JP5276040B2 - 内燃機関のバルブタイミング制御装置 - Google Patents

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本発明は、内燃機関のバルブタイミング制御装置に関する。
従来、ハウジング部材の内周側にシューを突設し、ハウジング部材の内部にベーン部材を設置することで、シューとベーンとの間に作動室を画成し、これらの作動室に作動油を給排することで、ハウジング部材に対するベーン部材の回転角、すなわちクランクシャフトとカムシャフトの相対回転位相を変換する、いわゆるベーン式の内燃機関のバルブタイミング制御装置が知られている。例えば特許文献1に記載の装置では、作動室に作動油を給排するための給排通路として、溝をハウジング部材の内周側の軸方向端面に設けている。そして、シューと当接するベーンを設け、そのベーンの外周側がシューと当接し、そのベーンの内周側がシューと離間するように構成することで、上記ベーンと上記シューとの間に画成される作動室に上記溝が開口するようにしている。
特開2002−235512号公報
しかし、上記従来の装置では、軽量化が困難だった。本発明の目的とするところは、軽量化を図ることが可能な内燃機関のバルブタイミング制御装置を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明の装置は、好ましくは、給排通路の少なくとも1つは、少なくともシューにおけるベーンとの対向面に開口することとした。
よって、軽量化を図ることが可能である。
バルブタイミング制御装置の分解斜視図である。 バルブタイミング制御装置の回転軸を通る部分断面図である(図3のA−A視断面)。 バルブタイミング制御装置を回転軸方向から見た正面図である(最遅角位置)。 バルブタイミング制御装置を回転軸方向から見た正面図である(最進角位置)。 ロック機構の軸心を通る断面図である(図3のB−B断面)。
以下、本発明の内燃機関のバルブタイミング制御装置を実現する形態を、図面に基づき説明する。
[実施例1の構成]
実施例1の内燃機関のバルブタイミング制御装置(以下、装置1という。)は、自動車の内燃機関(以下、機関という。)の吸気側に適用される。なお、機関の排気側の装置に本発明を適用してもよい。
まず、装置1の構成を、図1〜図5に基づき説明する。説明のため装置1の回転軸Oが延びる方向にX軸を設け、吸気カムシャフト(以下、カムシャフト3という。)の側を負方向とする。図1は装置1の各構成部材を分解して同軸上に並べ、斜めから見た図である。図2は、装置1の回転軸Oを通る部分断面を示す。図3及び図4は、フロントプレート8等を取り外した状態の装置1(ハウジング本体10にベーン部材6を組み付けたもの)をX軸正方向側から見た正面図である。図2は図3のA−A視断面に略相当する。図3及び図4において、ベーン部材6及びリアプレート9に形成された溝ないし孔を破線で示す。
カムシャフト3は鉄系金属材料で作られており、シリンダヘッドの上端部内側に軸受けを介して回転自在に支持されている。カムシャフト3の外周面には、機関の吸気弁に対応する位置に駆動カム(吸気カム)が設けられている。カムシャフト3が回転すると吸気カムがバルブリフタないしロッカアーム等を介して吸気弁を開閉作動させる。カムシャフト3のX軸正方向側の端部30には、1つのカムボルト31により、装置1が取り付けられる。
カムボルト31は六角ボルトであり、正六角柱状の頭部310と、外周に雄ねじが形成された軸部311とを有している。頭部310には、座面の保護等のためのワッシャ(平座金)312が一体に形成されている。なお、カムボルトは1本に限らず、六角ボルトに限らず適当なものを採用可能である。ボルトのほかに適当な締結固定手段を採用してもよい。
端部30の内部には、カムボルト31(軸部311)が挿通される1つのボルト孔32、及び後述する遅角通路50及び進角通路51の一部としての軸方向通路502,512等が形成されている。
ボルト孔32は、回転軸O上に、端部30のX軸正方向側の端面300から所定のX軸方向深さまで形成されており、小径部320と大径部321を有している。大径部321は端面300から所定のX軸方向深さまで設けられており、大径部321の直径は、カムボルト31の軸部311よりも若干大きい。小径部320は、大径部321に対して段差を有してX軸負方向に向かって所定の深さまで設けられており、小径部320の直径は、カムボルト31の軸部311と略同じである。小径部320の内周には、カムボルト31の雄ねじに対応する雌ねじが形成され、雌ねじ孔を構成している。
端部30の端面300には、ベーン部材6とカムシャフト3との周方向位置決め用の凸部が設けられている。この凸部は、例えば端面300に設けられた凹部にピンを挿入設置することで構成することが可能である。凸部を設ける方法として、ピンによるのではなく、加工等により直接凸部を形成してもよい。本実施例1のようにピンによる場合は、凸部を直接形成するよりも簡便であり、位置決めに適したピン(ダウエルピン等)を適宜選択することができて有利である。
装置1は、供給される作動流体の圧力を用いてクランクシャフトに対するカムシャフト3の回転位相を連続的に変化させることで、吸気弁のバルブタイミングを可変制御するアクチュエータである。本実施例1では作動流体として作動液、具体的には作動油(オイル)を用いている。すなわち、装置1は、油圧駆動タイプの位相変換装置である。なお、作動流体として、オイル(作動油)以外の流体を用いることとしてもよい。装置1は、カムシャフト3に対して相対回転可能に設けられ、かつタイミングチェーンを介してクランクシャフトにより回転駆動されるスプロケット2と、スプロケット2とカムシャフト3との間に配置され、スプロケット2(クランクシャフト)とカムシャフト3の相対回転位置(位相)を変更する位相変更機構4と、位相変更機構4を作動させる油圧給排機構5とを有している。装置1のユニットは、ハウジング部材であるハウジングHSGと、ハウジングHSGの内部に収容されたベーン部材6とを有している。位相変更機構4は、ハウジングHSGとベーン部材6により区画形成(画成)された複数の作動室(作動油室ないし作動油圧室)を有している。
ハウジングHSGは、カムシャフト3の端部30に配置されている。ハウジングHSGには、スプロケット2が設けられており、スプロケット2を介してクランクシャフトからの回転力が伝達される。ベーン部材6は、カムボルト31によって端部30にX軸方向から固定されており、ハウジングHSG(スプロケット2)に対して相対回動自在に、ハウジングHSGの内部に収容されている。複数の作動室は、ハウジングHSGの内周に設けられたシュー11〜15とベーン部材6のベーン61〜65とによって区画された遅角室(遅角作動室)R1〜R5及び進角室(進角作動室)A1〜A5を有している。位相変更機構4は、油圧給排機構5から作動油の供給を受け、又は油圧給排機構5へ作動油を排出することで、ハウジングHSG(クランクシャフト)に対するベーン部材6(カムシャフト3)の回転位相を変更する。油圧給排機構5は油圧回路を有しており、油圧回路から作動室に供給される作動油の圧力がベーン61〜65に作用することで、ベーン部材6がハウジングHSGに対して回転し、クランクシャフトに対するカムシャフト3の回転角(位相変換角度)が変更される。油圧給排機構5による作動油の給排は、制御手段としてのコントローラCUにより制御される。
ハウジングHSGは、フロントプレート8と、リアプレート9と、ハウジング本体10とを有している。ハウジング本体10は、鉄系金属材料を焼結することで中空円筒状に作られたハウジング部材(焼結合金体)であり、X軸方向両端が開口している。ハウジング本体10のX軸方向両端には、封止部材としてのフロントプレート8及びリアプレート9がそれぞれ固定され、ハウジング本体10の開口を封止する。なお、ハウジング本体10の形状は特に限定されず、例えば軸方向一端側のみが開口した有底筒状、換言すると封止部材8,9の一方とハウジング本体10とを一体に形成したお椀形状であってもよい。
ハウジング本体10の外周には、ハウジング本体10のX軸方向略中央位置に、スプロケット2が一体に設けられている。スプロケット2は、X軸方向に延在する複数の凸部(歯)を周方向略等間隔に有する歯車であり、ハウジング本体10の焼結成形後、転造により成形される。スプロケット2は、ハウジング本体10と一体に熱処理が施されて高強度、高硬度化されている。スプロケット2にはチェーンが巻回され、チェーンを介してクランクシャフトにより回転駆動されて、ハウジング本体10と共に時計回り方向に回転する。なお、スプロケット2は必ずしもハウジング本体10と一体の部材として設けなくてもよく、またハウジング本体10以外のハウジング部材(リアプレート9等)に設けてもよい。また、スプロケットとチェーンに限らず、プーリとベルトにより動力を伝達するようにしてもよい。例えば、ハウジング本体の外周にプーリを設け、ベルトを巻回してもよい。本実施例1のようにチェーンとスプロケットを用いた場合、装置の軸方向小型化が容易である等の利点を有する。
ハウジング本体10の内周には、複数の(本実施例1では5つの)シュー11〜15が、内周側(回転軸Oの側)に向かって突出するように、ハウジング本体10と一体に成形されている。シュー11〜15は、ハウジングHSGにおいてベーン部材6(ロータ60)と摺動するように設けられ、複数の(本実施例1では5つの)収容室を画成する内壁(隔壁部)を構成している。なお、シュー11〜15をハウジング本体10と別体に設けることとしてもよい。具体的には、回転軸Oの周りの方向(以下、周方向という。)で略等間隔位置に、第1〜第5シュー11〜15が、ハウジング本体10の内周面から内径方向(回転軸Oに向かう方向)に向かって突設されている。図3に示すように、第1〜第5シュー11〜15は、X軸正方向側から見て、この順番で時計回り方向に並んでいる(以下、断り無く「時計回り」「反時計回り」というときは、X軸正方向側から見た場合を言う。)。各シュー11〜15はX軸方向に延びて形成されており、X軸に対して直角方向で切った断面は、内径方向に向かって幅が狭くなる略台形状(側面略U字状)に設けられている。各シュー11〜15の外径側(回転軸Oから離れる方向)の内部には、それぞれ孔110〜150がX軸方向に貫通形成されている。孔110〜150は、ボルトb1〜b5がそれぞれ挿通するボルト孔である。各シュー11〜15のX軸正方向側の端面にはフロントプレート8が固定設置され、X軸負方向側の端面にはリアプレート9が固定設置される。
第1シュー11と第2シュー12の間を除く、隣接する各シュー11〜15の間の隙間の周方向幅は、互いに略同じ大きさに設けられている。第1シュー11と第2シュー12の間の隙間は、後述する幅広の第1ベーン61が収容されるため、その周方向幅が、他のシュー間の上記隙間よりも大きく設けられている。各シューのボルト孔110〜150の中心を通る周方向幅は、第2〜第5シュー12〜15が互いに略同じ大きさに設けられ、第1シュー11の上記幅は、他のシュー12〜15よりも大きく(幅広に)設けられている。
各シュー11〜15の周方向側面(時計回り方向側及び反時計回り方向側の面)は、ハウジング本体10の径方向に延びるように設けられている。例えば、第1シュー11の時計回り方向側に形成された平面部113、及び第2シュー12の反時計回り方向側に形成された平面部121は、X軸方向から見て、ハウジング径方向(回転軸Oを通る径方向直線)と略一致した直線状である。
各シュー11〜15の内径側(先端部)には、各シュー11〜15の周方向側面に若干のアールを介して連続する先端面が、回転軸Oに対向して設けられており、これらの先端面は、後述するベーン部材6のロータ60の外周面600に沿った形状(X軸方向から見て外径方向に向かって僅かに窪んだ円弧状)に形成されている。第1シュー11の先端面の周方向幅は、他のシュー12〜15の先端面よりも広く設けられている。
各シュー11〜15の外径側(根元部分ないし付け根部分)は、若干のアールを介してハウジング本体10の内周面に連続する。第1シュー11の時計回り方向側の根元部分(平面部113のハウジング外径側)には肉盛り部114が一体に形成されている。肉盛り部114は、ハウジング外周側に向かって凸の緩やかな曲面状(湾曲状)である。X軸方向から見て、(ハウジング内部に面する)肉盛り部114の側面は、ハウジング本体10の内周面に対して所定の曲率をもってハウジング内径側に延び広がり、第1シュー11のハウジング径方向における略中間位置で平面部113に連続している。
第1シュー11の外周側(におけるハウジング本体10の外周面)には、時計回り方向側に、上記肉盛り部114とボルト孔110とに挟まれて、凹部116が設けられている。凹部116はハウジング本体10とリアプレート9との周方向位置決め用の凹溝であり、第1シュー11のX軸方向全範囲にわたって形成され、X軸方向から見て、内径側に向かって窪んだ形状に設けられている。
第1〜第5シュー11〜15の内周部(先端部)には、それぞれ凹溝117〜157が設けられている。凹溝117〜157は、X軸方向から見て外径側に向かって略矩形状に窪んで形成されたシール溝であり、シュー11〜15の内周面(先端面)の周方向略中央位置に、回転軸Oの方向に延びるようにX軸方向全範囲にわたって設けられている。シール溝117〜157の内部には、それぞれシール部材S1〜S5が嵌合保持されている。
図2に示すように、シール部材S3は、シール本体138と付勢手段139とを有している。シール本体138は、周方向から見て略コ字状であって、シュー13の略X軸方向長さ分だけ延びるシール面部を有し、シール面部が内周側(回転軸Oの側ないしロータ60の外周面600の側)に面するように、シール溝137に設置されている。付勢手段139は、シールスプリングとしての板バネから構成されており、シール本体138(シール面部)をロータ外周面600の側に向かって押圧付勢するように、シール溝137に設置されている。シール面部はロータ60の(X軸方向全範囲における)外周面600に弾接し、ロータ60がハウジングHSGに対して回転する際、ロータ外周面600に摺接する。他のシール部材S1,S2,S4,S5も同様に構成され、それぞれシール本体118,128,148,158と付勢手段119,129,149,159を有している。
図3及び図5に示すように、第1シュー11の時計回り方向側(平面部113)には、X軸負方向側から所定のX軸方向深さまで、溝111が形成されている。第1シュー11は、その時計回り方向側及びX軸負方向側の角部が、溝111により切り欠かれており、溝111は、第1シュー11の時計回り方向側の面(平面部113)及びX軸負方向側の面に開口している。溝111は、ハウジング本体10を粗材状態で型成形する際に同時に型成形される。溝111は、第1シュー11の内周側端(先端部)からハウジング本体10の外周側へ、第1シュー11の径方向での略中間位置まで、直線的に延びている。溝111が延びる方向に対して垂直な平面で切った溝111の断面は略矩形状である。X軸正方向側から見て、溝111の時計回り方向側の縁は第1シュー11の時計回り方向側の面(平面部113)と一致し、溝111の反時計回り方向側の縁は平面部113と略平行である。周方向(時計回り方向側)から見て、溝111のX軸負方向側の縁は第1シュー11のX軸負方向側の面と一致し、溝111のX軸正方向側の縁は第1シュー11のX軸方向側面と略平行である。溝111の幅は、溝長さ方向で略均等に設けられている。なお、溝幅を均等にしなくてもよい。
また、X軸方向から見て、溝111はシール溝117と重ならないように配置されている。具体的には、溝111の反時計回り方向側の縁は、第1シュー11の先端面において、シール溝117の時計回り方向側の縁よりも若干時計回り方向側に配置されるとともに、外径側へ向かうにつれてシール溝117の上記縁から離間するため、溝111とシール溝117との連通は抑制される。
フロントプレート8は、鉄系金属材料、具体的には鋼材をプレス加工することによって円板(円盤)状に成形されており、ハウジング本体10のX軸正方向側の開口端、換言すると進角室Aと遅角室RのX軸正方向側の端を閉塞・封止する。
フロントプレート8の直径は、スプロケット2を除くハウジング本体10の外周面の径と略同じ大きさに設けられている。フロントプレート8の内径側の略中央には、孔80がX軸方向に貫通形成されている。孔80は、(カムシャフト3への装置1の組み付け時に)カムボルト31が挿通する挿通孔であり、その直径がワッシャ312よりも僅かに大きい大径孔である。
フロントプレート8には、孔800がX軸方向に貫通形成されている。孔800は、X軸方向から見て略矩形状に孔80に連続して形成されており、孔800の内周面からプレート外径方向に所定距離だけ延びている。ハウジングHSG内にベーン部材6が設置された状態で、孔800は、後述するベーン部材6の径方向溝605とX軸方向で略重なるように配置されており、その周方向幅は、ベーン部材6の全相対回転範囲内で径方向溝605とX軸方向で略重なる寸法に設けられている。孔800は、空気抜き孔であり、径方向溝605とともに、後述するロックピストン71の背圧室72の背圧逃し部を構成している。
フロントプレート8の外径側には、周方向で略等間隔に、5つの孔81〜85がX軸方向に貫通形成されている。孔81〜85は、ボルトb1〜b5がそれぞれ挿通するボルト孔であり、ハウジング本体10の各シュー11〜15のボルト孔110〜150とX軸方向で対向するそれぞれの箇所に設けられている。フロントプレート8は、ボルトb1〜b5の締結力に対する剛性(ボルト頭部が着座する面の強度)を確保できる程度に、X軸方向にできるだけ薄く形成されている。
リアプレート9は、ハウジング本体10と同様、鉄系金属材料を焼結することで円板(円盤)状に成形されており、ハウジング本体10のX軸負方向側の開口端、換言すると進角室Aと遅角室RのX軸負方向側の端を、カムシャフト3が挿通可能に、閉塞・封止する。なお、ハウジング本体10とは異なり、リアプレート9は焼結成形後に熱処理が施されないため、ハウジング本体10よりも硬度が低くなっている。
図2に示すように、リアプレート9のX軸方向厚さは、フロントプレート8のX軸方向幅よりも厚く、かつスプロケット2のX軸方向幅と略同じに設けられている。リアプレート9の直径は、スプロケット2を除くハウジング本体10の外周面の径と略同じ大きさに設けられている。
リアプレート9の内径側の略中央には、孔90が、回転軸Oと略同軸に、リアプレート9をX軸方向(回転軸方向)に貫通して形成されている。孔90は、カムシャフト端部30が挿通され回転自在に支持される挿通孔であり、カムシャフト3に対してハウジングHSGを回転自在に支持する支持孔でもある。挿通孔90は、リアプレート9を粗材状態で型成形する際に同時に型成形され、その直径がフロントプレート8の大径孔80と略同じになるように加工される。
リアプレート9の外径側には、周方向で略等間隔に、5つの雌ねじ部91〜95が設けられている。雌ねじ部91〜95は、各シュー11〜15のボルト孔110〜150及びフロントプレート8のボルト孔81〜85とそれぞれX軸方向で対向する箇所に設けられている。雌ねじ部91〜95は、リアプレート9をX軸方向に貫通して形成されたボルト孔をそれぞれ有しており、これらのボルト孔の内周に雌ねじが形成されている。この雌ねじに、ボルトb1〜b5のX軸負方向側先端部の雄ねじがそれぞれ螺着する。
すなわち、フロントプレート8、ハウジング本体10、及びリアプレート9は、ボルトb1〜b5によってX軸方向から共締めにより一体的に結合される。ボルトb1〜b5は、それぞれX軸正方向側からフロントプレート8のボルト孔81〜85及びハウジング本体10のボルト孔110〜150に挿通され、リアプレート9の雌ねじ部91〜95に螺着されることで、ハウジング本体10にフロントプレート8及びリアプレート9を締結固定する。なお、フロントプレート8のボルト孔81〜85及びハウジング本体10のボルト孔110〜150は、ボルトb1〜b5の軸の直径よりも若干大きく設けられている。
図2及び図4に示すように、リアプレート9には、孔96がX軸方向に貫通形成されている。孔96は、後述する係合凹部730を構成するための嵌合孔であって、第1シュー11と第2シュー12により挟まれた収容室において進角室A1側に偏倚した(第1シュー11の時計回り方向側に隣接した)位置に設けられている。
リアプレート9のX軸正方向側の面には、孔96と雌ねじ部91の間であってこれらよりも若干外径側に、ハウジング本体10とリアプレート9との周方向位置決め用の凸部97が、X軸正方向に向かって延びるように設けられている。凸部97は、プレート径方向においてハウジング本体10の凹部116に略対応する位置に、凹部116の周方向幅と略同じ直径で、円柱状に形成されている。凸部97は、例えば、リアプレート9に形成した孔にピンを嵌合することで設けることができる。凸部97のリアプレート9における周方向位置は、凸部97を凹部116に嵌合させたとき、第1シュー11のボルト孔110とリアプレート9の雌ねじ部91とが略同軸上に位置し、かつ、後述する第1ベーン61(平面部614)が第1シュー11(平面部113)に当接した状態(図3参照)で、第1ベーン61の後述する摺動用孔70とリアプレート9の嵌合孔96とが略同軸上に位置するように設けられている。
リアプレート9のX軸正方向端面には、溝900と、放射状に延びる溝515,516,517,518,519とが設けられている。これらの溝は、リアプレート9を粗材状態で型成形する際に同時に型成形される。溝900は、カムシャフト挿通孔90の内周面のX軸正方向端に設けられた環状溝であり、その内周面の径は、挿通孔90の径よりも若干大きい。溝900は、リアプレート9のX軸正方向端面からX軸負方向側の所定深さ(リアプレート9のX軸方向寸法の半分弱)まで設けられている。
溝515〜519は、リアプレート9のX軸正方向端面に、溝900と略同じX軸方向深さまで形成されている。溝515〜519は、それぞれリアプレート9の内周側から外周側へ直線的に延びており、カムシャフト挿通孔90(溝900)の内周面からプレート径方向における所定位置まで、具体的には各シュー11〜15の径方向での略中間位置まで、それぞれ延びている。なお、溝515〜519を直線的ではなく曲線的に延びるように設けてもよい。X軸方向から見て、溝515〜519の(外径側)先端は半円状に設けられている。溝515〜519が延びる方向に対して垂直な平面で切った溝515〜519の断面は略矩形状である。
図3及び図4に示すように、X軸方向側から見て、各溝515〜519はプレート径方向(回転軸Oを通る径方向直線)に対して傾いて設けられており、内周側(内径側)から外周側(外径側)へ向かうにつれて、直近のシュー11〜15から離間する。例えば、溝516についてみると、溝516の外周側端(の幅方向中心)が、回転軸Oと溝516の内周側端(の幅方向中心)とを結ぶ直線に対して、(溝516に)最も近いシュー12の周方向中心から離間する側に偏倚(オフセット)するように設けられている。他の溝515,517〜519も同様である。
溝515を除く溝516〜519の幅は、溝長さ方向で略均等に設けられている。なお、溝幅を均等にしなくてもよい。溝516〜519は、それぞれ第2〜第5シュー12〜15に周方向で隣接して設けられており、ロータ60の外周側で各シュー12〜15(先端部分)の時計回り方向側に開口し、それぞれ進角室A2〜A5に連通する。X軸方向から見て、各溝516〜519の内径側(基端部分)はロータ60に重なって隠される一方、各溝516〜519の外径側(先端部分)は、一部が各シュー12〜15の内径側(先端部分)と重なり、他の部分がリアプレート9のX軸正方向端面に開口している。換言すると、リアプレート9においてシュー12〜15と対向する面(リアプレート9のX軸正方向端面においてX軸方向でシュー12〜15と対向する部位)にそれぞれ溝516〜519を設けている。各シュー12〜15(先端部分)の時計回り方向側の面は、それぞれ溝516〜519の周方向略中央位置に配されている。換言すると、リアプレート9において、ロータ60の外周側で開口する各溝516〜519は、その略半分がシュー12〜15によりそれぞれ塞がれ、残りの略半分がそれぞれ進角室A2〜A5に開口可能に設けられている。
一方、溝515は、第1シュー11に周方向で重なる位置に設けられている。溝515の幅は、リアプレート9の内周側よりも外周側のほうが狭く設けられている。内周側、すなわち挿通孔90の内周面からロータ外周面600までの溝515の溝幅は他の溝516〜519と同様であるが、ロータ60の外周側で狭くなり、内周側の略半分に設けられている。具体的には、溝515の時計回り方向側の縁は、ロータ外周面600から外周側へ向かうにつれて徐々に反時計回り方向側へ偏倚し、第1シュー11の時計回り方向側の先端アール部分と平面部113との境界付近で平面部113と略一致し、上記境界付近から外周側に向かう部分では、平面部113と略一致した直線状である。一方、溝515の反時計回り方向側の縁は、他の溝516〜519と同様、挿通孔90の内周面から外周側へ向かうにつれて直線状に延びる。よって、溝515は、X軸方向から見て、内周側(基端部分)では、ロータ60と重なって塞がれる一方、外周側(先端部分)では、ロータ外周面600から上記境界付近までの僅かな範囲(第1シュー11の先端アール部分に時計回り方向側で隣接する三角状範囲。図4参照。)でのみリアプレート9のX軸正方向端面に開口し、残りの部分は第1シュー11の時計回り方向側と重なる。
X軸正方向側から見て、溝515の反時計回り方向側の縁は、第1シュー11の時計回り方向側の面(平面部113)及び溝111に対して略平行であるとともに、溝111の反時計回り方向側の縁に対して若干反時計回り方向側に偏倚して位置する。また、溝515の(外径側)先端と溝111の(外径側)先端は略一致する径方向位置に設けられている。換言すると、溝111は、第1シュー11においてX軸方向で溝515と対向する面(X軸負方向端面)に設けられ、X軸方向において(すなわちX軸方向から見て)、溝515の範囲内に含まれるように形成されている。
また、X軸方向から見て、各溝515〜519は各シュー11〜15のシール溝117〜157と重ならないように配置されている。具体的には、各溝515〜519の反時計回り方向側の縁は、各シュー11〜15の先端面において、シール溝117〜157の時計回り方向側の縁と略一致するか、これよりも僅かに時計回り方向側に配置されるとともに、外径側へ向かうにつれてシール溝117〜157の上記縁から離間するため、各溝515〜519とシール溝117〜157との連通は抑制される。
図2に示すように、溝900と溝515〜519は、カムシャフト端部30の後述する環状溝514とX軸方向で重なる深さまで設けられている。具体的には、溝900と溝515〜519は、環状溝514よりも若干小さいX軸方向寸法を有しており、X軸方向で環状溝514の略中央に位置する。よって、各溝515〜519の内径側端は、溝900を介して環状溝514と連通する。溝515〜519は、カムシャフト3側の給排油路(環状溝514等)からの作動油を各進角室A1〜A5にそれぞれ供給し、又は各進角室A1〜A5から作動油をそれぞれカムシャフト3側の給排油路に排出する、進角側の給排通路を構成している(以下、溝515〜519を第1溝515〜519という。)。なお、溝900を省略することとしてもよい。
ベーン部材6は、カムシャフト3と一体になって時計回り方向に回転する従動回転体(従動部材)である。ベーン部材6は、ハウジング本体10と同様、鉄系金属材料を焼結することで成形されている。ベーン部材6は、作動油圧を受ける5枚の羽根である第1〜第5ベーン61〜65と、各ベーン61〜65の内径側(回転中心側)に設けられ、カムボルト31によってカムシャフト3に略同軸に固定される回転軸部であるロータ60とを有するベーンロータである。
ロータ60は円柱状であり、各シュー11〜15の先端部に嵌着されたシール部材S1〜S5に対して摺動しつつ、ハウジングHSGに対して回転可能に支持される。
ロータ60のX軸方向長さは、ハウジング本体10のX軸方向長さよりも僅かに小さい。ロータ60には、そのX軸負方向側の面からX軸正方向側に向かってロータ60の半分弱の深さまで、有底の孔601が、ロータ60と略同軸に(回転軸O上に)形成されている。孔601は、カムシャフト端部30の挿通部301が挿通・設置されるカムシャフト挿通孔であり、孔601の直径はカムシャフト3(挿通部301)の直径よりも僅かに大きい。
ロータ60には、孔601のX軸正方向側の底部に、孔602が、回転軸O上に貫通形成されている。孔602は、X軸正方向側からカムボルト31の軸部311が挿通されるボルト孔であり、孔602の直径は軸部311よりも若干大きい。ロータ60には、孔601のX軸正方向側の底部に、孔602に連続して、孔603がX軸方向に貫通形成されている。孔603は、カムシャフト端面300に設けられた凸部と嵌合し、カムシャフト3に対するベーン部材6の周方向位置決めに用いられる位置決め孔であり、孔602からロータ外径方向に延びて形成されている。孔603は、X軸方向から見て、半長円状であり、径方向に延びて周方向で互いに対向する2つの直線部と、半円弧状に形成された1つの曲線部とを有している。上記凸部は、X軸負方向側から孔603に挿通され、嵌合する。孔603の周方向寸法(上記直線部間の距離)は、上記凸部の周方向寸法よりも僅かに大きく設けられ、上記凸部が孔603に嵌合した状態で、ベーン部材6とカムシャフト3の周方向のガタが発生しない寸法に設定されている。
ロータ60の外周には、周方向で略等間隔に、第1〜第5ベーン61〜65が、外径方向に向かって突出して放射状に設けられている。時計回り方向で、第1〜第5ベーン61〜65はこの順番で並んで設けられ、ロータ60と一体に成形されている。
各ベーン61〜65のX軸に対して直角方向の断面は、外径方向に向かうにつれて周方向幅が広くなる略台形状に形成されている。なお、ベーン61〜65の断面形状は適宜変更可能である。各ベーン61〜65のX軸方向長さはロータ60のX軸方向長さと略同じである。周方向における第2〜第5ベーン62〜65の幅は、略同じである。第1ベーン61の周方向幅は第2〜第5ベーン62〜65よりも広く、最大幅となっており、後述する摺動用孔70を形成してロックピストン71を収容することを可能としている。各ベーン61〜65の周方向間隔は、ベーン部材6の重心を回転軸O上に近づけるように調整されている。ベーン部材6がハウジングHSG内に設置された状態で、各ベーン61〜65のX軸正方向側の面は、フロントプレート8のX軸負方向側の面に対して僅かな隙間を介して対向し、各ベーン61〜65のX軸負方向側の面は、リアプレート9のX軸正方向側の面に対して僅かな隙間を介して対向している。第1ベーン61は第1シュー11と第2シュー12の間、第2ベーン62は第2シュー12と第3シュー13の間、第3ベーン63は第3シュー13と第4シュー14の間、第4ベーン64は第4シュー14と第5シュー15の間、第5ベーン65は第5シュー15と第1シュー11の間の収容室に、それぞれ配置される。
第1〜第5ベーン61〜65の外径側の先端部には、溝611〜651がX軸方向に沿ってそれぞれ形成されている。溝611〜651の内部には、それぞれシール部材612〜652が設置されている。シール部材612〜652は、各シュー11〜15のシール部材S1〜S5と同様の構造を有しており、ハウジング本体10の内周面に液密に摺接するシール本体と、シール本体を上記内周面に向けて押圧する付勢手段としてのシールスプリング(板バネ)とを有し、それぞれシール溝611〜651に嵌着保持されている。
ベーン部材6は、ハウジングHSGとの間で、作動油が給排される進角室Aと遅角室Rを形成している。すなわち、X軸方向から見て、隣り合うシュー11〜15の間で5つの収容室が画成されており、これらの収容室はそれぞれベーン61〜65によって進角室A及び遅角室Rに画成されている。換言すると、ベーン61等はシュー11等との間で複数の作動室A,Rを形成する。これらの作動室A,RにオイルポンプPから供給される作動油を導入し、作動油を介してベーン部材6とハウジングHSGとの間の回転伝達を行う。具体的には、フロントプレート8のX軸負方向側の面と、リアプレート9のX軸正方向側の面と、ロータ60の外周面600と、各ベーン61〜65の周方向での両側面と、各シュー11〜15の周方向での両側面との間で、5組の油圧作動室、すなわち5つの進角室A1〜A5と5つの遅角室R1〜R5が画成されている。第1シュー11の時計回り方向側の面と第1ベーン61の反時計回り方向側の面との間に第1進角室A1が、第1ベーン61の時計回り方向側の面と第2シュー12の反時計回り方向側の面との間に第1遅角室R1が、それぞれ画成されており、同様に、第2〜第5進角室A2〜A5と第2〜第5遅角室R2〜R5が、それぞれ画成されている。
進角室A及び遅角室Rは、シール部材S1等によりそれぞれ液密状態に保たれ、シュー先端部(ロータ外周面)及びベーン先端部(ハウジング本体内周面)における作動室A,R間の作動油の漏出が抑制されている。なお、これらのシール部材S1等を省略することとしてもよい。シール部材S1等として、本実施例1で用いた以外のタイプも採用可能である。付勢手段119等として板バネ以外の弾性部材を用いたり、シール本体118等そのものを弾性変形させて付勢手段を省略したりしてもよい。また、ベーン部材6の外周部にシール溝を設け、シュー11〜15の先端部と摺接するように上記シール溝にシール部材を設置することとしてもよい。本実施例1では、シュー11〜15の先端部にシール部材を設置したため、作動室への作動油の給排通路(後述する孔505〜509、第1溝515〜519)をロータ外周面600よりも内周側に配置する際、これらの通路のレイアウト自由度を向上可能である。
第1ベーン61の反時計回り方向側には、平面部614が形成されている。平面部614は、ロータ径方向に延びて形成され、X軸方向から見て、回転軸Oを通る径方向直線と略一致した直線状に延びる平面を有しており、周方向で第1シュー11の平面部113と対向している。平面部614は、第1ベーン61の根元部分において、若干のアール(第1シュー11の先端部のアールと略同様の、ないしこれよりも僅かに小さい曲率半径)を介して、ロータ外周面600に連続する。第1ベーン61の反時計回り方向側の外径側(先端部)には、平面部614に連続して、周方向で第1シュー11の肉盛り部114と対向する位置に、切り欠き部615が設けられている。切り欠き部615は、X軸方向から見て、外側に凸の略円弧状であり、肉盛り部114の円弧状外周面と略同じ曲率(曲面形状)を有し、後述する孔70を取り囲むように、孔70に沿って略90度強の角度範囲にわたり設けられている。
第1ベーン61の時計回り方向側には、平面部617が形成されている。平面部617は、平面部614と同様、ロータ径方向に直線状に延びて形成された平面を有しており、周方向で第2シュー12の平面部121と対向している。第1ベーン61の時計回り方向側の内径側(根元部分)には、平面部617に隣接して、切り欠き部618が設けられている。切り欠き部618は、第1ベーン61の根元部分を平面部617から同ベーン61の周方向中心側へ抉り取った形状に形成される凹溝であり、X軸正方向から見て、反時計回り方向に凸の略三角状を有している。切り欠き部618は、ベーン部材6の型成形時に同時に成形される。
第1ベーン61の内部には、孔70がX軸方向に貫通形成されている。図5に示すように、孔70は、X軸負方向側に設けられた小径部701とX軸正方向側に設けられた大径部702からなる。小径部701の内周面の径は、大径部702の内周面の径よりも小さく設けられている。
第1ベーン61において孔70の反時計回り方向側に隣接する部分(平面部614)の肉厚(周方向寸法)は、孔70の周囲の強度を最低限確保可能な程度に小さく(薄肉に)設けられている。第1ベーン61において孔70に外径側で隣接する先端部分(切り欠き部615)も同様の薄肉に設けられている。一方、第1ベーン61において孔70の時計回り方向側に隣接する部分(平面部617)の周方向寸法は、孔70の反時計回り方向側よりも大きく(厚肉に)設けられており、これにより、第1ベーン61の先端部の時計回り方向側にシール溝611を設けることを可能にしている。すなわち、シール溝611を設けるスペースを確保しつつ、孔70とシール溝611の周囲の強度を担保している。
第1ベーン61のX軸方向略中間部位の内部には、孔75が、ロータ周方向に直線状に延びるように形成されている。孔75は、その反時計回り方向側端で、小径部701と大径部702の接続部位において孔70の内周面に開口するとともに、時計回り方向側端で、第1ベーン61の時計回り方向側の面(平面部617)に開口する。
一方、第1ベーン61のX軸負方向側の面には、溝76が周方向に直線状に延びるように形成されている。溝76は、その時計回り方向側端で、小径部701のX軸負方向端において孔70の内周面に開口するとともに、反時計回り方向側端で、第1ベーン61の反時計回り方向側の面(平面部614)に開口する。
ベーン部材6のX軸正方向側の面には、所定のX軸方向深さまで、溝605が設けられている。溝605は、大径部702から第1ベーン61の根元部分を経由して内径方向に延びてフロントプレート8の孔800に連続し、孔70(大径部702)のX軸正方向端と孔800とをロータ径方向に接続して、これらを連通する矩形状の切り欠き溝(径方向溝)である。
第1シュー11の時計回り方向側の面(平面部113)に開口する溝111は、周方向で第1ベーン61(の反時計回り方向側の面)と対向するとともに、第1進角室A1に連通する。溝111は、作動油を第1進角室A1に供給し、又は第1進角室A1から作動油を排出する、進角側の給排通路を構成している(以下、溝111を第2溝111という。)。
なお、作動油が給排される作動室として、進角室と遅角室のどちらか一方のみを有する構成としてもよい。また、進角室と遅角室の数は、それぞれ5に限定されない。換言すると、シューやベーンの数は、それぞれ5に限らず他の数であってもよい。
ベーン部材6の内部には、孔505,506,507,508,509が設けられている。孔505〜509は、カムシャフト挿通孔601の内周面からロータ60の外周面600まで貫通形成された貫通孔であり、ロータ60の内周側から外周側へ直線的に延びるように形成されている。孔505〜509は、ロータ60のX軸方向略中央から若干X軸負方向側に寄った位置に設けられている。孔505〜509は、それぞれ第1〜第5ベーン61〜65に周方向で隣接して設けられている。X軸正方向側から見て、各孔505〜509はロータ径方向(回転軸Oを通る径方向直線)に対して傾いて設けられている。具体的には、孔505〜509は、そのロータ内周側端がそれぞれベーン61〜65の周方向中心線上に位置し、ロータ内周側から外周側へ向かうにつれて上記中心線から時計回り方向側に離間する。孔505〜509のロータ外周側端はそれぞれベーン61〜65の時計回り方向側の根元部分でロータ60の外周面600に開口し、それぞれ遅角室R1〜R5に連通する。なお、各孔505〜509の上記開口は、それぞれ可能な限り各ベーン61〜65に近接するように配置されており、孔506〜509は、ロータ60の外周面600だけでなく、部分的に各ベーン62〜65の周方向側面にも開口する。孔505は、第1ベーン61の切り欠き部618に開口する。
孔505〜509は、カムシャフト端部30の後述する環状溝504とX軸方向で重なる位置に設けられている。具体的には、孔505〜509は、環状溝504よりも若干小さいX軸方向寸法を有しており、X軸方向で環状溝504の略中央に位置する。よって、各孔505〜509の内径側端は、環状溝504と連通する。孔505〜509は、カムシャフト3側の給排油路(環状溝504等)からの作動油を各遅角室R1〜R5にそれぞれ供給し、又は各遅角室R1〜R5から作動油をそれぞれカムシャフト3側の給排油路に排出する、遅角側の給排通路を構成している(以下、孔505〜509を遅角油孔505〜509という。)。
第1シュー11の平面部113と第1ベーン61の平面部614により、ハウジングHSGに対するベーン部材6の反時計回り方向(遅角方向)の相対回転を規制する第1ストッパ部が構成されている。すなわち、第1ベーン61の反時計回り方向側面(平面部614)と第1シュー11の時計回り方向側面(平面部113)は互いに面同士で当接可能に設けられている。ベーン部材6がハウジングHSGに対して反時計回り方向に所定角度以上回転しようとすると、図3に示すように、平面部614が平面部113と面同士で接触して当接し、この相対回転が規制される。
このとき、他の第2〜第5ベーン62〜65はそれぞれ反時計回り方向側で隣接するシューに対して若干の隙間を介して対向しており、互いに接触しない(非当接状態を維持する)。すなわち、第1ストッパ部による回転規制状態で、第2〜第5進角室A2〜A5の容積がゼロになることは回避されている。また、第2〜第5ベーン62〜65(の内周側基端部)は、それぞれ第1溝516〜519の時計回り方向側部分と周方向で重なるが、第2〜第5進角室A2〜A5における第1溝516〜519の開口はそれぞれ第2〜第5ベーン62〜65によって完全には塞がれず、上記若干の隙間分だけ開口面積が確保されている。なお、第1溝516〜519の時計回り方向側の縁は、それぞれ第2〜第5ベーン62〜65の周方向中央よりも若干反時計回り寄りに位置し、ベーン62〜65の反時計回り方向側の20〜30%の部分に第1溝516〜519が重なっている。
一方、この回転規制状態で、第1進角室A1における第1溝515の開口は、第1ベーン61の内径側基端部によって大部分塞がれる。すなわち、第1ベーン61の根元部分は、進角室A1における第1溝515の(第1シュー11の先端部における)僅かな開口をも大部分塞ぐため、シュー11の先端部とベーン61の根元部分との間には、極僅かな隙間のみが残り、この隙間に第1溝515及び第2溝111が開口することになる。また、平面部614と平面部113との当接範囲(面接触の範囲)は、第1溝515及び第2溝111の外周側端よりも外周側まで設けられているため、平面部113における第2溝111の開口は、平面部614により塞がれる。本実施例1では、ベーン61の内径側基端部も含めてベーン61とシュー11とを面接触させることで、第1ストッパ部の当接面積を大きくし、当接によりベーン61に作用する面圧を抑制して、第1ストッパ部の強度を増大している。一方、第1シュー11の肉盛り部114と第1ベーン61の切り欠き部615との間には僅かな隙間が存在する。なお、肉盛り部114の形状を、平面状に形成することとしてもよい。
また、第2シュー12の平面部121と第1ベーン61の平面部617により、ベーン部材6の時計回り方向(進角方向)の相対回転を規制する第2ストッパ部が構成されている。すなわち、第1ベーン61の時計回り方向側面(平面部617)と第2シュー12の反時計回り方向側面(平面部121)は互いに面同士で当接可能に設けられている。ベーン部材6がハウジングHSGに対して時計回り方向に所定角度以上回転しようとすると、図4に示すように、平面部617が平面部121と面同士で接触して当接し、この相対回転が規制される。このとき、他のベーン62〜65はそれぞれ時計回り方向側で隣接するシューに対して若干の隙間を介して対向しており、互いに接触しない(非当接状態を維持する)。すなわち、第2ストッパ部による回転規制状態で、第2〜第5遅角室R2〜R5の容積がゼロになることは回避されている。また、各遅角室R2〜R5への遅角油孔506〜509の開口は、それぞれ(ロータ外周面600に摺接する)シュー13〜15,11の先端面によって完全には塞がれず、所定の開口面積が確保されている。例えば、遅角油孔506の開口部の反時計回り方向側部分は、部分的に第2ベーン62の時計回り方向側の面に設けられているため、第3シュー13と第2ベーン62との間の上記若干の隙間に開口する。また、遅角油孔506の開口部の時計回り方向側部分は、第3シュー13の先端面と周方向で重なる位置にあるが、第3シュー13の先端部の反時計回り方向側に設けられたアールにより、両者の周方向での重なり部分には径方向で若干の隙間ができる。よって、遅角油孔506の遅角室R2への開口部がシュー13の先端部により塞がれることが抑制される。他の遅角油孔507〜509についても同様である。
また、この回転規制状態で、第1ベーン61の根元部分と第2シュー12の先端部との間には、第1ベーン61に設けられた切り欠き部618により隙間が存在し、この隙間に遅角油孔505が開口する。よって、第1遅角室R1への遅角油孔505の開口が塞がれることもない。
また、この回転規制状態で、各遅角油孔505〜509のロータ外周側の開口部は、その時計回り方向側の縁が、各シュー11〜15の先端部に設けられたシール溝117〜157の反時計回り方向側の縁と略一致するか、又はこれよりも反時計回り方向側に位置しており、各遅角油孔505〜509の開口部はそれぞれシール部材S1〜S5と周方向で重ならない(径方向で対向しない)ように設けられている。なお、この回転規制状態で、X軸方向から見て、各シール溝117〜157を挟んで隣接する第1溝515〜519と遅角油孔505〜509は、それぞれ互いに略平行に延びるように配置されている。
油圧給排機構5は、進角室A1〜A5又は遅角室R1〜R5へ作動油を選択的に供給し、又はこれらから作動油を排出することによって、ベーン部材6をハウジングHSGに対して所定角度だけ正逆回転させる。すなわち、作動油の給排を調整して油室容積を変更することにより、ハウジングHSGに対してベーン部材6を所定角度だけ回転し、この状態で両者間の回転力伝達が行われることにより、クランクシャフトの回転に対するカムシャフト3の回転の位相が変更される。油圧給排機構5は、図2に示すように、油圧供給源であるポンプPと、油圧回路と、油圧制御アクチュエータである流路切換弁54とを有している。
油圧回路は、2系統の通路、すなわち各遅角室R1〜R5に対して作動油を給排する遅角通路50、及び各進角室A1〜A5に対して作動油を給排する進角通路51を有している。両通路50,51には、流路切換弁54を介して、供給通路52とドレン通路53が接続されている。供給通路52には、オイルパン55内の油を流路切換弁54へ圧送するポンプPが設けられている。ポンプPは、機関のクランクシャフトにより回転駆動され、例えば一方向の可変容量ベーンポンプを用いることができる。ドレン通路53の下流端はオイルパン55に連通している。
カムシャフト3とベーン部材6とハウジングHSG(リアプレート9)には、遅角通路50及び進角通路51の一部が形成されている。
カムシャフト端部30には、溝500,504,510,514と孔502,512と孔501,503,511,513が設けられている。溝500〜514は、端部30の外周面の周方向全範囲にわたり所定深さまで形成された環状溝であり、遅角通路用の溝500,504と進角通路用の溝510,514を有している。溝500〜514のX軸方向幅は略同じである。溝500,510は、端部30のX軸負方向側に設けられてシリンダヘッド内に配置され、この順にX軸負方向に向かって並んでいる。溝504,514は、端部30のX軸正方向側に設けられ、この順にX軸負方向に向かって並んでいる。溝504は、ベーン部材6のカムシャフト挿通孔601内に配置され、溝514は、リアプレート9のカムシャフト挿通孔90内(X軸正方向側)に配置されている。
孔502,512は、端部30の内部にX軸方向に延びて形成された軸方向通路であり、遅角用の通路502と進角用の通路512を有している。通路502,512は、(ボルト孔32より小さい)所定の直径を有して、それぞれカムシャフト端面300に開口している。端部30がカムシャフト挿通孔601に挿入され設置された状態で、通路502,512の端面300における開口部は、カムシャフト挿通孔601のX軸正方向側の底面により塞がれる。
孔501〜513は、端部30の内部にX軸に対して略直角方向に延びて形成された径方向通路であり、遅角用の通路501,503と進角用の通路511,513を有している。通路501は溝500と軸方向通路502との間に、通路503は溝504と軸方向通路502との間に、通路511は溝510と軸方向通路512との間に、通路513は溝514と軸方向通路512との間に、それぞれ貫通形成されてそれらを接続している。
流路切換弁54からの遅角通路50は、回転体であるカムシャフト3(端部30)内の油路に接続する際、まず環状溝500と連通する。環状溝500は径方向通路501を介して軸方向通路502に連通し、軸方向通路502は径方向通路503を介して環状溝504と連通している。同様に、流路切換弁54からの進角通路51は、端部30において環状溝510と連通し、環状溝510は径方向通路511、軸方向通路512、及び径方向通路513を介して環状溝514と連通している。
また、遅角側の通路としてベーン部材6に上記孔505〜509が設けられ、進角側の通路としてリアプレート9に上記第1溝515〜519と第2溝111が設けられている。
端部30がカムシャフト挿通孔601に挿入され設置された状態で、端部30内の遅角側通路501〜503は、環状溝504を介してベーン部材6の孔505〜509と接続し、孔505〜509を介して各遅角室R1〜R5と連通する。また、端部30内の進角側通路511〜513は、環状溝514(及び環状溝900)を介してリアプレート9の第1溝515〜519と連通し、第1溝515と第2溝111を介して第1進角室A1と連通するとともに、第1溝515〜519を介して第2〜第5進角室A2〜A5と連通する。環状溝504を設けることにより、ベーン部材6における孔505〜509のロータ周方向でのレイアウト自由度を向上し、環状溝514を設けることにより、リアプレート9における第1溝515〜519のプレート周方向でのレイアウト自由度を向上している。
なお、カムシャフト挿通孔601を設けないこととしてもよい。本実施例1では、カムシャフト挿通孔601を設けたことで、カムシャフト3に対するベーン部材6の径方向位置決めが容易であり、またカムシャフト3内の油路502等とベーン部材6側の油路(孔505〜509)との接続が容易である。
流路切換弁54は、進角室A1〜A5又は遅角室R1〜R5へ給排される作動油圧を制御する4ポート3位置の方向制御弁(2方向弁)であり、いわゆる直動式のソレノイド弁である。流路切換弁54は、機関側(シリンダヘッド)に固定されたバルブボディと、バルブボディに固定されたソレノイドSOLと、バルブボディの内部に摺動自在に設けられたスプール弁体とを有している。バルブボディには、供給通路52と連通する供給ポート540、遅角通路50と連通する第1ポート541、進角通路51と連通する第2ポート542、及びドレン通路53と連通するドレンポート543が形成されている。ソレノイドSOLは、電磁コイルへの通電によってスプール弁体を押圧移動させる。電磁コイルは、ハーネスを介してコントローラCUに接続されている。スプール弁体が移動するに応じて、第1ポート541や第2ポート542が開閉される。ソレノイドSOLの非通電状態で、スプール弁体は、リターンスプリングRSのばね力によって、供給ポート540(供給通路52)と第2ポート542(進角通路51)とを連通し、かつ第1ポート541(遅角通路50)とドレンポート543(ドレン通路53)とを連通する位置に付勢されている。一方、ソレノイドSOLが通電された状態で、スプール弁体は、コントローラCUからの制御電流によって、リターンスプリングRSのばね力に抗して、供給ポート540(供給通路52)と第1ポート541(遅角通路50)とを連通し、かつ第2ポート542(進角通路51)とドレンポート543(ドレン通路53)とを連通する位置、又は所定の中間位置に移動制御されるようになっている。
コントローラCUは電子制御ユニットであり、機関回転数を検出するクランク角センサや吸入空気量を検出するエアフローメータ、スロットルバルブ開度センサ、機関の水温を検出する水温センサ等の各種センサ類からの信号を入力して、現在の機関運転状態を検出する。また、コントローラCUは、検出された機関運転状態に応じて流路切換弁54のソレノイドSOLにパルス制御電流を出力し、流路の切り替え制御を行うことで、進角室A1〜A5又は遅角室R1〜R5へ作動油を選択的に給排する。
ベーン部材6(第1ベーン61)とリアプレート9との間には、リアプレート9(ハウジングHSG)に対するベーン部材6の自由な回転を拘束し、該拘束を解除可能なロック機構7が設けられている。装置1は、所定の初期回転位相、具体的には第1ストッパ部によって回転が規制された最遅角位置にて、ロック機構7により作動(相対回転)がロックされるように構成されている。ロック機構7は、ロックピストン71と、リアプレート9に設けられた係合凹部730と、機関の状態に応じてロックピストン71を進出させて係合凹部730に係合させ、又はロックピストン71を後退させて上記係合を解除させる係脱機構とから構成されている。図5は、図3のB−B断面に略相当する部分断面図であり、機関停止時(機関始動時)のロック機構7の作動状態を示す。
ロックピストン71は係合部材(ストッパピストン)であり、鉄系金属材料により有底円筒のピン状に形成されている。ロックピストン71は、第1ベーン61の孔70の内部に、(回転軸Oの方向である)X軸方向に往復動自在に設置され、機関の状態に応じてリアプレート9の側に進退(第1ベーン61からX軸負方向側に出没)自在に設けられている。すなわち、孔70は、ロックピストン71を摺動自在に収容する摺動用孔であり、中空円筒状のシリンダである。
ロックピストン71は、摺動用孔70に対して摺動する摺動部710と、摺動用孔70の内外に出没可能に設けられたロックピストン71の先端部である係合部714とからなる。摺動部710は、x軸正方向側に開口する有底円筒形状であり、小径部711と大径部712からなる。大径部712は、ロックピストン71の基端部、すなわちX軸正方向側の端に形成された円環状のフランジ部である。大径部712は、その外周が摺動用孔70の大径部702の内周に対して摺動自在に、大径部702の内部に設置されている。小径部711は、その外周が摺動用孔70の小径部701の内周に対して摺動自在に、小径部701の内部に設置されている。小径部711の底部713のX軸負方向側には、底部713との間で段差を介して略円錐台形状に、係合部714が設けられている。係合部714は、軸方向断面が略台形であって、X軸負方向側の先端に向かって小径となるテーパ面(傾斜面)を外周に有している。
一方、リアプレート9のX軸正方向側の面には、リアプレート9を貫通しない有底の係合凹部730が形成されている。係合凹部730は、リアプレート9のX軸正方向側の面に開口し、係合部714が挿入されて係合可能なロック穴(ストッパ孔)である。係合凹部730は、リアプレートの嵌合孔96に、鉄系金属材料で成形された有底コップ状のスリーブ73が圧入により嵌合されることで形成されている。
係合凹部730のX軸方向深さは、係合部714のX軸方向長さと略同じに設けられ、係合凹部730の径は、係合部714の径よりも若干大きめに設けられている。係合凹部730は、スリーブ73の軸を通る平面で切った断面が略台形であり、X軸正方向側の開口部に向かって徐々に大径となる。換言すると、係合凹部730は傾斜面を有しており、X軸負方向側の底部に向かって小径となるテーパ面が設けられている。X軸に対する係合凹部730の内周面(傾斜面)の傾きは、X軸に対する係合部714の外周面(傾斜面)の傾きに略等しい。
係合凹部730の位置は、係合凹部730に係合部714が係合するとき、ハウジングHSGとベーン部材6の相対回転角度が機関始動に最適な位相となるように設けられている。具体的には、係合凹部730は、図3の最遅角位置で、X軸方向から見てロックピストン71の先端(係合部714)と対向し、略一致する位置に設けられている。換言すると、ベーン部材6が最遅角側に相対回転して第1ストッパ部により回転が規制されたとき、X軸方向から見て、ロックピストン71(係合部714)の位置と係合凹部730の位置が重なる。このとき、図5に示すように、ロータ周方向における係合凹部730の軸心の位置が、係合部714の軸心に対して、反時計回り方向(第1シュー11の側)に僅かにオフセットするように設けられている。
係脱機構は、係合用の付勢手段であるコイルスプリング74と、解除用の付勢手段である第1、第2受圧室77,78(連通孔75及び連通溝76)とから構成されている。コイルスプリング74は、ロックピストン71をX軸負方向側、すなわち係合凹部730の側へ常時付勢する弾性部材である。コイルスプリング74は、孔70(大径部702)に弾装(押し縮められた状態で設置)されており、そのX軸正方向側の端はフロントプレート8のX軸負方向側の面に当接し、X軸負方向側の端はロックピストン71の後端部(底部713)に当接している。
摺動用孔70には、ロックピストン71に作用する油圧力を発生させる受圧室が設けられている。具体的には、摺動用孔70における(小径部701のX軸正方向端面を含む)大径部702の内周面と、ロックピストン71における(大径部712のX軸負方向端面を含む)小径部711の外周面との間に、第1受圧室77が画成されている。また、係合部714の表面(X軸負方向側の先端面及び傾斜面)とリアプレート9のX軸正方向側の面(係合部714が係合凹部730に嵌り込んだロック状態では、スリーブ73の内周面と底面)との間に、第2受圧室78が画成されている。そして、第1ベーン61には、第1、第2受圧室77,78に作動室の油圧を導くための連通路として、上記孔75及び溝76が設けられている。連通孔75を介して、遅角室R1と第1受圧室77とが接続されて常時連通し、遅角室R1の油圧が第1受圧室77に導かれる。連通溝76を介して、進角室A1と摺動用孔70のX軸負方向端とが接続されて常時連通し、進角室A1の油圧が第2受圧室78に導かれる。(図5のロック状態では、第2溝111の油圧がそのまま、連通溝76を介して第2受圧室78に導かれる。)このように、遅角室R1と進角室A1に選択的に供給される作動油は、それぞれ連通孔75と連通溝76を介して第1受圧室77と第2受圧室78に導かれ、ともにロックピストン71をX軸正方向側の後退方向へ付勢する油圧力を発生する。
ベーン部材6が最遅角側に相対回転して第1ストッパ部により回転が規制されると、X軸方向から見て、ロックピストン71の位置と係合凹部730の位置が重なり、ロックピストン71がX軸負方向へ移動可能となる。このとき、コイルスプリング74のばね力は、係合部714が第1ベーン61(摺動用孔70)から進出して係合凹部730に嵌まり込むことをアシストするように作用する。ロックピストン71が係合凹部730と係合すると、リアプレート9とベーン部材6との相対回転、すなわちハウジングHSGとカムシャフト3との相対回転が規制(ロック)される。一方、ロックピストン71は、連通孔75を介して遅角室R1から第1受圧室77内に供給される作動油圧により、大径部712においてX軸正方向側に油圧力を受ける。また、ロックピストン71は、連通溝76を介して進角室A1ないし第2溝111から第2受圧室78内に供給される作動油圧により、係合部714においてX軸正方向側に油圧力を受ける。上記油圧力はいずれも、ロックピストン71がコイルスプリング74のばね力に抗してX軸正方向側に移動し、係合部714が係合凹部730から退出して摺動用孔70の内部に嵌まり込むことをアシストするように作用する。これにより、ロックピストン71と係合凹部730との係合が解除される。このように、コイルスプリング74はロック状態維持機構として機能する一方、連通孔75と連通溝76は解除用油圧回路として機能する。
摺動用孔70の内部には、ロックピストン71の背圧室72が設けられている。背圧室72は、摺動用孔70のX軸正方向側に設けられた低圧室であり、フロントプレート8のX軸負方向側の面と、摺動用孔70の内周面と、ロックピストン71(摺動部710)の内周面とにより画成されている。背圧室72は、径方向溝605を介してフロントプレート8の孔800と連通し、孔800を介して装置の外部(外気)と連通しており、これにより大気圧(低圧空間)に解放されている(図2参照)。換言すると、径方向溝605は、ベーン部材6のX軸正方向側の端面に形成された呼吸用の溝であり、空気抜き孔として機能し、背圧室72の圧力を開放して低圧に維持するための背圧逃し部を構成している。
[実施例1の作用]
以下、装置1の作用を説明する。
(位相変換作用)
まず、装置1の位相変換作用を説明する。なお、下記制御内容は様々に変更可能である。図3は機関停止時(機関始動時)の状態、図4は機関作動時の一状態をそれぞれ示す。
機関始動時は、予めロック機構7がベーン部材6を、機関始動時に最適な相対変換角度となるような遅角側の初期位置、具体的には最遅角位置に拘束している(図3)。このため、イグニッションスイッチのオン操作により機関が始動されると、円滑なクランキングによって良好な始動性が得られる。
機関始動後の所定の低回転低負荷域では、コントローラCUから制御電流が流路切換弁54に出力されない。スプール弁体は、リターンスプリングRSのばね力によって、供給ポート540と第2ポート542とを連通し、第1ポート541とドレンポート543とを連通する位置に留まる。よって、ポンプPから吐出され、供給通路52から供給ポート540を介してバルブボディ内に流入する作動油は、第2ポート542から進角通路51内に流入し、ここからカムシャフト3の軸方向通路512及び径方向通路511等とリアプレート9の第1溝515〜519を通って、各進角室A1〜A5に供給される。第1溝515へ作動油が供給されると、ロック機構7によるロック状態が解除され、ベーン部材6の自由な回転が許容され、バルブタイミングの任意の変更が可能な状態となる。ロック解除後、各進角室A1〜A5に供給される油圧により、ベーン部材6は、ハウジングHSGに対して、図3に示す位置からハウジングHSGの回転方向(図3の矢印方向)に回転し、クランクシャフトに対するカムシャフト3の回転位相を進角側に変更させる。この結果、吸気弁の開閉タイミングが進角側となり、吸気弁と排気弁がともに開弁する期間であるバルブオーバーラップが大きくなって、かかる低回転低負荷時における慣性吸気の利用による燃焼効率が向上して機関回転の安定化と燃費の向上が図られる。図4に示すように、各進角室A1〜A5の容積が最大となり、各遅角室R1〜R5の容積が最小となる最進角位置にベーン部材6が相対回転すると、バルブオーバーラップが最大となる。
機関の運転状態が例えば高回転高負荷域に移行したときは、コントローラCUから制御電流が流路切換弁54に出力される。スプール弁体は、リターンスプリングRSのばね力に抗して、供給ポート540と第1ポート541とを連通し、第2ポート542とドレンポート543とを連通する位置に移動する。よって、ポンプPから吐出された作動油は、流路切換弁54の第1ポート541から遅角通路50内に流入し、カムシャフト3の軸方向通路502及び径方向通路501等とベーン部材6の各遅角油孔505〜509を通って各遅角室R1〜R5に供給されるため、各遅角室R1〜R5の内圧は上昇する。一方、各進角室A1〜A5内の作動油は、進角通路51及びドレン通路53を介してオイルパン55に排出され、各進角室A1〜A5の内圧は低下する。各遅角室R1〜R5の内圧が各進角室A1〜A5の内圧よりも大きくなると、ベーン部材6は、ハウジングHSGの回転方向(図3の矢印方向)とは反対側の反時計回り方向に、ハウジングHSGに対して回転し、クランクシャフトに対するカムシャフト3の回転位相を遅角側に変更させる。この結果、吸気弁の開閉タイミングが遅角側に制御され、バルブオーバーラップが小さくなって、かかる高回転高負荷時における機関の出力を向上させることができる。図3に示すように、各遅角室R1〜R5の容積が最大となり、各進角室A1〜A5の容積が最小となる最遅角位置にベーン部材6が相対回転すると、バルブオーバーラップが最小となる。
さらに、例えば、機関が中回転中負荷領域に移行した場合は、コントローラCUが流路切換弁54を制御してスプール弁体を中間移動位置に保持する。これによって、各遅角室R1〜R5及び各進角室A1〜A5の内圧がそれぞれ略一定に保たれ、ベーン部材6が中間回転位置に制御される。よって、中回転中負荷域における最適なバルブタイミング制御が可能になり、燃費と機関出力の両方を満足させることが可能になる。
機関作動時、具体的にはカムシャフト3の回転中、吸気弁を閉方向に付勢するバルブスプリングからカムシャフト3のカムへ伝達される回転反力により、カムシャフト3にはフリクションにより、いわゆる交番トルク(反転トルク)が発生する。すなわちカム形状に起因して、カムシャフト3の(時計回り方向の)回転を妨げる(反時計回り方向の)負トルクと、カムシャフト3の回転をアシストする(時計回り方向の)正トルクが、カムシャフト3に交互に作用する。そして、交番トルクは、全体としてみると負トルク側へオフセットしている。すなわち、カムシャフト3の回転周期ごとに発生する正トルク及び負トルクを時間的に積分すると負となり、カムシャフト3には平均して負トルクが作用する。
機関が停止すると、ポンプPの作動が停止される。また、コントローラCUから流路切換弁54への通電が遮断される。よって、進角室A1〜A5と遅角室R1〜R5への作動油圧の供給が停止される。このため、機関停止直後には、カムシャフト3に発生するフリクション(負トルク側にオフセットした交番トルク)によって、ベーン部材6は、ハウジングHSGに対して、ハウジングHSGの回転方向(図3の矢印方向)とは反対方向、すなわち遅角側へ回転移動しようとする。よって、機関の停止後、ベーン部材6は、カムシャフト3のフリクション(交番トルク)によって、予め機関(再)始動に適した所定の初期位置、すなわち図3に示す最遅角側の位置に移動する。換言すると、バルブタイミングが機関(再)始動に適した位相となる。このとき、ロック機構7が作動してベーン部材6のハウジングHSGに対する回転を拘束する。
以上のように、装置1では、機関が停止する際、交番トルクによりベーン部材6をハウジングHSGに対して遅角側の初期位置に回転移動させることで、機関再始動時においても装置1を初期位置から制御可能としている。
(ロック機構の作用)
上記のように、ロック機構7を作動させることで、作動油圧の有無に関わらず装置1を初期位置(図3)から制御することが可能である。よって、機関始動時にカムシャフト3に作用する交番トルクによって生じうるベーン部材6のバタツキを抑制し、ベーン61〜65とハウジングHSG(シュー11〜15)との衝突による異音(打音)の発生を抑制できる。また、ノッキング等を抑止しつつ、機関ないし装置1を安定的に作動させることができる。これは機関始動時に限らず、油圧があまり発生しないアイドル時においても同様である。なお、本実施例1では、ロック位置を最遅角側の回転規制位置としたが、これに限らず、機関始動等に適した所定位置でロックしてこれを装置1の初期位置とすることとしてもよい。
具体的には、ハウジングHSGに対してベーン部材6が最遅角側に相対回転したとき、ロックピストン71の位置と係合凹部730の位置が重なる。このため、機関停止時には、コイルスプリング74のばね力により係合部714が進出し、係合凹部730内に嵌まり込んで係合する。これにより、ロックピストン71がベーン部材6の自由な相対回転を規制する。
このロック状態では、第2溝111と連通溝76は周方向で対向し、互いに連通している。すなわち、進角室A1の容積が最小であるときにも、第1溝515は第2溝111を介して連通溝76と接続し、第2受圧室78に連通する。よって、進角通路51に作動油が供給されると、第1溝515から供給される作動油により第2受圧室78内の圧力が上昇し、これに伴い、ロックピストン71(係合部714)はX軸正方向側に作用する油圧力を受ける。上記油圧力がコイルスプリング74のばね力よりも大きくなると、ロックピストン71がX軸正方向に移動(後退)する。係合部714が係合凹部730から完全に抜け出すと、ロック状態が解除される。
ロック解除後、進角通路51に作動油が供給され続けると、進角室A1から連通溝76を介して第2受圧室78に油圧が供給されるため、ロック解除状態が維持される。装置1の作動時、進角通路51から作動油が排出され、遅角通路50に作動油が供給されると、進角室A1から連通溝76を介して第2受圧室78に供給される油圧は低下する。一方、遅角室R1の油圧の上昇に伴い、この油圧が連通孔75を介して第1受圧室77に供給され、ロックピストン71の大径部712の受圧面に油圧力として作用する。これにより、ロックピストン71がコイルスプリング74のばね力に抗して係合凹部730から抜け出した解除状態が維持される。
このように、本実施例1では、ベーン部材6(ベーン61)に、ハウジングHSG(リアプレート9)に対して出没可能なロックピストン71が設けられるとともに、ハウジングHSG(リアプレート9)には、ロックピストン71が係合可能な係合凹部730(ロック穴)が形成されており、機関の状態に応じて、ロックピストン71を係合凹部730に係合させ、又はこの係合を解除させる。よって、ベーン部材6の相対回転を拘束し、装置1を初期位置から作動させるためのロック手段として、クラッチ機構やレバー機構を用いた場合よりも機構が簡便であり、低コスト化しつつロック作動の信頼性を確保できる。なお、ロック機構7(ロックピストン71)をハウジングHSGの側に設置し、ベーン部材6との間でロックするようにしてもよい。本実施例1では、ベーン部材6にロックピストン71を設置することで、ハウジングHSGにロックピストン71を設けた場合と比べ、ハウジングHSG(装置1)の大型化を抑制することが可能である。
なお、ベーン部材6において、ロックピストン71をベーン61ではなく、ロータ60に設けてもよい。本実施例1では、ロックピストン71をベーン61に設けることで、ロータ60の径方向大型化を抑制でき、これによりベーン61〜65の受圧面積を確保しつつ装置1の径方向大型化を抑制可能である。
なお、ロックピストン71は、シュー11と当接するベーン61以外のベーン62〜65に設けることとしてもよい。
また、ロックピストン71は、回転軸O以外の方向、例えばハウジングHSGの径方向に進退するものであってもよい。換言すると、ロックピストン71を収容するシリンダは、回転軸方向以外、例えばハウジング径方向に形成されていてもよい。本実施例1では、ロックピストン71は、封止部材(リアプレート9)に対して出没可能に設けられている。換言すると、ロックピストン71の摺動用孔70は回転軸Oの方向(X軸方向)に延びて形成され、ロックピストン71は回転軸Oの方向にその先端(係合部714)が出没する。このようにロックピストン71が回転軸方向に作動するように構成することで、装置1の径方向大型化を抑制できる。また、ベーン部材6の回転による遠心力がロック機構7の作動に影響を及ぼすことを抑制できる。
なお、ロックピストン71は、フロントプレート8に対して出没可能に設けられることとしてもよい。本実施例1では、リアプレート9に対して出没可能にロックピストン71を設けたため、装置1の軸方向小型化を図ることができる。すなわち、ベーン部材6から軸方向に出没するロックピストン51が挿入される係合凹部が形成される側の封止部材は、係合凹部を形成する(スリーブを設置する)ために、厚肉に構成することが必要となる。一方、封止部材8,9及びハウジング本体10をボルトb1〜b5により締結するためには封止部材8,9のいずれかに雌ねじ孔を形成することが必要である。そして、雌ねじ孔はある程度の長さが必要であることから、雌ねじ孔が形成される側の封止部材を厚肉に構成する必要がある。本実施例1では、リアプレート9に雌ねじ部91〜95を設けた。よって、フロントプレート8には雌ねじ孔等を特に形成する必要がないため、フロントプレート8は薄肉でよい。一方、雌ねじ部91〜95を形成するために厚肉にならざるを得ないリアプレート9に係合凹部730を設けた。換言すると、係合凹部730を形成する(スリーブ73を設置する)ためにもともと厚肉にならざるを得ないリアプレート9に雌ねじ部91〜95を設けた。このように、係合凹部730と雌ねじ部91〜95を共にリアプレート9に形成したため、装置1の軸方向寸法を小型化することが可能となる。
ロック機構7は、ロックピストン71の付勢手段として弾性部材(コイルスプリング74)を備え、この弾性部材の付勢力を用いてロックピストン71をベーン部材6に対し出没させる。例えば、機関を停止した際、交番トルクによってベーン部材6が所定の初期位置まで回動してきたとき、コイルスプリング74の付勢力によって自動的にロックピストン71を係合凹部730に係合させる。よって、ロック動作のための特別なアクチュエータを必要としないため、機構を簡便化できる。なお、ロックピストン71の付勢部材として、コイルスプリング以外の弾性部材、例えば板ばね等を用いてもよい。
ロックピストン71の先端(係合部714)は、略円錐台の形状を有し、X軸負方向(係合凹部730)に向かって小径となるように設けられているため、係合凹部730に係合しやすい。係合凹部730も、X軸正方向側の開口に向かって大径となるように設けられているため、係合部714が係合しやすい。よって、ロックが円滑に行われる。
また、係合部714及び係合凹部730はともにテーパ面(傾斜面)を有している。そして、図3の第1ストッパ部による相対回転規制位置で、係合凹部730の軸心は、係合部714の軸心に対して、反時計回り方向(第1シュー11の側)へ周方向に僅かにオフセットしている。このため、ロック時にロックピストン71が係合凹部730に挿入されると、両者の傾斜面同士は、時計回り方向側で互いに接触し、このとき第1ベーン61を反時計回り方向(第1シュー11の側)に押し付ける分力が発生する(以下、これをクサビ効果という。)。よって、ロックピストン71が係合凹部730に係合すると、第1ベーン61が第1シュー11に押し付けられるため、より確実に、ベーン部材6を相対回転規制位置(初期位置である最遅角位置)に固定することができる。なお、両傾斜面が接触するための構成として、軸心をオフセットさせる以外に、係合部714や係合凹部730の形状を適宜変化させる等してもよい。本実施例1のように軸心をオフセットさせた場合、構成が簡便である。また、係合時に上記分力を発生させる傾斜面を、係合部714もしくは係合凹部730のどちらか一方のみに設けることとしてもよい。この場合も、クサビ効果を得ることができる。本実施例1のように両方に傾斜面を設けた場合、押し付け力を効果的に得つつ、摩耗を低減できる。
なお、本実施例1では、ロックピストン71に流体圧が作用することによりロックピストン71が係合凹部730から退出し、ロックが解除されることとしたが、他の構成により解除機構を構成してもよい。本実施例1のように、作動室に供給される作動油の圧力によってロックが解除される構成とした場合、装置1の作動油圧をそのまま用いてロック解除を行うため、ロック解除動作のための特別なアクチュエータを必要とせず、機構を簡便化できる。
また、背圧逃し部により、装置1の作動時、ロックピストン71は背圧室72内の圧力の影響をあまり受けずに円滑に移動する。すなわち、係合部714が係合凹部730から離脱してロックピストン71がX軸正方向側へ移動し、背圧室72の容積が縮小しようとする際、背圧室72における空気は、背圧逃し部を介して装置外部の低圧空間へと伝わる。よって、背圧室72内は低圧に維持される。また、背圧室72内には、背圧室72の周囲の隙間から漏出してきた作動油が溜まる。この油も、背圧逃し部を介して装置外へ排出される。よって、背圧室72の容積が縮小しようとする際、空気や油によりこれが妨げられることなく、背圧が開放される。したがって、ベーン部材6の全ての相対回転範囲で、ロックピストン71の良好な作動(摺動用孔70における摺動)が確保され、ロック解除が円滑に行われる。
なお、進角側と遅角側どちらか一方のみの作動油圧によりロックを解除する構成としてもよい。例えば、連通孔75を省略し、進角室A1(第1溝515)の油圧が第2受圧室78に供給されるときにのみロックピストン71が解除状態となるようにしてもよい。本実施例1では、装置1の作動時、進角側と遅角側いずれか一方に油圧が導かれるときは常にロックピストン71が解除状態に保持される。すなわち、機関の状態に応じて、第1受圧室77に遅角側の油圧が、第2受圧室78に進角側の油圧がそれぞれ導かれ、これら両油圧により、コイルスプリング74の付勢力に抗してロックピストン71が解除方向に作動する。よって、ベーン部材6が進角方向又は遅角方向に回動するたびに係合・解除が繰り返されることが抑制されるため、装置1の作動を円滑化できるだけでなく、ロックピストン71の作動回数が低減され、これにより装置1の耐久性を向上できる。
具体的には、摺動用孔70を異径の(段付きの)シリンダとし、これに対応してロックピストン71に大径部712と小径部711を設け、ロックピストン71を異径の(段付きの)ピンとしている。そして、摺動用孔70の小径部701の内周に小径部711が、大径部702の内周に大径部712が、それぞれ摺動自在に設けられている。これにより、摺動用孔70内で、第1受圧室77が画成されている。このように、異径の(段付きの)シリンダとピンを用いることで、第1受圧室77と第2受圧室78とを別々に液密に設けることが簡便に達成され、ロックピストン71に対して進角室A1と遅角室R1からの油圧力を別々に作用させる構成を容易に実現できる。なお、シリンダ(摺動用孔70)とロックピストン71の形状や、油路75や溝76の構成を適宜調整して、第1、第2受圧室77,78を任意の形状としたり任意の位置に設けたりしてもよい。また、第1受圧室77に進角室A1の油圧が導かれ、第2受圧室78に遅角室R1の油圧が導かれるように構成してもよい。換言すると、連通溝76を(連通孔75と同様の)孔により構成し、連通孔75を(連通溝76と同様の)溝により構成してもよい。本実施例1では、第2溝111を連通溝76と周方向で対向させるとともに、連通溝76を介して第2受圧室78と連通させるようにしたため、第2溝111のX軸方向寸法を連通溝76の開口分だけに抑制し、これにより後述のようにシール溝117周囲の強度低下を抑制している。
(位置決め手段の作用)
装置1の各構成部材を組み付ける際には、位置決め手段により、ハウジング本体10に対するリアプレート9の回転位置、すなわちハウジング本体10とリアプレート9との周方向位置決めを行う。リアプレート9の凸部97をハウジング本体10の凹部116に嵌合することにより、リアプレート9に対するハウジング本体10の回転位置が調整され、両者の周方向位置決めが行われる。凸部97と凹部116の寸法は、凸部97が凹部116に嵌合した状態で、ハウジング本体10とリアプレート9の周方向のガタが発生しない寸法にそれぞれ設定されている。この位置決めにより、リアプレート9の雌ねじ部(ボルト孔)91〜95がハウジング本体10のボルト孔110〜150とそれぞれ略同軸上となる。また、第1ベーン61(平面部614)が第1シュー11(平面部113)に当接した状態で、係合凹部730が摺動用孔70(ロックピストン71)に対して(僅かにオフセットしつつ)略同軸上となる。換言すると、凹部116と凸部97は、ロックピストン71と係合凹部730との周方向相対位置を調整し、決定するための位置決め手段を構成している。これによりロックピストン71と係合凹部730とが正確に位置決めされるため、上記クサビ効果を含め、ロックピストン71の円滑な係合作用が得られる。
具体的には、位置決め手段(凹部116)が設けられたシュー11と当接するベーン61にロックピストン71を設けた。よって、係合凹部730は上記シュー11の近傍に設けられることになり、位置決め手段(凹部116及びこれに嵌合するリアプレート9側の凸部97)は、係合凹部730と近接した位置に設けられることになる。このため、他のシュー12〜15に位置決め手段を設けた場合と比べ、係合凹部730に対して上記シュー11(に当接するベーン61におけるロックピストン71)をより正確に位置決めすることができる。したがって、ロックピストン71のより円滑な係合作用が得られる。例えば、クサビ効果をより確実に得ることができる。
なお、位置決め手段として、ハウジング本体10(シュー11)に凸部を設け、リアプレート9に凹部を設けることとしてもよい。また、本実施例1のように孔にピンを挿入設置して位置決め凸部を構成するほか、治具を用いることとしてもよく、この場合、位置決め用凸部(ピン)を省略して装置をより軽量化することが可能である。例えば、リアプレート9に凸部97の代わりに凹部(ないし孔)を設け、治具をリアプレートの上記凹部(ないし孔)とハウジング本体の凹部116とに嵌合することで位置決めを行ってもよい。
また、装置1を機関に取付ける際には、一体に組み付けられたユニットをカムシャフト3に取り付ける。まず、カムシャフト3の端部30(挿通部301)を、X軸負方向側から、上記ユニットのハウジングHSGに形成された挿通孔90に挿通するとともに、ハウジングHSG内に収容されたベーン部材6のカムシャフト挿通孔601に挿通・設置する。このとき、位置決め手段を用いて、カムシャフト3に対するベーン部材6の周方向位置決めを行う。すなわち、カムシャフト挿通孔601の底面には孔603が設けられている。また、カムシャフト端面300には1つの凸部が設けられている。端部30をカムシャフト挿通孔601に挿入・設置する際、上記凸部を孔603に嵌合させつつ、端部30を、その端面300がカムシャフト挿通孔601の底面に当接するまで、挿入する。通路502又は通路512のカムシャフト端面300における開口部は、端面300がカムシャフト挿通孔601の底面に当接することで塞がれる。このとき、上記凸部の嵌合により、ベーン部材6とカムシャフト3の相対回転が拘束され、回転方向(周方向)の相対位置決めが行われる。すなわち、上記凸部と位置決め孔603は、装置1をカムシャフト3に取り付ける際、カムシャフト3に対するベーン部材6の回転位置を調整し、決定するための位置決め手段を構成している。これにより、クランクシャフト(ハウジングHSG)に対するカムシャフト3(ベーン部材6)の初期位相が設定される。
なお、カムシャフト側の凸部は、端面300に設けられた軸方向通路502,512のいずれかの開口部にピン等を挿入設置することで設けることとしてもよい。また、位置決め孔603はそこに凸部を嵌合して周方向の相対回転を拘束できる形状であればよく、孔602に連続した半長円状に限らない。また、ベーン部材6の側に凸部を設け、カムシャフト端部30の側にこれと嵌合する凹部を設けることとしてもよい。
なお、装置1ではフロントプレート8に大径孔80を設けているため、カムボルト31の締結が容易である。すなわち、組み立てられた装置1のユニットをカムシャフト3に取り付ければ、ハウジングHSGのX軸正方向側(フロントプレート8側)に、大径孔80によって、開口部ができる。この開口部からカムボルト31を挿入して回転させるだけで、ベーン部材6をカムシャフト3に締結固定することが可能である。よって、カムシャフト3への装置1の取り付けを容易化できる。
(ストッパ部の構成による作用)
第1ストッパ部を構成する第1ベーン61(の根元部分)は他のベーン62〜65(の根元部分)に対して周方向の幅が広く厚い。このように、複数のベーン61〜65のうち少なくとも一枚は幅広のベーン61とすることで、ロック機構7をベーン部材6(ベーン61)に設けることを容易にしつつ、この幅広であり剛性が高いベーン61をシュー11と当接させて、ベーン部材6の一方向側の相対回転を規制するようにした。よって、上記当接に対するベーン61の固定強度を担保しつつ、第1ストッパ部を簡便に設けることができる。また、他方向側の相対回転を規制する第2ストッパ部も、幅広の第1ベーン61により構成されている。よって、相対回転の両方向でストッパ部として用いる幅広ベーンを共通化することで、幅広部材を少なくし、スペースを省略することができる。また、第1ベーン61のように周方向寸法が幅広に設けられていない他のベーン62〜65については、ロータ60に対するベーン61〜65の固定強度が不足するおそれが高い。本実施例1では、上記両方向の回転規制時に、他のベーン62〜65はシュー11〜15と接触しないように構成されていることで、接触による力の作用を回避し、これら薄肉のベーン62〜65の固定強度(耐久性)をも向上することができる。
よって、相対回動を規制するための強度を十分に得つつ、ベーン部材6の耐久性を向上できる。
なお、相対回転を規制する構成として、他のベーン62〜65とシュー11〜15のいずれか1組、又は複数組を当接させ、この当接部により第1、第2ストッパ部を構成することとしてもよい。また、この当接部を構成するベーンを、第1ベーン61と同様に幅広に形成して剛性を高めることとしてもよい。
また、本実施例1のように、シュー11にベーン61自体が接触するように設けることで、ベーン61の周方向側面に突出部を設けてこれをシュー11に接触させた場合と異なり、ベーン部材6の相対回転角度範囲をより大きく確保することが可能である。
(材料及び成形方法による作用)
本実施例1では、硬度が比較的高い鉄系金属材料によって各構成部材6,8〜10を成形しているため、各部材6,8〜10の肉厚を比較的薄く設けることが可能である。これにより、硬度が比較的低い材料(例えばアルミ系金属材料)により各部材6,8〜10を成形した場合に比べ、必要な強度を確保しつつ装置1のX軸方向寸法や径方向寸法を低減できる。
封止部材(フロントプレート8及びリアプレート9)は、硬度が高い材料である鉄系金属材料によって成形されている。よって、ボルトb1〜b5の座面として機能するフロントプレート8の強度を確保し、かつリアプレート9に設けられたボルト孔(雌ねじ91〜95)の強度を確保して、装置1の耐久性を向上することができる。また、封止部材8,9は、耐摩耗性が高い材料である鉄系金属材料によって成形されている。よって、封止部材8,9(の軸方向端面)におけるベーン部材6との摺動部の耐久性を確保することができる。また、フロントプレート8のX軸負方向側の面にロック機構7のコイルスプリング74が摺動すること等に起因する摩耗を抑制できる。なお、耐摩耗性や硬度が高い材料として、鉄系金属材料以外の金属材料、例えばマグネシウム等を用いてもよいし、金属材料以外の材料、例えばセラミック等を用いてもよい。
本実施例1では、構造が比較的簡単なフロントプレート8を、鋼材のプレス加工により成形することとしたが、他の材料(例えばアルミ系金属材料)や方法により成形してもよい。例えば、リアプレート9等と同様の粉末冶金法(焼結工法)のほか、鍛造や鋳造等によりフロントプレート8を成形することとしてもよい。ハウジング本体10及びリアプレート9の材料や加工法も特に限定されず、他の金属材料の鋳造や鍛造、例えばアルミ系金属材料の押出成形によって形成してもよい。
ハウジング本体10及びベーン部材6は、高硬度の材料である鉄系金属材料によって成形されている。また、ハウジング本体10は熱処理が施されることで高硬度化されている。よって、ストッパ部として機能するベーン61やシュー11,12の剛性を高めて、装置1の耐久性をより向上することができる。
なお、ベーン部材6の材料は特に限定されず、鉄系金属材料のほか、アルミ系金属材料を用いることも可能である。ベーン部材6の成形方法は粉末冶金法に限られず、例えば押出成形によりベーン部材6を一体に型成形してもよいし、鋳造や鍛造により一体成形してもよい。また、ロータ60とベーン61〜65を一体成形せず、別部材としてもよい。本実施例1では、ロータ60とベーン61〜65は一体に成形されるため、部品点数を削減できるとともに、加工や組付けのコストを低減できる。具体的には、これらは一体に型成形されるため、加工がより容易である。また、本実施例1では、ベーン部材6は鉄系金属材料により成形されるため、ロックピストン71が摺動することに起因する摺動用孔70の摩耗を抑制できる。また、焼結により成形されるため、摺動用孔70における無数の微細孔には潤滑油が長時間滞留する。よって、機関を長時間(例えば数日〜数ヶ月)運転せず、その間、装置1を使用しなかった後、機関を再始動させたときに、装置1が作動してロックピストン71の大径部712の後端角部と摺動用孔70の内周面とが当接した場合でも、摺動用孔70に潤滑油が保持されているため、摩耗を抑制することができる。すなわち、装置1では、焼結金属の形状特性を利用し、これに潤滑油保持機能を持たせることで、摩耗低減効果を更に向上させている。
また、ロックピストン71とスリーブ73は、耐磨耗性の高い材料、具体的には鉄系金属材料で作られている。よって、ロックピストン71と係合凹部730(係合部714に摺接する傾斜面)の硬度を確保でき、特に摩耗を効果的に低減できる。したがって、ロックピストン71の作動悪化をより効果的に抑制できる。なお、係合凹部730を、スリーブ73により形成せず、リアプレート9に直接設けることとしてもよい。この場合、リアプレート9に係合凹部730を切削加工等により成形することとしてもよい。本実施例1では、スリーブ73は、リアプレート9とは別部材で構成されているため、係合凹部730の形状や材質等を、ロックピストン71の係脱(係合及び解除)に適したものに調整することが容易であると共に、上記係脱に際してリアプレート9が摩耗したり拗れたりすることを抑制できる。すなわち、耐磨耗性に特に適した材料を選択することができ、また傾斜面の加工精度を向上できる等の利点を有している。
(遅角側給排通路の構成による作用)
遅角油孔505〜509は、ベーン61〜65に周方向で隣接して設けられ、それぞれベーン61〜65の時計回り方向側の根元に開口し、遅角室R1〜R5に連通する。よって、遅角油孔505〜509が開口する作動室(遅角室R)の容積が小さくなる方向(進角側)にベーン部材6が相対回転し、ベーン61〜65がそれぞれシュー12〜15,11に近づいても、遅角油孔505〜509の開口は、シュー12〜15,11の先端部によって塞がれにくく、開口状態を保つことが容易である。
具体的には、各孔505〜509の上記開口は、それぞれ可能な限り各ベーン61〜65に近接するように配置されており、孔506〜509は、ロータ60の外周面600だけでなく、部分的に各ベーン62〜65の周方向側面にも開口する。本実施例1ではベーン61〜65とロータ60が一体に形成されているため、このように開口させることが容易である。また孔505は、第1ベーン61の切り欠き部618に開口する。よって、進角方向にベーン部材6が相対回転しても、各孔505〜509の遅角室Rへの開口がシュー先端部によって塞がれる範囲を抑制する(開口面積を増大する)ことが可能である。したがって、ベーン部材6の全相対回転範囲で、孔505〜509を経由した各遅角室Rへの作動油の給排通路が確保され、作動油が複数の遅角室Rに導入され易くなり、装置1の制御性を担保することができる。特に、最大相対回転位置(最進角位置)で、ベーン部材6を(遅角側へ)相対回転させ始めるときに必要な作動油を円滑に供給できる。換言すると、制御性を担保しつつ、ベーン部材6の相対回転範囲を拡大することを容易化している。
なお、孔505〜509を、X軸正方向側から見て本実施例1と反対側に傾けてもよいし、回転軸Oを通る径方向直線上に設けてもよい。孔505〜509の形状は、直線状に限定されず、例えば折れ曲がっていてもよい。本実施例1では、孔505〜509は直線的であるため、成形が比較的容易である。また、孔505〜509の代わりにベーン部材の端面に溝を設けることで遅角側の給排通路を形成することとしてもよい。
(進角側給排路の構成による作用)
ベーン部材6の内部に貫通孔を形成することによってではなく、ハウジングHSG(リアプレート9)の軸方向端面に凹溝(第1溝515〜519)を設け、これに対向するベーン部材6の軸方向端面(ロータ60のX軸負方向端面)により凹溝(第1溝515〜519)を覆うことで、一方の作動室(進角室A1〜A5)への給排通路を構成することとした。よって、ベーン部材6の軸方向寸法の短縮化に有利であり、装置1を軸方向に小型化することが可能である。
また、各進角室A1〜A5への作動油の複数の給排通路が、ハウジングHSGに凹溝(第1溝515〜519)として形成されるため、例えば複数の孔を個別にベーン部材6に貫通形成し、これを給排通路とした場合とは異なり、ドリル加工する手間や工数を削減し、加工時間を短縮することが可能である。すなわち、給排通路を設ける際、ハウジングHSG(リアプレート9)の端面に第1溝515〜519を成形するだけでよいため、成形が容易であり、製造コストを低減できる。
ここで、ハウジングHSGは、その軸方向において少なくともカムシャフト3の側(X軸負方向側)に開口部を有するハウジング本体10と、この開口部を封止するとともにカムシャフト3が挿通する貫通穴(挿通孔90)が設けられたリアプレート9とを備えており、第1溝515〜519はリアプレート9(のX軸正方向端面)に設けられている。よって、例えば有底筒型のハウジング部材の内側の軸方向底面に第1溝515〜519を設けた場合に比べ、金型によって第1溝515〜519を成形することが容易である。また、リアプレート9において第1溝515〜519を形成する範囲が挿通孔90の分だけ小さくなり、粗材状態で、金型により挿通孔90とともに第1溝515〜519を成形する際、成形(型出し)が容易である。なお、リアプレート9の型成形後に第1溝515〜519を切削加工等により形成することとしてもよい。本実施例1のように、リアプレート9を焼結工法により型成形する際、同時に第1溝515〜519を成形することで、各溝515〜519を個別に切削加工する手間や工数を削減し、加工時間を短縮することが可能である。
また、雌ねじ部91〜95や係合凹部730を形成する(スリーブ73を設置する)ためにもともと厚肉にならざるを得ないリアプレート9に第1溝515〜519を設けたため、装置1の軸方向寸法をより効果的に小型化することが可能となる。
また、リアプレート9は焼結金属によって成形されており、第1溝515〜519は、リアプレート9を型成形する際に同時に成形される。よって、切削加工等に比べて、第1溝515〜519の成形が容易である。
なお、第1溝515〜519を、X軸正方向側から見て本実施例1と反対側に傾けてもよいし、回転軸Oを通る径方向直線上に設けてもよい。また、第1溝515〜519の形状は、直線状に限定されず、例えば折れ曲がっていても曲線状でもよい。本実施例1では、第1溝515〜519は直線的であるため、成形が比較的容易である。
ここで、第1溝515〜519が設けられたリアプレート9のX軸方向寸法は、フロントプレート8のX軸方向寸法よりも大きく設定されている(X軸方向に厚く形成されている)。よって、第1溝515〜519が形成される部位(溝周囲)の肉厚を厚くして強度を向上することができる。
また、ベーン部材6の各ベーン61〜65の先端面とハウジング本体10の内周面との間、及びベーン部材6のロータ60の外周面600とハウジング本体10の各シュー11〜15の先端面との間には、若干の径方向隙間が設けられている。上記径方向隙間はシール部材S1〜S5,612〜652により埋められるとともに、それらのシール本体118〜158等を押圧する付勢手段(板バネ)119〜159等が弾性変形することにより、ベーン部材6は、ハウジングHSGに対して、上記隙間内で径方向に若干変位可能に設けられている。一方、リアプレート9の挿通孔90の内周とカムシャフト3の外周との間の隙間は、ベーン部材6の上記径方向に変位可能な寸法(上記径方向隙間)よりも小さく設けられている。よって、挿通孔90は、リアプレート9(ハウジングHSG)に対するカムシャフト3(ベーン部材6)の径方向位置決めを行うとともに、カムシャフト3に対する装置1の軸受けとして機能する。ここで、上記のように、第1溝515〜519が設けられるリアプレート9は、フロントプレート8よりも肉厚(X軸方向寸法)が大きく設けられている。これにより、上記軸受け(挿通孔90の周囲)のX軸方向幅を比較的大きくして、上記軸受け機能を向上することが可能になっている。
(第1溝の配置による作用)
従来、クランクシャフトから回転が伝達され、内周側に突出する複数のシュー(仕切り部材)によって複数の収容室が画成されたハウジング部材と、カムシャフトに固定され、ハウジング部材内に相対回転可能に設けられるとともに、外周側に突出した複数のベーンによって各収容室を進角作動室と遅角作動室に画成するベーン部材と、を備え、これらの作動室に作動油を給排することで、ハウジング部材に対するベーン部材の回転角、すなわちクランクシャフトとカムシャフトの相対回転位相を変換する、いわゆるベーン式の内燃機関のバルブタイミング制御装置において、作動室に作動流体を給排するための溝をハウジング部材の内周の軸方向端面に設けたものが知られている(以下、これを従来装置という。)。
作動室への上記溝の開口が塞がれて作動流体の給排量が減少すると、ベーン部材を速やかに相対回転させることが困難となり、バルブタイミングを応答性良く制御できない。このため、上記溝は、ベーンがシューに最も近づいたときにもベーンにより塞がれずに作動室に開口させる必要がある。(例えば、ベーンやシューの数を増やした場合、装置の大型化を抑制しつつベーンの受圧面積を増大可能であるため有利であるが、この場合、ベーンにより上記溝が塞がれる可能性も増大する。)よって、従来装置では、ベーン部材の相対変換角を向上しつつ作動流体の給排量を確保するため、シューの近傍に上記溝が開口するように配置している。また、ベーン部材の最大相対回転位置を規制するため、1つのベーンをシューと当接させるように構成するとともに、上記ベーンとシューとの間で画成される作動室への上記溝の開口が上記ベーンにより塞がれないようにするため、上記ベーンの外周側を突出させてシューと当接させるとともに上記ベーンの内周側をシューと離間させることで、作動室への上記溝の開口を確保している。
しかし、従来装置では、シューと当接するベーンの外周側を内周側に対して周方向に突出させる必要があるため、その分だけ重量を軽減できず、また装置の小型化を図れない。また、ベーン部材の相対回転角の範囲、すなわち装置の変換角を、上記突出分だけ拡大することができない。
これに対し、本実施例1の装置1は、ハウジングHSG(ハウジング部材)として、複数のシュー11〜15を備えたハウジング本体10と、ハウジング本体10の少なくともX軸負方向端(軸方向一端)を封止するリアプレート9(封止部材)とを有し、進角室A1〜A5(作動室)に作動油(作動流体)を給排するための第1溝515〜519をリアプレート9のX軸正方向端面(軸方向一端面)に設けるとともに、第1溝515〜519が周方向で部分的にシュー11〜15と重なるように、ハウジング本体10にリアプレート9を設置している。換言すると、リアプレート9においてシュー11〜15と対向する面(上記軸方向一端面において軸方向でシュー11〜15と対向する部位)に第1溝515〜519を設けている。
よって、シュー11〜15とともに進角室A1〜A5を画成するベーン61〜65から第1溝515〜519までの周方向距離、具体的には進角室A1〜A5に面するベーン61〜65の周方向側面と、このベーン61〜65の周方向側面から周方向で最も近い第1溝515〜519の(時計回方向)縁部との間の周方向距離が拡大され、これにより、ベーン61〜65がシュー11〜15に最も近づいたときにも、第1溝515〜519がベーン61〜65により塞がれずに作動室に開口しやすいようにしている。すなわち、第1溝515〜519をシュー11〜15と重ねて配置しない場合には、第1溝515〜519(の反時計回り方向縁部)とシュー11〜15との間に周方向隙間ができる。ベーン61〜65(の反時計回り方向縁部)がこの周方向隙間と重なるまで回転すると、第1溝515〜519が完全にベーン61〜65によって覆われ、その開口が塞がれてしまうおそれがある。これに対し、第1溝515〜519をシュー11〜15と重ねて配置すれば、両者の間に上記周方向隙間は生じないため、ベーン61〜65がシュー11〜15に最も近づいても(ベーン61〜65とシュー11〜15が面同士で当接しない限り)第1溝515〜519がベーン61〜65によって完全に覆われず、第1溝515〜519の進角室A1〜A5内への開口を確保することが可能となる。換言すると、作動室への第1溝515〜519の開口を確保しつつ、変換角を拡大することが可能となる。なお、複数の第1溝515〜519の1つ以上をシュー11〜15と重ねて配置すれば、少なくともシューと重ねた上記第1溝については、その開口がベーン61〜65により完全に塞がれにくくすることできる。このため、他の第1溝をシュー11〜15と重ねて配置せず、変換角度を拡大した際に最大相対回転位置で上記他の第1溝の開口がベーン61〜65により完全に塞がれるように構成した場合でも、作動室への作動油の供給量の総量は減少するものの、上記シューと重ねた第1溝の開口により装置1の制御性を最低限担保できるだけの作動油の供給量(作動油圧)を確保できれば、制御性を過度に損なわずに、変換角度を拡大することが可能である。本実施例1では、第1溝515〜519は、リアプレート9において、全てのシュー11〜15との対向面にそれぞれ設けられている。換言すると、複数の第1溝515〜519は全て、それぞれシュー11〜15とX軸方向で対向する部分を有し、周方向でシュー11〜15と部分的に重なるように設けられている。よって、全ての第1溝515〜519の開口がベーン61〜65により塞がれにくくしてバルブタイミング制御の応答性低下を抑制しつつ、変換角度を拡大することが、より容易である。
また、第1溝515〜519は、周方向でシール溝117〜157と重ならないように配置されている。よって、第1溝515〜519とシール溝117〜157との連通が抑制されるため、第1溝515〜519内の作動油圧がシール部材S1〜S5に作用してシール部材S1〜S5の機能が低下することを抑制できるとともに、第1溝515〜519を介した作動室への作動油の給排をより円滑に行うことが可能である。周方向でシール溝117〜157と重ならない範囲で、最大限シュー11〜15と重なるように第1溝515〜519を配置することで、上記のように、作動室への第1溝515〜519の開口を確保しやすくしつつ、変換角を拡大することを可能としている。
(第2溝による作用)
第1シュー11においてX軸方向で第1溝515と対向する面に第2溝111を設け、この第2溝111を第1進角室A1(作動室)に連通させた。具体的には、第2溝111を周方向でベーン61と対向するシュー11の面に開口させた。
よって、第1進角室A1へ第1溝515から第2溝111を介して作動油を供給する通路が構成されることとなる。したがって、ベーン61がシュー11に最も近づくとき、ベーン61とシュー11との間の周方向隙間がほとんどなくなり、第1進角室A1への第1溝515の開口がベーン61によりほとんど完全に塞がれるような場合(例えば両者を面同士で当接させる場合)であっても、第1進角室A1へは第2溝111を介して作動油が給排され、給排量の減少が抑制される。換言すると、第2溝111を第1進角室A1(の一部)として機能させたような効果があり、ベーン61に対して作動油の圧力が作用する面積を、第1進角室A1への第2溝111の開口面積分だけ少なくとも確保できる。このため、バルブタイミング制御の応答性低下を抑制することができる。すなわち、例えばベーン61の外周側を内周側に対して周方向に突出させて最大相対回転位置でベーン61とシュー11との間に周方向隙間を設けるようなことをしなくても、最大相対回転位置で、シュー11とベーン61により画成される第1進角室A1への作動油の給排通路(ベーン61における作動油の受圧面積)を確保できる。よって、第1進角室A1に作動油を給排するため、上記シュー11とベーン61との間に周方向隙間を別途設け、第1溝515をこの周方向隙間に開口させる必要がない。このため、上記周方向隙間を省略して、これによりハウジングHSGに対するベーン部材6の相対回転角度の範囲を最大限に大きくすることが可能となる。すなわち、変換角の拡大と、作動室への作動油の供給確保とを両立することができる。また、シュー11とベーン61との間に上記周方向隙間を設けるためにシュー11又はベーン61に当接用の突出部を設ける必要が無い。よって、突出部を省略できる分だけハウジングHSG又はベーン部材6の重量を軽減し、装置1の軽量化・小型化を図ることが可能となる。なお、突出部を全て省略するのではなく、部分的に省略する(周方向の突出量を減らす)こととしてもよい。本実施例1では、突出部を全て省略してベーン61とシュー11を面同士で当接させているため、上記効果を最大化できる。
このように、装置1の小型化・広角化を阻害せずに、給排通路の拡大・制御応答性の向上が可能である。
また、第1溝515は、リアプレート9(封止部材)の内周側から外周側へ延びるように設けられており、第2溝111も、シュー11の内周側端からハウジング本体10の外周側へ延びるように設けられている。よって、最大相対回転位置で、ベーン61とシュー11との間の周方向隙間がほとんどなくなり、第1進角室A1への第1溝515の開口及び第1進角室A1への第2溝111の開口がベーン61によりほとんど完全に塞がれるような場合、第1溝515においてリアプレート9の内周側(カムシャフト3の側)から供給される作動油が、シュー11の内周側端から第2溝111内に流入しやすい。したがって、第1溝515から第2溝111への作動油の供給が円滑になされるため、進角通路51への作動油の供給開始後、ベーン61に速やかに第2溝111内の作動油圧を作用させて、上記効果を向上できる。なお、第2溝111を、シュー11の内周側端から延びるように設けず、シュー11の内周側端と外周側端との間の適当な部位に第2溝111を設け、この部位で第1溝515と連通させてもよい。また、例えば、シュー11に孔を貫通形成し、この貫通孔の一端が(第1進角室A1に面する)シュー11の側面に開口して進角室A1と連通するとともに、他端が(リアプレート9に面する)シュー11の側面に開口して第1溝515と連通するように構成してもよい。また、本実施例1では、シュー11のX軸方向の一部分のみを切り欠いて第2溝111としたが、シュー11のX軸方向全体を切り欠いて第2溝111を形成することとしてもよい。
なお、ハウジング本体10は焼結金属によって成形されており、第2溝111は、ハウジング本体10を型成形する際に同時に成形される。よって、切削加工等に比べて、第2溝111の成形が容易である。
ここで、第2溝111は、シュー11の内周側端(先端部)からハウジング本体10の外周側へ延びて設けられているため、シュー先端部においてシール溝117と第2溝111とが重なり、互いに連通状態となるおそれがある。これに対し、本実施例1では、シール溝117と連通しないように第2溝111を配置している。よって、第2溝111内の作動油がシール部材S1〜S5に作用してシール部材S1〜S5の機能が低下することを抑制できるとともに、第2溝111を介して進角室A1の作動油の給排をより円滑に行うことが可能である。なお、本実施例1のように、シール部材S1〜S5として、(シュー11〜15及びロータ60の軸方向長さだけ)軸方向に延びるシール面部を有し、シュー11〜15の先端面に設けられたシール溝117〜157内に設置されるシール本体118〜158と、シール本体118〜158(のシール面部)をシール溝117〜157から突出するようにロータ外周面600の側に付勢する付勢手段119〜159とによって構成されるものを用いた場合には、シール溝117と第2溝111が連通することによるシール部材の機能低下のおそれを軽減可能である。なぜなら、仮に第2溝111がシール溝117と連通した場合でも、第2溝111からの作動油がシール本体の側面を通ってシール溝117の底部(シール本体の裏側)に供給されると、シール本体をロータ外周面の側に付勢する油圧を発生させるため、シール機能が著しく低下することは抑制されるからである。なお、シール部材S1〜S5として、本実施例1で用いた以外のタイプも採用可能である。付勢手段119〜159として板バネ以外の弾性部材を用いたり、シール本体118〜158そのものを弾性変形させて付勢手段を省略したものを用いたりしてもよい。
具体的には、第2溝111は、回転軸方向において(すなわちX軸方向から見て)第1溝515の範囲内に含まれるように形成されている。これにより、第2溝111は、周方向でシュー11と重なりつつ、シール溝117との間に所定の周方向距離を有することになる。よって、シール溝117と第2溝111が非連通状態となるだけでなく、シュー先端部におけるシール溝117と第2溝111の強度や成形性を向上することができる。すなわち、第1溝515は、周方向でシール溝117と重ならない最大範囲で設けることができる一方、第2溝111を、第1溝515と同様に、周方向でシール溝117と重ならない最大範囲で設けると、第2溝111とシール溝117との間の肉厚が確保されず、強度が不足するおそれがあり、また成形性の点で不利である。特に本実施例1では、ハウジング本体10(シュー11)を型により成形するため、第2溝111とシール溝117との間の部分の寸法が小さいと、成形不良が発生するおそれがある。例えば、焼結前の圧粉体を成形する際、金型内において上記部分に粉が十分に行き渡らずにこの部分が欠けてしまうおそれがある。本実施例1では、第2溝111を、回転軸方向において第1溝515の範囲内に含まれるように形成することで、第2溝111とシール溝117との間の肉厚を確保することが可能となり、上記強度や成形性を向上できる。なお、強度や成形性の点で不都合がない程度に第2溝111とシール溝117との間の肉厚を確保できる限り、第2溝111を回転軸方向において(軸方向から見て)第1溝515と略同形状に形成することとしてもよく、この場合、第1溝515と第2溝111との連通を最大化できるため効率がよい。
本実施例1では、シュー11の軸方向(X軸方向)全体ではなく、軸方向の一部分のみを第2溝111として切り欠いている。このため、軸方向で第2溝111が設けられていない範囲におけるシュー11のシール溝117の周囲を厚肉として、強度低下をより抑制することが可能である。なお、強度を確保できる限り、第2溝111をシュー11のX軸方向全範囲に形成することとしてもよい。この場合、シュー11の周方向側面における第2溝111の開口面積を増大可能である。
(第2溝と位置決め手段との関係による作用)
本実施例1では、リアプレート9(封止部材)に対するシュー11(ハウジング本体10)の周方向位置を決める凹部116(位置決め手段)が設けられており、凹部116は、ハウジング本体10において、第2溝111が形成されるシュー11の外周側に設けられている。よって、簡便に位置決めを実現しつつ、装置1を小型化することが可能となる。すなわち、第2溝111が形成されるシュー11を、第2溝111の周囲の強度を確保できる分だけ周方向で幅広に設けることが有利である。このように幅広に設けたシュー11に凹部116を設けることで、他のシュー12〜15に位置決め手段(凹部)を設けて当該他のシュー12〜15を幅広にした場合に比べ、スペースを節約でき、これにより装置1を小型化することが可能となる。
(第2溝とロック機構との関係による作用)
本実施例1のように、ベーン61にロックピストン71を設置し、リアプレート9(封止部材)においてシュー11に周方向で隣接する位置に係合凹部730(ロック穴)を設けた場合、リアプレート9において係合凹部730と(シュー11近傍の)第1溝515との間の周方向距離(肉厚)が小さくなり、リアプレート9における係合凹部730の成形性や周囲の強度が低下するおそれがある。特に、本実施例1では、嵌合孔96にスリーブ73を圧入により嵌合させるため、圧入による嵌合孔96の周囲の変形のおそれが高くなる。なお、係合凹部730を切削加工等によりリアプレート9に直接形成する場合も、第1溝515との位置関係により、成形性や強度低下のおそれがある。これに対し、本実施例1では、シュー11に第2溝111を設けたため、第1溝515から進角室A1に作動油を(直接給排するのではなく)第2溝111を経由して給排することが可能である。よって、第2溝111により進角室A1への給排通路を確保しつつ、進角室A1への第1溝515の開口面積を縮小することが可能であり、この第1溝515の開口面積の縮小により、係合凹部730(嵌合孔96)の周囲の肉厚を増大している。換言すると、第1溝515と係合凹部730(嵌合孔96)との間には、これら溝ないし凹部の強度や成形性の観点から、所定の肉厚(周方向寸法)を確保することが好ましいところ、本実施例1では、第1溝515の係合凹部730側部分を削減し、第1溝515と係合凹部730(嵌合孔96)との間の距離を増大している。よって、第1溝515と係合凹部730(嵌合孔96)との干渉を回避して両者間に所定の肉厚を確保することが容易である。したがって、例えば、嵌合孔96にスリーブ73を圧入しても、圧入に耐えるだけの強度を確保することが可能であり、これにより装置1の耐久性を向上するとともにロックピストン71の係合作用を向上し、ロック機構7の作動をより確実なものにすることができる。また、係合凹部730(ベーン部材6の初期位置)を、シュー11にできるだけ近い周方向位置に設けることが可能になり、初期位置を設定する範囲を最大化できる。
具体的には、進角室A1への第1溝515の開口面積を略ゼロとしている。換言すると、X軸方向から見て、第1溝515を、シュー11と重なる位置にのみ設け、進角室A1と重なる位置には設けていない。これにより、係合凹部730(嵌合孔96)と第1溝515との間の距離、換言すると係合凹部730(嵌合孔96)の周囲の肉厚を最大としている。なお、第1溝515は、リアプレート9において、シュー11との対向面に形成された部分があればよく、上記対向面以外に(例えば進角室A1に面して)形成されていてもよい。すなわち、上記強度や成形性を担保できる範囲で、進角室A1へ第1溝515を部分的に開口させることとしてもよい。
(第2溝と第1ストッパ部との関係による作用)
本実施例1では、ベーン61が、少なくとも第2溝111が設けられたシュー11に対して、第2溝111が設けられた部分において当接することで、相対回転位置が規制される。すなわち、第2溝111が設けられたシュー11における(第2溝111が開口するとともに)ベーン61と対向する周方向側面にベーン61が当接することで、遅角側へのベーン部材6の最大相対回転位置、すなわち最遅角位置が規制される。
このように、ベーン61とシュー11が当接することで第1ストッパ部を構成した場合、第1ストッパ部による回転規制位置で、(第1ストッパ部を構成する)ベーン61とシュー11が面同士で当接して両者間の周方向隙間がなくなり、両者間で形成される作動室(進角室A1)への第1溝515の開口がベーン61により塞がれるおそれがある。
本実施例1では、上記回転規制位置でも、進角室A1へは第2溝111を介して作動油が供給される。換言すると、ベーン61に対する作動油圧の作用範囲(ベーン61の受圧面積)が、少なくとも第2溝111の開口面積分だけは確保される。よって、作動油の供給開始後、進角室A1においても、ベーン部材6を相対回転させるための作動油圧が速やかに発生し、これにより最大相対回転位置からの制御応答性を向上できる。
具体的には、第1溝515は、リアプレート9に内周側から外周側へ延びるように形成されており、第2溝111は、第1溝515に対向してシュー11に形成され、シュー11におけるベーン61との対向面に開口する。よって、ハウジングHSGとベーン部材6の相対回転が規制される際、ベーン61とシュー11が内周側で当接すると、ベーン61と(周方向で)対向する第2溝111の開口部は、ベーン61の上記当接によって閉じられる。すなわち、この回転規制位置で、ベーン61とシュー11は面同士で接触し、進角室A1の内周側における容積は略ゼロとなる一方、第2溝111内の作動油の圧力が、上記開口部からベーン61の側面に対して周方向に作用する。この作動油圧が、ベーン61をシュー11から離間させる力を発生する。
なお、同じ相対回転方向で互いに当接するベーンとシューの組を複数設けることにより、同方向におけるストッパ部を複数構成することとしてもよい。この場合、ベーンが当接するシューに第2溝を形成すれば上記作用を得ることができる。本実施例1では、複数のベーン61〜65のうち1枚のベーン61のみがシュー11と当接するように構成されるとともに、ベーン61が当接するシュー11のみに第2溝111が形成されており、上記当接の際、他のシュー12〜15とベーン62〜65との間で画成される進角室A2〜A5における第1溝516〜519は、ベーン62〜65とシュー12〜15との間の隙間に開口するように構成されている。よって、進角室Aへの作動油の給排通路(ベーンの受圧面積)を確保するために、ベーン61が当接する1つのシュー11のみに第2溝111を形成すればよく、ベーン62〜65が当接しない他のシュー12〜15には第2溝を形成する必要がないため、装置1(ハウジング本体10)の製作がより容易である。
(第2溝とロック機構とストッパ部との関係による作用)
本実施例1において、ロックピストン71は、シュー11と当接するベーン61に設けられている。このため、ロックピストン71を設置するベーンと、シュー11と当接するベーンとを別々とした場合に比べ、装置1の強度を向上しつつ小型化を図ることが可能である。すなわち、ロックピストン71を設けるベーン61は、ロックピストン71を収容するために、他のベーン62〜65よりも周方向で幅広(肉厚)に設けることが有利である。この幅広のベーン61をシュー11と当接させるようにすることで、ベーン61の強度を確保しつつストッパ機能を実現できる。換言すると、シュー11と当接させるベーン61は、強度を確保するために周方向で幅広(肉厚)に設けることが好ましいところ、この幅広のベーン61にロックピストン71を収容することで、他のベーン62〜65を(ロックピストン設置用に)幅広にする必要をなくし、ベーン部材6の大型化を抑制している。
また、係合凹部730は、ロックピストン71が設けられるベーン61がシュー11と当接するときにロックピストン71が係合可能な位置に設けられている。すなわち、ベーン部材6の回転規制位置と作動の初期位置とが同じに設けられている。よって、ロック機構7によりベーン部材6を初期位置に保持するために、第1ストッパ部により相対回転を規制すれば足り、ベーン部材6の相対回転位置を初期位置に制御する必要が無い。したがって、装置1を簡素化できる。
さらに、ロックピストン71が設置されたベーン61には、ロックピストン71の係合を解除するための油圧を供給する解除用回路として連通溝76が設けられており、連通溝76は、ベーン61の周方向側面において第2溝111と周方向で対向する位置に開口している。よって、作動初期に、ベーン61とシュー11が当接した状態で、第1溝515を経由して第2溝111に供給される作動油は、作動油圧としてベーン61に作用すると同時に、連通溝76にも供給され、ロックピストン71の係合を解除するための油圧を発生する。このため、進角通路51への作動油の供給開始後、早期にロックピストン71の係合を解除して、装置1の始動性(制御応答性)を向上することができる。
なお、ベーン61の周方向側面における連通溝76の開口位置は、第2溝111と周方向で対向して、ベーン61とシュー11の当接時に互いに連通する位置であればよく、例えばシュー11の先端部(ベーン61の根元部)に向かって偏倚していてもよい。
(第2溝と位置決め手段とストッパ部との関係による作用)
ハウジング本体10において、(第2溝111が形成されるとともに)ベーン61が当接するシュー11の外周側には、リアプレート9(封止部材)に対してハウジング本体10の周方向位置を決める位置決め手段として凹部116が設けられている。よって、簡便に位置決めを実現しつつ、装置1を小型化することが可能となる。すなわち、上記のように、第2溝111が形成されるシュー11は、ベーン61と当接しても強度を確保できるように幅広に設けることが有利である。このように幅広のシュー11に凹部116を設けることで、他のシュー12〜15を(位置決め手段を設けるために)幅広にする必要をなくしており、これによりスペースを節約してハウジング本体10の大型化を抑制している。
また、凹部116を設けるためのスペース(肉盛り部114)を確保するためにシュー11がある程度幅広になること許容しつつ、この幅広になったシュー11に第2溝111を形成している。すなわち、凹部116を設けるために幅広にならざるをえないスペース分を利用して第2溝111を形成することで、第2溝111の周囲の強度を向上するとともに、シール溝117と第2溝111との干渉を抑制している。
換言すると、本実施例1では、ロックピストン71の外周(摺動孔70の内周)の形に沿って第1ベーン61の先端部を切り欠くことで切り欠き部615を設け、これにより第1ベーン61の軽量化を図っている。また、切り欠き部615は、この切り欠き部615と対向するハウジング本体10(シュー11)の部位に肉盛り部114を設けることを可能にしている。換言すると、切り欠き部615は、第1ベーン61の先端部と肉盛り部114との干渉を抑制して第1ベーン61の平面部614と第1シュー11の平面部113とが面同士で接触することを可能としている。
この肉盛り部114により、第1ベーン61が第1シュー11に当接する際に作用する力に対して、第1シュー11の固定強度を向上している。すなわち、第1ベーン61が第1シュー11に当接しても強度の点で問題ないよう、第1シュー11の根元部分における周方向での剛性を高めている。
そして、肉盛り部114は、第1シュー11(の時計回り方向側)の外周側に、凹部116を設けるための肉厚を提供している。このように肉盛り部114の外周側にできるスペース(肉厚)を利用して凹部116を設けているため、肉盛り部114以外の他の部位に凹部116を設けた場合に比べ、第1シュー11を(強度確保のため)必要以上に周方向幅広としなくてもよく、効率的である。
なお、上記各作用を得るための構成は本実施例1のものに限らず、例えば孔505〜509が進角室A1〜A5に開口し、第1溝515〜519が遅角室R1〜R5に開口することとしてもよい。また、孔505〜509を省略し、作動室への給排通路を第1溝515〜519による1系統のみとすることとしてもよい。この場合、カムシャフト3の作動油給排部から第1溝515〜519を介して進角室A又は遅角室Rの一方のみに作動油を給排するように設けることで、ベーン部材6を相対回転させる。作動油が給排されない側の作動室には付勢部材(例えばコイルスプリング)を設置しておけば、初期位置にベーン部材6を付勢して戻すことができる。進角室Aのみに作動油を給排することとした場合、フリクション(交番トルク)により、遅角側(従動側)の初期位置にベーン部材6が戻るため、遅角室Rには付勢部材を設置しないことも可能である。
[実施例1の効果]
以下、実施例1の内燃機関のバルブタイミング制御装置が奏する効果を列挙する。
(1)装置1は、内周側に突出する複数のシュー11〜15によって複数の収容室を形成するハウジング本体10と、ハウジング本体10の少なくとも回転軸方向一端(X軸負方向端)を封止する封止部材(リアプレート9)とを備えたハウジング部材(ハウジングHSG)と、ハウジング本体10内に設けられ、それぞれの収容室内で外周側に突出した複数のベーン61〜65によって収容室を作動室(進角室A1〜A5)に隔成し、ハウジング部材と相対回転することによりバルブタイミングが変更されるベーン部材6と、それぞれの作動室と連通して作動流体(作動油)を給排する給排通路(第1溝515〜519及び第2溝111からなる進角側給排通路)とを備え、給排通路の少なくとも1つ(第1溝515及び第2溝111からなる通路)は、少なくともシュー11におけるベーン61との対向面に開口する。
よって、制御応答性の低下を抑制しつつ変換角を拡大することが可能であるとともに、装置1の軽量化・小型化を図ることができる。
なお、上記「隔成」とは「画成(区画形成)」と同義であり、シール部材によって作動室内の作動流体の漏出が抑制される状態のほか、画成された作動室間にシール部材が設けられず、作動室内から作動流体がある程度漏出可能な状態も含む。
具体的には、作動室は、進角作動室(進角室A1〜A5)及び遅角作動室(遅角室R1〜R5)を有する。換言すると、シュー11〜15によって形成される複数の作動室(収容室)は、ベーン61〜65によってそれぞれ進角作動室及び遅角作動室に画成される。給排通路(進角側給排通路515〜519,111、遅角側給排通路505〜509)は、進角作動室又は遅角作動室とそれぞれ連通して作動流体を給排する。なお、作動流体を給排通路からどちらか一方の作動室(進角作動室又は遅角作動室)のみに給排することとしてもよい。
(2)換言すると、内周側に突出する複数のシュー11〜15によって複数の収容室が画成されたハウジング本体10と、ハウジング本体10の少なくとも回転軸方向一端を封止する封止部材(リアプレート9)とを備えるとともに、クランクシャフトから回転が伝達されるハウジング部材(ハウジングHSG)と、カムシャフト3に固定され、ハウジング本体10内に相対回転可能に設けられるとともに、外周側に突出した複数のベーン61〜65によってそれぞれの上記収容室を作動室(進角室A1〜A5)に画成するベーン部材6と、作動室とそれぞれ連通して作動流体を給排する複数の給排通路(第1溝515〜519及び第2溝111からなる進角側給排通路)とを備え、給排通路の少なくとも1つ(第1溝515及び第2溝111からなる通路)は、封止部材(リアプレート9)において少なくともシュー11に対向する面(X軸正方向端面)に設けられた第1給排部(第1溝515)と、シュー11において第1給排部に対向する面(X軸負方向端面)とベーン61に対向する面(時計回り方向端面)とを連通する第2給排部(第2溝111)とによって構成される。
よって、上記(1)と同様の効果を得ることができる。なお、第1給排部は、溝に限らず、孔でもよい。
(3)換言すると、給排通路の少なくとも1つは、封止部材(リアプレート9)に形成された第1溝515と、第1溝515に対向してシュー11に形成され、作動室(進角室A1)に連通する第2溝111とによって構成される。
具体的には、給排通路の少なくとも1つは、封止部材(リアプレート9)において少なくともシュー11と対向する面(X軸正方向端面)に設けられるとともにカムシャフト3の側の作動流体の給排部(環状溝514等)と連通する第1溝515と、シュー11において第1溝515と対向する面(X軸負方向端面)に設けられるとともに作動室(進角室A1)と連通する第2溝111とによって構成される。
よって、給排通路を溝により構成することで、成形がより容易であり、製造コストを低減できる。
より具体的には、第1溝515は、径方向に延びるように形成されている。なお、上記「径方向」とは「(封止部材の)内周側から外周側へ」と同義であり、回転軸Oを通る径方向直線の方向に限らず、上記径方向直線に対して傾いて延びる方向も含む。
(4)封止部材(リアプレート9)は焼結金属によって成形されており、第1溝515〜519は、封止部材(リアプレート9)を型成形する際に同時に成形される。
よって、切削加工等に比べて、第1溝515〜519の成形が容易である。
(5)ハウジング本体10は焼結金属によって成形されており、第2溝111は、ハウジング本体10を型成形する際に同時に成形される。
よって、切削加工等に比べて、第2溝111の成形が容易である。
(6)第1溝515〜519は、全てのシュー11〜15との対向面にそれぞれ設けられている。
よって、制御応答性の低下を抑制しつつ変換角を拡大することがより容易である。
(7)第1溝515は、内周側から外周側へ延びるように形成されている。第2溝111は、シュー11の内周端から延びている。
よって、第1溝515と第2溝111との間の作動流体の流通を円滑化できる。
(8)シュー11の内周部には、回転軸方向に延びるように形成されたシール溝117と、シール溝117内に配置されてベーン部材6(ロータ外周面600)と摺動するシール部材S1とを備え、第2給排部(第2溝111)とシール溝117は、非連通となっている。
よって、シール部材S1の機能低下を抑制できるとともに、第2給排部(第2溝111)を介した作動流体の給排をより円滑に行うことが可能である。
(9)第2溝111は、回転軸方向において第1溝515と同形状、又は、回転軸方向において第1溝515の範囲内に含まれるように形成されている。
よって、第2溝111とシール溝117との間の肉厚を確保することが可能となり、強度や成形性を向上できる。
(10)ハウジング本体10における第2給排部(第2溝111)が形成されるシュー11の外周側には、封止部材(リアプレート9)に対して周方向の位置を決める位置決め手段(凹部116)が設けられている。
よって、装置1を小型化することが可能である。
具体的には、位置決め手段は、封止部材(リアプレート9)又はハウジング本体10の一方(ハウジング本体10)に設けられた位置決め凹部116と、他方(リアプレート9)に設けられた位置決め凸部97とによって構成されている。
(11)ベーン部材6には、封止部材(リアプレート9)に対して出没可能なロックピストン71が設けられるとともに、封止部材(リアプレート9)には、ロックピストン71が係合可能なロック穴(係合凹部730)が形成され、内燃機関の状態に応じて、ロックピストン71をロック穴に係合又は解除させる。
よって、装置1の大型化を抑制しつつ、装置1を初期位置から作動させるためのロック機構7を簡便に設けることができる。
(12)上記(11)において、ベーン61にロックピストン71を設け、封止部材(リアプレート9)において、第2給排部(第2溝111)が設けられたシュー11に周方向で隣接する位置にロック穴(係合凹部730)を設けた。
よって、封止部材(リアプレート9)における第1溝515とロック穴(係合凹部730)との間の部位の強度や、ロック穴の成形性を向上することが可能である。
(13)上記(12)において、ロック穴には、係合孔構成部材(スリーブ73)が圧入される。
よって、ロック穴の周囲の肉厚を確保して、圧入に対する強度不足を抑制することが可能である。
(14)給排通路の少なくとも1つ(第1溝515及び第2溝111からなる通路)は、少なくともシュー11におけるベーン61との対向面に開口し、開口部は、ベーン61が当接することによって閉じられる。
換言すると、ベーン61が、少なくとも第2給排部(第2溝111)が設けられたシュー11と、第2給排部(第2溝111)が設けられた部分で当接することで、最進角位置又は最遅角位置が規制される。
よって、上記(1)と同様の効果を得つつ、最大相対回転位置からの制御応答性を向上できる。
(15)具体的には、給排通路の少なくとも1つ(第1溝515及び第2溝111からなる通路)は、封止部材(リアプレート9)に内周側から外周側へ延びるように形成された第1溝515と、第1溝515に(X軸方向で)対向してシュー11に形成され、ベーン61とシュー11が内周側で当接してハウジング部材(ハウジングHSG)とベーン部材6の相対回転が規制される際にベーン61と(周方向で)対向する第2溝111とによって構成される。
よって、上記(1)(3)と同様の効果を得ることができる。
(16)複数のベーン61〜65のうち1枚のベーン61のみがシュー11と当接するように構成されており、ベーン61が当接するシュー11のみに第2溝111が形成され、第1溝516〜519は、1枚のベーン61がシュー11と当接した際に、他のベーン62〜65とシュー12〜15との間の隙間に開口するように構成されている。
よって、装置1の製造を容易化できる。
(17)上記(12)において、ロックピストン71は、シュー11と当接するベーン61に設けられている。
よって、上記(12)と同様の効果を得つつ、装置1を小型化することが可能である。
実施例2の装置は、ストッパ部を構成する第1シュー11の第2溝111を省略し、それ以外のシュー12〜15に(第2溝111と同様の)第2溝を設けた。また、この第2溝と対向する第1溝516〜519の作動室への開口面積を縮小した。第2溝その他の構成は実施例1と同様であるため、説明を省略する。なお、第1シュー11にも第2溝を設けることとしてもよい。
すなわち、装置1の軽量化・小型化を図るためには、各ベーン62〜65の周方向幅を小さくすることが好ましい。しかし、この場合、ベーン62〜65を挟んで隣り合う作動室A,R間のシール性が低下し、これにより作動室A,Rへの作動油の供給量が減少して、バルブタイミング制御の応答性が低下するおそれがある。すなわち、ベーン部材6と封止部材8,9との間には、両者の相対回転を可能にするために僅かなX軸方向隙間が設けられている。ベーン62〜65の周方向幅を小さく設けた場合、ベーン62〜65を挟んで隣り合う作動室A,R間の周方向距離(シール長)が小さくなるため、上記隙間を通って作動油が漏出するおそれが高くなる。特に、第1溝516〜519が開口しないほうの作動室(遅角室R2〜R5)の容積が大きくなる方向(ベーン62〜65が第1溝516〜519に近づく方向)にベーン部材6が相対回転し、ベーン62〜65と第1溝516〜519とが周方向で重なると、上記作動室(遅角室R2〜R5)と第1溝516〜519との間の周方向距離(シール長)が、ベーン62〜65の周方向幅よりも小さくなる。この状態で第1溝516〜519に作動油が供給されると、第1溝516〜519内の作動油が、ベーン62〜65と封止部材(リアプレート9)との間の軸方向隙間を通って(低圧の)上記作動室(遅角室R2〜R5)に向かって漏出するおそれが高くなる。特に、ベーン62〜65と第1溝516〜519の重なる範囲が最大となる最大相対回転位置(最遅角位置)では、上記シール長が最小となるため、上記おそれが最大となる。また、変換角を拡大すると、ベーン62〜65とシュー12〜15との間の隙間が縮小することになり、ベーン62〜65を挟んで第1溝516〜519と隣接する作動室(遅角室R2〜R5)と第1溝516〜519との間の周方向距離(シール長)が小さくなるため、両者間のシール性が低下するおそれがある。
これに対し、本実施例2では、シュー12〜15に第2溝を設けたため、作動油が第1溝516〜519から(作動室(進角室A2〜A5)に直接給排されるのではなく)第2溝を経由して給排することが可能である。よって、作動室(進角室A2〜A5)への給排通路を確保しつつ、作動室(進角室A2〜A5)への第1溝516〜519の開口面積を縮小することが可能であり、この第1溝516〜519の開口面積の縮小により、上記シール長を増大している。
換言すると、ベーン62〜65と第1溝516〜519が周方向で重なる場合、第1溝516〜519と、ベーン62〜65を挟んでこの第1溝516〜519に隣接する作動室(遅角室R2〜R5)との間には、シール性の観点から、所定の周方向距離(シール長)を確保することが必要である。本実施例2では、作動室(進角室A2〜A5)への第1溝516〜519の開口面積を縮小しても、第2溝により作動室(進角室A2〜A5)への給排通路を確保することができることに着目し、第1溝516〜519の開口面積を縮小することで、上記ベーン62〜65を挟んで第1溝516〜519に隣接する作動室(遅角室R2〜R5)と第1溝516〜519との間の周方向距離を増大した。したがって、各ベーン62〜65における上記シール長を増大し、例えば最大相対回転位置(最遅角位置)でも、装置1の作動応答性を確保できる程度まで作動油の漏出を抑制することができる。換言すると、ベーン62〜65の周方向幅を小さく装置1を小型化しても、各ベーン62〜65における上記シール長を増大することで、作動応答性を確保しつつ変換角度を拡大することが可能になる。
具体的には、作動室(進角室A2〜A5)への第1溝516〜519の開口面積を略ゼロとした。換言すると、X軸方向から見て、第1溝516〜519を、シュー12〜15と重なる位置にのみ設け、作動室(進角室A2〜A5)と重なる位置には設けていない。これにより、上記ベーン62〜65を挟んで第1溝516〜519に隣接する作動室(遅角室R2〜R5)と第1溝516〜519との間の距離(シール長)を最大としている。
なお、シール性を確保できる範囲で、作動室(進角室A2〜A5)へ第1溝516〜519を開口させることとしてもよい。また、第2〜第5シュー12〜15のうち少なくとも1つに第2溝を設ければ、第2溝を設けないシュー12〜15と周方向で対向するベーン62〜65(第1溝516〜519が開口する作動室を画成するベーン62〜65)における上記シール長が小さくなっても、少なくとも、第2溝を設けたシュー12〜15と周方向で対向するベーン62〜65における上記シール長を、上記のように増大することが可能となる。このため、最大相対回転位置(最遅角位置)において、第2溝を設けたシュー12〜15と周方向で対向するベーン62〜65において作動油の漏出量を抑制し、装置1の制御性を最低限担保できるだけの作動油の供給量(作動油圧)を確保できれば、制御性を過度に損なわずに、変換角度を拡大することが可能である。この場合、製造を容易化できる。ここで、第2溝を設けるシュー12〜15の数を増やすほど、作動油の供給量の総量を増大して、装置1の制御性を向上できる。本実施例2では、全てのシュー12〜15に第2溝を設けたため、上記作用効果を最大とすることができる。
また、ベーン部材6を相対回転させるために作動室に供給される油圧は、最進角位置におけるよりも最遅角位置におけるほうが高い。すなわち、ベーン部材6には、作動室の油圧によるトルク以外に、交番トルクが作用する。この交番トルク(の平均)が作用する方向は、上記のように遅角方向である。よって、最遅角位置では、交番トルクに逆らってベーン部材6を相対回転させるために、最進角位置よりも高い油圧が、給排通路(第1溝516〜519)を介して作動室(進角室A2〜A5)に供給される。したがって、ベーン62〜65を挟んで隣り合う作動室A,R間の漏出量抑制のため、上記シール長は、最進角位置よりも最遅角位置のほうで、大きく設けることが必要となる。これに対し、本実施例2では、進角室A2〜A5へ作動油を供給する第1溝516〜519の開口面積を縮小し、最遅角位置での上記シール長を増大したため、より効果的に作動油の漏出を抑制して上記効果を向上することができる。
他の作用効果は実施例1と同様である。
[他の実施例]
以上、本発明を実現するための形態を、実施例1、2に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例1、2に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
1 バルブタイミング制御装置
3 カムシャフト
6 ベーン部材(ベーンロータ)
61〜65 ベーン
9 リアプレート(封止部材)
10 ハウジング本体
11〜15 シュー
515〜519 第1溝(給排通路)
111 第2溝(給排通路)
HSG ハウジング(ハウジング部材)
A1〜A5 進角室(進角作動室)
R1〜R5 遅角室(遅角作動室)

Claims (3)

  1. 内周側に突出する複数のシューによって複数の作動室を形成するハウジング本体と、該ハウジング本体の少なくとも回転軸方向一端を封止する封止部材とを備えるとともに、クランクシャフトから回転が伝達されるハウジング部材と、
    カムシャフトに固定され、前記ハウジング本体内に相対回転可能に設けられると共に、夫々の前記作動室内で外周側に突出した複数のベーンによって前記作動室を進角作動室と遅角作動室に隔成するベーンロータと、
    夫々の前記進角作動室及び前記遅角作動室と連通して作動液を給排する給排通路とを備え、
    該給排通路の少なくとも1つは、前記封止部材における少なくとも前記シューとの対向面に径方向に延びるように形成された第1溝と、前記シューにおける前記第1溝と対向する面に設けられた第2溝とによって構成され、
    少なくとも前記第2溝が設けられた前記シューと前記ベーンが、前記第2溝が設けられた部分で当接することで、最進角位置又は最遅角位置が規制される
    ことを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
  2. 内周側に突出する複数のシューによって複数の作動室を形成するハウジング本体と、該ハウジング本体の少なくとも回転軸方向一端を封止する封止部材とを備えたハウジング部材と、
    前記ハウジング本体内に設けられ、夫々の前記作動室内で外周側に突出した複数のベーンによって前記作動室を進角作動室と遅角作動室に隔成し、前記ハウジング部材と相対回転することによりバルブタイミングが変更されるベーンロータと、
    夫々の前記進角作動室及び前記遅角作動室と連通して作動液を給排する給排通路とを備え、
    該給排通路の少なくとも1つは、少なくとも前記シューにおける前記ベーンとの対向面に開口し、この開口部は、前記ベーンが当接することによって閉じられる
    ことを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
  3. 内周側に突出する複数のシューによって複数の作動室を形成するハウジング本体と、該ハウジング本体の少なくとも回転軸方向一端を封止する封止部材とを備えたハウジング部材と、
    前記ハウジング本体内に設けられ、夫々の前記作動室内で外周側に突出した複数のベーンによって前記作動室を進角作動室と遅角作動室に隔成し、前記ハウジング部材と相対回転することによりバルブタイミングが変更されるベーンロータと、
    夫々の前記進角作動室及び前記遅角作動室と連通して作動液を給排する給排通路とを備え、
    該給排通路の少なくとも1つは、前記封止部材に径方向に延びるように形成された第1溝と、該第1溝に対向して前記シューに形成され、前記ベーンと前記シューが内周側で当接して前記ハウジング部材と前記ベーンロータの相対回転が規制される際に前記ベーンと対向するように設けられた第2溝とによって構成される
    ことを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
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