JP5279749B2 - 内燃機関のバルブタイミング制御装置 - Google Patents
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Description
実施例1の内燃機関のバルブタイミング制御装置1(以下、装置1という。)は、自動車の内燃機関(以下、機関という。)の吸気側に適用される。なお、機関の排気側の装置に本発明を適用してもよい。
まず、装置1の構成を、図1〜図7に基づき説明する。装置1の回転軸Oが延びる方向にX軸を設け、吸気カムシャフト3(以下、カムシャフト3という。)の側を負方向とする。図1は装置1の各構成部材を分解して同軸上に並べ、斜めから見た図である。図2及び図5は、装置1の回転軸Oを通る部分断面を示す。図3及び図4は、フロントプレート8等を取り外した状態の装置1(ハウジング本体10にベーンロータ6を組み付けたもの)をX軸正方向側から見た正面図である。図2は図3のA−A視断面に略相当し、図5は図3のB−B視断面に略相当する。図3及び図4において、ベーンロータ6、リアプレート9、及びカムシャフト3に形成された溝ないし孔を破線で示す。
カムボルト31は六角ボルトであり、正六角柱状の頭部310と、外周に雄ねじが形成された軸部311とを有している。頭部310には、座面の保護等のためのワッシャ(平座金)312が一体に形成されている。なお、カムボルトは1本に限らず、六角ボルトに限らず適当なものを採用可能である。ボルトのほかに適当な締結固定手段を採用してもよい。
端部30の内部には、カムボルト31(軸部311)が挿通される1つのボルト孔32、及び後述する遅角通路50及び進角通路51の一部としての軸方向通路502,512等が形成されている。
ボルト孔32は、回転軸O上に、端部30のX軸正方向側の端面300から所定のX軸方向深さまで形成されており、小径部320と大径部321を有している。大径部321は端面300から所定のX軸方向深さまで設けられており、大径部321の直径は、カムボルト31の軸部311よりも若干大きい。小径部320は、大径部321に対して段差を有してX軸負方向に向かって所定の深さまで設けられており、小径部320の直径は、カムボルト31の軸部311と略同じである。小径部320の内周には、カムボルト31の雄ねじに対応する雌ねじが形成されている。
端部30の端面300には、ベーンロータ6とカムシャフト3との周方向位置決め用の凸部が設けられている。この凸部は、例えば端面300に設けられた凹部にピンを挿入設置することで構成することが可能である。凸部を設ける方法として、ピンによるのではなく、加工等により直接凸部を形成してもよい。本実施例1のようにピンによる場合は、凸部を直接形成するよりも簡便であり、位置決めに適したピン(ダウエルピン等)を適宜選択することができて有利である。
ハウジングHSGは、カムシャフト3の端部30に配置されている。ハウジングHSGには、スプロケット2が設けられており、スプロケット2を介してクランクシャフトからの回転力が伝達される。ベーンロータ6は、カムボルト31によって端部30にX軸方向から固定されており、ハウジングHSG(スプロケット2)に対して相対回動自在に、ハウジングHSGの内部に収容されている。複数の作動室は、ハウジングHSGの内周に設けられたシュー11〜14とベーンロータ6のベーン61〜64とによって区画された遅角室(遅角作動室)R1〜R4及び進角室(進角作動室)A1〜A4を有している。位相変更機構4は、油圧給排機構5から作動油の供給を受け、又は油圧給排機構5へ作動油を排出することで、ハウジングHSG(クランクシャフト)に対するベーンロータ6(カムシャフト3)の回転位相を変更する。油圧給排機構5は油圧回路を有しており、油圧回路から作動室に供給される作動油の圧力がベーン61〜64に作用することで、ベーンロータ6がハウジングHSGに対して回転し、クランクシャフトに対するカムシャフト3の回転角(位相変換角度)が変更される。油圧給排機構5による作動油の給排は、制御手段としてのコントローラCUにより制御される。
ハウジング本体10の内周には、複数の(本実施例1では4つの)シュー11〜14が、内側(回転軸Oの側)に向かって突出するように、ハウジング本体10と一体に成形されている。シュー11〜14は、ハウジングHSGにおけるベーンロータ6(ロータ60)との摺動面に設けられ、複数の(本実施例1では4つの)空間を画成する内壁(隔壁部)を構成している。なお、シュー11〜14をハウジング本体10と別体に設けることとしてもよい。具体的には、回転軸Oの周りの方向(以下、周方向という。)で略等間隔位置に、第1〜第4シュー11〜14が、ハウジング本体10の内周面から内径方向(回転軸Oに向かう方向)に向かって突設されている。図3に示すように、第1、第2、第3、第4シュー11,12,13,14は、X軸正方向側から見て、この順番で時計回り方向に並んでいる。各シュー11〜14はX軸方向に延びて形成されており、X軸に対して直角方向で切った断面は、内径方向に向かって幅が狭くなる略台形状に設けられている。各シュー11〜14の外径側(回転軸Oから離れる方向)の内部には、それぞれ孔110〜140がX軸方向に貫通形成されている。孔110〜140は、ボルトb1〜b4がそれぞれ挿通するボルト孔である。各シュー11〜14のX軸正方向側の端面にはフロントプレート8が固定設置され、X軸負方向側の端面にはリアプレート9が固定設置される。
第2、第3シュー12,13の間、第3、第4シュー13,14の間、及び第4、第1シュー14,11の間の隙間の周方向幅は、互いに略同じ大きさに設けられている。第1シュー11と第2シュー12の間の隙間は、後述する幅広の第1ベーン61が収容されるため、その周方向幅が、他のシュー間の上記隙間よりも若干大きく設けられている。各シューのボルト孔110〜140の中心を通る周方向幅は、第2、第3、第4シュー12〜14が互いに略同じ大きさに設けられ、第1シュー11の上記幅は、他のシュー12〜14よりも大きく(幅広に)設けられている。
各シュー11〜14の周方向側面(時計回り方向側及び反時計回り方向側の面)は、ハウジング本体10の径方向に延びるように設けられている(以下、「径方向」とは、X軸方向から見て回転中心Oを通る直線に沿った方向をいう。)。例えば、第1シュー11の時計回り方向側に形成された平面部111、及び第2シュー12の反時計回り方向側に形成された平面部121は、X軸方向から見て、ハウジング径方向と略一致した直線状である。
各シュー11〜14の内径側には、若干のアールを介して各シュー11〜14の周方向側面に連続する先端面112〜142が、回転軸Oに対向して設けられており、これらの先端面112〜142は、後述するベーンロータ6のロータ60の外周面600に沿った形状(X軸方向から見て外径方向に向かって僅かに窪んだ円弧状)に形成されている。第1シュー11の先端面112の周方向幅は、他のシュー12〜14よりも広く設けられている。
第1シュー11の時計回り方向側の根元部分(平面部111のハウジング外径側)には肉盛り部114が設けられている。ハウジング内周側に面する肉盛り部114の側面は、X軸方向から見て、ハウジング本体10の内周面に対して所定の角度を持って内径側に延び広がるように形成され、平面部111に連続する平らな斜面状である。
各シュー11〜14のハウジング外径側の底部には、それぞれ切り欠き部115〜145が設けられている。換言すると、ハウジング本体10の外周面において各シュー11〜14に対応する位置は、ハウジング本体10のX軸方向全範囲にわたって、内径側に窪んだ凹形状に形成されている。X軸方向から見て、各シュー11〜14の本体部分とハウジング本体10の(各シュー11〜14が設けられていない)外周部分とを接続する部位の肉厚は、ハウジング本体10の上記外周部分の径方向肉厚と略同じに設けられている。
X軸正方向側から見て、第1シュー11の切り欠き部115の時計回り方向側には、上記肉盛り部114とボルト孔110とに挟まれて、凹部116が設けられている。凹部116はハウジング本体10とリアプレート9との周方向位置決め用の凹溝であり、第1シュー11のX軸方向全範囲にわたって形成され、X軸方向から見て、内径側に向かって半円状に窪んだ形状に設けられている。切り欠き部115における凹部116の開口部位の周方向両側は、内径側に窪んだ凹形状に形成されており、切り欠き部115における他の部位に対して段差部を構成している。肉盛り部114は、第1シュー11に凹部116を設けるための肉厚を提供すると共に、後述する第1ベーン61が第1シュー11に当接しても強度の点で問題ないよう、第1シュー11の根元部分における周方向での剛性を高めている。
第1〜第4シュー11〜14の先端部分には、それぞれ凹溝117〜147が設けられている。凹溝117〜147は、X軸方向から見て外径側に向かって略矩形状に窪んで形成されたシール溝であり、シュー11〜14の内周面(先端面112〜142)の周方向略中央位置にX軸方向全範囲にわたって設けられている。シール溝117〜147の内部には、それぞれシール部材S1〜S4が嵌合保持されている。
図2に示すように、シール部材S3は、シール本体138と付勢手段139とを有している。シール本体138は、周方向から見て略コ字状であって、シュー13の略X軸方向長さ分だけ延びるシール面部を有し、シール面部が内周側(回転軸Oの側ないしロータ60の外周面600の側)に面するように、シール溝137に設置されている。付勢手段139は、シールスプリングとしての板バネから構成されており、シール本体138(シール面部)をロータ外周面600の側に向かって押圧付勢するように、シール溝137に設置されている。シール面部はロータ60の(X軸方向全範囲における)外周面600に弾接し、ロータ60がハウジングHSGに対して回転する際、ロータ外周面600に摺接する。他のシール部材S1、S2,S4も同様に構成され、それぞれシール本体118,128,148と付勢手段119,129,149を有している。
フロントプレート8の直径は、ハウジング本体10の外周の最大径と略同じ大きさに設けられている。フロントプレート8の内径側の略中央には、孔80がX軸方向に貫通形成されている。孔80は、(カムシャフト3への装置1の組み付け時に)カムボルト31が挿通する挿通孔であり、その直径がワッシャ312よりも僅かに大きい大径孔である。フロントプレート8の外径側には、周方向で略等間隔に、4つの孔81〜84がX軸方向に貫通形成されている。孔81〜84は、ボルトb1〜b4がそれぞれ挿通するボルト孔であり、ハウジング本体10の各シュー11〜14のボルト孔110〜140とX軸方向で対向するそれぞれの箇所に設けられている。フロントプレート8は、ボルトb1〜b4の締結力に対する剛性(ボルト頭部が着座する面の強度)を確保できる程度に、X軸方向にできるだけ薄く形成されている。
スプロケット2は、リアプレート9のX軸正方向側であってプレート本体9aの外周に、プレート本体9aと一体に設けられている。スプロケット2は、X軸方向に延在する複数の凸部(歯)を周方向略等間隔に有する歯車であり、チェーンが巻回され、チェーンを介してクランクシャフトにより回転駆動され、リアプレート9と共に図3の時計回り方向に回転する。なお、スプロケット2は必ずしもリアプレートと一体の部材として設けなくてもよい。また、スプロケットとチェーンに限らず、プーリとベルトにより動力を伝達するようにしてもよい。例えば、ハウジング本体の外周にプーリを設け、ベルトを巻回してもよい。本実施例1のようにチェーンとスプロケットを用いた場合、装置の軸方向小型化が容易である等の利点を有する。
図2に示すように、プレート本体9aのX軸方向厚さは、フロントプレート8及びスプロケット2のX軸方向幅よりも厚く設けられている。プレート本体9aの直径は、スプロケット2よりもX軸正方向側ではハウジング本体10と略同じ大きさに設けられ、スプロケット2よりもX軸負方向側ではハウジング本体10よりも若干大きく設けられている。
プレート本体9aの内径側の略中央には、孔90が、回転軸Oと略同軸に、リアプレート9をX軸方向(回転軸方向)に貫通して形成されている。孔90は、カムシャフト端部30が挿通される挿通孔であり、カムシャフト3に対してハウジングHSGを回転自在に支持する支持孔でもある。挿通孔90は、リアプレート9を粗材状態で型成形する際に同時に型成形され、その直径がフロントプレート8の大径孔80と略同じになるように加工される。
プレート本体9aの外径側には、周方向で略等間隔に、4つの雌ねじ部91〜94が設けられている。雌ねじ部91〜94は、各シュー11〜14のボルト孔110〜140及びフロントプレート8のボルト孔81〜84とそれぞれX軸方向で対向する箇所に設けられている。雌ねじ部91〜94は、プレート本体9aをX軸方向に貫通して形成されたボルト孔をそれぞれ有しており、これらのボルト孔の内周に雌ねじが形成されている。この雌ねじに、ボルトb1〜b4のX軸負方向側先端部の雄ねじがそれぞれ螺着する。
すなわち、フロントプレート8、ハウジング本体10、及びリアプレート9は、ボルトb1〜b4によってX軸方向から共締めにより一体的に結合される。ボルトb1〜b4は、それぞれX軸正方向側からフロントプレート8のボルト孔81〜84及びハウジング本体10のボルト孔110〜140に挿通され、リアプレート9の雌ねじ部91〜94に螺着されることで、ハウジング本体10にフロントプレート8及びリアプレート9を締結固定する。なお、フロントプレート8のボルト孔81〜84及びハウジング本体10のボルト孔110〜140は、ボルトb1〜b4の軸の直径よりも若干大きく設けられている。
プレート本体9aには、X軸正方向側の面からX軸負方向側の所定深さまで、孔95が形成されている(図1参照)。孔95は、後述する係合凹部730を構成するための嵌合孔であって、X軸正方向側から見て、第1シュー11と第2シュー12により挟まれた空間において進角室A1側に偏倚した(第1シュー11の時計回り方向側に隣接した)位置に設けられている。
プレート本体9aのX軸正方向側の面には、孔95と雌ねじ部91の間であってこれらよりも若干外径側に、ハウジング本体10とリアプレート9との周方向位置決め用の凸部96が、X軸正方向に向かって延びるように設けられている。凸部96は、プレート径方向においてハウジング本体10の凹部116に略対応する位置に、凹部116の周方向幅と略同じ直径で、円柱状に形成されている。凸部96は、例えば、プレート本体9aに形成した孔にピンを嵌合することで設けることができる。凸部96のリアプレート9における周方向位置は、凸部96を凹部116に嵌合させたとき、第1シュー11のボルト孔110とリアプレート9の雌ねじ部91とが略同軸上に位置し、かつ、後述する第1ベーン61(平面部614)が第1シュー11(平面部111)に当接した状態(図3参照)で、第1ベーン61の後述する摺動用孔70とリアプレート9の嵌合孔95とが略同軸上に位置するように設けられている。
図3、図4に示すように、各溝515〜518は、プレート本体9aのX軸正方向端面において、各シュー11〜14に周方向で隣接して設けられており、ロータ60の外周側で各シュー11〜14(先端部分)の時計回り方向側に開口し、それぞれ各進角室A1〜A4に連通する。X軸正方向側から見て、各溝515〜518の内径側(基端部分)はロータ60と重なって隠される一方、各溝515〜518の外径側(先端部分)は、一部分が各シュー11〜14の内径側(先端部分)と部分的に重なり、他の部分がプレート本体9aのX軸正方向端面に開口している。X軸正方向側から見て、第2〜第4シュー12〜14(先端部分)の時計回り方向側の面は、それぞれ溝516〜518の周方向略中央、より具体的には溝516〜518内において同溝幅の60%強だけ時計回り方向側に寄った位置に配されている。一方、第1シュー11(先端部分)の時計回り方向側の面(平面部111)は、溝515内において同溝幅の80%強だけ時計回り方向側に配置されており、第1進角室A1における溝515の開口面積は、第2〜第4進角室A2〜A4における溝516〜518の開口面積よりも若干小さい。また、X軸方向から見て、各溝515〜518はシール溝117〜147と重ならないように配置されている。具体的には、X軸正方向から見て、各溝515〜518の反時計回り方向側の縁は、各シュー11〜14の先端面112〜142においてシール溝117〜147の時計回り方向側の縁よりも僅かに時計回り方向側に配置されるとともに、外径側へ向かうにつれてシール溝117〜147の上記縁から離間するため、各溝515〜518はそれぞれシール溝117〜147と連通しない。
図5に示すように、溝515〜518は、カムシャフト端部30の後述する環状溝514とX軸方向で部分的に重なる深さまで設けられている。具体的には、溝515〜518のX軸負方向側の半分強は、環状溝514のX軸正方向側の70%強の範囲と重なる。よって、各溝515〜518の内径側端は、環状溝514と連通する。溝515〜518は、環状溝514(カムシャフト3内の油路)からの作動油を各進角室A1〜A4にそれぞれ供給し、又は各進角室A1〜A4から作動油をそれぞれ環状溝514に排出する、進角側の給排溝(第1給排溝)である(以下、第1溝515〜518という)。
ロータ60のX軸方向長さは、ハウジング本体10のX軸方向長さよりも僅かに小さい。ロータ60には、そのX軸負方向側の面からX軸正方向側に向かってロータ60の半分弱の深さまで、有底の孔601が、ロータ60と略同軸に(回転軸O上に)形成されている。孔601は、カムシャフト端部30のX軸正方向側の挿通部301が挿通・設置されるカムシャフト挿通孔であり、孔601の直径はカムシャフト3(挿通部301)の直径よりも僅かに大きい。
ロータ60には、孔601のX軸正方向側の底部に、孔602が、回転軸O上に貫通形成されている。孔602は、X軸正方向側からカムボルト31の軸部311が挿通されるボルト孔であり、孔602の直径は軸部311よりも若干大きい。ロータ60には、孔601のX軸正方向側の底部に、孔602に連続して、孔603がX軸方向に貫通形成されている。孔603は、カムシャフト端面300に設けられた凸部と嵌合し、カムシャフト3に対するベーンロータ6の周方向位置決めに用いられる位置決め孔であり、孔602からロータ外径方向に延びて形成されている。孔603は、X軸方向から見て、半長円状であり、径方向に延びて周方向で互いに対向する2つの直線部と、半円弧状に形成された1つの曲線部とを有している。上記凸部は、X軸負方向側から孔603に挿通され、嵌合する。孔603の周方向寸法(上記直線部間の距離)は、上記凸部の周方向寸法よりも僅かに大きく設けられ、上記凸部が孔603に嵌合した状態で、ベーンロータ6とカムシャフト3の周方向のガタが発生しない寸法に設定されている。
ロータ60のX軸正方向側の面には、ボルト孔602を囲んでロータ60と略同軸に、浅い有底円筒状の円形溝604が設けられている。換言すると、円形溝604の底面に、ボルト孔602が開口している。円形溝604の直径は、フロントプレート8の大径孔80と略同じであり、ワッシャ312よりも僅かに大きい。円形溝604のX軸方向深さは、ワッシャ312の略半分である。
各ベーン61〜64のX軸に対して直角方向の断面は、外径方向に向かうにつれて周方向幅が広くなる略台形状に形成されている。なお、ベーン61〜64の断面形状は適宜変更可能である。各ベーン61〜64のX軸方向長さはロータ60のX軸方向長さと略同じである。周方向における第2〜第4ベーン62〜64の幅は、略同じである。第1ベーン61の周方向幅は第2〜第4ベーン62〜64よりも広く、最大幅となっており、後述するロック機構7を収容可能としている。各ベーン61〜64の間隔は、ベーンロータ6の重心を回転軸O上に近づけるように調整されている。ベーンロータ6がハウジングHSG内に設置された状態で、各ベーン61〜64のX軸正方向側の面は、フロントプレート8のX軸負方向側の面に対して僅かな隙間を介して対向し、各ベーン61〜64のX軸負方向側の面は、リアプレート9(プレート本体9a)のX軸正方向側の面に対して僅かな隙間を介して対向している。第1ベーン61は第1シュー11と第2シュー12の間、第2ベーン62は第2シュー12と第3シュー13の間、第3ベーン63は第3シュー13と第4シューの間、第4ベーン64は第4シュー14と第1シュー11の間の隙間に、それぞれ配置される。
なお、作動油が給排される作動室として、進角室と遅角室のどちらか一方のみを有する構成としてもよい。また、進角室と遅角室の数は、それぞれ4に限定されない。換言すると、シューやベーンの数は、それぞれ4に限らず他の数であってもよい。また、作動室を形成するために、ハウジング本体の内周に内側に向かって突出するシューを、必ずしも設けなくてもよい。すなわち(突出するシューが設けられていない)ハウジング本体の内周面とベーンロータの外周面との間で作動室を画成してもよい。
第1ベーン61の内部には、孔70がX軸方向に貫通形成されている。孔70は、ロックピストン71を摺動自在に収容する摺動用孔であり、中空円筒状のシリンダであって、小径部701と大径部702からなる。小径部701の内周面の径は、大径部702の内周面の径よりも小さく設けられている。
ベーンロータ6のX軸正方向側の面には径方向溝605が設けられている。径方向溝605は、円形溝604と摺動用孔70(大径部702)のX軸正方向端とを接続し、これらを連通する矩形状の切り欠き溝であり、円形溝604から第1ベーン61の根元部分を外径方向に延びて大径部702に連続する。径方向溝605のX軸方向深さは、円形溝604よりも深く設けられている。
第1〜第4ベーン61〜64の外径側の先端部には、溝611〜641がX軸方向に沿ってそれぞれ形成されている。溝611〜641の内部には、それぞれシール部材612〜642が設置されている。シール部材612〜642は、各シュー11〜14のシール部材S1〜S4と同様の構造を有しており、ハウジング本体10の内周面に液密に摺接するシール本体と、シール本体を上記内周面に向けて押圧する付勢手段としてのシールスプリング(板バネ)とを有し、それぞれシール溝611〜641に嵌着保持されている。
X軸正方向側から見て、第1ベーン61の反時計回り方向側には、平面部614が形成されている。平面部614は、ロータ径方向に延びて形成されており、X軸方向から見て、回転軸Oを通る径方向直線と略一致した直線状である。第1ベーン61の反時計回り方向側の外径側には、平面部614に連続して、周方向で第1シュー11の肉盛り部114と対向する位置に、切り欠き部615が設けられている。切り欠き部615は、X軸方向から見て、外側に凸の略円弧状であり、孔70を取り囲むように、孔70に沿って略90度強の角度範囲にわたり設けられている。切り欠き部615は、第1ベーン61の先端部分と肉盛り部114との干渉を抑制して平面部614と第1シュー11の平面部111とが面同士で接触することを可能にすると共に(図3参照)、第1ベーン61の重量を少なくすることに役立っている。なお、肉盛り部114の形状を、平面状ではなく、例えばX軸方向から見て切り欠き部615の円弧状外周面と略同一の曲率を持った、内側に凸の円弧状の曲面に形成することとしてもよい。
X軸方向から見た第1ベーン61の形状は、摺動用孔70を取り囲む2つの径方向直線部分(平面部614等)とこれらを接続する円弧状部分(切り欠き部615)に、溝611を有する瘤状部分がくっついた形である。X軸方向から見て、摺動用孔70を取り囲む第1ベーン61の肉厚、及び溝611を取り囲む部位(上記瘤状部分)の肉厚は、必要最小限の大きさに設けられている。
X軸正方向側から見て、第1ベーン61の時計回り方向側には、内径側の根元部分から所定の周方向範囲にわたり、ロータ60の外周に沿って時計回り方向に延びる略矩形状の凸部616が設けられている。換言すると、凸部616は、ロータ60の外周面600から外径方向に所定量だけ突出し、第1ベーン61の根元部分に連続している。X軸正方向側から見て、凸部616の時計回り方向側の面は、回転軸Oを通る径方向直線と略一致した直線状であり、周方向で第2シュー12の平面部121と対向している。
各溝505〜508は、それぞれ各ベーン61〜64に周方向で隣接して設けられており、X軸正方向側から見て、各ベーン61〜64の根元の時計回り方向側でロータ60の外周面600に開口し、それぞれ各遅角室R1〜R4に連通する。なお、溝505は凸部616の外周面に開口する。各溝505〜508の上記開口は、それぞれ可能な限り各ベーン61〜64に近接するように配置されている。なお、溝505〜508は、ロータ60の外周面600に限らず、(部分的に)各ベーン61〜64の周方向側面にも開口することとしてもよい。
図3に示すように、溝505は、X軸方向側から見て、ベーンロータ6の径方向に対して傾いて設けられている。具体的には、溝505の外周側端の幅方向中心b2が、ベーンロータ6の回転中心Oと溝505の内周側端の幅方向中心a2とを結ぶ直線l2に対して、(溝505に)最も近いベーン61の周方向中心側に偏倚(オフセット)するように設けられている。換言すると、溝505は、ベーンロータ6の内周側(内径側)から外周側(外径側)へ向かうにつれて、直近のベーン61の周方向中心側に近づくように傾いている。他の溝506〜508も同様に傾いて設けられている。
図5に示すように、溝505〜508は、カムシャフト端部30の後述する環状溝504とX軸方向で部分的に重なる深さまで設けられている。具体的には、溝505〜508のX軸正方向側の60%強は、環状溝504のX軸負方向側の70%強の範囲と重なる。よって、各溝505〜508の内径側端は、環状溝504と連通する。溝505〜508は、環状溝504(カムシャフト3内の油路)からの作動油を各遅角室R1〜R4にそれぞれ供給し、又は各遅角室R1〜R4から作動油をそれぞれ環状溝504に排出する、遅角側の給排溝(第2給排溝)である(以下、第2溝505〜508という)。
第1ストッパ部による回転規制状態で、各進角室A1〜A4の容積がゼロになることは回避されている。第1ベーン61の先端の切り欠き部615により形成される空間により第1進角室A1の容積が確保され、第2〜第4シュー12〜14とこれらに時計回り方向側で対向する第2〜第4ベーン62〜64との間で形成される空間(上記隙間)により第2〜第4進角室A2〜A4の容積が確保されている。また、各溝516〜518の開口は各ベーン62〜64の内径側基端部によって完全には塞がれず、各溝516〜518の各進角室A2〜A4への開口が確保されている。一方、溝515の開口はベーン61の内径側基端部によって大部分塞がれる。なお、第1ベーン61の基端部又は第1シュー11の先端部に切欠き部を設け、図3の最遅角状態でも溝515の第1進角室A1への開口を確保することとしてもよい。本実施例1では、ベーン61の内径側基端部も含めてベーン61とシュー11とを面接触可能とすることで、第1ストッパ部の当接面積を大きくし、これにより面圧を抑制して第1ストッパ部の強度を増大している。
図3の位置からベーンロータ6が時計回り方向に相対回転すると、図4に示すように、凸部616の時計回り方向側面が第2シュー12の反時計回り方向側面(平面部121)と面同士で接触し、当接する。このとき、ベーン61は時計回り方向側で隣接するシュー12に対して若干の(溝505の幅の2〜3倍程度の)隙間を介して対向し、他のベーン62〜64はそれぞれ時計回り方向側で隣接するシュー13,14,11に対して若干の(各溝506〜508の幅程度の)隙間を介して対向しており、互いに接触しない(非当接状態を維持する)。すなわち、ベーンロータ6のハウジングHSGに対する時計回り方向の回転は、凸部616と第2シュー12の内径側先端部(平面部121)とが当接することで規制される。このように、凸部616と平面部121とにより、ベーンロータ6の時計回り方向(進角方向)の相対回転を規制する第2ストッパ部が構成されている。凸部616と平面部121との当接面積(第2ストッパ部の当接面積S2)は、平面部111,614の当接面積(第1ストッパ部の当接面積S1)よりも小さく設けられている(S1>S2)。
図4の第2ストッパ部による回転規制状態で、各遅角室R1〜R4の容積がゼロになることは回避されている。各ベーン61〜64とこれらに時計回り方向側で対向する各シューとの間で形成される空間(上記隙間)により、第1〜第4遅角室R1〜R4の容積が確保されている。この状態で、溝505は凸部616の外周に開口しているため、溝505の遅角室R1への開口は確保されている。また、他の溝506〜508のロータ外周側への開口部は、その大部分が、それぞれ(ロータ外周面600に摺接する)シュー13,14,11の先端面132,142,112よりも反時計回り方向側に位置し、これら先端面132,142,112によって完全には塞がれない。例えば、X軸正方向側から見て、シュー13(の先端部)の反時計回り方向側の面は、溝506のロータ外周側開口部の時計回り方向側の縁よりも若干反時計回り方向側に位置するが、シュー13の先端部に設けられたアールにより、両者の周方向重なり部分には径方向で若干の隙間ができる。よって、溝506のロータ外周側への開口部は、シュー13の先端部により塞がれることが抑制され、その大部分が遅角室R2へ開口する。溝507についても同様である。また、第1シュー11(の先端部)の反時計回り方向側の面は、溝508のロータ外周側開口部の時計回り方向側の縁よりも溝幅の半分ほど反時計回り方向側に位置し、溝508のロータ外周側開口部は、幅広のシュー11の先端部により半分ほど塞がれるが、残りの半分ほどが遅角室R4に開口する。このように、各遅角室R1〜R4への開口がそれぞれ確保されている。
一方、上記回転規制状態で、各溝505〜508の時計回り方向側の縁は、それぞれシール溝127〜147,117の反時計回り方向側の縁よりも反時計回り方向側に位置しており、各溝505〜508のロータ外周側開口部は、それぞれ各シュー12〜14,11のシール部材S2〜S4,S1と径方向で対向しないように設けられている。
以上のように、ベーンロータ6がハウジングHSGに対して相対回転する全角度範囲にわたって、遅角室Rないし進角室Aの容積がゼロになることは回避されており、また、第1溝516〜518の進角室A2〜A4への開口及び第2溝505〜508の遅角室R1〜R4への開口は確保されている。
油圧回路は、2系統の通路、すなわち各遅角室R1〜R4に対して作動油を給排する遅角通路50、及び各進角室A1〜A4に対して作動油を給排する進角通路51を有している。両通路50,51には、流路切換弁54を介して、供給通路52とドレン通路53が接続されている。供給通路52には、オイルパン55内の油を流路切換弁54へ圧送するポンプPが設けられている。ポンプPは、機関のクランクシャフトにより回転駆動され、例えば一方向の可変容量ベーンポンプを用いることができる。ドレン通路53の下流端はオイルパン55に連通している。
カムシャフト3とベーンロータ6とハウジングHSG(リアプレート9)には、遅角通路50及び進角通路51の一部が形成されている。
カムシャフト端部30には、溝500,504,510,514と孔502,512と孔501,503,511,513が設けられている。溝500〜514は、端部30の外周面の周方向全範囲にわたり、中心軸Oに向かって所定深さまで形成された環状溝であり、遅角通路用の溝500,504と進角通路用の溝510,514を有している。溝500〜514のX軸方向幅は略同じである。溝500,510は、端部30のX軸負方向側に設けられてシリンダヘッド内に配置され、この順にX軸負方向に向かって並んでいる。溝504,514は、端部30のX軸正方向側に設けられ、この順にX軸負方向に向かって並んでいる。溝504は、ベーンロータ6のカムシャフト挿通孔601内に配置され、溝514は、リアプレート9のカムシャフト挿通孔90内に配置されている。溝514のX軸方向幅はプレート本体9aの半分弱であり、溝514のX軸方向中心位置はプレート本体9aのX軸方向中心位置と略一致している。
孔502,512は、端部30の内部にX軸方向に延びて形成された軸方向通路であり、遅角用の通路502と進角用の通路512を有している。通路502,512は、(ボルト孔32より小さい)所定の直径を有して、それぞれカムシャフト端面300に開口している。図3に示すように、X軸方向から見て、通路502は、回転軸Oを挟んで通路512と略対向する位置に設けられており、回転軸Oから通路502の中心軸までの距離は、回転軸Oから通路512の中心軸までの距離と略等しい。通路502のX軸方向寸法は溝500まで達する大きさに、通路512のX軸方向寸法は溝510まで達する大きさに、それぞれ設けられている。端部30がカムシャフト挿通孔601に挿入され設置された状態で、通路502,512の端面300における開口部は、カムシャフト挿通孔601のX軸正方向側の底面により塞がれる。
孔501〜513は、端部30の内部にX軸に対して略直角方向に延びて形成された径方向通路であり、遅角用の通路501,503と進角用の通路511,513を有している。通路501は溝500と軸方向通路502との間に、通路503は溝504と軸方向通路502との間に、通路511は溝510と軸方向通路512との間に、通路513は溝514と軸方向通路512との間に、それぞれ貫通形成されてそれらを接続している。
流路切換弁54からの遅角通路50は、回転体であるカムシャフト3(端部30)内の油路に接続する際、まず環状溝500と連通する。環状溝500は径方向通路501を介して軸方向通路502に連通し、軸方向通路502は径方向通路503を介して環状溝504と連通している。同様に、流路切換弁54からの進角通路51は、端部30において環状溝510と連通し、環状溝510は径方向通路511、軸方向通路512、及び径方向通路513を介して環状溝514と連通している。
また、遅角側の通路としてベーンロータ6に上記溝505〜508が設けられ、進角側の通路としてリアプレート9に上記溝515〜518が設けられている。
端部30がカムシャフト挿通孔601に挿入され設置された状態で、端部30内の遅角側通路501〜503は、環状溝504を介してベーンロータ6の遅角側溝505〜508と接続し、溝505〜508を介して各遅角室R1〜R4と連通する。各溝505〜508は、ロータ60の内径側では環状溝504に連通し、外径側ではそれぞれ遅角室R1〜R4に連通する。また、端部30内の進角側通路511〜513は、環状溝514を介してリアプレート9の進角側溝515〜518と連通し、各溝515〜518を介して各進角室A1〜A4と連通する。各溝515〜518は、ロータ60の内径側では環状溝514に連通し、外径側ではそれぞれ進角室A1〜A4に連通する。環状溝504を設けることにより、ベーンロータ6における遅角側油溝505〜508のロータ周方向でのレイアウト自由度を向上し、環状溝514を設けることにより、リアプレート9における進角側油溝515〜518のロータ周方向でのレイアウト自由度を向上している。
流路切換弁54は、進角室A1〜A4又は遅角室R1〜R4へ給排される作動油圧を制御する4ポート3位置の方向制御弁であり、いわゆる直動式のソレノイド弁である。流路切換弁54は、機関側(シリンダヘッド)に固定されたバルブボディと、バルブボディに固定されたソレノイドSOLと、バルブボディの内部に摺動自在に設けられたスプール弁体とを有している。バルブボディには、供給通路52と連通する供給ポート540、遅角通路50と連通する第1ポート541、進角通路51と連通する第2ポート542、及びドレン通路53と連通するドレンポート543が形成されている。ソレノイドSOLは、電磁コイルへの通電によってスプール弁体を押圧移動させる。電磁コイルは、ハーネスを介してコントローラCUに接続されている。スプール弁体が移動するに応じて、第1ポート541や第2ポート542が開閉される。ソレノイドSOLの非通電状態で、スプール弁体は、リターンスプリングRSのばね力によって、供給ポート540(供給通路52)と第2ポート542(進角通路51)とを連通し、かつ第1ポート541(遅角通路50)とドレンポート543(ドレン通路53)とを連通する位置に付勢されている。一方、ソレノイドSOLが通電された状態で、スプール弁体は、コントローラCUからの制御電流によって、リターンスプリングRSのばね力に抗して、供給ポート540(供給通路52)と第1ポート541(遅角通路50)とを連通し、かつ第2ポート542(進角通路51)とドレンポート543(ドレン通路53)とを連通する位置、又は所定の中間位置に移動制御されるようになっている。
コントローラCUは電子制御ユニットであり、機関回転数を検出するクランク角センサや吸入空気量を検出するエアフローメータ、スロットルバルブ開度センサ、機関の水温を検出する水温センサ等の各種センサ類からの信号を入力して、現在の機関運転状態を検出する。また、コントローラCUは、検出された機関運転状態に応じて流路切換弁54のソレノイドSOLにパルス制御電流を出力し、流路の切り替え制御を行うことで、進角室A1〜A4又は遅角室R1〜R4へ作動油を選択的に給排する。
係合凹部730のX軸方向深さは、係合部714のX軸方向長さと略同じに設けられ、係合凹部730の径は、係合部714の径よりも若干大きめに設けられている。係合凹部730は、スリーブ73の軸を通る平面で切った断面が略台形であり、X軸正方向側の開口部に向かって徐々に大径となる。換言すると、係合凹部730は傾斜面を有しており、X軸負方向側の底部に向かって小径となるテーパ面が設けられている。X軸に対する係合凹部730の内周面(傾斜面)の傾きは、X軸に対する係合部714の外周面(傾斜面)の傾きに略等しい。
係合凹部730の位置は、係合凹部730に係合部714が係合するとき、ハウジングHSGとベーンロータ6の相対回転角度が機関始動に最適な位相となるように設けられている。具体的には、係合凹部730は、図3の最遅角位置で、X軸方向から見てロックピストン71の先端(係合部714)と対向し、略一致する位置に設けられている。換言すると、ベーンロータ6が最遅角側に相対回転して第1ストッパ部により回転が規制されたとき、X軸方向から見て、ロックピストン71(係合部714)の位置と係合凹部730の位置が重なる。このとき、図7に示すように、ロータ周方向における係合凹部730の軸心の位置が、係合部714の軸心に対して、図3の反時計回り方向(第1シュー11の側)に僅かにオフセットするように設けられている。
摺動用孔70には、ロックピストン71に作用する油圧力を発生させる受圧室が設けられている。具体的には、摺動用孔70における(小径部701のX軸正方向端面を含む)大径部702の内周面と、ロックピストン71における(大径部712のX軸負方向端面を含む)小径部711の外周面との間に、第1受圧室77が画成されている。また、係合部714の表面(X軸負方向側の先端面及び傾斜面)とリアプレート9のX軸正方向側の面(係合部714が係合凹部730に嵌り込んだロック状態では、スリーブ73の内周面と底面)との間に、第2受圧室78が画成されている。そして、第1ベーン61には、第1、第2受圧室77,78に作動室の油圧を導くための通路が設けられている。すなわち、第1ベーン61の内部に連通孔75が周方向に延びて形成されており、連通孔75を介して、遅角室R1と第1受圧室77とが接続されて常時連通し、遅角室R1の油圧が第1受圧室77に導かれる。一方、第1ベーン61のX軸負方向側の面には、連通溝76が摺動用孔70からロータ60の外周に向かって延びて形成されており、X軸正方向側から見て第1ベーン61の反時計回り方向側根元部分において、連通溝76がロータ外周面600に開口している。連通溝76を介して、進角室A1と摺動用孔70のX軸負方向端とが接続されて常時連通し、進角室A1の油圧が第2受圧室78に導かれる。(ロック状態では、第1溝515の油圧がそのまま、連通溝76を介して第2受圧室78に導かれる。)このように、遅角室R1と進角室A1に選択的に供給される作動油は、それぞれ連通孔75と連通溝76を介して第1受圧室77と第2受圧室78に導かれ、ともにロックピストン71をX軸正方向側の後退方向へ付勢する油圧力を発生する。
ベーンロータ6が最遅角側に相対回転して第1ストッパ部により回転が規制されると、X軸方向から見て、ロックピストン71の位置と係合凹部730の位置が重なり、ロックピストン71がX軸負方向へ移動可能となる。このとき、コイルスプリング74のばね力は、係合部714が第1ベーン61(摺動用孔70)から進出して係合凹部730に嵌まり込むことをアシストするように作用する。ロックピストン71が係合凹部730と係合すると、リアプレート9とベーンロータ6との相対回転、すなわちハウジングHSGとカムシャフト3との相対回転が規制(ロック)される。一方、ロックピストン71は、連通孔75を介して遅角室R1から第1受圧室77内に供給される作動油圧により、大径部712においてX軸正方向側に油圧力を受ける。また、ロックピストン71は、連通溝76を介して進角室A1(第1溝515)から第2受圧室78内に供給される作動油圧により、係合部714においてX軸正方向側に油圧力を受ける。上記油圧力はいずれも、ロックピストン71がコイルスプリング74のばね力に抗してX軸正方向側に移動し、係合部714が係合凹部730から退出して摺動用孔70の内部に嵌まり込むことをアシストするように作用する。これにより、ロックピストン71と係合凹部730との係合が解除される。このように、コイルスプリング74はロック状態維持機構として機能する一方、連通孔75と連通溝76は解除用油圧回路として機能する。
摺動用孔70の内部には、ロックピストン71の背圧室72が設けられている。背圧室72は、摺動用孔70のX軸正方向側に設けられた低圧室であり、フロントプレート8のX軸負方向側の面と、摺動用孔70の内周面と、ロックピストン71(摺動部710)の内周面とにより画成されている。背圧室72は、径方向溝605を介して円形溝604と連通し、さらに大径孔80を介して装置の外部(外気)と連通しており、これにより大気圧(低圧空間)に解放されている(図2参照)。換言すると、径方向溝605と円形溝604は、ベーンロータ6のX軸正方向側の端面に形成された呼吸用の溝であり、空気抜き孔として機能し、背圧室72の圧力を開放して低圧に維持するための背圧逃し部を構成している。
以下、装置1の作用を説明する。
(位置決め作用)
ハウジング本体10にリアプレート9を設置する際には、位置決め手段により、ハウジング本体10とリアプレート9との周方向位置決めを行う。リアプレート9の位置決め用凸部96をハウジング本体10の位置決め用凹部116に嵌合することにより、リアプレート9に対するハウジング本体10の回転位置が調整され、両者の周方向位置決めが行われる。凸部96と凹部116の寸法は、凸部96が凹部116に嵌合した状態で、ハウジング本体10とリアプレート9の周方向のガタが発生しない寸法にそれぞれ設定されている。この位置決めにより、リアプレート9の雌ねじ部(ボルト孔)91〜94がハウジング本体10のボルト孔110〜140とそれぞれ略同軸上となる。また、第1ベーン61(平面部614)が第1シュー11(平面部111)に当接した状態で、係合凹部730が摺動用孔70(ロックピストン71)に対して(僅かにオフセットしつつ)略同軸上となる。なお、位置決め手段として、リアプレート9に凸部96の代わりに凹部を設け、例えば治具をリアプレートの上記凹部とハウジング本体の凹部116とに嵌合することで位置決めを行ってもよい。この場合、ピン等の部品点数を削減できると共に、装置1の軽量化を図ることができる。
装置1を機関に取付ける際には、一体に組み付けられたユニットをカムシャフト3に取り付ける。まず、カムシャフト3の端部30(挿通部301)を、X軸負方向側から、上記ユニットのハウジングHSGに形成された挿通孔90に挿通するとともに、ハウジングHSG内に収容されたベーンロータ6のカムシャフト挿通孔601に挿通・設置する。このとき、位置決め手段を用いて、カムシャフト3に対するベーンロータ6の周方向位置決めを行う。すなわち、カムシャフト挿通孔601の底面には位置決め孔603が設けられている。また、カムシャフト端面300には1つの凸部が設けられている。端部30をカムシャフト挿通孔601に挿入・設置する際、上記凸部を孔603に嵌合させつつ、端部30を、その端面300がカムシャフト挿通孔601の底面に当接するまで、挿入する。通路502又は通路512のカムシャフト端面300における開口部は、端面300がカムシャフト挿通孔601の底面に当接することで塞がれる。このとき、上記凸部の嵌合により、ベーンロータ6とカムシャフト3の相対回転が拘束され、回転方向(周方向)の相対位置決めが行われる。これにより、クランクシャフト(ハウジングHSG)に対するカムシャフト3(ベーンロータ6)の初期位相が設定される。すなわち、上記凸部と位置決め孔603は、装置1をカムシャフト3に取り付ける際、カムシャフト3に対するベーンロータ6の回転位置を調整し、決定するための位置決め手段を構成している。
なお、カムシャフト側の凸部は、端面300に設けられた軸方向通路502,512のいずれかの開口部にピン等を挿入設置することで設けることとしてもよい。この場合、凸部を設けるため端面300に別途加工を施す必要がなく、加工の手間を省くことが可能であり、上記ピン等は、通路502又は通路512の盲プラグとしてその開口を塞ぐ機能をも果たす。また、位置決め孔603はそこに凸部を嵌合して周方向の相対回転を拘束できるものであればよく、半長円状に限らず、例えば円形の断面形状を有していてもよい。本実施例1のように半長円状の断面としてロータ径方向に寸法の余裕を持たせることで、製造誤差等を吸収でき、凸部の嵌合が容易となる。また、位置決め孔603を孔602に連続させず、孔602から分離した単独の孔として設けてもよい。また、ベーンロータ6の側に凸部を設け、カムシャフト端部30の側にこれと嵌合する凹部を設けることとしてもよい。本実施例1では、カムシャフト端部30の側に凸部を設けているため、孔の底(カムシャフト挿通孔601の底面)に凸部を設ける場合に比べて、製造や組付が容易である。
また、装置1ではフロントプレート8に大径孔80を設けているため、カムボルト31の締結が容易である。すなわち、組み立てられた装置1のユニット(のベーンロータ6)をカムシャフト3に取り付ければ、ハウジングHSGのX軸正方向側(フロントプレート8側)に、大径孔80によって、開口部ができる。この開口部からカムボルト31を挿入して回転させるだけで、ベーンロータ6をカムシャフト3に締結固定することが可能である。よって、カムシャフト3への装置1の取り付けを容易化できる。なお、大径孔80を介した開口部により、ロックピストン71の背圧逃がし部も同時に構成できる。
次に、装置1の位相変換作用を説明する。なお、下記制御内容は様々に変更可能である。図3は機関停止時(機関始動時)の状態、図4は機関作動時の一状態をそれぞれ示す。
機関始動時は、予めロック機構7がベーンロータ6を始動に最適な遅角側の初期位置、具体的には最遅角位置に拘束している(図3)。このため、イグニッションスイッチのオン操作により機関が始動されると、円滑なクランキングによって良好な始動性が得られる。
機関始動後の所定の低回転低負荷域では、コントローラCUから制御電流が流路切換弁54に出力されない。スプール弁体は、リターンスプリングRSのばね力によって、供給ポート540と第2ポート542とを連通し、第1ポート541とドレンポート543とを連通する位置に留まる。よって、ポンプPから吐出され、供給通路52から供給ポート540を介してバルブボディ内に流入する作動油は、第2ポート542から進角通路51内に流入し、ここからカムシャフト3の軸方向通路512及び径方向通路511等とリアプレート9の各第1溝515〜518を通って、各進角室A1〜A4に供給される。図3の最遅角位置(ロック状態)では、第1溝515と連通溝76はX軸方向側から見て重なり合い、互いに連通している。すなわち、第1ストッパ部により相対回転が規制され、第1進角室A1への第1溝515の開口面積が略ゼロであるときにも、第1溝515と連通溝76が接続して連通する。第1溝515から供給される作動油により第2受圧室78内の圧力が上昇するに伴い、ロックピストン71(係合部714)はX軸正方向側に作用する油圧力を受ける。上記油圧力がコイルスプリング74のばね力よりも大きくなると、ロックピストン71がX軸正方向に移動(後退)する。係合部714が係合凹部730から完全に抜け出すと、ロック状態が解除される。すなわち、ベーンロータ6の自由な回転が許容され、バルブタイミングの任意の変更が可能な状態となる。ロック解除後、各進角室A1〜A4に供給される油圧により、ベーンロータ6は、ハウジングHSGに対して、図3に示す位置からハウジングHSGの回転方向(図3の矢印方向)に回転し、クランクシャフトに対するカムシャフト3の回転位相を進角側に変更させる。この結果、吸気弁の開閉タイミングが進角側となり、吸気弁と排気弁がともに開弁する期間であるバルブオーバーラップが大きくなって、かかる低回転低負荷時における慣性吸気の利用による燃焼効率が向上して機関回転の安定化と燃費の向上が図られる。図4に示すように、各進角室A1〜A4の容積が最大となり、各遅角室R1〜R4の容積が最小となる最進角位置にベーンロータ6が相対回転すると、バルブオーバーラップが最大となる。
機関の運転状態が例えば高回転高負荷域に移行したときは、コントローラCUから制御電流が流路切換弁54に出力される。スプール弁体は、リターンスプリングRSのばね力に抗して、供給ポート540と第1ポート541とを連通し、第2ポート542とドレンポート543とを連通する位置に移動する。よって、ポンプPから吐出された作動油は、流路切換弁54の第1ポート541から遅角通路50内に流入し、カムシャフト3の軸方向通路502及び径方向通路501等とベーンロータ6の各第2溝505〜508を通って各遅角室R1〜R4に供給されるため、各遅角室R1〜R3の内圧は上昇する。一方、各進角室A1〜A4内の作動油は、進角通路51及びドレン通路53を介してオイルパン55に排出され、各進角室A1〜A4の内圧は低下する。このとき、ロック機構7において、第2受圧室78に供給される油圧は低下するものの、今度は遅角室R1の油圧の上昇に伴い、この油圧が連通孔75(図7参照)から第1受圧室77に供給され、ロックピストン71の大径部712の受圧面に油圧力として作用する。これにより、ロックピストン71がコイルスプリング74のばね力に抗して係合凹部730から抜け出した解除状態が維持される。よって、各遅角室R1〜R4の内圧が各進角室A1〜A4の内圧よりも大きくなると、ベーンロータ6は、ハウジングHSGの回転方向(図3の矢印方向)とは反対側の反時計回り方向に、ハウジングHSGに対して回転し、クランクシャフトに対するカムシャフト3の回転位相を遅角側に変更させる。この結果、吸気弁の開閉タイミングが遅角側に制御され、バルブオーバーラップが小さくなって、かかる高回転高負荷時における機関の出力を向上させることができる。図3に示すように、各遅角室R1〜R4の容積が最大となり、各進角室A1〜A4の容積が最小となる最遅角位置にベーンロータ6が相対回転すると、バルブオーバーラップが最小となる。
さらに、例えば、機関が中回転中負荷領域に移行した場合は、コントローラCUが流路切換弁54を制御してスプール弁体を中間移動位置に保持する。これによって、各遅角室R1〜R4及び各進角室A1〜A4の内圧がそれぞれ略一定に保たれ、ベーンロータ6が中間回転位置に制御される。よって、中回転中負荷域における最適なバルブタイミング制御が可能になり、燃費と機関出力の両方を満足させることが可能になる。
上記のように機関作動時、カムシャフト3の回転中、吸気弁を閉方向に付勢するバルブスプリングからカムシャフト3のカムへ伝達される回転反力により、カムシャフト3には、いわゆる交番トルク(反転トルク)が発生する。すなわちカム形状に起因して、カムシャフト3の(時計回り方向の)回転を妨げる(反時計回り方向の)負トルクと、カムシャフト3の回転をアシストする(時計回り方向の)正トルクが、カムシャフト3に交互に作用する。そして、交番トルクは、全体としてみると負トルク側へオフセットしている。すなわち、カムシャフト3の回転周期ごとに発生する正トルク及び負トルクを時間的に積分すると負となり、カムシャフト3には平均して負トルクが作用する。
機関が停止すると、ポンプPの作動が停止される。また、コントローラCUから流路切換弁54への通電が遮断される。よって、進角室A1〜A4と遅角室R1〜R4への作動油圧の供給が停止される。このため、機関停止直後には、カムシャフト3に発生するフリクション(負トルク側にオフセットした交番トルク)によって、ベーンロータ6は、ハウジングHSGに対して、ハウジングHSGの回転方向(図3の矢印方向)とは反対方向、すなわち遅角側へ回転移動しようとする。よって、機関の停止後、ベーンロータ6は、カムシャフト3のフリクション(交番トルク)によって、予め機関(再)始動に適した所定の初期位置、すなわち図3に示す最遅角側の位置に移動する。換言すると、バルブタイミングが機関(再)始動に適した位相となる。また、ハウジングHSGに対してベーンロータ6が最遅角側に相対回転したとき、ロック機構7のロックピストン71の位置と係合凹部730の位置が重なる。このため、機関停止時には、図7に示すように、コイルスプリング74のばね力により係合部714が進出し、係合凹部730内に嵌まり込んで係合する。これにより、ロックピストン71がベーンロータ6の自由な相対回転を規制する。
以上のように、装置1では、機関が停止する際、交番トルクによりベーンロータ6をハウジングHSGに対して遅角側の初期位置に回転移動させることで、機関再始動時においても装置1を初期位置から制御可能としている。
上記のように、ロック機構7を作動させることで、作動油圧の有無に関わらず装置1を初期位置(図3)から制御することが可能である。よって、機関始動時にカムシャフト3に作用する交番トルクによって生じうるベーンロータ6のバタツキを抑制し、ベーン61〜64とハウジングHSG(シュー11〜14)との衝突による異音(打音)の発生を抑制できる。また、ノッキング等を抑止しつつ、機関ないし装置1を安定的に作動させることができる。これは機関始動時に限らず、油圧があまり発生しないアイドル時においても同様である。なお、本実施例1では、ロック位置を最遅角側としたが、これに限らず、機関始動等に適した所定位置でロックしてこれを装置1の初期位置とすることとしてもよい。また、ロック機構7(ロックピストン71)をハウジングHSGの側に設け、ベーンロータ6との間でロックするようにしてもよい。本実施例1では、幅広の第1ベーン61にロックピストン71が設けられており、ハウジングHSGに設けられた係合凹部730にロックピストン71が挿入されることで、ベーンロータ6の相対回転を拘束する。このようにベーンロータ6にロックピストン71を設置することで、ハウジングHSGにロックピストン71を設けた場合と比べ、ハウジングHSG(装置1)の大型化を抑制することが可能である。また、ロック機構7(ロックピストン71)をベーンロータ6のベーン61ではなく、ロータ60に設けてもよい。本実施例1では、ロックピストン71を幅広の第1ベーン61に設けることで、ロータ60の径方向大型化を抑制でき、これによりベーン61〜64の受圧面積を確保しつつ装置1の径方向大型化を抑制できる。
ロック機構7は、ベーンロータ6に形成された摺動用孔70と、ロックピストン71と、ハウジングHSGの内面に設けられた係合凹部730と、コイルスプリング74と、を備え、機関の状態に応じてロックピストン71がベーンロータ6に対し出没することにより、ベーンロータ6の相対回動を規制し、又はこの規制を解除する。例えば、機関を停止した際、交番トルクによってベーンロータ6が所定の初期位置まで回動してきたとき、コイルスプリング74の付勢力によって自動的にロックピストン71を係合凹部730に係合させる。よって、ロック動作のための特別なアクチュエータを必要としないため、ロック機構7として例えばクラッチ機構やレバー機構を用いた場合よりも機構が簡便であり、ロック作動の信頼性を確保しつつ低コスト化できる。なお、ロックピストン71の付勢部材として、コイルスプリング以外の弾性部材、例えば板ばね等を用いてもよい。また、本実施例1では、ロックピストン71に流体圧が作用することによりロックピストン71が係合凹部730から退出し、ロックが解除されることとしたが、他の構成により解除機構を構成してもよい。本実施例1のように、作動室に供給される作動流体(作動油)の圧力によってロックが解除される構成とした場合、装置1の作動油圧をそのまま用いてロック解除を行うため、ロック解除動作のための特別なアクチュエータを必要としない。よって、機構が簡便であり、ロック作動の信頼性を確保しつつ低コスト化を実現できる。なお、進角側と遅角側どちらか一方のみの作動油圧によりロックを解除する構成としてもよい。例えば連通孔75を省略し、進角室A1(第1溝515)の油圧が第2受圧室78に供給されるときにのみロックピストン71が解除状態となるようにしてもよい。本実施例1では、装置1の作動時、進角側と遅角側いずれか一方に油圧が導かれるときは常にロックピストン71が解除状態に保持される。すなわち、機関の状態に応じて、第1受圧室77に遅角側の油圧が、第2受圧室78に進角側の油圧がそれぞれ導かれ、これら両油圧により、コイルスプリング74の付勢力に抗してロックピストン71が作動する。よって、ベーンロータ6が進角方向又は遅角方向に回動するたびに係合・解除が繰り返されることが抑制されるため、装置1の作動を円滑化できるだけでなく、ロックピストン71の作動回数が低減され、これにより装置1の耐久性を向上できる。なお、第1受圧室77に進角室A1の油圧が導かれ、第2受圧室78に遅角室R1の油圧が導かれるように構成してもよい。
本実施例1では、摺動用孔70を異径の(段付きの)シリンダとし、これに対応してロックピストン71に大径部712と小径部711を設け、ロックピストン71を異径の(段付きの)ピンとしている。そして、摺動用孔70の小径部701の内周に小径部711が、大径部702の内周に大径部712が、それぞれ摺動自在に設けられている。これにより、摺動用孔70内で、第1受圧室77が画成されている。このように、異径の(段付きの)シリンダとピンを用いることで、第1受圧室77と第2受圧室78とを別々に液密に設けることが簡便に達成され、ロックピストン71に対して進角室A1と遅角室R1からの油圧力を別々に作用させる構成を容易に実現できる。なお、シリンダ(摺動用孔70)とロックピストン71の形状や、油路75や溝76の構成を適宜調整して、第1、第2受圧室77,78を任意の形状としたり任意の位置に設けたりしてもよい。ロックピストン71は、回転軸O以外の方向、例えばハウジングHSGの径方向に進退するものであってもよい。換言すると、ロックピストン71を収容するシリンダは、回転軸方向以外、例えばハウジング径方向に形成されていてもよい。本実施例1では、摺動用孔70は回転軸方向(X軸方向)に延びて形成され、ロックピストン71は回転軸方向にその先端(係合部714)が出没する。このようにロックピストン71が回転軸方向に作動するように構成することで、装置1の径方向大型化を抑制できる。また、ベーンロータ6の回転による遠心力がロック機構7の作動に影響を及ぼすことを抑制できる。
また、背圧逃し部により、装置1の作動時、ロックピストン71は背圧室72内の圧力の影響を受けずに円滑に移動する。すなわち、係合部714が係合凹部730から離脱してロックピストン71がX軸正方向側へ移動し、背圧室72の容積が縮小しようとする際、背圧室72における空気は、背圧逃し部を介して装置外部の低圧空間へと伝わる。よって、背圧室72内は低圧に維持される。また、背圧室72内には、背圧室72の周囲の隙間から漏出してきた作動油が溜まる。この油も、背圧逃し部を介して装置外へ排出される。よって、背圧室72の容積が縮小しようとする際、空気や油によりこれが妨げられることなく、背圧が開放される。したがって、ベーンロータ6の全ての相対回転範囲で、ロックピストン71の良好な作動(摺動用孔70における摺動)が確保され、ロック解除が円滑に行われる。
ロックピストン71の先端(係合部714)は、略円錐台の形状を有し、X軸負方向(係合凹部730)に向かって小径となるように設けられているため、係合凹部730に係合しやすい。係合凹部730も、X軸正方向側の開口に向かって大径となるように設けられているため、係合部714が係合しやすい。よって、ロックが円滑に行われる。
また、係合部714及び係合凹部730はともにテーパ面(傾斜面)を有している。そして、図3の第1ストッパ部による相対回転規制位置で、係合凹部730の軸心は、係合部714の軸心に対して、反時計回り方向(第1シュー11の側)へ周方向に僅かにオフセットしている。このため、ロック時にロックピストン71が係合凹部730に挿入されると、両者の傾斜面同士は、図3の時計回り方向側で互いに接触し、このとき第1ベーン61を図3の反時計回り方向(第1シュー11の側)に押し付ける分力が発生する(クサビ効果)。よって、ロックピストン71が係合凹部730に係合すると、第1ベーン61が第1シュー11に押し付けられるため、より確実に、ベーンロータ6を相対回転規制位置(初期位置である最遅角位置)に固定することができる。なお、両傾斜面が接触するための構成として、軸心をオフセットさせる以外に、係合部714や係合凹部730の形状を適宜変化させる等してもよい。本実施例1のように軸心をオフセットさせた場合、構成が簡便である。また、係合時に上記分力を発生させる傾斜面を、係合部714もしくは係合凹部730のどちらか一方のみに設けることとしてもよい。この場合も、クサビ効果を得ることができる。本実施例1のように両方に傾斜面を設けた場合、押し付け力を効果的に得つつ、摩耗を低減できる。
上記のように凹部116と凸部96は、装置1の各構成部材を組み付ける際、ハウジング本体10に対するリアプレート9の回転位置、すなわちロックピストン71と係合凹部730との周方向相対位置を調整し、決定するための位置決め手段を構成している。この位置決め手段を用いて、ロックピストン71と係合凹部730とが正確に位置決めされるため、上記クサビ効果を含め、ロックピストン71の円滑な係合作用が得られる。ここで、凸部96は嵌合孔95(係合凹部730)と近接した位置に設けられているため、ロックピストン71と係合凹部730との位置決めをより正確に行うことができる。
第1ストッパ部を構成する第1ベーン61(の根元部分)は他のベーン62〜64(の根元部分)に対して周方向の幅が広く厚い。このように、複数のベーン61〜64のうち少なくとも一枚は幅広のベーン61とすることで、ロック機構7をベーンロータ6(ベーン)に設けることを容易にしつつ、この幅広であり剛性が高いベーン61をシュー11と当接させて、ベーンロータ6の一方向側の相対回転を規制するようにした。よって、上記当接に対するベーン61の強度を担保しつつ、第1ストッパ部を簡便に設けることができる。また、他方向側の相対回転を規制する第2ストッパ部(凸部616)は、第1ベーン61の根元に隣接して、ロータ60から外周側に突出して構成されている。よって、第2ストッパ部の当接時には、第1ベーン61を根元から(ロータ60に対して周方向に)折り曲げようとする力(モーメントアーム)が小さく、第1ベーン61に過大な力が作用しにくい。したがって、第2ストッパ部の当接に対するベーン61の強度を担保しつつ、第2ストッパ部を簡便に設けることができる。また、上記両方向の回転規制時には、他のベーン62〜64はシュー11〜14と接触しないように構成されていることで、これらのベーン62〜64の強度(耐久性)をも向上することができる。よって、相対回動を規制するための強度を十分に得つつ、ベーンロータ6の耐久性を向上できる。
なお、初期位置で機能する第1ストッパ部は、当接回数の多さや(機関停止時に油圧制御しないことに起因する)当接する力の強さにより、変形するおそれが高く、これにより回転規制位置(初期位置)が変化してしまうおそれがある。本実施例1では、第1ストッパ部の当接面積S1を、第2ストッパ部の当接面積S2よりも大きく設けている(S1>S2)。このため、当接する際に発生する面圧(当接面圧)は、第2ストッパ部よりも第1ストッパ部のほうが小さい。よって、第1ストッパ部の変形及び回転規制位置の変化をより効果的に抑制することができる。
また、ハウジング本体10及びベーンロータ6は、高硬度の材料である鉄系金属材料によって成形されている。よって、ストッパ部として機能するベーン61や凸部616やシュー11,12の剛性を高めて、装置1の耐久性をより向上することができる。
なお、(X軸正方向側から見て)時計回り方向側の相対回転を規制する構成として、凸部616を設ける代わりに、第1ストッパ部と同様、幅広の第1ベーン61を第2シュー12と接触させることとしてもよい。また、他のベーン62〜64とシュー11〜14のいずれか1組、又は複数組を当接させ、この当接部により第1、第2ストッパ部を構成することとしてもよい。また、この当接部を有するベーンを、第1ベーン61と同様に幅広に形成して剛性を高めることとしてもよい。また、幅広のベーン61をシュー11に接触させずに第1ストッパ部を構成することとしてもよい。例えば、X軸正方向側から見て、ベーン61の反時計回り方向側の根元にもシュー11と接触する突出部(凸部)を設け、これにより反時計回り方向側の相対回転を規制することとしてもよい。本実施例1のように、ベーン61の反時計回り方向側の根元には突出部を設けず、シュー11にベーン61自体が接触するように設けることで、ベーンロータ6の相対回転角度範囲をより大きく確保することが可能である。
ベーンロータ6は鉄系金属材料により成形されるため、ロックピストン71が摺動することに起因する摺動用孔70の摩耗を抑制できる。また、焼結により成形されるため、摺動用孔70における無数の微細孔には潤滑油が長時間滞留する。よって、機関を長時間(例えば数日〜数ヶ月)運転せず、その間、装置1を使用しなかった後、機関を再始動させたときに、装置1が作動してロックピストン71の大径部712の後端角部と摺動用孔70の内周面とが当接した場合でも、摺動用孔70に潤滑油が保持されているため、摩耗を抑制することができる。すなわち、装置1では、焼結金属の形状特性を利用し、これに潤滑油保持機能を持たせることで、摩耗低減効果を更に向上させている。
ロックピストン71とスリーブ73は、耐磨耗性の高い材料、具体的には鉄系金属材料で作られている。よって、ロックピストン71と係合凹部730(係合部714に摺接する傾斜面)の硬度を確保でき、特に摩耗を効果的に低減できる。したがって、ロックピストン71の作動悪化をより効果的に抑制できる。なお、スリーブ73を別部材とせず、係合凹部730をリアプレート9と一体に直接設けることとしてもよい。本実施例1では、スリーブ73は、リアプレート9とは別部材で構成されているため、係合凹部730の形状や材質等を、ロックピストン71の係脱(係合及び解除)に適したものに調整することが容易であると共に、上記係脱に際してリアプレート9が摩耗したり拗れたりすることを抑制できる。すなわち、耐磨耗性に特に適した材料を選択することができ、また傾斜面の加工精度を向上できる等の利点を有している。
なお、(第2溝505〜508が延びる方向に対して直角な平面で切った)第2溝505〜508の断面形状は、実施例1のような矩形状に限定されず、例えば半円形状や半楕円形状、又は三角形状に形成してもよい。例えば第2溝505〜508の断面を、アールを有する曲線状に形成した場合は、角部を有する形状、例えば矩形状に形成した場合と比べ、第2溝505〜508における応力集中の発生を抑制して、強度・耐久性を向上できる。特に、本実施例1のように、ロータ60とベーン61〜64が一体に成形され、かつ第2溝505〜508が各ベーン62〜64の根元に形成されている場合、応力集中が発生するおそれが高いため、有効である。また、第2溝505〜508を型成形する場合に用いられる金型の摩耗を抑制することも可能であり、これにより加工設備の耐久性も向上できる。これに対し、本実施例1では、断面矩形状としたことで、第2溝505〜508の流路断面積を増大することがより容易である。
また、第1溝515〜518が設けられたリアプレート9の内周側(プレート本体9a)のX軸方向寸法は、スプロケット2が設けられた外周側部分のX軸方向寸法よりも大きく設定されている(X軸方向に厚く形成されている)。よって、第1溝515〜518が形成される部位(溝周囲)の肉厚を厚くして強度を向上しつつ、スプロケット2を含むリアプレート9全体としての肉厚をできるだけ薄くして装置1の小型化や軽量化を図ることができる。なお、本実施例1では、スプロケット2が設けられる外周側部分のみ薄く形成したが、(第1溝515〜518の周囲を除く)内周側部分をも薄く形成することで、より軽量化等を図ることとしてもよい。また、ベーンロータ6の各ベーン61〜64の先端面とハウジング本体10の内周面との間、及びベーンロータ6のロータ60の外周面600とハウジング本体10の各シュー11〜14の先端面112〜142との間には、若干の径方向隙間が設けられている。上記径方向隙間はシール部材S1〜S4,612〜642により埋められるとともに、それらのシール本体118〜148等を押圧する付勢手段(板バネ)119〜149等が弾性変形することにより、ベーンロータ6は、ハウジングHSGに対して、上記隙間内で径方向に若干変位可能に設けられている。一方、リアプレート9の挿通孔90の内周とカムシャフト3の外周との間の隙間は、ベーンロータ6の上記径方向に変位可能な寸法(上記径方向隙間)よりも小さく設けられている。よって、挿通孔90は、リアプレート9(ハウジングHSG)に対するカムシャフト3(ベーンロータ6)の径方向位置決めを行うとともに、カムシャフト3に対する装置1の軸受けとして機能する。ここで、上記のように、第1溝515〜518が設けられるリアプレート9の内周側部分(プレート本体9a)は、他の部位(外周側部分)よりも肉厚(X軸方向寸法)が大きく設けられている。これにより、上記軸受け(挿通孔90の周囲)のX軸方向幅を比較的大きくして、上記軸受け機能を向上することが可能になっている。
本実施例1の装置1は、カムシャフト3に固定されるとともにハウジングHSG内に相対回転可能に設けられ、ハウジングHSGの内周(シュー11〜14)との間で複数の空間を画成するロータ60、及びこのロータ60の外周側に突出して上記複数の空間を複数の作動室(進角室A1〜A4又は遅角室R1〜R4)に画成する複数のベーン61〜64を有するベーンロータ6を備え、複数の作動室に作動油を給排することで、ハウジングHSGに対するベーンロータ6の回転角、すなわちクランクシャフトとカムシャフト3の相対回転位相を変換する、いわゆるベーンタイプの内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、ハウジングHSG及びベーンロータ6に、複数の作動室に作動流体を給排するための各溝を形成している。具体的には、ハウジングHSGの軸方向端面に複数の第1溝515〜518が、ベーンロータ6の軸方向端面に複数の第2溝505〜508が、それぞれ設けられている。
このように、(周囲に肉厚を要する)貫通孔をベーンロータ6の内部に形成することによってではなく、ベーンロータ6の軸方向端面に凹溝(第2溝505〜508)を設け、これに対向するリアプレート9の軸方向端面により凹溝(第2溝505〜508)を覆うことで、一方の作動室(遅角作動室R1〜R4)への給排通路を構成することとした。よって、ベーンロータ6の軸方向寸法の短縮化に有利であり、装置1を軸方向に小型化することが可能である。同様に、貫通孔をベーンロータ6の内部に形成することによってではなく、リアプレート9の軸方向端面に凹溝(第1溝515〜518)を設け、これに対向するベーンロータ6の軸方向端面により凹溝(第1溝515〜518)を覆うことで、他方の作動室(進角作動室A1〜A4)への給排通路を構成することとした。よって、ベーンロータ6の軸方向寸法の短縮化に有利であり、装置1を軸方向に小型化することが可能である。
ロータ60とベーン61〜64を一体成形せず、別部材としてもよい。本実施例1では、ロータ60とベーン61〜64は一体に成形されるため、部品点数を削減できるとともに、加工や組付けのコストを低減できる。具体的には、これらは一体に型成形されるため、加工がより容易である。なお、ベーンロータ6の材料は特に限定されない。鉄系金属材料のほか、アルミ系金属材料を用いることも可能である。粉末冶金法によらず、例えば押出成形によりベーンロータ6を一体に型成形してもよい。また、ベーンロータ6を型により一体成形するのではなく、他の方法(例えば鋳造や鍛造)により一体成形してもよい。
また、本実施例1では、各作動室A,Rへの作動油の給排通路を凹溝により構成しているため、製造コストを低減できる。例えば、各遅角室R1〜R4への給排通路は、ベーンロータ6に第2溝505〜508として設けられている。よって、給排通路を設ける際、ベーンロータ6の端面に凹溝を成形するだけでよいため、成形が容易であり、工数を削減し、加工時間を短縮できる。すなわち、第2溝505〜508を形成すれば、各遅角室R1〜R4に作動油を分配する複数の通路が形成されるため、例えば複数の孔を個別にベーンロータ6に貫通形成する場合とは異なり、専用の加工工程や設備を追加的に設けずに済む。換言すると、孔をドリル加工するための追加的な設備(フライス盤やボール盤等)の使用を省略できるとともに、ドリル加工する手間を削減し、加工時間を短縮することが可能である。
なお、本実施例1では、ベーンロータ6を型成形する際に同時に第2溝505〜508をも型成形することとしたが、ベーンロータ6の型成形後に切削加工により第2溝505〜508を形成することとしてもよい。本実施例1では、ベーンロータ6は焼結工法により型成形されており、第2溝505〜508は、ベーンロータ6を型成形する際に同時に成形される。換言すると、複数の第2溝505〜508は、粗材状態で金型により成形される。よって、例えば切削加工により溝505〜508を形成する場合と比べて成形が容易であるため、加工の手間を大幅に削減することができ、加工コストを低減できる。また、各溝505〜508を個別に成形するのではなく、ロータ60を成形する際に複数同時に型成形するため、工数及び製造時間を短縮して、専用の加工工程や設備を追加的に設けずに済む。複数の第2溝505〜508は、ベーンロータ6の軸方向端面に形成されるため、金型によって成形することが容易である。
また、ベーンロータ6における軸方向一端(ロータ60のX軸負方向端)にはカムシャフト挿通孔601が設けられており、第2溝505〜508は、ベーンロータ6におけるカムシャフト挿通孔601の側(X軸負方向側)の軸方向端面に設けられている。よって、カムシャフト挿通孔601が設けられていない場合に比べ、ベーンロータ6において第2溝505〜508を形成する範囲が小さくなる(内周側に第2溝505〜508を形成する必要がない)。よって、粗材状態で、金型によりカムシャフト挿通孔601とともに第2溝505〜508を成形する際、成形(型出し)が容易である。なお、カムシャフト挿通孔601を設けないこととしてもよい。本実施例1では、カムシャフト挿通孔601を設けたことで、上記作用効果のほか、カムシャフト3に対するベーンロータ6の径方向位置決めが容易であり、またカムシャフト3内の油路502等とベーンロータ6側の油路(第2溝505〜508)との接続が容易である。
また、各進角室A1〜A4への給排通路は、ハウジングHSG(リアプレート9)に凹溝(第1溝515〜518)として設けられている。よって、給排通路を設ける際、ハウジングHSGの端面に第1溝515〜518を成形するだけでよいため、第2溝505〜508と同様、成形が容易であり、工数を削減し、加工時間を短縮できる。すなわち、溝515〜518を成形すれば、各進角室A1〜A4に作動油を分配する複数の通路が形成される。よって、上記通路を形成するため、例えばベーンロータ6に複数の孔を個別に貫通形成する場合とは異なり、追加的な設備やドリル加工する手間を削減し、加工時間を短縮することが可能である。
ここで、ハウジングHSGは、その軸方向において少なくともカムシャフト3の側(X軸負方向側)に開口部を有するハウジング本体10と、この開口部を封止するとともにカムシャフト3が挿通する貫通穴(挿通孔90)が設けられたリアプレート9とを備えており、複数の第1溝515〜518はリアプレート9(の軸方向端面)に設けられている。よって、例えば有底筒型のハウジング部材の内側の軸方向底面に第1溝515〜518を設けた場合に比べ、金型によって第1溝515〜518を成形することが容易である。また、リアプレート9において第1溝515〜518を形成する範囲が挿通孔90の分だけ小さくなり、粗材状態で、金型により挿通孔90とともに第1溝515〜518を成形する際、成形(型出し)が容易である。なお、リアプレート9の型成形後に第1溝515〜518を切削加工により形成することとしてもよい。本実施例1のように、リアプレート9を焼結工法により型成形する際、同時に第1溝515〜518を成形することで、第2溝505〜508と同様、製造コストを低減できる。
従来、いわゆるベーンタイプの装置において、複数の作動室(進角室又は遅角室)に作動油を給排するための通路として、ハウジング部材の軸方向端面に複数の第1溝を設け、(ハウジング部材の上記軸方向端面に対向する)ベーンロータの軸方向端面に複数の第2溝を設け、第1溝と第2溝のそれぞれを、径方向に沿って延びるように放射状に設けた装置が知られている(以下、これを従来装置という)。第1溝は、ハウジング部材の軸方向端面において作動室の一方に開口し、第2溝は、ロータ外周面において作動室の他方に開口する。このロータ外周面は、ハウジング部材の内周側(シューの先端面)に径方向で対向し、これに摺接する(なお、上記シューはハウジング内周面から内周側に突出する隔壁に限らない。)。しかし、この従来装置では、ベーンロータがハウジング部材に対して回転すると、ロータ外周面における第2溝の開口部は、(ロータ外周面に対向する)シューの先端面により塞がれ易かった。具体的には、第2溝がベーンロータの回転中心から放射方向外周側に向かって延びるように設けられているため、「第2溝が開口する作動室の容積が小さくなる側」、換言すると「作動室への第2溝の開口部が、当該開口部が存在する作動室を画成するシューに近づく側」にベーンロータが相対回転したとき、特に最大相対回転位置で、上記シューの内周部(先端面)によって、作動室内への第2溝の開口が塞がれやすい。なぜなら、径方向に延びる第2溝は、外径側へ向かうにつれて、「第2溝の開口部が存在する作動室を画成するベーン」の周方向中央からの周方向距離が大きくなり、上記ベーンから離間する。すなわち、第2溝の外径側端は、内径側端よりも、同じ相対回転角度に対する周方向位置の変化量が大きく、上記ベーンの周方向中央からより離れた周方向位置で作動室に開口する。よって、第2溝が開口する作動室の容積が小さくなる方向への相対回転の際、特に最大相対回転位置で、第2溝の外径側端の開口が上記シューの先端面によって塞がれる周方向範囲が比較的大きくなってしまう。このため、作動油が第2溝を介して作動室に導入されづらくなり、作動室に対する作動油の給排量を十分に確保できず、これにより装置の作動応答性向上を図れないおそれがあった。
これに対し、本実施例1では、第2溝505〜508の構成を工夫したことで、作動室に対する作動油の給排量を確保可能である。すなわち、シュー11〜14とベーン61〜64との間で画成される作動室の一方(遅角室R)に開口する第2溝505〜508の外周側端(ロータ外径側の端部。以下同様。)は、従来よりも、周方向で直近のベーン61〜64寄りの位置にオフセットして設けられている。よって、第2溝505〜508が開口する上記作動室の一方(遅角室R)の容積が小さくなる方向(進角側)にベーンロータ6が相対回転し、ベーン62〜64がそれぞれシュー13,14,11に近づいても、第2溝506〜508の開口は、ハウジングHSGの内周側の面(シュー13,14,11の先端面132,142,112)によって塞がれにくく、開口状態を保つことが容易である。
具体的には、各遅角室Rにおける第2溝505〜508の開口部は、それぞれ直近のベーン61〜64の根元に可能な限り近い位置に形成されている。よって、進角方向にベーンロータ6が相対回転しても、第2溝506〜508の各遅角室Rへの開口がシュー13,14,11の先端によって塞がれる範囲を最小とする(開口面積を増大する)ことが可能である。第2ストッパ部により回転が規制される最大相対回転状態(図4の最進角位置)でも、第2溝506〜508はシュー13,14,11の先端面132,142,112によって完全には覆われず、各遅角室R2〜R4へ開口する。なお、第2ストッパ部を構成する凸部616の外周面に開口する第2溝505は、相対回転によってもシュー12の先端面122によって覆われることはなく、常に遅角室R1へ開口する。したがって、ベーンロータ6の全相対回転範囲で、各作動室への作動油の給排口、すなわち第2溝505〜508を経由した各遅角室Rへの作動油の給排通路が確保され、作動油が複数の作動室に導入され易くなり、作動油の給排量を確保して装置1の制御性を担保することができる。特に、最大相対回転位置(最進角位置)で、ベーンロータ6を(遅角側へ)相対回転させ始めるときに必要な作動油を円滑に供給できる。
言い換えると、本実施例1の第2溝505〜508は、その外周側端の幅方向中心b2が、ベーンロータ6の回転中心Oと第2溝505〜508の内周側端(ロータ内径側の端部。以下同様。)の幅方向中心a2とを結ぶ直線l2に対して、最も近いベーン61〜64の周方向中心側にオフセットするように設けられている。このため、各作動室において、第2溝505〜508の開口部が、ベーン61〜64から離間することが抑制されるとともに、同作動室を画成するシュー11〜14の先端面132,142,112から離間する。よって、第2溝505〜508の開口部が上記シュー11〜14に近づく側にベーンロータ6が相対回転したとき、特に最大相対回転位置で、第2溝505〜508の開口が上記先端面112〜142によって塞がれることが抑制される。
より具体的には、第2溝505〜508を、ロータ外径側へ向かうにつれて直近のベーン61〜64(「第2溝505〜508の開口部が存在する作動室を画成するベーン61〜64」)の周方向中心側に近づくよう、径方向に対して傾けた。すなわち、各作動室に作動油を給排するための複数の通路をベーンロータ6の内部に貫通形成する場合、これら複数の通路を径方向に延びるように設けることが、加工設備や加工コストの観点から自然であり合理的である。換言すると、これら複数の通路を径方向に対して傾けて設ければ、製造コストの増大を招く。これに対し、複数の給排通路が第2溝505〜508としてベーンロータ6の軸方向端面に設けられている場合、加工設備や加工コストの制約を特に受けることなく、これら複数の給排通路を径方向に対して傾けることが可能である。本実施例1では、この点に着目し、給排量確保という上記課題を解決するために、上記構成を採用したものである。
上記のように、従来装置では、第2溝が径方向に延びていたため、「第2溝の開口部が、当該開口部が存在する作動室を画成するシューに近づく側」にベーンロータが最大相対回転すると、作動油が上記作動室に導入されづらくなるおそれがあり、よって、この側でベーンロータの相対回転角の範囲を十分に拡大できなかった。すなわち、相対回転角の範囲(位相変換角度)を拡大しようとすると、作動室への作動油の供給量が確保されづらくなる、というトレードオフの関係があった。これに対し、本実施例1では、上記構成により、ベーンロータ6の相対回転角度の範囲を拡大しても、第2溝505〜508の開口部がシュー11〜14の先端面112〜142によって塞がれることが抑制される。したがって、作動室の一方(遅角室R)への作動油の供給量を確保しつつ、上記作動室の一方の容積が縮小する側(進角側)へのベーンロータ6の相対回転角度の範囲、すなわち装置1のバルブタイミング制御範囲を拡大することが可能である。なお、本実施例1では、シール部材S1〜S4を設けたが、これらのシール部材S1〜S4を省略することとしてもよい。
従来装置において、各シューを挟んで隣接する作動室間の液密性を向上するため、ハウジング部材の内周面(各シューの先端面)にシール部材を設け、このシール部材をロータの外周面に対して摺接させた場合、「第2溝の開口部が、当該開口部が存在する作動室を画成するシューに近づく側」にベーンロータが最大相対回転すると、第2溝の開口部の一部がシール部材に重なり、作動室間のシール性が悪化するおそれがあった。すなわち、ロータ外周面には第2溝の外周側端が開口している。この開口部の一部がシューの先端面により塞がれる場合でも、上記開口部の他の一部が作動室に開口する限り、作動油の給排口をある程度確保することができる。しかし、従来装置では、第2溝が径方向に延びているため、上記側にベーンロータの相対回転範囲を拡大すると、上記開口部(の一部)がシール部材に重なるおそれが増大する。このとき上記開口部(の一部)に対向するシール部材に第2溝内の作動油の圧力が作用することで作動室間のシール性が悪化するおそれがあるため、シール部材によるシール性を確保しつつ変換角度を拡大することが、困難であった。
これに対し、本実施例1では、第2溝505〜508の開口部を、直近のベーン61〜64の側、すなわち第2溝505〜508が開口する作動室(遅角室R)を画成するシュー11〜14から周方向で離間する側(遅角側)にオフセットさせた。よって、第2溝505〜508の開口部が上記シュー11〜14に近づく側(進角側)にベーンロータ6が相対回転しても、例えば最進角位置でも、ロータ外周面600における第2溝505〜508の開口部とシュー先端面112〜142のシール溝117〜147(シール部材S1〜S4)との重なりが抑制されるため、上記シール性の悪化が抑制される。なお、本実施例1では、第2溝505〜508の開口部の周方向幅は、シュー先端面112〜142におけるシール溝117〜147から作動室(遅角室R)までの周方向長さよりも大きく設けられている。このため、例えば最進角位置で、第2溝505〜508の開口部の一部が、シール溝117〜147と重ならない最大範囲でシュー先端面112〜142により覆われても、作動室への第2溝505〜508の開口は(開口面積は小さくなるものの)確保される。
また、上記オフセットさせた分だけ、第2溝505〜508の開口部とシール溝117〜147との間の周方向距離に余裕ができ、この余裕分だけ、上記側(進角側)への回転範囲を拡大できる。換言すると、このように変換角度を拡大したときも、両者間の周方向距離を、変換角度の拡大前と同様、シール部材S1〜S4によるシール性を確保可能な距離(略ゼロ以上)だけ保つことが可能である。
一方、リアプレート9の第1溝515〜518は、シュー11〜14の先端面112〜142(ロータ外周面600)において、シール溝117〜147(シール部材S1〜S4)と周方向で重ならない位置に設けられている。よって、最進角位置において、シュー11〜14の先端面112〜142(ロータ外周面600)における第1溝515〜518と第2溝505〜508との間の周方向距離は、シール溝117〜147の周方向幅よりも小さくならず、第1、第2溝515〜518,505〜508はいずれもシール部材S1〜S4と重ならない。このため、両溝515〜518,505〜508の油圧は、いずれもシール部材S1〜S4に作用せず、変換角度拡大による作動室A,R間のシール性への影響が抑制される。
換言すると、最進角位置において最も近接し、シュー11〜14を挟んで隣接する第1、第2溝515〜518,505〜508間の、ロータ外周面600における離間幅を、上記オフセットにより広げ、これにより、シュー11〜14の先端面112〜142においてシール部材S1〜S4(シール溝117〜147)を設置可能な周方向スペースを拡大している。一方、同じ最進角位置で、シュー11〜14の先端面112〜142よりもロータ内周側、具体的にはカムシャフト外周面における両溝515〜518,505〜508間の周方向距離を、シール部材S1〜S4の周方向幅に相当する大きさ(シール溝117〜147の周方向両端を挟む2つの径方向直線が中心Oに対してなす角度に対応する大きさ)よりも小さく設け、この分だけ変換角度を進角側に拡大している。下記のように、ベーンロータ6とリアプレート9との間の隙間からの作動油漏出抑制のために、ロータ内周側での両溝515〜518,505〜508間の周方向距離は、最進角位置では、最遅角位置よりも小さくてすむからである。
このように、本実施例1では、第2溝505〜508の外周側端と内周側端の位置を上記のように調整することで、シール性を確保しつつ、変換角を拡大したり、シール部材S1〜S4の設置スペースを確保したりすることを可能にしている。
ここで、本実施例1のように、シール部材S1〜S4として、(シュー11〜14及びロータ60の軸方向長さだけ)軸方向に延びるシール面部を有し、シュー11〜14の先端面112〜142に設けられたシール溝117〜147内に設置されるシール本体118〜148と、シール本体118〜148(のシール面部)をシール溝117〜147から突出するようにロータ外周面600の側に付勢する付勢手段119〜149とによって構成されるものを用いた場合には、上記作用効果を効果的に得ることができる。なぜなら、シール本体118〜148は、シール溝117〜147に対して径方向で若干変位可能であり、例えば付勢手段119〜149が弾性部材により構成されている場合、付勢手段119〜149の弾性変形分だけシール溝117〜147内で容易に変位する。このようなシール部材S1〜S4は、ロータ外周面600に摺接するシール面部に作動油の圧力が作用すると、シール本体118〜148がシール溝117〜147内へ押し込まれてロータ外周面600と上記シール面部との間に隙間が生じてしまい、これによりシール機能が低下するおそれが高くなるからである。なお、シール部材S1〜S4として、本実施例1で用いた以外のタイプも採用可能である。付勢手段119〜149として板バネ以外の弾性部材を用いたり、シール本体118〜148そのものを弾性変形させて付勢手段を省略したりしてもよい。
進角室Aへの給排通路として、リアプレート9に第1溝515〜518を設ける代わりに、例えばドリルによりベーンロータ6に孔を径方向に貫通形成してもよい。
また、リアプレート9の第1溝515〜518を省略し、作動室への給排通路を第2溝505〜508による1系統のみとすることとしてもよい。この場合、カムシャフト3の作動油給排部から第2溝を介して進角室A又は遅角室Rの一方のみに作動油を給排するように設けることで、ベーンロータ6を相対回転させる。作動油が給排されない側の作動室には付勢部材(例えばコイルスプリング)を設置しておけば、初期位置にベーンロータ6を付勢して戻すことができる。進角室Aのみに作動油を給排することとした場合、フリクション(交番トルク)により、遅角側(従動側)の初期位置にベーンロータ6が戻るため、遅角室Rには付勢部材を設置しないことも可能である。
従来装置のように、作動室への作動油の給排通路が、ベーンロータの内部に形成されているのではなく、ベーンロータ又はハウジング部材の軸方向端面に形成された溝により構成されている場合、この給排通路の密封性(シール性)が問題となる。具体的には、ベーンロータの相対回転により、周方向で隣り合う第1、第2溝間の距離が小さくなると、これらの溝内を流通する作動油の漏れ量が多くなってしまう。すなわち、ベーンロータの軸方向端面と、これに対向するハウジング部材の軸方向端面との間には、両者の相対回転を可能にするため僅かな隙間が設けられており、第1溝とベーンロータの軸方向端面との間、又は第2溝とハウジング部材の軸方向端面との間で形成される通路内の作動油は、上記隙間から漏出する。その漏出量は、周方向で隣り合う第1、第2溝の間の周方向距離(シール長)が小さいほど、また、第1、第2溝内を流通する作動油の圧力が高いほど、増大する。
従来装置では、第1溝と第2溝がともにベーンロータの回転中心から放射方向に、すなわち外周側に向かって径方向に延びるように設けられているため、第1、第2溝間の周方向距離は、ロータ外周側におけるよりもロータ内周側におけるほうが小さくなる。よって、隣り合う第1、第2溝間の周方向距離は、ベーンロータが最大進角位置又は最大遅角位置に相対回転したときに、ロータ内周側で最小となる。したがって、ベーンロータの相対回転角度の範囲を拡大しようとすると、ロータ内周側における両溝間の周方向距離が必要な大きさを下回りやすく、これにより十分なシール性を確保できないおそれがあった。
また、本実施例1のように、リアプレート9に貫通穴(挿通孔90)が設けられるとともに、ベーンロータ6の軸方向一端に挿通孔601が設けられ、カムシャフト3の端部30が上記貫通穴90を貫通するとともに上記挿通孔601に挿入設置される構成の場合、両溝515〜518,505〜508間の周方向距離を確保する必要性が、ロータ外周側よりも、ロータ内周側において高い。なぜなら、ロータ内周側では、カムシャフト3の外周面とベーンロータ6の挿通孔601の内周面との間には僅かな隙間が存在し、また、カムシャフト3の外周面とリアプレート9の挿通孔90の内周面との間には、両者の相対回転を可能にするために僅かな隙間が設けられており、これらの隙間を通って、両溝515〜518,505〜508から作動油が漏れるおそれがあるからである。この漏出量も、周方向で隣り合う両溝515〜518,505〜508間の周方向距離が小さいほど、また、一方の溝515〜518,505〜508内の油圧が高いほど、増大する。
また、ベーンロータを相対回転させるために作動室に供給される油圧は、最進角位置におけるよりも最遅角位置におけるほうが高い。すなわち、ベーンロータには、作動室の油圧によるトルク以外に、交番トルクが作用する。この交番トルクの平均(以下、平均トルクという。)の作用する方向は、上記のように遅角方向である。一方の作動室(遅角室)の容積が大きくなる回転方向が遅角方向である場合、この遅角方向での最大回転位置(最遅角位置)から再び(今度は上記一方の作動室の容積が小さくなる進角方向に)ベーンロータを相対回転させるためには、上記平均トルクの分だけ余計に高い油圧を、他方の作動室(進角室)に供給する必要がある。換言すると、最遅角位置では、交番トルクに逆らってベーンロータを相対回転させるために、最進角位置よりも高い油圧が、給排溝を介して他方の作動室(進角室)に供給される。したがって、第1、第2溝間の漏出量抑制のため、ロータ内周側での両溝間の周方向距離は、最進角位置よりも最遅角位置のほうで、大きく設けることが必要となる。
これに対し、本実施例1では、第2溝505〜508の構成を工夫したことで、変換角度を拡大しつつ、シール性の低下を抑制することを可能にしている。すなわち、最大回転位置で隣り合う第1、第2溝515〜518,505〜508間のロータ内周側及び外周側における周方向距離を調節し、その際、シール性の確保という観点から、ロータ内周側での第1、第2溝515〜518,505〜508間の周方向距離を、油圧との関係でシール性が適切に保たれる大きさだけ確保するようにした。具体的には、第2溝505〜508の内周側端の位置は元のままで、第2溝505〜508の外周側端の位置(作動室への開口部)を直近のベーン61〜64の側に近づけた。そのための手段として、第2溝505〜508の延びる方向を径方向に対して傾け、第2溝505〜508の外径側のほうが内径側よりも、直近のベーン61〜64の側に近づくように設けた。換言すると、第2溝505〜508は、その外周側端の幅方向中心b2が、ベーンロータ6の周方向において、ベーンロータ6の回転中心Oと第2溝505〜508の内周側端の幅方向中心a2とを結ぶ線l2に対して、第2溝505〜508に最も近いベーン61〜64の中心側にオフセットするように設けられている。
これにより、上記のように進角側へ回転範囲を拡大することが可能になるとともに、この回転範囲の拡大により、最進角位置では、直近の第1、第2溝515〜518,505〜508間のロータ内周側での周方向距離が、拡大前よりも小さくなる。一方、(遅角側の回転範囲を拡大することはしないため、)最遅角位置では、直近の第1、第2溝515〜518,505〜508間のロータ内周側での周方向距離は、元の大きさに保たれる。なお、最遅角位置で、直近の第1、第2溝515〜518,505〜508間の周方向距離が、ロータ外周側において、ロータ内周側よりも過度に小さくならない程度に、第2溝505〜508の開口位置をオフセットさせることが好ましい。このように、第2溝505〜508の配置を変更することで、第1、第2溝515〜518,505〜508間のロータ内周側での周方向距離(シール長)が、最進角位置ではある程度(回転角度範囲を拡大した分だけ)小さくなることを許容しつつ、最遅角位置では小さくなることを抑制する(元の距離を保つ)。よって、第1溝515〜518に比較的大きな油圧が供給される最遅角位置でも、シール性の低下を抑制することができる。言い換えると、変換角度の拡大とシール性確保とを両立できる。
対比のため、本実施例1とは逆に、第1、第2溝515〜518,505〜508間のロータ内周側での周方向距離が小さくなることを、最進角位置で抑制し、最遅角位置で許容した場合を考える。例えば、ベーンロータ6において、径方向に延びた状態のまま第2溝505〜508を直近のベーン61〜64の側へ近づけて配置すれば、進角側では、上記近づけた分だけ変換角度を拡大し、最進角位置で、ロータ内周側での両溝515〜518,505〜508間の周方向距離(シール長)が小さくなることを抑制することが可能である。しかし、反対の遅角側では、最遅角位置で、ロータ内周側での両溝515〜518,505〜508間の周方向距離が、第2溝505〜508(の内周側端)をベーン61〜64の側へ近づけた分だけ小さくなる。よって、比較的大きな油圧が供給される最遅角位置で、油圧との兼ね合いで必要なシール長を確保できないおそれがあり、したがって変換角度の拡大とシール性確保とを両立できない。
以上を換言すると、以下のようになる。
ハウジングHSGに対してベーンロータ6がいずれかの方向で最大に相対回転したとき、第1溝515〜518と第2溝505〜508は周方向で互いに最も近づく。第1溝515〜518と第2溝505〜508が互いに最も近づいた状態で、シール性を確保するために、両溝515〜518,505〜508間の周方向距離(シール長)は、最遅角位置では最小でも寸法α1、最進角位置では最小でも寸法α2が必要であるとする。平均トルクの分だけ余計に油圧が必要になるという上記理由により、α1>α2である。第1溝515〜518と第2溝505〜508が径方向に延びて設けられている従来装置では、両溝515〜518,505〜508間の周方向距離は、ロータ内周側端において最も小さい。仮に、このロータ内周側における両溝515〜518,505〜508間の周方向距離が、最遅角位置では最小寸法α1に設定され、最進角位置では最小寸法α2よりもβだけ大きい寸法α2+βに設定されていたとする。
本実施例1では、第2溝505〜508の内周側端の位置をそのままにしつつ、第2溝505〜508の内周側端を通る径方向直線l2に対し、第2溝505〜508の外周側端を直近のベーン61〜64の側(遅角側)にβ以上オフセットして設けた。よって、第2溝505〜508の作動室への開口位置は、同作動室を画成するシュー11〜14から離間する側に、β以上オフセットする。よって、ロータ外周側での作動室への第2溝505〜508の開口が塞がれることなく、ベーンロータ6の進角側への相対回転範囲をβ分だけ拡大することが可能となる。このとき、最進角位置において、第2溝505〜508の内周側端が、上記シュー11〜14の側にβだけ近づくものの、ロータ内周側で最小限のシール長α2は確保される((α2+β)−β=α2)。したがって、変換角を進角側にβ分だけ拡大しても、ロータ内周側でのシール性、及びロータ外周側での作動室への第2溝505〜508の開口を確保することができる。一方、上記開口位置をオフセットさせた側(遅角側)にベーンロータ6が最大に相対回転したとき、第2溝505〜508の内周側端の位置はそのままであり変わらないため、最遅角位置で、ロータ内周側での両溝515〜518,505〜508間の距離は、相変わらず最小限のシール長α1だけ確保される。また、最遅角位置で、上記オフセットによって、第2溝505〜508の外周側端は、オフセット前に比べ、直近のシュー11〜14(第1溝515〜518)に(オフセット分の)β以上近づくことになる。すなわち、最遅角位置では、上記第1溝515〜518の外周側端と上記2溝505〜508の外周側端との間の周方向長さ(シール長)は、オフセットさせたβ以上分だけ小さくなる。しかし、両溝515〜518,505〜508間の周方向距離は、ロータ外周側では元々α1より大きかったため、これよりβ以上小さくなっても、α1未満になることは抑制される。換言すると、最遅角位置で、ロータ外周側を含めて必要最小限のシール長α1が確保される範囲となるように、オフセット量が設定される。このため、最遅角位置でもシール性が担保される。
したがって、最進角位置においても最遅角位置においてもシール性及び作動室への供給量を確保しつつ、変換角度の拡大を図ることができる。
なお、第2溝505〜508の内周側端の位置を元のまま動かさないのではなく、元の位置よりも直近のベーン61〜64から遠ざけるように離間させてもよい。この場合、最遅角位置で、内周側のシール長をより容易に確保できる。換言すると、上記離間させた分だけ、遅角側へも相対回転角度を拡大することが可能となる。ただし、この場合、最進角位置では、ロータ内周側のシール長は、上記離間させた分だけ小さくなるため、上記離間させる量は、最進角位置(のロータ内周側)でもシール性が確保される範囲内とすることが望ましい。
また、第2溝505〜508を、ロータ外周面600だけでなく、部分的に各ベーン61〜64の周方向側面にも開口させることとしてもよい。本実施例1ではベーン61〜64とロータ60が一体に形成されているため、このように開口させることが容易である。これにより、第2溝505〜508の作動室への開口を確保しつつ、ベーンロータ6の相対回転範囲を拡大することが、より容易になる。また、ベーン61〜64とシュー11〜14との間の周方向隙間をゼロに近づけても、供給される作動油の受圧面積をある程度(ベーンの周方向側面への第2溝の開口分だけ)確保することができる。この場合、第2溝505〜508をベーンロータ6のX軸方向所定深さまでしか設けなければ、各ベーン61〜64の固定強度を過度に低下させるおそれも少ない。これに対し、本実施例1では、第2溝505〜508をベーン61〜64の周方向側面には開口させないため、ベーン61〜64の根元部分の肉厚を確保して、固定強度の低下をより確実に抑制することができる。また、本実施例1では、第2ストッパ部による回転規制位置で、各シュー11〜14とベーン61〜64との間にある程度の隙間が存在するため、第2溝505〜508を各ベーン61〜64の周方向側面に開口させなくても、上記回転規制位置でベーン61〜64の受圧面積を確保することができる。
また、各第2溝505〜508のうち少なくとも1つの外周側開口部の位置をオフセットさせれば、他の第2溝の開口がある程度塞がれても、少なくとも、オフセットさせた上記第2溝の開口面積を拡大することが可能となる。このため、最進角位置において、上記他の第2溝の開口が塞がれると作動室(遅角室R1〜R4)への作動油の供給量の総量は減少するものの、オフセットさせた上記第2溝の開口により装置1の制御性を最低限担保できるだけの作動油の供給量(作動油圧)を確保できれば、制御性を過度に損なわずに、上記オフセット分だけ変換角度を拡大することが可能である。ここで、外周側開口部の位置をオフセットさせる第2溝505〜508の数を増やすほど、作動油の供給量の総量を増大して、装置1の制御性を向上できる。本実施例1では、全ての第2溝505〜508の開口位置をオフセットさせるため、上記作用効果を最大とすることができる。なお、第2ストッパ部が設けられた作動室(遅角室R1)に開口する第2溝505については、必ずしもその開口部の位置を調整しなくてもよい。
さらに、リアプレート9の第1溝515〜518の向きや形状は限定されず、例えばプレート径方向に対して傾いて設けてもよい(実施例2,3)。本実施例1では、第1溝515〜518を径方向に延びる形状としたことで、(例えば第1溝515〜518を切削加工する場合、)成形が比較的容易である。また、第2溝505〜508の形状は、直線状に限定されず、例えば曲線状でもよい。本実施例1では、第1溝515〜518及び第2溝505〜508は直線的であるため、成形が比較的容易である。
以下、本実施例1の内燃機関のバルブタイミング制御装置1が奏する効果を列挙する。
(1)装置1は、クランクシャフトから回転が伝達されるハウジングHSGと、カムシャフト3に固定されるとともにハウジングHSG内に相対回転可能に設けられ、ハウジングHSGの内周(シュー11〜14)との間で複数の空間を画成するロータ部(ロータ60)、及び、ロータ部の外周側に突出して上記複数の空間を複数の作動室(遅角室R)に画成する複数のベーン部(ベーン61〜64)を有するベーンロータ6とを備え、ベーンロータ6の軸方向一端面には、内周側から外周側へ延びて形成され、複数の作動室(遅角室R)にそれぞれ連通して作動流体を給排する複数の給排溝(第2溝505〜508)が設けられ、少なくとも1つの給排溝(第2溝505〜508のいずれか)は、その外周側端b2が、ベーンロータ6の回転中心Oと当該給排溝の内周側端a2とを結ぶ直線l2に対して、当該給排溝が連通する作動室を画成するベーン部(ベーン61〜64のいずれか)の側に偏倚している。
よって、少なくとも1つの作動室へ作動流体が導入され易くなり、また、給排溝が連通する作動室の容積が縮小する側(進角側)へのベーンロータ6の相対回転範囲を増大してバルブタイミング制御範囲(位相変換角度)を拡大することが可能である。
よって、上記作動室の他方(遅角室R)へ作動油が供給され易くなり、また、上記作動室の他方(遅角室R)の容積が縮小する側(進角側)へベーンロータ6の相対回転範囲を拡大することが可能である。なお、実施例1では、上記偏倚を判断するための位置として第2溝505〜508の幅方向中心a2,b2を用いたが、これに限らず、他の適当な位置(例えば幅方向端)を用いてもよい。
よって、上記(2)の効果に加え、第2給排溝505〜508の成形が容易であり加工コストを低減できる。
よって、シール部材S1〜S4によるシール性を担保しつつ、相対変換角を可能な限り拡大することが可能である。
第1溝515〜518は、その内周側端の幅方向中心a1が、ベーンロータ6の回転中心Oと第1溝515〜518の外周側端の幅方向中心b1とを結ぶ直線l1に対して、最も近いシュー11〜14の周方向中心側にオフセットするように設けられている。具体的には、第1溝515〜518は、直線的に延びるように形成され、ハウジングHSGの内周側から外周側へ向かうにつれて最も近いシュー11〜14から周方向で離間するように、ハウジングHSGの径方向に対して傾いて設けられている。
X軸正方向側から見て、第2〜第4シュー12〜14(先端部分)の時計回り方向側の面は、第1溝516〜518内において同溝幅の50%弱だけ時計回り方向側に寄った位置に配されている。一方、第1シュー11(先端部分)の時計回り方向側の面(平面部111)は、第1溝515内において同溝幅の70%弱だけ時計回り方向側に配置されている。このように、各進角室A1〜A4における第1溝515〜518の開口面積は、それぞれ実施例1よりも大きく設けられている。
また、各第1溝515〜518は、それぞれシール溝117〜147と連通しないように設けられており、各第1溝515〜518の反時計回り方向側の縁は、各シュー11〜14の先端面112〜142において、それぞれシール溝117〜147の時計回り方向側の縁よりも僅かに時計回り方向側に配置されている。
例えば、ベーンやシューの周方向側面を径方向に延びるように設けた場合、周方向スペースを節約しつつ作動流体の圧力を効率的にベーンロータの回転力に変換することが可能になる。この場合、第1溝も径方向に延びるように設けると、第1溝の周方向側面とベーンやシューの周方向側面とを、周方向隙間なく重ねて配置することができなくなる。なぜなら、第1溝は周方向に幅を有しており、第1溝の周方向中心線がハウジング部材の回転中心を通って径方向に延びる直線状であっても、第1溝の周方向両側面は、上記回転中心を通る径方向直線に対して、周方向でオフセットする(傾く)からである。よって、例えば、シューの先端部にシール部材を設けず、かつ第1溝をシューの先端部と周方向で重ならないように配置した場合、シューの周方向側面と周方向で対向する第1溝の周方向側面は、ロータ外周側に向かうほどシューの周方向側面から離間し、両側面の間には周方向隙間ができる。よって、ベーンロータの相対回転時に、上記周方向隙間の分だけ余計に、ベーンにより第1溝の開口部が塞がれる面積が増大するおそれがある。第1溝を周方向でシューと部分的に重なるように配置した場合も同様であり、ベーンやシューにより第1溝の開口部が余分に塞がれるおそれがある。一方、第1溝の開口面積を増大できるようにベーンやシューの周方向側面の形状を変更すると、新たな加工コストが発生する。
このように、上記従来装置では、加工コストを増大せずに第1溝の開口面積を増大することが容易でなかった。
これに対し、本実施例2では、第1溝515〜518の構成を工夫したことで、複数の作動室に対する作動油の給排量を確保することがより容易である。すなわち、第1溝515〜518を径方向に対して傾けて設けたため、第1溝515〜518が開口するロータ外周側(作動室A内)において、ベーンロータ6の所望の相対回転位置で、第1溝515〜518の周方向側面と、これに対向するベーン61〜64やシュー11〜14の周方向側面との間の周方向隙間を小さくすることができる。これにより、ベーンロータ6の任意の相対回転位置、例えば最大回転位置で、第1溝515〜518の開口部がベーン61〜64やシュー11〜14によって塞がれる範囲を小さくすることが可能となる。したがって、第1溝515〜518を介して作動油が給排され易くしつつ、設計自由度を向上すること、例えばベーンロータ6の相対回転範囲を拡大することが可能になる。
なお、本実施例2では、第1溝515〜518の外周側開口部を、シュー11〜14(の先端部)の直近に設けたが、シュー11〜14から周方向で若干離れた所定位置に設けてもよい。この場合でも、第1溝515〜518を径方向に対して傾ければ、第1溝515〜518においてベーン61〜64により塞がれる面積をより小さくすることが可能である。また、第1溝515〜518の全てを傾けるのではなく、1つ以上を傾ければ、その第1溝が開口する作動室への給排量を向上可能である。
また、第1溝515〜518が遅角室R1〜R4に開口し、第2溝505〜508が進角室A1〜A4に開口することとしてもよい。遅角室Rへの給排通路として、ベーンロータ6に第2溝505〜508を設ける代わりに、例えばドリルによりベーンロータ6に孔を径方向に貫通形成してもよい。また、ベーンロータ6の第2溝505〜508を省略し、作動室への給排通路を第1溝515〜518による1系統のみとすることとしてもよい。
また、本実施例2では、シール部材S1〜S4を設けたが、これらのシール部材S1〜S4を省略することとしてもよい。この場合、シュー11〜14の先端部とロータ外周面600との間のシール性を向上するため、第1溝515〜518をシュー11〜14の先端部と周方向で重ならないように配置することとしてもよい。
すなわち、最大回転位置で隣り合う第1、第2溝515〜518,505〜508間のロータ内周側及び外周側における周方向距離を調節し、その際、シール性の確保という観点から、ロータ内周側での第1、第2溝515〜518,505〜508間の周方向距離を、油圧との関係でシール性が適切に保たれる大きさだけ確保するようにした。
具体的には、第1溝515〜518の径方向中間位置(ロータ外周面600に対応する径方向位置)を元のままとし、第1溝515〜518の内周側端の位置を直近のシュー11〜14の側に近づけている。そのための手段として、第1溝515〜518の延びる方向を径方向に対して傾け、第1溝515〜518の内周側のほうが外周側よりも、直近のシュー11〜14の側に近づくように設けている。換言すると、第1溝515〜518は、その内周側端の幅方向中心a1が、ベーンロータ6の回転中心Oと第1溝515〜518の外周側端の幅方向中心b1とを結ぶ直線l1に対して、最も近いシュー11〜14の周方向中心側にオフセットするように設けられている。
よって、「第2溝505〜508が、ベーン61〜64を挟んで隣接する第1溝515〜518に近づく側(遅角側)」にベーンロータ6が相対回転する際、第1、第2溝515〜518,505〜508間のロータ内周側での周方向距離(シール長)に余裕ができ、この余裕分だけ、上記側(遅角側)へ相対回転範囲を拡大することが可能となる。換言すると、遅角側へ回転範囲を拡大した場合でも、第1溝515〜518に比較的大きな油圧が供給される最遅角位置(図8)で、隣り合う第1、第2溝515〜518,505〜508間のロータ内周側での周方向距離(シール長)が必要分よりも小さくなることを抑制できる。よって、シール性の低下を抑制しつつ、遅角側へ変換角度を拡大することが可能となる。なお、このように変換角度を拡大したとき、最遅角位置で、第1、第2溝515〜518,505〜508間のロータ外周側での周方向距離がロータ内周側よりも過度に小さくならないように、第1溝515〜518を傾けることが好ましい。
このように第1溝515〜518の配置を変更すると、最進角位置(図9)では、第1、第2溝515〜518,505〜508間のロータ内周側での周方向距離(シール長)が、上記オフセット分だけ小さくなる。しかし、上記のように、最進角位置で第2溝505〜508に供給される油圧は比較的低いため、シール性確保の観点から許容される。換言すると、第1溝515〜518の内周側端の上記オフセット量は、最進角位置での油圧に対しシール性を確保できる程度とすることが好ましい。
換言すると、以下のようになる。
実施例1と同様、シール性を確保するために、両溝515〜518,505〜508間の周方向距離(シール長)は、最遅角位置では寸法α1、最進角位置では寸法α2が必要であるとする(α1>α2)。第1溝515〜518と第2溝505〜508が径方向に延びて設けられている従来装置で、ロータ内周側における両溝515〜518,505〜508間の周方向距離が、最遅角位置では最小寸法α1に設定され、最進角位置では最小寸法α2よりもβだけ大きい寸法α2+βに設定されていたとする。
本実施例2では、シュー先端面112〜142に対応する径方向位置における第1溝515〜518の周方向位置をそのままにしつつ、第1溝515〜518の外周側端を通る径方向直線l1に対し、第1溝515〜518の内周側端を直近のシュー11〜14の側(遅角側)にβだけオフセットして設けた。よって、第1溝515〜518の内周側端が、ベーン61〜64を挟んで隣接する第2溝505〜508の内周側端からβだけ離間するため、ベーンロータ6の遅角側への相対回転範囲を、このβ分だけ拡大することが可能となる。なお、両溝515〜518,505〜508間のロータ外周側での周方向距離は、元々α1より大きかったため、相対回転範囲を拡大することでβ分だけ小さくなっても、α1未満になることは抑制される。換言すると、最遅角位置で、ロータ外周側を含めて必要最小限のシール長α1が確保される範囲となるように、オフセット量βが設定される。
一方、上記オフセットにより、最進角位置において、第1溝515〜518の内周側端と第2溝505〜508の内周側端との間の周方向距離がβだけ近づくものの、最小限のシール長α2は確保される((α2+β)−β=α2)。
したがって、最進角位置においても最遅角位置においてもシール性及び作動室への供給量を確保しつつ、変換角度の拡大を図ることができる。
なお、第1溝515〜518の径方向中間部(シュー先端面112〜142に対応する部位)を元のまま動かさないのではなく、元の位置よりも直近のベーン61〜64から遠ざけるように離間させてもよい。
このように第1溝515〜518をシュー11〜14と重なる位置に設けることで、第1溝515〜518がシュー11〜14の直近に開口することになる。これにより、ベーンロータ6の最大相対回転位置(最遅角位置)で、ベーン61〜64が第1溝515〜518を部分的に塞いでも、第1溝515〜518が作動室(進角室A)に開口することが容易になる。また、第1溝515〜518をシュー11〜14と重ねて配置することにより、第1溝515〜518は全体として、直近のシュー11〜14の周方向中心側にオフセットし、(ベーン61〜64を挟んで隣接する)第2溝505〜508から周方向に遠ざかる。よって、「第2溝505〜508が、ベーン61〜64を挟んで隣接する第1溝515〜518に近づく側(遅角側)」にベーンロータ6が相対回転する際、第1、第2溝515〜518,505〜508間の周方向距離(シール長)に余裕ができ、この余裕分だけ、上記側(遅角側)へ相対回転範囲を拡大することが可能となる。
なお、第1溝515〜518は、周方向でシール溝117〜147(シール部材S1〜S4)と重ならないように配置されている。よって、最遅角位置(図8)その他の回転位置で、第1溝515〜518の油圧はシール部材S1〜S4に作用せず、実施例1と同様、シール部材S1〜S4によるシール性が悪化することが抑制される。
一方、ベーンロータ6のロータ外周面600に開口する第2溝505〜508は、シュー先端面112〜142に最も近づく最進角位置(図9)において、シール溝117〜147(シール部材S1〜S4)と周方向で重ならない位置に設けられている。よって、最進角位置までベーンロータ6が相対回転しても、シュー11〜14の先端面112〜142(ロータ外周面600)における第1溝515〜518と第2溝505〜508との間の周方向距離は、シール溝117〜147の周方向幅よりも小さくならず、第1、第2溝515〜518,505〜508はいずれもシール部材S1〜S4と重ならない。このため、両溝515〜518,505〜508の油圧は、いずれもシール部材S1〜S4に作用せず、シール部材S1〜S4によるシール性の悪化が抑制される。
これに加えて、第1溝515〜518は、その径方向中間部(径方向でシュー先端面112〜142に対応する部位)の周方向位置は元のままで、第1溝515〜518の外径側端の位置を、第1溝515〜518が開口する作動室(進角室A)の側に、直近のシュー11〜14から離間させている。そのための手段として、第1溝515〜518の延びる方向を径方向に対して傾け、第1溝515〜518の内径側よりも外径側のほうが、直近のシュー11〜14から遠ざかるように設けている。換言すると、第1溝515〜518の外周側端の幅方向中心b1が、ベーンロータ6の回転中心Oと第1溝515〜518の内周側端の幅方向中心a1とを結ぶ直線に対して、最も近いシュー11〜14の周方向中心から離間する側にオフセットするように設けられている。
このように、第1溝515〜518の外径側部分、すなわち(ロータ60により塞がれない)開口部位を、直近のシュー11〜14から離間する側、すなわち作動室(進角室A)の側にオフセットさせることで、(ベーンロータ6の相対回転位置に関らず)作動室(進角室A)への第1溝515〜518の開口面積を増大させることができる。
また、第1溝515〜518の位置を上記のように変更しても、シュー先端面112〜142における第1溝515〜518の位置が元のままであるため、第1溝515〜518の開口部とシール溝117〜147との重なりが抑制され、シール部材S1〜S4によるシール性の悪化が抑制される。なお、第1溝515〜518の径方向中間位置(ロータ外周面に対応する径方向位置)を元のまま動かさないのではなく、元の位置よりも直近のシュー11〜14から離間する側に周方向でオフセットさせてもよい。この場合、最進角位置においてシュー11〜14を挟んで隣接する第1、第2溝515〜518,505〜508間のロータ外周面600における離間幅を、上記オフセットにより広げ、これにより、シュー11〜14の先端面112〜142においてシール部材S1〜S4(シール溝117〜147)を設置可能な周方向スペースを拡大することができる。
一方、第1溝515〜518の内周側端を直近のシュー11〜14の側に近づけることで、最進角位置(図9)で、シュー内周面112〜142よりもロータ内周側(具体的にはカムシャフト外周面)における両溝515〜518,505〜508間の周方向距離は、シール部材S1〜S4の周方向幅に相当する大きさ(シール溝117〜147の周方向両端を挟む2つの径方向直線が中心Oに対してなす角度に対応する大きさ)よりも小さくなる。しかし、上記のように、作動油漏出抑制のために必要なロータ内周側での両溝515〜518,505〜508間の周方向距離は、最進角位置では、最遅角位置よりも小さくてすむため、問題は少ない。一方、このようにロータ内周側の両溝515〜518,505〜508間の周方向距離を小さく設けた分だけ、変換角度を遅角側に拡大可能としている。
このように、本実施例2では、第1溝515〜518の外周側端と内周側端の位置を上記のように調整することで、シール性を確保しつつ、変換角を拡大したり、シール部材S1〜S4の設置スペースを確保したりすることを可能にしている。
(1)実施例2の装置1は、クランクシャフトから回転が伝達されるハウジングHSGと、カムシャフト3に固定されるとともにハウジングHSG内に相対回転可能に設けられ、ハウジングHSGの内周(シュー11〜14)との間で複数の空間を画成するロータ部(ロータ60)、及び、ロータ部の外周側に突出して上記複数の空間を複数の作動室(遅角室R)に画成する複数のベーン部(ベーン61〜64)を有するベーンロータ6とを備え、ハウジングHSGの軸方向一端面には、内周側から外周側へ延びて形成され、複数の作動室(進角室A)にそれぞれ連通して作動流体を給排する複数の給排溝(第1溝515〜518)が設けられ、少なくとも1つの給排溝(第1溝515〜518のいずれか)は、その内周側端a1が、ベーンロータ6の回転中心Oと当該給排溝の外周側端b1とを結ぶ直線l1に対して、当該給排溝が連通する作動室を画成するハウジングHSGの内周(シュー11〜14のいずれか)の側に偏倚している。
よって、少なくとも1つの作動室へ作動流体が導入され易くすることが可能である。
よって、上記作動室の一方(進角室A)へ作動油が供給され易くすることが可能である。なお、実施例2では、上記偏倚を判断するための位置として第1給排溝515〜518の幅方向中心a1,b1を用いたが、これに限らず、他の適当な位置(例えば幅方向端)を用いてもよい。
よって、上記(2)の効果に加え、第1給排溝515〜518の成形が容易であり加工コストを低減できる。
よって、第1給排溝515〜518に比較的大きな油圧が供給される最遅角位置でシール性の低下を抑制できるため、第1給排溝515〜518が連通する作動室(進角室A)の容積が縮小する側(遅角側)へのベーンロータ6の相対回転範囲を増大してバルブタイミング制御範囲(位相変換角度)を拡大することが可能である。
よって、シール部材S1〜S4によるシール性を向上しつつ、相対変換角を可能な限り拡大することが可能である。
よって、より効果的に上記(5)の効果を得ることができる。
以上、本発明を実現するための形態を、実施例1〜3に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例1〜3に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。例えば、周方向及びX軸方向での第1溝515〜518及び第2溝505〜508の寸法は均一でなくてもよい。
3 カムシャフト
6 ベーンロータ
60 ロータ(ロータ部)
61〜64 ベーン(ベーン部)
11〜14 シュー
515〜518 第1給排溝
505〜508 第2給排溝
HSG ハウジング
A1〜A4 進角室(進角作動室)
R1〜R4 遅角室(遅角作動室)
Claims (4)
- クランクシャフトから回転が伝達され、内周側に突設した複数のシューによって内部に複数の作動室が形成されるハウジングと、
該ハウジング内に相対回転可能に設けられ、カムシャフトに固定されるロータ部と、該ロータ部の外周側に突出するように設けられ、それぞれの前記作動室を進角作動室と遅角作動室に画成する複数のベーン部とによって構成されたベーンロータと、
前記進角作動室又は遅角作動室の一方に連通するように前記ハウジングの軸方向内側端面に内周側から外周側へ延びるように形成され、前記進角作動室又は遅角作動室の一方に作動油を給排する第1給排溝と、
前記進角作動室又は遅角作動室の他方に連通するように前記ベーンロータにおいて前記第1給排溝と対向する側の端面に内周側から外周側へ延びるように形成され、前記進角作動室又は遅角作動室の他方に作動油を給排する第2給排溝とを備え、
前記第2給排溝は、その外周側端の幅方向中心が、前記ベーンロータの回転中心と前記第2給排溝の内周側端の幅方向中心とを結ぶ直線に対して、最も近い前記ベーン部の周方向中心側に偏倚するように設けられている
ことを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。 - クランクシャフト側から回転が伝達され、内周側に突設した複数のシューによって内部に複数の作動室が形成されるハウジングと、
カムシャフトと一体に回転し、前記ハウジング内に相対回転可能に設けられるロータ部と、該ロータ部の外周側に突出するように設けられ、それぞれの前記作動室を進角作動室と遅角作動室に画成する複数のベーン部とによって構成されたベーンロータと、
前記ハウジングの軸方向内側端面に内周側から外周側へ延びるように形成され、前記進角作動室又は遅角作動室の一方に連通して作動油を給排する第1給排溝と、
前記ベーンロータにおいて前記ハウジングの軸方向内側端面と対向する側の端面に内周側から外周側へ直線的に延びるように形成され、前記進角作動室又は遅角作動室の他方に連通して作動油を給排する第2給排溝とを備え、
前記第2給排溝は、前記ベーンロータの内周側から外周側へ向かうにつれて最も近い前記ベーン部の周方向中心側に近づくように、前記ベーンロータの径方向に対して傾いて設けられている
ことを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。 - クランクシャフトから回転が伝達され、内周側に突設した複数のシューによって内部に複数の作動室が形成されるハウジングと、
該ハウジング内に相対回転可能に設けられ、カムシャフトに固定されるロータ部と、該ロータ部の外周側に突出するように設けられ、それぞれの前記作動室を進角作動室と遅角作動室に画成する複数のベーン部とによって構成されたベーンロータと、
前記進角作動室又は遅角作動室の一方に連通するように前記ハウジングの軸方向内側端面に内周側から外周側へ延びるように形成され、前記進角作動室又は遅角作動室の一方に作動油を給排する第1給排溝と、
前記進角作動室又は遅角作動室の他方に連通するように前記ベーンロータにおいて前記第1給排溝と対向する側の端面に内周側から外周側へ延びるように形成され、前記進角作動室又は遅角作動室の他方に作動油を給排する第2給排溝とを備え、
前記第1給排溝は、その内周側端の幅方向中心が、前記ベーンロータの回転中心と前記第1給排溝の外周側端の幅方向中心とを結ぶ直線に対して、最も近い前記シューの周方向中心側に偏倚するように設けられている
ことを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。 - クランクシャフトから回転が伝達され、内周側に突設した複数のシューによって内部に複数の作動室が形成されるハウジングと、
カムシャフトと一体に回転し、前記ハウジング内に相対回転可能に設けられるロータ部と、該ロータ部の外周側に突出するように設けられ、それぞれの前記作動室を進角作動室と遅角作動室に画成する複数のベーン部とによって構成されたベーンロータと、
前記ハウジングの軸方向内側端面に内周側から外周側へ直線的に延びるように形成され、前記進角作動室又は遅角作動室の一方に連通して作動油を給排する第1給排溝と、
前記ベーンロータにおいて前記ハウジングの軸方向内側端面と対向する側の端面に内周側から外周側へ延びるように形成され、前記進角作動室又は遅角作動室の他方に連通して作動油を給排する第2給排溝とを備え、
前記第1給排溝は、前記ハウジングの内周側から外周側へ向かうにつれて最も近い前記シューから周方向で離間するように、前記ハウジングの径方向に対して傾いて設けられている
ことを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
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