)を通って装置1aから漏れ出る作動油を、機関(シリンダブロック)の内部に導くために、シリンダブロックと軸受部91との間を液密に保つ。これにより、隙間CLを通って装置1aから漏れ出た作動油が、ベルトBや他の補機類に接触することを防止している。
なお、リアプレート9は鉄系金属材料から作られているため、軸受部91も鉄製であり硬度が高い。よって、軸受部91の外周面に(鉄製の)オイルシールが摺動することによることに起因する摩耗を防止でき、シリンダブロックと軸受部91との間をより確実にシールすることができる。
また、プラグ7、フロントプレート8、及びリアプレート9は、鉄系金属材料を鍛造することによって成形されているため、鉄系金属材料を例えば焼結により成形した場合と異なり、装置1aの作動油がこれらの部材の内部を通って滲みだし、漏出することが防止されている。
プレート本体90のX軸方向幅は、最大でも、封止凹部101の深さ(X軸方向長さL2)よりも僅かに大きな寸法に設けられている。プレート本体90の外周面93のX軸方向幅は、封止凹部101の深さ(X軸方向長さL2)と略同じ寸法に設けられている。プレート本体90の直径は、封止凹部101の直径(R×2)と略同じ大きさに設けられている。
プレート本体90には、軸受部91を取り囲んで周方向で略等間隔に、3つの雌ねじ部901,902,903が設けられている。雌ねじ部901〜903は、プレート本体90をX軸方向に貫通して形成されたボルト孔をそれぞれ有しており、ボルト孔の内周には雌ねじが形成されている。この雌ねじに、ボルトb1〜b3のX軸負方向側先端部の雄ねじがそれぞれ螺合される。これらの雌ねじ部901〜903(ボルト孔)は、ハウジング本体10の各シュー11〜13のボルト孔110〜130(及びフロントプレート8のボルト孔83〜85)とX軸方向で対向するそれぞれの箇所に設けられている。
図2に示すように、X軸正方向側から見て、プレート本体90には、(第1シュー11のボルト孔110と対向する)雌ねじ部901に時計回り方向で隣接して、有底の凹部900が、X軸負方向に向かってプレート本体90の内部の所定深さまで、設けられている。
プレート本体90のX軸正方向側の面の外周側であって凹部900と反時計回り方向で隣り合った位置には、有底のピン孔904が設けられている。具体的には、ピン孔904は、凹部900と雌ねじ部901との間であって、プレート径方向においてハウジング本体100の位置決め用凹部114(図6(c)参照)に対応する位置に形成されている。図13は、ピン孔904の軸心を通る部分断面図である。図13に示すように、ピン孔904は、X軸負方向側に向かってプレート本体90の所定深さまで袋状に形成されている。ピン孔904の内部には、位置決めピン905が圧入固定されている。
位置決めピン905はダウエルピンであり、その一端部は、プレート本体90のX軸正方向側の面からX軸正方向に向かって所定の高さまで突出している。上記一端部は、位置決め用凹部114よりも若干小径に設けられており、位置決め用凹部114の内部にX軸負方向側から係入(嵌合)する。位置決めピン905の上記一端部の径と位置決め用凹部114の径は、位置決めピン905が位置決め用凹部114に係入された状態で、ハウジング本体10とリアプレート9の周方向のガタが発生しない寸法にそれぞれ設定されている。
ピン孔904は、位置決めピン905が位置決め用凹部114に係入されたとき、ハウジング本体10(第1シュー11)のボルト孔110とリアプレート9の雌ねじ部901とが略同軸上に位置し、かつ、ベーンロータ4の第1ベーン41(平面部415)が第1シュー11(平面部111)に当接した状態(図4参照)で、第1ベーン41の後述する摺動用孔501とリアプレート9の凹部900とが略同軸上に位置するように、リアプレート9に配置されている。ピン孔904は、下記シール溝906,907よりも油室(第1遅角室R1)側に配置されており、位置決めピン905と凹部900は近接している。
プレート本体90の外周を取り囲む外周面93には、シールリングS1が挿入設置される1本の溝906が周方向に形成されている。また、プレート本体90のX軸正方向側の面には、各雌ねじ部901〜903を取り囲むように、シールリングS2が挿入設置される環状の溝907,908,909がそれぞれ形成されている。
(ハウジング本体とプレートとのシール構造)
フロントプレート8、ハウジング本体10、及びリアプレート9は、ボルトb1〜b3によってX軸方向から共締めにより一体的に結合される。ボルトb1〜b3は、それぞれX軸正方向側からフロントプレート8のボルト孔83〜85及びハウジング本体10のボルト孔110〜130に挿通されて、リアプレート9の901〜903に螺着されることで、ハウジング本体10にフロントプレート8及びリアプレート9を締結固定する。その際、ハウジング本体10とリアプレート9との間、及びフロントプレート8とハウジング本体10との間に、それぞれシールリングS1〜S3が介在して設置される。また、プラグ7とフロントプレート8との間には、シールリングS4が介在して設置される。これらのシールリングS1〜S4により、ハウジングHSG内の液密性を保っている。シールリングS1〜S4は、アクリル系ないしフッ素系のゴムにより作られている。
シールリングS1は、ハウジング本体10の封止凹部101の壁面103と、リアプレート9(プレート本体90)の外周面93との間に配設される環状のシール部材(断面円形のOリング)である。リアプレート9の溝906にシールリングS1が設置された状態で、封止凹部101の壁面103がシールリングS1に押し付けられることでシールリングS1が圧縮される。これによりシール機能が発揮され、リアプレート9とハウジング本体10との接合面からの作動油の漏出が防止される。
シールリングS2は、リアプレート9のX軸正方向側端面における各雌ねじ部901〜903の周囲と、ハウジング本体10(各シュー11〜13)のX軸負方向側端面との間にそれぞれ配設される環状のシール部材(断面円形のOリング)である。雌ねじ部901〜903の周りの各溝907〜909にシールリングS2が設置された状態で、ボルトb1〜b3の軸力によりハウジング本体10(各シュー11〜13)のX軸負方向側端面をシールリングS2に押し付けてシールリングS2を圧縮する。これによりシール機能が発揮され、リアプレート9とハウジング本体10との接合面(具体的には雌ねじ部901〜903のボルト孔)からの作動油の漏出が防止される。
シールリングS3は、フロントプレート8とハウジング本体10との対向部、すなわちフロントプレート8のX軸負方向側端面と、ハウジング本体10(各シュー11〜13)のX軸正方向側端面との間に配設される、環状のシール部材(断面円形のOリング)である。シールリングS3の全体形状は、フロントプレート8の溝89と略同じ三つ葉のクローバー様である。溝89にシールリングS3が設置された状態で、ボルトb1〜b3の軸力によりハウジング本体10(各シュー11〜13)のX軸正方向側端面をシールリングS3に押し付けてシールリングS3を圧縮する。これによりシール機能が発揮され、フロントプレート8とハウジング本体10との接合面からの作動油の漏出が防止される。
シールリングS4は、フロントプレート8の雌ねじ部82のX軸正方向側端面と、プラグ7のフランジ部72のX軸正方向側端面との間に設けられる環状のシール部材(断面円形のOリング)である。雌ねじ部82の溝821にシールリングS4が設置された状態で、プラグ7のフランジ部72のX軸正方向側端面がシールリングS4に押し付けられることでシール機能が発揮され、プラグ7とフロントプレート8との接合面からの作動油の漏出が防止される。
カムシャフト3aは鉄製であり、機関のシリンダヘッドの上端部内側に軸受けを介して回転自在に支持されている。カムシャフト3aの外周面には、吸気弁の位置に対応する位置に駆動カム(吸気カム)が設けられており、カムシャフト3aが回転すると吸気カムがバルブリフタないしロッカアーム等を介して吸気弁を開閉作動させる。
図3に示すように、カムシャフト3aのX軸正方向側の端部30には、ベーンロータ4の嵌合穴402に挿通されて嵌合穴402に嵌合する挿通部301が形成されている。また、上記のようにベーンロータ4には、嵌合穴402を取り囲むようにボス部401が形成されており、ボス部401は、リアプレート9の支持孔92に挿通されて設置される。よって、カムシャフト3aの挿通部301が嵌合穴402に嵌合してベーンロータ4に固定された状態では、カムシャフト3aの端部30は、リアプレート9の支持孔92を挿通している。言い換えると、ベーンロータ4は、支持孔92を介して、カムシャフト3aの端部30に固定されている。端部30を嵌合穴402に挿通する際には、予めボス部401が支持孔92に挿通されてリアプレート9(ハウジングHSG)に対してベーンロータ4(嵌合穴402)が位置決めされているため、挿通しやすくなっている。
カムシャフト3aのX軸正方向側には、回転軸O上に、空気抜き孔31が貫通形成されている。この空気抜き孔31は、機関の内部と連通している。また、端部30には、ベーンロータ4のボルト孔404〜406とX軸方向で対向する位置に、3つの雌ねじ部32が、カムシャフト3aの回転軸O(空気抜き孔31)の周りに略等間隔に形成されている。雌ねじ部32は、X軸正方向側から端部30の所定の深さまで形成された雌ねじ孔を有している。
挿通部301が嵌合穴402に嵌合した状態で、カムボルト31〜33がX軸正方向側からベーンロータ4のボルト孔404〜406にそれぞれ挿通されると共に、カムボルト31〜33の先端部が上記雌ねじ部32に挿通してそれぞれ螺着することで、カムシャフト3aの端部30がベーンロータ4と一体に締付固定される。このとき、ベーンロータ4の凹部403は、空気抜き孔407及び空気抜き孔31を介して、機関の内部と連通する。
なお、カムシャフト3aにベーンロータ4を固定する際、例えばカムボルトを1本のみ用いて締結した場合、カムシャフト3aに対してベーンロータ4の滑りが生じたり、カムボルトの軸力によりベーンロータ4に大きな面圧が作用し、アルミ材料から作られたベーンロータ4が変形したりしてしまうおそれがある。これに対し、本実施例1では、3本のカムボルト31〜33を用いて締結するため、上記滑りが生じるおそれがなく、また各カムボルトの軸力を小さくしてベーンロータ4に作用する面圧を小さくできるため、変形も抑制できる。
カムシャフト3aに固定される装置1aは、第1ストッパ部によって回転が規制された最遅角位置にて係合部材(ロックピストン51)でロックするように構成されている。ロックピストン51は、ベーンロータ4に設けられた係合部材であり、機関の状態に応じて回転軸方向であるX軸方向に進退・出没することで、ベーンロータ4とハウジングHSGとの相対回動をロックし、又はこのロック状態を解除するプランジャである。以下、具体的に説明する。
第1ベーン41とリアプレート9との間には、リアプレート9(ハウジングHSG)に対してベーンロータ4の回転を拘束し、該拘束を解除可能なロック機構5が設けられている。ロック機構5は、ロックピストン51と、ロック孔構成部材(スリーブ52)と、コイルスプリング53と、スプリングリテーナ54とを有している。図14は、図4のB-B視の部分断面であり、機関停止時(機関始動時)のロックピストン51の作動状態を示す。
第1ベーン41の内部には、摺動用孔501がX軸方向に貫通形成されている。摺動用孔501のX軸負方向側の内周には、中空円筒状の封止部材502が圧入されている。封止部材502は、S45C等の鉄合金(炭素鋼)をリング状に形成し、浸炭焼入れ処理することで作られる。摺動用孔501の内部には、ロックピストン51がX軸方向に摺動自在に設置されている。
ロックピストン51は、X軸負方向側に底部510を備えた有底円筒状(ピン状)の鉄製部材である。底部510に隣接してX軸負方向側には、底部510との間に段差を介して、略円錐台形状(軸方向断面が略台形のテーパ状)の先端部511が形成されている。底部510に隣接してX軸正方向側には、円筒状の摺動部512が形成されている。摺動部512に隣接してX軸正方向側の端には、円環状のフランジ部513が形成されている。
摺動部512の径は、封止部材502の内周面と略同径に設けられている。摺動部512のX軸負方向側は封止部材502内に収容され、封止部材502の内周に対してX軸方向に摺動する。なお、封止部材502は鉄製であり硬度が高いため、摺動部512が摺動することによることに起因する摩耗を防止できる。また、フランジ部513の外径は、摺動用孔501の内周面と略同径に設けられている。フランジ部513は摺動用孔501に収容され、摺動用孔501に対して摺動する。第1ベーン41の内部には、封止部材502のX軸正方向側の面とフランジ部513のX軸負方向側の面と摺動用孔501の内周面と摺動部512の外周面との間に、受圧室55が形成されている。
一方、リアプレート9には、X軸方向から見たとき、図4の(最遅角)位置でロックピストン51と略一致する箇所に、凹部900が形成されている。凹部900は、リアプレート9をX軸正方向側から見て、第1シュー11と第2シュー12により挟まれた油室において進角室A1側に偏った位置であって、第1シュー11の時計回り方向側に隣接して、リアプレート9を貫通しない有底状に設けられている。
凹部900には、リアプレート9とは別部材で構成された中空円筒状の係合凹部(ロック孔構成部材であるスリーブ52)が、圧入により嵌合されている。言い換えると、スリーブ52は、凹部900に係止されるようにリアプレート9に固定設置されている。スリーブ52の内周にはロック孔521が設けられている。スリーブ52の軸を通る平面で切った断面は略台形であり、ロック孔521は、X軸正方向側の開口部に向かって徐々に大径となる。凹部900の上記位置により、ロック孔521(スリーブ52)は、ロックピストン51が係合したとき、ハウジングHSGとベーンロータ4の相対変換角度が機関始動時に最適な変換角度となる遅角側の位置(最遅角位置)となるように設定されている。
摺動用孔501のX軸正方向側には、摺動用孔501の内周と略同じ外径を有する円環状のスプリングリテーナ54が設置されている。スプリングリテーナ54のX軸正方向側の面はフロントプレート8のX軸負方向側の面と当接し、スプリングリテーナ54のX軸負方向側の面はロックピストン51(フランジ部513)のX軸正方向側の面と当接している。
フロントプレート8のX軸負方向側の面とロックピストン51の底部510との間には、コイルスプリング53が弾装(押し縮められた状態で設置)されている。なお、フロントプレート8は鉄系金属材料から作られているため、硬度が高い。よって、フロントプレート8のX軸負方向側の面にコイルスプリング53が摺動することによることに起因する摩耗を防止できる。
コイルスプリング53は、ロックピストン51をX軸負方向側、すなわちリアプレート9(スリーブ52のロック孔521)の側へ常時付勢している。スプリングリテーナ54の内周にはコイルスプリング53のX軸正方向側が嵌合されており、これにより摺動用孔501における(ロックピストン51の径方向での)コイルスプリング53の位置ズレが規制されている。
ベーンロータ4が最遅角側に相対回転して第1ストッパ部により回転が規制されたとき、すなわち第1ベーン41(の平面部415)と第1シュー11(の平面部111)が当接して進角室A1の容積が最小となったときに、X軸方向から見て、ロックピストン51の位置とロック孔521の位置が略同軸に重なる。このとき、ロックピストン51がコイルスプリング53のばね力により押し付けられてX軸負方向へ移動・突出し、先端部511が第1ベーン41(摺動用孔501)から進出してロック孔521に嵌まり込む。これによりロックピストン51がロック孔521と係合し、リアプレート9とベーンロータ4との相対回転、すなわちハウジングHSGとカムシャフト3aとの相対回転が規制(ロック)される。
なお、上記のように先端部511は、略円錐台の形状を有し、ロック孔521に係合しやすい形状となっている。すなわち、先端部511とロック孔521は、ともにX軸負方向に向かって小径となるように設けられている。ロック孔521の内周面のX軸に対する傾きは、先端部511の外周面のX軸に対する傾きに略等しい。
また、図14に示すように、ロック孔521の軸心は、先端部511の軸心に対して、その周方向における位置が、図4の反時計回り方向(第1シュー11の側)に僅かにオフセットするように設けられている。よって、先端部511がX軸負方向に進出してロック孔521に嵌まり込む際、先端部511の時計回り方向側の面が、ロック孔521の反時計回り方向側の面に摺接するとともに、クサビ効果により、先端部511(ロックピストン51)が反時計回り方向の反力を受ける。これにより、ロックピストン51を収容する第1ベーン41が反時計回り方向の反力を受け、第1ベーン41が第1シュー11に押し付けられる。
また、第1ベーン41には、遅角室R1と受圧室550とを連通する連通孔56が形成されている。同じく第1ベーン41には、X軸負方向側の面に、進角室A1とロック孔521とを連通する連通溝57が形成されている。ロックピストン51は、連通孔56を介して遅角室R1から受圧室550内に供給される作動油圧(流体圧)により、フランジ部513においてX軸正方向側に油圧力を受ける。また、ロックピストン51は、連通溝57を介して進角室A1からロック孔521内に供給される作動油圧により、先端部511においてX軸正方向側に油圧力を受ける。
ロックピストン51は、上記油圧力のいずれかによって、コイルスプリング53のばね力に抗してX軸正方向側に移動し、先端部511がロック孔521から退出してリアプレート9の摺動用孔501に嵌まり込む。これにより、ロックピストン51とロック孔521との係合が解除されるようになっている。このように、連通孔56と連通溝57は解除用油圧回路として機能する。一方、係合用弾性部材であるコイルスプリング53は、ロック状態維持機構として機能する。連通孔56と連通溝57は、コイルスプリング53とともに、ロックピストン51の係脱機構を構成している。
なお、図9(a)に示すように、ベーンロータのX軸正方向側には、ロータ40の凹部403と第1ベーン41の摺動用孔501とを連通する矩形状の切欠き溝58が設けられている。切欠き溝58は、凹部403と略同じ深さであり、凹部403から外径方向に延び、凹部403とロックピストンのX軸正方向側とを連通するように形成されている。一方、凹部403は、空気抜き孔407,31を介して機関の内部に連通している(図3参照)。
よって、ロックピストン51のX軸正方向側(コイルスプリング53が設置されている側)における空気は、切欠き溝58、凹部403、及び空気抜き孔407,31を介して機関内部へと伝わる。これによりロックピストン51の背圧が開放されるため、ベーンロータ4の全ての相対回転範囲で、ロックピストン51の良好な作動(摺動用孔501における摺動)が確保される。
油圧給排機構2は、進角室A1〜A3又は遅角室R1〜R3へ作動油を供給し、排出することによって、ベーンロータ4をハウジングHSGに対して所定角度だけ正逆回転させる。すなわち、作動油の給排を調整して油室容積を変更することにより、ハウジングHSGに対してベーンロータ4が回転され、この状態で両者間の回転力伝達が行われることにより、クランクシャフトの回転に対するカムシャフト3aの回転の位相が変更される。油圧給排機構2は、図3に示すように、油圧供給源であるポンプPと、油圧回路と、油圧制御アクチュエータである流路切換弁24とを有している。
油圧回路は、2系統の通路、すなわち各遅角室R1〜R3に対して作動油を給排する遅角通路20、及び各進角室A1〜A3に対して作動油を給排する進角通路21を有している。両通路20,21には、供給通路22とドレン通路23が、流路切換弁24を介して接続されている。供給通路22には、オイルパン25内の油を流路切換弁24へ圧送するポンプPが設けられている。ポンプPは、機関のクランクシャフト上に設置されており、例えば一方向の可変容量ベーンポンプを用いることができる。ドレン通路23の下流端はオイルパン25に連通している。
進角通路21の一部は、カムシャフト3aに形成されている。すなわち、流路切換弁24からの進角通路21は、径方向油路210を介して、カムシャフト3a(端部30)の内部にX軸方向に形成された軸方向油路211に接続している。軸方向油路211は、径方向油路212を介して第2ポート213に接続している。第2ポート213は、カムシャフト3aのX軸正方向側の端の外周を取り囲んで環状に形成された溝である。同様に、遅角通路20の一部は、カムシャフト3aに形成されている。流路切換弁24からの遅角通路20は、軸方向油路及び径方向油路214を介して第1ポート215に接続している。
第1ポート215とロータ40内の各遅角通路408とは、X軸方向位置が略一致しており、各遅角通路408は、ロータ40の内径側では第1ポート215に連通し、外径側ではそれぞれ遅角室R1〜R3に連通している。同様に、第2ポート213とロータ40内の各進角通路409とは、X軸方向位置が略一致しており、各進角通路409は、ロータ40の内径側では第2ポート213に連通し、外径側ではそれぞれ進角室A1〜A3に連通している。
流路切換弁24は直動式のソレノイド弁(4ポート3位置の方向制御弁)であり、進角室A1〜A3又は遅角室R1〜R3へ給排される作動油圧を制御する。流路切換弁24は、シリンダヘッドに固定されたバルブボディと、バルブボディに固定されたソレノイドSOLと、バルブボディの内部に摺動自在に設けられたスプール弁体とを有している。バルブボディには、供給通路22と連通する供給ポート240、遅角通路20と連通する第1ポート241、進角通路21と連通する第2ポート242、及びドレン通路23と連通するドレンポート243が形成されている。
ソレノイドSOLは、電磁コイルへの通電によってスプール弁体を押圧移動させる。電磁コイルは、ハーネスを介してコントローラCUに接続されている。スプール弁体が移動するのに応じて、第1ポート241や第2ポート242が開閉される。
ソレノイドSOLの非通電状態で、スプール弁体は、リターンスプリングRSのばね力によって、供給ポート240(供給通路22)と第2ポート242(進角通路21)とを連通し、かつ第1ポート241(遅角通路20)とドレンポート243(ドレン通路23)とを連通する位置に付勢されている。一方、ソレノイドSOLが通電された状態で、スプール弁体は、コントローラCUからの制御電流によって、リターンスプリングRSのばね力に抗して、供給ポート240(供給通路22)と第1ポート241(遅角通路20)とを連通し、かつ第2ポート242(進角通路21)とドレンポート243(ドレン通路23)とを連通する位置、または所定の中間位置に移動制御されるようになっている。
コントローラCUは電子制御ユニットであり、機関回転数を検出するクランク角センサや吸入空気量を検出するエアフローメータ、スロットルバルブ開度センサ、機関の水温を検出する水温センサ等の各種センサ類からの信号によって、現在の機関運転状態を検出する。また、コントローラCUは、検出された機関運転状態に応じて流路切換弁24のソレノイドSOLにパルス制御電流を通電し、又は通電を遮断して、流路の切り替え制御を行うことで、進角室A1〜A3又は遅角室R1〜R3へ作動油を選択的に給排する。
(排気側の装置の構成)
次に、機関の排気側に適用された装置1bの構成を図15〜図19に基づき説明する。吸気側の装置1aと重複する構成については同一の符号を付して説明を省略し、装置1aと異なる部分についてのみ説明する。図15は図3と同様、装置1bのカムシャフト回転軸Oを通る部分断面であり、図16のG−O−G断面(一点鎖線)を示す。図16及び図17は、図4及び図5と同様、フロントプレート8等を取り外した状態の装置1bをX軸正方向側から見た正面図である。
装置1bは、油圧給排機構2から供給される作動油圧を用いてクランクシャフトに対する排気カムシャフト3b(以下、カムシャフト3bという。)の回転位相を連続的に変化させることで、排気弁のバルブタイミングを可変制御する。プーリ100は、機関のクランクシャフトにより回転駆動され、ハウジング本体10と共に図16の時計回り方向(図1の矢印方向に相当する。)に回転する。
図15に示すように、装置1bのフロントプレート8は、装置1aとは異なり、外周部80が設けられておらず、フロントプレート8の直径が、プーリ100の直径(最大径)よりも小さく設けられている。フロントプレート8の外周縁は、図12に示すような径方向距離rよりも短い距離を介して、溝89に近接している。よって、図1に示すように、X軸方向から見ると、装置1bのプーリ100の外周は、フロントプレート8よりも外径方向側に突出している。言い換えると、装置1bの直径は、(フロントプレート8の外周部80がプーリ100の外径方向側に突出してはみ出している)装置1aの直径よりも、小さく設けられている。
装置1bのハウジング本体10は、X軸方向から見て、装置1aのハウジング本体とは表裏が反対の鏡像配置となっている。図18の(a)は装置1bのハウジング本体10をX軸正方向側から見た正面図であり、(b)は(a)のE−E視断面を示し、(c)はハウジング本体10をX軸負方向側から見た正面図である。図7、図8は、ハウジング本体10の製造過程における中間状態を示す。
装置1bのハウジング本体10は、装置1aと同様、図7に示すアルミ押出し材(一次加工品P1)から形成される。一次加工品P1から二次加工品P2を経て図8に示す三次加工品P3を得る。そして、三次加工品P3に対して切削加工を施し、封止凹部101やボルト孔110等を設けることで、図18に示す最終的な形状を有するハウジング本体10とする。装置1aでは、三次加工品P3に対して、図8のAの側から封止凹部101及び位置決め用凹部114を穿設する(図6参照)のに対し、装置1bでは、図8のBの側から封止凹部101及び位置決め用凹部114を穿設する(図18参照)。
同様に、装置1bのベーンロータ4は、X軸方向から見て、装置1aのベーンロータ4とは表裏が反対の鏡像配置となっている。図19の(a)は装置1bのベーンロータ4をX軸正方向側から見た正面図であり、(b)は(a)のF−F視断面を示す。図10、図11は、ベーンロータ4の製造過程における中間状態を示す。
装置1bのベーンロータ4は、装置1aと同様、図10に示すアルミ押出し材(一次加工品Q1)から形成される。一次加工品Q1から得た二次加工品Q2に対して切削加工を施し、ボス部401や嵌合穴402等を設けることで、図19に示すような最終的な形状の三次加工品Q3とする。装置1aでは、二次加工品Q2に対して、図11のAの側にボス部401を設け、Aの側から嵌合穴402を穿設する(図6参照)のに対し、装置1bでは、図11のBの側にボス部401を設け、Bの側から嵌合穴402を穿設する(図18参照)。その後、三次加工品Q3の外周面全体に陽極酸化処理を施して完成品とする。
このように、装置1aと装置1bのハウジング本体10及びベーンロータ4は、切削加工を行う前に成形される同一の母材P3,Q2を、それぞれ鏡像配置して用いている。よって、図16及び図4に示すように、X軸正方向から見たとき、装置1bのハウジング本体10とベーンロータ4の形状及び相互の位置は、装置1aに対して鏡像関係(鏡に映したときに一致する関係)にある。
第1、第2、第3シュー11,12,13は、この順番で、図16の反時計回り方向に並んでいる。X軸正方向側から見て、第1〜第3シュー11〜13の時計回り方向側にはそれぞれ凹部115,125,135が形成されている。また、第1〜第3シュー11〜13の反時計回り方向側には、それぞれ平面部111,121,131が形成されている。
第1、第2、第3ベーン41,42,43は、この順番で、図16の反時計回り方向に並んで設けられている。X軸正方向側から見て、第1〜第3ベーン43の時計回り方向側には、それぞれ平面部415〜435が形成されている。第1〜第3ベーン41〜43の反時計回り方向側には、それぞれ凹部418〜438が形成されている。また、第1、第2ベーン41,42の反時計回り方向側の根元には、それぞれストッパ部419,429が設けられている。
ベーンロータ4がハウジングHSG内に設置された状態で、第1ベーン41は第1シュー11と第2シュー12の間、第2ベーン42は第2シュー12と第3シュー13の間、第3ベーン43は第3シュー13と第1シュー11の間の隙間に、それぞれ配置されている。
ロータ本体400には、各ベーン41〜43のX軸方向における略中間位置であって(図19(b)参照)、かつX軸正方向から見て各ベーン41〜43の時計回り方向側の根元に(図16参照)、遅角油路408が設けられている。また、各ベーン41〜43のX軸負方向側であって(図19(b)参照)、かつX軸正方向から見て各ベーン41〜43の反時計回り方向側の根元に(図16参照)、進角油路409が設けられている。
第2シュー12の時計回り方向側の面と第1ベーン41の反時計回り方向側の面との間に第1進角室A1が隔成されている。また、第1ベーン41の時計回り方向側の面と第1シュー11の反時計回り方向側の面との間に第1遅角室R1が隔成されている。同様に、第1シュー11と第3ベーン43との間に第2進角室A2、第3ベーン43と第3シュー13との間に第2遅角室R2、第3シュー13と第2ベーン42との間に第3進角室A3、第2ベーン42と第2シュー12との間に第3遅角室R3が、それぞれ隔成されている。
ベーンロータ4のハウジングHSGに対する時計回り方向の回転は、第1シュー11の平面部111と第1ベーン41の平面部415とが、(装置1aと同様、ロックピストン51がロックされる位置で)当接することで規制される(図16)。すなわち、これら平面部111,415は、ベーンロータ4の時計回り方向(進角方向)の相対回転を規制する第1ストッパ部として機能する。
一方、ベーンロータ4のハウジングHSGに対する反時計回り方向の回転は、第2シュー12の先端部126と第1ベーン11のストッパ部419とが、(装置1aと同様、ロックピストン51がロックされる位置とは周方向において反対側の位置で)当接することで規制される(図17)。すなわち、ストッパ部419の反時計回り方向側面と第2シュー12(の先端部126)の時計回り方向側面は、ベーンロータ4の反時計回り方向(遅角方向)の相対回転を規制する第2ストッパ部として機能する。装置1aと同様、第2ストッパ部の当接面積S2は、第1ストッパ部の当接面積S1よりも小さく設けられている(S1>S2)。
カムシャフト3bは、機関のシリンダヘッドの上端部外側に回転自在に支持されている。カムシャフト3bの外周面には、排気弁の位置に対応する位置に駆動カム(排気カム)が設けられており、カムシャフト3bが回転すると排気カムが排気弁を開閉作動させる。カムシャフト3bに固定される装置1bは、第1ストッパ部によって回転が規制された最進角位置にて係合部材(ロックピストン51)でロックするように構成されている。
装置1bには、ベーンロータ4をハウジングHSGに対して進角させる方向に付勢する付勢部材6が配置されている。付勢部材6は3つのスプリングユニット、すなわち第1〜第3スプリングユニット61〜63を有している。これらのスプリングユニット61〜63は、進角室A1〜A3にそれぞれ設けられており、ハウジング本体10(シュー)に対してベーンロータ4(ベーン)を時計回り方向に付勢している。
すなわち、第1スプリングユニット61は第2シュー12と第1ベーン41との間(第1進角室A1)に、第2スプリングユニット62は第1シュー11と第3ベーン43との間(第2進角室A2)に、第3スプリングユニット63は第3シュー13と第2ベーン42との間(第3進角室A3)に、それぞれ収納されている。上記のように、第1〜第3ベーン41〜43の反時計回り方向側面と、それと対向する第1〜第3シュー11〜13の時計回り方向側面には、それぞれ凹部418〜438及び凹部115〜135が形成されており、これらの凹部418〜438,115〜135に、第1〜第3スプリングユニット61〜63が配置されている。
第1スプリングユニット61は、1本のコイルスプリング610と、その両端に設けられた支持部材(スプリングリテーナ)である保持部611,612とを有している。保持部611は、貫通孔が設けられた板状部と、この貫通孔を取り囲んで形成され板状部の一側面から突出する中空の円筒部とを有している。円筒部の外周にはコイルスプリング610の一端が嵌合されている。
保持部611の板状部は第2シュー12の凹部125にガタなく嵌合する矩形状に形成されており、凹部125に嵌合される。凹部125は、ハウジングHSG(第2シュー12)に対する保持部611のハウジング径方向移動を規制する。また、フロントプレート8及びリアプレート9は、板状部のX軸方向両端とそれぞれ当接することで、凹部125における保持部611のX軸方向移動を所定範囲内に規制する。
なお、第1進角室A1は、保持部611の上記貫通孔及び第1ベーン41の連通孔56を介して、ロック機構5の受圧室55(図14参照)と連通している。第1遅角室R1は第1ベーン41の連通溝57を介して、ロック機構5のロック孔521と連通している。
保持部612も保持部611と同様に設けられている。すなわち、保持部612の円筒部はコイルスプリング610の他端を保持するとともに、保持部612の板状部は第1ベーン41の凹部418に支持されており、ベーンロータ4(第1ベーン41)に対する保持部612(コイルスプリング610)の径方向及び軸方向における移動が規制されている。このように、コイルスプリング610の両端は、軸方向及び径方向の位置が規制されている。
組み付け時には、第1スプリングユニット61をX軸方向から第1進角室A1に挿入し、保持部631を凹部125に嵌合させるとともに、保持部612を凹部418に嵌合させる。これにより、第1進角室A1にはコイルスプリング610が押し縮められた状態で収納され、コイルスプリング610は、ハウジング本体10(第2シュー12)に対して第1ベーン41を時計回り方向に常時付勢する。
他の第2、第3スプリングユニット62,63についても同様である。第2スプリングユニット62はコイルスプリング620と保持部621,622を有し、第3スプリングユニット63はコイルスプリング630と保持部631,632を有している。コイルスプリング610〜630の付勢力は、略同一に設けられている。コイルスプリング610〜630の径は、それぞれ第1〜第3進角室A1〜A3のハウジング径方向における最大幅の約7割を占めている。
ベーンロータ4がハウジングHSGに対して反時計回り方向に回転すると、コイルスプリング610〜630が押し縮められる。ここで、コイルスプリング610(の時計回り方向側の部分)は、(第1ベーン41の)ストッパ部419の外周側に配置されている。また、ストッパ部419のロータ径方向高さは、設置されたコイルスプリング610の外周に対してストッパ部419の外周が近接しつつ相互間に若干の隙間を有するような高さに設けられている。
このため、コイルスプリング610が押し縮められて変形する際、ストッパ部419の外周面にコイルスプリング610の内周側が当接可能となっており、これによりコイルスプリング610のロータ内径方向への所定量以上の変形を規制可能である。すなわち、ストッパ部419が、コイルスプリング610のガイド機能を発揮する。(第2ベーン42の)ストッパ部429も、ストッパ部419と同様に設けられており、ベーンロータ4の相対回動時にコイルスプリング630が押し縮められる際、コイルスプリング630のガイドを兼ねる。
図17に示すように、第2シュー12の先端部126と第1ベーン11のストッパ部419とが当接することで上記反時計回り方向の回転が規制される際、第1〜第3スプリングユニット61〜63のそれぞれにおいて、ベーン側とシュー側の対向する各保持部611,612等が互いに当接しないのは勿論のこと、各コイルスプリング610〜630において巻き線同士が密着しない。言い換えると、第2ストッパ部により上記反時計回り方向の回転が規制される際、各進角室A1〜A3の周方向隙間は、各コイルスプリング610〜630の巻き線同士が完全に密着するときのバネ長よりも大きく設定されている。
油圧給排機構2の構成は、装置1aと同様である。流路切換弁24は装置1aと別に設けられているが、ポンプPやオイルパン25は装置1aと装置1bで共用している。
(装置の作用)
以下、装置1の作用を説明する。
(位相変換作用)
まず、装置1の位相変換作用を説明する。なお、下記制御内容は様々に変更可能である。
最初に、装置1aの位相変換作用について説明する。図4は機関停止時(機関始動時)の最遅角状態、図5は機関作動時の最進角状態をそれぞれ示す。
機関始動時は、予めロック機構5がベーンロータ4を始動に最適な遅角側の初期位置に拘束している(図4)。このため、イグニッションスイッチをオン操作して始動が開始されると、円滑なクランキングによって良好な始動性が得られる。
機関始動後の所定の低回転低負荷域では、コントローラCUからの制御電流が流路切換弁24に出力されない。スプール弁体は、リターンスプリングRSのばね力によって、供給ポート240と第2ポート242とを連通し、第1ポート241とドレンポート243とを連通する位置に留まる。よって、ポンプPから吐出された作動油圧は、供給通路22から供給ポート240を介してバルブボディ内に流入し、第2ポート242から進角通路21内に流入し、ここからベーンロータ4の各進角油路409を通って、各進角室A1〜A3に供給される。各進角室A1〜A3の内圧は、ポンプPの吐出圧が増大するに応じて上昇する。一方、各遅角室R1〜R3内の作動油は、遅角通路20及びドレン通路23を介してオイルパン25に排出され、各遅角室R1〜R3の内圧は低圧のままである。
進角室A1の内圧が上昇するに伴って、この油圧が連通溝57(図14参照)からロック孔521に供給され、ロックピストン51(先端部511)はX軸正方向側の油圧力を受ける。上記油圧力がコイルスプリング53のばね力よりも大きくなると、ロックピストン51がX軸正方向に移動する。先端部511がロック孔521から完全に抜け出すと、ロック状態が解除される。すなわち、ベーンロータ4の自由な回転が許容され、バルブタイミングの任意の変更が可能な状態となる。
各進角室A1〜A3に供給される油圧により、ベーンロータ4は、図4に示す位置から、ハウジングHSGの回転方向(図4の矢印方向)に、ハウジングHSGに対して回転し、クランクシャフトに対するカムシャフト3aの回転位相(相対回転角度)を進角側に変更させる。これにより、吸気弁と排気弁がともに開弁する期間であるバルブオーバーラップが大きくなる。この結果、吸気弁の開閉タイミングが進角側となり、かかる低回転低負荷時における慣性吸気の利用による燃焼効率が向上して機関回転の安定化と燃費の向上が図られる。図5に示すように、各進角室A1〜A3の容積が最大となり、各遅角室R1〜R4の容積が最小となる最進角側の位置にベーンロータ4が相対回転すると、バルブオーバーラップが最大となる。
一方、機関の運転状態が例えば高回転高負荷域に移行したときは、コントローラCUから制御電流が流路切換弁24に出力される。スプール弁体は、リターンスプリングRSのばね力に抗して、供給ポート240と第1ポート241とを連通し、第2ポート242とドレンポート243とを連通する位置に移動する。よって、ポンプPから吐出された作動油圧は、流路切換弁24の第1ポート241から遅角通路20内に流入し、ベーンロータ4の各遅角油路408を通って各遅角室R1〜R3に供給されるため、各遅角室R1〜R3の内圧は上昇する。一方、各進角室A1〜A3内の作動油は、進角通路21及びドレン通路23を介してオイルパン25に排出され、各進角室A1〜A3の内圧は低下する。
このとき、ロック機構5において、ロック孔521の油圧は低下するものの、今度は遅角室R1の油圧の上昇に伴い、この油圧が連通孔56(図14参照)から受圧室55に供給され、ロックピストン51のフランジ部513の受圧面に油圧力として作用する。これにより、ロックピストン51がコイルスプリング53のばね力に抗してロック孔521から抜け出した解除状態が維持される。
よって、各遅角室R1〜R3の内圧が各進角室A1〜A3の内圧よりも大きくなると、ベーンロータ4は、ハウジングHSGの回転方向(図4の矢印方向)とは反対側の反時計回り方向に、ハウジングHSGに対して回転し、クランクシャフトに対するカムシャフト3aの回転位相(相対回転角度)を遅角側に変更させる。これにより、クランクシャフトに対するカムシャフト3aの回転位相が遅角側へ変更され、バルブオーバーラップが小さくなる。この結果、吸気弁の開閉タイミングが遅角側に制御され、かかる高回転高負荷時における機関の出力を向上させることができる。図4に示すように、各遅角室R1〜R4の容積が最大となり、各進角室A1〜A3の容積が最小となる最遅角側の位置にベーンロータ4が相対回転すると、バルブオーバーラップが最小となる。
さらに、例えば、機関が中回転中負荷領域に移行した場合は、コントローラCUが流路切換弁24を制御してスプール弁体を中間移動位置に保持する。これによって、各遅角室R1〜R4及び各進角室A1〜A3の内圧がそれぞれ一定に保たれ、ベーンロータ4が中間回転位置に制御される。よって、中回転中負荷域における最適なバルブタイミング制御が可能になり、燃費と機関出力の両方を満足させることが可能になる。
機関作動時、カムシャフト3aの回転中、吸気弁を閉方向に付勢するバルブスプリングからカムシャフト3aのカムへ伝達される回転反力により、カムシャフト3aには、いわゆる交番トルクが発生する。すなわちカム形状に起因して、カムシャフト3aの(時計回り方向の)回転を妨げる(反時計回り方向の)負トルクと、カムシャフト3aの回転をアシストする(時計回り方向の)正トルクが、カムシャフト3aに交互に作用する。そして、交番トルクは、全体としてみると負トルク側へオフセットしている。すなわち、カムシャフト3aの回転周期ごとに発生する正トルク及び負トルクを時間的に積分すると負となり、カムシャフト3aには平均して負トルクが作用する。
機関が停止すると、ポンプPの作動が停止される。また、コントローラCUから流路切換弁24への通電が遮断される。よって、進角室A1〜A3と遅角室R1〜R3への作動油圧の供給が停止される。このため、機関停止直後には、カムシャフト3aに発生するフリクション(負トルク側にオフセットした交番トルク)によって、ベーンロータ4は、ハウジングHSGに対して、ハウジングHSGの回転方向(図4の矢印方向)とは反対方向、すなわち遅角側へ回転移動しようとする。
よって、機関の停止後、ベーンロータ4は、カムシャフト3aのフリクション(交番トルク)によって、予め機関(再)始動に適した所定の初期位置、すなわち図4に示す最遅角側の位置に移動する。言い換えると、バルブタイミングが機関(再)始動に適した位相となる。
また、ハウジングHSGに対してベーンロータ4が最遅角側に相対回転したとき、ロック機構5のロックピストン51の位置とロック孔521の位置が重なるため、機関停止時には、図14に示すように、コイルスプリング53のばね力により、先端部511がロック孔521内に嵌まり込んで係合し、ロックピストン51がベーンロータ4の自由な回転を規制する。
以上のように、装置1aでは、機関停止時に、交番トルクによりベーンロータ4をハウジングHSGに対して遅角側の初期位置に回転移動させる。よって、機関再始動時においても装置1aを初期位置から制御可能とし、装置1aを安定的に作動させることができる。
次に、装置1bの位相変換作用について説明する。装置1bの作動は、遅角側と進角側が入れ替わっている点を除き、装置1aと同様である。図16は機関停止時(機関始動時)の最進角状態、図17は機関作動時の最遅角状態をそれぞれ示す。
機関始動時は、予めロック機構5がベーンロータ4を始動に最適な進角側の初期位置に拘束している(図16)。このため、イグニッションスイッチをオン操作して始動が開始されると、円滑なクランキングによって良好な始動性が得られる。
機関始動後の所定の低回転低負荷域では、各遅角室R1〜R3に供給される油圧により、カムシャフト3aの回転位相が遅角側に変換され、バルブオーバーラップが大きくなる。図17に示すように、各遅角室R1〜R4の容積が最大となり、各進角室A1〜A3の容積が最小となる最遅角側の位置にベーンロータ4が相対回転すると、バルブオーバーラップが最大となる。
一方、機関の高回転高負荷域では、各進角室A1〜A3に油圧が供給され、各進角室A1〜A3の油圧による力とスプリングユニット61〜63の付勢力との和が各遅角室R1〜R4の油圧による力よりも大きくなると、ベーンロータ4は進角側に相対回転する。これにより、カムシャフト3bの回転位相(相対回転角度)が進角側に変更され、バルブオーバーラップが小さくなる。言い換えると、付勢部材6(第1〜第3スプリングユニット61〜63)は、位相変換を進角側にアシストする機能も有している。図16に示すように、各進角室A1〜A3の容積が最大となり、各遅角室R1〜R4の容積が最小となる最進角側の位置にベーンロータ4が相対回転すると、バルブオーバーラップが最小となる。
機関作動時、カムシャフト3bの回転中、カムシャフト3bには、(時計回り方向の)回転を妨げる負の(反時計回り方向の)交番トルクが作用する。機関が停止し、流路切換弁24への通電が遮断されると、上記交番トルクによって、ベーンロータ4は、ハウジングHSGに対して反時計回り方向、すなわち遅角側へ回転移動しようとする。
一方、付勢部材6(第1〜第3スプリングユニット61〜63)によって、ベーンロータ4は、ハウジングHSGに対して時計回り方向、すなわち進角側に付勢されている。よって、機関の停止後、ベーンロータ4は、上記交番トルクの影響を受けずに、付勢部材6の付勢力に従って、予め機関(再)始動に適した所定の初期位置、すなわち図16に示す最進角側の位置に移動する。言い換えると、バルブタイミングが機関(再)始動に適した位相となる。
また、ハウジングHSGに対してベーンロータ4が最進角側に相対回転したとき、ロックピストン51とロック孔521の位置が重なるため、機関停止時には、ロックピストン51がロック孔521に係合し、ベーンロータ4の回転を規制する。
以上のように、装置1bでは、機関停止時に、付勢部材6の付勢力により、交番トルクの影響を受けずにベーンロータ4をハウジングHSGに対して最進角側の初期位置に回転移動させる。よって、機関再始動時においても装置を初期位置から制御可能とし、装置1bを安定的に作動させることができる。
(ロック機構の作用)
上記のように、装置1a、1bの初期位置(図4、図16)においてロック機構5を作動させることでハウジングHSGとベーンロータ4との相対回動を規制可能である。すなわち、機関(再)始動時に油圧が発生しない状態であってもハウジングHSGとベーンロータ4とを保持状態とし、油圧の発生の有無に関わらず装置1a、1bを初期位置から制御することが可能である。よって、機関再始動時においてカムシャフト3a、3bに作用する交番トルクによって生じるベーンロータ4とハウジングHSGとの間のバタツキ(衝突による異音の発生)やノッキング等を防止しつつ、機関始動時やアイドル時においても機関ないし装置1a、1bを安定的に作動させることができる。
ロック手段(ロック機構5)は、第1ベーン41の内部に収納されるロックピストン51であって、軸方向に作動することによりハウジングHSGとベーンロータ4の相対回動を係止し、又は上記係止を解除する。すなわち、交番トルクないし付勢部材6の付勢力によってベーンロータ4が所定の初期位置に回動してきたときに自動的にロックピストン51がロック孔521に係合するため、ロック動作のためのアクチュエータを特に必要としない。よって、ロック手段としてクラッチ機構やレバー機構を用いた場合よりも機構が簡便であり、低コスト化しつつロック作動の信頼性を確保できる。
(位置決め手段の作用)
位置決めピン905等の位置決め手段の作用を説明するため、最初に装置1a、1bの組み付け手順の概略を説明する。
まず、リアプレート9をハウジング本体10の封止凹部101に挿入設置する。(スリーブ52を凹部900に固定した)リアプレート9のX軸正方向側の面を鉛直上方に向け、溝906にシールリングS1を設置し、各溝907〜909にシールリングS2を設置した状態で、ハウジング本体10を、X軸正方向側(鉛直上方)から、封止凹部101内にリアプレート9が嵌合するように、リアプレート9に組付ける。
その際、ハウジング本体10の位置決め用凹部114とリアプレート9の位置決めピン905とが対向するように、リアプレート9に対するハウジング本体10の回転位置を調整する。そして、位置決めピン905を位置決め用凹部114に嵌合させ、係入する。これにより、ハウジング本体10に対するリアプレート9の(周方向)位置決めが行われる。このとき、リアプレート9の雌ねじ部901〜903(ボルト孔)がそれぞれハウジング本体10のボルト孔110〜130と略同軸上となる。
次に、ハウジング本体10にベーンロータ4を挿入する。ロックピストン51をベーンロータ4の摺動用孔501(に圧入された封止部材502)に挿入し、コイルスプリング53をロックピストン51の内部に挿入し、スプリングリテーナ54を摺動用孔501に挿入する。位置決めピン905による上記位置決めにより、ベーンロータ4のベーン41がハウジング本体10のシュー11に当接した状態で、(リアプレート9に固定された)スリーブ52(ロック孔521)が摺動用孔501(ロックピストン51)と略同軸上となる。
そして、X軸正方向側(鉛直上方)からフロントプレート8をハウジング本体10に当接させ、ボルトb1〜b3により各部材を締結し、一体とする。なお、フロントプレート8は、シールリングS3を溝89に挿入した状態で組み付けられる。
このように位置決めピン905(ピン孔904)と位置決め用凹部114は、装置1a、1bの各構成部材を組み付ける際、ハウジング本体10に対するリアプレート9の回転位置、すなわちロックピストン51とロック孔521との周方向相対位置を調整し、決定するための位置決め手段を構成している。なお、ロックピストン51とロック孔521との径方向相対位置は、リアプレート9をハウジング本体10の封止凹部101に挿入(嵌合)した時点で略一致している。このように、位置決め手段を用いて、ロックピストン51とロック孔521とが正確に位置決めされるため、ロックピストン51の円滑な係合作用が得られる。
ここで、位置決めピン905は凹部900(ロック孔521)と近接した位置に設けられているため、ロックピストン51とロック孔521との位置決めをより正確に行うことができる。また、ピン孔904は、溝906,907よりも油室(第1遅角室R1)側に配置されているため、シールリングS1,S2のシール性能に影響を与えることもない。
また、ベーンロータ4は、リアプレート9の内周に設けられてカムシャフト3aが挿通される支持孔92を介して、カムシャフト3aの一端側(端部30)に固定されている。よって、プーリ100(ハウジングHSG)に掛けられたベルトBから作用する力により、ハウジングHSGは、ベーンロータ4の回転軸(X軸)に対して若干の角度範囲内で傾き、支持孔92が設けられた(リアプレート9の)軸受部91を支点として、揺動しうる。
これに対し、本実施例1では、リアプレート9にロック孔521を設けているため、例えばフロントプレート8にロック孔を設けた場合よりも、揺動支点(軸受部91)からロック孔521までの距離(モーメントアーム)が短い。よって、ロック孔521の(X軸直方向における)揺動変位が少なく、ロック孔521に対するロックピストン51の位置ずれのおそれが少ない。また、ベーンロータ4のボス部401が支持孔92に挿通されているため、ハウジングHSGに対するベーンロータ4の上記傾きないし揺動変位は、所定範囲内に抑制されている。
(付勢部材の作用)
装置1bの付勢部材6はコイルスプリングであって、各進角室A1〜A3に1本ずつコイルスプリング610〜630を収納している。このようにコイルスプリングを用いることで、例えば板ばね等を用いた場合に比べ、付勢力を調整しやすく、また油室A1〜A3に設置しやすく組付性がよい。また、各油室A1〜A3に1本ずつ収納することで、例えばコイルスプリングを2本ずつX軸方向に重ねて収納した場合に比べ、装置1bを軸方向に小型化できる。
また、2本のコイルスプリングを各油室A1〜A3に設置する場合、これらを支持部材(保持部)に設置して1つのスプリングユニットとした状態で設置しなければ組み付けが困難である。これに対し、本実施例1のように各油室A1〜A3に1本ずつ収納した場合には、組み付けが容易であるだけでなく、コイルスプリング610〜630を支持部材(保持部611,612等)と一体化せず直接に油室A1〜A3(凹部418,125等)に設置することも可能であり、この場合、支持部材を省略することで部品点数を削減できる。
第1〜第3ベーン41〜43の反時計回り方向側面に形成された凹部418〜438と、それと対向する第1〜第3シュー11〜13の時計回り方向側面に形成された凹部115〜135に、第1〜第3スプリングユニット61〜63(コイルスプリング610〜630)が配置されている。よって、装置1bの作動中であっても、凹部418〜438,115〜135によって第1〜第3スプリングユニット61〜63(コイルスプリング610〜630)の移動(ズレ)が規制されるため、特別な支持部材を設ける必要も特になく(例えば保持部611,612等を省略してもよい。)、付勢部材6及び装置1bの正常な作動が確保される。ただし、本実施例1のように保持部611,612等を設けた場合は、上記移動(ズレ)をより確実に防止できる。
(ストッパ部の作用)
上記のように、機関を停止させるとき等、流路制御弁24で制御しない状態では、ハウジングHSGに対してベーンロータ4を所定の初期位置に戻す。装置1aでは、交番トルクによりベーンロータ4をハウジングHSGに対して遅角側に回転移動させ、最遅角側の初期位置で、ハウジング部材(ハウジング本体10)とベーンロータ4とに設けられた第1ストッパ部により、相対回動を規制する。装置1bでは、付勢部材6の付勢力により、交番トルクに抗してベーンロータ4をハウジングHSGに対して進角側に回転移動させ、最進角側の初期位置で、ハウジング本体10とベーンロータ4とに設けられた第1ストッパ部により、相対回動を規制する。このように、初期位置でロック機構5によりロックするときに機能する第1ストッパ部は、当接する回数が多い。
また、流路制御弁24によって通常制御を行っている状態では、ハウジングHSGに対するベーンロータ4の動きをコントロールすることができるため、第1ストッパ部が強く当接することはほとんどない。しかし、機関を停止させるとき等、流路制御弁24による制御を行わず油圧を作用させない状態では、ハウジングHSGに対するベーンロータ4の動きをコントロールすることができないため、第1ストッパ部が強く当接してしまうことがある。よって、初期位置においてロックするときに機能する第1ストッパ部は、上記のような当接回数の多さや当接する力の強さにより、変形してしまい、これにより回転規制位置(初期位置)が変化してしまうおそれがある。
本実施例1の装置1a及び装置1bでは、第1ストッパ部の当接面積S1を、第2ストッパ部の当接面積S2よりも大きく設けている(S1>S2)。よって、ベーンロータ4をハウジングHSGに対して一方向(初期位置の側)に回転させたとき、第1ストッパ部が当接する際に当接面に発生する面圧(当接面圧)は、ベーンロータ4をハウジングHSGに対して他方向に回転させたとき、第2ストッパ部が当接する際に発生する当接面圧よりも小さい。
よって、機関を停止させるとき等、流路制御弁24で制御しない状態でも、ロック機構5でロックされる初期位置において、第1ストッパ部が(当接回数が多くても各当接時に)強く当接してしまうことを抑制できるため、第1ストッパ部の変形及び回転規制位置の変化を防止することができる。なお、第1ストッパ部は、ベーン41とシュー11の周方向側面(平面部416,111)で構成されているため、当接面積S1を大きくするのに有利である。
また、本実施例1では、第1ストッパ部を、ロック機構5を有する第1ベーン41について設け、第1ベーン41の周方向側面により第1ストッパ部を構成している。第1ベーン41(の根元部分)は周方向に厚いため、剛性は十分であり、相対回動を規制するための強度を十分に得ることができて有利である。
一般に排気側の装置において、油室内に付勢部材を配置した場合、この油室に設けたストッパ部の当接面積を十分に確保することが難しい。一方、付勢部材により付勢される側で当接する(上記ストッパ部とは反対の回転方向側の)ストッパ部は、付勢部材の付勢力により、当接する力が大きくなる。特に、アルミ合金のような柔らかい材料でハウジング部材やベーンロータを成形した場合には、問題が顕著に現れてしまう。これに対し、本実施例1の装置1bでは、遅角室R1に設けた(付勢部材6により付勢される側で当接する)第1ストッパ部の当接面積S1を、(付勢部材6が配置される)進角室A1に設けた第2ストッパ部の当接面積S2よりも大きくした(S1>S2)。これにより、第2ストッパ部と付勢部材6との干渉を回避しつつ、上記問題を解決することができる。
なお、第2ストッパ部の当接面積S2が小さくても、付勢部材6により付勢される方向とは反対側で当接する第2ストッパ部は、遅角室Rの油圧力のみが作用する(さらに、当接する方向とは逆方向に付勢部材6の付勢力が作用する)ため、当接する力が小さく、当接面圧が小さい。また、(装置1a及び装置1bの両方において、)第2ストッパ部は、流路制御弁24により制御した状態で、制御油圧のオーバーシュート等に際して、ハウジングHSGに対するベーンロータ4の相対回転角度を規制するのみであり、当接回数も少ない。このため、第2ストッパ部の変形により規制位置が変化してしまうおそれはない。
また、ベーン41〜43は外径方向に向かうにつれて周方向幅が広くなる略台形状に形成されており、その根元側(径方向内側)のほうが先端側(径方向外側)よりも周方向の剛性が低い。本実施例1では、第2ストッパ部(ストッパ部419)を、ベーン41の根元側に、ロータ40から外周側に突出させた部分により構成している。よって、ベーン41の先端側に第2ストッパ部を設けた場合と異なり、回転規制時(第2ストッパ部の当接時)にベーン41を(ロータ40に対して周方向に)根元から折り曲げようとする力(モーメントアーム)が小さく、ベーン41の根元部分に過大な力が作用しにくい。このため、第2ストッパ部をベーン41と連続して(ベーン41と一体に)設けた場合、ベーン41の耐久性を向上できて有利である。
また、装置1bでは、第2ストッパ部のストッパ機能により付勢部材6(コイルスプリング610〜630)の変位量(圧縮量)が所定量以下に規制される。これにより、付勢部材6(コイルスプリング610〜630)の塑性変形が防止され、その付勢力が不可逆的に変化することを防止できる。
なお、製造・組み付け時の誤差や第2ストッパ部の摩耗等が生じても、予備(バックアップ)として、第2ベーン42のストッパ部429と第3シュー13の先端部との接触により第2ストッパ部と同様のストッパ機能が確保されるので、制御精度を向上できる。これは装置1aでも同様であるが、特に装置1bでは、付勢部材6の塑性変形防止という上記効果をより確実に得ることができる。
また、コイルスプリング610,630は、(第1、第2ベーン41,42の)ストッパ部419,429の外周側に配置されており、第2ストッパ部(を構成するストッパ部419,429)が、付勢部材6(コイルスプリング610,630)のガイドを兼ねている。このため、ベーンロータ4の相対回動時にコイルスプリング610,630が押し縮められて変形する際、コイルスプリング610,630のロータ内径方向への所定量以上の変形が規制される。よって、コイルスプリング610,630の塑性変形を防止しつつ適切な弾性変形が保たれる。したがって、付勢部材6及び装置1bの正常な作動が確保される。
(鏡像配置による作用)
一般に、吸気側と排気側の両カムシャフトにそれぞれ装置を設けた場合、両装置の間で構成部材(ハウジング部材やベーンロータ)の素材を共用化し、材料の互換性を持たせることができれば、装置の製造工程を簡略化し、コストを低減できるため、有利である。本実施例1では、装置1aと装置1bは、流路切換弁24の通電、非通電によりベーンロータ4がカムシャフト3a、3bの回転位相を変換する方向が互いに違っている点を除き、それぞれの構成部材の基本構造が類似している。よって、装置1aと装置1bの間で、ハウジング本体10の素材(P3)とベーンロータ4の素材(Q2)を共用化している。すなわち、同一の押出し素材(P3、Q2)の反対側の面(A面、B面)からそれぞれ切削加工を実施することで、装置1aと装置1bのハウジング本体10及びベーンロータ4の形状を得ている。
また一般に、装置のハウジング部材及びベーンロータは、進角側と遅角側に相対回転角度を規制するストッパを有しており、例えばハウジング部材とベーンロータとを当接させることでストッパとする。しかし、排気側の装置において、ベーンロータを初期位置に戻すための付勢部材を遅角室に設けた場合、遅角室を介して対向するハウジング部材とベーンロータとの当接面積を大きくしようとしても限界があり、進角室を介して対向する上記両部材の当接面積よりも小さくなってしまう。このように、排気側の装置では、様々な設計条件から、相対回転を規制するストッパの当接面積(当接面圧)を相対回転の両方向で同様の大きさとするのは難しく、ハウジング部材ないしベーンロータの形状が両方向において異なってしまう。
一方、吸気側の装置における作動方向(ハウジング部材に対するベーンロータの回転位相を変換させる方向)は、排気側の装置とは逆であり、ハウジング部材に対してベーンロータを初期位置に戻す際の相対回転方向も逆である。すなわち、作動油圧が作用していない状態で相対回転移動する方向が、吸気側と排気側で異なる。
したがって、排気側の装置の構成部材をそのまま吸気側の装置に転用したのでは、特にストッパの耐久性について問題が生じることとなる。例えば、本実施例1の装置1bのベーンロータ4及びハウジング本体10を、周方向における形状の違いを考慮せずにそのまま吸気側に転用した場合、すなわち図16に示す装置1bから付勢部材6(コイルスプリング610〜630)を取り除いたものをそのまま吸気側の装置とした場合、初期位置では第2ストッパ部が当接し、この位置でロックすることとなる。この場合、吸気側の装置において、当接面積の小さい第2ストッパ部が変形し、回転規制位置が変化してしまうおそれがある。
これに対し、本実施例1では、排気側の装置1bのベーンロータ4及びハウジング本体10を表裏反転させて、ストッパ部を鏡像配置したものを、吸気側の装置1aに用いることとした。これにより、装置1a及び装置1bの両方において、初期位置で、当接面積の大きいほうの第1ストッパ部が当接することを可能としている(図4、図16)。言い換えると、ベーンロータ4等の素材(材料)を装置1a、1bで共通化して互換性を持たせるとともに、素材の鏡像配置により、両装置1a、1bにおいてストッパ部の変形及び回転規制位置の変化を防止することを可能にしている。
(アルミ押出し成形による作用)
ハウジング本体10とベーンロータ4の両方を、アルミ形金属材料で成形するため、装置1を軽量化できる。
また、ハウジング本体10を押出し成形によって成形するため、ハウジングHSG内部からプーリ100への作動油の滲出が防止され、ゴム製のベルトBの劣化を防止できる。
また、例えばダイカスト(高圧鋳造)で成形した場合には抜き勾配(テーパ)ができてしまう。ハウジング本体10の外周に抜き勾配ができてしまうと、例えばプーリをハウジング本体10の外周に一体に形成しようとした場合、プーリの歯の精度を確保することが難しい。これに対し、押出し成形によれば抜き勾配ができないため、プーリ100等を精度よく加工することができる。
ハウジング本体10では、アルミ押出し材(一次加工品P1)の外周面および内周面全体に陽極酸化処理を施して表面を高硬度化する。このように、ベルトBが巻回され駆動力が作用する外周面と、ベーン41〜43が摺動する内周面とを高硬度化する。また、切断して複数の二次加工品P2にする前の一次加工品P1の段階で表面処理を施すため、処理コストを低減できる。なお、一次加工品P1の軸方向両端面や、切断された二次加工品P2の軸方向両端面には陽極酸化被膜を形成しないが、これらの端面はフロントプレート8及びリアプレート9に接して他の部材に対して摺動しないため、表面処理しなくても特に問題はない。
ベーンロータ4では、最終的な三次加工品Q3の外周面全体に陽極酸化処理を施す。すなわち、ハウジング本体10の内周面に対して摺動するベーン41〜43の外周面411等だけでなく、フロントプレート8及びリアプレート9に対して摺動するベーンロータ4の軸方向両端面も処理して、表面を高硬度化する。なお、プーリ100の歯の精度を確保するために、ハウジング本体10の材料となるアルミ系金属は若干柔らかいものを用いるが、ベーンロータ4についてはそのような必要がないため、その材料として、ハウジング本体10よりも若干硬度が高いアルミ系金属を用いることとしてもよい。
ハウジング本体10についてみると、押出成形により長尺の連続体(一次加工品P1、二次加工品P2)を得て、これを切断することで、同形状の複数の母材(三次加工品P3)を一度に得ることができる。ベーンロータ4も同様である。このように少ない工程で多数の母材(P3、Q2)を得、これらを装置1a、1bで効率よく共用できるため、製造工程をより簡略化し、コストをより低減できる。
(プーリの作用)
本実施例1では、ハウジング部材(ハウジング本体10)の外周にプーリ100を一体成形することにより、装置1を径方向に小型化している。また、ハウジング本体10の外周の軸方向全範囲にプーリ100を設けているため、ベルトBの幅の下限が決まっている場合でも、このベルトBと噛み合う歯の幅を確保できる。言い換えると、ハウジング本体10の封止凹部101にリアプレート9を挿入固定することでハウジングHSGの軸方向幅をベルトBの幅と同程度に小さく(軸方向に薄く)した場合でも、ベルトBと噛み合って動力を伝達するのに十分な歯の幅を確保できる。
装置1aにおいて、フロントプレート8の径は、プーリ100よりも若干大きく設けられている。すなわち外周部80が、プーリ100から外径方向にはみ出すように設けられているため、プーリ100に掛け渡されたベルトBがX軸正方向に移動しようとしても、外周部80に当接して移動できない。このように、外周部80は、ベルトガイド部としてガイド機能を発揮し、ベルトBの全体がX軸正方向側にずれることを防止する。なお、ベルトBのX軸負方向側へのずれや同側でのプーリ100からの脱落は、シリンダブロックにより防止される。
一方、装置1bにおいて、フロントプレート8の径は、プーリ100よりも若干小さく設けられている。すなわち、シリンダブロックの幅方向両外側に設置された排気側の装置1b(図1参照)の直径は、外周部80が設けられている吸気側の装置1aの直径よりも小さい。このため、装置1a、1bが設けられた機関の幅方向寸法を、全体として抑制することが可能である。よって、エンジンルーム内におけるレイアウト自由度を向上できる。ここで、ベルトBのX軸正方向側のずれは、上記のように、シリンダブロックの幅方向内側に設置された吸気側の装置1a(外周部80)により防止されるため、排気側の装置1bにベルトガイド部が設けられていなくても問題はない。
(封止凹部の作用)
装置1では、(外周にプーリ100を一体成形することで径方向に小型化した)ハウジング本体10の軸方向両端を、それぞれフロントプレート8及びリアプレート9により封止する。しかし、フロントプレート8及びリアプレート9の両方をハウジング本体10の軸方向両端面にそのまま固定すると、装置1の軸方向寸法を十分に抑制できない。本実施例1では、ハウジング本体10の封止凹部101にリアプレート9を挿入固定することで、装置1を軸方向にも小型化できる。ここで、リアプレート9はX軸方向の全範囲にわたって封止凹部101に挿入固定されているため、軸方向小型化の効果が大きい。
リアプレート9は、ベーンロータ4からX軸方向に出没するロックピストン51が挿入され、このロックピストン51と係合するロック孔521(スリーブ52を固定する凹部900)をX軸方向に形成する必要がある。よって、リアプレート9をフロントプレート8よりも肉厚に構成する必要がある。この比較的肉厚のリアプレート9をハウジング本体10の軸方向一端面にそのまま当接した状態で固定すると、装置1全体の軸方向寸法が特に長くなってしまう。本実施例1は、ハウジング本体10の軸方向一端に封止凹部101を形成し、この封止凹部101に(フロントプレート8ではなく)リアプレート9を挿入固定したので、装置1の軸方向寸法を効果的に小型化することができる。よって、エンジンルームへの装置1の搭載自由度が大きく向上する。
また、フロントプレート8、リアプレート9、及びハウジング本体10は、複数のボルトb1〜b3により締結されている。ここで、ボルトb1〜b3の雄ねじは、リアプレート9又はフロントプレート8のいずれかに形成された雌ねじ孔に螺着されることが必要である。そして、雌ねじ孔はある程度の長さが必要であることから、雌ねじ孔が形成されるプレートをより肉厚に構成する必要がある。このため、比較的肉厚のプレートをハウジング本体10の軸方向一端面にそのまま当接した状態で固定すると、装置1全体の軸方向寸法が特に長くなってしまう。本実施例1では、ロック孔521と雌ねじ部を共にリアプレート9に形成しているため、装置1の軸方向寸法を小型化することに大きく貢献することができる。
すなわち、フロントプレート8には雌ねじ孔等を特に形成する必要がないため、フロントプレート8は薄肉でよく、このためフロントプレート8をハウジング本体10の軸方向端面にそのまま当接した状態で固定しても、装置1の軸方向長さが大きくなってしまうことがほとんどない。一方、ロック孔521を形成するためにもともと肉厚にならざるを得ないリアプレート9に雌ねじ部を設け、この肉厚のリアプレート9を封止凹部101に挿入固定した。言い換えると、雌ねじ部を形成するためにもともと肉厚にならざるを得ないリアプレート9にロック孔521を設け、この肉厚のリアプレート9を封止凹部101に挿入固定している。このため、上記のように装置1の軸方向寸法を効果的に小型化できる。
なお、ハウジング本体10のフロントプレート側にも封止凹部を形成し、フロントプレート8もこの封止凹部に挿入固定することは可能である。しかし、ロックピストン51の軸方向移動範囲をある程度確保する必要もあるため、本実施例1では、フロントプレート8をハウジング本体10の軸方向端面にそのまま当接した状態で固定することで、ロックピストン51の軸方向移動範囲(ベーンロータ4の摺動用孔501のX軸方向長さ)を確保している。
(シール部材の作用)
上記のようにハウジング本体10の軸方向一端に封止凹部101を形成し、この封止凹部101にリアプレート9を挿入固定したので、装置1の軸方向寸法を小型化することができる。ここで、ベルトBによってクランクシャフトの回転が伝達される装置1では、ベルトBが巻回されるプーリ100に作動油が付着するとベルトBが劣化してしまう。よって、ハウジングHSG内の作動油が外部に漏れないように、封止凹部101とリアプレート9との接合部をシールする必要がある。
しかし、従来のように、ハウジング本体10とリアプレート9の軸方向端面同士が当接する箇所(封止凹部101の底面102とリアプレート9のX軸負方向側の面との間)をシールしようとすると、寸法が不足する。すなわち、図6(c)に示すように、(シュー11等が形成された部位を除く)封止凹部101の底面102の径方向幅(R−Ri)が、シール部材を設置したり、シール部材を設置するための溝(シール溝)を切削加工したりするためには短い。よって、軸方向端面同士が当接する箇所(封止凹部101の底面102)に十分なスペースを設けてシール部材を設置(シール溝を形成)しようとすれば、ハウジング本体10を径方向に大型化せざるを得ない。
一方、封止凹部101のX軸方向幅及びリアプレート9のX軸方向幅は、シール部材を設置(シール溝を形成)等してシールするために十分な寸法を有している。しかし、ハウジング本体10の内周面(封止凹部101の壁面103)にシール溝を設けようとすれば、ハウジング本体10のプーリ内周側における肉厚、すなわち径方向幅(Ro−R)の大きさが不足している。よって、ハウジング本体10の内周面(封止凹部101の壁面103)にシール溝を設けようとすれば、径方向幅(Ro−R)を大きくしてハウジング本体10を径方向に大型化せざるを得ない。
これに対し、本実施例1では、径方向幅(Ro−R)、すなわちハウジング本体10の径方向肉厚を少なくしている。そして、リアプレート9の外周に溝906を設け、この溝906にシールリングS1を設置することで、封止凹部101とリアプレート9との接合部をシールしている。このようなシール構造により、装置1の径方向寸法の増大を抑制しつつ、封止凹部101により装置1の軸方向寸法を小型化し、かつハウジングHSG内の作動油をシールすることを可能にしている。
一方、各シュー11〜13のX軸負方向側の面において、ボルト孔110〜130の周りには、シール部材を設置するために十分なスペースがある。よって、ボルト孔110〜130に対応するリアプレート9のボルト孔901〜903の周りに溝907〜909を設け、この溝907〜909にシールリングS2を設置してシールすることで、ハウジングHSGの内部からボルト孔901〜903を通って作動油が漏出することを防止している。
なお、リアプレート9のボルト孔901〜903を貫通させずに底部を設け、ボルト孔901〜903を有底の袋状とすることで、ボルト孔901〜903からの作動油の漏出を防止することも可能ではある。しかし、この場合、ボルト孔901〜903の雌ねじにボルトb1〜b3を締結固定するためにはある程度のボルト孔901〜903の長さが必要であるところ、さらに底部を設けると、その分だけリアプレート9が軸方向に肉厚になってしまう。これに対し、本実施例1では、ボルト孔901〜903を貫通させて底部を不要とすることで、リアプレート9の軸方向寸法をできるだけ小さくして肉薄にしている。
なお、リアプレート9の凹部900は、ロックピストン51の係合に必要なX軸方向寸法があればよく、またピン孔904は、位置決めピン905の圧入固定に必要なX軸方向寸法があればよいため、底部を設けても、リアプレート9が軸方向に肉厚になってしまうことはない。よって、本実施例1では、凹部900とピン孔904をともに有底の袋状とすることで、シール部材を要することなく、ハウジングHSGの外部への作動油の漏出を防止している。
リアプレート9のボルト孔901〜903の内周には雌ねじが形成されており、ボルトb1〜b3に螺合される。ボルトb1〜b3が雌ねじに螺合された状態で、ボルト孔901〜903の周りに設けられたシールリングS2が圧縮されて、弾性力により元に戻ろうとする。これにより雌ねじに対するボルトb1〜b3の係合が強化され、締結されたボルトb1〜b3の緩みが防止される。
一方、フロントプレート8とハウジング本体10との接合部をシールする構造についてみると、ハウジング本体10のX軸正方向側の面には封止凹部が設けられておらず、シール部材を設置するために十分な径方向スペースがある。すなわち、図6(a)に示すように、ハウジング本体10の径方向幅(Ro−Ri)が、シール部材を設置(シール溝を形成)するための寸法として十分な大きさがある。
よって、ハウジング本体10とフロントプレート8の軸方向端面同士が当接する箇所(ハウジング本体10のX軸負方向側の面とフロントプレート8のX軸正方向側の面との間)に、シールリング3を設置する。その際、各ボルト孔83〜85とハウジングHSGの内部とが連通しないように、シールリング3及び溝89が各ボルト孔83〜85の内周側を通るようなクローバー形状にした。これにより、各ボルト孔83〜85の周りを個別にシールする部材を不要として部品点数を削減しつつ、組み付け性を向上できる。
また、ボルトb1〜b3がボルト孔901〜903の雌ねじに螺合された状態で、各ボルト孔83〜85の周りに位置する部分のシールリングS3が圧縮されて、弾性力により元に戻ろうとする。これにより雌ねじに対するボルトb1〜b3の係合が強化され、締結されたボルトb1〜b3の緩みが防止される。
各シールリングS1〜S3は、断面円形のOリングである。よって、それぞれのシール溝906等に設置しやすい(シールリングS4も同様である。)。また、ハウジングHSGの各構成部材8〜10がボルトb1〜b3により締結された状態で、Oリングが圧縮されることで、高い密封機能を確保できる。
[実施例1の効果]
以下、実施例1から把握される本発明の装置1の効果を列挙する。
(1)吸気弁を駆動する吸気カムシャフト3aと排気弁を駆動する排気カムシャフト3bに夫々固定される内燃機関のバルブタイミング制御装置1a,1bであって、内周に内側に向かって突出するように一体成形されたシュー11〜13を有する円筒状のハウジング本体10と、ハウジング本体10の軸方向先端側を封止するフロントプレート8と、ハウジング本体10の軸方向カムシャフト側を封止するリアプレート9とから構成されるハウジング部材(ハウジングHSG)と、ハウジング部材内に相対回転自在に収容され、カムシャフト3に固定されるロータ40と、ロータ40に外側に向かって突出するように一体成形されると共に、シュー11〜13との間で流体が給排される進角室A1〜A3と遅角室R1〜R3を形成するベーン41〜43とから構成されるベーンロータ4と、機関の状態に応じてベーンロータ4とハウジング部材をロックし、又はこのロック状態を解除するロック部材(ロック機構5)と、を備え、吸気カムシャフト3aに固定される第1バルブタイミング制御装置1aは、ロック部材が最遅角位置でロックするように構成され、排気カムシャフト3bに固定される第2バルブタイミング制御装置1bは、ロック部材が最進角位置でロックするように構成されると共に、ベーンロータ4をハウジング部材に対して進角させる方向に付勢する付勢部材6(コイルスプリング610〜630)が配置され、第1バルブタイミング制御装置1a及び第2バルブタイミング制御装置1bのハウジング本体10とベーンロータ4は、切削加工を行う前に成形される同一の母材(P3、Q2)をミラー(鏡像)配置して用いている。
よって、切削加工を行う前に成形される同一の母材(P3、Q2)を鏡像配置して用いることで、ベーンロータ4及びハウジング本体10の材料に互換性を持たせ、これらの構成部材を装置1a、1bの間で共用できる。よって、製造工程を簡略化し、コストを低減できる。
(2)母材(P3、Q2)は、アルミ系金属材料を押出成形したものを切断したものである。
よって、装置1a及び装置1bを軽量化できる。また、母材を効率よく共用化できるため、製造工程をより簡略化し、コストをより低減できる。また、押出成形されたものを用いるため、加工精度がよい。
(3)装置1a及び装置1bのロック部材(ロック機構5)がロックされる位置で、ベーン41とシュー11の周方向側面(平面部415,111)が当接するように構成されている。
よって、上記側面同士の当接によりベーンロータ4とハウジング部材の相対回転を規制する回転規制位置においてロック部材がロックされることで、機関ないし装置1a、1bを安定的に作動させることができる。ここで、ベーン41とシュー11の周方向側面が当接するように構成されているため、当接面積S1を大きくすることができる。したがって、当接面圧が小さくなり、上記側面同士が強く当接してしまうことが抑制されるため、ベーンロータ4とハウジング部材の変形を防止して装置1a,1bの耐久性を向上できると共に、回転規制位置(初期位置)の変化を防止して装置1a,1bの性能を向上できる。
(4)装置1a及び装置1bがロック部材(ロック機構5)でロックされる(初期)位置とは周方向において反対側の位置で、ロータ外周からベーン41の先端の間でロータ40から外周側に突出させた部分(ストッパ部419)の周方向側面とシュー12の周方向側面とが当接するように構成されている。
よって、初期位置とは反対方向でも相対回転を規制できる。ここで、突出させた部分(ストッパ部419)の当接面積S2が小さいため、装置1bにおいて付勢部材6を容易に配置できる。また、付勢部材6の変位量が所定以下に規制されるため、付勢部材6の塑性変形を防止し、装置1bの性能を向上できる。
(5)装置1bの付勢部材6は、ベーン41〜43とシュー11〜13の間に配置されたコイルスプリング610〜630であり、コイルスプリング610は、ロータ40から外周側に突出させた部分(ストッパ部419)の外周側に配置されている。
よって、付勢部材としてコイルスプリングを用いることで付勢力を調整しやすく、組付性がよい。また、突出させた部分(ストッパ部419)がコイルスプリング610のガイドを兼ねるため、コイルスプリング610のロータ内径方向への過度な変形が規制される。したがって、付勢部材6及び装置1bの正常な作動を確保できる。
(6)吸気弁を駆動する吸気カムシャフト3aと排気弁を駆動する排気カムシャフト3bに夫々固定される内燃機関のバルブタイミング制御装置1a,1bであって、内周に内側に向かって突出するように一体成形されたシュー11〜13を有する中空円筒状のハウジング部材(ハウジング本体10)と、ハウジング部材内に相対回転自在に収容され、カムシャフト3に固定されるロータ40と、ロータ40に外側に向かって突出するように一体成形され、シュー11〜13との間で流体が給排される進角室A1〜A3と遅角室R1〜R3を形成するベーン41〜43とから構成されるベーンロータ4と、機関の状態に応じてベーンロータ4とハウジング部材をロックし、又はこのロック状態を解除するロック部材(ロック機構5)と、を備え、吸気カムシャフト3aに固定される第1バルブタイミング制御装置1aは、ロック部材が最遅角位置でロックするように構成されると共に、排気カムシャフト3bに固定される第2バルブタイミング制御装置1bは、ロック部材が最進角位置でロックするように構成され、ベーンロータ4をハウジング部材に対して一方向に回転させた際の夫々の当接面圧は、ベーンロータ4をハウジング部材に対して他方向に回転させた際の夫々の当接面圧より小さく、第1バルブタイミング制御装置1a及び第2バルブタイミング制御装置1bのハウジング本体10とベーンロータ4は、ロック部材でロックされる側の夫々の当接面圧が小さくなるように構成されている。
すなわち、ベーンロータ4とハウジング部材の当接面圧が両回転方向で異なり、かつ、装置1aと装置1bではロック位置が逆方向であっても、ベーンロータ4及びハウジング部材の配置を装置1aと装置1bの間で互いに鏡像関係とすることにより、ベーンロータ4及びハウジング部材の素材(材料)をそれぞれ装置1a、1bの間で共用できる。また、ロック部材でロックされる初期位置(回転規制位置)において、当接面圧が小さいため、ベーンロータ4とハウジング部材が強く当接してしまうことが抑制される。よって、ベーンロータ4とハウジング部材の変形を防止して装置1a,1bの耐久性を向上できると共に、回転規制位置(初期位置)の変化を防止して装置1a,1bの性能を向上できる。
(7)具体的には、ベーンロータ4とハウジング部材(ハウジング本体10)に夫々設けられ、ベーンロータ4がハウジング部材に対して一方向に相対回転した際に当接する第1ストッパ部(平面部111,415)と、ベーンロータ4とハウジング部材に夫々設けられ、ベーンロータ4がハウジング部材に対して他方向に相対回転した際に当接する第1ストッパ部より当接面積が小さな第2ストッパ部(ストッパ部419、第2シュー12)とを備え、吸気カムシャフト3aに固定される第1バルブタイミング制御装置1aは、第1ストッパ部によって回転が規制された最遅角位置にてロック部材でロックするように構成され、排気カムシャフト3bに固定される第2バルブタイミング制御装置1bは、第1ストッパ部によって回転が規制された最進角位置にてロック部材でロックするように構成されると共に、ベーンロータ4をハウジング部材に対して進角させる方向に付勢する付勢部材6(コイルスプリング610〜630)が配置されている。
よって、第1、第2ストッパ部の構成は、相対回転方向において配置が逆である点を除き、装置1aと装置1bの間で共通しているため、ベーンロータ4及びハウジング部材の配置を装置1aと装置1bの間で互いに鏡像関係とすることにより、これらの素材を装置1a、1bの間で共用できる。また、ロック部材でロックされる初期位置(回転規制位置)において当接する第1ストッパ部の当接面圧を小さくして変形を防止し、初期位置(回転規制位置)の変化を防止できる。また、初期位置とは反対方向である上記他方向に相対回転した際に、第2ストッパ部により相対回転を規制できる。ここで、第2ストッパ部の当接面積S2が第1ストッパ部よりも小さいため、装置1bでは、第2ストッパ部と干渉することなく付勢部材6を配置できる。また、第2ストッパ部のストッパ機能により付勢部材6の変位量が所定以下に規制されるため、付勢部材6の塑性変形を防止し、装置1bの性能を向上できる。一方、装置1bにおいて、付勢部材6により付勢される側(最進角位置)で当接する第1ストッパ部は、付勢部材6の付勢力により、当接する力が大きい。よって、第1ストッパ部の当接面積S1を大きくすることで、より有効に、変形防止という上記効果を得ることができる。
(8)装置1a及び装置1bのハウジング部材(ハウジング本体10)とベーンロータ4は、アルミ系金属によって成形されている。
すなわち、ハウジング部材とベーンロータ4の両方を、アルミ形金属材料で成形するため、装置1a及び装置1bを軽量化できる。
(9)装置1a及び装置1bのハウジング部材(ハウジング本体10)とベーンロータ4は、押出成形されたものが用いられている。
よって、素材を効率よく共用化できるため、製造工程をより簡略化し、コストをより低減できる。また、ダイカストのような抜き勾配ができず、ハウジング部材及びベーンロータ4の各部分の径方向寸法が均一であり、加工精度がよい。
(10)装置1a及び装置1bのハウジング本体10とベーンロータ4がロック部材(ロック機構5)でロックされる側に作動した際には、ベーン41とシュー11の周方向側面(平面部415,111)が当接するように構成されている。
言い換えると、装置1a及び装置1bの第1ストッパ部は、ベーン41とシュー11の周方向側面で構成される。
よって、回転規制位置での(第1ストッパ部の)当接面積S1を任意に大きくすることができ、当接面圧を小さくするのに有利である。したがって、ベーンロータ4とハウジング部材の変形を効果的に防止できる。
(11)ベーン41〜43は複数設けられており、そのうちの1つ(ベーン41)にロック部材(ロック機構5)が配置されており、ロック部材が配置されたベーン41とシュー11の周方向側面(平面部415,111)が第1ストッパ部を構成し、他のベーン42,43とシュー12,13の周方向側面(平面部415,111)は、非当接状態を維持するように構成されている。
すなわち、第1ストッパ部を、ロック機構5を有する第1ベーン41の周方向側面により構成している。第1ベーン41はロック機構5を有しており他のベーン42,43よりも周方向に肉厚であるため、相対回動を規制するための強度が十分である。よって、ベーンの周方向側面をストッパとして利用した場合でも、ベーンロータ4(第1ベーン41)の変形が防止され、装置1a,1bの耐久性をより確実に向上できる。
(12)装置1a及び装置1bがロック部材(ロック機構5)でロックされる位置とは周方向において反対側の位置で、ロータ外周からベーン41の先端の間でロータ40から外周側に突出させた部分(ストッパ部419)の周方向側面とシュー12の周方向側面とが当接するように構成されている。
言い換えると、装置1a及び装置1bの第2ストッパ部は、ロータ外周からベーン先端の間でロータから外周側に突出させた部分の周方向側面とシューの周方向側面で構成される。
よって、突出させた部分(ストッパ部419)の当接面積S2を任意に小さくすることができるため、装置1bにおいて付勢部材6を容易に配置できる。
(13)装置1bの付勢部材6は、ベーン41〜43とシュー11〜13の間に配置されたコイルスプリング610〜630であり、コイルスプリング610は、ロータ40から外周側に突出させた部分(第2ストッパ部を構成するストッパ部419)の外周側に配置されている。
よって、上記(5)と同様の効果を得ることができる。
(14)上記(13)において、装置1a及び装置1bのベーン41〜43の周方向一側面と、それと対向するシュー11〜13の周方向側面には、夫々凹部418〜438,115〜135が形成されており、装置1bの凹部418〜438,115〜135にコイルスプリング610〜630が配置されている。
よって、コイルスプリング610〜630のハウジング軸方向及び径方向の移動が凹部418〜438,115〜135により規制されるため、付勢部材6及び装置1bの正常な作動が確保される。また、凹部418〜438,115〜135による位置規制により、特別な保持部材を設けなくてもよく、コイルスプリング610〜630を支持部材(保持部611,612等)と一体化せず直接に油室A1〜A3(凹部418,125等)に設置することも可能であり、この場合、支持部材を省略することで部品点数を削減できる。
[他の実施例]
以上、本発明を実現するための形態を、実施例1に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例1に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
例えば、実施例1ではベーン(ないしシュー)の数を3としたが、他の数であってもよく、特に限定されない。また、各プレート8、9、及びハウジング本体10を結合するボルトの数も3に限らない。
実施例1では、プーリをハウジング本体に一体成形することとしたが、プーリをハウジング本体とは別の部材として設けてもよい。また、プーリをハウジング本体外周の軸方向全範囲に成形することとしたが、軸方向全範囲に設けなくてもよい。この場合、吸気側と排気側の両装置において、ハウジング本体の共通の素材をミラー配置した後に、それぞれのプーリを切削加工等により設けることができる。
実施例1では、クランクシャフトからハウジング部材に動力を伝達する部材としてタイミングベルトを用いることとしたが、タイミングチェーンやギヤを用いることとしてもよい。回転が伝達されるハウジング側の部材としては、プーリではなく、ベルトで駆動されるスプロケットやギヤ同士で駆動されるギヤなどを用いることができる。
実施例1では、リアプレートを軸方向にわたって全て封止凹部に挿入固定したが、部分的に挿入固定することとしてもよい。言い換えると、リアプレートが軸方向で部分的にハウジング本体からはみ出していてもよい。この場合、装置1を軸方向にある程度小型化できるだけでなく、様々な設計条件に柔軟に対応し、ハウジング内部やリアプレート等の軸方向寸法を任意に調整する自由度を向上できる。
実施例1では、ハウジング本体のリアプレート側のみに封止凹部を形成し、リアプレートを封止凹部に挿入固定することとしたが、ハウジング本体のフロントプレート側にも封止凹部を形成し、フロントプレートをこの封止凹部に挿入固定することとしてもよい。この場合、装置の軸方向長さをさらに短縮することが可能である。また、ハウジング本体に封止凹部を形成せず、ハウジング本体の両端にそのまま各プレートを接合することとしてもよい。
実施例1では、ボルトb1〜b3を締結するための雌ねじをリアプレートに形成したが、リアプレートではなくフロントプレートに上記雌ねじを設け、フロントプレート、ハウジング本体、及びリアプレートを、X軸負方向側から挿通したボルトb1〜b3によって一体的に締付固定することとしてもよい。
実施例1では、リアプレートのボルト孔に雌ねじを設けることとしたが、設けなくてもよい。例えば、リアプレートを貫通してボルトb1〜b3の先端部を突出させ、これにナットを締結するようにしてもよい。また、実施例1では、リアプレートを貫通してボルト孔を形成したが、貫通させなくてもよい。
実施例1では、封止凹部の内周とリアプレートの外周との間、及びリアプレートの各ボルト孔の回りとシューの軸方向端面との間を、それぞれシールリングS1、S2を用いて密封することとしたが、シールリングではなくシール剤を用いて密封することとしてもよい。例えば、ボルトb1〜b3の雄ねじとリアプレートの雌ねじとの間にシール剤を兼ねた接着剤を充填すれば、ボルトb1〜b3の締結力を強化できるだけでなく、シールリングS2(及びそのシール溝)を不要にできる。
実施例1では、シールリングS1〜S4はOリングであることとしたが、Oリング以外の他の形式のシールリングであってもよい。
実施例1では、フロントプレートにシールリングS3を設置するための溝89を設けたが、フロントプレートではなくハウジング本体の側にシール溝を設けることとしてもよい。また、リアプレートにシールリングS2のシール溝907等を設けたが、リアプレートではなくハウジング本体の側にシール溝を設けることとしてもよい。
実施例1では、クローバー形状のシールリング3を設けたが、シールリング3の代わりに、フロントプレートの内周側(かつボルト孔83等の外周側)をシールするシールリングと、各ボルト孔83等の周りをそれぞれシールするシールリングとを設けてもよい。
実施例1では、フロントプレート及びプラグを、鉄系金属材料を鍛造することによって成形することとしたが、鍛造ではなくプレス加工等により成型することとしてもよい。また、他の材料、例えばアルミ系金属材料(アルミ合金)を用いてもよい。
実施例1では、ベーンロータには、カムシャフト挿通孔に挿通されるボス部を設けたが、ボス部を設けなくてもよい。また、位置決め手段905の構成は実施例1のものに限らず、位置決め手段905等を設けなくてもよい。
実施例1では、装置1bの付勢部材を全ての進角室A1〜A3に設けたが、一部の進角室Aに設けることとしてもよい。付勢部材を、第2ストッパ部が設けられる進角室A1には設けないこととした場合、第2ストッパ部の当接面積を大きくすることができ、これにより第2ストッパ部の変形をより確実に防止することができる。また、この場合、ロック機構を有するベーン41に、進角室A1と連通してロック機構を作動させるための油路を形成したとしても、付勢部材やその支持部材(保持部)と干渉しないため、設計の自由度が高い。
実施例1では、スプリングユニット(付勢部材)に設けられるコイルスプリングは1本であることとしたが、2本以上であってもよく、特に限定しない。2本以上であっても、ハウジング軸方向ではなく径方向にこれらを配置すれば、装置の軸方向寸法の増大を抑制できる。
実施例1では、スプリングユニットにおいてコイルスプリングを用いたが、コイルスプリングの代わりに板ばね等の弾性部材を用いてもよい。また、実施例1では各スプリングユニットに支持部材(保持部)を設けることしたが、支持部材(保持部)を適宜省略することとしてもよい。
実施例1では、コイルスプリングは対向するベーン及びシューの周方向側面に形成された凹部に配置されることとしたが、凹部を形成せず、例えば凸部を形成してこれにコイルスプリングを保持することとしてもよい。
実施例1では、第1ストッパ部を第1ベーン41と第1シュー11の当接部に設け、他のベーン42,43とシュー12,13は非当接状態を維持するように構成したが、他のベーン42,43とシュー12,13のいずれか1組、又は複数組の当接部に第1ストッパ部を設けることとしてもよい。同様に、第2ストッパ部を第1ベーン41と第1シュー11以外の他のベーンとシューのいずれか1組、又は複数組の当接部に設けることとしてもよい。
実施例1では、第1ストッパ部をベーンとシューの各周方向側面で構成したが、他の方法により構成することとしてもよい。例えば、第2ストッパ部と同様、ロータ外周から突出する凸部を形成することで、第1ストッパ部を構成することとしてもよい。
実施例1では、第2ストッパ部を、ロータから外周側に突出させた部分の周方向側面と、対向するシューの周方向側面とで構成したが、他の方法により構成することとしてもよい。
実施例1では、ロック機構(係合部材)をベーンロータのベーンに設けたが、ハウジング(例えばシュー)に設け、ベーンロータのロータとの間でロックするようにしてもよい。
実施例1では、ロック機構(係合凹部)をリアプレートに設けることとしたが、フロントプレートに設けることとしてもよい。
実施例1では、ロック機構(係合部材)として、油圧により係脱するロックピストンを用いることとしたが、他の機構ないし部材を用いることとしてもよい。例えばクラッチ機構やレバー機構等を用いることとしてもよい。
実施例1では、回転軸方向にロックピストンが進退することとしたが、例えばハウジング径方向に進退させることとしてもよい。
実施例1では、ロック機構の係合凹部を、リアプレートとは別の部材(スリーブ)で構成し、これをリアプレートに固定することとしたが、係合凹部をリアプレートと一体に直接設けることとしてもよい。
実施例1では、ロック機構の係合凹部(スリーブ)をリアプレートの凹部に圧入することとしたが、圧入に限らず他の方法で固定設置してもよい。
実施例1では、ロックピストンの先端に流体圧が作用することによりロックピストンが係合凹部から退出し、ロックが解除されることとしたが、他の構成により解除機構を構成してもよい。