JP2011064105A - 内燃機関のバルブタイミング制御装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 アルミ系金属材料によって成形され、少なくとも一端が開口したハウジング本体10と、上記開口を封止する封止プレート8,9とを備えた内燃機関のバルブタイミング制御装置において、ハウジング本体10と封止プレート8,9との間にシールリングS1〜S3を設け、シールリングS1〜S3が当接するハウジング本体10の面(端面105、底面102、壁面103)には陽極酸化被膜層を形成しないようにした。
【選択図】 図3
Description
図1は、内燃機関(以下、機関という。)のシリンダブロック(シリンダヘッド)に取り付けられた実施例1のバルブタイミング制御装置(以下、装置1という。)をカムシャフト(又はクランクシャフト)の軸方向から見た部分正面図である。装置1が適用される機関は、車両の機関室(エンジンルーム)内において、カムシャフトが車両の前後方向に対して略直交する方向に配置されている。すなわち、図1は、装置1を車両の幅方向から見た正面図である。
一般の車両において、機関室の側壁は、フレーム(構造材、骨組み材)が設けられている等の理由により不定形の三次元形状を有しており、側壁には機関室内に突出する部位(突出部)が存在する。その一例として、図1及び図15で、装置1bの近傍における側壁W及び側壁Wからの突出部W1を、一点鎖線により概略的に示す。図1では車両前後方向における側壁W(突出部W1)の断面(図15のI−I視断面)を部分的に示す。図15では突出部W1をX軸に平行な平面で切った断面(図1のH−H視断面)を部分的に示す。
本実施例1の機関は、クランクシャフトを起点としてV字型に2つの気筒列(バンク)を配置したV型エンジンであって、1つの気筒に対して吸気弁用のカムシャフト(以下、吸気カムシャフト3aという。)と排気弁用のカムシャフト(以下、排気カムシャフト3bという。)が各1本設置されたDOHC方式である。すなわち、気筒列ごとに吸気カムシャフト1本と排気カムシャフト1本のセットが設けられている。吸気カムシャフト3aはシリンダブロックの幅方向内側に設置されており、吸気弁を駆動する。排気カムシャフト3bはシリンダブロックの幅方向外側に設置されており、排気弁を駆動する。
各装置1a、1bにはプーリ100が設けられている。各プーリ100には、1本のタイミングベルト(以下、ベルトBeltという。)が掛け渡され、これにより各装置1a、1bが連結されている(図1の二点鎖線)。ベルトBeltはゴム製の歯付ベルト(コッグドベルト)である。なお、ベルトBeltの素材は、軽量化やコスト低減を図ることが可能なものであればよく、例えば合成樹脂であってもよい。クランクシャフトの回転力はベルトBeltを介して各プーリ100(各装置1a、1b)に伝達される。各装置1a、1bはプーリ100により回転駆動されると共に、各バルブ(吸気弁・排気弁)の開閉タイミングを運転条件に応じて最適に可変制御する。
なお、ハウジングHSGにクランクシャフトからの回転力を伝達する手段は、プーリとベルトに限らず、スプロケットとチェーンでもよい。また、装置1に回転力を伝達する形式は、クランクシャフトからの回転力を間接的に伝達する形式、例えば(クランクシャフトからの回転力が直接伝達された)一方の装置1から他方の装置1に回転力が伝達されるものでもよい。
以下、説明の便宜上、各カムシャフト3a,3bの軸方向にX軸を設け、各装置1a,1bが設置されている側を正方向とする。
まず、機関の吸気側に適用された装置1aの構成を図2〜図14に基づき説明する。図2は装置1aを構成する各部材を分解して同軸上に並べ、斜めから見た図である。図3は、装置1aの回転軸O(図4参照)を通る部分断面を示す。図4及び図5は、フロントプレート8等を取り外した状態の装置1a(ハウジング本体10にベーンロータ4を組み付けたもの)をX軸正方向側から見た正面図である。図3は、図4のA−A視断面(一点鎖線)に略相当する。図3と図4で、カムシャフト3等の内部に形成された油路や溝を破線で示す。
カムボルト33〜35は六角ボルトであり、正六角柱状の頭部331〜351と、外周に雄ねじが形成された軸部とを有している。頭部331〜351には、座面の保護等のためのワッシャ(平座金)332〜352が一体に形成されている。なお、六角ボルトに限らず、適当なものを採用可能である。また、頭部331〜351に座金を設けなくてもよい。
端部30には、カムボルト33〜35がそれぞれ挿通される3つのボルト穴32及び後述する遅角通路20及び進角通路21の一部が形成されている。
3つのボルト穴32は、回転軸Oの周りに略等間隔に、端部30のX軸正方向側の端面300から所定のX軸方向深さまで穿設されており、その内周には雌ねじが形成されている。
端部30には、溝200,204,210,214と第1油通路202,212と第2油通路201,203,211,213が設けられている。溝200等は、端部30の外周面の全周にわたり所定深さまで形成された環状の周方向溝であり、進角通路用の溝210,214と遅角通路用の溝200,204を有している。溝210,200は、この順にX軸負方向側からX軸正方向側に並んで、シリンダヘッド内に配置されている。溝214,204は、この順にX軸負方向側からX軸正方向側に並んで、ベーンロータ4が取り付けられるX軸正方向側に配置されている。第1油通路202,212は、端部30の内部にX軸方向に延びて形成された軸方向油路であり、遅角通路用の通路202と進角通路用の通路212を有している。第2油通路201,203,211,213は、端部30の内部にX軸に対して直角方向に延びて形成された径方向油路であり、遅角通路用の通路201,203と進角通路用の通路211,213を有している。
第1油通路202,212は、(ボルト穴32より小さい)所定の直径を有して、端部30の端面300からX軸負方向に穿設されている。言い換えると、それぞれ端面300に開口している。遅角通路用の第1油通路202は、回転軸Oの周りの方向(以下、周方向という。)で、カムボルト34のボルト穴32とカムボルト35のボルト穴32との間に設けられている。具体的には、回転軸Oから第1油通路202の中心軸までの距離は、回転軸Oから各ボルト穴32の中心軸までの距離と略同じであり、第1油通路202は、各ボルト穴32の中心軸を通る円上であって、カムボルト34、35の略中間位置にその中心軸を有している。第1油通路202のX軸方向寸法は、溝200に重なり、溝200よりも若干X軸負方向側の深さまで設けられている。進角通路用の第1油通路212も、周方向でカムボルト33のボルト穴32とカムボルト35のボルト穴32との間に、第1油通路202と同様に設けられている。第1油通路202ののX軸方向寸法は、溝210に重なり、溝210よりも若干X軸負方向側の深さまで設けられている。
第2油通路201は溝200と第1油通路202との間、第2油通路203は溝204と第1油通路202との間、第2油通路211は溝210と第1油通路212との間、第2油通路213は溝214と第1油通路212との間にそれぞれ貫通形成されて、これらを接続している。
なお、ハウジング本体の軸方向一端側のみが開口することとしてもよい。すなわち、有底筒状、例えばお椀形状のハウジング本体であってもよい。言い換えると、ハウジング本体と封止プレートを一体に形成することとしてもよい。また、ハウジング本体は円筒状に限られない。
ハウジング本体10の外周のX軸方向全範囲には、ハウジング本体10と一体に、プーリ100が成形されている。プーリ100は、X軸方向に延在する凹溝ないし凸部(歯)を周方向略等間隔に複数有しており、ベルトBeltが巻回される歯車(コッグドベルトホイール)である。なお、プーリ100は必ずしもハウジングHSGと一体に設けなくてもよい。また、プーリとベルトが歯同士で噛み合うのではなくベルトとプーリとの面接触により動力を伝達するようにしてもよい。例えば、ハウジング本体の外周において、幅方向中央部がへこんだ形状にプーリを形成し、この形状に適合した断面形状を有する歯無しベルトを用いてもよい。本実施例1のように歯付きのベルト及びプーリを用いた場合、動力伝達性能を向上できる。プーリ100は、クランクシャフトにより回転駆動され、ハウジング本体10と共に図4の時計回り方向(図1の矢印方向に相当する。)に回転する。
ハウジング本体10は、押出し工程と、被膜処理工程と、切断工程と、切削工程とにより形成され、この工程順に製造される。
まず、押出し工程において、アルミ系金属材料(アルミニウム、又はA6000やA7000等のアルミ合金)を加熱して金型から押し出し、図7に示すようなアルミ押出し形材、すなわち内周に各シュー11〜13の形状を有し、外周にプーリ100の形状を有する連続体へと押出し成形する。この押出し方向に延びるハウジング本体10の母材を「一次加工品P1」という。
次に、被膜処理工程において、一次加工品P1の表面全体に陽極酸化処理(陽極酸化被膜処理又はアルマイト処理)を施し、一次加工品P1の外周面および内周面全体に陽極酸化被膜を形成する。これを「二次加工品P2」という。
そして、切断工程において、図8に示すように、二次加工品P2を一定の軸方向間隔で径方向に切断することで、同形状の複数の部材とする。これらの部材を「三次加工品P3」という。
その後、切削工程において、三次加工品P3に切削加工を施し、嵌合凹部101、ボルト孔110〜130、及び位置決め用凹部114を形成することで、図6に示す最終形状を有するハウジング本体10とする。
よって、最終的な各ハウジング本体10においては、外周面及び内周面に陽極酸化被膜層が形成されている一方、切断工程で得られる切断面(X軸方向両端面)、及び切削工程で得られる切削面(嵌合凹部101の表面)には、陽極酸化被膜層が形成されておらず、アルミ系金属材料の母材層が現れている。
図6(b)(c)に示すように、ハウジング本体10のX軸負方向側の開口端には、回転軸Oを中心として円筒状に、X軸正方向に向かって所定の深さまで、封止用の凹部(段差部)である嵌合凹部101が設けられている。嵌合凹部101は、円形状の底面102と、底面102の外周を取り囲んで嵌合凹部101の内周面を構成する壁面103とを有している。壁面103は、回転軸Oを中心に所定の半径Rを有している。
回転軸Oを中心として、ハウジング本体10の内周面の半径をRi、プーリ100の歯先までの最大半径をRoとすると、Ro:Ri≒10:8である。また、(Ro+Ri)/2≒Rである。言い換えると、ハウジング径方向で見ると、嵌合凹部101は、ハウジング本体10の内周面と外周面との間における略半分の範囲にわたって設けられている。一方、ハウジング本体10のX軸方向長さをL、ハウジング本体10のX軸負方向側の端面104と嵌合凹部101の底面102との間の距離をL2とすると、L:L2≒10:2である。言い換えると、嵌合凹部101は、X軸方向でハウジング本体10の20%強の範囲にわたって設けられている。また、ハウジング本体10の内周側のX軸方向長さL1は、嵌合凹部101により、外周側(プーリ100)の長さLよりも短くなっている(L1<L)。言い換えると、プーリ100のX軸方向長さLは、ハウジング本体10の内周側(L1)よりも長く確保されている。
ハウジング本体10の内周には、内側に向かって突出する複数のシュー11〜13が、ハウジング本体10と一体に成形されている。具体的には、周方向で略等間隔に、3つの隔壁部である第1〜第3シュー11〜13が、ハウジング本体10の内周面から内径方向(回転軸Oに向かう方向)に向かって突設されている。第1、第2、第3シュー11,12,13は、この順番で、図4の時計回り方向に並んでいる。各シュー11〜13はX軸方向に延びて形成されており、X軸に対して直角方向での断面は略台形状に設けられている。
周方向における各シュー11〜13の幅は、略同じ大きさに設けられている。第2シュー12と第3シュー13の間の隙間、及び第3シュー13と第1シュー11の間の隙間の周方向幅は、略同じ大きさに設けられている。第1シュー11と第2シュー12の間の隙間は、後述する幅広の第1ベーン41が収容されるため、その周方向幅が、他のシュー間の上記隙間よりも若干大きく設けられている。
第1シュー11の上記台形状断面の略中央には、ボルトb1が挿通するボルト孔110がX軸方向に貫通形成されている。同様に、第2、第3シュー12、13にもそれぞれボルト孔120,130が貫通形成されている。
各シュー11〜13のX軸正方向側の端面には、フロントプレート8が固定設置される。嵌合凹部101の底面102の一部として設けられた各シュー11〜13のX軸負方向側の端面には、リアプレート9が固定設置される。
X軸正方向側から見て、第2シュー12と第3シュー13の時計回り方向側には、それぞれ平面部121,131が形成されている。平面部121,131は、X軸方向から見て、ハウジング本体10の径方向(回転軸Oを通る直線)と略一致した直線状である。
第1シュー11の時計回り方向側には、(ハウジング外径方向の)根元部分に肉盛り部112が設けられると共に、(ハウジング内径方向の)先端部分に切り欠き部113が設けられている。肉盛り部112と切り欠き部113との間には、第2シュー12及び第3シュー13と同様の平面部111が形成されている。肉盛り部112の形状は、X軸方向から見て、内側に凸の略円弧状であり、第1シュー11がハウジング本体10の内周面に沿って立ち上がり始める位置からなだらかに湾曲するように形成されている。
図6(c)に示すように、第1シュー11のX軸負方向側には、嵌合凹部101の底部102であって上記肉盛り部112に、ボルト孔110に隣接して、ボルト孔110よりも小径であり有底円筒状の位置決め用凹部114が設けられている。肉盛り部112は、第1シュー11に位置決め用凹部114を設けることを可能にすると共に、後述する第1ベーン41が第1シュー11に当接しても強度の点で問題ないように、第1シュー11の根元部分における周方向での剛性を高めている。
また、X軸正方向側から見て、第1〜第3シュー11〜13の反時計回り方向側には、X軸方向全範囲にわたって延びる幅広の溝である凹部115,125,135がそれぞれ形成されている。
第1〜第3シュー11〜13の先端部116,126,136の、回転軸Oに対向する面は、X軸方向から見て、後述するベーンロータ4のロータ40の外周面に沿って窪んだ円弧状に形成されている。先端部116には、シール溝117がX軸方向に沿って形成されている。シール溝117の内部には、ガラス繊維入りの樹脂製であり略コ字状のシール部材118と、このシール部材118をロータ40の外周面へ向けて押圧するシールスプリング(板バネ119)が嵌合保持されている。シール部材118はロータ40の外周面に液密に摺接する。同様に、他の先端部127,137にも、それぞれシール部材128,138及び板バネ139,149が設けられている(図3参照)。
なお、本明細書において、「硬度」とは、物体がその輪郭を変えにくい程度をいい、周知の各種硬さ試験により測定可能である。また、「摩耗」とは、物体の面がすり減ることをいい、力学的に滑り摩耗、衝突摩耗等の形式に大別できる。「耐摩耗性」は、摩耗の上記各形式に従う適当な試験により測定可能であり、その他、例えば上記硬さ試験によっても間接的に調べることができる。
図3に示すように、フロントプレート8の直径は、プーリ100の直径(歯先円直径)よりも若干大きく設けられており、フロントプレート8の外周部80は、周方向全範囲にわたって、プーリ100よりも外径方向側に突出している。
図2に示すように、フロントプレート8のX軸正方向側の面の略中央には、(装置1の組み付け時に)カムボルト33〜35(図4参照)が挿通する大径孔81がX軸方向に貫通形成されている。大径孔81を取り囲んで、X軸正方向に突出する円筒状の雌ねじ部82が形成されている。雌ねじ部82(大径孔81)の内周面には、後述するキャップ7の雄ねじ700が螺着する雌ねじ820が形成されている。雌ねじ部82のX軸正方向側の環状の端面には、環状のシールリング溝821が形成されている。
雌ねじ部82と外周部80の間には、周方向で略等間隔に、ボルトb1〜b3がそれぞれ挿通する3つのボルト孔83,84,85がX軸方向に貫通形成されている。これらのボルト孔83〜85は、ハウジング本体10の各シュー11〜13のボルト孔110〜130とX軸方向で対向するそれぞれの箇所に設けられている。
なお、ボルト孔83〜85の周囲には、ボルトb1〜b3の軸力に対する強度を高めるために、他の部位よりもX軸方向で若干肉厚の肉厚部86,87,88が、それぞれ形成されている。肉厚部86〜88はそれぞれ内径方向に向かって広がりつつ雌ねじ部82に連続している。言い換えると、フロントプレート8は、ボルトb1〜b3に対する強度を確保するための肉厚部86〜88を除いて、肉抜きされ、X軸方向にできるだけ薄くなるように形成されている。
図12は、フロントプレート8をX軸負方向側から見た斜視図である。X軸負方向側の面には、環状のシールリング溝89が形成されている。シールリング溝89は、フロントプレート8の外周縁から若干の径方向距離rを介して外周部80の内周側に沿うと共に、ボルト孔83〜85を迂回して、ボルト孔83〜85の内周側(回転軸Oの側)を通るように設けられており、全体として、周方向の3箇所で内側に向かって凹んだ三つ葉のクローバーの様な形状となっている。
隔壁部71のX軸正方向側の面の略中央には、正六角柱状のボルト頭部710が一体に設けられている。ボルト頭部710を用いてキャップ7がフロントプレート8にねじ込まれ、フロントプレート8の雌ねじ820にキャップ7の雄ねじ700が螺着することで、フロントプレート8の大径孔81が封止される。この状態で、フランジ部72のX軸負方向側の面は、雌ねじ部82のX軸正方向側の端面と対向する。また、雄ねじ部70のX軸負方向側の端面は、フロントプレート8のX軸負方向側の面よりも僅かにX軸正方向側に位置する。
キャップ7のX軸負方向側には、隔壁部71のX軸負方向側の面を底面とし、雄ねじ部70のX軸負方向側の内周を周壁として、凹部73が形成されている。凹部73の深さ(X軸方向寸法)は、カムボルト33〜35の頭部331〜351の高さ(X軸方向寸法)の約半分強である。
リアプレート9は、アルミ系金属材料(ベーンロータ4の材料)よりも高硬度の材料であるS45CやS48等の鉄系金属材料を鍛造することによって成形されており、円盤状のプレート本体90と円筒部91とを有している。
円筒部91は、プレート本体90のX軸負方向側に設けられた円筒状の延在部であり、プレート本体90の略中央からX軸負方向に突出して、回転軸Oと略同軸に形成されている。円筒部91の内周には、カムシャフト3aが挿通される孔である挿通孔92が、回転軸Oと略同軸に、リアプレート9をX軸方向(回転軸方向)に貫通して形成されている。挿通孔92の直径は、フロントプレート8の大径孔81よりも僅かに小さい。
プレート本体90のX軸方向幅は、最大でも、嵌合凹部101の深さ(X軸方向長さL2)よりも僅かに大きな寸法に設けられている。プレート本体90の外周面93のX軸方向幅は、嵌合凹部101の深さ(L2)と略同じ寸法に設けられている。プレート本体90の直径は、嵌合凹部101の直径(R×2)と略同じ大きさに設けられている。
プレート本体90には、円筒部91を囲んで周方向で略等間隔に、3つの雌ねじ部901,902,903が設けられている。雌ねじ部901〜903は、プレート本体90をX軸方向に貫通して形成されたボルト孔をそれぞれ有しており、ボルト孔の内周には雌ねじが形成されている。この雌ねじに、ボルトb1〜b3のX軸負方向側先端部の雄ねじがそれぞれ螺合される。雌ねじ部901〜903(ボルト孔)は、ハウジング本体10の各シュー11〜13のボルト孔110〜130(及びフロントプレート8のボルト孔83〜85)とX軸方向で対向するそれぞれの箇所に設けられている。
図2に示すように、X軸正方向側から見て、プレート本体90には、(第1シュー11のボルト孔110と対向する)雌ねじ部901に時計回り方向で隣接して、有底の凹部900がX軸負方向の所定深さまで設けられている。
プレート本体90の外周を取り囲む外周面93には、シールリング溝906が周方向に形成されている。また、プレート本体90のX軸正方向側の面には、各雌ねじ部901〜903を取り囲むように、環状のシールリング溝907,908,909がそれぞれ形成されている。
プレート本体90のX軸正方向側の面の外周側であって凹部900と反時計回り方向で隣り合った位置には、有底のピン孔904が設けられている。ピン孔904は、凹部900と雌ねじ部901との間であって、プレート径方向においてハウジング本体100の位置決め用凹部114(図6(c)参照)に対応する位置に形成されている。ピン孔904の内部には、位置決めピン905が圧入固定されている。
位置決めピン905はダウエルピンであり、その一端部は、プレート本体90のX軸正方向側の面からX軸正方向に向かって所定の高さまで突出している。上記一端部は、位置決め用凹部114よりも若干小径に設けられており、位置決め用凹部114の内部にX軸負方向側から嵌合する。位置決めピン905の上記一端部の径と位置決め用凹部114の径は、位置決めピン905が位置決め用凹部114に嵌合された状態で、ハウジング本体10とリアプレート9の周方向のガタが発生しない寸法にそれぞれ設定されている。
ピン孔904は、位置決めピン905が位置決め用凹部114に嵌合されたとき、第1シュー11のボルト孔110とリアプレート9の雌ねじ部901とが略同軸上に位置し、かつ、後述する第1ベーン41(平面部415)が第1シュー11(平面部111)に当接した状態(図4参照)で、第1ベーン41の後述する摺動用孔501とリアプレート9の凹部900とが略同軸上に位置するように、リアプレート9に配置されている。ピン孔904は、シールリング溝906,907よりも油室(第1遅角室R1)側に配置されており、位置決めピン905と凹部900は近接している。
その際、ハウジング本体10とリアプレート9及びフロントプレート8との間に、それぞれシールリングS1〜S3が介在して設置される。また、キャップ7とフロントプレート8との間に、シールリングS4が介在して設置される。
シールリングS1〜S4は、環状の固定用シール部材である。具体的には、断面円形のOリングであり、作動油に対する耐久性に優れたアクリル系ないしフッ素系のゴムにより作られている。なお、ゴムの材料としてニトリル系等を用いてもよい。また、シールリングS1〜S4は固定用シールであればよく、Oリングとは異なる断面形状を有していてもよい。
シールリングS1,S2は、リアプレート9とハウジング本体10とが対向する部位に設置される。シールリングS1は、ハウジング本体10の嵌合凹部101の内周(壁面103)と、リアプレート9(プレート本体90)の外周(外周面93)との間に配設される。
シールリングS2は、リアプレート9のX軸正方向側端面における各雌ねじ部901〜903の周囲と、ハウジング本体10(各シュー11〜13)のX軸負方向側端面(嵌合凹部101の底面102)との間に配設される。
シールリングS3は、フロントプレート8とハウジング本体10とが対向する部位、すなわちフロントプレート8のX軸負方向側端面と、ハウジング本体10(各シュー11〜13)のX軸正方向側端面105との間に配設される。シールリングS3の形状は、フロントプレート8のシールリング溝89と略同じ三つ葉のクローバー様である。
シールリングS4は、フロントプレート8の雌ねじ部82のX軸正方向側端面と、キャップ7のフランジ部72のX軸正方向側端面との間に設けられる。
ベーンロータ4は、押出し工程と、切断工程と、切削工程と、被膜処理工程とにより形成され、この工程順により製造される。
まず、押出し工程において、ハウジング本体10と同様のアルミ系金属材料を金型から押し出し、図10に示すようなアルミ押出し形材、すなわちロータ40と各ベーン41〜43の外周形状を有する連続体へと押出し成形する。この押出し方向に延びるベーンロータ4の母材を「一次加工品Q1」という。
次に、切断工程において、図11に示すように、一次加工品Q1を所定長さ(一定の軸方向間隔)で径方向に切断することで、ベーンとロータを有する同形状の複数の部材とする。これらの部材を「二次加工品Q2」という。
そして、切削工程において、二次加工品Q2に対して切削加工を施し、ボス部401やカムシャフト挿通穴402や摺動用孔501等を形成することで、図9に示す最終的な形状に成形する。これを「三次加工品Q3」という。
その後、被膜処理工程において、三次加工品Q3の表面全体に陽極酸化処理を施し、陽極酸化被膜を形成することで、完成品とする。
よって、最終的な各ベーンロータ4(完成品)においては、ベーンロータ4の軸方向両端面だけでなく、ボス部401やカムシャフト挿通穴402や摺動用孔501等の表面にも、陽極酸化被膜層が形成されている。
ベーンロータ4は、ハウジングHSG(プーリ100)に対して回転自在な従動回転体(従動部材)であり、カムシャフト3aと一体になって図4の時計回り方向に回転するベーン部材である。ベーンロータ4は、作動油圧を受ける3枚の羽根である第1〜第3ベーン41,42,43と、ベーン41〜43の内周(回転中心側)に設けられ、3本のカムボルト33〜35によってカムシャフト3aに略同軸に固定される回転軸部であるロータ40とを有している。
ロータ本体400は、ロータ40の本体を構成する円柱状の部分であり、そのX軸方向長さは、嵌合凹部101を除いたハウジング本体10のX軸方向長さL1と略等しい。ロータ本体400の外径(外周面の直径)は、フロントプレート8の大径孔81よりも若干大きい。
ボス部401は、ロータ本体400から回転軸方向に延出され、X軸負方向側に突出して円筒状に形成された部分であり、そのX軸方向長さL3は、嵌合凹部101のX軸方向長さL2よりも若干短い。ボス部401の外径はロータ本体400の外径よりも若干小さく、リアプレート9の挿通孔92の直径より僅かに小さい。ボス部401の表面(外周面及び内周面)には、上記のように陽極酸化被膜が形成されている。
ボス部401及びロータ本体400の内周側には、有底のカムシャフト挿通穴402が、ロータ40と略同軸に、X軸負方向側からX軸正方向に向かって、ロータ本体400の2/3弱の深さまで穿設されている。カムシャフト挿通穴402の直径はカムシャフト3aの直径よりも僅かに大きい。カムシャフト挿通穴402には、カムシャフト端部30のX軸正方向側の挿通部301が挿通・設置される。
ロータ本体400(カムシャフト挿通穴402の底部)には、ボルト穴403〜405がX軸方向に貫通形成されている。ボルト穴403,404,405は、ロータ40の周方向にそれぞれが離間して形成され、回転軸Oの周りに略等間隔に設けられており、X軸正方向側から見て時計回り方向で、この順番に配置されている。ボルト穴404〜406は、端部30のボルト穴32とX軸方向でそれぞれ対向する(軸心が略一致する)位置に配置されており、回転軸Oからボルト穴403〜405までの距離、及びボルト穴403〜405同士が回転軸Oに対してなす角度は、回転軸Oから各ボルト穴32までの距離、及びボルト穴32同士が回転軸Oに対してなす角度とそれぞれ略等しい。
カムシャフト挿通穴402の底部には、有底筒状のピン穴(位置決め用の凹部44)が所定深さまで形成されている。X軸方向から見て、凹部44は、長円状であり、ロータ径方向に延びてロータ周方向で互いに対向する2つの直線部と、半円状に形成されてロータ径方向で互いに対向する2つの曲線部とを有している。凹部44は、ボルト穴404とボルト穴405の間に設けられている。具体的には、回転軸Oから凹部44の中心軸までの距離は、回転軸Oから各ボルト穴403〜405の中心軸までの距離と略同じであり、凹部44は、各ボルト穴403〜405の中心軸を通る円上であって、ボルト穴404,405の略中間位置にその中心軸を有している。
一方、カムシャフト3aの端面300には第1油通路212が開口しており、これによりピン孔(凹部)が構成されている。図13は、第1油通路212の開口部分の軸心を通る部分断面図である。図13に示すように、第1油通路212の開口部分には、位置決めピン45が圧入固定されている。位置決めピン45はダウエルピンであり、その一端部は、端面300からX軸正方向に向かって所定の高さまで突出し、凸部を構成している。なお、ダウエルピンに限らず他のピンを適宜採用可能である。
位置決めピン45(上記一端部)は、凹部44のロータ周方向寸法(上記直線部間の距離)よりも若干小径に設けられおり、凹部44にX軸負方向側から係入(挿通・嵌合)する。位置決めピン45(上記一端部)の径と凹部44のロータ周方向寸法は、位置決めピン45が凹部44に嵌合された状態で、ベーンロータ4とカムシャフト3aの周方向のガタが発生しない寸法にそれぞれ設定されている。凹部44は、位置決めピン45が凹部44に嵌合されたとき、ロータ40のボルト穴403〜405とカムシャフト3aの各ボルト穴32の開口がそれぞれ対向して略同軸上に位置するように、ベーンロータ4に配置されている。
挿通部301がカムシャフト挿通穴402に嵌合し、位置決めピン45が凹部44に嵌合されてベーンロータ4とカムシャフト3aが周方向に相対位置決めされた状態で、ボルト穴403,404,405には、X軸正方向側からカムボルト33,34,35がそれぞれ挿通される。カムボルト33〜35の頭部331〜351はロータ40のX軸正方向側に位置する一方、ロータ40のX軸負方向側に突出したカムボルト33〜35の軸部はボルト穴32に挿通され、その雄ねじがボルト穴32の雌ねじにそれぞれ螺着する。これにより、ロータ40がカムシャフト3aの端面300に締結され、端部30がベーンロータ4と一体に締付固定される。言い換えると、ボルト穴403〜405は、ロータ40をカムシャフト3aの端面300に固定するための複数の固定部を構成している。
各ベーン41〜43はロータ40(ロータ本体400)と一体に成形されており、各ベーン41〜43のX軸に対して直角方向の断面は、外径方向に向かうにつれて周方向幅が広くなる略台形状に形成されている。
各ベーン41〜43のX軸方向長さはロータ本体400のX軸方向長さL1と略同じである。ベーンロータ4がハウジングHSG内に設置された状態で、各ベーン41〜43の(陽極酸化被膜が形成された)X軸正方向側の面は、フロントプレート8のX軸負方向側の面に対して極僅かな隙間を介して対向している。また、各ベーン41〜43の(陽極酸化被膜が形成された)X軸負方向側の面は、リアプレート9のX軸正方向側の面に対して極僅かな隙間を介して対向している。
ロータ周方向における第2、第3ベーン42、43の幅は、略同じである。第1ベーン41の周方向幅は第2、第3ベーン42、43よりも広く、各ベーン41〜43のなかでも最大幅となっており、後述するロック機構5を収容可能としている。
各ベーン41〜43の重心は、ロータ周方向で略等間隔位置に設けられている。ただし、第1ベーン41は幅広でありロック機構5が設けられている分だけ他のベーン42、43よりも若干重い。このため、第1ベーン41と第2ベーン42の間の隙間、及び第3ベーン43と第1ベーン41の間の隙間は、第2ベーン42と第3ベーン43の間の隙間よりも若干広く設けられており、これによりベーンロータ4の重心を全体として回転軸O上に近づけている。
ベーンロータ4がハウジングHSG内に設置された状態で、第1ベーン41は第1シュー11と第2シュー12の間、第2ベーン42は第2シュー12と第3シュー13の間、第3ベーン43は第3シュー13と第1シュー11の間の隙間に、それぞれ配置される。
各ベーン41〜43の外径側(回転軸Oから離れる側)の外周面411,421,431は、X軸方向から見て、ハウジング本体10の内周面に沿った略円弧状に形成されている。第1ベーン41の外周面411には、溝412がX軸方向に沿って形成されている。溝412の内部には、ハウジング本体10の上記内周面に液密に摺接するシール部材413と、シール部材413を上記内周面に向けて押圧するシールスプリング(板バネ414)とが嵌着保持されている。同様に、第2、第3ベーン42、43の外周面421,431にも、それぞれ溝422,432、シール部材423,433及び板ばね424,434が設けられている。
X軸正方向側から見て、第1ベーン41の反時計回り方向側には、平面部415が形成されている。平面部415は、X軸方向から見て、ロータの回転軸Oを通る径方向直線と略一致した直線状である。また、平面部415よりも内径側の根元部分には、切り欠き部416が設けられている。切り欠き部416の形状は、X軸方向から見て、内側に凸の(窪んだ)略円弧状である。第2、第3ベーン42、43においても、同様に、平面部425,435と切り欠き部426,436がそれぞれ設けられている。
X軸正方向側から見て、第1ベーン41の反時計回り方向側には、平面部415よりも外径側の先端部分に、切り欠き部417が設けられている。切り欠き部417の形状は、X軸方向から見て、外側に凸の、第1シュー11の肉盛り部112よりも若干小さい曲率を有する略円弧状である。切り欠き部417は、第1ベーン41の先端部分と肉盛り部112との干渉を抑制して第1ベーン41の平面部415が第1シュー11の平面部111と面同士で接触することを可能にすると共に(図4参照)、第1ベーン41の重量を少なくすることに役立っている。
一方、X軸正方向側から見て、第1〜第3ベーン41〜43の時計回り方向側には、X軸方向全範囲にわたって延びる幅広の溝である凹部418,428,438がそれぞれ形成されている。
また、X軸正方向側から見て、第1ベーン41の時計回り方向側には、内径側の根元部分から所定の周方向範囲にわたり、ロータ40(ロータ本体400)の外周に沿って時計回り方向に延びる凸部419が設けられている。凸部419は、ロータ40(ロータ本体400の外周面から外径方向に突出している。同様に、第2ベーン42の根元部分の時計回り方向側には、凸部429が一体形成されている。
具体的には、フロントプレート8のX軸負方向側の面と、リアプレート9のX軸正方向側の面と、各ベーン41〜43の周方向での両側面と、各シュー11〜13の周方向での両側面との間で、3組の油圧作動室、すなわち3つの進角室A1,A2,A3と3つの遅角室R1,R2,R3が隔成されている。図4に示すように、第1シュー11の時計回り方向側の面と第1ベーン41の反時計回り方向側の面との間に第1進角室A1が隔成されている。また、第1ベーン41の時計回り方向側の面と第2シュー12の反時計回り方向側の面との間に第1遅角室R1が隔成されている。同様に、第2シュー12と第2ベーン42との間に第2進角室A2、第2ベーン42と第3シュー13との間に第2遅角室R2、第3シュー13と第3ベーン43との間に第3進角室A3、第3ベーン43と第1シュー11との間に第3遅角室R3が、それぞれ隔成されている。
なお、作動油室として、進角室と遅角室のどちらか一方のみを有する構成としてもよい。
また、進角室と遅角室の数は、それぞれ3に限定されない。言い換えると、シューやベーンの数は、それぞれ3に限らず他の数であってもよい。
また、作動油室を形成するために、ハウジング本体に内周に内側に向かって突出するシューを、必ずしも設けなくてもよい。例えば(シューが設けられていない)ハウジング本体の内周面とベーンとの間で作動油室を隔成してもよい。さらに、ベーンの回転中心側に円柱状のロータを必ずしも設けなくてもよい。すなわちベーン部材において円柱部分(ロータ)を省略し、ベーンのみでベーン部材を構成してもよい。
X軸正方向側から見て、ベーンロータ4がハウジングHSGに対して反時計回り方向に所定角度以上相対回転しようとすると、図4に示すように、第1シュー11の周方向側面(平面部111)と第1ベーン41の周方向側面(平面部415)が面同士で接触し、当接する。このとき、第2シュー12と第2ベーン42の平面部121,425は若干の隙間を介して対向し、第3シュー13と第3ベーン43の平面部131,435も若干の隙間を介して対向しており、互いに接触しない(非当接状態を維持する)。すなわち、ベーンロータ4のハウジングHSGに対する反時計回り方向の回転は、第1シュー11の平面部111と第1ベーン41の平面部415とが当接することで規制される。このように、平面部111,415により、ベーンロータ4の反時計回り方向(遅角方向)の相対回転を規制する第1ストッパ部が構成されている。
図4の相対回転規制位置において、第1ベーン41の根元に設けられた凸部419の時計回り方向側の端面と、第2シュー12の先端部126における反時計回り方向側の端面とが回転軸Oに対してなす角αは、第2ベーン42の根元に設けられた凸部429の時計回り方向側の端面と、第3シュー13の先端部136の反時計回り方向側の端面とが回転軸Oに対してなす角βよりも、僅かに小さい。
よって、図4の位置からベーンロータ4がハウジングHSGに対して時計回り方向に角αだけ相対回転すると、図5に示すように、第2シュー12の先端部126と第1ベーン41の凸部419とが、面同士で接触し、当接する。このとき、第3シュー13の先端部136と第2ベーン42の凸部429とは周方向で僅かな隙間を介して対向しており、第3シュー13と第2ベーン42(凸部429)は互いに接触しない。また、第1シュー11と第3ベーン43も所定の隙間を介して対向しており、互いに接触しない。
すなわち、ベーンロータ4のハウジングHSGに対する時計回り方向の回転は、第2シュー12の先端部126と凸部419とが当接することで規制される。このように、ロータ40から外周側に突出させた部分である凸部419の時計回り方向側面と第2シュー12(先端部126)の反時計回り方向側面とにより、ベーンロータ4の時計回り方向(進角方向)の相対回転を規制する第2ストッパ部が構成されている。
この第2シュー12の先端部126と凸部419との当接面積(第2ストッパ部の当接面積S2)は、上記反時計回り方向における平面部111,415の当接面積(第1ストッパ部の当接面積S1)よりも小さく設けられている(S1>S2)。
なお、ベーンロータ4がハウジングHSGに対して相対回転する全角度範囲にわたって、遅角室Rないし進角室Aの容積がゼロになることは回避されており、また、後述する遅角油路408ないし進角油路409の遅角室Rないし進角室Aへの開口は確保されている。例えば、図4において、第1シュー11の切り欠き部113と第1ベーン41の切り欠き部416との間で形成される空間により第1進角室A1の容積及び進角油路409の開口が確保されている。同様に、第2、第3シュー12、13の平面部121,131と第2、第3ベーン42,43の切り欠き部426,436及び平面部425,435との間で形成される空間(上記隙間)により第2、第3進角室A2,A3の容積及び進角油路409,409の開口が確保されている。
油圧回路は、2系統の通路、すなわち各遅角室R1〜R3に対して作動油を給排する遅角通路20、及び各進角室A1〜A3に対して作動油を給排する進角通路21を有している。両通路20,21には、供給通路22とドレン通路23が、流路切換弁24を介して接続されている。供給通路22には、オイルパン25内の油を流路切換弁24へ圧送するポンプPが設けられている。ポンプPは、機関のクランクシャフト上に設置されており、例えば一方向の可変容量ベーンポンプを用いることができる。ドレン通路23の下流端はオイルパン25に連通している。
カムシャフト3aとベーンロータ4(ロータ40)には、遅角通路20及び進角通路21の一部が形成されている。
ロータ本体400には、遅角油路408と進角油路409が設けられている。遅角油路408と進角油路409は、カムシャフト挿通穴402の内周面とロータ40の外周面とを連通するように、ロータ本体400の内部を径方向に貫通してそれぞれ3本形成されており、ベーンロータ4がカムシャフト3aに固定設置された状態で、カムシャフト3a内の第1、第2油通路201〜203,211〜213と作動油室A,Rとを連通する連通穴である。
周方向についてみると、X軸正方向側から見て、遅角油路408は各ベーン41〜43の反時計回り方向側の根元部分に、進角油路409は各ベーン41〜43の時計回り方向側の根元部分に、それぞれ設けられている(図4、図9参照)。
X軸方向についてみると、遅角油路408はカムシャフト挿通穴402のX軸正方向側(ロータ本体400の軸方向略中間位置)に、進角油路409はカムシャフト挿通穴402のX軸負方向側(ロータ本体400のX軸負方向端)に、それぞれ設けられている(図3、図9参照)。端部30がカムシャフト挿通穴402に挿入され固定された状態で、各遅角通路408は溝204とX軸方向位置が略一致し、各進角通路409は溝214とX軸方向位置が略一致する。この状態で、各遅角通路408は、ロータ40の内径側では溝204に連通し、外径側ではそれぞれ遅角室R1〜R3に連通する。各進角通路409は、ロータ40の内径側では溝214に連通し、外径側ではそれぞれ進角室A1〜A3に連通する。
流路切換弁24からの遅角通路20は、回転体であるカムシャフト3a(端部30)の油路に接続する際、まずX軸負方向側の溝200と連通する。溝200は第2油通路201を介して第1油通路202に接続し、第1油通路202は第2油通路203を介して溝204と接続し、溝204は各遅角通路408を介して各遅角室R1〜R3に連通する。なお、カムボルト33〜35の締結により、第1油通路202のカムシャフト端面300における開口部は、カムシャフト挿通穴402の底面により塞がれる。
同様に、流路切換弁24からの進角通路21は、端部30において溝210、第2油通路211、第1油通路212、第2油通路213、及び溝214と接続し、ロータ40の各進角通路409を介して各進角室A1〜A3に連通する。第1油通路212のカムシャフト端面300における開口部は、位置決めピン45により塞がれる。
このように、周方向に溝204,214を設けることにより、ベーンロータ4における遅角通路408と進角通路409のロータ周方向でのレイアウト自由度を向上している。なお、カムシャフト側ではなくベーンロータ側(カムシャフト挿通穴402の内周面)に周方向溝を設けることとしてもよい。カムシャフト側に設ければ加工が容易である。
流路切換弁24は直動式のソレノイド弁(4ポート3位置の方向制御弁)であり、進角室A1〜A3又は遅角室R1〜R3へ給排される作動油圧を制御する。流路切換弁24は、シリンダヘッドに固定されたバルブボディと、バルブボディに固定されたソレノイドSOLと、バルブボディの内部に摺動自在に設けられたスプール弁体とを有している。バルブボディには、供給通路22と連通する供給ポート240、遅角通路20と連通する第1ポート241、進角通路21と連通する第2ポート242、及びドレン通路23と連通するドレンポート243が形成されている。
ソレノイドSOLは、電磁コイルへの通電によってスプール弁体を押圧移動させる。電磁コイルは、ハーネスを介してコントローラCUに接続されている。スプール弁体が移動するのに応じて、第1ポート241や第2ポート242が開閉される。
ソレノイドSOLの非通電状態で、スプール弁体は、リターンスプリングRSのばね力によって、供給ポート240(供給通路22)と第2ポート242(進角通路21)とを連通し、かつ第1ポート241(遅角通路20)とドレンポート243(ドレン通路23)とを連通する位置に付勢されている。一方、ソレノイドSOLが通電された状態で、スプール弁体は、コントローラCUからの制御電流によって、リターンスプリングRSのばね力に抗して、供給ポート240(供給通路22)と第1ポート241(遅角通路20)とを連通し、かつ第2ポート242(進角通路21)とドレンポート243(ドレン通路23)とを連通する位置、または所定の中間位置に移動制御されるようになっている。
コントローラCUは電子制御ユニットであり、機関回転数を検出するクランク角センサや吸入空気量を検出するエアフローメータ、スロットルバルブ開度センサ、機関の水温を検出する水温センサ等の各種センサ類からの信号によって、現在の機関運転状態を検出する。また、コントローラCUは、検出された機関運転状態に応じて流路切換弁24のソレノイドSOLにパルス制御電流を通電し、又は通電を遮断して、流路の切り替え制御を行うことで、進角室A1〜A3又は遅角室R1〜R3へ作動油を選択的に給排する。
第1ベーン41とリアプレート9との間には、リアプレート9(ハウジングHSG)に対してベーンロータ4の回転を拘束し、該拘束を解除可能なロック機構5が設けられている。ロック機構5は、摺動用孔501と、ロックピストン51と、スリーブ52と、コイルスプリング53とから構成されている。図14は、図4のB-B視の部分断面であり、機関停止時(機関始動時)のロックピストン51の作動状態を示す。
摺動用孔501のX軸負方向側の内周には、ベーンロータ4とは別の部材でありリング状に形成された封止部材502が固定されている。封止部材502は、摺動用孔501の軸方向長よりも短く(半分弱に)構成された中空の円筒状部材(リング状部材)であり、摺動用孔501のX軸負方向側の端からその内部に圧入され、固定されている。なお、圧入に限らず他の方法で固定設置してもよい。封止部材502は、陽極酸化被膜よりも耐磨耗性の高い材料で作られている。具体的には、S45C等の鉄合金(炭素鋼)をリング状に形成し、浸炭焼入れ処理することで作られる。
ロックピストン51は、小径部と大径部からなる。
小径部は、摺動用孔501の内部に設置されると共に、摺動用孔501の内外に出没可能に設けられた、ロックピストン51の先端部である。小径部は、有底円筒状の摺動部512と、摺動部512の底部510のX軸負方向側に、底部510との間で段差を介して略円錐台形状に形成された係合部511とを有している。係合部511は、軸方向断面が略台形であって、傾斜面を有している。具体的には、X軸負方向側の先端に向かって小径となるテーパ面が設けられている。
大径部は、摺動用孔501の内部に設置された、ロックピストン51の基端部である。大径部は、摺動部512のX軸正方向側の端に形成された円環状のフランジ部513を有している。
大径部(フランジ部513)の径は、小径部(摺動部512及び係合部511)の径よりも大きく設けられている。摺動部512の外周面の径は、封止部材502の内周面の径よりも僅かに小さく設けられている。摺動部512のX軸負方向側の部分は、封止部材502内に収容され、その外周が封止部材502の内周に対して摺動自在に設置されている。また、フランジ部513の外周面の径は、摺動用孔501の内周面の径よりも若干小さく設けられている。フランジ部513は摺動用孔501に収容され、その外周が摺動用孔501の内周に対して摺動自在に設置されている。
摺動部512の外周と封止部材502の内周との間のクリアランス(径方向隙間)は、フランジ部513の外周と封止部材502の内周との間よりも小さく設けられている。
このように、ロックピストン51は、封止部材502の内周に一部分(摺動部512)が、摺動用孔501の内周に他の一部分(フランジ部513)が、それぞれ摺動自在に設置されており、機関の状態に応じて、その先端(係合部511)がベーンロータ4に対して回転軸方向(X軸方向)に出没する。
凹部900には、リアプレート9とは別部材で構成された中空円筒状のスリーブ52(ロック凹部構成部材)が、圧入により嵌合されている。なお、圧入に限らず他の方法で固定設置してもよい。スリーブ52は、鉄系金属材料で成形されている。スリーブ52の内周面により、係合凹部521が形成されている。係合凹部521は、ロックピストン51の小径部(係合部511)が挿入可能なロック凹部である。
係合凹部521(スリーブ52)の軸方向長さは、係合部511の軸方向長さと略同じに設けられ、係合凹部521の径は、係合部511の径よりも若干大きめに設けられている。係合凹部521は、スリーブ52の軸を通る平面で切った断面が略台形であり、X軸正方向側の開口部に向かって徐々に大径となる。言い換えると、係合凹部521は傾斜面を有しており、X軸負方向側の底部に向かって小径となるテーパ面が設けられている。X軸に対する係合凹部521の内周面(傾斜面)の傾きは、X軸に対する係合部511の外周面(傾斜面)の傾きに略等しい。
係合凹部521は、凹部900と同様、ハウジングHSGの内部において、リアプレート9のX軸正方向側(カムシャフト3a側)の面に設けられている。ベーンロータ4が最遅角側に相対回転して第1ストッパ部により回転が規制されたとき、すなわち進角室A1の容積が最小となったとき、凹部900の上記位置により、X軸方向から見て、ロックピストン51(係合部511)の位置と係合凹部521の位置が重なる。言い換えると、係合凹部521に係合部511が係合するとき、ハウジングHSGとベーンロータ4の相対回転角度(位置)が、機関始動時に最適な角度(最遅角位置)となるように設けられている。
また、このとき、図14に示すように、ロータ周方向における係合凹部521の軸心の位置が、係合部511の軸心に対して、図4の反時計回り方向(第1シュー11の側)に僅かにオフセットするように設けられている。
背圧室50のX軸正方向側には、スプリングリテーナ54が設置されている。スプリングリテーナ54は、コイルスプリング53の保持部材であり、円環状であって、摺動用孔501の内周と略同じ外径を有している。スプリングリテーナ54のX軸正方向側の面はフロントプレート8のX軸負方向側の面と対向し、スプリングリテーナ54のX軸負方向側の面はロックピストン51(フランジ部513)のX軸正方向側の面と対向している。
スプリングリテーナ54の内周にはコイルスプリング53のX軸正方向側が嵌合されており、これにより摺動用孔501における(ロックピストン51の径方向での)コイルスプリング53の位置ズレが規制されている。
第1ベーン41には、第1、第2受圧室55,59に作動油室の油圧を導くための通路が設けられている。第1ベーン41の内部には、連通孔56が周方向に穿設されており、連通孔56を介して、遅角室R1と第1受圧室55とが接続されて常時連通し、遅角室R1の油圧が第1受圧室55に導かれる。第1ベーン41のX軸負方向側の面には、連通溝57が周方向に形成されており、連通溝57を介して、進角室A1と摺動用孔501のX軸負方向端とが接続されて常時連通し、進角室A1の油圧が第2受圧室59(ロック状態では係合凹部521)に導かれる。
すなわち、ベーンロータ4が最遅角側に相対回転して第1ストッパ部により回転が規制されると、X軸方向から見て、ロックピストン51の位置と係合凹部521の位置が重なり、ロックピストン51がX軸負方向へ移動可能となる。このとき、コイルスプリング53のばね力は、係合部511が第1ベーン41(摺動用孔501)から進出して係合凹部521に嵌まり込むことをアシストするように作用する。ロックピストン51が係合凹部521と係合すると、リアプレート9とベーンロータ4との相対回転、すなわちハウジングHSGとカムシャフト3aとの相対回転が規制(ロック)される。
一方、ロックピストン51は、連通孔56を介して遅角室R1から第1受圧室55内に供給される作動油圧により、フランジ部513においてX軸正方向側に油圧力を受ける。また、ロックピストン51は、連通溝57を介して進角室A1から第2受圧室59内に供給される作動油圧により、係合部511においてX軸正方向側に油圧力を受ける。上記油圧力はいずれも、ロックピストン51がコイルスプリング53のばね力に抗してX軸正方向側に移動し、係合部511が係合凹部521から退出してリアプレート9の摺動用孔501の内部に嵌まり込むことをアシストするように作用する。これにより、ロックピストン51と係合凹部521との係合が解除されるようになっている。
このように、コイルスプリング53はロック状態維持機構として機能する一方、連通孔56と連通溝57は解除用油圧回路として機能する。
第1背圧通路31は、カムシャフト3aの内部にX軸方向に穿設された呼吸穴であり、X軸正方向端面300から所定のX軸方向深さまで形成されており、端面300に開口すると共に、端面300と機関内部の油潤滑空間とを連通する。第1背圧通路31は、カムシャフト3aの回転中心部、すなわち回転軸O上に形成されており、第1油通路202,212と略同径である。
なお、第1背圧通路31は、機関内部の油潤滑空間に限らず、例えば油圧給排機構2の低圧部に連通してもよい。すなわち、「機関内の空間」には、油圧給排機構2における油圧回路等も含まれる。例えば、背圧室50を流路切換弁24と連通させ、ドレン通路23からオイルパン25に背圧室50内の油を逃がしてもよい。また、例えば進角室Aのみに作動油を供給し、遅角室Rには作動油を供給しないように構成した場合、遅角室Rと連通する通路に背圧室50内の油を逃がしてもよい。
背圧穴407は、ロータ40の回転中心部(回転軸O上)をX軸方向に貫通して形成された呼吸穴であり、第1背圧通路31よりも若干小径に設けられている(図4参照)。背圧穴407は、X軸方向で第1背圧通路31と対向(軸心が略一致)している。ロータ40のX軸負方向側の面(カムシャフト挿通穴402の底面)における背圧穴407の開口部は、端面300における第1背圧通路31の開口部と対向した位置に配置されている。
第2背圧通路は、図9(a)に示すように、ベーンロータ4のX軸正方向側の端面に形成された呼吸用の溝であり、円形溝406と径方向溝58を有している。
円形溝406は、ロータ本体400に設けられた浅い有底円筒状の溝であり、ロータ本体400のX軸正方向側からX軸負方向に向かって約13%の深さまで、ロータ40と略同軸に穿設されている。円形溝406の底面には、ボルト穴403〜405及び背圧穴407が配置され、開口している。円形溝406の深さ(X軸方向寸法)は、カムボルト頭部331〜351高さ(X軸方向寸法)の約半分強である。円形溝406の径は、ロータ本体400の外径よりも若干小さく、フロントプレート8の大径孔81よりも若干小さく、キャップ7の凹部73と略同じである。円形溝406は、X軸方向で凹部73と対向する位置に設けられている。
径方向溝58は、円形溝406と背圧室50とを連通する矩形状の溝であり、円形溝406から第1ベーン41の根元部分を外径方向に延びて摺動用孔501のX軸正方向端と接続するように形成されている。径方向溝58のX軸方向深さは、円形溝406と略同じである。
背圧室50は、上記第2背圧通路を介して背圧穴407及び第1背圧通路31と接続され、これにより機関の内部と連通している。言い換えると、背圧室50は、径方向溝58を介して円形溝406及び背圧穴407と連通し、さらに第1背圧通路31を介して機関内部の低圧空間に連通している(図3参照)。
次に、機関の排気側に適用された装置1bの構成を図15〜図19に基づき説明する。吸気側の装置1aと重複する構成については同一の符号を付して説明を省略し、装置1aと異なる部分についてのみ説明する。図15は図3と同様、装置1bの回転軸Oを通る部分断面であり、図16のG−G視断面(一点鎖線)を示す。図16及び図17は、図4及び図5と同様、フロントプレート8等を取り外した状態の装置1bをX軸正方向側から見た正面図である。
装置1bは、油圧給排機構2から供給される作動油圧を用いてクランクシャフトに対する排気カムシャフト3b(以下、カムシャフト3bという。)の回転位相を連続的に変化させることで、排気弁のバルブタイミングを可変制御する。プーリ100は、機関のクランクシャフトにより回転駆動され、ハウジング本体10と共に図16の時計回り方向(図1の矢印方向に相当する。)に回転する。
図15に示すように、装置1bのフロントプレート8の直径は、プーリ100の直径(歯底円直径)以下に設けられている。すなわち、装置1bでは、装置1aとは異なり、ベルトガイドとなる外周部80が、フロントプレート8に設けられていない。フロントプレート8の外周縁は、図12に示すような径方向距離rよりも短い距離を介して、シールリング溝89に近接している。よって、図1に示すように、X軸方向から見ると、装置1bのプーリ100の外周(歯)は、フロントプレート8よりも外径方向に突出している。言い換えると、フロントプレート8がプーリ100の外径側に突出してはみ出すように設けられた装置1aの直径よりも、装置1bの直径は、小さく設けられている。
装置1bでは、ハウジング本体10が、装置1aとは(X軸方向で)表裏が反対の鏡像配置となっている。図18の(a)は装置1bのハウジング本体10をX軸正方向側から見た正面図であり、(b)は(a)のE−E視断面を示し、(c)はハウジング本体10をX軸負方向側から見た正面図である。図7、図8は、ハウジング本体10の製造過程における中間状態を示す。
装置1bのハウジング本体10は、装置1aと同様、図7に示すアルミ押出し材(一次加工品P1)から形成される。一次加工品P1から二次加工品P2を経て図8に示す三次加工品P3を得る。そして、三次加工品P3に対して切削加工を施し、嵌合凹部101やボルト孔110等を設けることで、図18に示す最終的な形状を有するハウジング本体10とする。装置1aでは、三次加工品P3に対して、図8のAの側から嵌合凹部101及び位置決め用凹部114を穿設する(図6参照)のに対し、装置1bでは、図8のBの側から嵌合凹部101及び位置決め用凹部114を穿設する(図18参照)。
ベーンロータ4も、装置1aとは(X軸方向で)表裏が反対の鏡像配置となっている。図19の(a)は装置1bのベーンロータ4をX軸正方向側から見た正面図であり、(b)は(a)のF−F視断面を示す。図10、図11は、ベーンロータ4の製造過程における中間状態を示す。
装置1bのベーンロータ4は、装置1aと同様、図10に示すアルミ押出し材(一次加工品Q1)から形成される。一次加工品Q1から得た二次加工品Q2に対して切削加工を施し、ボス部401やカムシャフト挿通穴402等を設けることで、図19に示すような最終的な形状の三次加工品Q3とする。装置1aでは、二次加工品Q2に対して、図11のAの側にボス部401を設け、Aの側からカムシャフト挿通穴402を穿設する(図6参照)のに対し、装置1bでは、図11のBの側にボス部401を設け、Bの側からカムシャフト挿通穴402を穿設する(図18参照)。その後、三次加工品Q3の外周面全体に陽極酸化処理を施して完成品とする。
このように、装置1aと装置1bのハウジング本体10及びベーンロータ4は、切削加工を行う前に成形される同一の母材P3,Q2を、それぞれ鏡像配置して用いている。よって、図16及び図4に示すように、X軸正方向から見たとき、装置1bのハウジング本体10とベーンロータ4の形状及び相互の位置は、装置1aに対して鏡像関係(鏡に映したときに一致する関係)にある。
第1、第2、第3シュー11,12,13は、この順番で、図16の反時計回り方向に並んでいる。X軸正方向側から見て、第1〜第3シュー11〜13の時計回り方向側にはそれぞれ凹部115,125,135が形成されている。また、第1〜第3シュー11〜13の反時計回り方向側には、それぞれ平面部111,121,131が形成されている。
第1、第2、第3ベーン41,42,43は、この順番で、図16の反時計回り方向に並んで設けられている。X軸正方向側から見て、第1〜第3ベーン43の時計回り方向側には、それぞれ平面部415〜435が形成されている。第1〜第3ベーン41〜43の反時計回り方向側には、それぞれ凹部418〜438が形成されている。また、第1、第2ベーン41,42の反時計回り方向側の根元には、それぞれ凸部419,429が設けられている。
ベーンロータ4がハウジングHSG内に設置された状態で、第1ベーン41は第1シュー11と第2シュー12の間、第2ベーン42は第2シュー12と第3シュー13の間、第3ベーン43は第3シュー13と第1シュー11の間の隙間に、それぞれ配置されている。
ロータ本体400には、各ベーン41〜43のX軸方向における略中間位置であって(図19(b)参照)、かつX軸正方向から見て各ベーン41〜43の時計回り方向側の根元に(図16参照)、遅角油路408が設けられている。また、各ベーン41〜43のX軸負方向側であって(図19(b)参照)、かつX軸正方向から見て各ベーン41〜43の反時計回り方向側の根元に(図16参照)、進角油路409が設けられている。
第2シュー12の時計回り方向側の面と第1ベーン41の反時計回り方向側の面との間に第1進角室A1が隔成されている。また、第1ベーン41の時計回り方向側の面と第1シュー11の反時計回り方向側の面との間に第1遅角室R1が隔成されている。同様に、第1シュー11と第3ベーン43との間に第2進角室A2、第3ベーン43と第3シュー13との間に第2遅角室R2、第3シュー13と第2ベーン42との間に第3進角室A3、第2ベーン42と第2シュー12との間に第3遅角室R3が、それぞれ隔成されている。
ベーンロータ4のハウジングHSGに対する時計回り方向の回転は、第1シュー11の平面部111と第1ベーン41の平面部415とが、(装置1aと同様、ロックピストン51がロックされる位置で)当接することで規制される(図16)。すなわち、これら平面部111,415は、ベーンロータ4の時計回り方向(進角方向)の相対回転を規制する第1ストッパ部として機能する。
一方、ベーンロータ4のハウジングHSGに対する反時計回り方向の回転は、第2シュー12の先端部126と第1ベーン11の凸部419とが、(装置1aと同様、ロックピストン51がロックされる位置とは周方向において反対側の位置で)当接することで規制される(図17)。すなわち、凸部419の反時計回り方向側面と第2シュー12(の先端部126)の時計回り方向側面は、ベーンロータ4の反時計回り方向(遅角方向)の相対回転を規制する第2ストッパ部として機能する。装置1aと同様、第2ストッパ部の当接面積S2は、第1ストッパ部の当接面積S1よりも小さく設けられている(S1>S2)。
なお、付勢部材6を一部の進角室Aに設けることとしてもよい。また、付勢部材6を遅角室Rに設けることとしてもよい。クランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達する形式によっては、遅角側に付勢する必要も出てくるからである。
第1スプリングユニット61は第2シュー12と第1ベーン41との間(第1進角室A1)に、第2スプリングユニット62は第1シュー11と第3ベーン43との間(第2進角室A2)に、第3スプリングユニット63は第3シュー13と第2ベーン42との間(第3進角室A3)に、それぞれ収納されている。上記のように、第1〜第3ベーン41〜43の反時計回り方向側面と、それと対向する第1〜第3シュー11〜13の時計回り方向側面には、それぞれ凹部418〜438及び凹部115〜135が形成されており、これらの凹部418〜438,115〜135に、第1〜第3スプリングユニット61〜63が配置されている。
第1スプリングユニット61は、1本のコイルスプリング610と、その両端に設けられた支持部材(スプリングリテーナ)である保持部611,612とを有している。保持部611は、貫通孔が設けられた板状部と、この貫通孔を取り囲んで形成され板状部の一側面から突出する中空の円筒部とを有している。円筒部の外周にはコイルスプリング610の一端が嵌合されている。
保持部611の板状部は第2シュー12の凹部125にガタなく嵌合する矩形状に形成されており、凹部125に嵌合される。凹部125は、ハウジングHSG(第2シュー12)に対する保持部611のハウジング径方向移動を規制する。また、フロントプレート8及びリアプレート9は、板状部のX軸方向両端とそれぞれ当接することで、凹部125における保持部611のX軸方向移動を所定範囲内に規制する。
なお、第1進角室A1は、保持部611の上記貫通孔及び第1ベーン41の連通孔56を介して、ロック機構5の第1受圧室55(図14参照)と連通している。第1遅角室R1は第1ベーン41の連通溝57を介して、ロック機構5の第1受圧室59と連通している。
保持部612も保持部611と同様に設けられている。すなわち、保持部612の円筒部はコイルスプリング610の他端を保持するとともに、保持部612の板状部は第1ベーン41の凹部418に支持されており、ベーンロータ4(第1ベーン41)に対する保持部612(コイルスプリング610)の径方向及び軸方向における移動が規制されている。このように、コイルスプリング610の両端は、軸方向及び径方向の位置が規制されている。
組み付け時には、第1スプリングユニット61をX軸方向から第1進角室A1に挿入し、保持部631を凹部125に嵌合させるとともに、保持部612を凹部418に嵌合させる。これにより、第1進角室A1にはコイルスプリング610が押し縮められた状態で収納され、コイルスプリング610は、ハウジング本体10(第2シュー12)に対して第1ベーン41を時計回り方向に常時付勢する。
他の第2、第3スプリングユニット62,63についても同様である。第2スプリングユニット62はコイルスプリング620と保持部621,622を有し、第3スプリングユニット63はコイルスプリング630と保持部631,632を有している。コイルスプリング610〜630の付勢力は、略同一に設けられている。コイルスプリング610〜630の径は、それぞれ第1〜第3進角室A1〜A3のハウジング径方向における最大幅の約7割を占めている。
このようにコイルスプリングを用いることで、例えば板ばね等を用いた場合に比べ、付勢力を調整しやすく、また油室A1〜A3に設置しやすく組み付け性がよい。
また、各油室A1〜A3に1本ずつ収納することで、例えばコイルスプリングを2本ずつX軸方向に重ねて収納した場合に比べ、装置1bを軸方向に小型化できる。
また、2本のコイルスプリングを各油室A1〜A3に設置する場合、これらを支持部材(保持部)に設置して1つのスプリングユニットとした状態で設置しなければ組み付けが困難である。これに対し、本実施例1のように各油室A1〜A3に1本ずつ収納した場合には、組み付けが容易であるだけでなく、コイルスプリング610〜630を支持部材(保持部611,612等)と一体化せず直接に油室A1〜A3(凹部418,125等)に設置することも可能であり、この場合、支持部材を省略することで部品点数を削減できる。
装置1bの作動中であっても、凹部418〜438,115〜135によって第1〜第3スプリングユニット61〜63(コイルスプリング610〜630)の移動(ズレ)が規制されるため、特別な支持部材を設ける必要も特になく(例えば保持部611,612等を省略してもよい。)、付勢部材6及び装置1bの正常な作動が確保される。ただし、本実施例1のように保持部611,612等を設けた場合は、上記移動(ズレ)をより確実に規制できる。
ベーンロータ4がハウジングHSGに対して反時計回り方向に回転すると、コイルスプリング610〜630が押し縮められる。ここで、コイルスプリング610(の時計回り方向側の部分)は、(第1ベーン41の)凸部419の外周側に配置されている。また、凸部419のロータ径方向高さは、設置されたコイルスプリング610の外周に対して凸部419の外周が近接しつつ相互間に若干の隙間を有するような高さに設けられている。
このため、コイルスプリング610が押し縮められて変形する際、凸部419の外周面にコイルスプリング610の内周側が当接可能となっており、これによりコイルスプリング610のロータ内径方向への所定量以上の変形を規制可能である。すなわち、凸部419が、コイルスプリング610のガイド機能を発揮する。(第2ベーン42の)凸部429も、凸部419と同様に設けられており、ベーンロータ4の相対回動時にコイルスプリング630が押し縮められる際、コイルスプリング630のガイドを兼ねる。
図17に示すように、第2シュー12の先端部126と第1ベーン11の凸部419とが当接することで上記反時計回り方向の回転が規制される際、第1〜第3スプリングユニット61〜63のそれぞれにおいて、ベーン側とシュー側の対向する各保持部611,612等が互いに当接しないのは勿論のこと、各コイルスプリング610〜630において巻き線同士が密着しない。言い換えると、第2ストッパ部により上記反時計回り方向の回転が規制される際、各進角室A1〜A3の周方向隙間は、各コイルスプリング610〜630の巻き線同士が完全に密着するときのバネ長よりも大きく設定されている。
以下、装置1の作用を説明する。
(位相変換作用)
まず、装置1の位相変換作用を説明する。なお、下記制御内容は様々に変更可能である。
最初に、装置1aの位相変換作用について説明する。図4は機関停止時(機関始動時)の最遅角状態、図5は機関作動時の最進角状態をそれぞれ示す。
機関始動時は、予めロック機構5がベーンロータ4を始動に最適な遅角側の初期位置に拘束している(図4)。このため、イグニッションスイッチをオン操作して始動が開始されると、円滑なクランキングによって良好な始動性が得られる。
機関始動後の所定の低回転低負荷域では、コントローラCUからの制御電流が流路切換弁24に出力されない。スプール弁体は、リターンスプリングRSのばね力によって、供給ポート240と第2ポート242とを連通し、第1ポート241とドレンポート243とを連通する位置に留まる。よって、ポンプPから吐出された作動油は、供給通路22から供給ポート240を介してバルブボディ内に流入し、第2ポート242から進角通路21内に流入し、ここからカムシャフトの第1、第2油通路とベーンロータ4の各進角油路409を通って、各進角室A1〜A3に供給される。各進角室A1〜A3の内圧は、ポンプPの吐出圧が増大するに応じて上昇する。一方、各遅角室R1〜R3内の作動油は、遅角通路20及びドレン通路23を介してオイルパン25に排出され、各遅角室R1〜R3の内圧は低圧(大気圧)のままである。
進角室A1の内圧が上昇するに伴って、この油圧が連通溝57(図14参照)から第2受圧室59に供給され、ロックピストン51(係合部511)はX軸正方向側の油圧力を受ける。上記油圧力がコイルスプリング53のばね力よりも大きくなると、ロックピストン51がX軸正方向に移動する。係合部511が係合凹部521から完全に抜け出すと、ロック状態が解除される。すなわち、ベーンロータ4の自由な回転が許容され、バルブタイミングの任意の変更が可能な状態となる。
各進角室A1〜A3に供給される油圧により、ベーンロータ4は、図4に示す位置から、ハウジングHSGの回転方向(図4の矢印方向)に、ハウジングHSGに対して回転し、クランクシャフトに対するカムシャフト3aの回転位相(相対回転変換角度)を進角側に変更させる。この結果、吸気弁の開閉タイミングが進角側となり、吸気弁と排気弁がともに開弁する期間であるバルブオーバーラップが大きくなって、かかる低回転低負荷時における慣性吸気の利用による燃焼効率が向上して機関回転の安定化と燃費の向上が図られる。図5に示すように、各進角室A1〜A3の容積が最大となり、各遅角室R1〜R4の容積が最小となる最進角側の位置にベーンロータ4が相対回転すると、バルブオーバーラップが最大となる。
一方、機関の運転状態が例えば高回転高負荷域に移行したときは、コントローラCUから制御電流が流路切換弁24に出力される。スプール弁体は、リターンスプリングRSのばね力に抗して、供給ポート240と第1ポート241とを連通し、第2ポート242とドレンポート243とを連通する位置に移動する。よって、ポンプPから吐出された作動油は、流路切換弁24の第1ポート241から遅角通路20内に流入し、カムシャフトの第1、第2油通路とベーンロータ4の各遅角油路408を通って各遅角室R1〜R3に供給されるため、各遅角室R1〜R3の内圧は上昇する。一方、各進角室A1〜A3内の作動油は、進角通路21及びドレン通路23を介してオイルパン25に排出され、各進角室A1〜A3の内圧は低下する。
このとき、ロック機構5において、第2受圧室59に供給される油圧は低下するものの、今度は遅角室R1の油圧の上昇に伴い、この油圧が連通孔56(図14参照)から第1受圧室55に供給され、ロックピストン51のフランジ部513の受圧面に油圧力として作用する。これにより、ロックピストン51がコイルスプリング53のばね力に抗して係合凹部521から抜け出した解除状態が維持される。
よって、各遅角室R1〜R3の内圧が各進角室A1〜A3の内圧よりも大きくなると、ベーンロータ4は、ハウジングHSGの回転方向(図4の矢印方向)とは反対側の反時計回り方向に、ハウジングHSGに対して回転し、クランクシャフトに対するカムシャフト3aの回転位相(相対回転変換角度)を遅角側に変更させる。この結果、吸気弁の開閉タイミングが遅角側に制御され、バルブオーバーラップが小さくなって、かかる高回転高負荷時における機関の出力を向上させることができる。図4に示すように、各遅角室R1〜R4の容積が最大となり、各進角室A1〜A3の容積が最小となる最遅角側の位置にベーンロータ4が相対回転すると、バルブオーバーラップが最小となる。
さらに、例えば、機関が中回転中負荷領域に移行した場合は、コントローラCUが流路切換弁24を制御してスプール弁体を中間移動位置に保持する。これによって、各遅角室R1〜R4及び各進角室A1〜A3の内圧がそれぞれ一定に保たれ、ベーンロータ4が中間回転位置に制御される。よって、中回転中負荷域における最適なバルブタイミング制御が可能になり、燃費と機関出力の両方を満足させることが可能になる。
機関が停止すると、ポンプPの作動が停止される。また、コントローラCUから流路切換弁24への通電が遮断される。よって、進角室A1〜A3と遅角室R1〜R3への作動油圧の供給が停止される。このため、機関停止直後には、カムシャフト3aに発生するフリクション(負トルク側にオフセットした交番トルク)によって、ベーンロータ4は、ハウジングHSGに対して、ハウジングHSGの回転方向(図4の矢印方向)とは反対方向、すなわち遅角側へ回転移動しようとする。
よって、機関の停止後、ベーンロータ4は、カムシャフト3aのフリクション(交番トルク)によって、予め機関(再)始動に適した所定の初期位置、すなわち図4に示す最遅角側の位置に移動する。言い換えると、バルブタイミングが機関(再)始動に適した位相となる。
また、ハウジングHSGに対してベーンロータ4が最遅角側に相対回転したとき、ロック機構5のロックピストン51の位置と係合凹部521の位置が重なるため、機関停止時には、図14に示すように、コイルスプリング53のばね力により、係合部511が係合凹部521内に嵌まり込んで係合し、ロックピストン51がベーンロータ4の自由な相対回転を規制する。
以上のように、装置1aでは、機関停止時に、交番トルクによりベーンロータ4をハウジングHSGに対して遅角側の初期位置に回転移動させることで、機関再始動時においても装置1aを初期位置から制御可能としている。
機関始動時は、予めロック機構5がベーンロータ4を始動に最適な進角側の初期位置に拘束している(図16)。このため、イグニッションスイッチをオン操作して始動が開始されると、円滑なクランキングによって良好な始動性が得られる。
機関始動後の所定の低回転低負荷域では、各遅角室R1〜R3に油圧が供給され、この油圧による力がスプリングユニット61〜63の付勢力よりも大きくなると、ベーンロータ4は遅角側に相対回転する。これにより、カムシャフト3aの回転位相が遅角側に変換され、バルブオーバーラップが大きくなる。図17に示すように、各遅角室R1〜R4の容積が最大となり、各進角室A1〜A3の容積が最小となる最遅角側の位置にベーンロータ4が相対回転すると、バルブオーバーラップが最大となる。
一方、機関の高回転高負荷域では、各進角室A1〜A3に油圧が供給され、各進角室A1〜A3の油圧による力とスプリングユニット61〜63の付勢力との和が各遅角室R1〜R4の油圧による力よりも大きくなると、ベーンロータ4は進角側に相対回転する。これにより、カムシャフト3bの回転位相(相対回転角度)が進角側に変更され、バルブオーバーラップが小さくなる。すなわち、付勢部材6(第1〜第3スプリングユニット61〜63)は、位相変換を進角側にアシストする機能も有している。図16に示すように、各進角室A1〜A3の容積が最大となり、各遅角室R1〜R4の容積が最小となる最進角側の位置にベーンロータ4が相対回転すると、バルブオーバーラップが最小となる。
機関作動時、カムシャフト3bの回転中、カムシャフト3bには、(時計回り方向の)回転を妨げる負の(反時計回り方向の)交番トルクが作用する。機関が停止し、流路切換弁24への通電が遮断されると、上記交番トルクによって、ベーンロータ4は、ハウジングHSGに対して反時計回り方向、すなわち遅角側へ回転移動しようとする。
一方、付勢部材6(第1〜第3スプリングユニット61〜63)によって、ベーンロータ4は、ハウジングHSGに対して時計回り方向、すなわち進角側に付勢されている。よって、機関の停止後、ベーンロータ4は、上記交番トルクの影響を受けずに、付勢部材6の付勢力に従って、予め機関(再)始動に適した所定の初期位置、すなわち図16に示す最進角側の位置に移動する。言い換えると、バルブタイミングが機関(再)始動に適した位相となる。
また、ハウジングHSGに対してベーンロータ4が最進角側に相対回転したとき、ロックピストン51と係合凹部521の位置が重なるため、機関停止時には、ロックピストン51が係合凹部521に係合し、ベーンロータ4の相対回転を規制する。
以上のように、装置1bでは、機関停止時に、付勢部材6の付勢力により、交番トルクの影響を受けずにベーンロータ4をハウジングHSGに対して最進角側の初期位置に回転移動させることで、機関再始動時においても装置1bを初期位置から制御可能としている。
上記のように、ロック機構5を作動させることで、作動油圧の有無に関わらず装置1a、1bを初期位置(図4、図16)から制御することが可能である。よって、機関始動時にカムシャフト3a、3bに作用する交番トルクによって生じうるベーンロータ4のバタツキを抑制し、ベーン41〜43とハウジングHSG(シュー11〜13)との衝突による異音(打音)の発生を抑制できる。また、ノッキング等を抑止しつつ、機関ないし装置1a、1bを安定的に作動させることができる。これは機関始動時に限らず、油圧があまり発生しないアイドル時においても同様である。
なお、本実施例1では、ロック位置を最遅角側又は最進角側としたが、これに限らず、機関始動等に適した所定位置でロックしてこれを装置1の初期位置とすることとしてもよい。
よって、ロック動作のための特別なアクチュエータを必要としないため、ロック機構として例えばクラッチ機構やレバー機構を用いた場合よりも機構が簡便であり、ロック作動の信頼性を確保しつつ低コスト化できる。
なお、ロックピストン51の付勢部材として、コイルスプリング53以外の弾性部材、例えば板ばね等を用いてもよい。また、本実施例1では、ロックピストン51に流体圧が作用することによりロックピストン51が係合凹部521から退出し、ロックが解除されることとしたが、他の構成により解除機構を構成してもよい。本実施例1では、ロック機構(ロックピストン51)をベーンロータ4のベーン41に設けたが、ベーンに限らずロータに設けてもよい。ベーン41に設ければ、ロータ40の径方向大型化を抑制できる。また、ロック機構(ロックピストン51)をハウジングHSGの側に設け、ベーンロータ4との間でロックするようにしてもよい。本実施例1のようにベーンロータ4に設ければ、ハウジングHSGの大型化を抑制できる。
ロックピストン51は、回転軸O以外の方向、例えばハウジングHSGの径方向に進退するものであってもよい。言い換えると、ロックピストン51を収容するシリンダは、回転軸方向以外、例えばハウジング径方向に形成されていてもよい。
本実施例1では、摺動用孔501は回転軸方向(X軸方向)に延びて形成され、ロックピストン51は回転軸方向にその先端(係合部511)が出没する。このようにロックピストン51が回転軸方向に作動するように構成することで、装置1の径方向大型化を抑制できる。また、ベーンロータ4の回転による遠心力がロック機構5の作動に影響を及ぼすことを抑制できる。例えばロックピストンが径方向に移動するように設けた場合、遠心力はロックピストンの移動方向に作用する。この場合、機関回転数によって遠心力の大きさが変化すると、ロックピストン51の作動を制御するために必要な力も変動する。本実施例1では、このような影響を回避することで、ロック作動を安定化することができる。
装置1a,1bの作動時、背圧逃し部により、ロックピストン51は背圧室50内の圧力の影響を受けずに円滑に移動する。すなわち、係合部511が係合凹部521から離脱してロックピストン51がX軸正方向側へ移動し、背圧室50の容積が縮小しようとする際、背圧室50における空気は、背圧逃し部を介して機関内の低圧空間へと伝わる。よって、背圧室50内は低圧に維持される。また、背圧室50内には、背圧室50の周囲の隙間から漏出してきた作動油が溜まる。この油も、背圧逃し部を介して機関内の油潤滑空間へ排出される。よって、背圧室50の容積が縮小しようとする際、空気や油によりこれが妨げられることなく、背圧が開放される。よって、ベーンロータ4の全ての相対回転範囲で、ロックピストン51の良好な作動(摺動用孔501における摺動)が確保され、ロック解除が円滑に行われる。
ロックピストン51の先端(係合部511)は、略円錐台の形状を有し、X軸負方向(係合凹部521)に向かって小径となるように設けられているため、係合凹部521に係合しやすい。係合凹部521も、X軸正方向側の開口に向かって大径となるように設けられているため、係合部511が係合しやすい。よって、ロックが円滑に行われる。
また、係合部511及び係合凹部521はともにテーパ面を有している。具体的には、係合部511の外周には、先端(X軸負方向)に向かって小径となる傾斜面が設けられており、係合凹部521の内周には、底部(X軸負方向)に向かって小径となる傾斜面が設けられている。そして、図4の第1ストッパ部による相対回転規制位置で、係合凹部521の軸心は、係合部511の軸心に対して、反時計回り方向(第1シュー11の側)へ周方向に僅かにオフセットしている。このため、ロック時にロックピストン51が係合凹部521に挿入されると、両者の傾斜面同士は、図4の時計回り方向側で互いに接触し、このとき第1ベーン41を図4の反時計回り方向(第1シュー11の側)に押し付ける分力を発生する(クサビ効果)。すなわち、コイルスプリング53の付勢力により、係合部511がX軸負方向に進出して係合凹部521に嵌まり込む際、係合部511の時計回り方向側の傾斜面が、係合凹部521の時計回り方向側の傾斜面に摺接し、このとき係合部511(ロックピストン51)が反時計回り方向の反力を受ける。これにより、ロックピストン51を収容する第1ベーン41も反時計回り方向(第1シュー11の側)の反力を受ける。よって、ロックピストン51が係合凹部521に係合すると、第1ベーン41が第1シュー11に押し付けられるため、より確実に、ベーンロータ4を相対回転規制位置(初期位置である最遅角位置)に固定することができる。
なお、両傾斜面が接触するための構成として、軸心をオフセットさせる以外に、係合部511や係合凹部521の形状を適宜変化させる等してもよい。軸心をオフセットさせた場合、構成が簡便である。
また、係合時において上記反力を発生させる傾斜面を、係合部511もしくは係合凹部521のどちらか一方のみに設けることとしてもよい。この場合も、クサビ効果を得ることができる。本実施例1のように両方に傾斜面を設けた場合、押し付け力を効果的に得つつ、摩耗を低減できる。
また、ロックピストン51と係合凹部521との位置決めは、位置決めピン905等の位置決め手段を用いて正確に行われるため、ロックピストン51の円滑な係合作用が得られる。位置決め手段の作用を説明するため、装置1a、1bの組み付け手順の概略を最初に説明する。
まず、リアプレート9をハウジング本体10の嵌合凹部101に挿入設置する。具体的には、(スリーブ52が凹部900に固定された)リアプレート9のX軸正方向側の面を鉛直上方に向け、シールリング溝906にシールリングS1を設置・保持し、各シールリング溝907〜909にシールリングS2を設置・保持した状態で、ハウジング本体10を、X軸正方向側(鉛直上方)から、嵌合凹部101内にリアプレート9が嵌合するように、リアプレート9に組付ける。
その際、ハウジング本体10の位置決め用凹部114とリアプレート9の位置決めピン905とが対向するように、リアプレート9に対するハウジング本体10の回転位置を調整する。そして、位置決めピン905を位置決め用凹部114に嵌合させる。これにより、ハウジング本体10に対するリアプレート9の周方向位置決めが行われる。このとき、リアプレート9の雌ねじ部901〜903(ボルト孔)がそれぞれハウジング本体10のボルト孔110〜130と略同軸上となる。
次に、ハウジング本体10にベーンロータ4を挿入する。その際、作動油室間をシールするシール部材118,413等を組み付ける。装置1bでは付勢部材6を組み付ける。
また、ロックピストン51をベーンロータ4の摺動用孔501(に圧入された封止部材502)に挿入し、コイルスプリング53をロックピストン51の内部に挿入し、スプリングリテーナ54を摺動用孔501に挿入する。位置決めピン905による上記位置決めにより、ベーン41がシュー11に当接した状態では、係合凹部521が摺動用孔501(ロックピストン51)に対して(僅かにオフセットしつつ)略同軸上となる。
そして、X軸正方向側(鉛直上方)からフロントプレート8をハウジング本体10に取付け、ボルトb1〜b3により各部材を締結し、一体とする。なお、フロントプレート8は、シールリングS3をシールリング溝89に設置・保持した状態で組み付けられる。シールリング溝906〜909,89を設けているため、シールリングS1〜S3の保持が容易であり、装置1の組み付け性を向上することができる。
上記のように位置決めピン905(ピン孔904)と位置決め用凹部114は、装置1a、1bの各構成部材を組み付ける際、ハウジング本体10に対するリアプレート9の回転位置、すなわちロックピストン51と係合凹部521との周方向相対位置を調整し、決定するための位置決め手段を構成している。なお、ロックピストン51と係合凹部521との径方向相対位置は、リアプレート9をハウジング本体10の嵌合凹部101に挿入(嵌合)した時点で略一致している。以上のように、位置決め手段を用いて、ロックピストン51と係合凹部521とが正確に位置決めされるため、ロックピストン51の円滑な係合作用が得られる。
ここで、位置決めピン905は凹部900(係合凹部521)と近接した位置に設けられているため、ロックピストン51と係合凹部521との位置決めをより正確に行うことができる。また、ピン孔904は、シールリング溝906,907よりも油室(第1遅角室R1)側に配置されているため、シールリングS1,S2のシール性能に影響を与えることもない。
また、ベーンロータ4は、リアプレート9の内周に設けられてカムシャフト3aが挿通される挿通孔92を介して、カムシャフト3aの一端側(端部30)に固定されている。よって、プーリ100に掛けられたベルトBeltから作用する力により、ハウジングHSGは、ベーンロータ4の回転軸(X軸)に対して若干の角度範囲内で傾き、挿通孔92が設けられた(リアプレート9の)円筒部91を支点として揺動しうる。このため、ハウジングHSGに設けられたロック凹部の、(ベーンロータ4に設置された)ロックピストン51に対する位置が、ズレるおそれがある。
これに対し、本実施例1では、リアプレート9に係合凹部521を設けているため、例えばフロントプレート8にロック凹部を設けた場合よりも、揺動支点(円筒部91)から係合凹部521までの距離(モーメントアーム)が短い。よって、係合凹部521の(X軸直方向における)揺動変位が少なく、係合凹部521に対するロックピストン51の位置ずれのおそれが少ない。また、ベーンロータ4のボス部401が挿通孔92に挿通されているため、ハウジングHSGに対するベーンロータ4の上記傾きないし揺動変位は、所定範囲内に抑制されている。
本実施例1では、クランクシャフトからの回転力を装置1a,1bに伝達する回転力伝達要素として、タイミングチェーン及びこれにより駆動されるスプロケットではなく、タイミングベルトBelt及びこれにより駆動されるプーリ100を設けている。このため、静粛性が高いという利点を有しており、また、低コスト化や軽量化が可能である。
ハウジングHSGとベーンロータ4の材料として、アルミ系金属以外の材料、例えば鉄系金属材料を用いてもよい。
しかし、一般に、タイミングベルト及びプーリを用いる装置では、十分な回転力を伝達するために、ベルトの幅の下限が決まっており、このベルトと接触するプーリの幅も、ある程度の寸法を確保する必要がある。よって、装置のベルト(プーリ)幅方向の寸法が大きくなる傾向があり、これにより装置が軸方向に大型化し、重量が増大するおそれがある。
これに対し、本実施例1では、ハウジング本体10とベーンロータ4の両方を軽金属、具体的にはアルミ系金属材料で成形するため、装置1の重量を低減し、軽量化できる。言い換えると、ハウジング本体10とベーンロータ4の回転慣性が小さいため、回転力伝達要素に加わる負荷が小さくなり、タイミングベルト及びプーリを採用することが容易となっている。
いわゆるベーン式の装置では、ハウジング内に設けられたベーンロータをカムシャフトに固定する必要があるところ、この固定部が1つしかなければ固定強度を十分に確保できないおそれがある。例えば、回転中心部に設けた1本のカムボルトによってベーンロータをカムシャフトに締結固定した場合、バルブスプリングからの交番トルクがカムシャフト(カムボルト)の軸周り方向に作用する。よって、カムボルトが容易に緩んでしまう。一方、緩みが生じないようにカムボルトをきつく締結すると、カムボルトの軸力によってベーンロータに大きな面圧が作用する。よって、ベーンロータをアルミ系金属等の軟らかい材料で作った場合、変形が生じてしまう。なお、この課題はベーンロータ以外の従動部材(位相変更機構)を用いた場合にも当てはまる。
これに対し、本実施例1では、ベーンロータ4(ロータ40)に、カムシャフト3に固定するための固定部(ボルト穴403〜405)を複数設けた。よって、固定部が1つの場合とは異なり、カムシャフト3の軸周り方向(周方向)で各固定部に作用する負荷が分散されて小さくなり、また各固定部に作用する力の方向も変化する。よって、カムシャフト3に対するベーンロータ4の固定強度を向上できる。
なお、固定部の数は3に限らず、2以上であればよい。3であれば、固定強度を向上しつつ、部品点数を減らして加工・組み付け性を向上できる。
また、固定部はボルト穴に限らず、かしめや溶接等によりベーンロータをカムシャフトに固定してもよいが、本実施例1では、固定部としてボルト穴403〜405を設け、ボルト締結することとしたため、組付け(装置のカムシャフトへの取付け)や締結力の管理が容易である。
具体的には、複数(本実施例1では3本)のカムボルト33〜35を用いてベーンロータ4を締結するため、(回転軸Oの周りの)交番トルクが各カムボルト33〜35の軸周り方向に作用することが回避される。よって、上記緩みの発生が抑制される。また、全体としての締結力を確保しつつ各カムボルト33〜35の軸力を小さくすることで、ベーンロータ4に作用する面圧が小さくなる。よって、上記変形の発生も抑制される。
複数の固定部(ボルト穴403〜405)は、互いに離間して形成されていればよく、離間の方向が周方向以外、例えば径方向であっても上記作用が得られるが、本実施例1では、周方向にそれぞれが離間して形成したことで、例えば径方向に離間して形成した場合と比べて、周方向(回転軸Oの周り方向)の負荷をより確実・均等に各固定部に分散できる。よって、各固定部に作用する力をより効率的に小さくすることができ、結果として、全体としての固定強度を効果的に向上できる。
さらに、複数の固定部(ボルト穴403〜405)は、必ずしも等間隔に設けられなくてもよいが、本実施例1では、(周方向に)略等間隔に設けられている。よって、ベーンロータ4の回転軸回りのバランスをとりやすい。また、ボルト穴403〜405に対応して固定部(ボルト穴32)が配置されたカムシャフト3の回転軸回りのバランスをとりやすい。加えて、各固定部間でロータ40の肉厚を等しく大きく確保できるため、ボルト穴403〜405のようにロータ40の肉を抜いて固定部を設ける場合でも、ロータ40の強度を確保できる。そして、ボルト穴403〜405に挿通するカムボルト33〜35の頭部331〜351(ワッシャ332〜352)同士が干渉することも効果的に抑制できる。
ハウジング本体10とベーンロータ4の両方は、アルミ系金属材料で成形されているため比較的軟らかい。よって、これらに表面処理を施すことで、耐摩耗性及び耐久性を向上している。具体的には、耐食性、耐摩耗性、膜厚均一性、作業性等に優れる陽極酸化処理を施している。アルミ系金属材料として、酸化被膜の耐摩耗性を向上する材質のものを適宜選択することができる。
また、陽極酸化被膜は酸化膜であり表面粗さが粗く、無数の細かい凹凸部(微細孔)が形成される。陽極酸化処理の後処理として、これらの微細孔(ポア)を塞いで吸着性をなくすための封孔処理を行ってもよいが、管理等の手間やクラック発生のおそれを回避するため、完全封孔ではなく半封孔が望ましい。半封孔処理を行った場合には、行わない場合と同様、微細孔が開口したまま残ってその内部に油が保持されうるため、潤滑性を確保することが可能である。
耐摩耗性を更に向上するため、硬質アルマイト処理を施すこととしてもよい。この場合、耐摩耗性の低下を防止するため、封孔処理を行わないことが好ましい。
なお、耐摩耗性を向上させるために陽極酸化処理以外の表面処理、例えば硬質クロムメッキや無電解ニッケルメッキを施すこととしてもよい。
ハウジング本体10についてみると、プーリ100は、ハウジング本体10と一体にアルミ系金属材料によって成形されている。ここで、プーリ100にはベルトBeltが巻回され駆動力が作用するため、プーリ100の耐摩耗性を向上する必要性が高い。また、プーリ100の歯の精度を確保するために、ハウジング本体10の材料となるアルミ系金属材料は若干軟らかいものを用いる。これに対し、本実施例1では、ハウジング本体10の外周面(プーリ100の表面)に陽極酸化処理が施され、陽極酸化被膜層が形成されている。よって、ベルトBeltが接するプーリ100の表面の硬度を確保でき、耐摩耗性を向上できる。
また、ハウジング本体10の内周面にも陽極酸化被膜層が形成されている。よって、ベーン41〜43やロータ40が摺接したり、付勢部材6が接触したりするハウジング本体10の内周面を高硬度化し、耐摩耗性を向上することができる。
なお、ハウジング本体10の軸方向両端において、端面105、底面102と壁面103、及び端面104には陽極酸化処理が施されていない。しかし、端面105、底面102と壁面103には封止プレート(フロントプレート8及びリアプレート9)が固定され、端面104は他の部材に接しないため、これらの面が他の部材に対して摺動することはない。よって、これらの面に表面処理が施されていなくても、特に問題はない。
ベーンロータ4についてみると、ベーン41〜43やロータ40の外周面411等に陽極酸化処理が施されている。よって、ハウジング本体10の内周面に対して摺動するこれらの外周面の耐摩耗性を向上できる。また、ベーンロータ4の軸方向両端面にも、陽極酸化処理が施されている。よって、ハウジングHSGの軸方向両側(封止プレート8,9)に対して摺動するベーンロータ4の摺動部の耐摩耗性を向上できる。
なお、上記のように、プーリ100の歯の精度を確保するために、ハウジング本体10の材料となるアルミ系金属材料は若干軟らかいものを用いるが、ベーンロータ4についてはそのような必要がないため、ベーンロータ4の材料として、ハウジング本体10よりも若干硬いアルミ系金属材料を用いることとしてもよい。
特に、ベーンロータ4及びハウジング本体10に形成された第1ストッパ部(平面部111,415)及び第2ストッパ部(凸部419、先端部126)の表面にも、陽極酸化被膜処理が施されている。よって、第1、第2ストッパ部における当接面の硬度を確保して変形を防止するとともに、耐摩耗性を良好にして、後述するストッパ部の作用・機能を向上することができる。
また、装置1では、ハウジングHSGを軸受けするボス部401をベーンロータ4に設けているため、回転力が伝達された状態(すなわちプーリ100にベルトBeltの張力が作用した状態)でハウジングHSGが回転すると、ボス部401に径方向から大きな荷重が作用する。よって、ボス部401を含むベーンロータ4を比較的軟らかい材料、例えばアルミ系金属材料で製造した場合、ボス部401に摩耗が生じてしまう。具体的には、ボス部401におけるハウジングHSG(挿通孔92の内周面)との摺動部に凝着が発生しやすくなり、凝着摩耗が生じるおそれがある。
これに対し、本実施例1では、ベーンロータ4をアルミ系金属材料によって成形すると共に、ボス部401の外周面に陽極酸化被膜を形成した。よって、ボス部401におけるハウジングHSGとの摺動部における凝着を抑制して摩耗を低減することができる。
また、陽極酸化被膜における無数の微細孔には潤滑油を長時間保持することが可能である。よって、機関を長時間(例えば数日〜数ヶ月)運転せず、その間、装置1を使用しなかった場合でも、ボス部401における上記摺動部には潤滑油が保持されているため、機関の再始動時にも潤滑機能が発揮され、摩耗を潤滑油により抑制することができる。すなわち、陽極酸化被膜の形状特性を利用し、これに潤滑油保持機能を持たせることで、摩耗低減効果を更に向上することができる。このように装置1では、凝着低減と潤滑油保持の相乗効果により、良好な摩耗低減効果を得ている。
封止プレート(フロントプレート8及びリアプレート9)は、ハウジング本体10(アルミ系金属材料)よりも高硬度の材料(鉄系金属材料)によって成形されている。よって、ボルトb1〜b3の座面として機能するフロントプレート8の強度を確保し、かつリアプレート9に設けられたボルトb1〜b3の雌ねじ孔の強度を確保して、装置1の耐久性を向上することができる。また、フロントプレート8のX軸負方向側の面にロック機構5のコイルスプリング53が摺動すること等に起因する摩耗を抑制できる。
また、封止プレート8,9は、ベーンロータ4(アルミ系金属材料)よりも耐摩耗性が高い材料(鉄系金属材料)によって成形されている。よって、封止プレートにおけるベーンロータ4(軸方向端面やボス部401)との摺動部の耐久性を確保することができる。言い換えると、ベーンロータ4(の軸方向端面やボス部401)の表面を陽極酸化処理により高硬度化しつつ、これが摺動するハウジング側をも高硬度化しているため、装置1の耐久性をより向上できる。
具体的には、封止プレート8,9は、ステンレス等の鉄系金属材料によって成形されているため、硬度が十分に高く、耐磨耗性や耐久性を効果的に向上できる。また、加工性やコスト等の面で有利である。より具体的には、強度的に優れた鍛造により成形されている。
なお、プレス加工や鋳造等により成形してもよい。
また、アルミ系金属材料よりも耐摩耗性や硬度が高い材料として、鉄系金属材料以外の金属材料、例えばマグネシウム等を用いてもよいし、金属材料以外の材料、例えばセラミック等を用いてもよい。
また、封止プレート8,9をアルミ系金属材料によって成形し、その軸方向端面や挿通孔92の内周面に陽極酸化被膜を施すことで、ベーンロータ(軸方向端面やボス部401)との摺動部の耐摩耗性を向上してもよい。
ベーンロータ4をアルミ系金属材料で成形すると、ベーンロータ4に設けられてロックピストン51を収容するシリンダ(摺動用孔501)の摩耗が懸念される。なぜなら、ロック機構5が作動する際、ロックピストン51はシリンダ内で往復移動する。また、ロック機構5が作動しない(係合凹部521との係合が解除されている)ときであっても、交番トルク等によりベーン41〜43がバタつくと、作動油室A1,R1に脈動が生じ(第1受圧室55や第2受圧室59に油圧脈動が発生することで)、ロックピストン51がシリンダ内で若干往復移動しうるからである。
これに対し、本実施例1では、摺動用孔501の内部に封止部材502が固定され、封止部材502の内周にロックピストン51が摺動自在に設けられている。封止部材502は、アルミ系金属材料よりも耐摩耗性の高い材料、具体的には鉄系金属材料で作られている。このように、耐摩耗性が摺動用孔501よりも高い材料によって作られた封止部材502が、ロックピストン51との摺動部位に設置されている。よって、ロックピストン51の往復移動に起因するシリンダ(摺動用孔501)の摩耗を抑制できる。封止部材502は、ベーンロータ4とは別部材で構成されている。このため、耐磨耗性に特に適した材料を選択することができ、また摺動面の加工精度を向上できる等の利点を有している。
なお、封止部材502は、ロックピストン51との摺動部位に設けられていればよい。例えば摺動用孔501の全範囲がロックピストン51に対して摺動するおそれがある場合、封止部材502の軸方向長を、摺動用孔501と同じ軸方向長としてもよい。
また、封止部材502の軸直方向断面(外周・内周)の形状は円形以外、例えば楕円や矩形であってもよい。封止部材502の断面の外周が楕円等の場合、設置される摺動用孔501の断面内周も同様の形状とすればよく、封止部材502断面の内周が楕円等の場合、この内周に摺動するロックピストン51の断面外周も同様の形状とすればよい。
これに対し、本実施例1では、摺動用孔501の表面に陽極酸化処理を施し、その硬度を高めている。よって、封止部材502を摺動用孔501に固定する際、封止部材502が傾いて組み付けられることが抑制される。したがって、上記片当たりを抑制し、ロックピストン51の作動の悪化を抑制して、装置1の制御性を良好に維持できる。特に、係合部511等に傾斜面を有するロック機構5に上記構成を適用しているため、効果が大きい。なお、陽極酸化処理は、摺動用孔501内表面のうち、封止部材502が固定される部分のみに施すこととしてもよい。
ここで、封止部材502を摺動用孔501に設置・固定するに際しては、圧入が便利である。しかし、圧入により固定すれば、封止部材502が傾いて設置される(ベーンロータ4に対する封止部材502のカジリが発生する)可能性が高くなる。
これに対し、本実施例1では、封止部材502は、陽極酸化処理が施された摺動用孔501の内部に圧入される。すなわち、摺動用孔501の表面に陽極酸化処理を施し、その硬度を高めた上で、摺動用孔501の内表面に封止部材502を圧入しているため、封止部材502を摺動用孔501に簡便に設置・固定しつつ、封止部材502の傾きを抑制できる。
また、封止部材502は、陽極酸化被膜よりも耐磨耗性(硬度)の高い材料、具体的には鉄系金属材料で作られている。よって、仮に、陽極酸化処理が施された摺動用孔501をそのままロックピストン51との摺動部位として用いた場合に比べ、シリンダ(摺動用孔501)の摩耗抑制効果を向上できる。また、陽極酸化処理が施された摺動用孔501の内部に圧入される際、封止部材502それ自体の変形を抑制できる。
具体的には、摺動用孔501のX軸方向寸法よりも短い封止部材502が、摺動用孔501の内部に挿入・固定されることで、摺動用孔501を異径の(段付きの)シリンダとしている。これに対応してロックピストン51に大径部(フランジ部513)と小径部(摺動部512、係合部511)を設けることで、ロックピストン51を異径の(段付きの)ピンとしている。そして、封止部材502の内周に小径部(摺動部512)が、摺動用孔501の内周に大径部(フランジ部513)が、それぞれ摺動自在に設けられている。これにより、摺動用孔501内で、封止部材502と大径部(フランジ部513)の間に第1受圧室55が隔成されている。このように、封止部材502を用いることで、第1受圧室55と第2受圧室59とを別々に液密に設けることが簡便に達成され、ロックピストン51に対して進角室A1と遅角室R1からの油圧力を別々に作用させる構成を容易に実現できる。
なお、シリンダ(摺動用孔501)とロックピストン51の形状や、油路56や溝57の構成を適宜調整して、第1、第2受圧室を任意の形状としたり任意の位置に設けたりしてもよい。例えば、封止部材502を、摺動用孔501の軸方向どちら側の先端から挿入・設置してもよい。また、大径部(フランジ部513の一部)が、ベーンロータ4に対し出没し、係合凹部521に挿入可能であることとしてもよい。この場合、大径部はロックピストン51の先端部であり、小径部はロックピストン51の基端部である。このとき、付勢部材(コイルスプリング53)が小径部(基端部)側からロックピストン51を付勢するように設けることができる。
以上のように、陽極酸化被膜処理により、封止部材502(ロックピストン51)の傾き抑制と、フランジ部513との摺動部における耐摩耗性及び潤滑性の向上とを実現している。
さらに、封止部材502は陽極酸化被膜よりも耐磨耗性の高い材料で作られており、ロックピストン51の小径部(摺動部512)と封止部材502の内周との間の隙間(クリアランス)は、ロックピストン51の大径部(フランジ部513)と摺動用孔501の内周との間の隙間よりも小さく設けられている。すなわち、陽極酸化被膜処理が施された摺動用孔501の内周面よりも、封止部材502の内周面のほうが耐摩耗性が高いため、耐摩耗性が高い後者のほうのクリアランスを小さくして、後者との接触頻度を高めている。これにより、シリンダ内部でロックピストン51との摺動部における摩耗をより効果的に低減できる。
なお、封止部材502をベーンロータ4とは別の部材として設けるのではなく、摺動用孔501をベーンロータ4と一体に段付き形状に成形し、その内周全体に陽極酸化処理を施すことも考えられる。この場合もロックピストン51の受圧室を別々に隔成することができ、耐摩耗性も確保できるように思える。しかし、封止部材502を別部材として摺動用孔501に設置したほうが、上記のようにロックピストン51の摺動に対するシリンダの耐摩耗性を確保するために有利であり、またより簡便に受圧室を設けることができる。
スリーブ52は、耐磨耗性の高い材料、具体的には鉄系金属材料で作られている。よって、係合凹部521(係合部511に対して摺接する傾斜面)の硬度を確保でき、特に摩耗を低減できる。したがって、ロックピストン51の作動悪化をより効果的に抑制できる。なお、スリーブを別部材とせず、係合凹部521をリアプレート9と一体に直接設けることとしてもよいが、本実施例1では、スリーブ52は、リアプレート9とは別部材で構成されている。このため、係合凹部521の形状や材質等を、ロックピストン51の係脱(係合及び解除)に適したものに調整することが容易であると共に、上記係脱に際してリアプレート9が摩耗したり拗れたりすることを抑制できる。すなわち、耐磨耗性に特に適した材料を選択することができ、また傾斜面の加工精度を向上できる等の利点を有している。
初期位置で機能する第1ストッパ部は、当接回数の多さや(機関停止時に油圧制御しないことに起因する)当接する力の強さにより、変形するおそれが高く、これにより回転規制位置(初期位置)が変化してしまうおそれがある。
装置1a、1bでは、第1ストッパ部の当接面積S1を、第2ストッパ部の当接面積S2よりも大きく設けている(S1>S2)ため、第1ストッパ部が当接する際に発生する面圧(当接面圧)が第2ストッパ部よりも小さい。よって、第1ストッパ部の変形及び回転規制位置の変化を抑制することができる。
第1ストッパ部は第1ベーン41に設けられているところ、第1ベーン41(の根元部分)は周方向に厚い。また、第2ストッパ部(凸部419)は第1ベーン41の根元側にロータ40から外周側に突出して構成されているため、第2ストッパ部の当接時に第1ベーン41を(ロータ40に対して周方向に)根元から折り曲げようとする力(モーメントアーム)が小さく、第1ベーン41に過大な力が作用しにくい。よって、第1、第2ストッパ部の剛性は十分であり、相対回動を規制するための強度を十分に得つつ、ベーンロータ4の耐久性を向上できる。なお、他のベーン42,43とシュー12,13のいずれか1組、又は複数組の当接部に第1、第2ストッパ部を設けることとしてもよい。
また、装置1bでは、第2ストッパ部のストッパ機能により付勢部材6(コイルスプリング610〜630)の変位量(圧縮量)が所定量以下に規制される。これにより、付勢部材6(コイルスプリング610〜630)の塑性変形が抑制され、その付勢力が不可逆的に変化することを回避できる。
仮に、製造・組み付け時の誤差や第2ストッパ部の摩耗等が生じても、予備として、第2ベーン42の凸部429と第3シュー13の先端部との接触により第2ストッパ部と同様のストッパ機能が確保される。よって、制御精度を向上でき、装置1bでは、付勢部材6の塑性変形抑制という上記効果をより確実に得ることができる。
また、コイルスプリング610,630は、(第1、第2ベーン41,42の)凸部419,429の外周側に配置されており、第2ストッパ部(を構成する凸部419,429)が、コイルスプリング610,630のガイドを兼ねている。このため、コイルスプリング610,630の適切な弾性変形が保たれ、付勢部材6及び装置1bの正常な作動が確保される。
一般に、タイミングベルトによって回転力が伝達される装置では、ベルトが巻回されるプーリに作動油が付着すると、ゴム製や合成樹脂製のベルトが劣化してしまうため、ハウジング部材内の作動油が外部に漏れないようにシール性を維持する必要がある。装置1でも、プーリ100に掛け渡されたゴム製のベルトBeltに作動油が付着しないよう、ハウジングHSG内のシール性を維持する必要がある。
これに対し、本実施例1では、ハウジング本体10は、アルミ系金属材料を押出し成形することによって成形されているため、アルミ系金属材料を例えば焼結することにより成形した場合と異なり、装置1内の作動油がハウジング本体10の内部を通って滲みだし、ハウジング本体10の外周(プーリ100)へ漏出することが抑制される。
また、封止プレート(キャップ7、フロントプレート8、及びリアプレート9)は、鉄系金属材料を鍛造することによって成形されているため、鉄系金属材料を例えば焼結することにより成形した場合と異なり、装置1の作動油がこれらの部材の内部を通って滲みだし、漏出することが抑制されている。
また、ハウジング本体10と封止プレート8,9との間にシールリングSが設けられているため、これらの間の隙間を通ってハウジングHSG内の作動油が漏出することが抑制され、液密性が保たれる。なお、シールリングではなくシール剤を用いて密封することとしてもよい。例えば、ボルトb1〜b3の雄ねじとリアプレートの雌ねじとの間にシール剤を兼ねた接着剤を充填すれば、ボルトb1〜b3の締結力を強化できるだけでなく、シールリングS2(及びそのシールリング溝)を不要にできる。一方、シールリングを用いた場合、簡便にシール機能を実現できる。
本実施例1では、ハウジング本体10とリアプレート9との接合部において、リアプレート9のシールリング溝906にシールリングS1が挿入設置された状態で、嵌合凹部101の壁面103がシールリングS1に押し付けられることでシールリングS1が圧縮される。これによりシール機能が発揮され、リアプレート9とハウジング本体10との接合面からの作動油の漏出が抑制される(作動油室が封止される)。
雌ねじ部901〜903の周りの各シールリング溝907〜909にシールリングS2が挿入設置された状態で、ハウジング本体10(各シュー11〜13)のX軸負方向側端面102がシールリングS2に押し付けられることでシールリングS2が圧縮される。これによりシール機能が発揮され、リアプレート9とハウジング本体10との接合面(雌ねじ部901〜903のボルト孔)からの作動油の漏出が抑制される(作動油室が封止される)。
一方、フロントプレート8とハウジング本体10との接合部では、シールリング溝89にシールリングS3が挿入設置された状態で、ハウジング本体10(各シュー11〜13)のX軸正方向側端面105がシールリングS3に押し付けられることでシールリングS3が圧縮される。これによりシール機能が発揮され、フロントプレート8とハウジング本体10との接合面からの作動油の漏出が抑制される(作動油室が封止される)。
ここで、シールリングS3及びシールリング溝89は、各ボルト孔83〜85の内周側を通るようなクローバー形状に設けられ、各ボルト孔83〜85とハウジングHSGの内部とが連通しないように構成されているため、各ボルト孔83〜85の周りを個別にシールする部材を不要として部品点数を削減しつつ、組付け性を向上できる。なお、シールリング3の代わりに、フロントプレートの内周側(かつボルト孔83等の外周側)をシールするシールリングと、各ボルト孔83等の周りをそれぞれシールするシールリングとを設けてもよい。
また、雌ねじ部82のシールリング溝821にシールリングS4が挿入設置された状態で、キャップ7のフランジ部72のX軸正方向側端面がシールリングS4に押し付けられることでシール機能が発揮され、キャップ7とフロントプレート8との接合面からの作動油の漏出が抑制される(背圧逃がし部が封止される)。
なお、シールリング溝を設けなくても、シールリングによるシールは可能である。
ここで、ハウジング本体10と封止プレート8,9は、軸方向に挿通される複数のボルトb1〜b3によって互いに固定されている。すなわち、リアプレート9のボルト孔901〜903の内周には雌ねじが形成されており、この雌ねじにボルトb1〜b3(雄ねじ)が螺合される。よって、ボルトb1〜b3の軸力により、ハウジング本体10(各シュー11〜13)のX軸負方向側端面102が、ボルト孔901〜903の周りに設けられた各シールリングS2に押し付けられ、シールリングS2が軸方向に圧縮される。また、ボルトb1〜b3の軸力により、ハウジング本体10(各シュー11〜13)のX軸正方向側端面105が、各ボルト孔83〜85の周りに位置するシールリングS3に押し付けられ、シールリングS3が軸方向に圧縮される。このように、ボルトb1〜b3の軸力によりシールリングS2、S3を軸方向に押し潰すことで、シール性を更に向上することができる。また、圧縮されたシールリングS2、S3が弾性力により元に戻ろうとすることで、雌ねじに対するボルトb1〜b3の係合が強化され、締結されたボルトb1〜b3の緩みが抑制される。
なお、ボルト孔901〜903に底部を設けて袋状としてもよい。また、リアプレート9に雌ねじを形成するのではなく、リアプレート9を貫通してボルトを突出させ、この突出部分をナットで締結するようにしてもよい。また、リアプレートではなくフロントプレートに雌ねじを設け、リアプレート、ハウジング本体、及びフロントプレートを、X軸負方向側から挿通したボルトb1〜b3によって一体的に締付固定してもよい。
各シールリングS1〜S3は、断面円形のOリングである。よって、それぞれのシールリング溝906等に設置しやすい(シールリングS4も同様)。また、Oリングが挟まれる両面により圧縮されこれらの面に密着することで、高い密封機能を確保できる。
なお、シール性を確保するためには、対向する封止プレート8,9の面とハウジング本体10の面がそれぞれシールリングSと当接していれば足り、上記面同士が直接に接触していなくてもよい。具体的には、フロントプレート8のX軸負方向側の面(シールリング溝89の底面)がシールリングS3と当接し、かつハウジング本体10のX軸正方向側の面105がシールリングS3と当接していれば足り、フロントプレート8のX軸負方向側の(シールリング溝89を除く)面とハウジング本体10の上記面105とが当接していなくてもよい。同様に、リアプレート9のX軸正方向側の面(シールリング溝907〜909の底面)とハウジング本体10のX軸負方向側の面102が、それぞれシールリングS2と当接していればよく、リアプレート9とハウジング本体10が互いに当接していなくてもよい。また、リアプレート9のシールリング溝906の底面とハウジング本体10(嵌合凹部101)の内周面(壁面103)が、それぞれシールリングS1と当接していればよく、リアプレート9(の外周面)とハウジング本体10(壁面103)が直接当接していなくてもよい。
ここで、仮に、シールリングS1〜S3が当接するハウジング本体10の上記面102,103,105に、陽極酸化被膜が形成された場合を考える。陽極酸化被膜は酸化膜であるため面粗度が荒い。具体的には、陽極酸化処理後に完全な封孔処理をしない限り、陽極酸化被膜は、無数の微細孔(ポア)が表面に開口した状態の多孔質の被膜(皮膜)となっている。よって、シールリングS1〜S3が(当接はしても)完全には密着しない状態となり、ハウジング本体10の上記面におけるシール性が低下してしまうおそれがある。
これに対し、本実施例1では、封止プレート8,9が固定されるハウジング本体10の両開口端における面、すなわちシールリングS1〜S3が設けられる面102,103,105に、陽極酸化被膜層を形成しないこととした。よって、シールリングS1〜S3がハウジング本体10の上記面102,103,105と当接する際、両者が隙間なく密着可能であり、これによりシールリングS1〜S3によるシール性を維持することができる。
すなわち、封止プレート8,9によって封止されるハウジング本体10の開口部の上記面102,103,105は、これに対して摺動する部材もないため、耐摩耗性を向上する必要もない。よって、これらの面には陽極酸化被膜を形成せず、アルミ系金属材料の母材層がそのまま現れているようにすることで、更なる加工や処理を不要としてコストを低減しつつ、シール性を維持することができる。
具体的には、ハウジング本体10において、切断工程で得られる切断面(X軸正方向側の端面105)がシールリングS3との当接面となり、切削工程で得られる切削面(X軸負方向側の嵌合凹部101の底面102と壁面103)がシールリングS1,S2との当接面となるようにした。切断工程と切削工程は、被膜処理工程の後に行われるため、ハウジング本体10における上記当接面には陽極酸化被膜が形成されておらず、母材層が直接現れている。よって、各シールリングS1〜S3との密着性が高いため、シールリングS1〜S3の設置面として利用する。
なお、シールリングS1〜S3との密着性を維持するため、現れたアルミ系金属材料の母材層に、(処理コストは余計にかかるが、)陽極酸化被膜以外の(シール性を低下させない)被膜を別途形成することとしてもよい。また、ハウジング本体の開口部においてシールリングが設置される面に陽極酸化被膜を形成した場合であっても、これに完全な封孔処理を施せば、微細孔の開口を塞いで面粗度を細かくし、シール性を維持することが可能ではある。しかし、この場合、封孔処理のコストがかかるし、他の部位にまで完全封孔処理を施せば、その部位において必要とされる性能が低下してしまうおそれもある。これに対し本実施例1では、(少なくともハウジング本体の開口端において)封孔処理を不要とすることで、コストを抑制しつつシール性を維持することができる。
ハウジング本体10の上記面102,105は、陽極酸化被膜が施されておらず硬化されていない一方、封止プレート8,9は、ハウジング本体10(アルミ系金属材料)よりも高硬度の材料(鉄系金属材料)によって成形されている。よって、ハウジング本体10と封止プレート8,9を一体化する際、両者が直接当接するほど強くボルトb1〜b3を締付け固定した場合、両者の密着度を増すことができる。すなわち、封止プレートの軸方向端面(フロントプレート8のX軸負方向側の面、リアプレート9のX軸正方向側の面)には、製造過程において若干の凹凸が生じうるところ、この(比較的硬い)凹凸が、対向するハウジング本体10の(比較的軟らかい)上記面102,105に押し付けられると、上記面102,105が上記凹凸の形状に合わせて若干変形する。これにより、ハウジング本体10と封止プレート8,9との密着度が増すことから、更なるシール性向上を図ることができる。
ハウジングHSG(リアプレート9)の円筒部91の外周面に設置されたオイルシールOSは、シリンダヘッドと円筒部91の外周との間をシールする。これにより、円筒部91の内周側の隙間(円筒部91の内周とカムシャフト3の外周との間の隙間CL(図3参照))を通って機関(シリンダヘッド)の側に漏れ出る作動油や、機関内部の油が、円筒部91の外周側から漏れ出してベルトBeltや他の補機類に接触することを抑制している。なお、リアプレート9(円筒部91)は鉄系金属材料から作られており耐摩耗性が高いため、円筒部91の外周面においてオイルシールOSが摺動することに起因する摩耗を抑制し、円筒部91の外周側をより確実にシールすることができる。
一般に、始動時のバルブタイミングを拘束する係合部材を有する装置においては、係合部材の背圧を低下させないと、係合を円滑に解除できなくなる。一方、上記背圧を低下させる際、装置のハウジング外にそのまま背圧を逃がす構成である場合、装置を駆動するベルトに作動油が付着してしまう。
これに対し、本実施例1の装置1では、ハウジングHSGのシール性を確保しつつ背圧室50の圧力を機関内の空間へ開放して低圧に維持する背圧逃がし部が設けられている。すなわち、背圧室50の背圧が開放される経路は、その途中でハウジングHSGの外部に連通することなく、機関内部に連通している。この背圧逃し部により、背圧室50内の油は機関内の空間に排出されるので、油分によるベルトBeltの劣化が生じず、ベルトBeltの耐久性を向上できる。
ハウジング本体10の外周には、プーリ100が一体成形されている。これにより、プーリを別部材としてハウジング部材に取り付けた場合に比べ、装置1を径方向に小型化できる。また、ハウジング本体10の軸方向全範囲にプーリ100を設けているため、ベルトBeltの幅の下限が決まっている場合でも、このベルトBeltと接合するプーリ(ベルトBeltと噛み合う歯)の幅を確保できる。言い換えると、下記のようにハウジング本体10の嵌合凹部101にリアプレート9を挿入固定することでハウジングHSGの軸方向幅をベルトBeltの幅と同程度に小さく(軸方向に薄く)した場合でも、ベルトBeltと噛み合って動力を伝達するのに十分なプーリ(歯)の幅を確保できる。
装置1では、ハウジング本体10の軸方向両端を、それぞれフロントプレート8及びリアプレート9により封止する。しかし、フロントプレート8及びリアプレート9の両方をハウジング本体10の軸方向両端面104,105にそのまま固定すると、装置1の軸方向寸法を十分に抑制できない。これに対し、本実施例1では、ハウジング本体10の軸方向一端に嵌合凹部101を形成し、この嵌合凹部101にリアプレート9を挿入固定しているため、装置1の寸法を軸方向にも小さくすることができる。ここで、リアプレート9はX軸方向の全範囲にわたって嵌合凹部101に挿入固定されているため、軸方向小型化の効果が大きい。
リアプレート9においては、ベーンロータ4からX軸方向に出没するロックピストン51が挿入されて係合する係合凹部521(スリーブ52を固定する凹部900)がX軸方向に形成される。よって、リアプレート9をフロントプレート8よりも肉厚に構成する必要がある。この比較的肉厚のリアプレート9をハウジング本体10の軸方向一端面104にそのまま当接した状態で固定すると、装置1全体の軸方向寸法が特に長くなってしまう。本実施例1は、嵌合凹部101に(フロントプレート8ではなく)リアプレート9を挿入固定しているため、装置1の軸方向寸法を効果的に小型化することができ、機関室への装置1の搭載自由度が大きい。
また、フロントプレート8、リアプレート9、及びハウジング本体10は、複数のボルトb1〜b3により締結されている。ここで、ボルトb1〜b3の雄ねじが螺着される雌ねじ孔はある程度の長さが必要であるところ、本実施例1では、係合凹部521と雌ねじ部を共にリアプレート9に形成しているため、装置1の軸方向寸法を小型化することに大きく貢献する。すなわち、フロントプレート8には雌ねじ孔等を特に形成する必要がないため、フロントプレート8は薄肉でよく、このためフロントプレート8をハウジング本体10の軸方向端面105にそのまま当接した状態で固定しても、装置1の軸方向長さが大きくなってしまうことがほとんどない。一方、係合凹部521を形成するためにもともと肉厚にならざるを得ないリアプレート9に雌ねじ部を設け、この肉厚のリアプレート9を嵌合凹部101に挿入固定しているため、装置1の軸方向寸法を効果的に小型化できる。
なお、係合凹部521をリアプレート9でなくフロントプレート8の側に設けることとしてもよい。また、ハウジング本体10のフロントプレート側にも嵌合凹部を形成し、フロントプレート8をこの嵌合凹部に挿入固定することも可能である。ただし、ロックピストン51の軸方向移動範囲をある程度確保する必要もあるため、本実施例1では、フロントプレート8をハウジング本体10の軸方向端面105にそのまま当接した状態で固定することで、ロックピストン51の軸方向移動範囲(ベーンロータ4の摺動用孔501のX軸方向長さ)を確保している。
嵌合凹部101とリアプレート9との接合部において、ハウジング本体10とリアプレート9の軸方向端面同士が対向する箇所(嵌合凹部101の底面102とリアプレート9のX軸負方向側の面との間)をシールしようとすると、寸法が不足する。すなわち、図6(c)に示すように、(シュー11等が形成された部位を除く)底面102の径方向幅(R−Ri)が、シール部材を設置したり、シール部材を設置するための溝(シール溝)を切削加工したりするためには短い。よって、軸方向端面同士が対向する箇所(嵌合凹部101の底面102)に十分なスペースを設けてシール部材を設置(シール溝を形成)しようとすれば、ハウジング本体10を径方向に大型化せざるを得ない。
一方、嵌合凹部101のX軸方向幅及びリアプレート9のX軸方向幅は、シール部材を設置(シール溝を形成)等してシールするために十分な寸法を有している。よって、嵌合凹部101の内周とリアプレート9の外周の間にシール部材を設置すれば、上記問題を解決できる。
ただし、ハウジング本体10の内周面(嵌合凹部101の壁面103)にシール溝を設けようとすれば、ハウジング本体10のプーリ100内周側における肉厚、すなわち径方向幅(Ro−R)の寸法が不足する。よって、ハウジング本体10の内周面(嵌合凹部101の壁面103)にシール溝を設ければ、径方向幅(Ro−R)を大きくしてハウジング本体10を径方向に大型化せざるを得ない。
これに対し、本実施例1では、リアプレート9の外周にシールリング溝906を設け、このシールリング溝906にシールリングS1を設置することで、嵌合凹部101とリアプレート9との接合部をシールしている。このようなシール構造により、径方向幅(Ro−R)、すなわちハウジング本体10の径方向肉厚を少なくして、装置1の径方向寸法の増大を抑制しつつ、嵌合凹部101により装置1の軸方向寸法を小型化している。
一方、各シュー11〜13のX軸負方向側の面において、ボルト孔110〜130の周りには、シール部材を設置するために十分なスペースがある。よって、ボルト孔110〜130に対応するリアプレート9のボルト孔901〜903の周りにシールリング溝907〜909を設け、このシールリング溝907〜909にシールリングS2を設置してシールしている。
なお、リアプレート9のボルト孔901〜903を貫通させずに底部を設け、ボルト孔901〜903を有底の袋状とすることで、ボルト孔901〜903からの作動油の漏出を抑制することも可能ではある。しかし、この場合、ボルト孔901〜903の雌ねじにボルトb1〜b3を締結固定するためにはある程度のボルト孔901〜903の長さが必要であるところ、さらに底部を設けると、その分だけリアプレート9が軸方向に肉厚になってしまう。これに対し、本実施例1では、ボルト孔901〜903を貫通させて底部を不要とすることで、リアプレート9の軸方向寸法をできるだけ小さくして肉薄にしている。
なお、リアプレート9の凹部900は、ロックピストン51の係合に必要なX軸方向寸法があればよく、またピン孔904は、位置決めピン905の圧入固定に必要なX軸方向寸法があればよいため、底部を設けても、リアプレート9が軸方向に肉厚になってしまうことはない。よって、本実施例1では、凹部900とピン孔904をともに有底の袋状とすることで、シール部材を要することなく、ハウジングHSGの外部への作動油の漏出を抑制している。
一方、フロントプレート8とハウジング本体10との接合部をシールする構造についてみると、ハウジング本体10のX軸正方向側の端面105には嵌合凹部が設けられておらず、シール部材を設置するために十分な径方向スペースがある。すなわち、図6(a)に示すように、ハウジング本体10の径方向幅(Ro−Ri)が、シール部材を設置(シール溝を形成)するための寸法として十分な大きさがある。
よって、ハウジング本体10とフロントプレート8の軸方向端面同士が対向する箇所(ハウジング本体10の面105とフロントプレート8のX軸負方向側の面との間)に、シールリングS3を設置する。具体的には、フロントプレート8にシールリング溝89を設けている。
すなわち、シールリング溝をハウジング本体10の側に設けることとしてもよいが、ハウジング本体10は、その内周側に位相変更機構を収容するため中空であり、軸方向端において、強度を確保しつつシールリング溝を形成できるスペース(面積ないし肉厚)が限られている。一方、封止プレート8、9にはそのような制約がないため、シールリング溝の形成が容易である。よって、ハウジング本体10ではなく封止プレート8、9の側にシールリング溝907〜909,89を形成することで、装置1の製造コストを低減している。なお、封止プレート8、9を例えば型出し(鋳造)により作成し、シールリング溝を一体に形成すれば、製造コストがより安い。
ロックピストン51は、その先端(係合部511)がベーンロータ4のX軸負方向側に出没するように構成されているため、背圧室50はベーンロータ4(摺動用孔501)内のX軸正方向側に設けられている。一方、機関は、ベーンロータ4のX軸負方向側に位置している。よって、ハウジングHSGのシール性を維持しつつ背圧室50の圧力(油や空気)を機関内部の空間に逃がすためには、背圧逃し部は、ハウジングHSG内において、ベーンロータ4を一端側(X軸正方向側)から他端側(X軸負方向側)へ横切る通路(背圧穴407)を有する必要がある。
ここで、装置1では、ベーンロータ4をカムシャフト3に固定するための複数の固定部(ボルト穴403〜405)が、ロータ40に周方向に離間して設けられている。このため、上記通路(背圧穴407)を設ける際、これら固定部を避ける必要がある。また、ボルト穴403〜405に挿通されるカムボルト33〜35の頭部331〜351(ワッシャ332〜352を含む。以下同様)は、ロータ4のX軸正方向側の面に配置されている。よって、上記通路(背圧穴407)をロータ4のX軸正方向側の面に開口させた場合、頭部331〜351を避けて上記開口部を設ける必要もある。
そこで、固定部の外周側の範囲(各ボルト穴403〜405の内周面において回転軸Oから最も遠い部位よりも外側の範囲。言い換えると、X軸方向から見て、各ボルト穴403〜405を含んで各ボルト穴403〜405に外接する1つの円の外側の範囲)、より具体的には、頭部331〜351の外周側の範囲(頭部331〜351に外接する1つの円の外側の範囲)に背圧穴407を設けることが考えられる。
しかし、この場合、ロータ40が径方向に大型化してしまう。
これに対し、本実施例1では、固定部(ボルト穴403〜405)よりも内周側(回転中心O側)の範囲(ボルト穴403〜405に外接する上記円の内側の範囲)、具体的にはロータ40の回転中心部(回転軸O上)に、背圧穴407を設けている。(ここで、本実施例1では、固定部としてボルト穴403〜405を設け、カムボルト33〜35は頭部331〜351を有し、背圧穴407はロータ40のX軸正方向側に開口する構成を採用しているため、背圧穴407は頭部331〜351と干渉せずに開口することを前提とする。)
よって、背圧穴407用のスペースをロータ40の外周側に別途設ける必要がないため、ロータ40(ベーンロータ4)を径方向に小型化し、装置1をコンパクト化できる。
言い換えると、本実施例1では、カムボルト33〜35が挿通するボルト穴を複数設けた為、1つだけ設けた場合と異なり、ロータ40及びカムシャフト3において、ボルト穴の外周側だけでなく、各ボルト穴に挟まれた部分、すなわち各ボルト穴よりも内周側の部位(例えば回転軸O上)にも穴を設けるスペースが生まれる。よって、このスペースを利用して背圧穴407を設けている。
なお、本実施例1では、背圧穴407をロータ40にX軸方向に貫通形成し、カムシャフト3内の第1背圧通路31とX軸方向で対向した位置に背圧穴407を配置しているが、背圧穴407をX軸に対して傾けて貫通形成し、ロータ40のX軸負方向側の面における背圧穴407の開口を第1背圧通路31とX軸方向で対向させてもよい。また、背圧室50と背圧穴407を連通させる第2背圧通路として、径方向溝58及び円形溝406の代わりに、ベーンロータ4の内部に別途形成した(斜めに穿設した)通路穴を用いてもよい。この場合、背圧穴407をロータ40のX軸正方向側(円形溝406)に開口させないことも可能である。また、背圧穴407のX軸負方向側における開口を第1背圧通路31と対向させず、背圧穴407のX軸負方向側開口と第1背圧通路31とを連通させる構成(溝や切り欠き)を、ロータ40のX軸負方向側端面やカムシャフト3のX軸正方向側端面に設けることとしてもよい。この場合、第1背圧通路31の位置にあまり拘束されずに、背圧穴407を配置することができるため、設計自由度が高い。
本実施例1では、背圧穴407をX軸方向に形成しているため、背圧穴407を斜めに穿設する必要がない。また、背圧穴407のX軸負方向側の開口を第1背圧通路31と対向した位置に設けているため、上記のような溝や切り欠きを設けたりする必要がない。よって、加工性や製造コストの点で有利である。
しかし、背圧穴407の上記開口を第1背圧通路31と対向して設けた場合、カムシャフト3内に形成された(第1背圧通路31以外の)油路との位置関係を考慮して、背圧穴407を配置する必要がある。すなわち、カムシャフト3内においてX軸方向に形成される第1背圧通路31は、X軸方向から見て、第1油通路202,212や第2油通路201,203,211,213(図3参照)、さらには溝200,210,204,214と重ならない位置に配置される必要がある。よって、第1背圧通路31とX軸方向で対向する背圧穴407の上記開口も、同様の位置に配置される必要がある。
例えば、背圧穴407(の上記開口)をボルト穴403〜405よりも内周側に配置する際、周方向でボルト穴404,405の間やボルト穴405,403の間に配置すれば、背圧穴407の上記開口とX軸方向で対向する第1背圧通路31も、同様の位置に配置することとなり、この場合、カムシャフト3の内部で第1背圧通路31が第1油通路202等や第2油通路201等と干渉するおそれがある。
よって、X軸方向から見て、背圧穴407を、第1油通路202等や第2油通路201等が設けられていないボルト穴403,404の間に設けることが有利である。
本実施例1において、カムシャフト3内の油路のうち最も内周側(回転中心O側)に位置するのは、第1油通路202,212であり、X軸方向から見て、これら第1油通路202,212の各中心軸とボルト穴403〜405の各中心軸は、回転軸Oを中心とする略同一の円上に位置する。よって、ボルト穴403〜405の各中心を通る上記円よりも内周側の範囲であって、各ボルト穴403〜405と第1油通路202,212それ自身を除いたロータ部位に背圧穴407を設ければ、より容易・確実にカムシャフト3内の油路との干渉を回避できる。
より具体的には、第1油通路202,212よりも内周側(回転中心O側)の範囲(X軸方向から見て、回転軸Oを中心として第1油通路202,212に内接する1つの円の内側の範囲)に背圧穴407(の上記開口)を設ければ、カムシャフト3内における油路202等の配置を特に変更する必要もなく、複数の固定部により固定強度を確保しつつ、ロータ40の径方向大型化を抑制できる。
言い換えると、本実施例1のように、3以上の固定部(ボルト穴)が周方向に離間して設けられ、周方向で固定部間のスペースが3以上ある場合、カムシャフト3内の進角用及び遅角用の2つの油通路(第1、第2油通路のセット2つ)がそれぞれ上記固定部間のいずれかのスペースに配置されると、油通路が設けられない固定部間のスペースが周方向に存在することになる。よって、このスペースに背圧穴407(及び第1背圧通路31)を配置することが可能である。例えば本実施例1において、周方向でボルト穴403,404間に背圧穴407(及び第1背圧通路31)を設けることも可能であり、この場合、背圧穴407と背圧室50との距離がより近くなるため、有利である。例えば、円形溝406を設けないこととした場合でも、径方向溝58を内径側に若干延長するだけで、背圧穴407と背圧室50を連通させることができる。
本実施例1では、特に、ロータ40の回転中心部に背圧穴407を設けている。
よって、ベーンロータ4の回転軸Oの周りのバランスを向上できる。また、(X軸方向に延びる)背圧穴407からロータ40の外周までの径方向距離が、ロータ40の全周にわたって略等しくなる。このため、ボルト穴403〜405を設ける際、ロータ40の径方向肉厚を確保して強度を確保できるとともに、ボルト穴403〜405を周方向対称(回転軸周りに対称)に設けることが容易となって、ベーンロータ4の回転軸周りのバランスをより向上できる。
本実施例1では、ロータ40には有底のカムシャフト挿通穴402及び円形溝406が設けられており、背圧穴407はこれらの底面に配置され、開口している。言い換えると、背圧穴407が形成されるロータ部位のX軸方向の厚さは、カムシャフト挿通穴402や円形溝406が設けられている分だけ薄くなっているため、ロータ40に背圧穴407を形成する際、その穿設加工が容易である。このように、背圧穴407の加工性を向上しつつ、背圧穴407を比較的小径(カムシャフト3の第1背圧通路31よりも小径)とすることで、ロータ40の小型化を実現している。
具体的には、第1背圧通路31は、(背圧穴407の上記開口と対向するように)カムシャフト3の回転中心部(回転軸O上)に形成されている。よって、カムシャフト3の回転軸周りのバランスがよい。また、機関潤滑用にカムシャフト3内に形成された油路と第1背圧通路31との接続も容易である。上記潤滑用の油路は回転軸O上に設けられることが多いからである。さらに、第1背圧通路31が比較的長くても穿設が容易であり、カムシャフト3の強度上も有利である。そして、カムシャフト3内の油路202等のレイアウト自由度を向上できる。すなわち、カムシャフト3の内部において第1背圧通路31の周りに等しく多くのスペースを残せるため、このスペースを利用して、油路202等を任意の位置に配置することがより容易である。
なお、ロータ40のような小型化の要請がカムシャフト3には特にないため、第1背圧通路31は背圧穴407より大径であってもよく、これにより第1背圧通路31を加工しやすいという利点がある。
円形溝406には、背圧穴407だけでなくボルト穴403〜405が配置されている。言い換えると、円形溝406は、カムボルト頭部331〜351の設置用スペースと背圧逃し部とを兼ねている。円形溝406に頭部331〜351が設置されることで、頭部331〜351がベーンロータ4の軸方向先端面に対してX軸正方向側(フロントプレート8の側)に過度に出っ張らないで済む。
円形溝406と対向するキャップ7の面には凹部73が設けられており、ベーンロータ4の軸方向先端面から出っ張った頭部331〜351の先端部分を収容する。すなわち、図3に示すように、円形溝406に設置されたカムボルト頭部331〜351の一部(先端)が、凹部73に入り込んで設置されるように構成されている。よって、装置1の軸方向寸法を抑制できる。
なお、円形溝406の代わりに、頭部331〜351を設置するための凹部(溝)をカムボルト毎にロータ40に設けてもよい。言い換えると、円形溝406の形状は円形に限られない。本実施例1のように円形である場合、加工が容易であり、また肉抜きする量が比較的大きいため、ベーンロータ4の慣性質量を減らすことができる。
また、円形溝406を省略することとしてもよい。この場合、例えば径方向溝58を回転中心O側に延長して背圧穴407と連通させることで、背圧逃がし部を構成することができる。
本実施例1のように軸方向に延在する凹凸を有するプーリを設けた場合、プーリに装着されたベルトの軸方向移動が生じやすい。装置1aにおいて、ハウジングHSGのX軸正方向側に設けられたフロントプレート8は、ベルトBeltの移動を規制するベルトガイドを構成している。すなわち、フロントプレート8の外周部80は、プーリ100の凹溝の底部よりも外径方向にはみ出し、その外縁部がプーリの歯底の外周側に延在するように設けられているため、プーリ100に掛け渡されたベルトBeltがX軸正方向に移動しようとしても、外周部80に当接して移動できない。このように、フロントプレート8(外周部80)は、ベルトのガイド機能を発揮し、ベルトBeltがX軸正方向側にズレることを規制する。
ここで、フロントプレート8(外周部80)の外周縁は、プーリ100に装着されたベルトBelt(の外周縁)よりも外周側に延在している。よって、ベルトBeltの移動(位置ずれ)をより確実に規制することができ、ガイド機能を向上できる。
なお、ベルトガイドは、必ずベルトBeltよりも外周側に延在している必要はなく、プーリ100の凹溝の底部より外周側に延在していればよい。
また、フロントプレート8の外周においては、ベルトBeltとプーリ100とが接触する範囲(図1の装置1aでは略90度の範囲)で、プーリ100の凹溝の底よりも外径方向にはみ出す部分があれば足り、フロントプレート8の周方向全てにおいて(凹溝の底部よりも外径側に延在する)外周部80を設けなくてもよい。
ベルトBeltのX軸正方向側の移動を規制すれば、X軸負方向側の移動(さらにはプーリ100からの脱落)をも規制することが可能である。すなわち、プーリ100の少なくとも軸方向一端側にベルトガイドを設ければ足り、軸方向他端側にもベルトガイドを設けなくてもよい。
また、装置1bにベルトガイドが設けられていなくても、装置1aと装置1bの各プーリ100に掛け渡されたベルトBeltの移動は、装置1aの上記ベルトガイドのみにより、X軸両方向において規制されるため、問題はない。
近年、車両を小型化する要求があるにも関わらず、機関の周辺機器(補機類)が非常に多くなっている。このため、機関室内に機関及び補機類等を搭載する際、極力隙間を作らないようにしている。よって、バルブタイミング制御装置がほんの少し大きくなっただけで該装置の機関室への搭載が難しくなってしまうことから、ミリメートル単位での寸法設計が必要とされている。例えば、装置が機関室の側壁の近傍に配置された場合、装置の外周側におけるベルトガイドが側壁と干渉すると、装置の搭載性が悪化するおそれがある。
これに対し、本実施例1では、機関室の側壁Wから遠い側の(吸気カムシャフト3aに固定される)装置1aにベルトガイドが設けられている。言い換えると、側壁Wに比較的近く、側壁Wに隣接する側の(排気カムシャフト3bに固定される)装置1bには、ベルトガイドが設けられていない。よって、ベルトガイドが側壁Wと干渉する事態を回避し、装置1a、1bの搭載性悪化を抑制できる。
具体的には、側壁Wには突出部W1が存在しており、シリンダブロックの幅方向外側に設置された装置1bの外周部は、X軸方向においても(図15参照)、X軸に対して直角方向においても(図1参照)、突出部W1に近接しうる。特に、装置1bの外周におけるX軸方向端部は、突出部W1と干渉しやすい。
これに対し、装置1bのプーリ100の凹溝のX軸両方向端は開放されている。よって、突出部W1がどのような形状を取ったとしても、この突出部W1に対して装置1bの外周部(X軸両方向端部)が干渉するおそれが少なくなる。装置1aとは異なり、X軸正方向端において、装置1bのフロントプレート8は、プーリ凹溝の底部よりも外周側に延在する外周部(ベルトガイド)を有しておらず、プーリ凹溝のX軸正方向端は完全開放されているため、突出部W1との干渉が効果的に抑制される。X軸負方向端においてもベルトガイドは設けられておらず、プーリ凹溝のX軸負方向端は完全開放されているため、突出部W1との干渉が抑制される。よって、機関室内における(装置1が設置された)機関のレイアウト自由度を向上できる。
本実施例1では、特に装置1bのX軸正方向側(シリンダブロックから遠い側、カムシャフト先端側)における寸法制約が厳しい車両(図15参照)において効果的に搭載性を向上できる。なぜなら、装置1aのベルトガイドはフロントプレート8側(X軸正方向側)に設けられているため、装置1bにおいても、ベルトBeltの移動は、X軸負方向側よりもX軸正方向側のほうが確実に規制されるからである。
なお、装置1aにおいてX軸負方向側にベルトガイドを設けた場合には、同様の理由で、装置1bのX軸負方向側(シリンダブロックに近い側、カムシャフト側)における機関室内の寸法制約が厳しい車両において効果的に搭載性を向上できる。
なお、装置1bにおいてプーリ凹溝のX軸正方向端が完全に開放されていなくても、部分的に開放されていれば、本実施例1よりも効果は小さくなるものの、ある程度の効果を得ることができる。すなわち、仮に、装置1bのフロントプレート8を本実施例1よりも大径として外周部を設け、これをベルトガイドとした場合であっても、プーリ100の歯先円の径よりもベルトガイドの最大径が小さければ、このベルトガイドと突出部W1との干渉を、ある程度は抑制できる。さらに、効果はより小さくなるものの、装置1bのプーリ凹溝のX軸正方向端を完全に塞ぐベルトガイドを設けた場合であっても、このベルトガイドが、プーリ100に掛け渡されたベルトBeltの外周面よりも外側にはみださなければ、このベルトガイドと突出部W1の干渉を、ある程度は抑制できる。すなわち、装置1aの(ベルトBeltよりも外周側に延在した)ベルトガイドをそのまま装置1bに適用した場合に比べ、装置1bの最大径は装置1aよりも小さいため、装置1a、1bが設けられた機関全体の幅方向寸法を抑制することが可能であり、その分だけレイアウト自由度を向上できる。
ただし、本実施例1のように、V型機関の搭載車両では、シリンダブロックの幅方向両外側に配置された装置が、機関室の側壁に向かって張り出してしまう。加えて、V型機関は近年大型化する傾向にある。よって、他の形式の機関よりも厳しい寸法管理が要求されている。
本実施例1では、このようなV型機関において、機関室の側壁から遠い側の装置1aにベルトガイドを設けている。よって、より厳しい寸法管理が要求される上記機関において、搭載性の悪化をより効果的に抑制することができる。
具体的には、1つのバンクに着目した場合、このバンクにおける複数のカムシャフト3a,3bのうち、他方のバンク(相手側バンク)と対向する側のカムシャフト3aに固定される装置1aのみに、ベルトガイドが設けられている。すなわち、相手側バンクと対向する側のカムシャフト3aは、同じバンク内の他のカムシャフト3bよりも(シリンダブロック幅方向)内側にあり、機関室の側壁Wから遠い側である。このカムシャフト3aに固定される装置1aにベルトガイドを設けている。言い換えると、各バンクの外側のカムシャフト3bに固定される装置1bにはベルトガイドが設けられておらず、プーリ凹溝の軸方向両端が開放されている。
なお、本実施例1では、両方のバンクにおいて上記構成を適用することとしたが、一方のバンクのみにおいて上記構成を適用してもよい。
本実施例1では、1本のベルトを両バンクの装置1a,1bに巻装し、このベルトにより両バンクのカムシャフトを駆動することとしたが、クランクシャフトにより回転駆動される2本のベルトを設け、各ベルトを、それぞれ対応する各バンクの装置1a,1bに巻装して、ベルト毎に各バンクのカムシャフトを駆動することとしてもよい。
また、V型機関が搭載される際、カムシャフトが車両の前後方向に対して交差する方向、例えば車両前後方向に対して略直交する方向(車幅方向)に配置される車両では、シリンダブロックの幅方向外側に設置された装置が、機関室の前後側壁に向かって張り出してしまう。よって、さらに厳しい寸法管理が要求されることとなる。
本実施例1では、上記のように配置されたV型機関に取り付けられる装置1a、1bのうち、機関室の前後側壁から遠い側の装置1aにベルトガイドを設けているため、搭載性の悪化を効果的に抑制することができる。
なお、カムシャフトが車両の前後方向に対して任意の角度をもって配置されたり、車両の前後方向に沿って配置されたりした(任意の形式の)機関に上記構成を適用してもよい。
装置1aと装置1bの間で、ハウジング本体10の素材(P3)とベーンロータ4の素材(Q2)を共用化している。すなわち、同一の押出し素材(P3、Q2)の反対側の面(A面、B面)からそれぞれ切削加工を実施することで、装置1aと装置1bのハウジング本体10及びベーンロータ4の形状を得ている。言い換えると、装置1bのベーンロータ4及びハウジング本体10を表裏反転させて各部位を鏡像配置したものを、装置1aにも用いる。このようにベーンロータ4等の素材(材料)に互換性を持たせることで、装置1a、1bの製造工程を簡略化し、コストを低減できる。
また、排気側の装置1bのストッパ部を鏡像配置したものを、吸気側の装置1aに用いる。これにより、装置1a、1bの両方において、初期位置で、当接面積の大きいほうの第1ストッパ部が当接することを可能とし(図4、図16)、ストッパ部の変形及び回転規制位置の変化を抑制することができる。
装置1の構成部材(ハウジングHSG、ベーンロータ4)は、押出成形以外の他の方法、例えばダイカスト等により成形することとしてもよい。
本実施例1では、押出し成形を利用することで、大量生産を容易にしている。
ハウジング本体10についてみると、押出し成形により長尺の連続体P1、P2を得て、これを切断することで、同形状の複数の母材P3を一度に得る。このように比較的少ない工程で多数の母材P3を得る。さらに、これら母材P3を装置1a、1bで共用する。このため、生産効率がよく、製造工程を簡略化して製造コストを低減できる。
ハウジング本体10においては軸方向に延びる凸部が周方向に複数形成されることで、プーリ100が構成されている。よって、押出工程(一次加工品P1)の段階で複数のハウジング本体10のプーリ100を一度に成形することができるため、個々のハウジング本体10ごとにプーリを成形する必要がない。このため、工数を低減できるとともに、成形が容易であり、加工コストを削減できる。
また、例えばダイカスト(高圧鋳造)でハウジング本体10を成形した場合には、抜き勾配(テーパ)ができてしまう。ハウジング本体10の外周に抜き勾配ができてしまうと、例えばプーリ100をハウジング本体10の外周に一体に形成しようとした場合、プーリ100の凸部(歯)の精度を確保することが難しい。これに対し、押出し成形によれば抜き勾配ができないため、プーリ100等を精度よく加工することができる。
ベーンロータ4についてみると、押出し成形により長尺の連続体Q1を得て、これを切断することで、同形状の複数の母材Q2を一度に得る。このように少ない工程で多数の母材Q2を得る。さらに、これらを装置1a、1bで共用する。このため、生産効率がよく、製造工程を簡略化して製造コストを低減できる。
本実施例1では、装置1の構成部材を製造する工程の順序(製造方法)を工夫したことで、製造コストを低減できる。
ハウジング本体10についてみると、押出し工程、被膜処理工程、切断工程(及び切削工程)の順に製造される。すなわち、切断して複数の二次加工品P2にする前の一次加工品P1の段階で表面処理を施す。
仮に、押出し工程、切断工程(及び切削工程)、被膜処理工程の順序にした場合、押出し成形された母材P1を切断した後、複数の部品の1つ1つに陽極酸化処理を施すことになるため、工数や時間が増加し、コストアップにつながる。
また、この場合、上記のようにシールリングSとハウジング本体10との密着性を確保してシール性を維持するためには、ハウジング本体10の開口端面105(及び面102,103)に形成された陽極酸化被膜に完全な封孔処理を施したり、被膜自体を除去したりしなければならない。すなわち、複数の部品の1つ1つについて、封止プレート8,9とのシール面(シールリングSとの当接面)をさらに処理しなければならず、これによっても大きな処理コスト(工数や時間)が発生する。
これに対し、本実施例1では、押出し成形された母材P1全体をそのまま陽極酸化処理し、その後に切断するようにした。よって、陽極酸化処理を一度に(一回の工程で)行うことができるため、処理コストを低減できる。
また、切断工程で得られる切断面を、そのままシールリングSとの当接面に用いた。すなわち、押出し工程と切断工程により、ハウジング本体10は軸方向両端が開口する形状に成形される。この開口端を封止するための封止プレート8,9とハウジング本体10との間には、その隙間をシールするためのシールリングS1〜S3が設けられている。ここで、切断されたハウジング本体10の軸方向一端面(X軸正方向側の切断面105)を、そのままシールリングS3との当接面(シール面)として利用する。この切断面105には陽極酸化被膜が形成されていないため、シールリングS3との密着性を確保し、シール性を良好に維持することができる。よって、ハウジング本体10の開口端(X軸正方向端)において、陽極酸化被膜を完全封孔処理する等の必要がないため、処理コストをより低減できる。なお、アルミ系金属材料の母材層が現れた切断面105をそのままシール面として利用するため、(シール性を維持可能な)被膜を別途形成する等の処理が不要であり、処理コストをさらに低減できる。
また、切断されたハウジング本体10の軸方向他端面(X軸負方向側の開口端)を切削加工する切削工程を有する。切断面と同様、切削加工面には陽極酸化被膜が形成されていないため、切削加工面の任意の部位でシールリングSを当接させれば、切断面で当接させたときと同様、シール性を維持しつつ処理コストを低減できる。言い換えると、ハウジング本体10の軸方向端面を任意形状に切削加工してもシール性を維持できるため、装置1の設計自由度を向上できる。例えば、本実施例1では、ハウジング本体10のX軸負方向側の端面104を切削加工して嵌合凹部101を形成し、嵌合凹部101内にリアプレート9を挿入固定することで、装置1を軸方向に小型化できる。ここで、切削加工面である嵌合凹部101(底面102、壁面103)には陽極酸化被膜が形成されていないため、シールリングS1との密着性を維持できる。
なお、切断工程で得られた一部のハウジング本体10(具体的には、母材P1の両端から取り出されたハウジング本体)の軸方向端面に陽極酸化被膜が施されていても、切削加工により陽極酸化被膜を除去してこの面をシールリングS1,S2との当接面とすることで、シール性を維持できる。
なお、ハウジング本体の軸方向両端面を切削加工することとしてもよい。
また、切削工程を省略することとしてもよい。この場合、軸方向両側の切断面をそのままシールリングSとの当接面とすることができる。
ベーンロータ4についてみると、押出し工程、切断工程、切削工程、被膜処理工程の順に製造される。
よって、ベーンロータ4の表面の摺動部位に陽極酸化被膜を施す工程が1つで足り、ベーンロータ4の硬度や耐摩耗性を向上できる装置を容易に製造することができる。
すなわち、ベーン41〜43とロータ40とボス部401を成形した後、その表面全体に陽極酸化処理を施す。よって、ハウジングHSGに対して摺動するベーン41〜43等の表面(ベーンロータ4の軸方向端面における封止プレート8,9との摺動部や、ボス部401におけるハウジングHSGとの摺動部)に陽極酸化被膜を施す工程が1つで足りる。
また、切削工程でロック機構の摺動用孔501を成形した後、(摺動用孔501の内周面を含む)ベーンロータ4の表面全体に一度に陽極酸化処理を行う。よって、摺動用孔501に封止部材502が傾いて組み付けられることやロックピストン51の大径部513が摺動することに起因する摩耗を抑制できる装置を、容易に製造することができる。
なお、ベーンロータ4の外周面やハウジング本体10の内周面において、シール部材118等やシール部材413等との摺接部においても陽極酸化被膜を施しているため、作動油室A,R間のシール性が低下することも一応は考えられる。しかし、この部位は、ハウジングHSG内外(ハウジング本体10の軸方向端)ほどは厳密なシール性が要求されないため、この部位に陽極酸化被膜を施しても、シール性について問題はない。
クランクシャフトに対するカムシャフト3の初期位相の決定は、装置1の取付け時に、位置決めピン45等の位置決め手段を用いて行われる。位置決め手段の作用を説明するため、装置1の機関への取付け手順の概略を最初に説明する。
装置1を機関に取付ける際には、キャップ7を除き一体に組み付けられたユニットをカムシャフト3に取り付け、その後、キャップ7を締結する。
まず、カムシャフト3の端部30を、X軸負方向側から、上記ユニットのハウジングHSGに形成された挿通孔92に挿通するとともに、ハウジングHSG内に収容されたベーンロータ4のカムシャフト挿通穴402に挿通・設置する。
次に、カムボルト33〜35を、X軸正方向側から、ハウジングHSGの大径孔81を通って、ベーンロータ4のボルト穴403〜405に挿通するとともに、カムシャフト3のボルト穴32に挿通・固定する。そして、シールリングS4をシールリング溝821に設置・保持した状態で、キャップ7をハウジングHSG(雌ねじ部82)に締め付け固定し、大径孔81を塞ぐ。シールリング溝821を設けているため、シールリングS4の保持が容易であり、組付け性を向上することができる。
カムシャフト挿通穴402の底面には1つの凹部44が設けられている。また、カムシャフト端面300には、第1油通路212の開口により凹部が構成され、この凹部に位置決めピン45が挿入されることで1つの凸部が設けられている。
端部30をカムシャフト挿通穴402に設置する際、上記凸部(位置決めピン45)が凹部44に嵌合しつつ、端部30がカムシャフト挿通穴402の底面側に挿入されることで、上記底面とカムシャフト端面300とが当接する。このとき、上記嵌合により、ベーンロータ4とカムシャフト3の相対回転が拘束され、回転方向(周方向)の相対位置決めが行われる。これにより、カムシャフト3(ベーンロータ4)とクランクシャフト(ハウジングHSG)の相対回転位相が決定される。
このように、位置決めピン45は、第1油通路212の盲プラグとしてその開口を塞ぐとともに、凹部44に係合されることで上記位置決め機能をも果たす。位置決めピン45(第1油通路212)と凹部44は、装置1をカムシャフト3に取り付ける際、カムシャフト3に対するベーンロータ4の回転位置、すなわちカムシャフト3とクランクシャフトとの相対回転位相を調整し、決定するための位置決め手段を構成している。
なお、凹部44はそこに位置決めピン45を嵌合して周方向の相対回転を拘束できるものであればよく、長円状に限らず、例えば円形の断面形状を有していてもよい。本実施例1のように長円状の断面としてロータ径方向に寸法の余裕を持たせることで、製造誤差等を吸収でき、ピン45の嵌合が容易である。
第1油通路212は、作動油の通路として機能すると共に、位置決めピン45の固定穴として機能する。よって、端部30に位置決め用の凸部を設ける際、別途加工を施す必要がないため、製造コストを低減できる。
カムシャフト3内に設けられた他の第1油通路202のカムシャフト端面300側における開口部分は、カムシャフト挿通穴402の底面に密着し、これによって塞がれるため、盲プラグが不要である。よって、部品点数および製造コストを低減できる。
なお、カムシャフト挿通穴402の底面に1つの凸部を設け、この凸部をカムシャフト端面300側の凹部(例えば第1油通路212の開口)に嵌合させることで、上記位置決めを実現してもよい。本実施例1のようにカムシャフト端面300に凸部を設ける場合、穴の底(カムシャフト挿通穴402の底面)に凸部を設ける場合に比べて、作業が容易である。
また、凸部を設ける方法として、ピン孔とピンによるのではなく、加工等により直接形成してもよい。本実施例1のようにピン等による場合、直接形成する場合に比べ、簡便であり、位置決めに適したピン(ダウエルピン)を適宜選択することができて有利である。凹部を設ける方法として、油通路の開口を利用するのではなく、別途加工等により形成してもよい。
これに対し、本実施例1では、機関に装置1を取り付ける際、端部30を(挿通孔92を介して)カムシャフト挿通穴402に挿通するとき、ベーンロータ4から回転軸方向に延出されたボス部401が予め挿通孔92に挿通され、ベーンロータ4の回転軸がハウジングHSGの回転軸と略一致するように両者が位置決めされているため、挿通しやすい。すなわち、ハウジングHSGとカムシャフト3との間の隙間の精度に注意を払わなくても、端部30をカムシャフト挿通穴402に挿通すればハウジングHSGの回転軸とカムシャフト3の回転軸は自動的に略一致するため、ベーンロータ4をカムシャフト3に容易に取付けることが可能である。また、ハウジングHSGは予めボス部401により所定角度回動可能に軸受されているため、ハウジングHSGの軸受けのために端部30を延長する等、取付けに適合する更なる設計を必要としない。よって、既存の機関に装置を取付けることが容易である。
以下、実施例1から把握される各発明を説明する。
[発明1]
従来、内燃機関のバルブタイミングを変更する装置が知られている。例えば、特開平5−113112号公報(特許文献1)に記載の装置は、ハウジング部材の外周に設けられたプーリにベルトが掛け渡されてクランクシャフトの回転力が伝達され、ハウジング部材がクランクシャフトと同期して回転する。ハウジング部材内には位相変更機構が収容されており、作動油の給排により位相変更機構が作動することでバルブタイミング(クランクシャフトに対するカムシャフトの回転位相)が変更される。
ここで、プーリに掛け渡されたベルトに作動油が付着すると、このベルトが劣化してしまう。よって、ハウジング部材内の作動油が外部に漏れないようにシールをする必要がある。しかし、特許文献1に記載の装置では、このシール性について十分考慮されていなかった。発明1の目的とするところは、シール性を維持することが可能な内燃機関のバルブタイミング制御装置を提供することにある。
上記目的を達成するため、発明1に係る装置は、少なくとも一端が開口したハウジング本体と上記開口を封止する封止プレートとの間にシールリングを設け、シールリングが当接するハウジング本体の面には陽極酸化被膜層を形成しないようにした。
よって、シール性を維持することができる。
以下、実施例1から把握される、発明1の好ましい各形態及びその効果を列挙する。
ハウジング本体10の開口を封止するように、ハウジング本体10の上記軸方向一端側に固定された封止プレート8,9と、
ハウジング本体10内に収容され、作動油を給排することによってハウジング本体10に対するカムシャフト3の相対回転位相を変更する位相変更機構(ベーンロータ4)と、
ハウジング本体10と封止プレート8,9間に設けられたシールリングS1〜S3と、を備え、
ハウジング本体10は、アルミ系金属材料によって成形されていると共に、外周面には陽極酸化被膜層が形成され、シールリングS1〜S3が当接する面(端面105、底面102、壁面103)には陽極酸化被膜層が形成されていないこととした。
よって、ハウジング本体10にプーリ100が一体成形されているため、装置1を径方向に小型化できる。
ハウジング本体10がアルミ系金属材料によって成形されているため、装置1を軽量化できる。
ハウジング本体10の外周面に陽極酸化被膜層が形成されているため、プーリ100の耐摩耗性を向上できる。
シールリングS1〜S3が当接する面105,102,103には陽極酸化被膜層が形成されていないため、シールリングS1〜S3によるシール性を維持し、プーリ100に掛け渡されるベルトBeltの劣化を抑制することができる。
シールリングS1〜S3は作動油室の上記軸方向一端側を封止する。
よって、(2)のようなベーン式の位相変更機構を有する装置に(1)を適用できる。
よって、母材層をそのままシール面として利用すればよいため、ハウジング本体10の製造工数を省略し、製造コストを低減できる。
よって、位相変更機構(ベーンロータ4)が摺接するハウジング本体10の内周面の耐摩耗性を向上することができる。
よって、ボルトb1〜b3の軸力によりシールリングS1〜S3を軸方向に押し潰すことで、シール性を更に向上することができる。
よって、封止プレート8,9の耐久性を向上することができる。
また、ハウジング本体10と封止プレート8,9との密着度を増して、更なるシール性向上を図ることができる。
具体的には、封止プレート8,9は、鉄系金属材料によって成形されているため、上記効果を向上できる。
よって、ハウジング本体10の軸方向両端においてシール性を維持することができる。
よって、シールリングS1〜S3の保持を容易として装置の組み付け性を向上するとともに、封止プレート8、9の側に溝を形成することで装置1を小型化しつつ製造コストを低減することができる。
外周にクランクシャフトから回転力が伝達されるプーリ100が一体成形され、軸方向両端が開口した筒状のハウジング本体10と、
ハウジング本体10の開口を封止するように、ハウジング本体10の軸方向両端に固定された一対の封止プレート8,9と、
ハウジング本体10内に収容され、作動油を給排することによってハウジング本体10に対するカムシャフト3の相対回転位相を変更する位相変更機構(ベーンロータ4)と、
ハウジング本体10と封止プレート8,9間に設けられたシールリングS1〜S3と、
を備えた装置の製造方法であって、
ハウジング本体10は、アルミ系金属材料を押出して、押出し方向に延びるハウジング本体10の母材P1を成形する押出し工程と、押出し成形された母材P1の表面全体に陽極酸化被膜を施す被膜処理工程と、陽極酸化被膜が施された母材P2を所定長さに切断する切断工程とによって製造され、
切断工程で得られるハウジング本体10の少なくとも一方側の切断面(端面105)がシールリングS3との当接面となるようにした。
よって、押出し成形された1つの母材P1を複数のハウジング本体10に切断するため、生産効率がよい。
母材P1の段階で表面全体に陽極酸化処理を一度に行うことで、処理コストを低減できる。
陽極酸化被膜が施されていない切断面をシール面として利用することで、処理コストをより低減できる。
シールリングS1〜S3は作動油室の軸方向両端を封止する。
よって、(10)のようなベーン式の位相変更機構を有する装置に(9)の製造方法を適用できる。
よって、複数のハウジング本体10のプーリ100を一度に精度よく成形することができるため、製造コストを低減できる。
ハウジング本体10は、(9)と同様の押出し工程と被膜処理工程と切断工程、及び、切断されたハウジング本体10(P3)の少なくとも軸方向一端面(X軸負方向端面104)を切削加工する切削工程と、によって製造され、
切削工程で得られるハウジング本体10の少なくとも一方側(X軸負方向側)の切削加工面(壁面103、底面102)がシールリングS1,S2との当接面となるようにした。
よって、ハウジング本体10の開口端において、任意形状に切削加工しつつシール性を維持できるため、処理コストを低減しつつ装置の設計自由度を向上できる。
よって、切削加工面である嵌合凹部にシールリングS1,S2を設置することでシール性を維持しつつ、装置1を軸方向に小型化して搭載性を向上できる。
よって、装置1を径方向にも小型化できる。
従来、特開2001−115807(以下、特許文献2という。)に開示されているように、所謂ベーン式の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、ハウジングの軸受となるボス部をベーンロータに設けたものが考えられている。
しかし、この装置では、クランクシャフトから回転力が伝達される状態でハウジングが回転するため、ハウジングの軸受となるボス部には大きな荷重が作用する。よって、ボス部を含むベーンロータを比較的軟らかい材料、例えばアルミ系金属材料で製造した場合、ボス部に摩耗が生じてしまうという問題があった。
発明2の目的とするところは、ボス部の摩耗を低減することができる内燃機関のバルブタイミング制御装置を提供することにある。
上記目的を達成するため、発明2に係る装置は、ボス部におけるハウジングとの摺動部に被膜処理を施した。
よって、ボス部の摩耗を低減することができる。
以下、実施例1から把握される、発明2の好ましい各形態及びその効果を列挙する。
ハウジングHSG内に相対回転自在に収容され、挿通孔92の内周面と摺動するように回転軸Oの方向に延出され、カムシャフト3に固定されるボス部401を有するベーンロータ4と、を備え、
ベーンロータ4は、アルミ系金属材料によって成形されており、ボス部401における挿通孔92の内周面との摺動部には、陽極酸化被膜処理が施されていることとした。
よって、ボス部401が挿通孔92を介してハウジングHSGを軸受けするため、既存の機関のカムシャフト3に装置1を容易に取り付けることができる。
ベーンロータ4がアルミ系金属材料によって成形されているため、装置1を軽量化できる。
ボス部401における上記摺動部に陽極酸化被膜処理が施されているため、ボス部401の摩耗を抑制することができる。
また、ベーンロータ4は、ハウジングHSGとの間で作動油が給排される作動油室(進角室Aと遅角室R)を形成するベーン41〜43と、ベーン41〜43の内周に設けられたロータ40とから構成され、ボス部401はロータ40から回転軸方向に延出されている。
よって、ベーンロータ4におけるハウジングHSG(封止プレート8,9)との摺動部の耐摩耗性を向上できる。
よって、装置1の耐久性を向上できる。
具体的には、封止プレート8,9は、鉄系金属材料によって成形されていることとした。
よって、加工性やコスト等の面で有利である。
よって、ハウジングHSGに対して摺動する可能性があるベーンロータ4の表面全体を一度に処理することで、上記(1)(3)の効果をともに得ることができる装置を、容易に製造することができる。
よって、上記(5)と同様の効果を得ることができる。
具体的には、(2)と同様のハウジングHSGとベーンロータ4を備えた装置の製造方法であって、ベーンロータ4は、ベーン41〜43とロータ40とボス部401を成形した後に、ベーンロータ4の表面全体に陽極酸化被膜処理を行うことで製造されることとした。
よって、ベーンロータ4を一度に大量に製造することができ、製造コストを低減できる。
従来、カムシャフトに固定されると共に、ベルトが巻回されて回転力が伝達される内燃機関のバルブタイミング制御装置においては、ベルトがカムシャフトの回転軸方向で移動することを制限するため、特表2005−520084(以下、特許文献3という。)に開示されるように、ベルトガイドを設けている。
しかし、従来の装置では、内燃機関が設置される車両の機関室(エンジンルーム)内において、装置のベルトガイドが機関室の側壁に近づいてしまい、搭載性が悪化してしまうという問題があった。
発明3の目的とするところは、搭載性の悪化を抑制することができる内燃機関のバルブタイミング制御装置を提供することにある。
上記目的を達成するため、発明3に係る装置は、機関の吸気側及び排気側のカムシャフトに夫々固定され、互いの間にベルトが巻回されて回転力が伝達される装置であって、機関室の側壁から遠い側の装置にベルトガイドを設けた。
よって、搭載性の悪化を抑制することができる。
以下、実施例1から把握される、発明3の好ましい各形態及びその効果を列挙する。
ベルトBeltの少なくとも軸方向一方側(X軸正方向側)の移動を規制するベルトガイドが、車載される機関室の側壁Wから遠い側の装置1aに設けられ、側壁Wから近い側の装置1bに設けられていないこととした。
言い換えると、側壁Wから遠い側の装置1aのみに、ベルトガイドが設けられていることとした。
よって、機関室における装置1a、1bの搭載性の悪化を抑制することができる。
よって、軸方向に延在する凹凸を有するプーリ100を設けた場合、プーリ100に対するベルトBeltの軸方向移動が生じやすいところ、ベルトガイドによりベルトBeltの上記移動を効果的に制限することができる。
よって、装置1bの軸方向両端部が側壁W(突出部W1)と干渉するおそれが少なくなり、搭載性の悪化をより効果的に抑制することができる。
よって、ベルトガイド機能を向上できる。
第1バルブタイミング制御装置1aのフロントプレート8がベルトガイドを構成していることとした。
よって、ハウジング本体10の外周にプーリ100が一体成形されることで、装置1a、1bを径方向に小型化し、搭載性を向上できる。
また、装置1aのフロントプレート8によりベルトガイドを構成したため、機関室におけるカムシャフト軸方向先端側(X軸正方向側)の寸法制約が厳しい車両において、搭載性の悪化を効果的に抑制できる。
具体的には、カムシャフト3a,3bが車両の前後方向に対して略直交する方向に配置された機関に取り付けられる。
すなわち、本発明3は、カムシャフトが車両の前後方向に対して交差する方向に配置された機関に取り付けられる装置にも適用できる。
よって、より厳しい寸法管理が要求されるV型機関に本発明3を適用することで、上記(1)〜(6)の効果を向上できる。
特に、(6)のように、カムシャフト3a,3bが車両の前後方向に対して交差(略直交)する方向に配置されたV型機関に取り付けられる装置1a,1bに本発明3を適用すれば、さらに厳しい寸法管理が要求される上記装置1において、搭載性の悪化を効果的に抑制することができる。
具体的には、(同一バンクにおける複数の装置1a,1bにおいて)相手側バンクと対向する側のカムシャフト3aに固定される装置1aのみに、(1)と同様のベルトガイドが設けられていることとした。
より具体的には、軸方向に延在する凹凸を有するプーリ100が夫々の装置1a,1bに設けられると共に、プーリ100に回転力を伝達するベルトBeltが巻装され、
相手側バンクと対向する側のカムシャフト3aに固定される第1バルブタイミング制御装置1aのプーリ100の少なくとも軸方向一端には、プーリ100の凹溝の底部より外周側に延在するベルトガイドを有し、
バンクの外側のカムシャフト3bに固定される第2バルブタイミング制御装置1bのプーリ100は、凹溝の軸方向両端が開放されていることとした。
従来、外部から回転力が伝達されるハウジングと、このハウジング内に相対回転自在に収容されるベーンロータとを備えた、いわゆるベーン式の内燃機関のバルブタイミング制御装置が知られている。特開平11−218008号公報(以下、特許文献4という。)に開示された装置では、ベーンロータの回転中心部に設けた1本のボルトによってベーンロータをカムシャフトに固定している。
しかし、特許文献4に記載された装置では、例えばバルブスプリングからの交番トルクが作用すると、上記ボルトが緩んでしまうという問題があった。
発明4の目的とするところは、カムシャフトに対するベーンロータの固定強度を向上可能な内燃機関のバルブタイミング制御装置を提供することにある。
上記目的を達成するため、発明4に係る装置は、ベーンロータのロータに、周方向に夫々が離間して形成され、カムシャフトに固定するための複数の固定部を設けた。
よって、ベーンロータの固定強度を向上することができる。
以下、実施例1から把握される、発明4の好ましい各形態及びその効果を列挙する。
ベーンロータ4のロータ40に、周方向に夫々が離間して形成され、カムシャフト3に固定するための複数の固定部(ボルト穴403〜405)を設けた。
よって、固定部を複数設けることで、カムシャフト3に対するベーンロータ4の固定強度を向上することができる。複数の固定部を周方向に離間して形成したことで、固定強度を効果的に向上できる。
ベーンロータ4は、ハウジングHSG内で作動油が給排される作動油室(進角室A,遅角室R)を形成する複数のベーン41〜43と、ベーン41〜43の回転中心側に設けられたロータ40とを備え、
ベーンロータ4に回転軸Oの方向に形成されたシリンダ(摺動用孔501)と、
シリンダ内に摺動自在に設置され、機関の状態に応じてカムシャフト側(X軸負方向側)に出没する係合部材(ロックピストン51)と、
ハウジングHSG内におけるカムシャフト側の側面に設けられ、係合部材51が挿入可能な係合凹部521と、
シリンダ内に設けられた背圧室50に設置され、係合部材51を係合凹部521側に付勢する付勢部材(コイルスプリング53)と、
ロータ40をカムシャフト端面300に固定するための複数の固定部(ボルト穴403〜405)と、
ロータ40における前記複数の固定部よりも回転中心O側の範囲に設けられ、背圧室50の圧力を機関内の空間へ開放する背圧逃し部(背圧穴407)と、を備えた。
よって、回転力を伝達する部材としてベルトBeltを用いることにより、低コスト化や軽量化を図ることができる。
簡便なロック機構(シリンダ、係合部材、係合凹部、付勢部材)により、機関始動時に異音の発生を抑制できる等の効果を有する。
シリンダが回転軸方向に形成されていることで、ロック作動を安定化することができる。
背圧室50の圧力を開放する背圧逃し部により、ロック解除動作(係合凹部からの係合部材の離脱)を円滑化できる。
シリンダ内においてカムシャフト(機関)とは反対側(X軸正方向側)に背圧室50が配置されていても、背圧逃し部により、背圧室50内の油は機関内の空間に排出されるため、ベルトBeltの耐久性を向上できる。
ロータ40において、複数の固定部よりも回転中心側の範囲に背圧逃し部を設けたため、ロータ40(ベーンロータ4)を径方向に小型化し、装置1をコンパクト化できる。
具体的には、ハウジングHSGは内周に内側に向かって突出するシュー11〜13が成形されている。
複数のベーン41〜43は、シュー11〜13との間で作動油が給排される進角室Aと遅角室Rを形成する。
背圧逃し部(背圧穴407)は、前記油通路よりも回転中心O側の範囲に設けられていることとした。
よって、作動油の給排路(油路202等)の配置を変更する必要なしに、装置1をコンパクト化できる。
よって、ボルトを用いて締結固定するため、かしめや溶接等よりも組付け性がよく、固定強度の管理が容易である。
背圧穴407は、背圧室50と連通するとともに、ロータ40のカムシャフト3側(X軸負方向側)の面において第1背圧通路31と対向した位置に配置される。
第1背圧通路31は、カムシャフト3内に形成されてカムシャフト端面300と機関内の空間とを連通する。
よって、カムシャフト3の内部に呼吸穴としての第1背圧通路31を設けたため、装置1をコンパクトにすることができる。
また、背圧穴407の開口が第1背圧通路31と対向するため、加工性や製造コストの点で有利である。
よって、ベーンロータ4の回転軸周りのバランスを向上できる。
また、ロータ40の径方向肉厚を確保して強度を確保できる
よって、カムシャフト3の回転軸周りのバランスを向上できる等の効果を有する。
また、上記(6)の効果を得ることができる。
よって、ベーンロータ4及びカムシャフト3の回転軸回りのバランスをとりやすい。
具体的には、上記複数の固定部がボルト挿通穴(ボルト穴403〜405)であるため、ロータ40の強度を確保できる等の効果をさらに有する。
連通穴は、カムシャフト挿通穴402から径方向に貫通形成されている。
よって、背圧逃がし部(背圧穴407)の加工性やレイアウト性を向上し、ロータ40を小型化することを容易にできる。
よって、盲プラグが不要であり、部品点数および製造コストを低減できる。
よって、上記位置決めの手段として、第1油通路212の開口を位置決めピン45の固定穴として利用するため、製造コストを低減できる。
背圧穴407は、第2背圧通路を介して背圧室50と連通する。
第2背圧通路は、ベーンロータ4の回転軸方向先端面(X軸正方向側)に形成された溝(径方向溝58及び円形溝406)によって構成されている。
よって、ベーンロータ4の作動性を確保しつつ、ハウジングHSGの軸方向寸法を抑制して装置1を小型化できる。
よって、カムボルト頭部331〜351の突出を抑制して装置1を軸方向に小型化可能である。
また、背圧穴407の加工性やレイアウト性を向上し、ロータ40を小型化することが容易である。
よって、装置1の取付け性を向上しつつ、ベルトBeltの劣化を抑制できる。
よって、カムボルト頭部331〜351の突出を収容し、装置1を軸方向に小型化可能である。
従来、いわゆるベーン式の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、機関始動時にベーンロータとハウジングとの相対回転を規制する係合部材を備えたものが知られている。特開2000−2104号公報(以下、特許文献5という。)に開示された装置では、ベーンロータに形成されたシリンダ内に係合部材が設置されており、シリンダ内に固定された中空部材の内周に係合部材が摺動自在に設けられている。
しかし、特許文献5に記載された装置では、シリンダ内に中空部材が傾いて固定されると、係合部材が傾いて設置されてしまうという問題があった。
発明5の目的とするところは、係合部材の傾きを抑制可能な内燃機関のバルブタイミング制御装置を提供することにある。
上記目的を達成するため、発明5に係る装置は、中空部材が固定されるシリンダの表面に被膜処理を施した。
よって、係合部材の傾きを抑制することができる。
以下、実施例1から把握される、発明5の好ましい各形態及びその効果を列挙する。
ハウジングHSG内に相対回転自在に収容され、作動油が給排される作動油室(進角室A、遅角室R)を形成する複数のベーン41〜43を備え、アルミ系金属材料にて成形されたベーンロータ4と、
ベーンロータ4に形成され、表面に陽極酸化被膜処理が施されたシリンダ(摺動用孔501)と、
シリンダの内部に固定される中空部材(封止部材502)と、
中空部材の内周に摺動自在に設置され、機関の状態に応じて先端がベーンロータ4に対し出没するロック部材(ロックピストン51)と、
ハウジングHSG内におけるロック部材の先端と対向する側面に設けられ、ロック部材の先端が挿入可能なロック凹部(係合凹部521)と、
シリンダ内に設けられ、ロック部材をロック凹部側に付勢する付勢部材(コイルスプリング53)と、を備えた。
よって、簡便なロック機構(シリンダ、ロック部材、ロック凹部、付勢部材)により、機関始動時に異音発生を抑制できる等の効果を有する。
ベーンロータ4がアルミ系金属材料によって成形されているため、装置1を軽量化できる。
陽極酸化被膜処理により表面が高硬度化されたシリンダの内部に中空部材を固定することで、中空部材の傾きが抑制される。よって、ロック部材の作動の悪化を抑制して、装置1の制御性を良好に維持できる。
具体的には、ハウジングHSGはクランクシャフトから回転力が伝達される。
ハウジングHSGは内周に内側に向かって突出するシュー11〜13が成形されている。
複数のベーン41〜43は、シュー11〜13との間で進角室Aと遅角室Rを形成する。
ベーン41〜43の回転中心側にはロータ40が設けられている。
ロック部材は、ロックピンである。
中空部材は、リング状部材である。
よって、シリンダが回転軸方向に形成されていることで、ロック作動を安定化することができる。
よって、シリンダ(摺動用孔501)の摩耗を効果的に抑制できる。
よって、中空部材を設置・固定する作業が簡便であり、その際、傾いて設置されることを効果的に抑制できる。
よって、ベーンロータ4におけるハウジングHSGとの摺動部の耐摩耗性を向上しつつ、上記(1)の効果を得る装置1を、容易に製造することができる。
ロック部材(ロックピストン51)は、小径部(摺動部512及び係合部511)と大径部(フランジ部513)とからなり、中空部材内周に小径部(摺動部512)が、シリンダ内周に大径部が摺動自在に設けられている。
よって、ロック部材に対して力を別々に作用させる空間(室)を、簡便に隔成することができる。
より具体的には、小径部(係合部511)が、ベーンロータ4に対し出没し、ロック凹部(係合凹部521)に挿入可能である。
すなわち、ロック部材が先端部と基端部とからなるとした場合、前記小径部は先端部であり、前記大径部は基端部である。
付勢部材は、大径部(基端部)の側からロック部材を付勢する。
よって、ロック部材の作動回数を低減し、耐久性を向上できる。
よって、ロック部材との摺動部における摩耗をより効果的に低減できる。
よって、クサビ効果によってベーンロータ4をより確実にロック位置に固定することができるとともに、上記(1)によりロック部材の作動悪化をより効果的に抑制することができる。
具体的には、ロック部材の先端(係合部511)には、先端に向かって小径となるテーパ面が設けられており、ロック凹部には、底部に向かって小径となるテーパ面が設けられている。
よって、ロック部材の先端とロック凹部の両方に傾斜面が設けられているため、クサビ効果を向上しつつ、両傾斜面の摩耗を低減できる。
回転力が伝達され、内周に内側に向かって突出するシュー11〜13が成形された中空のハウジングHSGと、
ハウジングHSG内に相対回転自在に収容され、シュー11〜13との間で作動油が給排される作動油室(進角室Aと遅角室R)を形成する複数のベーン41〜43と、ベーン41〜43の回転中心側に設けられたロータ40とを備え、アルミ系金属材料で作られたベーンロータ4と、
陽極酸化被膜よりも耐磨耗性の高い材料で作られたリング状部材(封止部材502)が内部に固定され、ベーンロータ4の回転軸方向に形成されたシリンダ(摺動用孔501)と、
リング状部材内周に少なくとも先端部(摺動部512)が摺動自在に設けられ、回転軸方向に機関の状態に応じて先端部(係合部511)が出没するロックピン(ロックピストン51)と、
ハウジングHSG内におけるロックピン先端と対向する側面に設けられ、ロックピンの先端部(係合部511)が挿入可能なロック凹部(係合凹部521)と、
シリンダ内に設けられ、ロックピンをロック凹部側に付勢する付勢部材(コイルスプリング53)と、を備えた装置の製造方法であって、
ベーンロータ4にシリンダを形成した後で、ベーンロータ4全体を陽極酸化被膜処理し、その後、リング状部材を圧入してシリンダ内にリング状部材を固定した。
よって、上記(1)〜(5)の効果を有する装置を、容易に製造することができる。
3 カムシャフト
4 ベーンロータ
41〜43 第1〜第3ベーン
8 フロントプレート(封止プレート)
9 リアプレート(封止プレート)
10 ハウジング本体
100 プーリ
11〜13 第1〜第3シュー
A1〜A3 第1〜第3進角室(作動油室)
R1〜R3 第1〜第3遅角室(作動油室)
S1〜S4 第1〜第4シールリング
Claims (4)
- 外周にクランクシャフトから回転力が伝達されるプーリが一体成形されると共に、内周に内側に向かって突出するシューが一体成形され、少なくとも軸方向一端が開口した円筒状のハウジング本体と、
該ハウジング本体の開口を封止するように、前記ハウジング本体の軸方向端に固定された封止プレートと、
カムシャフトに固定されると共に、前記ハウジング本体内に相対回転自在に収容され、前記シューとの間で作動油が給排される作動油室を形成するベーンを備えたベーンロータと、
前記作動油室を封止するように、前記ハウジング本体と封止プレート間に設けられたシールリングと、を備え、
前記ハウジング本体は、アルミ系金属材料によって成形されていると共に、外周面には陽極酸化被膜層が形成され、前記シールリングと当接する軸方向端面には、アルミ系金属材料の母材層が現れている
ことを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。 - 外周にクランクシャフトから回転力が伝達されるプーリが一体成形され、少なくとも軸方向一端側が開口した筒状のハウジング本体と、
該ハウジング本体の軸方向端面と対向して前記ハウジング本体の開口を封止する封止プレートと、
前記ハウジング本体内に収容され、作動油を給排することによって前記ハウジング本体に対するカムシャフトの相対回転位相を変更する位相変更機構と、
前記ハウジング本体と封止プレート間に設けられたシールリングと、を備え、
前記ハウジング本体は、アルミ系金属材料によって成形されていると共に、内外周面には陽極酸化被膜層が形成され、前記封止プレートと対向する軸方向端面には、陽極酸化被膜層が形成されていない
ことを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。 - 外周にクランクシャフトから回転力が伝達されるプーリが一体成形されると共に、内周に内側に向かって突出するシューが一体成形され、軸方向両端が開口した円筒状のハウジング本体と、
該ハウジング本体の軸方向端面に固定され、前記ハウジング本体の開口を封止する一対の封止プレートと、
カムシャフトに固定されると共に、前記ハウジング本体内に相対回転自在に収容され、前記シューとの間で作動油が給排される進角室と遅角室を形成するベーンを備えたベーンロータと、
前記ハウジング本体の軸方向端面と封止プレート間に設けられたシールリングと、
を備えた内燃機関のバルブタイミング制御装置の製造方法であって、
前記ハウジング本体は、
アルミ系金属材料を押出して、押出し方向に延びる前記ハウジング本体の母材を成形する押出し工程と、
該押出し成形された前記ハウジング本体の母材の表面全体に陽極酸化被膜を施す被膜処理工程と、
該陽極酸化被膜が施された前記ハウジング本体の母材を所定長さに切断する切断工程と、
によって製造され、
前記切断工程で得られる前記ハウジング本体の少なくとも一方側の切断面が前記シールリングとの当接面となるようにした
ことを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置の製造方法。 - 外周にクランクシャフトから回転力が伝達されるプーリが一体成形されると共に、内周に内側に向かって突出するシューが一体成形され、軸方向両端が開口した円筒状のハウジング本体と、
該ハウジング本体の軸方向端面に固定され、前記ハウジング本体の開口を封止する一対の封止プレートと、
カムシャフトに固定されると共に、前記ハウジング本体内に相対回転自在に収容され、前記シューとの間で作動油が給排される進角室と遅角室を形成するベーンを備えたベーンロータと、
前記ハウジング本体と封止プレート間に設けられたシールリングと、
を備えた内燃機関のバルブタイミング制御装置の製造方法であって、
前記ハウジング本体は、
アルミ系金属材料を押出して、押出し方向に延びる前記ハウジング本体の母材を成形する押出し工程と、
該押出し成形された前記ハウジング本体の母材の表面全体に陽極酸化被膜を施す被膜処理工程と、
該陽極酸化被膜が施された前記ハウジング本体の母材を所定長さに切断する切断工程と
該切断された前記ハウジング本体の少なくとも軸方向一端面を切削加工する切削工程と、
によって製造され、
前記切削工程で得られる前記ハウジング本体の少なくとも一方側の切削加工面が前記シールリングとの当接面となるようにした
ことを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置の製造方法。
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